397名無しさん :2018/09/20(木) 03:01:47 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ┏━─
    五月六日  午後十二時三七分  ファミレス
                                ─━┛
 
 
 
 十年ほど前に、ヴィップ大学に存在したサークル。
 インドア趣味を持つ内向的な人達で、アウトドアを楽しむために結成された。
 
 芹澤ミセリに情報を聞き、翌日より詳細な捜査がはじまった。
 もとよりペニーと壁は、各被害者の情報を集めるために奔走していた。
 
 それらと並行してサークルに探りを入れることになるため、
 時間と手数が要求される局面だったと言える。
 
 
 犯人がミセリに要求した日時は、五月六日、十六時、ヴィップの滝公園。
 会議の結果、現場に警備は配置しないことにした。
 代わりに、私服に扮した警官を多数、呼び寄せることとなった。
 
 これはぎょろ目の発案だった。
 ワカッテマスは、人命がかかっているから強硬手段を取ろうと最後まで否定していた。
 ペニーは逆に、数を集めた時のデメリットを嫌い、犯人とのタイマンを望んでいた。
 
.

398名無しさん :2018/09/20(木) 03:02:21 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 争点となったのは、犯人の殺意の有無だ。
 現状、全員が全員、あると睨んでいた。
 
 しかし、あるにしては疑問点が浮かんだのも事実だった。
 ずばり、予告ではない点にあった。
 また、人目のつく公園が舞台、という点も怪しかった。
 
 それまでの犯行手口と、まるで違うこと。
 予告しないのであれば、ひっそりと殺せばいいだけのこと。
 
 ワカッテマスはこれに、公園から人目のつかない場所、
 それこそミセリ宅に上がりこむなどを懸念事項として挙げた。
 
 
 抗ったのは、ぎょろ目だった。
 そこまで人命を警戒するなら、そもそも接触を許すべきではない。
 
 犯人を刺激せず、監視の目を行き渡らせるには、
 警官に私服を着せ、一般市民に見せるのが一番効率的だ。
 ワカッテマスもその点は認めていた、というのが最終的な決め手だった。
 
.

399名無しさん :2018/09/20(木) 03:02:55 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 会議がひとまずの結論を導き出し、
 明くる日より求められたのが、サークル人員の徹底的な洗い上げ。
 流石、盛岡、というふたりの人物を調べなければならない。
 
 場合によっては、片方が犯人、片方が次なる被害者、となり得る。
 事態は急を要したが、盛岡という人物についてはすぐさまアプローチを仕掛けることが叶った。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「……まさか」
 
(;´・_ゝ・`) 「こんな形で、再会することになるなんて」
 
(;´・ω・`) 「まったくだ…」
 
 
 かつて、オオカミ鉄道がリリースした特急列車にて事件が起こった。
 そこは特殊な密室となっていて、偶然、僕も乗り合わせていた。
 
 盛岡、と名前を聞いた時は、まだピンと来ていなかった。
 別段珍しくない名前だったためだ。
 
.

400名無しさん :2018/09/20(木) 03:04:09 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「さ、最近……どうですか!」
 
(;´・ω・`) 「ぼちぼちだね……ウン、そうそう……」
 
 
 あの時の密室にも。
 盛岡という名前を持つ男が、乗り合わせていた。
 
 盛岡。 オタク。
 デミタスという名前を聞いた時、もしや、とは思ったのだ。
 
 ヴィップ大学、在籍年代、名前。
 個人を特定するには十分すぎるほどのデータが、あった。
 そのため、当時の 「盛岡」 という人物を割り出すまでは容易かったのだが、
 そのデータを警察で照会した時、想定外すぎるハプニングが起こった。
 
 
 ヒットしたのだ。
 この男は、過去に事件に関わったことが、あった。
 
 ひょっとすると、そこから事件解決の糸口が。
 と思ったところで、担当の事務員が、目を丸くして言ったのだ。
 
  「イツワリさんが……扱った事件ですね……」
 
.

401名無しさん :2018/09/20(木) 03:05:02 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
 不思議な心地に見舞われた。
 このたびの、連続する事件。
 かつて担当した、誘拐事件を彷彿とさせる。
 
 続けて、かつて担当した、密室鉄道の関係者が現れた。
 他方、本件の関係者であるミセリが、自分と似たような境遇にあるのだ。
 
 
 デミタスに捜査協力を頼むと、快諾してくれた。
 彼が連続予告殺人を知っていたのももちろんだが、
 何より、彼が僕、ショボーンのことを知っていたのが大きかった。
 
(´・_ゝ・`) 「いまでも、たまに思い出すんですよ」
 
(´・ω・`) 「あの時の?」
 
(´・_ゝ・`) 「そそ」
 
(´・_ゝ・`) 「刑事さんは、そうでもないんですか」
 
(´・ω・`) 「……どうだろうね」
 
.

402名無しさん :2018/09/20(木) 03:05:27 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 最初、デミタスは警戒していた。
 犯人が、警察を装っておびき寄せようとしているかもしれない、と。
 
 事件を知り、デミタスは、田舎に逃げていた。
 ヴィップにいると殺されかねない、と思ったらしい。
 
 しかし、話していると、互いに妙な違和感に包まれた。
 デミタスが、もう一度お名前、よろしいですかと聞いたところで発覚したわけだ。
 
 
(´^_ゝ^`) 「ふーん……そんなもん、なんですかね」
 
(´・ω・`) 「妙に落ち着いてますね」
 
(´・_ゝ・`) 「そりゃあ」
 
 デミタスの希望で、人の少ない落ち着ける場所で会うことになった。
 結果が、ファミレスだった。
 確かに、落ち着ける場所でこそあるが。
 
 喫煙ルームの、一番端のテーブルである。
 周りをついたてや壁が囲っている、個室のような印象のテーブルだった。
 
.

403名無しさん :2018/09/20(木) 03:05:57 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「目の前に、いますから」
 
(´^_ゝ^`) 「あの事件を、鮮やかに解決した…あの刑事さんが」
 
(;´・ω・`) 「そりゃあどうも」
 
 すんなり話が聞けそうなのはありがたいことだが、
 妙にくすぐったくて、嫌だ。
 
 
(´・ω・`) 「そうだな…」
 
(´・ω・`) 「最近、お仕事などは何を?」
 
(´^_ゝ^`) 「しがないフリーターですよ。 トホホ…」
 
(´・ω・`) 「というと」
 
(´・_ゝ・`) 「普段はコンビニで……たまに、日雇いで」
 
.

404名無しさん :2018/09/20(木) 03:06:20 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 話しているうちに、当時の景色が脳裏をかすめていく。
 確か、当時もこの男は、フリーターだった。
 
(´・ω・`) 「結構、厳しそうですね」
 
(´・_ゝ・`) 「まあ、将来なんてありませんが…」
 
(´^_ゝ^`) 「でも、自由に生きてる感じがして、楽しいですよ」
 
 盛岡も、ミセリの話にあった通り、三十二だ。
 独身で、定職にも就いていない。
 しかし、とてもそうは思わせない楽観的な姿勢が窺える。
 
 
(´・ω・`) 「大学時代、例のサークルに参加してたんだって?」
 
(´・_ゝ・`) 「ですね。 ハイ。」
 
(´・_ゝ・`) 「ギコも、クックルも、セリっちも、ヒッキー氏も」
 
(´・_ゝ・`) 「全員、知ってますよ」
 
.

