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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ,
ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第七幕 「 亡霊 」
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五月六日 午後十八時五一分
捜査本部
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(;´・ω・`) 「 ッ 」
(;´・ω・`) 「……んだと?」
( <●><●>) 「ここまで来て、ごまかしは許せない」
( <●><●>) 「もう一度聞きますが、山村貞子という女性、は……」
(;´・_ゝ・`) 「……言うのか?」
( ´_ゝ`) 「バレちゃあ、仕方ない」
( ´_ゝ`) 「どうせ、調べられたら、すぐわかるんだ」
.
-
亡霊とは、何かの比喩だと思った。
思った、というより、あり得ないからだ。
ほんとうに死んだ人間が、罪を犯す、など。
言うまでもない。
ナイフを使うのも、オイルを使うのも、
名刺を奪うのも、電話を使うのも。
その全て、絶命した人間ができる行為ではない。
(´・ω・`) 「死んだ、というのは、比喩じゃない」
(´・ω・`) 「文字通り、生命として、死んだ、ということか?」
( ´_ゝ`) 「……ちょっと、違うんだな」
(´・ω・`) 「何?」
.
-
( ´_ゝ`) 「いや、どうなんだろ」
( ´_ゝ`) 「死ぬ、という定義の……怪しいところにあることは、間違いない」
(´・ω・`) 「どういうことだ」
( ´_ゝ`) 「植物状態なんだよ」
(´・ω・`) 「ッ」
( ´_ゝ`) 「厳密に死んだ、かどうかは、俺にはわからん。
医者じゃねえからな」
( ´_ゝ`) 「ただ……なんにせよ、死んだ、と言われても間違いではない」
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
( <●><●>) 「……そういえばあなた」
( ´_ゝ`) 「自分、ですか」
( <●><●>) 「ここに来る前、あなたは……」
.
-
(´・ω・`) 「!」
( ´_ゝ`) 「アルプス神経病院にいたよ」
(;´・ω・`) 「それって……」
( ´_ゝ`) 「貞子がな」
( ´_ゝ`) 「眠っていた場所なんだ」
兄者が、ヴィップからわざわざアルプスに出向いていた理由。
アルプス神経病院に訪れていた理由。
部員が六人でウソじゃない理由。
犯人候補にはならないが、七人目には違いなかった理由。
ミセリが、デミタスが、兄者が隠したがっていた理由。
絶対に本件と関係がないと言いきれた理由。
その七人目が、死んでいるからだ。
.
-
( <●><●>) 「至急、その病院に手配を 」
( ´_ゝ`) 「無駄だよ」
( <●><●>) 「なッ」
兄者が力なく制した。
( ´_ゝ`) 「貞子は、そこには、いなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「えっ…?」
めくるめく急展開。
いよいよ頭が回らなくなってきた。
ああ、煙草が吸いたい。
だが、こんな話、喫煙室や喫茶店なんかではしたくない。
.
-
(´・ω・`) 「……順を追って、話してくれ」
(´・ω・`) 「まず、彼女が、実質的に死んだ……キッカケだ」
( ´_ゝ`) 「そこを話すと、また時間がかかる」
チッ。
わかっては、いた。
、
兄者はじめ、ミセリもデミタスも意図して隠してきた、貞子の死。
もし、何も後ろめたいことがなければ、
言いづらいことではあるにしろ、話すことは難しくなかろう。
それを、口裏合わせなしに全員が隠してきたとなると、
彼女の死には、したがってサークル活動が関わってくるに違いなかった。
全員、特に兄者が、意地でも話そうとしなかった理由。
サークル全体で、後ろめたいことがあったからだ。
間違いなく事件の鍵にこそなりうるが、如何せん、先に聞くべき話ではない。
.
-
(´・ω・`) 「わかった」
(´・ω・`) 「何かしらあって、貞子は、植物状態になった」
(´・ω・`) 「それは、いつのことだ?」
もはや、兄者に隠すつもりはないのだろう。
先ほどまでの姿勢とは一転、逡巡せず言葉を紡いでくれている。
( ´_ゝ`) 「十年ほど前」
( ´_ゝ`) 「もっというと、俺が四年の時の……九月だな」
( ´_ゝ`) 「紅葉が見ごろな、季節だった」
(´・ω・`) 「紅葉、か」
兄者が、感傷的になっている。
言葉はどれも優しく、やわらかだった。
(´・ω・`) 「それは、事件……だったんだな?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
.
-
(´・ω・`) 「警察は、どう処理したんだ」
デミタス、兄者を探る過程で、彼らの情報はデータバンクに照会している。
しかし、そのような事件は、ヒットしなかった。
秘密裏に処理された事件ではないはずなのだ。
( ´_ゝ`) 「言い方が悪かったな」
( ´_ゝ`) 「事件……じゃない。 事故だ」
( ´_ゝ`) 「犯人がいる、とか。
そんな話じゃ、ない」
(´・ω・`) 「サークル活動中に、ッてことだよな?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 紅葉を見に行っていたんだ」
紅葉、か。
いやにセンチメンタルなワードチョイスだな、と思ったが
当時の事故が原因で、紅葉には強い思い入れが残ってしまっていたようだ。
.
-
(´・ω・`) 「植物状態になって、どうしたんだ」
(´・ω・`) 「安楽死、か?」
( ´_ゝ`) 「いやいや」
( ´_ゝ`) 「神経病院のくだりを思い出してくれよ」
(´・ω・`) 「ん」
すまん。
一言ちいさく、謝った。
亡霊、亡霊と話していたため、
てっきり貞子は、完全に死亡していたものだと勘違いしていた。
( ´_ゝ`) 「貞子はそのまま、病院に搬送された」
( ´_ゝ`) 「病院。 アルプス神経病院だ」
.
-
そこで、リンクしてくる。
アルプスといえば、のどかな風土と広がる自然が特長だ。
精神病を患った人なんかは、もっぱら療養にアルプスに向かう、ともされている。
山が多く、その傾斜には多くの心の病院が点在している。
それこそ、紅葉なんかをはじめ、この国の美しい四季の移り変わりが心を癒やすそうだ。
(´・ω・`) 「しかし、様態は」
( ´_ゝ`) 「戻らなかった」
(´・ω・`) 「……ん?」
過去形、なのか。
( <●><●>) 「途中で果てたか、安楽死の運びとなったか」
( ´_ゝ`) 「それが、わからねえんだ」
(´・ω・`) 「わからない?」
.
-
( ´_ゝ`) 「どうやら、あっちの業界じゃよくあることらしいがな」
( ´_ゝ`) 「植物人間ッつーのは、如何せん、たらい回しにされやすいらしい」
(´・ω・`) 「そういうことか」
( ´_ゝ`) 「確かに、最初はアルプスに搬送された」
( ´_ゝ`) 「だが、俺らは、頻繁に見舞いにくるようなことはしなかった」
( ´_ゝ`) 「……俺だって、あの時以来、はじめて病院に行ったくらいだからな」
( <●><●>) 「知らぬ間に、移転されていた、と」
(´・ω・`) 「でもそんなもの、照会すれば特定は簡単だろ」
( ´_ゝ`) 「ただの一般人が、そんなこと」
(´・ω・`) 「ワカッテマス」
( <●><●>) 「はい」
.
-
示し合わせたかのように、ワカッテマスは即座に携帯を取り出した。
確かに、病院によっては、その手の照会を拒否することもあるかもしれない。
しかし、相手が警察となれば、話は別だ。
とことん追究し、いまの貞子がどうなっているか、を知る必要がある。
もし果ててしまっていたならば、簡単なことだ。
亡霊を名乗っていた彼女は、騙り。
医学的に死亡が認められているかどうかを、まず探る必要がある。
しかし。
そうでない場合、面倒なことになるぞ。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「調べて、くれるのかい?」
(´・ω・`) 「当たり前だ」
(´・ω・`) 「いま電話してたのが、山村貞子その人で…」
(´・ω・`) 「このたびの連続予告殺人の犯人を名乗り」
(´・ω・`) 「あんたら二人を、殺す」
(´・ω・`) 「そう断言してきやがったんだ」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「なッ…!」
( <●><●>) 「…」
(;´・_ゝ・`) 「 ………マジで言ってんすか?」
さすがに驚きは大きかろう。
しかしそれ以上に、だからこそ予想できたとも言える。
デミタスは一瞬硬直したものの、すぐに正気に戻った。
声色がどこか震えているようにうかがえる。
(´・ω・`) 「彼女は、自らを亡霊と呼んだ」
(´・ω・`) 「亡霊は、ミセリを殺害し、」
(´・ω・`) 「僕が彼女に渡していた名刺を頼りに、電話してきたんだ」
( <●><●>) 「…!」
.
