- 775 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 20:55:04
ID:LZDxDK9MO
-
−18−
伝・ー・)「どういうことなんだぜ?」
水須木がすかさず聞いた。
(´・ω・`)「旅館は各個室にトイレがあるし、館内にたばこの自販機などは置いてないだろうし……。
. 自室を出ることは、すなわち外出する、に等しいんだよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「それはそうだがよ、ショボ」
(´・ω・`)「ん?」
嫌煙家の阿部が、擬古が愛煙家なのを思い出して苦笑いしていた。
顔を戻し、阿部はショボーンの推理にけちのひとつでも付けようとした。
N| "゚'` {"゚`lリ「いつフサが外出するかなんて、わかるわけないだろ?
こいつが電話で呼び出した訳でもないし、不確定要素が強すぎやしないか?」
(´・ω・`)「逆に考えるんだ。その疑問と小森さんの目撃の矛盾が、彼の次なる行動を導き出すんだよ」
小森は、自室に引きこもっており、玄関口まで出向いたようには見られない。
一方で、十八時二〇分に外出したという擬古の動向を目撃している。
この二点から、ショボーンは「小森は旅館からではなく自室から出ていく擬古をみた」と推理した。
だが、阿部の言うとおりだ。
出ていくタイミングがわからないのに、それを見計らって
どこかに潜んでおく、というのはなかなか考えにくかった。
.
- 776 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 20:56:56
ID:LZDxDK9MO
-
それを阿部が言うと、ショボーンは
けろっとした顔で更なる推理を展開していった。
(´・ω・`)「出ていくタイミングなんて、見計らう必要はない。常に見張っておけばいいんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「なんのためだ?
そんなことしたら、不審にみられるもとだぞ」
(´・ω・`)「小森さんは、害者を追いかけなかった。
. じゃあ、見張っていた理由は?」
ここで少し、阿部は考える様子をみせた。
彼はあまり推理は得意としてないのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「フサ本人に用がなかったなら――」
(メ._,)「――用があったのは……この部屋……か」
(;-_-)「!」
考えられるひとつの可能性を、先に思いついた三月が後ろから言った。
続けて阿部が「そうだな」と、意見をあわせた。
そして、小森がまたもオーバーに驚きを見せた。
それを見て、ショボーンは推理に確信を持ったようだった。
.
- 777 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 20:58:25
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「ああ。小森さんは、この部屋に侵入する機会を窺っていたに違いない」
ショボーンは、そんな推理を自然としていた。
侵入するだけなら、扉と面した廊下からでなく、中庭からでもできる。
ここが縦に連なるホテルではなく、横に平らに広がる旅館だからこそできる荒技だった。
(;-_-)「ち、ちが……」
N| "゚'` {"゚`lリ「しかし、侵入するったって、理由が――」
と言いかけたのを、阿部ははっとしてとめた。
言っている途中で、侵入しようとしていた理由に心当たりができたのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「小森さんよ、確かおまえ……フサに借金してたな?」
(;-_-)「ッ!」
(´・ω・`)「検事である擬古フッサールは、きっと借用証をつくったに違いない。そして額が額だ」
(´・ω・`)「小森さんは無職。……とても返せそうにないですね」
(;-_-)「あ、最近借金を返すアテができて……」
小森は遁辞を弄しようとした。
それは、図星だからだろうか。
かなり焦りをみせ、とにかくショボーンの推理による追跡を拒もう、という思いで必死にみえた。
だが、ショボーンも阿部もそれを許さない。
.
- 778 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:02:19
ID:LZDxDK9MO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「フサは穏和だが、検事としての腕は俺が保証する。
借金を踏み倒したりなんかしたら、有罪にされちまうぜ」
(´・ω・`)「それを恐れたあなたは、借用証の奪還を企んだ」
(;-_-)「ぐ……っ」
小森は言い逃れしないようになっていた。
彼が静かになったところで、三月が追い討ちを仕掛けた。
胸倉を掴みあげようという訳ではない。
あくまで言葉による追い討ち、だ。
(メ._,)「それがばれて毒をのませた……というわけか」
(;-_-)「ち、違う! まだばれてないぞ!」
(メ._,)「!」
N| "゚'` {"゚`lリ「おっ……」
(;-_-)「……?」
言うと、阿部と三月が反応を示した。
何だと思い二人を見やると、ショボーンは
(´・ω・`)「ほー。じゃあ、借用証を奪ったのは認めるわけだ」
( -_-)「?」
( -_-)
(;゚_゚)「……あ……ああああああああああッ!」
(´・ω・`)「ばっかじゃねーの」
(´;ω;`)「……ぶひゃ、ぶひゃひゃひゃ!」
そこで、小森は地にゆっくり膝をつけた。
自らの身の潔白、アリバイを訴えたつもりが、気がつけば自分の別の罪を認めていたのだ。
それを理解し、小森は目の前が真っ暗になった。
見事に、ショボーンの作戦にひっかかった訳だ。
知らぬ間に焦燥が強まっていき、つい口を滑らせてしまった、と。
.
- 779 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:04:58
ID:LZDxDK9MO
-
−19−
伝・ー・)「あとで署にきてもらうぜ」
( -_-)「………」
(´・ω・`)「……すっかり寡黙になったな」
( -_-)「………」
見事に見破られた小森は、すっかり口を閉ざし、自分の殻に籠もってしまった。
やれやれと思ったショボーンは、視線を小森から葉桜に向けた。
小森とは違い、目をあわせただけでも緊張の色を見せない。
それどころか、営業スマイルと思わせる柔和な笑みを見せてきた。
さすがは旅館の女将だ、と思った。
閑話休題、と言わんばかりに、ショボーンは訊いた。
(´・ω・`)「このお料理ですが、害者が帰ってくる頃には既にできてたんですよね?」
ノパ听)「ええ」
(´・ω・`)「厳密に言うと、できあがったのはいつ頃でしょうか」
すると彼女は笑みをやめて、渋い顔で考え始めた。
料理を運んだ細かな時間など、覚えている方が珍しいだろう。
あまりはっきりとはせず、申し訳なさそうな顔をして言った。
ノパ听)「あの人のお帰りのほんの少し前だったから……十八時の五十分頃だったかと思います」
(´・ω・`)「じゃあ、小森さんが毒を仕掛ける余地はあった訳だ」
( -_-)「………」
( -_-)「……もうなにもしゃべらないぞ」
.
