- 5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:25:12.88 ID:iay4dYwq0
- 第六レース「空虚な決意」
内藤の心は早くも定まっていた、競輪という世界に。
だからこそ今、こうして電車を乗り継いで実家へと帰省しているのだ。
大学を辞め、競輪学校へ入学するという意思を持ってして、母親を説き伏せるために。
もっとも、内藤が競輪を目指す本当の理由は実にあっけないものだった。
毒男の話を聞いて、すぐにも思ったことが、どうして今までは見返りすらない無意味で自己満足なものへ
あれほど体を酷使して人生をつぎ込んでいたのだろうか、自分の生きてきた道に対して疑問が出たのだ。
結果が、走れなくなった途端に自分の周りに何一つと残っていない、虚空だった。
競輪を聞いた時、プロという言葉に心動かされたのも事実だが、何よりも「お金」が残るという衝撃が大きかった。
現金な人間だろう、しかしお金という理由は何よりも分かりやすく明確な説得力がある。
そう、恋人や自分の居場所などという不安定なものでない、確実なものだったのだ。
それに酷く心動かされた。
別にお金が副産物といえばそれまでだ、何かに躍起に頑張り続けることしかできない内藤には、競輪学校という地獄でさえやりがいある世界に映った。
今まで見返りなくして頑張れたのだ、だったらお金をもらえるなら、しかも学校での一年という期限のある練習であればいくらでも体を酷使してやろうではないか。
別に競輪というギャンブルを見る目が良くなったというわけではない。
ただ、何もなくなった内藤だ、そんな闇に自分を浸けてもいいのではないか、いっそ泥だらけになったほうがより頑張れるのではと感じたのだ。
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:27:10.25 ID:iay4dYwq0
- 陸上という世界では、大学対抗などあり、常に大学が一心同体となって動く。
試合で戦うのは自分ひとりだというのに、だ。
いい記録を出してもすべて体裁上はチームやコーチのお陰なのだ。
チームのために記録を出さないといけないのだ。
誰かがいい記録を出せば、望んでいなくともチーム丸ごと喜ばなくてはならないのだ。
練習は常に一人で、自分に付いて来れる者もいなければ付いて来ようとする者もいない。
一匹狼だから誰も好んで寄っても来ない。
常に孤独な彼は、部活中だっていつもギスギスしており、むしろ自分ひとりのほうがどれだけ気楽だろうと思ったことか。
そう、チームメイトなどただの重石でしかない。
試合も練習も常に一人きりだというのに、どうしてそうもチームを意識しなくてはならないのか、合点いかなかった。
今までは風羽という存在がいたからこそ、その理不尽さも甘んじて受け止め、彼女の笑顔のためだと割り切っていたが、もう彼女はいない。
一度もチームを意識したこともない彼にとって、今の環境は我慢ならなかった。
それなら互いがライバルと明言されている競輪学校の方が、いかに良い環境であろうか。
先を見据え、尽力を惜しまず切磋琢磨し合える、そんな環境こそが彼の望んでいた環境だ。
( ^ω^)「風羽……」
教育学部の情報を専攻している彼女は、周囲よりもパソコンに詳しく、いつも試合結果をまとめては、新聞にして選手全員へ配布していた。
内藤が活躍した次の日は陸連のホームページや大会結果からその情報を収集しては、我がことのように喜んでいた。
頭に彼女が過ると、どれだけ振り払おうと努めても頭から剥がれなかった。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:29:18.38 ID:iay4dYwq0
- 風羽と恋人関係になったのは高校二年、そのまま地方から離れた同じ大学へと進学し、一年の学年差はあれどずっと関係は続いていた。
しかし風羽が彼女となってからも、内藤は他の女性にかまけて浮気を繰り返していた。
