1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:00:47.31 ID:qUrxOtfZ0

私の名前は流石父者。一家の大黒柱でもある今を生きるサラリーマンだ。
最近の悩みは徐々に薄くなっていく私の髪の毛。悲しいがそろそろ育毛剤を買う時期かもしれない。

そして今の悩みは運動不足の身体と、かなりヤバいこの状況だった。

从#゚∀从「逃げんじゃねーぞオッサン!」

(#゚∀゚)つニフ「有り金全部置いていけぇ!」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ぎみゃああああぁぁぁ!」

厄年はとうに過ぎたはずなのに、どうして私はこんな目に合っているのだろうか。
刃物を持って追ってくる若い子から全速力で逃げながら、酸素が欠乏した頭の中でそんな事を考えていた。







彡⌒ミ父者と母者の結婚記念日のようです@@@





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:02:35.05 ID:qUrxOtfZ0
そもそもの事の始まりは一週間前、仕事を終えて家で寛いでいる時だった。
その日は仕事のすれ違いから会う事も少なくなってしまった姉者と久しぶりに顔を合わせていて
お互い最近の事を話す内に私の恋愛話へと発展していった。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いやー、今じゃ恐れる程に筋肉ムキムキになった母者だがな、昔は本当に可憐で優しい人だったんだよ」

∬´_ゝ`)「信じがたいわね……思い出フィルターか何か掛けて話しているんじゃないの?」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そんな事はないぞ……ほら、これが証拠だ」

そう言って私は鞄の中から財布を取り出し、中に挟まっている古びた写真を取り出した。
それは、プロポーズする前日に母者と一緒に出掛けた時の写真だった。

夜のネオンに包まれた京東ワターをバックに写されたその写真には
まだ若く、毛もフサフサな私と今より小柄で優しい笑みを浮かべている母者がいた。

姉者はその写真を見て、驚いたように目を丸くさせながら
そのまま私の方に視線を向けて神妙な表情をした。

∬;´_ゝ`)「凄い……今とじゃ似ても似つかない位に綺麗な母者ね」

彡⌒ミ
( *´_ゝ`)「はっはっは、可愛いだろう。まぁ母者は今でも可愛いんだけどな」

普段はリビングにいるであろう話題の人物こと母者は今風呂に入っている。
本人の前で言ったからといって暴力を受ける訳でもないが、実際に目の前にしたら絶対に言えない。
恥ずかしいというのもあるが一番の理由に昔と違い恋愛の熱に浮かされていた頃のような気持ちになれないからだ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:04:27.76 ID:qUrxOtfZ0

∬´_ゝ`)「そういえばさ、父者達の結婚記念日っていつなの?」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「え……」

一瞬私の頭の中が真っ白になる。
そういえば結婚記念日とはいつの事を言うのだろうか。プロポーズをした日か、結婚式を迎えた日か。
昔はしっかり覚えていたのに今となってはこんな様だ、自分で自分を情けなく思ってしまう。

冷や汗をかきながら固まっている私を見て姉者は状況を察したのか
呆れた様に溜息を付くと、空になった私のグラスにビールを注いでくれる。

∬;´_ゝ`)「しっかりしてよ……結婚式を迎えた日が記念日になるのよ」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「お……おお! そうだった! この写真撮った次の日にプロポーズして
       そのちょうど二か月後に式を迎えたんだった!」

∬´_ゝ`)「男の人って大事な記念日とか忘れるから嫌なのよねぇ……」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そんな事はないぞ! ちゃんと毎年記念日には祝いに……あれ?」

そこまで言って、私は落胆した。
考えてみれば妹者が生まれてから、いやそれより前から記念日の事はすっかり忘れていた。
結婚して七年位の頃は私が忘れてしまっても、母者が祝いにと何かしらプレゼントをくれていた。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:07:04.89 ID:qUrxOtfZ0

