23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 21:59:10.32 ID:TnWIaiW00
     第十二レース「敵愾と屈辱」


津出にバイクを組んでもらう約束から三日が経ったが、依然彼女から内藤へは連絡が来なかった。
それでも内藤は焦ることなく、今の自分ができる事と必死に練習を重ねた。

特に一度ピストに乗れたことは大きい、その時使用した筋肉をイメージして、重点的に鍛える事が出来る。

(;^ω^)(……ッ!!)

彼はその他のすべてを振り払わんが如く、必死に練習を重ねた。

実際内藤自身が変わったことで、周囲も変化していった。
しかしそれでも不動の事も幾つとある。


例えばその一つが両親のこと。


例えばその一つが風羽のこと。


それらは内藤自身が変われたところで、すでにどうしようもない。
だからそれら雑念をはね除けるだけ練習を重ねては、必死に体を酷使し続けた。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:00:57.55 ID:TnWIaiW00
陸上時代にもかなりの練習量を積み重ねていた肉体だったが、それらが更に磨かれていくのが分かった。
必要な筋肉の違いだろう、肉体改造は着実に進められ、彼自身もその変化を敏感に感じ取った。

今までに縁のない筋肉の鍛練は、甚大な疲労を生んだ。

(;^ω^)「くはぁ……今日もつっかれたお……」

家に帰ると、すぐにも突っ伏して死んだように寝る。
単純ながらにも充実した一日一日を過ごしていた。

( -ω-)「ぉやすみだお……」

しっかりと体を鍛え、次こそはバンクを超えてやる。
今の内藤はそれだけを見据えていた。
そうすることこそが、過去の己を超えた証となるのだと信じていた。


今ならば物怖じすることなくバンクへと向かってやる、そして絶対に越えてやる、と。




26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:02:57.26 ID:TnWIaiW00
そして津出との約束から一週間ほど経ったか、ようやく携帯に連絡が入った。
ピストの完成と、月曜日と水曜日の夜に、競輪場の時間が取れたとの連絡だった。

一週間も待たされたか、しかし一週間の間で早くも内藤の体は筋力的な変化を見せていた。
バランス良く鍛え上げられた筋肉は、バイクに乗るのには十分なほど磨きかかっている。

( ^ω^)「絶対にバンクを超えてやるお、今度こそ……!」

この思いも一週間あったからこそだろう、待っていましたとばかりに内藤は意気込んだ。


津出からの連絡は、夕方に競輪場に来てほしいということだった。
津出と出会った、地方の競輪場の方だ。
ちょうど内藤がバンクで転んだのも、ここになる。

その日は筋肉を休めるためにも、ジムでゆっくりと固定バイクをこぐことにした。

(;^ω^)(早く行きたいお、早く乗りたいお……。
   でもまだ早いお、せめて一時間前……いや、一時間半前くらいでも……)

まだ昼前、約束の時間である17時までは時間は随分とある。
内藤ははやる気持ちを抑え、うずうずと落ち着かない気持ちでひたすらに固定バイクをこいだ。

高い買い物であったことに加え、これから先ずっと一緒になるのだろう愛機がとうとう手に入るのだ。
何色だろうか、格好いいのだろうか、協力してバンクを超えることはできるのだろうか。
遠足前日の子供のように浮かれる気持ちを落ち着けることで精一杯、今日ばかりは練習に身が入らなさそうだった。



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:05:01.07 ID:TnWIaiW00
ξ゚听)ξ「さて……と」

津出はあらかたのパーツを組み終えたが、本人がいなければこれ以上の調整へは着手できなかった。
地方のバイク専門店で試乗用に使っていた新品同様の型落ちフレームを使うことで、大きな出費を避けた。
そして小物一つ一つに至るまで、バイト先の店主に交渉して、ほぼ入荷価格同様の破格で手に入れた。

特に厄介だったのはローラー台だったが、これは選手から直接お古を譲り受けた。
そうして余った分のお金は少しでもパーツのグレードアップに使い、ピストレーサー自体は値段の割にかなりの性能を携えることとなった。

