1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:04:57.46 ID:9eXY6xo70
勝負を決するまでの時間、実に一分にも満たないそも間に、選手の熱意は幾重にも交錯する。


太ももは震え、ひたすら強く握った手は痺れて感覚が無くなる。

バランスを取るのでさえ危うくなるほどに、体は限界に近づき、朦朧となる頭は「諦めろ」と悪魔の囁きを投げかけてくる。



諦めるか。



何人に抜かれたかを考える余裕などない、息を吸うたび疲労が体に強くのしかかり、呼吸すら億劫だ。

ゴールが近づいているはずだが、時間の経過は二次関数的に遅くなる。


ゴールが遠い――


次第に選手に抜かれていく――


ここまで重ねてきた、あの悪夢のような練習は……一体何のためだったのか……

自分は、ピエロじゃない。


『選手たちは最終コーナーに差し掛かりました!』
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:07:17.65 ID:9eXY6xo70
足を一度上げるだけで体の全神経を集中させなくてはならない、この朦朧とした意識の中で、だ。

あと幾度膝を上げろと言うのか、一向に近づかないゴールを通過することはできるのだろうか。


熱を持ったももが爆発しそうだ、体は腹筋と背筋では支えきれず、左右に大きくぶれだした。
競技中の格好いい写真など嘘っぱちだ、目をこれでもかと見開いて、歯茎から血が出んがばかりに限界まで歯を喰いしばった。
地に足をついては、衝撃が体の隅々にまでいき渡り、肌から筋肉に至るまでがボロボロと崩れ落ちる錯覚に陥った。

酸素が欲しい、しかし酸素とともに感じる疲労、体は呼吸回数に応じて重くなり、動きを鈍らせゴールを遠ざける。
息を吸うたび無数の細胞が覚醒し、疲弊を感じては壊死していく。
鋭敏となった感覚は疲労を余計にとらえては、死んでいく細胞をひとつひとつに至るまで感じ取る。

数多の犠牲を伴いながら、それでも振り返ることはせず、ひたすらに体を動かして前へ前へと進んだ。

酸欠からか世界が黒く蓋されようとしている、いけない、ゴールよ、消えるな。

自分の走った軌跡が大きくぶれだす。


ゴールはまだなのか、もう駄目だ、もう疲れた、もう走れない、もう……



『VIP地方大会優勝の内藤選手は一歩届かず、無念の7位ゴールです!』


              ( ^ω^)が競輪に挑戦するようです
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:10:03.68 ID:9eXY6xo70
     第一レース「無数の齟齬」


走り終わると、場内に流れたアナウンスと電光掲示板にて自分の順位を確認し、内藤は眉をひそめた。

順位は7位、全国大会へ上るには6位以上の成績が必要だった。
とうとう決勝までこぎつけたというのに、予選準決勝と痴呆の戯言に我慢をしてきたというのに、結局はこの結果だ。
これならいっそ予選で華々しく散ったほうが、耳に作るタコの数を減らせられたことだろう。

あと一歩届かなかった、しかしその一歩は深い地割れのように、内藤の立ち位置とその前方を隔てていた。

酸欠寸前の頭を落ち着かせると、大きく呼吸をして体も興奮を静めた。


そして別のプレッシャーの中、足を進めると、前には体躯のいい男が一人、仁王立ちしていた。
内藤は有無を言わず、その前に立つと肩を狭めた。

(,,゚Д゚)「おつかれといいたいが……全然疲れてないだろ、なんだ今の腑抜けた走りは」

(;^ω^)「……」

予選準決勝と同じ言葉を耳にしていた内藤は、耳にまた新しいタコを作ることとなった。
講演会でもあるまいのに毎度毎度同じことを言っていて、よく飽きないものだ。
少なくとも聞かされるほうの身になってもらいたい、何が楽しくて基礎も知らない現役を退いた人間の話へ耳を傾けなくてはならないのだ。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:11:41.37 ID:9eXY6xo70
(,,゚Д゚)「おい、分かってんのか?」

