- 69
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:12:17.64 ID:raN78Cfe0
- 第三十レース「各々の将来」
病院で精密検査を受けた結果は、残念ながら黒だった。
以前の怪我が再発し、再び内藤の足を蝕み始めていたことは紛れもない事実だった。
それでも怪我直後と比べれば状況は幾分もマシだ、今度はすぐに無理をせず、しっかりと治療していかなくてはいけない。
内藤は泣く泣く春の競輪学校試験を見送らざるをえなかった。
そうして当面は秋の試験を目指し、ゆっくりとそれでいて確実なリハビリが始まった。
(;^ω^)「ハッ……ハッ……」
(,,゚Д゚)「いいぞいいぞ、そのままもっと足を大きく開いて腰をおろして、一歩一歩もっとゆっくりと歩け」
(;^ω^)「はいですお……」
(,,゚Д゚)「あーもうちょっと腰を落として、胸を張って正面を見ろ」
(;^ω^)「くおおぉ……こんな感じですかおぉ……」
怪我中で激しい練習ができないとはいえ運動を蔑ろにはできない、療養中のリハビリには大学時代のコーチがついた。
なんでも大学では疲労蓄積についての研究実績が数多とあり、かかり付けの医者とも面識があったので償いも兼ねてお願いしたのだ。
返事は快諾で、内藤は毎朝陸上部に混ざって、基本動作など基礎的な動きで体の筋肉を落とさないように、バランス良く仕上げていった。
- 70
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:15:34.91 ID:raN78Cfe0
- (,,゚Д゚)「内藤、怪我の影響だろうが、右足を軸にすると途端に体が傾くな。
無意識で庇おうとしているんだろう、そこへ重点的に筋力つけないと、完治なんてまだまだ先になるぞ。
もうちょっと意識していこう、左右の均衡が悪くては、バイクに乗ったときに落車の原因にだってなりかねんだろうし」
(;^ω^)「うう……なんとか留意してみますお」
(,,゚Д゚)「右足だけ若干内股なんだよな、足先を正面向けろ、正面」
いざ耳を傾けてみればコーチのアドバイスは的確で、実際リハビリ期間にもかかわらず体の筋肉を落とさず、練習できない分体のバランスを確固たるものに仕上げることができた。
普段使う事無い部位の筋肉をつける事で、相対的に怪我をしにくい強い体が出来上がるらしい。
これらは当然、バイクに乗る時に大いに役立つだろう。
リハビリ期間は二ヶ月にも及んだが、その間内藤は津出より直接の指導を受けることはなかった。
毎日練習内容を書き留めた日記を作り、週一のペースでそれを郵送する程度だ。
それでも順調に回復に向かっている旨や上がり調子の体を追記明記すれば、しっかりと返事をくれて、完治後にはびしばし鍛えるという旨がつづられていた。
二人の縁は、空白期間を設けようとも決して綻びることはなかった。
- 73
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:19:10.59 ID:raN78Cfe0
- (; ω )『実は足が……膝が、痛いんだお。
憶測だお、あくまで僕の考えだけれど……怪我が、再発したかもしれないお……昔の怪我が……』
――あの日、怪我の再発を告白した内藤に、流石の津出も驚きをあらわにした。
言葉を失った、怪我の調子によっては選手生命が終わる可能性もあるわけだ、無意識に口を一文字としていた。
次に内藤にかけられた言葉は、思いのほか、的外れなものだった。
ξ゚听)ξ「内藤、何で私はあんたを弟子にしていると思う?」
あまりに漠然とした抽象的質問に、いくつもの返答は思いつくもこれだと断定することができず、また、内藤は思わぬ質問に虚をつかれて黙りこんでいた。
津出は構わぬと、言葉を繋ぐ。
ξ゚听)ξ「別にあんたがいなくたって、もう私の弟子には所歩がいるわけよ。
どうしてアンタが必要なのか分かるかしら、アンタと所歩の違いは何かしら?」
違いなど枚挙にいとまがない、またしても無数の答えが浮かぶも返答に適する答えは見つからず、内藤は黙り込んだままだった。
ξ゚听)ξ「布佐さんを超えたいって私は言ったわよね。
何も超えるだけなら所歩がいれば事足りるわ、所歩ほど絶倫であれば放っておいても競輪のトップか、それに近い位置まで上り詰めるでしょう、間違いなく。
