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五月八日 午前十一時四八分
国道二十七号線
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続々やってきた、更なる応援や救急車、野次馬の数々。
ヴィップ大学は本日、あくまで緊急メンテナンスという名目で休講させていた。
噂を聞きつけた野次馬の大多数は、学生だ。
何があったのか、噂は本当なのか、といったそれぞれの思惑で、
帰宅させたはずの彼らが、絶えず大学に集まってきた。
(´・ω・`) 「……」
(lli _ )
僕は一通りの指示を出して、そそくさとパトカーに乗り込んだ。
ひとまずは、小森マサオの取調を進めるべきなのだ。
一刻も早く、世間に、公表しなければならないのだから。
連続予告殺人事件が終わったことを。
.
-
救急車の到着と同時に、流石兄者を搬送させた。
死亡は、していない。
しかし一刻を争う事態であることは間違いなかった。
兄者は学長が責任をもって介抱してくれていた。
おかげで、あの数十分の間に、事尽きることはなかった。
今頃は、輸血パックが大量に使われていることだろう。
流石兄者以外の犠牲を出すことは、なかった。
それは、小森マサオが 「亡霊」 に縛られていたからであった。
彼は、意識を取り戻し、いま自分がパトカーのなかにいて、
隣に自分を捕まえた男がいる状況を察し、
とうとう、亡霊としての成仏を迎える時がきたことを知った。
揺れるパトカーの車内で、ゆっくり、重い口を開いた。
(lli _ ) 「……」
(lli _ ) 「どうして……わかったんだ……」
.
-
'_
(´・ω・`) 、
僕と話をする体力が、残っていたか。
あるいは、成仏する前の、最後の余力なのか。
煙草に火をつけ、少し開けた窓に向けて紫煙を吹き散らした。
(´・ω・`) 「亡霊の、正体を、か?」
(lli _ ) 「すべて……」
(lli _ ) 「そう……すべてだ」
(lli _ ) 「十年前の事件もそう……」
(lli _ ) 「亡霊が俺であること……」
、 、、 、
(lli _ ) 「ヒッキーという名前のことも……すべて。」
.
-
(´‐ω‐`)
二口目、一気に煙草の燃焼が進んだ。
思えば、長いロジックの道のりだった。
(´‐ω‐`)
(´・ω・`) 「すべての発端は、あんたの自供だ」
(lli _ ) 「自供…?」
(´・ω・`) 「亡霊を、山村貞子を名乗るあんたからの、電話」
(´・ω・`) 「あの一本の電話で、今回の事件は、姿を変えたんだ」
(´・ω・`) 「今回の事件は、十年前のあの日が、すべての発端だったんだぞ、と」
(´・ω・`) 「あんたが、そいつを、教えてくれた」
(´・ω・`) 「兄者も、デミタスも、ミセリも、みんな、隠してたんだぜ」
(lli _ ) 「…!」
.
-
(´・ω・`) 「なぜなら、ほんとうに」
(´・ω・`) 「誰一人として、十年前の事故を疑う人は、いなかったから」
(´・ω・`) 「疑っていたのは、たった一人」
(´・ω・`) 「貞子を突き落とした真犯人たる、小森マサオ」
(´・ω・`) 「あんただけだ」
小森マサオは、下唇を強く噛んだ。
少し血が滲んできていた。
(lli _ ) 「でも……それもだ」
(lli _ ) 「当時の警察ですら、俺が犯人だったこと……」
(lli _ ) 「わからなかったんだぞ?」
(lli _ ) 「兄者も……わかるはずが、なかったんだ」
.
-
(´・ω・`) 「当然だ」
(´・ω・`) 「誰も、墓荒らしに挑もうと思わなかったからな」
(lli _ ) 「あんたが……その墓荒らし、ッてわけか…」
犯人が特定できない事件だった。
犯人、と思い込んでいた兄者は、事件から目を背ける。
サークルメンバーは、事件と思わないため、隠そうとする。
警察は、証拠がなさすぎた本件を、事件と処理できなかった。
巧妙に偽られた事件だった。
全員が、隠し通そうとしてきた事件なのだ。
墓荒らしに成功したのが、ひとつの大きな機転だった。
(lli _ ) 「嘘……なんだろ?」
(lli _ ) 「兄者が、自供した、ッて話……」
.
-
>
>(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
>
> 『それはあり得ない』
>
>(´・ω・`) 「…!」
>
思えば。
さっきは、亡霊が山村貞子だと思って話をしていたが。
本当は、僕は、小森マサオ相手に、あの話をしていたことになるのか。
奴視点だと、果たしてどんな話に聞こえたのだろうか。
もう、あの時、なにをどう話したのかすら、おぼろげになっている。
(´・ω・`) 「ああ。 嘘だな」
(lli _ ) 「!」
(´・ω・`) 「奴がした正確な自供は、たったひとつ」
.
-
>
>(´・ω・`) 「じゃあ、確実なことだけを、話せ!」
>
>( ::;゚_ゝ::) 「確実なのは、ヒッキーはいいやつッてことだけだ!」
>
、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「いいやつだった」
(lli _ ) 「…?」
兄者は、偽りの濁流に飲み込まれていた。
右を見ても左を見ても、なにが現実でなにが本当かわからない。
窒息しかけ、溺れかけたなか、
兄者がたったひとつだけできた、本当の証言がそれだった。
(´・ω・`) 「たったそれだけの証言があれば、十分だった」
(´・ω・`) 「流れるように、十年前の真実に、気が付けたよ」
.
-
(lli _ ) 「………もう、許してくれ」
(lli _ ) 「たちの悪い冗談だ」
(´・ω・`) 「いや、本当だぞ?」
兄者との対決を、思い出す。
なにかを、真実を、自分でさえも偽るのが、巧妙な男だった。
(´・ω・`) 「兄者は、あんたに完全に、騙されていた」
(´・ω・`) 「ずっと、自分が犯人だと思い込んでいたし」
(´・ω・`) 「事件を、犯人たる自分を偽ろうと、兄者自身を、偽りで支配していた」
(lli _ ) 「……ッ」
僕自身が、衝撃だった。
数多もの偽りを見抜いてきた僕にとっても。
十年以上、さまざまなことを偽ってきた小森マサオにとっても。
流石兄者という存在は、衝撃的な人物だった。
おそらく、今後、僕は奴を忘れることはないだろう。
.
-
(´・ω・`) 「さて」
(´・ω・`) 「それでも僕は、今回の真犯人が、誰なのか」
(´・ω・`) 「最後の最後まで、山村貞子なんだと、信じていたよ」
(lli _ ) 「……ほんとうか?」
(lli _ ) 「すべてが、嘘、偽りなんじゃないのか?」
小森マサオも、疑心暗鬼になっている。
猜疑心を持つことができない流石兄者と、
疑心暗鬼になってしまった小森マサオ。
本件のキーパーソンにして、対照的なふたりだ。
(´・ω・`) 「それだけ、あんたが自然に偽りを纏っていたのさ」
、、 、
、
(´・ω・`) 「……どうして、ヒッキーの名を、あんたが使っていたんだ?」
.
-
(lli _ ) 「………」
(´・ω・`) 「どうせ、署につけば、何時間とかけてする質問のひとつなんだ」
(´・ω・`) 「先に言っといたほうが、後が楽だぜ」
(lli _ ) 「……隠すつもりは、ねえよ」
(lli _ ) 「大した理由でもないんだ」
(´・ω・`) 「ん?」
大層な理由があって、名前を偽ってきたのかと思った。
しかし、実際は、なんてことのない話だった。
(lli _ ) 「知ってるだろ?」
(lli _ ) 「俺は、兄者とは、ネットで知り合った」
(lli _ ) 「いじめられて、不登校になっててな、人間が信じられなかった」
.
-
(lli _ ) 「兄者と仲良くなって、本名を知りあう仲にまでなったのは、嬉しかったさ」
(lli _ ) 「兄者自身が、すげえいい奴だったし」
(lli _ ) 「こんな俺が、ネット上とはいえ友だちを作れたのが、嬉しかった」
(lli _ ) 「でも、それでも」
(lli _ ) 「当時俺は、兄者を信じることが、できなかった」
(´・ω・`) 「それは、いじめられたことで、か」
それもある。
小森マサオが、ちいさく言った。
(lli _ ) 「親も、アニキもそうだ」
(lli _ ) 「親は、俺が人間不信になったのを、受け入れなかった」
(lli _ ) 「甘ったれている、逃げるな、の一点張りよ」
.
