6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:53:34.45 ID:raN78Cfe0
     第二十八レース「母親と父親」


トンネルを抜けるとそこは……そんな表現がつい口を突いて出るほどに、山を一つ抜ければ周囲は見渡す限りの自然一色だった。
盆地にある集落、発展していないわけではないが、とても若い者たちは住めないだろう田舎に内藤の実家はある。

近くの町までは車で15分ほどと、意外にも近いがどうして、あぜ道を通らねば隣の家へも行けぬほど発展とは程遠い過疎地域だった。


春の到来と同時に芽吹き始めた周囲の鮮やかな緑を傍目に、どこか寂しさを感じさせる殺風景でもあった。

元々何ら特別な考えがあったわけでもないが、内藤は幼い頃よりずっと都会に出たいと思っていた。
母親が苦手であったが嫌いという事はない、ただ田舎にいる故が、漠然とそう感じていたのだ。
だからこそ、高校になると同時に都会へと通い出し、大学では一人暮らしを選択したのだ。

都会に出て以来、田舎風景の素晴らしさを感じたと同時に、田舎には激しい空虚感が共存しているという事実に気付くのだ。


いや、こと今回の気持ちの重さについてそれらは一切関係ないのだろう。
あくまで拍車をかけているただそれだけであり、真の要因は母親との仲違い、そして父親が異なるという事実なのだ。

( ^ω^)「……懐かしいお」

以前帰ったのは、年末にもなっていない、11月の下旬ごろだっただろうか。
競輪という道を見つけたばかりで、心の整理がつかぬまま話をしに行って意見の相違を起こした。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:55:13.94 ID:raN78Cfe0
他人に相談するとき、すでに本人は結論を出していると言われるがなるほど、あの時の内藤はおそらく結論が出ていたのだろう。
親が何を言おうとも反対したかったのだろう、いや、親が怒るのを分かっていて発言し反抗することで、競輪の道を進む理由付けをしたにすぎない。


今なら良く分かる、当時の独りよがりで、何にでも反抗したかった自分。
何一つ自分で決められないからこそ、他人を挑発まがいに囃しては、自分の心を目的にそっぽ向けることしかできなかったのだ。


( ^ω^)(……もう昔とは違うんだお)


そうは思おうとも、ただ母親だけは、気持ちを通わせられる気がしなかった。

コーチについては自分が悪かったのだと認められたからこそ、なんだかんだ渋りながらも素直になれたし、
長岡についても彼の過去を知り、彼という人間の側面を見直してしまったからこそ捻くれた形で認め合う事が出来た。

しかし親に限っては違った。
内藤はまだ母親のことが好きとは言いがたく、愚直に父親を崇拝する限り少したりとも心が靡く気がしなかった。
極めつけにその父親については諦めきって考えることすら放棄しており、今でも思考の整理をする気すら起こらないほどだ。


長い電車の旅を終えると、何十年と舗装されていないだろうデコボコの道を歩き、すれ違う人も少なく実家へと到着した。

気乗りしない体に無理やり活を入れると、壊れていないのが不思議な色褪せた小さなインターホンを押す。
ドア越しに電子音が漏れ聞こえ、足音が近づいてくるのが分かる。

そして足音は玄関で止まると、草履に履き替えたのだろう、砂交じりの音がしたかと思うと、すぐにも門扉が開いた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:57:39.16 ID:raN78Cfe0
J( 'ー`)し「はい、どなたですか……」

( ^ω^)「……ただいまだお」

内藤を見た途端、母親は悲愴に顔を青くした。
いや、そうでなくとも元々少し太っていたくらいの体躯は跡形もなく痩せこけており、髪の毛は遠目にも細く色褪せていた。

たった数か月会わなかっただけだというのに、母親は十数年と時を経たかのような変貌様だった。


内藤は途端、実家に戻ってきた時とは比べものにならないほど強烈な虚空感に駆られ、ともすればその場に座り込んでしまいそうだった。


親の生気ない目に見つめられ、絶句しながらに心が捻り潰されんが程辛かった。
父親を失い、子を失った独り身の女が辿る末路が垣間見え、あと一歩遅かったらどんな結果となっていたかと身震いした。


