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五月六日 午後十三時五二分
ヴィップの滝公園
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(;´・ω・`) 「こちらショボーン!」
(;´・ω・`) 「女がひとり、滝を登っている!」
( ;´゚ω゚) 「 ジョークじゃねえんだ!!すぐ保護しろ!!」
(;゚д゚) 「言っても無駄だ!はやく向かいましょう!」
言って、ぎょろ目は走り出した。
滝の上は、多少の石畳こそあるものの、
一般人の立ち入りが想定されたものではない。
公園の管理団体が、暫定で取り付けたものなのだ。
入り組んだ茂みを抜け、その石畳を駆け上っていく。
滝の上へと続く道、いわゆる 「裏」 に市民は、誰一人としていない。
警官が捜査している程度である。
.
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いちいち連中に説明するのも、手間がかかる。
警戒を強化しろ、とだけ伝え、僕とぎょろ目は、上へ、上へと進む。
滝口、つまりはダムの頂点だ。
出来損ないのダムは、明らかに整備がされていなかった。
警官が数人、捜査している。
連中には、まだ詳細なことを伝えていない。
とにかく、めぼしいものはかき集めろ、と言ってある。
それがゴミであっても、足跡でも、なんでも。
ひょんなものが、決定的な証拠になることも、多々ある。
(;´・ω・`) 「……」
ぎょろ目が、たまたま見つけた、不自然な包装。
これこそまさに、ひょんな、決定的な証拠だった。
(;´・ω・`) 「……」
アネモネ。
紫のそれは、あなたを信じて待つ、という花言葉がある。
.
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ほんとうは、ミセリを信じて待つ、というつもりで渡したものだった。
皮肉にも、ミセリが僕を信じて待つ、という意味になるとは思いもしなかった。
(;゚д゚) 「イツワリさん!」
(´・ω・`) 「どうした!」
ぎょろ目は、滝上の茂みのほうにいた。
大急ぎで手をこまねいている。
(;゚д゚) 「これ………見てください」
(´・ω・`) 「なんだ…コレ」
ぎょろ目は、何やら大きい機械を指さして言った。
漁獲船にありそうな、網を引くローラーだ。
それが、カリカリと音を立てて稼働している。
(´・ω・`) 「……」
(;´・ω・`) 「ッ! そういうことか!」
.
-
互いに合点がいったようで、無言で示し合わせて、
そのローラーが巻いているロープを引く。
ロープは滝口、その下まで伸びている。
となれば、簡単な話だった。
ミセリは、これに縛られて、滝を逆流しているのだ。
(;´・ω・`) 「クソッ!!」
かなりの重量がある。
ミセリやロープ自体は、重くないだろう。
ただ、ミセリは、滝をまともに受けているのだ。
その分の重量が、ロープに重く圧し掛かっている。
男ふたりで引いても、まるで手ごたえがなく感じられる。
(;゚д゚) 「おい! お前らも来い!」
.
-
ぎょろ目が、大声で周囲の警官を呼び寄せる。
もとより厳つい刑事だ、恫喝されて半ば怯えながら駆けつけてきた。
全員で力をあわせて、ロープを引っ張る。
少しすると、まるで大物でも釣り上げたかのように、ロープが緩んだ。
全員が反動で後ろに倒れる。
滝口から、ミセリがこちらに向かって飛び込んできた。
(;゚д゚) 「おい!!意識はあるか!!」
すぐに対応したのは、ぎょろ目だった。
ミセリをすぐに抱きかかえて、首にかかっていたロープを外す。
奴は間髪入れず、全身を揺らしながら、大きな声をかけた。
時折、呼吸や心拍音を確認する。
しかし、一向にぎょろ目の顔色は変わらない。
むしろ、悪くなっていく一方だ。
(´・ω・`) 「代われ」
.
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ぎょろ目が、困ったような顔を浮かべながら、僕に場所を譲る。
その場にしゃがみ込み、検視に入った。
検視、といっても器具などは一切持ち合わせていない。
ただ、どう死亡したかは、判断できる。
(´・ω・`) 「…」
体温は、恐ろしく低い。
水に浸かり、滝に打たれたためだろう。
脈、心拍音、呼吸、そのすべてがない。
死後硬直は見られない。
あらかじめ殺し、滝壺に落としたわけではなさそうだ。
また、水をほとんど飲みこんでいない。
溺死でも、ない。
もしや、と思い眼をうかがうと、溢血点が確認された。
首元にも索条痕が残っている以上、絞殺が疑わしい。
滝を登った時にできたものの可能性もあるため、断言はできないものの。
とにかく、芹澤ミセリは、殺害された。
疑いようのない事実だった。
.