-
(´・ω・`) 「相手が、自分の事件を担当してる警部だとわかっての、電話」
(´・ω・`) 「それも、自供し、更なる殺人予告だ」
ふつふつと怒りが込み上がってくる。
まだ冷静でいられるのは、目の前にターゲットがいるから、だろう。
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「いやに落ち着いてるな」
( ´_ゝ`) 「……そう見えるなら、構わないさ」
( ´_ゝ`) 「それより」
( ´_ゝ`) 「具体的な時間なんかは?」
(´・ω・`) 「ないな」
(´・ω・`) 「彼女なりの、亡霊なりの名刺交換だったんだろう」
(´・ω・`) 「宣戦布告ッてやつだ」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「………」
( <●><●>) 「亡霊、ですか」
(´・ω・`) 「だが、生きているのは間違いないと見ていいだろう」
(´・ω・`) 「ほんとうに死んで亡霊になって……なんて、認められない」
( <●><●>) 「当然です」
被害者側の人間は、心霊的なものを信じる傾向にある。
災いや呪いが恐れられた事件なんて、いくつも担当してきた。
非科学的だ、と一蹴するのではない。
単純に、心霊的なものの犯行など、万が一にもあり得ない。
ただそれだけだ。
(;´・_ゝ・`) 「ほ……ほんとうに、亡霊なんじゃあ……」
(;´・_ゝ・`) 「それで、逆恨みとか、して……」
面倒だから、落ち着け、なんて言わない。
隣に座っている兄者は、すっかり落ち着いている。
デミタスひとりに構っていられる猶予は、ないのだ。
.
-
(´・ω・`) 「あのな」
(´・ω・`) 「亡霊があり得るとしたら、電話とかできないぞ」
(;´゚_ゝ゚`) 「誰かに憑依したりさあ!」
(´・ω・`) 「だったら今頃、真っ先に僕に憑依してるぜ」
(´・ω・`) 「目の前に、ターゲットがふたり、無防備に座ってンだ」
(;´゚_ゝ゚`) 「……!」
(;´・_ゝ・`) 「 ………、……確かに。」
どうして、あり得ないことを証明するためにロジックを練らなくちゃだめなんだ。
亡霊は、生きている。
そして、生身の人間が相手である以上、いくらでも対策の施しようはある。
.
-
(´・ω・`) 「さて」
(´・ω・`) 「亡霊がミセリを殺したのは、間違いない」
(´・ω・`) 「僕の名刺を持ってたんだ」
( <●><●>) 「加え、例のIP電話を使用している」
( <●><●>) 「連鎖的に、ヒッキー小森やクックル三階堂を殺害したのもリンクします」
(´・ω・`) 「そこら辺から、筆跡のつながりでフッサール擬古殺害も確定する」
亡霊には協力者がいて、なんて可能性はこの際捨てる。
筆跡がリンクしない、クックルからミセリの途中で犯人が入れ替わっている可能性もないだろう。
となると、最初の三人を殺害したのは、ミセリとなるのだ。
論理的に考えても、クックル殺害は亡霊の仕業。
最初から、亡霊がサークル抹殺を目論んでいたことが証明された。
( ´_ゝ`) 「………亡霊、か」
(´・ω・`) 「亡霊の親御さんにも、警察が出向く」
(´・ω・`) 「として、だ」
.
-
一気にするべきことが増えた。
アルプス神経病院に搬送されてからの、貞子の動向、経過。
また、彼女に関する情報も、実家を中心に軒並み洗い出す。
亡霊が犯人だったことは、わかった。
その視点をもって改めて、一連の事件を洗いなおす必要がある。
(´・ω・`) 「ここで重要となってくるものがある」
(´・ω・`) 「動機だ」
(;´・_ゝ・`) 「ど、動機だなんて…」
(;´・_ゝ・`) 「そんなもの、逆恨み、というか、なんていうか…」
(´・ω・`) 「ねーよ」
(´・ω・`) 「事故、だったんだろ?」
(´・ω・`) 「だったら、無事生還できたことをむしろ喜ぶはずだ」
、 、
( <●><●>) 「もし、それがほんとうに事故だったら……ですが」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「!」
デミタスも、顔色を変えた。
わかったようだ。
(;´・_ゝ・`) 「……」
(;´・_ゝ・`) 「誰かに殺された……!?」
( <●><●>) 「事実がどうであれ、どこかでそう思っていたなら?」
(´・ω・`) 「目が覚めたら、十年近く経過している」
(´・ω・`) 「しかし、逆に言えば、当時のことは覚えている」
(´・ω・`) 「サークルの誰かのせいで、自分は……」
(´・ω・`) 「そう考えれば、わざわざ多くの徒労を費やしてでも、」
(´・ω・`) 「大袈裟な、大胆な手口で次々部員を殺すのに説明はつく」
.
-
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「もっとも、憶測でしかないけどね」
( <●><●>) 「検討するためにも、当時の、その、事故」
( <●><●>) 「わかる範囲で構いませんので、詳細に、話してください」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「といっても、ほんとうに事故としか……」
(´・ω・`) 「まず、原因はなんなんだ?」
( ´_ゝ`) 「原因?」
過去のデータを漁ればわかることだが、面倒だ。
まして、大した情報も書かれてないだろう。
当事者から聞くのが、一番だ。
(´・ω・`) 「植物状態になっちまった、原因よ」
( ´_ゝ`) 「……」
、 、
( ´_ゝ`) 「転落だ」
.
-
( <●><●>) 「転落……」
( ´_ゝ`) 「俺らはな、アルプスに紅葉を見に行ってたんだ」
(´・ω・`) 「紅葉か」
( ´_ゝ`) 「といっても、旅館に泊まったり、ではない」
( ´_ゝ`) 「山奥のコテージを借りててよ」
( <●><●>) 「具体的な場所は」
( ´_ゝ`) 「ちょっと待ってくれ」
と言って、兄者はスマホをいじりだした。
その場所を、インターネットで探し始める。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「あん時のサイト、ないな」
.
-
(´・_ゝ・`) 「……そういえば」
(´・_ゝ・`) 「いつかはわからないけど、閉鎖しちゃったよ、あそこ」
( ´_ゝ`) 「へえ」
(´・_ゝ・`) 「昔、気になって調べたことがあるんだ」
( ´_ゝ`) 「どこだったっけ」
つられて、デミタスもスマホを取り出す。
記憶を頼りに、インターネットの海を泳ぎながら、話す。
(´・ω・`) 「まあ、探しながらでいいよ」
(´・ω・`) 「で、山奥、コテージまではわかった」
( ´_ゝ`) 「そもそも、そこを選んだ理由だがな」
( ´_ゝ`) 「俺らは、ちょっと変わったアウトドアを楽しんでた」
( <●><●>) 「変わった?」
.
-
( ´_ゝ`) 「あまり、注目されてないところで遊ぶんだよ」
( ´_ゝ`) 「たとえば、渓流釣りにしても、ほとんど人の手が入ってないとこに行ったり」
( ´_ゝ`) 「メジャーなところは、ほとんど行かなかったな」
( <●><●>) 「ほう」
どうせ遊ぶなら、あまり人が選ばないようなところで、ということか。
わからなくはない気持ちだった。
( ´_ゝ`) 「ほとんど利用客がいないような、山奥だ」
( ´_ゝ`) 「そりゃあ料金も格安でよ」
( ´_ゝ`) 「ゴエモン風呂とぼっとんの、いま思えばすげえとこだったわ」
(´・ω・`) 「でも、そういうとこが好きだったんだ」
( ´_ゝ`) 「ああ」
( ´_ゝ`) 「人が経験しなさそうな経験がしたかったからな」
.
-
( <●><●>) 「そこを選んだのは」
( ´_ゝ`) 「俺だよ」
( ´_ゝ`) 「理由も、いま話した感じだ」
( ´_ゝ`) 「……と。 あったぞ」
(´・_ゝ・`) 「ん……ああ、それそれ」
(´・_ゝ・`) 「懐かしいな」
(´・ω・`) 「どれ」
その、コテージ貸出のサイトではなかった。
当時の写真なんかでもない。
ブログ記事だった。
(´・_ゝ・`) 「え、これ昔のブログだよね」
(´・_ゝ・`) 「よく残してたな」
.
-
( ´_ゝ`) 「サークルの活動日誌、みたいなもんだ」
( ´_ゝ`) 「一日目が終わる頃に、一旦下書きしておいたもんだ」
( <●><●>) 「アルプスの……」
紹介こそされていないが、特段目につく固有名詞はない。
それもそうで、アルプスの山はほとんどが私有地だ。
コテージ主のそれだろう、サイトのリンクが張られている。
( ´_ゝ`) 「もっとも」
( ´_ゝ`) 「続きは帰ってから書こう、と思ってた矢先、事故が起こった」
( ´_ゝ`) 「当然、書く気にはなれんかったし、なんならあの日でサークルは終わった」
(´・ω・`) 「なるほどね」
記事には、下書きというだけあって写真はない。
ただ、値段のわりに絶景だ、とか。
疲れて不便なことを除けば穴場だ、とか。
著者である兄者の感想が、旅情小説のように描かれている。
.
-
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、そんな場所だ」
( ´_ゝ`) 「ほぼ利用客がいないッつーだけあって、」
( ´_ゝ`) 「整備とかが全然されてないわけでな」
( <●><●>) 「……」
、 、
( <●><●>) 「そうか。 転落か」
勘付いたようで、ワカッテマスは言った。
山奥、整備されていない、紅葉、とまでくれば、だいたいは察しがついた。
( ´_ゝ`) 「一面紅葉の絶景が、高所から拝める山だった」
( ´_ゝ`) 「………崖に柵なんか、なくてよ」
(´・ω・`) 「貞子は、紅葉を見に行って、足を踏み外したわけだ」
( ´_ゝ`) 「概要は、そうなる」
.
