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五月八日 午前九時三一分
ヴィップ大学
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先に触れておくと、私は人付き合いが苦手だ。
多くの友人を持つ器用さなんて持ち合わせていない。
だから、たとえばあの授業はこうだ、とか。
試験にはどんな問題が出てくる、とか。
そんな情報を得る手段に乏しい。
(゚、゚'トソン
ヴィップ大学、五月八日のカリキュラム、全行程を休講とする。
先週はおろか、昨日ですら発表されていなかった。
今朝になって突然の発表だった。
そんなの、わかりっこないだろう。
よく考えてみると、私は友だちが少ないから、以前の話なのだ。
.
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もうひとつ。
事件は起こっていた。
いや、最初から整理するほうがいい。
一限目があり、早くから私は学校に来ていた。
教授も、学生も、平生の半分にすら満たなかったのはすぐに気が付いた。
ただ、その時はまだ、疑っていなかった。
いま、ヴィップ大学に何が起こっているのか。
どうして急に全講義が中止となってしまったのか。
なにも疑わずに、いつも通り、教室に向かった。
すると黒板に、一枚の紙が貼られてあった。
本日は全授業が休講です。
大学の緊急メンテナンスを行うため、速やかに帰宅するように。
これは、なんの冗談だ。
大学の緊急メンテナンスなんて聞いたことがないぞ。
私はその張り紙を見て、すぐに窓から敷地内を見下ろした。
人通りが、確かに、少なかった。
それも、スーツ姿の、他学部の教授だろうか、警備員かもしれないが、
そんな多くの男性が、忙しなく敷地の上を歩き回っていた。
.
-
こんな時、友人のネットワークを多く持つ人なら、情報共有からはじまるだろう。
いったい何があったのかの、確認。
あるいは、自分からの、緊急メンテナンスという情報の発信。
私には、何もなかった。
友だちがいないなんて関係ないのだからこの際どうでもいい。
ただ、それ以上に、何が起こったのかがこの上なく気になった。
(゚、゚'トソン
最初は、変なこともあるんだな、と思った。
ある種の諦め、とでも言える。
せっかくの変な日なのだ。
誰もいない教室内でごろっとして、突然暇になったことを噛みしめていた。
大学生というのは、多忙なのである。
(゚、゚'トソン
ごろごろするのに飽きた頃、私はまた、窓から下を見下ろしていた。
見たことない男性が多く見受けられるが、
なかには何かの講義で見かけたことのある初老の教授もいた。
顔色がおかしい。
やっぱり、何かあった。
その時になってはじめて、私は重い腰をあげたのだ。
.
-
情報を知りたいが、緊急メンテナンスなんて言い出しているのはあくまで大学側だ。
学生部に聞きに行っても、メンテナンスはメンテナンスだよ、などとあしらわれる。
私と同じ境遇の人を見つけて、事情を聞くのがいいだろう。
私は人付き合いが苦手だが、いざ声をかけてみればなんとかなると信じる。
となると、誰に声をかけようか。
なるべく気が弱そうで、状況をある程度は飲みこめていなさそうな、女性がいい。
教室から出て一階に降りながら、ひっそりとターゲットを探した。
(゚、゚'トソン
ある方角を見て、ぴたりと足が止まった。
湧き上がってくる懐かしい記憶。
忘れかけていた戦慄、焦燥、混乱。
どうしてこの人がこの場にいるんだ。
たった一人を見ただけで、それまでの違和感の全てが、別の意味に変わってしまった。
唐突な全行程休講。
その名目は大学の緊急メンテナンス。
もちろん前日までにそれらしき兆候なんてものは見られなかった。
また朝も早いというのに敷地内を忙しなく徘徊する男性陣。
一切の事情が説明されておらず、戸惑っている学生も多い。
.
-
( ´・ω・)
絶対に。
絶対に忘れるはずのない顔。
見た目こそ、スーツの上にトレンチコートを羽織っているだけ。
知らない人が見れば。
というか、私以外の誰が見ても、教授かそれに類する人だと思うだろう。
違うぞ。
この人は、刑事だ。
ヴィップ県警捜査一課に勤める警部。
誰が呼んだかイツワリ警部。
昨今お茶の間を騒がせている連続予告殺人事件を担当している人なのだ。
(゚、゚'トソン
(゚、゚'トソン 「………」
すべてに合点がいった。
警部はいま、連続予告殺人を担当している。
そんなお方が、いまヴィップ大学を歩いている。
ヴィップ大学は本日五月八日、突然の休講に見舞われている。
誰もが決して納得しないであろう理由を引っ提げて。
.
-
(゚、゚トソン 「…ッ」
経済学部棟のほうに向かっていく。
見失わないように、それまで小走りだったのが、全力疾走に変わった。
向こうに気づかれてもいい。
別に後ろから忍び寄って驚かしてやろうなんてサプライズ精神も持ち合わせていない。
いつぞやぶりの再会。
それに感動したい気持ちもあれば、
たった今ヴィップ大学を覆っている暗雲、
それについて聞きたい気持ちもある。
(゚、゚;トソン 「警部ッ!」
'_
( ´・ω・) 、
自動ドアを抜け、馴染みのないエントランス、
警部はエスカレーターに乗ろうとしていたところだった。
ぱッと見たところ、エントランスには私と警部以外誰もいない。
当然だ、多くの男性陣が、学生や職員に帰宅を命じているのだから。
.
-
私は、わかりましたァ、でも忘れ物だけ、と返してやり過ごしている。
思えば、このある種の野次馬精神こそが、私を事件体質たらしめているのだと思う。
事件体質、というのは。
私、都村トソンは、いつからだろうか。
事件、それも殺人や誘拐といった刑事事件に巻き込まれることが多いのだ。
そんな小説みたいな体質、あるわけがなかろう。
昔からそう一笑に付してきた節こそあるが、
この歳になってあらためて振り返ってみると、
藪をつついて蛇を出すことが多い人生だったとも思う。
それと事件体質は、直接的には関係ないのだろうけど。
どうしても、日頃の行いというオカルトめいた何かを信じたくなる。
(´・ω・`) 「え、」
(゚ー゚;トソン 「やっぱり!!」
(゚ー゚;トソン 「久しぶりじゃないですか! 覚えてますか!」
(´゚ω゚`) 「んなアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
私と警部しかいないエントランスに、
もう中年も中年である警部の、情けない絶叫がこだました。
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|`ヽ /|
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| ヽ / ノ
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'、
| .、
l
!
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ,
ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第十幕 「 亡霊を捕まえろ
」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
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午前十時〇四分 ヴィップ大学
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(;´・ω・`) 「なんでえ!? なんでえ!?」
(゚ー゚;トソン 「うっわ懐かしい声……」
(゚ー゚;トソン 「警部! どうしてここにいるんですか!」
(;´゚ω゚`) 「シャラーーーーーーップ!!」
(;´゚ω゚`) 「………大声で、警部、ッて言うんじゃない……!」
(゚、゚;トソン ?
因縁だ。
因縁なのだ。
因縁以外の何物でもないのだ。
.
-
確かに僕は、長年刑事を勤めている。
そのなかで、多くの人間を見てきた。
一期一会の人間が多ければ、なにかの縁で再会する人間もいる。
僕が逮捕した人間に恨まれることもあれば、
僕が救った被害者家族から感謝される付き合いもある。
ただ。
そんな刑事人生のなかで、一際異彩を放つ存在がいた。
どうしてか、どおしてか、
まるで後でもつけているかのような頻度で、
僕が扱う事件に巻き込まれる、あるいは首を突っ込む女の子だ。
(゚、゚;トソン 「警部は……警部ですよね」
(゚、゚;トソン 「あれ、もしかして……リストラ?」
(´゚ω゚`) 「ンなわけあるかい!」
(´゚ω゚`) 「バリバリ現役の敏腕刑事じゃい!」
(゚、゚トソン 「大声…」
(´・ω・`) 「あっ…」
.
-
都村トソン。
通称事件体質。
いつ出会ったのかすら覚えていない。
彼女が高校生だった頃に、特に何度も出会った記憶がある。
いま、何歳なのだろうか。
少なくとも、大学生と呼べる歳で、実際大学生なのだろう。
大学生じゃないのにこの場で出会ってしまったとしたら、それは災いだ。
( ´・ω・) 「……」
(´・ω・`) 「ちょっと、ついてきて」
(゚、゚トソン 「えっ」
周囲には、誰もいなさそうだ。
だが、念のため、適当な教室に隠れよう。
トソンちゃんを連れて、ちいさな教室に入った。
事態を飲みこめていないであろうトソンちゃんは、黙ってきょろきょろしていた。
(´・ω・`) 「ちょっと座っとくか」
(゚、゚トソン 「…」
.
-
トソンちゃんとは、ここ最近、会っていなかった。
連絡先は知っていたが、そもそもが刑事と女学生。
よほどのことがない限り、連絡を送り合うようなことはなかった。
連絡をやるまでもなく、この子の場合、
勝手に僕の行動範囲内に突っ込んでくるのだけど。
(゚、゚トソン 「えっと」
(゚、゚トソン 「なんだろう……」
(´・ω・`) 「どしたの?」
大学の机というものはこんなに奥行きが狭いのか。
トソンちゃんが妙に近くて、目のやり場に困る。
歳を取り、大学生になっていただけあって、さすがに美人にはなっていた。
一番は、化粧を覚えていたところにあるのだと思うけども。
(゚、゚トソン 「次、警部に会ったら、どんな話を聞こう」
(゚、゚トソン 「とか。 いろいろ考えてたハズなんですけど…」
(゚、゚トソン 「いざ会ってみると、話のタネなんて、全然浮かんでこないですね」
.
-
(´・ω・`) 「なんかね、毎回事件の話聞いてくるけど」
(´・ω・`) 「きみと会う時ッて、だいたい余裕がない時なんだよ」
特に今、この瞬間、
僕は言ってしまえば、今年最大の事件と戦っているのだから。
(´・ω・`) 「わかるゥ?」
(゚、゚トソン 「余裕のない大人にはなりたくないな…」
(´゚ω゚`) 「わかれこの野郎!」
親子ほど離れている、と言っていい年齢差だ。
本来、一般人は、刑事というものにある程度は畏縮するはずなのに。
トソンちゃん本来の性格もあるのだろうけど、
互いがいじりいじられの微妙な関係が、何年間もかけて築かれていた。
(゚、゚トソン 「あ、あ。」
(゚、゚トソン 「刑事はいないんですか。
刑事」
(´・ω・`) 「ワカッテマス?」
.
-
トソンちゃんは、ショボーン班の古株とは面識がある。
具体的に言えば、ワカッテマス、ぎょろ目、ペニーだ。
壁とは面識はなかったとは思うんだがな。
(´・ω・`) 「いま、事情があって、僕ひとりだ」
(゚、゚トソン 「事情、って」
(゚、゚トソン 「……例の、連続殺人ですか」
(´・ω・`) 「!」
恐ろしく察しがいいのか、女の勘ッてやつなのか。
この場での即答は想定していなかったので、思わず答えに詰まった。
(´・ω・`) 「し、知っているのかい?」
(゚、゚トソン 「何かで見ましたよ」
(゚、゚トソン 「警部が担当する……って話」
.
-
(´・ω・`) 「そ、そうか」
一般市民は、誰が担当するかなんて、一切興味がないと思うのに。
つくづく、異彩を放つ子だ。
(゚、゚トソン 「……あの、警部」
(´・ω・`) 「ん」
(゚、゚トソン 「今日、実は、大学、休みなんですよ」
(゚、゚トソン 「いきなり。 それも、緊急メンテナンス」
(´・ω・`) 「ふんふん」
(゚、゚トソン 「……次の予告が、ここにきたのですよね?」
(´・ω・`) 「実は、ッて、なんで断定してんのさ!」
きたのですか、だろう、ふつう。
別にこの子には隠すつもりはないけども。
僕がこの場にいて、この子が僕の担当を知っている時点で、隠し通せはしない。
.