-
(´・ω・`) 「ひどい親だったのか?」
聞くと、小森マサオは首を傾げた。
そうだ、と即答しかけて、しかしその口を閉じた。
(lli _ ) 「アニキが、出来る男だった」
(lli _ ) 「運動もできる、頭もいい、ギターも弾ける」
(lli _ ) 「二年遅れて俺が生まれる時、おふくろの腹ンなかには、何もなかったんだよ」
(lli _ ) 「才能とか、恵まれたものとか、すべてな」
捜査中に、わずかに引っかかっていた点。
僕が写真で見た 「ヒッキー小森」 と、サークルメンバーが語る
「ヒッキー小森」 の差異。
当時、まさか別人である、だなんて疑いもしなかった。
(lli _ ) 「アニキと比較される人生で」
(lli _ ) 「だんだん俺がインドアに、卑屈に、根暗になった」
(lli _ ) 「デキが悪いんだ、そりゃあいじめの標的にもなるさ」
人は、十年もあれば変われるものだと思っていた。
しかし、もっとそこを、疑うべきだった。
確かに多くのものが変わるが、
それ以上にもっと多くのものは、変わらないのだ。
.
-
(´・ω・`) 「だから、アニキにも復讐を?」
(lli _ ) 「殺したのは復讐だがな」
(lli _ ) 「名前は、違う」
(lli _ ) 「あれは、本当にただの、偶然だ」
小森マサオは、十何年も昔から、ヒッキー小森の名を騙った。
それも、アウトドアサークルが創設されるよりも、ずっと昔から。
(lli _ ) 「本名の話になって、俺は」
(lli _ ) 「兄者に対して心を許しつつあった俺だがな」
(lli _ ) 「それでも、やっぱり、性分の人間不信が再発した」
(´・ω・`) 「…?」
.
-
(lli _ ) 「あんたにはわからんだろうがな」
(lli _ ) 「ネットの相手に本名を知られることほど」
(lli _ ) 「ネット依存の引きこもりにとって、怖ろしいことはない」
ネット依存。
はじめて出るワードだな。
(´・ω・`) 「でも、兄者は隠そうとしていなかったんだろう」
(lli _ ) 「兄者は、俺のことを信じていたからな」
(lli _ ) 「でも、俺は。」
(lli _ ) 「本名を晒す、有り体の自分を晒すことが、怖かった」
ピンときた。
ネット依存、とは言うが。
要は、インターネットの世界に生きる人間だ。
インターネットの世界では、現実の自分を偽ることができる。
それこそ、ナントカネームというものが当てはまる。
親から与えられた名前とは別の、自分の名前を、自分で名乗ることができる。
.
-
(lli _ ) 「かといって、兄者がさらけ出してくれているのに」
(lli _ ) 「自分だけ頑なに隠そうとするのも、奴を、拒むことになると思った」
(lli _ ) 「俺は、咄嗟に、アニキの名前を言ったよ」
(´・ω・`) 「それが、ヒッキーだった」
(lli _ ) 「まさか、あの時の、あの些細な一言が、」
(lli _ ) 「こうも、自分の人生を、狂わせることになるなんてな」
(´・ω・`) 「今回の連続殺人の、トリックのことを、言ってるのか?」
連続殺人が、ここまで難航したのは、
ひとえに、真犯人が既に殺されていたと思われたところにあった。
警察が調べて、答えを出していたのだ。
「ヒッキー小森」 は、殺されている、と。
.
-
(lli _ ) 「違う」
(lli _ ) 「……考えても見ろ」
(lli _ ) 「サークルで、いろんな人と仲良くなれたッてのに」
(lli _ ) 「誰一人として、俺の」
(lli _ ) 「小森マサオという本名を、誰一人、呼んでくれなかったんだ」
(´・ω・`) 「…!」
孤独な人生を送ってきた、境遇。
大学の年頃になって、ようやく掴めた、友人達との楽しい日々。
しかし、その日々を過ごしたのは、ほんとうの自分ではない。
偽りを纏った、ヒッキー小森という男だったのだ。
(lli _ ) 「俺は毎日、毎日、ずっと、後悔してたよ」
(lli _ ) 「まさか、今更になって、ヒッキーってのは偽名だ、なんて言えない」
(lli _ ) 「………どうして、こうもいい奴らばっかなのに、俺は、警戒したんだ」
(lli _ ) 「……毎日、後悔し続けていたさ」
.
-
(´・ω・`) 「でも、どこかでバレても、おかしくはなかったろ」
(lli _ ) 「俺も、思っていた」
(lli _ ) 「バレそうになったら、いっそ開き直って」
(lli _ ) 「多少変な奴と思われてでも、ほんとうの自分を、知ってもらおうッてな」
(lli _ ) 「たぶん、同じ大学だったら、自然に明かせただろう」
(lli _ ) 「でも、俺は、俺だけは、仲間外れだったんだ」
(´・ω・`) 「…!」
事件の捜査をはじめたあの日から、ずっと浮いていた、謎。
ヒッキー小森だけ、アルプスの、人間である。
ここにきて、内臓に重く圧し掛かってきた。
あの時点で既に、ある種の疑念を、持つべきだったというのか。
.
-
(´・ω・`) 「アルプス学院大学、だったかな」
(lli _ ) 「それは、アニキだ」
(lli _ ) 「俺は……大学どころか、高校すら、出てねえよ」
(´・ω・`) 「…!」
言われてみれば。
ヒッキー小森という男の略歴はとにかく洗ったものの。
小森マサオという、弟については、ほとんど調べられていなかった。
(lli _ ) 「当時は、免許もなかった」
(lli _ ) 「自分を、自分だと証明するものなんて、保険証くらいだ」
(lli _ ) 「……ヒッキーっつー偽名が、バレることなんてなかったんだ」
(´・ω・`) 「………そういうことだったんだな」
.
-
名前を偽り続けるのは、到底無理な話だろう。
しかし、小森マサオについては、例外と言えた。
もとが、ただ遊ぶだけの集まり。
誰も小森マサオの名前を疑うことはないし、
学生証すらなかったのだから、メンバーは彼をヒッキー小森と信じるしかなかった。
(lli _ ) 「……刑事サンも、聞いたろ」
(lli _ ) 「俺がパトカーに乗る時の、デミやんの……」
(´・ω・`) 「……」
デミタスが、連行される小森マサオを見送る時。
別れの言葉なんてなかったが、一言だけ、奴は言葉を発した。
「ヒッキー」 と。
切なげに、複雑そうに、言ったのだ。
(lli _ ) 「………俺の失態は、ひとつだけだ」
(lli _ ) 「亡霊を名乗ったことでも、貞子の名前を使ったことでも」
(lli _ ) 「殺人犯になっちまったことでも、あんたに喧嘩を売ったことでもない」
.
-
(lli _ ) 「名前を、隠してきたこと」
(lli _ ) 「刑事サンの言葉を借りて言うなら……」
(lli _ ) 「気の置けない相手にすら、偽りの自分を演じてきたこと」
(lli _ ) 「その、ひとつだけ、だ」
(´・ω・`) 「……」
今回の事件で、ふたり。
僕は、自身で作り上げた偽りに支配されてしまった人間を、知った。
世を生きる大多数の人間は、
自身の人生を大きく狂わせる偽りとは無縁の生活を送っているというのに。
(´・ω・`) 「……懺悔は、牢獄のなかだ」
(´・ω・`) 「もっとも、四人も殺して、どうなるかはわからないけどな」
(lli _ ) 「…………。」
.
-
(´・ω・`) 「そんなことはいいんだ」
二本目に火をつけた。
無性に喉が渇いた。
署についたら、まずはとびっきり苦い、ブラックを飲もう。
ミルクの入ってない、喉に絡みついてこない、澄んだブラックを。
(´・ω・`) 「疲れたろ」
(´・ω・`) 「僕も疲れたんだ、少しでも取調の時間、減らそうぜ」
(lli _ ) 「………」
単なる誘導だ。
事件の骨格が語られないことには、事件は完全には終わらない。
半ば同情を挟むように、真相を語らせるように仕向ける。
しかし。
小森マサオは、もう抵抗しようとはしていなかった。
偽りが剥がれた人間は、それまでとは一転、脆くなるものなのだ。
.