-
( ´_ゝ`) 「標高が高いだけあってな、風も強かった」
( ´_ゝ`) 「まして、落ちたのは、夜」
( ´_ゝ`) 「むろん街灯なんてない。
完全な真っ暗だ」
( <●><●>) 「何も見えないのに、紅葉を見に行ったのですか」
( ´_ゝ`) 「いや……紅葉目当てじゃないだろうな」
( ´_ゝ`) 「単なる散歩のつもりだったかもしれん」
( <●><●>) 「まあ、そうですよね」
柵のない崖。
完全に真っ暗。
踏み外す。
少しずつ、ピースが浮かび上がってくる。
これらのどこか、あるいはピースが成す全体図に、
亡霊が抱く怨念というものが描かれているはずだ。
.
-
(´・ω・`) 「どんな崖だった?」
( ´_ゝ`) 「山奥なだけあって、コテージ周辺はもちろん、道も木に囲まれてる」
( ´_ゝ`) 「でも、その崖だけ、ひらけててな」
木々が生い茂る山奥、ひらけた崖。
アウトドアとなれば、おあつらえ向きなシチュエーションだろう。
(´・ω・`) 「コテージも、その辺で?」
( ´_ゝ`) 「まあ、そうだな」
( ´_ゝ`) 「ただ、コテージからはその崖は見えない」
( ´_ゝ`) 「昼間は、その近くで野外炊飯してたぜ」
(´・ω・`) 「危なくない程度に近寄ってはいた、と」
.
-
( ´_ゝ`) 「なんにしても、その崖は怖かったな」
( ´_ゝ`) 「来てすぐに、危ねえな、ッて話題で盛り上がってたぞ」
(´・ω・`) 「崖下の様子は?」
( ´_ゝ`) 「落ちたら、地上までまっさかさま」
( ´_ゝ`) 「もっとも、木とか結構生えてたけどな」
( ´_ゝ`) 「……ふつうに落ちたら、間違いなく即死だわ、アレは」
( <●><●>) 「でも、貞子は、生きていた」
( ´_ゝ`) 「崖を転がるように落ちてッたらしい」
( ´_ゝ`) 「担当した警官曰く、不幸中の幸いだとな」
植物状態になって、どこに幸いを見出せたのだろうか。
死なないだけまだマシ、とでも言うのだろうか。
冗談じゃない。
.
-
( ´_ゝ`) 「全身が凄まじい打撲で、骨も折れていた」
( ´_ゝ`) 「ただ、言い換えれば、転落の衝撃が随所で分散されてな」
( <●><●>) 「結果として、即死には至らなかった、と」
( ´_ゝ`) 「あれは、気候も味方してくれたらしい」
( ´_ゝ`) 「大量出血してて、これがもし冬なら、疑いようなく死んでたそうだ」
季節は秋。
それもアルプスとなれば、心地よい暖かさに包まれている。
刺殺にしても、実際のところ死因はショック死か大量出血のどちらかによるものだ。
というより、流血沙汰になった時、それが交通事故だろうが転落だろうが、
血を確保できているかどうか、で生存率は大きく異なってくる。
そういった意味において、貞子はある種の幸運が積み重なっていたのかもしれない。
頭さえ打っていなければ、それは幸運たりえたのだろう。
打っていたのだから、結局不運には違いなかった。
.
-
(´・ω・`) 「結果、事故として処理された、ッてことは」
(´・ω・`) 「あくまで、事件性はなかったんだ」
( <●><●>) 「…背中に押された跡、とか」
( ´_ゝ`) 「…ああ」
あるいは、冬だったら。
革製の上着でも羽織っていれば、
背中に指紋が残っていてもおかしくはなかった。
しかし、他のアプローチが残されているかもしれない。
当時の貞子の持ち物や、現場状況など。
(´・ω・`) 「ちょっと、その事件のファイルを用意させとくか」
( <●><●>) 「管轄はアルプスの……」
( <●><●>) 「この場合、どこの署になるんですかね」
(´・ω・`) 「県警に要請を出すよ」
(´・ω・`) 「あっちには心強い先輩がいるからね」
黒い、ボロ衣のようなコートを羽織っている男の顔を思い出す。
オオカミ鉄道への要請も含め、どうも人脈というものに助けられている実感がした。
.
-
(´・ω・`) 「先に、当時の警察の対応を聞かせてくれ」
( ´_ゝ`) 「ん……どう言えば?」
( <●><●>) 「規模にもよりますが、現場検証や取り調べが行われたはずです」
言うと、兄者は少し黙った。
さすがに、そんなところまで詳細に覚えてはいないのだろう。
第一、それどころではなかったはずだ。
(´・_ゝ・`) 「……あれですね」
(´・_ゝ・`) 「警察署に呼ばれて、個別に話を聞かれましたよ」
( <●><●>) 「具体的には?」
(´・_ゝ・`) 「具体的に……ッていうか」
(´・_ゝ・`) 「むっちゃくちゃ細かく、最初から最後まで……ぜんぶ。」
.
-
となると、一応警察は、きちんとした対応に出たと見ていいのか。
ファイルを見ないとわからないものの。
おそらく、それまでの部員と貞子の関係や貞子のポジションからはじまり、
どうしてアルプスに行こうと思ったのか、日取りが決まったのはいつか、
くだんのコテージを選んだ理由は、などといったところまで調べられているはずだ。
そしてポイントとなるのは、それらを経たうえで
本件が 「事故」 として処理されている点にある。
(´・ω・`) 「…そうか」
もし、証言が食い違ったりした場合、事件の可能性も考慮されるはずなのだ。
それが事件として登録されていない以上、証言に整合性は、あった。
全員で何かを隠そうとした場合、想像以上にあっさり看破されてしまうものなのだから。
(´・ω・`) 「……とりあえず、向こうには連絡しといた」
( <●><●>) 「もうですか」
(´・ω・`) 「堅苦しい協力要請なんて、してらんねーしな」
(´・ω・`) 「こういう時に、人脈がヒカるんだよ」
.
-
雑なメールを、送っておいた。
相手は六十過ぎの、それも機械に非常に弱い爺さんだ。
仕事中だろうというのもあわせ、返信はまあ期待できないだろう。
(´・ω・`) 「十年前の事件、だ」
(´・ω・`) 「僕らがじきじきに現場検証できないのが、痛いところだな」
( <●><●>) 「担当した人に聞いたところで、望み薄ですしね」
(´・ω・`) 「となると焦点になるのは、現場状況じゃない」
(´・ω・`) 「当時の、きみたちの動きだ」
( ´_ゝ`) 「……」
兄者が構える。
ここまできたからには、もう隠すわけにはいかないぞ。
関係者のうち、話が聞けるのは、もうふたりだけ。
望みがあったミセリも、昨日まで生きていたミセリもいなくなってしまったのだ。
.
-
(´・ω・`) 「当時と、いろいろ状況は変わっている」
(´・ω・`) 「まず、十年前だ、という点」
(´・ω・`) 「次に、当時の関係がきっかけで、連続殺人が起こっている点」
(´・ω・`) 「そして……」
、 、
(´・ω・`) 「僕たちは今、当時の事故を怪訝に思っている点、だ」
( ´_ゝ`) 「…ッ」
連続殺人の中心にいる犯人は、亡霊だ。
亡霊が亡霊たりうる理由は、十年前の事故に遭ったからだ。
事故から連続殺人につなげた理由は、それが事故ではなかったから。
何者かによる殺人事件だったから。
単純な推理にして、当然の論理。
この期に及んで、ほんとうに事故だった、は通用しない。
事実として、既に四人も殺されてしまっている。
なんなら、事件、まではいかないにしても。
怨恨を遺させてしまった何かは、必ずあったはずなのだ。
.
-
( <●><●>) 「脅すつもりではありませんが」
( <●><●>) 「確か亡霊は、明確にあなた方ふたりを、殺すと言っている」
ワカッテマスが険しい顔をする。
眉間に刻み込まれたヒビが、迫力を増している。
( <●><●>) 「法的な強制力こそありませんが」
( <●><●>) 「半ば強制的に、話させるつもりですので」
( ´_ゝ`) 「………」
( ´_ゝ`) 「わかっているよ」
(´・ω・`) 「……」
法的な強制力こそない、か。
僕も、そう強気に出られていたならば、あるいは。
.
-
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( ´_ゝ`) 「まず、紅葉を見に行ったこと、あのコテージを選んだ理由とかは」
( ´_ゝ`) 「まじで、一切の事件性がない」
( ´_ゝ`) 「単なる俺の気分で、なんだったら俺以外反対だったからな」
( <●><●>) 「…ム」
ワカッテマスが、少し反応を見せる。
おそらくは、今の言葉から兄者をほんの少しだけ怪訝に思ったのだろう。
あまりにも突飛すぎる。
ワカッテマスはワカッテマスで、神経質になっている。
( ´_ゝ`) 「俺としては、だな」
( ´_ゝ`) 「アクションのない、ただ観賞するだけの良さッてのもあると思ったんだ」
(´・_ゝ・`) 「なんだかんだ言って、紅葉見たらみんな絶賛だったしね」
.
