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五月七日 午前七時三七分
アルプス警察署
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因縁だ。
貧乏くじを引かされたと思えば、立て続けに懐かしい顔ぶれと会わされる。
オオカミ鉄道は僕からコンタクトを取ったからいい。
昔の密室鉄道と対面した。
アスキーミュージアムとの繋がりがあった。
今度は、アルプスだ。
アルプスといえば、その序列体系に若干の歪みが生じている。
アルプス県警捜査一課、三月の名を持つ親子警部と言えば有名な話であった。
(´^ω^`) 「久しぶりだね!イナリちゃん!」
イ(゚、ナリ从 「去年会議で会ったばかりですが」
(;´・ω・`) 「一年も空いてたら久しぶりじゃん!」
.
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昨日の晩、刑事部長に内密に呼び出された。
最初、個人的にアルプス県警を利用しようとしていたのがばれ、
それを咎められるのかと思っていたのだけど。
実際は真逆で、秘密裏にアルプス県警との協力が結ばれていたようだ。
別に敵対しているわけではないが、大々的に動けばマスコミの餌食となる。
パパラッチに嗅ぎつかれないよう、うまく協力してくれ、と言われた。
個人的にこっそり協力してもらおうと思っていたのは、とんだ心労だった。
(メ._⊿,) 「……部下はどうした」
(´・ω・`) 「走らせてますね」
久しぶりに会ったのだけど、三月殿の風貌は一切変わっていなかった。
人間、六十を超えると、容姿は大して変化しないらしい。
逆に、若いイナリちゃんはまた美人になっていた。
(メ._⊿,) 「若手のやつもか……?」
(´・ω・`) 「同じ場所に、そう何人もエースは要りませんよ」
.
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三月殿は、ワカッテマスやぎょろ目のような突出した能力はない。
ただ、あるとすれば、その圧倒的な経験だ。
現役刑事で見れば、警察で一番キャリアを積んでいる男である。
エースというのは、イナリちゃんのことだ。
ワカッテマスに比肩する、あるいは頭脳面のみで見れば凌駕している、エース。
昔、研修の一環で、僕の部下としてヴィップ県警に配属されていた。
その時は、若い女のキャリア組ということで気まずそうにしていたが、
今では一警部として顔を利かせているらしい。
その証拠に、口数も多くなっていた。
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部も要らなかったのでは」
(;´・ω・`) 「だったら誰が現場を見るんだい!」
(メ._⊿,) 「で……」
( ;´_ゝ`)
(;´・_ゝ・`)
(メ._⊿,) 「代わりが……この二人かい……」
.
-
三月殿の威圧感、イナリちゃんの冷たいオーラに、
兄者もデミタスもすっかり気圧されていた。
(´・ω・`) 「まあまあ、話は走らせながら」
アルプス県警から、所轄署の刑事をふたり、鑑識をひとり借りた。
一人は僕と三月殿、イナリちゃんを。
一人は兄者とデミタス、鑑識をパトカーに乗せた。
先に兄者とデミタスを乗せたパトカーを走らせた。
その後ろを僕たち警部組が追う。
やはり、親子警部に僕が同席していたら、運転手は気苦労が絶えないだろう。
見るからに、完全に気配を消し、運転手としての役割を果たすのに勤めていた。
助手席にイナリちゃんが、僕と三月殿が後ろに座っている。
単におじさんの隣に座りたくなかったのか、上下関係を意識してくれたのか。
(´・ω・`) 「とりあえず、捜査の一部始終から伝えます」
.
-
イ(゚、ナリ从 「結構です」
(´・ω・`) 「え、え?」
イ(゚、ナリ从 「必要なことは会議ですべて共有されています」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「そ、そうなんです?」
おかしい。
僕はまだ情報をまとめたりしていないし、
部下のみんなも、上層部や他の部署には頼りたがらない気質なのに。
イ(゚、ナリ从 「そちらの刑事部長を招いての、会議です」
イ(゚、ナリ从 「別に今更、共有など」
(´・ω・`) 「そ、そう?」
言いあぐねていると、三月殿がちいさく俯いた。
.
-
(メ._⊿,) 「……久々にショボに会ったんだ……」
(メ._⊿,) 「虚勢張って……アピールしてえだけさ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリちゃんは、小さく 「ふん」 と鼻を鳴らした。
それに、三月殿の性格を考えると、大してこちらの情報など調べていない。
これだから困るんだ。
親子警部は、かなり我が強いというか、色が濃いというか。
初っ端からペースが崩されてしまう。
(;´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
(´・ω・`) 「だったら、大まかな時系列は、いいでしょう」
(´・ω・`) 「どうして、アルプスと共同戦線が組まれることになったか」
(´・ω・`) 「そこから話しますね」
.
-
(´・ω・`) 「ヴィップで起こってる、連続予告殺人ですが」
(´・ω・`) 「捜査の結果、大きく、三点」
(´・ω・`) 「アルプスが噛んでいることがわかりました」
(メ._⊿,) 「三点……?」
全員が、ヴィップで殺されている。
地下鉄もホテルもライブも滝公園も、ヴィップだ。
全土を揺るがす大事件ではあるが、見た目はヴィップで完結しているのだ。
(´・ω・`) 「まず、二件目の被害者、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「この連続予告殺人は、ヴィップ大学に昔あった、」
(´・ω・`) 「某サークル内で、うちうちに起こっているものです」
三月殿が興味深そうな顔で頷く。
まるで知らなかったと言わんばかりに。
.
-
、 、
(´・ω・`) 「そのサークルの構成員は、六人」
(´・ω・`) 「うち一名、ヒッキー小森以外の全員がヴィップの人で」
(´・ω・`) 「ヒッキー小森のみが、アルプス出身アルプス育ちです」
(メ._⊿,) 「……?」
(´・ω・`) 「ポイントは、殺される日もアルプスにいたことです」
(´・ω・`) 「オオカミ鉄道の在来線で、ヴィップ、現場のホテルに到着」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「こちらでも伺っております」
イナリちゃんが、前を向いたまま言った。
バッグから資料を取り出して、目を落としている。
イ(゚、ナリ从 「害者は監視カメラに捉えられていましたが、」
イ(゚、ナリ从 「アルプス時点では、付き添いの類はいなかったようで」
(´・ω・`) 「……え?」
.
-
イ(゚、ナリ从 「えっ」
こちらを振り返る。
(´・ω・`) 「……それ、どこの情報?」
(´・ω・`) 「僕、知らないんだけど」
イ(゚、ナリ从 「どこ……ッて」
イ(゚、ナリ从 「オオカミ鉄道に問い合わせました」
そんな情報がでたなら、総裁はすぐに僕に回すはずだけど。
結構重要なところだ。
僕は一旦話を中断し、総裁に個人的に電話をかけた。
( ´・ω・) 「もしもし、県警のショボーンですゥ」
総裁は、別段焦っている様子ではなかった。
しかし、一発 「すぐに情報は回してもらわないと」
と入れると、態度が一変した。
掘り下げていくと、結論、総裁は知らなかったようだ。
部下が調査し、害者を見つけ出したまではいいが、総裁には回さなかった。
至急ご自身で確認していただき、県警までデータを送るよう頼んだ。
電話を切る頃、総裁は焦っていた。
.
-
(´・ω・`) 「……」
むすッとしていると、イナリが申し訳なさそうに少し頭を下げた。
林ちゃんもそうだが、情報はすぐにこちらまで回してもらいたいものだ。
(´・ω・`) 「失礼……ええと、イナリちゃん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
貸してくれ、と手を伸ばすと、A4を二枚くれた。
ヒッキー小森がアルプスで乗車時点、同行者はいなかった。
服装や持ち物に変化はない。
その時の車両はロングシート、ボックスシートしか備わっていないものだ。
誰かが落ち合って、害者の目を盗みオイルを盛ることは容易かったかもしれない。
ただ、案の定車両内に監視カメラはなかったようで、
乗車時に同行者がいなかったことを考えると、そちらの線は薄いだろう。
.
-
となると、ヴィップに到着後認められた、空白の時間。
犯人はそこで害者と合流し、オイルを盛った可能性が高い。
如何せんそちらは、大した情報が上がっていない。
店に入った可能性は低いため、公園か路地か、どこかでたむろしていたのか。
(´・ω・`) 「ありがとう」
イ(゚、ナリ从 「何か」
(´・ω・`) 「いや、なんでもないよ」
(´・ω・`) 「とにかく」
(´・ω・`) 「二点目」
(´・ω・`) 「三月殿、アルプス神経病院はご存じですか」
(メ._⊿,) 「神経……病院……」
言われて少し、三月殿は押し黙った。
.
-
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「……え」
イ(゚、ナリ从 「ふたりともよく存じています」
(メ._⊿,) 「……え」
ペニー曰く、普通に大きな病院らしい。
ヴィップ県警よりも大きい建物だったそうだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「私も、掛かっていましたから」
(メ._⊿,) 「……あ」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
(´・ω・`) 「!」
.
-
イナリちゃんが、露骨にふてくされる。
三月殿が、しゅんと肩を落とした。
三月イナリ。
三月ウサギの娘と知られる彼女だが、過去に凶悪な事件に巻き込まれている。
彼女はそこで、記憶をなくしている。
,_
イ(゚、ナリ从 「………最ッ低」
(メ._⊿,) 「ち……違う……これはその……」
かなり威圧的に、ぼそっと放たれた一言に、三月殿は恐縮した。
また 「親子警部」 のペースに持っていかれる。
(´・ω・`) 「イナリちゃん、許したげてよ」
(´・ω・`) 「その人、もう六十超えた、じいちゃんだぜ?」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
若くして記憶をなくしたイナリちゃんと、
歳を取りすぎて物忘れが激しい三月殿。
なんとも皮肉な話だ。
誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ。
.
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,_
イ(゚、ナリ从 「続けてください」
(メ._⊿,) 「その病院が……どうした……」
(´・ω・`) 「さて、どこから話そうか」
結構ややこしい話になる。
この話には、くだんの 「亡霊」 が一枚噛んでくるのだ。
(´・ω・`) 「イナリちゃん」
(´・ω・`) 「亡霊……ッて、わかるかい?」
イ(゚、ナリ从 「亡霊」
きょとんとした。
記憶になかったようで、バッグを太ももの上に置き、
それを下敷きに資料をずらっと広げだした。
(´・ω・`) 「いや、いい」
イ(゚、ナリ从 「え」
.
-
もし亡霊を知っているなら、絶対に、忘れるなんてことはない。
この事件の犯人で、アウトドアサークルの隠された七人目なのだ。
(´・ω・`) 「さて、ヴィップ大学の某サークル、と言いましたが」
、 、
(´・ω・`) 「最初の捜査では、構成員は六人と認識していました」
(´・ω・`) 「フッサール擬古からはじまった四人の被害者」
( ´・ω・) 「残り二人が……」
前を走るパトカーを指さす。
兄者とデミタスを加え、六人だ。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……六人?」
(´・ω・`) 「しかし、正確には違った」
(´・ω・`) 「七人目が、いたのです」
.
-
イ(゚、ナリ从 「……」
知らなかった、と言わんばかりに資料にメモを書き足していく。
思った通りだ。
僕の知らないところで勝手に組まれた共同戦線だが、
どうせ刑事部長や一課長が勝手に決めたことだ。
昨晩判明した新事実など、大して共有できていないだろう。
(´・ω・`) 「どうして、初動捜査で七人目が割れなかったか、ですが」
(´・ω・`) 「生存していた構成員が、みんなして隠していたのです」
(メ._⊿,) 「……」
一応ヴィップ大学にも問い合わせたが、
非公認サークルの名簿なんて、一切管理していないらしかった。
そのため、構成員が口を揃えれば、内部事情は隠ぺいできるのだ。
(´・ω・`) 「それはなぜか」
、 、 、、 、
(´・ω・`) 「その七人目は、実質的に死んでいたからです」
.
-
イ(゚、ナリ从 「!」
(メ._⊿,) 「……そういうことか」
三月殿には、昨日、メールや口頭でさわりだけ伝えている。
対するイナリちゃんは、目を少し見開いていた。
昨日の時点では、まだ一課長に進捗は共有していない。
イナリちゃんですら知らなかった以上、世間的にはまだ知られていない情報と言える。
知り得るのは、ショボーン班と兄者、デミタス、そして亡霊だけだ。
(´・ω・`) 「昨日三月殿にお願いした、十年前の事故」
(´・ω・`) 「それで、七人目は植物状態に陥った」
(´・ω・`) 「マ、昨日三月殿にお話しした通りですな」
イ(゚、ナリ从 「…。」
,_
イ(゚、ナリ从 「………共有して、ッて、言ったじゃない……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿がイナリちゃんに弱いのは、彼を知る人は皆知っていることである。
表情では平生を保とうと努めているが、額に脂汗がびっしょり浮かび上がっている。
.
-
,_
イ(゚、ナリ从 「その七人目が、アルプス神経病院に掛かっていた、と」
じろりと三月殿を睨みつける。
蛇に睨まれた蛙ならぬ、狐に睨まれた兎だ。
三月殿はだらだらと汗を垂らしながら、硬直している。
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「その名は、山村貞子」
(´・ω・`) 「またの名を、亡霊」
イ(゚、ナリ从 「…!」
高級そうな万年筆を、次々滑らせる。
イナリちゃんからすれば、どれも垂涎の的だろう。
(´・ω・`) 「となると、こんな話も知らないだろう」
(´・ω・`) 「昨日の夜のことだ」
(´・ω・`) 「これは、僕に個人的にかけられた電話なんだけどね」
.
-
昨日の、亡霊との通話内容は、録音してある。
口頭で説明するのも面倒だ、黙ってその音声を再生した。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
自らを亡霊と称し、それまでの連続殺人、四件を自供。
加え、残り二人も殺害する旨を告げる。
イ(゚、ナリ从 「………!」
(メ._⊿,) 「亡霊……か……」
(´・ω・`) 「その亡霊だけど」
、 、
(´・ω・`) 「十年前の事故でね、その病院に送られた」
(´・ω・`) 「ハズ、なんだ」
.