県で有名にもなればおのずと女性は寄ってくる、つばをつけた女性は数知れず、風羽に内緒で同棲にいたったこともある。
何度と風羽に怪しまれた、確信に近いものまで抱かれていたことだろう。
それでも彼女は必要以上に詮索をしなかったし、内藤をただ気遣って気を立てないようにと接してくれた。
内藤がどれだけ他の女性に浮気しようとも、結果的に風羽に落ち着いた理由がそれだった。
恋人という関係にただ癒しだけを求めた彼にとって、とても理想的な彼女だったのだ。
端的に言うなれば都合のいい女性だったのだ、自分勝手な内藤にとって。
内藤は特別恋人ということを意識していなかった、風羽がじみた事を言う度に、疎ましく思ったものだ。
しかし失って分かる、彼女のその優しい抱擁は他の何にも代え難い、憩いがあったのだと。
風羽が恋人だったときには傍若無人に女遊びしていたというのに、彼女を失った今、そんな気がさらさら起きない。
退院を報告した幾人もの女性たちから返信メールがあったが、それらをすべて無視していた。
もしかするとその中に風羽のものもあるのかもしれないが、だったら尚更胸を痛めるだけだと、携帯電話を確認するが憚られた。
あれだけ自由気ままに振舞ってきた男が、女性一人でこうも女々しくなるから実に滑稽な話だ。
( ^ω^)「……」
運動もできない体がもどかしかった。
いつもなら悩ましく思えばすぐにも走り、自分を追い込み、そのマゾっ気にも似た快感と疲労により苦悩を脳裏から消し去っていた。
それが今では走れないもどかしさがより内藤の心を苛み、考え込むばかりで悩み事も泥沼だ。
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:31:22.82 ID:iay4dYwq0
- ( ^ω^)「走りたいお……」
ひっそりと呟いた。
その声がわずかに震えていた理由は、誰よりも本人が分かっていた。
目的地までは電車を乗り継いで三時間を要する。
内藤の実家は典型的な田舎で、電車の本数が少ないゆえに繋がりが悪く、距離の割に時間ばかりがかさばる。
痛む足では幾度かの乗換えが辛く、乗車時間も相まって家に到着する頃にはすっかり日も落ちており、心身ともにへとへとだった。
( ^ω^)「ただいま」
玄関に入って声を出すと、奥から母親が慌ててやってくる。
J( 'ー`)し「お帰りなさい、疲れたでしょ?
食事までもうちょっとかかるから、居間でゆっくりしていって」
( ^ω^)「そうするお」
荷物の手提げを部屋の隅に追いやって、早速と腹筋をはじめる。
やはり彼は体を虐める事でしか気分を晴らす方法を知らない、俗にいうスポーツ馬鹿のようだ。
疲れ鈍った体に鞭を打つことで、モヤモヤしていた気持ちもようやく清々としてくる。
冷蔵庫から勝手に牛乳を取り出して飲んでいると、料理も一段落できたようで、母親から声が掛かった。
- 13
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:33:26.21 ID:iay4dYwq0
- 内藤が入院したときに母親は幾度かお見舞いに来たが、親子揃っての食事ともなればお盆も部活の合宿だった手前、一年近くぶりだ。
( ^ω^)「いただきます」
内藤は一人暮らしをしてからというもの、手料理の美味しさをかみ締めるようになっていった。
とはいえここで風羽を連想し、また彼女の手料理と比べてしまうあたり本当に女々しい人間だ。
そんなことをするために帰省したのではないと強く自制して、頭を本題に移した。
( ^ω^)「ちょっと、相談事があるんだお」
J( 'ー`)し「ん、どうしたの?」
母親も何かしら話しがあることは覚悟していたのだろう、そうでなければ退院後すぐに帰省するとは考えられない。
ましてやまだ通院生活の最中だというのに。
( ^ω^)「僕は、走るのを止めようと思うお」
J( 'ー`)し「……そう」
息子がずっと一筋となり頑張ってきた道だ、親とてその陸上に幾許かの思いを馳せていたことだろう。
