29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:41:40.09 ID:FSk9LSOY0
     第二十二レース「頂上の競争」


ξ゚听)ξ「内藤、分かっていると思うけど、たぶんここで見る戦いこそが、本当の、トップの戦いだと思う。
  トップと言っても、あくまで競輪学校へと向かう上で、と前置きしてになるけどね」

競輪学校のトップ、その響きは内藤の心を捉えるに十分余りあるものだった。
幾度とその壁の大きさに面食らった競輪学校、そしてそこへの入学が決まっていると言っても過言ではない、二人の戦い。

そして、何よりも内藤の心が捕らわれた理由は一つだ。

所歩の本気。

(;^ω^)「このレース、所歩は本気になるかお?」

ξ゚听)ξ「私に聞いても分からないわよ、ただ、本気なくして勝てる相手でもないでしょうね。
  もちろん本気で戦っても勝てるという保証はないわけだし」

(;^ω^)「そうだお……」

自分の唾を呑む音が、耳元で聞こえた。
自分が緊張してどうする、内藤は言い聞かせながら所歩を見、続いて長岡を見た。

( ゚∀゚)「……」

度々内藤の前に顔を出しては、やる気をそぐ一言を添えていく男。
なぜあそこまで弟子がいるのか理解に苦しむほどだ。
思い遣りもなければ、癖のあるふざけた一言を吐くばかり、とても他人をおもんぱかることができるようには思えない。

所歩には勝って貰わねばならない、そしてあの男に、自分の実力を見て貰わなくてはならない。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:43:06.28 ID:FSk9LSOY0
( ^ω^)「所歩、絶対勝てお!」

(´・ω・`)「やれやれ、君に言われるとは何とも悲しい気分だ」

(#^ω^)「どういう意味だお!」

やはり相変わらずだ、レース直前だというのに、マイペースな表情は集中しているそぶりが微塵と感じられない。
見ている者は不安に駆られたが、それでもこの男なら勝ってしまうのだろうという、常識外れた期待を抱いてしまうのが所歩だ。


結局所歩は本当にアップをすることもなく、簡単なストレッチと体操をしただけで発射台に構えた。
そして所歩と茂羅の二人がスタートに並ぶ。

(´・ω・`)「1000mのタイムトライアルでは完全な実力勝負で面白くないだろう。
  だから、同時スタートで勝負しようと思うが、どうだろう?」

( ・∀・)「ああ、それでいい」

実力勝負で面白くない、つまり圧勝で終わると言いたいのだ、どこまでも言葉に棘のある男だと、茂羅は舌打ちした。
そして気持ちを構え直し、大きく呼吸して気持ちを落ち着けると、ピストに構えた。

所歩も準備良しと合図して、ピストに体を預ける。

(´・ω・`)「……」

静寂、沈黙する一帯。
内藤が横眼で長岡を確認すると、いつものおどけた感じなど微塵と感じさせず、真面目な視線を構える二人に向けていた。


そしてスタートを告げるピストルが、乾いた音を鳴らす。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:44:27.25 ID:FSk9LSOY0
瞬間、まるで何かに引っ張られるかのように所歩は発射台からするりと抜け出しては、スピードを加速させていく。

あまりに美しすぎる一連の動作に、初めてそのスタートを外から見た内藤は呆然とした。
なるほど、これでは内藤と比べるべくもない、スタートであそこまで大差をつけられるわけだ。

茂羅も後ろから加速させていくが、それでも所歩には及ばない、早くも二人には大きな差がついた。


(;^ω^)「すごいお……」

口を挟む暇もない、「すごい」や「速い」といった月並みな表現をすることしかままならないほどだった。

二人のスピードは飛びぬけていた。
内藤と戦った時の所歩がいかに彼に合わせたものだったが、悔しいほどに感じられた。
傍から見ているだけでもそのスピードと臨場感は物凄く、二人が一流スポーツマンだと認めざるをえなかった。