-
(メ._⊿,) 「向こうさんに……手は回っているのか……?」
(´・ω・`) 「それが、対応が面倒なのか、面白い情報はくれなかった」
イ(゚、ナリ从 「わかりました」
イ(゚、ナリ从 「アルプスのほうからも、アプローチしてみましょう」
さすがイナリちゃん、
話の裏を汲み取って、すぐにノートパソコンを開いた。
アルプス県警から正式に干渉してくれるのだろう。
ワカッテマスとイナリちゃんは、共通点が多い。
歳も近く、非常に頭が切れる。
仕事の速さ、無駄口の少なさ、冗談の通じなさ。
そして何より、期間は違えど僕が面倒を見てきたふたりだ。
ふたりがヴィップ県警で共存した期間は短いが、
その時は、間違いなく全土で見てもトップクラスの実力を誇っていた。
ヴィップ県警黄金期、というものだ。
.
-
(´・ω・`) 「わかっていることをお伝えすると」
(´・ω・`) 「少なくとも、今は在籍していないこと」
(´・ω・`) 「それも、おそらくは転院……たらい回しにされたのだろう、ということ」
イ(゚、ナリ从 「……」
自身も掛かっていたイナリちゃんだ、思い当たる節があるのだろう。
言うと、イナリちゃんは少し、深めの息を吐いた。
(´・ω・`) 「さて、三点目ですが」
(´・ω・`) 「これも昨日、お伝えした通り」
(´・ω・`) 「十年前の事故は……アルプスで起こったんだ」
.
-
イ(゚、ナリ从 「把握しております」
イ(゚、ナリ从 「アルプス山脈、有無山の某所」
(´・ω・`) 「そうそう」
アルプスは、その名を持つ大きな山脈が連なっている。
そのうちのひとつ、アルム山で事故は起こった。
昨日、三月殿に調べてくれ、と頼んだ案件だ。
イナリちゃんにも、その情報は回っているようだ。
ちょっと安心した。
(メ._⊿,) 「……」
昨日の今日で、場所を特定し、干渉まで漕ぎ着けられている。
三月殿個人に任せていた場合、あと一日はかかっただろうか。
と考えると、イナリちゃん含むアルプス県警の力を借りられたのは大きいぞ。
パトカーはいま、真っ直ぐ現場に向かって山道を走っている。
確かに辺境と呼べる場所だったようで、一番近い署からでも一時間はかかるらしい。
.
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警部三人に、当事者二人。
万が一に備えた警官二人と、念のために鑑識。
八人を乗せて、パトカーは十年前に向かって走っている。
(´・ω・`) 「以上が、アルプス県警と協力することになった主な理由ですね」
イ(゚、ナリ从 「警部」
(´・ω・`) 「ん」
四人いるパトカーの、うち三人が警部なんだ。
唐突に警部なんて言われたら、ちょっと混乱するな。
イ(゚、ナリ从 「しかし、事故は事故」
イ(゚、ナリ从 「察するに、その事故に事件性がなかったか、を検証したいのでしょうが」
イ(゚、ナリ从 「果たして、可能なのでしょうか」
(´・ω・`) 「わからない」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
-
当然、事故のあと、コテージは掃除されるだろう。
仮に十年前の指紋が検出できたとして、残っているものはなかろう。
加え、いまはコテージの貸出も終了している。
現場となる崖は、いわば自然そのままだ。
十年前と様相を変えていないほうがおかしい話である。
ここで何かが掴めるかは、はっきり言って博打ですらあった。
(´・ω・`) 「わからない、けど」
(´・ω・`) 「前に乗せた二人」
(´・ω・`) 「彼らに現場をもっかい見せて、そのうえで検討したいんだ」
人間の記憶というものは面白いもので、
何かキッカケさえあれば、芋づる式に記憶が蘇ることがある。
それも、藁を掴むような話ではない。
じゅうぶん起こり得る、期待の持てる確率で、だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、わかりました」
イ(゚、ナリ从 「ところで」
(´・ω・`) 「はいよ」
.
-
イ(゚、ナリ从 「現場……山奥ですが、」
イ(゚、ナリ从 「ネットの電波は、届くのですか?」
(´・ω・`) 「……」
三月殿を見やる。
(メ._⊿,) 「……」
まったくわからない、といった顔をされた。
水を打ったようになった。
イ(゚、ナリ从 「…。」
(´・ω・`) 「………」
(´^ω^`) 「ま、まあ……届くんじゃない?」
イ(゚、ナリ从 「…。」
科学の進歩は素晴らしいものだ。
昔の携帯電話には、アンテナがついていて、
それを伸ばさないと電話なんてできなかったものだ。
.
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イナリちゃんが訝しげな顔をするなか、
五月のアルプスは、随所で葉桜が山々を彩っていた。
三月殿とともに臨んだ事件を思い出す。
因縁だ。
密室鉄道だったり、イナリちゃんだったり、連続殺人だったり。
今度は葉桜という因縁が僕の前に現れた。
どうする。
嫌な予感を信じるならば、次にはいよいよ、あの女の子が出てくるぞ。
イ(゚、ナリ从 「……警部は、葉桜はお好きで?」
(´・ω・`) 「ん。 え。」
イ(゚、ナリ从 「ずっと、葉桜を見ていたので」
おや、と思った。
以前のイナリちゃんなら、そんな雑談、決して交わそうとしなかった。
精神的に大人になって、心の余裕ができたのか。
あるいは、単なる気まぐれだろうか。
.
-
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「三月殿との思い出を、ちょっと」
(メ._⊿,) 「……ふん」
何年前だろうか。
少なくとも、三月殿がまだ六十の山を登りきる前だった。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´・ω・) 「確か、こんな季節でしたよね」
(メ._⊿,) 「……忘れたな」
腕を組んで、適当にあしらわれる。
三月という男は、なかなか人が掴めない。
はたから見れば、黒いボロ衣を着た無口な隻眼の爺さんなのだが、
そのわりに背が低かったり、目がくりっと大きかったりと、可愛らしい一面もある。
.
-
イ(゚、ナリ从 「そうですよね、忘れますものね」
(メ._⊿,) 「いや……忘れては……」
隻眼といえば、イナリちゃんもだ。
別に、単なる偶然には違いない。
イナリちゃんは、記憶を失った事件で。
三月殿は、それとはまったく別の、大昔の事件で、目に傷を負っている。
もっとも、犯人の凶刃による傷、という点では共通するが。
(´・ω・`) 「どうしたんだい、イナリちゃん」
(´・ω・`) 「結構ノリ気じゃない」
イ(゚、ナリ从 「……」
(´^ω^`) 「久々の現場に、胸が躍るッてやつかな?」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
-
なかなか可哀想な女の子だとも思った。
キャリア組は、結構まわりから妬まれたりするのだ。
現場一辺倒のぎょろ目なんかとは、特に相容れない部分があるだろう。
しかし一方で、警察でも随一の美貌を持っている。
詳しい話は知らないが、少なくとも僕の下にいた頃は、
キャリア組の女であることを面白く思わない層と、
その美貌を、眼福と言わんばかりに支持する層とで分かれていたものだ。
イ(゚、ナリ从 「いろいろと、新鮮ですから」
(´・ω・`) 「新鮮」
イナリちゃんが好んで着ているのかはわからないけど、
体のラインがよく表れる、異常に細いスーツを着込んでいる。
男性の支持層を勝ち得たともいえる線の細さは、未だ健在であった。
イ(゚、ナリ从 「私が現場に出るのも、そう」
イ(゚、ナリ从 「おふたりが一緒にいるのもそうですし」
(´^ω^`) 「あ。 僕に会えたのがそもそも新鮮? 嬉しい?」
.
-
イ(゚、ナリ从 「………まあ」
(´・ω・`) 「うへっ」
ちょっとドキッとした。
なるほど確かに、以前より遥かに心の余裕を持っているようだ。
からかってやろうと思ったのが、カウンターされてしまった。
(´・ω・`) 「えっと、ああ」
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ポケットからふたつ、キャンディーを取り出した。
ミセリにもあげた花飴は、しかし受け取ってもらえなかった。
.
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午前九時二九分 アルプス山脈
有無山
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パトカーはやがて、十年前の現場に到着した。
兄者が言っていたように、確かに辺境で、
しかし雄大に広がるアルプス山脈の景色は、見事であった。
ただ、季節は五月。
紅葉は当然だがうかがえないし、
それ以上に、想像を超える寒さに見舞われた。
イ(゚、ナリ从 「……」
パトカーを降りて、イナリちゃんは思わず体をさすった。
僕は、トレンチコートを着込んでいるから大丈夫だけど。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿も肌寒さを感じたようだ。
そんな、穴だらけのボロ衣なんか着ているからだ。
.
-
( ´_ゝ`) 「あーー」
(´・_ゝ・`) 「……間違いないね」
'_
(´・ω・`) 、
一方の兄者、デミタスは肌寒さなど感じなかったようだ。
一足先に着いて、周囲を見て回っていたらしい。
歩み寄ると、ふたりが振り返った。
( ´_ゝ`) 「ここですよ、ここ」
(´・ω・`) 「この、崖」
( ´_ゝ`) 「間違えるわけがありません」
( ´_ゝ`) 「貞子は……この崖から、落ちました」
.
-
崖は、確かに切り立った、危険なものだった。
柵など当然なく、雨が降ってしまえば思わず滑り落ちてしまいそうだ。
なにより、風が強い。
体幹がしっかりしていなければそれだけでバランスを崩しかねない。
絶壁から、随所で突出した岩や木が窺える。
当時がどうだったかはわからないが、貞子は確かに、半ば転がり落ちていったのだろう。
(´・ω・`) 「………ふむ」
(´・_ゝ・`) 「僕らがごはん食べてたのは、あっちらへん」
(´・ω・`) 「どれ」
デミタスが指を差したのは、崖際から十メートルほど向こうの開けた場所だった。
草が生えておらず、平坦な岩肌が露出している。
もう少し向こうにいくと、深緑のトンネルとなる。
危険なわけではなく、太陽光を浴びながら景色を一望できるため、
食事をするとなれば適した場所であることには違いなかった。
.
-
(´・ω・`) 「当時も、こんな感じだったのかな」
( ´_ゝ`) 「だな」
( ´_ゝ`) 「変わってなくて、ちいと驚いちまった程だ」
自然からすれば、十年ぽっちという時間では大した変化ができないのか。
ふたりが迷いなく当時の証言をする辺り、自然の規模の規格外さに驚かされる。
(´・ω・`) 「で、コテージが……」
( ´_ゝ`) 「さっきの道を、左に道なりに進めばあったさ」
( ´_ゝ`) 「今あるかはわからんがね」
分岐点はあったが、そこに看板などは見当たらなかった。
朽ちて自然になくなったのか、コテージを貸さなくなったため処分したのか。
道にしたって、車が通る程度の幅はあったが、
整備などはもちろんされておらず、スリップしてしまえばそのまま即死すらあり得る。
証言でたびたび挙がった 「辺境」 には違いない場所だった。
.
-
(メ._⊿,) 「……ここか」
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「さすがアルプス、恵まれた大自然の地」
若干の皮肉も添えて言うと、三月殿は目を細めた。
視線の先には、十年前兄者たちが見ていたのであろう山脈があった。
どうやら僕の言葉は感傷を前に打ち消されたのだろう。
風にマントを揺らしながら、じっくりと景色を見やる。
アルプスの人間からすれば、この景色は特別な美しさが感じられるのだろうか。
(メ._⊿,) 「……」
当時と違うと思われるのは、濃霧だ。
かなり標高が高く、山の頂のほうには濃霧がかかっているのが肉眼でもわかる。
(´・ω・`) 「結構、濃いですな」
(メ._⊿,) 「……こんなもんじゃねえよ」
.
-
(´・ω・`) 「というと」
(メ._⊿,) 「有無山だろう……」
(メ._⊿,) 「……もう一ヶ月早ければ……車すら出せなかっただろうよ」
(´・ω・`) 「そんなにですか」
自然が豊か、ということはつまり水が豊かであることに繋がる。
山を登る時も、滝や川が随所で見受けられた。
気候には詳しくないが、条件さえ合えば霧自体は頻繁に発生するのだろう。
(´・ω・`) 「十年前って、霧、出てた?」
(´・_ゝ・`) 「霧……ですか」
(´・_ゝ・`) 「あったような、なかったような」
( ´_ゝ`) 「いや、特に」
( ´_ゝ`) 「むしろ、あの時はカラッカラに晴れてたぜ」
.
-
(´・ω・`) 「当時は……紅葉シーズンか」
(´・ω・`) 「三月殿」
ヴィップに住んでいると、霧などほとんどお目に掛かれない。
霧は重要な情報だ、ある程度概要は押さえておきたい。
(´・ω・`) 「霧って、出やすい季節とか、あるんです?」
(メ._⊿,) 「……季節……か」
(メ._⊿,) 「……秋なら……それもここらなら……」
(メ._⊿,) 「最悪……向こう五メートルが見えなくなるかもしれねえな……」
(;´・ω・`) 「本当に言ってますか?」
(メ._⊿,) 「言ってしまえば……雲の中だ……」
.
-
地上にいる限り、そのようなことはないらしい。
しかし、舞台が特殊だ。
山、それも高いところにいるため、文字通り雲に呑まれるようになるのか。
イ(゚、ナリ从 「厳密に言えば、雲と霧に分類上の違いはありません」
唖然としていると、後ろからイナリちゃんが言った。
イ(゚、ナリ从 「霧って要は、雲と同じく、飽和した水分が空気中を漂っている現象です」
(´・ω・`) 「そうなの?」
イ(゚、ナリ从 「ただ、言葉として、雲は空を浮いているものです」
イ(゚、ナリ从 「同じ現象が目の前で働いたからといって、」
イ(゚、ナリ从 「雲と言いづらいのは、まあわかる話ですね」
アルプスの人間からすれば常識なのか、
イナリちゃんが単に博識なだけなのか。
.
-
イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
( ´_ゝ`) 「なんだって?」
兄者が間髪入れずに割り込んできた。
( ´_ゝ`) 「俺は確かに見たぜ」
( ´_ゝ`) 「………この下に落ちてた貞子を、ハッキリと」
( ´_ゝ`) 「いまでも、脳に焼き付いてやがる」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
(´・ω・`) 「どうなの、イナリちゃん」
当事者が言うと、説得力がある。
崖下は、ウン十メートルもの高低差がある。
平生でもはっきり見えるか怪しいくらいの距離だ、
霧なんてかかっていれば 「見る」
ことはできないだろう。
.