-
(´・ω・`) 「……五月六日、十四時十二分」
(´・ω・`) 「芹澤ミセリの死亡を確認」
(;゚д゚) 「ッ!」
がばッとぎょろ目が屈み込んだ。
僕が眼を見たのと同様に、ぎょろ目もそれを確認した。
(;゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「これ、は…」
(´・ω・`) 「溢血点。 おそらく、絞殺だ」
ぎょろ目は、僕ほど検視の知識はない。
溢血点は、絞殺された時に、眼球に現れるちいさな点だ。
この時点で、首を絞められ殺されたのは明らかとなる。
駆け寄った警官が、なりふり構わず写真を撮ったり、現場状況を確認し始めた。
手際がいいのはよろしいことだが、今はそっとしておいてほしい気もした。
(´・ω・`) 「ただ、殺されてまだ浅いぞ」
(´・ω・`) 「近辺に犯人がいる可能性は、高い」
.
-
(#゚д゚) 「まだ来てない所轄も呼べ!」
(#゚д゚) 「周囲を、徹底的に囲うんだ!」
ぎょろ目の恫喝に、警官たちが畏縮する。
全身が濡れたままの老体とは思えない、怒声だった。
(´・ω・`) 「…」
ミセ:::-::)リ
(´・ω・`) 「…」
その間、僕はそっと、ミセリの顔を見つめた。
死んだとは思えない、静かな寝顔だ。
花飴の包装を、見る。
あなたを信じて待つ。
もう少し早く、この包装の存在を知れたら、あるいは生還させられたのだろうか。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「くそ」
.
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地面を、強く殴る。
防ぐことは、できなかったのだろうか。
ワカッテマスの言う通り、無理にでも保護すればよかったのだろうか。
人命を軽んじたつもりは、ない。
ないが、今回は、自分の判断ミスが生んだ結果にしか思えなかった。
( ゚д゚) 「……イツワリさん」
ミセリの顔にハンカチを載せて、言った。
感情的になりそうな自分を、なだめるような声だった。
( ゚д゚) 「陣頭指揮は、自分に任せてください」
( ゚д゚) 「まだ、事件は終わってないんです」
(´・ω・`) 「…」
奴ほど、捜査を任せて安心できる男はいない。
短くない警部人生で、幾度となく痛感させられてきたことだ。
.
-
( ゚д゚) 「盛岡デミタス、流石兄者」
( ゚д゚) 「残るは、ふたり」
( ゚д゚) 「つまり、少なくともあと一度、事件が起こる可能性が、あるんです」
僕に、はやく次のステップに進め、と言っているのだろう。
ただ、ひとつ、いやに引っかかることがあった。
(´・ω・`) 「……流石兄者」
( ゚д゚) 「?」
(´・ω・`) 「至急、奴にコンタクトを取る必要がある」
(´・ω・`) 「まだ、ペニー達は洗い出せてないのか?」
( ゚д゚) 「自分は、聞いてないですが」
.
-
( ゚д゚) 「盛岡のほうは、どうだったんです」
( ゚д゚) 「確か、先ほどまで、警部が対応していましたよね」
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「パトカーで保護させてるよ」
( ゚д゚) 「…パトカー」
(;゚д゚) 「パトカー!? そこのですか!?」
急な出来事だったので、デミタスをここまで連れてくる運びとなった。
危険だから、と警官をひとり、配置させている。
それも、僕が適当な奴を捕まえて指示したことだ。
(´・ω・`) 「この瞬間、盛岡デミタスには、完全なアリバイができた」
(´・ω・`) 「警察が、じきじきに奴のアリバイを立証している」
.
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(;゚д゚) 「と、なると…」
(´・ω・`) 「流石兄者だ」
(´・ω・`) 「現状、犯人たりうるのは、奴しかいない」
流石兄者。
現在、三十四歳だろうか。
ヴィップ大学在籍時の情報は得られたが、
盛岡デミタスと違い、未だに奴は捕捉できていない。
立ち上がって、ミセリに合掌一礼。
呆然とするぎょろ目の背中に、一発平手を叩き込む。
(´・ω・`) 「頼んだぜ、先輩」
(´・ω・`) 「こっちは、任せろ」
(;゚д゚) 「……」
.
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(;>д゚) 「 ぶえッくし!」
(´・ω・`) 「ぶっ」
強く背中を叩いたからか、えらく情けないくしゃみをした。
先ほどまでの沈着な態度はどこに行ったのか、気まずそうに鼻をすする。
(´・ω・`) 「なりふり構わず泳ぐからだ」
( ゚д゚) 「……歳は、いやですね」
(´・ω・`) 「まったくだ」
( ゚д゚) 「……すみません、鼻かみ、ありますか」
(´・ω・`) 「鼻かみ?」
( ゚д゚) 「ポケットに入れっぱなしで、濡れてしまって……」
(´;ω;`) 「……ぶひゃ、ひゃひゃ!」
ポケットから、鼻かみと一緒にキャンディーも取り出す。
ごつごつした手のひらに、叩きつけた。
.
