10ヶ「ありがとうのかわりに」
空も明るくなり始めた夜明け前。
降り続いた雪がようやくやんで、晴れ間がのぞいてきた。
同時にふもとからの船がやってきて、そこにはドクオの姿があった。
(´・_ゝ・`)「さて、巻き込まれる前に逃げるとすっかね」
('A`)「ありがとうございました、また、どこかで」
イ从゚ ー゚ノi、「じゃぁーな! もう迷子になんなよ!?」
(´・_ゝ・`)「糞ガキ、おめぇはここで降りてもいいんだぞ」
イ从゚ ー゚ノi、「寒いからやだ」
こうしてお世話になった陸船に別れを告げ、街を行く。
もっと活気があると思っていたが、どうにも人が見当たらない。
(;'A`)「みんな、どこに居るんだろ……あっちの、でかい城みたい方かな」
通りは屋台跡のような物こそあれど、どれも閉まってる。
ときおり見かける人も、そそくさと家の中へ入っていくばかり。
朝早くとはいえ、こんなものだろうか。
不安になりながら進んでいくと、やがて開けた場所に出た。
そこに人だかりができている、近づくと、そこに見知った姿を見る。
从;゚∀从「え……は!? うそ、お前…!?
ドクオか!?」
(;'A`)「よかった…やっと見つけた」
/ ,' 3 「おお、本当に無事じゃったのか…!」
('A`)「ええ、なんとか……助けられまして」
从;゚∀从「てかお前、ここに居るんじゃ……そうか、すれ違っちゃったか」
(;'A`)「え、どういう……そうだ、他の皆は?」
从;゚∀从「ああ……皆、開戦の準備にって麓へ集まってるぜ」
('A`)「そっか……遅かったのか、なら俺も……」
言いかけて、ふと気付く。
(;'A`)「あれ、クーは…?」
从 ゚∀从「ああ、クーなら……てか、そうだ、まず話しておく事があるんだ」
聞けば最後の戦い、最終目的を果たすための準備は整っており、
クーはその要として共に向かっている、ということ。
ジョルジュの事だけじゃない、沢山の犠牲があったこと。
そして、内藤のこと。
一度はまた行方不明になったが、すぐに麓の集落で発見され、
ここまで運び込まれてきたらしい、それも、憔悴しきった様子で。
今は宿に閉じこもったまま、以前とは見る影もない状態だそうだ。
そうなった発端は、ジョルジュさんの事だろうと言っていた。
けれどその先に、何があったのかは分からない。
ただ、まるで、死を待っているようだと、誰かが言った。
('A`)「……」
从 ゚∀从「夜明けが来たら、麓の連中はきっと出発しちまうと思う」
从 ゚∀从「合流するなら、もうすぐにでも向かった方がいい」
从 ゚∀从「………だけど、できれば、その前に…あいつを」
从 ゚∀从「……何か、内藤に、お前からも言ってやってくれないか?」
从 ゚∀从「皆、何とかしてやろうとしたんだよ、だけど……駄目だった」
恐らくは自分のした事の重さに、潰れてしまったのだろう。
ドクオには、その気持ちが理解できた、同じ事をした覚えがある。
他の誰が許しても、自分がそれを許せない。
何よりも自分が、憎くて仕方ない。
从 ゚∀从「……でもお前なら、友達の言葉なら、もしかしたら」
('A`)「……いや、きっと、無理だと思う」
友達の言葉、じゃ、きっと届かない。
もしも届くものがあるなら、それは失くした存在からの言葉だけ。
でもそんなのは、不可能だ。
運よく、しかしそれでも数多の犠牲の上で自分は叶ったが、
そんな真似は本来、どうあってもできやしない。
だから届くのは、自分自身の言葉だけ。
自分がそれを許し、あるいは理由にできなければ意味が無い。
ただ。
それに、自分に近い言葉なら、あるいは違うのかもしれない。
('A`)「でも、行ってみるよ、俺も話したいことがあるから」
…………。
<_フ ー )フ『お前を助けてくれたんだろ』
誰かがそう言った。
わかっている、だけどそれは行動の結果だけを見たものだ。
何の悔いもなかったと言うのだろうか、苦しまなかったと言うのだろうか。
それはない、それはなかった。