405名無しさん :2018/09/20(木) 03:06:40 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 デミタスがサークルの一員であることは、疑う余地もなさそうだ。
 実に流暢で、砕けた様子で話している。
 
(´・ω・`) 「確か、アウトドアサークル、だっけ」
          、 、、 、、 、、
(´^_ゝ^`) 「リア充しようぜ!」
 
(´・_ゝ・`) 「が、合言葉のサークルですね」
 
 
(´・ω・`) 「リアジュウ?」
 
(´・_ゝ・`) 「リアル……現実を、充実させようッてこと」
 
(´・ω・`) 「なるほど」
 
 インドアによるアウトドアサークル。
 なるほど確かに、この男が言うと説得力がある。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、あんたの趣味も、釣りとか旅行とか?」
 
(´^_ゝ^`) 「みんなでワイワイするのは、好きですよ」
 
(´・_ゝ・`) 「そこに、インかアウトかは関係ないです」
 
.

406名無しさん :2018/09/20(木) 03:07:03 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 趣味、趣味か。
 おぼろげだった記憶が、蘇ってくる。
 
 盛岡デミタス、この男は確か、特殊な趣味をしていた。
 なるべく触れたくはないが、事件のためだ。
 
(´・ω・`) 「確か、漫画…とか好きじゃなかったっけ?」
 
(´・_ゝ・`) 「そりゃあもう!」
 
(´・_ゝ・`) 「あの時も、刑事さんに見られたっけ」
 
(;´・ω・`) 「僕みたいな中年には、理解しかね……エット。」
 
 
(´^_ゝ^`) 「いいですよ、いいですよ」
 
(´^_ゝ^`) 「他人に理解されないッてのは、昔ッから、わかってます」
 
(´・_ゝ・`) 「だからこそ、わかる人らで、アウトドアしてたんですよ」
 
(´・ω・`) 「ほう」
 
.

407名無しさん :2018/09/20(木) 03:07:44 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 内容がどんなものであれ。
 趣味が合う人同士のアウトドアは、さぞかし楽しいことだろう。
 そう考えると、インだろうがアウトだろうが、というのは説得力がある話だ。
 
(´・ω・`) 「となると、フッサール擬古やヒッキー小森も」
 
(´・ω・`) 「その……まあ、そんな趣味が共通していたんだね」
 
(´・_ゝ・`) 「ううん……ギコは違うかなァ」
 
(´・ω・`) 「あら」
 
 
 デミタスは少し、言葉を濁した。
 ギコは、か。
 
(´^_ゝ^`) 「ヒッキー氏、兄者氏とは盛り上がりましたよ」
 
(´・_ゝ・`) 「ただ、クックルとかギコは、そうでもなかった」
 
(´・ω・`) 「ギコって、どんな人だったの?」
 
.

408名無しさん :2018/09/20(木) 03:08:28 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「どんな……か。」
 
 名は体を表す、とでも言うのだろうか。
 デミタスは、コーヒーを好んで飲んでいた。
 それも、これで三杯目、すべてブラックである。
 
 平日の昼間に、若くはない男ふたりがコーヒーを飲んでいるんだ。
 はたから見ても、別段違和感はないだろう。
 マスコミの視線などは、一切なかった。
 
 
(´・_ゝ・`) 「クックルもだけど、兄者氏が誘った人だよ」
 
(´・_ゝ・`) 「学生ホールで、ひとりで本読んでたところに声をかけたらしい」
 
(´・ω・`) 「本、か」
 
(´^_ゝ^`) 「あ。 いかがわしい本じゃないよ」
 
(;´・ω・`) 「なんでもいいよ!」
 
.

409名無しさん :2018/09/20(木) 03:08:54 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はなァ」
 
(´・_ゝ・`) 「むちゃくちゃ、むちゃくちゃコミュ力高いんですよ」
 
(´・ω・`) 「コミュ力はわかるぞ。 コミュニケーション能力だ」
 
(´・_ゝ・`) 「はあ」
 
 
(´・_ゝ・`) 「セリっちとは、もう会ったんですか?」
 
(´・ω・`) 「むしろ、彼女からあんたのことを聞いたよ」
 
(´・_ゝ・`) 「え!なんて言ってましたか?」
 
(´・ω・`) 「や、名前しか聞いてないね…」
 
(´・_ゝ・`) 「そっか…」
 
 デミタスも、部員とは仲良くしていたのだろう。
 懐かしそうに、寂しそうに目を細めた。
 
.

410名無しさん :2018/09/20(木) 03:09:25 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「マ、いいや」
 
(´・_ゝ・`) 「あの子、パッと見、ばりばりなパリピ、陽キャじゃん」
 
(´・ω・`)  ???
 
 
(´・_ゝ・`) 「オタクの集まりに、全然似つかわしくない」
 
(´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の勧誘で、入った」
 
(´・ω・`) 「その話は、聞いたな」
 
(´・ω・`) 「なんだかんだ、楽しかった、ッて」
 
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ……か」
 
(´・_ゝ・`) 「マ、それだけ、一緒にいて楽しい人なんだ」
 
 オタク、というものに対しての嫌悪感は、強かった。
 しかし察するに、彼女もデミタス同様馴染んでいたのだろう。
 そして、それは部長の功績でもある。
 
.

411名無しさん :2018/09/20(木) 03:09:58 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「当時の彼女は、どんな人だったんだい?」
 
(´・_ゝ・`) 「女王様、だね」
 
(´・ω・`) 「はァ?」
 
 
(´・_ゝ・`) 「最初は、むっちゃ距離置かれてたけど」
 
(´・_ゝ・`) 「気がついたら、野郎どもの背中を踏んで、ケラケラ笑ってたかな」
 
(;´・ω・`) 「それはそれは……」
 
 
(*´・_ゝ・`) 「あの子、すんごいドエスなの!」
 
(;´・ω・`) 「わかった、それはいいよ」
 
(;´^_ゝ^`) 「おっと……今の話は、ナイショでお願いしますね」
 
(´・ω・`) 「ハハハ」
 
 誰がするか、こんな話。
 
.

412名無しさん :2018/09/20(木) 03:10:49 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「で、同じサークルだったクックルと結婚したんだよね」
 
(´・_ゝ・`) 「それ、実は知らなかったんだよね」
 
(´・ω・`) 「え、まじ?」
 
(´・_ゝ・`) 「エット………」
 
 
(´^_ゝ^`) 「ああ、確かに付き合ってはいたな」
 
(´・ω・`) 「ゴールイン自体は、知らされてなかったんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「マ、サークル終わってからは連絡もなかったしね」
 
(´・ω・`) 「うん……、……」
 
 
 サークルが、終わってからか。
 部長の卒業で自然消滅したのか、はたまた、違う理由か。
 
.

413名無しさん :2018/09/20(木) 03:11:14 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「まあ、それはいいや」
 
(´・ω・`) 「サークルそのもの……について、聞かせてほしい」
 
(´・_ゝ・`) 「いいですよ。 どこから?」
 
 どこから、か。
 この調子だと、隠し事なしで教えてくれるだろうか。
 
 ミセリは、どこか何かを言いあぐねている様子だった。
 デミタスに、それはあるのだろうか。
 
 
(´・ω・`) 「そうだな」
 
(´・ω・`) 「まず、部員だ」
 
(´・ω・`) 「フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
 
(´・ω・`) 「あんたと、部長の流石兄者……で全員なんだね?」
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
.