-
( ゚д゚) 「ン……これは」
(´・ω・`) 「鼻は大切にしろよ。
じゃあな」
( ゚д゚) 「どう、も。」
( ゚д) ・’
っ
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ,
ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第五幕 「 アネモネ
」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
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午後十四時五七分 捜査本部
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(;´・_ゝ・`)
( <●><●>) 「アリバイは、確かのようですね」
覆面パトカーで、一度捜査本部まで戻ってきた。
いま一度、核心に迫る必要があった。
車に乗せたままだったデミタスに、ミセリが殺された旨を告げた。
デミタスは顔を真っ青にして、言葉を失っていた。
捜査本部までの同行を伺うと、ふたつ返事で快諾してくれた。
すぐそこで、連続殺人の続きが起こってしまったのだ、当然だろう。
また、消去法でいけば、犯人は流石兄者で、
次、つまり最後のターゲットは、自分ということになる。
デミタスが拒む理由は、どこにもなかった。
(;´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`) 「……じゃあ、やっぱり」
.
-
壁とペニーには、ひと段落つき次第、捜査本部に戻るよう指示した。
できる限り早急な帰還が望まれたが、幸い、ふたりとも長引きはしなさそうだった。
戻る際、ワカッテマスにも連絡を入れた。
公園手前まで迫っていたようで、捜査本部に戻ったのは同刻だった。
デミタスと出会った事件、密室鉄道にはワカッテマスもいた。
もっとも、雑談などしていられる空気ではなかったが。
(´・ω・`) 「害者宅は、どうだった」
( <●><●>) 「鑑識を手配しています」
( <●><●>) 「情報は逐一私に送るよう言ってありますので」
(´・ω・`) 「……なにか、上がりそうか?」
( <●><●>) 「直観で言えば、望み薄かと」
ミセリは、犯人と会うつもりで家を出た。
それも、包丁と、決死の覚悟で。
そんな女性が、部屋にあからさまな痕跡を残すとは思えなかった。
書置きの類があったなら、ワカッテマスが押し掛けた時点で押収している。
.
-
(´・ω・`) 「となると、だ」
びっしり書き込まれたホワイトボードを、目で辿る。
貼ってあった写真の類は、スペースを広げるためにひっぺがした。
そんななか、一番情報が少ないのは、右端、流石兄者の項目。
(´・ω・`) 「流石兄者、サークル部長」
(´・ω・`) 「奴こそが、事件の鍵となる」
( <●><●>) 「そして、現状容疑者筆頭、と」
(;´・_ゝ・`) 「…」
現在わかっている情報は、少なかった。
ヴィップ大学文学部。
家族構成は両親と弟のみ。
留年することもなく四年で卒業し、就職先は不明。
大学では、就職についてアンケートをとっているようだが、
回答に強制力はなく、流石兄者も回答を控えていた学生のひとりだった。
警察のデータバンクに照会しても、ヒットしなかった。
デミタスが異例だっただけで、だいたいの人間はヒットすることがない。
.
-
ペニーが、実家にアプローチしている手筈だが、
家族も、いま兄者がどこに住んでいるかはわからないらしい。
隠そうとしているわけではなく、ただ単に話す機会がなかっただけとのこと。
電話番号は把握しており、それは既に僕のもとまで上がってきている。
取り込み中なのか、電話は今のところ、繋がっていない。
(´・ω・`) 「是が非でも、奴は確保する」
(´・ω・`) 「犯人ならもとより、犯人でなかったとしても、だ」
( <●><●>) 「保護を拒否した場合は」
(´・ω・`) 「サークルメンバーのうち、四人が殺されてるんだ」
(´・ω・`) 「拒むッてことは、もう確実に犯人だ」
(´・ω・`) 「その場で、犯行を立証してやるだけさ」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「でも、あの人が犯人なら、どうして……」
(´・ω・`) 「そこを検討したくて、あんたをここまで呼んだ」
(´・ω・`) 「あのな、一般人は入れない場所なんだぜ、ここ」
(;´・_ゝ・`) 「……ども。」
犯行を立証するにあたって、どうしてもネックとなるのが、動機だった。
どうして、十年経った今になっての犯行なのか。
そこを立証できなければ、逮捕は不可能だ。
現状、犯人をぴたりと立証する決定的な証拠がない。
状況証拠すべてが兄者を指し示したところで、焼け石に水なのだ。
( <●><●>) 「心当たりは、ないのでしょうか」
(;´・_ゝ・`) 「……心当たり、ッて」
( <●><●>) 「たとえば、そうですね……」
.
