5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお:2008/12/11(木) 19:48:57.65 ID:wB5nWuW/0
     第二十六レース「陸上と指導」


その日も夕刻には一通りの練習を終え、内藤と所歩は最後のダウンとストレッチに取りかかっていた。

二人して柔軟などを行っていると、否が応にも仲間意識は芽生え、育っていかざるを得ない。
特に内藤は誰よりも自身に厳しいつもりであったこそ、それ以上に己に妥協を許さない所歩には敬服にも似た一心を抱いて練習にも励みが出るばかりだ。
だからなおのこと、一緒に競輪学校試験が受けられない事実はなんとも残念であったのだが。

(;^ω^)「さて、とりあえずこれで終了かお……」

(´・ω・`)「そうだね、ちょっと僕は追加でアキレス腱を伸ばしておくよ。
  最後のタイムトライアルで、ちょっとつりかけたから心配でね」

(#^ω^)「む……だったら僕も――」

ξ--)ξ「はいはいお疲れお疲れ。
  それで内藤、毒男さんが来て今玄関で待っているわよ」

(;^ω^)「mjd? うーん……それじゃ悪いけど、今日も早々に抜けさせて貰うお」

ξ゚听)ξ「どうぞどうぞご自由に、それじゃ所歩、ちょっと片付け手伝いなさいよ」

(´・ω・`)「ああ、ストレッチが終わったらでもいいかい?
  筋肉がカチカチでね、入念に行いたいからもう少しだけ時間を頂きたいよ」

ξ゚听)ξ「おっけ、それはあんた次第だから合わせるわよ。
  内藤、自分のピストだけはしまっていってね」

( ^ω^)「了解だお」

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお:2008/12/11(木) 19:51:08.58 ID:wB5nWuW/0
その手でピストを指定場所へと仕舞いこむと、すぐにも競輪場から外へと飛び出した。


すでに時間は18時を過ぎており、三月末で陽が長くなれども暗みを帯びる時間帯だった。
毒男を見つけると二人して軽く挨拶をかわし、手短に件のビデオを手にしたから見ようという旨を伝えられた。
内藤も体が冷える前にと分厚いジャンバーを着こみながら、もう一度簡単にストレッチをしてバイクにまたがる。

('A`)「とりあえず俺ん家に来たら、風呂入るといいさ。
  そんでストレッチしながらでもビデオを見よう」

( ^ω^)「そんな、お風呂まで入らせてもらうなんて、お母さんがいると悪いお。
  別に僕の家に来てもらっても構わないお?」

('A`)「でもお前って一人暮らしだろ?
  ビデオデッキなんてあるのか?」

今の御世代だ、ビデオと呼びながらもDVDを指しているかと思えば、真のビデオのことを指していたとは盲点だ。
内藤は泣く泣く折れるとバイクに跨り、エンジンをかけてロードに乗る毒男と並走して暗い道を走った。


おおよそ十数キロか、二人が家に着くころには完全に陽が落ちており、辺り一帯は外套の無さも相まって非常に暗かった。
バイクのライトを頼りに毒男の家に到着すると、緊張した面持ちで家の中へとお邪魔する。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 19:53:23.66 ID:wB5nWuW/0
( ^ω^)「こんばんはー」

  「こんばんは、あらあら、あなたが内藤君ね?
  毒男がいつもお世話になっています」

(;'A`)「いいから、カーチャンちょっと風呂の準備してくれよ!」

  「はいはい」

恥ずかしそうに親を奥に引っ込めさせると、毒男は二階にある自分の部屋へ内藤を案内した。
中に入ると意外や意外、こざっぱりとしており、とても今時の男児の部屋とは思えなかった。

('A`)「いや、競輪学校に入る前に全部片してそのまんまなんだよ。
  CDや雑誌は捲ったけれども、他は手つかずだな。
  几帳面でもないくせに、いざ段ボールに綺麗にまとまっているとどうも散らかし難くてさw」

これが半年後の自分の部屋になるのだろうかと、内藤はどこか寂しい思いで眺めた。
無駄に広く色の無い部屋、これではまるで実家の内藤の部屋、そのものではないか。
彼が一人暮らしを始めて部屋の主がいなくなったにも拘らず、物置にすら使われずにただ私物だけがまとまって存在する空虚な部屋。

いや、比べるべくもないほど、よっぽど毒男の部屋の方が人の息が感じられる。
ただ一つのことに向かって邁進する人間が唯一安らぎを得られる静寂の寝床と、住人のいない死んだ部屋を比べようなど随分と野暮ったいことをしたものだ。

( ^ω^)(……)

それより何より、あれだけ酷烈な別れ方をした親と今更どんな顔を下げて会えばいいのだろうか、改めてそれを思った。
母を裏切り、父親が違うと暴露された今、家族という繋がりすら危うい。
もう部屋など物置となっていて欲しい、できる事ならばこのまま一生会いたくないと、切実に心が訴えかけてくる。