-
イ(゚、ナリ从 「見たのは、何時ごろですか」
( ´_ゝ`) 「……すまねえ、詳しくは覚えてないけどよ」
( ´_ゝ`) 「少なくとも霧はなかった。
これは確かだ」
イ(゚、ナリ从 「と、なると……」
空を仰いで、イナリちゃんが顎に手を当てる。
イナリちゃんは、データを重視する子だ。
データと証言、現場状況に食い違いがあった場合、
そこから推理を出発させて真実を追究するスタンスを取っている。
(メ._⊿,) 「イナリ……そいつァどこのデータだ」
イ(゚、ナリ从 「どこ、というと」
(メ._⊿,) 「有無山全域……か」
イ(゚、ナリ从 「はい」
.
-
三月殿が首の関節を鳴らす。
日頃の、イナリちゃんに頭が上がらない彼じゃない。
本腰が入っている、シリアスな警部だった。
(メ._⊿,) 「山は……ご機嫌だ……」
(メ._⊿,) 「あまりデータを過信すると……痛い目を見るぞ」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「曖昧なんだよ……山の機嫌ッてのは……」
イ(゚、ナリ从 「……」
,_
イ(゚、ナリ从 「結論を、スパッと言って」
(メ._⊿,) 「その時は霧が薄かった……なかったッてだけだろうよ……」
視線をイナリちゃんから遠ざけるように動かした。
シリアスだろうがなんだろうが、イナリちゃんには敵わないのか。
.
-
むろん、兄者の思い込みもあり得る。
転落した貞子、というのは彼からすれば強烈なインパクトがある。
そのインパクトが、視野や記憶を侵食した可能性は高い。
しかし、何にせよ目視できた以上、
僕らが言うような濃霧、はなかったことが断言できる。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいですが」
イ(゚、ナリ从 「ここらは、起伏が激しいですよね」
(´・ω・`) 「うん。 車からも、確認できた」
イ(゚、ナリ从 「その、谷底」
イ(゚、ナリ从 「冷たい空気が昇ってくることで、疑似的な雲が出現するのです」
イ(゚、ナリ从 「上昇霧……と、専門的には言うみたいです」
.
-
(´・ω・`) 「それが、事件当時にはあった、と」
イ(゚、ナリ从 「まあ、上昇霧に限った話ではないですが」
イ(゚、ナリ从 「少なくともアルプス山脈北部、ここらでは霧が発生していました」
僕がぎょろ目の捜査を信じているように、
イナリちゃんのデータやそれに基づく推理は、基本的に信じている。
しかし、当の兄者が否定している以上、特に関係はないのだろうか。
霧、となると、それは転落の原因にもつながる。
(´・ω・`) 「じゃあ、霧も抑えたうえで時系列を確認したいけど」
( ´_ゝ`) 「あの、コテージじゃだめですかね」
(´・ω・`) 「へ」
( ´_ゝ`) 「その……なんと言いますやら」
兄者が、眉をひそめて、ゆっくり話す。
その声には、多少の怯えが感じ取られた。
.
-
( ´_ゝ`) 「怖い……んスよ。」
( ´_ゝ`) 「トラウマ、というか、なんつーか」
( ´_ゝ`) 「とにかく、せめて車にでも戻って、それで話がしたい」
(´・ω・`) 「これは失礼」
と言って、イナリちゃんに目配せすると、頷いてくれた。
当事者の心境的にも、単純な安全で言っても、ここは不適切だ。
車に戻る時、三月殿は相も変わらず
ポケットに手を突っ込んだまま、向こうの方の山を見つめていた。
(´・ω・`) 「三月殿」
(メ._⊿,) 「…………ん。」
(´・ω・`) 「一旦、車のほうに戻りましょう」
.
-
(メ._⊿,) 「……ああ。 すぐ戻る」
(´・ω・`) 「なにか?」
いや。
ちいさく呟いた。
(メ._⊿,) 「久々の……登山だ」
(メ._⊿,) 「少し……きれいな空気を……味わっておきたい」
(´・ω・`) 「わかりました」
イナリちゃん、兄者、デミタスを連れて戻ってきた。
深緑のトンネルの、少し先。
パトカーを二台停めてある。
イナリちゃんが運転席につく。
エンジンをかけたかと思うと、すぐさま暖房を入れた。
顔色は変わっていないが、やはり寒さが堪えたのだろう。
.
-
イ(゚、ナリ从 「……」
助手席には、僕が座った。
さて、出発するか、ここで検討をはじめるか。
( ´_ゝ`) 「刑事さん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
( ´_ゝ`) 「例の、コテージって」
( ´_ゝ`) 「いま入れたり、するんです?」
イ(゚、ナリ从 「入ろうと思えば」
'_
(´・ω・`) 、
聞いてないな。
イナリちゃんの顔を見やると、イナリちゃんが僕にも視線をくれた。
イ(゚、ナリ从 「なんでも、貸主は相当なご高齢で」
イ(゚、ナリ从 「当初同伴してもらうつもりでしたが、厳しそうでした」
イ(゚、ナリ从 「なので、鍵だけ預かっています」
.
-
いつの間に。
聞くと、イナリちゃんは顔を澄ますだけ澄まして、返事は控えられた。
(´・_ゝ・`) 「でも……なんか嫌だな」
( ´_ゝ`) 「思い出すからか?」
(´・_ゝ・`) 「その、虫とか多そう」
( ´_ゝ`) 「どうでもいいわw」
手入れされたのは、何年前だろうか。
かびの臭いや、蜘蛛の巣が目立つには違いない。
こんな山奥、大自然の空き家だ、動物や昆虫の棲家になるのもおかしくないだろう。
(´・ω・`) 「コテージか……」
(´・ω・`) 「どうする、イナリちゃん」
聞くと、答えが用意されていたかのようにすぐ拒否された。
女の子だろうと、イナリちゃんとて立派な警部だ、
いまの虫の話を聞いて、ではないことを切に願うところである。
.
-
イ(゚、ナリ从 「事故現場はあくまで先ほどの崖」
イ(゚、ナリ从 「コテージは拠点に過ぎず、当時の物証も一切ないでしょう」
イ(゚、ナリ从 「だったら、検討を進めるのが時間効率的にもベターかと」
うわあ、すっごいいじりたい。
でも一般人の前でいじるのは少し可哀想だ。
何より言っていることそのものは的を射ている、いいだろう。
この場にぎょろ目がいなかったのが彼女にとっての救いだ。
(´・ω・`) 「鑑識連れてきたんだけど……どうしよう?」
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部にご同行願います」
イ(゚、ナリ从 「昨日今日駆り出された私が行っても、仕方ありません」
言っていることは、確かに的を射ている。
射ているが、何年経ってもイナリちゃんはイナリちゃんだった。
.
-
( ´_ゝ`) 「だったら俺も連れてってくれ」
(´・ω・`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「俺がいた方が適任。
そうだろう?」
(´・ω・`) 「ああ、そうだね」
イ(゚、ナリ从 「……」
鑑識、僕、兄者。
あと警官ふたりも付きあわせよう。
証拠は、イナリちゃんの言う通り何も残ってないと思う。
ただ、検討をより掘り進めるには都合がいい。
イ(゚、ナリ从 「それはそうと」
イ(゚、ナリ从 「あなたには、いくつかお伺いしたいことが」
( ´_ゝ`) 「なんでもござれ」
.
-
兄者は先ほどから一転、冷静を保っていた。
車に戻ることで、落ち着きを取り戻したのだろう。
イ(゚、ナリ从 「事件発覚は、いつですか?」
イ(゚、ナリ从 「また、その、第一発見者」
( ´_ゝ`) 「朝方……としか言えないな」
( ´_ゝ`) 「具体的に何時か、はわからないですね」
イ(゚、ナリ从 「では、発見者は」
( ´_ゝ`) 「わたしです」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
ファイルデータと照会しながら、頷く。
ここらは、十年前既に調べられたところだろう。
間違いがないか、新事実がないかを随時、チェックしている。
.
-
(´・ω・`) 「崖の下、だったんだよね」
(´・ω・`) 「きみは、どうして見つけられたの?」
( ´_ゝ`) 「ああ……」
( ´_ゝ`) 「俺は、早起きしたんだ」
( ´_ゝ`) 「朝一の紅葉が見たくて、な」
きっかけも、ただの偶然。
僕は彼のクチから、どこかに事件性を見出さなければならない。
「亡霊」 という存在が、不幸中の幸いだった。
奴がいることで、彼の話を、最初から疑ってかかることができるのだ。
( ´_ゝ`) 「で、つい癖で、写真を撮ろうと思った」
( ´_ゝ`) 「ただ、相棒の一眼レフを落とした話はしたよな」
(´・ω・`) 「してたね」
.
-
( ´_ゝ`) 「で、ふと崖の下を見たんだよ」
( ´_ゝ`) 「……それがキッカケさ」
(´・ω・`) 「……」
事件性は、ない。
カメラを落としたことを思い出して、崖下を見る。
至って自然な道理、道筋だ。
(´・ω・`) 「その、カメラって」
(´・ω・`) 「警察も調べてるのかな」
イ(゚、ナリ从 「一応、一文だけ、ちょこっと」
イ(゚、ナリ从 「ただ場所は多少ずれるみたいですが」
( ´_ゝ`) 「まあ、崖下を見たキッカケなだけよ」
( ´_ゝ`) 「ここにカメラを落としたんだよなァ、とか思って見たわけじゃない」
( ´_ゝ`) 「そういや、カメラ、崖の下に落としたなァ……程度の、軽いノリさ」
.
-
(´・ω・`) 「……」
ロジックは、いっそ付け入る隙がないほどに、自然。
ただ、自然すぎるからこそ、多少の猜疑心も芽生える。
「実は事故ではなく事件だった」
という前提があるから、
とはわかっているものの、つい眉がピクリと動いてしまう。
イ(゚、ナリ从 「見てからの、あなたの行動、心境は」
( ´_ゝ`) 「心境……ッたって……」
( ´_ゝ`) 「………なんだろう。 言葉にできねえな」
( ´_ゝ`) 「言葉にできないからこそ、トラウマになったんだ」
過去に何度か、トラウマ関連の事件を扱ったことがある。
その時に調べたが、トラウマという症状は、
言語化できないほどの強烈な印象が原因でなる、という。
たとえばイナリちゃんだが、以前の記憶をなくしていなければ、
当時の事件が原因で、刃物や何かしらにトラウマを持っていてもおかしくない。
思えば、その時に初めて、僕はトラウマという症状を調べた記憶がある。
彼女の事件を担当したのは、僕なのだ。
.
-
( ´_ゝ`) 「とにかく、訳が分からなくて硬直した」
( ´_ゝ`) 「どんくらい固まってたかなんて、いま振り返ってもわからねえ」
( ´_ゝ`) 「五分かもしれないし、五秒かもしれないし、五時間かもしれない」
( ´_ゝ`) 「生きてきて、あんなに時間ッつーもんが感じられなかったのは、なかったぜ」
一般市民の大多数は、身内の悲惨な事故現場を見ることがない。
どの家庭にも必ず訪れる、大往生による訃報ですら、
彼らは言葉にできない恐怖、寂寥感を覚えるのだ。
まして想定外の事故、事件、死亡など、想像すらできないほどの感情に支配される。
その点、兄者の言い分はやはり、正確だ。
平生では決して陥るはずのない感覚を、しっかりと理解している。
貞子の悲惨な姿を見たのは、間違いないのだ。
イ(゚、ナリ从 「それは、一目見て、すぐ被害者だ、とわかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「わかったね」
( ´_ゝ`) 「……と言いたいけど、なんなんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「?」
.
-
兄者が、一瞬言葉を詰まらせる。
( ´_ゝ`) 「いま思うと……こう、理屈とかじゃねえんスよ」
( ´_ゝ`) 「実際には、はっきりと貞子と見えたワケじゃなかったかもしれない」
( ´_ゝ`) 「でも、見た時、目を疑って、すぐ貞子と、頭が感じた」
( ´_ゝ`) 「服装がそれっぽいからとか、髪が、とかあるかもしれないけど」
( ´_ゝ`) 「こう……理屈じゃなく、貞子が死んでいた、ッて感じたんだ」
( ´_ゝ`) 「血だまりとかもなかったし、なおのこと……理屈じゃなかったと思う」
イ(゚、ナリ从 「……」
口達者の兄者が、当時の心境を説明しあぐねている。
それは、記憶が薄れている、といったものではない。
心境をずばり言い当てる言葉が、存在しないのだ。
本人が、なんとか言葉にしようとしている通りである。
服装、髪、体型、あらゆる要素が自然のうちに脳内で貞子と結びつけただけなのだろう。
しかし一方で、そんな非現実的な、という心理も、無意識のうちに働くはずでもある。
だから、理屈ではない。
なぜかはわからないが、崖下で倒れている何かを、貞子と感じた。
兄者の脳は、論理的にそれを説明できないでいた。
.
-
イ(゚、ナリ从 「そうですか」
イナリちゃんは、データ重視の刑事だ。
人間の持つ感情は、もろく曖昧なものだと考えている節がある。
いまの兄者の説明を、どう受け取ったのだろう。
イ(゚、ナリ从 「では、その後の行動は」
( ´_ゝ`) 「なんか、こう、なんなんだろうな」
( ´_ゝ`) 「とにかく、ヒッキーを呼んだ」
イ(゚、ナリ从 「ヒッキー……ヒッキー小森ですね」
人物ファイルを繰りながら、頷く。
兄者の古い友人で、連続予告殺人第二の被害者。
( ´_ゝ`) 「で、見せた」
イ(゚、ナリ从 「見せた」
.