-
具体例を示そうとしたところで、ワカッテマスが口ごもった。
十年前に所属していたサークルでの、連続殺人。
動機がまるで予想できないことに、ワカッテマスは気づかされた。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「警部は、どうお考えですか」
(´・ω・`) 「僕に振るなよ」
(´・_ゝ・`) 「少なくとも、僕は同窓会とか聞いてないよ」
'_
(´・ω・`) 、
同窓会、か。
興味深い着眼点だ。
(´・_ゝ・`) 「ッてより、十年前から、連絡なんてなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「当時はスマホもなかったしね。
連絡手段は、メールか電話だよ」
(´・_ゝ・`) 「どっちも、変わったり忘れたりするもんさ」
.
-
近年は、スマホアプリの進化で、手軽に連絡が取れるようになっている。
それも、通信費以外料金がかからないシステムで、だ。
アプリの利点は、携帯会社を変えても残るところだ。
メールアドレスは会社を変えるとドメインが変わるし、
電話番号も、手軽とはいえ手続きを踏まなければならない。
電話番号のない格安スマホやSIMの普及で、
電話番号そのものを手放すユーザーも少なくはない。
となるといよいよ、連絡が取りづらい点がキーとなる。
(´・ω・`) 「でも、犯人は、把握していた」
( <●><●>) 「ヒッキー小森、ならびに芹澤ミセリへの電話がいい例です」
(´・_ゝ・`) 「え…?」
デミタスがきょとんとする。
まだ奴は知らない情報なのだ。
情報の整理がてら、デミタスにも教えることにする。
電話番号から発信着信の関係に至るまで、
すべて、ホワイトボードに書かせておいた。
.
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(´・ω・`) 「あんたは、050番号ッて知ってるかい?」
(´・_ゝ・`) 「ああ。 IP電話ですね」
(´・ω・`) 「知ってるのか」
(´^_ゝ^`) 「まあ……使ったことはないですが」
焦点となるのは、050の、身元不明の番号だ。
サービス提供会社、ならびに端末の会社に問い合わせたが、
やはり名義貸しが噛んでいたらしく、特定は不可能らしい。
名義主は多額の借金を持っていて、名義を売ったとのこと。
売り先から暴こうかと思ったが、暴力団が関わってくるらしく、
捜査四課にも協力を要請しているが、ガサ入れの取っ掛かりが掴めないようだ。
( <●><●>) 「四月三十日、この番号をヒッキー小森が受けています」
( <●><●>) 「また一昨日、五月四日、同じ番号を芹澤ミセリが応対」
(´・ω・`) 「僕も隣にいたね」
.
-
(´・_ゝ・`) 「その電話で、殺人予告を…?」
(´・ω・`) 「ああ、そうさ」
自首しようと思う、その前に話をしたい。
犯人の要求は、この一点だ。
実際に自首するつもりで、なにか大切な話をしたかったのだろうか。
その過程で、事態が急変して殺さざるを得なくなったのだろうか。
最初から殺人を計画していたものを睨んでいるものの、
ミセリが包丁を持っていってしまったのが面倒だった。
そこから、正当防衛という名の反撃材料を与えてしまうことになる。
(´・_ゝ・`) 「だったら、声でわかるはず、ですよ」
(´・_ゝ・`) 「いくら十年経ったとはいえ、同じサークルの人なんだから」
( <●><●>) 「そこなんですよ」
(´・_ゝ・`) 「はい?」
.
-
ワカッテマスが、デミタスにもわかりやすく教えるように、ホワイトボードを指さす。
奴は我々が持つ最後の武器だ、ありったけの情報は共有しておきたい。
( <●><●>) 「ボイスチェンジャー、とでも言いましょうか」
( <●><●>) 「犯人は、機械で、声を変えていたんです」
(´・_ゝ・`) 「声を…?」
( <●><●>) 「なので、男か女か、すらわからないと」
(´・_ゝ・`) 「え?」
( <●><●>) 「何か」
(;´・_ゝ・`) 「えっと……ちょっと、整理していいですか」
( <●><●>) 「はい、ゆっくりと」
デミタスは、ホワイトボードの人物名を舐めるように見渡す。
殺された順に、擬古、小森、三階堂、芹澤。
残るは、盛岡、流石。
(;´・_ゝ・`) 「……ごまかすまでもなく、男しかいないよね」
(;´・_ゝ・`) 「なんで、男女をごまかすような声が?」
.
-
( <●><●>) 「……ム」
(´・ω・`) 「男女がわからない、ッてのはあくまで表現だ」
(´・ω・`) 「ポイントは、声の主がわからない、ッてところでね」
(;´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の話し方、すごいわかりやすいよ」
(;´・_ゝ・`) 「残ってるのも、僕と兄者だけ……なんだろう?」
( <●><●>) 「……」
言われてみると、確かに気になるところではあった。
このご時世、わざわざ変声機を使う必要があったのだろうか。
隣に僕がいたなんてことは、犯人は知りようがない。
自首する、話がしたい、という言い分を信じるなら、
ミセリには声がばれても不利益は被らないはずである。
(;´・_ゝ・`) 「声をごまかしたところで、兄者氏かどうかはわかるし」
(;´・_ゝ・`) 「自首する、とか言ってる人が声を変えたりするかなあ?」
.