ξ゚听)ξ「もうこれでよさそうね、後は微調整と、乗り手の育成だわ」

そう、後は初心者の内藤をどのようにして乗りこなせるにまで鍛え上げるか、それが重要だ。
本来であれば津出がなんとかしてやりたかったが、なぜか内藤は拒もうとする。

しかしあの筋力に運動センス、潜在能力は計り知れない。
はいそうですかと、みすみす逃す手はない。

ξ゚听)ξ「でもどうしてかしらね……」

師弟関係を嫌っていたのだから、津出以外の他の誰かに取られることはないだろう。
しかし一人で一から鍛えようなど、試験までの残された日付を考えれば不可能なことは一目瞭然だ。

ここまでしてやったのだ、師匠が必要と分かればあちらからコンタクトを取ってくるはずだ。
そのために競輪場で直接指導もしたし、限られた費用内でこうも優れたピストを準備してやるのだから。

ξ゚听)ξ「そうよ、絶対すぐにも私が必要となるわ……」
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:07:01.14 ID:TnWIaiW00
津出が直接指導したところで、春の試験に合格できるまで成長するとは考え辛い。
それほどまで競輪学校への壁は分厚いものなのだ。

しかしその次、秋の試験に合格できるまでの力はつけてやることができる。
合格できるかどうかは別の話だ、それでも合格レベルの力まで高めてやれる自信があった。

ξ゚听)ξ「きっとすぐにも挫折して、泣きついてくるに違いないわ」

今の彼は運動での挫折を知らず、なんだかんだ言ってもまだ競輪という世界を甘く見ているのだ。
だからまだ一人で大丈夫だなんて高をくくっていられるのだ。
理想と現実のギャップを目の当たりにすれば、否がおうにも誰かに頼らざるを得なくなるのは間違いない。

前回の二度目の勧誘では、内藤の心は確かに僅かに揺れていた。
実際に自分のピストを手に入れ、乗ればその心境はより彼女に傾き、きっとその力を必要とするはずだ。

気を取り直して、組み立てたばかりのピストの点検に入った。
時間は14時、内藤との約束まではまだまだ時間がある。
津出は入念に一つ一つ、チェックを開始した。

パーツ同士の締まりが弱くないか、反対に強すぎないか。
車輪であれば、過度な圧力は摩擦となって速度に影響を与えるし、弱ければ走行中のブレを生む。
ボルトの一つ一つに対しても、強く締めすぎてはそれぞれのパーツを痛め、脆くしてしまう恐れを多分に含む。

その辺りの調整は難しい、熟練の経験がものをいう部分が多ければ、選手によってもやはり異なる。

そして車輪やハンドルが曲がっていないか、油は十分に染みているか。
実際に回転させることで、車輪は小さなブレを最小限に留める必要がある。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:09:58.62 ID:TnWIaiW00
無慈悲に時間は過ぎていくばかり、一通りのチェックが終われば、一時間など容易に過ぎ去った。

ξ゚听)ξ「この調子だと、アイツの体に合わせて微調整していたら今日が終わっちゃうかもね」

一息をつきながら、内藤の新しいピストを壁に立て掛けた。
真っ赤な原色フレームが目立つ、パーツの黒と銀が相まって力強いイメージのバイクに仕上がった。
格安で手に入れたが、様々なお店を回って内藤が気に入りそうな色を選び、店主や選手のツテを利用してようやく手に入れたものだった。

ξ゚听)ξ「気に入ってくれるかな……」

恋人へのプレゼントを選ぶわけでもあるまいに、自嘲気味に笑うと、津出は一息ついて体を伸ばそうと立ち上がった。
そして部屋を出た先には、体躯のいい一人の男が立っていた。

ミ,,゚Д゚彡「よう、お疲れ様」

ξ゚听)ξ「あ、布佐さん、お疲れ様です」

この地方競輪場を拠点に置いている愛好会、そして選手団、その頂点に君臨するのがこの布佐だ。
数年前に落車事故をして以来成績は芳しくないも、それ以前は最強の競輪選手として長く君臨していた男だ。
その実力と人望はともに厚く、沢山の弟子からも非常に慕われている。

津出もその人柄を尊敬しているからこそ、こうして彼の下についている。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:11:50.54 ID:TnWIaiW00
ミ,,゚Д゚彡「ピストの方は、いいの見つかったか?」

ξ゚听)ξ「はい、沢山のお店を紹介していただけたおかげ様でいいものになりました、本当にありがとうございます。
  ローラー台までいただいてしまって……」

ミ,,゚Д゚彡「気にするなよ、もう捨てる予定だったヤツだ。
  それよりも、弟子候補はどうなんだ?
  それだけ頑張ってピスト作ってやってんだ、いい返事くらいは貰えたのか?」

