夏の青のようです

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(;゚∀゚)φ「暑いっすねー」

( ・∀・)「だねぇ」

 夏真っ盛りの昼間、畳の上に座る男が二人。
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(;゚∀゚)φ「どうにかならないものなんですかねー、この暑さは」

( ・∀・)「さぁ?」

 汗を滴らせて暑さを嘆くジョルジュに、叔父のモララーは、やや投げやりな返事で返した。蝉時雨を背に、涼しい顔をしたまま水風船を弄んでいる。

( ・∀・)「ところでさっきから何やってるの?」
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(;゚∀゚)φ「夏休みの宿題ですよ。高校三年になってまで読書感想文なんて書かせますかね? 普通」

( ・∀・)「懐かしいなー……中学の時はやったけど、高校ではやらなかったなあ。何て本?」
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(;゚∀゚)φ「そっすか……あ、『終わらない夏』って小説です。小学生の主人公が扇風機をつけっぱなしにして遊びに行ったら……」

 纏わりつく熱気に苛まれながらも、ジョルジュは手と口を休めない。
 首を振る扇風機と、ときおり網戸から入り込む風、そしてそれに合わせてちりん、ちりんと鳴る風鈴だけが、この部屋に僅かな清涼感をもたらしている。

 節電の為に冷房は消されており、扇風機は一台のみで、それも首を振っている為、暑さと涼しさが交互にやってくる。
 とても快適とは言えない部屋。日光が直接当たらないのが幸いだろう。

 本来ならまだ冷房が付いている部屋に移るのだが、二人がこの部屋にいるのには、理由がある。

 窓辺にぶら下がり、風と共に透明な音を奏でる風鈴。
 庭に植えられた、太陽の如く咲き誇る一輪の向日葵。
 青々しい空の下に広がる緑一色の田園風景と、その中央を走る畦道――二人が思う『夏の情景』が、そのまま存在していたからだ。


( ・∀・)「やっぱりこの部屋から見える景色は良いな」

 丁度ジョルジュが小説のあらすじを喋り終えた時、モララーが水風船を畳に置いて呟いた。
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(;゚∀゚)φ「俺もそう思います……モララーさんが子供の頃からこんな景色だったんですか?」

( ・∀・)「ああ、大人になってからも殆ど変わらない」
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(∩゚∀゚)φ「大人かー」

 騒がしい蝉の声を聞きながら、ジョルジュはタオルで汗を拭き取る。
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( ゚∀゚)φ「大人になったら色々忘れそうで、何か怖いなー」

( ・∀・)「忘れそう?」

 大人現役のモララーが手でラムネ瓶を揺らすと、中のビー玉がカラカラと涼しげな音を立てた。
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( ゚∀゚)「日々の仕事に追われて中々会えなくなったり、馬鹿騒ぎ出来なくなったり、童心忘れちゃったりするかも知れないじゃないですか……
     だから、この夏休みがずーーっと、永遠に続かないかなって思うんですよ。
     今日だって本当なら、友達と海で精いっぱい遊ぶ予定だったんですけど、何か……そんな気分にもなれなくて。
     家でじっとしていれば、このまま夏休みが終わらないんじゃないかって。俺、夏が大好きですから」

 ジョルジュにとって、『夏』という言葉が縁取った景色は、何よりも色鮮やかに見えていた。 
 真上に広がる青空は、いつまでも続くと思っていた。

 しかし現実は違う。いつまでも子供ではいられないように、空の青もいつかは薄れ、茜色に移り変わってゆくのだ。


( ・∀・)「俺は逆だったな。学生の時は、早く社会人になりたいと思ってたよ。社会人の方が自由があるからって、思い込んでな。
      まあその時は何も思わなかったけど。今になって、後悔してる」
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( ゚∀゚)「後悔?」

( ・∀・)「『やっておけば良かった』ってね。学生生活は、過ぎてしまったらもう二度と届かないものだって事を、その時は心の片隅でさえ思ってなかったんだよ」

 二度と手に入らないからこその、大人だからこその、後悔。
 先ばかり見ていたが故に、蔑ろにしてしまった『今』。

( ・∀・)「だから、俺はジョルジュがとてつもなく羨ましかった。終わりを迎えたくないってのも、今なら分かる。でも、でもだ。
      時間は止まってくれない。置き去りにしてはくれないんだよ、絶対に。だから、『やりたい事』は精いっぱいやるべきだ。
      ……いや、『これだけはやらなきゃいけない』事を一つ見つけて実行すべきだな。今の俺はそう思う」

 『出来なければ必ず後悔する』、『今にしかできない事』。
 それは人によって様々だろう。そして思い立った時、もし実行出来なかったら、という不安も湧き出てくるかも知れない。
 だが。

( ・∀・)「飛び出してしまえばいいんだよ。後は集中すればいい。足踏みする事は全く無駄じゃないけど、時間がもったいないだろ」
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( ゚∀゚)「……モララーさんがそんな事言うとは、ちょっと意外でした」

( ・∀・)「昨日、夏祭りに行っただろ。そこで、なんとなく子供の頃と同じような感覚になったからねぇ……そう思うようになったんだよ」
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( ゚∀゚)「そーっすか…………」

 ペンを投げ捨て、両手を広げて仰向けになるジョルジュ。だがしばらくすると飛び起き、そそくさと服を着替え始めた。
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( ゚∀゚)ノ「よしっ! ちょっと海に行ってきます! 夏休みはまだあるし、読書感想文は明日でも書けますしね! んじゃ!」

( ・∀・)「あー、やるべきだとは言ったけどな、人に迷惑はかけるなよ……行っちまった」

 夏はまだまだ終わらない。庭に降り、突き刺すような日差しを浴びながらモララーは思う。

( ・∀・)「さーて、俺は何をしようかな……久し振りにかき氷でも作ろうかな」

 外にいるモララーには、高く、遠く広がる空が、何故かいつもより青々しく見えた。部屋の中の扇風機は、まだ羽根を回し続けている。          <夏の青のようです・了>

 

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