118 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:26:14.56 ID:X7n6Y3cm0
                             5


それからは。

(´・ω・`)「和音しっかりあわせて! たてしっかり揃えて!」

必死の練習を繰り返し。

川 ゚ -゚)「譜面しっかり見ろ! クレッシェンドだろ!」

時には対立することもあれど。

(#^ω^)「うっさいお! 僕だって一生懸命やってんだお!」

仲を取り持ちあい。

ξ゚听)ξ「……さっきはごめん。2楽章の掛け合い、また練習しましょう」

そのチームワークで、どんどん上達していった。

(*'A`)「今の通し、良い感じだったぜ! この調子で県代表を狙おう!」

そして……。
  _
( ゚∀゚)「いよいよ本番間近だ! 気を抜くなよ!」
121 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:28:25.25 ID:X7n6Y3cm0
本番を3日後に控えたその日は、地元のホールを借りての練習だった。
その練習の意図は、本番演奏するホールでの響きを確かめ、どのように吹いたら良いのかの最終確認をすることにある。

紫色の、無数にある椅子にはそれぞれ応援に駆けつけた生徒が座って見学し、2階席からはジョルジュがメガホンを使って指導をしていた。
そして、ステージの上には楽器を構え、本番で着る黒いスーツ、ドレスに身を包んだ5人がそれぞれ楽器を構え、半円になっていた。

  _
( ゚∀゚)「吹き方は大体つかめたか? それじゃあ、最後の通し練習をするぞ!
     ホールで出来る練習は、今日が最後だ。今までやってきたことをしっかり活かせよ!」

ジョルジュの言葉に5人はうなずき、顔を上げる。
やがて、ホール脇のマイクを使い、生徒の一人が本番と同じよう、アナウンスを開始した。

『41番 私立VIP高校吹奏楽部 金管5重奏 VIP 5人の金管奏者のために』

アナウンスの終了と同時に、客席から盛大な拍手が沸きあがる。
そして、舞台の照明が明るくなり、5人の表情がしっかりと見て取れるようになった。

それぞれが、決意を胸に、まっすぐな顔をしていた。
5人は客席のほうに向き直り、深い礼をする。そして、再度湧き上がる拍手。

チューバを持つショボが椅子に座り、各々は楽器を構える。
その楽器には照明が反射し、どこか神々しい眩しさを覚えた。

川 ゚ -゚)「……!」

そして、クーの合図とともに曲が開始した。

122 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:29:28.70 ID:X7n6Y3cm0
1楽章の3和音は美しく始まり、そこから優しいトランペットの掛け合いが始まる。

そして2楽章、すっかりトリルもフラッターも上達したブーンと、それにあわせるかのように踊るホルンが絡み合い、美しく荒々しいサウンドが奏でられた。

やがてドクオのフリューゲルソロが厚みを増し、海鳥の鳴き声が引くと同時に、3楽章のベルトーンに突入する。
  _
( ゚∀゚)「……」

その様子を上から見ていたジョルジュも、椅子に座る生徒達も。
完全に、曲が作り出す世界に引き込まれていた。それほどまでに上達した、彼らの演奏。

( ;o;)「……」

生徒の中には、涙を流しながら聞くものも少なくなかった。
少し前まで自分達と同じバンドで演奏していたあいつらが、こんな良い曲を、こんなにうまく。
それは嫉妬ではなく、純粋な尊敬であった。



( ・∀・)「チッ……」

ただ一人を除いて、は。

125 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:31:35.00 ID:X7n6Y3cm0
やがて、全員の荘厳な3連符が響き、曲が終わりをつげる。

その瞬間、場は一瞬の間をおき、次の瞬間には盛大な拍手で埋め尽くされていた。

( ^ω^)「おっ……おお!」

ステージの上にいる彼らも、喜び微笑んでいた。
それほどまでに、今の通しの演奏は出来が良かったのだ。
  _
( ゚∀゚)(これは……いけるかもしれない)

2階席のジョルジュも、笑顔で5人を見つめる。

そして、この日のホール練習は終了したのであった。

128 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:34:07.82 ID:X7n6Y3cm0
(*^ω^)「いやぁ、しかし僕らもうまくなったもんだお!」

帰り道、ドクオとブーンは二人、自転車に乗りながら林道をかけていた。
すっかり当たりは夜になっていて、鈴虫たちの声が薄暗い草原から聞こえるのが、なんとも風流である。

街灯は少なく、路上を照らすのは月明かり。
不気味だった林の道も、段々と道路にひらけていくたび、街灯も増え、明るさを増してきた。


やがて、林道からバイパスへ抜ける所にある廃工場のあたりに差し掛かったとき、人影が目に入った。
こんな寂れた林道、しかも夜中に人がいることはあまりない。

「おい」

不審に思いつつもその横を通り過ぎようとしたブーンとドクオは、その人物に呼び止められ、立ち止まった。


('A`)「モララー……」

( ・∀・)「随分上達してるみたいだね。でも、君達がラウンジにかなうはずはないさ」

そこにいたのは、高慢ちきにそんなことを言い張るモララーだった。
自分が演奏するわけでもないのに、こしゃくな手を使い、いばっている。
これぞまさに虎の威を借る狐である、とドクオは心底呆れていた。
130 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:35:56.08 ID:X7n6Y3cm0
('A`)「はいはい。わかったわかった。そこどいてくれよ
    て言うかなに、待ち伏せしてたの? pgrwww」