(;^ω^)「はい、すみませんお」

(#゚Д゚)「謝れば済むと思っているんだろう、そんなだから負けるんだよお前は!
  俺に謝ってどうするんだ、バカか!?」

だったら自分を怒ってどうすると言うんだ、内藤は悪態をついた。
いい加減にしてもらいたい、うんざりだ、と。

地方を代表して出場した、全国大会への最後の登竜門、なまじ大きな大会だけに平謝りで済むだろうという浅はかな考えは通用しなかった。
これはいつも以上に長くなりそうだ、いつもは30分ほどの説教だが、今日は1時間は覚悟が必要だろうか。

(;^ω^)「色々と僕をコーチしてくれたので、それを結果で返せずに申し訳なく……」

(,,゚Д゚)「心にもないことはいい、お前の態度を見ていれば思いも分かるってもんだ。
  俺の言うことも聞かない、今のままだとここが関の山だ、これ以上は絶対に登れない」

陸上のりの字も知らない、本で読みかじった知識を振りかざすだけの人間が何を言うか。
だったらこの男の無味乾燥な説教を聞くより、陸上専門書を読み漁ったほうがストレスも溜まらずよっぽど有意義だろう。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:14:18.75 ID:9eXY6xo70
(,,゚Д゚)「内藤、お前、200m地点では何位だった?」

(;^ω^)「2位ですお」

(,,゚Д゚)「ゴールした順位は?」

(;^ω^)「7位ですお」

(#゚Д゚)「ラスト200mで5人にも抜かれる400m選手がどこにいるんだ!」

余計な御世話だ、ここにいるのだ、目の前に。

ユニフォーム姿のまま汗も拭かずにいるものだから、内藤の体が冷え出して、膝や肘といった節々が痛みだした。
ダウンを行わなくてはならない、しかしコーチはそんな初歩も知らないのだろう、まだクドクドねちっこく罵詈雑言を口にしている。

レース後すぐに説教、せめてそれくらい止めてもらえないだろうか。
そんな常識も書いていないような専門書しか読んでいないようであれば、なるほどこのコーチの実力もたかが知れている。
彼は内心で牙をむき出しながらも、表面上はコーチに従うしかなかった。

そこに、助け舟とばかりに女性の声が割って入る。

(*ノωノ)「コーチ、そろそろ最終種目が終わります。
  内藤先輩もダウンはまだのようですし、そろそろ……」

(,,゚Д゚)「ん、そうか、仮にも決勝だったからな、完敗したが」

棘のある言い方だったが、ここでむやみやたらに食い下がってはいけない、内藤は俯いたままこぶしを握り締めた。
スポーツ推薦で大学へ入った彼にとっては、スポーツこそ大学にいる意義なのだ、部活を辞めることなど許されない。
もっともそうでなければこんなコーチ、すぐにも殴り倒していただろうが。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:16:33.99 ID:9eXY6xo70
陸上では決勝種目はプログラムの最後にかためて設けられる、お陰でいつもより早い10分ほどの説教で済んだ。
頭ごなしに怒っておけば選手は成長するのだろうか、本当にあのコーチはどの出版社の参考書を読んでいるのだろう。
もしかすると競技ルールや練習法ではなく精神論の本だけを読んでいるのかもしれない、ならば口うるさい理由にも合点がいく。

(*ノωノ)「内藤先輩、決勝レースお疲れ様でした。
  ……コーチは大丈夫でしたか?」

( ^ω^)「いつものことだお、別に気にしないお」

(*ノωノ)「最後の集合まであと30分くらいですが、ダウンしたほうが良くないですか?」

( ^ω^)「言われなくてもするお」

(*ノωノ)「これ、内藤先輩のジャージです。
  あ、あとタオルと飲み物も持ってきました、……邪魔でなければですが」

( ^ω^)「貰うお」

そんな上目づかいで懇願されては、否応なく良い返事しかできない。

若干疎くも感じながら、マネージャーの風羽(ふう)からタオルと飲み物を受け取る。
怒られている姿を見られていたと思うと、屈辱的でもどかしく感じるが今に始まったことでもないかと、胸中に押し込めた。
いつものように形振り構わず八つ当たりしてはいけない、それが先のように彼女を委縮させてしまっていたのだから。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:20:01.51 ID:9eXY6xo70
内藤が自制しながら良い返事をすると、つぼみの様におずおずとしていた彼女は、途端に笑顔の花を開花させた。

