734 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:06:22 ID:ESs.Bz4MO
 



        −18−



イ(゚、ナリ从「なるほど」

(´・ω・`)「それは隣の会議室かもしれないし、どこかのトイレかもしれない。
.      とにかく、そこで扉を開いた瞬間に、殴られたんだ」

イ(゚、ナリ从「では、校内全域を捜せば――」


三月が言いかけたのを、ショボーンはとめた。
苦い顔をして、彼は続けた。

(´・ω・`)「無理なんだ。むやみに捜査すると、上の人のかんに障る。
.      捜査に踏み出すには、なにか納得されるような根拠がいる」

イ(゚、ナリ从「……そう、ですか」

(´・ω・`)「確実なのは、トソンちゃんが思い出してくれることだが――」

(´・ω・`)「……待てよ?」

イ(゚、ナリ从「どうしました?」


ショボーンの顔に変化が見られた。


(´・ω・`)「ひとつ、気がかりなことを思い出してね」

イ(゚、ナリ从「なんでしょう」

(´・ω・`)「彼女の証言を思い出してよ」

イ(゚、ナリ从「扉を開いたら――」

(´・ω・`)「違う違う。もっと、前。
.      彼女は、不思議なことを言ったんだ」


.

735 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:07:02 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「―――寒い≠チて、ね」



 ( 、 トソン『寒い。図書室のなか、寒い』

 (´・ω・`)『さ……寒い?』



.

736 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:08:05 ID:ESs.Bz4MO
 


都村は、回想の際、図書室の気温に言及した。
だが、ショボーンはそれをずっと怪訝に思っていたのだ。

なぜなら

(´・ω・`)「図書室は、というより、校内全域は、どこも暖房がかかっているはずなんだ」

イ(゚、ナリ从「それも記憶違いでは?」


ここが公立学校なら、あるいは異なったかもしれない。
しかし、ここは、違う。
私立の学校で、部屋のほとんどには空調設備が備わっている。
図書室であれ、教室であれ、室内にいれば寒いと思うことはないのだ。

三月の当然の推理に、ショボーンは賛同しなかった。


.

737 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:09:19 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「この証言には、ふたつの問題点がある」

イ(゚、ナリ从「ひとつは、場所の問題ですね」

(´・ω・`)「そうだ。仮に図書室で寒さを感じたのなら、図書室で窓を開けていないとだめだ。
.      しかし、それだと犯人はトソンちゃんを下に突き落とす機会があった、ということ。
.      なのに、犯人はトソンちゃんを始末していない。寒さを感じたのは、少なくとも図書室じゃないんだ」

イ(゚、ナリ从「では、もうひとつは?」

(´・ω・`)「この校内で、寒さを感じる場所が、室外しかない、ということだよ」


.

738 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:12:12 ID:ESs.Bz4MO
 


        −19−


(´・ω・`)「しかも、あの言いぐさでは、一瞬だけ外にいたとは思えない。
.      少なくとも一分は、寒さを感じていたような言いぐさだ」

イ(゚、ナリ从「でも、彼女は――」

(´・ω・`)「殴られるより前は、通常の思考なんだから、意味もなくじっと寒いところにいるはずがない。
.      ということは、殴られたあとに、寒いところにいたと考えるべきなんだ」

イ(゚、ナリ从「待ってください、彼女は図書室に横たわっていたはずですし、
       図書室内では、このように暖房もかかっているのですよ」


耳をすませば、空調機が温かい風を吐いているのが聞こえる。
図書室全域の室温を均一に上げるため、風向はあちこち変わる。

そして、問題だが、この暖房は生徒が自由に触れるものではないし、
犯人に言わせても、わざわざ暖房を切る意味は全くない訳である。
ということは、都村は殴られてから狼と真山田に介抱されるまでの間、
図書室とは違う、どこか寒い場所にいた、ということになるのだ。


.

739 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:13:27 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「………もしかしたら、それが今回の事件だったのかもしれないな」

イ(゚、ナリ从「今回の、というと?」

(´・ω・`)「トソンちゃんの件だよ。
.      この、トソンちゃんの寒い≠フ真意がわかれば、事件は解決するはずなんだ」

イ(゚、ナリ从「警部はどうお考えですか」

(´・ω・`)「データが足りないな」


口を尖らせて、ショボーンは言った。
解決は目の前だと言うのに、なにかがショボーンの
行く手を阻んでいて、それがもどかしかった。
なぜ、都村は感じるはずのない寒さを感じたのか。


.

740 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:20:10 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「(考えろ……。トソンちゃんは図書室に入り、司書室に向かった。
.       そこで、扉を開いた瞬間に、殴られて……)」

(;´・ω・)「(違う違う。少なくとも図書室では襲われてないんだった。
       彼女は、どこか別の場所で襲われて、そこから……そこから……?)」

(;´・ω・)「そこから……移動させられた?」

イ(゚、ナリ从「?」


ショボーンが、ぼそっと独り言をつぶやいた。
聞き取れなかった三月が振り向くと、ちょうどショボーンの後ろのほうに都村が見えた。
うろちょろしていて、きょろきょろしている。
彼女は、鑑識に話しかけられると、笑顔で返していた。
そして、彼女が踵を返したとき、彼女の身体からなにかが落ちるのを、三月は見た。


.

741 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:21:30 ID:ESs.Bz4MO
 


(;´・ω・)「なぜだ……犯人は、なぜ?」

イ(゚、ナリ从「(あれは……なんだろう)」

三月が、その都村の身体――もしくは、着ている服――からはらりと
落ちたものに気をとられ、ショボーンをほったらかして、それを確かめにいった。
都村も三月が近寄るのに気がついて、笑顔で三月に挨拶をした。

(゚ー゚トソン「どうされました?」

イ(゚、ナリ从「これ……」


手袋をつけ、それを拾った。
やや硬い質感の、葉っぱだった。
それを見て、都村は首をかしげた。


(゚ー゚トソン「なんですか、それ」

イ(゚、ナリ从「さあ。君の身体から落ちたのだぞ」

(゚、゚;トソン「え? うそだ」

イ(゚、ナリ从「これは――世界樹の葉?」


.