-
( <●><●>) 「ちなみに、具体的な反対意見としては」
( ´_ゝ`) 「ただ見るだけやん、と」
( <●><●>) 「……なるほど」
ワカッテマスが続きを促した。
そこまで掘り下げられる情報もないだろう、と判断したようだ。
( ´_ゝ`) 「コテージを選んだ理由も、さっき話した通り」
( ´_ゝ`) 「人気じゃない、安い、辺鄙な場所にあるとこなら、どこでもよかった」
( <●><●>) 「高いところにした理由は」
( ´_ゝ`) 「そりゃあ、高いほうが景色はいいだろう、ッてな」
( <●><●>) 「……ふむ」
別段おかしい点はない。
ここに作為性がないとすると、あくまで動機は突発的なものだったことになる。
.
-
( <●><●>) 「皆さんの持ち物は」
( ´_ゝ`) 「まあ、食材とか、焚火セットとか」
( ´_ゝ`) 「ただ、山登りがメインじゃなかったし、そもそも車だったし」
( ´_ゝ`) 「みんな軽装で、そこら辺の用意はなかったよ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちなんか、露出多すぎて、騒いでたよね」
(´・_ゝ・`) 「虫が気色悪い、って」
( <●><●>) 「……ふむ」
メインは、あくまで紅葉狩りだった。
その点も疑いはない。
若者、それもインドアの彼らがわざわざ山を登りたがるとも思えない。
( ´_ゝ`) 「イベントとかも用意してない」
( ´_ゝ`) 「ただ、紅葉を見ながら、メシ食って」
( ´_ゝ`) 「あとは全部自由時間だ。
コテージでゲームしたりもしたぜ」
.
-
( <●><●>) 「その食事が、先ほど言っていた…」
( ´_ゝ`) 「崖の、手前」
( ´_ゝ`) 「ッつっても、結構離れてたけどな」
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「そうだな……時系列で言うと、だ」
( ´_ゝ`) 「到着したのが、だいたい昼すぎ」
( ´_ゝ`) 「朝早くに出発して、やっと着いたッて感じで」
(´・ω・`) 「あくまで、一泊の予定だったんだね?」
( ´_ゝ`) 「もちろん。 あそこに二日三日泊まるのはムリすわ」
事件は突発的なもので、その機会は一度しかなかった。
これは、思っているよりも重要な観点になるな。
.
-
( ´_ゝ`) 「そのまま、野外炊飯」
( ´_ゝ`) 「ぶーたれてたセリっちも、チューハイ飲みながら騒いでたな」
( <●><●>) 「チューハイですか」
酒に、思わず反応する。
事件だろうが事故だろうが、酒はキーとなる。
( ´_ゝ`) 「先に言っておくぜ。 誰もほとんど酔ってない」
( ´_ゝ`) 「貞子に至っては、そもそもが一切飲めない子なんだ」
( <●><●>) 「ふむ」
やはり、当時の取り調べでも話されていたか。
貞子の飲酒にしても、調べれば一発でわかる。
酒から掘り下げるのは、まあ不可能か。
( ´_ゝ`) 「だいたい……何時だっけ」
( ´_ゝ`) 「すまん、正確な時間は見てねえわ」
( <●><●>) 「お構いなく」
.
-
( ´_ゝ`) 「メシ食って、あとは自由行動」
( ´_ゝ`) 「全員が一緒に動いてたわけじゃないから、ここからは俺視点の話になる」
( <●><●>) 「どうぞ」
( ´_ゝ`) 「俺は、写真が好きでな」
( ´_ゝ`) 「それも、ケータイのんじゃない。
一眼レフだ」
(´・ω・`) 「…!」
( ´_ゝ`) 「おっと。 これも先に言っておくぜ」
( ´_ゝ`) 「貞子の件とは関係ないんだが、一眼レフは谷底に落としちまったよ」
( <●><●>) 「というと」
( ´_ゝ`) 「その……なんだ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はお調子者でね」
(´・_ゝ・`) 「少しでもいい写真を撮るんだ、とか言って」
(´・_ゝ・`) 「崖から身を乗り出してたら、バランス崩して、カメラは真っ逆さまさ」
( <●><●>) 「……」
.
-
(´・ω・`) 「その谷底ッてのは……例の?」
( ´_ゝ`) 「いや、多少位置はずれる」
( ´_ゝ`) 「鳶……なのかな? 野鳥がすんげえ近くまできてよ」
( ´_ゝ`) 「びっくりして、体勢崩した瞬間、ついスルリ……と」
情景は、確かにイメージできる。
危険を冒して写真を撮っていたのも、単なる彼のキャラによるものだ。
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「もちろん粉々だし、データは残ってないし、なんなら重要なものは撮ってない」
( ´_ゝ`) 「つっても、景色しか撮ってなかったがな」
( <●><●>) 「皆さんで集合写真、とか」
( ´_ゝ`) 「ガラじゃないんだ、俺ら」
( <●><●>) 「そうですか」
.
-
(´・ω・`) 「だったら、ブログに載ってた写真は」
(´・_ゝ・`) 「あれはガラケーのですね」
(´・_ゝ・`) 「画質見たら、一発でわかりますよ」
ここにも、特段事件性はない、と。
たとえば、全員の服装や持込品を見れば、何かわかったかもしれないものの。
( ´_ゝ`) 「まあいい。 話を戻そう」
( ´_ゝ`) 「その……相棒を落として、すげえ落ち込んでよ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちも、酔った勢いで、すごい慰め方してたよね」
( ´_ゝ`) 「そうそう。 猫みたいにじゃれてきて」
( <●><●>) 「……酔ってたんですか?」
( ´_ゝ`) 「ああ、すまん。 言葉のあやだ」
( ´_ゝ`) 「あの子、酔うのに三段階あってさ」
( ´_ゝ`) 「ただ、俗にいう酔っ払い、とかではない」
( <●><●>) 「まあ、いいですが」
.
-
( ´_ゝ`) 「カメラを落として、みんなに絶対崖には近寄るな、ッて言って回ったね」
( ´_ゝ`) 「メシが終わって少ししたくらいだったか」
( <●><●>) 「その時点での、皆さんの配置は」
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( ´_ゝ`) 「貞子とヒッキーが、先にコテージに戻ってた」
( ´_ゝ`) 「残り四人は、結構長いこと外にいたぜ」
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「ヒッキーは、もともと紅葉狩りに反対でな」
( ´_ゝ`) 「コテージのベッドに寝っ転がって、ゲームしてたわ」
(´・ω・`) 「貞子は?」
( ´_ゝ`) 「あの子も、そこまで観賞ッてもんに興味がなかったらしい」
.
-
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
ワカッテマスがついに動きを見せた。
まあ、僕も引っかかりはしたが。
( <●><●>) 「確か彼女が転落した原因は、」
( <●><●>) 「夜の、散歩だったのでは」
( ´_ゝ`) 「聞かれたがな、」
そうなるだろう。
既に十年前の担当が確認しているはずだ。
( ´_ゝ`) 「詳しくは知らないさ。
本人次第なんだから」
( ´_ゝ`) 「ただ、体調が悪かったり、メシ食って眠くなっただけかもしれない」
( ´_ゝ`) 「ほら、朝早かったもんでよ。
外で寝るにはさすがに危ねえし」
.
-
(´・ω・`) 「その時のふたりは、どんな感じだったんだい?」
( ´_ゝ`) 「どんな、も何も」
( ´_ゝ`) 「ヒッキーはぴこぴこして、貞子も寝転びながら本を読んでて」
( ´_ゝ`) 「俺はカメラ落としたことよりも空しくなったぜ」
(´・ω・`) 「それは……まあ……」
観賞にきたのに、コテージに籠られてはそうなるだろう。
( ´_ゝ`) 「で、俺は一旦外に戻って」
( <●><●>) 「その時は、あなた方二人と、クックルと、ギコと、ミセリ」
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( <●><●>) 「彼らはどんな様子だったのですか?」
.
-
( ´_ゝ`) 「セリっちが、一生うざ絡みしてて」
(´・_ゝ・`) 「あの子ね。 僕みたいなウブで純真な男をいじるのが好きなんだよ」
( ´_ゝ`) 「童貞と言え童貞と」
(´・_ゝ・`) 「ハン!」
だいたいの情景は、浮かぶ。
ほろ酔いのミセリと、彼女に付き合わされる野郎諸君。
( ´_ゝ`) 「……うーん」
( ´_ゝ`) 「そうだな。 クックルが率先して、後片付けをしてたな」
( ´_ゝ`) 「ぶつくさ言いながら、セリっちの投げる空き缶も回収してたわ」
(´・ω・`) 「そこなんだけどさ」
( ´_ゝ`) 「うん?」
.
