- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:06:11.27 ID:FSk9LSOY0
- 登場人物
( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、津出の弟子となって競輪選手を目指す。
('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。
高良:毒男の師匠
J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。
ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:内藤の師匠で、ロードバイクを乗りこなす女性。
(´・ω・`) 所歩:師匠の怪我で布佐の元に来るが、津出と決裂。群を抜いた実力の持ち主。
( ゚∀゚) 長岡:毒男の尊敬するS級1班の競輪選手。おどけた言葉が多い。
从 ゚∀从 高岡:長岡の弟子で、競輪選手で最高クラスのS級S班の選手。
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:08:34.85 ID:FSk9LSOY0
- 第二十一レース「今日の戦友」
目標が競輪試験に定まったことで、内藤はいよいよ津出に専門的な練習を請うこととなった。
不運ともいえるのが、競輪試験までに残された時間か。
試験日は四月の第二週目、残る期間はおよそ五週間、またもやたった一か月程だった。
ξ゚听)ξ「とりあえず、初めの一週間はひたすらにフォーム徹底とバイクに馴染むことから始めるわよ。
私も試験日まではバイトを控えるから、付きっきりで見てあげるわ、感謝なさいよ。
毎日250km走らせるから、覚悟しておいて」
(;^ω^)「……にひゃくごじゅう?」
ξ゚听)ξ「ええ」
250km(東京から名古屋までの直線距離がそれに値する)、仮に時速30kmで走ったとしても、まるまる7時間以上かかるではないか。
そんな常識外れの距離を、津出はなにくわぬ表情とともに易々と言い渡した。
まずは外もまだ暗い朝4時半に集合し、そこから津出と一緒に100kmのライディングを開始する。
海岸沿いを走る平たんコース、信号も少なければ朝ということもあってか人も少ないが、風だけが激しく吹き荒び寝起きの体が縮こまる思いだ。
内藤は一日目にはヨーグルトと野菜ジュースを摂取して挑み、あわやエネルギー切れで病院送りとなることだった。
ξ゚听)ξ「気を付けてね、朝食前だからってなにも持っていないとエネルギー不足で倒れるから」
津出はしれっと言うと、ポシェットから簡単な固形食とゼリーを内藤に分け与えてくれた。
三月に入ったことで気候も暖かくなり、多分に発汗しては水分も沢山必要とした。
内藤はまだまだロングライドに慣れていない、乗り終えるとクタクタで、それからようやく朝食の時間を迎える。
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:10:46.07 ID:FSk9LSOY0
- 食後は若干の自由時間が設けられ、昼前に改めて練習を開始する。
まずは30kmのスローライディングで軽く足を慣らすと、正午より競輪場でのトラック練習が始まる。
ここでようやくスピード練習が入るも、これがまた体を酷使する。
(;゚ω゚)「ふぉおおぉぉ……」
内藤は朝食が終わるとすぐに、疲労抜きのためと仮眠するのだが、それでも未明の疲労は抜けきらない。
内藤の大嫌いなもがき練習が何本と設けられ、疲労と酸欠の苦渋に涙を流しながら、もう嫌だと嘆いては酸素ボンベを口にあてがうのだった。
あまりに過度な苦しさに、比喩でなく死ぬのではないかと思った数は知れない、むしろ死んだ方が幾分も楽だろうなんて馬鹿な考えまでが頭を舞っていた。
昼のスピード練習が終わると、そこからまた100kmオーバーのライディングが待っている。
この時は、危険が伴うという理由で競輪場のブレーキのついた古いピストを借りて出かける。
津出が微調整をしてくれると、それだけで内藤の体にはよくなじみ、油を差せば古さなど感じず乗り心地は抜群だった。
競輪場をスタートして20km地点に津出の家がある。
そこまでは疲労抜きと足慣らしにゆっくりとピストをこいでいき、簡単な食事をご馳走になる。
それから更にバイクを走らせ、峠道へと入る。
(;゚ω゚)「ふごぉぉ、おおお……!」
標高何メートルにあるか知れないダムへのひたすらの登り道を、延々とこぎ続ける。
ギアの変えられないピストでは、坂道で勢いがなくなると途端にペダルが固まったかのように全く回転させられなくなる。
昼間の練習で酷使した足に力は入らず、途中で力が抜けては何度とピストをこかした。
初日には、山の中腹辺りで足がガクガクと笑い出し、自転車をこぐことさえままならず、最終的に内藤は歩いて登った。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:12:27.59 ID:FSk9LSOY0
- ξ゚听)ξ「あんたまだ寝ぼけてんの?