- 780 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:06:44
ID:LZDxDK9MO
-
小森に、当時の事について話させるのは難しそうだった。
また同様に話す事によって、余計な事を言ってしまうのを恐れているようだった。
しかし、それは言い換えると、まだ他に後ろ暗い話があるという事になる。
それを聞き出せるのが一番なのだが、ショボーンは聞き出そうとしなかった。
仮に小森が毒を盛った犯人だとして、証拠はないからだ。
窃盗の罪で逮捕はできても、毒殺事件の犯人としては逮捕は、現段階では不可能だ。
それをショボーンは理解していた。
しかし、ショボーンの刑事としての勘をもってすると、小森は犯人なのか。
当然候補の一人ではあり、行動や動機が非常に怪しく感じられる。
ショボーンも、小森が犯人と考えてみて推理を広げていった。
だが、どこか釈然としなかった。
殺人動機が借金ならば、借用証を奪う必要はないのだ。
借り主を殺めれば、借金など在って無い物となる。
しかし、小森は借用証を奪った。
そして、それを隠そうとしていた。
小森が擬古を殺そうとしていたのであれば、
侵入などと怪しまれるような行為はとらないし、
旅館内という自分に疑いがかかる事が必至である場所を犯行現場にとらない。
それらの事が、どうも小森は犯人でない、と思わせるに至ったのだ。
(´・ω・`)「(まだ捜査しきれてないから、なんとも言えないがな)」
と結論づけて、ショボーンは推理を止めた。
小森が犯人でないと決めるには早すぎるのだ。
.
- 781 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:08:37
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「三月殿、捜査のほうはどうなのですかな?」
(メ._,)「……鑑識」
(`・д・)ゞ「はッ! この部屋の指紋は既に採り終えました!」
(メ._,)「……報告しろ」
(`・д・)ゞ「はッ!」
元気のいい鑑識は、敬礼を解いてなにも見ずに報告をはじめた。
記録した書類等を見る事はなく、すらすらと言っていった。
(`・д・)ゞ「テーブルからは被害者と阿部氏の指紋が。
一方、食器や箸からは被害者の指紋のみが発見されました!」
(´・ω・`)「なんだって?」
(`・д・)ゞ「はい?」
(´・ω・`)「阿部さんの指紋は?」
報告の後半で阿部の名がなかったので、ショボーンは不思議に思った。
その点を聞くと、鑑識は表情を崩さずに続けた。
(`・д・)ゞ「食器からは一切検出されませんでした。
食事を採らなかったのですかね」
.
- 782 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:11:57
ID:LZDxDK9MO
-
−20−
N| "゚'` {"゚`lリ「そうか、無かったか」
(メ._,)「……どういう事か……聞かせてもらおうか……」
報告を受けてもけろっとしている阿部に、三月が説明を促した。
通常、食事を採っていたならば箸や食器に指紋が着く筈である。
それがないというのは不自然だ。
N| "゚'` {"゚`lリ「そりゃあそうさ。俺は食欲がなかったからなァ」
(´・ω・`)「でも湯呑みにお茶が入ってるぞ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「フサが注いでくれたんだ。飲まなかったがな」
(メ._,)「毒を盛ったから……自分が毒を喰らわぬよう……敢えて食わなかった事も考えられる……」
N| "゚'` {"゚`lリ「箸には毒物反応が検出されなかったのは、三月さんとこのデータだ。
俺が毒を盛ったとは言えないはずだぜ」
(メ._,)「……ふん。ただの……推理だ……」
三月はそっぽを向いた。
それほど阿部に固執している訳ではなさそうだ。
実際に、毒物反応の検査はアルプス県警が担当している。
それを疑う必要性はまるでなかった。
.
- 783 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:14:13
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「毒物の混入経路は、おそらくこの料理からか、もしくは散歩中だ」
伝・ー・)「散歩はどこまで行く、とか言ってたか?」
葉桜に水須木がそう訊いた。
葉桜は「知りませんが」と答えたあとに、こう続けた。
ノパ听)「ただ……」
伝・ー・)「ただ?」
ノパ听)「彼……よく当旅館を利用してくれるのですが、
そのたびに近くのカルピス海を眺めに行くんですよね」
伝・ー・)「カルピス海と言えば、『白潮』とも呼ばれるあそこだっけ」
ノパ听)「はい。カルピス海へ直通している遊歩道もありますし、
たぶん、そこまで行ったのかなあ、と……」
(メ._,)「何人か……その遊歩道の捜査に向かわせろ」
伝・ー・)「がってん!」
.
- 784 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:16:20
ID:LZDxDK9MO
-
指示されて、水須木は電話を取り出し部屋の隅に向かった。
部下か同僚がでたのだろうか、元気のいい声で檄を飛ばしている。
そんな水須木をみて、三月が水須木に聞こえないようにつぶやいた。
(メ._,)「あいつは……うちじゃあアルプスのハンナバルと呼ばれてな……」
(´・ω・`)「アルプスのハンナバル?」
(メ._,)「いまはまだ若いが……根気……行動力……そういったものはずば抜けているのでな……」
(メ._,)「そのメンタルの強さが……古代ヴィップの名将ハンナバルになぞられ……肖った異名だそうだ……」
(´・ω・`)「だから『アルプスのハンナバル』ですか」
ショボーンは笑った。
何百年も、何千年も昔の我が国では、戦が絶えなかった。
ショボーンの属するVIPは、元はヴィップとカタカナ表記で、当時から栄えるひとつの国だった。
語り継がれている当時の名将の伝説と水須木とが、重なって見えるらしい。
.
- 785 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:18:29
ID:LZDxDK9MO
-
そしてショボーンは、三月のその話し様が可笑しく思えた。
表向きには表さないが、胸中では三月は彼に期待を寄せているように窺えたのだ。
今日の彼に対する扱いも、言わば愛情の裏返しなのだろう、と思えた。
伝・ー・)「手回し、済みました!」
(メ._,)「さあ……無駄話はここまでだ。
ショボ……カルピス海近辺を調べたところで……
なにか出ると思っているのか……?」
水須木が戻ってきた事により、三月も話を止めた。
話を聞かれたくなかったのか、自分が部下を褒める姿を恥じらったか、それは考えなかった。
聞かれた通り、ショボーンは自分の考えを述べた。
(´・ω・`)「それは、これから検討してみるつもりです」
(メ._,)「検討……か」
(´・ω・`)「とりあえずは、事件以前の害者の行動を洗うのが先決でしょう」
(メ._,)「……そうだな」
.
- 786 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:19:18
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「……葉桜さん?」
ノパ听)「 はい?」
ショボーンが葉桜をみると、彼女は視線が泳いでいた。
そのため呼びかけてみると、少し、葉桜が言葉に詰まったように見えた。
気のせいだろうと思い、ショボーンは話をうかがった。
(´・ω・`)「十五時頃に訪れた擬古さんですが、
. 知っている範囲で彼の行動をお教え願えますか」
ノパ听)「え…ええ」
少し、葉桜の動きが堅いように見えた。
.
- 787 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:21:34
ID:LZDxDK9MO
-
−21−
ノパ听)「十五時頃にあの人をこの部屋に案内しましたね。
旧友というのもあって他愛もない話は交わしましたが、
重要そうな事は話そうとしていませんでした」
(´・ω・`)「今までにも宿泊経験があるとの事ですが、
. 今までと違っていた点とかは?」
ノパ听)「特に」
(´・ω・`)「そうですか。続きを」
ノパ听)「えっと…。十五時二〇分頃に散歩に出かけなさいましたね」
(´・ω・`)「散歩?」
ショボーンはすかさず詳細を促した。
擬古は、十八時二〇分にも散歩に繰り出しているのだ。
ちょうど三時間前に散歩と聞いて、なにか関係があると思えたのだ。
.
