153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:10:26.49 ID:1w3iwjtg0







  _
( ゚∀゚)「なあ、お前今何やってんの」

( ・∀・)「んあ、何?」
  _
( ;゚∀゚)「だから……」

( ・∀・)「煙草持ってない?」
  _
( ゚∀゚)「持ってっけど、メンソールだぞ」

( ・∀・)「ハイライトだろ。よこせよ」
  _
( ゚∀゚)「ほらよ」

( ・∀・)「サンキュ」

ポケットをあさり始めたモララーに、ジョルジュはオイルライターをかざす。
それに小さな火が灯った時、二人は無言で顔を寄せ合い、煙草に火をつけた。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:12:45.92 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「フゥ―――」
  _
( ゚∀゚)「はあ……」

( ・∀・)「一昨日までフリーターやってた。今無職」
  _
( ゚∀゚)「嘘だろ?」

( ・∀・)「マジ」
  _
( ゚∀゚)「お前結構いい高校いってたじゃん」

( ・∀・)「いってたな」
  _
( ゚∀゚)「大学にいったかと思ってたぜ」

( ・∀・)「冗談。勉強は女の次に嫌いだ」

煙草をくわえながら、二人は笑いあった。
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:14:43.79 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「お前は?」
  _
( ゚∀゚)「あー、粘土とか練ってる」

( ・∀・)「あー、はいはい」
  _
( ゚∀゚)「もうクビかもしれねえけどな。今サボってここ来てるから」

( ・∀・)「ちゃんと働けよ社会のクズ」
  _
( ゚∀゚)「クズにクズって言われたくねーよクズ」

( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:17:46.66 ID:1w3iwjtg0

中学校の頃、彼らはよく大人から言われていた。
お前はクズだ。どうしようも無い、と。

彼らは気にもとめなかった言葉なのに、今は心に染みるようになっている。

( ・∀・)「なあ」
  _
( ゚∀゚)「……あ?」

( ・∀・)「あー、いや、やっぱいいわ」
  _
( ゚∀゚)「何だよ」

( ・∀・)「いいって」
  _
( ゚∀゚)「言えって。気になるだろ」

( ・∀・)「……結婚式があるって話が来たんだが」
  _
( ;゚∀゚)「あ、ああ。そんで?」
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:19:55.57 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「お前も来ただろ?」
  _
( ゚∀゚)「……来た」

( ・∀・)「行く?」
  _
( ゚∀゚)「お前は?」

( ・∀・)
  _
( ゚∀゚)


数瞬の沈黙のあと、二人は盛大に吹き出す。


( *・∀・)「く……ぷははは! いかねーよなあ!?」
  _
( *゚∀゚)「いくわけねーだろうが! ていうか、いけねーっつーの!」

( ・∀・)「ああ」
  _
( ゚∀゚)「……誘われた理由自体わかんねーし」

( ・∀・)「俺もだ」

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:21:35.87 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「お前さー、夢とかあった?」
  _
( ゚∀゚)「は?」

( ・∀・)「夢。将来の夢」
  _
( ゚∀゚)「あれだよあれ。宇宙飛行士」

( ・∀・)「ちっ」
  _
( ゚∀゚)「……ねえよそんなもん。お前は」

( ・∀・)「あるわけねーじゃん」
  _
( ゚∀゚)「だろうな」


167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:25:03.99 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「高校に行ったのだって、可愛い女とヤりたかったからだしな」
  _
( ;゚∀゚)「お前そんな理由で勉強してたのか!?」

( ・∀・)「そうだよ」
  _
( ゚∀゚)「お前って天才的な馬鹿だな」

( ・∀・)「ありがとよ」


二人の煙草から出る紫煙が、星空と混ざって消えていく。
永遠に続くかのように、ゆったりと時間が流れた。


( ・∀・)「何が駄目だったんだろうな」
  _
( ゚∀゚)「は? 何の事だよ」

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:27:16.19 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「今の生活に満足してるのか?」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「こんなはずじゃなかったんだよ。未来の俺は、今の俺じゃ無かった」
  _
( ゚∀゚)「それって哲学的な話か?」

( ・∀・)「そうかもしれねえな」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ俺にはわかんねえ。あーでも……」

( ・∀・)「でも?」
  _
( ゚∀゚)「……元々、未来なんて無かったんじゃねえの?」

( ・∀・)「……」
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:30:31.58 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「哲学だ」
  _
( ゚∀゚)「お、おお。そうだよ。哲学だよ」