そのくせ、先の毒男のように恥ずかしがる子供と世話を焼きたがる母親との、ちぐはぐでありながらも魅力的なやり取りに心が揺さぶられてしまうのだ。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 19:55:48.72 ID:wB5nWuW/0
軽く近況報告をして時間を潰していると、お風呂が沸いたようで、毒男は気遣って内藤に一番風呂を譲ってくれた。
さすがに汗だくのまま浴槽にダイブすることには気が引け、しっかりと体を洗ったのち、湯に浸かって一日の疲労を目一杯流した。

風呂が終わると夕食を馳走になり、ようやく一息つくと、そのビデオに向き合う事となった。


('A`)「それじゃ、再生するぞ?」

( ^ω^)「頼むお」


再生位置を合わせてくれていたのだろう、ビデオを再生すれば、すぐにもKEIRINグランプリの決勝戦が画面に映し出された。
映像ではレース前の「足見せ」と呼ばれる、直前における選手たちの体調や仕掛け方の見せが始まっている。
ここで今回のレースにおける位置取りや隊列が大まかに披露されるのだ。

どうやら布佐と長岡は同じライン(隊列)を組むようだ、これを見て内藤は本当にあの二人が親友なのだなと再認識した。
見た目では些か長岡の方が年上に見えたし、実際資料でも三つ四つ年上だったように思うが、一体どういった経緯で彼らは知りあったのだろうか。
競輪学校では同期のはずだが、歳の差があるという事は長岡は何度か試験に失敗しているのだろうかと、憶測は独り歩きした。

映像を見る限り、出場選手九人は4−3−2の隊列に分かれるようだ、長岡たちのラインは二人しかおらず、人数からして不利な展開が予想される。
それでも布佐が一番人気となっているあたり、彼の実力が飛び抜けているのだとまざまざと感じさせられた。

選手の紹介、そして人気や展開予想についてアナウンスが流れたのち、いよいよレースが始まろうとする。
発射台に構える九人の選手と誘導員、静寂に支配される場内。


そして閃光、鳴り響く音。

いっときの静寂を挟んだ後、場内が一斉に沸いた。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 19:58:19.92 ID:wB5nWuW/0
同時に九人はピストを走らせる、以前観戦した時のように互いが互いを牽制し合う素振りは無く、
事前に打ち合わせでもしていたのかと思うほど九人それぞれがスムーズに動いては、前から3−4−2のラインを形成した。
布佐と長岡の二人組は、布佐−長岡の順で一番後ろに追いやられている。

初めの一周が終わろうとしたとき、布佐と長岡は前の隊列にじわじわとかぶさっていく。
そのままスピードを上げると、誘導員の後ろにまであがり、最前の3人ラインを押しのけて誘導員の直後に割り込んだ。
これで戦況は先頭から2−3−4となった。

('A`)「順当だな、布佐さんの実力、そして長岡さんの番手技術を考えるならこの位置がいいだろうな」

( ^ω^)「番手は……二番手の選手のことだったかお?」

('A`)「そう、番手って言うのは後ろから抜きにかかってくる人たちから、体を張って先行選手……ここでは前を走っている布佐さんを守るんだ。
  先頭は当然風を受けるわけだが、その後ろの選手もボーっと風除けをしているわけじゃない、その身で目の前の選手を守るんだ。
  共に闘う仲間でもあるからこそラインは大切であり、ライン同士の戦いもあるからこそ強い選手が勝つとは限らないわけだ」

( ^ω^)「おおー、なるほど」

('A`)「番手っていうのは時には体を張るだけに、高い乗りこなし技術が要求されるわけだ」

ラスト二周を合図されると、全体のスピードが一気に加速しだした。
それでも誰一人として疲弊を見せはしない、安定した走りでスピードだけがぐんぐんと伸びていく。
まだまだ序の口なのだろうが、映像でもそのスピード感は手に汗握るほどだ、確かにこれが競輪の頂上決戦なのだと、内藤はごくりと唾をのんだ。

自転車に乗り始めたからこそ、遠目でも分かる、その突出した乗りこなしにスピード。
競輪を実際に行っている毒男からすれば、この何気ない映像からでもいくつもの小さな揺さぶりや打算が見受けられるのだろう。


そして鐘が鳴る、しかしまだ誰も動かない。
見ている内藤の体こそが疼きだすかのような、もどかしい、それでいて一触即発の危険を孕んだ、掘り返されでもした爆弾のようなスリルが背筋を冷えさせる。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:00:11.88 ID:wB5nWuW/0
そしてもう一度鐘が鳴り、先導がトラックの内に避け、一周半のせめぎ合いが始まった。

誰もが仲間を信じ、そして誰もが一番を目指してこのレースに挑んでいるのだ、その気迫は生半可なものではない。

先導がいなくなるとともにダッシュを仕掛ける布佐だったが、それよりも早く後ろのラインはスピードを上げていた。
三人のラインが布佐と長岡のラインにかぶさろうとしたが、すぐに長岡が横に動いてそれを遮った。

瞬間、三人組の先頭選手と長岡はその距離を紙一枚と通さないほどに接近した。
前輪と後輪が接触したのではないか、長岡は一瞬車体をぶらし、相手選手は大きく外へとふくれあがる。