- 788 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:23:16
ID:LZDxDK9MO
-
ノパ听)「森の遊歩道を散策する、だとか」
(´・ω・`)「カルピス海の方へ?」
カルピス海とは、アルプスの東端の窪みに位置する海を指す。
水須木が先に言ったように、白潮とも呼ばれる事で有名だ。
珊瑚の死骸が多く浮かんでいて、海の表面が乳白色に見える事からその名がついたとされる。
アルプスの海の幸は、ほぼこのカルピス海があってこその賜物と言われている。
栄養価の高い魚が、更に肥える事で脂ののった馳走となるそうだ。
ノパ听)「いえ、ここから西にある小さな森です。藤がきれいなんですよ」
(´・ω・`)「藤はちょうど季節ですからな。擬古さんはそれを観光に?」
ノパ听)「あの人は花とか、自然が好きですから」
(´・ω・`)「ほう。で、戻ってきたのは――」
ノパ听)「十六時少し前かと」
(´・ω・`)「……!」
.
- 789 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:24:17
ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,)「二度目の散歩と……時間がまったく一緒……か」
(´・ω・`)「どういう事だ……」
葉桜の証言では、擬古は十五時二〇分から十六時まで、散歩に出かけていたと言う。
ショボーンや三月が妙に思ったのは、更に三時間後の
十八時二〇分から十九時まで、散歩にでていたという事だ。
単なる偶然かもしれないが、脳の片隅に置いておく必要はあるな、と思っていた。
渋い顔をするショボーンをみて不安になった葉桜は、「時間はうろ覚えなのですが」と、後から補足していた。
ショボーンは顔を戻し「そうですか」と言ってから、その十六時以降の擬古の行動を聞いた。
.
- 790 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:25:53
ID:LZDxDK9MO
-
ノパ听)「十六時すぎに、当旅館の名物でもある大浴場に向かいましたね」
(´・ω・`)「大浴場?」
ノパ听)「源泉かけ流しの天然温泉です。
ずいぶんと広くて、肩こりが解れたりと効能も充実していますの」
(´・ω・`)「ずいぶんと人気がありそうですな」
すると、葉桜は苦い顔をした。
まずい事を聞いたかなと思っていると、葉桜は「実は……」と言った。
ノパ听)「せっかくだから、と私も当時の大浴場の様子を窺ったのですが、ほかに誰もいなくて……。
人気が無いのかな、と不安に」
どうやら、葉桜は旅館の誇りにしている大浴場が
不人気ではないのか、と心配している様子だった。
だが、いつの時代でも温泉とは人の心を癒すもので、
おそらくそれは葉桜の考えすぎだろう、と結論づけた。
まして、十六時だとまだ日も暮れてない。
入ろうと思う人が少なくてもおかしくないのだ。
.
- 791 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:26:59
ID:LZDxDK9MO
-
葉桜がしゅんとしたのを慰めようとすると、部屋の隅にいた都村が声をかけてきた。
どうやら今のショボーンと葉桜の話を聞いていたようで、それに言及する内容だった。
(゚、゚トソン「大浴場は私もいきましたが、すっごく気持ちよかったですよ」
ノハ;゚听)「! そ、そう?」
(゚、゚*トソン「葉桜がとてもきれいでした」
都村は大浴場に入ったようで、とても満足していた。
急に話しかけられたからか、葉桜は動揺した。
そんな事には気にせず、都村は笑顔で感想を述べていった。
湯加減だの、景色だの、温泉の香りだの、と。
.
- 792 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:28:00
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「混浴か」
(゚、゚;トソン「私以外は誰もいなくって、ちょっと不安でしたが……」
都村は絶賛していたが、その時も人がいなかったとすると、
もしかすると葉桜の憂慮のとおり、人気はないのかもしれない。
ショボーンは少し気の毒に思ったため、話を逸らそうとした。
(´・ω・`)「事件が終わったら僕も浸かりたいな」
ノハ;゚听)「………」
(;´・ω・`)「あ、だめでした?」
ノハ;゚听)「…………」
(´・ω・`)「……葉桜さん?」
ノハ;゚听)
ノパ听)「あ、なんでしょう」
(´・ω・`)「どうしました?」
ノパ听)「いえ……人気、ないのかなって」
(´・ω・`)「そんな事ないですよ」
しかし、励ましたところで葉桜の顔色は優れなかった。
.
- 793 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:29:16
ID:LZDxDK9MO
-
−22−
(´・ω・`)「擬古さんが大浴場をでた時刻はご存じですか?」
ノパ听)「そこまでは……」
(´・ω・`)「そう、ですか……」
肩を竦めたものの、さほどショボーンはショックを受けてなかった。
葉桜も女将である以上、仕事が大量にあるはずだ。
擬古が大浴場を出る時間帯まで、把握できている訳がないだろう。
すると、阿部が「おい、ショボ」と呼びかけた。
N| "゚'` {"゚`lリ「そこのお嬢ちゃんが大浴場に入った頃にはフサはいなかったんだ。
そっちの線から割り出した方がいいだろうよ」
(´・ω・`)「そうだな。トソンちゃん、いいかい?」
(゚、゚;トソン「え……えっとですね」
急に問われ、都村は動揺した。
風呂に入る時間など、いちいち確認する人のほうが少ないだろう。
まして、都村は見て呉れとは裏腹に割と大ざっぱな性格を持っているのだ。
.
- 794 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:31:08
ID:LZDxDK9MO
-
(゚、゚トソン「十七時くらいに入ったかなーって……」
(´・ω・`)「じゃあ、擬古さんは十六時すぎから
. 十七時までの間に入浴していた事になるな」
(゚、゚;トソン「あ、自信はないですよ!
もしかしたらもっと遅かったかも――」
(´・ω・`)「わかった、わかったから」
(゚、゚トソン「むぅ……」
偽証を疑われたくない都村は、必死に説得を試みた。
煩わしく感じられたショボーンは、慌てる彼女を制止した。
記憶があやふやなど、仕方のない事なのだ。
たとえ本当は十七時半の間違いだったとしても、ショボーンは都村を叱らないだろう。
証言とは、得てしてそんなものなのだ。
.
- 795 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:32:29
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「十七時に出て、十八時二〇分には外出、か」
(メ._,)「だいぶ……動きがわかってきたな……」
(´・ω・`)「犯人が毒を仕掛ける時間は、たっぷりあった訳ですね」
(メ._,)「まあ……未だに毒物反応は挙がってない訳だが……」
(´・ω・`)「それが不審に思うところなのですよ」
ショボーンは口を尖らせた。
気持ちは、三月も一緒だった。
本来なら、毒物はすぐに検出される筈なのだ。
それが検出されない以上は、通常の方法で毒が盛られなかったという事につながる。
その方法が、ショボーンにも三月にも見当すらつかなかった。
.