742 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:22:44 ID:ESs.Bz4MO
 


        −20−


三月は、図書室からすぐそこに見える大木、世界樹を見た。
間違いない、この葉っぱはあそこにある世界樹のものと同一だ、と三月は確信した。
しかし、なぜ葉がそこに、しかも都村の身体から見えたのか、それはわからなかった。


イ(゚、ナリ从「つむ……おほん。トソン、ちゃん」

(゚ー゚トソン「はい?」

イ(゚、ナリ从「まさかと思うが、君、稚内と一緒に木登りでもした?」

(゚、゚;トソン「ま、まさか!」

イ(゚、ナリ从「(だろうな……)」


稚内が付き添っていたらあり得そうだったが、まあ病人が木を登るわけあるまい。
すると、三月はもしやと思い、都村を奥に誘った。


.

743 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:24:02 ID:ESs.Bz4MO
 


イ(゚、ナリ从「すまない、カーディガンをとってくれないか?」

(゚、゚トソン「は、はい」


病人の着用する、清潔な服の上から羽織られた、
紺のカーディガンを指して、三月は言った。
都村は言われた通りカーディガンをとった。
首をかしげる都村の、服に手をかけた。


イ(゚、ナリ从「無礼を承知で頼むが、ちょっとだけ脱いでくれ」

(゚ー゚トソン

(゚、゚;トソン「え!?」


.

744 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:27:04 ID:ESs.Bz4MO
 


周りには、少なくなったとはいえまだ鑑識がうろちょろしている。
皆、成人の男性だ、女子高生の都村が抵抗をおぼえるのもしかたがない。


イ(゚、ナリ从「語弊が生じたか。
       ただ、ちょっと服を揺すってくれ。
       まだ葉っぱが付いているかもしれない」

(゚、゚;トソン「こ……こう?」


都村は恥じらいながら、ちょこんと服をつまみ、上下に揺すった。
少しすると、はらりと、葉が足下に落ちたのが見えた。

下着か、インナーか、定かではないが、世界樹の葉が付いていたようだ。
その葉を拾い上げ、三月はますます怪訝な顔をした。


.

745 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:28:16 ID:ESs.Bz4MO
 


イ(゚、ナリ从「これはいったい……」

(゚、゚;トソン「私、病院でこの服に着替えたんですが」

イ(゚、ナリ从「いや、葉っぱはこの服の内側に付いている。
       病院に搬送される前に付いた、とみたほうがいいだろうな」

イ(゚、ナリ从「ただ……」

イ(-、ナリ从「(それだと、事件当時、または事件直後の出来事だ。なぜ、世界樹が関連する?)」


三月は少し考えていたが、いくら思考に耽っても、一定の結論には至らなかった。
とにかくショボーンにこのことを伝えようと、葉を持ち、都村と一緒にショボーンのもとへ戻った。


.

746 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:30:10 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「ん?」

イ(゚、ナリ从「あの世界樹の葉ですが、都村さんも持ってたのです。
       いや、たまたま身体にくっついていた、ですが」

(´・ω・`)「なんで?」

イ(゚、ナリ从「病院に搬送されるより以前に付いたのだけは確かです」

(´・ω・`)「ふつう、そんなのが付いてたら気づくな。
.      それが付いてた、ということは、それは事件と同時に付いたと見ていいな」

イ(゚、ナリ从「私もそこまでは考えたのですが、いったい、なぜかは――」


すると、ショボーンは「あっ!」と大きな声を出した。
都村と三月は同時に肩をびくつかせ、ショボーンを見た。
近くにいる鑑識に聞こえるように、ショボーンは言った。

そのときのショボーンの姿だが、三月の目には、立派な刑事として映っていた。


(´・ω・`)「手の空いている者は、僕についてこい。
.      指紋の照合の用意をして、だ!」


.

747 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:31:17 ID:ESs.Bz4MO
 


        −21−


そう言って、ショボーンは急に駆け出した。
そのため、三月と鑑識は驚いて、慌てて彼のあとに続いた。

足の速い三月は、すぐにショボーンと並んだ。
息を弾ませながら、三月はショボーンに聞いた。


イ(゚、ナリ从「どうしたのですか」

(´・ω・`)「わかったんだ。トソンちゃんが、事件後ほんとうにいた場所が!」

イ(゚、ナリ从「ほ、ほんとうの?」

(´・ω・`)「世界樹の根本を調べるぞ。それで事件は解決する」

イ(゚、ナリ从「は……はい!」


このときに三月の目に映ったショボーンの姿は、とても格好良かった。


.

748 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:33:38 ID:ESs.Bz4MO
 


冬でも枯れない木として有名な世界樹だが、さすがに落ち葉も多かった。
ショボーンは、この落ち葉に付いてある指紋を片っ端から調べていけ、と指示した。
だが、枚数として、ざっと百、二百枚は超えている。
この寒さの中、そんな作業を強いられ、鑑識たちは狼狽えたが、それを見てショボーンは喝をいれた。


(´・ω・`)「僕の推理が正しければ、この落ち葉のなかに必ず犯人の指紋がある。
.      犯人を追い詰める、唯一の証拠かもしれないんだ! 気を抜くな!」

(`・д・)ゞ「は……はい!」

(´・ω・`)「散れ!」


.