(;^ω^)「危ないお!」

三人ラインの残りの二人が更に抜きにかかってくる、しかし長岡はさせるかと、すぐにもまた横に動いて牽制した。
先ほどのかなり危険なプレーを見ているからか、それともラインの先頭を失ったことからか、無謀には出れないと、残った二人は一旦引き下がった。

確認すると長岡は再び布佐の後ろについて、そのまま二人してスピードを上げていく。


しかしバンクに差し掛かると、次にはバンクの大外から四人ラインが駆けて来る。

(;^ω^)「今度は四人ライン……これは不利だお!」

それでも布佐はただひたすらに前だけを見て走っており、そこには長岡との信頼が感じられた。
布佐のスピードは相当なものなのだろう、四人ラインの先頭は全ての力を出し切ったのか、ここで脱落して後方へと流れていってしまう。
代わりに二番手が先頭となった三人ラインで、バンクのカント(斜面)を利用してスピードをつけると、カーブの終わりで仕掛けてくる。

もっとも猛然と逃げる布佐にはじわじわと近付くだけだ、一体そのスピードはどれほどのものなのだろうか、内藤には遠く想像に及ばなかった。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:02:24.27 ID:wB5nWuW/0
それでもラスト一周に差し掛かるころには、三人となったラインはすでに長岡の隣に並びかけていた。
しかしバンクに入る手前で長岡は少し外に膨れ、三人ラインに大外を回らせるようし向けた。
ここまでようやく追い付いたというのに、カーブで大外を回っては不利になると算段したか、仕方なく三人ラインは布佐の後ろに付き、2−3の連なった五人ラインとなって一つ目のバンクを超える。

同時、突然緩急をつけて長岡は布佐に並びかけた。
布佐もここで更に体を前傾とする、すでにずっと先頭で痛烈な風とぶつかってきたのだからその疲労は計り知れない、体は大きく左右にぶれる。

長岡に先に出られたことで二人が並走する形となり、後ろから抜くには大周りをする必要がでたわけだが、それでもここで攻めぬわけにはいくまい。
三人のラインは更に大外から抜きにかかってくる。
早くもラストスパートさながらの全生命力を収斂したペダルの回転だった。

尚そうは問屋が卸さない、長岡はさらに外へ向けて膨れて追い越しを妨害しようとしたが、そうすることで開いた布佐と長岡の間に一人の選手が果敢に攻め入った。
初期の三人ラインだ、先頭が脱落してしまったも、残る二人は後方でしっかりと戦況を見ており、今ここがチャンスだと無理やり光明を開けに差し入ったのだ。


長岡はさせるかと、布佐との間を塞ぐように今度は内へと寄ってみせる。

この二人組は一度長岡から引いている、しかしここは間違いなく試合の転機だ、引いてなるかと、構わず長岡と布佐の間をこじ開けようと割り込んだ。


互いに引かない、引けない。


(;^ω^)「ちょwwこれはあぶな――」


長岡とその選手が強く接触した。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:04:39.74 ID:wB5nWuW/0
瞬間互いに磁石のように反発し合い、長岡は大外へと弾かれたが、そこには大外から抜きにかかってきた選手がいる。
またそこで強く衝突するが、互いに無理やり体勢を正して持ちこたえた。

しかし接触相手は真横にいた布佐に見事に衝突した。
二人の距離は近すぎた、間髪入れずの両サイドからの激突に相手選手はなすすべもなく、その車体ごと布佐に体を預けざるをえなかった。

ペダルが絡まって鈍い音が響き、後輪が左右に大きくぶれるとそのまま車体は制御不能となり、二名は絡まりながら派手に落車した。
それだけでは終わらない、地面をスライドした体は後続車の進行場所に当たるのだ、後続の選手が二人、転ぶ選手めがけて正面から衝突した。


(;゚ω゚)「……」


目を背けたいほどに酷い状況だった。
転んだ直後の無防備な人間に向け、60km/hではすまないだろう速度のピストが突撃していくのだ。
寝ころぶ選手の姿はすぐにもカメラからフレームアウトしたが、響く阿鼻叫喚から後ろに続く選手と衝突したのは間違いなさそうだ。


カメラは先頭に焦点を当てており、紙一重落車を避けた長岡ともう二人の選手が映っていた。

逸早く体勢を立て直した長岡がピスト一台ほどのリードを保って先頭におり、最後のバンクに突入した。
そしてそのままの勢いで突き進み、後続は追いつくもあと一歩足らずで長岡に勝利を渡していた。


ゴールの映像とともに、カメラは転んだ選手たちを映し出していた。
大慌てで駆け寄る医療班たち、だらんと体を横たえる選手、その数は4人にも上った。
試合の結果は審議中と表示されるばかりで、まだしばらく発表されそうにはなかった。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:07:16.40 ID:wB5nWuW/0
('A`)「どうだ、これが件のレースだよ」