謝りながら、悔やみながら行ってしまった。
それに助けられたなら、言わなければいけなかった。
なのにそれすら、自分はできなかった、何も何も何も何も伝えられなかった。
謝罪も感謝も何も、お別れすらも告げられず。
それは、もはや殺したのと何が違うのか。
そうなるまで、追い詰めたのは自分だ。
内藤という人間が、彼を死なせたのだ。
助けたなんて綺麗な言葉で取り繕ってもこれだけは変わらない。
ζ( 、 *ζ『どうして……そんな、酷いことを…!』
そうして謝罪を告げた時、彼女に頬を打たれた。
目に涙を溜めて、初めて見る、恨みを込めた視線で。
様、と呼ばれる事を望んでいたわけじゃないけれど、
ブーンと呼んだことで、大きな亀裂ができたのを思い知らされた。
攻められることでせめて安心する、なんて事はなく。
ただただ、痛みだけが増していく。
叩かれた跡も、その言葉も、頬を伝う涙さえ。
ほかに何も言える事が無くて、もう一度謝罪を告げた。
罵声と共に、彼女は背を向けて去っていった。
その姿にさえ、何も言う事ができなかった。
追いかけることさえしなかった。
(´ ω `)『僕は、君のことなんか信用しちゃいない、今も"昔"も』
決別の言葉は、思ったよりもすぐに受け入れることができた。
それとも、もう何も感じなくなってしまったのだろうか。
ほどなくして、宿の一室に放り込まれた。
一晩を灯りをつけずにそのまま過ごす。
闇夜の中に溶けて消えてしまいたいけれど、
目が慣れたその空間は、むしろ輪郭を浮かび上がらせる。
自分がここに居るということを、より強く教えてくる。
そうして、どれほどの時間が過ぎただろう。
廊下に足音、そして小さくノックが響く。
続いて聞こえてきた声に、戸惑った。
聞き覚えがある、聞き間違いか、あるいは夢でも見ていたのか。
('A`)「ブーン、居るか?」
(; ω )「ど…ドク…オ…なの、かお?」
(; ω )「まさか、本物……生きて…?」
('A`)「ああ、なんとか無事、帰ってこれたよ」
(; ω )「そんな………ああ」
( ω )「よかった……本当に…よかった」
('A`)「んで、まあ……大体のことは聞いたよ」
('A`)「ジョルジュさんの事も………きつい、よな」
扉の向こうで、ドクオが何か言いよどんでいる。
彼はとても優しい人間だから、攻めたりはしない、できないだろう。
生きていてくれたのは嬉しく思う、だけど今は、放っておいてほしい。
慰めは、いらないのだと、身構えていた内藤だったが。
続く言葉はまるで違うものだった。
('A`)「………まさか、俺と同じ事してるとは思わなかったよ」
('A`)「ごめんな、ちょっとだけ、ほっとしちまった」
( ω )「………?」
('A`)「俺ら二人揃って、何やってるんだろうな……」
( ω )「…………なに、を」
('A`)「………なあ、聞いてくれよ……」
( ω )「……」
掠れ気味の喉から発せられる言葉が、静かな空間に小さく響く。
それはもはや、内藤に対して語るものというよりは、独白。
説得どころか自ら許しを請うような、そんな悲痛さをも含んでいた。
('A`)「俺のせいで…また、一人、優しい人が死んだよ」
('A`)「……俺が、死なせたんだ」
('A`)「俺なんかよりよほど苦しんで、助けを求めていたくせに」
('A`)「それなのに、俺を助けるために、傷ついて、苦しんで、死んでいった」
('A`)「その人はさ、酷いことをしたんだ、誰が聞いても、誰が見ても、悪いことをした」
('A`)「俺もその人を恨んだ、恨んで……憎んで、この手で、と……思ってた」
('A`)「悪者には、当然の報いがあるべきだって……そう信じていたよ」
('A`)「だけど、この世には……どうやら悪者っていう概念は存在しないみたいでさ」
誰も彼もを救う正義のヒーローが居ないように。
誰も彼もが認める、やっつけられる悪者も、この世には存在していない。