414名無しさん :2018/09/20(木) 03:11:55 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…?」
 
 即答、しないのか。
 ちょっと、嫌な予感がした。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……」
 
(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
 
(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
 
(´・ω・`) 「…」
 
 何か、隠しているのか。
 それとも、幽霊部員やすぐに辞めた人をカウントするか悩んだのか。
 
 
(´・ω・`) 「幽霊部員とかも、勘定してほしい」
 
(´・_ゝ・`) 「ヤ、そんなのはいなかったよ」
 
(´・ω・`) 「じゃあ、六人でウソじゃないんだな?」
 
(´^_ゝ^`) 「……………ウソじゃ、ないな」
 
.

415名無しさん :2018/09/20(木) 03:12:42 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 嘘じゃない。
 妙に引っかかる言い回しだ。
 
(´・ω・`) 「解散前に辞めた人とかは?」
 
(´・_ゝ・`) 「いや、それもないよ」
 
(´・_ゝ・`) 「兄者氏がほんとうにコミュ強でね」
 
(´・_ゝ・`) 「在籍した人はみんな、楽しそうに活動に参加してたよ」
 
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ、ね」
 
(´・ω・`) 「……そう、か」
 
 嘘を吐いている様子は、ない。
 兄者がクチ達者だ、という話は何度も聞いた。
 なんだかんだ、という言い回しも、ミセリを脳裏に浮かべての発言だろう。
 
 だったら、今のわだかまりはなんだ。
 幽霊部員も、辞めた人もいない。
 ほんとうに六人なのか、語られざる七人目がいるのか。
 
.

416名無しさん :2018/09/20(木) 03:13:24 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 煙草をクチに加えた。
 部長はどうやら愛煙家だったようで、
 デミタスの前でもよく吸っていたらしい。
 煙草に気遣わなくていいのは、ありがたい事だ。
 
 
(´・ω・`) 「何も、隠してはいないな?」
 
(´・_ゝ・`) 「どうしたんですか。 何か、あったの?」
 
(´‐ω‐`) 「ヤ……思いすぎだったらいいんだけどね」
 っ “
 
( ´・ω・)y- 「ミセリもあんたも、何か含みのある言い方をするんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
( ´・ω・)y- 「人数……そう。」
 
 
( ´・ω・)y- 「人数だ」
 
( ´・ω・)y- 「その話をする時だけ、あんたらは、言葉を濁す」
 
.

417名無しさん :2018/09/20(木) 03:14:06 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「…」
 
(´・_ゝ・`) 「あんたら…セリっちも、だね」
 
( ´・ω・)y- 「忘れちゃダメだぜ、デミタスくん」
 
 一発、オドシ、入れるか。
 
 
( ´・ω・)y- 「現状、容疑者は、部長かあんただ」
 
 
 
 それは、オーバーに効いた。
 デミタスは、飲んでいたコーヒーを、漫画みたいにぶちまけた。
 
( ;´゚_ゝ゚) ,;・’:
 
( ´・ω・)y-
 
(´・ω・`)y-
 
 
.

418名無しさん :2018/09/20(木) 03:15:57 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「お、驚かさないでよ!」
 
(´・ω・`) 「こ、コーヒーを飲みながら聞くほうが悪い」
 
 おしぼりで、テーブルを拭く。
 スーツにまでかからなかったのは、せめてもの救いだ。
 
 
(´・_ゝ・`) 「そうか、容疑者、か」
 
(´・_ゝ・`) 「僕、こう見えて、アリバイはばっちりだと思うよ」
 
(´・ω・`) 「………ああ、そういえば」
 
 事件を聞きつけて、田舎に逃げたんだっけか。
 聞きつけて、なんだから、地下鉄殺人やホテル殺人ができたとしても、
 デミタスが犯人なら、今日のミセリとの密会がネックとなる。
 
 デミタスがヴィップに戻ってきたのは、
 他でもない僕が呼び寄せたからだ。
 
.

419名無しさん :2018/09/20(木) 03:16:50 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「となると、部長が?」
 
 聞くと、デミタスは長考した。
 引っかかったのは、もし何か隠し事をしているなら、
 ここでその深層心理が現れるというのに、
 
(;´・_ゝ・`) 「あの人が……?」
 
(;´・_ゝ・`) 「………いや、でも……」
 
 この長考に、含みはなさそうだったのだ。
 もちろん、隠し事も込みで、僕の推量でしかないのだけど。
 
 
(´・ω・`) 「でも、消去法だと、部長になるぞ」
 
(´・ω・`) 「三人は既に殺されて、嫁にもアリバイはある」
 
(;´・_ゝ・`) 「です、よね…」
 
(;´・_ゝ・`) 「え、兄者氏が…?」
 
 消去法、という言葉にも引っかからない。
 もし七人目を隠しているなら、そこでまたリアクションがあるはずなのに。
 
.

420名無しさん :2018/09/20(木) 03:18:03 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「いや、考えられない」
 
 デミタスは、断言した。
 
(;´・_ゝ・`) 「え、でも、だったら誰が…?」
 
(´・ω・`) 「他に、候補、心当たりはいないの?」
 
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ。 他に誰もいないんだから」
 
(´・ω・`) 「な……」
 
 
 隠された七人目というのは、いなかったのか?
 デミタスに、嘘を吐いている様子は一切見受けられない。
 
 また、サークル外の犯行、というわけでもなさそうだ。
 もとよりコミュニティ内の犯行だし、
 当事者のデミタスも、まるで思いつかないでいる。
 
.

421名無しさん :2018/09/20(木) 03:19:20 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「待って……怖くなってきた……」
 
(´・ω・`) 「落ち着いてほしい」
 
 図太いように見えるデミタスが、動揺している。
 知り合い、というのもあって油断していたが、奴も当事者の一人で、
 それはすなわち、ターゲット候補の一人でもあるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「あんたが求めるなら、警察はあんたを保護するし」
 
(´・ω・`) 「何より僕は、あの密室鉄道を、解決した男だぜ」
 
(´・_ゝ・`) 「…!」
 
 
.

422名無しさん :2018/09/20(木) 03:19:41 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 自分で言っててなかなかに歯がゆかったが、デミタスには効いたようだ。
 現場を共にしたんだ、説得力は折り紙つきだろう。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……そうですね」
 
(´^_ゝ^`) 「それに、まだ、僕んとこには、予告とか来てないし」
 
(´・ω・`) 「万が一来たとしても、ゼッタイに、殺させない」
 
(´・_ゝ・`) 「ありがとう。 信じられるよ」
 
(´・ω・`) 「………」
 
 確信した。
 デミタスは、嘘は吐いていない。
 
 この一連の流れで、犯人になり得る七人目を隠し通せているはずがない。
 デミタスはどちらかと言えば不器用な男だ。
 まして僕は、人がなにか偽ろうとするのを見抜くのが、得意だ。
 
 その僕が確信するんだ、七人目はいないのだろう。
 しかし、だとすると、犯人は部長、流石兄者となる。
 
.