-
(´・ω・`) 「逆に、どォーして、トソンちゃんはここにいるのよ」
(´・ω・`) 「休講の告知はもう出されてるし、職員も避難勧告出してんのに」
(゚、゚トソン 「気になったから」
(´・ω・`) 「気に……」
理由になってないぞ。
(´・ω・`) 「まあ、いいよ」
(´・ω・`) 「知られちまったのなら、仕方ないさ」
毎度毎度、この子を事件に巻き込ませないために、僕は頑張っているんだ。
実際どうなってきたかはさて置いて、
僕は個人的な面識があるからといって、一般市民扱いしないことはない。
亡霊の凶刃に、もちろんトソンちゃんも晒すわけにはいかない。
いかない、ものの、下手に隠したら余計に厄介なのも経験済みだ。
.
-
(´・ω・`) 「いいか」
(´・ω・`) 「あくまでこれは、捜査機密だ」
(゚、゚トソン 「もうそんな関係じゃないでしょ」
(;´・ω・`) 「あのねえ! こっちは真面目に言ってんの!」
なに事件体質を開き直って良いことであるかのようにしているんだ。
しかも以前より、いくらか饒舌になっている。
(´・ω・`) 「げぇほん!」
(´・ω・`) 「お察しの通りだよ」
(´・ω・`) 「例の事件の犯人が、次はこの大学宛てに予告を出した」
(゚、゚トソン 「……」
やっぱり、と言いたげな顔色だ。
どこまで言うかが悩ましいものの、当たり障りのないことだけ話そう。
亡霊の話なんかをしたって、トソンちゃんには関係ないのだ。
.
-
(´・ω・`) 「僕は大学に、箝口令を命じた」
(´・ω・`) 「また、大学を今日一日、止めるよう指示した」
(´・ω・`) 「いま避難勧告を出して回っているのも、事件に巻き込ませないためだ」
(゚、゚トソン 「そういうのって、実際効き目あるんですか?」
(´・ω・`) 「トソンちゃんみたいな子が多いから効き目薄いんだよ!」
まあまあ、と僕を制してくる。
いったい誰のつもりなんだ。
(´・ω・`) 「で、犯人の要求はふたつ」
(´・ω・`) 「ターゲットを大学に連れてくること」
(´・ω・`) 「僕ひとりだけが来ること」
(゚、゚トソン 「…!」
(´・ω・`) 「だから、ワカッテマスもペニーも、ここにはいないぜ」
.
-
ここで、単なる野次馬精神で、
ターゲットはどんな人だ、とか聞かれたら面倒だな。
なんて構えてはいたが、さすがにトソンちゃんもそこまで無神経ではなかった。
(゚、゚トソン 「……」
鼻を鳴らし、何度か頷く。
(´・ω・`) 「そんな具合だな」
(´・ω・`) 「今はまだ時間があるからこうして構ってあげられるけど」
(´・ω・`) 「今回ばかりは、たとえトソンちゃんだろうとだめだ」
(´・ω・`) 「無理にでも帰ってもらうよ」
(゚、゚トソン 「でも、犯人って、関係ない人を殺すつもりはないんでしょ」
(´・ω・`) 「いや、その可能性が低くはないから、みんな自宅に帰してるんだ」
(゚、゚トソン 「…!」
.
-
おっ。
今のは効いたかな。
トソンちゃんは、事件体質でこそあるものの、
自分にまで被害が及びかねないことをよしとするわけでは決してない。
(゚、゚トソン 「……そうですか」
(´・ω・`) 「ごめんねえ。 終わったら今度、飲み行こうよ」
(´・ω・`) 「もう、お酒飲める歳なんだろう?」
(゚、゚トソン 「お酒は、いや……」
(゚、゚;トソン 「あっ!」
(´・ω・`) 「えっ」
急になんだ。
思わずトソンちゃんの視線の先を追ってしまった。
誰か、それこそ亡霊が後ろにでもいたんじゃないか、みたいな。
そこには、人も車も少ない、駐車場しか広がっていなかった。
経済学部棟の裏には、駐車場があるようだ。
.
-
(゚、゚;トソン 「警部、警部……」
(´・ω・`) 「な、なんだなんだ」
トソンちゃんが急に縮こまり、僕に耳打ちしてきた。
顔色からして、ふざけるつもりはなさそうだけど。
(゚、゚トソン 「………地下鉄で殺人って、ありましたよね」
(´・ω・`) 「え」
(´・ω・`) 「あったけど……何。」
(゚、゚トソン 「………その車両に、私、乗ってたんですけど……」
(´・ω・`) 「へえ……え?」
(;´・ω・`) 「えっ?」
.
-
前言撤回だ。
決して、彼女の秘めたる野次馬根性が原因ではない。
得体の知れない力によって備わっているのだ。
都村トソンという女の子の持つ事件体質というものは。
一緒に旅行に行きたくない友だちナンバーワンだろう。
(;´・ω・`) 「乗ってたッて……」
(;´・ω・`) 「その駅にいたとか、じゃなくて?」
(゚、゚トソン 「車両です」
(゚、゚トソン 「……目の前、とかじゃなかったけど、同じ車両でした」
(;´・ω・`) 「………」
きみが殺ったんじゃないだろうな。
冗談半分で言いかけたそれを、ひっこめる。
(´・ω・`) 「取調は、受けたのかい?」
(゚、゚トソン 「受けましたよ、一応」
.
-
ただ。
気まずそうな声で、続ける。
(゚、゚トソン 「ちょっと、悪酔いしてたのもあって」
(゚、゚トソン 「大した証言も、できなかったんですけど……」
(´・ω・`) 「ふむ」
さすがに、地下鉄殺人の乗客全員分のデータなんて確認していない。
スポットが当たっていない以上、価値ある証言は取られなかったんだろう。
(´・ω・`) 「一応聞かせてくれるかな」
(´・ω・`) 「当時の状況ッていうか、さ」
(´・ω・`) 「いま思うと、変だったなァ、ってこと」
(゚、゚トソン 「………」
うーん、と唸る。
これは期待できないか。
.
-
(゚、゚トソン 「なんか、こう……」
(゚、゚トソン 「何の前触れもなかったんですよ」
(゚、゚トソン 「気がついたら、前の方で、人が倒れる音がして」
(´・ω・`) 「音、か」
(゚、゚トソン 「それで私もチラッと見たんですがね」
前の方、という言い方からするに、
ある程度以上の距離はあったと見ていい。
(゚、゚トソン 「乗客が、円を作るように被害者から離れていきましたね」
(´・ω・`) 「その時ッてさ」
(´・ω・`) 「なんか、こう……露骨に離れてく人とか、いた?」
.
-
(゚、゚トソン 「いましたよ、そりゃあ」
(´・ω・`) 「ひとり?」
(゚、゚トソン 「いや、何人か」
(´・ω・`) 「そう、か」
考えてみれば、当然のことではある。
目の前で、いきなり人が刺されて、血だまりを作っているのだ。
無関係だろうが、逃げたくなるのは仕方のない話だ。
(´・ω・`) 「………」
(´・ω・`) 「そっか」
思わぬところで、思わぬ人物と間接的につながる。
今回の事件で、改めて痛感した世界の狭さ。
オオカミ鉄道、アスキーミュージアム、盛岡デミタス、
三月ウサギと三月イナリに、都村トソン。
今後、刑事を辞めても絶対忘れられない事件となるだろう、本件は。
.
-
連続予告殺人にしてもそうだ。
いくつかの因縁が、そのまま十年後に反映されている。
流石兄者からはじまった因縁だ。
アウトドアサークルを結成した。
そこで集まったうち、芹澤ミセリとクックル三階堂は籍を入れた。
ヒッキー小森と山村貞子は何かしらの関係を持ち、
十年前、崖の上から貞子を落としたヒッキーは、兄者に罪をかぶせた。
他方、就職したフッサール擬古は
何かしらの人脈でもって貞子をかぶったと思われる。
盛岡デミタスという、僕個人を知る男の存在が、
本件の調査をスムーズにした部分もある。
(゚、゚トソン 「警部は、なにしてるんですか?」
(´・ω・`) 「へっ」
そして亡霊から告げられた文言。
これが、最後の予告。
十年前から複雑に絡み合ったいくつもの因縁は、
本日をもって終わろうとしている。
.
-
(゚、゚トソン 「犯人……捕まえるんですよね?」
(´・ω・`) 「……」
どこまで言おうか。
下手なことを言って、よかった試しがない。
相手が都村トソンなら、なおのこと。
犯人に人質としてとられたことがある。
犯人の手で記憶を飛ばされかけた過去がある。
オオカミ鉄道で爆弾騒動に巻き込まれたことがある。
毒物事件では図らずも彼女の祖父と会ったし。
その祖父のつながりで極寒の地の密室殺人を共にした。
そこでは、爆発からのホテルの倒壊なんて目にも遭った。
(´・ω・`) 「いまは、立地の確認だ」
(´・ω・`) 「犯人の逃走経路、隠れられる場所、エトセトラ」
(´・ω・`) 「いざ犯人を確保する時に必要な情報を、集めてるんだ」
.
-
亡霊だって、事態を知らない学生が間違えて登校しているこのタイミングで、
大々的な殺人だったり、動きを見せることはないだろう。
しかし、兄者とデミタスを呼ぶ以上、亡霊は間違いなく、来るはずだ。
遠隔的にふたりを殺すことは、相当難しいはずなのだ。
(゚、゚トソン 「そこから、どうやって逮捕するんですか?」
(´・ω・`) 「どうしてそれを聞くんだい?」
ちょっと強めに、聞き返した。
わかっているとは思うけど、これは遊びじゃないんだぞ。
最悪の場合、またきみに被害が及ぶんだぞ。
そんな気持ちを含ませて言ったが、
トソンちゃんは一切怯える様子もなく、答えた。
(゚、゚トソン 「だって、これでもここの学生なんですよ」
(゚、゚トソン 「警部がわからないことだって、ある程度ならわかるんです」
(゚ー゚トソン 「………。」
可愛らしく首を傾げた。
なにか、聞きたいことがあったら答えてやるぞ、ッてな雰囲気だ。
.
-
(´・ω・`) 「あんねェ」
(´・ω・`) 「……」
彼女が、ちゃんとした訓練を積んだ捜査官だったら、
仲間として秘密裏に行動を共にするよう頼むだろう。
まっぴら御免だ。
一個人としてもそうだが、それは警察が許さない。
(´・ω・`) 「たとえば、なにさ」
(゚、゚トソン 「へ」
許さない、が。
有益そうな情報があるのなら、それだけは頂戴しておこう。
(゚、゚トソン 「たとえばッて……たとえば?」
(;´・ω・`) 「聞くなよ!」
.
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(゚、゚;トソン 「あれですよ!」
(゚、゚トソン 「人目につかない場所といえば、とか」
(゚、゚;トソン 「大学内を一望できそうな場所はどこか、とか!」
(´・ω・`) 「あ、ああ……。」
(´・ω・`) 「……そうだねえ」
トソンちゃんにしてはいい着眼点だ。
と褒めたいが、さすがに成人したら、頭もよくなっているものか。
トソンちゃんがこの場にいる時点で、僕より学はあるわけだし。
(´・ω・`) 「今日、一日暇だよね?」
(゚、゚トソン 「え。 まあ」
(´・ω・`) 「ちょっと、そのうち電話するかもしんないから」
(´・ω・`) 「何かあった時に、電話させてもらっていい?」
.
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(゚、゚トソン 「いいですよ」
(゚ー゚トソン 「……なんか、懐かしい感じがしますね」
(´・ω・`) 「なんで嬉しそうなのさ」
今回ばかりは、軽い気持ちで事件に首を突っ込もうとしたら、怒るつもりだった。
事の重大さを知っているのだろう、そんな発言は見られなかったが、
わくわくというか、何かこう、楽しんでいる節は、少しだけ見受けられた。
(゚、゚トソン 「いまだから言いますけど」
(゚、゚トソン 「私、警部のこと、尊敬してますから」
(´・ω・`) 「へ」
(゚、゚トソン 「そんな人に頼りにされて、嬉しくない人は」
(゚、゚トソン 「あんまし、いないと思いますよ」
(´・ω・`) 「……」
.
-
ちょっと照れくさくて、つい目を逸らしてしまった。
まるで、子に今までのお礼を言われた親のような気分だ。
まさか、この子の口から、そんな言葉が飛んでくるとは。
これは、事件が解決したら、度重なる飲みで財布が軽くなりそうだ。
(´・ω・`) 「どんだけおだてても、捜査には付きあわせないからね」
(゚、゚トソン 「はーい」
やる気のない返事をよそに、もう一度時計を見た。
確か、亡霊からの予告では、十時には連絡をよこすと言っていた。
十時、二十分ほどだ。
まだ電話はきていない。
公的な予告でもないのだから、別段おかしいわけではない。
ただ、それまでのことを考えると、引っかかる部分はあった。
かといって、トソンちゃんと話している最中にかけられるよかマシだけど。
.