( ^ω^)「……。毒男、毒男はこれをどう思うんだお?」

('A`)「どうって、どうもこうもないさ、長岡さんの勝ちだろ」


ビデオでは、ようやく審議の結果が出たようだ。
今回について、布佐と長岡の間に無理やり割り込んだ選手に危険行為があったとみなされ、長岡選手は別段言い咎められることはないそうだ。

(#^ω^)「ふざけるなお、これが競輪なのかお、こんなものが認められるのかお!
  危険なのは誰がどう見ても長岡じゃないかお、分かったお、確かにこいつの乗りこなしはすごいお!
  でもそれで相手を転ばせて、自分は転ばずに優勝してヒーローだなんて都合よすぎるんじゃないかお!」

これで何を納得しろというのか、これでどうして長岡という男を憧憬できるのか。
確かに彼の言ったとおり、ぶつかりそうになって逃げに回れば同じラインが迷惑を被る、それは分かったがそれとこれは話が違う。
相手を誘導して罠にはめるのか、相手を誑かして勝利さえもぎ取ればいいというのか、だから努力は無駄だというのであれば笑わせてくれる。

(#^ω^)「こんなものが競輪の最高峰だなんて、スポーツなんてものじゃない、やっぱりただのギャンブルじゃないかお!?
  僕はギャンブルでも正面向かって競輪は素晴らしいと言えるようになりたかったのに、それがなんだお、こんなじゃトーチャンを馬鹿になんてできないじゃないかお!
  結局カーチャンが正しかったのなら、対立してまで僕がこうやって頑張っているのはまったく馬鹿な行為じゃないかお!?」

(;'A`)「……内藤、もしかしてお前、親の了承を得ていないのか……?」

(;^ω^)「あお、お……」

居たたまれぬ悔しさが押し込めてきたせいで、つい口から漏れたのはギャンブルに塗れた父、そして母のことだった。
しかし内藤と親との悶着をくみ取ってくれたか、毒男は強く詮索はしなかった。
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:09:32.32 ID:wB5nWuW/0
('A`)「あー、俺なんかが何言えるか分からないがさ、このレースにはその後があるんだ」

口をつぐんだ内藤に、毒男はゆっくりと声を出した。

('A`)「日本一決定戦だけに競輪界でも幾度と紛議されたわけだが、判定は当然覆りはしないさ。
  しかしながら、当の長岡選手は今ではほとんど試合に出ていない……それもこれに密接に関係していてな。
  実は、この事故が原因で布佐選手は競輪を引退したんだよ」

瞬間、横から頭を殴られでもしたかのような強烈な痛みが、内藤の脳裏を駆け巡った。
文句は数多とあるが、それでも先のレースや現在を見れば布佐と長岡が信頼し合っている仲であることは分かろうものだ。
あの二人にこんな過去があると分かれば、途端、まるであの二人の関係がよそよそしいものとすら映るから不思議だ。

(;^ω^)「え……え、そんな……」

('A`)「物議は醸した、しかしそれでもこれが競輪なんだよ、スポーツで審議に文句言うようじゃ話にならん。
  これが卑怯だというなら内藤、やっぱりお前の考えはまだ甘いよ。
  師匠が言っていたよ、長岡選手は本当に強い、転ぶことも厭わずに攻めてくるのは一緒に走っていても恐怖だって」

(;^ω^)「でも、自分が転ばずに相手を転ばすなんて……」

('A`)「長岡選手が転んだことがないのは、ただ乗りこなしと状況判断能力がいいからだ、それ以外に理由があるか?
  師匠のために転びながら妨害する選手だっている、聖職者がやっているんじゃないんだ、スポーツだなんて聞こえがいい、歴とした戦いなんだよ競輪は。
  これだけは言っておく、長岡選手は強いよ、ビデオの年でいえば日本で一番強い」

毒男の目つきにあてられ、内藤はとうとう黙り込んでしまった。
何かと長岡を否定したかった浅はかな気持ちが見透かされたのだ。
どこかで長岡を信じていたなど随分と都合のいい話だ、長岡に裏切られたと分かってからそれを口にするようでは自己防衛に過ぎない。

そうだ、内藤は結局のところ彼を否定し続けたかったにすぎないのだ。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:11:34.85 ID:wB5nWuW/0
('A`)「競輪選手は文句を言いながらもみなが納得しているさ、あのレースはすべてにおいて、長岡選手でなければできない勝ち方だったから。
  そして認めているというのに、長岡選手は布佐選手への懺悔として、以来レースでは無理な行為をしなくなったんだ。
  当然成績は芳しくないし、そんな走りでは長岡選手の良さは微塵と出ていない、試合への斡旋回数もぐんと減ったさ」

(;^ω^)「……だからかお、だから長岡選手は引退するのかお!?
  誰もが納得しているのに、自分自身が納得できないという理由だけで引退するのかお!?」

('A`)「理由までは知らないよ、だが、それ以外に理由があるか?」

内藤は体の奥底から沸き上がる何かを感じた。
それが何かと問われれば、憤慨という表現がもっとも的確であろう。

試合で負けて。
そして否定するだけの内藤を嘲笑うかのような精美な理由を携えて、長岡は競輪界を去ろうというのだ。

内藤など、陸上では怪我と同時にコーチを酷く恨んだものだ。
何も知らずに全てをコーチのせいだと押し付けていたが、長岡と布佐は違ったのだ。
そう、長岡と出会った時も誰かと似ていると思ったがなるほど、コーチと似ていたからこそこうも素直に受け入れられず否定し続けてしまったのだろう。