布佐の質問に、津出は返す言葉に窮した。
途端に師弟関係も結べていない相手にどうしてこうも御世話しているのかと、媚を売っているような錯覚すら覚えた。

ξ゚听)ξ「……まだ、師弟関係ではありません。
  でも、近いうちには……」

ミ,,゚Д゚彡「そんなことだと思ったよ」

そう区切ると、首を傾げる津出に、布佐はとっておきの話だと前置きして言葉をつなげた。

ミ,,゚Д゚彡「今日、一人弟子になりたいってヤツが来るんだ、どうやら師匠が引退するそうで、俺に教えてくれないかって連絡があってな。
  今ここに向かってきている、年齢は二十歳だからまだまだ若い。
  もともとトラックレースの選手だから、かなり素質は備えている」

ξ゚听)ξ「トラックレース出身者ですか?」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、お前と同じ年齢だから知っているやつかもしれんな。
  競輪学校を目指しているが、ベストタイムではすでに1000mを1分10秒切っているそうだ、試験は問題ないと言っていた。
  そろそろ着くらしい、ちょっと時間あるか?」
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:14:07.60 ID:TnWIaiW00
ξ*゚听)ξ「……はい、全然大丈夫です!」

胸が高鳴る。
ようやくこの時が来たのだ、ようやく誰かに教える事が出来るのだ。

津出はしっかりと返事をし、顔には垣間笑みを浮かべた。
内藤という初心者に親切をしたことで、思わぬ大魚が釣れた。
神は見放していなかった、まだ見ぬ選手を待って、津出は緊張の面持ちを強くした。



内藤はついつい待ち切れず、早々練習を切り上げるとバイクを走らせて、約束の時間の一時間半も前に現地へと到着していた。

( ^ω^)「さすがの俺でもこれはひくお……」

いくらなんでも早過ぎる、30分程度早いなら分かるが、一時間半も前に来られては逆に迷惑なだけだろう。
そう反省しながら競輪場前をうろうろとしていると、一人のバイカーがやってくる。

( ^ω^)(あれはギアが無いし、ピストレーサーだお)

ブレーキを使わず、足に力を入れて減速停止したところを見ると、競輪選手ないし競輪選手希望と見て間違いなさそうだ。
反射的に隠れてしまった内藤に気付くことなく、男は競輪場内へと入っていった。

( ^ω^)「……?」

内藤もこのまま外でのんびりしているわけにもいかないだろう、後ろから気付かれないように、その男の後を追って競輪場へと入っていくことにした。



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:15:45.35 ID:TnWIaiW00
(´・ω・`)「……はい?」

所歩(しょぼ)という男は、素っ頓狂な声を出した。
話がちゃんと通っていると思っていただけに、突然の宣告に理解しようという考えすら思いつかないほど虚をつかれた。

(´・ω・`)「すみません、言っている意味がよく分からないのですが」

自転車競技のスプリントで全国四位、当日は調子が悪く芳しい結果ではなかったが、前評判では優勝候補筆頭の鳴り物入りだった。
それだけの実力者、彼も自負している。

不運にも一週間前、彼の師匠が落車により骨折して入院を余儀なくされた。
選手生命も危ういそうで、新たな師匠を探す必要が出てきたため、名実ともに優れる布佐という男を頼ってやってきたのだ。
だというのに思わぬ提案、どういうことかと頭をもたげる。

ミ,,゚Д゚彡「いや、俺も沢山の生徒を持っていて大変なんだ、分かってくれ。
  むしろ君の実力をかってマンツーマンの指導ができる、津出を師匠としてつけようという配慮なんだ。
  納得いかないかもしれない、だが騙されたと思って手をうってくれないだろうか?」

(´・ω・`)「絶対嫌です」

ξ;゚听)ξ「……」

本人がいるにもかかわらず、けんもほろろに断りを入れるあたり、律儀で憎い男だ。
さすがに津出も居辛さを感じて、縮こまってしまう。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:17:09.01 ID:TnWIaiW00
(´・ω・`)「何がマンツーマンですか、そこの女は僕の練習についてこれるのですか?
  こんな何の保証もない女の口だけ指導になるなら、自分自身で十分事足ります。

