9名無しさん :2018/11/05(月) 20:59:11 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ┏━─
    五月七日  午前十一時五七分  アルプス山脈  コテージ
                                         ─━┛
 
 
 
(´・ω・`) 「ん…」
 
 想定していた通り、コテージはかび臭く、自然の跡が多く見られた。
 イナリちゃんを呼んでいたら、多少調子が狂っていただろう。
 
 鑑識を呼んだものの、ろくに調べられそうなところもなかった。
 兄者と話をしながら、浮かんだ場所を一応、調べてみるだけだ。
 何かの染みやら跡は多く見られたが、情報という情報は炙り出せない。
 
 
( ´_ゝ`) 「どうぞ」
 
(´・ω・`) 「ヤ…メールだ」
 
 メールが届いたのはいいのだ、けど。
 添付ファイルが大きく、受信に時間がかかっているようだ。
 
.

10名無しさん :2018/11/05(月) 21:00:08 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ひとまず添付ファイルの受信をキャンセルし、
 文面だけをチェックすることにした。
 案の定、送り主はワカッテマスだ。
 
 第一から第四までを担当した全員が集合し、
 持ち寄った情報を共有したうえで、事件を頭から検討していた。
 
 僕も同席したかったところだが、致し方あるまい。
 メールには、検討の結果と今後の方針、参考資料が添付されていた。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 基本的にショボーン班は、各捜査官の能力を尊重している。
 よそは知らないが、うちの場合、僕が不在なら、その場にいる各々に判断を委ねている。
 
 まあ、いちいち判断を下すのも面倒なだけだけど。
 縛るに縛れない濃い面々が多い班なんだから、仕方ない。
 
.

11名無しさん :2018/11/05(月) 21:01:09 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ざっと流し読みしたところ、みんなは貞子を引き取った第三者を追うらしい。
 着眼点は面白い。
 
 真っ先に脳裏に浮かんだのは、イナリちゃんの顔だ。
 確か、アルプス側から病院に干渉してくれているはずだ。
 引き渡し、それもグレーの可能性もある、という情報があるだけで、大きく変わる。
 
(´・ω・`) 「戻るか」
 
( ´_ゝ`) 「ん」
 
 
 コテージで検討したのは、具体的な位置関係だ。
 どこにコタツがあって、誰がどういった具合に寝ていたのか。
 
 舞台は夜、皆が寝静まったあと。
 貞子の位置次第で、貞子が起きることで起きうる人、を検討していた。
 
 兄者の記憶が曖昧だったのは多少気がかりだが、
 当時貞子の近くで寝ていた、すなわち騒いでなかったのは小森と擬古。
 このふたりは隣だったり近くで寝ていたため、可能性は高かろう、という話だ。
 
.

12名無しさん :2018/11/05(月) 21:01:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 奇しくも、本件の一番目、二番目に殺されたふたりだ。
 報告メールを追う限り、だから一番目二番目に選ばれたわけではなさそうだが。
 
 ならふたりが怪しいか、となるとそうでもないのだ。
 別の部屋だったならともかく、全員がこの大部屋に寝ていた。
 
 ひとつわかったのは、もしクックルかミセリがつられて起きていた場合、
 もう片方は目覚めたりしていたんじゃないか、という程度。
 あまり強くはない根拠だが、リスクを考えるとひとまずは除外してもいいかもしれない。
 
 
(´・ω・`) 「うおッ……寒いな」
 
( ´_ゝ`) 「風よけとしては便利なもんスね、小屋って」
 
 残る四人のうち、擬古、小森、デミタス、兄者。
 十年も前の話である点や、証拠が薄すぎる点から、これ以上の検討は難しかった。
 
 それ以上に気になった点があった。
 あった、というより、気がついた、というべきか。
 
 十年前、誰かが貞子を落としたならば、
 それは当人らで示し合わせた会合によるものだったのか、
 偶発的にふたりが現場に赴き、なにかがきっかけで発展したものだったのか。
 
 そして、落としたら落としたで、その後犯人は、何を思って元の場所に戻ったのか。
 犯人は、朝になって、どうするつもりだったのだろうか。
 
.

13名無しさん :2018/11/05(月) 21:02:34 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 保険を打つはずなのである。
 夜中に一度リビングを立っている以上、
 誰かにその動向を知られるだけで、瞬く間に犯人になってしまうのだ。
 
 たとえば、トイレに行った、ということにしたとして。
 わかりやすいアリバイのようなものを用意しておくのだ。
 小便をズボンに引っかけてしまった、とか。
 犯罪を犯す人間は、そういった小手先を好んで使う傾向がある。
 
 
 無策で戻った、ということは、あるいは最初から隠すつもりがなかったこともあり得る。
 しかし、だったらどうして、本件は事故として処理されているのか。
 
 今更、本件が事故だったと捉えるのは無理がある。
 最悪事故だったら事故だったで、それなりな根拠というものが必要だ。
 
 こういうのは、詰まったら一度は原点に立ち返るのだ。
 犯人は、一切特別なアクションは起こしていない。
 アリバイを残し得る何か、だ。
 トイレに行く、なにか事故を装う、など。
 
.
14名無しさん :2018/11/05(月) 21:03:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 何もなかったのだから、結果事故として処理された、と言ってもいい。
 もし突き落としたのであれば、何かしらアクションがあってよかったはずなのだ。
 
 実は転落ではなく、別の方法で貞子に危害を加えてから落としたパターン。
 実はもともとは転落以外の事故で、
 貞子を死んだと勘違いした犯人が事故に見せかけ落としたパターン。
 
 それらは、当時の捜査によって否定されている。
 貞子は確かに、健康体の状態から突き落とされたと見ていいのだ。
 
 
 順序としては、三段階に分けられる。
 まず、貞子と犯人が野外に出る。
 貞子が散歩に行ったときに気づいて、一緒に散歩に出たか。
 その逆もあり得るし、最初からふたりで約束していた説もある。
 
 貞子と犯人の間で、大切な話があったか。
 となると、兄者が言っていた、小森との恋仲説が挙げられる。
 兄者自身ほとんど干渉しない性格だったこともあり、根拠はほとんどないとは言え。
 
 
( ´-ω-)
  っ ・’
 
 二段階目に、突き落とした。
 それは行為そのものは事故だったかもしれないし、
 確固たる殺意のうえで貞子が突き落とされたのかもしれない。
 
.

15名無しさん :2018/11/05(月) 21:03:35 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´・ω・)y-~~
 
 貞子が犯人を殺そうとして、揉みあっている最中に貞子が落ちた可能性もある。
 なにも根拠が得られない以上、あらゆるケースが想定される。
 とにかく、貞子は落ちたんだ。
 
 
 三段階目、犯人は何食わぬ顔で戻った。
 重要なのは、起きた根拠を用意していなかったこと。
 
 なんでもいい。
 コテージ内の別の場所に痕跡を残してアリバイもどきを用意するでもいい。
 
 注目すべきはここにあるのだが、十年前の初動捜査でどこまで調べられたかが気になる。
 当時に戻って、僕やぎょろ目らで当たれば、違った見解が見えたかもしれない。
 後の祭りとはよく言ったものだ。
 
 
(メ._⊿,) 「ん……」
 
(´・ω・`) 「三月殿」
 
.

16名無しさん :2018/11/05(月) 21:04:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 歩きながら吸っていた煙草は、結構な勢いで燃えた。
 湿気の強いなか、程々に濃い煙が堪能できた。
 
 そこらを散策していた三月殿は、車のところまで戻ってきていた。
 ちょうど落ち合ったといったところだ。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(メ._⊿,) 「……どうだ」
 
(´・ω・`) 「気がかりなのは、犯人の、その後のアクションです」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 いま組み立てた検討を、三月殿に話す。
 煙草の二本目も、やはり火の付きはよろしくなかった。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(メ._⊿,) 「そこのデカブツは……木偶の坊だったッてとこかい……」
 
 鑑識が畏縮する。
 やめてやれ、十年も前の現場に証拠なんて期待するでない。
 
.

17名無しさん :2018/11/05(月) 21:05:10 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「三月殿なら、どう見ます」
 
(メ._⊿,) 「簡単だ……」
 
(メ._⊿,) 「十年前の有無山に……犯人なんていなかった」
 
(メ._⊿,) 「付き添いを名乗り出るのもいなかった以上……」
 
(メ._⊿,) 「気ままに散策した先が……三途の川だったんだろうよ……」
 
 ごもっともな意見だ。
 しかし、こちらには部下たちが導き出した一つの仮説がある。
 十年前、ここには犯人がいたはずなんだ。
 
 
(メ._⊿,) 「俺みたいに……ふらふらッと散策してな……」
 
(´・ω・`) 「そういや三月殿、なにをされていたので?」
 
(メ._⊿,) 「俺か……? そうだな……」
 
(メ._⊿,) 「……昔……鶴を捕らえたかの罠を……探していたさ……」
 
.

18名無しさん :2018/11/05(月) 21:06:51 ID:h25gk5nA0
 
 
   ,_
イ(゚、ナリ从
 
 三月殿が、気取りながら目の前の車に目をやった。
 するとイナリちゃんが露骨に不機嫌そうな顔を浮かべて、彼を睨んでいた。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「あらら」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 
(メ._⊿,) 「……考え事は……当てもなく歩きながらするのが一番捗る……」
 
(メ._⊿,) 「十年前……やっこさんは何を考えていたのかを……考えていたさ」
 
(´・ω・`) 「やっこさんッてのは」
 
 
(メ._⊿,) 「犯人だよ……」
 
 言いながら、三月殿は吸い寄せられるようにイナリちゃんの後ろに座った。
 兄者に目配せすると、頷いてもう一台の後部座席に座った。
 
 僕もはやく座りたいが、車内で紫煙を浮かべるとどうなることかわからない。
 半分も吸えていないそれをその場に落とし、車の扉を開けた。
 
.

19名無しさん :2018/11/05(月) 21:07:48 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「うーー、寒いな」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「して三月殿」
 
(´・ω・`) 「犯人が何を考えていたのか……ですか」
 
 三月殿はふざけているように見えて、筋金入りの刑事だ。
 目の上のたんこぶがほとんどいなくなったことで、自由人になっているだけである。
 そういった意味でも、彼は常にイナリちゃんがマークしていなければならない。
 
 
(メ._⊿,) 「……ショボが言ったことだ」
 
(メ._⊿,) 「オンナ一人突き落として……常人なら何食わぬ顔してらんねえぜ……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 ある程度推理を進めると、やはりそこに落ち着くのか。
 意外だったのは、三月殿も、本件には犯人がいた、
 という前提で検討を進めていてくれたことだ。
 
.

20名無しさん :2018/11/05(月) 21:08:11 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「俺は……今まで何人も牢獄にぶち込んでやってきたがな……」
 
(メ._⊿,) 「どんな見て呉れのごついアンちゃんでも……」
 
(メ._⊿,) 「保険なしにヤマぶち当てる男ァ……そうそういなかったもんだ」
 
(´・ω・`) 「と、言いますと」
 
 
(メ._⊿,) 「知らんぷり決め込んで……眠るタマの持ち主ァそうおらんだろう」
 
(メ._⊿,) 「いたとして……十年後の復讐劇で……心が割れるもんだ」
 
(´・ω・`) 「心が……」
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 ひとつ、閃いた。              、 、
 そうだ、そもそも復讐劇は基本的に、予告のもと行われた。
 これがもし、当時だんまりを決め込んだ犯人を炙り出すための手段だったなら。
 
.

21名無しさん :2018/11/05(月) 21:09:07 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 その視点に立って振り返ってみると、だ。
 一人目の擬古は、わからなくはない。
 それどころか、まさか命の恩人とも呼べる自分を殺すことはない、と思うはずだ。
 
 次は、ヒッキー小森。
 フッサール擬古の死によって、勘付けたかどうかはまだ怪しい。
 しかしポイントは、彼に限り完全名指しの犯行だったことだ。
 
 指名された時点で、まずは自分を疑うものだ。
 続けて、擬古の死を知ったとするなら、十年前の因縁を思い出してもいい。
 三月殿の言葉を信じるなら、
 一笑に付した小森がその業を背負っていたとは思えない。
 
 クックル三階堂の場合。
 彼は、亡霊の呼び出しに応じた。
 そして、警察を自ら出し抜いてでも、亡霊との接触を試みた。
 
 それは懺悔のためだった。
 そう考えると、あり得る話である。
 
 その場合引っかかるのは、兄者の証言だ。
 ミセリは、クックルにもたれかかるように寝ていたらしい。
 他より優先度は落ちると言えど、根拠としては薄い。
 
.

22名無しさん :2018/11/05(月) 21:09:50 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ならば、ミセリは。
 彼女も、クックルと同様のアクションを見せている。
 この僕を出し抜いて、亡霊に自ら会いに行っている。
 
 これが、ある種の懺悔のもと駆り立てられた動きだったならば。
 クックルと違い、ミセリには決死の覚悟があっての密会だったはずなのだ。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「炙り出す……か」
 
 考えもしなかった発想だ。
 それが正しいかはわからない。
 
 ただ、僕もぎょろ目も、ワカッテマスも思いつかなかった。
 言っちゃあ悪いが、三月殿が発想力に富んでいるわけではない。
 おそらくは、長年培われた経験より導き出されたひとつの仮説なのだろう。
 
 
イ(゚、ナリ从 「何を、ですか?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「僕は、十年前のこの山に、人殺しがいた前提で捜査している」
 
.