分かって? 私はね、内藤、布佐さんを超える存在を育てたいのよ、私はあんたを育てたいの、アンタでなければだめなの」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ええ、他の人じゃ駄目よ、私は布佐さんの見立てを否定してしまったんだから。
私の眼鏡にかなったアンタでなくてはいけないの、私はあんたで布佐さんを超えなければならないのよ、だから……」
- 74
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:22:00.41 ID:raN78Cfe0
- 津出はここで妖美に笑ってみせた。
布佐について語る時の彼女は、いつもこうして妖魔のような、一見甘美にも感じられる笑顔を向けて見せるのだ。
ξ゚ー゚)ξ「だから、いつまでもあんたを待っているわ」
内藤がリハビリに励んでいる間、津出は再び一から勉強という事で、布佐の元に戻った。
実際に弟子を持って分かるその気遣いの幅の広さ、声かけの一つ一つにおけるアメとムチの使い分け。
練習時間に始まり私生活への干渉など、津出が従来意識していない部分は数多とあった。
それを内藤が戻るまで、また布佐の元で勉強し直そうというのだ。
所歩はしばらく、津出のお願いもあって布佐の元で他の選手に混ざって練習をした。
布佐と津出の二つの意見に挟まれて所歩も大変だったろう、それでも彼は文句こそ言えど反抗することはついぞなかった。
ξ゚听)ξ「内藤が戻ってくるまでの辛抱だから、お願いね」
(´・ω・`)「別に僕がそれに付き合わされる義理はないけれどね。
別にいいか、相手がいないのもつまらないものだから」
内藤と少しの間一緒に練習しただけであったが、それでも所歩に生まれた仲間意識は意外にも大きかったようだ。
『仲間』という存在の大きさ、そして津出を師匠として信頼したからこそ、こうやって文句を垂れながらにもちゃんと従うのだろう。
(´・ω・`)「全く、内藤もさっさと戻ってこないものだろうか」
文句を言う時には決まって最後にそう締めくくったものだが、そこには確固たる仲間意識が芽生えていると見て間違いないだろう。
布佐のコーチングを見ながら、所歩を練習台とし、内藤からの報告日記を読みながら師匠として様々に考えを逡巡させた。
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:25:12.89 ID:raN78Cfe0
- ξ゚听)ξ「布佐さん、どうやら内藤は再来週には練習に復帰できる見込みだそうです。
ちょうど二ヶ月くらいでしたが、改めて面倒見てくださりありがとうございました」
ミ,,゚Д゚彡「なんだ、まだ二週間あるのにもうお別れみたいな事言うなってw
そうか、二週間か……うん、なぁ、今週末は時間あるか?」
ξ゚听)ξ「別にありますが、何か?」
ミ;゚Д゚彡「えーと、だな……それじゃ今週末にでも、息抜きに一緒に遊園地でも行かないか?」
ξ*゚−゚)ξ
ξ*--)ξ「遊園地って、子供じゃないんですから……でもたまにはいいかもしれませんね。
面倒見てもらいましたし、それぐらいで良ければお付き合いしますよ」
津出の意地っ張りは筋金入りだ、まだ少し、二人の距離が近づくには時間がかかりそうだ。
津出が内藤を育て出し、一人立ちしてからだろうか、布佐は些かの物足りなさを感じ始めていた。
もっともそれが恋とか愛の類かと問われればそれほど明確なものではないだろう。
それこそ父子の親子愛にも似たものかもしれないが、子を持たぬ彼には断定に至るまでの材料がいかんせん乏しい。
その答えを出すのはまだしばらく先になるのだろう。
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:28:03.48 ID:raN78Cfe0
- 不幸中の幸いとでも言おうか、弟子の怪我が原因で津出が少しの期間戻ってきたのは絶好の機会かと遊園地に誘ってもみたが、依然彼は心の整理などつかぬままだった。
哲学者であるまいに、スポーツマンが恋などという感情に真面目に対面しようなど、愚かしいのかもしれない。
( ゚∀゚)「よーよー布佐どうした、随分小難しい顔しているなw
なんだよ、嬢ちゃんと遊園地行くときの服装でも悩んでのかよw」
ミ#-Д-彡「……どこで聞いた」
( ゚∀゚)「顔に書いてあるぜw」
長岡はおどけて言ってみるも、当然布佐の気を立てるだけだった。