初めの200mを通過する、所歩と相手の差は少し狭まっていた。
じわじわと二人の距離は近付いている。

(;^ω^)「追いつかれているお、大丈夫かお……」

ξ゚听)ξ「追いつかれるでしょうね」

津出が言うが早いか、二人の距離はとうとうほとんどなくなった。
しかし茂羅は所歩を抜かずに、ぴったりと後ろについている。

(;^ω^)「もしかして……」

ξ゚听)ξ「ええ、風除けにされているわ」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:46:22.29 ID:FSk9LSOY0
(;^ω^)「そんな、それじゃスタートの上手い所歩の方が不利じゃないかお!?」

ξ゚听)ξ「そうね、あんたも分かったでしょうけど、風除けで得られるアドバンテージは半端ないわよ。
  所歩が確実に不利ね」

(;^ω^)「所歩……」

長く会話している余裕はない、そんなうちにもとうとう二人は最後の一周に差し掛かろうとしていた。

フォームの分かってきた内藤にも、二人の疲労の度合いが見てとれた。
一定のリズムでフォーム良く刻む相手に対し、所歩は若干肩が上下している。
表情は相変わらずだが、その真面目な面持ちが返って疲労と強くにじませているようにも思えた。


ラスト一周、初めのバンクで茂羅が僅かに速度を上げ、前に出るような素振りを見せた。
しかし所歩は動かない、フェイントだったか知らないが、茂羅は所歩を抜かず、
所歩の後輪に接触せんがほど車体を近付けてペースをキープする。

どこで仕掛けてくるのか。

所歩の体がまた一度、大きく上下した。


残りが200mを切ったあたりだろうか、一つ目のバンクを終えると同時に茂羅が所歩に並びかけた。
一瞬横になったかと思うと、更にスピードを上げて一気に抜き去る。

(;^ω^)「所歩……!!」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:48:34.29 ID:FSk9LSOY0
そのまま速度を変えぬ所歩を傍目に、茂羅はグングンとスピードをつけていく。
とうとうその差はピスト二台分近くにまで開いた。

そうだ、内藤との勝負でもそうだった、所歩はここで相手へのリードを許していた。
しかし今度は相手が悪い、すでに猛然と逃げ切る茂羅を捉えるのなど、無理無理としか思えなかった。
ピスト二台分、それは二度と縮まらないだろう、二人を隔てる亀裂のようにすら見えた。

今の相手よりも少し速いだけでは間に合わない、ここから逆転しようとなると、一体どれだけのスピードを出さないといけないのだ。

ξ;゚ー゚)ξ「まだよ……所歩が得意なのは、スタートだけじゃないわ」

津出が笑みをもらしながら口にしたと同時、所歩が若干前傾の姿勢をとった。

グッグッと、回転にすれば高々一回転か、もしくは一回転半だろうか、少なくとも内藤にはたったそれだけに感じるほど一瞬だった。
所歩は瞬間的に爆発的な加速をすると、今まで開いていた相手との距離が留まるだけでなく、一気に狭まっていった。

そしてバンクの中段に乗りあげて大回りをする。

(;^ω^)「あれって……」

ξ゚听)ξ「そう、バンクのカント(斜面)を利用しての、更にもう一段の加速よ」


所歩の顔が笑った、茂羅の顔が引きつった。

所歩の足の回転が、内藤の理解を超えた。
見ているだけで頭が混乱して足がもつれそうになるほどの回転数だ。

相手にリードを許していた所歩は、最後の最後で大外から完全に相手を追い抜いた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:51:43.18 ID:FSk9LSOY0
そして所歩は、ゴール直前で、ちらりと後方を振り返った。


その余裕を茂羅は忘れないだろう、この上ない屈辱、完敗という事実を体に練り込められた。


無酸素運動だったのだろう、所歩はゴールをまたぐ直前で大きく息を吐き、ラインをまたぐ時にはリラックスしているかのようにまで見せた。
二人の差は僅かだった、茂羅は刹那遅れてラインをまたぐと、言いようのない嘔吐感に口を開けて唸り声をあげた。
その茂羅に向かって、所歩は息を弾ませながら軽く一言添える。