-
( ´_ゝ`) 「何が起こったかが、よくわかってなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからなかったから、とりあえず見せればいい」
( ´_ゝ`) 「そう思った」
イ(゚、ナリ从 「崖まで連れてきて、崖下を覗かせたんですね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
イ(゚、ナリ从 「彼は、どんな様子でしたか」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからん、ッて感じだったな」
( ´_ゝ`) 「ただ、少しして、は? ッて言ってたわ」
ヒッキー小森も、直接話したことはないが、
まあ彼も兄者よろしく、身内の事故死など経験したことがないだろう。
当時の彼の心境は、ある程度察することはできる。
.
-
( ´_ゝ`) 「でもアイツ、俺の雰囲気から、何かは察してたんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子が転落していた、ということを?」
( ´_ゝ`) 「いや。 ンな具体的なことじゃなくて」
( ´_ゝ`) 「ただならぬ……トンでもないことがあったんだな、とか」
旧友だからこそ感じ取れるものは、確かにある。
兄者に呼び出され、連れられている時、よからぬものを察したのだろう。
( ´_ゝ`) 「混乱してた俺なんかより、よっぽど冷静だった」
( ´_ゝ`) 「とにかく、警察を呼ぼう、と」
イ(゚、ナリ从 「冷静ですね」
( ´_ゝ`) 「でも、それに助けられた」
( ´_ゝ`) 「そうか、とにかく人を呼べばいいのか」
( ´_ゝ`) 「俺は、ハッと気づかされたわけよ」
.
-
(´・ω・`) 「単なる疑問なんだけど、当時電波は通じたのかい?」
( ´_ゝ`) 「ん」
イナリちゃんが当初懸念していた、電波状況。
少なくとも今は、インターネットも電話もつながるが、十年前はどうか。
( ´_ゝ`) 「会社次第ッて感じだ」
( ´_ゝ`) 「ほら、山に強い、海に強い、都市に強い、とか」
メガキャリアの特徴だ。
どうしてそうなっているかはわからないし、今となってはそれほど違いはないらしいが、
当時は確かに、携帯会社によって電波の届く場所、届かない場所というのがあった。
船乗りなんかは、A社の電話を。
登山家なんかは、D社の電話を。
そんな棲み分けは、確かにあったものだ。
( ´_ゝ`) 「残った六人のうち、一人だけちゃんと電波が通ってるやつがいてな」
( ´_ゝ`) 「ええと……誰だったか」
.
-
(´・_ゝ・`) 「僕だよ、僕」
(´・_ゝ・`) 「僕だけバリサンだったから、僕の電話貸したんだ」
バリサン、か。
懐かしい響きだが、当時確かにそんなやり取りはあったのだろう。
すぐに、通報は、されたのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´_ゝ`) 「で……人が来るまで、貞子のことは、言わなかった」
(´・_ゝ・`) 「知らなかったんだよ、僕たち」
( ´_ゝ`) 「悪いとは思った」
( ´_ゝ`) 「でも、場所が悪かった」
冷静な判断だ、と思った。
集団でパニックになってしまうのは、この場合もっとも最悪な展開なのだ。
誰かが、わけもわからず助けようと、自らも飛び降りてしまうかもしれない。
どんな人間も、理性を失うと、何をしでかすかが本当にわからないものなのだ。
.
-
( ´_ゝ`) 「完全に町から切り離された、山奥」
( ´_ゝ`) 「自分たち以外、誰も助けてくれる人がいない」
( ´_ゝ`) 「貞子を残して帰るわけにもいかない」
( ´_ゝ`) 「まして霧が濃かった、車を出して遭難なんてしてられんしな」
(´・ω・`) 「……ん?」
いま、妙なことを言ったな。
そう思ったのと同時に、イナリちゃんが既に口を切っていた。
イ(゚、ナリ从 「霧は、出ていたのですね?」
( ´_ゝ`) 「え?」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子を見た時、あなたは霧がなかったと言った」
イ(゚、ナリ从 「でも、通報した後、霧が濃かったとおっしゃる」
.
-
( ´_ゝ`) 「あれ?」
(´・ω・`) 「……」
これは、どう見るべきか。
ただの言葉のあやか。
記憶が混同しているのか。
それとも、貞子を目撃した時既に霧があったのか。
霧で見えづらいなか、先ほど自分で言っていた
「感覚」 が働いたのか。
そんな第六感、物理的にあり得ない。
と思いたくはなるが、不思議なことに、
人間は、科学に囚われないスピリチュアルな感覚が働く時が本当にあるのだ。
もっとも、当時ほんとうにそうだったかまでは保証できないけど。
( ´_ゝ`) 「……どうだったっけ」
(´・_ゝ・`) 「霧……どうだろう」
(´・_ゝ・`) 「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかった」
イ(゚、ナリ从 「……そうですか」
.
-
(´・ω・`) 「霧のデータって、事故ファイルにあったのかい?」
イ(゚、ナリ从 「いえ」
イ(゚、ナリ从 「事故当時の日時、場所を気象データに照会したものです」
(´・ω・`) 「……ふむ」
イ(゚、ナリ从 「少なくとも、事故ファイルに、気象の記述はありませんでした」
なんとも言えないところだった。
デミタスも曖昧にしか思い出せないのを見る辺り、
当時はそれどころじゃない空気が漂っていたのだろうと察しはつく。
やはり、当時のその事故を担当した警官にアプローチすべきだろうか。
しかしそれをイナリちゃんに問うと、少し声のトーンを落とした。
イ(゚、ナリ从 「既に、確認はしております」
(´・ω・`) 「おっ」
イ(゚、ナリ从 「覚えてない、とのことでした」
イ(゚、ナリ从 「霧のことじゃありません。
事故のことを、です」
.
-
チッ。
まあ、当人のことを考えると、仕方がないか。
今の僕らは、当時の事故を疑ってかかっている。
しかし、当時の彼にとっては、それは事故として終わったものなのだ。
何かしらの悪意渦巻く事件ならともかく、偶発的な事故はそう記憶に留まらない。
霧、か。
イ(゚、ナリ从 「平行線ですか」
(´・ω・`) 「そう簡単に糸口なんて見つからないよ」
(´・ω・`) 「ッてことだし、一旦僕らはコテージまで行きたいところなんだけど」
イ(゚、ナリ从 「……」
十年も前の、それも現場ですらないコテージに証拠などあるわけがない、
時間の無駄で非効率的だからやめておけ、と思っているのか。
虫がいやなのか。
.
-
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「あんたはどうするよ」
(´・_ゝ・`) 「へ」
僕と兄者、一応の鑑識も連れていく。
当事者が多ければこちらとしては検討は進めやすいところだ。
イ(゚、ナリ从 「差し支えなければ、こちらでお話を引き続きお伺いしたいのですが」
(´・_ゝ・`) 「え、え。」
(´・ω・`) 「ん」
同時進行で事故を掘り下げ、落ちるはずの捜査効率を高めたいのか、
ひとりが嫌なのか。
(´・_ゝ・`) 「……」
(´^_ゝ^`) 「どうしたらいいですかね……」
.
-
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「こっちはこっちで、検討を進めておくし」
(´^ω^`) 「そっちの警部さんにも、いろいろ当時のこと、話してあげて」
(´・_ゝ・`) 「は、はい」
.
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐-
'、
| .、
l
!
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ,
ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第八幕 「 アルプス山脈にて
」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l
..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l
ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;::::::::::::::://
l:::::::l
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-
┏━─
午前十時一六分 捜査本部
─━┛
鈴木ももう戻るという一報を聞き、念のためにコーヒーを余分に淹れておいた。
ペニー、鈴木、東風さんに自分と、警部以外の全員が揃うことになる。
イレギュラーな会議になるが、事情を聞けば警部が抜けてよかったと思えた。
( ゚д゚) 「アルプスも動いたか」
( <●><●>) 「しかも、親子警部が、ですよ」
( ゚д゚) 「勘弁してくれ」
.
-
東風さんは軽く笑って、淹れたての熱いそれを口に含んだ。
彼に限らず、アルプスの三月親子を敬遠する者は多い。
片や警察で一番長い現役経験を重ねる三月ウサギ。
片や幹部候補筆頭のキャリア組である三月イナリ。
まして、ふたりが並ぶと、周囲にいる人間のペースを著しく乱す。
東風さんにとって、三月ウサギは目の上のたんこぶだ。
現場一辺倒としてヴィップでは名を馳せる身分にいるが、
その自分の更に上をいく男が三月ウサギというのだから。
また、相対的に現場を重視しない三月イナリにも、苦手意識を持っている。
考えが合わない部分が多く、しかし相手は若い女性の、しかも上司だ。
その二人が揃っているのだから、居づらくなるのは言うまでもないことだ。
('、`*川 「イナリさんって、まだ警部なんだっけ」
( <●><●>) 「一応は」
('、`*川 「あの人、女としてはカッコイイんだけどさ」
('、`*川 「頭カタいよね」
.
-
イナリは一時期、短い期間ではあるがヴィップ県警にも配属されていた。
私とペニーは、当時のイナリとの面識がある。
いま、遅れて本部に戻ってくる鈴木だけが直接的な面識はない。
有名人には違いないので、むろん知らないわけではないそうだが。
('、`*川 「モデルとか似合うと思うんだけどな」
( <●><●>) 「……」
ヴィップ県警にいた頃の彼女を、思い出す。
彼女は、ずば抜けて頭がいい。
しかし、周囲の人間はそうでもないのだ。
冷静に考えてみれば正しい方針、意見を彼女が言ったところで、
他の人間はそれを理解できないのだから、そこで溝が生じることが多々あった。
( ゚д゚) 「いま、いくつだったっけ」
( <●><●>) 「私の二個下なので、今年で二十八ですね」
( ゚д゚) 「かーー。 時間が経つのは早いもんだ」
.
-
('、`*川 「まだ独身なの?」
( <●><●>) 「そこまでは知らん」
( ゚д゚) 「結婚……してられる暇がないだろうなァ」
('、`*川 「絶対オンナとしての生き方間違えてるわ」
( ゚д゚) 「お前が言うな、お前が」
そんな三月親子をいなせる希少な人間のひとりが、警部だった。
三月ウサギとは古くからの師弟関係、のようなもので。
ヴィップ在籍時の三月イナリを指導したのも、警部だ。
話に聞くに、じゅうぶん強い個性を放っている警部が霞んで見えるらしい。
しかし、まあ。
うまく立ち回ってくれるだろう。
( ゚д゚) 「で……なんだっけか」
('、`*川 「亡霊、ですよ」
('、`*川 「亡霊」
.
-
亡霊。
昨夜、突如判明した 「亡霊」 の存在。
それに付随し浮上した、本件のほんとうの側面。
十年前に、サークル内で発生した事故。
それは実は作為のもと成り立った事件で、
被害者となった山村貞子による復讐劇が連続予告殺人ではないのか、という説。
これには、複数のネックが存在する。
一番は、山村貞子という女が、生存しているのかどうか。
また、十年前の一件は、警察では事故として処理されている。
ここに事件性が見出されないようであれば、動機は非常に薄くなる。
以上、大きな二点をクリアしてもなお、不審な点は募る。
連続殺人のひとつひとつが、依然不鮮明なままなのだ。
/ `、、;/ 「お待たせしましたーー!」
('、`*川 「オッ!」
.
-
ペニーが、自分のコーヒーにおかわりを淹れている時だった。
思いのほか早く、鈴木が帰還した。
心なしかくたびれて見えるスーツを着て、
違和感しかないストールをなびかせていた。
( ゚д゚) 「走るな、走るな」
/ `、、 / 「疲れたんですよ……もう……」
('、`*川 「ほい」
/ ゚、。 / 「ん」
鞄をデスクに置きながら、渡されたコーヒーを受け取った。
疲れたのは本当のようで、髪が多少乱れていた。
/ ゚、。 / 「……」
/ `、、 / 「カフェインが五臓六腑に染み渡るーー」
('、`*川 「ねーー」
.
-
/ ゚、。 / 「で、えっと」
/ ゚、。 / 「話、どこまで進んでますか」
( ゚д゚) 「いや。 これから先にしとこうか悩んでたところだ」
('、`*川 「亡霊の話をチョロっとしただけよ」
/ ゚、。 / 「あーー亡霊」
全員が、ホワイトボード前のデスクに集まる。
東風さんとペニーが椅子に座っている。
/ ゚、。 / 「警部がいないのって、珍しいよね」
('、`*川 「普段メンドーなのに、いざという時いないと心許ないよね」
( ゚д゚) 「上司ッてのはそんなもんだ」
警部は、十年前の現場となったアルプス山脈に出向いている。
向こうで得られる情報なんてあるのだろうか。
当時の証拠など、一切がなくなっているに違いないのに。
.
-
( ゚д゚) 「とりあえず、始めるぞ」
東風さんが自分に視線を遣る。
( <●><●>) 「そうですね」
( <●><●>) 「亡霊、とかいうのが昨夜、警部に宣戦布告をしてきました」
亡霊の存在、亡霊の予告。
「亡霊」 と十年前の事故の被害者が、山村貞子という名前を通じて繋がった。
犯人は、彼女と断定して差し支えはないだろう。
十年前のそれが本当は事件だったのか、に関しても、警部とアルプス県警が洗っている。
我々が進めるべき検討は、亡霊にはない。
亡霊に関する情報が少なすぎるし、洗える部分がほとんど残っていない。
それ以上に、それまでの四件の事件を追究しなければならなかった。
( <●><●>) 「たとえ犯人が亡霊だったとして」
( <●><●>) 「畢竟、いままでの四件は、未だ手口が不明なのです」
.
-
横長のホワイトボードには、文字がびっしりと詰められていた。
現場写真やサークル構成員の顔写真ですら、すべてがひっぺがされている。
最初の、スカスカだった頃と比べると、雲泥の差だ。
いま、捜査は佳境に入っている。
( <●><●>) 「一件目、地下鉄事件」
( <●><●>) 「概要は今更いいとして、だ」
ヴィップの地下鉄で起こった事件。
走行中の車両内で、フッサール擬古が、後ろから刺殺された。
乗客は多く、亡霊はそのなかに紛れてさり気なく殺し、そのまま脱走に成功した。
( <●><●>) 「監視カメラのデータが、ここにあります」
( ゚д゚) 「洗ったのか」
( <●><●>) 「はい」
( <●><●>) 「しかし、三点問題がありました」
.