(*ノωノ)「どうぞ」

( ^ω^)「ありがとうだお」

(*ノωノ)「それじゃ、部活のテントの片づけをしてきますので、また」

内藤は飲み物を含みつつ彼女を見送ると、手早く汗を拭いて着替えた。
それから軽くジョギングを入れてストレッチをしていると、時間はすぐにも経過する。
試合直後の説教のためか、筋肉は完全に固まってしまっていたので、強い目に柔軟した。


終わりの集合ではまたコーチが嫌味をたんまりまぶした締めの言葉を放ち、静まり返った嫌な空気で大会終わりを迎えた。

解散となるや否や内藤は荷物を背負い、バイクのキーを取り出した。
居心地の悪い競技場をさっさと後にして、わだかまりをすっきりとさせたかった。

( ^ω^)「風羽、帰るお」

(*ノωノ)「内藤先輩、ごめんなさい、ちょっと待ってもらえませんか?」

しかし彼女は内藤の誘い入れをいなすと、周囲の写真撮り係をかってでる。
どこまで周囲の気遣いをするのだろう、内藤はそこに惚れたわけでもあるが、付き合い始めて以来そこがまた不愉快に感じ始めてもいた。
もっと自分のことを優先できないのだろうかと、もどかしく、見ているだけでもイライラが募る。

風羽を放っておいて、バイクに跨ると、ヘルメットをかぶった。
嫌がらせのようにエンジンを力強く鳴り響かせたが、風羽は申し訳なさそうに「ごめん」とジェスチャーするだけでやって来ようとはしない。

大方彼女はこれもマネージャーの仕事と思い込んでいるのだろう、本気で放っておいて先に帰ろうかと考えながらも、内藤は渋々付き合った。
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:22:05.00 ID:9eXY6xo70
ゆうに十分は待ったか、自分の写真を何一つと撮らずに風羽は戻ってきた。

(*ノωノ)「すみません先輩、お待たせしました」

( ^ω^)「風羽は付き合いが良すぎるお」

(*ノωノ)「そんなことないですよ、マネージャーとして……でしょうか?」

( ^ω^)「早くヘルメットかぶるお」

急かしてヘルメットを被らせると、すぐにもバイクを発進させて忌々しい競技場を後にした。

風が顔に覆い被さり、ようやくすっきりとしたところでいよいよ、内藤は「負けた」現実に対面すること叶った。
悔しさ、情けなさ、不甲斐なさ。
彼が一番悔しいのだ、コーチに論われるまでもない、苦渋な練習に耐え忍んだのは彼自身であって、もっとも辛いのは彼自身なのだ。

内藤は柄にもなく目縁に涙を溜めた。

スポーツの世界は過酷で非情だ、それゆえ感情はすぐに高まり、涙することもままある。
しかし彼の流す大抵のそれは、コーチに怒られて自分の情けなさを再確認してしまうがための悔し涙だった。
試合に負けての悔しさか、それともコーチに勝手気ままに叱られる理不尽な悔しさからなのか分からない、もどかしい涙。

後ろで内藤に捕まる風羽が、その腕の力を強めた。

(*ノωノ)「内藤先輩が一番辛いのにね、コーチも人が悪いよ……。
  でもね、みんな分かってるから、内藤先輩が頑張っていること。
  今日の先輩は格好良かった、先輩の頑張りは誰よりも私が知っているんだから」

( ^ω^)「……」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:23:41.49 ID:9eXY6xo70
風羽の優しい言葉が彼の傷心を突き刺した。
髄にまで響き渡る痛味だった。