優しいことも、正しいことも、悪いことも、悲しいことも、その全てに意味が、理由がある。
一つの目だけでは、決してその答えは出せないのだと。
('A`)「…もう、その人がどうなるべきだったのか…わからないんだ」
('A`)「だってさ、意味わかんないくらい、酷い目にあってたんだよ、とっくに…」
今も、覚えている。
孤独感も、恐怖も、そして………後悔も。
今すぐに自分を殺したいけど、その前にやるべき事があるからまだ生きる。
はやく ころしてしまいたい
らくに なりたい
そんな事を思いながら生きる時間は、今も思い出すたび泣きそうになる。
そんな独白を聞きながら、ぼんやりと扉を眺めていた内藤は。
続く言葉に、胸を痛め、息を飲んだ。
('A`)「……ごめん、て言われたよ…」
('A`)「俺を助けておいて……ごめんだって」
('A`)「俺はまだ、ありがとうも言っていないのに…」
('A`)「……また守れなかった」
('A`)「……俺は、また、見殺しに……した」
('A`)「その人が、どれほど苦しんだのか……知ってしまったのに」
('A`)「何も……何もしてあげられなかった……」
('A`)「………俺は……悔しいよ……何も返せない事が、こんなにも辛くてしょうがない」
( ω )(………ああ)
( ω )(わか…る……お)
その悔しさも、後悔も、ごめんという言葉の痛みも、よく知っている。
だからその悔しさを力に変えようとした、でも駄目だった。
から回りしただけ、何も報いることができなかった。
そしてついには全部こぼれ落ちてしまった、もう何も残っていない。
だから駄目だと、それでは駄目だったのだと内藤は目を伏せるが、言葉は尚も続く。
でも、と続く。
('A`)「最後にごめんって言ったのは、きっと『これまで』の全てにじゃない」
('A`)「『これから』を、共に進めない事に対して」
('A`)「そしてそれは俺たちの―――――『これから』を信じてくれているから、ごめんなんだ」
ふと、内藤は伏せていた顔を正面に向けた。
陰りに曇った瞳に、差し込む光が少しだけ映りこむ。
それは、夜明けの始まりを示すものだった。
(―――信じてるからさ)
( ω )「……これ……から……?」
伝えてくれと言った、その言葉を、今になってようやく、飲み込んだ。
最後の最後に残したのは、願いや希望じゃなく。
頼みでも、託すでも、懇願でもなく。
ただ、何も不安はないとでも言うような。
そんな一言だった。
果たして彼は何を信じたのか?
内藤のことを?
内藤の何を?
これから。
その―――先(理想)を。
( ω )「………」
( ω )「………僕を、僕なんかを……信じて、くれたのかお」
( ω )「一緒に、歩けなくて、ごめん、て……そう…言ってくれたのかお」
みんなと共に、歩いていく未来を。
けれど、今更だ。
どこに信じられる要素があるというのか。
誰が信じてくれるというのか。
今も立ち止まったままの自分を。
何もかもを失った、今の自分を。
それでも―――――。
('A`)「俺も、お前のこと信じてるから」
('A`)「だから今は先に行くよ、何をどれだけ失っても、消えないものがあるから」
('A`)「心が知ってる、言葉にすれば簡単でちっぽけな理由、『それでも』」
('A`)「俺たちが出会ったこの――"絆"は、何がどうなっても、無くなったり、しないんだから」
( ω )(――――――………)
いつだってそう、一人で成し得たものなんてなかった。
積み上げたきた、誰かと。
紡いできたのだ、誰かと。
歩いてきたのだ、誰かと。
自分だけじゃない、みんなと、ここまで来たんだ。
それこそが―――――。
( ;ω;)(………ああ、あああ………)
( ;ω;)(……ジョルジュ…さん………僕は……許されても…いいんですか)
( ;ω;)(みんなと、生きていく道を……選んでも、いいですか)
( ;ω;)(もう一度……その先を、目指しても、いいんですか)
( ;ω;)(まだ…………信じて……くれますか?)