-
(´・ω・`) 「ミセリから聞いたら、クックル、無口らしいじゃん」
(´・ω・`) 「当時は、そうでもなかったんだ?」
( ´_ゝ`) 「普段は無口よ」
( ´_ゝ`) 「ただ、感情を前に出したがらない、ッつーのか」
( ´_ゝ`) 「楽しくなったり、気が置けない連中と一緒にいたら、饒舌になるんだ」
(´・_ゝ・`) 「見た目あんなンだったのに、可愛い奴だったよね」
(´・ω・`) 「ほーん」
聞けば聞くほど、七人の仲の良さが伝わってくる。
集まりに抵抗を示していたミセリも、普段無口だったクックルも。
なるほど確かに、なんだかんだ楽しくアウトドアしていたのだろう。
時系列を聞く前に、人物像から固めていったほうがいいのか。
いや、時系列を追うだけでも、ある程度は人がわかるか。
.
-
(´・ω・`) 「ギコは?」
( ´_ゝ`) 「あいつな。
いろんなものを見てたぜ」
( ´_ゝ`) 「紅葉狩りッつーか、観賞か」
( ´_ゝ`) 「無縁な人生を送ってたみたいでよ、新鮮な目で、楽しんでた」
(´・ω・`) 「というと」
( ´_ゝ`) 「野鳥を眺めたり、名前も知らない花を見つめたり」
( ´_ゝ`) 「俺もカメラはじめようかな、とか言ってたな」
畢竟、自然を楽しんでいたわけか。
野鳥にしても、山奥を飛ぶそれらは確かに新鮮なものだろう。
猛禽類は、近くで見るとなかなか感慨深くなるものだ。
(´・_ゝ・`) 「カメラ落とした兄者氏見て、撤回してたけどね」
( ´_ゝ`) 「うるせえよバカヤロウ」
.
-
(´・ω・`) 「きみは?」
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
(´・_ゝ・`) 「そんなみんながごちゃごちゃしてるのが、楽しかったですよ」
(´^_ゝ^`) 「みんなと一緒に、普段見ない景色を眺めるのは……もっと楽しかった」
(´・ω・`) 「いいねえ」
ひとりで見るのと、みんなで見るのとでは、全然違うものだ。
観賞の良さを知っていた兄者、
大勢の楽しさを知っていたデミタスは、一歩大人びていたと言えるだろう。
(´・_ゝ・`) 「少しごちゃごちゃしてから、クックルが先にコテージに戻ったね」
(´・_ゝ・`) 「といっても、片付けがてら、コテージと往復してたんだけど」
(´・ω・`) 「じゃあ、その時のコテージは、貞子とヒッキー、」
(´・ω・`) 「ンでたまにクックル……か」
( ´_ゝ`) 「つっても一時間もしてないけどな」
.
-
( <●><●>) 「クックルに、変わった様子は」
( ´_ゝ`) 「特にーーなかったな。
うん」
( ´_ゝ`) 「で、クックルが戻って……だ」
( ´_ゝ`) 「まあ、みんなぼちぼち戻るかッてなって」
( ´_ゝ`) 「特に予定もないんだ」
( ´_ゝ`) 「トランプとか麻雀あったし、それらで遊ぶもよし」
( ´_ゝ`) 「ちょっと山を探検するもよし、だった」
トランプはともかく、麻雀はなかなか渋いな。
と言うと、最近の大学生はだいたい麻雀が好きだ、と言われた。
(´・ω・`) 「完全に、予定とかは一切なかった、と」
( ´_ゝ`) 「一応、ギコは予定、考えてたみたいだけど」
(´・ω・`) 「予定?」
( ´_ゝ`) 「ああ……釣り具持ってきてたんだ、アイツ」
( ´_ゝ`) 「渓流釣りとかできたらいいな、ッて」
.
-
( ´_ゝ`) 「ただ、めぼしい川はなかったし」
( ´_ゝ`) 「そもそも、迷うのが怖くて、結局行かなかったらしいけど」
( <●><●>) 「ちなみに、釣り具は」
( ´_ゝ`) 「ずっと車のトランクで留守番さ」
(´・ω・`) 「他に、留守番してたのはなんかある?」
( ´_ゝ`) 「ん? そうだなあ……」
(´・_ゝ・`) 「誰か知らんが虫取り網とか持ってきてたよな。
百均の」
( ´_ゝ`) 「ああ、あれ俺だわ」
(´・_ゝ・`) 「え?まじ?」
( ´_ゝ`) 「その……ちょっとウケ狙って……」
(´・_ゝ・`) 「あのクソほど邪魔だった文字通りのお荷物が??」
( ´_ゝ`) 「その……うん、十年前だから時効だ」
(´・_ゝ・`) 「反省して」
.
-
持込品にも、めぼしいものはないか。
もとが突発的な企画だ、殺害を計画して何かを持ってきた線は薄そうだ。
あるいは、自然なものを利用して犯行に転じた可能性もある。
しかし、当人らの記憶や先入観が邪魔して、手がかりとして得られないかもしれない。
(´・ω・`) 「ごはん終わって、一旦みんなコテージに戻ったんだね?」
( ´_ゝ`) 「んー……まあ、そうだな」
(´・ω・`) 「ん?」
( ´_ゝ`) 「別に、集団行動とかしてたワケじゃなかったもんで」
( ´_ゝ`) 「ギコは結構常に外にいたし」
( ´_ゝ`) 「逆にヒッキーはほとんど外に出てなかった」
(´・_ゝ・`) 「一回か二回くらい、紅葉見に行った程度だったよね」
(´・_ゝ・`) 「セリっちがけしかけたからだけど」
.
-
( <●><●>) 「けしかけた?」
(´・_ゝ・`) 「そうだなあ……」
(´・_ゝ・`) 「ウォッホン!」
(#´・_ゝ・`) 「そんなンだから童貞なんだよテメーはよォ!」
(#´・_ゝ・`) 「ほらせーの!リアジューしようぜ!リアジューしようぜ!ハイッ!」
(´^_ゝ^`) 「……的な?」
今の唐突な茶番はなんだ。
まさかミセリの真似とでも言うのか。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「ミセリは、当時は結構やんちゃだったので?」
( ´_ゝ`) 「やんちゃ……なのかなァ」
( ´_ゝ`) 「まあ、テンション次第で暴走するフシはあったよ」
.
-
(´・ω・`) 「じゃあ、旦那さんは?」
( ´_ゝ`) 「ああ、それ」
( ´_ゝ`) 「暴走したセリっちは、クックルしか止められなかったもんでよ」
( ´_ゝ`) 「思えばあの子、最初のほうからクックルが結構お気に入りだったみたいだし」
(´・_ゝ・`) 「あれさ、明らかセリっちから告白したよね」
ん。
そういえば、ミセリとクックルの関係は、あまり知られてなかったな。
(´・ω・`) 「二人が付き合ってたのは、みんな知ってたの?」
( ´_ゝ`) 「まあ、知ってたッつーか…」
( ´_ゝ`) 「なんとなく察しがつくじゃん、そういうの」
.
-
(´・ω・`) 「証言によると、だ」
(´・ω・`) 「そんな人間関係の話……きみはだいたい知ってるッて聞いたけど」
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「当人らから話はされなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「あーー」
( ´_ゝ`) 「ごめん。 知ってたわ、俺」
( ´_ゝ`) 「クックルから、普通に聞いてたよ」
(´・ω・`) 「ん」
(´・_ゝ・`) 「え。 そうなんだ」
( ´_ゝ`) 「ただ、あんまし言及したら、サークルにいいことないだろ」
( ´_ゝ`) 「他人の恋路は邪魔しちゃいけないもんだ」
.
-
当時からの、あまり触れようとしない性格が残っていたのか。
無意識のうちに、二人の関係を知らない芝居を打っていた。
これは少し、面倒だなと思った。
兄者は、他意なく重要な情報を隠してしまうかもしれない、ということ。
また、兄者は、隠し事が非常にうまい、ということ。
貞子の件は、最初から見当がついていたからいい。
まだ僕らが一切知らないでいる情報を得るのは、やや骨が折れそうだ。
( ´_ゝ`) 「クックル、根が真面目だからさ」
( ´_ゝ`) 「俺に、相談してきたんだ。
サークル内で付き合っていいのか」
(´・_ゝ・`) 「なんて返したの?」
( ´_ゝ`) 「そりゃあおめ、悪いことはない」
( ´_ゝ`) 「うまくやれよ、とだけ言ったさ」
.
-
(´・ω・`) 「ドロドロになるッてのは、警戒しなかったんだ?」
( ´_ゝ`) 「いやーー、そりゃあするよ」
( ´_ゝ`) 「根暗なサークルの、恋愛沙汰だぜ。
最悪、崩壊するかもしれん」
ただ。
兄者は続けた。
( ´_ゝ`) 「クックルは、波風を立てるようなキャラじゃないし」
( ´_ゝ`) 「セリっちも、性格を考えたら、人前でそんな露骨にはイチャつかんだろ」
( ´_ゝ`) 「だったら、こっちからは余計なことは言わんでいい」
( ´_ゝ`) 「実際、多少察されるにせよ、問題なく付き合ってたしな」
( <●><●>) 「念のためですが、」
( <●><●>) 「クックル以外に、ミセリのことを好いていた人はいないのですか?」
.