すぐにもバイクのスピードを上げて、風羽の声を風に流して聞こえないようにした。

(*ノωノ)「きゃッ!」

狭い路地から出てきた自転車と衝突しそうになるも関係なしに、内藤はスピードを上げ続けた。

(*ノωノ)「先輩、危ないですよ……っ!」

( ^ω^)「でもそんなの関係ねーお!!」

明日からまたあのコーチのもとでの辛い練習が始まる、今日の辛さは今日精算して、明日から心機一転臨まなくてはならない。
内藤は鬱憤をすべて晴らすかのように、スピードをぐんぐんと上げていった。


この気持ち良い風が、爽快にすべてを払拭してくれるから。


彼はこの風が……好きなんだ。



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:25:43.42 ID:9eXY6xo70
(;'A`)「あぶねーな、あのバイク……」

通りから顔を出すと、途端バイクが目の前を走って行った。
制限速度を守っているとは思えない、姿はもう小さく路地の奥へと行ってしまった。

(;'A`)「ピストだったら事故ってたぞマジで……ロードでよかったぜ。
  しかし悪いことは続くもんだな、芳しくないレース成績残したばっかりだってのに、やってられないぜ」

最近はツーキニストだか知らないが、ロードバイカーが増えている。
それ自体は喜ばしいことだが、それに比例して無謀運転も増えて、真面目に練習に取り組む者としては肩身が狭くなってきている。

しかしそれは別問題、マナーがなってないライダーはロードバイクだろうと車だろうと、変わらない。
毒男(どくお)という青年は小さくなった原付の影を見て、毒を吐いた。

('A`)「まったく、気分悪いったらありゃしないぜ……」

いつまでも愚痴っていたって仕方ない、バイクシューズをペダルに固定すると、改めて毒男は走り出した。


この風を感じるのが気持ちいいのだ。

今日の結果も、さっきの出来事もすべてを忘れさせてくれる、この風こそが。


彼はこの風が……好きなんだ。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:28:12.18 ID:9eXY6xo70
内藤は若干の筋肉痛を伴って、次の日を迎えた。
授業中は半分うつろになりながら、一日の勉学業務をクリアする。

試合の次の日ということで体を労わって朝練を行っていなかったが、完全休養を取るつもりもない。
放課後になればグラウンドに出て、ほとんど人がいない部活へと向かった。

(*ノωノ)「あ、内藤先輩」

( ^ω^)「どうもだお」

(*ノωノ)「昨日大会だったのに、体は大丈夫なんですか?
  無理はいけませんよ、休む時はしっかり休まないと」

( ^ω^)「だから朝練はなしにしたお、もう大丈夫だお」

(*ノωノ)「相変わらず丈夫ですね」

風羽こそ、休みの日までマネージャー業務大変だなと、内心ぼやいた。
おそらくこれから昨日の大会の記録をまとめるのだろう、ほかの部員すら休む日にまでご苦労なことだ。

ご苦労というならば、顧問も同様だ。
一体どこで内藤が本日の部活に顔を出すと知ったのか、いちいち休みの日まで顔を見せて、本当にどこまで内藤の気分を盛り下げれば気が済むのか。

(,,゚Д゚)「おう、昨日ので限界だったんだろう、今日くらい休んどけ」

昨日の結果が限界だとは、随分棘のある言い方だ。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:29:45.55 ID:9eXY6xo70
( ^ω^)「全然ですお、不完全燃焼だったので今日もいつも通り大丈夫ですお」

(,,゚Д゚)「そうか、だったら今日のメニューは300×10を45"でやっとけ」

( ^ω^)「はいですお」

挑戦状のつもりか、顧問は随分と腑抜けた練習を要求してきた。
元気よく挨拶したのち、内藤は口をとがらせながらアップを始めた。

仮にも試合後だ、ジョギングを長くとり、ストレッチも入念に行っておく。
内藤は顧問がグランドから姿を消したことを確認し、ようやく本格的に体を動かし始める。
試合に体を合わせただけあって、試合後は意外にも体が動くから不思議だ。