-
(´・ω・`) 「……」
急所を突く指摘だとは、思わなかった。
ただ、デミタスだからこその気づきであるには違いない。
どうして、声を変えたのか。
考えられるとするなら、兄者が口調を変えて、
デミタスと兄者の区別がつかないようにした、などだろうか。
(;´・_ゝ・`) 「しかも、これから会おうとしてるんだよ?」
(;´・_ゝ・`) 「なのに、名乗らない、声もわからない、ッてのは」
( <●><●>) 「外部犯の可能性、というものを示すことができます」
(´・_ゝ・`) 「外部犯?」
ワカッテマスが、横やりを入れる。
なるほど、情報を検討するのにデミタスを呼んだのは正解だったようだ。
.
-
( <●><●>) 「現状では、サークル内部の犯行である線が濃厚ですが」
( <●><●>) 「外部犯の介入の可能性が認められた時、」
( <●><●>) 「はじめて変声機の存在に意味が出てきます」
(´・_ゝ・`) 「外部犯の可能性って?」
(´・ω・`) 「それも検討したいから、あんたを招いたんだ」
(´・_ゝ・`) 「検討……たとえば?」
(´・ω・`) 「サークル外の誰かに恨みを買ったりさ」
(´・_ゝ・`) 「恨み……さすがに、ないかなァ」
ただの、アウトドアサークルだ。
そう簡単に、十年の歳月を経て蘇る怨恨などあるとは思えない。
しかし、凶悪犯罪者の動機は、
得てして被害者側にはその罪意識がないものだったりする。
人は、思わぬところで恨みを買うものなのだ。
.
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(´・ω・`) 「それも、併せて検討したい」
(´・ω・`) 「まず、成り立ちから聞かせてもらおうかな」
(´・_ゝ・`) 「成り立ち、か」
デミタスとの話は、中途半端にしかできていなかった。
今、犯人はアクションを起こしていない。
落ち着いて話を聞ける、最後のチャンスかもしれない。
(´・_ゝ・`) 「まあ……」
(´・_ゝ・`) 「発端は、兄者氏だ」
( <●><●>) 「それは、何年生の時で」
(´・_ゝ・`) 「僕らが入学する前くらいだね」
( <●><●>) 「となると、部長が三年になるくらいのタイミングか」
ワカッテマスが、ホワイトボードに書き加えていく。
.
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( <●><●>) 「キッカケは、聞いていますか?」
(´・_ゝ・`) 「ほら、三年にもなったら、暇になるからね」
(´^_ゝ^`) 「暇つぶしが欲しい、どうせなら青春がしたい…ッて」
(´・_ゝ・`) 「それで、ヒッキー氏も誘ってサークルを創ったんだ」
( <●><●>) 「ヒッキー小森……アルプス学院大学」
( <●><●>) 「どうして、よその大学の人を誘ったんでしょうか」
(´・_ゝ・`) 「さあ?」
(´・_ゝ・`) 「ただ、兄者氏とは昔からの仲らしくてね」
(´・ω・`) 「距離的には、まあまあ離れてるぜ」
(´・ω・`) 「ヒッキーは、そんなに活動には参加しなかったの?」
(´・_ゝ・`) 「まさか。 むしろ皆勤賞だよ」
.
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少々、疑問の余地はある。
しかし、だからどうした、といった疑問でもある。
(´・_ゝ・`) 「あくまで、活動内容はアウトドアだ」
(´・_ゝ・`) 「アルプスとかシベリアにも行ったし」
(´・_ゝ・`) 「距離は大した問題じゃなかったんだと思うよ」
( <●><●>) 「そう言われては、そうですが…」
(´・_ゝ・`) 「逆に、アウトドアじゃなかったら、ヒッキー氏も参加してなかったと思う」
(´・ω・`) 「なるほどね」
(´・ω・`) 「そのふたりが中心となって、結成されたワケだ」
まず、サークルのキッカケは、兄者とヒッキー。
兄者が三年になるにあたって、暇つぶしにサークルを創設する。
どうせなら、ということで青春を楽しむためにアウトドアを考案。
アウトドアのため、唯一離れた位置に住まうヒッキーもこれを承諾。
.
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(´・ω・`) 「メンバーは、どんな感じで集まったんだい?」
(´・_ゝ・`) 「勧誘、だね。 順番までは知らないけど」
(´・_ゝ・`) 「セリっちも、クックルも、ギコも言った通り」
(´・ω・`) 「口達者な兄者に惹かれたンだね」
( <●><●>) 「あなたは?」
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
(´^_ゝ^`) 「……その、いろいろ共通の趣味があって、盛り上がって……」
( <●><●>) 「そうでしたね。
シツレイしました」
デミタスの趣味、ということで、ワカッテマスも合点がいった。
思い出したくないことを思い出した、といった具合だった。
.