-
一点目。
大勢が逃げるように、改札、出口へと押し寄せたのだ。
ただでさえ顔まで鮮明に描写されない映像だ、
ましてそのなかから個人を特定するのは、厳しいと言わざるを得ない。
二点目。
それでも、多くの人員を割いて、一人ひとりの乗客をチェックした。
サークル構成員の顔写真はあるのだ。
それらをもってチェックしたが、しかし擬古以外の誰一人として、その地下鉄には乗車していなかった。
三点目。
亡霊、とは言うが、山村貞子という女性なのは特定している。
容姿の証言は聞いて、モンタージュまで作らせてはいるものの、
女性で、しかも大事故を経ている、こちらはあてにならないだろう。
そのため、ざっくり 「女性」 に焦点を絞って、映像を洗いなおした。
当時の駅員の証言も含めて、取調ができていない女性全員も大まかな特定に成功している。
( ゚д゚) 「女性……か」
('、`*川 「そもそも、女性が少ないですネ」
( ゚д゚) 「真夜中の電車ともなりゃあ、な」
.
-
( <●><●>) 「容姿はあてにしない、としても」
( <●><●>) 「三十二歳、職業、など、最低限ホシか否かを見分けることはできます」
( ゚д゚) 「まあ、ばあちゃんや学生は該当しねえからな」
( <●><●>) 「で、洗った結果ですが」
、 、、、、 、 、
、 、、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、
、、 、、 、
( <●><●>) 「少なくとも、山村貞子と条件が合致する女性は存在しなかった」
_,
( ゚д゚) 「……はあ?」
その報告を受け、私も徹夜で一緒にダブルチェックしたのだ。
信じたくはないが、確かに断言できることではあった。
、 、、 、 、、 、
、
( <●><●>) 「乗っていなかったのですよ」
( <●><●>) 「山村貞子になり得る女性は……誰一人」
.
-
('、`*川 「待って、待って」
('、`*川 「それって、アレでしょ」
('、`*川 「取調から逃げた人だけ……の話でしょ?」
( <●><●>) 「取調を受けた乗客のデータなど、全部洗った」
膨大な量だった。
もはや捜査員が信じられなくなったので、私も一緒に洗った。
途方もない作業だったものの、さほど苦は感じられなかった。
真相に近づけている気がしたからだ。
しかし、作業が終わった瞬間、この上ない徒労を感じたものだ。
( ゚д゚) 「いなかったのか?」
( <●><●>) 「いえ。 年齢や職業から、可能性のある人は、数人」
( <●><●>) 「しかし、全員がアリバイ持ちです」
.
-
,_
('、`*川 「アリバイ?」
/ ゚、。 / 「逆に怪しいね」
( <●><●>) 「アリバイ、というのは、だ」
( <●><●>) 「山村貞子にはなり得ないアリバイ、という意味だ」
('、`*川 「………ああ、そゆこと」
家族がいたり、過去に大きな事故がなかったり。
少なくとも、データをアルプス神経病院に照会すれば、一発なのだ。
今朝がたになって、先方は協力的にこちらの捜査に応じてくれた。
多くの捜査員と一緒に私も担当したが、結果はゼロだった。
/ ゚、。 / 「なんか、こう、戸籍だったり来歴をごまかしたりは?」
( <●><●>) 「すべて洗ってある。
シロだ」
公的な書類だったり、年齢などの個人情報は、
たとえ詐称されていたとして、警察の手に掛かれば特定そのものはすぐにできる。
何から何に、どうやって変えたか、までは骨が折れるものの、
少なくとも詐称しているかどうか、に関しての捜査は一時間も費やさなかった。
.
-
( ゚д゚) 「……まとめると、だ」
( ゚д゚) 「あの日、あの車両に、亡霊はいなかった」
( <●><●>) 「車両から逃げ出した人、取調を受けた人」
( <●><●>) 「そのどちらにも、亡霊たりうる人物はいなかったのです」
膨大な徒労を思い出し、頭が痛くなった。
こんな時、警部や東風さんが煙草を吸っているのを真似てみたくなりはする。
( ゚д゚) 「それ以外は、洗ったのか?」
( <●><●>) 「と言うと」
( ゚д゚) 「実は、本件は二人がかりだった」
( ゚д゚) 「亡霊の真相を知るサークル構成員のうち、誰かが手を貸したんだ」
.
-
( <●><●>) 「想定は、正直なところ、していませんでした」
( ゚д゚) 「なら」
( <●><●>) 「しかし、構成員に関しては、とっくに完了しています」
( <●><●>) 「誰一人、映像にも取調にも引っかかっていません」
もとより、構成員がわかった時点でその調査は済ませてあるのだ。
しかし、となるとわかる答えが、異常に重く圧し掛かる。
( ゚д゚) 「ッてなると」
( ゚д゚) 「……亡霊は、外部犯と協力した可能性が濃厚になるぞ」
それが、何よりも厄介だった。
この期に及んで、サークル外に仲間がいたとなると、収拾がつかない。
.
-
亡霊本人は、こう言った。
亡霊に、実体はない。
人から見られることなく、普通に刺して、そのまま逃げた、と。
心霊的なものを信じるわけではないが、
この時に限り、ぜひともそうあってほしい、と思えてならなかった。
('、`*川 「だったら、男」
('、`*川 「カメラの映像って、女しか見てないんでしょ」
( <●><●>) 「言うがな、なんのデータもなしにそのチェックはできない」
ただでさえ、取調から逃げた乗客の大多数が男性だ。
それも、スーツを着た人が多かった。
やましいことがあったから、ではない。
面倒事に巻き込まれて、明日の出勤に支障をきたしたくなかった、といった具合だろう。
その人間的な心情を責めることは、私にはできなかった。
( <●><●>) 「何か、データがあれば」
( <●><●>) 「事件関係者になり得る、男の……」
.
-
( ゚д゚) 「害者まわりはどうだったんだ」
( ゚д゚) 「ペニー、地下鉄担当はペニーだろ」
('、`*川 「少なくとも、そんな都合のいい男、のデータはなかったですよ」
一件目にして、もはや最大の障壁と言っていいだろう。
ここを解かないことには、これから始まる連続殺人鉄道の切符が買えないのだ。
('、`*川 「でも、ですね」
('、`*川 「ちょっとこれを見てください」
( ゚д゚) 「ん」
ペニーが意味深に、一枚の紙を取り出した。
声色からして、ジョークではない。
手がかりだ。
('、`*川 「これは、初動捜査でわかっていたことだったんですが」
('、`*川 「今の今まで、事件性がないと思われていたデータです」
.
-
( <●><●>) 「……」
( <●><●>) 「!」
( <●><●>) 「アルプス神経病院……!」
思わず声がこぼれた。
書類には、彼の電話に登録されていたカレンダーが載っていた。
そのなかに、赤ペンで丸を付けられている日付があった。
五月四日、日曜日。
アルプス神経病院、とだけ書かれてある。
('、`*川 「アルプス神経病院」
('、`*川 「当然ではありますが、これは擬古が殺されるより、前」
('、`*川 「四月二十五日……より以前に書かれた予定です」
流石兄者が任意同行前に訪れていた場所であり、
山村貞子が十年前に搬送された場所である。
本事件のキーの、ひとつだ。
.
-
('、`*川 「フッサール擬古は、流石兄者よりも先に」
('、`*川 「……ッていうと、伝わんないか」
、 、 、 、 、 、 、、 、、
、 、
('、`*川 「連続殺人が起こるより前に」
('、`*川 「山村貞子との接触を試みようとしていたのが、わかります」
( ゚д゚) 「でかしたぞ!」
東風さんが、腹の底にたまっていた声を出した。
しかし、これだけではデータとしては、弱い。
( <●><●>) 「それはいいとして、だ」
-
兄者は、事件を通して裏に貞子の存在を懸念したから、
アルプス神経病院に出向いていたわけだが。
それはあくまで、連続殺人が巻き起こっているからこそ成し得た行動だ。
フッサール擬古はその事件が起こるより前に、既にアプローチをとっていた。
( <●><●>) 「裏では、事件よりも前に貞子との接触が計画されていた」
( <●><●>) 「いったい、その目的はなんだったんだ?」
('、`*川 「わかることがふたつ、あるわ」
ペニーにしては論理的な展開だった。
しっかり裏までとっているらしかった。
('、`*川 「まず、どうしてこの日付か、ということ」
( ゚д゚) 「気になるのはやっぱり……」
東風さんにつられて、皆がホワイトボードを見る。
五月四日といえば、芹澤ミセリに殺害予告が届いた日だ。
.
-
( <●><●>) 「しかし、ミセリと病院はリンクしませんし」
( <●><●>) 「ミセリの殺害も、単にクックルを殺した続き、と見るべきです」
('、`*川 「ううん、そっちじゃないの」
('、`*川 「ポイントは、休日だった、というところ」
続けてペニーが小ぶりの紙を出す。
自前のメモのようで、日付と思しき数字が羅列されている。
('、`*川 「これは、害者が勤めていた整骨院から聞いたわ」
('、`*川 「三日、続けて四日が休日だったの」
( ゚д゚) 「休日……」
、、
、 、、 、、 、、、 、
('、`*川 「害者にとってはひとつのイベントとして、組み込まれていたわけです」
('、`*川 「で、こっちも重要だわ」
('、`*川 「ようやく、データが上がってきたんだ」
次はちゃんとしたA4の紙だ。
エクセルで作られたもののようで、細かい字がリスト上にびっしりと並んでいる。
.
-
('、`*川 「サイバー犯罪対策課が、やってくれた」
('、`*川 「フッサール擬古が、渋沢栄吉のサイトにアクセスしてた痕跡が割り出されたわ」
( ゚д゚) 「!」
('、`*川 「といっても、ほんとうについさっき、だけどね」
こんなにも大量の、有益な情報の数々。
平生のペニーならば、判明した時点で嬉々として話しそうなものだ。
呑気にコーヒーを飲んでいた時とは比べられないほど、ペニーの眼は据わっていた。
('、`*川 「チケットや予約データからは、割り出せなかった」
('、`*川 「害者は別に、ライブを聴きたかったわけじゃなかったみたいでね」
リストには、多くのIPアドレスが記載されている。
害者のPCから、彼の生前にアクセスがあったことが証明された。
.
-
('、`*川 「むしろ、逆」
('、`*川 「害者は、ライブよりも目当てがあったと見るべきさ」
( ゚д゚) 「クックルに会うつもりだった、と」
( <●><●>) 「しかし、ふたりの間にそんなやり取りがあったなんて」
('、`*川 「あのさ、さっきわかったばっかなんだぜ」
('、`*川 「そこら辺の裏取りは、これから進めるんだい」
( <●><●>) 「……」
('、`*川 「ただ、その線は濃いね」
( ゚д゚) 「いまいち、解せないな」
フッサール擬古は生前、山村貞子に接触しようとしていたのがわかった。
また、渋沢栄吉のサイトを閲覧していた痕跡が認められた。
ライブがあった五月三日、ならびに翌日の四日は休日で、
その四日に、アルプス神経病院に行く旨が予定されていた。
.
-
畢竟、それらは何を紡ぎだすというのか。
問う前に、ペニーは続けた。
('、`*川 「重要なのが、神経病院に何の用だったか、よ」
('、`*川 「あのね、貞子が病院に送られたの、十年前なんでしょ?」
( <●><●>) 「ああ」
('、`*川 「仮に貞子に用があったとして、だ」
('、`*川 「さすがに、事前に電話で確認くらい、とるでしょ」
('、`*川 「先週先月の話じゃないんだし」
( <●><●>) 「むろん」
( <●><●>) 「……待て」
( <●><●>) 「害者から病院への電話は」
('、`*川 「なかったわ」
.
-
兄者たちの証言によると、サークルの構成員は、この十年間。
例外はあるにせよ、ほぼ疎遠な関係だった。
擬古も例に漏れないならば、擬古は四日の日、
およそ十年ぶりに貞子に会いにいくことになる。
それも、それはあくまで、貞子が一切目覚めず、
また一切転院などしなかった場合の話だ。
兄者の言にもあったが、植物状態の患者というのはよく転院するそうだ。
その風習を知らなかったにしても、
まだ貞子がそこに眠っているかの確認は、しなければおかしい。
( ゚д゚) 「完全に、か」
('、`*川 「少なくとも、害者の端末や、職場の固定電話からは」
('、`*川 「これって言い換えたら、こうなるのよ」
、 、
、
('、`*川 「擬古は、貞子のその後を知っていた」
.
-
( <●><●>) 「貞子が転院していたことを、か」
( ゚д゚) 「ただの惰性か無知で、いきなり見舞いに行こうとした線は」
('、`*川 「ないですね」
('、`*川 「突発的ならともかく、一週間以上先に、」
('、`*川 「それもわざわざカレンダーに打ち込んでた程には、計画性があったんです」
('、`*川 「害者にとってこの見舞いは、軽くはない計画だった」
しかし、だとするとわからないことが出てくる。
目下アルプス県警が当たっているだろうが、
何にせよ、貞子のその後は、現状わかっていないのだ。
/ ゚、。 / 「いま、貞子はどこにいるの」
('、`*川 「それも、これから暇な奴らかき集めて当たるわ」
.
-
( ゚д゚) 「どう当たるつもりなんだ」
('、`*川 「それですけどね、いやあ、いいアテがあるんですよ」
( ゚д゚) 「アテ」
('、`*川 「整骨院の院長さんに、さっき電話したんだ」
、 、 、 、 、
('、`*川 「害者の担当、について」
( ゚д゚) 「担当?」
('、`*川 「害者は、その若さやキャラが買われてた」
('、`*川 「ジジババに結構な人気があったみたいで、そっちに人脈が広かった」
('、`*川 「……孤児院とか、お寺とか」
('、`*川 「そっち方面に、顔が広かったッて証言がとれたんよ」
.