目をしっかりと覚まさなきゃ夢は見るだけで、一生現実にならないわよ」
津出のライディングは本当に綺麗だった、一緒に街道に出て走る事で、その凄まじさを実感した。
津出は内藤と違ってロードバイクに乗っているのでギアチェンジが可能だ、それにしても坂道に差し掛かろうとも平地同様にスイスイとバイクをこぐ様は、
まるで頂上から何かに引き上げられているかのようで、見ているだけで平衡感覚が狂いそうなほどだった。
筋肉質な方が登りは強いと思っていたが、そんな単純な話ではないようだ。
津出の体つきは、スラッと美しく絞れており、筋肉質とはまるで無縁だった。
マラソン選手と短距離選手を比べるようなものなのだろう、鍛えた筋肉の質が違うのだ。
そして帰りの坂道の降りもまた、体が凍えるほど恐ろしい体験だった。
足を逆回転させてピストのスピードを調整しつつ、一寸先が崖の九十九折りを下るのだ。
できる限りブレーキを使うなとは事前に忠告されていたが、そんなことできっこない。
一瞬でも気を抜けば崖から落ちて死ぬことだろう、ここでも内藤は涙目になりながら感覚無い足に力を込めて降った。
力の入らない足が、空回りのきかないピストにより勝手に高速回転させられる、回転リズムが崩れると途端に車体が浮き上がり、浮遊するかのような奇妙な感覚に幾度と肝を冷やした。
恐怖でハンドルがガタガタと揺れ、これが一週間続くと思っただけで怪我をして逃げたいと願ってしまうほどだった。
登りも降りも、初めは津出の注意を聞く余裕もないほどだったが、四日目には随所でフォームを意識できるほどにはなっていた。
しかし一週間経とうとも、とうとうダムへの登り道を歩かず最後まで登り切れなかったことだけが、内藤は心残りだった。
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:14:19.94 ID:FSk9LSOY0
- そしてすべての練習が終わると、津出のマッサージが90分ほど設けられる。
(;^ω^)「いた、ちょwww痛ッ……!!」
これもまた、非常に辛い所業となる。
痛いところに限って入念に揉みほぐされるのだ。
それでも次の日の疲労の残り具合を減らすためには省くことができない、歯をくいしばって毎日我慢した。
毎日寝ることが憂鬱だった。
目が覚めるとあっという間に朝になっており、また地獄のような一日が始まるのだと思うと夜眠ることが憚られた。
だというのに過度の疲労は憂鬱などお構いなしに睡眠を欲する。
当然、寝なくては次の日に体が持たないから寝るしかないのは内藤とて分かってはいるのだが。
毎晩毎晩、気が病んでは一人暗欝で、真暗い部屋にいた。
神経は糸のように細くなり、病み切っていたことだろう、ともすれば病院送りになったかもしれない。
しかし内藤は、その苦難を乗り越えた。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:16:26.00 ID:FSk9LSOY0
- 一週間が経過し、またひとつ、内藤は肉体改造を終えた。
( ^ω^)「人の太ももってこんなにも太くなるものなのかお……陸上やっていたから太いつもりでいたのに驚きだお」
ξ゚听)ξ「まぁ競輪を目指すに値するくらいにはなったんじゃないかしら?」
体は常に筋肉痛で、立っているだけでもピリピリと、血液が炭酸にでもなったかのようないじらしい痛みが付きまとった。
しかし何事も慣れか、今ではこの痛みがそれだけの努力を重ねたのだと、勲章のように誇らしく感じていた。
ξ゚听)ξ「さて、それじゃあそろそろ本格的な、1000mタイムトライアルの練習に入りましょうか」
津出の言葉から、内藤はいよいよ試験を意識せざるを得なくなり、体の震えを感じた。
季節はいよいよ三月の二週目、気温は然程低くはないも、風があってまだまだ寒気を感じる。
いつもと同じように、昼の合間を縫うように競技場へと移動する。
時間は12時から13時半までが、内藤と津出に用意された時間だ。
加えていつも、三十分ほど前に競輪場入りするようにしている。
時間になったらすぐに練習に取り掛かれるのはもちろんのこと、こうすることで少し余分に時間を貰えるのだ。
「おお、もう来たのか、若いの!
