28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:33:17.04 ID:qUrxOtfZ0


しかし人生そううまくは行かないようだ。
いや、もしかしたらそれは私に限った話なのかもしれない。
目の前に連なっている車に絶望的になりながら、私は額から一筋の汗を流した。

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「何故こんなに混んでいるんだ……」

( ´ー`)「あ、もしかしてお客さん急いでるの?
      この時間帯は大体混むから抜けるのにかなり時間掛かるんですよねー」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「どれくらい掛かるんですか?」

( ´ー`)「シラネーヨ」

腕時計を見る。時間はもう六時半を過ぎていた。
恐らくこの渋滞を抜ける頃には約束の時間は過ぎているだろう。
ならば一か八か。私は運転手に野口英世の顔が描かれた札を渡すと、車のドアを開けた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:35:21.11 ID:qUrxOtfZ0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「つりはいらん!」

車を飛び出すと、再び私は走り出した。
こんなに走るのは学生以来だ。慣れない運動に早くも私の息は上がり、身体の節々もあちこち痛み出している。
しかしそんな事に気にしている暇はない。今は一刻も早く母者の元へ行かなければならないのだから。


見慣れた古い町並みから若者が集うネオン街へと景色は変わる。
街にはあまり来たことがないからここの地理は詳しくない。
私は場所の確認をしようと一度足を止めて地図を見た。

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「えーっと、向かいに本屋とゲーセンがあるから……むむ、ややこしいな」

似たような店が立ち並んでいて、いまいちわかりにくい。
取り敢えず地図を持ちながら目的地に向かおう。そう決めた私は再び時間を確認した。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「六時四十五分か……」

地図を見る限り迷わなければギリギリ時間に着くだろう。
遅れてしまうと時間に厳しい母者に殴られてしまう、急がなくては。
頬を伝う汗を拭うと、私は若者で溢れる街中を駆け出した。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:37:44.49 ID:qUrxOtfZ0

(*゚∀゚)「痛っ」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あ、す、すいません」

無理矢理人の合間を縫って走った為、随分と見た目が怖そうな女の子にぶつかってしまった。
いつもならその場に立ち止まって平謝りするのだが、今日はそんな時間も惜しい。
軽く頭を下げて謝罪の言葉を述べるなり私は走り出しそうとした。

しかし、私の身体が前に進む事はなかった。
何故なら、ぶつかっていない方の女の子らしき子に襟首を掴まえられたからだ。

从 ゚∀从「ちょっと待ちなよオッサン」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ひいっ!」

从 ゚∀从「アンタ人にぶつかっておいてごめんで済むと思ってんの?」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「いや、本当にすまなかった。しかし私は今急いでいて……」

从 ゚∀从「オッサンの都合なんて聞いてねぇよ。コイツぶつかって痛そうじゃねぇか」

(*゚∀゚)「ああ痛いよー痛いよー」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「いや……」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:40:14.94 ID:qUrxOtfZ0
痛いと言っている子は、どう見ても演技丸出しの棒読みで腕を押さえている。
ヤの付く人じゃあるまいし、今時の若い子はぶつかるとすぐ骨が折れる位脆い身体をしているのか。

そんな事を考えていると先程私を掴まえた赤髪の子が私の胸倉を掴んで来た。
周りの人は遠巻きに私達三人を見ている。どう見ても助けてくれそうにない。

从 ゚∀从「治療費出しなよ、それが礼儀ってもんだろ?」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ななな、何を言っているのかサッパリなんだが」

从 ゚∀从「ならわかりやすく言ってやるよ。金出しな」

金なら沢山ある。しかしこれを渡す訳にはいかない。
この金は食事代、移動代、その他諸々の為に使ういわばデート資金なのだ。

しかし、何と言っても彼女達は逃がしてはくれないだろう。
せめてこの状況から抜け出す為に私は明後日の方向を指差し、出せる声を全力で絞り出した。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:42:30.94 ID:qUrxOtfZ0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「あー! あそこにCAT-TUNがいるぞ!」