23名無しさん :2018/11/05(月) 21:10:15 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「…!」
 
 反応からして、イナリちゃんは手ごたえが感じられていないのだろう。
 ショボーン班の精鋭が絞り出した仮説を、掻い摘んで説明する。
 
 イナリちゃんは、一匹狼だ。
 僕や三月殿を除き、基本的には職場に仲間という存在がいない。
 
 だから、班行動でひとつの道を選び、それを信じるという感覚がない。
 新鮮な面持ちで頷き、ゆっくり目を閉じた。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
イ(‐、ナリ从 「……十年前は、事故ではなく、事件、だった」
 
                       、 、
(´・ω・`) 「ポイントは、十年前これは事故と処理された点だ」
 
(´・ω・`) 「ファイルにもあった通り、不審な点がほとんどなかったんだ」
 
.

24名無しさん :2018/11/05(月) 21:10:48 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「犯人がいる前提で言い換えると、こうなる」
 
(´・ω・`) 「ひとつ。 犯人は夜、貞子を崖下に突き落とした」
 
(´・ω・`) 「ふたつ。 貞子と一緒に外出していたのを察されると、疑いがかかる」
 
(´・ω・`) 「みっつ。 しかし、犯人はそれに予防線を張らなかった」
 
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 十年前から昇ってきて、我々の目前に深くかかった上昇霧。
 それが少しずつ、晴れていく心地がしている。
 
(´・ω・`) 「整合性をとるなら、犯人が彼女を突き落としたのは、本意ではなかったんだろう」
 
(´・ω・`) 「予防線を張らなかったのは、それが突発的なものだったからだ」
 
(´・ω・`) 「混乱して、あるいはヤケクソになって、」
 
(´・ω・`) 「見られてたら、バレてたら仕方ない……ッて思った」
 
(´・ω・`) 「そういうことになるんだと、思う」
 
.

25名無しさん :2018/11/05(月) 21:11:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「しかし、幸か不幸か、真夜中の外出は気づかれなかった」
 
(´・ω・`) 「そこで、三月殿のアイディアだ」
 
(´・ω・`) 「……そもそも、どうして十年後の今」
 
(´・ω・`) 「亡霊は、予告、という形式をとったのか」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 イナリちゃんも、頷く。
 細い綱渡りのロジックを、踏み損なわないようじっくり噛みしめている。
 
 
(´・ω・`) 「当時は、偶然にも、ばれずに済んだ」
 
(´・ω・`) 「しかし、たった一人だけ、全てを知る人がいる」
 
イ(゚、ナリ从 「亡霊……にして、十年前の被害者」
 
イ(゚、ナリ从 「山村貞子ですね」
 
.

26名無しさん :2018/11/05(月) 21:12:18 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「そう、……」
 
(´・ω・`) 「あれ?」
 
(メ._⊿,) 「……あ」
 
 霧が晴れてきたはずの山間に、雨が降ってきた。
 一つひとつ整理していくと、ひとつ壁が立ちはだかった。
 
(´・ω・`) 「三月殿、ちょっとおかしくないですか」
 
(´・ω・`) 「だとすると、ですよ」
 
                  、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、、 、、 、 、
(´・ω・`) 「貞子自身も、誰が犯人なのかわかっていなかった」
 
(´・ω・`) 「そうなりませんか?」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
 
 これは、三月殿なりのヒントなのか。
 それとも、単なるおちゃめなのか。
 
.

27名無しさん :2018/11/05(月) 21:12:42 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 三月殿の性格を考えると、十中八九おちゃめだ。
 三月殿はそこまで、先見の明に長けた刑事ではない。
 
 しかし。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(メ._⊿,) 「!」
 
 困ったような顔をしていたかと思いきや、
 唐突にそれを払拭し、もとの威厳のある面持ちに戻った。
 
(メ._⊿,) 「話を……もう一度まとめよう」
 
(メ._⊿,) 「確かに……貞子が犯人を知らないのは……おかしい」
 
(メ._⊿,) 「となると前提は……みっつだ」
 
 
(メ._⊿,) 「十年前の事故に……立役者がいた」
 
(メ._⊿,) 「そいつは保険をかけず……命運を賽の目に委ねた」
 
(メ._⊿,) 「十年後……亡霊の手により予告殺人が決行された」
 
.

28名無しさん :2018/11/05(月) 21:15:50 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「どこかに……」
 
(メ._⊿,) 「偽りが……混じっているんだ」
 
(´・ω・`) 「ッ」
 
 偽り。
 
 
(メ._⊿,) 「ショボが言うんだ……」
 
(メ._⊿,) 「十年前に犯人がいた説は……無根拠に認めるとしよう」
 
 確かに、確固たる証拠はない。
 いくつもの状況証拠に推理を加えて出来上がった、成り損ないの化合物。
 
 もしそいつが、矛盾を内包した 「あり得ない」 ものだったなら。
 それはその時はその時だ。
 
(メ._⊿,) 「偽りがなかったのであれば……」
 
(メ._⊿,) 「十年前に犯人はいなかった……残酷な運命のエピローグに過ぎない」
 
(´・ω・`) 「いいや」
 
.
30名無しさん :2018/11/05(月) 21:16:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 要は、その、三つの前提。
 それらから、偽りを見抜けばいいだけなんだろう?
 
(´・ω・`) 「要素に分けましょう」
 
 犯人がいた、というのは確定させたうえでの仮設。
 犯人がいなければ、亡霊の復讐劇に予告という手段をとる必要がないんだ。
 
 また、状況を考えると、犯人がわからないというのも不自然な話である。
 現場が崖でなく、別所で意識を失ったところを突き落とされたとして。
 そうなると今度は、貞子自身が 「自分は殺された」 と感じることがなくなる。
 
 よくも十年前、見捨てやがって。
 そんな逆恨みに近い感情でサークルを皆殺しにするというのであれば、
 むしろ秘密裏にひっそりと殺すほうが自然と言える。
 
 
(´・ω・`) 「犯人は確かに、十年前、いた」
 
(´・ω・`) 「ここはロジックの出発点ですから、偽りにはならない」
 
(メ._⊿,) 「フン……」
 
(´・ω・`) 「また、連続殺人は、確かに予告がされている」
 
(´・ω・`) 「一部例外こそありますが、言葉のあやッてやつです」
 
イ(゚、ナリ从 「……と、なると?」
 
.

   
31名無しさん :2018/11/05(月) 21:17:04 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「犯人は、予防線を張らなかった」
 
(´・ω・`) 「偽りがあるとするなら、ここしかありません」
 
(´・ω・`) 「犯人は確かに、十年前、予防線を張っていたんです」
 
 
イ(゚、ナリ从 「予防線、とは言いますが」
 
イ(゚、ナリ从 「具体的に、どんなものをイメージされてるんですか」
 
(´・ω・`) 「パッと思いついたのなら、小便をズボンに引っかけたりさ」
 
イ(゚、ナリ从 「…?」
 
 ちょっと汚い例えだが、ほんとうに最初に浮かんだのだから仕方ない。
 要は 「自分が起きていたのは、貞子を突き落としていたからではないのだ」 。
 そんな小話をでっち上げられそうな何かであれば、なんでもいい。
 
 
(´・ω・`) 「他なら、寒かったから毛布を探していた、とか」
 
(´・ω・`) 「蛇口から滴る水の音が気になった、でもいい」
 
(´・ω・`) 「それで台所の蛇口に指紋でもつけていれば、小話にはなるんだ」
 
.

32名無しさん :2018/11/05(月) 21:19:37 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「要は、苦し紛れ、その場しのぎの、悪あがき」
 
(´・ω・`) 「そうだ」
 
(´・ω・`) 「でも、人を殺して、かつ隠したいと思った犯人は、」
 
(´・ω・`) 「そういった心理に陥ることが多い。 わかるだろう?」
 
 イナリちゃんは、犯罪心理というものを重んじる。
 僕の言っていることに反論はなかった。
 
 
イ(゚、ナリ从 「しかし、十年前のここには、その痕跡がなかった」
 
(´・ω・`) 「そう出ている」
 
イ(゚、ナリ从 「……ただ」
 
イ(゚、ナリ从 「それはあくまで、夜中に起きていたのが指摘された場合です」
 
 
イ(゚、ナリ从 「指摘されないことで、そもそも起きたのがばれていなかった」
 
イ(゚、ナリ从 「犯人はそれがわかって幸運に思い、その小話を出さなかった線は」
 
.

33名無しさん :2018/11/05(月) 21:20:00 ID:h25gk5nA0
 
 
                     、 、
(´・ω・`) 「当時、取調はあくまで個別に行われた」
 
(´・ω・`) 「誰がどんな証言をしているか、わからないんだ」
 
 
(´・ω・`) 「そして、当然ながら夜中起きていたかどうかは、聞かれる」
 
(´・ω・`) 「そんな状況になった時、犯人だったら、用意していた小話をする必要があるんだ」
 
 話がややこしくならないうちに、可能性の薄い芽は摘む。
 一旦咳払いを挟んだ。
 
 
(´・ω・`) 「自分は確かに、一度起きた」
 
(´・ω・`) 「その時貞子はいなかったと思うが、単にトイレだと思った」
 
(´・ω・`) 「もう一度寝ようと思ったが、台所の蛇口の音が気になって、一旦寝床を立った」
 
(´・ω・`) 「指紋も残っていると思うし、調べてみてほしい」
 
 
(´・ω・`) 「   ッてな具合にね」
 
(´・ω・`) 「そして、他の誰かがその人の不在を証言していた場合、」
 
(´・ω・`) 「整合性が取れていることで、信憑性が認められ、アリバイの成立となる」
 
.

34名無しさん :2018/11/05(月) 21:21:10 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「逆に、そもそも誰も不在を指摘されていなかったとしてだね」
 
(´・ω・`) 「それはそれで問題はない」
 
(´・ω・`) 「警官からすれば、一度起きていたなんて証言は、リスキーだ」
 
(´・ω・`) 「他に根拠がなければ、その人を疑うことはないだろう」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 
(メ._⊿,) 「そんな小話はなかった……」
 
(メ._⊿,) 「確かなんだな……?」
 
イ(゚、ナリ从 「お待ちください」
 
 イナリちゃんが、当時のファイルを繰る
 細かい文字を、山道で揺れる車内で辿っている。
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「ないですね」
 
.

35名無しさん :2018/11/05(月) 21:22:09 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「でも、確かに十年前」
 
(´・ω・`) 「どこかに、予防線が張られていた」
 
(メ._⊿,) 「どうやって調べる……」
 
(メ._⊿,) 「鑑識は通じなかったんだろう……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 結果として、現場を訪れた収穫はあった。
 予防線がなかった、ということを得られたのだ。
 
 しかし、その成果そのものが次の謎になっている。
 ここまでのロジックに、何か誤りや、思い過ごしがあったとでも言うのか。
 少なくとも僕の脳は、ここまでの轍が正しいものだと認めている。
 
 
(´・ω・`) 「どこかに……」
 
(´・ω・`) 「あるはずなんだ……偽りのアリバイ、予防線が……」
 
.

36名無しさん :2018/11/05(月) 21:22:30 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 助手席のイナリちゃんが、腕を組んだ。
 頭脳は、文句なしに僕より優れている。
 
 ワカッテマスの頭脳が欲しい、と思う局面は多い。
 多くの事件、多くの推理のうえで、僕以上の明晰な頭脳が欲しくなるのだ。
 その点、ワカッテマスは僕より数段若く、
 僕以上の頭脳を持っているから、この上ない信頼を寄せることとなる。
 
 イナリちゃんは、そんなワカッテマスに匹敵するのだ。
 僕が、意見を促す視線を投げかけると、渋々口を開いた。
 
 
イ(゚、ナリ从 「……そうですね」
 
イ(゚、ナリ从 「自明の理として成り立っている、何かの証言」
 
イ(゚、ナリ从 「それが実は予防線そのものだった……ということではないでしょうか」
 
(´・ω・`) 「既に成り立っている証言が……?」
 
.

37名無しさん :2018/11/05(月) 21:22:54 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「警部の考えでは、その予防線は、取調で浮かんだ証言に縛られている」
 
イ(゚、ナリ从 「一方で、取調にてそんな小話は出ていなかった」
 
 
イ(゚、ナリ从 「取調の、外」
 
イ(゚、ナリ从 「違う場所で、もっと手前で小話が繰り広げられた説は、どうでしょう」
 
(´・ω・`) 「簡単に言ってくれるけどね」
 
(´・ω・`) 「ほとんどの証言は、取調でとられてるんだ」
 
(´・ω・`) 「取調の手前で颯爽と語られる小話ッて、なんだ?」
 
 
 
 電流が走った。
 
イ(゚、ナリ从 「目撃証言ですよ」
 
 
.