423名無しさん :2018/09/20(木) 03:20:58 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 いやに引っかかるのが、デミタスの反応だ。
 部長の犯行は考えられない、と断言している。
 
 ミセリの話と重ねてみても、なかなか人望のあった男だと聞く。
 部長が犯人だったとして、どうして十年後になって犯行に及んだのかが説明つかない。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……で」
 
(´・_ゝ・`) 「何を話せば、いいんでしたっけ」
 
(´・ω・`) 「ん。 そうだな…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

424名無しさん :2018/09/20(木) 03:22:24 ID:T8wS26JU0
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
 聞きたい話は、山ほどある。
 デミタスは貴重な、まだ犯人が接触していない関係者だ。
 
 先回りできているのは、大きなアドバンテージとなる。
 加え、知り合いということもあり、
 初対面だと話してもらえなさそなことも、聞き出せる。
 
 
(´・ω・`) 「失礼」
 
(´・_ゝ・`) 「どうぞ」
 
 時間も限られている局面だ、
 手短に、簡潔に、重要そうなことだけを聞かなければならない。
 
 というのに、着信音が横やりを入れてきた。
 誰だ、と思うと、少し嫌な予感がした。
 ワカッテマスからかかってきたのだ。
 
.

425名無しさん :2018/09/20(木) 03:23:45 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕だ」
 
 ヤマを追っている時のワカッテマスからの着信は、
 得てして不吉の前兆となっている。
 
 その嫌な予感は、的中しそうだ。
 ワカッテマスは少し、声が弾んでいた。
 
  「芹澤ミセリの動向について、なにか聞かされていますか」
 
(´・ω・`) 「…どうした?」
 
(´・ω・`) 「僕は、なにも聞いてないけど」
 
  「いま、彼女のアパートにいるのですが」
  「インターホンの呼びかけに、一切応答しません」
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´・ω・`) 「電話にも、か」
 
  「それが…」
  「コールすら、かかりません」
 
.

426名無しさん :2018/09/20(木) 03:25:23 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「コールすら?」
 
  「電波の届かないところにいるか、電源が切られているか…」
  「とにかく、一切つながらないのです」
 
(´・ω・`) 「なに?」
 
       '_
(´・_ゝ・`) 、
 
 思わず、眉がつりあがった。
 事前に、ミセリには電源は切らないよう忠告してある。
 
 ミセリは、いつ、なんどき襲われるかわからない身だ。
 そのため、電源が切れていたら緊急事態と判断する、と伝えた。
 
 それは無論犯人の知らないやり取りである。
 最近のスマホは、GPS機能で簡単に居場所を割り出せる。
 近年の殺人犯は、それを警戒してスマホを破壊することが多いのだ。
 
.

427名無しさん :2018/09/20(木) 03:26:53 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「大家に一報入れて、無理にでも部屋に入れ」
 
(´・ω・`) 「ぎょろ目には、僕から連絡入れておく」
 
  「わかりました」
 深刻な声色を最後に、電話は切られた。
 
 不吉だ。
 事前に約束してあるんだ、ミセリが電源を切るとは考えにくい。
 
 もうひとつ不吉だったのは、
 いま、現場にはぎょろ目しか控えていない。
 ペニーと壁はいまは情報収集に回しているし、私服警官もまだ到着していないのだ。
 
 
(´・ω・`) 「もしもし、僕だ」
 
(´・ω・`) 「いま、公園か?」
 
 ぎょろ目は、ワンコールで応答した。
 事件中の奴は、電話にはワンコールで出るよう徹底している。
 もし応じなかった場合は、なにかがあった、ということだ。
 
.

428名無しさん :2018/09/20(木) 03:27:50 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目は、散歩するふりをして、現場の地理を把握しているところだった。
 不吉なものはまだ感じ取っていないのだろう、いつも通りの声だ。
 
(´・ω・`) 「ワカッテマスから、共有だ」
 
(´・ω・`) 「ミセリが、こちらの呼びかけに応答しない」
 
 僕がワカッテマスから聞いた時と同様に、
 奴も嫌なものを感じ取ったのか、一瞬声を詰まらせた。
 
 
(´・ω・`) 「インターホンには対応せず、電話もつながらない」
 
(´・ω・`) 「いま、ワカッテマスに部屋に乗り込むよう言ってある」
 
  「つながらない、というのは、コールが続くということですか」
 
 
(´・ω・`) 「いや、コールすら鳴らない」
 
(´・ω・`) 「電源が切れただけか……破壊されたか。」
 
.

429名無しさん :2018/09/20(木) 03:28:48 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目が押し黙る。
 さまざまなケースが考えられるのだ。
 
 あれから犯人が、公園とは別の時間と場所を指定して、
 ミセリが警察に共有せずに応じたケース。
 
 あるいは、もう既に、殺されてしまったという可能性もある。
 考えたくはないが。
 
 
(´・ω・`) 「そっちは、どうだ」
 
(´・ω・`) 「何か、変わった出来事は」
 
  「現状、騒ぎなどは、特に」
 
 と言いながら、断続的に息の弾む音が聞こえた。
 公園内を、走って巡回しだしたのだろう。
 
(´・ω・`) 「なにかあったら、すぐ連絡しろ」
 
(´・ω・`) 「ワカッテマスからの連絡も、すぐに回す」
 
.

430名無しさん :2018/09/20(木) 03:30:12 ID:T8wS26JU0
 
 
 
  「わかりました」 とだけ残して、電話は切れた。
 時刻は、まだ十三時だ。
 アクションを起こすには、いささか早い気もする局面。
 
 アパートには、ワカッテマスが。
 公園には、ぎょろ目が先回りしたはずだったが。
 
 既に、犯人に先手を打たれたのか?
 しかし、犯人からのアクションがあったとして、
 ミセリから連絡が入っていないのが妙だ。
 
 連絡する間もなく、なにか事態に発展したのか。
 だとすると、犯人はアパートに向かった可能性もある。
 この上なく不吉で、不愉快だ。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(´・_ゝ・`) 「何か、あったんですか」
 
(´・ω・`) 「ん。 ああ…」
 
.

431名無しさん :2018/09/20(木) 03:31:29 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ここは、公園からもアパートからも、やや離れた位置にある。
 急行したところで、数十分のラグが発生する。
 
 すぐに向かうべき、なのだろうか。
 しかし、公園で何かあったとは考えにくいところでもある。
 
(´・_ゝ・`) 「セリっちが……いないんですか?」
 
(´・ω・`) 「うん」
 
(´・ω・`) 「電話も、つながらないらしい」
 
 と言いながら、僕も電話をかける。
 しかし、ワカッテマスの言っていたように、コールすらかからない。
 
 急行準備だ。
 コーヒーを飲み干して、目下優先すべきことを考える。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「……まさか、もう…?」
 
(´・ω・`) 「ん」
 
(;´・_ゝ・`) 「殺され……たんですか?」
 
(´・ω・`) 「それは、わからない」
 
.