朝陽が昇っていく。
窓から差し込んだ光に、舞う埃が反射して、まるで神聖な何かが光臨するよう。
そんな光が広がって、いつしか壁にかけられた剣に届いた。
黄金の装飾がされた、綺麗な柄の部分に反射して、きらりと眩しく。
ゆっくりと、内藤は手を触れた。
握り締めると、馴染んだ感触がした。
吐き気は、もうしなかった。
( ω )「………瀬川」
( ^^ω)『………ああ』
( ω )「…………ごめん、瀬川……僕が、バカだったんだお」
( ^^ω)『……いいのか? また、繰り返すことになるかもしれんぞ』
( ^^ω)『奴の言うとおりだ、俺は……いや、この剣は、壊れている』
( ω )「それでも……」
( ^^ω)『今度こそ……次は無いかもしれんぞ』
( ω )「それでも、あの人が信じてくれた僕には、必要なんだ…!」
( ^ω^)「だから僕はお前を、この剣を信じるお、今度こそ……もう、間違えない」
剣を抜き放てば、相変わらずみすぼらしい外見の刀身が現れるが、
すぐに陽の光を浴びて、輝くような白銀の姿へと変わる。
同時に、脱力感が消え、力が漲ってくるのを内藤は感じた。
( ^ω^)「これが、きっと最後だから」
( ^^ω)『わかった……なら、その前に一つ』
( ^^ω)『お前に、言っておかなければならない事がある』
( ^^ω)『内藤……お前は』
『この剣の管理者ではない』
……………。
从;゚∀从「ぐぬぬ……」
( ^ω^)「この人、あんな声出すんだって目で見られてたお」
(;'A`)「あんなに驚かなくても……」
从;゚∀从「うっさいなー、知らずにあんなの見たら誰だってなー」
細長い、人が入るほど、どいうか入っている箱を運ぶ三人。
先ほど合流した際、ハインは中を覗いて濁点のつかない悲鳴をあげた。
付近のお仲間と思わしき白衣の人たちは、そんな様子にぎょっとしていた。
そうしてやってきたのは、街外れにある丘の上。
開けたその場所には、乱雑に石が並んでいたり、
石柱だったり石造だったりと、とにかく纏まりがないが、
どれも名前が彫られ、いくつもの枯れた花が見える。
その一角に、座り込む姿があった。
(;^ω^)「あ」
ひとまず箱をその場に置くと、内藤は二人に背を押されて前に出る。
最後に会った時は、なかなかに酷い別れ方をしてしまった。
なんて声をかけたらいいのか、戸惑いながらも近づいていく。
(;^ω^)「デレ……その、隣、いいかお」
ζ(゚、゚*ζ「……どうぞ」
屈んで手を合わせる、その先には名が彫られた石碑がある。
チクリと痛みが走るが、目を閉じ今度は本当に祈った。
ζ(゚、゚*ζ「………私が、あなたに言ったのは」
ζ(゚、゚*ζ「ブーンに、怒ったのは……」
ζ(゚、゚*ζ「まるで……お兄ちゃんが、間違ってるみたいに、言ったからですよ」
( ^ω^)「………」
ζ(゚、゚*ζ「苦しみながら、悔やみながら、そう言いましたけど」
ζ(゚ー゚*ζ「お兄ちゃんの……表情、安心して、寝てるみたいでした」
ζ(゚、゚*ζ「それなのに……まるで、余計な事をされたように」
ζ(゚、゚*ζ「そして、その行為を……本当に、無意味な物にしようとした」
ζ(゚、゚*ζ「私はそれが………許せなかったんです」
( ω )(……ああ、そうか……)
ζ(゚、゚*ζ「お兄ちゃんの事を……私は、信じたいんです、今度こそ」
ζ(゚ー゚*ζ「だからお願いします、その行為に、その心に、意味があったんだって」
ζ(゚ー゚*ζ「こうして祈る事しかできない私に、教えてください」
ζ(゚ー゚*ζ「お兄ちゃんのした事は、成すべきを成した、立派な行為だって」
( ω )(………本当に、僕は、何も見えてなかったんだな)
いつしか向き合っていた二人、内藤は深く頷いて。
( ^ω^)「約束する、証明してみせる……これだけは、違えない」
ζ(゚ー゚*ζ「…はい!」
もう一度、見失いかけたユメを追いかける決意をした。