749 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:35:54 ID:ESs.Bz4MO
 


鑑識の士気をあげ、ショボーンは踵を返した。
三月は「おや」と思い、彼にどうしたのかと聞いた。

イ(゚、ナリ从「世界樹の根本を調べるのでは?」

(´・ω・`)「まだ調べてない場所がある。そこに残りの鑑識を全員動員させる」

イ(゚、ナリ从「全員……」


荒っぽいやり方だな、と三月は思った。
図書室は調べなくていいのか、と聞くと、ショボーンは即答した。

(´・ω・`)「あそこはあれ以上調べてもなにもでない。
.      おい、おまえ!」

(`・д・)ゞ「はい」


ショボーンは、近くを通りかかった鑑識を捕まえた。
彼は慌てることもなく、ショボーンの指示を仰いだ。

(´・ω・`)「残りの鑑識を全員連れて、四階、ちょうど調理室の辺りを調べろ。
.      そこで凶器になりそうなものは全て、血液反応を調べるんだ」

(`・д・)ゞ「はい!」

イ(゚、ナリ从「……四階?」

(´・ω・`)「いくよイナリちゃん。僕らも行くんだ、ほんとうの現場に」



.

750 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:37:18 ID:ESs.Bz4MO
 


        −22−


四階、丁度図書室の上に位置するところへと向かった。
報告では調理室と聞いたが、そこは厳密に言えば調理準備室だった。

調理室というだけあって、凶器になりそうなものはかなりあった。
包丁にはじまり、ピック、ピザカッターなど、刃物ならいくらでもあるのだ。
ただ、被害者である名治も都村も、鈍器のようなもので殴られている。
鈍器に限って言うと、そこには凶器になり得そうなものは少なかった。


(´・ω・`)「調理準備室の真下は……」


調理準備室の窓から顔をのぞかせ、真下を見た。
風が自分の顔を攻撃し、冷たかったが、そんなことは今は気にならなかった。
それよりも、ショボーンがガッツポーズを見せたのは、
丁度目の前に、世界樹がそびえ立っていたからだ。


.

751 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:40:08 ID:ESs.Bz4MO
 


続いて、ショボーンは目測で窓の大きさを調べた。
窓はガラス製による横開きのもので、大きさは総合して二メートルはある。


(´・ω・`)「やはり……」

(`・д・)ゞ「警部!」


調理準備室の扉を強く開き、続けて鑑識が声を張り上げた。
待ってましたと言わんばかりにショボーンが応えた。
鑑識の顔色はとてもよかった。


(´・ω・`)「お。見つかったか?」

(`・д・)ゞ「ええ。消火器の角に、うっすらと。これが凶器でしょうか?」

(´・ω・`)「その消火器の、重量は」

(`・д・)ゞ「割と重たいです。まあ、この程度なら子どもでももてますが。
.       しかし、遠心力を付ければ、殺害など簡単と思われます」

(´・ω・`)「指紋はなかったんだな」

(`・д・)ゞ「ええ」


.

752 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:41:27 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「……よし。よく見つけた。ご苦労だったな」

(`・д・)ゞ「いたみいります」


報告を終え、鑑識は退室した。
未だに現状を把握しきれていない三月が、
ショボーンの顔を見ると、彼のほうは実に満足げな表情をしていた。


(´・ω・`)「イナリちゃん、いくよ」

イ(゚、ナリ从「今度はどちらへ?」

(´・ω・`)「決まってるじゃない」


三月に歩くよう促し、一緒にショボーンも歩き始めて、同時に言った。



(´・ω・`)「犯人を捕まえにだよ」



.

753 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:42:21 ID:ESs.Bz4MO
 


        −23−


 時折、三月の目の前に浮かぶ、地獄絵図のような光景がある。
 それはいつの記憶かもわからぬ、遠い日の記憶である。

 左目から見える光景は、真っ赤だ。
 右目から、かろうじて見えた光景がある。

 生命の灯火が消えたあとも、決して娘を離さず抱擁する母。
 右目の近くを斬られ、血を流し、気を失った、姉か妹かもわからぬ、己の姉妹。
 そして、絶えず声をかける、父の姿。


そのときの父の姿と、ショボーンの今の姿が、どこか、重なって見えた。
犯人を追い詰める時のショボーンの顔は、どことなく、惹かれるなにかを感じさせたのだ。


.

754 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:44:56 ID:ESs.Bz4MO
 


無口になった三月を連れて、ショボーンは司書室に向かった。
狼と真山田の二人は、呑気に談話をしていた。
その姿を見て、ショボーンは彼らに歩み寄った。


(´・ω・`)「いいですか」

( ´ー`)「はい」

リi、゚ー ゚イ`!「アリバイの話ですか?」

(´・ω・`)「いや、アリバイはいいんだ。……もう」

リi、゚ー ゚イ`!「?」


悲しそうに、言って、ショボーンは俯いた。
そして、ゆっくり後ろに手を回し、ベルトのホルダーから手錠を取り出した。
じゃらじゃらとした鎖の音は、何度聞いても聞き慣れなかった。
その取り出した手錠の意味することがわかって、真山田はぎょっとした。



.

755 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:45:48 ID:ESs.Bz4MO
 


( ´ー`)「……もしかして」

(´・ω・`)「お迎えにあがりました」

( ´ー`)「……」


真山田の額に、脂汗がびっしょりと浮かんできたのが見えた。
三月はもしや、と思った。


イ(゚、ナリ从「警部、犯人は――」

(´・ω・`)「――今回は、いたってシンプルな事件でした」

イ(゚、ナリ从「!」


.

756 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:46:55 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「図書室で、名治氏を撲殺。現場が図書室であるという事実を隠すために、更に突き落とした。次いで、都村氏が襲われた。
.      この、なんの変哲もない事件を解決するのに、たいへんな労力を要しました。それはなぜか?」

( ´ー`)「……」

(´・ω・`)「犯人によって、事実が工作されたからです」

リi、゚ー ゚イ`!「……!」

(´・ω・`)「おわかりですね?」



.