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(´・ω・`) 「それ以上メンバーが増えることはなかったの?」
(´・_ゝ・`) 「次の年は、ビラ撒きとかしなかったね」
(´・ω・`) 「どうして?」
(´・_ゝ・`) 「居心地が、よくなったんだ」
(´・_ゝ・`) 「どうせ、兄者氏の思い付きでできた、ちいさなサークルだ」
(´^_ゝ^`) 「現時点で十分楽しいし、別にいっか、ッて」
( <●><●>) 「勧誘は、初年度のみ、と」
( <●><●>) 「みんなは、仲良かったので?」
(´・_ゝ・`) 「勿論」
.
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( <●><●>) 「なにか、個人間の諍いは」
(´・_ゝ・`) 「………」
( <●><●>) 「ありますか?」
デミタスは、即答しない。
諍いは事件解決の糸口となり得る可能性がある。
なるたけ、慎重に伺いたいところだ。
(´・_ゝ・`) 「………」
(´^_ゝ^`) 「細かないざこざは、そりゃあ、しょっちゅうだよ」
( <●><●>) 「たとえば」
(´・_ゝ・`) 「うちのサークルさ、オタクとそうでない人が分かれてたんだ」
( <●><●>) 「芹澤ミセリなんかがそうですね」
.
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(´・_ゝ・`) 「ギコ、クックルもオタク趣味はなかった」
(´・_ゝ・`) 「で、僕やヒッキー氏、兄者氏とは、文化が違うんだ」
文化ときたか。
(´・_ゝ・`) 「酒にしてもそう、バーベキューにしても、そう」
(´・_ゝ・`) 「細かいところで噛み合わないことは、多かった」
( <●><●>) 「殺意に繋がるほどの大きな怨恨は?」
(´・_ゝ・`) 「……ないと思うよ?」
'_
(´・ω・`) 、
( <●><●>) 「なにも、殺意に繋がる必要はない」
( <●><●>) 「男女のもつれ、借金、就職絡み」
( <●><●>) 「そういったところで残った種が、花開いた可能性もあります」
.
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(´・_ゝ・`) 「少なくとも、就職はないな」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏が、就職に無頓着だったんだ」
(´・_ゝ・`) 「だいたい、僕らが就活する前にサークルは終わったんだ」
( <●><●>) 「終わった、ですか」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏が卒業したから、だよ」
詮索されたくないのか、デミタスが先手を取った。
( <●><●>) 「卒業するのは、兄者とヒッキーだけ」
( <●><●>) 「他の四人で集まって遊んだりしなかったので?」
(´・_ゝ・`) 「なかったと思うよ」
( <●><●>) 「それはどうして?」
(´^_ゝ^`) 「………僕が、誘われてないからね」
( <●><●>) 「それは……失礼」
(´・ω・`) 「………。」
.
-
やはり、おかしい。
デミタスは、何かを偽っている。
すごくわかりやすい態度だ。
しかし、わかりやすいだけに、妙だ。
昼頃の会話でも、奴は犯人の心当たりに関して、一切偽りは見せなかった。
先ほどからも、節々で妙な態度を見せている。
何かを隠しているのは、疑いようがない。
ない、が。
隠すとしたら、なんだ。
自分も容疑者になり得る局面で、
わざわざ犯人の心当たりをごまかしたりしないだろう。
デミタスほどの小心者なら、尚更だ。
自分が疑われてでも隠し通したいものでは、ない。
ロジックを整理すると、こうなる。
「隠し通したいことではあるが、それは犯人候補とは関わらない」
。
.
-
( <●><●>) 「なら、男女のもつれは」
( <●><●>) 「男性ばかりのサークルに、女性がひとり」
( <●><●>) 「三角関係など、考えられないことではありません」
(´・_ゝ・`) 「あー、オタサーの姫だしね」
( <●><●>) 「姫、ですか」
(´^_ゝ^`) 「どちらかと言えば、女王かな?」
( <●><●>) 「はあ」
ワカッテマスが呆れ返っている。
奴は、まだデミタスの偽りに気づいていないのだろうか。
(´・_ゝ・`) 「……マ。」
(´・_ゝ・`) 「じつは、僕はそこまで詳しくないんだ」
.