-
(´・ω・`) 「そもそも」
(´・ω・`) 「どうして……連続殺人をしようだなんて思ったんだ」
(lli _ ) 「……」
解決したように見えて、根本的に謎のままだったポイント。
亡霊が山村貞子だったなら、それは 「目覚めたからこその復讐」
と捉えられた。
しかし、亡霊が小森マサオだった場合。
謎は、再び謎に帰してしまうことになる。
(lli _ ) 「……」
(lli _ ) 「貞子が」
(´・ω・`) 「?」
(lli _ ) 「貞子が、目覚める、ッて話を聞いたんだ」
.
-
(´・ω・`) 「!」
どういうことだ。
小森マサオは、貞子の 「その後」 を、知り得たのか。
(lli _ ) 「ほんとうに、きっかけは偶然だった」
(lli _ ) 「そもそも、貞子のことは、十年前以降」
(lli _ ) 「一切、知ろうとすら、しなかった」
(lli _ ) 「ギコ、いたろ」
(lli _ ) 「びっぷ整骨院」
(lli _ ) 「あそこで再会してさ」
.
-
(´・ω・`) 「それは、いつのことだい?」
(´・ω・`) 「そもそも……あんたは、アルプスの人間じゃないのか?」
(lli _ ) 「俺は、ヴィップ大学で、働いてたんだ」
(´・ω・`) 「!」
初耳だな。
そういえば、そうか。
亡霊は、どうして最後に、ヴィップ大学を舞台にしたのか。
疑うまでもなく、その殺人に、ドラマを。
十年間の清算を、という意味が込められていたのだと思った。
しかし、それを聞けば、見方はたちまち変わる。
いつぞやに僕が担当した事件と、一緒だ。
、 、
根城だったんだ。
(lli _ ) 「ほんとうに、たまたまだった」
(lli _ ) 「ギコは、俺を見て、一瞬、固まった」
(lli _ ) 「で、すげえ笑顔になって……」
.
-
(´・ω・`) 「そもそも、整体に行こうと思わなかったら、事件すらなかったわけだ」
(lli _ ) 「……思えば」
(lli _ ) 「これも、兄者の影響だよ」
(´・ω・`) 「兄者?」
(lli _ ) 「兄者は、俺に、いろんなことを教えてくれた」
(lli _ ) 「鑑賞の楽しさ、とか」
(lli _ ) 「そんな、今までの俺が決して味わうことのなかった、楽しさ」
(lli _ ) 「自分の知らない楽しさを見つける趣味を、やつは、教えてくれた」
十年前、小森マサオは、紅葉狩りを 「見るだけ」
と一笑に付していた。
しかし、兄者の思いが、十年の歳月を経て、彼に届いたのだ。
(´・ω・`) 「じゃあ、整体も、単に」
(lli _ ) 「疲れたし、そういや、整体とかあるんだな、ッて」
(lli _ ) 「掛かったことないし、せっかくだから、受けてみようかな、てさ」
(lli _ ) 「………兄者の影響が、見えないところで、ほんとうに地味に、あった」
.
-
(lli _ ) 「そしたら、ギコがいて……驚いたよ」
(lli _ ) 「そりゃあ、昔話に花が咲くさ」
(lli _ ) 「で、飲もう、飲もう、ッてな」
(´・ω・`) 「でも、あんたらの間に、連絡手段はほぼなかったんじゃ?」
事件に眠る、大きな謎。
すなわち、サークルメンバー間における、連絡手段のなさ。
(lli _ ) 「なんでもな」
(lli _ ) 「クックルもちょっと前に、ギコの店に来たらしくて」
(lli _ ) 「飲みの約束をしてたらしいんだ」
(´・ω・`) 「連絡手段を交換していなかったのに?」
(lli _ ) 「それは知らんよ」
(lli _ ) 「単純に、日付と待ち合わせだけ決めといて、忘れてたんだろうよ」
.
-
(´・ω・`) 「なるほど」
(´・ω・`) 「で、それに誘われたわけなんだな」
(lli _ ) 「悪い気分ではなかった」
(lli _ ) 「人生で、友だちと過ごした、一番濃い日々だったからな」
整体師になったフッサール擬古。
警備員になったクックル三階堂。
大学スタッフになった小森マサオ。
十年間という、昔話に満開の花を咲かせられるだけの時間はあった。
小森マサオにとっても、嬉しい誘いだったと言えるだろう。
(lli _ ) 「明日の七時に駅前な、ッてよ」
(lli _ ) 「俺もうっかり、連絡先なんて交換し忘れたよ」
(lli _ ) 「ああ、忘れるもんなんだなッて」
.
-
(´・ω・`) 「で、飲みは、あったんだ」
(lli _ ) 「昔話で、むっちゃくちゃ、盛り上がった」
(lli _ ) 「……ここ最近で、一番、楽しかった瞬間だ」
昔の知り合いと酌み交わす酒は、この上なく美味い。
僕も、後始末がひと段落したら、酒を飲みたい相手が何人もいるのだ。
(lli _ ) 「………その時に、貞子の話を聞いたんだ」
(´・ω・`) 「…ッ」
山村貞子は、鷺宮とかいう老夫婦に引き取られたらしい。
その仲介人となったのが、フッサール擬古だった。
.
-
(lli _ ) 「大切な話を忘れてた、と」
(lli _ ) 「聞いて驚け、貞子が、目を覚ますかもしれねえぞ、と」
これは、あくまでクックルのような、
後ろ暗いことを抱えていないメンバーなら、喜ばしいニュースだ。
その話だけで日本酒を一合、飲めることだろう。
しかし。
視点を変えて、小森マサオに移してみると、どうだろう。
山村貞子は、自分が殺そうとした相手なのだ。
そして、貞子が眠り続けていたから、十年前の事故が、再浮上することはなかった。
小森マサオにとっては、貞子の目覚めは、
十年前の清算を突き付けられることに同義だった。
(lli _ ) 「俺は、一気に酔いが覚めたよ」
(lli _ ) 「崖下に落とした時の景色が、フラッシュバックした」
(lli _ ) 「そんなこと知らないふたりは、一瞬で盛り上がってな」
.
-
(´・ω・`) 「目を覚ます、ッてのは」
(lli _ ) 「よくわかんねえけど、前兆が見られたんだと」
(lli _ ) 「で、俺は……」
(´・ω・`) 「貞子に目覚められるわけには、いかなかった」
(´・ω・`) 「貞子が目覚める前に、サークルを抹殺しよう、と思った」
(lli _ ) 「……」
だとすると、妙なのが、貞子は落とされる時、気絶していた点だ。
本来ならば、兄者に突き落とされた、と錯覚するのではないのか。
(´・ω・`) 「でも」
(´・ω・`) 「僕の推理が正しければ、貞子は、気絶していたはずだ」
(lli _ ) 「………」
.
-
(lli _ ) 「貞子は……」
(lli _ ) 「………」
(lli _ ) 「俺が突き落とした、瞬間」
(lli _ ) 「目を、覚ましたんだ」
(´・ω・`) 「!」
(lli _ ) 「何があったのか、わからないという顔」
(lli _ ) 「とにかく、怯えきった、目」
(lli _ ) 「………その時には、もう、遅かった」
(lli _ ) 「貞子は、だんだんと、落ちていったんだ」
.
-
(lli _ ) 「頭から、離れないんだ」
(lli _ ) 「あの時の、貞子の、目が」
(lli _ ) 「俺を、俺の人生を、縛りつけている」
(lli _ ) 「今でも……今でもッ!」
(lli _ ) 「飲みで、貞子のことを聞かされた時も、金縛りにあったさ!」
(lli _ ) 「貞子は、貞子だけは、俺のことを知っていたんだ!」
連続予告殺人の、本当の動機。
唯一、己の偽りを見抜く存在の、目覚め。
それは、小森マサオにとっては、
それだけはあってはならないことだった。
.
-
(´・ω・`) 「じゃあ、兄者やデミタスを差し置いて」
(´・ω・`) 「ギコやクックルから、殺したのは」
(lli _ ) 「先に、事実を知る連中を殺す必要が、あったんだ」
合点がいった。
特に、最初にフッサール擬古が殺されたのは、もはや必然だったのだ。
十年前と現在をつなぐ、唯一の存在。
そして、それを十年前の真犯人の前で、話してしまった。
(´・ω・`) 「………」
(´・ω・`) 「ギコを、どうやって殺したんだ?」
(lli _ ) 「……」
.