しみじみと感慨に耽るようにしていたが、すぐにも表情を我が子へと向けた。
J( 'ー`)し「私としては寂しいけど、あんたの好きにするといいわ」
好きでやっていることをやめると言われ、親に何ができる。
そう返されるだろうことは想像できていた。
特に最大限に子を尊重しつづけ、不平の一つも漏らさなかったこの親だ、他の言葉が飛んでくるなど考えられない。
とはいえ、ここから先の話は今までとは勝手が違った。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:35:09.64 ID:iay4dYwq0
- ( ^ω^)「それで、大学を辞めようと思うお」
さすがにそこまでの覚悟はできていなかったのだろう、母親は大きく目を見開き、卒倒しそうに頭をガクンと揺らした。
女手一つで我が子を大学まで放り込んだのだ、その苦労は計り知れない。
だというのに、そこを止めたいなど正気か、そうしてどうするのだ、さまざまな疑問が頭を目まぐるしく舞ったことだろう。
J(;'ー`)し「……大学を辞めて、あなたはどうするの?」
特に語調を強めることもなく、おずおずと懇願するかのような尋ね方だった。
そんな健気なさまに風羽を連想させられ、内藤の胸がズキリと痛んだ。
そうか、風羽の何が彼を安堵させるのかというと、彼女は子に対する親のような気遣いと優しさを持っていたのだ。
子の幸せを第一に願う親のように、ずっと彼を見守っていたのだ。
だから内藤は風羽の所作一つ一つに反抗的にもなったし、弱々しく出たら出たらで疎ましく感じもしたのだ。
世話を焼かなくてもいいのにと、見当違いな反抗心を見せるのは親に対する子、そのものだ。
広大な海原で波に抗う一隻の小船のような、母親の慈愛に歯向かう反抗期の子供に過ぎなかったのだ、彼は。
風羽に真実を打ち明けられた時、手の平で転がすと揶揄したがなんてことはない、今に始まったことではなかったのだ。
( ^ω^)「……それで僕は、競輪を始めようと思うんだお」
J(;'ー`)し「……!」
ここで、とうとう母親の顔が歪んだ。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:37:16.65 ID:iay4dYwq0
- 母親の表情の変化も当然だ、内藤家の父親はギャンブルと酒に明け暮れ、家で横暴だった揚句に胃癌で亡くなったのだから。
最低な父親だったが、それでも肉親を死へと追いやったギャンブルというもの、内藤がギャンブルを無条件で嫌悪してしまうのも母親譲りだった。
母親は飲酒も喫煙もギャンブルもせず、そしてそれらを見るたびに、いつも疲れた顔で深い息を吐いたものだ。
(;^ω^)「競輪って言っても、やっている人たちはみんな真面目だお。
中学時代一緒のクラスだった毒男って覚えてるかお、あいつがやっていて、実際にいろいろ聞いたんだお。
それで、僕は陸上の鍛えた体もあるし、先のない陸上よりは競輪でプロとしてやって……いきたいんだお……」
母親が無言で涙を流していることに気付くと、内藤の声が弱々しく萎んだ。
分かっているでしょう、どうしてそんなものに手を出すの。
親の言葉がテレパシーで頭に入り込んでくる。
(;^ω^)「……違うんだお、確かに競輪っていうと――」
J(;'-`)し「止めて」
情けない顔で、親は子に懇願した。
J(;'-`)し「お願いだから……止めてちょうだい。
それだけは、他はいいから、だから……。
ギャンブルのせいで、お父さんはいなくなってしまったのよ、それなのに……」
この母親はどれだけ父親の事が好きだったのだろう。
平日はろくすっぽ働かず、休日には共働きの給料をタンスから勝手に持って行っては競馬ですり、酒まみれになって帰ってくる。
その後は決まって恐喝じみた逆切れだ、暴力を振るうことも珍しくなかった。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:39:10.87 ID:iay4dYwq0
- 内藤はそんな父親が大嫌いだった。