これは強制じゃない、使命でもない、ただ、そうしたいから、
もう、英雄になる資格はなくても、それでも、こんな自分を見守ってくれるすべてのために。
みんなの、力になりたい。
空を見る、晴れやかな青空に雲が流れていく。
もう一度、誰にともなく頷いて。
( ^ω^)「よし…行こうドクオ」
('A`)「おう!」
从;゚∀从「あ、いや……盛り上がってるとこ悪いんだけどさ……」
(;^ω^)「え?なに?」
从;゚∀从「実はその……移動、手段が……だな?」
从;゚∀从「雪風つくるのに珠も大量につかっちゃって、今ある陸船は全部……」
(;'A`)「…走れるのが無い、と?」
从;゚∀从「お、おう……」
(;^ω^)「じゃあ、今すぐ行かなきゃ!」
(;'A`)「ても、どうすんだ!?」
(;^ω^)「走っていくしかないでしょ!」
(;'A`)「マジか…」
(;^ω^)「とにかく、麓まで行けば……」
从;゚∀从「いやいや! 無理だって! 言ったろ、今回は陸船で強襲するって」
从;゚∀从「ほぼ全員で乗り込んで、拠点まで一点突破だ、走っても追いつけねぇよ!?」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そんな……じゃあ、今こんなところに来てる場合じゃ」
从;゚∀从「いや、だって、まさか行く流れになるなんて思わなくて……」
ζ(゚ー゚;ζ「……? て、あれは何!?」
从;゚∀从「何だ今度は?」
ζ(゚ー゚;ζ「あそこ、今、木の間に何か大きいのが通り過ぎて…!」
从;゚∀从「は? どこに……うわ!?」
デレが指差す先、そこには確かに、何か大きな生き物が蠢いていた。
それはこちらを見つけるなり、地を蹴って向かってくる。
二人は悲鳴を上げ、見覚えのある姿にもう二人はあ、と驚いた。
(*'ω' *)「ぽひひひぃーーーん!!」
(;^ω^)「ぽっぽちゃん!?」
(;'A`)「馬!? しかもでかっ!」
内藤をあの要塞から連れ出し、そして麓で保護された際に別れた馬だった。
それが何故かこの場に現れ、内藤の側までやってくると小さく嘶いた。
(;^ω^)「ついて来ちゃったのかお……」
(;'A`)「あれ……珍しいな」
ζ(゚ー゚;ζ「ななな、何なんですか!
その生き物!?」
(;^ω^)「あれ、馬って知らないのかお?」
考えてもみれば、今までに移動手段というものを考えたとき、
動物という選択肢がなかった、その結果が、あの陸船という変わった形だ、
今更ながら不思議に思う内藤だったが、その答えは意外にもドクオの口から語られた。
('A`)「ほら、こっちだと接続で自然を操ったりするだろ」
('A`)「野生動物ってそういうの敏感だからさ、馬なんて特に、普通、寄り付かないんだよ」
( ^ω^)「へえ……」
( ^ω^)「ああ、そういえば……この子の飼主が言ってたお、特別な馬なんだって」
从;゚∀从「って、何でお前そんなこと知ってるんだよ」
('A`)「いや、まあ…色々と…」
そう言う間にも、ぽっぽは内藤の服のすそをくわえ、引っ張る素振りを見せる。
何かを訴えている、今も幾度と無く地を蹴り地均しをした。
(;^ω^)「もしかして……連れてってくれる、のかお?」
(*'ω' *)「ぽひん!!」
( ^ω^)「……この子は、僕なんかより余程賢いのかもしれないな」
(*'ω' *)「ぽ?」
( ^ω^)「いや、ありがとうぽっぽちゃん、じゃあ頼んだお、一緒に行こう!!」
(*'ω' *)「ぽヒヒィーーーーン!!!!」
空に握った手のひらを突き出すと、応えるように馬が前足を上げて嘶いた。
とは言え手綱もないような自然な姿、二人どころか一人でも乗っていくのは無理がある、
急ぐとあらば尚のことだ、そこで動力を無くした船に軽量化を加え馬車の代わりを用意した。
そして、さてどうやって繋げればいいものか、と考えたところで、
ハインはそういえば、と倉庫の中に居る仲間の技術者に声をかける。