しかし今となっては母者もそんな事を言い出さない。
それどころか、最近会話らしい会話をした記憶もない。
長年夫婦を続けていれば当然の事だと思うが、私は母者との大事な日を忘れていた自分を酷く恨んだ。

∬´_ゝ`)「父者?」

彡⌒ミ
(  _ゝ )「ああ……私はなんて駄目な夫なんだ。
      愛する妻との記念日を忘れるどころか日々の日常すらもすれ違うなんて……」

∬´_ゝ`)「私に考えがあるんだけど……父者?」

彡⌒ミ
(  _ゝ )「もしかしたら母者はこんな私に愛想が尽きたのかもしれない……
      いや、間違いなく尽きているだろう。
      こんな夫と一緒にいるよりはそこらへんにいるイケてるメンズと一緒にいた方が……」

∬´_ゝ`)「ねぇ父j」

彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「何をするんだそこのイケイケメンズめ! 
       私の母者を勝手に奪いやがって許さないぞ!
       食らえ流石父者奥義ハゲだ頭光線だ!」

∬#´_ゝ`)「黙って聞けやこの糞親父ぃ!」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「はい」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:09:04.76 ID:qUrxOtfZ0
鬼の形相の姉者に胸倉を掴まれて思わず黙り込んでしまう。
不謹慎ながらも怒った姉者の顔を見て、そういえば昔よくこうやって母者に怒られていたなと思い出す。
そういう意味では、姉者は若い頃の母者の面影が残っているな。

大人しくなった私を見た姉者は、胸倉を掴むその手を離して一度深呼吸をした。

∬´_ゝ`)「ごめんなさい……ついカッとなっちゃって」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いや、大丈夫だ。それで何か言いかけてたみたいだが何なんだ?」

汗をかいたグラスを手に取りちびちびとビールを喉に流し込んでいく。
姉者は私の言葉に思い出したような顔をして、ほんの少し私の方に詰め寄ってきた。

∬´_ゝ`)「そうよ、それ。私思うんだけど
      今年は今まで出来なかった分を返す勢いの結婚記念日を計画すればいいのよ。
      聞けば記念日までは後一週間もあるんだし」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「なるほど……しかし、こんな歳になって今更と思われないだろうか?」

∬´_ゝ`)「思わないわよ。
      女はどんなにお婆ちゃんになったって、こんな嬉しいサプライズされたらたまらないわ。
      大丈夫よ、計画なら私も手伝うから」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:11:20.36 ID:qUrxOtfZ0

腕を組み、優しく微笑む姉者に目頭が熱くなったような気がした。
今や独り立ちし、結婚も控えている愛娘が私の為にこんな事を言ってくれる。
それだけで私は世界で一番幸せな父親なんじゃないかと思ってしまう。

そんな事を考えていると、背後の扉が開かれる音がした。
母者が風呂から上がったのか。そう思い身体を強張らせるも
こちらにやってくる足音に母者特有の重みを感じない。

ならば誰だろうと思い振り向くと私のもう一人の愛娘、妹者が私の胸に飛び込んで来た。

l从・∀・ノ!リ人「妹者も手伝うのじゃー」

∬´_ゝ`)「あら、妹者まだ起きてたの?」

l从・∀・ノ!リ人「トイレに行って来たら父者と姉者がお話ししてる声が聞こえたから聞いちゃったのじゃー」

ニコニコと笑う妹者を膝に乗せる。
妹者くらいの年頃になれば早い子は既に父親を嫌がるのに、この愛娘は嫌がるどころかこうやって来てくれる。
胸いっぱいの幸せを感じていると、綺麗な瞳に私を捕らえた妹者がこちらをを見上げていた。

l从・∀・ノ!リ人「父者ー、妹者も母者と父者の記念日のお手伝いするじゃ!」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:13:59.34 ID:qUrxOtfZ0

