2 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:10:34.62 ID:3O99mdVr0
登場人物

( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、競輪選手を目指す。

('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。

J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。

ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:ロードバイクを乗りこなす女性、内藤に目をかける。

(´・ω・`) 所歩:師匠の怪我で布佐の元に来るが、津出と決裂。群を抜いた実力の持ち主。

   高良:毒男の師匠
   長岡:毒男の尊敬する競輪選手
   高岡:S級1班の競輪選手である長岡の弟子

3 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:13:00.58 ID:3O99mdVr0
     第十三レース「滅裂の一転」


ξ゚听)ξ「遅いわよ、早い目に来るくらいしてもらわないと」

(;^ω^)「ごめんお」

内藤が怒りの鞘を収めるころには、ちょうど津出との待ち合わせ時間となっていた。
慌てて競輪場に戻ると、彼女は先ほどの出来事が無かったかのように、いつも通りのツンとした態度だった。
だからこそこの空元気が余計に先ほどの涙を彷彿とさせ、見ているだけでも痛々しく居た堪れなくなる。

ξ゚听)ξ「あら、体つき変わった?」

( ^ω^)「お? 一応この前ピスト乗れたから、それをイメージして練習していたお。
  バイカーっぽくなっているといいお……」

ξ゚听)ξ「いいことね、そういえばこの前転んだ傷は大丈夫なの?」

( ^ω^)「全然平気だお」

肉体の変化は誰よりも内藤自身が感じていたが、他人に気付かれるとは思ってもみなかった。
津出は本当に相手の端々までよく見ている、普通の人間なら見逃すだろう内藤の努力をくみ取ってくれた。
ほのかなやりがいが心に現れたことに、内藤は嬉しさを感じていた。


そのまま津出に案内されて向かった部屋には、一台の赤いピストが設置されていた。

4 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:15:01.49 ID:3O99mdVr0
ξ゚听)ξ「ほら、これがアンタのピストよ」

真新しく光沢を放つ真っ赤なバイク、白と黒のラインがわずかにはしる車体が、見た目にもとても速そうだ。
ヘルメットとシューズも色合いが統率されており、女性特有のセンスで上手くマッチしている。
内藤も一目見て「格好いい」と思えた。

だというのに。

念願の自分のバイクを手に入れたというのに、なぜか素直に喜べず、まるでピストまでが悲しんでいるかのように感じた。
内藤はできる限りの気遣いとして、ぎこちなく喜んでみせた。

( ^ω^)「おお、待ってましたお、赤くてかっこいいお、とても速そうだお!」

ξ゚听)ξ「本当に速いかは乗る人の腕次第よ、とりあえず微調整するから乗ってみて。
  あ、ヘルメットとシューズはそこにあるから」

いつもの津出だった。
ツンとした具合がいつもの彼女過ぎて、ひどく不気味に感じた。
どうして悔しさをおくびにも出さずにいられるのか、先の出来事が夢じゃないかとすら思えるほど、彼女はいつもと寸分変わりない仕草だった。

内藤がピストに跨ると、その恰好を見て津出はあれこれと注文をつける。
もっと腕を伸ばして、もっとサドルの後ろに座って、腰を曲げないで、目線は前を見続けて。
そして一回一回、ミリ単位で微調整を行っていく。

一時間近く経過したのではないだろうか、そうしてとうとう内藤特製のピストが完成した。


やはり内藤は、心から喜べなかった。

5 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:16:58.36 ID:3O99mdVr0
ξ゚听)ξ「ほら、試しに座ってみなさいよ、しっくりくるから」

( ^ω^)「ほんとだお、いい感じだお。
  なんか自分専用って感じがするお!」

ξ゚听)ξ「そうでしょう、私が直々に調整したんだから、ありがたく思いなさい」

実際の乗り心地としては、些かの違和感が伴ったが、乗り慣れていないからだろう。
内藤はそう思いながら彼女のことをひたすらに褒めた。
先の所歩の言葉を否定するように、津出は最高のコーチだと、彼女を庇うかのように。

ξ゚听)ξ「……」

そんな内藤に向かって、津出は訝しげな目を向けた。

ξ゚听)ξ「あんた、なんでそんなに無理してるの?
  さすがにこれだけ頑張ったのに空喜び見せられるだけだと、納得いかないわね」

(;^ω^)「いや、そんなわけじゃ……」

褒めていればいいなどと甘い考えで津出と話したことを後悔した。
彼女はその屈強な心で悔しさを見せぬよう自律しているだけでなく、決して高ぶることなく内藤を観察していた。
張本人を差し置いて、内藤が動揺していてどうするのだ。