从*゚∀从「え! マジマジ?」

(*゚∀゚)「キャー! 亀頭様ー!」

私の胸倉を掴んでいた赤髪の子は、手を離すなり目を輝かせて周囲を見渡した。
それは痛いと喚いていた子や、避けるように遠巻きに見ていた子達も反応して
気がつけば若い女の子達は私が適当に指を差した所に向かって走っていった。

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「逃げるなら今だ……!」

そう思った私は彼女達とは反対方向に走り出す。
あの騒動が暫く持ってくれれば有り難いが、どうやら嘘はすぐにバレたらしい。
背後から二つの足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。

(*゚∀゚)「ハイン姐さん! あの野郎逃げたよ!」

从#゚∀从「よくもアタシを騙してくれたね! もう許さないよ!」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あびゃああああああああぁぁぁ!」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:44:27.99 ID:qUrxOtfZ0



そして現在、私は怒りに狂った彼女達から逃げていた。

通りやすい道を見つけては右へ行ったり左へ行ったりしている内に
辺りは薄暗く、人気のない裏通りらしき道に入っていた。

角を曲がってすぐ近くに裏道を見つけると、迷わずそこに滑り込む。
怒声が横を通り過ぎ、足音が遠ざかっていくのを確認すると一息付き辺りを見渡した。

先程より静かなその通りには小さな店が一、二軒とマンションがいくつか見えた。
地図を確認すると明らかに違う道にいた。目的のレストランは大通りに面した場所にあると描かれている。

これからどうしようかと途方に暮れていたが、奥の方で車の走行音が聞こえる。
見ればそこは先程と同じような街のネオンで明るく照らされており、人の気配も感じた。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……あそこに出れば大通りに出られるかもしれないな」

時計の短針は七時を差そうとしていた。
予定よりは遅くなるだろうが、今は目的地に着く事が先だ。まずは大通りに出よう。

そうしている内に背後から聞こえる足音が大きくなって来た。
これは早くこの場から立ち去った方がいい。私は重い身体を立たせ走り出そうとした、その瞬間だった。

背中に強い痛みが走り、私の身体は前へと倒れていった。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:47:29.21 ID:qUrxOtfZ0

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「っわあぁ!?」

とっさに身体を庇って身を丸くする。アスファルトの地面に身体を強く叩き付けられた。
走っていたせいか、はたまた今の衝撃のせいか、身体のあちこちがとても痛い。
背中を足で強く踏まれるも、痛みに耐えながら私は頭上を見上げた。

从 ゚∀从「ハイン様のしょーりー!」

(*゚∀゚)「全くこいつも諦めが悪いね。素直に金差し出せばいいのに」

从 ゚∀从「本当本当。……さぁーて」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「っ!」

倒れても尚抱き抱えていた鞄をあっさりと取られてしまった。
慌てて身体を起こそうと力を入れるも、疲労した腕は押し付けられた足の力には敵わなかった。

从 ゚∀从「カバンチェーック!」

(*゚∀゚)「どれどれ……おおっ、金いっぱいあんじゃん。ラッキー」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「や、止めろ! それは……母者の、母者との……」

从 ゚∀从「なぁーんか言ってるよこのオヤジ。キモいんだけど」

(*゚∀゚)「人にケガさせたんだからこれ位当たり前だろ!」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:49:06.36 ID:qUrxOtfZ0
刃物を持った子の足が私の顔を蹴り上げた。
一瞬視界が火花でちりばめられたかと思うと、右頬が痛みからか熱くなっていく。

どうにも出来ない状況に、抵抗する気をなくしてしまった私は
それ以降鞄を漁られても何も言わずに彼女達を見ていた。

赤髪の子の鞄を漁る手が止まる。
鞄から出て来たのは手の平サイズの白く四角い箱。
それは母者に送る大切な指輪だった。

从 ゚∀从「何だこれ?」

赤髪の子が箱の蓋を開ける。
台に置かれた銀色の指輪を摘むと不思議そうに眺めている。
楽しそうに札束の枚数を数えていたもう一人の子も、指輪の存在に気付き一緒になって見ている。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:50:41.18 ID:qUrxOtfZ0
(*゚∀゚)「内側に何か掘ってある……TtoH?」

从 ゚∀从「女に贈る物かよ。まさかその歳で今更結婚とかってやつ?」

(*゚∀゚)「ぎゃははははは! 見るからに冴えなさそうなオヤジと誰が結婚すんだよ!

