1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:44:39.08 ID:DdoVuBQx0
1.
 男ならば誰だって運命の女を探しているものだ。

この広い世界のどこかで、自分との出会いを待ち続けている女を。

まあ、これまた誰だって、結局見つける前に適当な女と結婚してしまうんだけどね。

 割引シールが貼られた、干からびたコンビニ弁当みたいな女とさ。


( ・∀・)「えっと……ここかな」


 パワーウィンドウを下げて運転席から身を乗り出し、敷地の奥にある建物を睨む。

いやはや、でっかい家だな。

税金をクソ真面目に払ってたんじゃあ一生住めないね。





 君だけが僕の天使のようです 前編

(原作 ジム・トンプスン『死ぬほどいい女』)



2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:46:20.97 ID:DdoVuBQx0
2.
 曇りの日の夕方で、周囲は墨絵のように真っ暗だった。

車を降り、屋敷に至る小道を歩いていると、一人の少女が立っているのが見えた。


(゚、゚トソン


風に白いワンピースを翻し、こっちを見下ろしている。

何をやってるんだろう?


( ・∀・)「?」


 すぐに彼女はきびすを返し、家の中へと消えた。

こっちの様子を窺っていたらしい。

何か不吉なものというか、僕が招かざる客であると思ったのだろう。

まあ、それは間違いない。

訪問販売の仕事なんかしてるとどうしてもね。こんな扱いを受けるようになるんだ。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:48:10.46 ID:DdoVuBQx0
3.
( ・∀・)「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか?」


 僕はブザーを鳴らし、とっておきの愛想の良さを込めて言った。

相手が出るのを待つ間、周囲を見回す。

この家は荒野の真ん中にポツンと建ってるようだった。

周囲は元は畑だったのかな? 今は雑草の栽培に熱心らしいけど。


( ・∀・)「えー、VIPストアから参りましたモララーと言いますが、どなたか……」


 いきなりドアが開いた。


J( 'ー`)し


 老婆が現れた。

その顔を見た瞬間、僕は後ずさりした。


J( 'ー`)し「あんた誰? 何か用?」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:50:26.67 ID:DdoVuBQx0
4.
 六十か七十そこらだと思うが、性格の悪さがそのまんま顔に出ている。

手に銃身を切り詰めたショットガンを持っていて、いつでも使う用意があるみたいだった。

冗談じゃない、何だこのババアは?


(;・∀・)「あっ……えーと、僕はVIPストアから来た……おっ、お邪魔して申し訳……」

J(#'ー`)し「帰んな、このクソっ垂れ! ウチは勧誘と訪問販売には用はないよ!」


 ショットガンを突き付けられ、僕は更に一歩下がった。

ドアを閉じられる前に口早に説明する。


(;・∀・)「いえいえいえ、そうじゃないんです、本日はそういうご用件では!

     ただちょっと、以前こちらに勤めていたクックル氏の行方を教えて頂けたらと」

J( 'ー`)し「クックル? あんたあいつと知り合いかい?」

( ・∀・)「クックル氏はうちのお得意様でして」

J( 'ー`)し「ははん? あのボケ、ローンを踏み倒したんだね?」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:52:16.79 ID:DdoVuBQx0
5.
( ・∀・)「いやまあ、ははあ。ちょっと仕事の事でしてね」


ババアは因業そのものの顔で笑った。


J( 'ー`)し「そりゃあいい気味だよ。あのボケ!

     ろくに仕事もしないで口答えと言い訳ばっかり」

( ・∀・)「ははあ」

J( 'ー`)し「挙句に全部放り出して消えやがった、まったくどこの雌豚がひり出したのか……」

(;・∀・)(勘弁しろよババア、いつまで言ってるんだ)


 だがお喋りになっているのは良い兆候だ。

ババアは公衆トイレの落書きよりも口汚い言葉をさんざんに並べ立てた後、クックルの行方を口にした。


J( 'ー`)し「大方ニューソク街のあたりだろうよ。

     あのあたりの工場で働いてるんじゃないかい」

( ・∀・)「いやいや、大変にありがたい」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:54:26.28 ID:DdoVuBQx0
6.
J( 'ー`)し「で?」

( ・∀・)「え?」

J( 'ー`)し「見返りはなんだい? 情報の」


 ババアの中で強欲の歯車が回り出す音が聞こえた。

まあ、これはこれで好都合と言うものだ。

僕は商品見本の詰まった、でかいアタッシュケースを床に置いて中身を広げた。


( ・∀・)「それでは、こちらの商品を特別にサービスさせて頂きましょう。

     ローンは十六回払いで、最初の一回はこちらが持つというのは?」

J( 'ー`)し「ふん。何かと思ったら商売かい! 失せろ、このボケ!」

( ・∀・)「まあまあ、そう言わずに。

     ドレス、マフラー、ガウン、スリッパのセット、ベッドカバー。

     こちらなんか本物のシルクですよ。どうですか、このきめ細やかな手触り。

     こっちのドアマットなんか本当にいい柄でしょう、深みのある……」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:56:34.69 ID:DdoVuBQx0
7.
 興味を示さないかどうかババアの顔色を窺う。


J( 'ー`)し「ホームレスだってもっと上等なボロ切れを着てるよ。いい加減にしないと……」


奴は最初そのどれにも無関心だったが、奥の方のある物を見た瞬間、目がきらりと光った。

僕がそれを見逃す訳もない。早速取り出して見せた。


( ・∀・)「こちらの毛皮のマフラーに興味がおありで?