757 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:47:44 ID:ESs.Bz4MO
 



ショボーンは、そっと手錠を突き出した。


(´・ω・`)「狼シグン。名治殺害容疑、及び傷害の疑いで逮捕する」




.

758 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:48:45 ID:ESs.Bz4MO
 


        −24−


ショボーンの言った言葉は、決して大きな声で放たれたものではなかった。
当人に聞こえるよう、つぶやきに近いものだった。
なのに、その言葉は、三月、真山田、そして狼、皆の胸の奥底に、深く、重くのしかかった。
数秒ばかしの静寂が生まれるのも、仕方がないことだった。


リi、゚ー ゚イ`!「……え?」

( ´ー`)「狼…先生?」

(´・ω・`)「異論はあるか?」


ショボーンが聞くと、狼は少したじろいだ。
顔をやかんのように紅潮させ、荒い息遣いで、ショボーンにくってかかった。


.

759 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:49:41 ID:ESs.Bz4MO
 


リi、゚ー ゚イ`!「しょ、証拠でもあるんですか?」

(´・ω・`)「証拠じゃない。犯人が、あなた以外にはあり得ないんだ」

(´・ω・`)「第一発見者……だからな」

リi、゚ー ゚イ`!「第一発見者だからって犯人になれば、警察はいりませんよ」

ぶぜんとして狼は言い返した。
かなり熱り立っていて、まさに一触即発と言えるような状態だった。


(´・ω・`)「違うんだ」

リi、゚ー ゚イ`!「はい?」

(´・ω・`)「今回の犯行トリックを使うには、自身が第一発見者になるしかないんだ」

( ´ー`)「え……」

イ(゚、ナリ从「警部には、その犯行トリックがおわかりで?」

(´・ω・`)「ああ」



(´・ω・`)「明かしてやろう、ほんとうの殺人ルートを」



.

760 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:53:08 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「ほんとうの殺人現場は、ここ、図書室じゃない。
.      四階の、調理準備室だ」

(;´ー`)「なんですって!? ここじゃないのですか!」

(´・ω・`)「それが、犯人――狼さんの策略です。
.      おかげで、ずいぶんと時間を無駄にしてしまったものだ」

リi、゚ー ゚イ`!「どうして調理準備室が殺人現場なんですかっ!」

(´・ω・`)「じゃあ逆に聞こう。現場が図書室であるという根拠は?」

リi、゚ー ゚イ`!「都村さんが倒れていて……」

(´・ω・`)「ほかには?」

リi、゚ー ゚イ`!「……」

リi、゚ー ゚;イ`!「……ぁぁ…」


.

761 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:54:45 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「そうだ、図書室が現場だと思った理由はトソンちゃんの有無。
.      ……逆に言うと、それだけなんだよ。
.      つまり、彼女をあそこに寝かせておくだけで、現場を偽れたのさ」

イ(゚、ナリ从「!」

(´・ω・`)「僕らは、名治さんの一件から、犯人は、図書室が現場であるということを隠したがっていた
.      ふしがあったのではないか、と思っていた。だが、実際は逆だった」

(´・ω・`)「犯人は、図書室が現場であるということにしたかったんだ」

(;´ー`)「なぜですか!」

(´・ω・`)「そうすることで、事件を錯乱できる。自分を容疑者からはずせるからです」


.

762 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:56:09 ID:ESs.Bz4MO
 


リi、゚ー ゚イ`!「でも、所詮それは独りよがりな推理でしょ!」

(´・ω・`)「ところが、これが見つかると、どうもそう言ってられないんですよね」


と言って、持ってきた、凶器の消火器を見せた。
血は拭き取られていたが、それは、現代の科学力では、いとも容易く発見できる。
指紋も拭き取られていたが、犯人がわかっていれば、それはどうでもいいようなことなのだ。

ショボーンは手袋をはめ、消火器を逆手に持った。
振ってみるだけで、Gが腕の全体にかかるのが実感できた。


(´・ω・`)「これ。四階、調理室前にあった消火器ですが、こいつが凶器です。血液反応がでました」

リi、゚ー ゚イ`!「……」

(´・ω・`)「犯人は、名治さんをこいつで殴り、下に突き落とした。
.      次いで、トソンちゃんを気絶させ、三階に運んだ」

リi、゚ー ゚イ`!「待ってください、警部さん」


狼が、にんまりと笑った。
彼女には、まだまだ余裕があるように思えた。


.

763 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:58:26 ID:ESs.Bz4MO
 



        −25−


リi、゚ー ゚イ`!「彼女、スリムですが、人間なのだから、消火器に比べるとすごく重いです。米袋を持つのとではわけが違います。
       細腕の私が、彼女を抱いて、誰にも見られずに素早く運べると思いますか?」


狼の腕は、確かに女性らしいしなやかなものだった。
消火器を振ることは、遠心力を用いるなり加速させるなりと
なにかと説明がつくが、こればかりはどうしようもなかった。

四十キロを超えるとなれば、数秒は引きずるようにして運べても、
抱きかかえ、そして手早く運ぶのは、彼女には不可能だろう。
腕力、スピード、時間、人目。四つの条件が立ちはだかるのだ。

ところが、ショボーンは狼以上ににんまりと笑った。


.

764 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 15:59:39 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「それが、今回の事件で一番の謎でした。
.      彼女の移動ルートが、掴めなかったのです」

( ´ー`)「移動って、抱いて廊下をわたる以外にあるのですか?」

(´・ω・`)「あったのですよ。
.      幻のルート≠ェ」

(;´ー`)「幻……?」


ショボーンは、司書室の窓を思い切り開いた。
冬の冷たい風が吹き込んできて、室内の暖房による熱が逃げた。
そしてショボーンは、前方に見える、世界樹を指した。



(´・ω・`)「信じられないことだが」

(´・ω・`)「犯人は、トソンちゃんをこの樹に投げたんだ」



.