432名無しさん :2018/09/20(木) 03:32:01 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「わからないけど…」
 
(´・ω・`) 「ひとまず、僕は戻ろうかと思う」
 
(;´・_ゝ・`) 「…」
 
 さて。
 悩むのは、デミタスをどうするか、だ。
 
 デミタスを同行させるのは、容易い。
 デミタスがそれを拒んでも、警察のほうで保護させればいいだけだ。
 
 
 問題は、現場まで同行させるか、どうか。
 デメリットは、言うまでもなく、犯人の目に晒すことになる点。
 
 しかし裏を返せば、犯人もデミタスにその姿を晒すことになる、とも取れる。
 サークルの内外問わず、当時の関係者がそこにいれば、
 デミタスは、すぐに見つけることができるだろう。
 
 この諸刃の剣は、警察側の数少ない武器だ。
 取り扱いを誤れば、最悪の展開すら考えられる。
 
.

433名無しさん :2018/09/20(木) 03:33:19 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「そこで、だ」
 
(´・ω・`) 「あんたも、連れていこうかと思う」
 
(;´・_ゝ・`) 「!」
 
(;´・_ゝ・`) 「………。」
 
 
 押し黙るのは、自分も殺され得るから、に他ならない。
 しかしすぐに拒まないのを見るに、奴もわかっているのだろう。
 自分なら、犯人を見つけ出すことができる、と。
 
 そうでなくても、デミタスを、近くに置いておきたいという気持ちが強い。
 いつでも自ら保護に回れるし、
 話をするのにこの近辺にいられちゃあ不都合だ。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「………。」
 
(´・ω・`) 「拒むなら、強制はできないけどね」
 
.

434名無しさん :2018/09/20(木) 03:34:27 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「………。」
 
(;´・_ゝ・`) 「……拒み……は、しないよ」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 違うのか。
 来るかどうか、を悩んでいたのではないのか。
 
 だとしたら、この沈黙はなんだ。
 保護されるか、現場まで来るかを考えているのか、あるいは。
 
 
(;´・_ゝ・`)
 
(;´・_ゝ・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「時間がもったいない、行くぞ」
 
(;´・_ゝ・`) 「……」
 
 デミタスは、ちいさく頷いた。
 
.

435名無しさん :2018/09/20(木) 03:35:13 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 覆面パトカーに乗り込んで、すぐに着信はきた。
 ワカッテマスからだ。
 
 ミセリの部屋に押し掛けたはいいが、
 案の定、とでも言うべきなのか。
 無人だったらしい。
 
 また、部屋の様子からして、連れ去られたなどといったことでもないそうだ。
 洗濯機がまわっていたり、照明がつきっぱなしでも、なく。
 ミセリの意思で外出したであろうことは明白だった、と。
 
 
 立会人の大家は、彼女がいつ頃出掛けたのか、はわからないらしい。
 もとより、大家は彼女を監視していたわけでもない。
 仕方ないこととはいえ、その情報がわかるだけでも助かったのだが。
 
 アパートはワカッテマスに任せて、僕は公園に向かうことにした。
 奴も、すぐに公園に向かうべきか聞いてきたが、
 僕の指示で、先に軽く室内を漁らせることにした。
 
 
 しかし、時間もない。
 ワカッテマスの捜査能力は、高いとはいえ。
 空回りする時間が惜しいのは言うまでもない。
 
 奴が、どこを漁るべきか、指示を仰いでくる。
 調べるべき、ものか。
 
.

436名無しさん :2018/09/20(木) 03:35:42 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「書置きの類は、ないんだね?」
 
  「真っ先に確認しました」
 
(´・ω・`) 「そうか……だったら。」
 
 
(´・ω・`) 「家から紛失している、」
 
(´・ω・`) 「凶器になり得る、なにか」
 
 
 ワカッテマスが息を呑むのが窺えた。
 
  「凶器になり得る…?」
 
(´・ω・`) 「考えても見ろ」
 
(´・ω・`) 「犯人に会いにいくッつーのは、つまり」
 
(´・ω・`) 「自分の夫を殺した野郎に会いにいく…ッてことだぞ」
 
.

437名無しさん :2018/09/20(木) 03:36:55 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ワカッテマスは黙った。
 早足で室内を歩く音が聞こえる。
 
 凶器になり得るもの。
 若い女性なのだから、スタンガンの類を買っていてもおかしくない。
 近頃では、一般向けの警棒もさまざまなものがあると聞く。
 
 
 しかし、僕もワカッテマスも、真っ先に浮かんだものは違った。
 一般人が、殺意を抱くときに携えるもの。
 
  「ありました」
  「いや  なかった、と言えばいいのか……とにかく。」
 
(´・ω・`) 「……ひょっとして」
 
 
  「包丁が、ひとつもありません」
 
 
.

438名無しさん :2018/09/20(木) 03:38:07 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 確定した。
 ミセリは、犯人に、会いに行った。
 
 ここで、何も情報が上がらなければ、
 買い物にでも行った矢先、うっかり充電が切れたか、落としたか、があり得た。
 
 ただ、包丁のない家庭というのは、あり得ない。
 包丁を持って出かけることも、あり得ない。
 
 一般人が 「凶器」 と考えて、真っ先に思い浮かぶもの。
 間違いなく、包丁だ。
 
 
(;´・ω・`) 「……部屋の捜査は、所轄に任せろ」
 
(;´・ω・`) 「令状はいらん、大家に立ち会わせておけ」
 
  「なら、私は」
 
 
(;´・ω・`) 「公園だ」
 
(;´・ω・`) 「ヴィップの滝公園」
 
(;´・ω・`) 「応援要請は僕がしておく」
 
.

439名無しさん :2018/09/20(木) 03:39:06 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 自然と、アクセルを踏む力も強くなる。
 ハンドルを握る手に、汗が滲んできた。
 
 彼女が、いつ、部屋を出たのかがわかれば。
 それも、つい少し前、というのであれば、まだ事態を防ぐことはできる。
 
 
 この上なく嫌な予感がしやがるのは、
 電話がつながらない、ということだ。
 
 犯人と会って、電話がつながらない事態に発展した。
 その時点で、半分望み薄ではあった。
 
 あり得るとするならば、
 電話をかけようとして犯人に叩き落され、電話だけが壊れたケース。
 あるいは、滝壺にでも水没したのか。
 
 そのどちらも、状況を考えれば十分に考えられることだ。
 そして、それを考えるのではなく、祈らなければならない。
 
.

440名無しさん :2018/09/20(木) 03:39:26 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…僕だ」
 
  「はい」
 
 すぐに、ぎょろ目にも共有だ。
 僕の声色を察して、奴も声のトーンをひどく落とした。
 
(´・ω・`) 「要点は、ふたつ」
 
(´・ω・`) 「まず、ミセリは自宅にはいなかった」
 
 
(´・ω・`) 「もう一つ」
 
(´・ω・`) 「彼女は、包丁を持って出掛けている」
 
 ぎょろ目は、何か言いかけたのを堪えて、舌打ちだけした。
 おそらく、眉間にシワを寄せているだろう。
 考えたくない事態が、発生したからだ。
 
 警察への相談なしに、彼女は独断で、犯人と会いにいった。
 しかし、だったらどうして、何時間も早い今に。
 あるいは、もっと早くに。
 
.