母親が何も言わないのをいいことに、自分勝手に振舞っては黙っていることが気に入らないと母をどやし、命令する日々。
いつも疲れて帰ってきた母親に料理を作るよう命じては、ソファーで野球中継をつけっぱなしにして寝ていた父。
ことあるごとに理不尽な理由を掲げては、母親をなじっていた。
小学校低学年で父親が亡くなったとき、内藤はこれで自由になれたと手放しで喜んだものだ。
なのに母親は違った。
父親が亡くなってから数日は夜毎泣き続け、食事もほとんどとらなくなった。
そしてそれ以来、煙草やお酒、ギャンブルを目の敵にするようになった。
温和で温厚な母親が唯一嫌悪感を見せるものが、それらだった。
そんな母親の心情を敏感に感じては、内藤もそれらを避けるようになっていった。
それと同時に、いつまでも父親を思い続ける無様な母の考えも、理解できなくなってしまっていた。
そうだ、母親とのすれ違いはあの時から始まっていたのだろう。
J(;'-`)し「ね、お願いだから、それだけは止めて。
悔しくないの、悲しくないの、あなたのお父さんを殺したものなのよ?」
自身の感情を隠しながら必死に訴える素振りが、いやに風羽とかぶった。
違う、彼女はそんな素振りをする人じゃない、そんな見苦しい人間じゃない。
まるで風羽を汚されているかのように感じ、内藤の語調もつい荒くなる。
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:41:10.30 ID:iay4dYwq0
- (#^ω^)「トーチャンを殺したのは誰でもない、トーチャン自身だお、因果応報だお!
カーチャンもなんでそれを否定するんだお、どうして何かのせいするんだお!
僕だって分かるお、あいつにはあれが相応の最期だったんだお!」
J(#'-`)し「なんてこと言うの!?」
(#^ω^)「だってそうじゃないかお、何を否定するんだお!
自分勝手で粗暴で、酒に溺れてばかりだったじゃないかお!」
J(#'-`)し「バカッ! あんたのトーチャンはそんな人じゃない、違う!」
(#^ω^)「何が違うものかお!」
すでに話は著しく脱線していたが、内藤は譲るつもりは無かった。
小さい頃から父親を人に自慢できず、父親の話になるたび肩身の狭い思いをしてきた。
お金は湯水のように消えていき、ろくに好きなものも買ってもらえず、幼少期は友人を羨んで過ごしてきた。
そんな父親の肩を持つ母親の精神が理解できず、己よりも父親を信じていることにこの上ない敗北を感じたのだ。
(#^ω^)「だったら余計に僕は競輪を目指してやるお、僕は何一つと悔しくないお!
もしろ清々している、トーチャンを殺してくれたギャンブルへの恩返しだお!」
J( ;-;)し「お願いだからそんなこと……」
泣き崩れた母親を見ても、卑怯な人間だとしか思わなかった。
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:43:16.87 ID:iay4dYwq0
- (#^ω^)「もうご飯はいらないお、明日朝一で帰る、もう寝るお」
床に座り込んで泣き声をあげる母親に、内藤は冷たい目を向けて自分の部屋へと歩いた。
泣きたいならいつまでも泣くがいい、父の事を慕うならいつまでも慕い続けるがいい。
そうである以上、内藤が母親を慕うことは無いだろうが。
大きな音をたてて部屋のドアを閉めたが、隙間からはまだ、母親の嗚咽が聞こえた。
翌朝は日の出前に起床して荷物を片付けると、玄関に競輪学校の資料と退学届の受諾書を置いて、すぐにも家を出た。
父親が夜中静かに帰って来ても起きて迎えた母だ、きっと目覚めてはいたのだろうが、内藤を見送ってはくれなかった。
恋人も親も走ることも失った。
競輪という新しい道の門出は、想像を遥かに超えたふさわしい舞台により演出された。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:45:10.10 ID:iay4dYwq0