-
( <●><●>) 「!」
なるほど、悪くない着眼点だと思った。
前提として、擬古もサークル構成員のひとりで、
ということはつまり、ミセリやデミタス同様に、貞子という禁忌を背負っていた。
また、植物人間の療養と言われて、孤児院なんかが浮かぶのもおかしくはない。
病院に預けたままというのは、コスト面で非常に負担が大きい。
/ ゚、。 / 「それなら、私からも一点」
/ ゚、。 / 「さっきまで、山村貞子の家族構成について洗ってたんですがね」
仕事が速いな。
いや、だからこそ合流が遅れた、とも捉えられるが。
/ ゚、。 / 「貞子は現在、天涯孤独です」
( ゚д゚) 「なッ…」
/ ゚、。 / 「もとより、シングルマザーの手で育てられた貞子」
/ ゚、。 / 「彼女が眠って三年ほどで、母は心的疲労で死去しています」
.
-
考えてみるまでもない話だった。
人間にとって、植物状態というのは死亡以上に重い、
考えられる限り最悪な様態と言えるだろう。
シングルマザーと聞いて合点がいった。
一般家庭においても負担が大きいのに、
まして経済的に苦しい片親の家庭となると、病院には長居できまい。
('、`*川 「それを聞いてさ」
('、`*川 「ビンゴだ、ッて思ったの」
( ゚д゚) 「確かに、金銭が負担されない植物人間なんて、」
( ゚д゚) 「どんな良心的な病院でも担当できねえもんだ」
('、`*川 「ただ、例外がある」
('、`*川 「それこそ、孤児院的なところや、宗教施設です」
.
-
( <●><●>) 「いま、アルプスが総力で行方を追っているらしいが」
('、`*川 「逆、なんだよ」
('、`*川 「正式な手続きが踏まれた転院なら、すぐに特定できるわ」
( ゚д゚) 「……あくまで個人的な引取り、だったわけだ」
('、`*川 「こっからは単なる推測ですがネ」
ペニーがワンテンポ置いて、話し出した。
('、`*川 「擬古は、当時もう整体師」
、、、
('、`*川 「まして、二十半ばの若さ、既にファンはついてたと見ていい」
('、`*川 「寺とかそっち方面のお客さんと仲良くなっていた、として」
('、`*川 「貞子が病院にいられなくなったことを知って、」
('、`*川 「ダメ元で、事情をお客さんに言う」
('、`*川 「当時、母ちゃんが合意したのか、もう亡くなってたかはわからないけど」
.
-
('、`*川 「擬古が、貞子を守るために、あくまで個人的に」
('、`*川 「親権者でもないのに、貞子をその施設に連れて行った」
( <●><●>) 「病院が回答に躊躇っている理由も、つまり」
('、`*川 「回答するとグレー、あるいはブラックが露呈するから……だったら?」
考えられない話では、なかった。
植物人間を預かる病院の本音を考えてみればいい。
患者の様態維持に、多大なコストがかかる。
まして、非常にデリケートな問題で、病院としても非常に頭を抱える案件だろう。
それを、法が守っていない範囲であろうが、引き取ると申し出てくれる人がいたら。
その人が、宗教関係者で、慈悲のためともあらば、病院側はどう思うだろうか。
たとえ正式な手続きを踏んでいなかったとしても、だ。
('、`*川 「……マ。 あくまで仮説だけどね」
('、`*川 「ただ、望みは十分にある」
.
-
( ゚д゚) 「擬古が、貞子を救い得る手段を持っていた可能性」
( ゚д゚) 「それはわかった」
東風さんが、最初の紙を表に出した。
五月四日、アルプス神経病院と書かれた紙だ。
( ゚д゚) 「じゃあ、これはなんなんだ?」
( ゚д゚) 「仮説が正しいとすると、今更病院になにがある」
('、`*川 「それなんだけどね、こう考えたら辻褄があうんですヨ」
('、`*川 「貞子が、目覚めた」
( ゚д゚) 「!」
('、`*川 「それを報告しようと思ったか、あるいは別件か」
('、`*川 「とにかく、擬古は貞子の目覚めを誰よりも早く知ることができた」
.
-
( <●><●>) 「裏こそ取れてないものの」
( <●><●>) 「それは、私も賛成できるな」
/ ゚、。 / 「え、根拠は」
( <●><●>) 「考えてもみろ」
( <●><●>) 「今までの四人を殺してきたのは、誰だ」
/ ゚、。 / 「それは……」
/ ゚、。 / 「!」
( ゚д゚) 「そうか!」
( ゚д゚) 「そもそも貞子が目覚めたのが全ての発端じゃねえか!」
.
-
もし、貞子が目覚めていなかったとするなら、
いったい、今までの四人を殺したのは。
警部に宣戦布告を突き付けてきた亡霊は、いったい誰だったというのか。
貞子の目覚めをなしに、今回の連続予告殺人はなかったのだ。
貞子が目覚めたから、事件が起こった。
それを前提に考えると、確かに筋が通った仮設と言える。
('、`*川 「順序は、こう」
('、`*川 「擬古は、なにかしらのコネで貞子を引き取った」
('、`*川 「そして最近になって、貞子が目覚めた」
('、`*川 「それがキッカケで、アルプス病院に行く予定も組んだ」
('、`*川 「一方で、貞子は目覚めたことで亡霊となった」
('、`*川 「全員を殺してやるッて怨念が、まず真っ先に、」
('、`*川 「一番近くにいた擬古を殺した」
('、`*川 「……どう?」
.
-
何もなかったところから、うまく組み立てられたストーリーだとは言えるだろう。
しかし空しいが、それで解決できるほど簡単な事件ではない。
穴が、それも無視できない欠陥が多かった。
( <●><●>) 「すまんが、それだけじゃあ弱い」
( <●><●>) 「各事件のトリックはさて置いて、だ」
('、`*川 「うっわヤな言い方……」
軽く咳払いする。
申し訳ないとは思っているのだ、これでも。
( <●><●>) 「目覚めたばかりの貞子に、」
( <●><●>) 「十年前の面々に会う手段は残されていない」
( <●><●>) 「擬古とミセリはいいとして、ヒッキー、クックルとどうつながったんだ」
('、`*川 「……」
.
-
/ ゚、。 / 「ミセリも?」
( <●><●>) 「ミセリは、旦那のクックルから容易に辿ることができる」
( <●><●>) 「しかし、ヒッキーとそのクックルへ、どうコンタクトを取るか、だな」
( ゚д゚) 「……そうだな」
東風さんも、渋い声を出した。
( ゚д゚) 「なんでも、部長の流石兄者ですら、連絡手段はほとんどなかった」
( <●><●>) 「十年前に自然消滅したサークルですから」
( <●><●>) 「それに人間、十年も経てば環境はがらりと変わる」
( <●><●>) 「当時の連絡先が十年後も通じているなど、まず考えられない」
('、`*川 「擬古がヒッキー、クックルと繋がってなかったのは、認めるさ」
('、`*川 「こないだまで、ずっとこの私が追ってたんだから」
.
-
('、`*川 「だから、こっちも博打だけどね」
('、`*川 「あくまで、擬古はローカルな整骨院に勤めてただろ?」
( <●><●>) 「……!」
まさか、そんな偶然があるのか。
いや、考えられない話ではない、のか。
('、`*川 「ヒッキーを除いて全員が、ヴィップの人間でよ」
('、`*川 「地元には顔が広い整骨院さ」
('、`*川 「なにも、ここ最近じゃなくッたっていい」
('、`*川 「十年も勤めてたら、一度くらい来院してたッて……」
( <●><●>) 「……まさに博打、だな」
('、`*川 「こっちは期待してないさ」
.
-
スマホに連絡先が載っていなかろうが、
実際に会って話すことはもちろん可能だ。
店に訪れると、旧知の友人がいた。
当然、昔話のひとつ、するだろう。
そういったところでコンタクトを握っていたなら、あるいは、があり得るか。
当然、非常に望みの薄い話ではある。
('、`*川 「……以上が、このペニー様の結果よ」
('、`*川 「ひとつ、擬古は貞子と接触していた可能性があった」
('、`*川 「ひとつ、貞子は擬古のツテに引き取られた可能性があった」
('、`*川 「……質問は」
( <●><●>) 「ちょっと待ってくれ」
('、`*川 「ゲッ」
勝ち誇っているところに横やり、本当に申し訳ないとは思う。
しかし、気になるところは徹底的に潰していかなければ不安が残る。
.
-
( <●><●>) 「五月四日、の件はいい」
( <●><●>) 「渋沢栄吉のサイトに残っていたIPは、なんだったんだ」
('、`*川 「ああ、それ」
('、`*川 「一応の裏づけ、保険よ」
( <●><●>) 「保険?」
('、`*川 「そうね……たぶんクックルだわ」
('、`*川 「クックルと擬古は生前コンタクトを取っていて、」
('、`*川 「渋沢のライブの警備をする、なんて話を聞いたとしたら?」
( ゚д゚) 「……そうか。 そうだな」
( ゚д゚) 「ライブそのものに興味はなくとも、確かにサイトにアクセスくらいはしてもいい」
('、`*川 「そゆこと」
.
-
( <●><●>) 「……」
一気にわかった情報が多く、処理が追いつかない。
擬古は、クックルがライブ会場に行くことを知っていた。
それが意味するところの真実は、なんだというのか。
/ ゚、。 / 「……職場って、ご高齢が多いんでしょ?」
/ ゚、。 / 「職場の雑談の流れで、なんとなく見ただけだったら?」
('、`*川 「そっちの線はないわ。 院長さんに裏、取ってあるもの」
('、`*川 「擬古に、渋沢に向ける興味はなかった、ッてね」
/ ゚、。 / 「そっか」
絶対にないとは言えないが、
クックルと接触し、ライブのことを聞かされない限りは、
当該サイトにIPアドレスが残ることはまあないだろう。
というより、薄そうな線を切っていかなければ、
無限に伸びる樹形図を、限られた時間内で当たっていくことはできなくなる。
.
-
/ ゚、。 / 「じゃあ、次」
/ ゚、。 / 「ヒッキー小森が殺害された、ビジホ殺人ね」
警部が、本件のキーだと言っていた事件だ。
もとより謎が多く、ここも解かなければならない、ひとつの山場。
/ ゚、。 / 「まず、それまでにわかっていた謎から……おさらい」
/ ゚、。 / 「……」
( <●><●>) 「……」
どうして皆、おさらいや概要説明に私を使うのか。
法廷で冒頭弁論に使われるような気分だ。
( <●><●>) 「まあ、いい」
( <●><●>) 「一番はなんといっても、どこでアレルゲンを盛ったか、だ」
.
-
( <●><●>) 「亡霊は二件目で、ビジホの個室内で害者を殺害した」
( <●><●>) 「遠隔殺人に用いられたのは、ピーナッツオイル」
( <●><●>) 「つまりこの時点で、いつ盛ったのか、いつ知ったのか、が謎となる」
いつ盛ったのか、はデータさえあれば証明はできるが、
奇妙なのは、サークル構成員の誰もがアレルギーを知らなかった可能性がある点だ。
一番付き合いの長い兄者でさえ、ピーナッツの件は知らなかった。
警部がかまをかけた上での証言なのだから、信憑性は高い。
むろん、我々の知らないところで知られていた可能性はある。
構成員が、貞子含む七人いたうち、話が聞けたのは半数にも至らないのだから。
( <●><●>) 「まして、害者はアルプスの人間」
( <●><●>) 「亡霊がヴィップに固執していた理由はさて置いて、」
( <●><●>) 「害者が現場に赴いたのは、単なる偶然だ。
作為はなかった」
.
-
鹿島建設、と言ったか。
所轄署を使って調べさせたが、やはりこちらに作為は認められなかった。
あらかじめ決まっていた案件とはいえ、
それを社外の人間が知るのはいささか不自然といえる。
亡霊が害者のスケジュール帳なんかを覗いた可能性も考えにくい。
となると、害者が亡霊に、雑談がてらヴィップに行くことを話した以外ないだろう。
なら、それはいつ、話したのか。
また、害者は害者で、構成員との繋がりはなかったのではないか。
あったとするならそれは兄者だが、兄者が最後に話したのは少なくとも去年今年ではない。
犯行タイミング、ピーナッツアレルギー、ヴィップへの出張。
大きく分けただけでも、難解な謎が三つもある。
/ ゚、。 / 「ヒッキー小森は、両親と弟の四人家族」
/ ゚、。 / 「住まいは当時も今もアルプス」
/ ゚、。 / 「サークルに勧誘されたのは、旧知の兄者に呼ばれたから、だけど」
/ ゚、。 / 「やっぱり、アルプスとヴィップの繋がりが薄いのが、ひとつの謎だね」
.
-
/ ゚、。 / 「とりあえず、アレルギーの謎を解かないと前には進めないんだけどね」
/ ゚、。 / 「アレルギーを知り得たのは家族くらいで、」
/ ゚、。 / 「職場の人間ですら、アレルギーのことは知らなかったみたい」
/ ゚、。 / 「ご実家に話を伺いにいったものの、」
/ ゚、。 / 「害者が過去にアレルギーでやらかしたこともなかったみたいで」
/ ゚、。 / 「アレルギーに過敏になりはするものの、別にぺらぺら喋ることでもなかったッて」
( ゚д゚) 「主治医の線はどうだ」
( ゚д゚) 「確か、ナントカって薬にもアレルギーがあったみたいじゃねえか」
/ ゚、。 / 「そっちもですね」
/ ゚、。 / 「……ッてより、親御さんにも変な顔をされたんだけど」
/ ゚、。 / 「やっぱり、アレルギーなんて、そう簡単に知れるものじゃないですよ」
.
-
( <●><●>) 「……」
それはごもっともだ。
知っていてもおかしくはない。
しかし、知っていないのはもっとおかしくない。
家族と主治医だけが、知っている。
職場の人間も、サークル構成員も、知らない。
当たり前すぎて、かえって掴みどころがない。
重要なのは、アレルギーという手段を使った必然性である。
亡霊は、アナフィラキシーショックに拘っていた裏などない。
考えられるのは、亡霊は何かしらで害者のアレルギーを知っていた。
厳重に管理されている毒物なんかを用いるよりは、
市販で手に入るピーナッツオイルを用いるほうがよっぽど楽だ。
したがって亡霊は、楽だからそちらを使おう、と考えるべきなのだ。
/ ゚、。 / 「害者は一人暮らしでした」
/ ゚、。 / 「したがって彼の食生活を知り得たわけでもないし、」
/ ゚、。 / 「何かをよく食べる、ならともかく、何かを拒んでいる、なんて」
/ ゚、。 / 「到底知り得ようがないですよ、亡霊からしちゃ」
.