母親は子を見ても、しばらく茫然としていた。
少しでも微笑みかけてくれと内藤は終始祈っていた、その祈りが通じるまでに、十秒はゆうに経過していただろう。

J( 'ー`)し「おかえりなさい」

その僅かな笑顔に、助けられた思いだった。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:59:20.71 ID:raN78Cfe0
本来であればけじめをつけにきたのだ。
競輪選手になるために、特に競輪学校に入ってからは一年は缶詰だから親と会う事など到底ままならない(もっとも一時的に帰宅する機会はあるが)。

それよりも何よりも、毒男に後ろめたいままというのが嫌だった。
沢山のものを与えてくれた彼へのせめてもの懺悔、そして内藤自身さっぱりと過去を清算して競輪学校へと挑みたかったのだ。


しかしそれらの打算はすべて吹き飛んでしまった。

悔しい程に母親への同情心が働き、何も言えなくなってしまったのだ。
母親に言われるがまま、台所のテーブルに座り、ただ何一つとやることもなく時間を持て余しながら夕食を準備する母親を見ていた。


化粧も洒落っ気も無い貧相な風貌、いつから使っているか分からない黒ずんだ鍋、清潔とは言い難い粘つくテーブル。

それら全てが母親なのだと感じて、「なんのためにこの人は生きているのか」などと哲学的なことが頭を舞った。


悲しくなった。

ただただ、悲しかった。


かぼちゃの煮物が出来上がると、周囲が溶けきったしゃもじで僅かに黒ずんだひび割れの見えるお椀にご飯をよそい、内藤の前に差し出した。
次いで自分の分を準備すると、母親もようやく腰をかけ、二人して食事を始めた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:01:11.61 ID:raN78Cfe0
互いに思うところがあったのだろう、話すべきことは沢山あるにもかかわらず、食事をしながら時折り

J( 'ー`)し「元気しているかい?」

( ^ω^)「うん、今年は風邪もひいていないお。カーチャンは?」

J( 'ー`)し「ありがとう、大丈夫だよ」

だなんて当たり障りのない無味乾燥な話を繰り返すだけに留まった。


食事が終わると、そのまま風呂へと促され、逃げるように洗面所へと移動した。
そしてどっぷりとお風呂に浸かると、内藤は大きくため息をついた。

言い知れぬ悲しさの荒波に、今は自分の事など小さく些細なものにしか思えなかった。

何よりもここにいる母親が、普段どんな一日を過ごし、何のために一日一日を過ごしていたのだろうと考えると、
あまりに意味が見つけられない物寂しさに胸が引き裂かれるようで、酷く居た堪れなくなるのだった。


しかし内藤に反し、母親はしっかりと今日という日を想定していたのだろうか。
風呂から出てくる彼へと、父親の位牌の前に呆然と座り込みながら声をかけた。

J( 'ー`)し「ねえ、ちょっといらっしゃい」

( ^ω^)「……」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:03:27.38 ID:raN78Cfe0
何を言われるのかと覚悟した。
やはり競輪を止めろと言うのだろうか、それならまだいい。
私のことを忘れて競輪を精一杯頑張りなさいなどと言われてみろ、一体その時自分はどんな顔をしてどんな返答をすればいいのだ。

内藤は口を強く締めたまま、俯いて母親の前に座り込んだ。

J( 'ー`)し「どうかしら、最近は、元気にしている?」

食事のときと同じような質問ではあったが、意外なほど口調はしっかりとしていた。
声からでも存分に母親の覚悟と強かさが垣間見えた。

( ^ω^)「僕は元気にしているお、見ての通りだお。
  そういうカーチャンはどうなんだお」

J( 'ー`)し「私のことは良いから、それでね、どうなの、競輪の調子は?」

さも当然のようにそんな言葉を出してくるものだから、内藤はまるで心臓が一瞬停止したかのように感じて言葉に詰まった。

あまりに自然過ぎる流暢さに、母親の思考が一切読めなかった。
反応を見るための質問か、暗に認めていることを示唆してくれているのか、一転この後に突き落としてくるのだろうか。