-
地下鉄殺人の、謎。
犯人が乗っていなかったという、大きな一点。
捜査当時、小森マサオという人物の顔、名前は、一切なかった。
また、亡霊の登場で、犯人は山村貞子、
すなわち女性だ、と錯覚させられていた。
そのため、現場には犯人がいなかった、という謎が残されていた。
小森マサオが犯人とわかった今、
その情報をもとに監視カメラを洗えば、
存外容易く、奴を炙り出すことができるだろう。
(lli _ ) 「………最初は」
(lli _ ) 「行き当たりばったり、だった」
(lli _ ) 「ただ、飲みの時に、ギコの予定は聞いていたからな」
(´・ω・`) 「……ふむ」
.
-
ギコ、もっというとクックルもだ。
この二人と、どう連絡をとっていたか、は解決した。
ただひとつ問題があるのは、
地下鉄殺人は、予告のもと行われたところにある。
(´・ω・`) 「それで、予定に合わせて、予告を?」
(lli _ ) 「………」
(´・ω・`) 「どうして、予告ッつー手段を取ったんだ」
(lli _ ) 「………」
(lli _ ) 「あれは」
(lli _ ) 「ほんとうは、貞子を殺すつもりだったんだ」
.
-
(´・ω・`) 「!」
まったく、予想していなかった。
といったところで、ひとつ思い出した。
ヒッキー小森以外全員、名指しの予告は、なかったのだ。
(lli _ ) 「ギコの予定ッて聞いてさ」
(lli _ ) 「そんで、貞子が目覚めるかも……」
(lli _ ) 「ッて話まで、聞いてたんだ」
(lli _ ) 「………貞子の迎えだと思ったんだよ」
連続予告殺人は、小森マサオの想定の範疇においては、
あくまで一件目、地下鉄殺人で終わっていたのだ。
(lli _ ) 「ただ、貞子は、いなかった」
(´・ω・`) 「……ああ」
納得した。
ヒッキー小森が名指しで殺害された理由。
そもそも、ヒッキー小森、すなわち兄が殺害された理由。
予告殺人を、続行する必要が生まれたからだ。
.
-
(lli _ ) 「ギコを、殺した」
(lli _ ) 「しかも、うまく逃げ出せた」
(lli _ ) 「ただ……それだけだったら、一瞬で俺が、捕まる気がした」
(lli _ ) 「予告状も……肉筆だったからな」
(´・ω・`) 「……筆跡か」
>
>(;´・ω・`) 「なら……筆跡だ!」
>
>(;´・ω・`) 「事件は、はがきで予告が出されていた」
>
>(;´・ω・`) 「それも、肉筆で……」
>
> 言いかけたところで、亡霊が笑った。
>
> 『無駄ですよ』
>
>(;´・ω・`) 「なんだと!?」
>
.
-
(´・ω・`) 「結果論で言えば、確かに」
(´・ω・`) 「小森マサオという人物は、完全に、ノーマークだった」
そこが、急所だった。
当時の集合写真なんかがあれば、話は別だっただろう。
しかし、当事者たる小森マサオは、そんなものがなかったのを知っていた。
そのため、こちらから顔写真を見せる以外で、
ヒッキー小森と小森マサオのつながりを炙り出すことができなかった。
そうなれば、どこを洗っても、殺人予告の筆跡は追えなくなるのだ。
(´・ω・`) 「だから、かえって肉筆のほうが都合がよかったとは思う」
(´・ω・`) 「ただ……」
しかし、一件目の時点では、そもそも連続殺人は予定されていなかった。
大層なトリックをも持って臨んだ犯行ではなかったのだ、
となると当時小森マサオは、どうして肉筆だったのだろうか。
.
-
(´・ω・`) 「どうしてあんたは、」
(´・ω・`) 「予告状を……肉筆で送ったんだ?」
(lli _ ) 「………ああ」
、 、、、
(lli _ ) 「イタズラと思われたかったんだよ」
(´・ω・`) 「なに?」
(lli _ ) 「もっというと、だ」
(lli _ ) 「貞子を足止めして……」
(lli _ ) 「かつ、それが公表されないように、したかった」
.
-
(lli _ ) 「このご時世に、ご丁寧に肉筆で予告出すバカはいねぜ」
(lli _ ) 「ただ、それでも内密に、警戒してくれるとは思った」
(´・ω・`) 「………ふむ」
貞子を確実に殺すために、電車の機能を一時止めたかった。
一方で、出来すぎた予告状だと、完全に警戒されてしまう。
その手段が、肉筆だった、というのか。
(lli _ ) 「爆弾、とか言ったら、調べられてしまい、だからな」
(lli _ ) 「ほら……昔、あったろ。
オオカミ鉄道の」
(´・ω・`) 「シベリアの橋に、爆弾が仕掛けられたやつか」
何年前だったか。
シベリアの某所、とある大橋に、爆弾が仕掛けられる事件があった。
管轄こそシベリア県警であるものの、マスメディアの目は我々、ヴィップ県警に向いていた。
僕が担当していた事件だったのだ。
.
-
(lli _ ) 「あれで……爆弾に対する、警戒が、強まった」
(lli _ ) 「イタズラと思われたかったが、本当に狂言だとバレちゃあだめだったんだ」
(´・ω・`) 「………なるほどなァ」
あの一件は、さまざまなメディアに、広く取り上げられた。
ヴィップ、シベリアを超え、それこそアルプスにも広まっている。
オオカミ鉄道はもちろん、国内最大手の鉄道会社からはじまり、
各地方の市営地下鉄も、爆弾をより、警戒するようになったものだ。
(lli _ ) 「だから、一番ストレートな、殺人予告にしたんだ」
(lli _ ) 「実際に殺すまで、イタズラかどうかわかんねえからな」
(´・ω・`) 「そしてそれが、成功しちまった」
.
-
(lli _ ) 「筆跡鑑定……だっけ?」
(lli _ ) 「それをされる時点で、疑われてる、ッてことだ」
(lli _ ) 「俺ンとこまで警察が来る時点で、もう、終わりだからな」
(lli _ ) 「だから正直なところ、筆跡に関して不安はなかった」
(lli _ ) 「結果として、どさぐさに紛れて逃げられたんだから、なおさらな」
となると、いよいよ問題は、警察の動きだ。
一件目、二件目において、警察は大々的な動きを見せなかった。
さっさと上まで、回すべきだったんだ。
事件をすべて公表した時、僕はしばらく、マスメディアの飯の種にされるだろう。
だが、甘んじて受け入れるしかなさそうだ。
シベリア爆弾騒動がきっかけで、昨今鉄道会社の爆弾対策は強化されたのだ。
きっと、殺人予告に対する警戒も、いっそう強まることだろう。
そう信じて。
.
-
(´・ω・`) 「練り込まなかった一件目が、成功した」
(´・ω・`) 「そして、サークル抹殺の連続殺人を閃いた」
(´・ω・`) 「だから、次にヒッキー小森を……」
、 、
(´・ω・`) 「自分を、殺したんだ」
(´・ω・`) 「完全なアリバイを、つくるために」
小森マサオは、ちいさく、自嘲するように笑った。
(lli _ ) 「皮肉な話だ」
(lli _ ) 「自分を苦しめてきた、偽名を使ってきたことが、まさか」
(lli _ ) 「アリバイに使える、なんて、さ」
(lli _ ) 「閃いたんだよ。 アニキを殺せばいい、ッて」
.
-
(lli _ ) 「もとより、アニキとは、仲が悪かった」
(lli _ ) 「もっと言うと、恨みが、多かった」
確かに、弟たる、小森マサオなら。
ビジネスホテル殺人事件のあらゆる謎を、解決できる。
アレルギーは、家族なら、知っていて当然。
仕事のことも知っているし、出張を知るのも難しくない。
連絡先もむろん知っているだろうし、
なんならヒッキー小森の通話履歴から、家族の線は省かれていた。
(´・ω・`) 「閃いたんだな」
(´・ω・`) 「亡霊を騙った、連続殺人を」
(lli _ ) 「………」
.
-
(lli _ ) 「ただ、そうなった場合」
(lli _ ) 「どうやって、亡霊……が」
(lli _ ) 「ヒッキー小森を殺すか、が難しくなってな」
(lli _ ) 「もともと、俺を特定されないように用意してたんだ」
(lli _ ) 「IP電話をかけるための、予備の、格安スマホをな」
050番号は、たびたび話題になった。
ギコ、クックルに050番号がなかったのは、彼らの会合が事の発端だったから。
そしてそのIP電話は、想像以上に使えることがわかったのだろう。
身分を特定されない、というのは、この上ない武器なのだ。
それは、名前すら特定されてこなかった小森マサオだからこそ、よりわかる話だ。
(lli _ ) 「あくまで、俺は弟だ」
(lli _ ) 「アニキが薬を飲んでることも、ピーナッツのことも知ってるし」
(lli _ ) 「当日にちゃっかり会って、しれっとそいつを盛るのも、簡単だったんだ」
.