- 796 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:33:49
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「まとめると、十五時に擬古が葉桜館に到着。二〇分から十六時まで散歩。
. 帰還後、十七時までの間入浴、十八時二〇分から十九時まで散歩。
. 阿部さんと合流し、食事をとる。一〇分に倒れる――と」
(メ._,)「毒の出所にもよるが……確実なのは阿部との食事時だ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「証拠はないぜ?」
(メ._,)「わかっている……」
三月は、徐々に焦慮に駆られるようになってきた。
それはオーラだけで察する事ができる。
三月の苛立ちをぶつけられぬようにと、捜査員は動きをより機敏にしはじめた。
だが、報告は挙がらない。
その事が、ショボーンにある可能性を提示させていた。
.
- 797 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:35:00
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「(毒は、この部屋で盛られた訳じゃないのか?)」
阿部は、実は本当に擬古と食事を採っただけなのかもしれない。
もし毒殺していたなら、その毒物を入れていた容器は、
阿部が持っているか部屋のどこかに隠された事になる。
むろん持ち物の検査はなされるが、容器を隠し持っていると
その時に確実に見つかってしまい、言い逃れはできなくなる。
阿部が犯人だとすると、果たしてそのようなリスクの高い行動にでるだろうか。
ショボーンがまずひっかかったのは、その点なのだ。
阿部は、内面は沈着で頭の回転が速い男だ。
もし毒殺するならば、真っ先に自分が疑われるような方法をとる筈がないのだ。
.
- 798 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:36:18
ID:LZDxDK9MO
-
しかし、阿部がショボーンをこの場に呼んだ。
そのことが、ひっかかっていた二つ目の点だ。
ショボーンが阿部をよく知るように、阿部もショボーンをよく知っている。
「ショボーンは『自分が真っ先に疑われるような方法はとらないだろう』
という推理を展開させるだろう」という事くらい、阿部にも推理ができるのだ。
それを見越して、敢えて阿部は自分に疑いがかかるように殺したのだろうか。
考え始めると、きりがなくなった。
人を信じる事は簡単で、単純だ。
が、人を疑う事は千差万別に広がる世界なのだ。
果たして、長年ともに捜査していた阿部を信じるべきか疑うべきか。
ショボーンは、それを悩んでいた。
捜査に私情を挟むのがよくないとは知っているが、
どうしても私情が浮き彫りになっていた。
.
- 799 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:38:01
ID:LZDxDK9MO
-
−23−
(メ._,)「じゃあ……擬古デレ……話を聞かせていただこう……」
三月は、次の標的をデレに定めた。
デレは、夫の擬古フッサールの様態を案じ、飛んできたとの事だ。
おそらく、刑事が自宅に向かった矢先でデレと遭遇、
擬古の件を告げると――というところだろう。
しかし、もう顔に悲しみはなかった。
ようやく、現状に慣れたようだった。
ζ(゚ー゚*ζ「話って、私なにも知らないのですが……」
(メ._,)「……」
笑顔で、なにも知らないと言い切った。
それが虚偽なのか真実なのかを見極めるのが
三月の仕事でもあるのだが、三月は黙った。
最初は何だと思ったが、三月が腕を組んだまま
ショボーンに目配せしたのをみて、ショボーンは察した。
一歩前に出て、デレの顔を見つめる。
デレはそれだけで萎縮した。
初対面の時から、どうも苦手意識が拭えないな、とデレは思っていた。
.
- 800 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:39:36
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「デレさん、ちょっと」
ζ(゚ー゚;ζ「なんでしょう」
(´・ω・`)「その巻き髪ですが――毎日、セットなさるのは大変でしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ「へ?」
デレは、自分と擬古の事について探りを入れられるのかと思っていた。
なのに、ショボーンの口から放たれた言葉は、意外なものだった。
虚を衝かれたようで、ぽかんと口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「え、ええ……」
(´・ω・`)「家に帰ったあとも、髪はそのままで?」
ζ(゚ー゚*ζ「いや……邪魔なのですぐ解きます」
(´・ω・`)「わかりますよ。僕の妻も、帰宅後はすぐに化粧を落としていましたからね。
. 家のなかでまで化粧っ面だと、息が苦しくなるんでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ「まあ。でも、最近いい化粧落としが販売されて、重宝してますけどね」
.
- 801 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:41:01
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「いやあ、便利ですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「……それで?」
デレは、呆気にとられた。
なにを言い出すかと思えば、現場の空気にそぐわない話ばかりをしている
当然、無策で世間話をする筈などなかろう。
デレもそれはさすがに理解できるため、なんのために
ショボーンがこの話をしているのかがわからなかったのだ。
するとショボーンは世間話も程々に、目を細め口角を吊り上げた。
(´・ω・`)「今のでわかった」
ζ(゚ー゚;ζ「はい?」
(´・ω・`)「あなた、今ここに来る前にも一度、葉桜館に来てましたね?」
ζ(゚ー゚*ζ
.
- 802 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:42:14
ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,;)「な……なんだと!?」
N| "゚'` {"゚`lリ「ほう……」
デレは、夫の訃報を聞きつけ、こうして現場の葉桜館まで駆けつけた。
だが、数時間前にも一度、擬古が生きているうちにデレは
ここまでやってきた、とショボーンは言ったのだ。
さすがの三月も、腕組みが崩れてしまうほど驚いた。
ショボーンの推理には突飛なものが多いのだが、
この度の推理は飛躍しているどころではないからだ。
なにを根拠にそんなことを言うのか。
また、どうしてそうだとわかったのか。
いろいろと、ショボーンに聞きたい事があった。
だが、それよりも前に、デレが口を切った。
ζ(゚ー゚*ζ「なにを証拠に?」
(´・ω・`)「そのセットされた巻き髪と化粧がキーポイントだ。
. あなた、家に帰るたびにセットを解くと言いましたね?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
.
- 803 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:43:43
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「ふつう、夫の訃報を聞いて、いちいち化粧をし直す妻はいません。
. なのに、ここを訪れた時のあなたはばっちり化粧なされていた」
ζ(゚ー゚*ζ「お買い物に行ってましたの」
(´・ω・`)「買い物にいくのに、そんなスーツを?」
ζ(゚−゚*ζ
デレは、薄い桃色のスーツを着こなしている。
ただの買い物なら、化粧や髪のセットは考えられるとして、
服装に関してで言えば、デレはあまりにも不自然だ。
言ってから、デレは僅かに顔をゆがめた。
それを見て、ショボーンは確信した。
(´・ω・`)「また、あなたはあくまで夫の様態を案じてここにきた、そうですよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「妻として、当然です」
(´・ω・`)「妻ならば、搬送された病院に向かうのが当然でしょう?」
ζ(゚、゚;ζ「!」
ここにきて、デレはあからさまに態度が豹変(かわ)った。
その様子は、傍らから見ている阿部にも三月にも伝わった。
.