とどのつまり、このような聞き方をされたのでは正直に答えることしかできないのだ。

( ^ω^)「自己評価を挙げるならとても高くはないけれど、頑張っているとは言い切れるお。
  もうすぐ競輪学校の試験があるんだお、だから、その前にはっきりさせておこうと思って今日は来たんだお」

J( '-`)し「そう……」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:05:03.94 ID:raN78Cfe0
「はっきりさせる」、その意味はみなまで言わずとも伝わろう。
昔から自分勝手で内弁慶で、何かにつけて口うるさく威張っていた内藤が、今こうして自らをもってしてどっしり面と向かっているのだ。

「親の許可」というものを求めてきたのだ、その決心の強さや内藤の心の是正は否応にも分かろうというものだ。
以前の内藤であれば親の事など顧みずに、己の本能のまま猪突猛進につき進んでいたに違いない、変化は如実に捉えられることだろう。

しかし、だからといって誠意だけで解決する問題ではないのだ。
二人の個人が、我を賭けて対面しているのだから。

J( '-`)し「私が競輪をやめろと言ったのなら、あなたはやめるのかしら?
 だったらやめて」

( ^ω^)「……」

J( 'ー`)し「でも、そうじゃないなら……頑張って、精一杯」

母は偉大なものだ、その笑顔を見た時に内藤は思った。
昔のように一時の気持ちに心を乱しては揺らがせ、その都度別方向へ考えを固めては自暴自棄に振舞うような子供ではなく、
一つの意見を持ち周囲との調和を守りながらも自分を貫き通そうとする意志を持つ大人へと、内藤が育ったことを認めてくれたのだ。

母親の言いたいことはよく分かった、自分の意思で、その道を選べと言いたいのだ。
子供ではなく大人になったと、自分の足で進んで示せと言いたいのだ。

( ;ω;)「カーチャン……なんで……」

なんでそうも子を思い遣れるのか、家族というものの偉大さを知った。
いつか自分も一人の父親となったとき、このように振る舞えるのだろうか、その心は今の彼には想像できないほどに遠く広漠な御心だった。

これが親なのだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:07:42.89 ID:raN78Cfe0
目を母に向けたまま、内藤の頬を涙が伝った。
こらえきれずに流れた一筋の涙だったが、それだけで母親は満足だった。

J( 'ー`)し「本当に、この前はごめんね。
  本当にゴメン……でも、だから、お願いだからお父さんのことを悪く言わないで欲しいの」

( ;ω;)「……」

内藤はそれでも首を横に振るったが、母親はゆっくりと、とつとつと語り始めた。

J( 'ー`)し「あんたはね、そう、それは嫌な思い出しかないでしょう……でもね、私にはあの人を悪く言えないの。
  あの人は元からあんな人じゃなかったの、付き合い出した当初は学者になりたいだなんて言っていてね、
  しがないエンジニアだったけれど、本当に生真面目な人だったのよ」

元来の父親はまじめ過ぎるのがキズなほど、一辺倒な人間だった。
仕事も残業ばかりでなかなか家に帰ってこない父親のため、二人は比較的晩婚な家族だった。

結婚して子供の欲しい母、真面目な父親は仕事が落ち着いたらと、ずっとそれを後回しにしていた。


それらが二人の関係をモノクロームのように淡いものとしていったことは紛れもない事実だ。

真面目な父親は男は仕事だと常々言っており、子が生まれた時の養育費のためとどこまでが本気とも取れぬ理由とともに仕事ばかりに励んでいた。
しかし母にとっては夜遅く帰ってくる父、結婚も一段落ついてからだと言われてしまえば、家でただ待つだけだ。
同棲しながらにも、そこに「浮気」という疑念が付き纏わぬわけがない。