(*ノωノ)「先輩、300m計りましょうか?」

( ^ω^)「別にいいお、今日は坂道ダッシュしてくるお」

(*ノωノ)「え……でも、試合後だし、コーチは……今日くらいは落とし目でもいいんじゃないですか?
  また明日から練習はありますし」

( ^ω^)「大丈夫だお。
  また、いつも通り適当にタイム書いておいてくれお」

練習を勝手にやったとばれると、また顧問が口うるさい。
風羽に頼んでタイムを捏造してもらうのは、コーチがいない日では当たり前になっていた。

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:31:22.03 ID:9eXY6xo70
(*ノωノ)「先輩がそう言うならそうしますが……」

( ^ω^)「さすが風羽、助かるお」

大丈夫だと自信満々の笑顔を向けてやると、つられて風羽も笑顔を見せた。

そのまま内藤はスタート地点に向かい、スタートダッシュをして体の調子を再確認。
やはり体は快調だ、太もももよく上がるし、腕の回転も良く体の軸が安定している。
スムーズな前傾スタートが、気持ちよくきれた。

50mほどのダッシュを数回行うと、覚醒し始めた体のまま近場の坂道へとジョギングで移動した。
おおよそ200mの勾配のきつい坂道が、2キロほど離れたところにある。

( ^ω^)「300mを十本……それじゃあ坂道ダッシュは十五本行うかお」

その本数にゲンナリとしながらも、コーチの言葉を思い出し、胆を舐める思いで鼓舞をしてジョギングをした。




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:32:26.77 ID:9eXY6xo70
(*ノωノ)「……コーチ」

(,,゚Д゚)「あの馬鹿は、今日も自主練か」

(*ノωノ)「はい、すみません……私も言ったのですが、聞かなくて……」

(,,゚Д゚)「いいよ、もうあいつには構っちゃいられない、何言っても聞きやしない。
  それで、今日のメニューは何だって?」

(*ノωノ)「坂道ダッシュって言っていました」

(,,゚Д゚)「そうか。ああ、昨日の結果は?」

(*ノωノ)「これです」

風羽は胸に抱いていた数冊のノートから一冊を選り、コーチに手渡した。
そこには昨日のタイムが細かに書かれている。
手動計測のため参考タイムだが、100m単位で選手の記録が書かれていた。

(,,゚Д゚)「やっぱりこいつは短距離だけだな、そもそも400を走る体じゃないよ。
  走り方も、スタイルも……これ以上我を貫いているようじゃ、もう絶対に伸びない。
  何か陸上に改めて向かう、いい方法でもあればなぁ……」

コーチは諦めたような深いため息を吐いて、その場は重苦しい空気に支配された。



26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/21(金) 21:35:14.94 ID:9eXY6xo70
('A`)「まったく、日本の公道は危ないったらありゃしないな」

歩道すら満足に整備されておらず、路上駐車の団子となっている公道に嫌気がさしたドクオは、ビルの隙間にロードバイクをカーブさせた。
田んぼの多い、山へ向かう道にコースを変更するのだ。

('A`)「本当は歩道じゃなくて道路を走らなきゃいかんはずなんだがな」

日本の道路は、ロードバイカーに優しいとは言えない、むしろ心配りなど何一つないと言っても誤謬ないだろう。
道を走っていてはクラクションを鳴らされ、どやされる。
デコボコな歩道を走っていてはスピードも出せず、タイヤの細いロードバイクではとても危ない。

どこへいっても煙たがられる、国民の理解が得られていないのだ。

('A`)「……ん?」

前で、坂道へ向かって構えている男がいた。
近くの大学の運動部だろう、力強く走り出したその男を、後ろから勢いよく抜き去った。


(;^ω^)(……! ロードバイクかお……危ないお)


(;'A`)「ふっ、ふっ……、やっぱこの坂はきっついな……!」

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