- 804 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:45:55
ID:LZDxDK9MO
-
−24−
(メ._,)「確かにそうだ……」
(メ._,)「うちの警部補が……参考人相手であれ報告をし損ねることなど……あり得ない」
(メ._,)「なぜ……病院ではなく……現場であるこちらにやってきた?」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
ショボーンが常に不審に思っていた事、
それはずばりデレが現場に来てしまった事そのものだ。
夫を案じる妻が、どうして病院に、夫のもとに向かわなかったのか、不思議で仕方がなかった。
そして、セットされた髪と化粧、着こなされた桃色のスーツの問題点がある。
本来、訃報を受けてそのようなよそ行きの恰好に着替え、化粧をするとは考えにくい。
まして、家ではすぐに化粧を落とすような主婦が、
そこいらに出かけるのにスーツを着用するとは思えない。
墓参りの帰りに買い物に出向き、帰宅直後に訃報を受ける。
などして言い逃れはできそうだが、そこに先程の
ショボーンの指摘――病院ではなく現場にきたのは
なぜか――が加われば、別のある可能性が浮かぶのだ。
.
- 805 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:47:26
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「生前の擬古さんに毒を与え、帰宅。
. 訃報を聞きつけ、あくまで悲劇の未亡人を演じる」
(´・ω・`)「だが、その計画の途中で自分の足跡を残してしまった事に気づき、
. 隠滅を図るため病院ではなく現場に――と」
(´・ω・`)「そんなストーリーができあがるのですよ」
;`・ー・)「な、なるほどー! 辻褄があうな!」
驚き言葉を失っていた水須木だが、ショボーンの推理を
聞いてから考えてみると、そのどれもが合理的に感じられた。
感嘆の声をあげ、思わず敬語を使うのも忘れてしまうほどのようだ。
だが、水須木の性格をもってしてもすぐに逮捕に動かなかったのには理由があった。
あくまでそれは推理。
確実性のある話ではなく、証拠はなにひとつない空論だからだ。
.
- 806 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:48:14
ID:LZDxDK9MO
-
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(´・ω・`)「むろん、あなたが犯人だと言うわけではありませんが――」
(´・ω・`)「デレさん、あなた、一度ここに擬古さんに会いにきたのでしょ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……会って…ない…」
力なく、言った。
今にも泣き出しそうな声で、簡単に拉げそうな顔で。
.
- 807 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:49:27
ID:LZDxDK9MO
-
伝・ー・)「鑑識! デレさんの指紋は検出されてねーのか!?」
デレの否定を聞き、すぐさま水須木が鑑識に問うた。
室内や廊下を忙しなく動き回るうちの一人が、かぶりを振った。
やはり、室内からは阿部と葉桜、そして擬古の指紋しか検出されていないようだ。
いや、まずデレの指紋が検出されていれば、
水須木が聞くずっと前に報告されている筈である。
聞くまでもない報告を聞いて、水須木が苦い顔をした。
伝・ー・)「これじゃあ証明できねーぞ!」
(´・ω・`)「慌てるな。……そろそろだ」
伝・ー・)「そろそろ?」
(メ._,)「……ん?」
.
- 808 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:51:02
ID:LZDxDK9MO
-
ショボーンが「そろそろだ」と言った次の瞬間、
三月の持つ携帯電話がけたたましい着信音を響かせた。
出てみると、どうやらカルピス海への遊歩道を
調べていた刑事からの報告のようだった。
どこか落ち着きがなかったので、三月が
平静を取り戻せと注意するが、聞かなかった。
しかし、その理由も直後にわかった。
『茂みの奥に、真新しいランチボックスが発見されました!』
(メ._,)「…! それは……ほんとうか?」
『いまそちらに向かってます! おそらく、捨てられてまだ新しいです』
(メ._,)「どうして……そう言える?」
『中におにぎりとか惣菜が入ってたら、そりゃあそうでしょう』
(メ._,)「……わかった。こっちに来ることに集中しろ……」
と言って、三月は電話を切った。
無駄に話して到着を遅らせるより、まずこちらに来てもらう方が得策だった。
向こうも了解したようだ。
電話を仕舞ったあとにふとデレを見ると、顔が真っ青だった。
.
- 809 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:52:29
ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,)「さあて……指紋と毒物の検出の準備でもしておこうか……」
伝・ー・)「おい、そこのお前! 検出の準備だ!」
(`・д・)ゞ「はっ!」
ζ( ー ;ζ「………」
(´・ω・`)「(弁当、か……)」
ショボーンは腕を組み、俯き気味の姿勢で思考を練ってみた。
なにかが引っかかる気がしたのだ。
.
- 810 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:54:37
ID:LZDxDK9MO
-
−25−
ξ・д・)「ミズ、持ってきたぞ!」
伝・ー・)「きたか!?」
なにやら騒がしいなと思うと、凛々しい眉の刑事が駆けつけていた。
手には、ピクニックなんかに用いられそうな竹製のランチボックスが提げられていた。
言われずとも、それが例の遊歩道の茂みの奥に
捨てられていたというランチボックスだろう、と誰もが認識できた。
水須木が駆け寄ると、鑑識も群がってきた。
ランチボックスのなかは散乱しており、おにぎりも形を崩していた。
箱の四面の壁に惣菜が飛び散っている事から、この刑事が
粗末に扱ったか、捨てられる際に散らばった事が考えられる。
前者だと、三月の怒りの片鱗に触れる事になる。
(メ._,)「ずいぶんと……散らかっているな……」
ξ・д・)「見つけたときも横倒しでした。おそらく、持ち主が投げ捨てたのでしょう」
(´・ω・`)「茂みの奥だっけ?」
ξ・д・)「え? あ…はい」
.
- 811 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:55:42
ID:LZDxDK9MO
-
雨の関係から、それが今日捨てられた、というのはわかっている。
問題は、どうしてそのような位置に、しかも中身があるまま捨てられていたのか、だ。
これには、ショボーンもすぐに答えを導き出せなかった。
が、わかった事もあった。
デレの態度がかなり豹変っているのだ。
(´・ω・`)「(もしや……)」
ζ(゚ー゚;ζ
(´・ω・`)「(あれに毒がはいっていた、というわけじゃないだろうな……)」
ショボーンは、ランチボックスに毒が盛られているのではないか、と憂慮していた。
憂慮する理由は至極単純だ。
自分の推理とまったく異なったものだからだ。
.
- 812 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:57:16
ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,)「……どうだ?」
(`・д・)ゞ「反応、ないですねー。あとおにぎり調べるだけなんですが」
(メ._,)「急げ……」
(`・д・)ゞ「はーい」
三月も、珍しく平静を失っていた。
彼は、このランチボックスの中身のどれかに毒がみつかるのではないか、と考えているのだ。
一方で、付着しているであろう指紋の持ち主にも心当たりがあった。
それは、誰かに言うまでもなかった。
(メ._,)「(……年貢の納め時だ……デレさんよ……)」
(´・ω・`)「………」
徐々に騒がしくなってきた。
指紋を検出している鑑識が、機械にかけて照合を
試みる一方で、毒物反応をみている鑑識は首を傾げる。
三月は不敵な笑みを浮かべ、水須木は今し方やってきた刑事と情報交換をしている。
.