-
( <●><●>) 「詳しくない、ですか」
(´^_ゝ^`) 「クックルとセリっちの結婚も、知らなかったし」
(´・_ゝ・`) 「ただ、泥沼はあったかもしれないね」
( <●><●>) 「クックル、ミセリに加わる、三角関係ということで」
(´・_ゝ・`) 「……あったかも、だ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏は、たぶんなんでも知ってると思うけど」
( <●><●>) 「……なるほど」
なんでも知っている。
裏を返せば、我々の知らない動機を持っている可能性もある。
いよいよ、兄者を確保する必要が生まれてきた。
目下ペニーが兄者の後ろを追いかけているところだ。
執念はショボーン班でも随一だ、必死に食らいついているとは思う。
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-
( <●><●>) 「ずばり、犯人に心当たりは」
(´・_ゝ・`) 「ないよ」
既に、僕もかけた質問。
デミタスは、迷いなく即答した。
( <●><●>) 「警察では、流石兄者の犯行だと睨んでいますが」
(´・_ゝ・`) 「僕も、ずっと、考えてたんだ」
(´・_ゝ・`) 「何か、あの人に僕らを皆殺しにする動機があったか、ッて」
( <●><●>) 「…結果は」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏では、ないと思う」
( <●><●>) 「根拠は」
(´・_ゝ・`) 「人望、人柄、なにより今更になって僕らを殺そうとする理由がないこと」
( <●><●>) 「かつては、あったのですか?」
(´・_ゝ・`) 「元々なかったんだ、十年経った今殺す理由なんてましてない」
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-
ワカッテマスが押し黙った。
デミタスの眼は、嘘を吐いているように見えない。
現状わかっていることで消去法的に犯人を割り出すと、必然的に兄者となる。
しかし、それがあまりにも不自然だ、と当事者が証言する。
やはり、どこかに偽りが眠っている。
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「僕だ」
待ち望んでいた着信が、ついに来た。
ペニサス伊藤から。
一瞬、心臓がドクンと跳ねた。
「やりましたよ」
(´・ω・`) 「!」
思わず顔がほころぶ。
ペニーの声には、明らかに闘志が宿っていた。
.
-
「流石兄者」
「ただいま、一緒に捜査本部まで向かってます」
(´・ω・`) 「よくやった」
(´・ω・`) 「いまは……パトカーかい?」
「一緒にいますよ」
「任意同行です」
(´・ω・`) 「よし」
(´・ω・`) 「どこにいたんだ」
「病院ですね」
「アルプス神経病院です」
(´・ω・`) 「病院?」
.
-
思わぬ施設が告げられた。
兄者は、別に医療関係の人間ではないはずだ。
見舞いにでも行っていたのだろうか。
それにしても、ヴィップではなくアルプス、それも神経病院か。
「その点に関しては、聞き出せなかったですね」
「プライベートだから、と」
(´・ω・`) 「まあ、吐かせるのは後でいい」
(´・ω・`) 「どれくらいかかりそうだい?」
「一時間は見積もっていただきたいですね」
(´・ω・`) 「……一時間か」
時計を見やる。
十五時二二分。
アルプスからだと、車でもそれくらいはかかるか。
短いようで、長い時間だ。
.
-
(´・ω・`) 「奴の様子は」
「複雑そうな面持ちではありましたが……」
「別段、反抗には出ていません」
(´・ω・`) 「なんて言って同行を求めた?」
「連続予告殺人の重要参考人、と言えば、しぶしぶ」
「いまは、窓の外を眺めて、ぼーっとしてます」
(´・ω・`) 「ふむ…」
「今、そちらには誰が?」
(´・ω・`) 「僕とワカッテマスに、盛岡デミタスだ」
(´・ω・`) 「ぎょろ目は、公園殺人の初動捜査を担当している」
「初動捜査に進展は」
(´・ω・`) 「ないね、今ンところは」
.
-
奴が指揮を執って現状進展なし。
言い換えれば、めぼしい証拠がない、ということで、
それはすなわち、ミセリが持参した包丁も見つかっていない、ということだ。
犯人が、持ち去ったのだろうか。
あるいは、滝壺の底に沈み、泥に隠れたかもしれない。
包丁の出所から、新しい情報が生まれるかもしれないが。
少なくとも、犯行現場である滝口でミセリが落としたわけではなさそうだ。
(´・ω・`) 「詳しいことは、あんたが戻ってからにするよ」
「頭が痛くなるくらいの冷たいコーヒー、お願いします」
(;´・ω・`) 「買ってこい!以上!」
ペニーは、けらけら笑っているだろう。
ショボーン班のなかでも、ひときわ感情に左右されやすい刑事だ。
犯人を確保したり、容疑者を吐かせた時は、上機嫌に高笑いする。
それが、心強くもあった。
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-
( <●><●>) 「確保、ですか」
(´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「任意同行だ」
( <●><●>) 「応じたんですね」
(´・ω・`) 「……そこが、ちょっと引っかかった」
任意同行は、文字通り任意だ。
仮に兄者が犯人だとして、こちらに証拠が一切ない以上、
兄者には同行を拒否することができる。
証拠がないことは伝えてないだろうが、
それでも、兄者は、応じた。
犯人では、ないのだろうか。
(´・_ゝ・`) 「……」
( <●><●>) 「だいたい、到着はいつ頃に」
.