彼は真意を隠し、薄汚い言葉を並べるんだ。


( ゚∀゚)『分かっただろう、どれだけ努力しても転んだら終わるのが競輪なんだよ』


転んだ事のない男が吐いたこの言葉、その真意と覚悟。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:13:52.49 ID:wB5nWuW/0
( ゚∀゚)『こんな回りくどいレースをせずとも、ここで俺がお前を押したならどうなるだろう?
  乗り慣れていないお前は派手に転んで、勝負は決まるんだよ』


( ゚∀゚)『なんだ、納得いかないのか?』


( ゚∀゚)『だったら競輪を止めろ』


なんだ、偉そうに言いながらも最も納得していないのは彼ではないか。

だから競輪を止めるというのか。


(#^ω^)「……毒男、ありがとうだお、今ようやく長岡選手の言わんとしていることが分かったお。
  同時に激しくムカついているお。
  僕に嫌われながら競輪界を去ろうとしているその性根が、心底気にくわないお!」

内藤は口をへの字に曲げて、やりきれぬ憤りに地団太を踏んだ。
長岡は嫌われたままで勝負に勝ち逃げしようとしたのだ。
母子家庭の内藤へ、まるで父親のように、「いつか言わんとしている事が分かるだろう」などと汚い言葉を残し悪者のまま逃げようというのだ。

絶対に許せないと、理屈を抜きにした感情がほとばしった。

今なら分かる、どうして長岡があれほど大勢の弟子を連れているかを。
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:16:09.12 ID:wB5nWuW/0
( ^ω^)「毒男、ありがとうだお、本当に感謝しているお。
  そして……すまないお、カーチャンのこと騙していて……」

('A`)「気にすんな、俺もお前にじゃないけど、別件で嘘ついていたところあってさ。
  こと嘘つきに関してはもう口うるさく言えないんだわw」

( ^ω^)「?」

師匠との一件を内藤が知るわけもない、毒男は自嘲気味に笑ってみせた。

('A`)「まぁいいよ、でも今回のことを俺に少しでも感謝して貰えるなら、母親にだけはやっぱり納得ずくでこの道に入ってきて欲しい。
  あとの判断はお前に任せるよ」

そう言って毒男はバツが悪そうに笑って見せた。
内藤は確信した、数年来にして最高の親友がここにいたという事に。
出会いから関わりに至るまで全ては偶然だった、それでも競輪に感謝したくなるような、大切な出会いだった。

( ^ω^)「毒男、ありがとうだお」

内藤はどれだけ感謝してもし足りないと、深々と頭を下げて見せた。
毒男をほとほと困りながらも、嬉しそうに笑った。




36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:18:58.64 ID:wB5nWuW/0
次の日、内藤は夜が明けたばかりの肌寒さの中、ロードバイクにまたがって国道を走っていた。


前日に毒男の家から帰ってすぐ、内藤は津出に電話をかけていた。

( ^ω^)『津出師匠かお、確か明日は昼からタイムトライアルだったかお?』

ξ゚听)ξ『そうよ、1000mの感覚を体に刻みこまないとね。
  そのために、限界まで出し切ってもらうから覚悟しなさいよ?』

(;^ω^)『おっおっ……だったらお願いがあるお』

ξ゚听)ξ『お願い?』

そうして内藤は午前中にロードバイクのフリーライドを設けて貰い、隣県の競輪場を目指してバイクを走らせている最中なのだ。
距離は50kmほどか、しかし途中およそ20km地点に、経由先がある。


経由先に到着すると、活気溢れる声がそこここから耳に飛び込んできた。

内藤は居心地の悪さを感じながら、そしてどんな顔をすればいいのだろうかと悩みながら、大学の敷居内へと足を踏み入れた。
退学をしてから三ヶ月あまり、たったそれだけであったが、余所者という意識は体中に刻みつけられており居辛さが纏わりついた。
もっとも今すぐにもここから逃げたい感情が沸き出るのに関しては退学したからだけでないことは百も承知しているだろうが。

校門を抜けてすぐのメインストレートを直進し、突き当たった先に陸上のグラウンドはある。
遠くから一瞥しただけでも、陸上部員が盛んに練習しているのが見て取れた。
それだけにも関わらず、すでに互いが別世界にいるのだと、なんとなしに思い知らされた。

近くまでおずおずと歩くもグラウンドの中に入るのはとうとう憚られ、脇でぼうと練習風景を眺めていた。
遠目にも確認したが、今グラウンドにコーチと風羽の姿はない、その事に感情はあべこべにも安堵した。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:21:46.19 ID:wB5nWuW/0
すると怪我をしているのだろうか、周辺をゆっくりジョギングしているメンバーが内藤に気付き、細々とした声で挨拶をしてみせた。
無視するわけにもいかず挨拶を返すと、逃げ道はないのだと悟り、コーチを呼んできて欲しい旨を伝えた。