( ^ω^)「……ツン」

ξ゚听)ξ「なによ」
7 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:18:28.22 ID:3O99mdVr0
( ^ω^)「ツンについていけば、僕は本当に強くなれるのかお?」

この疑問には、さすがに彼女とて感情を見せぬわけにはいくまい。
口元を緩めると、隙を見せたカエルに食らいつく蛇のように、即座に身を乗り出して返答した。

ξ゚听)ξ「当たり前じゃない、強くなれるわよ、強くしてあげる。
  すぐにも結果を見せてあげるわよ、一カ月もあれば十分にね」

具体的な期間を出して、津出はさらに内藤に歩み寄る。
彼女の嬉しそうな顔を見ると、先の涙が頭を掠めて、より内藤の心を締め付けた。

内藤は、津出に向かって笑顔を返した。

( ^ω^)「ピストありがとうだお。
  喜びが中途半端ですまんかったお、僕は考えていたんだお。
  ……津出、僕に乗り方を教えて欲しいお」

ξ゚听)ξ「それって……」

( ^ω^)「僕の師匠になってほしいお」

途端に津出は人が変わったように満面の笑みを浮かべ、頬を緩めた。

ξ*゚听)ξ「もちろん、しっかりと鍛えてあげるから」

返答は今更確認するまでもない、当然の肯定だ。
師弟関係を結んだからといっても特に何の契りを交わすわけでもないが、互いの意思が通じ合った。

8 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:20:00.46 ID:3O99mdVr0
津出はようやくかと、今までの鬱憤を心の中で弾けさせた。
それ見たことか、やはり無償で親切をみせていれば、相手は靡いてくる。
内藤としても津出と組んで何の不利益もありはしない、むしろ断っていた今までがおかしかったのだ。

ξ゚听)ξ「すぐにもバイクのイロハを叩きこんであげるわ」

( ^ω^)「頼むお、僕は誰にも負けないくらい速くなりたいお。
  誰にももう何も言わさないお」

ξ゚听)ξ「何があったか知らないけど、そうね、誰にも負けないくらい強くなりましょうか。
  誰もに認めさせてあげるわ、あなたの力をね」

(*^ω^)「僕の力と、津出の力をだお!」

ξ゚听)ξ「……?」

津出が眉をひそめたことに、内藤は気付かない。
勢いづいた彼は、同意を求めながら高らかに声を上げた。

(*^ω^)「二人で倒すお、そして認めさせるお、あの所歩って男に!
  僕たち二人で倒すんだお!」

瞬間に津出の表情が固く凍りつき、慌てて内藤は口をつぐんだ。

(;^ω^)「……ツン?」

ξ#゚听)ξ「ふざけないで!」

9 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:21:49.23 ID:3O99mdVr0
あまりに鋭い一言に、途端に内藤は気押された。
失言したのだと手遅れにも分かった、それに触れてはいけなかったんだと、今更ながらに分かった。
どうしてこうも相手の気を立てることしか言えないのだろう、内藤は自分の粗相な性格を恨んだ。

(;^ω^)「違うお、勘違いだお!
  違う、僕は別に所歩がどうだとか……」

ξ#゚听)ξ「止めて、何よあんた、さっきのやり取りを聞いていたのね!
  私はそんなに惨めかしら!?」

津出の中でせき止められていた感情が、よりひどい形で氾濫した。
同情、憐れみ、どれだけ惨めでどれだけ可哀そうな存在なのだ。
あれだけ悔しい思いだって隠そうと頑張っていたのに、相手はそんな自分を哀れに思って囃したてては、譲歩してきたのだ。

ξ#゚听)ξ「ふざけないで、今まで私がどれだけ頑張って尽くしても拒んでいたくせに、憐れみなんかで心変えないでよ!
  女だからって言われないよう頑張ってきたのに、今までの私の頑張りをそんなに簡単に否定しないでよ!」

津出が腕をふるって内藤の頬を叩き、乾いた音が部屋に反響した。

ξ#゚听)ξ「あんたもあいつと一緒よ、止めてよ、そんな下らない同情なんていらない……!
  師弟関係もこっちから破棄するわ、もういい、アンタは勝手にやっていればいいわ」