世の中はなんとも巧妙にできており、絶対に知られたくない相手というものはえてして情報に目ざとく、いの一番に知っているものだ。
ミ#゚Д゚彡「それよりも、今日は俺の弟子の練習を見に来てくれたんだろ、ちゃんと活入れてくれよ?」
( ゚∀゚)「ああ、だからお前と嬢ちゃんはその間にどっか行っててもいいぜ?w
なんてな、あ、怒ったか? な、怒ったのか? 怒ったろ?w」
ミ#-Д-彡「アンタ、年上のくせに本当子供っぽいよな……」
長岡が競輪に改めて熱を入れて以来、二人は定期的に会って弟子同士を競わせたり、情報交換を行っていた。
平生と違う環境、異なるメンバーで励むことにより、互いの士気とモチベーションを高め合うのだ。
とりわけ長岡と高岡が顔を出すのはとても大きい、現役競輪のツートップがいればそれだけで布佐の弟子には良い刺激になるし、実際に走ってでの指導はまた格別だ。
KEIRINグランプリの一件以来、長くにわたって二人にはどこかギスギスしい空気があった。
互いに他人行儀にならぬようにと無理やり言葉を崩しながら話ししてみせるが、結局は相手の顔色を覗いながら当たり障りない会話を済ませるだけに留まっていた。
しかし長岡が競輪復帰を公言したことで、ようやく待ちに待った本来あるべき二人の関係が復活した。
- 80
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:30:48.56 ID:raN78Cfe0
- 布佐自身、長岡を許容する気持ちと恨めしい気持ちの衝突にずっと苛まれていたものだが、いざ明言されれば思いのほか気持ちが軽くなるのを感じた。
そして僅かに生まれた悔しさは、長岡と高岡を倒せる弟子を育成してやろうと反抗心に変わり、せっせと手塩かけて弟子の育成に励んだ。
もっとも相手が悪いことはもちろん、未だもって兆しの見える選手は現れなかったが。
すぐに芽が出る選手ばかりでもない、気長に構えなくてはと、今少し辛抱が続きそうだった。
( ゚∀゚)「そういえば、ちょっと前に高良先輩に口きかれてよ」
ミ,,゚Д゚彡「高良先輩……最近調子良くなってきていたか、A級止まりと思っていると痛い目見るかもな。
それで、あの人が何か?」
( ゚∀゚)「おう、それでさ、どこからか俺の出張授業を聞きつけて、今度一緒に弟子と走ってやってくれなんて言われたよw
先輩の頼みならって返したが、その弟子ってのはまだまだこれからのあまちゃんだそうだ」
ミ,,゚Д゚彡「くれぐれも、口の悪さだけは移さないようにな」
( ゚∀゚)「せーよww」
言いながら、長岡はその弟子の走りを頭に浮かべていた。
高良に弟子を見てくれと言われ、出場レースのビデオをいくつか取り寄せて目を通した。
その率直な感想が、長岡自身に似ていると思わせるほどの、走りのスタイルだった。
( ゚∀゚)(たぶん、こいつは昔から自転車に乗っていたわけじゃないんだろうな……)
実力は実際何ともいい難かったが、それでももう少し乗り慣らせて判断力を養えば、かなりいい線にいくのではないだろうか。
高良よりその男が長岡を敬愛していると聞いたが故の、同族意識なのだろうかと皮肉に笑みをついた記憶が蘇った。
( ゚∀゚)(あー、高良先輩ってたしか弟子そいつだけだったかなぁ……
毒男ってヤツ、貰えねーかなぁ……)
- 81
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:34:07.97 ID:raN78Cfe0
-
( ^Д^)「ああ、そいつは無理なご注文だ」
( ゚∀゚)「ですよねー」
( ^Д^)「つかお前には弟子がいっぱいいるだろ、俺は二人だけなんだから、とても渡せないな」
( ゚∀゚)「まぁいいよ、だったら今度の直接指導の時に打診してみるからよ」
(;^Д^)「俺の意見は関係なしかよ……勝手にするがいいさ。
それにしても毒男に目をかけるとは、随分と変な奴だなお前は。
まだまだ速くないし、伸びしろも未だ見えてこないっていうのによ」
( ゚∀゚)「なーに、悪趣味なだけだ、速くなるならないではなく、ちょっと育てたいと思ってさ。
つか伸びしろなんて出てくるもんじゃないよ、師匠が出すもんだろ。
まぁウチにいるのなんてそんな奴ばっかだ、おかげでへそ曲がりばっかになっちまったがな」
( ^Д^)「飼い主に似るんだよwつかお前今俺の手腕をなめてる発言したろ?