-
(lli _ ) 「アニキを殺すことで、」
(lli _ ) 「サークルを抹殺する、ということ」
(lli _ ) 「自分を容疑者から外すこと」
(lli _ ) 「そして……知名度を上げることが、できた」
(´・ω・`) 「!」
(lli _ ) 「知名度があったから、サークルメンバーは、抹殺に気づくことができる」
(lli _ ) 「だからこそ、クックルも、楽だったよ」
(lli _ ) 「クックルは、飲みの時、言ってたんだ」
(lli _ ) 「渋沢栄吉のライブも、警備に行くぜ、ッてことをな」
(´・ω・`) 「……そうか」
.
-
さまざまな謎が、一貫してくる。
答えがわかりさえすれば簡単だった話なのだ。
フッサール擬古が渋沢栄吉のサイトに残したIPアドレスにも、説明がつく。
もっというと、亡霊がクックル三階堂を殺害できたのも、合理的となる。
(lli _ ) 「それで、いざ予告をして、さ」
(lli _ ) 「現地に行ったら、クックルはすぐに、見つかった」
(lli _ ) 「そもそも」
(lli _ ) 「俺は、殺されたはずなんだ」
(lli _ ) 「だというのに、目の前に、俺がいる」
(lli _ ) 「……クックルは自分から、こっちに来てくれたぜ」
兄者は、ヒッキー小森からの電話に、仰天した。
そして、警察を振り切ってでも、
自分が殺されるかもしれないというのに、ヒッキー小森を、優先した。
まったく同じ作用が、クックルにも、働いたのだ。
.
-
(´・ω・`) 「……じゃあ」
(´・ω・`) 「もとから、クックルの警戒は、薄かったわけだ」
(lli _ ) 「そうだ」
となると気になってくるのは、例の予告の、違和感。
あれは、小森マサオの作戦では、なかったのか?
(´・ω・`) 「じゃあ、あれはなんだったんだ」
(´・ω・`) 「……観客を、殺す。
ッてやつ」
(lli _ ) 「………」
(´・ω・`) 「あれは、クックルに、自分が標的じゃない」
(´・ω・`) 「そう思わせるため、じゃなかったのか?」
(lli _ ) 「……」
(lli _ ) 「あれも……保険だよ」
.
-
(´・ω・`) 「保険?」
(lli _ ) 「言ったろ」
(lli _ ) 「奴は、飲みで、警備の、ライブのことを言ってたんだ」
(lli _ ) 「ひょっとすると、俺とギコ以外にも、言ってるかもしれない」
(lli _ ) 「そう思って、観客、ッて書いたんだ」
一件目のフッサール擬古の時と、似たような話だったのか。
僕たちはずっと、ミスディレクションだと踏んでいた。
だが、それすら、事件に自らかけてしまった霧だった、というのだ。
(´・ω・`) 「実際のところ、どうだったんだ」
(lli _ ) 「奴が言ってたぜ」
(lli _ ) 「俺とギコしか知らなかった、ッてな」
(lli _ ) 「だから……結果、殺されたのはクックルだけだった」
(lli _ ) 「それだけの話よ」
(´・ω・`) 「………。」
.
-
(´・ω・`) 「抵抗は、なかったのか」
(lli _ ) 「あったさ。 あったよ!」
(´・ω・`) 「なら!」
(lli _ ) 「でも……どうしようもなかった!」
それまで穏やかだった車内に、
一瞬の感情の荒波が一斉に押し寄せてきた。
(lli _ ) 「後には、引けなかった!」
(lli _ ) 「殺しても、殺さなくても、だめだった!」
(lli _ ) 「どのみち、俺は十年前に、貞子を突き落としたんだから!」
(´・ω・`) 「ッ…」
(lli _ ) 「………」
(lli _ ) 「言い訳は……しないさ」
(lli _ ) 「…………。」
.
-
(lli _ ) 「クックルを殺したら、次だ」
(lli _ ) 「ミセリと結婚してることがわかってたからな」
(lli _ ) 「連絡先も、クックルのスマホを調べりゃ、一発だった」
(lli _ ) 「そこで、例の格安スマホが役立った」
(´・ω・`) 「だろうな」
(lli _ ) 「でも、まさか、あんなすぐに警察に嗅ぎつかれるなんて……」
(lli _ ) 「通報されるわけがない、ッて踏んでたのに」
そうか。
小森マサオは、知らないのか。
そこに重なった、偶然というか、必然というか。
ある種、亡霊にとっての、弱点。
(´・ω・`) 「そりゃあそうさ」
(´・ω・`) 「彼女は、一切、警察に通報なんて、しなかった」
.
-
(lli _ ) 「……?」
(´・ω・`) 「その時はな」
(´・ω・`) 「僕が、隣に、いたんだ」
(lli _ ) 「………?」
(lli _ ) 「なんだって……?」
(´・ω・`) 「だから、すぐに対応できたんだ」
芋づる式に、さまざまな情報が、噛み合っていく。
そもそも、どうして、亡霊はボイスチェンジャーを使ったのか。
最初の見解は、声から特定されないため。
続けて、サークル抹殺という説が出てからは、外部犯の可能性の示唆。
兄者、デミタスしか残ってないのに、という意味もこめて。
亡霊、という存在が浮上してからは、ふたつの説が浮かんだ。
ひとつは、先ほどの 「外部犯」 の範疇に、収まるため。
もうひとつは、転落で喉に支障をきたしたという、亡霊の演出。
最終的には、すべてが違った。
偽りの亡霊を、演じるためだったから。
.
-
(´・ω・`) 「でも、出し抜かれた」
(lli _ ) 「嫌な予感がしたんだ」
(lli _ ) 「あくまで保険として打った策だったけどな……」
(lli _ ) 「嫌な予感は、的中した」
(lli _ ) 「逃げ出すのすら、苦労したよ」
現場には、ぎょろ目が早くからついていた。
ぎょろ目に現場を捜査されることほど、犯人にとって厳しいことはないだろう。
小森マサオにとっての幸運は、ぎょろ目に勘付かれる前に犯行を終えたことだった。
(lli _ ) 「ここまで四人殺して、問題があった」
(lli _ ) 「デミやんの行方が、追えなかった」
.
-
(lli _ ) 「兄者の連絡先は知っていたが……」
(lli _ ) 「兄者は、最後に殺さないといけなかった」
(lli _ ) 「だから、あんたを利用したんだ」
(´・ω・`) 「僕の名刺がなかったら、どうするつもりだったんだ」
、 、
(lli _ ) 「予告を利用したさ」
(lli _ ) 「方法は……考えてなかったけどな」
小森マサオは、僕がミセリに渡した名刺を見て、次なる殺人を思いついた。
まず、亡霊を名乗り、十年前の事故を示唆する。
そうすることで、ヒッキー小森が殺されたことと、
山村貞子が十年前に眠ったこと、
ふたつの事実が、小森マサオという人物に完全たるアリバイを与える。
(lli _ ) 「……まさか」
(lli _ ) 「それが原因で、捕まる……なんて……」
.
-
( ´・ω・)y-
小森マサオは、当時の虚勢はいずこへ。
僕を前に、完全敗北を喫していた。
事件の解決、という点ではいいが。
ほんとうにこれで、全ての謎は、解決したのだろうか。
( ´・ω・)y-
( ´・ω・) 「そういえば」
(lli _ ) 「…なんだよ」
(´・ω・`) 「十年前」
(lli _ ) 「!」
.
-
(´・ω・`) 「貞子は突き落とされ、兄者が犯人に仕立て上げられたわけだが」
(´・ω・`) 「どうして、あんたは、そんなことをしたんだ」
(lli _ ) 「……」
(´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「これは」
(´・ω・`) 「僕の、完全な推測なんだけど、聞いてくれるか?」
(lli _ )
(lli _ ) 「聞くだけなら、な」
そうか。
一言ちいさく呟いて、煙草の火を消した。
.