从 ゚∀从「きゃはははははは! 冴えない男と結婚する女もきっと相当なブスなんだろうな」

(*゚∀゚)「あるあるある! 他に結婚する男がいなくて仕方なくみたいな!」



馬鹿笑いをして汚そうに指輪を摘む彼女達に対して、私の中で今までなかった感情が込み上げて来た。
どこにまだそんな力が残っていたのか、背中踏み付けている足を払い叩き
指輪を持っている赤髪の女に掴み掛かった。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:52:04.96 ID:qUrxOtfZ0

彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「貴様達は、貴様達だけは許さん!」

彼女達は私の行動に驚いた目をして見ていたが、刃物を持っていた女が私の前でナイフを振り回した。
線を引くように頬に痛みが走る。けれどそんな事はどうでも良かった。
生涯唯一愛した人を、大切な人をこんな形で侮辱されて黙っていられなかった。

彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「返せ! 指輪を返せ!」

从;゚∀从「ちょ待てよ、つー! コイツ押さえ付けろ!」

ふらついた足が何かに引っ掛かったと思うと、自然と身体が前に倒れていく。
慌てて揉み合っていた赤髪の子の腕を掴むと、彼女は驚いた顔をして私の腹を蹴る。
とても痛い。今すぐにでも腹を抱えてその場に蹲ってしまい位だ。

けれど、今は自分の身体よりも大切な物があった。
赤髪の子の腕を引き寄せ、もう一方の手で握られている指輪に手を伸ばした。

从 ゚∀从「……っち、んなに大事なら取ってみろよ!」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:54:52.29 ID:qUrxOtfZ0

指輪が彼女の手から離れる。
弧を描き、金属特有の音を鳴らして路地裏の外へと転がり出す。
私は慌てて赤髪の少女を押し退けると指輪を追いかけた。

明るい街に出た指輪は無数の人に踏まれ蹴られ、私との距離を開いていく。
路地裏から出て来た私を人々は不審な目で見ていた。
そりゃあ、血を流しながら這いつくばって出て来たら不審に思われても仕方ないだろう。

蹴られた指輪は宙を舞う。
指輪の向かう先を知った私は身体を起こして指輪に駆け寄ろうとした。
しかしそれも叶わず、足を絡ませてしまい私はその場でアスファルトに顔をぶつけてしまった。




速い何かが、硬い物体を踏み付ける音が響いた。




81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:57:05.39 ID:qUrxOtfZ0


彡⌒ミ
(  _ゝ )「……っうわああああぁぁ…………!」

叫びも空しく、車道に転がった指輪は排水溝の側で走る事を止めた。
けれどそれはもはや指輪ではない。綺麗な円はもうそこにはなかった。

アスファルトに水滴が落ちる。一粒、二粒落ちて来た。
暫くすると水滴は雨となって私の身体を打ちつけていく。
予想外の雨に周囲の人は近くの店で雨宿りをしていて、道には傘も差さずに座り込んでいる私だけがいた。

時計を確認する。七時を過ぎていた。
もし今行った所でどんな顔で母者に会えばいいのだろうか。

金も全て盗られた。顔からは血が流れて全身ずぶ濡れ。
更に一番大切なプレゼントすらも無残に形を歪めてしまった。

彡⌒ミ
(  _ゝ )「……私は、本当にダメな男だな」

誰に言う訳でもなく呟いた言葉は雨音に消えていく。
雨は冷たいはずなのに頬に伝うのは熱い水滴。
そこまで認識して、ああ、今私は泣いているのだと気付いた。

歯を食いしばり声を殺してただただ涙を流す私の中には
たった一人の想い人が背を向けて立っている姿が浮かんだ。

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