-
それは、僕も気になる点だ。
サークル内恋愛となると、そういったところからいざこざが発生し、
その延長で亡霊の怨恨に繋がってしまったということもある。
( ´_ゝ`) 「いやあ、どうだろうね」
( ´_ゝ`) 「そりゃ見た目は可愛いし、体形もいいんだ、華はあったね」
( ´_ゝ`) 「ただ、それとこれとは違う。
わかるだろう」
目の保養、というのか。
アイドルを応援するファンに近い感じかもしれない。
よく思う気持ちは、なにも恋愛感情にしか結びつかないわけではない。
多少下心があっても、恋愛感情なしで当人を気に入るのは自然な話だ。
それこそ、兄者が言う華、のような感情だろう。
(´・ω・`) 「もう一人の、女性」
(´・ω・`) 「貞子は、どんな感じだったんだい?」
.
-
( ´_ゝ`) 「もともと、うちはインドアなサークルだ」
( ´_ゝ`) 「セリっちが例外すぎるだけで、貞子はイメージそのままだぜ」
( ´_ゝ`) 「おとなしいインドア女子よ」
( <●><●>) 「ちなみに、彼女の写真などは」
( ´_ゝ`) 「ううん……ないかなァ」
( ´_ゝ`) 「さっきも言ったけど、部員の写真は撮らないからブログには残ってないし」
さすがに、十年前だと考えると、
ケータイにも残っていることはないだろう。
ただ、だいたいのイメージはついた。
( ´_ゝ`) 「典型的なインドア派で、散髪すら億劫に思う始末だね」
( ´_ゝ`) 「おっと。 なにも悪口じゃないぜ」
( ´_ゝ`) 「俺もこいつも、ヒッキーもそんな感じなんだ。
むしろ同志と言えよう」
(´・ω・`) 「ほほん」
.
-
(´・_ゝ・`) 「刑事さんはわかりづらいかな」
(´・_ゝ・`) 「髪を切るその数千円で、好きなものが買える」
(´^_ゝ^`) 「……ッてな具合でね。 まあ、そんなもんなんだよ」
(´・ω・`) 「まあ、理解はできる」
朝食をとる時間があったら少しでも寝ていたい、というような心地だろう。
僕に当てはめれば、お見合いをするくらいなら酒を呷りたくなるようなものだ。
( ´_ゝ`) 「俗にいう、ボーイズラブとかが好き……えっと。」
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、化粧を意識したり、ファッションに拘るような性格ではなかった」
、、 、 、
( ´_ゝ`) 「……ま、典型的な、こっち側の人間なワケですよ」
(´・_ゝ・`) 「でも、ふつうにスタイルよかったし、顔立ちも整ってたのになァ」
( ´_ゝ`) 「俺、しょっちゅう言ってたじゃん。
もったいないッて」
.
-
よく聞く話ではあった。
容姿、素材はいいのに、自分に自信を持てず、
そういった自分磨きに意欲を持てないタイプの女性だ。
女性の美しさは、化粧の巧さだ。
揶揄でもなんでもなく、化粧が巧い女性は、
すなわち自分を魅せるのが巧い女性である。
そしてそれは、自分の持つ美しさを引き立てることに長けているわけだ。
自身の美しさを知らなければそれはできないし、
自身ですら知らない美しさを、他人が知れるはずもない話でしかない。
(´・ω・`) 「性格は、どんな感じだった?」
( ´_ゝ`) 「まあ、おとなしくはある」
( ´_ゝ`) 「ただ、毛色は違うにせよ、クックルと一緒よ」
(´・ω・`) 「ほう」
( ´_ゝ`) 「普段は無口だけど、スイッチが入ると暴走するタイプね」
(´・ω・`) 「……それは、むしろミセリじゃあ?」
( ´_ゝ`) 「それはそれ、これはこれ」
.
-
( ´_ゝ`) 「自分の好きな話になると、途端に饒舌になるんだ」
( ´_ゝ`) 「まあ、それはこっち側の人間共通だがな」
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、人と話すのに慣れてないもんで」
ぎょろ目の話を思い出した。
昔はよく息子の話を聞かされたものだが、
息子は引っ込み思案なくせに、電車の話となると食事も忘れ夢中になるらしい。
咀嚼していた米粒なんかを飛ばしながら、語ったそうだ。
( ´_ゝ`) 「ほら。」
( ´_ゝ`) 「人って、話し方で、ああ、慣れてるな慣れてないな、ッてわかるじゃん」
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「僕も、おたくが話し慣れてることはすぐにわかった」
(´・ω・`) 「すごく落ち着いた、でも抑揚の利いた巧い話し方だ」
( ´_ゝ`) 「そいつはありがとうございます」
.
-
( ´_ゝ`) 「早口だったり、会話が成り立ってなかったり」
( ´_ゝ`) 「ま、俗にいうコミュ障、ってのかい」
兄者の巧いところは、ワンクッション置くときの言い回しだったりもそうだ。
相槌を入れたり、質問を挟んでも、流れを崩さず話し続けていられるところにある。
そしてそれは、それだけ精神体がしっかりしている、ということ。
なるほど確かに、信頼に足る人物だろう。
ミセリたちが彼に惹かれて入部したというのも、わかる話だ。
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、昔から人付き合いが浅かったそうで」
( ´_ゝ`) 「人と接する青春を、趣味に費やしてきたんだ、」
( ´_ゝ`) 「会話にせよ仕草にせよ、マ、そんな感じの女の子よ」
( ´_ゝ`) 「ただ、万が一にも悪いやつではなかった」
.
-
(´・ω・`) 「ほう」
( ´_ゝ`) 「自分に自信がない分、随分と繊細でよ」
( ´_ゝ`) 「ほら……あれ。」
( ´_ゝ`) 「自分が傷つくようなことは、他人にするな、ッてあれ」
( ´_ゝ`) 「あれを素でゆく人物さ。
むしろ、かなり心配性だったとも言えるね」
だいたいの人物像は掴めた。
引っ込み思案、おとなしい、繊細。
付け加えるならば、きっとかなりメンタルが弱かった女性だろう。
その実根性があったかもしれないが、この際どちらでもいい。
大まかの人がわかっただけで十分だ。
( <●><●>) 「貞子は、ミセリのような色恋沙汰はなかったので?」
( ´_ゝ`) 「好きですねえ、刑事さんも」
訂正しよう。
兄者は確かにクチが巧いが、喧嘩を売る相手を見極める能力はない。
こいつは上司のいじりにすら舌打ちを欠かさない、クソ真面目の野郎なんだぞ。
.
-
( ´_ゝ`) 「なんてのはいいとして」
( ´_ゝ`) 「まあ……なかったと思うよ」
(´・ω・`) 「思う、ッてのは」
さっきの今だ。
ミセリとクックルの件よろしく、自然に隠されてはならない。
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと、繋がりはあったんじゃないかな、とは」
( ´_ゝ`) 「思ってたよ」
(´・_ゝ・`) 「え。 まじ?」
( ´_ゝ`) 「いやあ……怪しいんだけどさ」
( <●><●>) 「何か、根拠が?」
( ´_ゝ`) 「根拠がないから、怪しい……ッて感じですね」
.
-
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと貞子、って見ると、確かにお似合いだな、とは思うんだ」
( ´_ゝ`) 「どっちも、太陽の下よりは、木陰で生きてきた二人だ」
( <●><●>) 「ヒッキーは、どんな人だったのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「文字通り、こっち側、ッてね」
( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
(´・ω・`) 「ん?」
ちょっと引っかかるな。
(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
、 、、
(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
.
-
( ´_ゝ`) 「あれ。 言ってなかったか」
( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
同い年で昔からの知り合い、というだけで勘違いしていた。
まあ、彼らのコミュニティを考えれば、納得はできる話だ。
( ´_ゝ`) 「まあいいや」
( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
.
-
(´・ω・`) 「ハンネ、ってのは?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 ネットで使う名前、だよ」
( ´_ゝ`) 「ラジオネームみたいなもん」
おじさんにも伝わりやすい、実にわかりやすい例えだ。
インターネットでは本名は晒さないものだ、と聞いていたが、そういうことか。
(´・_ゝ・`) 「あの人本名勢だったん?w」
( ´_ゝ`) 「いやいや、さすがに」
( ´_ゝ`) 「スカイプでやり取りしてる時にな、聞いたんだよ」
(´・_ゝ・`) 「出会い厨かよ~」
( ´_ゝ`) 「ちがくて」
( ´_ゝ`) 「むっちゃ長い厨二ネームで、略しようもなかったんよ」
(´・_ゝ・`) 「ちなみに、なんて名前?」
( ´_ゝ`) 「退き際知らぬ若人よ汝は誰ぞ愛すか」
(´・_ゝ・`) 「文章wwwwwまさかの文章wwwwwwww」
.
-
( ´_ゝ`) 「そらで言えた自分につい笑ってしまうわ」
(´・_ゝ・`) 「まあまあ、若気の至りすな(笑)」
( ´_ゝ`) 「で、名前聞いたら、ヒッキーって聞いて」
(´・_ゝ・`) 「ああ、それで退き際云々……」
(´・_ゝ・`) 「だめだくそ笑うwwww」
( ´_ゝ`) 「wwwww」
( ´_ゝ`) 「……ま、そんな感じで」
( ´_ゝ`) 「大学もアルプスのとこに行ったらしいけど、」
( ´_ゝ`) 「サークル作るぞッて言ったら来てくれたわ」
(´・ω・`) 「まあまあめんどくさそうなのにね」
( ´_ゝ`) 「むしろ、俺ら以外に友だちもいなかったらしいし」
( ´_ゝ`) 「授業とかあろうが、全力で無視してくれてたわ」
.
