( ・∀・)「あなたにとっての『夏』とは何ですか?

('A`)「そりゃーおめェ、コレだよコレ」

首にタオルを掛けた土木業の男はそう言いつつ、足元の発泡スチロールをしゃくれ顎で指し示す。彼は陽の朱色に染まる汗を拭いながらしゃがみこみ、しゃくれ顎に導かれた『夏』の在処を私に見せてくれた。

( 'A`)つ[]「どうだ?おめェさんも一本、ほれ」

外気の暑さに汗ばむその『夏』は、彼の手の中で薄い霧を纏っており、なるほど確かに人の誘惑になり得るものだった。
私が下戸であることを理由にその誘いを断ると、彼は首を振りながらまるでダチョウの様な声を発した。

('A`)「おめェは人生の八割を損してる!」

私が人並みに生きたとして、その内の数十年を損だと言い張った彼に対して、いや勿論、この体質が変わるのならば味わってみたいものなのですが、と反論する私であったが、彼の振り子は縦には触れない様だった。

('A`)「んまあ、とにかくよ。暑い中での作業の後のコイツは、癒しなんだよ、癒し。俺達にとってはよ」

彼の指に掛かったプルタブが表面のアルミを下に追いやると同時に、外界を待ちわびたかのように数多もの白い泡沫が溢れる。
カシュッという爽快な音は彼の頬を歪ませ、やがて缶の内容物は喉から始まる筒の中へと誘い込まれる。
彼の喉仏の鼓動は、あたかも下戸の私に飲酒を強要させている様に見紛うほど大きく動き、五臓六腑へとその旨味を届けているように見えた。
再びダチョウの声が辺りに響く。

('A`)つ[]「あちぃ中で仕事が出来るのは、偏にコイツのおかげなのよ」

こんな暑い中だ、それは作業も酷な事だろう。しかしこの解放感を味わうには、その夏の暑さもまた必須。奇妙な関係性の上に、彼の喜びは生み出されているのだ。
体中で幸福感を味わった後、彼はこう言い閉めた。

('A`)「特にだ、この時期はキリンが一番なんだよ」



(*゚ー゚)「そうですね…これは本当に個人的なことになっちゃうんですけど」

白肌の上に清楚な服を纏う21,2歳くらいと思しき女性。麦藁帽がこんなにも似合う女性がいるものかと、少々感心するような出で立ちだ。

(*゚ー゚)「私、今三歳になる娘がいるんですけど、娘が産まれたのがちょうどこの時期の夏だったんですね」

三歳の娘さん、それにしてはお若く見えますが。内心ぎょっとしてそう聞き返すと、いたずらっぽく彼女は笑う。

(*゚ー゚)「よく若いって言われるんですけどね、もう29なんですよ?もう少しで三十路のおばさんです」

その発言に驚愕する私を横目に、微笑みながら『夏』について語り始める彼女。慣れっ子と言わんばかりの対応である。

(*゚ー゚)「娘が産まれるほんの少し前にですね、夢を見たんですよ。もう連日暑くって、身重のストレスも相まって家でぐったりしていたんですけど、いつの間にか寝てしまって。そしたら夢のなかで私が娘を呼んでるんですよね」

娘さんが、ではないんですね。私の相槌に、そうなんですよ、と彼女は答える。

(*゚ー゚)「夢のなかで私は、霧のように白くて丸い何かに、『なつめ、なつめ』と呼び掛けていたんです。その何かは返事をすることはなかったんですが、それでも呼ぶことに対して何だか嬉しい気持ちを抱いていたんです」

それが娘なのではと思ったのは、その夢が醒めてからだ、と彼女は説明した。もしかしたら娘は『なつめ』と呼んでほしいのでは、と思ったのだという。
なんとも温もりを感じる話ではないか。そう感じずにはいられなかった。

(*^ー^)「『なつめ』って植物知ってます?この名前の由来を調べてみたら、夏に芽を出すからってことらしくて、夏に産まれる私のこどもにぴったしだと思って。だから、ああ、やっぱりそうなんだな!ってすごく感動しちゃって!
いい名前が思い浮かばなくて夫と頭を捻る毎日だったのですが、それを見かねて夢に出てきちゃったんですかね」

自分の名前を決めてしまうとは、産まれる前から有望さに満ち溢れていますね、と私が言うと、彼女はフフッと笑いながら「自慢の娘です」と返してきた。

(*゚ー゚)「棗の実は食用や漢方に使われるんですが、いつか娘も人を助ける実を実らせてほしいな、という願いも込めています。『夏』と言えば我が子なんです」

ちょっと親バカですかね?と笑う彼女の姿は、まさしく母親そのものであった。



(;^ω^)「え、何かいきなり聞かれると答えに困るおね…みんなはどうだお?」

やれ夏休みだ、やれプールだ、やれスイカだ。歩道の傍ら、私の問いに対して我先と意見を投げ付ける中学生の一行。え、「夏の決心」?ずいぶんと懐かしい曲だ。
収拾が付きそうにないので、ひとつにまとめてもらうことにした。

( ^ω^)「うーん、一つとは難しいおね…。ガリガリ君?えー、ありきたりすぎだと思うお。いや、だからこそだって言っても、こういうのには個性的な要素が必要なんだお!例えば…、例えば……やっぱ何でもないお」

私を蚊帳の外に追い出して、一行の議論はあーだこーだと続いていく。このまま炎天下の中で硬直状態が続くとも思われたが、一行の一人が終止符となるとある台詞を述べた。
他の者は総員一致で「きめぇ」の一言であったが、それでも彼らにはしっくりきたようで。

( ^ω^)「確かに夏はいつも一緒に馬鹿やってたおねー。ほら、ビロードのハゲ鬼ぶちギレ事件とか。あ、すみませんもう言わないんで告白の事は触れないでください」

これぞ内輪ネタだ、という話のオンパレード。私の孤独感が更に増すばかりだが、昔の自分を見ているような微笑ましい光景だった。
一行はひたすら馬鹿話で盛り上がった後、記念に一枚撮ろうという結論に行き着いたらしい。あれ、私の立場とは一体なんだったのだろう。
…まあいいか、レンズ越しに見える彼らの顔を見ると、こっちまで幸せになってくるし。
私の掛け声とともに、彼らはポーズを取る。
君たちにとっての夏はー?

v( ^ω^ )v「「「「友情の季節ー!!!」」」」

カシャリ



夏という季節には、他の季節とは違う特別な何かを感じてならない。
それは学校の夏休みから生まれるものなのか、それとも気候か、それとも文化か。もしくは気のせいなのか。裏付けなんて何も持っていないが、それでも特別と感じてしまうのだ。
単なる好き嫌いではない。夏は時に幸福であり、時に苦痛だ。そしてそれは、いかなるものであっても大切な思い出へと昇華するものだと私は思う。
大会での敗北を嘆く者がいれば、夏季旅行を懐かしむ者もいる。原爆を想起し平和を願う者もいれば、稼ぎ時だと励む者もいる。人それぞれ、思い様々である。
ただの考えすぎなどと言われればそれまでだが、それでも私はこれらを聞いて思う。夏には人の歴史が刻まれやすい、と。
人と会うために、今を見るために、思いを知るために、夏を感じるために。
だから私は懲りずに、またこう聞くのだ。

( ・∀・)「あなたにとっての『夏』とは何ですか?」

そうそう、ブーン芸VIPにお越しのあなたです。答えはなんでもよいのです、一言なにか考えてみませんか?
ついでに一票を入れていただけたりなんかしちゃったり…ってああ、待ってください、票は冗談ですから行かないで!

〜終わり〜

 

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