     同じ素材のコートもございますよ、揃いならきっと見栄えすること間違いなし!」

J( 'ー`)し「ふーん……」

( ・∀・)「奥様はもちろん、さっきの娘さんにもきっと似合うでしょうし」


 娘という言葉を聞いた瞬間、ババアの顔がまた変わった。

ショットガンを下ろすと、所々抜け落ちた歯を剥き出す。


J( 'ー`)し「あんた、あの娘が気に入ったのかい?」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 19:58:29.22 ID:DdoVuBQx0
8.
 ババアはすっかり雰囲気を変えていた。

これまでとは違い、何かを誘うような、おどけた仕草だ。


( ・∀・)「え? ええ。いずれ魅力的な女性に成長するでしょうねえ」

J( 'ー`)し「ありゃあたしの姪なんだけどねえ。そりゃあいい子なんだよ。

     グズでトロいけど、あたしの言う事だきゃあ何でも聞くんだから。何でも」

( ・∀・)「?」

J( 'ー`)し「で、あの毛皮のマフラーとコートは、セットでおいくら?」


 まあ、ともかく商売だ。


( ・∀・)「ええもう、本当に処分価格ですから、更に情報をご提供頂いた事を差し引きまして、

     更に更にキャッシュバックキャンペーン中ですから……」


 とか何とか言って提示した金額は、本物の毛皮商が聞いたら笑い死にしただろう。

僕の働いてる店ってのは、そういうとこなのさ。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:01:21.36 ID:DdoVuBQx0
9.
ボロ切れを嘘八百で売り付けるという。


J( 'ー`)し「ふーん、そうだねえ。じゃあこうしないかい?」


 ババアは物欲しげな顔にずるそうな笑みを浮かべた。


J( 'ー`)し「あの娘が支払いをするっていうのはどうだい?」

( ・∀・)「へ? さっきの娘さんが?」

J( 'ー`)し「そうとも」

( ・∀・)「支払ってくれるのなら文句はありませんが」

J( 'ー`)し「そうかい、じゃ決まりだね。そこで待ってな」


 ババアはドアを閉じて姿を消した。


( ・∀・)(変な話になってきたな。業務成績は悪化の一方だし、どうしたもんか……)


 僕の給料はスズメの涙で、これはガソリン代で消えてしまう。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:02:50.29 ID:DdoVuBQx0
10.
後は歩合に頼るしかないんだけど、ここ最近は景気が良くない。非常に良くない。

しかも売上の一部をポケットに入れてる事が会社にバレたらどうなるやら……


(;・∀・)(横領だもんなあ、クビじゃ済まないな。うう、胃が痛い)


 ふと、人の気配がした。

振り返ると何時の間にかドアが開いていて、さっきの少女がいた。


(゚、゚トソン

( ・∀・)「ん」


 彼女は黙って家の中へ入って行った。

僕もそれに続いた。そうするしかないじゃないか。

彼女は一言も口を聞かず、二階へ上がって行った。

 ババアは姿を消している。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:04:28.42 ID:DdoVuBQx0
11.
( ・∀・)「バ……奥様はどちらに?」

(゚、゚トソン


 やはり何も答えない。

彼女は階段を上がり終わると、廊下の突き当たりに向かった。

一番奥の部屋に入る。

 ベッドはあったけれど、寝室って感じじゃない。

ただベッドがあるだけの部屋なんだ。

独房のようだった。


( ・∀・)

(゚、゚トソン


 僕が入ると、彼女はドアを閉じた。

少女は震えていた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:07:17.07 ID:DdoVuBQx0
12.
::(゚、゚;トソン::


脂汗が顔に浮かび、嫌悪と羞恥に耐えていた。

今にも卒倒しそうだった。

 両手を背後に回すと、ボタンを一つずつ外した。

ワンピースを床に落ち、そして彼女自身が露わとなった。

一糸纏わぬ白い裸身が……


(;、;トソン


 僕はあわてて視線を反らした。

おいおい、支払いってこういう事か!?