(´・ω・`)「大丈夫かい? そんなに無理して走っては、体に悪いよ」

この一言で分かった、所歩はまだ無理して走ったわけではないと言いたいのだ。
ひたすら限界まで自分を追い込んだ茂羅と違い、体に負担のかからない走りだったと公言したいのだ。

茂羅は悲愴な顔を貼り付け、「くそっ」と叫ぶと、そのまま重苦しい空気を引き連れ、ふさぎ込んでしまった。
苦難の表情で俯いたまま、ガタガタの体でピストをのろりのろりと動かし続けていた。


まだなお本気を見せずして勝つのか、誰もがそう思い、誰もがただ驚愕した。
観戦者の心も知らず、所歩は内藤たちの前でピストを止めると、こう口を開く。

(´・ω・`)「……ふぅ、やはりそうだ、仮に愛好会なんかでこうやって勝負をしても、何一つと有益なことなんてありはしない。
  仲良しこよし、和気藹々と気楽に練習したところで何一つと有益なことなんてありはしないのですよ、よっぽど一人の方が追い込めます。
  だから僕は愛好会に入らないですし、こうやって自分の師匠を選んでいるんですよ」

そして長岡の集団を愛好会と表現し、弟子で一番の有望株をそこここの愛好会参加者と同列に並べあげて見せた。
所歩の言葉はそれだけに留まらず、相手の毎日の必死の練習を気楽なものとまで揶揄したのだ、逆鱗に触れぬわけがない。
長岡の弟子は揃って「このやろう」と口にすれど、その実力を目の当たりにしたためか、内藤の時のように突っかかってきそうな雰囲気までは無かった。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:53:29.22 ID:FSk9LSOY0
所歩の言葉には、津出を師匠として認めているという意味も込められていた。
もともと津出を悪く言われた事が発端となりかった勝負だ、それでも津出はその所歩の言葉に素直に喜べず、一抹の悪寒さえ感じた。
所歩、この男は原石などではない、磨かずして光るダイヤモンドだ。

(´・ω・`)「まだまだ彼では僕の相手は荷が重かったようだよ。
  そうだね、どうせならヘルメットの色が違う人とやりたい、たとえば……そこの人とかね」

競輪場を使用するとき、ヘルメットをかぶるのは当然だが、競輪選手と志望者ではその色が違う。
ヘルメットの色が異なるとは、つまり現役選手のことを差し、所歩が直接指で示した先は、あろうことか高岡だった。

(´・ω・`)「勝敗が分からない方が、やはり楽しいだろう、レースとはそういうものだから」

さっきの勝負はするまでもなく、所歩が勝つと決まっていた、そして高岡となら勝敗が分からない。
茂羅を蔑み、高岡にも勝てる可能性が十分にあると、二重の皮肉を込めたのだ。
流石の高岡も、そうまで言われては黙っていられない。

从#゚∀从「てめぇ……ちょっと自信が過ぎてるんじゃねぇか?
  勝負を投げ出したようなお子様がな!」

勝負を投げ出したとは、前回の試合のことを指しているのだろう。
怒りを露わにしたのは高岡だけではない、長岡の弟子は総出で、強く所歩を非難してみせた。

(´・ω・`)「まぁ確かにオリンピック選手が競輪選手の卵に負けていては、笑えないでしょうね。
  戦わせたくないだろう気持ちもよくわかります」

从#゚∀从「勝てる気でいるなんて、相当夢見がちな年頃なんだな」

(´・ω・`)「ああ、よくよく考えると断るのは当然かもしれませんね、実際現役選手でも、競輪学校のタイムを上回れないことは多々あるそうですし」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:55:01.27 ID:FSk9LSOY0
所歩の言うとおり、現役選手でも1000mが志望者たちに及ばぬことは多々ありうる。
それだけ志望者は「1000m」に向けた練習をし、現役選手は「競輪」に向けた練習をするのだ。
競輪学校の門の厳しさは、ここにも如実に表れているだろう。