441名無しさん :2018/09/20(木) 03:40:30 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 考えるまでもなかった。
 あれから、犯人との更なるやり取りがあったのだ。
 それも、指定していた十六時よりも、早くの合流。
 
 早くする理由は、警察を撒く以外に考えづらい。
 しかしそれは、ミセリが提案したことかもしれない。
 警察の介入なく、真剣な話をしたく思ったかもしれないのだ。
 
 
(´・ω・`) 「所轄もすぐさま配置させる」
 
 当初、警官を配置するのは控えておくつもりだった。
 ただ、事態が事態だ。
 リスクなど考えていられる余裕はない。
 
 ここまできたら、ぎょろ目もワカッテマスも、反対しようとしなかった。
 むしろ、一刻も早く、一人でも多くの応援を求める。
 
 
(´・ω・`) 「あんたは、とにかく写真を持って聞き込みに回れ」
 
(´・ω・`) 「身分も明かして構わん」
 
.

442名無しさん :2018/09/20(木) 03:40:56 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 こうなると、兎にも角にも時間が惜しい。
 言うだけ言って電話を切り、僕もパトランプを装着した。
 サイレンを鳴らしながら、無線機を握る。
 
(´・ω・`) 「こちら、捜査一課ショボーン」
 
(´・ω・`) 「至急、ヴィップの滝公園に応援を要請する」
 
 頬を、汗が伝う。
 思わず、僕まで眉をしかめてしまう。
 
 
 これでも、捜査一課の警部だ。
 ヴィップの警官にはだいたい名が知られている。
 
 そんな僕が、急遽応援を要請するのだ、
 公園に近い署から順に、現場に到着するだろう。
 
 懸念事項があるとすれば、ヴィップの滝公園が現場である可能性だ。
 最初の指示は、滝公園だった。
 しかし、後日再度やり取りがあった時に、指定場所が変わっているかもしれない。
 
.

443名無しさん :2018/09/20(木) 03:42:05 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 となると、いよいよ犯人に出し抜かれることになる。
 重要なのは、そもそもどうして、犯人はヴィップの滝公園に呼び出したのか。
 
 犯人が言っていたことは、要は以下の二点。
 自首しようと思う。
 その前に、ふたりで話がしたい。
 
 殺すつもりであることも、公園側への殺人予告もない。
 犯人の意図が、ここにきて汲み取れなくなっている。
 
 
 再三話し合ったが、やはりミセリを殺すつもりだろうという見解は変わらない。
 ここで、犯人が隠し持つ殺意と、ミセリへの電話内容が食い違う。
 
 この食い違いも加味するとなると、
 犯人は、その殺意が気づかれないようにミセリを殺す必要があるわけだ。
 
 そして、その要素が滝公園に
 含まれている点から先回りして、推理を進めなければならない。
 
.

444名無しさん :2018/09/20(木) 03:43:09 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 滝公園は、地元民には知られている名所であり
 一ヴィップ民である僕も、当然よく知っている。
 
 しかし、あそこに、その要素はあるのか。
 滝公園にあるものは、広場、自然、出店、そして滝。
 
 滝がある以上、滝壺はあり、そこから園内を巡る川もある。
 真っ先に思い浮かぶのは、溺死だが。
 
 
 溺死か。
 溺死の線は、薄くはない。
 
 場所を滝公園に指定した時点で犯人側に殺意があった場合、
 犯人側は、どうにかして足のつかないような殺人方法を用意する。
 
 その点、溺死は、指紋を残さず、凶器も必要としない点で優秀だ。
 逆に、即死という概念がない以上、時間と手間がかかる。
 ミセリは細腕の女性だ、難しくはなかろうが、抵抗が懸念される。
 その過程で水を浴びてしまうと、そこから足がつく可能性もある。
 
.

445名無しさん :2018/09/20(木) 03:44:21 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(;´・ω・`) 「クソッ!」
 
 考えが、いまいちまとまらない。
 犯人は目の前まで迫っているのに、未だに、霞がかっている。
 
 近年、時代の流れか、覆面パトカーも全車禁煙にすべきだ、と言われている。
 だが、この際そんなものはどうでもいい。
 煙草のフィルターを噛み、乱暴に火をつけた。
 
 思いっきり吸い込む。
 一気に一センチほど燃焼した。
 
 
(;´・ω・`) 「考えろ…」
 
(;´・ω・`) 「考えろ…」
 
 現時点での武器は、ずばりぎょろ目が現場に既にいる、ということ。
 奴を使えば、あるいは犯人を確保できるかもしれないし、
 そもそも殺人そのものを未然に防げるかもしれない。
 
.

446名無しさん :2018/09/20(木) 03:44:58 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 東風ミルナという刑事の容姿が、脳裏に浮かぶ。
 白髪が目立ってきた、渋い古風な刑事だ。
 
 僕以上のキャリアを持ち、あらゆる能力はワカッテマスに負けるとも劣らない。
 老いてもなお頭は冴えているし、現場から証拠を取りこぼすことはないのだ。
 
 ただひとつ弱点が、鋭い推理力が備わっていない。
 僕が、奴を差し置いて警部に成り上がっているのも、
 僕自身の功績以外に、奴自身が上に立つのを嫌った背景がある。
 
 
 捜査スキルが高い。
 上に立ち、下を巧みに操る技術にも長けている。
 情報を一から七、八にするのは得手だし、
 七、八ある情報から事件を解決するのも得手だ。
 
 ただ、一しかない情報、
 あるいはまったくのゼロから、ロジックを構築できない。
 
 そして現況、情報は一、二程度しかない。
 ミセリが共有してくれた、犯人とのやり取り。
 加え、犯人の思惑の矛盾と現場状況の照らし合わせくらいか。
 
 
 だとすると。           、 、
 聞き込みと並行して奴に見てもらうべきものは?
 
.

447名無しさん :2018/09/20(木) 03:45:20 ID:T8wS26JU0
 
 
            、
(;´・ω・`) 「    水かッ! 」
 
 すぐさま電話を手に取る。
 既に、答えは出していた。
 犯人は、水を利用した犯行を企んでいた可能性が否定できない。
 
 それが溺死なのか、あるいは滝の上からの転落死か。
 どちらにせよ、関わってくるのは水である。
 
 滝の上か、その先の滝壺か、滝壺から続く川か。
 ぎょろ目は走りながら電話にすぐさま応じた。
 
 
(;´・ω・`) 「現況ッ」
 
  「今のところヒットなしッ」
 
(;´・ω・`) 「オーケー」
 
(;´・ω・`) 「聞き込みは、滝から末端の川までを沿うようにしてくれ!」
 
.

448名無しさん :2018/09/20(木) 03:45:46 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目は、意図を汲み取り損ねたのか、一瞬黙った。
 だが、すぐさま頷いて電話を切った。
 
 滝公園の、園内を渡る川は、一本だけだ。
 幅数メートルある大きなもので、丁寧な装飾が施されている。
 
 川近辺に人は集まりやすい。
 文明の発展においても、観光名所においてもだ。
 
 
(;´・ω・`) 「間に合ってくれよ……」
 
 万が一を考え、覆面パトカーで来ていてよかった。
 パトカーなら、多少は法定速度を無視しても咎められない。
 もっとも、法を破るものを追うのに法に縛られるのは本末転倒と思わなくもないが。
 
 アクセルを深く踏んで、信号も無視して、とにかく前へ。
 あと十分ほどで、公園が見えてくる。
 
.