-
(´・ω・`) 「三角関係だ」
(´・ω・`) 「あんたは、山村貞子に、恋心か、それに近しい感情を持っていた」
(´・ω・`) 「そしてそれは、貞子も気づいていた可能性がある」
(´・ω・`) 「しかし、貞子からのそんな感情は、兄者に向けられていた」
(´・ω・`) 「貞子とあんたは、コテージで、二人きりだった時間があったろ」
(´・ω・`) 「その時に、なにか決定打となる会話か何かが、あったと思う」
(´・ω・`) 「それを彼女は、兄者に、相談した」
(´・ω・`) 「そして、自分の気持ちを、兄者に言おうとしたんじゃないのか?」
(´・ω・`) 「不運にも、体勢を崩して、ふたりは転落を危惧したわけだ」
.
-
(lli _ ) 「………。」
小森マサオは、黙って耳を傾けている。
連続予告殺人に関しては、完結しているのだ。
動機から、手口に、至るまで。
だから、特定する必要はない。
ただ、個人的に、気になる部分ではあった。
(´・ω・`) 「でなければ」
(´・ω・`) 「あんたが、兄者を犯人に仕立てる必要がない」
(´・ω・`) 「大切な友だちだった兄者を、だ」
(lli _ ) 「……。」
.
-
( ´‐ω‐) 「なんでもいいけど、さ」
っ ’・
( ´・ω・) 「兄者は、生きている」
( ´・ω・) 「兄者からも、あんたに言いたいことが、たくさんあるはずなんだ」
( ´・ω・)y- 「成仏する前に、ありったけの昔話、しろよな」
(lli _ ) 「………。」
(lli _ )
.
-
.
-
┏━─
某日 午前七時五〇分
ヴィップ霊園
─━┛
雨上がりのコンクリートの臭いが、鼻腔を突く朝だった。
あれは葉桜が拝めた季節だったか。
いま空を見上げると、すっかり梅雨を感じさせる薄暗い雲が流れている。
ヴィップのなかでも一際大きい、由緒ある大きな霊園。
だいたい、といっても五割も満たないが、没したヴィップの人間はここに眠る。
この梅雨の雲に似た色の紫煙を、上を向いて吹き散らす。
石畳にまだ残っている水たまりに、時折足を踏み込むと、ちいさな飛沫が散った。
ちゃんと前を見て歩かないとだめなようだ。
( ´_ゝ`) 「…!」
(´・ω・`) 「本当に来ていたんだな」
( ´_ゝ`) 「……まあな」
.
-
(´・ω・`) 「どれ」
兄者は、ミセリの墓の前にしゃがみ込んでいた。
傍らに手桶と柄杓が置かれている。
僕も、その隣にしゃがみ込んだ。
花束や供え物はもちろん、浄水も既に張られてある。
僕は供え物の隣に、ちいさな包みをふたつ、置いた。
アネモネの花飴だ。
( ´_ゝ`) 「……なんだい、そいつァ」
( ´・ω・) 「ちょっとね」
( ´‐ω‐) 「……さて。」
昔から使っている、大きな数珠を挟んで、手を合わせた。
目を閉じて深呼吸していると、兄者の呼吸も聞こえてきた。
( ´‐ω‐)
( ´・ω・) 「……」
( ´_ゝ`) 「ありがとうな」
.
-
兄者は、灯燭を撫でるように拭きながら、俯いている。
僕はくわえたままだった煙草の、灰を落とした。
マナー的にどうかとは思うが、ミセリなら許してくれるだろう。
彼女も吸ったことがある煙草なのだ。
( ´・ω・)y-~~
( ´・ω・) 「どうだい、最近」
( ´_ゝ`) 「なんてことないさ」
( ´_ゝ`) 「ただ……心にポッカリと、穴が開いたなァ、とは思う」
( ´_ゝ`) 「……」
兄者は、念入りに灯燭を磨いている。
持込品を見る限り、墓参りには慣れているのだろう。
この調子だと、フッサール擬古の墓参りも済ませていそうだ。
( ´_ゝ`) 「よかったら、一本、いただけやしませんかい」
( ´・ω・) 「ん。 十二ミリでもいいなら」
( ´_ゝ`) 「全然」
.
-
線香を付ける用だろう、持っていたライターで先端を炙った。
墓石にかからないように、煙を吹きかけた。
( ´_ゝ`) 「………。」
( ´_ゝ`) 「実はな」
(´・ω・`) ?
( ´_ゝ`) 「俺は、むちゃくちゃ、後悔してるんだ」
(´・ω・`) 「なんの、さ」
( ´_ゝ`) 「貞子のことを、ごまかそうとしたこと」
( ´_ゝ`) 「………正直に話していれば、俺は、無実がわかったはずなんだ」
(´・ω・`) 「無理もない」
十年前の有無山転落事件も、よく報道されることになった。
それに伴って、登山、というものの危険性も共に報じられた。
まったく、とばっちりも甚だしいとは思う。
.
-
(´・ω・`) 「当時自白したところで、証明のしようがない」
(´・ω・`) 「まして、もう終わっちまったことなんだ」
( ´_ゝ`) 「でも、そのせいでよ」
( ´_ゝ`) 「自粛……みてえなムードが、蔓延した」
( ´_ゝ`) 「………連絡先、とか」
( ´_ゝ`) 「ちゃんと残して、定期的に会って」
( ´_ゝ`) 「同窓会みたいなこと、しときたかったなッて」
兄者が深く紫煙を吸い込む。
どこに吹きかけるでもなく、口から垂れ流す。
( ´_ゝ`) 「最近……ずっと、心残りなんだ」
( ´・ω・) 「……」
.
-
( ´_ゝ`) 「ヒッキーは、コロシまでは、しなかった」
( ´_ゝ`) 「それでも数年で出られはしなかったにせよ、」
( ´_ゝ`) 「十年もありゃ、釈放されてもいいもんだろ?」
( ´‐ω‐) 「………」
言いたいことが、わかった、が。
先を急く必要はない。
僕も、ゆっくり紫煙を吸い込んだ。
( ´_ゝ`) 「もし……あの時」
( ´_ゝ`) 「俺が、自分から、逃げなかったら」
( ´_ゝ`) 「今頃……また、全員で、バカ騒ぎ、できてたんだ」
( ´_ゝ`) 「十年なんて、大した年月じゃないッて……今なら、わかるからな」
十年ぶりに再会した兄者とデミタスも、
当時の関係を彷彿とさせる会話をしていた。
変わらないんだ、人は、十年ぽっちじゃ。
.
-
( ´_ゝ`) 「現に、貞子も、治る見込みがあるんだろ?」
( ´_ゝ`) 「じゃあ……結果論で言えば、だ」
( ´_ゝ`) 「………」
( :::_ゝ::) 「………」
兄者が、黙った。
が、みなまで言う必要はない。
十年前の、兄者の行動ひとつで。
フッサール擬古、クックル三階堂、芹澤ミセリは死ぬことなく。
山村貞子は目を覚まして。
ヒッキー小森、あらため小森マサオは出所して。
現実とは真逆の未来が訪れていて、
また楽しかったあの頃のように、酒を酌み交わすことができていたのに。
そんな、後悔だ。
( ´・ω・)y-~~
( ´・ω・) 「小森は来週、最終判決が下される」
( ´_ゝ`) 「…!」
.
-
想像以上に長引いた裁判だった。
世間からの注目もたいへんなもので、
非常にデリケートな案件だった、と言える。
被告人、小森マサオは、何一つ抵抗していなかった。
検察が語る内容を受け止め、罪を認めていた。
しかし、安易に判決を下させない、世間の目が邪魔だったわけだ。
( ´・ω・) 「面会……するチャンスは、あと僅かだろうな」
( ´_ゝ`) 「……」
僕は、証言台には、立たなかった。
というより、アルプス県警の上層部が、拒んできた。
小森マサオについて証言するということは、
十年前の、有無山転落事件にも言及する、ということだ。
言ってしまえば、先方にも負い目がある事件である。
三月イナリ警部が、出廷する運びとなったらしい。
( ´_ゝ`) 「……そうか」
( ´‐ω‐)y-~~
.
-
煙草を吸いきって、携帯灰皿にねじ込んだ。
兄者が見てきたので、黙って灰皿を貸した。
(´・ω・`) 「さて」
(´・ω・`) 「行くぞ」
( ´_ゝ`) 「ん」
示し合わせて、重い腰を上げ、立ち上がる。
ウン、と伸びをすると、腰がめりめりと音を立てた。
(´・ω・`) 「貞子は、鷺宮という老夫婦が引き取っている」
(´・ω・`) 「今朝も確認を取ったが、様態はすこぶる良好らしい」
(´・ω・`) 「可愛い寝息を立てているッてよ」
.