一度怪しんでしまえば加速的に粗捜しをしてしまうだろう、常に一人侘しいばかりの母親はただ黙っていたが、実際に探偵に浮気調査を依頼したこともあったほどだった。
もっともその結果は白であり、それが自己嫌悪を強めながらも、真白であればこうも自分を蔑ろにして仕事に打ち込んでいるはずがないと、
行動してしまった手前だろう、自己の正当化のために疑念までをも一層強めた。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:10:04.99 ID:raN78Cfe0
しかし当然だろう、朝六時に起きるとすぐに朝食をとって家を出、夜は夕食を済ませて十時に帰ってくる、その後は風呂に入って寝るだけだ。
そんな生活で干渉できることは、朝食を作ることと風呂を沸かすことだけ、よくもまあそれで三年ともったものだと思う。
口約束だけの婚約に、よくもそう愚直に待てたものだと思う、自分事ながら母親はその健気さの異常さに気付いていた。

三年間我慢した堤防を崩壊させたのは、知り合いに合コンに誘われたことがきっかけであった。
ちょうどその日は父親が出張だという絶妙なタイミングに心揺さぶられながらも、フィアンセがいる旨を伝えた母だったが、構わないと相手は言い出した。

  「それに同棲していても、結婚もしていないし子供もいないんでしょ?
  ただの恋人と一緒じゃん、よくその歳になってそんなに素直に待っていられるわね、尋常じゃないわ」

別に浮気をしてやろうとか、裏切ってやろうという気持ちは微塵ともなかった。
魔がさしたというと聞こえが良すぎるだろうが、実際女性としてはギリギリの年齢、
何一つと男女の付き合いができぬ奴隷のような生活だったのだ、目の前に提示された楽しそうな風景を絵の中の餅と指をくわえて見ているのはあまりに酷だ。

そうして合コンへと参加する羽目になったわけであるが、さて、そこで出会った内の一人こそが、父親の上司であったのだ。
その夜、普段飲まぬ酒に呑まれた彼女はまるで藁にもすがる思いで家のことをその上司に話し、なんとかして欲しいと懇願した。

あまりに夜遅くなってしまい終電を逃した上司を引き止め、家に連れ入れてずっと話を続けていたのだ。
上司がまた人情派であって聞き上手であったため、母親はその鬱憤を薙ぎ払うために夜中眠気や疲れを忘れてすべてを吐きだした。

もっとも異性を家に招き入れるなど酔っていなければとてもできない、到底正気の沙汰とは思えぬ愚行であった。
別に疚しい行為を行ったわけではない、それでも男女が一晩を明かしたという外見上の事実は体裁上とてもよろしいものではなかった。


父母は倦怠期になってはいたが、それでも幾度か行為をしていたのだ、腹に携えた子が丁度この時期のそれと合致していたのは偶然としか言いようがなく、運の尽きでもあった。
母親はそれでも件の一夜がばれるなどとは夢にも思ってもいなかった。
何よりもその行為を後悔し、ひどい自己嫌悪に心を悩ませたのは他の誰でもない母親自身だ。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:12:41.45 ID:raN78Cfe0
父親が、如何にしてその子が自分の子でないと考えるに至ったかは分からない。

その子は間違いなく二人の間の子であったのだが、父親は一体どうしてそれを訝しむに至ったのであろう。
件の一夜に自己嫌悪する彼女の暗鬼な態度からそこはかとなく感じ取ったのかもしれないし、不運にも父親とは似ても似つかなかった頬や鼻筋からかもしれない。
子はまるで父の子ではないと主張するかのように、あたかも有りもしない事実が水面下に隠れているかのように、風貌は父とはかけ離れていた。

後より振り返れば、元々父親も母親のことを訝しんでいたのかもしれない。
どうして仕事一辺倒の自分との結婚を黙って待ち続けてくれるのだろうと邪念が奔り、出張だったあの日、探偵にでも調査依頼していたのかもしれない。


子を授かったことで二人は結婚に至ったが、結果、父親は煙草を吸い、酒の量が増え、子のためと溜めこんだお金はギャンブルへと消えていった。
暴れては手をあげることもあったが、母親にそれを咎めることはできなかった。
それ以上に彼女は自分自身を責め苛み、父を悪くしか思えぬ子へとひたすらに父親を説いた。