765 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:02:21 ID:ESs.Bz4MO
 


リi、゚ー ゚;イ`!「……っ!」

( ;´ー`)「な…投げたって、信じられない!
      あなたの話では、確か都村さんを三階に移動させて――」

(´・ω・`)「ここから、窓の外にでて、パイプを伝うと世界樹の枝に乗れるのですよ」

( ´ー`)「!」


(´・ω・`)「いくら四十キロ、五十キロあっても、投げるのは簡単だ。振り子の原理さえあればな」

イ(゚、ナリ从「……まさか」

(´・ω・`)「そう。ここから世界樹に目掛けてトソンちゃんを投げ、単身になった犯人は
.      一人で三階図書室に移動し、パイプを伝ってトソンちゃんを回収した。
.      これが幻のルート≠セ!」



.

766 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:03:04 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「吊すようにトソンちゃんを持ち、壁に体重をかければ、足を踏み外さない限りは回収に成功する」

(´・ω・`)「あとは、彼女を図書室に寝かせて、誰でもいいから目撃者≠連れてきた」

( ´ー`)「!」

(´・ω・`)「あくまで、名目上は『女の子が倒れている。助けてほしい』と言って……」

リi、 ー ;イ`!「………」



.

767 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:05:44 ID:ESs.Bz4MO
 



(´・ω・`)「真山田さんが死体を発見したのは偶然だろうが、それでもいつかは警官が見つけるでしょう。
.      そこで、殺人事件発覚だが……狼さん、あなたは、ここで錯覚をねらった」

( ´ー`)「錯覚、とは?」

(´・ω・`)「ふつうに第一発見者となれば、疑いがかかるのは必然だ。
.      だが、彼女の場合、違う。彼女が見たのは、倒れているトソンちゃんだ。
.      名治殺害の件については、さほど追究されなかったでしょう」

(´・ω・`)「そして、錯覚とは現場の錯覚です。
.      トソンちゃんの件で、現場が図書室であると思われ、図書室が重点的に調べられる。
.      狼さん、あなたはこれをねらったんだ。図書室を調べようが、なにも出てこないんだからね……」

リi、゚ー ゚;イ`!「……」

(´・ω・`)「この犯行は、自身が第一発見者にならないと成立しないんだ。
.      すなわち、狼さん」



(´・ω・`)「あなたが、犯人だ」


.

768 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:07:38 ID:ESs.Bz4MO
 


        −26−


狼は、思わずショボーンから顔を背けた。
時折肩を震わせ、自分で自分を抱いている。

真山田が心配そうに見つめるが、彼女はだんまりとしていた。
ショボーンが、「終わった」と一息ついた時だ。
狼が、吠えた。



リi、゚- ゚イ`!「ちがうっ!!」

(´・ω・`)「違う、とは?」

リi、゚- ゚イ`!「なによ、あなたのへっぽこな推理。証拠のかけらもない!
       世界樹を経由した移動ルート? そこを通った、という証拠があるのですか?」

ショボーンは一度口を閉じた。
狼が、熱り立っているからだ。


(´・ω・`)「……ありますよ」


そしてショボーンは、ビニル袋に入った、ある一枚の葉を見せた。
この時期に、青い葉を見せることができるのは、世界樹だけだ。
その葉を、狼に突きつけた。


(´・ω・`)「彼女の服に、付いてましたよ」

リi、゚- ゚イ`!「えっ…」


.

769 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:09:52 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「服と言っても、今着ている服ではない。……制服からだ。
.      妙ですね、なぜこのようなところに、世界樹の葉っぱが?」

リi、゚- ゚;イ`!「きっと……付いたのに気が付かなかったのでしょう」

(´・ω・`)「登校中の話なら、確かに合点がいきます。
.      ただ、そうだとすると必ずクラスメートがそれに気づく。
.      登校中に付いたものだとすると、おかしいのですよ」

(´・ω・`)「そして、体育の授業があったとして、それでもクラスメートが気づく。
.      トソンちゃんの服に世界樹の葉が付いて、誰も気づかないのは放課後だ。
.      ……おわかりですね?」

リi、゚- ゚;イ`!「移動の際に付いた……とか言わないでしょうね」


.

770 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:11:04 ID:ESs.Bz4MO
 


すると、ショボーンは掌を強くたたいた。
乾いた、おおきな音が狼の鼓膜を揺らした。


(´・ω・`)「その通りですよ。ほかに付くタイミングがないからね!」


ショボーンは、したり顔で言った。
だが、狼は思いのほか動揺していなかった。


リi、゚ー ゚イ`!「待ってください。放課後と言っても、事件は四時半より少し前。
       放課後になって、一時間もあるのです。その間に彼女が世界樹の下を歩き、葉が付いたら?」


(´・ω・`)「……」

リi、゚ー ゚イ`!「それが、たまたま今の今まで付いたままだった。それだけです」

(´・ω・`)「………」


ショボーンは、急に黙りだしてしまった。
狼の反論に、異議を唱えようともしない。
狼は、これでショボーンの推理ショーはおしまいか、と安堵した。


.

771 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:12:48 ID:ESs.Bz4MO
 


リi、゚ー ゚イ`!「……もしかして、茶番劇はこれでおしまいですか?」

(´・ω・`)「………」

リi、゚ー ゚イ`!「なぁんだ、おしまいかぁ。いきなり犯人扱いしてくるから、びっくりしちゃった」

(´・ω・`)「………」

リi、゚ー ゚イ`!「じゃ、帰っていいですか? 帰って、復習プリント捜さなくちゃ」

(;´ー`)「狼先生……」

リi、゚ー ゚イ`!「やだなぁ真山田先生。私が犯人なわけ、ないじゃないですか」

(´・ω・`)「………」

リi、゚ー ゚イ`!「……はい。では、これで――」


.

