星が叶える願い事のようです
こんな夜遅くに出かけたのに、これといった理由はない。
枕が違うと眠れなくなる人がいるというけれど、それと似たようなものだ。今、僕は夏休みを利用して祖父母の田舎に泊まっている。
いつもと違う環境。それが落ち着かなくて、気分転換になんとなく散歩に出てみただけだった。
たったそれだけ。それだけなのに――
从 ゚―从「いっそのことこっから落ちて死んじゃえば、楽になれるんですかねぇ……」
(;^ω^)「いやぁ、そうとも限らないんじゃないかお?」
――なーんでこんな重い相談を受ける羽目になってるのかな? かな?
从 ゚―从「はぁ……そうですよねぇ、やっぱり……でも……はうぅ……」
僕の隣、雑草の上に体育座りで縮こまりながらため息をつくのは和服の女の子だ。
暗くてよくは見えないけれど、耳元で切られた髪は微妙に外はねしていてかわいらしい。
まんまるな目に始まる幼い顔立ちは、落ち込んでいながらも豊かに動く。
ずっと見つめているのも少々照れるので、僕は一旦少女から目を離し正面に目をやった。
散歩といっても、辺りは暗い。迷子になる危険もあるのでそう遠くにもいけず、結局来たのは昼間にも行った高台だった。
昼間はここから小さな村が見渡せたのだが、今はそれも闇の中。代わりに澄んだ空気の果てに、きらびやかな星々が見える。
もう一度、少女に目を向ける。いつの間にか少女も星を眺めていた。その横顔はやはりどこか物憂げで、とても寂しそうだった。
( ^ω^)「あの……いまさらだけど、君はいったいどうして悩んでるんだお?」
从;゚―从「あ、あれ? 言いませんでしたっけ?」
( ^ω^)「だおだお。会っていきなり『わたし、死んだほうがいいんでしょうか?』だからびっくりしたお」
少女はえへへ、と恥ずかしそうに笑うと、一言謝ってから告げる。
从 ゚―从「簡単にいうと遠距離恋愛……ですかね。好きな人がずっと遠くにいて、滅多に会えないんです。それが辛くて、もう嫌になっちゃって」
( ^ω^)「それで死のうと?」
从 ゚―从「自分でもバカみたいと思いますけどね。でも、本当に……一生このままならいっそ消えてしまいたい……」
少女は本気だった。僕からしたら、そんなのいのちをだいじにとしか言いようがない。
けれど、僕は身も焦がれるほどの恋なんてしたことがない。きっと、少女にとっては切実なのだろう。
( ^ω^)「でも、大袈裟に言っても一生ってことはないんじゃないかお? 将来は一緒にすむこともできるだろうし、なんならいっそ結婚しちゃえばいいお」
从;゚―从「うぅ……それが出来たらこんなに困ってないですよぅ」
ということは、この娘はそれもできそうにない状況下にいるということだろうか。
となるともしや、慕う相手は既に……とか。だったら迂闊な返事はできないな。
僕がどう答えるべきか悩んでいると、少女はふと星空を見上げて言った。
从 ゚―从「……織姫って、七夕以外は何をしてると思いますか?」
少女が言って、それが織姫と彦星のことだと気づいたのは数秒後のこと。なるほど、確かにあの二人なら遠距離恋愛の大先輩と言えなくもない。
( ^ω^)「そりゃあ、織姫といえど一年中彦星のことだけ考えてるってわけでもないだろうし、結構女の子楽しんでたりするんじゃないかお?」
从 ゚―从「むぅ……それは少しはそうかもしれませんけど」
ああ、なんだか少女がむくれてしまった。相変わらず空気の読めない僕。こういうときに気遣いが出来ないからいつまでたっても彼女ができないんだろうなぁ。
仕方がないので無い頭を絞って、なんとかそれっぽい答えを捻り出してみる。唸れ僕のエロゲ語録!
( ^ω^)「今のは冗談で……きっと、橋をかけるために頑張ってるんじゃないかお?」
从 ゚―从「橋…ですか? でも天の川には橋はかけられませんよ?」
( ^ω^)「おっ、そういえば……でも、織姫には時間がいっぱいあるお。彦星と協力すればいつかできるかもしれないお?」
从 ゚―从「でも……」
( ^ω^)「それに今は技術も進歩してるお。今なら昔神様が考えもしなかった方法で橋がかけられるかもしれないお!」
从 ゚―从「…………ふふ、たしかにそうかもしれませんね」
半分冗談だったけれど、上手くいったのだろうか。少女はにこりと微笑んでくれた。
と、思うと突然立ち上がり、
从 ゚―从「相談に乗ってくれてありがとうございます。ちょっと気分が晴れました。やっぱり、やる前から諦めるのはよくないですよね」
( ^ω^)「おっおっおっ。そうだお。それじゃ、もう死にたいなんて言わないほうがいいお?」
从 ゚―从「はい。……とは言ってもわたし、ここから落ちたくらいじゃ死ねないんですけどね」
( ^ω^)「お? それって……」
少女は高台の縁に立って、風を受けるように両手を広げ――
从 ゚∀从「わたしはそろそろ帰ります。お礼もしたいですし、来年の七夕はしっかり短冊書いておいてくださいね?」
――そのまま後ろに倒れ込み崖の上から落下した。
僕は慌てて崖下を覗き込む。けれども少女の姿は綺麗さっぱり消えていて、何かが地面に落ちる音もいつまでたっても聞こえなかった。
それから約一年後、天の川に橋がかかったというニュースはまだ聞いていない。けれどももしかしたら、近いうちに聞くことになるかもしれない。
『織姫が彦星といつでも会えるようになりますように』
そう書いた短冊を笹につるしながら、僕はそんなことを考えた。