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(゚、゚トソン 「……さっきから」
(゚、゚トソン 「ずっと時間気にしてますけど、何か?」
(´・ω・`) 「ん。 ああ、まあ」
デート中の彼女みたいなことを言いやがって。
何か、もなにも、目下事件担当中だ。
(゚、゚トソン 「……」
(゚、゚トソン 「警部」
(´・ω・`) 「なにさ」
(゚、゚トソン 「ほんとうに、ひとりで相手、するんですか?」
(´・ω・`) 「もちろん」
犯人から、ひとりで来い、と言われたり。
警察は来るな、と言われたりすることは多い。
その時、どう動くかは事件次第だけど、
今回は、僕の単騎は部下の全員が賛成した。
.
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なにも、面倒な上司はいないほうがいい、
なんてナンセンスな考えではない。
決着をつけるには、僕ひとりがベストだと判断してくれたのだ。
いつもなら、やれ潜伏、やれ変装、など様々な案が出るのだが。
ぎょろ目が、静かにみんなの待機の有無を確認してくれたくらいだ。
ぎょろ目たちの応援は、断っておいた。
ただ、近隣の所轄署に、待機を命じてある。
有事にはすぐさま対応させるつもりだ。
裏を返せば、その程度しか備えてはいない。
(゚、゚トソン 「……勝てるんですか?」
兄者もデミタスも、今はキャリアセンターに預けてある。
絶対的に安全なわけではないが、複数人が見ているなかでの殺害は不可能だ。
指示がくるまでは、凶刃に晒すつもりなどさらさらない。
(´・ω・`) 「僕を、誰だと思ってるんだい?」
(´^ω^`) 「あの、偽りを見抜く敏腕刑事だぜ?」
.
-
(゚、゚トソン 「……」
トソンちゃんは、笑わない。
別に、僕のことを疑っているわけでないのはわかっている。
ただただ、不安なのだ。
トソンちゃんは、多くの事件を経験して、
如何に事が深刻なのかは、容易に察しがつくのだ。
(゚、゚トソン 「あ、あの」
(´・ω・`) 「だめだぜ」
(゚、゚トソン 「怪しい人がいるかどうかを、教室から見下ろすくらい……」
(´・ω・`) 「僕と亡霊の、一騎打ちなんだ」
(゚、゚トソン 「亡霊…?」
(´・ω・`) 「おっと」
思わず口が滑ってしまった。
が、まあいいだろう。
.
-
(´・ω・`) 「言葉のあや、さ」
(´・ω・`) 「犯人は、一度も姿を見せていない」
(´・ω・`) 「亡霊みてーだな、ッて、うちで話題になってたんだ」
(゚、゚トソン 「す」
兄者と話してきたせいか、咄嗟の作り話がうまくなっていた。
いま、兄者は、デミタスとどんな話をしているのだろうか。
十年前の真実を、打ち明けているのだろうか。
(゚、゚トソン 「姿がわからないのに」
(゚、゚トソン 「どうやって、捕まえるつもりなんですか」
(´・ω・`) 「ある程度の情報は、入ってる」
(´・ω・`) 「そうだ。 怪しい女性、見なかった?」
(゚、゚トソン 「女性?」
.
-
僕の暫定的なプランは、
犯人の指示を受けたうえで、犯人がどこから何を企んでいるのかを、見抜く。
亡霊のことだ、無理心中すら厭わない可能性も捨てきれない。
指示された場所に、ふたりを連れていく最中に、
後ろから特攻されるわけにはいかない。
となると、猶予は、数分。
もっと言うと、電話を切るまでの間。
特定しようとしているのを察知されないよう、自然に。
足音を殺して、数分で即座に、答えを出すのだ。
今まで扱ってきた事件のなかでも、難度の高い条件だが。
やるしかない。
(´・ω・`) 「見た目は、詳しくはわからない」
(´・ω・`) 「ただ、細い、不健康そうな女性ッてイメージだ」
(゚、゚トソン 「細い……もなにも」
(゚、゚トソン 「……おばちゃん、ではないんですよね?」
(´・ω・`) 「歳は、三十ほど」
(´・ω・`) 「老け顔、かはさて置いて、見るからに三十代でなかったら除外だ」
.
-
十年ぶりの起床を遂げた亡霊が、
現在どんな容姿になっているかは想像すらできない。
事が事だ、異常に老けているかもしれない。
ただ、痩せていることには違いないだろう。
筋肉は衰弱しているはずなのだ。
(゚、゚トソン 「それは……見てないですね」
(゚、゚トソン 「スーツ着た、五十代くらいの恰幅のいい女性はひとり、見ましたが」
(゚、゚トソン 「見たことがあります、たぶん人事の人です」
(´・ω・`) 「その人は違うね」
実際誰かはわからないけど、あらゆる条件が噛み合っていない。
なるほど、しれっと騒動に紛れている線は薄いか。
(´・ω・`) 「…!」
ついに来た。
050電話。 亡霊からのいざない。
思わず僕は音を立てて立ち上がった。
.
-
(゚、゚トソン 「…!」
声のトーンを落とし、ゆっくり扉のほうへ向かう。
時刻は十時二八分。
結構な遅刻だ、事情があったのだろうか。
(´・ω・`) 「……僕だ」
『おはようござます。 ショボーン警部』
(´・ω・`) 「生憎だけど、犯罪者に朝の挨拶はしないことにしてるんだ」
『犯罪者?』
亡霊がクスクス笑う。
機械を通したかのような声だ。
しかし今思えば、転落の兼ね合いで、声帯を潰した可能性もあるのか。
それとも、当人的には、亡霊たる演出に過ぎないのか。
『言ったでしょう?』
『亡霊は、罪を犯すことはできても、犯罪者にはなれません』
.
-
ゆっくり、廊下へと出る。
そのまま、ゆっくり、建物の、外へ。
(´・ω・`) 「違うね」
(´・ω・`) 「犯罪は、足がある人間にしかできないんだ」
(´・ω・`) 「足のない亡霊は、そもそも犯罪なんてしようがない」
『あら』
『かばってくださるのかしら』
(´・ω・`) 「まったくの逆さ」
(´・ω・`) 「きみは、しっかり足の生えた、生身の人間だッて言ってるんだ」
『足なんてとっくに燃やされたわ』
『墓場を漁ったら、もしかしたらその時の骨が残っているかもね』
まったくをもってくだらない。
荼毘に付されたなら、その電話はどう握っているのだ。
ほんとうに亡霊なら、テレパシーで予告してくるがいい。
.
-
(´・ω・`) 「もういいだろう」
(´・ω・`) 「くだらない雑談で貰う給料なんて、ないんだ」
周囲を見渡す。
人気は、ほとんどない。
初老の教授や、働き盛りのスーツ姿が見える。
亡霊はどこだ。
いま、僕を見張っているのか。
(´・ω・`) 「いま、兄者とデミタスは、安全な位置で保護している」
(´・ω・`) 「話がないなら、一生、逆恨みのチャンスはないぜ」
『逆恨みですって』
『この国では、逆恨みじゃなくて、復讐と言うのですよ』
(´・ω・`) 「復讐だと?」
(´・ω・`) 「復讐なら、とっくに済んでいるのだぞ?」
.
-
『と、言いますと』
そうか。
僕の推理が正しければ、
貞子は、十年前、兄者に殺されたつもりでいるのだ。
これは、いい武器だ。
うまく使えば、あわよくば事件を未然に防げるかもしれない。
十中八九叶わないと知っていても、
亡霊を揺さぶるにはこの上ない武器に違いない。
(´・ω・`) 「大袈裟な復讐劇、ごくろうさん」
(´・ω・`) 「きみの狙いは、流石兄者。
違うか?」
『も、ですね』
『盛岡デミタスも、狙いです』
(´・ω・`) 「と見せかけて、だ」
(´・ω・`) 「きみは、サークルのみんなを抹殺することで、」
(´・ω・`) 「創設者であり、中心人物であり、」
(´・ω・`) 「自分を殺した男を、劇的に殺害する」
(´・ω・`) 「違うか?」
.
-
『……』
亡霊が黙る。
そこまで調べているのか、という意味で、いいのか。
『半分、当たりです』
(´・ω・`) 「半分だけかい?」
『確かに、兄者を殺すのが、第一目標でした』
『ただ、やっぱり、サークルそのものを、ぶっ潰したかった』
『私がいた痕跡を、消したいのです』
(´・ω・`) 「痕跡なんて、残ってないぜ」
(´・ω・`) 「十年前の一件は、事故として、処理されていた」
(´・ω・`) 「それ以降、警察は誰も、貞子という亡霊を、疑ってこなかった」
『……』
『事故、ですか』
そうか。
事故として処理されていることすら、ふつうはわからないのか。
.
-
(´・ω・`) 「知らなかった、かな」
『……』
肝心なところで、沈黙が多い。
ここらは、兄者と似通っている。
やりづらい相手でこそあるが、こちらには、武器があるのだ。
(´・ω・`) 「ならもう一個、教えてやろう」
(´・ω・`) 「これはおそらく、きみも知らないことだ」
『なんでしょう』
こちらのペースに、持っていけている。
亡霊は、指示をそっちのけで、僕の話に集中しているのがわかる。
(´・ω・`) 「十年前にきみを殺したのは兄者」
(´・ω・`) 「……実は、昨日付で、その真実は更新された」
.
-
(´・ω・`) 「きみを殺したのは、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「既にきみが殺した、あの男だったんだ」
『!』
亡霊が、露骨に反応した。
息を詰まらせたかのような音だ。
さて、どう、出る。
もう 「復讐」 は済んでしまっていたのだぞ。
『………』
『なにを、根拠に』
(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
『それはあり得ない』
(´・ω・`) 「…!」
.
-
いま、僕は、かまをかけた。
兄者は、確かに自供はしたが、
始終、それも十年以上もの間、自分が犯人だと信じていた。
ロジックの積み重ねが、それを否定したのだ。
犯人はヒッキー小森だ、と示すことで。
『犯人は、兄者なのです』
(´・ω・`) 「疑いたい気持ちは、わかる」
(´・ω・`) 「だが、真実は、違った」
(´・ω・`) 「兄者は、きみを突き飛ばした」
(´・ω・`) 「その弾みで、きみも兄者も、気絶した」
(´・ω・`) 「そこに現れたのが、ヒッキーだ」
(´・ω・`) 「気絶したきみを、崖の向こうに………落としたんだ」
.
-
『違う』
『絶対にあり得ない』
(´・ω・`) 「どうして、そう言い切れる?」
『それは』
『…………』
亡霊が押し黙る。
亡霊本人にも、否定のしようがないのだ。
なぜなら、本人視点で言えば、兄者に突き飛ばされて、記憶を失ったのだから。
そこで転落したのか。
第三者が割って入ったのか。
亡霊には、証明のしようがない。
『……』
『なんでもいいです』
(´・ω・`) 「!」
.
-
『ここまできたら、後には引けません』
『では約束通り、兄者とデミタスを渡していただきます』
(´・ω・`) 「どうしてだ」
(´・ω・`) 「きみの目的は、復讐じゃなかったのか」
(´・ω・`) 「もう、復讐は、終わったんだぞ」
『理屈ではありません』
『後には引けないのです』
(´・ω・`) 「いいのか?」
(´・ω・`) 「今までは出し抜かれてきたが、」
(´・ω・`) 「逆に言えば、いまここで逃げれば、きみは僕に勝てるんだぞ」
亡霊は笑わなかった。
真犯人の件で、頭がいっぱいなのだろうか。
『なんですか、それ』
『まるで、今日、私が捕まるかのような』
.
-
(´・ω・`) 「捕まえてみせるさ」
(´・ω・`) 「亡霊を捕まえる………今日、この、僕が」
『ッ』
大見得でも、リップサービスでもない。
もっと言うと、もしここで手を引こうが、逃すつもりはない。
ただ、兄者とデミタスの安全が確定するなら、それに越した話はなかっただけだ。
『……笑わせないでください』
『何度も言ったでしょう?』
『私は、亡霊』
『どんな刑事でも、捕まえられない罪人』
(´・ω・`) 「……あと、数時間、すれば」
『なんでしょう』
.