(;・∀・)「服を着てくれよ、ほら」

(;、;トソン



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:09:13.03 ID:DdoVuBQx0
13.
 彼女は震えて泣いているだけだった。

だから、僕が着せてあげた。

いやいや、彼女が欲しくなかったと言えば確実に嘘さ。

彼女くらい美しかったら、彼女くらい若かったら……

 でも、こんな方法はイヤだ。死んでもゴメンだ。


( ・∀・)「ほら、もう泣かないでくれ」

(ぅ、;トソン


 少女は涙を拭って頷いた。

まだ16かそこらじゃないか。

 なだめすかして、僕は俯きがちな彼女と何とか話をしようと試みた。


( ・∀・)「あのババア、いつもこんな事させてたの?」

(゚、゚トソン「うん……」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:11:15.39 ID:DdoVuBQx0
14.
( ・∀・)(クックルの野郎も間違いなくこの“支払い”で納得してたな。

     あのババア……!!)

( ・∀・)「何でここから逃げ出さないんだい?」

(゚、゚トソン「行くとこがない……わたし、な、何にも出来ないし……」

( ・∀・)「学校は?」

(゚、゚トソン「行ったことない」

( ・∀・)「他の家族は?」


 少女は首を振った。


(゚、゚トソン「ずっとあの人と一緒」

( ・∀・)「警察に言ったらいいじゃないか」

(゚、゚トソン「誰も信じないわ。それにもし……そんな事があの人に知れたら……」


 彼女はまた泣き始めた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:13:07.83 ID:DdoVuBQx0
15.
良く見てなかったけど(ホントだって)、裸身に鞭の跡があった気がする。

あのババアの奴隷になるよう調教されたんだろう。

この子にとってババアは世界の支配者なんだ。


(;、;トソン

( ・∀・)「泣くなって」

(ぅ、;トソン「うん……」


 警察に言う……くそっ、横領の件が無けりゃ迷わずそうするんだが。

今一番近付きたくない連中だ。

だけど僕は彼女を救いたかった。

どうしても助けてあげたかった。


( ・∀・)「大丈夫、僕が必ず何とかしてあげる」

(゚、゚トソン

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:16:13.52 ID:DdoVuBQx0
16.
 彼女は半信半疑のようだった。

絶望に塗り潰された人間がそうなるように、希望を信じられなくなっている。

僕は精一杯胸を張り、笑って見せた。


( ・∀・)「任せとけって。信じてくれ」

(゚、゚トソン「うん……ありがとう、おじさん」


 僕が手を差し出すと、彼女はしばらくそれを見つめていた。

それから自分の小さな手で、僕の手をきゅっと握った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 階段の下でババアが待っていた。

そのニタニタ笑いを見た瞬間、よほどスーツケースで頭を叩き割ってやろうかと思ったもんだ。

だけどもちろん、そんな事は出来なかった。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:18:32.01 ID:DdoVuBQx0
17.
( ・∀・)「いやいや、大変結構なもので」

J( 'ー`)し「ヒヒヒ、そうだろう、そうだろう? マフラーは?」


 僕はケースを開け、マフラーを差し出した。

ババアは嬉しそうにそれを首に巻いた。


J( 'ー`)し「で、コートなんだけどねえ」

( ・∀・)「いいでしょう。次来た時に持ってきますから、その時は……」

J(*'ー`)し「ヒヒヒ、ヒヒヒヒ! わかってるとも」

( ・∀・)「その代わり使用済みはゴメンですよ、奥さん

     僕が来るまで他の客を取らせないでくれよな」

J(*'ー`)し「いいとも、いいとも。一番いいコートを持って来ておくれよ」

(#・∀・)(くたばれ、クソババア)


 家を出て小道を戻る頃には、もう一雨来る気配だった。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:22:14.90 ID:DdoVuBQx0
18.
車に乗り込み、そして頭を抱える。


(;-∀-)(おいおい、どうするんだよ。また店への借金が増えちまった!

     あのマフラーいくらすると思ってんだよ、僕はバカなのか?)


上司はもう僕の横領を疑い始めてるんだぞ。

これが決定的になったらどうするんだ。

 ああ、何てこった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


( ・∀・)(ここがニューソク街だな。うへえ、納得だ)


 スラムも同然だ。あの野郎が居心地良く感じてもおかしくない。

薄汚れた町並みを眺め、僕は工場を一軒一軒しらみつぶしに当たって行った。


( ・∀・)「えー、こちらにクックルって方は……」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:24:03.66 ID:DdoVuBQx0
19.
(,,゚Д゚)「いるけど。あんたは?」

( ・∀・)「あ、どうも。実はこういう事でして」


 僕は書類を取り出し、工場の事務員に見せた。

給与の差し押さえ証明書だ。

つまり、ローンをバックレた場合、そいつの給料から直接支払ってもらうってこと。


(,,゚Д゚)「ふーん。わかった、待ってな」


 事務員はすぐに金を払ってくれた。

絵柄の揃ったスロットマシーンみたいにね。

それから電話の受話器を手に取った。


(,,゚Д゚)「クックルいるだろ、あいつ呼べ」

( ・∀・)「じゃ、僕はこれで」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:26:33.28 ID:DdoVuBQx0
20.
 僕は早々にその場を後にした。

あいつは間違いなくクビだ。

ローンをバックレるような野郎は、いずれ問題を起こすと誰だって知っている。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 近所のバーに入り、一杯飲んだ。