-
(´・ω・`) 「一時間前後、かなァ」
( <●><●>) 「まあまあですね」
(´・ω・`) 「アルプスの病院にいたところを、捕まえたみたいだ」
病院?
ワカッテマスも食いついた。
(´・ω・`) 「別に、彼がかかっていたワケじゃない」
(´・ω・`) 「見舞いか、はたまた仕事関連か」
( <●><●>) 「……ふム。」
兄者と病院を繋げるファクターは、見つかっていない。
もっとも、それもまとめてペニーに聞けばいい話だ。
兄者から、あるいはペニーから。
どんな証言が飛び出すかわからない以上、
現時点での検討に、あまり意味はないような気がしてきた。
.
-
(´・ω・`) 「……そうだな」
(´・ω・`) 「メシ、食うか」
( <●><●>) 「メシ、ですか」
'_
(´・_ゝ・`) 、
(´・ω・`) 「そういや食ってなくてね」
(´・ω・`) 「あんたは?」
( <●><●>) 「いえ」
高い身長に見合った肉体のワカッテマスだが、
捜査中は滅多なことでは食事を取ろうとしない。
時間を見つけて食うのもスキルのひとつだ、と説いたことはあるけど、
若いうちは多少無茶をしてでもその他のスキルを磨きます、と返された。
食事に限らず、あらゆる指摘が、若さを盾に反論されるのが常だ。
.
-
(´・_ゝ・`) 「あれですか、カツ丼ですか」
(´・ω・`) 「バカ言え、そんな胃がもたれるモン食えるか」
( <●><●>) 「今日はなにがご所望ですか」
(´・ω・`) 「適当にうどんとおにぎり買ってきてくれ」
(´・_ゝ・`) 「え、うどん?」
(´・ω・`) 「表出てすぐにコンビニあったろ」
(;´・_ゝ・`) 「………ああ。」
長財布から、札をワカッテマスに握らせる。
生意気で、僕に反抗することも多い部下だけど、
こと使いッ走りに関してはすんなりと応じてくれる男だった。
(´・ω・`)y 「あとコイツも」
( <●><●>) 「わかりました」
煙草を吸う仕草を見せながら言った。
ワカッテマスは煙草を吸わない。
銘柄について詳しくはないと思うものの、僕のそれについては把握していた。
.
-
( <●><●>) 「せっかくなので、あなたの分も」
(´・_ゝ・`) 「いや、いいですよ。 一緒に行きます」
( <●><●>) 「わかりました」
デミタスも、ワカッテマスと一緒に部屋を出ていった。
足音も聞こえなくなると、いよいよ空調以外なにも聞こえてこなくなった。
(´・ω・`) 「……」
となるといよいよクチが寂しくなってくる。
のっそりと、通い慣れた喫煙室に向かう。
おそらく、野菜の多いうどんと、おかか握り辺りを買ってくるだろう。
僕の愛飲する甘い缶コーヒーと、奴のことだから新聞も買ってくる。
報道というものは、半日経つだけで内容がガラリと変わる。
いま、世間が連続予告殺人というものをどう取り扱っているのかが気がかりだ。
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-
このたびの芹澤ミセリ殺人事件に関してもそうだ。
もとより公に予告された殺人ではない。
更に言えば、ミセリが連続予告殺人とリンクしていることも公表していない。
ショボーン班に詳しい記者なんかが担当してしまえば、
ぎょろ目が陣頭指揮を執っているのを見て、憶測を広げるかもしれないけど。
たとえば、そう、朝曰新聞のあの男だ。
ここ数年関係はないが、なるたけ関わりを持ちたくない男だ。
( ´・ω・)y-~~ 「……」
紫煙を浮かべながら、不思議なものだと思った。
既に忘れてしまっていたはずの事件の関係者と、
まったく別の事件で出会うことになってしまった。
盛岡デミタスがその最たる例だし、
捜査協力ということで、既にオオカミ鉄道の総裁とも協力体制にある。
燻ぶっている火種を見つめ、そういやあの男も愛煙家だったなァ、と思い起こされた。
全国を揺るがす大きな事件だ。
朝曰新聞社のエース、メガネのあの男も把握はしているだろう。
なんだったら、我こそが、と名乗りを上げ担当になっているかもしれない。
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-
オオカミ鉄道総裁とくだんのエース記者、
そして僕は数年前に、極寒の地キタコレでプライベートを共にした過去がある。
思えば、クックルの勤務地のひとつ、アスキーミュージアム。
あの美術館の館長とも、面識があった。
職柄、顔が広くなるのはおかしくないことだけど、
時たま、因縁というものを痛感する出来事があるのも事実だった。
( ´・ω・)y-~~
( ´‐ω‐)y-~~
機会があれば、酒でもひっかけに誘おうか。
凶悪な事件に呑まれている時ほど、人のぬくもりに触れたく思う時はない。
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