- 813 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:00:00
ID:LZDxDK9MO
-
擬古のとった一連の行動、葉桜の目撃証言、小森の借用証の奪還計画、
阿部との食事の流れ、そしてデレが擬古と会ったのではないかという可能性。
話を聞いた刑事は、「みんながみんな怪しいな」と言っていた。
伝・ー・)「俺の刑事のカンって奴で言えば――」
ξ・д・)「お前の勘に頼るなら鉛筆でも転がすわ」
;`・ー・)「なッ!」
(メ._,)「……騒がしい」
ξ;・д・)「は、はい!」
;`・ー・)「すまねえです!」
アルプスの刑事三人がそわそわしていると、指紋の照合を終えた鑑識が報告にやってきた。
期待に胸を膨らませた若い二人、目を細めた三月は、報告を聞いて思わず笑みがこぼれた。
(`・д・)ゞ「こちらのランチボックスより、被害者擬古氏の
. 指紋と、その嫁のデレ氏の指紋が検出されました!」
(メ._,)「!」
伝・ー・)「お!」
(´・ω・`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ
思わず水須木はちいさく吠えた。
一方の三月は「やはり」と呟いている。
.
- 814 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:01:32
ID:LZDxDK9MO
-
だが、デレとショボーンは別段アクションを見せなかった。
それに気づかなかった三月は、デレに詰め寄った。
(メ._,)「この指紋……説明をしてもらおうか……」
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「……朝、仕事で出かける夫に手渡ししましたの」
一瞬口ごもってから、デレは答えた。
その一瞬の間が怪しく感じられた水須木はすかさず
伝・ー・)「見え透いた嘘は吐くもんじゃねーぞー?」
ζ(゚ー゚*ζ「なら、私がこれを持ってアルプスまで来た、と?」
伝・ー・)「そりゃあ――」
ζ(゚ー゚*ζ「刑事さんが、証拠もないのにそのような事を?」
;`・ー・)「……!」
水須木は、デレから感じられた強い拒絶のオーラに屈しそうになった。
なぜか、疑惑の眼で見られている筈のデレが、かなり強気になっているのだ。
水須木は、思わず身をひいてしまった。
(´・ω・`)「確かに……妙だな」
ζ(゚ー゚;ζ「……?」
.
- 815 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:03:23
ID:LZDxDK9MO
-
−26−
伝・ー・)「みょー?」
(´・ω・`)「葉桜さん、当旅館に飲食物の持ち込みは?」
ショボーンの質問を聞いて、デレがぎょっとした。
葉桜は意図がわからず首を傾げるも、答えた。
ノパ听)「まず、持ち込み自体ないものですから。当旅館は三食ついてきますし」
(´・ω・`)「なのに、デレさんはお弁当を?」
ζ(゚ー゚;ζ「葉桜館に行くって知らなくて――」
(´・ω・`)「ふつう、泊まりがけの仕事なら、
. その旨を奥さんであるあなたに告げますよ。
. 一日戻ってこないのだから」
N| "゚'` {"゚`lリ「まして、俺はフサが愛妻弁当を
持ってきたところをみたことがない。
俺と一緒に昼を食うときもあるしな」
ζ(゚ー゚;ζ「おかしくったって、実際は作ったんです!」
デレは声を荒げた。
どんなに状況が不自然でろうが、確たる証拠がない限りは認めそうになかった。
.
- 816 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:04:59
ID:LZDxDK9MO
-
それはそうだろう。
もし朝に作らなかった、となれば、なぜランチボックスが
アルプスに在るのか、というのが問題となる。
朝でないなら昼間持ってきた事になるが、そのタイミングは限られてくるのだ。
カルピス海への遊歩道の傍(わき)に在った以上は、十八時二〇分から
十九時までの散歩の間に、デレが擬古と会って手渡ししたとしか考えられない。
また三月の推理――考えられる現状――では、その時間帯に
毒が盛られたのではないか、と睨まれているのだ。
ここでもし認めると、状況証拠だらけではあるが逮捕されるかもしれない。
デレは、少なからずそう思っていた。
(メ._,)「お前がつくったとすると……全てに辻褄があう……」
(メ._,)「推測される犯行時間……
この部屋からあがらない毒物反応……
弁当が無造作に捨てられていた意味……全てにな」
.
- 817 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:06:51
ID:LZDxDK9MO
-
伝・ー・)「どうして捨てられていたのですか?」
(メ._,)「食っている途中に……毒にあたり……
苦しくなって……急いで旅館に戻ろうとしたなら」
(メ._,)「……持っていたランチボックスを投げ出して……
慌てて帰ってくるだろうからな……」
伝・ー・)「……あ!」
説明され、水須木も納得した。
手を叩き、顔が自信に満ち溢れていくのが判る。
.
- 818 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:09:21
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「(デレさんは、弁当をつくったことには違いないんだ。
. 問題はそれを渡した時間だが……。
. おそらくそれを渡したのは朝ではなく……十九時より少し前)」
(´・ω・`)「(病院にではなく現場にまで訪れた理由は、
. 弁当箱の回収のため……だろうな)」
(´・ω・`)「(ただ……彼女が犯人だとすると、少しおかしくないか?)」
(´・ω・`)「(弁当に毒を盛れば、間違いなくデレさんが逮捕されるんだ)」
(´・ω・`)「(回収に出向くなんてのもリスクが高すぎる。
. それくらいなら、最初から回収に出向く必要のない方法をとれば……)」
(´・ω・`)「……三月殿」
(メ._,)「なんだ……?」
しばらく推理を広げてみたが、どうも釈然としなかった。
デレが犯人でないとは言い切れないし、
だが一方では限りなく怪しいとも思うのだが、
ランチボックスの件に関しては、毒を盛ったとは思えなかったのだ。
.
- 819 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:10:48
ID:LZDxDK9MO
-
ランチボックスに手紙を同封し、遅効性の毒を塗る。
「読んだ後は燃やすように」とでも書いておけば、証拠は消える。
そのように、ランチボックスをカムフラージュに、別の方法で殺害を
狙う方がより合理的で、自分に降りかかる火の粉は払えそうなものなのだ。
ショボーンが口を開いたのと、鑑識が報告にきたのは同時だった。
(´・ω・`)「おそらく、そのランチボックスに――」
(`・д・)ゞ「――毒は見当たりませんね」
(メ._,)「……!」
三月が動揺した。
すっかり、毒はあるものだと思っていたのだ。
三月が「むぅ」と低く唸る一方で、ショボーンは「やはり」と思った。
.