それでも全然気分が良くならなかった。


( ・∀・)(せめて天気が良くなってくれればなあ。

      一か月ばかり遮二無二働けば、何とか穴を埋められるんだけど……)


 横領ったって、市役所の能無しが女に貢いだり車買う為にやるようなやつじゃない。

生活の為なんだ。

家賃、電気代、ガス代、車検、その他諸々。

加えてあの女房だ。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:28:17.76 ID:DdoVuBQx0
21.
( ・∀・)(デレめ。クソ女め。くそっ、何もかも最低だ)


 存分に暗い気分になった時、ケータイが鳴った。


( ・∀・)】「はい」

('A`)】「あー、俺だ。首尾はどうだ」


 本社から出向して来た僕の上司、ドクオからだった。


( ・∀・)】「ああ、クックルかい。えーと」


 見つからなかった事にしよう。

いや、もういっそあいつは永久に見つからない事にしよう。

金はマフラーの代金に当てればいいじゃないか。


( ・∀・)】「見つからないね。どこへ消えちまったんだか」

('A`)】「おいおい、頼むぜ。あいつの貸しはどうなるんだ」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:30:24.91 ID:DdoVuBQx0
22.
( ・∀・)】「でもいい事もあったよ。あのマフラーが売れたんだ」

('A`)】「そりゃ上々だ。だけどクックルの事も何とかしろよ」

( ・∀・)】「わかってるって」


 ガチャ。

まったく、しつこい野郎だ。

何だってあんなに念を押すんだ? もう横領に感づきつつあるのか?


( ・∀・)「おっさん、勘定。ああ、ウイスキーを一本瓶ごともらおうか」

ミ,,゚Д゚彡「へい、毎度」


 今夜は帰って飲んだくれて寝てしまおう。

そう思って店を出た。

相変わらずひどい雨だ。

 鞄を傘にして駐車場の車のところまで行くと、背後の暗闇で声がした。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:32:03.95 ID:DdoVuBQx0
23.
( ゚∋゚)「おい」

( ・∀・)「?」


 薄汚れた作業着姿の大男だ。

沸騰したヤカンのように顔を紅潮させている。


( ・∀・)「やあ、クックルじゃないか」

(#゚∋゚)「て、てめえ……てめえのせいでクビになっちまったんだぞ! ああ?!」

( ・∀・)「おいおい、僕は代金をもらっただけだぞ。契約書通りに」

(#゚∋゚)「代金ってのはあのスーツの事か?! あの紙のスーツか?!

    てめえの店じゃ、洗ったら色落ちして溶けちまうのをスーツって呼んでんのかよ!」

(;・∀・)「落ち着けって、僕は仕事で……」

( ゚∋゚)「てめえ、ぶっ殺してやる!」


 もうそれ以上、言う事は何もないらしかった。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:35:53.26 ID:DdoVuBQx0
24.
クックルは喚き声を上げて突進して来た。

 僕は手の中のウィスキー瓶でカウンターを取ろうとしたけど、うまく行かなかった。

ぬかるみで足を滑らせたせいだ。


(;・∀・)「あっ!?」

(;゚∋゚)「おぶっ!?」


 顔面にぶつかったが、直撃じゃなかった。

一方、相手の拳も僕の顔面に叩き込まれていた。

だけど顔面で酒瓶をキャッチしながらだったから、かなり威力は殺がれていた。


(・∀ ゚(#⊂三 グシャア!! 三つ#)゚∋゚)


 まさに痛み分けだ。

ぬかるみに倒れた僕は、しばらく首がモゲてしまったような苦痛に喘いでいた。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:37:18.94 ID:DdoVuBQx0
25.
(#);・∀・)「い、いってえええ……」 

(#);゚∋゚)「うぐぐ、うぐぐ……」


 だが凶器の分だけ向こうの方が重症だ。

立ち上がった僕は奴を引きずり、雨の来ない軒下に入れてやった。

酒瓶を口に当てる。


( ・∀・)「ほら、飲め」

( ゚∋゚) グビグビ ブハア!!

( ・∀・)「仕事を失くしたのは悪かったよ」

( ゚∋゚)「……てめえ、何のつもりだ?」

( ・∀・)「だから仕事なんだって。

     仕事だからお前の給料を取り立てなきゃならなかった。

     んでお前が殴りかかって来たから、反撃しなきゃならなかった。

     そういう事なんだよ」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:40:56.79 ID:DdoVuBQx0
26.
( ゚∋゚)「そ……そうなのか?」

( ・∀・)「そうだとも」


 奴はしばらく訝しげに僕を見ていたが、やがて表情を軟化した。


( ゚∋゚)「ははあ、思ったより悪い人じゃないな、あんた」

( ・∀・)「そう言ってくれると嬉しいよ。ほら、酒はやるから元気出せ」


 僕はポケットから出した小額紙幣を奴のポケットに突っ込み、車に乗り込んだ。

呆気に取られている奴の顔がしばらくバックミラーに映っていたが、それもやがて消えた。


(;・∀・)(何やってんだよ、僕は。そんなに善人ぶりたいのか?)