ったく、いい加減口の悪い奴だな、そういうところ本当に変わってねーよな。
まぁいい、とりあえず次の日曜にその弟子の指導、よろしく頼むからな」
高良は電話を切ると大きくため息をつき、一人の弟子を頭に思い浮かべた。
何事にも素直で、もの覚えは悪いがそれを補って余りあるほど忠実な彼だ、すぐに実力がつくわけではないが、十年もすればかなりの選手になるだろうと思えた。
その自慢の弟子が尊敬すべき競輪界のトップ選手に目をかけられたのだ、嬉しくないわけがない。
それと同時に、たまらないほどの悔しさも顔を覗かせていた。
( ^Д^)(そうだよな、あいつのことを思えば俺なんかよりも、長岡に任せるべきだよな……)
- 85
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:37:44.24 ID:raN78Cfe0
- 高良はどうするべきかと悩みながら、それでも結局は本人の決断にゆだねざるを得ない問題である。
それからしばらく後、ふと高良は練習終わりに毒男自身へと疑問を打ち明けた。
( ^Д^)「なぁ毒男、もし長岡がお前に目をかけたって言ったならどうする……?」
一瞬何を言われたのかと毒男は目をパチクリさせながら、実感がないだろう、やる気のないつまらぬ反応を見せるだけであった。
('A`)「はあ、それはなんとも光栄ですね」
( ^Д^)「実際そうなんだ」
('A`)「……そうですね、だったら師匠を抜いた日に、長岡さんに移りますねw
それまではとてもとても自分なんて恐れ多いですよ」
(#^Д^)「うっわ、ちょっと待て今のそれムカつくな、ぜってーテメーには抜かせねー!」
実際毒男の芽が伸びるのはこれから五年も後の話になる。
最後のレースで師匠への勝利をプレゼントして、毒男は長岡の弟子へと移行することになるが、それはまた別の話だ。
('A`)(高良師匠も何を言い出すかと思えば、師匠問題なんて内藤じゃあるまいし……
例え長岡さんに誘われようとも、とても高良師匠以外の元で動くなんて考えられないな。
そういえば内藤、ようやく練習に復帰したんだっけか……春試験は見送っていたけど、秋の試験こそ受かるといいなぁ)
毒男と内藤は以前ほど密に連絡を取り合うことはなかったが、それでも一カ月に一度は必ず互いの状況を報告しあっていた。
二カ月もの療養期間を経てようやく練習に復帰した内藤は、現在は津出の元で本格的に練習を開始したと声を弾ませていたか。
リハビリ期間にも相当良い人に練習をつけてもらっていたのだろう、二ヶ月間のロスは感じないほど体の調子がいいとも言っていた。
('A`)(内藤とも、近いうちに一回一緒に走って、ハッパかけてやるかなw)
- 87
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:41:18.36 ID:raN78Cfe0
- 毒男は内藤から長岡の過去、当時の心模様についての詳細を聞いたとき、ある程度予期していた通りであったにも拘らず何とも居た堪れない思いになった。
それは怪我というものに負けて心が折れていた長岡への失望もあり、そしてやはり彼は尊敬に値すべき人物だったという安堵もあり。
非常に混沌とした気持ちであり、高良にその旨を話すると、なんと彼はすべてを知っていた上で寸分違いない見当をつけていたのだから驚きだ。
ぷぎゃーなどと一度小馬鹿にした後に、毒男へ向かって「長岡が、やっぱり尊敬できる選手で良かったじゃないか」なんて言ってくれたのだ。
師匠であるという高良自身のプライドなどお構いなしに、毒男を気遣ってそんな言葉をかけてくれたのだ。
('A`)(やっぱ、俺の師匠は高良さんだけだよ……)
いずれその思いとは裏腹に長岡の元へとかわっていくのだが、人の決意とはえてしてそういうものだろう。
信念を貫きながらも別の道を長く考え経て、真に目前に迫ってから全霊で悩み抜き、誰かのひと押しを合図に変遷の一歩を進むのだ。
('A`)(そういえば……内藤の師匠も、弟子を二人持っているんだっけか……。
随分と癖のあるヤツだと聞いているけど、実力抜群で長岡さんも目をかけたとか……)
内藤よりその所歩という人物の話は聞いていた。
競輪学校への試験では1000mは免除、200mではダントツ一位の成績を収めたらしく、競輪界では期待の超新星として話題騒然だ。
すでにKEIRINグランプリ優勝しか見ていないなどと、まことしやかに、彼ならば本気で言いかねない噂ばかりが飛び交っていた。
しかし本人は取材であったりインタビューについては然程興味はないらしく、報道陣は手をこまねいているそうだ。
師匠が女性であるというこのも話題を呼びはしたが、これまた津出が取材に応じないものだから噂が廃るのも早かった。
もっとも、だからこそ報道陣は常にKEIRINグランプリ優勝候補筆頭の高岡に集まっていたが。
从 ゚∀从「所歩? ちまたじゃ話題らしいですけど、速いだけじゃ競輪では勝てないでしょ?