-
(´・ω・`) 「きみの正体を、特定できる」
『!』
(´・ω・`) 「約束通り、僕は、今日、ひとりで来た」
(´・ω・`) 「だがね」
(´・ω・`) 「裏では、何百人もの人間が、きみの正体を特定しにかかっている」
(´・ω・`) 「ヴィップだけではない。
アルプス県警も動いている」
『なッ!!』
亡霊が今までの非にならない声をあげた。
それまでのか細い声が一転、太く、腹の黒さが窺える低い声だった。
『いますぐ、やめさせなさい』
『でなければ、』
(´・ω・`) 「ほんとうに、きみが亡霊なら、その必要もないだろう?」
『ッ!』
.
-
(´・ω・`) 「どんな刑事でも、捕まえられない罪人」
(´・ω・`) 「自分で言った言葉だぜ?」
『関係ありません』
(´・ω・`) 「あるんだ、これが」
『いますぐやめさせないと、一般人も、』
(´・ω・`) 「できるのか?」
『なに?』
(´・ω・`) 「兄者とデミタスを殺して、お縄に掛かるならわかる」
(´・ω・`) 「長年の恨みを晴らせたんだ、きみ的には上々だろう」
(´・ω・`) 「でもなァ」
(´・ω・`) 「残りふたりは殺せないわ、それで足がつくわッてなったら」
(´・ω・`) 「十年の歳月は、すべてパァ」
(´・ω・`) 「なんともみっともない復讐劇の幕引きなんだぜ」
.
-
『……ッ』
(´・ω・`) 「加え、僕は」
(´・ω・`) 「事件が終わった暁には、すべてのストーリーを公表するつもりだ」
『!』
(´・ω・`) 「どうして、きみが亡霊になったのか」
(´・ω・`) 「 ッてより、亡霊に、成り切っていたのか」
(´・ω・`) 「そんなとこから、ケツの、亡霊を逮捕するまで……すべて」
『なッ…』
(´・ω・`) 「見せしめさ」
(´・ω・`) 「最近、呪いとか祟りを持ち出して人を殺すバカが、多いんだ」
(´・ω・`) 「実際は、こうも情けないんだぜッていう前例に、するんだ」
(´・ω・`) 「きっと、悪徳商法なんかも、少しは減るだろうね」
.
-
電話越しに、亡霊の息遣いが荒くなってきているのが伝わる。
気づかなかったか。
きみは、自ら窮地に足を突っ込みつつあるのだぞ。
亡霊のくせにある足を、だ。
(´・ω・`) 「さて、それでもきみは、兄者とデミタスを殺すんだろう?」
(´・ω・`) 「僕が、責任をもって連れていこう」
(´・ω・`) 「なに、ふたりを殺して、僕に捕まる前に成仏すりゃあいいだけだ」
(´・ω・`) 「違うかい?」
とことん、亡霊を煽る。
おそらく頭の切れる女なのだろうが、
思っていた通り、プライドが高く、ペースを崩されることを嫌う人間だ。
無論。
兄者も、デミタスも、殺させるつもりはない。
.
-
『……まあ、いい』
『最初の指示です』
'_
(´・ω・`) 、
最初の、だと。
ふざけるな。
この上なく、嫌な予感がしやがる。
『流石兄者を、文学部学生課へ』
『盛岡デミタスを、法学部学生課へ』
『それぞれ、連れていくこと』
(´・ω・`) 「……なんだって?」
(´・ω・`) 「それでいいのか?」
学生課、というと、要は職員室だ。
かえって不利にならないのか。
.
-
『軽く見回ってみましたが』
『結構、職員は多くいらっしゃる』
『人が多いほうが殺しやすい。 当然の判断です』
『先に言っておきますが』
『これはあくまで、第一の指示です』
『第二の指示があるまで、職員にも、ふたりにも、迂闊な行動はさせないように』
『あなたもですよ、ショボーン警部』
(´・ω・`) 「………」
まず真っ先に考えたのは、
亡霊は当初、どうやってふたりを殺すつもりだったのか。
予告は確かに受けたし、大学もそれに合わせて動いたが、
僕が大学にどう指示を出すのか、それで大学がどう対応するのか。
予告を出した時点での亡霊には、読みづらいはずだ。
もし、僕ら以外が完全に無人だったら、どうだったか。
確実に殺す方法を考え、トリックを用意しておかなければ、逃げようがない。
どこで何が起ころうが、すべて亡霊の仕業になるのだから。
.
-
というより、本来ならば、まずそちらを考えるはずなのだ。
もし仮にある程度人がいたとして、したがって職員室を選ぶのは不自然だ。
亡霊は奇妙なことを言った。
第一の指示である、と。
職員室を選んで、そこからターゲット以外を無人にするのだろうか。
確かに、ふたりを分けるのは、理解ができる指示である。
ふたりを固めるよか、よっぽど殺しやすい。
そして、口走っていた、人が多いほうが殺しやすい。
これはどういうことだ。
地下鉄殺人よろしく、人混みに紛れて殺すつもりなのか。
職員室である必然性。
第二の指示の不透明感。
人が多いことの優位。
どう、捉えるべきか。
(´・ω・`) 「……わかった」
(´・ω・`) 「十分もあれば対応できる。
十分後に、もう一度電話をよこせ」
.
-
亡霊は言った。
『その時がくれば』
そして、電話は切れた。
不吉な予感こそ抱きつつも、ひとまず指示に従うしかない。
歩いて、ふたりを預けてあるキャリアセンターに向かう。
できれば何人か職員を同行させたいが、無駄なひんしゅくは買いたくない。
あくまで指示は、迂闊な行動はさせるな、だ。
(´・ω・`) 「……」
キャリアセンターには、学長をはじめ初老の男性が多く詰めていた。
兄者とデミタスは、無言のまま、椅子に座っていた。
(´・_ゝ・`) 「……どうでしたか」
(´・ω・`) 「奴からの指示だ」
(´・ω・`) 「あんたは、法学部。 兄者は、文学部」
(´・ω・`) 「それぞれの学生課に、ひとまず向かってもらう」
.
-
(´・_ゝ・`) 「学生課……?」
(´・ω・`) 「意図は、正直言ってわからん」
(´・ω・`) 「ただ、察するに、一旦ふたりを分けようとしてるんだ」
(´・_ゝ・`) 「………」
(´^_ゝ^`) 「いっぺんに殺せば楽なのにね、あの子も」
(´・ω・`) 「言ってる場合か」
デミタスなりのブラックジョークなのだろう。
小心者のデミタスが落ち着いているのが、不幸中の幸いだった。
いつ、自分が殺されるかわからない。
そんな状況下で笑えるのは、大した肝っ玉と言わざるを得ない。
先に、落ち着いているデミタスから連れていくことにした。
(´・ω・`) 「……」
( :::´_ゝ) 「……」
.
-
寝れなかったのだろうか。
トラウマに触れるだけでなく、偽ってきた過去を暴かれ、
挙句己の親友が真犯人だったこと、自分がハメられたこと、
その全てを知ってしまったがゆえに、兄者はやつれているようだった。
(´‐ω‐`)
(´・ω・`) 「これが終わったら、墓参りに行こう」
(´・ω・`) 「墓の前で、とことん怒鳴ってやれ」
( :::´_ゝ) 「……。」
( :::´_ゝ) 「………そうだな」
学長に目礼を交わしつつ、デミタスを連れてその場を後にした。
デミタスは、おじける様子を見せず、足取りも平常通りだった。
その後ろ姿を見て、複雑な気持ちになる。
昔も、自分はこの男の姿を間近で見た。
忘れるに忘れられない、密室鉄道。
この男と僕をつなぐ、一本の因縁の線路。
一歩間違えてしまえば、数分後には、もう二度と見れなくなるかもしれない姿。
是が非でも、亡霊を、捕まえなければならない。
.
-
┏━─
午前十時三九分 ヴィップ大学
─━┛
先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
油断などではない。
ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
(´・ω・`) 「…あ」
そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
.
-
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「……なんだなんだ」
見覚えのない電話番号から着信が鳴った。
思わず、どきりとした。
亡霊からの電話に備えて、ワンコール以内に出られるようにはしてあった。
亡霊でなくとも、ヴィップ県警やアルプス県警からの情報は、死活問題だ。
ただ、手に取った電話のディスプレイには、見慣れない番号が映っていた。
(´・ω・`) 「もしもし、ショボーンです」
電話を取って、息遣いというか、第一声を聞いて相手がわかった。
学長だ。
今朝、緊急事態に備えて、電話番号を教えておいたのだ。
兄者の具合が悪くなっただろうか。
程度の軽い気持ちでいたのが、仇になった。
.
-
『至急戻ってきてください!』
『流石さんの様子が、急におかしくなりました!』
(´・ω・`) 「なッ……」
具合どころではなかった。
様子がおかしくなっただと。
何があったんだ。
(´・ω・`) 「わかりました、すぐに向かいます」
(´・ω・`) 「とにかく、彼を落ち着かせてあげてください」
ひとりになった緊張感で、いよいよ自我が保てなくなったのだろうか。
兄者視点で言えば、亡霊の標的は、兄者自身だ。
そして兄者は、十年以上自分を守ってきた偽りを、失っている。
コートを翻して、駆け足で戻る。
敷地内に人影はほとんど見られない。
.
-
キャリアセンターは、中央棟の一階、建物内の中央ほどにある。
広々とした空間で、日頃は就職活動に勤しむ学生たちであふれていると聞く。
自動ドアを抜けた辺りで、もう一度電話が鳴った。
学長からだ。
電話に出るより、落ち合うほうが早い。
コールを切って、全速力でキャリアセンターにたどり着いた。
そこには、人だかりができていた。
あからさまに、空気がおかしい。
学長 「刑事さんッ!」
(´・ω・`) 「いったい、何が…ッ」
.
-
真っ先にしたのは、血の臭いだ。
( ::;゚_ゝ::)
(´・ω・`) 「 」
兄者が、腹から大量の血を流している。
学長は、先ほどまで着ていたジャケットを、兄者の腹部に押し当てていた。
そのジャケットも、真っ赤に染まっている。
(;´゚ω゚`) 「 なああああああああああああッ!!?」
学長 「まだ意識はありますッ!」
(;´・ω・`) 「病院だ!!」
(;´・ω・`) 「今すぐ病院を呼べ!!」
.
-
キャリアセンターは騒然としていた。
想像以上に早く、亡霊は動き出した。
第一の指示、ではなかったのか。
そもそも、その指示すらまだこなしていないのだぞ。
(;´・ω・`) 「何人かで、とにかく名前を呼び続けてください!」
(;´・ω・`) 「残りは、法学部棟、学生課に向かって!」
混乱する職員たちに、すぐさま指示を出す。
指示を出しながら、僕は署や交番に応援を要請した。
暇なやつ全員、ヴィップ大学に連れてこい、と。
( ::;゚_ゝ::)
学長 「流石さん!」
職員 「しっかりしろ! おい!」
(;´・ω・`)
.
-
亡霊はひとまず後、だ。
とにかく兄者の意識を長らえさせて、命を取り留めなければならない。
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
(;´・ω・`) 「学長、なにがあったんです!」
兄者を揺らしながら、隣のベスト姿の学長に聞く。
周囲の職員はパニック状態だったが、学長はまだ、冷静を保っていた。
学長 「急に、様子がおかしくなったんです!」
学長 「刑事さんが出て少ししたら、彼に電話がきて!」
(;´・ω・`) 「電話……?」
はッとして周囲を見渡す。
スマホの類は、ざっと見たところでは見当たらなかった。
.
-
(;´・ω・`) 「 それで!?」
学長 「顔を真っ青にして立ち上がるもんで、そのまま出ていこうとしたんです!」
(;´・ω・`) 「出て ッて、ここを?」
学長 「はい、電話に出ながら!」
それが、先ほど言っていた、様子の急変か。
亡霊から電話が来たというのか。
学長 「制止しようにも、一切聞く耳を持たなかったので、拘束しました!」
(;´・ω・`) 「拘束?」
学長 「私含む五人ほどで、とにかく彼を止めたのです!」
学長 「そうしたら、………ッ!!」
( ;´・ω・) 「!」
そこで、腹を刺したのだ。
どさくさに紛れて、刃物を握った、亡霊が。
.