 ああ畜生、金を恵んでもらいたいのはこっちの方だってのに。

そうさ、僕自身は結構、いい奴なんだよ。

ただ、世の中がそう思っちゃくれないってだけなんだ。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:42:22.17 ID:DdoVuBQx0
27.
 何だかちょっと気分が良くなってきて、口の中が切れているにも関わらず、僕は口笛を吹きながら

家に帰った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 寂れた工業地帯の端っこに僕んちがある。

ひどい場所さ。だけど僕の給料からすれば、この界隈でもかなり上等な方だ。

四部屋しかないボロ家の前に車を止め、僕はスィートホームに帰宅した。


( ・∀・)「ただい……ま」


 強盗だってもっと慎みを持っている。

そんな散らかり方だった。

食卓は洗い物の山と腐臭を放つ生ゴミ、何もかもが出しっぱなし。


( ・∀・)「やれやれ。デレ?」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:44:11.38 ID:DdoVuBQx0
28.
ζ(´q`*ζ スピー スピー


 女房はだらしない格好のまま、ソファで引っくり返っていた。

灰皿では甘ったるい香りがする煙草が燻っている。

マリファナだ。

おまけに酒瓶がいくつか転がっている。


(#・∀・)(クソ女、また麻薬やってやがったな)

( ・∀・)「起きろ、このボケ!!」

ζ(う皿゚*ζ「う、うーん……何よ、うっさいわね!」

( ・∀・)「僕が一日外で働いてたのに、お前何やってんだ? 飯は?」

ζ(゚ー゚*ζ「はぁ? ご飯なんか外で食べてくりゃいいでしょ」

(#・∀・)


 危うくアタッシュケースでぶん殴るところだった。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:46:56.46 ID:DdoVuBQx0
29.
( ・∀・)「掃除をしてくれよ。僕はもうヘトヘトなんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「あたし眠いの。あんたがやれば?」

(#・∀・)「なあ、頼むよデレ。座るところもないじゃないか?

      掃除して飯作ってくれってば」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、何であたしがやんなきゃいけないの?」

(#・∀・)「そこの規制薬物は誰の金で買ったんだ? ああ?」

ζ(゚ー゚*ζ「うっさいわね、グチグチグチグチ! 男のクセに!」


 僕はケースを放り出すと、デレの髪の毛を掴んで立たせた。


ζ(;ー;*ζ「痛い、いたあああい! やめてよバカー!」


 便所まで引っ張って行くと、黄ばんだ便器に顔を押し付けて奴の顔を洗ってやった。


ζ(;q ;*ζ「あぶぶ、あぶぶぶぶぶ!!」

( ・∀・)「目が覚めたか?」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:49:04.92 ID:DdoVuBQx0
30.
 そろそろいいだろう。死なれても困る。

水滴を振り乱し、更に涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしたデレが顔を上げた。


ζ(゚ー゚*ζ

( ・∀・)「何だ?」

ζ(゚ー゚*ζ「出てくわ」

( ・∀・)「その言葉を待ってたよ」


 僕はトイレから出た。愚かにも、彼女に背を向けて。

その瞬間、頭をトイレブラシで思い切りぶん殴られた。


(#・∀・)「あぐっ!?」

ζ(゚ー゚*ζ「あんたなんかクズよ」


 僕の横を通り抜け、デレは荷物を纏めに二階に向かった。

僕は僕でここにいても仕方ないと思い、飯を食いに外に出た。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:52:25.62 ID:DdoVuBQx0
31.
(#・∀・)「……クソ女」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 デレと知り合ってもう三年になるか。

あの時も確か、同情から始ったんだ。

デレは行きつけのバーの隅でよく酒を飲んでいて、常連の僕とは何となく会話をするようになった。

あの頃はいい女だと思ったんだよ。

 ある日の事だ。


ζ(゚ー゚*ζ「……」

( ・∀・)「どうかしたの?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、旦那と別れたの」

( ・∀・)「ありゃ。そりゃあ……ええと、お気の毒に」

ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ。ひどい男だったし」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:54:07.11 ID:DdoVuBQx0
32.
 彼女はこれ見よがしにたっぷり溜め息をついた、こっちに流し眼を送りながら。


ζ(゚ー゚*ζ「でも、何か寂しいな」


 はい、罠です。

女が男の前で寂しいって言葉を口したら、百パーセント罠だ。

だけど僕も若かった。あっさり引っかかった。


( ・∀・)「うちに来ない?」


その日のうちに彼女を自分ちに引っ張り込んでしまった。

 マリファナ中毒で自分からは何にもしない、他人が自分にするのが当然だと思ってる家畜女さ。


( ‐∀‐)(あの頃はなあ、ほんといい女だと思ったんだけどな。

       最初のうちは掃除も料理もしてくれたし)