(;^ω^)「ツン」

10 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:23:27.58 ID:3O99mdVr0
内藤が何をフォローしようと、彼女は耳を貸す様子すら見せない。
彼女にとっては思わぬ裏切りだったのだろう、所歩によって絶望の淵に立たされ、内藤の垂らした蜘蛛の糸にしがみついたなら、
それは今までの彼女を否定したも同然な同情でしかなかったのだ。

ふざけるな、馬鹿にするな。
蔑まされる覚えなど無い、優越に浸られる覚えなど無い。

ξ#゚听)ξ「今まで色々と付きまとって迷惑かけたわね、もういいわ。
  あんたとはこれまで、もう金輪際構わないから安心して」

バッグからシューズとヘルメット、部屋の隅からローラー台を持ち寄ると、内藤に一方的に預けた。

ξ゚听)ξ「バイバイ」

立ちすくむ内藤に目配せ一つして、彼女は去っていった。




11 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:25:00.93 ID:3O99mdVr0
 

('A`)『もしもし?』

( ^ω^)「毒男かお?」

('A`)『俺の携帯だ、俺以外が出てたまるか。
  で、どうしたんだ?』

津出と別れた後、内藤はしばしの間、ただ愕然と立ちすくんでいた。
納得がいかない、自分は悪くなかったはずだ。
なのにこうして意見の相違から津出と別れてしまったことが、心から悔しかった。


相手のことを思ってやったことだというのに、どうして喧嘩別れになってしまうのか。


自分が相手に何ができるのかと思い、必死で行動したことがどうしてこんな結果を招くのか。

意思と結果の相違と理不尽さに、釈然としない思いばかりが沸き立った。
しかしここで足を止めてしまってはいけない、彼にはこの道しかないのだから。
足を止めないためにも、今できる事を必死に考えた。

そして思い立ったと同時に、深い考えなしに毒男へと電話をしていた。

12 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:27:09.10 ID:3O99mdVr0
( ^ω^)「毒男、津出って知っているかお?」

('A`)『誰だそれ、有名人か?』

( ^ω^)「ロードレースでの高校総体入賞者だお」

('A`)『うーん……知らないが、それだけ実力があれば簡単に調べられそうだな』

( ^ω^)「調べて欲しいお」

(;'A`)『……は?』

毒男は完全に虚をつかれた。

(;'A`)『どんなキラーパスだ、自分で調べろよ、今の御世代ネットでも何でもあるだろ。
  俺はからきしだがな』

( ^ω^)「僕もからきしだお、だから毒男の知り合いに、詳しい人いないかお?
  できる限り綿密に調べてほしいんだお」

(;'A`)『お前な……』

毒男は呆れかえったが、大学から完全に縁を切った内藤には、友人と呼べる人自体がいない。
苦肉の策として、頼れるのは毒男だけだった。

しかし毒男も競輪学校に缶詰めだった一年があり、高校時代の仲間とはほとんど疎遠となっていた。
友人に付き合えば練習をおろそかにしてしまうだけでなく、飲み会や徹夜をしては体調管理にも響く。
結局競輪という狭い世界での係り合いがメインとなってしまう、生憎そこにパソコン等に秀でた人間の心当たりはない。
14 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:30:23.42 ID:3O99mdVr0
悩みながら記憶を弄ると、ふと救世主が脳裏をかすめた。

('A`)『……あ、あーあー、一人いたわ、友人とも言い難いけど一応顔見知りかな。
  パソコン詳しそうだし、なんとか頼んでみるよ』

( ^ω^)「心の友よ、ついでに所歩ってやつも頼むお」

('A`)『俺は都合のいいドラえもんか、まぁ了解した、早い目に知らせるわ。
  つっても調べるのは俺じゃないから、確かな補償はないがな。
  とりあえずメールで本名とか分かるだけのことでも教えてくれ』



毒男から結果の連絡があったのは、それから四日後だった。
ポストに投函された分厚い封筒、中からは30枚にも及ぶ資料が飛び出してきた。

やはりメインはインターネット上の情報源だろう、レース結果がほとんどだったが、その整理が綺麗になされていた。
最高記録やシーズンの平均記録、天気や気温に至るまで、どこのサイトがこれほど膨大な資料をまとめていたのだろうか。
データのまとめ方には個人のセンスが出るものだろうが、幸運なことに内藤にとっては非常に見易い作りだった。