慌てて部室に駆け込んだメンバーだったが、出てきたのはコーチではなく主将だった。
怪我明けの直後、コーチとの諍いで一悶着おこした時に、迷惑をかけた筆頭だ。
後ろめたさも相まって思わず顔のこわばる内藤だったが、やってきた主将も相当に緊張の色が濃かった。

  「内藤先輩、お久しぶりです」

あまりに引きつった笑顔にバツの悪そうな表情が痛々しく、内藤は以前の自身の責任にまた呵責された。
こと主将には随分と大きな迷惑をかけたものだ、内藤こそバツの悪そうな顔をしながら、それでも笑顔を絶やさずに声をかけた。

(;^ω^)「久しぶりだお、以前は本当に迷惑をかけた、すまなかったお」

その言葉に安堵したか、主将は口元をほころばせた。

  「全然大丈夫ですから、それよりも大学を止められたそうで、気になっていました。
  もう陸上は……やはり、止められたのですか?」

( ^ω^)「そうだお、でもまた機会があればやりたくなるかもしれないし、その時にはよろしく頼むお」

  「ええ、いつでも来てください、待っています。
  いいえ、ついでにこれから一緒に運動していきませんか?」

あまりに優しい言葉をかけられて、内藤は涙腺が緩みそうになった。
陸上では常に一匹狼だっただけに、こういった気を使い合うやり取りというものが皆無だったのだ。
今こうして集団の上に立つ者の気遣いと器量に直面し、以前の自分勝手を心から謝罪したいと思えた。

今の自分が世間へ認められ浸透していくことが感じられ、何かにつけて感謝したい思いに駆られた。

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:23:48.60 ID:wB5nWuW/0
( ^ω^)「せっかくのお誘いだけど、今日はちょっとこの後の予定が詰まっていて……この借りはまた近いうちに返上するお。
  それよりも、コーチはいるかお?」

  「はい、ちょっと待って下さい」

するとまた部室へと戻っていった。
元よりコーチは部室内にいたのだろう、それでも再衝突を懸念し、あえて主将が出てきてくれたのだ。
誰もが嫌がる損役をかってでてきた主将の気遣いに、今の内藤は少しくらい報恩できただろうか。

小さく吐息をついた。
今は謝罪と恩返しをするべき時なのだろう。
その相手の一人に今の主将を入れることができた喜び、そして心からの安堵だった。

部室から出てきたコーチに嫌がる顔は一つとしてなく、主将を練習へいくように促すと、一人で堂々と内藤の方へ歩み寄ってきた。

(,,゚Д゚)「おう、久しぶりだな。
  わざわざこんな所まで足を運んでもらってすまんな、まぁちょっと飲み物でも飲んで話そうや」

今までの決意はなんだったのか、反省と懺悔を幾度と心で繰り返したはずなのに、いざ会ってしまうと引け目からか、素直に返事をすることすらできなかった。
無言でコーチの後を付いて行き、言われるがままに自販機でスポーツドリンクを買ってもらい、受け取ると近くのベンチに腰かけた。
ペットボトルを少しずつ何回も口につけながら、僅かな時間を稼いでいた。

そんな内藤の心情はお見通しだろうか、コーチはずっと黙っていながらも、内藤がペットボトルに蓋をするタイミングを見計らってゆっくりと話しかける。

(,,゚Д゚)「いい自転車に乗ってるじゃないか、体つきも陸上やってた頃よりがっしりしているな。
  怪我はもういいのか?」

( ^ω^)「……」

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:26:04.22 ID:wB5nWuW/0
瞬間、怪我を思い出したことによる強烈な不安が蘇ったこともあり、またしても返答ができなかった。
心配してねぎらいの言葉をくれる人に向かって感謝も表わせない、あまりにもどかしく苦しいばかりの心境だった。

それでもコーチは内藤の感情を汲み取っては、ゆっくりと話した。

(,,゚Д゚)「本当にすまなかったな、俺もあの後猛省したんだ。
  駄目だよな、生徒に向かって子供みたいに躍起に意地を張っているなんて、本当コーチ失格だよ。
  あの時、俺もどうかしてた、嫌がる内藤に無理やり200mに出場させたのだから」

( ^ω^)「いいえ」

まるで感情のこもっていない声しか出ず、また内藤は苦しんだ。
自分が悪いことが明白だからこそ素直になれないというちぐはぐな感情は、どうして今日ここに来てしまったのだろうと極疑を招くほどだった。

(,,゚Д゚)「否定してくれるな、あればっかりは本当に俺が悪かった。
  内藤がどこか200mを毛嫌いしているのは分かっていたんだよ、なのに俺は結果的に出させてしまった……本当馬鹿だよ。
  そんなこと言いながら今もこうしてのほほんとコーチしているんだ、なんていうか、すまんとしか俺も言えないよな」