俺と勝負できるまで登ってこれるかどうかが楽しみですねw」
- 90
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:44:34.54 ID:raN78Cfe0
- 記者「しかしお二人はすでに顔見知りだと聞きましたが?」
从 ゚∀从「おまw誰から聞いたよww
そうだな、でも今のあいつじゃ相手にならないよ、俺と勝負するまで上り詰める過程で、せいぜい鍛えることだな。
実力と成績が結び付かないから、競輪はギャンブルなんだよ」
(*ノωノ)「……なーんて高岡選手に言われてますよ?」
風羽は競輪雑誌を読み上げてみせたが、ストレッチ中の所歩は些かともそれを気に留めなかった。
(´・ω・`)「構わないさ、一年後には同じ競輪の舞台に立つんだから。
その時にKEIRINグランプリのトップにいなかったら逆に言い返してやるさ、僕はトップにしか見ていないから君に興味はないとね」
(*ノωノ)「相変わらず自信満々ですね」
(´・ω・`)「なに、自転車を始めて高々一年で競輪学校の門扉を叩こうとしている人よりは、よほど謙虚に生きているつもりだがね」
所歩と風羽が向いた先は、津出に付きっきりでフォーム注意を受ける内藤だった。
陸上のコーチのおかげもあって全体の筋肉は見事なほどバランス良かったが、代償として自転車の乗り方をまんま忘れてしまっていたのだ。
あまりに体つきが良いものだからこそ、それを無駄にしては勿体ないと逆に津出を強く刺激してしまい、彼女はより厳しく内藤を鍛えた。
(;゚ω゚)「はっ、はっ、はっ……」
ξ゚听)ξ「ほらほら、肩が上がってきた、何よ以前のアンタの方がよっぽど物覚えが良かったじゃないの!」
(;゚ω゚)「おお……どえす……」
- 91
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:48:28.26 ID:raN78Cfe0
- (*ノωノ)「……」
(´・ω・`)「もし時間を弄んでいるようならちょっと足を支えてくれないかい?
このうちに少し腹筋をしておくよ」
(*ノωノ)「あ、はい」
所歩が黙々と腹筋を繰り返す間、風羽は回数を数え上げながら、傍目で内藤と津出を追っていた。
思わず力が抜けて所歩の足が崩れそうになる度、目が覚めたかのように慌てて足を抑え直した。
しかしまた少しすれば意識はあさっての方向へと向いてしまう。
(´・ω・`)「……なんだい、内藤が気になるのかい?」
(*ノωノ)「あ、……すみません、大丈夫です、集中します」
(´・ω・`)「いや、別に構わないさ、適当に押さえてくれるだけでいい。
ただ、嫉妬するならもう少し相手を選んだ方がいい、嫉妬対象が『アレ』ではつい口も挟みたくなってしまうね」
ξ#゚听)ξ「聞こえてるわよ、馬鹿弟子」
(´・ω・`)「性格を直してもらえないだろうかと聞こえるように言ったのだけれど、意図が伝わらなかったようで残念だよ」
一瞬にしてピキッと凍りつく空気に、また内藤のフォームがぎこちなくなった。
ξ#゚听)ξ「ほらまた崩れてきた、ちゃんと意識しなって言ってるでしょ!」
(;゚ω゚)(なんという理不尽……!!)