从 ゚∀从「昨日頼まれてたのってどうなってる?」
「できてますけど、あの人、忘れちゃったんですかね?」
「急ぎとか言ってたのになぁ」
从 ゚∀从「ああ、ちょっと持ってきてくれるか」
「ええ、どうぞ」
そうして渡されたのは、革製の太いベルトが三つ、ロープで繋がった奇妙な物だ。
引っ張り出せば、いくつもの金具や鉄の棒がカラカラと音を立てる。
从 ゚∀从「……やっぱりそうだ」
(*'ω' *)「?」
(;^ω^)「あれ、これって、あの…馬車とか繋いでるやつ?」
( ^ω^)「なんだ、ちゃんとあるんじゃないかお」
从 ゚∀从「いや、これは―――」
从 ゚∀从「……まったく、素直じゃないねぇ」
('A`)「ほんとにな」
ζ(゚ー゚*ζ「そうですね」
(;^ω^)「?」
こうして出立ちの準備は整った、街の入り口まで見送る姿に手を振って、
二人と一匹は飛び出すようにして、その場を後にした。
見送る姿が徐々に小さくなっていく。
今度は前を見た。
思ったより速度が出ていることに脅えつつも、二人揃って前を向く。
雪を文字通り蹴散らしながら走る背を眺めながら、
内藤はあの、宿で聞いた言葉を反芻する。
『お前は管理者ではない』
(;^ω^)「は? それは……」
(;^ω^)「……まだ、あの時のこと怒ってるのかお?」
『違う、そうじゃないんだ、もっとずっと前から』
『お前が最初にこの剣を手にした、あの瞬間から、ずっとだ』
(;^ω^)「いやいや、そんな、だって今までちゃんと…!」
『分かったんだ、思い出したんだよ』
『奴の言うとおりこの剣は壊れている、その原因は』
『俺だ、俺だったんだ』
『俺という存在が、この剣をおかしくしている』
『お前の言うとおりなんだ、俺さえ消えれば、お前は本当の――――』
(;^ω^)「やめてくれお! 何馬鹿なこと言ってんだお!?」
『聞くんだ内藤、そしてもう一度願ってくれ、俺を……消してくれ』
(;^ω^)「嫌に決まってんだろ!? また僕にそんな真似させる気なのか!!」
『だが…このままでは、奴には!』
(#^ω^)「うるさい! 必要ないお、何が何でも僕達で勝つんだ!!」
『内藤…!』
( ゚ω゚)「アーアー聞こえなーい!
ブロックブロックブロック」
『え、そんな―ア――――――』
………。
('A`)「ブーン?」
(;^ω^)「はっ、え? 何?」
(;'A`)「いや、なんか急に遠くを見てるから何かと」
( ^ω^)「……や、大丈夫」
( ^ω^)「大丈夫だお……!」
瀬川が何かを思い出したのは、恐らくあの、ロマネスクとして生きた時間の中、
内藤自身も見たあの、見たことも無いような記憶によるものだろう。
今でも、おぼろげではあるが覚えている。
確かにロマネスクと共に戦っていた、相手は異様な姿の化物。
ただ、奴だけじゃない、何人もの人が一緒に戦っていた。
そこには、彼女の姿もあったように見えた。
あれは一体、どういうことなのだろう。
しかし何よりも、よく思い返してみれば、その視点はどこか変で、
側でというよりも、たとえるならば誰かの腕の先、そう、剣から見た世界のような。
そして自らの持つ、この黄金の柄をした剣が、違う名で呼ばれていたこと。
( ^ω^)(……セイオウケン)
奴に勝つためには、その真の力が必要なのかもしれない、
だけどそれは、彼を消滅させる必要があるという。
そもそもそんな事ができるのかも定かではないが、迷いがあるのは事実だ。
これ以上何も失いたくはない、だけど、力が及ばなければ、
もっと沢山のものを失ってしまうかもしれない。
どちらにせよ、選択を迫られることはわかっていた。
しかし今はまだ、その答えを出すことができないまま、
巨馬に引かれた船が駆けていく、既に先を行ったものたちの元へ。
最後の戦場へ。
そして、最後の戦いの舞台へと。
つづく。
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