-
(´・ω・`) 「でも、紅葉狩りには乗り気じゃなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「見るだけやん、ッてうるさかったよ」
( ´_ゝ`) 「あいつ、見た目のわりに体を動かすのが好きだったんだ」
見た目のわりにか。
なかなかしっかりとした体幹の男だった印象だが。
建設業に勤める過程で、体つきが変わったのか。
と思ったが、男は二十八を超えれば体型はすっかり変わるものだ。
兄者も、骨格からして昔は痩身だったとうかがえるが、腹が出ている。
( <●><●>) 「しかし、そんな小森ですが」
( <●><●>) 「クックルとミセリのような関係ではなかった、と」
( ´_ゝ`) 「まあ……あいつはニヒルなとこがあるからな」
( ´_ゝ`) 「もしそうだったとしても、表に出すようなことはなかったわ」
.
-
(´・_ゝ・`) 「でも、それが何か関係あるのですか?」
( <●><●>) 「事件のキッカケの多くは、愛憎劇かカネが多いですから」
(´・_ゝ・`) 「そもそも、事件じゃなかったんだけど……」
( <●><●>) 「もしそれが本当に事件だったら、亡霊は成仏していますが」
( ´_ゝ`) 「………成仏、ねえ」
兄者がつまらさなそうな声を出した。
登場人物の相関図と位置関係は把握できた。
そろそろ、その 「事故」 の背景を洗う必要がある。
(´・ω・`) 「まあ、日中の行動はわかった」
、 、
(´・ω・`) 「事故が起こったのは、あくまで深夜だったんだね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
(´・ω・`) 「それは、みんなが寝た後、かい?」
.
-
( ´_ゝ`) 「断言こそできねえが、少なくともだいたいは寝てたと思うぜ」
( ´_ゝ`) 「俺が寝たのは日付が変わった後だから、それ以降だ」
(´・ω・`) 「変わる前くらい……二十三時頃からのみんなの動向は?」
( ´_ゝ`) 「コテージでみんな適当にだべってたな」
(´・ω・`) 「みんな、というと、誰も外には出ていなかった?」
( ´_ゝ`) 「まあ」
特に証言できるようなことはない、ということか。
夜も更けている、全員がコテージにいたのはあまり疑う余地もない。
( ´_ゝ`) 「俺とセリっち、クックル、デミやんは騒いでよ」
( ´_ゝ`) 「貞子、ギコ、ヒッキーは軽く雑談しながら、のんべんだらり」
( ´_ゝ`) 「……そうだな。 騒いでた組が、先に寝たぜ」
.
-
( <●><●>) 「具体的には、どう騒いでいたのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「ん……どう、ッて言われてもな」
(´・_ゝ・`) 「大したことでもないよ」
(´・_ゝ・`) 「死生観と下ネタと将来が飛び交う、大学生らしい感じ」
( <●><●>) 「なにか、気になった点、変わった点は」
(´・_ゝ・`) 「さすがにない、ですね」
(´・_ゝ・`) 「……あー」
(´・_ゝ・`) 「強いて言えば、ヒッキー氏がたまにキレてたな」
(´・ω・`) 「キレてた?」
(´・_ゝ・`) 「あの人は、寛いでる隣で騒がれるのが嫌いなんすよ」
.
-
( <●><●>) 「コテージ、と言ってますが」
( <●><●>) 「大部屋に人数分の寝床があった、ということでよろしいですか?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 つっても寝床で寝たやつは少ないけど」
(´・ω・`) 「こう……上面図的なものがあれば、嬉しいんだけど」
( ´_ゝ`) 「さすがに無いな」
( <●><●>) 「では、覚えている限りで証言してください」
と、ワカッテマスがペンを立てながら言った。
ここらの準備は早い。
兄者は一瞬言葉を詰まらせつつも、応じた。
( ´_ゝ`) 「ええと……寝床だけでいいのかい?」
( <●><●>) 「現状は。 室内での事故でもありませんし」
( ´_ゝ`) 「そうだな。 まず、でっかい長方形を描いてくれ」
.
-
言われるがまま、ワカッテマスは図を作成していった。
寝床、とは言ったが、要はリビングだったらしい。
横長の長方形のうち、左半分がバルコニーで、テレビが北西に位置する。
テレビの右隣に暖炉、手前に広いローテーブルが。
ローテーブルとは言うが、要はコタツだ。
そのコタツを覆うようにロングソファーがある。
長方形右半分は、キッチンダイニングだった。
彼らは、夕食は野外ではなく、このキッチンを利用して済ませたらしい。
描き終えて、ワカッテマスは首を傾げた。
( <●><●>) 「……ベッドの類はなかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「ここは一階でよ、個室は二階だ」
( ´_ゝ`) 「それぞれに二段ベッドがあって、本当はそこで寝るはずだったんだ」
(´・ω・`) 「察するに、リビングで全員寝たんだ?」
( <●><●>) 「それはどうして、ですか」
.
-
( ´_ゝ`) 「……いやあ」
(´・_ゝ・`) 「大丈夫さ。 刑事さん、くだらない話の耐性はできてるから」
( ´_ゝ`) 「だったらいいんだけどさ」
勘弁してくれ。
密室鉄道でもそうだったが、こいつの言う
「くだらない」 は本当にくだらない。
( ´_ゝ`) 「ほら。 下ネタ混じりで騒いでたッつったじゃん」
( ´_ゝ`) 「で、二階の個室は、全部ふたり用でさ」
(´・_ゝ・`) 「クックルとセリっちの仲はおわかりですよね?」
(´・ω・`) 「んーー……」
だいたいの察しは、ついた。
ミセリとクックルの関係は、暗黙の了解だった。
そして、兄者を筆頭に、ミセリは茶化し茶化されのポジションだったと聞く。
( ´_ゝ`) 「わたくしが、深夜テンションでふたりを茶化してたんですよ」
( ´_ゝ`) 「そしたら、デミやんも巻き込んで、壮大な大乱闘……」
死生観、将来の話はなんだったんだ。
.
-
(´・_ゝ・`) 「セリっちが、兄者氏と対峙しながらクックルに寄るんだよ」
(´・_ゝ・`) 「個室じゃなくてもいいよねー、とか言い出してさ」
(´・ω・`) 「ほっとけばいいものを……」
( ´_ゝ`) 「面白いはすべてに優先する。
……座右の銘さ」
何もかっこよくはない。
ただ、情景は容易に想像ついた。
(´^_ゝ^`) 「で、その流れもあって、僕ら四人はくたばるように雑魚寝だよ」
(´・_ゝ・`) 「四人がそこで横たわるもんだから、残りも一階で、と」
( ´_ゝ`) 「俺の知る限り、みんなソファーやら絨毯、コタツで寝たね」
( ´_ゝ`) 「貸切コテージなだけあって、リビングもすげえ広いから」
(´・ω・`) 「暖炉もあるくらいだしね」
( <●><●>) 「……暖炉、ですか」
.
-
ワカッテマスが、意味深に呟く。
( <●><●>) 「時期は秋ですが」
( <●><●>) 「夜は寒かったのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「あんたらの想像する以上に、寒かった」
( ´_ゝ`) 「なにぶん、山奥、それもかなり標高の高いところだ」
アルプスは、温暖な気候で知られている。
しかし、夏も去った季節の山奥ともなれば、話は別だ。
( ´_ゝ`) 「最初、暖炉やコタツを見て笑ってたんだがな」
( ´_ゝ`) 「結果的に、夜は使ってたぜ、コタツ」
(´・ω・`) 「暖炉は使わなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「まあ、オプションだったし」
.
-
( ´_ゝ`) 「まず、セリっちが、クックルに寄り掛かるようにしてそのまま寝た」
( ´_ゝ`) 「クックルもそのまま横たわって」
(´・_ゝ・`) 「僕と兄者氏も、一気に疲れて、絨毯の上に倒れたね」
( ´_ゝ`) 「ああ……思えば、ふたりで一緒の毛布をかぶったな」
(´^_ゝ^`) 「うふふ……」
( ´_ゝ`) 「よせやい」
(´・ω・`) 「あんたらが寝たッてことは、」
(´・ω・`) 「残りの三人がその後どうしたか、まではわからないか」
(´・_ゝ・`) 「ア、目は瞑ったけど、そんなすぐには寝なかったよ」
まあ、言われたらそうか。
(´・_ゝ・`) 「僕らは絨毯だし、セリっちやクックルはソファーにもたれかかってた」
(´・_ゝ・`) 「えっと……残りも、ソファーやらコタツに寝たはず」
.
-
(´・ω・`) 「みんなが、一緒の空間で寝た。
それはわかった」
(´・ω・`) 「……重要なのは、ここからだ」
時系列や状況を整理していたワカッテマスも、ここで一旦線を引いた。
「事故」 はあくまで深夜、それも貞子が散歩に出かけたところから始まる。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「先に言っておくが、厳密な時間はわからねえ」
(´・ω・`) 「もっともだ」
(´・ω・`) 「わかってる、覚えてる範囲でいい」
(´・ω・`) 「……次にみんなに動きがあったのは、」
(´・ω・`) 「貞子がひとりで散歩に行ったところから、なんだね?」
.