38名無しさん :2018/11/05(月) 21:23:43 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「     ッ 」
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「!」
 
 イナリちゃんも気づいたようだった。
 
 
(;´・ω・`) 「待て!」
 
(;´・ω・`) 「既に語られてるじゃねえか!」
 
 
 苦し紛れ、その場しのぎの、悪あがき。
 とってつけたような言い訳。
 
 それっぽい小話。
 予防線。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者が崖下を見たキッカケ!」
 
 
.

39名無しさん :2018/11/05(月) 21:24:06 ID:h25gk5nA0
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「俺は、早起きしたんだ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「朝一の紅葉が見たくて、な」
  >
  >
  >( ´_ゝ`) 「で、つい癖で、写真を撮ろうと思った」
  >
  >( ´_ゝ`) 「ただ、相棒の一眼レフを落とした話はしたよな」
  >
  >(´・ω・`) 「してたね」
  >
  >( ´_ゝ`) 「で、ふと崖の下を見たんだよ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「……それがキッカケさ」
  >
  >
  >( ´_ゝ`) 「ここにカメラを落としたんだよなァ、とか思って見たわけじゃない」
  >
  >( ´_ゝ`) 「そういや、カメラ、崖の下に落としたなァ……程度の、軽いノリさ」
  >
 
 
.

40名無しさん :2018/11/05(月) 21:24:27 ID:h25gk5nA0
 
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(;´・ω・`) 「考えてみれば、変な話なんだよ!」
 
(;´・ω・`) 「キッカケもなしに、崖下を見る偶然!」
 
 
 手の汗腺が急激に活性化してきた。
 今にも崩れそうな桟橋の向こうに、金の鉱脈が広がっていた。
 
 それは金によく似せられたメッキかもしれない。
 単なる泥の塊に過ぎないかもしれない。
 ただ、今すぐにでも検討したい、確かめたい、という気持ちに駆られた。
 
 
 いま、兄者を乗せる車は、フロントガラスの向こうを走っている。
 先導という形で、霧の渦巻く山道を下っている。
 
(メ._⊿,) 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「……兄者、ですか?」
 
.

41名無しさん :2018/11/05(月) 21:24:58 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ロジックを全て肯定するなら、そうなる。
 そして実際、肯定しようとしている自分もいる。
 
(;´・ω・`) 「……」
 
(;´・ω・`) 「一本、いいかな」
 
イ(゚、ナリ从 「……どうぞ」
 
( ;´-ω-)
  っ ‘・
 
 一般的に、警ら中の喫煙は禁止されている。
 しかし、わざわざこんな山道でそれを咎めてくる人はいないだろう。
 イナリ先生のお許しも出たのだ、多めに見てくれ。
 
 
( ´・ω・)y-~~
 
 イナリちゃんが、少し顔を顰めて隣の警官に目配せする。
 眼光を突きたてられた彼は、黙って窓を少し開けた。
 
(´・ω・`) 「すまんね」
 
イ(゚、ナリ从 「……構いませんが」
 
.

42名無しさん :2018/11/05(月) 21:25:18 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「例の……デカブツか」
 
(メ._⊿,) 「あり得る……のか?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 あり得る。
 ここまでのロジック、
 詰まるところ僕に欠陥がなければ、あり得る。
 
 しかし、見落としを洗い出すことができない。
 三月殿、イナリちゃんがしてくれたように、
 見落としをサルベージしてくれる第三者がいなければ、断言できないのだ。
 
(´・ω・`) 「……」
 
 答えあぐねるたびに、思考に自信が持てなくなるたびにフィルターをくわえる。
 次々霧散する紫煙が、窓のわずかな隙間を縫ってアルプス山脈に逃げ込んでいく。
 
イ(゚、ナリ从 「あり得るかどうかは、さて置いて」
 
イ(゚、ナリ从 「警部」
 
.

43名無しさん :2018/11/05(月) 21:25:39 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「ん。」
 
イ(゚、ナリ从 「一旦署まで戻りますが」
 
イ(゚、ナリ从 「それからは、どう動きましょうか」
 
(´・ω・`) 「そうだな」
 
 頭を使うたびに忘れるけど、オンタイムで進んでいる捜査の真っ最中だ。
 三月親子、もといアルプス県警はいま、僕の指示に従う立場にある。
 
 所轄署を動かすのとでは訳が違う。
 一切の無駄を許さない、効果的な一手を放つ必要がある。
 
 いま、ぎょろ目たちは何をしていたっけか。
 植物状態になった貞子を、アルプス神経病院から引き取った第三者の特定だ。
 仲介人となっているのがフッサール擬古で、彼の勤め先が舞台となっている。
 
(´・ω・`) 「イナリちゃんは、どうよ」
 
(´・ω・`) 「思うところは、ある?」
 
.

44名無しさん :2018/11/05(月) 21:26:25 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「気になるのは、このファイルの信憑性」
 
イ(゚、ナリ从 「あくまで事件ではなく、事故です」
 
イ(゚、ナリ从 「担当の怠慢で、なにか漏れがないかを調べる必要はあります」
 
(´・ω・`) 「どう調べるのさ」
 
イ(゚、ナリ从 「いくらでも手立てはあります」
 
 イナリちゃんのことだから、当時の新聞くらいはまず全て調べ上げるだろう。
 あくまで事故だ、大々的に報道はされていないとは思う。
 ただ、小見出しに載るくらいは予想されるとも思う。
 
(´・ω・`) 「なるほど」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
イ(゚、ナリ从 「それか、何かあるなら、並行しますが」
 
 並行ときたか。
 きっと、移動中も膝の上に新聞なんかを広げて、読み漁るのだろう。
 それか、デスクを二、三個使って、あらゆるメディアを同時に調べたり。
 
.

45名無しさん :2018/11/05(月) 21:27:04 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「いま、こっちの部下は、ある人を追っている」
 
(´・ω・`) 「十年前の植物人間、貞子を引き取った、第三者を」
 
イ(゚、ナリ从 「第三者ですか」
 
 宗教関係者、とは言ったが、なんだっていい。
 実際、駆け込み寺だったりすることもあり得るんだ。
 
(´・ω・`) 「ロジックとしてはこうだ」
 
(´・ω・`) 「その貞子だけどね、シングルマザーに育てられたんだ」
 
(´・ω・`) 「病院に払う維持費……経済的に厳しいだろう」
 
(´・ω・`) 「そのお母さんは心労で倒れたわけだが、ここで問題が起こる」
 
イ(゚、ナリ从 「なるほど」
 
 頭がいい人と話すと、こういった場面で助かる。
 込み入ったロジックを、一から十まで話す必要がないんだ。
 
(´・ω・`) 「寺か、養子を欲する老夫婦か」
 
(´・ω・`) 「なんにせよ、そんな第三者」
 
.

46名無しさん :2018/11/05(月) 21:27:34 ID:h25gk5nA0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「しかし、第三者というのは」
 
(´・ω・`) 「フッサール擬古はご存じ、第一の被害者だけどね」
 
(´・ω・`) 「彼の勤める整骨院は地元に根差した店で、」
 
(´・ω・`) 「年寄りの常連がすげえ多いんだってよ」
 
 実際、そこがどんな店かは見ていない。
 ペニーに丸投げしてしまった節はあるにせよ、
 彼女はその可能性というものを拾ってきた。
 
イ(゚、ナリ从 「ふむ」
 
(´・ω・`) 「彼がご老人から可愛がられるッて証言は、とってある」
 
(´・ω・`) 「実際、状況を考えるなら、一番しっくりくるルートでもある」
 
イ(゚、ナリ从 「それだけだと弱い気はしますがね」
 
 部下の努力を、簡単に一蹴してくれるなあ。
 実のところ弱い拠り所だから仕方ないところではある。
 
.

47名無しさん :2018/11/05(月) 21:28:00 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕は、兄者とデミタスを連れて、ヴィップに戻る」
 
 煙草がうまい。
 脳が冴え渡っている証拠だ。
 
(´・ω・`) 「……逃げ場のない状況」
 
(´・ω・`) 「かつ、僕の暴走を止めてくれる部下の前で、兄者を取り調べる」
 
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
 
 
(´・ω・`) 「そこで」
 
(´・ω・`) 「おふたりには、いまヴィップの手が回せない、手薄なところを張ってほしい」
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「具体的には、そうだな」
 
 もう一度、メールを開く。
 電波が安定したら、添付されている資料にも目を通そう。
 
 目下わかっていない情報は、結構あった。
 たとえば、オオカミ鉄道の車両に残された、指紋。
 現状判明している分の指紋は、合致しなかったようだ。
 
.

48名無しさん :2018/11/05(月) 21:28:34 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 地下鉄殺人からの脱出手段。
 監視カメラや取調結果から、関係者を割り出すことはできなかった。
 ここもポイントとなるだろう。
 
 根本的なところとして、どうやって亡霊はクックルと接触できたか。
 亡霊はクックルがライブに駆り立てられることを知ったか。
 メールによると追加して、擬古もライブのことを知っていた可能性があった。
 
 ここらもはっきりさせておきたいところだ。
 三月親子が干渉できる範囲となると、どうだろうか。
 
 
(´・ω・`) 「アルプス神経病院」
 
イ(゚、ナリ从 「え」
 
 キーは、そこだ。
 
 ひとつ、アルプス県警から事件の干渉は大々的には行えない。
 あくまでアルプス内、それもデスクの上で完結しそうな範囲内が望ましい。
 
 また、僕の部下は、フッサール擬古という仲介人から貞子を追っている。
 逆に、ヴィップから病院へは一切干渉できていない現状だ。
 
.

49名無しさん :2018/11/05(月) 21:29:09 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「といっても、先方は曖昧にしか対応できないだろう」
 
(´・ω・`) 「だったら、内部事情に詳しい、一般市民だ」
 
イ(゚、ナリ从 「片っ端から聞き込みに走れ、と」
 
(´・ω・`) 「平和なアルプスさんなら、朝飯前だろう?」
 
 ちょっと冗談めかして言ったつもりだったが、イナリちゃんは口を少し曲げた。
 
 
イ(゚、ナリ从 「……」
 
(´・ω・`) 「何も、聞き込みに限らなくていい」
 
(´・ω・`) 「最低限、病院から重体患者が移動された痕跡さえ見つかればいい」
 
 あとは、日付や状況次第で、それが貞子の痕跡だとわかるだろう。
 容疑者が行方知れずなのが、亡霊を追い詰める上で一番のネックだ。
 
 その他は、あくまで亡霊が散らかした部屋に残る謎で、
 それら残骸から亡霊の居所を暴くことは難しい。
 
.

50名無しさん :2018/11/05(月) 21:29:39 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「いかがですかな」
 
 もっと手っ取り早い方法があるだろう、という反論は想定済みだ。
 実際、それに対する反証の術はない。
 
 ただ、亡霊よろしく地に足がついていない、不安定な情勢だ。
 証拠が限られ、確定できる情報が少ないなか、
 一番、特定することで恩恵が大きいのは貞子のその後だ。
 
 だったら、一つひとつ潰していくのが効率的だと僕は判断する。
 連続予告殺人事件の指揮官たる僕の判断だ。
 
 
(メ._⊿,) 「……鶴の恩返しと言ってな」
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
(メ._⊿,) 「昔……何気なしに助けた鶴が……恩返しにくるわけだ……が」
 
(メ._⊿,) 「当の男は……そもそも他意あって助けたつもりではなかった……」
 
.

   
51名無しさん :2018/11/05(月) 21:30:13 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「案外……すぐに見つかるかも知んねえぜ……」
 
イ(゚、ナリ从 「では、時勢を追う班と、病院を追う班で分けましょう」
 
イ(゚、ナリ从 「転落事故があったから、したがって病院に搬送された」
 
イ(゚、ナリ从 「時期を照らし合わせることで、何かしら掴めるかもしれません」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 案外、素直に言うことを聞くんだな、ふたりとも。
 三月殿の言っていることはよくわからないけど。
 
 
(´・ω・`) 「よっしゃ」
 
イ(゚、ナリ从 「アルプスは自慢じゃありませんが、データ処理に関しては優秀です」
 
イ(゚、ナリ从 「少なくとも、ヴィップほど雑な処理はしませんしね」
 
(´・ω・`) 「んむッ」
 
 嫌味を倍返しされたぞ。
 
.

52名無しさん :2018/11/05(月) 21:30:39 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ┏━─
    午前十三時三〇分  捜査本部
                      ─━┛
 
 
 
( <●><●>) 「……!」
 
 方針が決定してからの捜査本部は、電話のコール音に敏感になっていた。
 備え付けの電話は、右手を伸ばせば届く位置に設置している。
 
 十分に一度ほどの間隔で、そいつが鳴る。
 そのたびに、亡霊からのいざないである気がして、心労が溜まる一方だ。
 
 
 しかし今回は、私個人の電話が鳴った。
 コール音からして警部だ。
 
( <●><●>) 「はい」
 
 一瞬でわかった。
 落ち着いてはいるが、熱を押し殺している声だ。
 
.