- 94
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:52:53.29 ID:raN78Cfe0
- それからおよそ二十分ほどして、ようやく内藤はフォームチェックから解放された。
未だ慣れないのか、背骨がキシキシと悲鳴を上げている。
(*ノωノ)「どうぞ先輩、氷です」
(;´ω`)「おおお……助かるお、天使かお……」
(*ノωノ)「あ、あぷー……」
ビニールに入った氷水を腰に当てると、飛び上がるほど冷たかったが、背骨と腰の筋肉が瞬く間に癒されていくのも感じた。
季節は早くも7月を迎えようとしていた、噴き出る汗は一向に収まる気配など見せない。
秋試験は10月だ、残された時間はおおよそ4ヶ月であった。
以前の感覚に加え、体のバランスの良さが飛び抜けたこともあって、フォームが正されるにつれみるみる内藤の走る速度は上昇した。
(´・ω・`)「まったく、これでは他の愛好会と一緒に走った方がいいね。
もうしばらくリハビリをしていてはどうだい?」
ξ゚听)ξ「何よ、内藤が療養していた時は早く帰って来いだなんてピーピー喚いていたくせにさ」
(´・ω・`)「そうでも言わなきゃ割が合わなかっただけさ、何よりもこれほど乗り方を忘れているなんてね、逆に驚いたよ。
まぁ内藤の怪我が心配だなんて県外の神社にまでサイクリングがてらお参りしに行くほどじゃないさ」
ξ#--)ξ「……何で知ってんのよ」
戻った当時など常々所歩にぼやかれたものだが(今でもなお言われているが)、次第に共に練習をこなせるようになり、7月に入る頃には以前の内藤と比べても遜色ないほどまでなり、
進化は止めどなく続いてむしろより速く走れるだろう程に鍛え抜かれていった。
この頃には秋より競輪学校へ入っていく所歩は、残されたわずかな時間が名残惜しいのか知れないが、内藤の練習に積極的に加わったりもした。
- 96
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:56:47.72 ID:raN78Cfe0
- (*ノωノ)「お二人とも、お疲れ様でした!」
(;´・ω・`)「ふぅ……いや、いつも悪いね、そうやってタオルを差し出してもらえるだけでも幾分と助かるよ。
これから競輪学校での一年は男の汗臭さに塗れざるを得ないからね、風羽さんがいてくれるだけで随分と環境が違うよ」
ξ゚听)ξ「……アンタ、それって私への遠まわしの当てつけに聞こえるんだけど」
(´・ω・`)「いや失礼、津出師匠のことは言わずもがなとあえて言わなかっただけさ」
ξ#゚听)ξ「どこの口がそんな事を言うのかしら……」
(*ノωノ)「……先輩、大丈夫ですか?」
(;´ω`)「……ッ、……ッ!!」
(頭クラクラでツッコム余裕なんてないお、苦しいお……!
所歩はどれだけ化け物的なんだお……!)
体全体で息をする内藤を傍目にする所歩、結果的にやはり彼の存在は内藤に多大なる影響を及ぼした。
津出一人では、おそらくこれほどまで内藤の底力を引き出すことはできなかっただろう。
なにせその津出こそ、内藤と師弟の契りを交わした時よりずっと、この秋試験において競輪学校に合格できる実力をつけられることを目標と据えていた。
ところがリハビリ期間があったにもかかわらず、とりわけこの七月より所歩が内藤の練習に積極的に協力し出してからというもの、その伸びは著しいものだった。
津出が作ったメニューを、所歩が一緒に走る事で最大限に効力を引き出させ、風羽がそのアフターケアをする。
練習後はボロ雑巾のようになる内藤だが、風羽はマッサージを勉強して常に体調子を整え、炊事洗濯なども引き受けていたおかげで彼は気兼ねなく打ち込むことができた。
幾度止めたいと思ったことか、なぜこれほど頑張ってるのかという彼の疑問は、風羽がすべて吹き飛ばした。
それほどに彼女の存在は大きく、彼を常に優しく抱擁していた。
- 98
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:59:24.78 ID:raN78Cfe0
- 9月、一足先に合格をものにしていた所歩は、競輪学校入学前に一時実家へと帰るため、内藤の元を去った。
( ;ω;)「所歩……憎たらしい奴だと今でも思っているけれど、……いなくなるとまた寂しいお。
明日からの練習が一人だと思うと、正直残念な気持ちが大きいお」
(´・ω・`)「だったら競輪学校に来ることだね、そうすれば否が応でも毎日顔を合わせることになるさ」
半年遅れで入学して来いと、この秋試験で受かれと言いたいのだ。
さばさばした受け答えの中に垣間見える戦友の証は、二人の関係を明確に示していた。
(´・ω・`)「津出師匠も喧嘩相手がいなくなって寂しいだろうが、落ち込まないでくれ」
ξ--)ξ「誰が寂しいよ、いちいち小うるさいヤツね、いなくなって清々するわ。
まぁ競輪学校での様子はまた報告してね、待ってるから」