( ^ω^)「もういいですお、あの件は本当に僕が……いえ、互いが悪かった、それでお相子にするのが一番だお。
  ただその後、コーチがせっかく歩み寄ってきてくれた時に僕が突っぱねたから、その件を謝りに来たんですお。
  コーチの思いであったり、考えであったり、本当に今になってようやく僕にも分かりましたお、すみませんでした」

ようやく出た謝罪の言葉に、内藤は達成感のあまり脱力しきって涙を流しそうなほど込み上げるものを感じた。
とうとう謝ることができた、素直になれた。
一つ大人になれたのだと、過去の罪をまた一つ払拭できたのだという最高の嬉しさがあった。

コーチが許してくれるとは限らなかったが、これまでのやり取りからして、何よりもそれだけ内藤のことを分かってくれるコーチだ、答えは聞くまでもない。

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:28:07.21 ID:wB5nWuW/0
顔を上げた内藤に向かい、コーチは頭をかきながら悔しそうな顔をしていた。

(;゚Д゚)「あー、なんだお前に謝られちゃどうしようもないじゃないか……参ったな……。
  お前とようやく心が通じ合えたんだって思うと顔が笑いそうになってしまって仕方ないわ、あー、笑っちゃいかんだろおれ」

そういいながらも、緩みそうになる口元を必死に我慢してる顔は滑稽なだけだ。
自然と内藤の顔にも笑顔が張り付いた。

( ^ω^)「コーチ、今さら手遅れだけど、今までありがとうございましたお、ただそれが言いたかったんですお。
  新たな道へと進む前に、こうしてけじめをつけたかったんですお」

(,,゚Д゚)「そうか、本当嬉しいよ、あー駄目だ歳食うと涙もろくなっちまう、あー……くそ。
  それでなんだ、陸上に戻ってきたのかと思えば……新しい道だって?」

( ^ω^)「競輪です、二週間後には競輪学校への入学試験があって、その前に何としても来ようと思ったんだお。
  コーチとの蟠りを残したままでは、とても新しい道へ進めなどしませんお。
  全ての過去を清算してから、僕の第二の人生の門出はしたかったんですお」

先ほども「どこか200mを毛嫌いしている」と言っていたか、次は「陸上に戻ってきたのかと思った」などとコーチは内藤に気を使ってか、何も知らぬ素振りをしていた。
競輪を目指していることを知らぬわけではないだろうのに、それをこの期に及んで隠そうとするのだからまた侮れない。

だからこそ内藤はコーチが何も知らないものとして競輪を目指すに至る過程を一から話した。
競輪選手というその響きからやはりギャンブルを連想したのだろう、心配そうな目を向けたりと些細な演技を欠かさなかったが、内藤の話をしっかりと聞いて同調してくれた。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:30:03.78 ID:wB5nWuW/0
ゆうに半時間は語り合っただろうか、互いのしこりは完全に払拭され、良き信頼者同士として打ち解けあっていた。
しかし内藤には昼からの予定がある、長居はできないと、名残惜しくも重い腰を上げた。

(,,゚Д゚)「そうか、用事があるなら仕方ないか……またいつでも来てくれよ、俺が助けられることなら何でも手を貸すからよ。
  いや、ぜひ頼ってきてくれ、待っているからな!」

( ^ω^)「よろしくお願いしますおコーチ、絶対に近いうちに顔を見せますから、次は一緒に食事したいお。
  あ、あと最後になりましたけれど……」

内藤はここで息を吸うと勿体付けて、そして最後まで競輪について知らん顔を通したコーチの鼻を明かしてやろうと、最高の笑顔とともにこう言った。

( ^ω^)「コーチ、あの時津出師匠に助言いただけ、ありがとうございましたお。
  きっとあれがなければ僕は今日こうやってここに来ることもなかったし、競輪という道も断念していたに違いないお」

以前、内藤が津出に隠れて練習していた時に電話で師匠に警告をしてくれたのだ、コーチが内藤の事情を知らぬ訳はあるまい。
してやったりと、しめしめ顔に悪戯笑顔を貼り付ける内藤だったが、一方のコーチはまだ状況が理解できていないか、眉間にしわを寄せるだけだった。
そして首をかしげた。

(,,゚Д゚)「内藤、助言だなんて俺には心当たりがないんだが……」

( ^ω^)「もういいですお、分かっていますお。
  コーチが津出師匠に電話してくれたんだお?」

(;゚Д゚)「いや、そもそも津出って誰のことかさっぱりなんだが……」


内藤がずっと勘違いしていた自分に気付いたのは、この時ようやくだった。



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:33:54.94 ID:wB5nWuW/0
内藤はコーチと別れると、そのままロードバイクを更に30km走らせた。
町中を縫うように走り抜けねばならず、長い信号に車と接触しそうなほど狭い道路もあったりで思うようにスピードは出せず、結局目的地に着いたのは一時間半以上後だった。

いつも練習している海岸通りなどがいかに走りやすい場所であったことか、一時間余りで到着するかと思っていたが、とんだ誤算だ。
目的地である競輪場へ到着するころには、約束相手が首を長くして待っていた。