53名無しさん :2018/11/05(月) 21:31:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 事件の真相がわかった時なんかに現れる、警部の癖だ。
 警部は、手放しで喜びたくなる時であればあるほど、
 その欲動をなんとか抑えようとする節がある。
 
 指示されたわけではないが、席を立った。
 東風さんがつられて私の動きを目で追っていたが、
 制止したり、状況を聞いてくる様子はなかった。
 
 
( <●><●>) 「今はどちらで」
 
( <●><●>) 「……わかりました」
 
 掛けてあったコートを羽織った。
 警部とは、気が付けば、短くはない付き合いだ。
 声色だけで、いま自分が必要とされている、
 自分に応援を求めている、ということがわかるようになっている。
 
 察するに、十年前の事故に、決着をつけるのだ。
 自分は、資料に書いてある程度のことしか理解していない。
 しかし、そんな自分を、警部は求めている。
 
 気付けにブラックを呷った。
 電話越しに感じられた、警部の不敵に吊り上がった口角が思い起こされる。
 
 クロを掴んだのか。
 グレーを黒く染めたいのか。
 あるいは透明な亡霊の輪郭を浮き彫りにしたいのか。
 
.

54名無しさん :2018/11/05(月) 21:32:29 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ┏━─
    午前十三時五八分  ヴィップの滝公園  滝口
                               ─━┛
 
 
 
 捜査に駆り出されていた警官も、
 連続予告殺人の延長と知らないマスコミも、
 事件当時と比べて非常に少なくなっていた。
 
 ぬかるみにも近い、湿気を大いに含んだ土を踏みしめていく。
 設備が整っていない、滝口への裏道に手すりはほとんどなかった。
 時折木の腹を頼りに登っていく。
 
 
(´・ω・`) 「遅かったじゃん」
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
 自分に気がつくまで、ふたりは流れ落ちる滝を、ぼんやり眺めていた。
 事件の検討にしては妙な組み合わせ、妙な場面だとは思った。
 
.

55名無しさん :2018/11/05(月) 21:34:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 少し前は、ここにミセリが突き落とされ、
 そしてこの滝を登ってきたというのだ。
 
 にも関わらず、滝はいつも通り流れていた。
 まるでミセリの死が、文字通り水に流されたかのようである。
 
( <●><●>) 「いかがでしたか、アルプス山脈は」
 
(´・ω・`) 「寒かったし、電波も悪いし、散々だったね」
 
(´・ω・`) 「しばらく山は登りたくねえや」
 
 吸っていたであろう煙草を携帯灰皿に押し込んでいる。
 至って平生の、それどころか無気力とすら感じられる口ぶりの向こうに、
 八重歯のように尖った言葉の牙がちらりと窺えた。
 
 
 警部はハンチングを右手で整え、兄者のほうを見た。
 兄者は、少し状況を飲みこめていない様子だ。
 
(´・ω・`) 「さて、兄者くん」
 
(´・ω・`) 「どうだい、気分は」
 
.

56名無しさん :2018/11/05(月) 21:34:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「え、なんて」
 
(´・ω・`) 「滝の目の前にきて、気分はどうだい」
 
( ´_ゝ`) 「ここで、本当にミセリが死んだッてのなら、すこぶる悪いぜ」
 
 警部の隠し持っている思惑のナイフに、まだ気づいていない様子だった。
 警部を知る者が見れば、これから彼が何をしでかすかは一目でわかる。
 まさか、という気持ちに、思わず全身の筋肉が固まってくる心地がした。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、聞き方を変えよう」
         、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「崖の前に立って……気分はどうだい?」
 
 
( <●><●>) 「…ッ」
 
( ´_ゝ`) 「え?」
 
(´・ω・`) 「………今からする話に、物的証拠は、一切ない」
 
(´・ω・`) 「だから、反論があったら、いくらでもしてくれていいぜ」
 
( ´_ゝ`) 「何の話でござんしょう」
 
.

57名無しさん :2018/11/05(月) 21:35:19 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「あんた、貞子を突き落としたな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.
59名無しさん :2018/11/05(月) 21:35:53 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
                                   |.  \    /. i
                                   |   ヽ /   ノ
                                  !     `ー‐- '、
                                  |           .、
                                 l            !
                               r---ゝ           !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                                l  :::::::::::::::゙ 、     _| n
    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
                              く  l  lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
       第九幕   「 偽りを捕まえろ 」      '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
                                ` ..‐,,..、 丶、  冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
                             ,'  /´      ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                            | l   ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
                            ¦ !   ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
                             Y    ;:::::::::│ /   `――\/::::|
                             l     ,,;:::::::::l /    :::::::::'、:;:;、;;|
                            /  ,,;;::::::::::::::://        l:::::::l
 
.

60名無しさん :2018/11/05(月) 21:36:28 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`)
 
 自分は、流石兄者という男を詳しくは知らない。
 ただ、口が達者で飄々たる言動が目立つものの、
 その実思慮深く、大層な肝っ玉の持ち主である、という程度だ。
 
 しかしそんな兄者が、露骨に硬直した。
 呼吸が大きくなるでもない、目を見開くでもない。
 ただ、何を言われたかよくわかっていない、といった具合だった。
 
( ´_ゝ`)
 
( ´_ゝ`) 「……刑事さん」
 
 声色こそ変わらないが、言葉の出だしが多少揺れている。
 言われたのが誰であろうとも、
 いきなり告発されてしまえば、誰だってそれ相応の動揺はする。
 
 物的証拠がないと言っておきながら、どうして急に。
 警部なりの探りなのかもしれないが、それにしては劇薬すぎないか。
 
 
( ´_ゝ`) 「え、いま、なんて言いました」
 
(´・ω・`) 「十年前、アルプス山脈で」
 
(´・ω・`) 「貞子を突き落としたのはあんただな、ッて聞いてんだ」
 
.

61名無しさん :2018/11/05(月) 21:37:46 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「どうして急に」
 
( ´_ゝ`) 「なにか、あったんスか」
 
 動揺からなる硬直が一転、言葉にわずかな怒りが汲み取られた。
 図星だからか、的外れだからか、どちらにせよその興奮は正当なものだ。
 
 しかし警部は、一切動じない。
 兄者の反応そのすべてを、初めからわかっているかのようである。
 
(´・ω・`) 「なにも、ない」
 
(´・ω・`) 「これからの話に、証拠ッつー証拠はないんだ」
 
( ´_ゝ`) 「ふざけてんのか」
 
 兄者が眉間に皺を寄せる。
 それまでに何度か見せたおどけた様子が、嘘だったかのように。
 
 
(´・ω・`) 「きみから、当時の話、詳しく聞いたけどね」
 
( ´_ゝ`) 「変なところでもあったのか」
 
(´・ω・`) 「なさすぎたんだ」
 
.

62名無しさん :2018/11/05(月) 21:38:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「当たり前だ」
 
( ´_ゝ`) 「多少記憶が怪しい部分があるとは言え」
 
( ´_ゝ`) 「本当のことしか言ってないんだから」
 
 有無山を選んだこと。
 紅葉狩りを提案したこと。
 
 コテージについてから、食事し、カメラを落とし。
 室内で遊び、騒ぎ、寝て、起きて、外に出て、貞子を目撃して。
 そこに問題があれば、既に十年前の警官が炙り出しているはずである。
 
 
(´・ω・`) 「本当のことしか言ってないんだな?」
 
( ´_ゝ`) 「なッ…」
 
 これが、警部の話術だ。
 警部がこれからどんな手筋で兄者を詰めるのかは、予想すらできない。
 
 ただ、これが、警部の話術だった。
 
.

63名無しさん :2018/11/05(月) 21:39:15 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 兄者がほんとうに犯人だったとして。
 だとすると、それまでに彼が証言してきたことには、偽りが混じっている。
                  、 、 、、
 言い換えれば、兄者が用意した話だ。
 そしてそれが十年もの間通用してきた以上、
 確かにその証言に怪しいところはなさすぎるし、それを兄者も理解している。
 
 そんななか、怪しいところがないと言うと、
 容疑がかかっている兄者は、もちろんだと応答するだろう。
 ほんとうのこと、に見せかけた、話をしてきたのだから。
 
 
 警部が欲しかったのは、その言質だ。
 それまでの証言と変わってくるのは、記憶の曖昧性だ。
 この言質を取ることで、これから兄者がする反証に、曖昧性は許されなくなってしまうのだ。
 警部の推理を裏づけする何かが出てくるたびに、兄者の情勢は、不利になってしまう。
 
 
( ´_ゝ`) 「……俺ができる話は、すべて話してきたつもりだ」
 
( ´_ゝ`) 「これ以上、なにが聞きたい」
 
 しかし。
 もし本当に、兄者が犯人だったなら、の話だが。
 
          、
(´・ω・`) 「霧だ」
 
.

64名無しさん :2018/11/05(月) 21:40:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「…!」
 
 霧、の話などあったか。
 おそらくは、有無山でした証言のことだろう。
 
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
 その証拠に、兄者が、言葉を詰まらせる。
 兄者の急所なのか。
 
 
(´・ω・`) 「全てがきれいにまとまりすぎていた、あんたの証言」
 
(´・ω・`) 「たった一つだけ、決定的に食い違っているところがあった」
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「十年前って、霧、出てた?」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「霧……ですか」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「あったような、なかったような」
  >
  >( ´_ゝ`) 「いや、特に」
  >
  >( ´_ゝ`) 「むしろ、あの時はカラッカラに晴れてたぜ」
  >
 
.

65名無しさん :2018/11/05(月) 21:40:51 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「記憶が……曖昧なんだ」
 
 想定されていた、曖昧という反論。
 これはむしろ、警部がとった言質が作用したといっていい。
 
 本当のことしか話していない。
 というところから連想される、曖昧という概念。
 だからこそ、主張の弱い部分を突かれると、つい、そう逃げたくなるのだ。
 
 これが、警部の、話術だった。
 
 
(´・ω・`) 「霧以外の証言に対してなら、わかる」
 
(´・ω・`) 「ただ、霧に関しては、曖昧だからッてのは通らないんだ」
 
( ´_ゝ`) 「どうしてだ。 仕方ないだろう、曖昧なのは」
 
 言い切る前に、警部が返した。
 
 
(´・ω・`) 「そもそも!」
 
( ´_ゝ`) 「…ッ」
 
 兄者が怯む。
 
.

66名無しさん :2018/11/05(月) 21:41:20 ID:h25gk5nA0
 
 
                     、 、 、 、、 、 、 、、、
(´・ω・`) 「霧の問題は、貞子が見えたかどうか、だ!」
 
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
  >
  >( ´_ゝ`) 「なんだって?」
  >
  >( ´_ゝ`) 「俺は確かに見たぜ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「………この下に落ちてた貞子を、ハッキリと」
  >
 
 
          、 、 、 、、 、 、 、、
(´・ω・`) 「実際見えたんだろう!?」
                  、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、 、、
(´・ω・`) 「だったら、どうして記憶が曖昧だった可能性を認めるんだ!」
 
 
 →ttps://www.youtube.com/watch?v=Rr9AVYDEeMQ
 
.

67名無しさん :2018/11/05(月) 21:42:04 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「  ッ!」
 
 
 崖下。 転落。 貞子。 霧。
 ピースが、揃った。
 
 兄者は第一発見者だ。
 すなわち、崖下に横たわる貞子を目撃した。
 
 しかし、当時霧がかかっていたのだろう。
 それを指摘され、しかし兄者は否定した。
 
 
 この場合、記憶が曖昧だと言って引くのは、あり得ない。
 当時見えた以上、間違いなく、少なくとも現場に霧はなかったのだ。
 
 
(´・ω・`) 「崖下で倒れている人影が、理屈なしに貞子だと感じた」
 
(´・ω・`) 「それは、認められる」
 
 
(´・ω・`) 「偶然崖下に目をやったのも、この際考えられなくはないとして」
 
(´・ω・`) 「第一発見者になるのも、不自然ではない」
 
.
68名無しさん :2018/11/05(月) 21:42:26 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「でもな!」
 
(´・ω・`) 「それら証言の、すべては!」
 
(´・ω・`) 「霧がないのが前提で成り立っている!」
 
 
(´・ω・`) 「あんたは、是が非でも、記憶が曖昧でも、霧だけは認めるわけがないんだ!」
 
 
( ;´_ゝ`) 「あ、曖昧だってのは、前後込みの話だ!」
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「まして霧が濃かった、車を出して遭難なんてしてられんしな」
  >
  >(´・ω・`) 「……ん?」
  >
  > いま、妙なことを言ったな。
  > そう思ったのと同時に、イナリちゃんが既に口を切っていた。
  >
  >イ(゚、ナリ从 「霧は、出ていたのですね?」
  >
  >( ´_ゝ`) 「え?」
  >
 
 
.