-
今日、僕は。
兄者に、小森マサオの裁判の日程を伝えるために来た。
そのことを電話口で伝えると、兄者の提案で、
ミセリの墓参りに同行させてもらうことになった。
そしてこれから、山村貞子の見舞いに行く。
鷺宮家は、もとは医療に携わっていた老夫婦で、
その分野は、脳神経外科だったと聞く。
腕は優秀で、知識も堪能だった。
人柄もよく、病院はもちろん、近所からの評判もよかったのだが、
如何せん子宝に恵まれないことが日々の重い悩みだったらしい。
( ´_ゝ`) 「可愛い寝息、ねえ」
フッサール擬古と出会い、彼の人を気に入った。
そこで、貞子の話を聞いて、うちが看ようか、と提案してもらえたそうだ。
.
-
先方からは、電話でも軽く話を伺った。
声色や言動から、なるほど確かに、人柄のいい、信頼できる人物だと思った。
貞子がいつか目覚めた時、この上ない絶望に襲われるだろう。
何年も眠り続けていた事実。
たった一人の親が、その間に旅立っていた事実。
決して、受け止められるものではないはずだ。
鷺宮夫婦は、そんな彼女をこの上なく不憫に思ったらしい。
また、歳も、当時は五十ほどか。
貞子の年齢を聞いて、娘のように感じられたわけだ。
(´・ω・`) 「まだ、約束の時間には早いな」
(´・ω・`) 「どうだい。 朝飯、食うか?」
( ´_ゝ`) 「………そうだな」
( ´_ゝ`) 「そういや、昨日の昼から、なんも食ってねえや」
鷺宮夫婦は、貞子を看続けたこの七年間で、
彼女に対し、娘に近しい愛情を持っている。
いつか目覚めた時、貞子の身に起こったことを話し、
そのうえで、親心をもって彼女に接したい、と思っているそうだ。
.
-
(´・ω・`) 「これで、先方から食事を出されたら、気まずいな」
( ´_ゝ`) 「いや、図々しいな」
軽く笑う。
僕が歩くと、兄者もついてきた。
雨上がりの朝だ。
蒸し暑さも感じない。
トレンチコートの裾をなびかせ、石畳を踏みしめていく。
( ´_ゝ`) 「おっと。 いけねえ」
兄者は、踵を返して、供えていた食べ物を手に取った。
包みを見るに、どれも生ものだろう。
合掌して、一言なにかを言っていたが、声はこちらまでは届かなかった。
( ´_ゝ`) 「あの飴はどうすんだい」
(´・ω・`) 「ああ。 置いてくよ」
( ´_ゝ`) 「大丈夫かなあ」
.
-
飴の入ったちいさな包みなんて、カラスでも食わないだろう。
ミセリの墓参りにきた次の誰かが、食っちまえばいい。
あなたを信じて待つ。
そんなメッセージを、ふたつ、残して行こう。
(´・ω・`) 「はてさて」
(´・ω・`) 「どうなることかなァ」
( ´_ゝ`) 「飴が、かい?」
(´・ω・`) 「貞子ちゃんだよ」
( ´・ω・) 「………近いうちに、目覚めるかなァ」
.
-
.
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐-
'、
| .、
l
!
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ,
ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
終幕 「 成仏 」
' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l
ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;::::::::::::::://
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→ttps://www.youtube.com/watch?v=nz6TD2i-9ko
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-
┏━─
盛岡デミタス フリーター
─━┛
(´^_ゝ^`) 「うわあ……懐かしいな」
(´^_ゝ^`) 「何年振りなんだろう……」
(´・_ゝ・`) 「相変わらず、ユメもキボーもありゃしない日々ですよ」
(´・_ゝ・`) 「ただ……」
(´・_ゝ・`) 「生きてたら、出会うことッてあるんだなァ、って」
(´・_ゝ・`) 「因縁ッてやつに」
(´・_ゝ・`) 「サークルもそうですし、あの刑事さんもですし」
(´・_ゝ・`) 「あなたとも、これで二回目じゃないですか」
(´・_ゝ・`) 「これって、リッパな因縁ですよ、因縁。」
(´^_ゝ^`) 「………頑張って、面白い小説、書いてくださいね。」
.
-
┏━─
鈴木ダイオード ヴィップ県警捜査一課刑事
─━┛
/ ゚、。 / 「あ……どうも。」
/ ゚、。 / 「えっと……ああ、何年前でしたっけ」
/ ゚、。 / 「連続誘拐殺人事件……でしたっけ。
前に会ったの」
/ ゚、。 / 「今回も、連続予告殺人事件ですよね」
/ ゚、。 / 「縁があるんですかねーー。
連続ナンタラ殺人事件に」
/ ゚、。 / 「あの人、ことごとく厄介な事件を担当してる、ッて思うじゃないですか」
/ ゚、。 / 「実際は、上から、面倒事をことごとく回されてるだけなんですよ」
/ ゚、。 / 「知ってました?」
/ ゚、。 / 「警部に対するささやかな嫌がらせなのか」
/ ゚、。 / 「それとも、あれですかね」
/ `、、 / 「あの警部にしか、解決できなさそうだから……なのか」
.
-
┏━─
東風ミルナ ヴィップ県警捜査一課警部補
─━┛
( ;>д゚) 「ぶえっくし!」
( ゚д゚) 「!」
( ゚д゚) 「来てたんですね」
( ゚д゚) 「………そうです、風邪です」
( ゚д゚) 「情けないことに、川を泳いだだけでこの有様です」
( ゚д゚) 「あの人は、普段はあんなンですが、能力は、ご存じの通りですから」
( ゚д゚) 「自分にできるのは、あの人が安心して博打を打てるような……」
( ゚д゚) 「そんな後ろ盾として、現場を走りまわるくらいです」
( ゚д゚) 「……博打を打たせた時のあの人は、強いですよ」
( ゚д゚) 「あの人が名を馳せた、あの事件でもそうなんですが、」
( ;>д゚) 「………べぇっくし!!」
.
-
┏━─
大神フォックス オオカミ鉄道総裁
─━┛
爪;'ー`) 「お待たせしました! ええ、失礼…」
爪;'ー`) 「……」
爪'ー`) 「え?」
爪'ー`) 「え、ああ……お久しぶりですね………ッて」
爪'ー`) 「え、どうしておたくが?」
爪'ー`) 「これってアレでしょ、事件のインタビュー的な……」
爪;'ー`) 「いやいやいやいや!」
爪;'ー`) 「今回ばかりはさすがに無関係だからね!?」
爪'ー`) 「え。 なに。 ついで?」
、 、 、
爪;'ー`) 「ついでで来ないでいただきたい!」
爪;'ー`) 「あなたと会うだけで胃薬がいるんですよ! わかりますか!?」
.
-
┏━─
ペニサス伊藤 ヴィップ県警捜査一課刑事
─━┛
('、`*川 「最近ねーースマホ新しくしたんだーー」
('、`*川 「捜査してる時、だいぶ地図アプリ使うんだけどさ」
('、`*川 「やっぱ、新しくていいスマホだったら、より正確でね」
('、`*川 「スマホ新調したついでに、整理したんだ」
('、`*川 「電話帳」
('、`*川 「昔から、いろんな事件で、いろんな人の連絡先聞いてるんだけどさ」
('、`*川 「ほんと、いろんな人がいて、優しい人が多いんだ」
('、`*川 「それで、ムカシ捜査で行った喫茶店にさ、オフで行ったんだ」
('ワ`*川 「そしたら、そのおばちゃん、私のこと覚えてて!」
('、`*川 「何年経っても、案外色褪せないもんなんだね、人のつながりッて」
('、`*川 「あんたもだよ。 またそのうち、会おうね」
.