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「手伝ってくれるのかい?」

l从・∀・ノ!リ人「もちろんなのじゃ。妹者も母者の喜ぶ顔が見たいのじゃ」

∬´_ゝ`)「ふふ。これは本格的にやらないとね」

二人の愛娘に母者との恋愛の事で背中を押されるなんて夢にも思わなかった。
いつまでも子供だと思っていたが、私の知らない間にこんなに優しい子になっていたのか。
不意に涙が零れそうになり、慌てて残っていたビールを全て喉に流し込んだ。

その日は母者が風呂から上がり、妹者もベッドに戻る事になって話は一旦そこで終わった。
結婚準備で忙しいにも関わらず姉者は時間を裂いて
普段仕事以外で外に出掛けない私に色々と出かけるのに良い場所を教えてくれた。

妹者は妹者で姉者と一緒にプレゼントを考えてくれたり
兄者や弟者に暫くは母者を刺激しないように大人しくする事と注意を呼び掛けてくれた。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:16:22.72 ID:qUrxOtfZ0

計画はこうだ。
仕事帰りにあらかじめ姉者が予約してくれたレストランで母者と落ち合う。
後はムードに任せてそのまま出掛けたり、姉者が教えてくれたデートスポットで過ごしたりする。

その間妹者は兄者と弟者の見張りと称して、姉者が帰って来るまで二人の近くにいるらしい。
あの悪戯好きな二人にこの事を聞かれでもしたら何を言われ、何をやらかされるか。
最悪尾行でもされたらたまらない。そういう意味では妹者の役割は重要だった。

プレゼントは姉者の婚約相手に婚約指輪を買った店を聞き、その店で購入した。
銀色のシンプルな指輪の内側にはTtoHの小さな文字。
当の昔に結婚指輪は渡しているが、もう一度若かりし頃に返ってプロポーズをしたい。
そういう思いでこの指輪をプレゼントしたいと思ったのだった。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:18:29.53 ID:qUrxOtfZ0


結婚記念日当日の朝、いつもなら誰一人として見送りに来ない玄関に姉者と妹者が来てくれた。

∬´_ゝ`)「指輪は忘れてない?」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ああ、鞄の中にしっかりと入っているぞ」

l从・∀・ノ!リ人「母者には七時に待ち合わせって言ってるのじゃ。
         誰と待ち合わせなのかはまだ言ってないのじゃ!」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ははは、逆にそっちの方がサプライズ感があっていいじゃないか」

二人の前ではこうやって笑っているが、実際の所とても緊張していた。
もう十数年以上忘れていたイベントを行なうのだ。
姉者は喜んでくれると言ってはいたが、もしも喜んでくれなかったらどうしようか。
嫌でもそんな事を考えてしまうのだ。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:20:11.96 ID:qUrxOtfZ0

∬´_ゝ`)「父者。顔強張ってる」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そ、そうか?」

姉者に指摘されて胸の心拍数が上がった気がした。
見栄を張っていたつもりだが、こうも簡単に見透かされては父親としての面目が丸潰れじゃないか。

l从・∀・ノ!リ人「大丈夫なのじゃ! リラックスして行けばいいのじゃ!」

∬´_ゝ`)「妹者の言う通りよ。何年夫婦やってきてるの。
     父者の気持ちなら母者もちゃんとわかってるはずよ」

姉者と妹者に励まされ私の緊張が和らいでいく。
ああ、と頷いて今度は自然な笑みを二人に向けると靴を履いて玄関のドアを開けた。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「それじゃあ、いってきます」

∬´_ゝ`)「いってらっしゃい」

l从・∀・ノ!リ人「いってらっしゃいなのじゃー!」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:22:48.28 ID:qUrxOtfZ0

何年振りかの見送りに頬を緩ませて自宅を後にする。
会社に向かうまでの間、考える事は今夜の事ばかりだった。
どんな顔で母者と会おうか、どんな言葉を掛けてあげようか、そんな事ばかりだ。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)。ο(こんな気持ちになるのも久し振りだな……)