69名無しさん :2018/11/05(月) 21:43:34 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「ああ、そうさ、いま断言してやろう」
 
( ´_ゝ`) 「俺が貞子を目撃した瞬間は、確かに霧なんてなかった!」
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「まさか、証拠もなしに、言葉のあやだけをつついて」
 
( ´_ゝ`) 「それで、人を犯人呼ばわりするつもりか?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 攻防一転。
 兄者が強気に出る。
 警部は、一瞬の勢いを消し、黙って兄者を見つめている。
 
 しかし、伝わる。
 これは決して、警部が負けを認めたわけではない。
 
 伝わってくるのだ。
 警部は、踊りだしたくなるくらい嬉しいことがあっても。
 それが、嬉しければ嬉しいほどに。
 
 
(´・ω・`) 「……捕まえたぜ」
 
 それを表に出そうとはしなくなるのだ。
 
.

70名無しさん :2018/11/05(月) 21:43:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;´_ゝ`) 「…!」
 
(´・ω・`) 「もし無実なら」
 
(´・ω・`) 「デミタスだろうがミセリだろうが」
 
(´・ω・`) 「もし本当に、第一発見者にして無実だったら」
 
 
(´・ω・`) 「絶対に、真っ先にする反論が、あるんだ」
 
 
 全身から沸き立ってくる、悪寒。
 警部の追究は、究極的なまでに論理的なのだ。
 そこに、感情論、小手先は存在しない。
 
 犯人を震え上がらせる、決定的で致命的な武器が、感じられる。
 懐に、亡霊がごとき見えないナイフを忍ばせているのが、わかる。
 
 
(´・ω・`) 「これはな、兄者」
 
(´・ω・`) 「目撃証言が作り話だから起こってしまう、矛盾なんだ」
 
( ;´_ゝ`) 「矛盾……だと?」
 
.

71名無しさん :2018/11/05(月) 21:44:38 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……正直なところ、ホッとしたよ」
 
(´・ω・`) 「もしその、本来ならできる反論をされたら」
 
(´・ω・`) 「僕は、無実の罪を着せちまうところだったんだ」
 
( ;´_ゝ`) 「………もったいぶるもんじゃありませんぜ、旦那」
 
 兄者が、警部の気迫に圧されている。
 彼も、形こそ見えないものの、感じたのだろう。
 一突きで死に至らしめかねない、亡霊のナイフを。
 
 
(´・ω・`) 「振り返ろうや、兄者」
 
(´・ω・`) 「あんたは、崖下の貞子を目撃した……」
 
( ´_ゝ`) 「その時に霧はなかった」
 
( ´_ゝ`) 「気象データがなんだ。 確かに、俺は貞子を見たんだ」
 
 
(´・ω・`) 「もう一人、それを証言できるやつがいるだろう?」
 
( ´_ゝ`) 「なに?」
 
.

72名無しさん :2018/11/05(月) 21:45:30 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「ヒッキー小森だ!」
 
( ´_ゝ`) 「……?」
 
 
 
( ; ゚_ゝ) 「ッッ!」
 
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「では、その後の行動は」
  >
  >( ´_ゝ`) 「なんか、こう、なんなんだろうな」
  >
  >( ´_ゝ`) 「とにかく、ヒッキーを呼んだ」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「ヒッキー……ヒッキー小森ですね」
  >
  >
  >( ´_ゝ`) 「で、見せた」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「見せた」
  >
 
 
(´・ω・`) 「目撃直後に、ヒッキーも崖下を覗いている!」
 
(´・ω・`) 「条件が同じなら、やつにも同じ証言ができたはずだ!!」
 
.

73名無しさん :2018/11/05(月) 21:46:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ; ゚_ゝ`) 「奴は……奴は!」
 
(´・ω・`) 「殺されてしまったからできない……か?」
 
( ;´_ゝ`) 「俺が殺したわけじゃないが……死人に口なしッ!」
 
( ;´_ゝ`) 「できねえんだよ! ヒッキーを頼っての証言は!」
 
 
(´・ω・`) 「バカ言え」
 
(´・ω・`) 「ヒッキーに限らず、六人の人間が既に、十年前に証言をしている」
          、 、
(´・ω・`) 「取調でな!」
 
( ;´_ゝ`) 「!」
 
 
( ;´_ゝ`) 「あったのか? 霧がかかっていなかった証言は!」
             、 、、 、 、
(´・ω・`) 「かかっていなかった……?」
 
( ;:::_ゝ::) 「!」
 
.

74名無しさん :2018/11/05(月) 21:47:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 十年前の一件。
 それが当時事故として処理されていようが、
 それを事故と処理するために、警官は関係者を個別に取調している。
 
 まして、目撃者に関しては、その状況を事細かに尋ねられる。
 そこで、被害者が見えたかどうかなんて証言、聞き漏らすわけがない。
 
 
(´・ω・`) 「……あんたが、あの子に霧のことを言われた時点で」
 
(´・ω・`) 「真っ先に言えたはずなんだ!」
 
         、 、 、 、、  、 、、 、 、 、 、、 、、 、 、 、、
(´・ω・`) 「調書を見ろ。 ヒッキーも証言しているはずだ……ッてな!」
 
( ;´_ゝ`) 「………」
 
( ;´_ゝ`) 「それは、あんたが慣れてる刑事だからそう思えんだ」
 
 
 
( ;´_ゝ`) 「俺は、ただでさえ十年前の事件を回想してる身だぞ!」
 
( ;´_ゝ`) 「すぐにそんなこと、思い出せるわけがない!」
 
.

75名無しさん :2018/11/05(月) 21:48:00 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「違うね」
 
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 自分は、警部が兄者からどんな話を聞いたかはわからない。
 本来なら、この場に不釣り合いな人間だ。
 
 しかし。       、 、 、、
 それでも、警部はこのことを見越して、自分を呼び寄せた。
 
 
 裏を返せば。
 部外者の自分でもできる反論を、期待しているのだ。
 
 
 
( <●><●>) 「警部の言い分では、当時崖に、霧は、かかっていた」
 
( <●><●>) 「とすると、明らかにおかしい点があります」
 
(´・ω・`) 「言ってみろ」
 
.

76名無しさん :2018/11/05(月) 21:48:33 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「目撃証言に矛盾が存在しない点です」
 
( ;´_ゝ`) 「!」
 
( <●><●>) 「もし、霧で下が見えない状況で、貞子を突き落としたとします」
 
( <●><●>) 「崖の高さは、兄者は身をもって知っている」
 
 
( <●><●>) 「……貞子に大量出血が見られなかったことを、兄者は証言できている」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「こう……理屈じゃなく、貞子が死んでいた、ッて感じたんだ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「血だまりとかもなかったし、なおのこと……理屈じゃなかったと思う」
  >
 
 
( <●><●>) 「崖からの転落だ、出血を疑うのは当然です」
 
( <●><●>) 「そして、事件後も霧があったのは、兄者も認めている」
 
( <●><●>) 「他方、のちの取調で、当然貞子の様子についても聞かれる」
 
.

77名無しさん :2018/11/05(月) 21:49:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「………血だまりの有無答えられないようでは、当然、怪しまれるのです」
 
( <●><●>) 「しかし、十年前そういった食い違いや猜疑心はなかった」
 
( <●><●>) 「兄者は正確に、崖下の貞子の状況を、証言できたのです」
 
 
(´・ω・`) 「助かったぜ、ワカッテマス」
 
( <●><●>) 「……!」
 
 警部が、鋭い笑みを浮かべた。
 これがもし、警部を不利に追いやる指摘だったら、と思ったのだが。
 
 突き落とした時も、その後も、霧は晴れなかった。
 とすると、どう足掻いても、その後の取調から逃れられないはずなのに。
 
 
(´・ω・`) 「兄者は、こう見えて肝心なことに関しては口数が少ない」
 
(´・ω・`) 「ほんとうは、兄者から、その反論が欲しかったんだがな」
 
( ;´_ゝ`) 「………どういうことだ」
 
.

78名無しさん :2018/11/05(月) 21:49:26 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「おそらくは、な」
 
(´・ω・`) 「霧は、ほんとうに、晴れてたんだよ」
 
( ;´_ゝ`)「なッ!」
 
( <●><●>) 「……どういうことでしょうか?」
 
 
(´・ω・`) 「朝方に、霧はあったのか」
 
(´・ω・`) 「それは、十年の歳月が、炙り出してくれた」
 
(´・ω・`) 「十年前だとわからなかった、真実」
 
 
(´・ω・`) 「……霧は、本当にかかっていたんだ」
 
( <●><●>) 「!」
 
 そういうことか。
 霧がかかっていた現場と、霧がかかっていれば成しえない整合性。
 この矛盾を解決する状況こそが、次の一手。
 
 これには、兄者による巧みな嘘が隠されている。
 それを暴くことで、次の矛盾が顔を出す。
 
 そして最終的に浮かび上がる、矛盾ではあるが偽りでない点。
 それこそが、警部の言う、事件を解く、鍵なのだ。
 
.

79名無しさん :2018/11/05(月) 21:49:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「それ以降も晴れていなかった」
 
(´・ω・`) 「となると次の疑問が出てくるよな?」
                、 、
(´・ω・`) 「……兄者は、いつ、崖下の貞子を見たのか」
 
 
(´・ω・`) 「それは、夜だ!」
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
  >                、 、
  >イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
  >
 
                           、 、
(´・ω・`) 「霧が発生していたのは、朝方なんだからな!」
 
 
.

80名無しさん :2018/11/05(月) 21:50:19 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「ッ!!」
 
(´・ω・`) 「次の矛盾は……わかりやすいね」
 
(´・ω・`) 「兄者くん」
 
 
(´・ω・`) 「どうしてあんたは」
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「事件発覚は、いつですか?」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「また、その、第一発見者」
  >           、 、
  >( ´_ゝ`) 「朝方……としか言えないな」
  >
  >( ´_ゝ`) 「具体的に何時か、はわからないですね」
  >
 
          、 、
(´・ω・`) 「朝方に目撃したッつー嘘をついたんだ?」
 
 
.

81名無しさん :2018/11/05(月) 21:50:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「…………」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 本来、暗い夜より、明るい朝のほうが、目撃できる可能性が高い。
 しかし、明るい朝に目撃はできず、暗い夜でなければ目撃できなかった。
 
 ただ、チラッと見ただけでは、見落とすであろう。
 理由がなければ、もちろん見つけることは難しい。
 
(´・ω・`) 「たったひとつ」
 
(´・ω・`) 「………簡単なロジックだ」
 
 
(´・ω・`) 「犯人が貞子を突き落としたのが、太陽が昇る前、だからだ」
 
( ;:::_ゝ::) 「……」
 
 
(´・ω・`) 「さあ、次の矛盾」
 
(´・ω・`) 「どうして、夜暗いなか、気まぐれにチラッと崖下を見ただけで、」
 
(´・ω・`) 「貞子の転落を一瞬で見つけることができた?」
 
.

82名無しさん :2018/11/05(月) 21:51:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「……」
 
(´・ω・`) 「………ひとつしか、ない」
 
         、、 、、 、 、 、
(´・ω・`) 「知っていたから、なんだ」
 
 
 兄者が、猫背になっていく。
 両手で全身を覆うように、前で交差させる。
 
 
(´・ω・`) 「では、最後の矛盾」
 
(´・ω・`) 「どうして、夜、予兆もなしに」
 
(´・ω・`) 「貞子が、崖下に転落していたのを、知っていた?」
 
 
 
 
(´・ω・`) 「………自分が、突き落としたからだ」
 
 
.

83名無しさん :2018/11/05(月) 21:51:22 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「    ッ  」
 
 兄者が目を見開く。
 警部の顔は見ていない。
 
 明後日の方角に向いている。
 その眼には、十年前の景色が、フラッシュバックしているように見えた。
 
 
 暗い崖。
 崖側に貞子がいる。
 
 勢い。
 手に感触。
 
 崖下に横たわる人物。
 服装は貞子と同じ。
 
 血だまりはできていない。
 霧は発生していない。
 
 貞子は動かない。
 
 
.

84名無しさん :2018/11/05(月) 21:51:46 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「        あああああああああああああああああッッ!!!」
 
 翌朝。
 第一発見者。
 
 霧が発生している。
 しかし兄者はそれを証言できなかった。
 
 夜の記憶を頼りに目撃証言を紡いだからだ。
 当時、朝方の霧を証言したのは気象データのみだった。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 
 夜に霧はなかった。
 雨も降っていない。
 
 夜の情景をそのまま話せば証言は成立していた。
 本当に見ていなければできない証言だった。
 だから警官は、あの時あの場所にはたまたま霧がなかったものだと判断した。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ああッ!! ああああああああああああああああああッ!!!」
 
 
 兄者は幸か不幸か、カメラを落としていた。
 崖下に落としたそれを前日中に覗き込んでいた。
 崖下を覗く、という行為に疑いは感じられなかった。
 
.

85名無しさん :2018/11/05(月) 21:52:10 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 なにも食い違いの存在しない真実。
 
( <●><●>) 「……」
 
 兄者が貞子を目撃したのは夜のことだった。
 
( <●><●>) 「……」
 
( <●><●>)
 
 
 全身に走る悪寒。
 
 
( <●><●>) 「!」
 
(;<●><●>) 「ちょっと待ってください!」
 
(´・ω・`) 「どうした」
 
 
 警部が自分を呼んだ、本当の理由がわかった。
 情報を知らない第三者に、見つけてもらいたかったのだ。
 
 ほんとうの矛盾を。
 
.