ξ#゚听)ξ「内藤……ようやくお出ましね、師匠を待たせるとはいい度胸じゃないの」

県境、厳密には県を跨いだ場所に位置する競輪場、内藤が毒男と初めて競輪を見に来たのがここだ。
内藤たちが普段使っている競輪場よりも施設自体が大きく、隣接する野球場のためもあって駐車場は雄大だった。

(;^ω^)「申し訳ないお、ちょっと公道を甘く見ていたお……。
  所歩も、わざわざ僕のピストに乗ってきてくれて感謝だお」

((*´・ω・`))「ふっ……ふふっ、いやぁいいさ構わないよいつでも僕に任せてくれよ。
  津出とのツーリングを非常に満喫させて貰ったよ、もう興奮から今晩は寝れんかもしれないね……ふ、ふふ」

(;^ω^)(うっわ、また何か変なキャラクタが発病してるお……)

ξ#--)ξ(つーか女性として見られずそんなことを言われるのは非常に不快この上ないわ……!)

津出が不機嫌なのももっともだ、およそ50kmもの道のりを、フォームをジロジロと眺められながら走るなどとても気分良いものではない。
相手が毛嫌いしている所歩であれば殊更だ。
気味の悪いベロリと舐めるような視線を想像しては、蟻走感から無数に鳥肌が粟立った。

内藤は津出に謝罪し、所歩からピストを受け取ると、代わりにロードを預けた。
そして赤いピストを手に「おしっ」と気合いを入れ直した。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:36:03.00 ID:wB5nWuW/0
ξ゚听)ξ「内藤、今さらかもしれないけれど……何する気よ、あんた?」

わざわざ50kmも離れた競輪場に来て、しかも所歩にピストまで持って来させたのだ。
その真意は聞かずとも知れていた。

( ^ω^)「当然この競輪場の長、長岡選手にリベンジだお!」

その言葉を待っていたと津出はクスリと笑みを漏らし、所歩も……いや、今の彼は少し置いておこう。


ピストともに場内へと入れば、そこには何十人もの生徒が切磋琢磨し合っていた。
その中で声を張り上げる一人の男。


(#゚∀゚)「ほらほら、なにやってんだだらしねぇ、もういい、止めちまえ!
  そんなへたれた走りを他の奴らにまでうつされたんじゃかなわねぇ!」

(;・∀・)「はぁ、はぁ……すんません……」

(#゚∀゚)「もういいよ、お前の午前練は終わりだ、とっととあがれ。
  お前は所歩に負けて以来、めちゃくちゃだらしなくなったな。
  もっとやれるヤツかと思っていたが見込み違いらしい、腑抜けって言葉がぴったりじゃねーか」

(;-∀-)「……ほんとうすみません」

きつく言われ、悔しさに歯を食いしばりながらとぼとぼと足を進める茂羅だったが、客人に気付いて顔を上げ、次に声を上げた。

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:38:07.49 ID:wB5nWuW/0
(;・∀・)「おまえたち……」

( ゚∀゚)「なんだ……っと、今度はそちらからお出ましか?」

長岡は今しがたまで強く尖らせていた口元を緩め、いつものふざけた笑いに変貌した。
まるで歓迎するかのように両手を広げて見せると、彼自ら内藤の前へと歩み寄る。

( ゚∀゚)「どうしたよ、何の用だ?」

(#^ω^)「道場破りに来たお!」

内藤も負けじと歩み出し、二人は対面した。

(#^ω^)「僕と勝負しろお、負けたら今日一日、この競輪場を僕たちが貸し切るお!」

挑発する内藤に対し、長岡は派手に笑った。

( ゚∀゚)「確かお前たちの競輪場は今日が試合で使えないなんてことはなかっただろ、なのにどうしたんだよ。
  なーにそんなに意気込んでんだ、そうか、追い出されたのか?w」

(#^ω^)「逆だお、ふざけたお前を競輪界から追い出しに来たんだお。
  以前にそっちの喧嘩は買ってやったんだから、断る道理はないお」

( ゚∀゚)「ああ、そうか一緒に走ろうってのか、ちょうど練習も一段落ついたしいいぜいいぜ、追い出せるもんなら追い出してみろや。
  茂羅、ちょっとピストを貸してくれ。
  お前はもういい、ロードで疲労抜きしてろ、昼から練習もあるから覚悟しておけよ」

(;・∀・)「あ、……はい」
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/11(木) 20:39:28.67 ID:wB5nWuW/0
長岡は弟子に持って来させたヘルメットをかぶると、適当に見つくろったシューズを履いてベルトでペダルに強く固定した。
そして内藤に向かってこう提案してみせる。

( ゚∀゚)「俺はここを賭ける、負けたならこの競輪場は自由に使うがいいさ。
  だが、だったらお前は何を賭けてくれるんだ?」

(#^ω^)「僕が負けたら所歩をやるお!」

(;´・ω・`)「うぉい!」

( ゚∀゚)「いいだろう、交渉成立だ」

不敵に笑む長岡に対し、内藤はその目つきを寸分とも和らげずに勇み立っていた。



(#^ω^)(絶対に……ぶっつぶすおッ!)



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