772 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:13:54 ID:ESs.Bz4MO
 


狼が帰路に着こうと、足を踏み出した時だ。
司書室の扉が、いきなり強く開かれた。
ショボーンは「やっときたか」とぼやいた。


(`・д・)ゞ「警部、こちらにおられましたか!」

(´・ω・`)「どうした」

(`・д・)ゞ「差し入れです。とびきりホットな……」

(´・ω・`)「報告しろ」

(`・д・)ゞ「はい!」


ユニークな鑑識は、さっとビニル袋に入った葉を一枚、ショボーンに見せた。
狼はぎくりとした。
嫌な予感しか、しなかったのだ。
まるで、いまから一秒、時が進めば、なにもかも終わってしまう、そのような不思議な気持ちになっていた。
だが、無惨にも、狼のタイムリミットは、定刻通り一秒後に来てしまった。



(`・д・)ゞ「世界樹の落ち葉のうちひとつに、狼シグン氏の指紋が見つかりました!」


.

773 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:16:01 ID:ESs.Bz4MO
 



        −27−



(´・ω・`)「……あなたは、放課後も、受験生のためにずっと講義を開いてましたね」

(´・ω・`)「つまり、放課後はトソンちゃんとは違い、室外には出ない」

(´・ω・`)「まして、教師であるあなたが、こんな、校舎と塀で囲まれた裏道を歩くはずがない」

(´・ω・`)「仮に、出勤中にたまたま付いたなら、それは払うでしょうから、指紋も付く。
.      しかし、その葉が見つかるのは、学校の敷地内でなく、塀を隔てて反対側、一般道路だ」

(´・ω・`)「以降に関しても、あなたは体育教師でもないのだから、外にでるはずがない」

(´・ω・`)「もし、もしですよ。あなたが自身の身の潔白を訴えるなら」

(´・ω・`)「この葉に付いた指紋は、いったい何なのか」



(´-ω-`)「……答えていただきましょう」


.

774 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:17:05 ID:ESs.Bz4MO
 


リi、゚ー ゚イ`!「……」

リi、゚ー ゚イ`!「う…嘘だ…」

リi、゚- ゚イ`!「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」

リi、 - イ`!「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」

リi、;д;.イ`!「うそだぁぁぁぁぁぁァァァァァぁぁぁっぁあ!!」



狼は、その場に、へなへなと跪いた。
そして、最終的に絶叫した。
それは、野生のオオカミが、孤独を嘆き、夜な夜な遠吠えをするかのように。
彼らのその遠吠えのように、それは、悲観に充ちた、哀しい、彼女の最後の絶叫だった。




.

775 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:18:11 ID:ESs.Bz4MO
 








.

776 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:19:12 ID:ESs.Bz4MO
 


        −28−


狼は、個人的な用件のもと、名治を呼び出した。
名治の専攻である家庭科の、調理室に。
名治が調理室から準備室に入ろうとした瞬間に、消火器で思い切り殴るつもりなのだ。


(    )

リi、 - イ`!『(きた!)』



扉が開かれた瞬間に、狼は消火器を振り下ろした。
ほんとうなら、これで終わるはずだったのだ。
彼女が名治を始末すれば、あとはなにも起こらずに済んだ。


.

777 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:20:10 ID:ESs.Bz4MO
 


しかし、狼はここで思わぬ誤算が生じていたことに気が付いた。
扉の向こうに立っていたのは、待ち人、名治ではなかったのだ。


(>、<トソン『きゃっ』

リi、゚ー ゚;イ`!『あっ!』


名も知らぬ我が校の女子生徒が立っていたのだ。
誤って殺めるわけにはいかない。
慌てて勢いを殺そうとするも、元から勢いのついていた消火器の威力は落ちなかった。

殺害するまでには至らなかったが、少女は倒れてしまった。
狼はたいへんなことをしてしまった、と、後悔で青ざめた。


.

778 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:21:19 ID:ESs.Bz4MO
 


準備室に彼女を運び、安静にさせておくと、調理室に誰かが入ってきたのがわかった。
誰だと思うと、その人は「狼さーん」と、よく通る声で狼を呼んでいた。
しまった、よりにもよって今着いてしまったのか。

狼は慌てた。
計画通り殴り殺すには、扉の前で消火器を構え、出会い頭を討つしかないのだが、
狼は扉の前から離れているので、いま準備室の扉を開けられると、非常にまずいことになる。
名治を殺せないだけでなく、この少女について、様々な尋問を受けるだろう。



リi、 - イ`!『(そうだ)』

狼は、陽動作戦をとることにした。
少女を世界樹に目掛けて投げるのだ。
誤って枝の上には乗らず、そのまま落ちてもいい。
とにかく、名治の注意を世界樹に向けるのだ。


.

779 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:22:00 ID:ESs.Bz4MO
 


世界樹の葉が散る音が、うるさく聞こえた。
同時に、どんっと何かが落ちた音も聞こえたので、名治は何事かと思い、窓の外を見た。

そこには、世界樹の上に眠る生徒がいるではないか。
名治はただ事ではないと思い、生徒に呼びかけた。
狼は、今だ、と思った。


ハソ;゚−゚リ『君、だいじょ――』

リi、゚- ゚イ`!『……っ』

ハソ − リ『ぶッ……!』


.