津出と所歩、両方の選手が同じようにまとめられているところからすると、相当な暇人がネット上で全選手データでもまとめているのだろう。

その他、新聞や雑誌の記事のコピーが、参照先まで丁寧に記載された状態で一緒にされていた。
中には五年ほど前のものもある、新聞では新聞名だけでなく日付とページまでが詳細に追記されていた。

新聞記事では結果や略歴が載っているだけがほとんどだったが、インタビュー記事がそれぞれ一つあった。
雑誌記事の方こそ大会の結果ばかりで有能な情報は少なかった。

しかしたった数日でどこまで調べ尽くしたのだろう、どこかの探偵にでも頼んだのかといいたくなるほどだ。

15 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:32:09.23 ID:3O99mdVr0
それらに目を通すと、おぼろげに津出と所歩の人生の軌跡がうかがえてくる。

津出は小学校のころ、父親の友人から勧められてロードの世界に入り込んだらしい。
練習熱心で、時間をかけては地元にある様々な難所地形を練習の舞台としていた。
女性で早期からロードの世界に入り込む人は少ない、気づけば彼女は日本有数のロードバイカーとなっていた。

小学生のころから大会に出場し、子供を対象とした短い距離に満足できず大人の部門に参加していた。
当然ボロ負けはするのだが、その経験を糧として断続的な練習を重ねてきた。

特筆するのはそのバランスの良さだそうだ。
上りに下りに平坦、向かい風に追い風に雨天、あらゆるコンディションに満遍なく対応できる器用な選手。
そして芸術とさえ謳われるペダルの回転は、細身な彼女からロスの少ない、力強いパワーを生み出すそうだ。

( ^ω^)「すごいお、経歴も全国大会で入賞ばっかりだお……」

しかし内藤が釈然としない理由は、そんな彼女が競輪の世界に飛び込んできたことだ。
ロードであれば実績を携えているというのに、あえて競輪に飛び込んでくるのだから、
挑発を抜きにしてもお金が理由ではないだろうかと思えてしまう。

( ^ω^)「……」

考えても想像だけで終わってしまうだけだろう、津出の過去には見切りをつけて、所歩の資料を見てみる。
18 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:34:48.18 ID:3O99mdVr0
所歩は、小学校五年の頃に親戚からバイクを貰ったことがきっかけでこの世界に入ったそうだ。
中学の時、バイクに乗っているところを偶然、室内レースの選手に声かけられて競技として開始。
みるみる間に才能は開花し、高校時代にはスプリント競技で国内優勝を飾っている。

一年前の新聞では、『現在は、大学で勉強をしながら、将来入るチームを考えているところだ。』と締められていた。
それが今、どういうわけか進路を変更して競輪を見据えているのだ。

( ^ω^)「つまり、大学中退かお……」

悔しいかな、内藤と全く一緒だった。
ずっと続けてきた競技と大学を止めて、競輪という新たな道へ進んだのだ。

へたに共通点を見出してしまったことが心辛く、もどかしかった。
彼と同族にされたような嫌悪感を感じながら資料へと再び目を戻す。
無味乾燥な結果だけが羅列されている中、とある記事に内藤の目はくぎ付けになった。


内藤はすぐにも立ち上がり、真新しいピストに乗って外に飛び出した。


向かった先は、家から10分ほどで到着できる近場にある、橋のたもとだった。
資料に目を通しながら一時間余り待てば、一台のピストバイクが通りかかる。

19 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:37:32.27 ID:3O99mdVr0
( ^ω^)「久しぶりだお」

(´・ω・`)「おや、奇遇だね、こんなところでどうしたんだい?」

所歩は以前のやり取りを何ら悪びれる様子もなく、爽やかに話しかけてくるものだから余計に鼻についた。

(#^ω^)「お前が練習場としてここを通ると知ったから、すぐさま来て待っていたんだお」

(´・ω・`)「なんだい、そうまでして僕に何か用でもあるのかい?」

( ^ω^)「お前、結局今は一人で練習しているんだお?
  どうだお、競輪場を使って誰かと走りたくないかお?
  偶然にも明後日の月曜日の夕方から競輪場が空いているんだお」

内藤の挑発的な態度で、所歩はその質問の意図を読み取った。
期せずして口元がゆるむ。

(´・ω・`)「……いいね、確かに競輪場で実際に走りたいと思っていたところだよ。
  だが、その真新しいピストを見る限り初心者に思えるけど、そんな君に僕の相手が務まるのかい?」