(´・ω・`)「内藤と風羽さんに連絡するから、勝手に伝え聞いてくれ」
ξ#゚听)ξ「アンタって本当に弟子の実感ないでしょう?」
所歩がいなくなったことで士気が下がるかとの懸念があったが、思いのほか内藤は躍起に頑張った。
試験が近くなっているのだ、高ぶる心を練習をこなすことで発散する方が先決だったのだろう。
なまじか十分に力をつけ、合格タイムも何度か出せるようになっていたからこそ、志は目の前だけをしっかりと見据えていた。
- 99
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:01:30.91 ID:raN78Cfe0
- そして試験日当日、そのころには1000mを十本走れば、うち五本は規定タイムを上回る程度の力はついていた。
確率で考えれば五分と五分、しかし本番はたった一発きりの勝負だ。
通常以上の力を振り絞ってタイムを上回るか、それとも一発勝負のプレッシャーに呑まれるか。
津出と風羽は緊張で気が気でなかったが、反面内藤は落ち着きはらっていた。
練習以上のタイムは出せる、そう信じて疑わなかった。
それこそが様々な人たちへの最高の恩返しとなるのであれば、記録が出ないわけがない。
自信は心を強固にする。
その日、内藤から風羽への電話は、見事な朗報を伝えた。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:03:43.37 ID:raN78Cfe0
- (*ノωノ)「先輩、おめでとうございます!」
( ^ω^)「ありがとうだお、これで……少しは皆の期待に添えたことができたと思うお」
(*ノωノ)「はい、でもこれからが一番大切ですから気を緩めずに、ですよ」
( ^ω^)「分かっているお、風羽……炊事に洗濯、マッサージと色々沢山迷惑かけたお。
間違いなく風羽の存在なくして僕はここまで来れなかったに違いないお、本当にありがとうだお」
(*ノωノ)「止めてください先輩、私が好きでやったことなんですから」
( ^ω^)「……それで、風羽。僕は入学までの三ヶ月あまりは、実家に帰ろうと思うお」
(*ノωノ)「……え?」
( ^ω^)「皆の力で競輪学校の試験に受かったけれども、今後は自分一人、おのれとの戦いになると思うお。
競輪学校の試験合格は登竜門でありかつ通過点だお。
大きな恩返しが終わったから、次は自分と向き合い、戒める時だと思うお」
(*ノωノ)「……」
( ^ω^)「だから風羽は……風羽の道を進んでほしいお。
僕に合わせずに、学校を優先して……一年間余り、もし許されるならば僕のことを待っていてほしいお」
(*ノωノ)「……先輩がそう言うなら、私に断る権限はありません。
だから、寂しいですが……分かりました。
その代わり――
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:05:55.99 ID:raN78Cfe0
- J( 'ー`)し「おめでとう、入学は春だったかしら?」
( ^ω^)「そうだお、それまでは練習三昧の日々だお。
タイムもちょっと危なかったし、ここで気を抜かないように気を引き締めるお」
J( 'ー`)し「そう……いいことね」
( ^ω^)「それでカーチャン……さっそく迷惑をかけるようで申し訳ないけれど……
実家に、勝手気ままな息子の居場所は、まだ残っているかお?」
J( 'ー`)し「ええ、歓迎するわよ。
アンタの部屋なら、たまに掃除するだけでそのままの姿で残っているから」
( ^ω^)「ありがとうだお」
そうして内藤は春までの半年ほどを、実家にて過ごした。
それまでは風羽と共に暮らしていたが、彼女も大学の学業をおざなりにしてはならぬと、内藤はその選択に踏み切った。
実家は舗装もされていないあぜ道だ、毎朝自転車を担ぎながら電車に乗って町まで出ると、そこから競輪場へとアップがてら一時間余りバイクに乗る。
その後、津出と合流して練習をする、毎日がその繰り返しであった。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:07:22.81 ID:raN78Cfe0
- ( ゚∀゚)「よう内藤、試験に受かったらしいじゃないか、『ギリギリ』で」
(;^ω^)「余計なお世話ですお、長岡さんのところも、茂羅さんが会場で一番速い記録を出していましたお」
( ゚∀゚)「あいつは元々試験に受かるだけの力は余裕であったよ、ただ春試験は所歩にやられてスランプでボロボロだっただけだ。
それに記録は良かったが、他の会場を加えると今期生で二番目の記録らしい。
戻ってくるときは一番になってくるって息巻いているよ、お前にも一度たりとも負けないともなw」
( ^ω^)「上等だお、在学中に一度はその尻尾掴んでやるお。
そうじゃないと、所歩と走ろうなんて夢のまた夢になってしまうお」
所歩がいなくなり、合格が確定すると、以来内藤はこの茂羅との練習がメインとなっていく。