-
(;´・ω・`) 「女性がいましたか!?」
学長 「いえ、いません!」
学長 「全員男ですッ!」
(;´゚ω゚`) 「 なッ なにィ!!?」
どういうことだ。
おかしいぞ。
たとえ人混みに紛れようと、この人数、この広さだ。
亡霊がひっそり現れようものなら、すぐさま見つかるはずだ。
( ::;゚_ゝ::)
( ::;゚_ゝ::) 「………………」
(;´・ω・`) 「!」
.
-
兄者の息遣いが変わった。
急に激しくなり、若干の喘ぎ声を伴っている。
(;´・ω・`) 「兄者!! 僕だ!!」
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
( ::;゚_ゝ::) 「 ………」
(;´・ω・`) 「おいッ! 兄者ッ!」
( ::;゚_ゝ::) 「 お ………。」
(;´・ω・`) 「? なんだ!?」
兄者は、意識を若干ではあるが取り戻した。
震える唇をゆっくり開閉して、なにかを言おうとしている。
( ::;゚_ゝ::) 「…… う ……」
(;´・ω・`) 「ゆっくりでいい! なんだ!?」
.
-
( ::;゚_ゝ::) 「 」
( ::;゚_ゝ::) 「 ………。」
( :::;::_ゝ) 「 」
(;´゚ω゚`) 「……ッ!!」
.
-
、 、
亡霊。
兄者は、そうちいさく言って、目を閉じた。
.
-
(;´・ω・`) 「彼の電話はッ」
学長 「ッ」
学長 「誰か、彼の電話を見てないか!」
大声で、残った全員に問う。
しかし、皆周囲を見渡すばかりであった。
(;´・ω・`) 「確かに、彼自身の電話だったんですね!?」
学長 「間違いない!」
(;´・ω・`) 「詳しく聞かせてください!」
学長 「ええ、」
学長 「申しました通り、彼は何者かから電話を受け、即座に、立ち上がりました」
呼吸を整えながら、学長が言葉を紡ぐ。
今は、学長の証言が、頼りだ。
.
-
学長 「露骨に顔を歪めて、真っ青に、しておりまして」
学長 「そのままゆっくり、電話に、出ました」
学長 「どこかに行こうとしたので、近くにいた者が制止を」
(;´・ω・`) 「しかし、止まらなかった」
学長 「無理やり走り出そうとしたので、無理やり止めました」
学長 「しかし暴れるので、私や近くの者たちで、こう……」
学長が、両手でぎゅうッと丸めるような仕草をした。
まずは止めて、落ち着かせてから話を聞こうと思ったのだろう。
学長 「それでも、彼は、ずっと暴れておりました」
学長 「……刑事さんが来るまで押さえていようと思うと」
学長 「急に、腿あたりが濡れたのを感じました」
.
-
といって、学長はスラックスを見せた。
赤黒く染まっている。
疑いようなく、兄者の血だろう。
(;´・ω・`) 「………」
学長 「騒ぎに乗じて、犯人が、腹を刺したのでしょう」
学長 「ぱッと振り返っても、犯人らしき人はいませんでした」
これも、亡霊の仕業、とでも言うのか。
(;´・ω・`) 「その時の、対応は」
学長 「まず真っ先に、ジャケットで、出来る限りの止血を」
といって、兄者の上にかぶせられているジャケットを見る。
ほぼ血の色で染まっている。
真っ先に止血が浮かぶあたり、冷静な人物であると言える。
学長 「私は、そのまま刑事さんに電話しました」
.
-
それが、先ほどの、二度目のコールだ。
学長は、兄者をずっと介抱していたと見ていい。
学長 「そこからですが、」
学長 「ひっそり抜け出した者がいるかは、はっきり言って、わかりません」
(;´・ω・`) 「……無理も、ありません」
(;´・ω・`) 「わかっている、範囲では?」
学長 「まず、一緒に彼を押さえていた一人が、行ってきます、と言って」
学長 「追いかけて、いったようです」
(;´・ω・`) 「追いかける………犯人を、ですね?」
学長 「犯人はおそらくですが、刃物を刺して、すぐさま逃げ出しました」
(;´・ω・`) 「その後ろ姿なんかは?」
学長 「見た方角が悪かったのか、隠れられたのか、遅かったのか……」
学長が、申し訳ありません、と何度も言う。
その瞬間に居合わせなかったため、
どれが正解なのかがわからないのが、歯痒かった。
.
-
(;´・ω・`) 「ただ、追いかけた人物がいた」
学長 「あれは……誰だった?」
職員 「斉藤さん……じゃない?」
職員 「僕は知らない、ですね。 先生なんじゃ?」
職員 「いや、斉藤さんは、いまもう一人のほうに行ってる」
(;´・ω・`) 「………」
もしかすると。
その人自身が、犯人なのか。
しかし、だとすると、内部に犯人がいたということか。
いや、はっきり言って、スーツ姿、ベスト姿なら、
身分は一時的にではあるが眩ませられる。
ただ、だったら学長に直接、行ってくるなんて言うだろうか。
考え出すと、きりがない。
そもそも、女性ではないのだろう。
どういうことだ。
.
-
(;´・ω・`) 「……その人が戻ってきたら、すぐさま私に連絡を」
学長 「お約束します」
(;´・ω・`) 「ここに、凶器の刃物や、彼の電話は……」
兄者は、年かさの増した男性が様子を見ている。
揺らしながら、声をかけてはいるが、反応がいっさいない。
事尽きたわけではないことを、祈るしかないのだ。
幸い、意識は、残っていた。
刺されたことによるショック死でないのは、確かなのだ。
それ以外の職員は、僕と学長が話している間、
周囲を見渡して、探してくれていた。
凶器に使われた、おそらくはかつてミセリが持っていた、包丁だ。
傷口の荒さや広さ、出血の度合いからして、
包丁を思い切り突き刺して、乱暴に抉って、すぐ抜いたのだろう。
電話は、その時に落としたと見られる。
近くに落ちてなければ、誰かが回収しているはずなのだが、
誰も声をあげないとすると、亡霊が持ち去ったと見るべきなのか。
.
-
学長 「……どちらも、ないようです」
学長 「ちゃんと、机の下の隙間も見たのか!?」
職員 「少なくとも、この近くには!」
騒ぎの弾みで、誰かが蹴飛ばしただけかもしれない。
包丁がないことによる不安はただひとつ、
亡霊が離さなかったということは、その包丁で最後に、デミタスを殺すつもりなのだ。
そうだ、デミタス。
(´・ω・`) 「誰か、至急法学部学生課に電話を!」
(´・ω・`) 「盛岡デミタスの安否を、至急確認してください!」
室内全域に通るような声で、言う。
近くに電話のあった職員が、すぐさま対応してくれた。
電話自体はワンコールでつながったようだ。
駆け寄って、受話器を借りる。
.
-
(´・ω・`) 「私です、警察のショボーンです」
(´・ω・`) 「いま、そちらに異変はありますかッ」
受話器が汗で濡れる。
いま、自分は焦っているのだ、と、その時にわかった。
『人が、いっぱい来たくらいで……』
(´・ω・`) 「人……」
僕が送った、キャリアセンターにいた人らだろう。
と言ったところで、脳に電流が走った。
(;´゚ω゚`) 「 ッ!!!」
(;´゚ω゚`) 「誰一人彼に近寄らせるなッ!!」
そう言って受話器を叩きつけ、駆け出した。
亡霊はこれが狙いだったのか!
.
-
転びそうになりながらも、次は法学部棟へと舞い戻った。
全速力で向かったが、息が急き切れることはなかった。
扉を蹴破ってなかに入ると、椅子に座るデミタスの周囲数メートルは空間があった。
離れた位置で、少なくない数の職員が、緊張した面持ちをしていた。
扉の大きな音と僕の姿に、皆一様に驚いていた。
(;´・_ゝ・`) 「………なッ……」
(´・ω・`) 「……だ、大丈夫だったか……」
(;´・ω・`) 「よかった……」
安否を確認できて、思わず前かがみになった。
忘れかけていた疲労が、どッと押し寄せてくる。
落ち着け、と自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返した。
見かねた一人の職員、おそらくは電話に対応した人だろう、その人がやってきた。
職員 「だ……大丈夫ですか?」
.
-
(´・ω・`) 「な…なんとか」
職員 「言われた通り、誰一人近づけてはいません」
(´・ω・`) 「ありがとう……ございます……」
電話が切れたと同時に、大声のひとつ発してくれたのだろう。
責任感の強そうな声だった。
(;´・_ゝ・`) 「なにが……あったんですか?」
(;´・_ゝ・`) 「…………まさか」
(´・ω・`) 「話は、あとだ」
なるべく隠しておきたかったが、
ここまで来てしまった以上、言うしかない。
(´・ω・`) 「いいか、あと少しで警察が押し寄せる」
(´・ω・`) 「それまで、誰一人、デミタスに近寄るな」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「ッ!!」
(;´・_ゝ・`) 「え、つまりッ!!」
ないとは思うが、拳銃を警戒して、一応デミタスの前に立つ。
デミタスに、壁を背負えるように移動してもらった。
職員たちが呆然としている隙に、電話を取り出す。
亡霊にかける。
(´・ω・`) 「僕だ、さっさと出やがれ」
『…』
亡霊は、黙っている。
(´・ω・`) 「……やりやがったな」
(´・ω・`) 「約束違反だ」
(´・ω・`) 「こっちも、百人以上の応援を呼んでいる」
(´・ω・`) 「職員たちにも、怪しい人物を見かけたら片っ端から捕まえろと言ってある」
.
-
第一の指示、という話も。
兄者を文学部学生課に移す話も。
すべてが、出し抜くための、騙り。
僕一人というハンデも、あくまで約束あってのものだ。
穏便に済むなら、それが何よりもベストだったが、
亡霊が手段を択ばないというのであれば、僕も手段を択ばない。
百人も、捕まえる指示もハッタリだ。
ただ、亡霊には、効いたようだった。
『………よろしいので?』
『ここまで来たからには、私も、後先考えずに動くだけですよ?』
(´・ω・`) 「いい加減、目を覚ませ」
(´・ω・`) 「あんたは、亡霊なんかじゃ、ない」
(´・ω・`) 「生身の人間が、警察の包囲網を抜けられると思うな」
『既に何度も私を逃しているくせに、何を言うかと思えば』
(´・ω・`) 「……まだ、気づかないのか?」
『なにを』
.
-
(´・ω・`) 「さっきの、一件で」
(´・ω・`) 「あんたは、致命的なミスを、いくつも犯してんだぜ」
『…』
『一応、聞きましょうか』
かかったな。
(´・ω・`) 「その必要はない」
(´・ω・`) 「警察が到着次第、そいつを調べ上げる」
(´・ω・`) 「もう、あんたに逃げ場は、ないのさ」
これも、ハッタリだ。
しかし、これが、よく効くのだ。
兄者を刺したのは、コンマ一秒が問われる、非常に猶予の短い犯行だった。
当然、犯人としても、入念に計画を練って、賢く立ち回れたものではない。
実際、ミスは、犯している。
やつは今、おそらくだが、兄者のスマホを持っているのだ。
.
-
(´・ω・`) 「ポイントは、包丁だ」
『ッ!』
真のポイントは、スマホにある。
しかし、あえて論点をずらす。
これもハッタリだ。
亡霊がまだこちらにいないことを察し、周囲の職員に目配せした。
誰も、デミタスに近づくな。
そんな、相互監視体制を、敷いた。
ゆっくり、表へと出る。
その間も、とにかく時間を稼ぎ、動揺を誘い、居場所を突き止める。
十分、五分と猶予があるか怪しい、最後の詰めだ。
(´・ω・`) 「第一の失態は、あんたは、兄者を殺せていない」
(´・ω・`) 「まだ、意識が、あった」
.