もっともそれはそういうこともある、という一般的な話だ。
あろうことか、所歩はここで更に、高岡を一般論と一般選手に当てはめて見せたのだ。

津出と内藤は、さらに寒気を覚えた。
向こう見ずで怖いもの知らず、ここまで来るとその自信すら狂気の沙汰だ。

从#゚∀从「上等じゃねぇか、その長い鼻っぱし、真っぷたつに折り曲げてやりたくなったぜ……」

( ゚∀゚)「高岡、止めておけ」

从 ゚∀从「……長岡さんに言われれば、従うしかないじゃないですか。
  残念です、自分を中心に世界が回っていると勘違いしているお子様に、ちょっと大人の世界を教えてやりたかったんですがね」

(´・ω・`)「僕が子供なら、あなた方の競輪学校候補生たちは赤子にも満たないでしょうね。
  胎児でしょうか、自分で歩くことはおろか、しつけすらされていない状態だ」

ξ#゚听)ξ「ちょっと所歩、黙りなさい」

津出が言った途端に、所歩はその口をつぐんだ。
どうやらすでに師弟関係は成立しているようだ、所歩は津出に従うつもりらしいと分かり、その場は若干落ち着いた。
放っておいては何を言い出すか分からない、飼い主のいない野生のライオンを、公園に放し飼いには出来ないだろう。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:57:02.85 ID:FSk9LSOY0
( ゚∀゚)「おーおー所歩、勝手にウチの有望株を潰してくれた挙句、随分と大口を叩くもんだな。
  これじゃぁこちとらも黙っちゃいれないぜ?」

(´・ω・`)「実力で敵わないなら当然、口で屁理屈をこねて反論するくらいしかないでしょうね、黙れないのは分かります」

( ゚∀゚)「おうおう言ってくれる、お前はじゃじゃ馬だよ、嬢ちゃんじゃ乗りこなせない。
  どうだ、俺の弟子にならないか?」

从;゚∀从「長岡さん!?」

( ゚∀゚)「ああ、ああ、黙ってろ。こいつは間違いなく俺のところ向きだ、そこここで丸く収まるタマじゃねーよ」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「……」

突然の提案に、内藤も津出もあんぐりと口を開けて呆然となった。
所歩が欲しいなど正気だろうか、この減らず口ばかり叩く、特上の変態を。
次に長岡は所歩の崇高なる変態性を知らないと思い返し、少し合点がいった。

なによりも、所歩の答えは聞くまでもないだろう。

(´・ω・`)「お誘いは嬉しいですが、自分は丸く収まるつもりは微塵とありませんので。
  僕は今以上に進化していきます、あなたたちのところで丸く収まって落ち着くなんて、まっぴらごめんですね」

( ゚∀゚)「ああ、そうかい、それは残念だ」

(´・ω・`)「長岡さんこそ、僕に目をかけるのは随分なものですが、それよりもご自分の心配をされてはいかがですか?
  内藤との勝負、忘れたわけではないでしょう?」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:59:17.80 ID:FSk9LSOY0
言われて内藤自身もハッと気付いた。
所歩の実力のすごさ、そして口の悪さに気をもんでいて、長岡への怒りなどどこかに吹き飛んでいた。
それでも努力を丸々否定する彼の言葉を思い出せば、消えかけた導火線は再び強く点火される。

( ゚∀゚)「ああ、すっかり忘れてたわ。
  そうだな、内藤、約束だし一緒に走るか?」

(#^ω^)「勝負してもらいますお!」

一緒に走るだなんてぬるい言い方をしてくれる、内藤は心に闘志をより強く灯らせた。


そしておよそ二十分のアップの時間を設け、二人の勝負は行われることとなった。
しかし相手は現役競輪選手、しかもトップクラスのS級1班の長岡だ、当然一筋縄で勝てる相手ではない。
実力でいけば大きく劣るのは明白だ、相手は何せ一時期競輪界を背負って立った大御所なのだから。

しかし、内藤には一つ、希望が持てる事項があった。
簡単にバイクを走らせると、ストレッチをしながら口を開く。

( ^ω^)「ツン、競輪選手が競輪学校試験の記録を超えられないことって、そんなにあるものなのかお?」

ξ゚听)ξ「まぁあくまでそんなこともあるというだけよ、あまり真に受けちゃいけないわね。
  ただ、競輪と1000mは全く別物だから、相手を自分の土俵に誘い込んだ方が当然有利よ」