( ・∀・)「どういう意味だよそれって」
  _
( ;゚∀゚)「いや、俺にもよくわかんねえんだけどさ。
     大人になってよ、やっぱ上下関係とか知ってよ、現実を知る訳じゃん」

( ・∀・)「ああ」
  _
( ゚∀゚)「そんで……あの時、俺らがチューボーだった頃はさ、現実なんて何も見えて無かったんだよ」

( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「あの時俺らがいたのは、別世界で、こっちが本物の世界だから……」
  _
( ;゚∀゚)「やっぱよくわかんねえや。あとは頼む」

( ・∀・)「頼まれてもなあ……」

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:33:02.36 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「でも」

モララーは立ち上がり、煙草を靴の裏で踏み消した。

( ・∀・)「例えあの頃が夢だったとしても、俺はもう一度夢が見たい」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「それは現実が見えて無いって事か?」
  _
( ゚∀゚)「わかんねえ。けど、たぶん、そうだな……」


ジョルジュも立ち上がった。
視界一杯に広がっていた星空が、途端に狭くなる。

  _
( ゚∀゚)「現実から逃げてるのが、俺たちなんだろ」
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:36:09.38 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)
  _
( ゚∀゚)

( ・∀・)
  _
( ゚∀゚)

( ・∀・)「だな」
  _
( ゚∀゚)「おう」

短い会話のあと、二人は歩き出した。
全てをゼロに還す事は不可能だ。
時間を戻すのは誰にも出来ない事なのだから。

( ・∀・)「ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「何だよ」

( ・∀・)「やっぱ俺さ……」
  _
( ゚∀゚)「……」


それでも、止まった時計の針を動かすのは、出来るはずなのだ。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:40:09.80 ID:1w3iwjtg0







(-_-)

カタカタ。カタカタ。


青白い顔を、青白い液晶モニタの光に照らし、今日も彼は電子の世界にいた。
現実に居場所が無い彼は、ここでしか息継ぎが出来ないのだ。

(-_-)

カタカタ。カタカタ。


言葉が喋れなくなってから、既に三年が経った。
無理矢理医者につれられ、薬を処方されても、治るものでは無かった。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:42:32.87 ID:1w3iwjtg0

誰かと喋る事など無いのだから、不都合は無かった。
むしろ、現実から逃げる手立てとして、言葉を発しない事は役に立ったと言える。



カタカタ。カタカタ。


「ヒッキー……」


カタカタ。カタカタ。


キーボードの音に、母親の声が混じる。
それは現実という虚像の音だ。
彼は今、電子の世界の戦士なのだから。


「電話が来てるわ」


カタカタ。カタカタ。


194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:44:00.79 ID:1w3iwjtg0

カタカタ。カタカタ。


「ブーンさんじゃないみたい。えっと……すみません、どなたでしたっけ?」


カタカタ。カタカタ。




「ジョルジュさん?」



(-_-)「!」



虚像と実像の境界が揺らいだ。
涙が出そうになるほど、懐かしい名前だった。

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:47:40.72 ID:1w3iwjtg0

「えっと……伝言、ですか」



(-_-)



カタ……カタ……。



「あの、それだけでいいんですか?」



(-_-)



カタ……。


201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:49:14.17 ID:1w3iwjtg0

「ヒッキー。聞こえてる?」



(-_-)



「ジョルジュさんから伝言よ。えっと……」




「“シドヴィシャスはまだ死んでない”って……」



(-_-)「―――!」

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:53:04.22 ID:1w3iwjtg0

伝説のパンクロッカー、シドヴィシャス。
ヤク中で死んだクソ野郎共のアイドルだ。


(-_-)


ヒッキーの貧相な体つきや、痩けた頬。
そして鼻をすする仕草から、モララーが彼に言っていた言葉。


お前はシドヴィシャスだ。
イカれて死んだクソの中のクソだ。
お前はもう死体なんだよヒッキー。
死体は死体らしくしてろ。
そうだ、ちょっと煙草買ってこいよ―――。




(-_-)


“シドヴィシャスはまだ死んでない”


(-_-)(僕は……生きてる……?)

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/02(火) 03:55:54.14 ID:1w3iwjtg0

「ジョルジュさん……ジョルジュさん? あら、切られちゃった……」



(-_-)



(-_-)「ズズ……」



モニタの中では、剣を持ち、依然勇敢に戦うヒッキーがいる。


(-_-)「ズズズズズ……」


モニタの前に座っているのは、引きこもりで言葉すら喋れない、シドヴィシャスのなれの果てだ。
それでも、この世界に息づいていた、確かな命でもあった。


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