('A`)御彼岸レクイエムのようです
生き抜くには、ただ、向かい風が強すぎて。
俺達は、未だ、背後に迫る死への憧れを未だ拭えずにいた。
――――午前2時。真夜中。薄暗いビルの中。
蝉の羽音と常夏の気だるい湿気が街を包みこむ。
ここは景気が良い頃に成金が立てたホテルだ。
多角経営に精を出していた成金は不況後に破産。
方々に恨みを買い、助けるものは誰もいなかったという。
件の成金は3年前に首を括った。ホテルは建築途中で放置されたままだ。
その一室で二人の男が腰を下ろしている。
一人は床に、もう一人はベッドに。二人は顔を合わさず空を見上げていた。
('A`)「死にに行くのか?」
( ^ω^)「そうでもないお」
かと言って、勝算があるわけでもない。奴は抜け目が無い。
隙を見せた者を喰らい尽くして奴はこの街で登り詰めた。俺達二人は、それを身を持って知っている。
繁華街の灯りを受け空は金色に染まっていた。金の色――この街と奴に似つかわしい色だ。
燻らせたラッキーストライクが指先に熱を伝える。
最後にもう一度口へと運び、ゆっくりと肺に紫煙を送り込んだ。
('A`)「投げ捨ては止してくれ。一応ここは俺の親父の墓だ」
( ^ω^)「ふん、感傷かお?穢い仕事ばかり押し付けるお前がガラにもない」
('A`)
( ^ω^)
体制に阿った奴とは思えない激しい怒気と鋭い眼光。
それだけのものを持って何故、惜しむのか――――
( ^ω^)「……ふん、まあいいお」
差し出された携帯灰皿に煙草を押し付ける。
奴は生を選び、俺は破滅を選んだ。奴が家族を背負った時から解っていた事だ。
( ^ω^)「どちらにせよ俺は行く。あの糞野郎の顔面に
3つ目の鼻の穴を空けてやらなきゃ気が済まねえお」
('A`)「ふっ……、違いねえな」
( ^ω^)「ふふ」
二人向かい合い笑い、拳を合わせた。昔からの仕事前の儀式だ。
笑い声の最後で、何か呟きが聞こえた。顔を見ると許しを請う罪人のような表情だった。
('A`)「ブーン、やっぱり俺も――」
"ヽ( ^ω)「灰皿の中身は気軽に捨てるなお。そりゃ俺の遺品になるかもしれん」
最後の軽口を残して部屋を出る。後ろは振り返らない。
世間との最後の縁が吸。ゴミのような人生を歩んできた男にとって、
別れの挨拶はこのくらいが丁度いい。丁度いいのだが――
( A )「今どき七日蝉なんて流行らねえぞ、糞ったれが……」
気付けば蝉の羽音は止み、呟きだけがそっと耳の奥に木霊していた。
――朝7時半。
朝日に目を細めて濃い目の珈琲を流し込んだ。昨晩のことを思い出し、苦みが脳裏と喉に染み入る。
焼けた喉にはオレンジの果汁を放り込み、トーストの上でバターが溶けるのを待つ。
('A`)
プライドは、捨てた。たった一人の友も見捨てた。前を向くためには背後を振り向いていられない。
背後に迫る誘惑を振り切り、向かい風を切り抜けねばならない。
だが果たして、前を向く意味が、価値が、存在するのだろうか。
悩み続ける俺にもたらされるのは、いつも、選択した後の後悔だけだ。
答えを知りたくて、守ったもの――家族らの会話に耳を傾ける。
ミセ#゚Д゚)リ「昨夜のニュース特番見た?市長室立て籠もりのヤツ!あのせいでドラマ
中止になったんだよ?どうせ死ぬなら他所で勝手にやってくれって感じ!」
_
( ゚∀゚)「アラブで自爆テロとかなwwww」
('A`)「意見を違えるのは構わない。選好みや主張も好きにすれば良い。
だが、信念を持つ者を笑う事だけはやめておけ。お前らの人生の価値が下がる」
_
(;゚∀゚)「……は?久々に口聞いたと思ったら何言ってんだ親父?」
('A`)「それだけだ。行って来る」
やはり、選択の後には後悔しか残らない。身を包む湿気は、昨夜の、あのビルのもののままだ。
敵討ちはガラじゃあない。だが、せめて――
('A`)「待ってろよ、相棒」
盆前に済ませてやろうと思い、ベレッタを鞄に詰め込んで家を出た。