( ^ω^)「土俵? つまり走り方か何かかお?」

ξ゚听)ξ「そんなものね、これからの勝負は1000mのタイムトライアルに近いのだから。
  1000mという種目で戦わないとね、競輪という舞台で勝負しちゃだめってことよ」

( ^ω^)「……良く分からないけどそんなものかお、気をつけるお」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:00:42.49 ID:FSk9LSOY0
決戦前という事で、内藤の心も比較的静かに落ち着いているのだろう、反応は些か芳しくなかった。
しかし津出は、この機会にと口を噤まずに続ける。

ξ゚听)ξ「それで内藤、今さらかもしれないけれど、これだけは分かっておいて欲しいの。
  私は、あんたに競輪選手へとなる最低限の練習しか見てあげられないわ。
  だから、きっとあんたは競輪学校に行ってから苦労すると思うし、基礎も盤石なまでに固めることはできない」

( ^ω^)「どういうことだお?」

ξ゚听)ξ「そうね、陸上に例えられるといいんだけど私はさっぱりだから……
  たとえばバスケットボールで試験があって、フリースローを10本中8本決めればいいとしましょう。
  私のできる練習は、ボールに親しむこととフリースローの練習だけってことよ」

( ^ω^)「つまり、ドリブルや別のシュート、ディフェンスなんかはさっぱりってことだお?」

ξ゚听)ξ「そうね、できる限り埋め込むつもりではいるけど、結局は本当に基本的な部分だけ、基礎の基礎よ。
  たとえば今のアンタはバイクのパンクを直すだけでもままならないでしょうし、競輪のルールも何も知らないでしょう?
  つまりはそういうことよ」


( ^ω^)「……。つまり、競輪学校を目指している僕にとって、この1000m勝負は僕の舞台としてみても問題ないお?」

ξ゚听)ξ「ええ、そういうことよ、長岡さんにだって一矢報いるチャンスがあるってことよ」

強く言うと、内藤は少し表情を緩めた。

ξ;゚ー゚)ξ(といっても、まだ1000mの専門練習に入る前なんだけどね……)

とは口が裂けても言えなかった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:02:40.60 ID:FSk9LSOY0
内藤は所歩との決戦のために一週間ほど前までは1000mへ向けた練習をしていた、ここ一週間はロングライド中心だったが距離感は薄れていないだろう。
その距離をいかにして疲労少なく速く回るのか、その一点が最も大事だ。
展開がハイペースであれ、ラスト勝負であれ何ら変わらず、長岡に勝つ可能性は針の穴よりも小さいのだから。

ξ;゚听)ξ(まったく、競輪学校でトップになるだろう所歩の次は、競輪界のトップ選手の一人である長岡さんか……。
  一体どんな星の下に生まれてくれば、これほどまで数奇で無謀ばかりの運命に巡り合えるのかしら)

津出は勝負の行方については半ば諦めながらも、はいそうですかと素直に競輪場を譲ることはできない。
気合いを入れ直すと、内藤に簡単に指示を出す。

ξ゚听)ξ「とりあえず所歩の時と同じように走る、これが最善でしょうけど……
  長岡さんは、所歩みたいにあんたのペースに合わせることはまずないでしょうね。
  だから長岡さんと走るのではなく、タイムを狙う走りを意識するのが一番かもね」

(;^ω^)「タイムかお……でもまだ測定したこともないお」

ξ゚听)ξ「陸上やってたんだったら、感覚で分かるでしょ。
  ……まぁいいわ、どうせ先行されるんでしょうし、意地でも長岡さんの後ろに食らいつきなさい」

(;^ω^)「分かったお……」

(´・ω・`)「勝てばいいんだよ。タイマン勝負だ、走りにどうこう言われる筋合いはないからね」

(;^ω^)「それができれば苦労しないお」

勝てるとは確かに思えない、しかし努力を認められるだけの頑張りはしてきたつもりだ。
内藤は気持ちを強く持って、発射台へと構えた。


そして内藤は、競輪を知る。

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