( ^ω^)「やってみないと分からないお」

内藤は今まで嫌だ嫌だと邪険にしてきた陸上でも全国レベルとなったのだ、本気でこの男を打ち負かしたいと考えた瞬間から負ける気がしなかった。

(´・ω・`)「確かに」

所歩は形ばかり悩んだ素振りを入れながら、淡泊な相槌を返した。
そして表情を変えるでもなく、相変わらずの悪気無い表情でこんな事を聞いてくる。

(´・ω・`)「それで、僕はわざと負ければいいのかい?」

20 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:39:19.61 ID:3O99mdVr0
( ^ω^)「お?」

(´・ω・`)「だって、この前の彼女が見に来るんだろう?
  僕を負かして格好いいところを見せようというんじゃないのかい?」

内藤が咄嗟に掴みかかったが、所歩は身じろぎ一つしなかった。
面倒そうな表情が目に映り、思わず手を出そうになるも、すんでのところで引き止まった。

(#^ω^)「お前、いい加減にしろお。
  さすがにそろそろ我慢の限界だお」

(´・ω・`)「……何の我慢だい? 気を遣ったことに感謝こそされど、そんな言葉を言われる覚えはないけどね」

(#^ω^)「舐めるなお!」

襟をつかむ腕の力を強くすると、所歩の口から舌打ちが漏れた。

(´・ω・`)「舐めているのはどっちだい、初心者が僕と真面目に競って勝つ気でいるのかい?
  君の方こそふざけるのもいい加減にしてもらいたいね。
  あと襟が伸びるから引っ張るのは止めてくれないか」

(#^ω^)「……!!」

(´・ω・`)「そうだね、条件をつけようか。
  僕が負けたなら何でも言うことを聞くよ、あの女の弟子にでもなってやろうじゃないか。
  その代わり君が負けたら……その、新しいピストを貰おうか」

(;^ω^)「ピストを……!?」

(´・ω・`)「それで良ければその勝負、受けて立つよ」
24 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:42:27.56 ID:3O99mdVr0
購入してからまだ間もないピストを渡せというのだ。
ようやく貯めたお金を使い、津出が苦労して調整してくれた特製のピストを。

良い返事など返すわけがない、所歩もそれを見越しているのだろう。
変化無い表情が、それ見たことかと話しかけてくる。

(´・ω・`)「僕は僕自身を賭ける、君はそのピストバイクというわけだ」

所歩が条件を復唱する、早く答えろと言いたいのだろう。
何くわぬ顔での催促は、この男とは相いれないと確信するには十分だった。

(´・ω・`)「どうだい、彼女からのピストを、君は賭けられるのかい?」

(#^ω^)「!!」

所歩と初めて出会った日に、津出がピストを調整しているところでも見ていたのだろう。
賭けるピストは津出が作ったものと知った上で、この条件を突きつけてきたのだ。
絶対に相手が呑むわけがないと分かっていたからこそ、こうやって提案してみせたのだ。

この男にとっては、まるで津出の事などどうでもいいのだろう。
彼女が悔しさに身もだえ泣こうと、感情を隠してピストを完成させ笑顔をみせようと、この男はすべてを奪うのだ。
何の権利があるのだ、どうして彼女の感情を蹂躙するのだ。

津出の泣き顔が頭をかすめた瞬間、内藤の口から言葉が先んじた。

(#^ω^)「望むところだお」
26 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/15(日) 20:44:06.54 ID:3O99mdVr0
瞬間の爽快と後悔。

悪事に手を染めた瞬間はこのような気分なのだろう、相反する感情が心を支配した。
僅かに見せる愉悦が懸念に押し潰されて、自身の今の感情を見失った。
杭で足を刺され固定された状態で、激しい後悔に後ろ髪を引かれるも、もう言葉を放った後だ、その場から後ろに引くことはできない。

(´・ω・`)「そうかい、月曜の夕刻だね、承知したよ」

所歩は間髪入れず受け答えすると、後悔に苛まれる内藤を傍目にその場を後にした。
最後まで表情を変えなかった、それが内藤をより後悔に導いた。
少しでも相手の意表をつけたならばまだ「してやった」と思えただろうが、結局相手は眉の一つも動かさずに受け答えをして去っていった。

(;^ω^)「……」

今まであった戦意が途端に消失していくのが分かった。
ここまで怒りばかりが先行していたが、冷静となったところでようやく、過酷な現状を受け止めざるをえなくなった。

決戦は明後日、残された時間は明日一日だけだ。


勝敗は手に取るように分かる。

絶望的だった。



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