 飯を食いながら顧客カードを整理し、家に帰る途中、ふとそんな思いがよぎった。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:56:26.23 ID:DdoVuBQx0
33.
( ・∀・)(僕もちょっと悪かったかな。イライラしてたんだ。

      もし帰ってもまだ、あいつが家にいたらその時は……)


 ……デレは家にいなかった。

すべてそのままだった。いや、ちょっとだけ違う部分もあった。

まず、クローゼットにしまってあった僕の一張羅、背広の変えが全部引っ張り出されてた。

それを御丁寧に全部ハサミでズタボロにして、トイレに突っ込んであった。


(#・∀・)


 僕は一瞬でもデレの評価を変えようとした自分を恥じた。

あいつは正真正銘のクソ女だ。

 どこまで行ってもクソ女ばっかりだ。

チンケな仕事、クソ女、クソ上司、クソみたいなこの家。

クソッタレだ。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 20:58:33.95 ID:DdoVuBQx0
34.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌朝。

 寝不足のまま、僕はVIPストアに向かった。

昨日の夜は掃除にほぼ一晩かかって、全部終わる頃には夜明けも近かったんだ。


(;・∀・)(うう、眠い。しかもドクオをどうやって誤魔化したもんか……)


 気が重い。

朝から酒を飲まずいられないアル中サラリーマンの気分がわかった気がした。

 店に入り、カウンターにアタッシュケースを置く。

通りに面した待合所では、見慣れないスーツの男が二人、腕組みして誰かを待っていた。


(,,゚Д゚)

ミ,,゚Д゚彡

( ・∀・)(本社の人かな。まあいいや)
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:00:44.37 ID:DdoVuBQx0
35.
 僕は顧客カードを取り出し、縁を揃えて整理した。


('A`)「お疲れさん」


奥の給湯室から、コーヒーカップを手にしたドクオがやってくる。


( ・∀・)「ああ。ほら、今週の分」

('A`)「こりゃどうも」


 奴は貧相な顔にめいっぱいしかめっ面を浮かべながら、カードを見て行った。


('A`)「あー、えーとな。一応お前にも弁解の場を与えるのがフェアだと思ってな」

( ・∀・)「弁解って?」

('A`)「ここを告解室だと思えよ。俺は神父だ。懺悔する事があるんじゃないか?」


 嫌な汗がたちまち染み出して来た。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:02:09.60 ID:DdoVuBQx0
36.
(;・∀・)「何言ってんだよ?」

('A`)「クックルの雇い主が電話をかけて来たんだよ。

   やり方が横暴だってんで、一言言っとかなきゃならんとか何とか……」

(;・∀・)「わかった、わかったよ、正直に言うよ」


 もうどうしようもなかった。袋小路だ。

ここは正直に言うしかない。


( ・∀・)「しょうがなかったんだ、生活の為だったんだ」

('A`)「貸しはいくらばかし貯まってる? 俺の見立てでは……」

( ・∀・)「三十三万」

('A`)「いいぞ、正直者は好きだ。金払いが良ければもっと好きになれるんだけどな」

(;・∀・)「なあ、一か月もあれば何とか稼ぐよ! だから……」

('A`)「金さえ払ってくれれば何もなかった事に出来るんだよ。万事解決」

(;・∀・)「僕には友達とかいないし、親戚も連絡つかないし……」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:04:11.47 ID:DdoVuBQx0
37.
( ・∀・)「車は型落ちで自転車よりもマシって程度だ、そもそも車がなかったら仕事にならないよ!」

('A`)「いやあ。三十三万か、重窃盗の金額だよな」

(;・∀・)「カードはもう限度額で……ああ、頼むよ、ドクオ!

     休まずに働くからさ!」


 ドクオはにっこり笑った。


('A`)「金を払えないならお別れだ。刑事さん」

( ・∀・)「刑事?!」

(,,゚Д゚)「さあ、来いゴルァ」

ミ,,゚Д゚彡「手間を取らせるんじゃないぞ」

(;・∀・)(うわっ、こいつら警察だったのか?!)


 なんてこった。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:07:00.29 ID:DdoVuBQx0
38.
僕は犯罪者みたいに―――今はもうそうなんだろうけれど―――手錠をかけられ、覆面パトカーに

押し込められた。


('A`)「まあ、悲観するな。

   人は牢屋にブチ込まれるとヘソクリの在り処を思い出したりするんだ」

(#・∀・)「やめてくれ、ドクオー!!」

(,,゚Д゚)「頭引っ込めろゴルァ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 というわけで、留置所だ。

貧困社会を這いずり回って来た僕だけど、ここに入るのは初めてだった。

鉄格子の付いた小部屋に放り込まれ、最初の一日はずっと頭を抱えていた。


(;・∀・)(ドクオはきっと態度を軟化させるに違いない。だから諦めちゃダメだ。

      そうだ、デレが戻ってきて金を払ってくれるかも……)

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:09:17.55 ID:DdoVuBQx0
39.
 僕はあれこれ考えた。だって、他にやる事なんか何にもない。

きっと何かが起きて、僕は救われる筈なんだ。


(;・∀・)(親戚が死んで遺産が僕に……前に勤めてた会社の未払い給料が……

      どっかの土地の名義が僕になってるとか……

      何かが起こる筈なんだ、このままなんて事があるか!?)