すぐ退くからな、ちょっと待ってろ」
( ^ω^)「はい、いつもいつもありがとうございますお」
この頃には内藤も愛好会の人たちと顔見知りとなっており、約束よりも多少長く時間を与えてもらったりは日常茶飯事だった。
- 13
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:17:47.08 ID:FSk9LSOY0
- しかし、ここで別の一人が、内藤へと声をかける。
「おまえ、今日もここを使うのか?」
( ^ω^)「はいですお、いよいよ本格的な練習に入るんだお」
「そうじゃねーって、だって今日は――」
その人の言葉が終わらない内に、内藤の後ろから大きな笑い声が聞こえた。
耳に入った瞬間、第六感が過敏に嫌な予感を察知しては、練習への熱意が僅かに綻びたのを感じた。
そうだ、この声の主は、あの男だ。
( ゚∀゚)「おー、なんだオマエ、随分と久しぶりだな」
从 ゚∀从「なんだ、この前負けたやつか」
( ^ω^)「……」
さっぱりとした気分が一気にどす黒い何かに閉ざされるのを感じた。
そうだ、どうして今日に限ってこの者たちと出会わなくてはならないのだ。
長岡の後ろには、この前一緒に試合を見ていた高岡を含め、十人ほどが並んでいた。
ξ゚听)ξ「長岡さん、お久しぶりです。
それにお弟子さんまでこんなに……どうされたのですか?」
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:19:18.00 ID:FSk9LSOY0
- ( ゚∀゚)「あー、どうしたもこうしたもねーよ、競技場借りに来たんだ。
ちょうど俺らの地方の競輪場が大会で、でも競輪学校の試験も近いから、わざわざこっちまで来たんだよ。
布佐から聞いてないか?」
ξ;゚听)ξ「いえ、聞いていませんが……それに、これからは私たちの時間です」
( ゚∀゚)「しらねーって、俺らは布佐に許可得てるんだ、お前らはどっか別の場所にでも行ってくれ」
そう言うと、構わずにどかどかと中へ入り込んでいく。
先まで話していた愛好会の人たちが内藤と津出に向かい、すまなさそうに頭を下げた。
ξ;゚听)ξ「駄目です、ちょっと待ってください!
せめて私たちの練習が終わる、13時半まで待っていただけませんか?」
(#^ω^)「そうだお、お前らはここよりも近い競技場があるお、他の地域のやつがくんなお!」
ξ#゚听)ξ「ちょっと、内藤!」
(#^ω^)「……」
内藤の余所者扱いが気に障ったか、長岡の引き連れてきた人間のうち数名が目を尖らせた。
今にも掴みかかりそうな形相でにらみ合ったが、それを止めに入ったのは長岡だった。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:20:56.47 ID:FSk9LSOY0
- (;゚∀゚)「こらこらオマエら、布佐に怒られるだけだ、殴り合いにだけはなってくれるなよ……。
でだ、内藤だったか?」
(#^ω^)「なんだお?」
( ゚∀゚)「俺は言ったよな、競輪ほど努力が無駄になる競技は無いって。
だからもう練習なんて止めて帰れ」
(#^ω^)「ふざけんなお!」
内藤が津出を振り切って長岡に掴みかかると、すぐにも長岡の後ろから数人が飛び出て来て内藤の襟や腕を掴みあげた。
(#^ω^)「離せお!」
「おまえこそ師匠から手を放せよ、この屑が!」
(#^ω^)「くずはお前らだお、師匠はしょせん屑籠ってところかお」
「その言葉そっくりそのまま返したらぁ!」
多人数に体を掴まれ、鋭い目にいくつも睨まれたが、それでも内藤は意地になって長岡を掴んだ手を離さなかった。
十人はいるだろう弟子の数に驚くも、同時にこんな師匠についているやつらに怯んでなるものかと闘志を燃やした。
そして叫びあげた。
(#^ω^)「だったら長岡、お前、僕と勝負するお!