-
ハッタリをかますにも、コツがいる。
今回の場合、亡霊に、ナイフや凶器ではなく、包丁、と言い当てる点にある。
僕視点で言えば、ミセリが包丁を持ち出したことを知っていて、
更に亡霊がそれを持ち去った線が濃厚であることを知っている。
そこから考えれば、亡霊が、足の残らない凶器としてそいつを使うことも推測できる。
(´・ω・`) 「傷口をなるたけ開いて、出血死を狙ったんだろうがな」
(´・ω・`) 「すぐさま止血が施されて、意識を取り戻したよ」
『なッ!!』
亡霊視点で言えば、僕がどうして包丁を推理できているか、考えるのは難しいだろう。
そもそも、ミセリがどこからどうやって包丁を持ち出したのか、
判断に難しいはずなのだ。
(´・ω・`) 「次の失態」
(´・ω・`) 「あんたはうまいこと逃げたつもりだったろうがな、」
(´・ω・`) 「残念、追いかけられてんだぜ、更にな」
.
-
これも、ハッタリだ。
これは、例の犯人を追いかけた職員がどっちであろうと通用する言い方だ。
もし、例の職員が職員に扮した亡霊だった場合。
「うまく逃げた」 「更に追いかけられた」
の口ぶりがクリーンヒットする。
もし、例の職員に追いかけられた場合。
それにしたって 「うまく逃げた」 は矛盾せず、
「更に追いかけられた」 が、追跡した職員が複数人いたことを示す。
実際は一人しか追いかけていないのだから、亡霊視点で言えば、得体の知れない脅威となる。
『…ッ ……ッ!』
(´・ω・`) 「まだあるんだが……」
(´・ω・`) 「続きは、直接会って、」
(´・ω・`) 「するかッ!」
『!』
大きな声で言いきって、電話を切った。
最後の、ハッタリ。
こう言って電話を切れば、亡霊は、ふたつの誤解をする。
いま、自分の場所が、ばれている。
そして、すぐ近くに、僕がいる。
そんなふたつの、幻影。
.
-
(´・ω・`) 「……こっからが、勝負だ」
ハッタリが続くのは、せいぜい数分、長くて五分だ。
その間に、次の一手を、打たなければ。
ポイントはみっつ。
ひとつ、キャリアセンターから逃走している。
ふたつ、亡霊は血まみれの包丁を握っている。
みっつ、亡霊はいま、姿を隠している。
すべての条件を満たす場所を、当たるしかない。
しかし、どうやって。
当てずっぽうで総当たりしていると、先にハッタリの魔法が解けてしまうのに。
(´・ω・`) 「……亡霊を」
(´・ω・`) 「捕まえるしか、ないんだな」
どんな刑事でも、捕まえられない罪人。
もし、捕まえられた刑事が過去にひとりもいないというのなら。
僕が、その先駆者になればいいんだ。
僕なら、それができるはずだ。
亡霊なんて、所詮、偽り。
偽りの亡霊を捕まえる。
僕になら、それができるはずなんだ。
.
-
亡霊にはあえて言わなかった、本当の失態。
兄者のスマホを、持っているということ。
この僕を前に、亡霊はスマホを持ち去った、という謎を与えてしまったということ。
流れるように起こった一連の事件において、
一番大きな謎は、ずばり兄者のスマホにある。
学長の話では、こうだ。
兄者は何者かから電話を受けた。
その瞬間顔色を変えて、制止を振り切ろうとすらした。
いま、自分がどんな立場にいるかも考えず。
あるいは、それ以上に重要な相手からかかってきたのだ。
この状況下において。
自らの安否、また僕の指示や周囲の制止を投げ捨ててまで、
兄者を突き動かし得る電話の相手。
そこをまずは考える必要がある。
なぜなら、犯人はそれを利用して殺したのだから。
.
-
亡霊の 「第一の指示」 を受けた時、僕は亡霊の意図がわからなかった。
まずふたりを分けたいのはいいが、
多くの監視の目が光る学生課にどうして移すのか。
答えは、結果を見れば明らかだった。
とあるギミックを用いて、兄者を羽交い絞めする状況に持ち込む。
その騒ぎに乗じて、無理やり、包丁で出血死を狙う、といった具合だ。
羽交い絞め、という状況を狙ったのはしてやられたと思った。
確かに、さりげなく殺害するにおいて好都合だし、
包丁を刺すために、無理やり腕を押し付けても、羽交い絞めでカモフラージュできるのだから。
そうしてはじめて、ふたつのロジックが線になる。
亡霊は、兄者を羽交い絞めにさせるギミックを持っていた。
兄者は、羽交い絞めにされてでも優先すべき相手から電話を受けた。
つなげれば、こうだ。
亡霊のギミックと兄者の異変は共通している。
つまり、兄者は亡霊から電話を受けたことになる。
(´・ω・`) 「……?」
.
-
亡霊から?
そういえば、どうして、亡霊はギミックに用いたスマホを持ち出した?
状況を鑑みるに、指紋は必ず残ってしまう。
指紋というものは、すべてを完全に拭い去るのは非常に難しい。
また、持っているところを見られるだけで命運は尽き、
どこかで処分したとしても、それがまた足跡となる。
だからこそ、亡霊にとっての失態になりうるのだが、どこか、香ばしい。
そんなリスクなど、承知に違いない。
とすると、どうして亡霊はスマホを持ち出した。
動機は、十中八九、
兄者のスマホが亡霊にとって致命的な弱点だからだろう。
しかし、亡霊の050番号から電話をかけたとなれば、それはさしたる弱点にはならない。
どうやって兄者の電話番号を得たのか、という疑問こそ残るが、持ち出すほどではなかろう。
亡霊にとっての致命的な弱点。
持ち出した、というのが失態にはなりそうであるが、
それと兄者の異変が、リンクしない。
兄者は、亡霊以外の何者かから、電話を受けた。
それも、何事にも優先されるほどの、重要な相手から。
.
-
┏━─
午前十一時〇〇分 ヴィップ県警
捜査本部
─━┛
( ゚д゚) 「なにッ!?」
東風さんの怒号で捜査一課に緊張が走った。
ペニーから流される、擬古と貞子をつなぐ第三者の可能性。
人手を総動員させたなかでの作業に、進捗が見られた。
( ゚д゚) 「わかった!」
内線を、受話器を叩きつけて切った。
何事だ、と思った自分と鈴木は、手を止めて東風さんの後ろに集まった。
.
-
/ ゚、。 / 「どうしましたか!」
( ゚д゚) 「……やりやがった……」
東風さんが、拳を握りしめる。
しかし、それは怒りで震えていない。
噛みしめるように、手を、固く握っていた。
( ゚д゚) 「ビンゴだ、大当たりだ」
( ゚д゚) 「フッサール擬古が便宜を図った第三者を、特定した!」
( <●><●>) 「…!」
可能性の濃かった話とはいえ、
いざ本当にそれを聞くと、かえって疑いたくなった。
ほんとうに、そんなことがあり得たのか。
今までの捜査がことごとく空回りだったこともあり、言葉にできない達成感が込み上げてきた。
.
-
( ゚д゚) 「子に恵まれなかった老夫婦、名前は鷺宮」
( ゚д゚) 「七年前、擬古を仲介して貞子が引き取られている!」
鷺宮、老夫婦。
名前からして、裕福な家庭なのだろう。
( <●><●>) 「対応は」
( ゚д゚) 「いま下から引き継いだところだ」
息遣いが荒い。
警部とは対照的に、東風さんは喜びを一切隠そうとしない人なのだ。
捜査も佳境に入ったことを、改めて肌で感じた。
( ゚д゚) 「姪っ子さんが電話に対応していたらしい」
( ゚д゚) 「肝心の老夫婦は寝ているようでな、いま起こしてもらってるんだ」
/ ゚、。 / 「じゃあ……!」
( ゚д゚) 「はじめるぞ、亡霊の墓荒らし!」
.
-
┏━─
午前十一時〇八分 ヴィップ大学
─━┛
(´・ω・`) 「!」
電話がかかってきた。
間髪入れず手に取った。
(´・ω・`) 「…ッ」
どくん、と心臓が鳴った。
亡霊からだ。
(´・ω・`) 「今度はなんだ」
『第二の指示』
(´・ω・`) 「なに?」
.
-
この期に及んで、第二の指示だと。
逃げるつもりは、さらさらないというのか。
それとも、そう見せかけて、逃げるつもりなのか。
(´・ω・`) 「よく呑気なことを言ってられるな」
(´・ω・`) 「なんだ、逃亡用の車でも欲しいのか」
『盛岡デミタスを、経済学部学生課まで連れていきなさい』
『それも、なるべく多くの職員と一緒に』
(´・ω・`) 「……なんだと?」
法学部の次は経済学部か。
結構な距離がある、十分ほどかかるだろうか。
しかし、多くの職員と一緒に、とは。
『約束破り、だなんて言われたくないから、先に予告します』
『道中、隙あらばデミタスを、殺します』
『むろん、殺さない可能性もありますがね』
(´・ω・`) 「…? いったい…」
(´・ω・`) 「!」
.
-
そうか。
そういうことか。
亡霊は、逃げるつもりだ。
人が多いことの優位、それはわかった。
まわりにいる人間の全員が、容疑者に見えてしまうのだ。
亡霊は女だと思っている。
三十代で、痩身で、筋肉が衰えていそうな、女性。
しかし、そんな人間、未だに見つけられていない。
文字通り、亡霊のように姿をうまく消して立ち回られている。
僕としては、もうそんな虚像を頼りにはしていられなくなる。
男だろうが女だろうが、職員だろうが教授だろうが一般人だろうが、
あらゆる人物が亡霊に見えて仕方なくなっているのだ。
(´・ω・`) 「………そういうことか」
『お気づきいただけましたか』
『なら、わかるでしょう』
『時間的猶予は与えません』
『応援が到着するまでに、デミタスたちを連れていきなさい』
.
-
そうなってしまうと、僕は、デミタス含む大勢を連れていく過程で、
常に神経を研ぎ澄まさなければならなくなる。
むろん、この場に人手は僕一人しかいない。
一人で、大勢を相手に、隙を見せてはならなくなる。
それも、遠い距離を、だ。
亡霊が、そのなかに潜むなり、騒ぎを起こさせるなりで、殺してくるのか。
あるいは、時間がかかって僕の目から逃れられるのをいいことに、逃げるのか。
どちらも、十二分にあり得る。
そしてその場合、僕は、より最悪な事態を防ごうと動かなければならない。
亡霊を捕まえるよりも、デミタスを殺させないよう立ち回らざるを得なくなる。
亡霊は、逃げるつもりだ。
(´・ω・`) 「………」
『あなたは、優秀な刑事です』
『ただ……だからこそ、肝に銘じるべきなのです』
『亡霊は、どんな刑事でも、決して捕まえられない』
.
-
僕は怒りのあまり、無言で電話を切った。
こんなに怒りがこみ上がってくるのは、久しぶりだ。
電話を、握りしめて壊したくなるのを押さえて、ポケットに戻す。
_,
( ・ω・`) 「…!」
戻した、瞬間。
再びコール音が鳴った。
(´・ω・`) 「なんなんだッ!」
(´・ω・`) 「ちゃんと、指示には従う!」
(´・ω・`) 「てめえの時間稼ぎには、乗らん!」
『警部ッ!!』
(´・ω・`) 「!」
.
-
ワカッテマスの声が、どこかからした。
どこだ、と思ったが、いま握っている電話からだった。
(´・ω・`) 「ワカッテマスか!」
(´・ω・`) 「いま時間はない、手短に言え!」
どんな希少な情報だとしても、とにかく今は、時間がない。
走りながら、走って法学部のほうに戻りながら、声に集中する。
『亡霊の正体ですッ!』
(´・ω・`) 「なに?」
正体だと?
山村貞子の正体か?
『亡霊はッ!』
『山村貞子ではあり得ませんッ!』
→ttps://www.youtube.com/watch?v=cW0vEuaetjY
.
-
(´・ω・`) 「なッ……」
思わず、速度が落ちた。
(;´゚ω゚`) 「 どういうことだッ!!」
(;´゚ω゚`) 「貞子は、貞子が、亡霊じゃないのか!?」
『貞子を引き取った第三者を、特定しましたが……ッ』
『確認したところ、今もそこで、静かに眠っています!』
『亡霊は、山村貞子では、なかったんですッ!!』
『奴には完全なアリバイがあった!!』
.
-
(;´・ω・`) 「じゃあ、誰なんだ!!」
(;´・ω・`) 「いま、僕と話していた、亡霊は!!」
『目下再検討しております!』
『山村貞子以外に……亡霊になれた人物を!』
(;´・ω・`) 「いるかよ、そんな奴ッ!!」
(;´・ω・`) 「十年前の面々は全員死んで、残るは兄者と、デミタスッ!!」
(;´・ω・`) 「 貞子こそが、亡霊のはずなんだッ!!」
、 、 、 、 、 、 、、 、 、
『実は死んでいない人物がいた可能性ッ!』
.