ミ,,゚Д゚彡「お言葉だが、こいつは元ロードの選手だ、指導の腕も俺が信頼を置いている」

(´・ω・`)「僕の練習についてこれるのかと聞いているのです」

ミ,,゚Д゚彡「……」

そしてその場は静寂となった。

ミ,,゚Д゚彡「そうだな、おそらくは無理だろう。だが、絶対ではない」

(´・ω・`)「何が言いたいのですか?」

ミ,,゚Д゚彡「俺もちゃんと補助につく、ただ、少なくとも俺にだってお前の力や特性を見る期間が必要だ。
  その適性期間として、津出の元で練習をしてもらいたい」

ξ;゚听)ξ「それって……」

津出が口を挟むが、彼女に目配せ一つなく、布佐は所歩だけを見て言葉を続ける。

ミ,,゚Д゚彡「飛び込みの弟子入りなんだ、少しは譲歩してもらいたいね。
  お前の適性が見えたら俺が直接指導しよう、約束する」

(´・ω・`)「一理ありますね」

ξ;゚听)ξ「待ってよ、何それ!」
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:19:02.28 ID:TnWIaiW00
津出が叫んだが、当の二人は眉をひそめる何とも疎そうな反応だった。
悔しく気押されそうになるも、声を大きくして噛みついた。

ξ#゚听)ξ「なんで、そんなの教える意味ないじゃない、結局実力がついたら奪うの!?
  それに無理よ、こんなに教えられるわけないじゃない!」

ミ,,゚Д゚彡「方便だ、それくらい分かれ。
  むしろ、奪われないくらいちゃんと関係を築けばいいだろう、それが師弟関係というもんだ」

ξ#゚听)ξ「だから無理だって言っているのよ、こんなと信頼し合える仲なんてまっぴらごめんだわ」

(´・ω・`)「これまた早々に決裂ですね」

ピリッと空間が硬直した。
三者三様の意見で、とても事態の収拾は簡単に望めそうにない。

ミ,,゚Д゚彡「とりあえず、俺の条件はそれが限界だ。
  弟子たちが練習しているんでな、後は当人同士で話し合え」

そこで一番の大物布佐が抜け、さらに空気が硬直した。
鋭い目線で睨みつける津出に、それを毛ほども意識しない所歩は、大きな溜息を吐いた。

(´・ω・`)「それで津出さん、ロードレース高校総体入賞者が、一体何しているんですか?」

ξ゚听)ξ「!! 何でそれを……」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:21:19.46 ID:TnWIaiW00
(´・ω・`)「未来の競輪選手の玉の輿に乗りたい気持ちも分かりますが、随分とあざとい方法を選ぶんですね」

ξ゚听)ξ「黙りなさい!」

声を張り上げ、津出はそれまで以上に鋭い目つきを作った。
そして所歩に接近して、睨みあげる。

(´・ω・`)「図星だからって、そんなに怒らないでくださいよ」

ξ゚听)ξ「随分と口の利き方を知らない子ね、本当」

(´・ω・`)「あざといですよ」

ξ#゚听)ξ「なめないで頂戴」

津出は凄みを利かせようとするが、その背丈からか、背伸びしているようにしか見えず、所歩はつい失笑する。
そして中腰になると、挑発するかのように目線を合わせた。

津出は顔を引きつらせ、それでも気丈に所歩へ顔を近づけると、おでこ同士を当てた。

(´・ω・`)「背伸びしたって怖くないんですよ、あなたは」

ξ#゚听)ξ「女だと思って見くびっていると、痛い目見るわよ?」

(´・ω・`)「見くびるなんてとんでもない、それよりも随分とうまく立場を利用しているものだと感嘆するばかりですよ」

ξ#゚听)ξ「なんですって?」
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:23:50.92 ID:TnWIaiW00
津出は目を見開き、まるで恐怖と対峙するかのように顔をこわばらせた。
所歩はこれ見よがしに津出の顔をはね除けると、演説するかのように身振り手振りをしてたからかに力説を始めた。

(´・ω・`)「だってそうでしょう、女性という性別を利用して、こうもうまく布佐選手の集団に馴染めている。
  女性という立場から特別扱いされている、重宝されている。
  ああ羨ましいことです、男性の僕ではそんな媚の売り方、到底できそうにもない」

ξ#゚听)ξ「侮辱しないで!」

(´・ω・`)「あなたがいつからどれだけ大切に優しく扱われてきたのか僕は知りません。
  女性だからということで、どれだけもてはやされていたのか知りません。
  今まではさぞ女性ということで甘やかされてきたのでしょうね」