僕のこれまでの練習が本当に無駄だったかどうか、その眼で見て、その肌で体感するといいお!」
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:23:10.53 ID:FSk9LSOY0
- 「ふざけんなよガキが、お前なんて長岡さんが相手するか!」
(#^ω^)「くぉ……っ!」
更にいくつもの手に掴みかかられ、内藤は苦しさにとうとう長岡を掴んだ手を離した。
その折をチャンスと見たか、途端に多くの手にもみくちゃにされる。
今にも殴りかかられてボロ雑巾にされそうなほど、その場が切迫した。
( ゚∀゚)「お前ら、止めろって言ってんだろ、ホントいうこときかん奴らだな……。
実際俺らがよそもんなのは事実だから、もめ事を起こすには分が悪いってもんだ。
でだ内藤、俺が勝ったらここは譲ってもらえるのか?」
(;^ω^)「それは……」
内藤は自信満々に勝負を提案したが、そう言われてしまっては言葉に詰まる。
長岡は今なおS級1班で戦うエリート選手だと聞いた、そんな選手とまっとうに戦って勝てるわけがない。
歯を食いしばって言葉を出せずにいる内藤に、長岡は不敵に笑った。
( ・∀・)「こんなヤツなにも師匠が相手する必要無いですよ、俺がいきますよ、同じ競輪学校試験を受験する者として」
( ゚∀゚)「茂羅(もら)か、つっても相手にならんぞ……?」
( ・∀・)「でも、こいつがこの前、師匠と高岡さんが見に行った勝負で戦っていた奴ですよね?
ちょっと気になっていたんですよ、同じ競輪学校試験を受ける者として。
競輪をなめている初心者が、ね」
どいつもこいつも言葉に棘がある、長岡の弟子はみんなそうなのだろう。
常識もわきまえない、ゴロツキの集まりだ。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:25:11.61 ID:FSk9LSOY0
- ( ・∀・)「師匠と勝負したければ、俺に勝ってみなよ。
師匠の弟子で今春試験受ける中では一番速いのは僕だ、不足はないだろう?」
(#^ω^)ξ゚听)ξ「……」
この勝負、負ければ自動的にこの競輪場を相手に譲ることとなるのだろう。
これから内藤の体を1000m向けに改造していこうとしていた津出には、このまま引こうと戦いに負けようと、いずれにしても競技場が使えなくなるのは致命的だった。
競輪場を使えるようになるには、勝つしかない。
しかしどうやって。
長岡が連れてきたのは十人ほど、高岡を除いたあとは皆競輪学校を受験する者なのだろう。
これだけでも十に満たないほどの人数がいる、その中から最も速い選手と戦うなれば、所歩と戦う事と相違ないのだろう。
賭けをするには、あまりに勝機の見えない話だ。
ξ゚听)ξ「茂羅とか言ったかしら、どうしてアンタが出てくるのよ、関係ないでしょう?」
( ・∀・)「難易度が落ちたんだから喜ぶべきですよ、分かりませんか?