780 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:23:41 ID:ESs.Bz4MO
 


狼は、渾身の力を籠め、消火器を振り下ろした。
名治の後頭部を砕き、一撃にして名治の意識は失われた。

だが、問題はここからだった。
名治は、世界樹の枝に横たわっている少女を案じ、窓から身を乗り出していた。
上半身は、窓の外に出ていたと見ていいだろう。

狼は、その後頭部を殴った。
絶命し、身体を支えていた手に力が入らなくなった名治は、重力に従い真っ逆さまに墜落してしまったのだ。
これでは回収はおろか、名治のもとに向かうことさえ難しい。
また、死体を回収しようにも、出血が地面についてしまったのだ、これはさすがに隠しようがない。
そして、少女も回収しなければならない。
気絶した少女があんなところにいるのは、きわめて不自然で、すぐに見つかりそうなものだからだ。

狼は頭を抱えた。
どうしたものか、と。


.

781 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:25:30 ID:ESs.Bz4MO
 


すると、この少女を利用した、ある作戦が思いついた。

リi、 - イ`!『(図書室を使えば……)』


この調理室の真下に、図書室が在る。
狼の考えた作戦は、こうだ。

少女を図書室に安置し、自分は「この少女の」発見者を装う。
少女の救済を名目に、誰かに助けを求める。
その誰かは、きっといつかは名治の死体を見つけるだろう。
自然なかたちで、事件を発覚させ、且つ疑いのかからない第一発見者となることができるのだ。
今日が司書のいない日であること、パイプを伝って、世界樹の枝まで向かえることができるのは調査済みだ。
少女を回収し、図書室に寝かせ、自分はあくまで悲劇の発見者として、演じさえすればいい。


狼の、自分のこの作戦は、完璧だった。



.

782 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:26:52 ID:ESs.Bz4MO
 


        −29−


リi、゚ー ゚イ`!「……その葉っぱ」

(´・ω・`)「これですかな」

リi、゚ー ゚イ`!「私じゃなくて、あの女の子に付いてたの。
       真山田先生に警察への通報を委(まか)せたあと、葉っぱが付いてるのに気が付いてね。
       とにかく、世界樹を使った移動ルートがばれるわけにはいかなかった。
       凶器の消火器も見つかるモトだし」

(´・ω・`)「それで、つい」

リi、゚ー ゚イ`!「ええ。真山田先生を呼ぶときは手袋もはずしたし……。
       まさか、葉っぱが致命傷になるなんて、信じられなかった」

(´・ω・`)「……」


.

783 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:28:32 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「世界樹は、生命の尽きない植物として有名です」

リi、゚ー ゚イ`!「そう、なんですか」

(´・ω・`)「ですが、木というものは、葉を散らさなくてはならない。枯れ木に成ることのない木は、魅力的ではないのですよ。
.      人間も、一緒。潔白を散らさない人間は、いないものだと僕は思ってます。
.      少しばかし葉を散らしてこそ、人間ですから。
.      ただ、あなたは散らすものを間違えた。……それだけだったのです」

リi、゚ー ゚イ`!「……」


束の間の静寂が生まれた。
ショボーンも狼も、なにも話さなくなった。

そして、ショボーンが狼に手錠をかけようと近づいた時だ。
いきなり、司書室に誰かが入ってきたのが、その場にいる人間皆、わかった。


.

784 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:30:01 ID:ESs.Bz4MO
 


(゚ー゚トソン「先生!」

リi、゚ー ゚イ`!「?」


元気いっぱいの声で、少女、都村トソンがやってきた。
すっかり、体力も万全に戻ったようだ。

ショボーンがぽかんとして見ていると、都村は狼に近づいては


(゚ー゚トソン「チョコの作り方教えてくれるって、家庭科の授業中言ってましたよね。教えてください!」

(´・ω・`)「え?」

ショボーンが言葉を詰まらせた。


イ(゚、ナリ从「確か彼女は、生物専攻の――」

と、三月が言いかけたのを止めたのは、狼だった。
目に涙を浮かべながら、狼はささやいた。


リi、゚ー ゚イ`!「私……といっても去年の話ですが、もともとは、家庭科の先生だったんです」




ショボーンは、彼女に手錠をかけられなかった。
任意同行というかたちで、彼女を、連れて行った。



.

785 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:31:15 ID:ESs.Bz4MO
 








.

786 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:32:57 ID:ESs.Bz4MO
 


        −30−


署に向かった、その帰りのパトカーにて、ショボーンは運転席でハンドルをさばいていた。
隣にいる三月は、事件は終わったというのに、やはり静かだ。
息が詰まったショボーンは、世間話でもしようか、と婉曲に持ちかけたが、拒まれた。
しばらく静寂が続くと、沈黙の均衡を破ったのは、三月のほうだった。


イ(゚、ナリ从「警部」

(´・ω・`)「なんだい」

イ(゚、ナリ从「警部は、あの事件の担当刑事だったんですね」

(´・ω・`)「あの事件というと」

イ(゚、ナリ从「私が記憶を失った、猟奇殺人事件です」

(´・ω・`)「……」


.

787 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:34:23 ID:ESs.Bz4MO
 


それは、二十年ほど昔の話だ。
アスキーアート、ラウンジ、アルプス、そしてVIPと、各地で殺人事件が起こった。
警察の捜査により、犯人を特定できたらしいのだが、追い詰める際、警察はミスを犯した。
そのせいで、VIPにて、襲われた家族があった。
結果、その家族の事件が決め手で、犯人をようやく追い詰めた、と捜査資料には綴られている。
その、最後にねらわれた家族というのは、三月の家族だった。

一方で、担当刑事は若かりし日のショボーン刑事である。
三月は、このことが常に頭の中で引っかかっていた。


イ(゚、ナリ从「担当刑事なのだから、私の、記憶を失う以前の、私のことを知っているのではないのですか?」

(´・ω・`)「また、その話か」

イ(゚、ナリ从「話してほしいのです。……お願いします」


.