津出はまるで心臓を掴まれたかのように、苦しく悲愴な表情となった。
悔しいが言い返せない、利用していたつもりはなくとも、その女性という扱いは明らかに特別だったことは分かっていた。

そうだ、実際に愛好会の数名から誘われたことは勿論、手を出されそうになったこともあった。
明らかに下心を見える扱いも多い、下心を見せないまでも殆どの選手はわがままを快く聞きいれてくれる。
津出は女なのだ、どれだけ抗おうと、どれだけ気丈に振る舞おうと女なのだ。

(´・ω・`)「でも僕は違います、本気で競技をしているのです、本気で競輪選手を目指しているのです」

ξ#゚听)ξ「違う、私だって本気だから!」

(´・ω・`)「他は知りませんが、女という武器をいくら振るわれようと、その尻にホイホイとついて行くだなんて思わないでください。
  一晩一緒に寝ればたいていの男は誑かせるかもしれませんが、僕はそうはいきませんから。
  女だからなんでもまかり通るだなんて思わないでください」

ξ#゚−゚)ξ「……っ!!」
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:25:52.95 ID:TnWIaiW00
所歩はそう言うと、すぐにもそこを後にした。
これ以上会話することは無意味と踏んで、用はないと判断したのだ。

残されたのは、瞼から涙を流す津出だった。
そう思われたことが悔しくて、でも何一つと言い返せなくて。

悔しさに、立ったまま頬を濡らした。
涙を拭うこともせず、その手は悔しさでこぶしを握りしめていた。

ξ#;凵G)ξ「違う……違う……っ!!」

その手を大きく震わすと、地団太を踏んだ。

ξ#;凵G)ξ「違うから、私だって、何よ、違うバカにしないで!
  言われるまでもないわ、私は女なの、そんなこと誰よりも私が痛感しているわよ!」

ひたすらに叫びあげると、次に来るのは言い知れぬ虚証心。
凌辱されたかのような、ぶつけようもない怒り、抗いようのない憤り。

そして自分だけでなく、自分のせいで女性にかまけていると扱われた選手たちへの懺悔。

ξ#;凵G)ξ「何でそんなこと……あんたに言われなきゃいけないのよ……」

いつもの彼女など消え去っていて、空気の抜けた風船のように弱々しくただ静かに、風前の灯火のような存在だった。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:27:43.73 ID:TnWIaiW00
(#^ω^)「おまえ、ちょっと待つお」

(´・ω・`)「ん?」

津出に暴言を吐いた男をみすみす逃す手はない、物陰からやり取りを見ていた内藤は、その男を呼び止めた。

(´・ω・`)「なんですか、そんな怖い顔して」

(#^ω^)「何ですかじゃないお、今のやり取りを見ていたお!」

(´・ω・`)「だから、何ですか?」

七面倒くさそうに語る所歩に、内藤は殴りかかりたいまでの衝動に駆られた。

(#^ω^)「僕の知り合いだお」

(´・ω・`)「だから、何ですか?」

(#^ω^)「このまま帰すと思うかお?」

(´・ω・`)「……そうですね、男女の揉め事は厄介ですからね」

突然男女という言葉を出され、内藤は少し怯んだ。
別に下心はない、しかしどうして自分がこの男に突っかかっているのだろうと考えてしまったのだ。
知り合いとはいえ、友人というにも程遠い、津出という女性をどうして守ろうとしているのだろうかと。

心境変化による他人を庇う行為こそが、また内藤を困惑させたのだ。
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/06/02(月) 22:29:35.32 ID:TnWIaiW00
(#^ω^)「そんなんじゃないお!」

(´・ω・`)「じゃあ、どんな関係ですか?」

(;^ω^)「……知り合いだお、それ以上でもそれ以下でもないお!」

躍起に噛みつくだけの内藤に、所歩は冷笑を浴びせかけた。
『男女』という一言で内藤を疑心暗鬼に押し込めると、その所作はつぶさに観察できた。

所歩はここでまた大げさに身振り手振りを入れた。

(´・ω・`)「これだから女は羨ましい、そして男は卑しい。
  僕を引き留めて怒鳴っておいたと、武勇伝のように彼女に話しかけて慰めてあげるといいさ」

そんなつもりはないも、反論できるだけの理由も持ち合わせていず、内藤はただ押し黙った。
そして怒りの目で、その男を見送った。



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