-
(;´・ω・`) 「はァ!?」
(;´・ω・`) 「すべての事件を、警察が担当して、死亡を確認してンだ!!」
(;´・ω・`) 「あるワケねえだろ、そんな可能性が!!」
『もはやそれしかないんですよ!』
『本部でも至急ッ!』
『すべての事件の再検討にまいります!』
『以上です!』
『切りますよ!』
(;´・ω・`) 「………」
電話の切れる音がした。
(;´・ω・`) 「………」
(;´・ω・`) 「ど……どういうことだ……?」
.
-
ワカッテマスの焦燥。
これは、勘違いでも、ミスでもない。
ほんとうに、山村貞子の存在が、特定されたのだ。
いまも、まだ、眠っている。
完全なアリバイがあった。
(;´・ω・`) 「……クソッ!!」
再検討するには、時間が足りなさすぎる。
こうしている間も、亡霊は逃げ出そうとしている。
僕は、法学部棟、学生課の扉を再び蹴破った。
(´・_ゝ・`) 「…!」
(´・_ゝ・`) 「刑事さんッ!」
(;´・ω・`) 「話は後だッ!!」
(;´・ω・`) 「おい、ここにいる全員で、経済学部棟まで走れ!!」
周囲にいる職員全員に、大声でアナウンスした。
突然の指示に皆一様に動揺したが、
僕がデミタスの手を引っ張って走り出すと、皆、ついてきてくれた。
.
-
(;´・_ゝ・`) 「何があったんですか!」
(;´・ω・`) 「話はあと ……ッ」
いた。
いま、このタイミングで、唯一、亡霊の正体を暴き得る男が。
(´・ω・`) 「デミタスッ!」
(;´・_ゝ・`) 「なんですか!?」
(´・ω・`) 「あんたの力を貸してほしい!」
(´・ω・`) 「たった今、亡霊に関する新事実が入った!」
(;´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「亡霊は、山村貞子では、あり得ない!」
(´・ω・`) 「別の誰かが、貞子の名を騙り、亡霊になっているんだ!!」
.
-
(;´゚_ゝ゚`) 「 ンなァ!?」
(´・ω・`) 「貞子以外で、亡霊になれそうなやつを……教えてくれ!」
(´・ω・`) 「八人目のメンバーとかだ!」
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ、そんなの!」
(;´・_ゝ・`) 「マジな話だ! サークルは、マジで七人しかいなかった!」
ここまで来て八人目を隠す道理はない。
七人しか、いないんだ。
(;´・ω・`) 「だったら、その七人から、貞子を除いた六人ッ」
、 、 、 、、
、 、 、 、 、
(;´・ω・`) 「 亡霊になれるのは誰だ!?」
.
-
今までの事件すべてが、蘇ってくる。
フッサール擬古。
ヒッキー小森。
クックル三階堂。
芹澤ミセリ。
盛岡デミタス。
流石兄者。
全員の完全なアリバイは、警察が立証している。
しかし。
この六人のうち、誰か、ひとりだけ。
アリバイが成立していない人物が、いる。
多くは死亡が認められ、
兄者とデミタスは僕自身がアリバイを立証している。
つまり。
(;´・ω・`) 「擬古ッ! ヒッキーッ! クックルッ! ミセリッ!」
(;´・ω・`) 「誰かは、まだ生きてるんだ!!」
.
-
死んだはずなのに、なお生きている存在。
山村貞子は、偽りの亡霊だった。
殺された四人のなかに、真の亡霊が、隠れている。
亡霊とは、そういうことだったんだ。
(;´゚_ゝ゚`) 「はあ!?」
(;´・_ゝ・`) 「え、だって、え、みんな殺されたんでしょ!?」
(;´・ω・`) 「誰か一人だけは、事件を、偽ったんだ!!」
(;´・_ゝ・`) 「だいたい、僕、全然事件のこと知らないんだから!」
(;´・_ゝ・`) 「考えようがないッ!」
(;´・ω・`) 「くッ………!」
.
-
事件を徹底的に捜査した僕たち警察が、わからないんだ。
途中から事件に参加したデミタスに、わかりようは、ないのか。
(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
殺された連中の名前に、偽りはない。
フッサール擬古。
ヒッキー小森。
クックル三階堂。
芹澤ミセリ。
この四つの名前は、国にも認められている、ほんとうの名前だ。
.
-
(;´・_ゝ・`) 「死んでなかったわけでも、他人のふりをしたわけでもないんじゃあ」
(;´・_ゝ・`) 「わかるわけがない!」
思い出せ。
この、長かった、連続予告殺人事件。
地下鉄殺人事件。
ビジネスホテル殺人事件。
ライブ殺人事件。
ヴィップの滝公園殺人事件。
四つの事件のすべてに、謎が残っている。
そのうちどこかに、今回の事件の、すべてのトリックが隠されていたんだ。
そして思い出せ。
ミセリ、兄者、デミタスが話してくれた、サークルに関する情報をすべて。
サークル結成。
少しずつ集まるメンバー。
バカバカしくも憎めなかった活動内容。
すべての発端となった、十年前の紅葉狩り。
.
-
まずは事件だ。
事件のどこかに、偽りがあった。
亡霊は、貞子じゃなかった。
だからこの際、犯人像に関する謎は、すべて無視だ。
現場で、捜査本部で。
幾度となく、四つの事件の謎について、話されてきた。
.
-
地下鉄殺人。
殺されたのはフッサール擬古。
監視カメラや調書から亡霊が炙り出せなかったのは、もはや謎じゃない。
となると、他の謎には、なにがあったか。
ビジネスホテル殺人事件。
殺されたのはヒッキー小森。
亡霊がどうやって害者の常備薬に干渉したかは、もはや謎じゃない。
となると、他の謎には、なにがあったか。
.
-
ライブ殺人事件。
殺されたのはクックル三階堂。
どこでクックルと連絡を取ったかは、もはや謎じゃない。
となると、他の謎には、なにがあったか。
ヴィップの滝殺人事件。
殺されたのは芹澤ミセリ。
害者のなかで唯一僕が話をした相手だ。
まして事件そのものには謎という謎はなかった。
芹澤ミセリは、亡霊ではない。
.
-
(;´・ω・`) 「わかった、こうしよう!」
(;´・ω・`) 「ミセリは、亡霊じゃない!」
(;´・ω・`) 「ギコ、ヒッキー、クックル」
(;´・ω・`) 「真の亡霊は、この三人のうち、誰かだッ!」
(;´・_ゝ・`) 「で、でも、だからといって……」
(;´・ω・`) 「クソッ!!」
一瞬で時間が経っているのだろう、
遠いと思われていた経済学部棟は、すぐ目の前まできていた。
後ろも、職員たちがついてきてくれている。
亡霊の第二の指示は間もなく完遂だ。
いまが、反撃の時だ。
.
-
(;´・ω・`) 「!」
そもそも。
どうして、殺された人物が、亡霊になれるんだ。
何度も、何度も言ってきた。
死んだ人間に、犯行はできない。
つまり、生きている。
残された三人のうち、誰かは、生きている。
しかし、死んでいる。
重体、重傷、そんな曖昧な結果は出ていない。
全員、国が認めた、死亡しているんだ。
矛盾している。
あり得ないんだ。
でも、どこかに偽りが、潜んでいる。
.
-
(´・ω・`) 「 ッ 」
ばちばちッと。
脳を、皮膚を、骨を、全身を。
凄まじい電流が走る。
.
-
>
>(´・ω・`) 「亡霊は、山村貞子では、あり得ない!」
>
>(´・ω・`) 「別の誰かが、貞子の名を騙り、亡霊になっているんだ!!」
>
誰かが山村貞子の名を騙っている。
手口から、語り口から、部外者の線は完全にない。
亡霊は、名を騙っていた。 、 、
、 、 、 、 、 、、
奴が騙ったのは、ほんとうに、山村貞子の名前だけだったのか?
.
-
>
>(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
>
>(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
>
>(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
>
名前をごまかしていた可能性。
殺された人物の名は、すべて、偽りようのない、真実。
しかし。
、 、 、 、、 、 、 、 、 、
我々が知っている名前は、ほんとうに偽りようのない、真実だったのか?
.
-
亡霊は、たった今、何かを偽っているわけではない。
十年前から、亡霊は、サークル内で、何かを偽ってきた。
十年前から、常人では考えもつかない方法で、
亡霊は、それを、偽ってきた。
だったら、十年前と、たった今。
そのふたつの視点を持つことで浮かび上がる、矛盾。
それも。
現状、デミタスにしか見抜くことができない、偽り。
(;´・ω・`) 「 デミタスッ!!」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「!」
(;´・ω・`) 「一度あんたは、捜査本部に来たよな?」
、 、 、 、 、 、 、
、 、 、 、 、 、、 、 、、 、 、
(;´・ω・`) 「その時、害者一覧の顔写真は、貼ってあったか?」
>
>(´・ω・`) 「となると、だ」
>
> びっしり書き込まれたホワイトボードを、目で辿る。 、
、、 、 、、
> 貼ってあった写真の類は、スペースを広げるためにひっぺがした。
> そんななか、一番情報が少ないのは、右端、流石兄者の項目。
>
>(´・ω・`) 「流石兄者、サークル部長」
>
>(´・ω・`) 「奴こそが、事件の鍵となる」
>
>( <●><●>) 「そして、現状容疑者筆頭、と」
>
>(;´・_ゝ・`) 「…」
>
(;´・_ゝ・`) 「?」
(;´・_ゝ・`) 「写真なんてあったら、見てるけど……」
.
-
(;´゚ω゚`) 「………ッ!!!」
見つけた。
デミタスという銃口を向けるべき場所が。
(´・ω・`) 「だったら、見せてやる!」
僕の携帯電話を、デミタスに押し付けた。
有無山を登っている時に、ワカッテマスが送ってくれた、資料だ。
そこには、各事件の被害者の情報や、
プロフィール、顔写真が、参考資料として添付されている。
.
-
(;´・_ゝ・`) 「……?」
(;´・_ゝ・`) 「いったい、何を見れば……」
(´・_ゝ・`) 「え?」
(;´・ω・`) 「ッ!!」
.
-
(;´・_ゝ・`) 「けッ ……刑事さん!!」
→BGMここまで
、、 、 、、 、 、
(;´・_ゝ・`) 「こいつ誰ですか!?」
(;´゚ω゚`) 「!!!」
起こり得て、しまうのか。
そんな、人間として、常人として、考えられない、
大胆で、規格外な、事件の根底の根底に眠る、トリックが。
「人物」 にまつわる謎をすべて線でつなげば、浮かび上がってくる虚像。
その輪郭に実体を与える、デミタスの、急所を貫く一撃。
.
-
>
>( <●><●>) 「じゃあ、小森の」
>
>( <●><●>) 「ギター趣味というのも、そこから?」
>
>ミセ*゚-゚)リ 「ギター?」
>
>( <●><●>) 「どうやらギター趣味があったようですが
> 、
、、、 、、 、
>ミセ*゚-゚)リ 「ふうん……そうだったんだ」
>
.
-
>
、 、、 、、 、
>(´・ω・`) 「あんたらは、ヒッキーのアレルギーについては知らなかった、と」
>
>( ´_ゝ`) 「ピーナッツ……ピーナッツ、か……」
>
>( ´_ゝ`) 「食ってた、と言われたらそんな気もするし……」
>
.
-
>
>( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
>
>( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
>
>(´・ω・`) 「ん?」
>
> ちょっと引っかかるな。
>
>(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
>
、 、、
>(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
>
.
-
>
、、 、
>( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
>
>(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
>
>( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
>
>(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
>
.
-
>
>( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
>
>( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
>
、 、
>(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
>
.
-
「 ( ゚"_ゞ゚) 」
「ヒッキー小森 (34)」
デミタスは、そこを指さして、叫んだ。
(;´・_ゝ・`) 「こいつ、誰なんだよ!!」
(;´・_ゝ・`) 「こいつはヒッキーじゃないッ!!」
→ttps://www.youtube.com/watch?v=Rr9AVYDEeMQ
.