- 820 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:11:58
ID:LZDxDK9MO
-
ζ(゚ー゚;ζ「ほ、ほらご覧なさい」
(メ._,)「惣菜に……ピンポイントで仕込む……
そういうのも考えられそうだが……」
(´・ω・`)「ランチボックス内は揺れが激しい。
. 粉末状でも、内壁に毒が付くでしょう」
(メ._,)「……そうか」
(´・ω・`)「(弁当に毒はなかった。じゃあ――)」
(´・ω・`)「(―――毒は、どこからでてきたんだ?)」
.
- 821 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:16:01
ID:LZDxDK9MO
-
−27−
現場には毒の痕跡が残っていない。
デレのランチボックスからも見つからない。
毒の居場所はどこか。
やはり、どの推理を展開するにしても最終的にぶつかるのはこの謎だった。
逆に、毒の居場所さえわかれば、この事件は瞬く間に解決するだろう、そのような予感もあった。
見つかってないのは、それがショボーンたちの想像だにしない方法で毒が擬古に行き渡ったからである。
今日一日の中に、擬古が毒を摂取せざるを得なかった場面≠ヘ、果たしてどこにあったのだろうか。
ショボーンがそちらの線で推理を進めていくと、ふと気になった事があった。
毒の居場所と直接リンクするような点ではないため
重要視はしなかったが、一度気になりはじめると集中が散る。
仕方がないため、ショボーンはその点について、唸る三月に意見を求めてみた。
(´・ω・`)「三月殿」
(メ._,)「……なんだ?」
(´・ω・`)「小森さんの事なのですが」
( -_-)「……?」
.
- 822 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:19:22
ID:LZDxDK9MO
-
今まで、本当に自分の世界に引きこもってしまったかのように
微動だにしなかった小森が、不意に名が呼ばれて反応を示した。
だが、ショボーンが話をしたいのは三月だ。
小森本人には触れないでいるようにした。
(´・ω・`)「彼が借用証の奪還を実行したのは違いないですが……変に思いませんか?」
(メ._,)「変……だと?」
(´・ω・`)「ええ。仮に外出しようとしても、もし擬古さんが自室に引き返してたら……
. 小森さんはどうしたつもりだったのか。気になりませんか?」
(;-_-)「!」
(メ._,)「……そうだな。奪還を試みる以上……
それについての対策も講じる筈だ……」
(´・ω・`)「小森さんの荷物のなかに、毒物――でなくとも、なにか
. 殺傷能力のあるものを忍ばせていたのかもしれませんね。
. もし鉢合わせしたら殺してやろう、とか」
.
- 823 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:21:15
ID:LZDxDK9MO
-
言われて納得した三月は、小森をみた。
小森の鞄と思われるそれはない。
自室に置いてきているのであろう。
三月は水須木を呼び、小森の部屋に向かわせようとした。
容疑者である以上、鞄を持ってきて中身を調べるのは当然だ。
水須木が了解して駆けだそうとすると、それを小森がすがりついて押さえた。
;`・ー・)「な、なんだ!」
(;-_-)「待ってくれ! そんなものないから! 鞄はだめだ!」
水須木の脚を掴み、思い切り首を横に振った。
足を動かせず、前へ進めない。
なぜ小森がそのような行動をとろうとしたのか、水須木にはわからなかった。
ただ、煩わしく感じられただけだ。
(メ._,)「鬼瓦!」
ξ・д・)「はッ」
限りなく不審に感じた三月は、鬼瓦(おにがわら)と、刑事の名を呼んだ。
「代わりに行ってこい」と後ろに省略されているのだろう。
察した鬼瓦が、一瞬にして駆けだした。
.
- 824 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:22:38
ID:LZDxDK9MO
-
(;-_-)「待て!」
伝・ー・)「行かせるかっての」
(;-_-)「! 離せ!」
今度は鬼瓦を制止しようとしたであろう小森を、逆に水須木が押さえた。
両腕を後ろから押さえ、身動きを封じる。
やんやと喚きながら、自身の鞄の捜査を頑なに拒んでいる。
そして、割とすぐに鬼瓦が戻ってきた。
ξ・д・)「こいつか?」
(;-_-)「…! それは俺のじゃ――」
(メ._,)「それだ……」
鬼瓦は、茶色のリュックサックを持ってきた。
中身にはあまり物が詰まってないようで、軽そうに持っていた。
小森は否定したが、その顔を見て、嘘を吐いていると
確信した三月は、鞄を調べるよう指示した。
水須木が小森を取り押さえているため、抗おうにも抗えない。
ホックを外し、逆さまにして中身を下に落とした。
ショボーンは乱暴なやり方だなと思ったが、別段気にしなかった。
.
- 825 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:23:38
ID:LZDxDK9MO
-
中からは、財布や携帯電話、そして奪ったであろう借用証。
そして、なにやら小瓶が転がってきた。
小森がそれに狙いを定め蹴飛ばそうと脚を伸ばしたが、それを三月が蹴った。
そのまましゃがみ込んで茶色の瓶を拾う。
拾った瞬間、三月の顔がゆがんだ。
(メ._,;)「―――ッ!」
(;-_-)「待て! 違う!」
三月は、小森の声には耳を傾けず、ただラベルを凝視していた。
そして、近寄ってきたショボーンにも聞こえるように、
そのラベルに書かれている名を口にした。
(メ._,;)「………」
(メ._,;)「………DAT……ッ!」
.
- 826 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:24:58
ID:LZDxDK9MO
-
−28−
(;´・ω・`)「なッ! ……なんだと!?」
一瞬にして、場が騒然とした。
予想にだにしなかった展開に、ショボーンは思わず大声を張り上げた。
阿部も三月も、驚きを隠せないようだった。
それもそのはずだ。
近代においてもっとも危険と判明された猛毒、DAT。
これについては、数十分前にも話に挙がった。
体内に取り入れてしまえば、三時間という前例を見ない異常な
長さの時間を費やして呼吸器官を蝕み、命をも奪い去ってしまう。
そして、その危険性ゆえに、警察と医学協会とが協力し、
人類の叡智を結集させて早急な解明を進められている。
その事の重大さは、本日の午前頃からアルプス県警にて講義でショボーンたちに知らされていた。
.
- 827 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:25:58
ID:LZDxDK9MO
-
すぐに阿部が駆け寄り、瓶を見せてくれと三月に言った。
このときばかりは、阿部が容疑者の一人である事も忘れて、言われた通り瓶を見せた。
N| "゚'` {"゚`lリ「……ほう」
片手で覆えるおおきさの瓶を、上から下からじっくり眺めている。
いよいよ自分の逮捕が余儀なくされるだろうと思った小森は、一層うるさくなった。
(;-_-)「違うんだ! 聞いてくれ! 違うんだ!」
伝・ー・)「とりあえず、危険物取締法違反ってとこかな?」
ξ・д・)「そんな法律はない。それを言うなら、毒物及び劇物取締法だ」
;`・ー・)「あっれー。そうだっけか?」
平の刑事である鬼瓦と水須木は、三月やショボーンほどはショックを受けていなかった。
講義に参加していないのだ、当然と言えた。
だが、それにしても、あまりにも空気に馴染めていなかった。
.