86名無しさん :2018/11/05(月) 21:52:35 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「致命的な矛盾がひとつ、浮き彫りになりました!」
 
(´・ω・`) 「なに……?」
 
 
                           、
(;<●><●>) 「兄者が貞子を目撃したのは夜……」
                            、
(;<●><●>) 「霧のかかっていなかった……夜!」
 
(;<●><●>) 「だとすると、おかしい点が存在する!」
 
(´・ω・`) 「なッ…」
 
 
 警部が少し体勢を崩す。
 
 
 
( <●><●>) 「ヒッキー小森の目撃証言ですよ!」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
.

87名無しさん :2018/11/05(月) 21:53:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「兄者はヒッキーに、崖下を見せた……」
 
(;<●><●>) 「それが本当だろうが嘘だろうが、矛盾が発生します!」
 
 
                    、 、、 、
(;<●><●>) 「ヒッキーは朝にしか崖下を見ていないんですよ!」
                           、 、、 、
(;<●><●>) 「霧が発生していた、朝にしか!」
 
 
(´・ω・`) 「     ッ」
 
(´・ω・`) 「ま、待て……整理させろ」
 
 兄者は、巧みに、自然に作り話をでっち上げられる。
 そのなかのひとつ。
 警部がロジックの展開にも添えた、要素。
 
 現時点で、ふたつの揺るぎない真実がある。
 兄者は、貞子を目撃して、ヒッキーにも見せた。
 貞子の目撃は、夜にしかできなかった。
 
.

88名無しさん :2018/11/05(月) 21:53:46 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ポイントは、兄者の作り話こそが真実として処理されている点だ。
 兄者の語った、騙った真実のうち、見るべきはふたつ。
 
 目撃は 「朝」 。
 霧は 「なかった」 。
 
 話をでっち上げた兄者本人はともかく。
 第三者のヒッキーが貞子の目撃を証言するとなると、
 朝だろうが夜だろうが、霧があろうがなかろうが、必ず矛盾が発生する。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(;´・ω・`) 「     ……ッ  ……!」
 
 警部が、考える。
 果たして、取るに足りない食い違いなのか。
 ロジックを再構築して、エラーがないかを、考え直す。
 
(;´・ω・`) 「………」
 
(;´゚ω゚`) 「……! ッ!」
 
 
.

89名無しさん :2018/11/05(月) 21:54:18 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 どう整理しても説明がつかない。
 警部が、ちいさな声で言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

90名無しさん :2018/11/05(月) 21:54:38 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「      ッ       ……ッ!!」
 
(;´・ω・`) 「兄者!」
 
 兄者は放心状態だった。
 思わず胸ぐらを揺すって問いかける。
 
 
(;´・ω・`) 「どういうことか説明しろ!」
 
(;´・ω・`) 「ヒッキーに、崖下は、見せていたのか!?」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「そッ   そうだよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が!俺が!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が、貞子を、突き落としちまったんだよ!!」
 
 
(;´・ω・`) 「違う!!落ち着け!!」
 
(;´・ω・`) 「聞きたいのはそのことじゃない!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が突き落とああああああああああああああああああああ!!!」
 
.

91名無しさん :2018/11/05(月) 21:54:59 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 兄者が貞子を突き落としたのは、真実だったようだ。
 この暴れようを見る限り、間違いないだろう。
 
 しかし、それだと。
 どうしても、ヒッキーの存在が噛み合わない。
 
 実際の調書は今、手元にない。
 ないが、イナリちゃんが調書をチェックしながら、兄者の話を聞いていた。
 
 
 ヒッキーの目撃証言は、確かにあったんだ。
 でなければ、兄者がヒッキーの下りを話した時に、突っ込んでいる。
 
(;´・ω・`) 「落ち着け!!」
 
(;´・ω・`) 「聞いてんのか兄者!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「  ッるせえよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「そうだよ!!認めるよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「貞子が蘇って俺らを抹殺してンのは!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「部長たるこの俺を徹底的に殺すためなんだよ!!!」
 
.

92名無しさん :2018/11/05(月) 21:55:19 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「……警部!」
 
 兄者がいよいよ暴力的になった。
 その瞬間ワカッテマスが加勢し、兄者を一緒に止めた。
 
 すぐに暴行に出そうな動きはしなくなったが、
 それでも興奮状態は一切緩和されていない。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者!」
 
(;<●><●>) 「鍵が……すぐそこにあるのでは?」
 
(;´・ω・`) 「なに?」
 
 鍵。
 鍵だと。
 なんの話を言っている。
 
 
(;<●><●>) 「矛盾ではあるが……偽りでない点」
 
(;<●><●>) 「それが事件を解く……鍵となる!」
 
.

93名無しさん :2018/11/05(月) 21:56:51 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「警部の教えですよ!」
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 
 僕は、偽りを見抜く刑事だ。
 ワカッテマスにも、イナリちゃんにも、ぎょろ目にも、教えている。
 
 偽りを見抜くプロセス。
 見抜く理由、そしてその先に待っているもの。
 
 
( <●><●>) 「兄者の嘘はすべて引っぺがした」
 
( <●><●>) 「残るは、鍵のかかった扉だけです!」
 
 
 矛盾ではあるが偽りでない点、それが事件を解く鍵とある。
 なぜなら、偽りを暴いた結果矛盾がなければ、それがすべて。
 犯人が故意に偽ったものを暴けば、事件は解決する。
 
 しかし。
 それでもなお、矛盾が残る場合。
 真相は、まだ見えないところに眠っていることになるのだ。
 
.

94名無しさん :2018/11/05(月) 21:57:22 ID:h25gk5nA0
 
 
                         、 、
( <●><●>) 「十年前の事故は、事件だった」
           、 、
( <●><●>) 「兄者が、貞子を突き落とした犯人だった」
                              、
( <●><●>) 「兄者が貞子を目撃したのは夜」
                         、 、 、
( <●><●>) 「貞子を突き落としたその時に目撃した」
 
 
( <●><●>) 「新事実のこれらの、どこかに」
 
( <●><●>) 「兄者の知らない、嘘」
 
( <●><●>) 「事件の真相が書き足した、偽りが眠っているんです」
 
(´・ω・`) 「……!」
  
 事件の真相が書き足した、偽りか。
 
 十年前の事件。
 犯人は兄者。
 夜にしか目撃できなかった。
 兄者は突き落とした時に目撃した。
 
 ロジックが導き出した四つの新事実。
 まだ、偽りが残っている。
 
.

95名無しさん :2018/11/05(月) 21:59:52 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「でもなァ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「聞いてくれ   聞いてくれッ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「貞子を殺したかったわけじゃない!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「違うんだッ!!」
 
 犯人は兄者。
 彼の動揺を見るに、疑いようはない。
 果たして、ほんとうにそうだろうか。
 
 兄者は突き落とした時に目撃した。
 その時以外で、貞子を目撃できるタイミングなんてない。
 果たして、ほんとうにそうだろうか。
 
 
( <●><●>) 「殺意がなかったのは認められている!」
 
( <●><●>) 「突発的な事件だったことに疑いはないんだ!」
 
 殺意はなかった。
 突発的な事件だった。
 
 十年前に、一切の殺意はなかった。
 有無山の選択、紅葉狩りの提案、兄者の持込品。
 確かに、虫取り網をジョークで持ってくるような男に、計画性はなかったはずだ。
 
.

96名無しさん :2018/11/05(月) 22:00:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は貞子に相談を持ちかけられた!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「それも、あの夜、急に、だ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「だから俺は、夜、崖で二人きりで会ったんだ!」
 
 兄者が貞子を突き落としたのは突発的だった。
 それは疑いようのない事実だろう。
 
 しかし。
 それでも、出てくる要素そのすべてに、猜疑心が芽生える。
 証拠のない今、その一つひとつを検討なんてできない。
 
( <●><●>) 「その結果、あなたに一瞬の衝動が走っただけ」
 
( <●><●>) 「それは、一切疑っていない!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「そもそも!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「突き落とそうと思ったわけですらない!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「貞子は、バランスを崩したんだ!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「落ちそうになったんだ!!」
 
.

97名無しさん :2018/11/05(月) 22:01:55 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 落ちそうになった?
 待て。
 そもそも、突発的な殺意で突き落としたわけでもなかったのか?
 
 
( <●><●>) 「…!」
                   、 、 、、
( <●><●>) 「では、貞子を、助けようと思って……?」
        、 、
( ::;゚_ゝ::) 「俺は落ちそうになって、思わず手を……」
 
(;´・ω・`) 「!?」
 
( <●><●>) 「俺、は?」
 
 
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
          、 、 、、 、、 、、
( <●><●>) 「落ちそうになったのは、あなたなのですか!?」
 
 
.

98名無しさん :2018/11/05(月) 22:03:25 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「気がついたら目の前に崖が……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ん……?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「違う……俺は……俺は?」
 
 見るからに、兄者が混乱している。
 焦点があっていない。
 視線が、妙な方向に向かっている。
 
 夜。
 崖を舞台に選んだのは、単に夜ながらにして景色がよかったからだろう。
 吹き込んでくる風に風情を感じた、程度だろう。
 
 新たな問題は位置関係だ。
 兄者が貞子を突き落としてしまった、十年前の構図。
 
               、 、 、 、 、 、 、、 、 、、
 どうしてそこで、崖側の人間が誰だったかを混乱する?
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「落ち着いて聞いてくれ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺はいま、混乱している」
 
( <●><●>) 「わかっています」
 
( <●><●>) 「……深呼吸して、教えてください」
 
.

99名無しさん :2018/11/05(月) 22:03:50 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「結果として、俺は貞子を崖下に突き落としてしまった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「でも、決して、殺意なんてものは徹頭徹尾、なかった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「だがなァ、そんなもの信じてもらえねえだろう」
 
 兄者が流暢に語る。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「事故には違いなかったんだ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「だから俺は、俺は逃げた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ほんとうのことは証言しないで、」
 
 言葉の節々に、恐怖が感じられる。
 
.

100名無しさん :2018/11/05(月) 22:04:11 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「なるべく、事故、そう、事故だ、」
 
( ::;゚_ゝ::) 「事故として通るような、嘘の証言をした」
 
( ::;゚_ゝ::) 「確かに俺は逃げた!」
 
 兄者もわかっているのだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「それは認めるが、聞いてくれ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が貞子を実質的に押しちまったのはほんとうに事故」
 
( ::;゚_ゝ::) 「それで俺の人生が終わっちまうのは嫌だったんだ!」
 
 自分こそが、亡霊の真のターゲットであることに。
 
.

   
101名無しさん :2018/11/05(月) 22:06:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 言葉の節々に、感じられる。
 ほんとうに、兄者に殺意はなくて。
 貞子を突き落としてしまったのも、ほんとうに偶然。
 
 十年前の事件は、
 しかしほんとうに事故でもあった。
 
(´・ω・`) 「……」
 
 だと言うのに。
 なんだ、この、心臓を逆撫でするような、気持ちの悪い違和感は。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ただ、俺の昔からの癖だが」
 
( ::;゚_ゝ::) 「嘘を話しているうちに、嘘を演じているうちに、」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ほんとうは実際どうだったのかを忘れる節があるんだ」
 
 それは、既に何度か見られている。
 兄者は、自然のうちに嘘をつき、自分でさえそれに騙される傾向があった。
 
 ミセリとクックルの件なんかがそれだ。
 本当はクックルから交際の相談をされていたにも関わらず、
 それを周囲に隠そうとするあまり、自分ですら忘れてしまっていた。
 
.

102名無しさん :2018/11/05(月) 22:06:47 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……まだ、あるんだ」
 
 冷静に、事実だけを取り出して考えれば、
 本来なら気づけるはずの、食い違い、相違。
 
 兄者は、それを自分で見つめなおすことができない男だ。
 だからこそ、新しい四つの事実に偽りが現れた。
 
 
 十年間閉じられたままだった、開かずの扉。
 そいつを開く鍵は、どこにある。
 
 
( <●><●>) 「それは十分わかりました」
 
( <●><●>) 「……十年前」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ッ!」
 
 露骨に震え上がる。
 十年もの間、自分を包み込んでくれていた偽りが剥がれたのだ。
 
 いま、自分を守ってくれる鎧はない。
 鎧に慣れ、鎧があることすら忘れてしまった兄者は、この上なく弱っていた。
 
.

103名無しさん :2018/11/05(月) 22:07:43 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「あなたは、朝に貞子を目撃した、と言った」
 
( <●><●>) 「またそれを、ヒッキー小森にも見せた」
 
( <●><●>) 「……合っていますか?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「そうだ」
 
( <●><●>) 「しかし、本当は違う」
 
( <●><●>) 「あなたは、夜、突き落としたその時に見た」
 
 
( <●><●>) 「……となると」
 
( <●><●>) 「貞子をヒッキーに見せたのも、その直後」
 
( <●><●>) 「そうなるのですか?」
 
 
 ワカッテマスの想像以上の察しのよさは、嬉しい誤算だった。
 僕が語るロジックの脆弱性を突いてもらえればそれでよかったのだが、
 それ以上に、僕と兄者が断片的に出す情報をくみ上げ、
 十年前の幻を、この上ない再現度で理解し、落とし込んでいる。
 
.