-
(;´゚ω゚`)
、 、、
ヒッキー小森だけが、ヴィップ大学ではない理由。
、 、、
ヒッキー小森だけが、完全たる名指しで殺害予告された理由。
(;´・ω・`)
、 、、 、 、、
誰も、ヒッキーのアレルギーは知らなかった。
、 、、 、 、、
誰も、ヒッキーの音楽趣味は知らなかった。
(;´‐ω‐`)
、 、
ヒッキーのアレルギーを知り得たのは、家族くらいなものだった。
、 、
ヒッキーの通話履歴に残っていたのは、九割の職場と、一割の家族だった。
.
-
(´・ω・`) 「捕まえたぞ!!!」
すぐさま電話を取り返す。
発信する先は、履歴の一番上にあった、ワカッテマスだ。
(´・ω・`) 「僕だ!」
(´・ω・`) 「いますぐ、事件にかかわる全員にまわせッ!」
(´・ω・`) 「連続予告殺人ッ!!」
(´・ω・`) 「その真の犯人は、ヒッキー小森!!」
(´・ω・`) 「もっと言うと……」
> 、
>/ ゚、。 / 「ヒッキー小森は、両親と弟の四人家族」
>
>/ ゚、。 / 「住まいは当時も今もアルプス」
>
.
-
、、 、 、 、 、 、 、
(´・ω・`) 「ヒッキー小森の弟ッ!!」
『!!』
、
、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「奴は十年以上前から、兄の名を騙って生きてきたんだ!」
(´・ω・`) 「至急、正体を特定してこっちにまわせ!!」
ワカッテマスが、即座に応答した。
電話が切れる直前に、大声を出すのが聞き取れた。
十年以上前から、ずっと隠されてきた、偽り。
もう、すべて、ひっぺがしてやった。
残るは、偽りの亡霊を、捕まえるだけだ。
.
-
(;´・_ゝ・`) 「弟ォ!?」
(;´・_ゝ・`) 「そんな話、聞いたことないぞ!」
(´・ω・`) 「そりゃあそうだ!」
(´・ω・`) 「奴は、十年前、」
(´・ω・`) 「何も事件すらなかった頃から、あんたらを、」
(´・ω・`) 「友だちを、自分すらをも、偽ってきたんだ!」
(´・ω・`) 「ッ!」
すぐに電話が震えた。
鈴木ダイオード。
壁から、添付ファイル付きのメールが送られてきた。
.
-
「 (-_-) 」
「 小森マサオ (32) 」
顔写真と名前しか載っていない。
そいつをすぐに、デミタスに見せた。
(´・ω・`) 「こいつに、見覚えは!」
(´・_ゝ・`) 「ッ!!」
(´・_ゝ・`) 「間違いない!」
(´・ω・`) 「!」
(;´・_ゝ・`) 「こいつです!」
(;´・_ゝ・`) 「十年前……僕らと一緒にいた……」
(;´・_ゝ・`) 「ずっと……一緒に遊んできた……ヒッキー小森は!」
.
-
デミタスの背中を、ばんばんと叩いた。
よくやった。
亡霊の正体を、ついに、暴いた。
(´・ω・`) 「あんたも一緒に探せ!!」
(´・ω・`) 「見つけたら、大声で叫べ!」
(´・ω・`) 「殺されそうになったら、全力で、ぶん殴れ!」
(;´・_ゝ・`) 「もちろんッ!」
(´・ω・`) 「相手は、あんたがよく知る男だ、できるだろ!」
(;´・_ゝ・`) 「当たり前だッ!!」
'_
(´・ω・`) 、
タイムリミット。
要請しておいた、所轄署や交番の警官たちが、サイレンを鳴らして集まってきた。
本来なら、すべての、終わり。
しかし、亡霊を暴いた今となっては、すべての、はじまりだ。
.
-
刑事 「イツワリさん!」
(´・ω・`) 「話は後だ!」
所轄署の刑事が、パトカーから降りて、走ってきた。
添付された顔写真を見せる。
(´・ω・`) 「この男を見つけ次第、全力で捕まえろ!!」
刑事 「わかりました!」
刑事は、携帯電話に表示された画像の、写真を撮った。
到着した全員に、まわしてくれるだろう。
警察のネットワークを、舐めるな。
警察の組織力を、舐めるな。
今まで、何度も、その網をくぐり抜けてきた?
どんな刑事でも、亡霊は捕まえられない?
.
-
相手を間違えたな。
この僕に勝てると思うな。
相手は、この、ショボーンだ。
(´・ω・`) 「もしもしッ!」
まわりは固めた。
もう、逃げられる心配もない。
今日逃げられたとしても、全国に指名手配として流す。
追い打ちだ。
デミタスが一の矢、応援が二の矢なら、トドメの三の矢だ。
『え、あ、はい! トソンです!』
(´・ω・`) 「今から犯人の顔写真を送る!」
(´・ω・`) 「その男について、」
『いま経済学部棟ですよね!?』
『二階にいるんでそっち行きます!』
(´・ω・`) 「ッ!」
.
-
トソンちゃんは、まだ帰ってなかったのか。
というよりも。 、 、 、 、 、
そうか、僕は、経済学部棟に彼女を残してきたのか。
(゚、゚;トソン 「警部ッ!」
(´・ω・`) 「ッ! どうして!」
(゚、゚;トソン 「お説教はあとでいいですよ!」
(゚、゚;トソン 「犯人の、顔が、わかったんですよね!?」
(´・ω・`) 「あとで覚えてろ……いや、いい!」
(´・ω・`) 「こいつだ!」
ヒッキー小森、ではない。
ただしくは、亡霊。
小森マサオの、顔写真を見せた。
.
-
(゚、゚トソン 「……」
(゚、゚;トソン 「あっ!」
(´・ω・`) 「見たか!?」
言うと、トソンちゃんは僕の手を引っ張った。
全力で、走り出している。
、 、 、
(゚、゚;トソン 「駐車場ですッ!」
(゚、゚;トソン 「学部棟の裏の駐車場を、ついさっき、走ってッてました!」
(´・ω・`) 「ッ!」
>
>(゚、゚;トソン 「あっ!」
>
>(´・ω・`) 「えっ」
>
> 急になんだ。
> 思わずトソンちゃんの視線の先を追ってしまった。
> 誰か、それこそ亡霊が後ろにでもいたんじゃないか、みたいな。
>
、 、 、
> そこには、人も車も少ない、駐車場しか広がっていなかった。
> 経済学部棟の裏には、駐車場があるようだ。
>
.
-
(゚、゚トソン 「間違いないです!」
(゚、゚トソン 「変な人だなッて思って、凝視しましたもん!」
(´・ω・`) 「上出来ッ!」
すぐさま情報をまわす。
亡霊は、成仏を嫌い、駐車場方面から逃げ出した。
(´・ω・`) 「犯人は経済学部棟裏手の駐車場より逃亡ッ!」
(´・ω・`) 「全員をそっちにまわせ! 検問も怠るな!」
.
-
そのままデミタスにも電話する。
(´・ω・`) 「デミタス、駐車場に行け!」
『!』
(´・ω・`) 「ずっと会いたかった、亡霊が……」
(´・ω・`) 「あんたらの友だちだった!」
、、 、 、、 、
(´・ω・`) 「ヒッキー小森が!!」
(´・ω・`) 「いるはずだッ!!」
駐車場に出て、周囲を見やりながら、奥へ、奥へと走る。
車も人も少ない。
この開けた場所に、ぞくぞくと、警官が集まってきた。
近くにいたのだろう、デミタスも、駆け寄ってきた。
.
-
さあ、どうする、亡霊。
お望みの盛岡デミタスも、丸腰だぞ。
お望みの警官も、刑事も、僕も、集まっているぞ。
サークルを抹殺するとか言ったな。
亡霊は捕まらないとか言ったな。
(ill゚_゚) 「ッ!!!」
すべて、お望み通り。
願いを、叶えてやったぞ。
さあ、どうする、亡霊。
(´・ω・`) 「………捕まえたぜ。」
.
-
(ill゚_゚) 「あああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
(´・ω・`) 「ッ!!」
即座に拳銃を抜き出した。
職員に扮したそいつの、腰から下、太ももの辺りを狙う。
(ill゚_゚) 「!!!」
(´・ω・`) 「あるじゃねえかよ!!」
駆け出そうとした亡霊は、
足から血を流して、大袈裟に倒れ込んだ。
、
(´・ω・`) 「あんたにも、立派な足がなァ!!」
(ill゚_゚) 「 ァァァああああああああああああああああ!!!!」
.
-
(´・ω・`) 「取り押さえろッ!!」
一人、二人、三人。
また一人、二人、三人。
次々と、獲物に食らいつくピラニアのように、警官が飛びかかる。
先ほど兄者がされたように、亡霊が、羽交い絞めにされていく。
(ill-_-) 「離せッ!!」
(ill-_-) 「全員ぶっ殺すぞ!!」
(ill゚_゚) 「 聞いてんのか!? おい!! おいッ!!!」
.
-
十一時二一分。
容疑者、確保。
羽交い絞めの中心から、場を貫く大声が放たれた。
続けて確保、確保、と、野郎どもが叫ぶ。
(ill゚_゚) 「俺は無実だ!!」
(ill゚_゚) 「確保!? なんの話だ!!」
(´・ω・`) 「どけッ!」
警官を数人押しやり、後ろ手錠のかかった亡霊と対面する。
それでもなお、暴れている。
(ill゚_゚) 「ッ!」
服を漁る。
今更ロジックを展開させるつもりはない。
この事件で、はじめて。
犯人を特定する物的証拠を、突き付けてやるのだ。
.
-
(´・ω・`) 「……持ってるねえ」
(´・ω・`) 「持ってるじゃねえか、亡霊。」
(ill゚_゚) 「違うッ!! これは ッ!!」
血を吸ったハンカチで覆われた、包丁。
スマートフォンが、三台。
ボイスチェンジャーと呼ばれる、声を機械的に変える装置。
まだ出てくるぞ。
財布のなかには、ご丁寧に身分を証明する普通免許。
そして、こいつもあった。
(´・ω・`) 「持っててくれたんだねェ!」
(´・ω・`) 「僕の名刺を、後生大事になあ!!」
.
-
包丁を隣の警官に押し付け、僕はスマホを開く。
ひとつは、亡霊自身のスマホと思しきものだ。
続けて、格安スマホ。
型番などわからないが、通話アプリがトップ画面にあった。
そして。
通話履歴が表示されたままの、スマホ。
持ち去られた、兄者のスマホだ。
通話履歴には、ヒッキー、の文字があった。
(´・ω・`) 「………そうか」
(´・ω・`) 「兄者は、これを見て……」
ヒッキーからの、着信。
当時の兄者視点で言えば、
他の何者を差し置いてでも優先すべき、電話の相手だ。
十年以上前からの、兄者の、親友。
にして、自分を貶めた、十年前の事件の、真犯人。
なにより、死んだ男からの、文字通り亡霊からの、着信。
.
-
(ill゚_゚) 「違うんだ!!」
(ill゚_゚) 「これには深いワケがある!!」
(ill゚_゚) 「第一……ヒッキー小森は殺されたんだろ!?」
(ill゚_゚) 「俺は犯人じゃない!」
(ill゚_゚) 「犯人じゃない!」
(´・ω・`) 「ああ、犯人じゃないさ」
(ill゚_゚) 「ッ!」
(´・ω・`) 「あんたは、犯人なんてもんじゃない」
.
-
(´・ω・`) 「友だちから呼ばれる名前も」
(´・ω・`) 「十年前の真実も」
(´・ω・`) 「山村貞子の名前も」
(´‐ω‐`) 「その全てを偽ってきた……亡霊。」
(´・ω・`) 「偽りの、亡霊だッ!!」
(´・ω・`) 「話はすべて、署でッ!!」
(´・ω・`) 「この僕が、じきじきにすべて、聞いてやる!!」
.
-
(´・ω・`) 「亡霊ッ!!」
(´・ω・`) 「成仏の時間だッ!!」
(ill゚_゚) 「!」
(ill゚_゚)
(ill-_-)
( -_-)
(;゚'_゚)
.
-
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
亡霊は、力尽きるその時まで、ずっと、叫び続けた。
力尽きたその時に、口をパクパクさせたかと思うと、
そのまま白目を剥いて、抵抗していた力と一緒に、
魂が抜け落ちたように、倒れこんだ。
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