 もちろん、このままだった。何も起こらなかった。

二日目が過ぎ、三日目になると、僕はさかんにトソンの事を思い出すようになって来た。


( ・∀・)(あの娘、今ごろどうしてるだろう。

      僕が助けてくれるのを待ってるのかな……)


 そして、助けは来ない。

ババアは僕を見限り、あの家に来る男たちに次々に……次々にトソンを差し出し……

ここまで考えて、あわてて頭を振った。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:11:21.27 ID:DdoVuBQx0
40.
( ;∀;)(うう、トソン。許してくれ、僕がバカなばっかりに……)


 ビッチとクソ女ばっかりだった僕の人生に、ようやく現れた天使。

あの子だけは他の豚どもとは違ったのに。

かわいそうなトソン、僕は彼女さえ救う事は出来なかった。


(,,゚Д゚)「モララー、出ろゴルァ」


 そこに看守がやって来た。

鉄格子が開かれると、僕は思わず身を壁に押し付けた。


(;・∀・)「待っ……待ってくれ、弁護士を雇う権利がある筈だろ?」

(,,゚Д゚)「いいから出ろ、この部屋は次の予約で一杯なんだ」

(;・∀・)「おっ、お前ら、国民の主権を侵害して……」

(,,゚Д゚)「おーい、誰か来てくれ。こいつはここが気に入ってるらしい」


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:13:33.58 ID:DdoVuBQx0
41.
 僕は数人がかりで引っ張り出された。

やばい、これは最高にやばい。

裁判所へ行くのに弁護士もなし? 間違いなく、何かに巻き込まれている。

殺人事件の犯人にでも仕立て上げられるのか?


(,,゚Д゚)「ったく、手間かけさせやがって! おら、出てけ!」

(;・∀・)「うひい?!」


 そのまま留置所の玄関口から、空き缶みたいに放り出された。


( ・∀・)「……あれ?」


 看守たちは離れた場所から鬱陶しそうな目でこっちを見ているが、それだけだ。


(,,゚Д゚)「何だ? もっかい入りたいのか?」

(;・∀・)「いや、いいや、とんでもない! お世話になりました!」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:15:24.87 ID:DdoVuBQx0
42.
 僕は一目散にその場から飛び出した。

車に乗ってすっ飛ぶように逃げても、まだ何が起きたのか理解出来なかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 しばらく車を走らせてから、適当なバーに入ってとにかく一杯飲んだ。

何かの手違い?

それとも本当に遺産でも入ったのか?


( ・∀・)(どっちにしろ、あの野郎に会ってみないことには)


 すぐにバーを出、店に向かった。

ドクオはパソコンに向かって事務仕事をしている最中で、僕の姿を見ると嬉しそうに席を立った。


('∀`)「やあやあ、良かったなあ! 良かった良かった」

( ・∀・)「あー、ほんとにね」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:17:53.97 ID:DdoVuBQx0
43.
 何のつもりだ、こいつは?


('A`)「ただちに出してくれって頼んだんだけどね」

( ・∀・)「ただちにって、三日がただちか?
 
     僕はそれなりにこの店に誠意を示してきたつもりだぞ。

     そりゃあ多少ちょっとはアレだったけど、でも……」

('A`)「しょうがないだろ。君の奥さんの使いが金持ってきたのが、ほんの一時間前だったんだから」

( ・∀・)「……へ?」

('A`)「ん?」

(;・∀・)「女房が? え、デレが金払ってくれたのか?」

('A`)「何だよ。意外なのか?」

( ・∀・)「ああ、いやいや。あいつ、僕に愛想を尽かしたと思ってたから」

('∀`)「持つべきものは良妻だなあ、ええおい?」

( ・∀・)「まったくだな」


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:19:09.00 ID:DdoVuBQx0
44.
 ちょっとだけ気まずい雰囲気が流れた。

それから結局、向こうから切りだした。


('A`)「で、お前はどうしたいんだ?」

( ・∀・)「どうって?」

('A`)「まあ時間はかかっちまったけど、とにかく例の金はこれでチャラだ。

   明日からまたここで働くのかどうかって事だ」


 そりゃあ、クソ食らえと言ってやりたかったさ。

こんな仕事はクソ食らえだ。

トソンの事がなけりゃ、そう言い切ってたんだが……


( ・∀・)「あんたさえ良ければ」

('A`)「いいだろう。まあ、一日くらい休みをやるよ。ほら、今週の給料を持ってけ」

( ・∀・)「どうも」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:21:18.84 ID:DdoVuBQx0
45.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 家に帰った僕は、ひょっとして女房が帰ってるんじゃないかと期待した。

だがもちろん彼女はおらず、家からはカビと生ゴミの腐臭がしていた。

 とにかく掃除を続けた。

前の晩には終わらなかった分を済ませようと努力した。


( ・∀・)=3「ふぅ、やれやれ」


 夕方頃になると、どうにかこうにかソファの周りだけは片付けた。

座り込み、買って来たインスタント食品を食いつつ、酒を一杯やった。


( ・∀・)(デレの使い? 誰だ?)