104名無しさん :2018/11/05(月) 22:08:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ヒッキー?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は朝に突き落として、直後に呼んだだけだが?」
 
( <●><●>) 「……」
 
 僕は、いままで多くの偽りを見抜いてきた。
 しかし。
 自身が放つ偽りに、そのまま飲みこまれる人はそういなかった。
 
 兄者は、ほんとうに、偽りに操られているのだ。
 偽りの鎧を、脱ぎきれてないでいる。
 もう鎧は脱がされているのに、まだ装甲を纏っている心地になっている。
 
 
( <●><●>) 「落ち着いてください!」
 
( <●><●>) 「あなたは、夜に貞子を突き落としたんだ」
 
( <●><●>) 「ヒッキーは、夜、貞子を見たのですか?」
 
.

105名無しさん :2018/11/05(月) 22:10:08 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ん?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「夜? ヒッキー? 呼んだ?」
 
( ::;゚_ゝ::)
 
 偽りは、あくまで人が為すものだ。
 間違えても、偽りに操られてしまっては、いけないのに。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「どういうことだよ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「わかんねえよおおおおおおおおおお!!」
 
 
 ポケットの電話に手を伸ばす。
 
(´・ω・`) 「僕だ!」
 
( <●><●>) 「!」
 
(´・ω・`) 「至急、十年前の事故のファイルを見てほしい!」
 
 電話はワンコールで繋がった。
 アルプス県警捜査一課警部、
 三月イナリは一切の事情を問うことなく応じてくれた。
 
.

106名無しさん :2018/11/05(月) 22:10:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「要点はただひとつ!」
 
(´・ω・`) 「十年前の、ヒッキー小森の目撃証言だ!」
 
 ページの繰る音に続けて、流れるように話される。
 
 時間帯は 「朝」 。
 兄者に 「呼ばれて」 現場を目撃。
 貞子の状況と目撃証言が 「一致」 している。
 
 
(´・ω・`) 「なッ……」
 
 それってつまり。
 兄者が着続けてきた鎧と、まったく同じ。
 ヒッキーもまた、偽りの鎧をまとっていた。
 
 どういうことだ。
 兄者と口裏を合わせたのか。
 しかし、果たしてそんなことが、できるのか。
 
.

107名無しさん :2018/11/05(月) 22:12:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「了解、切るぞ!」
 
( <●><●>) 「どうでしたか」
 
 間髪入れずにワカッテマスが聞く。
 
(´・ω・`) 「……偽りだ」
 
( <●><●>) 「…!」
 
 
(´・ω・`) 「十年前の兄者の目撃証言と、一緒」
 
(´・ω・`) 「朝、崖下の貞子の様子を証言できている」
 
(;<●><●>) 「し、しかし!」
 
 わかっている。
 わかっているから、惑っているんだ。
 
 
(´・ω・`) 「兄者!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ンあァ!?」
 
.

108名無しさん :2018/11/05(月) 22:13:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「十年前!」
 
 十年前の時点では、兄者と同じ証言をするのは理に適っていた。
 しかし十年経った今、状況はまったく異なる。
 兄者と同じ証言をできてしまっていては、矛盾が生じるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「いつヒッキーを呼びだして、何を言った!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「もうわかんねえよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「何がほんとうのことか、わかんねえンだ!!」
 
 別にヒッキーを擁護しているわけでもなさそうだ。
 完全に偽りに支配され、自分がわからなくなってしまっている。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、確実なことだけを、話せ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「確実なのは、ヒッキーはいいやつッてことだけだ!」
 
(´・ω・`) 「……、……」
 
 
(;´・ω・`) 「はあ?」
 
.
110名無しさん :2018/11/05(月) 22:16:26 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 勘弁してくれ。
 これ以上混乱されてしまうと、こっちまで混乱してしまう。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は夜に貞子を見て、コテージに戻った!」
          、、、 、 、 、、 、 、
( ::;゚_ゝ::) 「しょんべん行ってたヒッキーがな、出迎えてくれたんだ!」
 
(;´・ω・`) 「待て……」
 
(;´・ω・`) 「待て、待て」
 
 今まで一切出てこなかった情報が、次々出てくるぞ。
 もう一度、イナリちゃんにコールする。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺の汚れた服! 突き落とした時にできた怪我!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「   その全てを見れば!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「なにかあったのは気づけるはずなのに! 聞かないでくれた!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ただ一言、何かあったか、それだけ! それだけを聞いて!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は全てを話したよ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「あいつは俺をかばってくれた!」
 
.

111名無しさん :2018/11/05(月) 22:16:52 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「かばってくれたんだ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「額の傷だって、奴が、寝相が悪かったッて言ってくれたんだ!」
 
 なんとなく、状況は察しているのだろう。
 イナリちゃんの声が少し、低くなっていた。
 
(;´・ω・`) 「もう一度、調書の確認だ!」
 
(;´・ω・`) 「ヒッキーは、夜、起きていた!」
 
 イナリちゃんが驚いたような声を出す。
 
 
(;´・ω・`) 「   そんな証言、あったか!?」
 
 今度はページを繰る音もしない。
 イナリちゃんが即答した。
 いいえ。 ありません。
 
 
(;´・ω・`) 「    はァ!?」
 
.

112名無しさん :2018/11/05(月) 22:19:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 できるはずがない。
 夜に起きていたなら、どんな些細なことでも話すはずなのだ。
 でなければ、事実はどうであれ、疑われてしまうことになるのだから。
 
 事態は、サークル員の転落だぞ。
 取調で、夜の行動を聞かれて、ごまかすはずがない。
 
 
(;´・ω・`) 「………わかった! 切る!」
 
 ヒッキーはヒッキーで、何かしらの偽りをまとっていた。
 それは、何を意図してのことだ。
 
 
( <●><●>) 「それだけではありません!」
 
(´・ω・`) 「!」
 
( <●><●>) 「兄者はたった今、明らかに妙な発言をした」
 
                                、 、 、、、
( <●><●>) 「兄者は貞子を突き落とす時、怪我をした!」
 
( <●><●>) 「   ………これは、今までになかった証言です!」
 
.

113名無しさん :2018/11/05(月) 22:20:03 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 け。
 怪我。
 
 調書に、イナリちゃんの報告に、兄者の証言に。
 どこに、怪我なんて描写があった。
 
 兄者は、この期に及んでまだなにかを、偽っているというのか。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「一緒に有無山に来ていないのに」
 
(´・ω・`) 「よくわかったな、ワカッテマス」
           、 、 、、、
( <●><●>) 「犯人としてできた怪我、ということは」
 
( <●><●>) 「十年間、それは怪我たりえなかった、隠された情報にしかなり得ない」
 
 こいつをヴィップに残してきたのは、大正解だった。
 僕自身、アルプスに行ったせいで、偽りを偽りと気づけないよう支配されていた。
 
 信頼できる後ろ盾がある。
 あとは、もう一度、歩き出すだけ。
 
.

114名無しさん :2018/11/05(月) 22:22:33 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「兄者」
 
( ::;゚_ゝ::) 「…ッ」
 
(´・ω・`) 「あんたが貞子を突き落とした時のことを……」
 
(´・ω・`) 「正確に話してくれ」
 
 兄者がよろめく。
 偽りに支配され、混乱しきっている兄者が。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
 ふらふらしており、時折頭をさする。
 後頭部、前頭葉、続けて。
 額を、ゆっくり撫でた。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「………俺は、貞子を突き落とした」
 
.

115名無しさん :2018/11/05(月) 22:23:05 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「その時」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺も転んで、危うく、俺まで落ちかけた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「額を……強く打ったんだ」
 
 兄者も一緒に転んだ。
 危うく落ちかけた。
 額を強く打った。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「誰にも聞かれなかった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「サークルのみんなは誰も気づかなかったし」
 
( ::;゚_ゝ::) 「警官にも聞かれなかった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「   ………ただ、」
 
 
(´・ω・`) 「待て」
 
(´・ω・`) 「誰も気づかなかったことを、どうしてヒッキーが気づいた」
 
.

116名無しさん :2018/11/05(月) 22:25:07 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が夜中に、外から戻って来るところを見たからだ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「他の連中は、この傷は、寝相が悪かった程度にしか思わん」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ただ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ヒッキーだけは」
 
( ::;゚_ゝ::) 「この傷は夜、外でできたものだ、ッてわかる」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 冷静な思考能力は、戻りつつある。
 しかし、気を付けなければならない。
 どこに、無意識の偽りが眠っているかがわからないのだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「とにかく」
 
( ::;゚_ゝ::) 「転んだ拍子で俺は、崖下を見ていた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「見ようと思って見たわけじゃないんだ」
 
.

117名無しさん :2018/11/05(月) 22:26:51 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(´・ω・`)
 
(´・ω・`) 「?」
 
 じわり、と手汗がにじむ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「転んで、思わず目を瞑った」
 
( ::;゚_ゝ::) 「目を開くと、そこは崖下だった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「霧がなく、いやに月明かりがハッキリとしていた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「無防備な俺が見せられたのは、貞子の、転落したあとの姿だった」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「それが」
 
( ::;゚_ゝ::) 「あッ  まりにもトラウマすぎた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「い……今でも……夢に見る……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺……は…ッ  崖が……たまらなく苦手なんだ……ッ!!」
 
.

118名無しさん :2018/11/05(月) 22:27:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 動悸が、激しくなる。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者!」
 
(;´・ω・`) 「今からの僕の質問に、イエスかノーだけで答えろ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「がハ  ……ッ!」
 
 
 
(;´・ω・`) 「あんたは、貞子を突き飛ばした!」
 
 頷く。
 
(;´・ω・`) 「その弾みで、あんたも転んだ!」
 
 頷く。
 
(;´・ω・`) 「その時に、あんたは額を打った!」
 
 頷く。
 
(;´・ω・`) 「目を開くと、自分は崖下を見ていた!」
 
 頷く。
 
.

119名無しさん :2018/11/05(月) 22:28:11 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「ッ!!」
 
(´・ω・`) 「…………捕まえたぞ」
 
(´・ω・`) 「十年前の……事件ッ」
 
(´・ω・`) 「ほんとうの偽りを………!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「信じてくれ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「こればっかりは、本当にすべて、本当だ!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「トラウマなんだ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「目を開けた瞬間、崖下だぞ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「それだけでも怖かったのに、ましてッ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「自分が突き落とした貞子がその下に、横たわってるんだ!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「何を間違えても、あの光景だけは絶対間違わねえ!!」
 
.

120名無しさん :2018/11/05(月) 22:30:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
( ::;゚_ゝ::) 「何がおかしいんだよ!!」
 
 ゆっくり、兄者の後ろに立つ。
 硬直した兄者は、目でゆっくり僕を追う。
 
(´・ω・`) 「自分で言ってて、気づけないのか?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「なッ……」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!」
 
 そして、兄者を背中から押した。
 
 
 
(;<○><○>) 「ッ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「     」
 
 
.

121名無しさん :2018/11/05(月) 22:31:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 無防備で、更に硬直した兄者だ。
 背中から強めに押すだけで、兄者はうつ伏せになるように、倒れる。
 
 崖下には落ちない。
 体の前面から倒れ、地面に伏す。
 
 
(;<●><●>) 「     ナニしでかしてんですか!」
 
(;<●><●>) 「警部!」
 
 一瞬固まった兄者が、瞬時に起き上がる。
 鬼の形相で、僕に肉薄してきた。
 
( ::;゚_ゝ::) 「……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「てめえ……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「なんのつもりだ……?」
 
 
 
(´・ω・`) 「転んで、目を開いた時」
               、 、 、、
(´・ω・`) 「あんたは、地面しか、見えなかっただろ?」
 
.

122名無しさん :2018/11/05(月) 22:32:32 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「どういうこ……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「…………?」
 
(´・ω・`) 「転んだときに目を閉じるのは、当然だ」
 
(´・ω・`) 「転んで、額を打つのも仕方ないだろう」
 
 
 
(´・ω・`) 「だったら、よく考えてみろ!」
 
(´・ω・`) 「転んだ直後に開いた目で見える光景は、なんなのか!!」
 
 
 
                            、 、
(´・ω・`) 「それは、どう足掻いても、地面だ!!」
                、 、
(´・ω・`) 「間違えても、崖下なんて見れるわけがない!!」
 
(´・ω・`) 「だったら、どこで額を打ったッていうんだ!!」
 
.

123名無しさん :2018/11/05(月) 22:34:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!!!」
 
 立ち上がった兄者が、尻もちをついた。
 眼球がぎょろぎょろ動いている。
 十年前の情景を思い浮かべながら、目を回している。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ッどういうことだ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は間違いなく、貞子を見たんだぞ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「自分から見たわけでも、ないのに!!」
 
 
(´・ω・`) 「      ッ」
 
(´・ω・`) 「……そういう、ことか……」
 
 脳に電流が走った。
 たった今、十年前の事件の真相が、わかった。
 
 
 兄者は、まだひとつ、大きな誤解をしているんだ。
 
 
.