茂羅とて相当の選手であり、内藤から見れば化け物じみている点では所歩と同じであった。
(;・∀・)「はぁ……はぁ……、どうしたよ内藤、ぜんっぜん、追い付けねぇじゃねぇか……はぁ」
(;^ω^)「んだお、そっちこそさっきは余裕面だったのに、今回はギリギリじゃないかお……ぉぇ。
……あと、五本だお、あと五本やれば抜き去ってやるお……」
(;・∀・)「おー、言ったな、……、絶対だぞ絶対、勝てるっつったな?」
(;^ω^)「おおお、あと五本いくお!」
ξ;--)ξ(やれやれ……)(゚∀゚;)
それでも所歩ほど底が見えぬような歪なる恐怖は感じられない、所歩とはまた違った方向で切磋琢磨し合える相手であった。
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:10:05.70 ID:raN78Cfe0
-
そして春――
( ^ω^)「それじゃ、行ってくるお」
J( 'ー`)し「行ってらっしゃい、くれぐれも、怪我だけは無いようにね」
ξ゚听)ξ「手を抜かず、しっかりと頑張ってきなさいよ」
('A`)「おう、いよいよだな、頑張って来い」
(*ノωノ)「行ってらっしゃい、先輩。
私は、待っていますから……一年でも、それ以上でも……」
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:12:16.52 ID:raN78Cfe0
-
( ^ω^)『だから風羽は……風羽の道を進んでほしいお。
僕に合わせずに、学校を優先して……一年間余り、もし許されるならば僕のことを待っていてほしいお』
(*ノωノ)『……先輩がそう言うなら、私に断る権限はありません。
だから、寂しいですが……分かりました。
その代わり――
(*ノωノ)『一年後、今度は内藤先輩の方から迎えに来て、ちゃんと告白してください。
私待っていますから、いつまでも、先輩からの告白を』
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:15:23.78 ID:raN78Cfe0
- 競輪学校では基本的にはルームメイトと茂羅と共に練習に励んだ。
とりわけ底力はあれどそれを活かすだけの基礎がまだまだ成り立っていない内藤だ、その力任せの走りは見る者の闘志をかきたてた。
所歩とはたまに顔を合わせもしたが、彼は彼で別の知り合いを見つけており、挨拶を交わすだけが多かった。
そもそも所歩はすでに競輪学校の歴史上においても、そしてかの布佐と比べても遜色ない記録や実力を身につけており、
歴代でも数人しかかぶることを許されなかった卓抜の証である「ゴールデンキャップ」なるものも、内藤が入る以前に一度かぶっていたそうだ。
それだけに彼は極めて異色であり、生徒たちの羨望の視線の中にいたから一新入生である内藤には遠い存在だ。
それでも時間のある時には二人して話に花を咲かせもしたし、茂羅がそこに加わることも多かった。
競輪学校の一年間、それはなにも完全な缶詰ではなく、夏季休暇には家に帰される。
しかし内藤はその時も風羽と連絡こそすれど顔を合わすことはなく、津出の元、久しい空気で修練に励んだ。
秋、所歩が競輪学校を一足先に卒業していき、後輩たちが入学した。
年明けには所歩の初レースがあり、彼は内藤の心配をよそに、しっかりとデビュー優勝を掻っ攫っていった。
それでも決勝レースでは明らかに全員からマークされており、薄氷の勝利であった。
鮮烈に、そして課題を残しながらも、所歩は競輪の長く険しい門出を見事に飾ったのだ。
そして、再び春が訪れた。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:18:40.80 ID:raN78Cfe0
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( ^ω^)「ただいまだお」
(*ノωノ)「お帰りなさい、先輩」
( ^ω^)「随分と、高校時代から本当に長く時間を要したお。
それでも僕のことをまだ待っていてくれたのであれば……もう一度、僕を支えて欲しいお」
(*ノωノ)「はい、よろこんで!」
( ^ω^)「ただ、競輪学校の期間借りていたお金の返済もあるし、もう少し待ってもらう事になりそうだお……申し訳ないお」
(*ノωノ)「もう少し……待つ?」
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:19:15.60 ID:raN78Cfe0
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( ^ω^)「結婚だお」
(*ノωノ)「……っ!」
( ^ω^)「……」
(*ノωノ)「……はぃ……」
( ^ω^)が競輪に挑戦するようです・END
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