といいますか、もしかして……あなたが、こいつの師匠ですか?」
あからさまに唇が震え、笑いを我慢しているのが見て取れた。
津出は叫びあげたいほどの怒りの衝動に駆られるも、御世話になっている布佐の親友である長岡、その弟子ともなるととても無碍には扱えない。
渋々相手の挑発にかからないよう、普通の返答をしてみせる。
ξ゚听)ξ「そうよ、私が内藤の師匠の津出よ」
( ・∀・)「うはwww」
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:27:11.68 ID:FSk9LSOY0
- 唾を盛大にまき散らして大笑いを始めるものだから、危うく津出も叫びあげそうになった。
屈辱を受けながらもひたすらに我慢し、相手の笑いが落ち着くのを待った。
内藤が今にも飛びかかりそうだったので、そこは手を出して制止させる。
しかし相手は形振り構わず、笑いをとどめる事無く言葉を吐き出した。
( ・∀・)「なんだよ、なんで女が師匠なんだよマジわけわかんねぇwww
つかそんなじゃ相手にならないわ、戦う必要無いなwww
どうせ女の方も本を読んで勉強したくらいだろ、勤勉な事でww」
(#^ω^)「なんだとお前――
(´・ω・`)「まったく、黙って聞いていればある事無い事言って、随分と口の減らない奴だね。
弱い奴ほどよく吠えるとは随分的を得た言葉かも知れないね」
(;^ω^)ξ;゚听)ξ「ってなんでこいつ普通に登場してきてんのー!?」
(´・ω・`)「津出を馬鹿にするのは一切構わない、もっとお洒落や化粧をしたらどうだとか、巻き髪が糞みたいだとか何とでも言ってくれて結構だ。
ただそのフォームを貶すようなら、僕が黙ってはいないよ?」
ξ;゚听)ξ「ちょっと待って、別に私そこまで言われてないわよ!
つーかなにコイツそんな風に私のこと見ていたの!?
やっぱり普通にムカつくんですが!」
突然現れた所歩に内藤と津出も驚きを隠せない。
変態ストーカーの所歩、一体いつからどこにいたのだろうか、その疑問は野暮なのだろう。
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:29:06.63 ID:FSk9LSOY0
- ( ゚∀゚)「所歩、お前もなんだ、津出に味方すんのか?」
( ・∀・)「……所歩?」
長岡が所歩に話しかけたが、その名前に茂羅が反応した。
(;・∀・)「所歩ってお前、高校総体の1000mで、第4位だった……!」
(´・ω・`)「それがどうかしたのかい?」
( ・∀・)「……ほう、どうやら事情が変わったようだ」
茂羅はその眼を強くして所歩に向かうと、その前に立った。
やはり所歩は大きい、身長はゆうに190センチはあるのだろう。
それでも茂羅は気押されることなく睨みを利かせている。
( ・∀・)「長岡さん、冗談のつもりでしたが、本当に勝負してもいいですかね?」
( ゚∀゚)「ああ、構わんが、勝てよ?」
( ・∀・)「もちろんです。
俺が師匠の代理で出るんだ、そっちも代理でお前が出たって問題ないだろうさ。
さあ、あの時の再戦といこうか?」
(´・ω・`)「あの時? それは勘違いだ、僕と君は初対面だろう?」
深く考えることもせずに首を傾げる所歩に、茂羅は叫びあげた。
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:30:55.33 ID:FSk9LSOY0
- (#・∀・)「忘れたとは言わせないぞ!
高校総体1000m、お前が四位だった決勝レース、俺は五位だったんだ!
優勝確実と言われたお前に、俺は100分の2秒差で負けたんだ、あの屈辱は忘れない!」
言われた途端に所歩は首を上下させ、なるほどと頷いて見せた。
ようやく思い出したか、そう思いながら好敵手を見つめる茂羅に、所歩はあろうことかこんな言葉を投げかけた。
(´・ω・`)「ああなるほど、だからか、それは記憶にないわけだよ。
忘れるも何も、そもそも僕は自分よりも遅い奴を覚えてなどいないからね。
覚えてすらいない相手を、どうやって忘れろというんだい」
一瞬その場が凍りついたかのような沈黙となった。
悪びれを微塵と感じさせない所歩の表情が、余計に相手の屈辱を煽ったことだろう。
傷口に塩を塗り込んだかのようだ、好敵手と思った相手に覚えられてもいなかった現実を、興味がなかったなどと公言されたのだから。