124名無しさん :2018/11/05(月) 22:35:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……兄者」
 
(´・ω・`) 「あんたは、多くの真実を偽ってきたがために」
 
(´・ω・`) 「本来の真実を、見失っちまっている」
 
( ::;゚_ゝ::) 「認めるよ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「認める!」
 
 
(´・ω・`) 「だから代わりに、この、僕が」
 
(´・ω・`) 「十年前の真実を、教えてやろう」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!?」
 
(;<●><●>) 「!?」
 
 
.

125名無しさん :2018/11/05(月) 22:36:48 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「……できるのですか、警部!」
 
(´・ω・`) 「と、言っても、大枠は兄者が話した通りだ」
 
 
(´・ω・`) 「あんたは、夜、崖で貞子と会った」
 
(´・ω・`) 「何かの弾みで、結果的に、貞子を突き飛ばすことになった」
 
(´・ω・`) 「その時、兄者もバランスを崩して転び、額を打った」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「だから、そう言って……」
 
(´・ω・`) 「違う!」
 
(´・ω・`) 「十年前のあの時、ほんとうは!」
 
 
 
(´・ω・`) 「貞子はまだ、崖下に転落してはいなかったんだ!!」
 
 
.

126名無しさん :2018/11/05(月) 22:40:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「どうしてだ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「実際、転落してるんだぞ!!」
 
(´・ω・`) 「……矛盾ではあるが、偽りでない点」
 
( ::;゚_ゝ::) 「…!」
 
 
(´・ω・`) 「あんたが転んだのも」
 
(´・ω・`) 「額を打ったのも」
 
(´・ω・`) 「目を開けると同時に、崖下の貞子を見てしまったのも」
 
 
(´・ω・`) 「すべて、偽りでは、ない」
 
(´・ω・`) 「なのにそれはあり得ない。 物理的に、食い違う」
 
(´・ω・`) 「ここに、事件を解く鍵があったんだ」
 
.

127名無しさん :2018/11/05(月) 22:40:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「でも……!」
 
(´・ω・`) 「夜に貞子と兄者」
 
(´・ω・`) 「ふたりとも、ただ転ぶだけで、崖下に落ちまではしなかった」
 
 
(´・ω・`) 「おかしくなるのは、ふたりの位置だ!」
 
(´・ω・`) 「だいたい、危ないッてわかってる崖の、それも、暗い夜」
 
(´・ω・`) 「ちょっと転んだくらいで即転落するような位置で、話なんてするか!?」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「だったら、どうして貞子は崖下に……」
 
(´・ω・`) 「言うまでもないさ!」
 
 
 
(´・ω・`) 「真犯人がいたんだよ!!」
 
(´・ω・`) 「貞子を殺した、真犯人が!!」
 
 
.

128名無しさん :2018/11/05(月) 22:43:15 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「     」
 
( ::;゚_ゝ::) 「  なッ   」
 
 
(´・ω・`) 「一つひとつ、順を追って説明しよう」
 
(´・ω・`) 「まず、どうして位置が変わっていたのか」
 
(´・ω・`) 「そもそも、どうしてそれに兄者が気づけなかったのか」
 
 
 目を閉じると、僕にも浮かんできた。
 有無山の、現場となった、崖。
 かなりの高所で、一般人が見ても恐怖に目が眩む。
 
 
(´・ω・`) 「……舞台は、そこにいるだけで心臓が張り裂けそうな、高所」
 
(´・ω・`) 「崖だ」
 
.

129名無しさん :2018/11/05(月) 22:43:47 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「そこで、互いに悪気がなかったとはいえ、」
 
(´・ω・`) 「転んでもしてみろ」
 
(´・ω・`) 「………人間にとって、想像を絶する恐怖だ」
 
( <●><●>) 「!」
 
                    、 、 、、 、 、 、、 、 、、 、 、、
( <●><●>) 「ふたりとも転落すると勘違いして気絶したのですか!」
 
 
(´・ω・`) 「ただ転んだだけで気絶なんてできない」
 
(´・ω・`) 「まして、冷静に考えれば、相当運が悪くない限り、転落なんてしない」
 
(´・ω・`) 「だが、舞台が舞台だ」
 
(´・ω・`) 「そして何より」
 
 
  >        、 、 、
  >( ::;゚_ゝ::) 「貞子は、バランスを崩したんだ!」
  >
  >( ::;゚_ゝ::) 「落ちそうになったんだ!!」
  >        、 、
  >( ::;゚_ゝ::) 「俺は落ちそうになって、思わず手を……」
  >
 
.

130名無しさん :2018/11/05(月) 22:44:07 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「兄者自身が、口走っている!」
        、 、
(´・ω・`) 「誰が落ちそうになったかなんて、本来錯綜しないのに!」
 
(´・ω・`) 「すなわち、兄者も転落を危惧したッていう証拠なんだ!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「………」
 
( ::;゚_ゝ::) 「気絶……?」
 
 
(´・ω・`) 「額の傷は、その時にできた」
 
(´・ω・`) 「さて、次だ」
 
(´・ω・`) 「兄者は、目を覚ました」
 
 
(´・ω・`) 「気絶という非現実的な現象」
 
(´・ω・`) 「転落という非現実的な状況」
 
(´・ω・`) 「……自分が少しの間眠っていた、なんて、思わなかっただろうさ」
 
(´・ω・`) 「兄者視点で言えば、転んで、目を開けたら……ッてな風に思っちまうんだ」
 
.

131名無しさん :2018/11/05(月) 22:44:27 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「じゃ、」
 
( ::;゚_ゝ::) 「じゃあ……俺は……」
 
(´・ω・`) 「目を覚ますと、そこは崖下だった」
 
(´・ω・`) 「でも、倒れた時は、地面に伏していた」
 
 
(´・ω・`) 「ここまで来たら、ひとつしかあり得ない!」
                            、 、 、、 、
(´・ω・`) 「真犯人が、兄者を崖先まで移動させたんだ!」
 
(´・ω・`) 「顔だけ出して、目を開いた瞬間に………」
 
 
 
(´・ω・`) 「真犯人が突き落とした!」
 
(´・ω・`) 「貞子の無残な姿を、目に焼き付けさせるために!」
 
 
.

132名無しさん :2018/11/05(月) 22:44:49 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「                     」
 
 声にならない絶叫を、あげていた。
 真犯人の思惑通り、目に焼き付けられてしまった、貞子の無残な姿。
 
 兄者のトラウマとなって、この十年間、
 誰にも打ち明けることなく、自分のなかに押し込めてきた、偽りの真実。
 
 それが今、本当の真実を前に、浄化されていく。
 十年間抱え込んできたものが、消えたのだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「だッ  誰だ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺と貞子を貶めた、その  真犯人は!!」
 
 
 
(´・ω・`) 「言うまでもないね!」
 
(´・ω・`) 「その男の名は、ヒッキー小森だッ!!」
 
.

133名無しさん :2018/11/05(月) 22:45:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ばッ…馬鹿な!!」
 
(´・ω・`) 「奴にしかできなかったことがふたつある!」
 
 
(´・ω・`) 「ひとつ! 貞子を突き落とし、兄者の場所を移動させた!」
 
(´・ω・`) 「ヒッキーが額の傷をかばったのは、兄者を守るためじゃない!」
 
(´・ω・`) 「移動の真実を、偽りたかったから!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ッ!!」
 
 
 
(´・ω・`) 「もうひとつ!」
 
(´・ω・`) 「事件後の、目撃証言だ!!」
 
( <●><●>) 「!」
 
 
.

134名無しさん :2018/11/05(月) 22:45:38 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 目撃は 「朝」 。
 霧は 「なかった」 。
 
 犯人の兄者以外が、そんな証言をすることは、できなかった。
 本来ならば、できなかった。
 言い換えれば、こうだ。
 
 犯人だけは、そんな証言が、できる。
 
 
(´・ω・`) 「ヒッキーが、目撃証言をできた理由」
 
(´・ω・`) 「ヒッキーもまた、兄者と同じだ!」
 
(´・ω・`) 「夜!」
 
(´・ω・`) 「霧が無い時に!」
 
(´・ω・`) 「崖下に貞子がいるとわかっているから、目撃ができた!」
 
 
 
(´・ω・`) 「そしてそれは、真犯人にしかできない証言だ!!」
 
 
.

135名無しさん :2018/11/05(月) 22:46:05 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 →BGMここまで
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ほ」
 
 兄者が、泣きそうな声を絞り出す。
 
( ::;゚_ゝ::) 「本当……なのか?」
 
(´・ω・`) 「……心当たりは、あったんじゃないのか?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「!」
 
 
(´・ω・`) 「貞子が相談を持ちかけてきた、とは言うが」
 
(´・ω・`) 「実のところ、それはヒッキーの話だった、んだろう」
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「ヒッキーと、繋がりはあったんじゃないかな、とは」
  >
  >( ´_ゝ`) 「思ってたよ」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「え。 まじ?」
  >
  >( ´_ゝ`) 「いやあ……怪しいんだけどさ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「ヒッキーと貞子、って見ると、確かにお似合いだな、とは思うんだ」
  >
 
.

136名無しさん :2018/11/05(月) 22:46:27 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「………」
 
(´・ω・`) 「ああ、言わなくていい、心に秘めておけばいい」
 
(´・ω・`) 「無理に、関係まで暴くつもりはないし、確かめる手段もないんだ」
 
 
(´・ω・`) 「貞子が、ヒッキーのことを好きだったのか」
 
(´・ω・`) 「あるいは、ヒッキーこそが貞子に迫っていたのか」
 
(´・ω・`) 「また別の、既に恋仲だったからこその相談かもしれない」
 
 
( <●><●>) 「お言葉、ですが」
 
 ワカッテマスが、切り出す。
 
( <●><●>) 「それは……断定させたほうがいいのでは」
 
( <●><●>) 「動機に、関わってきます」
 
(´・ω・`) 「いや。」
 
(´・ω・`) 「なんとなく、予想はできるんだ」
 
( <●><●>) 「と、言いますと」
 
.
138>>137ミス :2018/11/05(月) 22:47:28 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「その後、どうなったかを考えてみろ」
 
(´・ω・`) 「貞子は、」
 
 
(´・ω・`) 「どうしてか起きていたヒッキーに」
 
(´・ω・`) 「どうしてか殺されかけて」
 
(´・ω・`) 「どうしてか兄者が罪をかぶせられたんだぜ」
 
 
( <●><●>) 「………」
 
(;<●><●>) 「ッ!」
 
 ワカッテマスも、察しがついたようだった。
 夜の、貞子の兄者への相談。
 
 少なくとも、ヒッキーにとっても察しがついていた内容で、
 更にそれは、ヒッキーにとってはこの上なく面白くない話だった。
 
.

139名無しさん :2018/11/05(月) 22:49:21 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「…………」
 
( ::;゚_ゝ::) 「………………」
 
 
 
 結果として、ヒッキー小森は、亡霊に殺された。
 また、真実がわかった以上、兄者に殺人未遂の容疑がかかることはない。
 十年前の事件、動機を追究したところで、断罪する相手がいないのだ。
 
 亡霊は断罪することができない、か。
 まったくをもって、その通りだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「……」
 
( :;::_ゝ::) 「……」
 
 
 兄者は、そっと目を閉じた。
 次にその目を開いた時見えるのは、貞子がいない崖下なのだろうか。
 
 
.

140名無しさん :2018/11/05(月) 22:49:57 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 十年前の開かずの扉は、開かれることになった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

141名無しさん :2018/11/05(月) 22:50:32 ID:h25gk5nA0
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
 くずおれた兄者を見つめていると、ポケットの電話が鳴った。
 ワンコール、ツーコールと鳴っているそれの、番号を見る。
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(;´・ω・`) 「…ッ!」
 
 
 発信者は、亡霊。
 開かずの扉の向こうに伸びる、十年後の事件。
 
 連続予告殺人事件を解決しなければならない時が、ついに来た。
 
 
 
.

142名無しさん :2018/11/05(月) 22:50:52 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 
  『ショボーン警部』
  『ヴィップ大学はご存じですよね』
 
 
  『明日の朝十一時』
  『ヴィップ大学に殺人予告を手配致しました』
 
 
  『ショボーン警部にお願いがございます』
  『盛岡デミタス、流石兄者と会わせていただきたいのです』
 
 
  『応じていただけない場合』
  『一般の方々に犠牲になっていただくつもりです』
 
 
  『もちろん、同伴者は、警部、あなた一人』
 
 
  『あなた以外の警官が、お見えになった場合』
  『如何なる説得、譲歩があろうと、応じるつもりはありません』
 
 
  『詳細は、明日の朝、十時』
  『追って連絡差し上げます』
 
 
 
.

143名無しさん :2018/11/05(月) 22:51:13 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 
  『これが、私からの、最後の殺人予告です』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

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