449名無しさん :2018/09/20(木) 03:46:10 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「!」
 
 こちらからかけてばかりだった電話が、震えた。
 ワカッテマスではない。
 ぎょろ目からだ。
 
(;´・ω・`) 「僕だ」
 
  「目撃証言ッ」
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 
  「少し前に、滝壺になにか大きなものが落ちた音がしたッ」
  「鯉が跳ねたにしては大袈裟すぎたと、市民が証言ッ」
 
(;´・ω・`)
 
 
 全身に、悪寒が走った。
 滝壺に、大きなものが落ちた音がした。
 鯉が跳ねた程度ではない音。
 
.

450名無しさん :2018/09/20(木) 03:46:39 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「    いつ頃だッ!」
 
  「五分か、十分か前、とのこと」
 
 
(;´・ω・`) 「沈んだのか? 流されたのか?」
 
  「これより検証、しばらく応答できませんッ」
 
(;´・ω・`) 「…!」
 
 
 これより検証?
 何を言っている?
 
(;´・ω・`) 「わかった、川下のほうに向かっていけ!」
 
(;´・ω・`) 「僕もすぐにそっちに着く!」
 
 がちゃがちゃ、と何かを外すような音が聞こえてきた。
 茂みにいるであろう音も併せて聞こえてくる。
 
 検証、か。
 鉄砲などを外して茂みに隠し、滝壺に潜るつもりか。
 
.

451名無しさん :2018/09/20(木) 03:47:10 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「      ………。」
 
 これが、ぎょろ目の強さだった。
 夏に向かっているとはいえ、まだ暑くはない気候。
 
 歳も増すばかりで、冷水に飛び込むのは危険も伴う。
 それでも、躊躇などなしに、その程度のことをやってのける男なのだ。
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
(;´‐ω‐`) 「……」
 
 
 拳を、強く握りしめた。
 僕のまわりには、優秀な刑事が集まっている。
 
 日頃は、どこか気の抜けた連中ばかりだが
 それが今この瞬間、この上なく心強く思えた。
 
 
(´・ω・`) 「飛ばすぞ」
 
(;´・_ゝ・`) 「…え?」
 
(´・ω・`) 「ケーサツには、黙っててくれよ」
 
.

452名無しさん :2018/09/20(木) 03:48:02 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ┏━─
    午後十三時二二分  ヴィップの滝公園
                               ─━┛
 
 
 
 現場には既に、第一群が到着していた。
 ここから一番近い所轄だ。
 
 とても、まだ事件が発覚したとは思えない情景だった。
 連続予告殺人を扱うこの僕が、要請をかけたんだ。
 これで僕の推理が外れていた場合、始末書程度では済まないだろう。
 
 だが、ある種の確信はあった。
 死亡したかどうかは、定かではない。
 しかし、確実に、既にここでミセリは犯人と接触している。
 
 ミセリは、滝壺に突き落とされたのだ。
 それが五分、十分程度だったなら、存命の確率はまだ十分にある。
 ぎょろ目が、すぐさまミセリを救い出せるかどうか、が鍵だ。
 
.

453名無しさん :2018/09/20(木) 03:48:43 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「半分は滝の上、半分は川沿いを南に」
 
(´・ω・`) 「聞き込み、調査に分かれて迅速にかかれ」
 
 所轄の陣頭指揮を執る。
 サイレンの音を聞きつけたのだろう、パトカーを降りた瞬間所轄に出迎えられた。
 僕の指示に一切疑問を持つことなく、言われるがまま警官たちは分かれた。
 
(´・ω・`) 「そこのキミ」
 
警官 「はッ はい!」
 
       '_
(;´・_ゝ・`) 、
 
(´・ω・`) 「彼は、重要参考人だ」
 
(´・ω・`) 「一緒にパトカーに乗って、保護しておけ」
 
 
警官 「わかりました!」
 
(;´・_ゝ・`) 「…刑事さん」
 
.

454名無しさん :2018/09/20(木) 03:49:26 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「さて…」
 
 僕はすぐに、滝壺に向かう。
 周囲を見渡すと、ぎょろ目が置いていったのであろう拳銃などが茂みに隠されてあった。
 となると、ここから池に飛び込んでいる。
 
 少し、滝壺の様子を見る。
 しかし、ここに潜っている気配はない。
 
 川下に向かって、警官に遅れる形で走り出す。
 滝壺に潜っていない、ということは、ミセリは沈まず、流されている、ということ。
 
 
 そこまで人は多くないが、
 それでも公園に訪れていた人たちの好奇の視線が突き刺さる。
 聞き込み担当の警官が、そんな彼らに声をかけていく。
 
 目立っているのは、かえって好都合だろう。
 既にミセリは犯人から離れている。
 今更我々の存在が犯人に知られようが、関係ない。
 
 騒ぎを聞きつけた野次馬たちが、少しずつ顔を出す。
 彼らを逃さず、所轄が捕まえていく。
 
 近隣の所轄に片っ端から応援をかけたのは正解だったようで、
 捜査の取りこぼしの心配はなさそうだった。
 
.

455名無しさん :2018/09/20(木) 03:49:50 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
      '_
(;゚д゚) 、
 
(´・ω・`) 「おいッ!」
 
 ある程度走っていると、川べりにぎょろ目が上がっていた。
 全身ずぶ濡れで、僕の声に応じて奴も振り返った。
 
(;゚д゚) 「イツワリさん!」
 
(´・ω・`) 「ミセリは!」
 
(;゚д゚) 「それが……妙なのです」
 
(´・ω・`) 「妙…?」
 
 少しずつ溜まりつつある不吉な予感が、形を成していくのがわかる。
 ぎょろ目は、からだを拭おうともせず、続けた。
 
 
(;゚д゚) 「滝壺から、ここまで泳いで見渡してきましたが」
 
(;゚д゚) 「ミセリは、どこにも見受けられません」
 
.

456名無しさん :2018/09/20(木) 03:50:41 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「……ッ」
 
(;゚д゚) 「ひょっとして、滝壺の音、というのは勘違いでは……」
 
(´・ω・`) 「いや、そんなはずは……」
 
 犯人の思惑と、現場の状況。
 照らし合わせる限り、溺死、転落死が濃厚だ。
 
 そして、鯉が跳ねたとは思えないような、音。
 音、しか証言されていないのがポイントなのだ。
 つまり、証人はそのシーンを 「見て」 はいない。
 
 現場を見ていない証人が、思わず証言するような音。
 それだけ大きな音を鳴らすものなど、
 現状、ミセリが突き落とされた以外には考えづらい。
 
 
(;゚д゚) 「しかし」
 
(;゚д゚) 「自然に流されているならば、既に追いついています」
 
(´・ω・`) 「どこかに引っかかった、とかは…」
 
(;゚д゚) 「そんなもの、見落としません」
 
.

457名無しさん :2018/09/20(木) 03:51:21 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 見落とさない。
 ぎょろ目が言うと、信じるしかない言葉だった。
 
 となると、どういうことだ。
 その時の音、はなんだったのか。
 
(;゚д゚) 「むろん、滝壺には粗大ゴミの類もありませんでした」
 
(;゚д゚) 「と、言うより……」
 
      、 、、 、 、、、 、 、 、 、 、 、、 、 、
(;゚д゚) 「なにも落とされた形跡がありません」
 
(;´・ω・`) 「なんだって…?」
 
 刑事に驚き、ただ鯉が跳ねただけの音を、過剰に勘違いしてしまったのか。
 大きなものが落ちた時の音と鯉が跳ねる音は、比較にならないぞ。
 人間は、そんなに大きな勘違いをしかねないとでも言うのか。
 
 滝公園の水は、底のほうは泥でよどんでいるものの、
 上の方は澄んでいる、奴が見落としたりする要素はない。
 
 
(;゚д゚) 「……あった、とすれば」
 
(;>д゚) 「    え、ぶえっくしょん!」
 
.