(#・∀・)「ふざけるな! あれは俺が高校一年でお前が高校三年だったから負けたんだ、あと二年あれば俺は負けてなかった!」
(´・ω・`)「分かったよ、御託は良い、それじゃあ二年越しの再戦といこうじゃないか。
そもそもあの大会は体調を崩して挑んだから優勝できなくて、できる限り思い出したくないんだ、もう止めてくれ」
次には相手がずっと復讐してやると誓いを立てた件のレースについて、もう語るなという始末。
どれだけ相手を煽ればいいのか、どれだけ相手をなじれば気が済むのか。
そのわざとと感じられなくもない無表情がまた、憎らしい。
(´・ω・`)「走れば分かるさ、君が覚えるに値する選手かどうかは。そして君の師匠と僕の師匠、どちらが有能なのかはね」
(#・∀・)「お前……!」
あろうことか、この戦いで師匠の優劣まで付けると公言しだしたのだ。
どこまで自信に満ちているのだこの男は。
- 23
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:33:08.48 ID:FSk9LSOY0
- (´・ω・`)「それじゃ内藤、すまないけど僕が走らせてもらうよ、いいね?」
(;^ω^)「構わないお……」
昨日の敵はなんとやらか、所歩は内藤に味方してくれるようだ。
敵だったときはこの上なく厄介だったが、味方にしてもなかなかに厄介な男だ。
しかし、どこか心強い、変態だが心強い。
( ・∀・)「それじゃあレースといきたいが……いいのか? 俺はもうこの競輪場までピストで移動してきたから、いつでも走れるが」
(´・ω・`)「……ああ、それで、何秒欲しいんだい?」
(;・∀・)「は?」
(´・ω・`)「いや、もうここまでの走りで疲れています、普通に戦ったら負けて当然ですという言い訳じゃなかったのかい?
事前に言い訳を作られるのは嫌いでね、だったらハンデを与えるのが僕のやり方なんだ」
茂羅は声を上げて笑った、精一杯笑って、この悔しさをあと一歩踏みとどめた。
怒りで震える両手足に肩、頬をバチンと大きく叩いて気持ちを落ち着けると、ぎこちない笑顔で所歩に向いた。
(#・∀・)「いい度胸だ、じゃあ始めようか、今すぐに、二年越しのリベンジ戦を……」
(´・ω・`)「震えているね、本当は怖いんだろう、僕の実力に津出の走りが加わったなら鬼に金棒だからね、震えない方がどうにかしているよ。
恥をかくと分かっていても戦うのは見上げた勇気だが、僕としては七面倒くさい心の方が大きいね」
(#・∀・)「……」
相手はここで黙った。
内藤もそうだった、所歩とまっとうに話をしていても何一つと有益なことはなく、心に怒りばかりを溜めこむことにしかならない。
茂羅もそれを理解し、言われた分の怒りはすべて、勝負への集中力に向けた。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:34:20.48 ID:FSk9LSOY0
-
(´・ω・`)「それで津出、どうだろう、今さらかもしれないが、僕を正式に弟子と認めてもらえないだろうか?
断られるなら僕はこの勝負、やはり止めることにするよ、赤の他人の僕には無益なものだ。
このまま僕の助けを断って、むざむざ唯一弟子の敗北を指をくわえて見るならそれでもいい」
ξ゚听)ξ「言ってくれるじゃない……分かったわ、あんたを弟子にしてあげる事、考えてあげる」
(´・ω・`)「考える?」
ξ゚听)ξ「この勝負、あんたが勝ったなら弟子にしてあげるわ。
その代わり負けでもしたなら、即刻ここから出て行ってちょうだい」
津出が強気に発言したが、所歩は口元を少し緩めてほぅと頷いただけだった。
(´・ω・`)「つまり弟子にしてくれるということだね、ありがたいことだ」
彼の頭の中では、自分が負けるという選択肢は無いらしい。
しかしこの男なら、やってしまいそうな気がする、負ける事など無いようにすら思えてしまう。
所歩の過度なまでの自信に触発されたかと、津出の口元も僅かに綻んだ。
ξ;゚ー゚)ξ「あんまり調子に乗って、足元をすくわれないようにね」
(´・ω・`)「心配無用さ、君の弟子になれる以外の勝負では、負ける気はないよ」
内藤との勝負はわざと負けたのだとここで言うと、所歩は笑みを止め、いつもの無表情へと戻っていた。
彼のこの顔こそが一番怖い、津出の表情がまた更に、僅かに緩んだ。
戻る