 全然わからない。

というか、本当にデレに頼まれたのかどうかすら怪しい。


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:23:33.05 ID:DdoVuBQx0
46.
さかんに首を捻っていると、誰かがドアをノックした。


( ・∀・)(デレかな?)


 玄関に言ってドアを開けると、そこに立っていたのは……

今にもこぼれ落ちそうな涙を目に溜めて、小さな肩を震わせていたのは……


( ・∀・)「トソン!?」

(゚、゚トソン「……おじさん」


 僕の姿を目にした瞬間、彼女の中で何かが途切れたのだろう。

トソンは顔を覆って泣き始めた。


::(ぅ、;トソン::

( ・∀・)「とにかく入ってくれ」

(;、;トソン「うん……」
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:25:15.58 ID:DdoVuBQx0
47.
 椅子に座らせ、冷蔵庫の中を漁ったが、腐ってないものは何一つない。

氷水を注ぐだけが精一杯だった。


( ・∀・)「一体どうしたんだい? こんな遠くまで」

(゚、゚トソン「お使いを頼まれたから……でも、奥さんがいたらどうしようかって、困ってて……」


 多分、長い間家のまわりをウロウロしていたんだろう。


( ・∀・)「いや、女房はもういないんだ」

(゚、゚;トソン「おじさん。あのね、あのね……」


 何だか妙に焦っている。


( ・∀・)「大丈夫、約束は忘れてないよ。きっと助けてあげる」

(゚、゚;トソン「そうじゃないの!」

( ・∀・)「え?」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:27:35.39 ID:DdoVuBQx0
48.
 トソンはポケットに手を入れ、輪ゴムで止めた札束を取り出した。

まったく、眼の玉が二つとも飛び出すかと思ったよ。


(;・∀・)「えぇ!? どうしたの、この金!?」

(゚、゚;トソン「お婆さんのお金を勝手に持ち出して来たの!

      バレたらきっと殺しに来るよ、早く……早く、遠くへ……どこか……」

( ・∀・)「事情を説明してくれよ! ひょっとして金を払ってくれたのって……」

(゚、゚トソン「う、うん」


 話をまとめると、こういう事だった。

トソンは僕がもう一度あの家に、つまり約束を守って助けに来てくれるかどうか不安だった。

そこで危険を承知で僕の店に電話してみる事にしたんだ。

マフラーについてたタグには、VIPストアの僕の勤める支店の電話番号が書いてあったから。


( ・∀・)「ふむ。顧客を装ったのかな」


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:29:19.33 ID:DdoVuBQx0
49.
(゚、゚トソン「ええ。前にマフラーを買ったって言って、その担当の人は今どうしてるかって……」

( ・∀・)「ドクオが僕が今どんな状況にあるか説明してくれた。

      それで奥さんの使いだって言って金を渡して来たと?」

(゚、゚トソン「うん」

( ・∀・)「いや、助かったよ。ありがとう」

(//、//トソン


 人に礼など言われた事がなかったのだろう。

彼女はもじもじした。


(//、//トソン「別に……別に……そんなの……ゴニョゴニョゴニョ」

( ・∀・)「それで最初の質問に戻ってくるわけだけど、そのお金は?」

(゚、゚トソン「お婆さんが地下室に隠してるの。

     ねえおじさん、このお金をあげたら、助けてくれるでしょう?」


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:31:26.34 ID:DdoVuBQx0
50.
 そうか、彼女は不安だったのか。

身一つでは僕の気が変わるかも知れないと思って、それで金を……


( ・∀・)「金なんかいるもんか」

(゚、゚トソン「え?」

( ・∀・)「君に恋したのさ」

(゚、゚トソン


 彼女はあっけに取られていた。

言っておくが、別に僕はロリコンじゃないぞ。

ただ単に僕はいい奴で、それでこれはいい奴なら誰でも持ってる善意ってやつだ。


( ・∀・)「あのババアがねえ。そんな金を……」

(゚、゚;トソン「もう今頃お金を数えてるかも」

( ・∀・)「店が閉まってたから別の店に行ったって言いな」
111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 21:35:14.08 ID:DdoVuBQx0
51.
( ・∀・)「そうすりゃ多少遅れても大丈夫。しかし……うーん」


 あのボロ家に住んでるババアが何故そんな金を?


( ・∀・)「そのお金って、それで全部?」

(゚、゚トソン「ううん、もっとあると思うけど」

( ・∀・)「えっと、いくらくらい?」


 彼女はしばらく顔を伏せ、指折り考えていた。


(゚、゚トソン「五千万はあると思う」





 運命が狂い出す音がした。



中編につづく……

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