-
('、`*川 「やっぱり、掛かりつけの病院から情報を盗んだくらいかね」
/ ゚、。 / 「でも、だいぶ薄い、細い、考えにくい線だよ」
/ ゚、。 / 「そもそも、目覚めて間もない亡霊が、そんな用意周到に動くかしら」
( <●><●>) 「じゃあ……」
( <●><●>) 「亡霊は十年前の時点で、既に害者のアレルギーを知っていたわけだ」
となると考えられる可能性。
貞子はヒッキー小森と友人以上の関係があった。
それこそ、兄者が言っていたように、恋人だった可能性もある。
他人よりも深い関係だったならば、アレルギーを例外的に知っていてもいい。
しかし、亡霊が犯人というのは既にわかっていて、
亡霊が貞子というのも既にわかっているのだ。
/ ゚、。 / 「まあ、そこはいいじゃない」
/ ゚、。 / 「……いつオイルが盛られたか」
/ ゚、。 / 「どーーやってもね、調べがつかないんだ」
.
-
( <●><●>) 「確か、害者は」
( <●><●>) 「オオカミ鉄道の在来線に乗って、十八時前に到着」
( <●><●>) 「チェックインまでに、二時間ほど空白の時間があったはずだ」
/ ゚、。 / 「それだけどね」
/ ゚、。 / 「何をしてたかわかったよ」
( <●><●>) 「!」
二時間の空白は、この上なく重要なキーだ。
しかし、鈴木はどうしてこんなに浮かない顔をしている。
もっとペニーのように嬉々たる笑顔をしてもらいたい。
この上なく空しい予感がするのだ。
/ ゚、。 / 「銭湯に行ってたんだ、害者」
( ゚д゚) 「銭湯?」
.
-
嫌な予感は、さっそく的中した。
というより、顔色を窺った時点で、的中はしていたと言っていい。
/ ゚、。 / 「何十人も人員突っ込んで、聞き込みに走って」
/ ゚、。 / 「結果、連絡がきたよ」
/ ゚、。 / 「駅からちょっと歩いた、昔ながらな銭湯で目撃証言が出た……ッて」
( ゚д゚) 「ちなみに、どこだ」
/ ゚、。 / 「べっぷの湯ッてとこです」
/ ゚、。 / 「むっちゃ普通の銭湯で、監視カメラとかもない」
資料すら出さない。
語るに及ばないとでもいうのか。
/ ゚、。 / 「番台に聞いたけど、害者は十八時過ぎに、ひとりで入浴」
/ ゚、。 / 「フルーツ牛乳を相棒に、マッサージチェアで極楽気分だったとさ」
ちゃんちゃん、と〆て、口を紡ぐ。
となると、空白の二時間に、亡霊の干渉はなかったのか。
.
-
( ゚д゚) 「なら、着信履歴は」
( ゚д゚) 「時間はあったんだ、一週間分くらいのデータは出てるだろう」
/ ゚、。 / 「聞きます?」
成果なんてなかったような顔をしている。
嫌な予感がしている、というより、もう的中した。
/ ゚、。 / 「職場が九割以上、残りが家族」
/ ゚、。 / 「050番号だけが手がかり……といったところですね」
( ゚д゚) 「……むう」
警部がキーと言っただけあり、地下鉄殺人以上に謎が深い。
しかし、ポイントさえ解明できれば単純な部分もあるとは思うのだ。
( <●><●>) 「オイルがいつ盛られたか、については」
/ ゚、。 / 「瓶に本人以外の指紋はなかったよ」
/ ゚、。 / 「ただ、ハンカチを使った跡はあった」
.
-
( <●><●>) 「…!」
刑事に従事してわかったことは、指紋という情報は想像以上に強いことだ。
布や手袋を用いて指紋を残さない手法は昔から多く存在するが、
指紋のかすれ具合や繊維の付着などで、
指紋以外の情報をも得られることは、あまり知られていない。
わかったのは、確かに亡霊は、害者に接触していたこと。
そしてそれは、空白の二時間以外で行われたこと。
/ ゚、。 / 「害者宅にも、第三者が訪れた形跡はなかった」
/ ゚、。 / 「となると、オオカミ鉄道だ」
/ ゚、。 / 「当時、害者が乗っていたと思われる車両を、まるごと押さえてるよ」
鈴木にしては、ずいぶんと大規模な介入だ。
と思ったが、そうか、相手はオオカミ鉄道か。
('、`*川 「結果は、まだ上がってないんだ」
/ `、、 / 「さすがに、難しいかな……」
.
-
/ ゚、。 / 「でも、警部が話を回してくれたみたいだよ」
( ゚д゚) 「あの総裁なら、それくらいのことはしてくれるだろう」
('、`*川 「列車をまるごと、ですか」
( ゚д゚) 「警部のコネ、だな」
オオカミ鉄道の総裁が権力に弱いのは有名な話だ。
そんななか、彼は幾度となく警部と面識をもっている。
警部の本音はともかく、総裁からすれば、
警察というあらゆる権力に対抗しうるコネを持っていることになる。
あの警部まで敵に回すとろくなことがないだろう、
先方にしても今回の事件解決は心から応援してくれているに違いない。
( ゚д゚) 「しかし、車両の捜査、か」
( ゚д゚) 「俺も出向いてみてえな」
/ ゚、。 / 「だめですー」
.
-
/ ゚、。 / 「一応、当時害者が座っていた席は特定できた」
( ゚д゚) 「ん。 できていたのか」
/ ゚、。 / 「優先座席……ボックスシートですね」
/ ゚、。 / 「で、そのシートに限定して、参考の指紋も用意されてるけど」
( <●><●>) 「……照合できる指紋がないわけか」
当たり前の話ではあった。
公共機関の、それも座席の指紋ともなればデータは膨大になる。
/ ゚、。 / 「少なくとも、事件関係者と合致するのはなかった」
/ ゚、。 / 「でも、全部リスト化したから、いざとなったら武器にはなるよ」
('、`*川 「でも亡霊って、一応はハンカチ、使ってたんでしょ」
('、`*川 「足を残したりするかなあ」
.
-
( ゚д゚) 「いや、むしろ残しているに違いない」
( ゚д゚) 「瓶に残っていたのが手袋だったら、まだわからねえがな」
( ゚д゚) 「ハンカチってことは、オイルを盛る時だけ、指紋を警戒したんだ」
('、`*川 「……ああ!」
( ゚д゚) 「普通に座る分には、素手のままだ」
( ゚д゚) 「まして、別に寒いわけでもないのに、繊維の手袋をはめるのも不自然極まりない」
( ゚д゚) 「……亡霊の正体を割って、指紋をとった時が楽しみだな」
/ ゚、。 / 「じゃあ、とりあえず、はいどうぞ」
( ゚д゚) 「ん? ああ」
東風さんが、リストを受け取る。
イツワリさんが持っているほうがいいんだがな、と小さく呟いて。
.
-
/ ゚、。 / 「わかることは、正直言って少ない」
/ ゚、。 / 「監視カメラもない、空白の二時間はなかった」
/ ゚、。 / 「電話も、050番号以外の手がかりは今のところなし」
/ ゚、。 / 「ヴィップ出張は偶然で、それが知られたきっかけも不明」
/ ゚、。 / 「アレルギーに関しても同様」
/ ゚、。 / 「……唯一の武器は、ボックスシートに残った指紋のリストです」
/ ゚、。 / 「大切に持っててねー」
( ゚д゚) 「まあ、イツワリさんにも送っておくさ」
東風さんは、鈴木を娘か、姪っ子のように可愛がる節がある。
空いた時間なんかには、よく将棋を指しているシーンも見受けられる。
ショボーン班の新参と古参だ、思い入れも弱くはないのだろう。
.
-
リストの写真を撮って、おそらく警部だ、
警部宛てにメールを送信している。
リストは後程渡すとして、こんな武器があった旨を伝えているのだろう。
今回の検討内容は、細かい情報も漏らさずデータ化し、
警部に最終的な共有として回すつもりだ。
存外、無視できないデータが多く発掘されている。
私が見たところ、まだピンとくるものはないが、
警部が見たなら、果たしてどうなるだろうか。
( ゚д゚) 「で、だ」
( ゚д゚) 「三件目、ライブ殺人だな」
ライブ殺人にも、解せない謎が多い。
東風さんも、あご髭をさすりながら、渋い顔をしている。
.
-
( <●><●>) 「解決できていないことは、多く存在します」
( <●><●>) 「根本的に、どこで害者の出動を知れたのか」
( <●><●>) 「嫁のミセリは知り得ましたが、犯人ではあり得ない」
根本的にどこで知れたのか。
それは全ての事件に共通することだ。
もっと、本質に近い部分から解決していきたい気持ちが強い。
ボード前のセミナーに、書類や証拠物件は置いてある。
以前警部に説明してから、未だ解決できていないブツの数々だ。
( <●><●>) 「害者は、持ち場から亡霊に呼ばれて、現場に向かっている」
( <●><●>) 「口裏を合わせていた可能性が高かったのは言うまでもないでしょう」
おそらく、亡霊が事前に害者の出動を知り得た際、
そのまま彼に接触して、事件当日になにか約束を取り付けたのだろう。
しかしそれにしても、問題があった。
.
-
( <●><●>) 「ただ、亡霊の050番号ですが」
( <●><●>) 「ヒッキー、ミセリにはあったのに、クックルにはなかった」
( ゚д゚) 「そこが一番解せねえところだ」
( ゚д゚) 「つまり、亡霊は害者に電話以外の方法でコンタクトを取ったわけだが」
( <●><●>) 「考えにくい話ではありますね」
兄者の証言を思い出す。
クックルに関しても、謎はほんとうに多い。
( <●><●>) 「クックルとミセリが籍を入れたのは、サークルの消滅後」
( <●><●>) 「まして、部長も断定的には知らなかったんです」
( <●><●>) 「それを、どうして十年間眠っていた貞子が知り得るのか」
( ゚д゚) 「だからこその謎には違いない」
/ ゚、。 / 「………予告」
.
-
( <●><●>) 「…ん」
鈴木が、ぼそっと呟いた。
予告。 本件の、最初のキーワードだ。
/ ゚、。 / 「確か、ライブの観客を殺す、だったよね」
( <●><●>) 「ああ」
私と東風さんは、それに惑わされたわけだ。
観客、という文言から、スタジアムに足を踏み入れる者に焦点を絞った。
しかし厳密にはスタジアム外の立ち聞き、
もっと言うと警備員に向けられたものだったことが後にわかった。
思えば、この観客、警備員の食い違いも謎のひとつに加わる。
/ ゚、。 / 「さっきのペニーの話聞いてて思ったんだけどさ」
/ ゚、。 / 「擬古は、ライブのこと、知ってたんだよね」
( <●><●>) 「そうだな」
( <●><●>) 「……!」
.
-
ぴんときた。
今になってわかった事実。
フッサール擬古は、渋沢栄吉のウェブページにアクセスしている。
それはつまり、クックルのことを知っていたのではないのか。
( <●><●>) 「擬古以外にも、ライブのことを知り得た人物がいて……」
、 、 、 、 、 、
、 、、 、 、 、 、、、 、
( <●><●>) 「本当は、その人物を殺すつもりだった?」
となると、予告状の文言に 「観客」
とあった理由にも説明がつく。
しかし、その場合誰を殺すつもりだったのか。
そもそも擬古が知り得た理由も定かにはなっていない。
/ ゚、。 / 「何一つ、確証はないけど……」
/ ゚、。 / 「観客ッて書かれてたのも、名指しじゃなかったのも、」
/ ゚、。 / 「擬古がサイトにアクセスしてたのも、一応一貫はするよ」
( <●><●>) 「……ふむ」
.
-
検討するには情報が少なすぎるが、
実はクックルを殺害するつもりでなかった、というのは面白い仮説だ。
( <●><●>) 「では、そのような何かしらがあったとして」
( <●><●>) 「更に複数、疑問は残る」
( <●><●>) 「まず、亡霊はどうして監視カメラの死角を知り得たのか」
( ゚д゚) 「これに関してはひとつ、わかったことがあった」
( <●><●>) 「なんでしょう」
( ゚д゚) 「気張りすぎてて当時は気づけなかったんだがな」
( ゚д゚) 「単純な話だ、あの茂みしか、なかったんだ」
( <●><●>) 「何が」
( ゚д゚) 「単純に、人目につかない場所が、だよ」
.
-
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「あの現場を、死角、と捉えるからわからなくなる」
( ゚д゚) 「人目につかない場所、と捉えると、謎は謎じゃなくなるんだ」
( <●><●>) 「……」
現場の位置関係を思い出す。
警備員の配置からしても、確かにクックルを呼び出すにはちょうどいい茂みだ。
亡霊が死角を知り得た理由、ではなく。
亡霊が人目を避けていた理由、ならば。
最初から害者を殺すつもりだったから、あの茂みを選んだだけ。
確かに、納得できないわけではなくなる。
しかしどうしても、引っかかってしまう。
裏を返せば、亡霊は死角など恐れずに茂みを選んだことになるのだ。
もしそこがカメラの有効範囲内だったら、どうするつもりだったのだろうか。
監視カメラというのは、一般人からは見つかりづらい場所に設置されるものなのだ。
( ゚д゚) 「それに」
( ゚д゚) 「害者が亡霊に、ここは死角だ、と言った可能性もある」
.
-
( <●><●>) 「害者が」
( ゚д゚) 「そもそも、害者は亡霊の呼び出しに応じている」
( ゚д゚) 「つまり、害者側も、ある種協力的だったと言えるんだ」
('、`*川 「予告されてるッてのに?」
、
、
( ゚д゚) 「予告されてたのは、観客だ」
('、`*川 「…!」
/ ゚、。 / 「考えられなくは、ないですね」
/ ゚、。 / 「第一、害者からしたら、相手は十年前に死んだ友だちなんですよ」
('、`*川 「あ!」
( <●><●>) 「……」
捜査する側に立ってしまうからこそ陥る、錯覚。
犯人は亡霊だった、という方程式を代入すると、
確かに事件の見方が、がらりと変わるではないか。
.
