あなたが彩る晩餐のようです

中学二年生の夏休み。俺は一つ年下の妹と一緒に田舎のじいちゃんの家に遊びに来ていた。
本当はあまり着たくなかったけど、親父たちが結婚20周年で旅行に行くとかで、夫婦水入らずのお邪魔になる俺達は預けられたわけだ。

じいちゃんの田舎は絵に描いたような田舎でジャスコやコンビニなんて近代的な物は無い。
どこまでも広がる田んぼ。周りを囲む山々。さらさらと流れる小川。
雑木林は鬱蒼と生い茂り、セミの鳴き声はいつまでもやまず。
現代的な都会っ子に言わせれば「何もない」小さな田舎町でしかない。

両親の旅行が終わる数日の間、出来ればずーっと涼しい部屋でダラダラしていたかったんだけど……。
じいちゃんの「子供は外で元気に遊ぶもの」といういたって前時代的な発想で家を追い出されちまった。
妹は学校の宿題でこの田舎の歴史について調べるからと爺さんや近所の人に話を聞くそうだ。

一人でプラプラ歩いていても退屈で仕方ない。暑くてダルい。
どっか涼むのに良い場所は無いかな、なんて田んぼ道を歩いていると、向こうから人影が近づいてくるのが見えた。

段々と近づいてくるとその人は麦わら帽子を被っていて白いワンピースを着ていることが分かった。女の子か。
太陽を反射してきらきらと輝く黒髪。肌は日差しを浴びてまぶしいくらいの白さ。
すぐそばまでその子がやってきた……可愛い! 同い年くらいかな?

川 ゚ -゚)「ドクオ、君……?」

俺の名前を呼ばれた。どこか懐かしい声。
その声を聴いた時、ふっと8年前の夏のことを思い出していた。
その夏も俺はここに遊びに来ていて、そこで一人の女の子に出会ったんだ。

(;'A`)「クー……姉ちゃん?」

追いかけっこをして草原を駆け抜けたこと。静かで涼しい大きな樹の木陰で二人並んで眠ったこと。
底が見えるほど透き通る小川で川魚の釣りをしたこと。深い林の中でセミやカブトムシを捕まえたこと。
録画した映像を早送りで見るかのように次々と脳裏を駆け巡って行く。

クー姉ちゃんは笑いながら大きくなったねと言う。たしかに俺の身長は彼女を追い越していた。
その笑った顔を見ているとあの頃とちっともかわらない、俺の大好きなクー姉ちゃんの笑顔のままだった。

それからしばらく二人で歩きながら、たくさん話をした。
今まで会えなかった時間を埋めていくかのように。

色々と話しているうちに昔の話が話題にあがった。

川*゚ ー゚)「あの時ドクオ君が川に落ちてねー!『うわぁ―溺れるー!!』って。普通に立てるくらいの深さしかない川なのにね!」

(*'A`)、「や、やめてよその話はぁ!」

鏡で見たら真っ赤になっているのがわかりそうなくらい、顔が熱い。
小さい頃の俺はへまばっかりして、いつも助けてもらってたっけ。おかげでクー姉ちゃんには頭が上がらないや。

川 ゚ -゚)「そういえば……あの約束、覚えてる?」

約束……そう約束だ。俺たちはあの日約束を交わした。あの日は空にでっかい入道雲が出ていたっけ。
俺とクー姉ちゃんが二人で見つけた、山の奥にある秘密の洞窟。二人の秘密基地だった。そこで交わした約束。

      「ねえドクオ君……大きくなったら私と結婚してくれる?」

             「うん! おおきくなったらぜったいむかえにくる! だからまってて!」

その時にクー姉ちゃんが誓いの儀式だと言ってしてくれたキスが俺のファーストキスだった。
クー姉ちゃんは覚えていてくれたのか。そしてそれを忘れていた自分にちょっと罪悪感。

川*゚ -゚)「私の気持ちは今でも変わらないよ」

何でもないことのように笑いながら言うクー姉ちゃん。忘れていたことを取り返すなら、きちんと約束を果たさなきゃいけない。

('A`)「あと10年……いや5年待ってくれ! いっぱい勉強して、良い会社に入って! 絶対楽させるから!」

川*゚ ー゚)「……うん。じゃあ改めて誓いの儀式をしよう。二人だけの秘密の場所で」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじいちゃん! そういえばこの村に伝わる伝説とかって無いの?」

/ ,' 3「伝説? うーん、そうじゃな……おっ、そういえば”くうるさん”があったわい」

ζ(゚‐゚*ζ「くうるさん? それどんな伝説?」

/ ,' 3「くうるさんはな、昔からこの村の界隈に住んでいると言われている、それはそれは美しい女子(おなご)の姿をした妖怪でなぁ。
    気に入った男を見つけると自分の婿にしてしまうんじゃ。その結婚の日は大体夏なんじゃが、すごく寒くなるそうじゃよ」

ζ(゚ー゚*ζ「えーそうなんだ。なんか面白い妖怪だね! お婿さんになった人はどうなるの?」

/ ,' 3「さぁ、ようわからんのじゃ。ただ帰ってきたという話は聞かんのう。たしか最後に婿入りした人が出たのは100年前とかなんとか……眉唾じゃがの」

ζ(>o<*ζ「そうなんだ、なんかちょっと怖いかも」

/ ,' 3「さて、今日はこんなもんにしておくかの。そろそろ晩飯の支度をせにゃならん。デレも手伝っておくれ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「はーい! それにしても今夜はなんだか冷えるね。お兄ちゃん遅いけど大丈夫かなぁ」

/ ,' 3「なーに、腹が減ればひょっこり顔を出すじゃろうて! カカッ」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


薄暗く湿った洞窟にたたずむ少女。足元には血まみれの少年が横たわっている。

川  - )「腹が減りすぎて久々に村に顔を出してみれば、昔粉をかけたぼうやが歩いているなんてなんたる僥倖だろうか」

川 ゚ 々゚)「ふふっ、100年ぶりの食事だ。思う存分味あわせてもらうよ? だ・ん・な・さ・ま」                      〜fin〜

 

戻る

inserted by FC2 system