- 実家から戻ってきたその足で都心部にまで向かうと、プロ御用達を惹句とする病院へ足を運んだ。
症状なりを言い、簡単に足の調子を見てもらう。
やはり相当ひどいらしく、陸上選手として復帰ことは困難を極めるそうだ。
しかし競輪の道を行くと言うと、意外にあっさりといいんじゃないだろうかという言葉が返ってきた。
競輪について然程詳しいわけでもないそうだが、自転車は怪我の時に漕ぐという内藤と同じイメージからだそうだ。
曲がりなりにも医者の許可を改めて得て、いよいよ決心は強固となる。
再び電車で移動する間、携帯を確認した。
電話は20件、そのうち17件が風羽によるものだった。
メールを確認すると、風羽から「ごめんなさい」という題名のメールがきていたが、本文を読むことなく削除した。
色々と設定をいじり回し、風羽を着信拒否に設定した。
そして続いて、大学にまで足を延ばした。
時間的に授業中であることを確認し、顔見知りに会わないように学務課へと訪れる。
資料を貰って数言交わすと、退学の手続き方法を教えてもらえた。
引き留められたりしないかと懸念していたが、進みたい別の道が見つかったとのたまえばそれ以上の追及は無かった。
あわただしく駆け回り、自分の下宿へと戻ったのは夕刻前だった。
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:47:17.04 ID:iay4dYwq0
- 玄関のドアを開くと同時、新聞受けに手紙を発見した。
手にとれば、見なれた文字で「内藤先輩へ」と書かれていた。
( ^ω^)「……」
心が動き、会いたい衝動が一気に駆け巡った。
またあの声が聞きたかった。
またあの居心地の良さに浸りたかった。
(#^ω^)「……裏切り者だお」
何を甘いことを言っているのか、どこまで甘えれば気が済むのだ。
あれほど手痛い裏切りを受けたというのにまだ女性に傾倒しようとは、随分と風羽に入れ込んでいたものだと自分ごとながらに嫌悪を覚えた。
内藤はすぐに手紙を破ると、ゴミ箱に捨てる。
上から生ゴミで蓋をしてやろうと台所へ行くと、そこに見慣れぬ鍋があった。
( ゚ω゚)「……!」
一昨日に風羽が来た時に、置いて行ったものだ。
それを理解すると同時、ボルテージが一気に振り切った。
どこまで人をおちょくればいいのだ、そんなに自分が心動き葛藤する様を見て楽しいのか。
お前を忘れられない男が、そんなに面白いか。
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/29(土) 21:49:28.66 ID:iay4dYwq0
- (#゚ω゚)「馬鹿にするなおっ!!」
それを地面へと投げつけると、大きな音をたてて派手に跳ねまわる。
まるでそれが怪我した時の己の姿を如実に表しているような錯覚に陥って、憤りは再び爆発した。
鍋の取っ手を荒々しく掴むと、窓を開けて、あらん限りの力を込めて投げ捨てた。
(#゚ω゚)「クソがお……ふざけんなお……!!」
机の上にある携帯電話が目につき、程よい大きさだと手に取った。
何も考えず、壁に向かって全力で投げつける。
(#゚ω゚)「もう、誰も邪魔するなお……僕は、僕のやり方でいくんだお、もう……」
携帯を拾い上げると、まったく反応がない。
まさか、と顔面蒼白になりながらいじるも、何一つと芳しい反応を見せることは無かった。
電源ボタンを長押ししても、電池をはめ直しても無反応なことで、ようやく現実と対立することができた。
また馬鹿な事をやってしまった。
自棄になってはいけない、良い教訓だろう。
内藤は覇気なくベットに寝転がった。
( ω )「……再スタートにはもってこいだお」
言い訳をしながらも、もう無理にはっちゃける元気など残っていやしない。
少なくとも親の援助が望めないだろう今、まずはバイトを見つけることから始めなくてはいけない。
大きな溜息だけが、空虚な部屋に反響した。
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