788 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:35:24 ID:ESs.Bz4MO
 


ショボーンはハンドルをきった。
タイヤの擦れる音に続いて、三月が言った。

イ(゚、ナリ从「……それと。私の父は、ほんとうに三月ウサギなのでしょうか」

(´・ω・`)「……」

イ(゚、ナリ从「違う気がして、ならないのです。事件のこと、全然知らないのだから……」


それを言うとき、後半の声がぶれたように聞こえた。
すぐに咳き込んだ三月だが、ショボーンはその声を聞き逃さなかった。
この三月イナリ、仮面をつけると非常にクールで冷静なのだが、内面は、ひどく脆いのだろう。
ショボーンは言葉を選んだ。


(´・ω・`)「……思い出したくないんだろう」

イ(゚、ナリ从「でも、娘であり、被害者でもある私にくらい――」


と、三月が言いかけたのを、ショボーンは遮った。



(´・ω・`)「誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ」


.

789 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:36:39 ID:ESs.Bz4MO
 


        −31−


二月八日、ショボーンは石井病院を訪れた。
都村の件で、ショボーンに用があるそうだ。

記憶が戻ったのか、もしくは様態が変わったのか。
それはわからなかったが、ショボーンは不安しか感じなかった。

受付に都村の件で来たと言い、待合室でコーヒーを呑んでいる時だ。
後ろから、肩をトンとたたかれた。
振り返ると、天使のように可愛い笑顔を見せる、都村が立っていた。
彼女には、隣に担当医であろう医者が付き添っていた。
ショボーンは反射的に立ち上がった。


(;´・ω・`)「トソンちゃん、治ったのかい?」

(゚、゚トソン「……」

(´・ω・`)「トソンちゃん?」

(゚、゚トソン「……警部」

(´・ω・`)「!」


.

790 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:38:00 ID:ESs.Bz4MO
 


(;д;トソン「あぁぁぁっぁ……けいぶぅ!!」

(;´・ω・`)「おわっ!」


都村がショボーンのことを認識すると、顔をくしゃくしゃにして泣き、ショボーンに抱きついた。
都村が、自分のことを警部と呼べた以上、記憶は戻ったのだな、そう思うと、ショボーンは嬉しかった。


〈::゚ー゚〉「若干の後遺症が残ることはあるが、いたって健康な状態に回復したぞ」

(´・ω・`)「じゃあ、記憶は――」

〈::゚ー゚〉「問題ない、戻ったぞ。なにかあれば、また医師に頼めばいいのだ」

(;д;トソン「こわかったぁぁ……ッ!」

(´・ω・`)「……」

(´-ω-`)「ありがとうございます、先生」

〈::゚ー゚〉「彼女の、治りたいという意志が強かっただけだ。医師は、患者の意思を尊重して当然だ」

(´・ω・`)「なにかあれば、また。先生」

〈::゚ー゚〉「石のようにカタい信頼関係を。石井しいし医師だ」


.

791 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:39:03 ID:ESs.Bz4MO
 


ショボーンは石井医師に礼を言い、都村を連れて病院をでた。
パトカーに乗り、事情聴取に応じるためにと、所轄まで向かった。
ショボーンが、ほっと胸をなで下ろすと、都村も、少しずつ泣くのをやめてきた。
嗚咽はまだ聞こえるが、都村は顔をあげた。


(゚、゚トソン「警部、なにからなにまでありがとうございます」

(´・ω・`)「……これが仕事だからな」

(゚、゚トソン「カッコつけても、惚れませんよ」

(;´・ω・`)「べッべらぼうめ!」

(゚ー゚トソン「……くすっ」

(´・ω・`)「ったく……」


都村の復活ということで、ショボーンも、この事件以来はじめて安堵することができた。
事件の最中は苛立っていたのが、今ではすっかり穏やかな気持ちでいられる。
都村も、かなり晴れやかだった。


.

792 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:39:58 ID:ESs.Bz4MO
 


(´・ω・`)「そういや、なに読んでたの?」

(゚、゚トソン「へ?」

(´・ω・`)「事件より以前、図書室に、本を返しにきたんだろ?」

(゚、゚トソン「ああ……」


都村は顎に手をあてた。
まだ記憶が戻ったばかりだから、脳の回転は遅いのだろうか。
少しして、彼女は手をたたいた。


(゚、゚トソン「推理小説」

(´・ω・`)「ん?」

(゚、゚トソン「すっごくおもしろい推理小説です。刑事が主役の」

(´・ω・`)「刑事ものねぇ」


ショボーンは苦笑した。
現役の刑事としては、複雑な心境なのだ。
どうも、刑事小説にはフィクションの色が強い。


.

793 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:41:24 ID:ESs.Bz4MO
 


(゚、゚トソン「とってもおもしろいんですよ。オチ教えてあげますね」

(;´・ω・`)「あ、おいそれはだめ――」


都村はいじわるで話のオチをばらそうとした。
ショボーンはその本を読むことはないだろうが、
オチだけ言われるのは、気分的にいいものではない。
制止しようとすると、都村が「あれっ!?」と大声をあげた。


(´・ω・`)「どしたの」

(゚、゚;トソン「あ……あ…。小説のオチだけ忘れちゃった……!」

(´・ω・`)

(´・ω・`)「ぶぷっ」



「あああああああッ! 読み直さないと!」

パトカーのなかで響きわたる、都村の嘆きを聞いて、ショボーンはつくづく思った。

「やっぱり、忘れちゃいけないことのほうが多いか」



パトカーは、ゆっくり署へと向かう。
青信号にかわったので、ショボーンはゆっくりペダルを踏んだ。




.

794 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/12/25(日) 16:42:19 ID:ESs.Bz4MO
 



 イツワリ警部の事件簿
 Extra File.1

 (´・ω・`)とある忘れられた事件のようです


 おしまい



.

戻る

inserted by FC2 system