そして何よりも、ギャンブルを嫌悪したのだ。

それのせいにしなくては、母親は心がもたなかっただろう。
父親は仕事熱も冷めきってしまい、毎日ギャンブルや居酒屋で夜遅くなる始末だ、結果結婚前の三年間と同じような生活を繰り返したのだ。


全ての勘違いを招き、誤解の引き金を引いたのは自分だったのだ。

J( ;ー;)し「後ろめたいことがあると、事実と異なる仮想すらも正せず、本当に何も言えなくなるものね……
  本当であれば離婚するくらいの気持ちを持って、トーチャンに言ってやるべきだったのよ、お酒やギャンブルは止めなさいと。
  何を言われても、トーチャンを助けてやるべきだったのに……駄目なカーチャンは保身に走っては、あの人を……」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:14:42.07 ID:raN78Cfe0
ああ、そうなのだ。
だから父親はああも手前勝手に暴れ、自分本位な行動をしていたのだ。
そうせねばやっていけなかったのだろう。

後ろめたい母親はただ相手の言う事に従うばかりで、自分を責めながら健気に過ごすしかならなかったのだろう。


今にして思えば、これと同じような関係があったではないか。


かつてより父親を反面教師とし、彼のようになりたくないと思っていたのに、父親が違うと言われた瞬間のあの空虚感。
ふと、長岡が競輪を止めると聞いた時の感じを思い出した。
どこか相手を信じていたのだろう、それゆえの筆舌に尽くし難いもどかしき感情。

J( ;ー;)し「父が違うなんて嘘ついてゴメン、あんたは、あんたは本当にトーチャンの子供なんだから……だから……」

( ^ω^)「……カーチャン、それでもやっぱり、トーチャンを殺したのはギャンブルでもカーチャンでもないお、トーチャン自身だお。
  だからカーチャン、ギャンブルを……競輪を嫌悪しないで欲しいお。
  代わりに僕も、トーチャンを嫌いだなんて言わないから、好きだって言えるように頑張るから」

J( ;ー;)し「……うん、もしあんたが競輪の道を進むというのなら、私はきっと許せると思う。
  許すだなんて本当傲慢な意見だけれど、それでも心が少しは楽になるかもしれないわ。
  だって、それでもアンタは私とトーチャンの大切な子供なんだから」

( ^ω^)「カーチャン、競輪学校は一年間あるんだお。
  だから、一年……いや、これからなら二年はかかるかもしれないお、その間これまで以上に迷惑かけると思うお。
  それでも、いずれ絶対に迎えに来るから……だから、もう少しだけ子の我儘を許して、待っていて欲しいお」

J( ;ー;)し「心配しないで、待つのは慣れているから。
  だからアンタも本気で頑張って、どこへ行ったってカーチャンは心から応援しているから」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:16:24.47 ID:raN78Cfe0
細くやつれた母親の体を強く抱きながら、内藤はその圧倒的な存在に感佩した。
絶対に迎えに来ると、母親の居場所は作ってやるからと、ただ強く抱きしめた。

なんだ、心が通わせられるか、互いを認められるだろうかという懸念など不要ではないか。

やはり親と子だ、どれだけの仲違いをしようともこうして一緒になれる。

こうして一つに向かって協力し合える。

理解し、分かり合える。


母親への絶対偉大な感謝とともに、内藤は一人の女性を思い浮かべた。

そう、最もカタをつけねばならぬ事項であり、ついぞ向かう勇気が持てなかった女性。

しかし今は違う、母との蟠りが払拭され、同時に彼女への気持ちや思い、その背景がおぼろげに見えてきたのだから。
今ならば素直に謝れる、そして一緒に話ができる。

今更ヨリを戻そうなどと虫のいいことは考えていない、ただ、彼女とこのままでいることだけは……どうしても、できなかった。


今こそ、彼女とも話をつけるべき時なのだろう。



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