-
兄者もデミタスも、即答はしなかった。
無理もない。
当時は寝ていた上に、それは十年も前の話だ。
少しすると兄者が話の口を切った。
( ´_ゝ`) 「……物音はした」
( ´_ゝ`) 「ほら、わかるだろうが、不慣れな場所で寝る時って、眠り、浅いだろ」
( <●><●>) 「まあ」
( ´_ゝ`) 「ただ、気には留めなかった」
( ´_ゝ`) 「まさか、それがそのまま事故に繋がるなんて思うまい」
( ´_ゝ`) 「単にトイレに行った程度にしか思わんだろ」
特に気にはしなかった。
そしてそれはつまり、前兆のようなものもなかった、ということだ。
事故は、本当に突発的なものだったのだろうか。
.
-
(´・ω・`) 「いいか」
(´・ω・`) 「ここは、重要なところだ」
(´・ω・`) 「その、物音……布ずれの音?」
(´・ω・`) 「それ以外に、変わったことはあったか?」
そんなものがあったら、それは既に十年前に言われているかもしれない。
しかし、当時と明確に違う点がある。
当時は、あくまで事故として捜査され、処理された。
それを十年越しに、事件の可能性があったとして見ている。
十年前の初動捜査や取調では、必要以上の追究などなかっただろう。
事件性が認められなかったため、最低限の状況を聞き出した程度に違いない。
'_
(´・ω・`) 、
.
-
すると、着信音が鳴った。
僕だ。
先ほど、アルプス県警の知り合いに雑なメールを送っておいた。
個人的な繋がりの強い警部だ。
今となっては、正式な警部でこそないらしいけど。
名前は三月ウサギという。
本名なのかは定かでない。
(´・ω・`) 「はい、ショボーン」
懐かしい声が聞こえてくる。
定年を超えてなお、刑事の道を選んだ生粋の刑事だ。
県警同士のやり取りともなると、面倒な手順を踏まされる。
こういう時、個人的な繋がりというものは非常に便利だ。
わざわざ刑事部長を通して協力を要請するのは、かなりの労力を要する。
連続予告殺人事件は、国中に知られる大事件だ。
当然アルプス県警にも広まっていたようで、手短に要件を伝えてくれた。
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-
まず、データがこちら側に送られてきた。
加え、現場となるコテージ、崖の位置情報。
現場までの案内役も、必要ならば用意してくれるらしい。
ただ、担当した捜査官は既に退職しているそうだ。
僕としては、そちらからの情報も期待したのだが、仕方ない。
(´・ω・`) 「ちなみに、調べようと思えば現場は調べられますか?」
コネというコネは利用してやる。
オオカミ鉄道も然り。
現場へのアプローチは、アルプス県警に任せることにした。
地主を特定し、ガサ入れの取っ掛かりまで作ってくれればそれでいい。
言うと物臭そうに溜息を吐かれたが、協力を約束してくれた。
(´・ω・`) 「頼みますよ、三月殿」
『……ああ』
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┏━─
午後二〇時一六分 アルプス県警
─━┛
受話器を置いて、大きく伸びをした。
久々に新鮮な気持ちになった。
伸びをした衝動で、デスクの上のファイルスタンドが床に落ちた。
部屋に誰もいない時、つい足をデスクにかけてしまう。
これが一番楽な姿勢なのだ。
(メ._⊿,) 「……」
拾うのも億劫だ。
ただぼんやり眺めていると、誰かが音を聞きつけたのか、部屋に入ってきた。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「…!」
.
-
会議に出ていたはずのイナリが、扉口から俺を睨む。
一番見つかりたくない奴に見つかってしまった。
イナリはそのまま、つかつかと音を立てて、俺の隣に立った。
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
腕を組んで、俺を見下ろす。
気まずくなり、俺から先に話の口を切った。
(メ._⊿,) 「……ちょうどよかった」
(メ._⊿,) 「……それ……戻してく」
言葉を遮るように咳払いをされた。
まったく許してくれそうにない。
.
-
重い体を起こして、しぶしぶファイルをデスクに戻した。
腰が鈍い音を立てる。
(メ._⊿,) 「……随分と早かったじゃねえか」
(メ._⊿,) 「会議は……終わったのか……?」
イ(゚、ナリ从 「無事に」
ご立派なことに、イナリは警部になって以来、休みがない。
日々会議に駆り立てられるばかりだ。
優秀な人材に悩まされる警察において、
頭脳明晰なキャリア組というものはそれだけ価値があるものなのだろう。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「?」
ふう、と胸に溜まっていた憤りの溜息を吐くと、
見慣れない水色のファイルを見て首を傾げた。
.
-
黙って手に取り、ぺらぺらとページを繰る。
ついさっき、ヴィップ県警に送った事故案件のデータファイルだ。
文面を軽く目で追って、不思議そうな顔をした。
鉄仮面と揶揄される彼女は、俺の前では多少感情の紐を緩める。
イ(゚、ナリ从 「なんですか、これ」
(メ._⊿,) 「さあ……な」
イ(゚、ナリ从 「……」
ふーん、と鼻を鳴らす。
まったく腑に落ちていない様子だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいです」
イ(゚、ナリ从 「それより、手伝ってほしい案件があるのですが」
(メ._⊿,) 「惜しいな……」
(メ._⊿,) 「一時間前に言っていたなら……手を貸してやったが……」
.
-
イ(゚、ナリ从 「何か担当、ありましたっけ」
(メ._⊿,) 「たった今……できた……」
イ(゚、ナリ从 「ふーん」
もはや、俺の言葉に耳を傾けない。
身を乗り出して、勝手に俺の旧式のパソコンを触りだした。
ヴィップ県警にデータを送り、そのままにしていた。
しまった。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「 えっ……?」
宛先は、ヴィップ県警。
ではない。
あくまで、個人に送った、個人的なメールだ。
その宛先と文面を見て、イナリは素っ頓狂な声を挙げた。
.
-
刑事部長には黙っていてもらいたかったのだが。
見られてしまったなら仕方がない。
(メ._⊿,) 「ちっくら……面倒事を請け負っちまった」
(メ._⊿,) 「何……兎の恩返しッてやつだ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリも、懐かしい名前を見たのだ、感傷的になるだろう。
俺にしても、イナリにしても、ある種の因縁を持つ男なのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「合同捜査、ではないので?」
少し気を遣わせてしまったようだ。
柄にもなく、優しい声になっている。
.
-
(メ._⊿,) 「合同捜査なら……お上サマが勝手に決めるもんだ……」
(メ._⊿,) 「……こいつァ個人的なやつよ」
(メ._⊿,) 「さしずめ……兎の恩がえ」
イ(゚、ナリ从 「だったらちょうどいいですね」
(メ._⊿,) 「……」
イナリが、ふふんと鼻を鳴らす。
何歳になっても可愛いものだ。
イ(゚、ナリ从 「くだんの連続予告殺人ですが」
イ(゚、ナリ从 「ご存じの通り、私も一枚、噛まされることになりまして」
(メ._⊿,) 「……?」
イ(゚、ナリ从 「……?」
.
-
イ(゚、ナリ从 「あの……昼渡した、会議資料は……」
(メ._⊿,) 「朝……?」
今日は、十三時頃にデスクについた。
そういえばその時、イナリに出会いがしらになにか渡された。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……ああ、あの鼻かみ……」
,_
イ(゚、ナリ从 「鼻ッ ………」
イナリが眉間にひびを刻み込む。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「………ごめん……」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
.
-
概要は、こうだ。
国民の信頼、安心が問われる局面に、警察組織は悩まされているらしい。
テレビでは報道されていなかったが、くだんの犯人は四人目を始末したそうだ。
その顛末に、ついに管轄外の県警も動きを見せた。
アルプスにまで、ヴィップの大事件の余波が飛んできたということだ。
イナリが頭となり、適宜応援を遣わせたりすることが決まった。
イ(゚、ナリ从 「もっとも、大々的なことはできないのですが」
イ(゚、ナリ从 「とにかく人手が問われる局面、というわけです」
(メ._⊿,) 「……」
天井を仰いだ。
一度、大きく深呼吸する。
(メ._⊿,) 「だったら……精々頑張ってくれ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「は?」
.
-
ゆっくり、デスクから、イナリから離れ、廊下に向かう。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
トコトコ、と音を立てて俺の後ろについてくる。
(メ._⊿,) 「どうせ……俺ァはぐれ刑事よ」
イ(゚、ナリ从 「……また拗ねた」
拗ねてなんかいねえ。
ちいさく言ったが、イナリには聞こえなかったようだ。
(メ._⊿,) 「俺は……兎の恩返しに忙しい」
(メ._⊿,) 「こっちはこっちで……やるべきことをやるだけ……」
イ(゚、ナリ从 「私にも、共有を」
(メ._⊿,) 「……」
肩を掴まれる。
情けないことに、スタイルのいいイナリのほうが俺より背が高い。
子に背を抜かれるというのは、なかなかどうして複雑な心境になるものだ。
.
-
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「なあ、イナリ……」
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「登山……好きか?」
.
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