まるでプロポーズをする前の若かりし頃の様だ。自然と足も軽やかになる。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「今日も一日……いや、今日は特別頑張るか」

駅に集うサラリーマンに流されながら私は久し振りに気合いを入れてそう呟いた。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:25:36.74 ID:qUrxOtfZ0

この時点までは計画通りに進んでいた。
計画が崩れてしまったのは、昼休みを終えて上司に呼び出されてからだった。

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「これ……どうしても今日中に仕上げないと駄目ですか?」

( ・∀・)「頼むよ流石君。君の腕を信用して言ってるんだからさ」

午後からの仕事を終えれば定時時刻に会社から出られる。
そう思っていた私の目の前には、溜息が出る程詰まれた書類の山がそびえ立っていた。
何で今日に限って上司はこんなに大量の仕事を私に任せるんだろう。頼れる同僚なら私以外にも沢山いるのに。

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「今月の決算に会議に使う書類の最終チェック……これは駄目かもわからんな」

一通り書類に目を通すも、これを七時までに終えるのはとても厳しい。
元々私は器用な方ではないのだ。他の同僚や後輩に手伝ってもらおうにも
みんな机に向かって真剣に自身の仕事をこなしていた。

いっそ上司に頼んで早めに帰らせてもらう事も考えたが
今日の書類の中には性急に済まさなければならない物もある。
そんな無責任な事出来るはずもない。私は自身の両頬を思い切り叩いてやる気を起こした。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)。ο(大丈夫……私なら必ずやり遂げてみせる!)

デスクに座り、心の中で自分を奮い立たせるとすぐに書類に目を通した。
今日は大事な日なんだ、いつもの頼りない私ではいられないんだ。
そう思いながら紙面びっしりに書かれた文字を一字一字丁寧に確認をし始めた。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:28:32.35 ID:qUrxOtfZ0

全ての仕事が終わった時には既に定時時刻を過ぎていて、約束の時間まで一時間もなかった。
上司の最終確認を目の前で待ちながらチラチラと時計を見る。今からだと走って間に合うだろうか。
頭の中は母者との約束でいっぱいになっていた私の前で、上司は書類の紙を整えながら笑って私を見ていた。

( ・∀・)「うん、間違いはないみたいだからこれで全部終わりだ。
      まさか君がこんな短時間でここまでやってくれるとは思わなかったよ」

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そ、そうですか」

( ・∀・)「それでついでと言っては何だけどもう少し……」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「それでは私はこれで失礼します、お先になりますね」

( ・∀・)「いや君、もう少し」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「お先になりますね」

( ・∀・)「いやきm」

彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「お先に! なります! ね!」

(;・∀・)「……あぁ、わかったよ」

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「お疲れ様でした!」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:31:48.07 ID:qUrxOtfZ0

上司に頭を下げると、すぐさま帰り支度を整えていた自身のデスクに戻り、鞄を脇に抱える。

部屋から出る際にもう一度頭を下げると、そこから全力疾走で階段を掛け降りた。
エレベーターを使えばいいのだが、ここのエレベーターは移動がとても遅い。
大量の仕事を終え、疲れた身体に鞭を打つようにして五階から一階まで走り抜けた。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ヘイタクシー!」

会社を出るなりタクシーを捕まえる事に成功した私はすぐさま車に乗り込むと
姉者から貰った店までの地図を片手に、息を荒らげて運転手に場所を告げた。

彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「レストランVIPまでお願いします!」

( ´ー`)「あいよー」

のろのろと走り出す車に、間に合うかと不安になったが時計の針はまだ六時を切ったばかりだ。
車で行けばそんなに時間は掛からないだろう。

鞄の中にある指輪を確認すると、自然と口元が綻びる。
これをあげたら母者はどんな顔をするだろうか。
喜んでくれるだろうか、照れ隠しに殴ってくるだろうか。

乱れた息を整えながら私は窓から覗く灰色の空を眺めて、そんな事を考えていた。

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