458名無しさん :2018/09/20(木) 03:52:02 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ぎょろ目は、盛大なくしゃみをした。
 思わずシャツを脱ぎ、はたいて水を切りだす。
 
(´・ω・`) 「……風邪は、引くなよ」
 
(´・ω・`) 「今はあんたが頼りだ」
 
(;゚д゚) 「失礼」
 
 
(´・ω・`) 「で」
 
(´・ω・`) 「あったとすれば?」
 
(;゚д゚) 「ゴミ……が浮かんでいた、程度」
 
(´・ω・`) 「ゴミ? ゴミくらい普通に……」
 
 
(´・ω・`) 「……いや。 確かに、妙だな」
 
(;゚д゚) 「はい」
 
(;゚д゚) 「この公園は、ゴミのポイ捨てにはやたら厳しいです」
 
.

459名無しさん :2018/09/20(木) 03:52:27 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 ヴィップの名所ともされている、ヴィップの滝公園。
 環境美化にとことん拘っている公園で、
 川にペットボトルなどが浮かんでいることは、ほぼない。
 
 市民も、この公園には誇りを持っているのだ。
 ゴミを捨てようと考える人も、少ない。
 
(´・ω・`) 「なにがあったの?」
 
(;゚д゚) 「何かの包み……でしょうか?」
 
(;゚д゚) 「一応、拾っておいた程度ですが……」
 
 ぎょろ目は、ポケットからそれを取り出した。
 紫色の包みで、花がプリントされている。
 
 
 
(´・ω・`) 「…………アネモネ」
 
.

460名無しさん :2018/09/20(木) 03:53:37 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;゚д゚) 「?」
 
(;゚д゚) 「アネモネ……って、この花、ですか?」
 
 
(;´・ω・`) 「おい!」
 
(;´・ω・`) 「これ……どこにあった!」
 
 思わず、声を張ってしまう。
 ぎょろ目はキョトンとしたまま、落ち着いて答えた。
 
 
(;゚д゚) 「滝壺の、ど真ん中にあったんです」
 
(;゚д゚) 「ただのポイ捨てにしては、いささか不自然な……」
 
 
.

461名無しさん :2018/09/20(木) 03:54:19 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「滝壺に戻るぞ!!」
 
(;´・ω・`) 「それはミセリの遺留品だ!!」
 
 
(;゚д゚) 「な……」
 
 言い放って、一直線で駆け出す。
 ぎょろ目も、シャツを羽織りながらついてくる。
 
 
(;゚д゚) 「何を根拠に!」
 
(;゚д゚) 「ミセリ宅に、似たようなものが?」
        、 、 、 、 、、 、 、 、、 、
(;´・ω・`) 「それは僕があげたものだ!」
 
 と言いながら、僕もポケットに忍ばせていたキャンディーをひとつ取り出す。
 花がプリントされた、シンプルな包装。
 間違いなく、僕が喫茶店で彼女に渡した、アネモネの飴だ。
 
.

462名無しさん :2018/09/20(木) 03:55:39 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;゚д゚) 「   本当ですか!?」
 
(;゚д゚) 「たまたま同じもの、では…」
 
(;´・ω・`) 「それは、通販でしか売られてないキャンディーなんだ!」
 
(;´・ω・`) 「そこらにありふれてる物じゃない!」
 
 塩見製菓にて、お徳用のみが、通販限定で売られている 「花飴」 。
 この期に及んで、偶然捨てられていた、などあり得ない。
 
 
 
(;´・ω・`) 「ミセリは、確かに!」
 
(;´・ω・`) 「滝壺に、落とされたんだ!」
 
 
.

463名無しさん :2018/09/20(木) 03:56:01 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;゚д゚) 「じゃあ、ミセリはどこに!」
 
(;´・ω・`) 「犯人が掬い上げたわけはない!」
 
(;´・ω・`) 「沈んでも、流されてもないなら、滝の下だ!」
 
(;゚д゚) 「   なッ …。」
 
 
 物理学には、疎い。
 しかし、消去法で考えるなら、可能性があるのは、ひとつ。
 
 滝の下だ。
 滝が作り出す水流が渦を巻いて、
 落とされたミセリを、その水流が落水地点まで運んだなら。
 
 落水地点なら、ぎょろ目の眼をもってしてもミセリを見つけ出すのは難しい。
 だからといって近くまで泳いで確認することもできない。
 
 考えられない話ではあるが、滝の下以外にミセリが姿を消す場所など、ないのだ。
 
 
.

464名無しさん :2018/09/20(木) 03:56:43 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 滝壺まで戻る。
 滝の下など、どう潜ればいいのだ。
 
(;´・ω・`) 「さて、」
 
( ゚д゚) 「は?」
 
 とにかく、潜るしかない。
 そう思ったが、その前に。
 
 
(´・ω・`) 「どうした?」
 
( ゚д゚) 「…」
 
 
(;゚д゚) 「………え? え?」
 
(´・ω・`) 「おい! どうしたんだ!」
 
 ぎょろ目が、明らかに異変を見せた。
 滝壺、ではない、上の方を見て、目を何度も擦っていた。
 
.

465名無しさん :2018/09/20(木) 03:57:03 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(;´・ω・`) 「滝…?」
 
(;゚д゚)
 
(;゚д゚) 「………い、イツワリさん」
 
(;゚д゚) 「上のほう」
 
 
(;゚д゚) 「なんか、いませんか?」
 
(´・ω・`) 「う…上?」
 
 
 僕が目をやったよりも、もっと上。
 ぎょろ目は、滝口のほうを指さした。
 
(;゚д゚) 「なんか、何か、が…」
 
 
 
(;゚д゚) 「上へ、上へ…」
 
(;゚д゚) 「滝を、登って、いるような…」
 
 
.

466名無しさん :2018/09/20(木) 03:58:00 ID:T8wS26JU0
 
 
 
(´・ω・`) 「え」
 
 
 水飛沫で、よく見えない。
 しかし、確かに、なんか、何かが。
 
 上へ、上へ、滝を登っているようなものは見える。
 
 
 なるほど確かに、これは目を擦る。
 目を細めて、その何かを、見る。
 
(´・ω・`)
 
(´・ω・`) 「……あ」
 
 
 
 見えた。
 服装は違うし、髪形も崩れてはいるが。
 
ミセ:::-:)リ
 
 
.

467名無しさん :2018/09/20(木) 03:58:47 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 
( ;´゚ω゚) 「     なああああああアアアアアアアアアアアッッ!?!?」
 
 
 芹澤ミセリが、こちらを見ながら。
 まるで、昇天するように、滝を、登っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.
468名無しさん :2018/09/20(木) 03:59:19 ID:T8wS26JU0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
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    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
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       第四幕   「 滝登り 」          '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
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