-
┏━─
三月ウサギ アルプス県警捜査一課警部
─━┛
(メ._⊿,) 「如何にも……我の名は三月ウサギ……」
(メ._⊿,) 「……真実の求道者」
(メ._⊿,) 「……イナリが警部になった頃から……」
(メ._⊿,) 「この口上は……禁止された……」
(メ._⊿,) 「イナリが警部になってから……向かい風が多い……」
(メ._⊿,) 「俺は……引退した身よ……」
(メ._⊿,) 「捜査一課の権限は……イナリが握っている……課長以上にな……」
(メ._⊿,) 「だが……今の警察機関を変えるには……」
(メ._⊿,) 「イナリの力が必要だ……三人いても足りないほどによ……」
(メ._⊿,) 「俺としては……」
(メ._⊿,) 「……はやく身を固めて……孫を見せてもらいたいものだがな……」
(メ._⊿,) 「こう見えて……子供をあやすのは得意だぞ……」
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┏━─
流石兄者 ウェブライター
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( ´_ゝ`) 「ん……ああ、あんたか」
( ´_ゝ`) 「見ての通り、留置所での面会さ」
( ´_ゝ`) 「刑事さんに言われてな。
やっと、ついたんだ」
( ´_ゝ`) 「奴に会う、決心………ッてやつ」
( ´_ゝ`) 「ここに来るまで、ずっと」
( ´_ゝ`) 「どんな話をしようか、ずっと考えてたんだが……」
( ´_ゝ`) 「………会ったら、今年のアニメの話で、盛り上がっちまった」
( ´_ゝ`) 「ああ、面会時間いっぱいに、な」
( ´_ゝ`) 「いろいろあったとは言え、やっぱり俺は」
( ´_ゝ`) 「奴のことは、嫌いになれそうにねえわ」
( ´_ゝ`) 「亡霊にでもなって、俺の枕元に出てきてくれねえかな」
( ´_ゝ`) 「そうすりゃ、毎日が楽しいのに」
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┏━─
若手ワカッテマス ヴィップ県警捜査一課刑事
─━┛
( <●><●>) 「お待たせしました」
( <●><●>) 「来ると思って、先にコーヒー、淹れておきましたよ」
( <●><●>) 「もう四度目ですからね、これでも」
( <●><●>) 「あんな上司に引っ張りまわされる日々ですが」
( <●><●>) 「なんだかんだ、うまくやっていけているとは思いますね」
( <●><●>) 「ヴィップの滝公園での、兄者との対決ですよ」
( <●><●>) 「あそこで、あの人が私を呼んだ、ということ」
( <●><●>) 「……私とあの人で、呼吸が合っていなければ、成し得なかったことです」
( <●><●>) 「証拠が何一つ残ってなかった、事件だったのですから」
( <●><●>) 「次会う時は、どんな事件なんでしょうかね」
( <●><●>) 「私としては、もう二度と会いたくないですが」
( <●><●>) 「冗談ですよ」
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◆
かつての喧騒はどこへやら、
全国を震撼させた連続予告殺人事件は、七十五日を待たずに過去となった。
この国では、毎日新しい事件が舞い込んでくる。
アイドルの結婚や政治家のスキャンダルと、話題には事欠かない日々である。
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(´・ω・`) 「お見合いィ!?」
,_
イ(‐、ナリ从 「……」
(´・ω・`) 「あの? イナリちゃんが? お見合い?」
(´;ω;`) 「事件だwww大事件だwww捜査一課出陣だァwww」
,_
イ(゚、ナリ从 「言うんじゃなかった!」
(´;ω;`) 「ぶッひゃwwwひゃひゃひゃwww」
イナリちゃんは、飲み干したジョッキを叩きつけた。
ちょっと気遣ってバーに誘ったわけだが、
意外にも、彼女はビールが大好きだったようだ。
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イ(゚、ナリ从 「警部だって、独身あんでしょ!」
(´;ω;`) 「ちょっとwww酔いすぎじゃないんですかwwイナリさァんww」
(´;ω;`) 「舌がまわってないですよwww」
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頼んだ生ハムとオリーブは、すぐになくなった。
イナリちゃんがビールを呷るごとに食べ尽くすのだ。
(´・ω・`) 「あ、このチーズの盛り合わせで」
,_
イ(゚、ナリ从 「警部こそ独身でしょ!」
(´・ω・`) 「一応一度は結婚したもんねー」
イ(゚、ナリ从 「バツついてんじゃないですか!」
イ(゚、ナリ从 「上層部でも話題になってますよ!」
(´・ω・`) 「え、なんの話題?」
さすがに、イナリちゃんに空けたジョッキの数で負けたくはない。
遅ればせながらも、四杯目を続けて頼んだ。
イ(゚、ナリ从 「あの男には、しっかりと生活を支えてくれる妻が必要だって!」
(´;ω;`) 「独身でもやってけてますゥwww」
.
-
イ(゚、ナリ从 「最近、酒浸りだそうじゃないですか」
イ(゚、ナリ从 「知りませんよ。 痛風とか、そんなのになっても」
イ(゚、ナリ从 「父も、去年、痛風だったんですから」
(´;ω;`) 「三月殿wwwwまじでwww」
(´;ω;`) 「あいてッ!あいててててwwww」
あの、亡霊に支配されていた事件が終わって、
念願だった、懐かしい顔ぶれとの飲みを楽しむ日々を送っている。
まず、事件解決を祝っての、ショボーン班での乾杯。
続けて、オオカミ鉄道の総裁や、アスキーミュージアムの館長など。
久しぶりに、酒のうまさに触れられて、心の底から楽しいと思える日々だ。
(´・ω・`) 「ちゃんと、独身のうちに、親孝行しとかなくちゃ!」
(´・ω・`) 「結婚するんでしょ!」
,_
イ(゚、ナリ从 「するのはお見合い!」
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-
イナリちゃんがヴィップ県警にいた頃、一度だけ、誘ったことがあった。
周囲から孤立することで、彼女から士気が感じられなかったのだ。
その時の、彼女は、無口だった。
飲むのも、ウーロン茶くらいなものだったが。
,_
イ(゚、ナリ从 「結婚なんて……私には……」
(´・ω・`) 「こォーーんなに可愛いのにィ!?」
,_
イ(゚、ナリ从 「人付き合いが苦手なの、知ってるくせに……」
今となっては、口を開けば、言葉のすべてに感情の色が塗られている。
どんな人間でも、心が開きさえすれば、個性的な彩りが感じられるものなのだ。
イ(゚、ナリ从 「……若手さん、いるじゃないですか」
イ(゚、ナリ从 「昔、一度、飲んだことがあるんですけど」
(´・ω・`) 「!!!」
.
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服装も、当時は仕事中となんら変わらないスーツ姿だったのが、
今日は、イナリちゃんが好きな淡い青色を基調にした、私服だ。
化粧やコーディネートからして、なんだかんだ気合を入れてくれたのがわかる。
イ(゚、ナリ从 「あんな風な、静かな人だったら、落ち着きはするんですよね」
(´・ω・`) 「奴はだめだ!!!」
(´・ω・`) 「おとーさん許さないからね!!!」
,_
イ(゚、ナリ从 「顔が近い…!」
流石兄者のような、社交的に見えて、自らの偽りに支配された男。
小森マサオのような、内向的ながらにして、自らの偽りに支配された男。
ふたりを筆頭に、ほとんどの人間は、
事の大小こそさて置くものの、なにかを偽って、偽りに支配されて、生きている。
しかし、というよりは、だからこそ。
人は、酒を好む。
なかなかどうして、人は酒を飲むことで、図らずも本性を現すので。
疲れた時には、人と酒、ふたつの温もりに触れるのが一番なのだ。
.
-
イ(゚、ナリ从 「……とにかく」
イ(゚、ナリ从 「お見合いは、断るつもりだから」
(´・ω・`) 「なあんで!?」
人は生きていくうえで、必ずその身に、偽りを纏う。
だからこそ、イツワリという言葉は、人が為すと書いて表されるのだ。
イ(゚、ナリ从 「私はいいんです!」
イ(゚、ナリ从 「なんだったら、いい人、紹介しますよ」
イ(゚、ナリ从 「アルプス県警の事務の人なんですが、三十二の、美人です」
イ(゚、ナリ从 「もちろん、警部のこともご存じですよ」
(´・ω・`) 「はん!」
ただ、僕は。
人が為すから偽り、だとは、思わない。
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-
(´・ω・`) 「僕はもう、ケッコンなんてうんざりだ!」
(´・ω・`) 「どーせ次結婚しても、一年で別れるんだよ!」
イ(゚、ナリ从 「最初の人は、何年で別れたんですか?」
(´・ω・`) 「覚えてないけど……三年もなかったと思うよ?」
イ(゚、ナリ从 「どうして、別れたんですか?」
(´・ω・`) 「愛想尽かされただけだい」
イ(゚、ナリ从 「やっぱり!」
(;´・ω・`) 「やっぱり!?」
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人の為に、だから偽り。
僕は、そうであったほうがいいな、と思うのだ。
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ,
ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
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