ドクオがモララーを挑発する。
その態度に、今まで冷静さを保っていたモララーの態度が一変し、明らかに憤りが感じられる表情になった。

(#・∀・)「はん……いい気になってろよ」

( ^ω^)「はいはい構ってちゃん。分かりましたからそこをどけお」

更にブーンが挑発的な態度を取ったので、モララーの怒りは最頂点にまで達してしまった。
耳までを真っ赤に染め、なんとブーンに殴りかかってきたではないか。

(;^ω^)「おっ」

ブーンは咄嗟に身を投げ出してそれを回避したものの、モララーは勢いよく助走をつけていた。
なので、ブーンを通り越した後も彼はしばらく勢いのまま走り続け、やがてその懇親の力を込めた拳は、廃工場の壁に激突した。


瞬間、何かがうごめく音がした。
音のほうを見れば、なんと不安定な形で壁に立てかけてあった、何本もの細長く巨大な木材が揺れ、その巨体を地面に倒そうとしているではないか。

131 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:36:58.46 ID:X7n6Y3cm0
(;^ω゚)「!」

そしてその木材の何本かは、倒れこんだブーンをめがけて落下していることに彼自身が気づいたのは、もう遅すぎた。
顔を上げれば、すぐ目の前には今まさに自分を下敷きにしようと倒れてくる木材。

(;゚A゚)「ブ、ブウゥウゥン!!!」

考えるより先に、体が動いていた。
ドクオは自転車を乗り捨て、身を投げ出してブーンを抱え、木材をよけるように転倒する。


(;゚A゚)「ぐぁ……がっ……」

(;・∀・)「あ……」

そして。

鈍い音ともに、明確になる視界。

ブーンを助けたは良いものの、ドクオのその細い右腕が、木材の下敷きとなってしまった。
何本もあるその木材は、一本一本がかなり大きく、重さも相当ああることが目でハッキリわかっる。

その衝撃を、まともに食らってしまったドクオの腕は……?

( ゚ω゚)「ド、ドクオォォオ!!!」

ブーンは考えるよりも先に、ドクオの元へ寄り添い、木材をどかし始めた。
幸い、木材は数本しかドクオの腕を直撃していなかったが、それでも怪我を負ったことに違いはない。
133 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:38:23.75 ID:X7n6Y3cm0
(;・∀・)「僕は……僕はこんな……」

その横でおろおろするモララー。
そのモララーを睨み付け、ドクオは痛みに耐えながら口を開いた。

(;゚A゚)「モララー……。お前、アンサンブルに乗れなかった責任を他人に擦り付けるなよ……。
    そんなくだらない理由で……俺たちの部活がつぶされて……たまるかってんだよぉおお!」

腕に乗っていた木材を全てどけられたドクオが立ち上がる。
視線はモララーを見てずっと離さない。だが、その右腕だけはだらりと垂れ下がってしまっていた。

(;・∀・)「その腕じゃ……もう楽器が……。あ……僕は……」

(;゚A゚)「見てろよモララー。俺達は絶対県代表になって、支部大会に行ってやる。絶対にだ!!」

(;・∀・)「う……う……うあああ!!」

ドクオに凄まれたモララーは、奇声を上げながら背を見せ、どこかへ走り去っていった。
ドクオは息荒げにその様子を見終えると、その場に座り込み、苦痛の表情で右腕を押さえこんだ。


(;-A`)「う、っく……うあ……」

(;^ω^)「ドクオ、ドクオ! 大丈夫かお? ドクオ」

ドクオの右腕は、二の腕の辺りが腫れ上がっていて、大きな打撲を負っていることがわかった。
ブーンはカバンから水筒を出し、中に入っていた氷をドクオの患部に当て、その上から持っていたハチマキをぐるぐるに巻いて圧迫する。
こうして、内出血や腫れを防ぐのだ。学校で習った応急処置が役に立つとは、とブーンは冷や汗をかいた。
135 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:39:26.76 ID:X7n6Y3cm0
(;^ω^)(とにかく医者に行かないと……!)

そう考えたブーンだが、ここは田舎町。
医者は、ここから少し進んだ隣町に行かないとないのだ。
隣町まで、歩いていけば30分はかかる。その間に、ドクオの症状は悪化していくかもしれない。

(;^ω^)(どうしたら、どうしたら)

そんな時、遠くから車のライトがこちらへ近づいてくるのが見えた。


暗闇に鈍く光る、その漆黒のボディ。ジョルジュの車であった。


(;^ω^)「先生! おーい!!」

慌ててジョルジュの車の前へ駆け寄るブーン。
車は急停止し、中からジョルジュが姿を現す。
  _
(;゚∀゚)「ブーン、どうかしたのか?」

(;^ω^)「ドクオが、ドクオが!!」

ブーンの指差す方向を見て、ジョルジュの表情が一変、険しいものになった。
37 名前: ◆MAMEOLw4rQ :2007/09/23(日) 23:40:10.40 ID:X7n6Y3cm0
  _
(;゚∀゚)「ブーン、病院行くぞ! 理由は後で聞く! とりあえず車にドクオを乗せろ!」

(;^ω^)「わかりましたお!!」

二人がかりで素早く、患部である右腕を刺激しないようにドクオを抱きかかえ、車の後部座席に寝かせる。
そして助手席にブーンが座ると同時に、ジョルジュが車のキーをひねり、勢いよくエンジンをかけた。

  _
( ゚∀゚)「とばすぞ! 10分でつくくらいに! お前はドクオの親に連絡してくれ!」

( ^ω^)「わかりましたお!」



ジョルジュの言葉に嘘はなかった。
人気のない道を選び、ドクオを刺激しない程度に車を飛ばし、隣町の病院には10分かからぬうちに到着した。



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