-
地下鉄殺人は、後ろから、だからいいとしよう。
ホテル殺人も、眠ったところをひっそり狙った可能性もある。
しかし、ライブ殺人だけ異なる点があった。
害者が自ら、亡霊に出向いているのだ。
亡霊、とは言うが、十年前の事故で眠っていた、山村貞子。
クックル三階堂にとっても、この上なく強い意味を持つ女だ。
また、後ろめたさもある。
十年前の事故が事件だったかはさて置いて、
なんにせよクックル側にも、負い目に近い感情はあったはずだ。
貞子側も、十年前に死んでいた身分だ。
目立たないところで話したくなる気持ちも考えられる。
たとえ、自分に向けられた殺意に気づいていたとしても。
( ゚д゚) 「ストーリーとしてはこうだ」
( ゚д゚) 「何かしらがあって、亡霊は現場まで来た」
( ゚д゚) 「害者を見つけ茂みから合図を出し、呼び出す」
.
-
( <●><●>) 「それに害者は応じる」
( <●><●>) 「なぜなら、十年前に眠ったはずの貞子が、立っていたから」
( ゚д゚) 「そもそも見た目は違っていた可能性もあるがな」
( ゚д゚) 「まあ、それで害者は、ある種の予感も押し殺しつつ、茂みに向かう」
( ゚д゚) 「人目につかない、カメラにも映らない場所なんだ」
( ゚д゚) 「仕事の、同僚の目を盗んで密談できるから、好都合だったんだろう」
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「……」
( ゚д゚) 「そうか!」
( <●><●>) 「何か」
おぼろげ、とは思いつつも、仮説を語った東風さんは突如叫んだ。
.
-
( ゚д゚) 「思い出せ、ワカッテマス」
( ゚д゚) 「インカムだ」
( <●><●>) 「…!」
なぜか操作されていたインカム。
当時は、殺害後に犯人が盗聴していた可能性を考えた。
しかし、クックルにも後ろめたい気持ちがあったなら。
クックルが自ら、状況を把握するために動向を探った可能性もある。
となると、次はクックルが我々のチャンネルをどう知ったか。
我々が同じ型番のインカムを使うことは、知らされていなかった。
しかし、警察も現場にいたことは知っていたではないか。
無論知らされているだろうし、
そうでなくとも、警察がいることは想像に難くない。
( ゚д゚) 「わかったぞ」
( ゚д゚) 「害者は、俺らがインカムを付けている可能性を探ったんだ」
( <●><●>) 「……」
.
-
( ゚д゚) 「俺らの耳を見られたか、単なる用心かはわからない」
( ゚д゚) 「ただ、絶対に不可能じゃあなかった」
( ゚д゚) 「インカムを操作したのが持ち主だったなら、あり得たんだ」
( <●><●>) 「そうか」
少しずつ鮮明になってきた。
クックルは亡霊と話をしたかった。
その仮説を前提にしていいならば、濃厚な線だった。
むろん、その裏に殺意があったことは察していたかもしれない。
また、それが全国を揺るがす大事件だったことを知っていてもだ。
しかし。
それらを踏みにじってでも、彼には亡霊と話したい動機があった。
十年前の事件、あるいは事故によって喪った友人が相手なんだ、
動機としては十分すぎるくらいだろう。
.
-
その亡霊は、警察が目を光らせている相手だ。
クックルとしては、何としても、
せめて亡霊と話している間は、警察には見つかりたくなかった。
だから、警察の動向が知れるなら、知っておきたかった。
そこで目をつけたのがインカムで、それがビンゴだった、ということになる。
普通の犯人ならば、無根拠にインカムを睨むのは考えにくいが、
今回の背景を踏まえると、あり得ないとは言い切れない話である。
( <●><●>) 「ここまでうまく辻褄が合ってしまうとなるならば」
( <●><●>) 「多少は信じてもいいでしょうね」
どうして、犯人は死角を把握していた?
犯人が把握していたのは、死角ではなく人目のつかない場所だった。
あるいは、害者が自ら死角を伝えた可能性もある。
どうして、害者は我々の無線を盗聴していた?
ずばり、犯人と話したかったから。
それも、その動機は非常に強い。
どうして、害者は犯人の呼び出しに無警戒に応じた?
同上で、むしろ呼び出しに応じたかったわけだ。
一気に複数の謎が、解けてしまうことになる。
.
-
( <●><●>) 「しかし」
( <●><●>) 「それにしたって、謎が残らないわけでは、ない」
( <●><●>) 「ここまで来ると、クックル側も亡霊のことを知っていたんだ」
( ゚д゚) 「当時と容姿が一緒なわけはねえからな」
( ゚д゚) 「いよいよ、二人はどうやってコンタクトを取ったか、が問題となる」
( <●><●>) 「そこが明かせないと、いま言った仮説は水泡ですから」
ここに、予告の対象は誰だったのか、といった問題が加わる。
二重に、三重に霞がかっているようで、気分がよくない。
( ゚д゚) 「そして、亡霊はクックルを殺害し、続けて嫁を狙いに定めた」
( <●><●>) 「ここに疑念はないですね」
( <●><●>) 「会話の流れから、あるいは害者のスマホから」
( <●><●>) 「連絡先にせよ、ふたりの繋がりにせよ、知り得る」
.
-
( <●><●>) 「……確か、東風さんがずっと陣頭指揮を執ったみたいですが」
( ゚д゚) 「わかったことは、亡霊はクックルで味を占めたことだ」
( <●><●>) 「ほう」
( ゚д゚) 「害者は、イツワリさんにしっかり、釘を刺されていたそうじゃねえか」
( ゚д゚) 「警察への連絡だったり、エトセトラ」
( <●><●>) 「そうですね」
( ゚д゚) 「約束の時間より早くに、害者を呼び出した」
( ゚д゚) 「その時、害者は無断で、単身で呼び出しに応じた」
( ゚д゚) 「そこには、クックルの時と同じ心理が働いたわけだ」
( <●><●>) 「……」
クックルの心理に、ひとつプラスされる。
ミセリからすれば、亡霊はすなわち、旦那を殺した犯人だ。
亡霊に向ける思いは、クックルのそれより数段強いものとなるだろう。
.
-
( ゚д゚) 「亡霊は、害者を滝の上に呼び出した」
( ゚д゚) 「そこには、今は使われてない工具の数々があってだな」
( ゚д゚) 「亡霊はうちひとつ、ローラーに目をつけた」
( <●><●>) 「確認しました」
( <●><●>) 「……ミセリが、滝を登るようにして首を吊られた、と」
警部と東風さんは、実際に見たそうだ。
滝壺から川の末端に至るまで、どこにもミセリはいなかった。
ふと滝口を見ると、そこをミセリが登っていた、と聞く。
( ゚д゚) 「古びたローラーだが、きちんと機能したみたいだな」
('、`*川 「あの、それ、ずっと思ってたんですけど」
('、`*川 「錆びてたりそもそも動力源が動いてなかったら、」
('、`*川 「亡霊はどうしたつもりだったんでしょう」
.
-
( ゚д゚) 「俺も最初は思ったがな、そいつァ錯覚だ」
('、`*川 「錯覚?」
( ゚д゚) 「ロープでの絞殺に、動力は必要ない」
('、`*川 「…!」
ミセリが滝を登るシーンを見てしまうと、
そのシーンが強烈に印象に残ってしまい、
当時の状況を、絞殺ではなく、滝登りのトリックと捉えてしまう。
しかし、滝を登ろうが登らなかろうが、首を絞められたミセリは、絶命する。
そこにかつてのダム建設の設備は、関係なかった。
/ ゚、。 / 「逆に、どうして亡霊は、滝登りを演出したんですか」
( ゚д゚) 「ん」
/ ゚、。 / 「そんな目立つことしたら、かえって不利になってしまいますが」
.
-
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「ひとつ」
( ゚д゚) 「遺体を川に流さないで済むなら、流さないに越したことはなかった」
( ゚д゚) 「現に、俺やイツワリさん、応援部隊が一斉に川を捜し出したんだ」
( ゚д゚) 「むろん警察がいなかったとしても、同様」
/ ゚、。 / 「……」
( <●><●>) 「あるいは」
( ゚д゚) 「?」
ふと、思ったことがあった。
事件解決に関与するアイディアではないが。
( <●><●>) 「亡霊、もとい貞子は十年前、崖下に落とされた」
( <●><●>) 「ミセリも言うなれば、崖下に落とされたわけじゃないですか」
.
-
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「!」
( <●><●>) 「比喩的でこそありますが」
( <●><●>) 「亡霊はいわば、十年越しにその崖を登ってきた存在」
( <●><●>) 「……続けて警部に宣戦布告したことも考えると、」
( <●><●>) 「滝登りは、亡霊の表現だったとも思えます」
/ ゚、。 / 「…」
('、`*川 「…」
( <●><●>) 「だからなんだ、という話でこそありますが…」
( ゚д゚) 「……なるほど、なァ」
.
-
( <●><●>) 「それより」
柄でもないことを言うと、少しこそばゆい。
閑話休題だ。
気になる点があるのだ。
( <●><●>) 「確か害者は、現場に自前の包丁を持参していた」
( <●><●>) 「現場に、包丁はあったのですか?」
( ゚д゚) 「包丁……包丁か」
( ゚д゚) 「現場や近辺からは、見つかっていない」
( <●><●>) 「……そうですか」
考えられることは、ふたつ。
ひとつは、足を残したくなかったから秘密裏に処分した。
そしてもうひとつが、残酷で、考えたくはないことだった。
( ゚д゚) 「……次のコロシで、使うかもな」
( <●><●>) 「……」
.
-
( ゚д゚) 「犯人からすれば、足のつかない凶器だ」
( ゚д゚) 「どこぞから買う、拾う、盗む、だと、どうしても最低限の足はつく」
( ゚д゚) 「でも、それが害者が持ってきたものだったら、話は別なんだ」
( <●><●>) 「それが、一番厄介ですね」
もとより、凶器から亡霊を捕まえられるとは思っていないが。
それ以上に、ミセリの持ち込んだ凶器で五人目、を出すのが、
気持ち的にも、決して許してはならない事態であると言える。
( ゚д゚) 「滝殺人に関しては、追究の余地が少ない」
( ゚д゚) 「監視カメラとかはねえし、なにより出し抜かれた事件だったんだ」
( <●><●>) 「気になるのは亡霊の逃走経路ですが」
( <●><●>) 「足跡は、洗えなかったのですか?」
.
-
( ゚д゚) 「そこなんだがな」
( ゚д゚) 「亡霊は相当用心だ。 土を歩いていない」
( <●><●>) 「……」
思わずため息が出る。
自分は亡霊である、という演出を強調したいのか。
( ゚д゚) 「草木を器用に歩いて、滝の上で待っていたんだ」
( ゚д゚) 「一応ルートは特定できたが、指紋も足跡も、検出できていない」
('、`*川 「足跡、と呼べない程度の跡はあったんですね」
( ゚д゚) 「もちろんだ」
( ゚д゚) 「足のない人間が人を殺せる世界じゃねえ」
.
-
亡霊。
心霊的な意味で言えば、現世に留まっている、死んだ人間の魂。
しかし、本件における亡霊は確かに生きている。
足ももちろんある。
何より、ホテル殺人においてハンカチを使用している時点で、
犯人は指紋から特定されるのを恐れた証明になるのだ。
自らを亡霊と名乗って我々を陽動したのはいいが、
所詮は亡霊に成り切っているだけの、情けない、哀れな死にぞこないに違いない。
( <●><●>) 「方針は、決まりましたね」
( ゚д゚) 「よっつの殺人の種明かしは、後でいい」
( ゚д゚) 「早急に、フッサール擬古と亡霊をつないだ宗教関係者を追うんだ」
('、`*川 「オッ」
.
-
( <●><●>) 「とっかかりは、どこまで掴めているんだ」
('、`*川 「みんなも手伝ってくれるんだね?」
( <●><●>) 「亡霊の実態さえ捕まえれば、後ろの事件も芋づる式に解決するんだ」
( <●><●>) 「貞子は、いつ目覚めたのか」
( <●><●>) 「目覚めた後の動向は」
( <●><●>) 「……五人目が殺される前に、特定するぞ」
('、`*川 「オッケ!」
('ヮ`*川 「結構望みのある線だからねーー、時間はかかんないと思うよ!」
( ゚д゚) 「空いてる人員を、片っ端から導入しよう」
/ ゚、。 / 「だったら、オオカミに割いてる人員全員、まわせます」
( ゚д゚) 「滝殺人の連中も回せるな」
('、`*川 「ちょ、さすがにそんなにいらない…」
.
-
( <●><●>) 「…」
謎は確かに多いが、望みは見えてきた。
きっかけは、向こうの自惚れだ。
自らを亡霊と称し、十年前と連続予告殺人を自ら結びつけてしまった。
その犯人の過失を、徹底的に突くだけだ。
( ゚д゚) 「ワカッテマスは、どうするんだ」
( <●><●>) 「とりあえず、警部に共有を」
( <●><●>) 「ここ三人は、第三者の特定ですか」
( ゚д゚) 「そうなるな」
('、`*川 「私が整骨院に行くよ」
('、`*川 「向こうでリアタイでお客さんら見ながら、顧客データ流す」
( ゚д゚) 「ん……電送してくれるのか」
('、`*川 「向こうさん、むっちゃいい人だから」
.
-
( ゚д゚) 「じゃあ、俺と鈴木はここに残るか」
( ゚д゚) 「腹、減ったろ。 待ってる間、食おう」
/ ゚、。 / 「え! いいんですか!」
( ゚д゚) 「ワカッテマスはどうする」
( <●><●>) 「ちょっと、胃に残るものは」
東風さんがメシ、と言うと、馴染みのラーメンの出前だ。
自分は、極力任務中は胃を空っぽにして、カフェインの効きをよくしておきたいのだ。
( ゚д゚) 「相変わらずだな」
/ `、、*/ 「なんにしよっかなー。
チャーハンセットかなー。」
('、`*川 「気が変わったわ。 私も食べてから行く」
( ゚д゚) 「善は急げ。 違うか?」
('д`*川 「ケチ!」
.
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