- 828 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:26:51
ID:LZDxDK9MO
-
(;-_-)「認める! 擬古のヤローを殺そうとしていた! だがな、結局使わなかったんだ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「それ、本当か?」
あまりに焦ったのか、殺意を認め、小森は自白をした。
だが、その上から殺人の事実はない、と言葉を被せてきた。
阿部が不思議に思い、聞き返した。
やはり、小森はおおきく肯いた。
(;-_-)「すんなり借用証を奪えたんだ、使うのをやめ――」
N| "゚'` {"゚`lリ「使ってないもなにも」
(;-_-)「?」
N| "゚'` {"゚`lリ「この瓶、からっぽだぜ?」
.
- 829 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:28:04
ID:LZDxDK9MO
-
( -_-)「―――へ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「お前は空の容器を持ってきたってのか?」
( -_-)「いや、そんな筈は――」
(メ._,)「ごまかすな……。現状から言って……
こいつで擬古を殺した。……そうなんだろ?」
( -_-)「いや、え――?」
小森は途端に静かになった。
ショボーンも瓶の中身を見ると、向こうが透けて見えていた。
DATのラベルがあるだけで、ほかはふつうの小瓶と言っても差し支えなかった。
やかましく否定を繰り返していた小森が、信じられないといったような顔をしている。
どうも、阿部にはなにがどうなっているのかわからなかった。
.
- 830 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:29:21
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「! 小森、あんたいつ頃にここに来た?」
(;-_-)「十八時くらいじゃねーの? 覚えてねーよ!」
(´・ω・`)「十六時にはどこに?」
(;-_-)「擬古がこっちに来るっていうのを聞いて、俺もここに来る準備をしてたよ!」
嘘を言っているような表情ではなかった。
少々気になる事を言ったが、今はそれに構わず、ショボーンは三月に言った。
(;´・ω・`)「三月殿、擬古さんが喰らった毒はそれじゃない!」
(メ._,)「……どういう事だ?」
またしても急に声を張り上げたため、三月は動揺をみせた。
いや、大声だったからだけではない。
ショボーンが、あからさまに動揺しているのだ。
(;´・ω・`)「DATの特徴、それは効き目までに三時間を要する超遅効性!」
(メ._,)「なにが……言いたい?」
(;´・ω・`)「擬古さんが倒れたのは、十九時なんですよ!?」
(メ._,)「……」
(メ._,;)「ッ!」
.
- 831 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:30:17
ID:LZDxDK9MO
-
ようやく、三月はショボーンの言いたい事がわかった。
小森が葉桜館にやってきたのは、十八時くらいと言った。
少なくとも十六時にはここには来る事ができない状況だった。
そして、擬古が倒れたのは十九時なのに大して、仮にDATで倒れたとすると、十六時に摂取する必要がある。
DATに限って言うなれば、小森には絶対的なアリバイがあるのだ。
だが、そんな事が問題なのではなかった。
別の方面で、問題が生じるのだ。
(;´・ω・`)「誰かがDATを呑んでしまったかもしれないぞ!!」
.
- 832 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:31:49
ID:LZDxDK9MO
-
−29−
(メ._,;)「………!」
;`・ー・)「誰だ、誰が呑んだってんだ!」
小森の持つDATは、犯行には使われていない。
だが、中身はなくなっている。
誰かが呑んだのかもわからない。
いや、呑んだという言い方では語弊が生じる。
呑まされた、が適切な表現だろうか。
小森のDATを、この件における犯人が誰かを殺めるために奪う。
DATが粉末状か液体状か、瓶を見るだけではわからないが、
ショボーンは講義では両方存在する、と聞いた。
液体になら、DATを盛る事ができる場所は数多く存在する。
DATのタイムリミットまでの時間に毒の盛られた場所を調べ上げ、
摂取してしまった人を特定し、病院に運ぶというのはもはや不可能だ。
つまり、被害者に自覚がない場合、次なる被害者を生む。
ショボーンは、擬古殺人事件の犯人を特定すると同時に、
その被害を食い止めなければならない。
ショボーンには、それを行う自信はなかった。
.
- 833 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:32:48
ID:LZDxDK9MO
-
(;´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「……!」
ショボーンは苦い顔を一転させた。
目を見開いて、ちいさく「あ」と言った。
(メ._,)「……どうした?」
(´・ω・`)「……小森」
(;-_-)「なんだよ……」
(´・ω・`)「借用証を奪還した時、まだDATはあったんだな?」
(;-_-)「当たり前だろ!」
(´・ω・`)「で、水須木刑事に連れてこられるまではずっと自室に?」
(;-_-)「あ、ああ……。帰ろうと思ったけど……」
(´・ω・`)「!」
ショボーンはみるみるうちに顔が蒼くなってきた。
だが、小森は、どうしてショボーンが
そのような質問をしたのか見当すらつかなかった。
それは、三月も一緒だった。
.
- 834 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:34:03
ID:LZDxDK9MO
-
だが、状況を整理すれば簡単な話だった。
DATは、小森が擬古の部屋から帰ってきた時にはまだ残っていた。
その後小森は自室を出なかったため、この間第三者が小森のDATを奪う事はできない。
小森が鞄から離れればDATを奪うことができるが、その機会がやってくるのは警察の到着後なのだ。
名前すら挙がってない第三者が小森の毒を奪う事はない。
事情聴取も受けていることだろう、その可能性はなかった。
だが、警察の到着後に、しかも小森以外の事件の
関係者――阿部、葉桜、デレ――が、DATを奪うだろうか。
また、奪う動機があったとして、奪う機会はあったのだろうか。
そこまで考えて、ショボーンは全身に鳥肌がたっていたのがわかった。
(´・ω・`)「……!」
.
- 835 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:38:05
ID:LZDxDK9MO
-
ノパ听)『デレ、化粧し直しなさいな。案内してあげるから』
ζ(;ー;*ζ『……』
(´・ω・`)『(ん?)』
(;´・ω・`)「――――ッ!」
(メ._,)「……ショボ?」
彼のなかにたまっていた驚愕が、ついに態度に表れてしまった。
彼が、小森にDATについて推理をする途中で、ある事にようやく気が付いた。
いや、推理を展開させるにあたり判明した事実、というべきだろうか。
とにかく、冷や汗がどんどん溢れてくるのがわかった。
.
- 836 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:39:17
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「(……僕は……重大な勘違いをしていたかもしれない)」
(´・ω・`)「(『彼女』は、あの人の事を想っていた。だから――)」
(´・ω・`)「……ん?」
ショボーンが我に返ると、部屋の隅にいるトソンが目についた。
先程までは律儀に正座していて、「実に彼女らしい」と
笑っていたものだが、それが崩れてきている。
壁に寄りかかり、額から汗を流して、呼吸が荒くなっている。
様態が、どこかおかしいのだ。
ショボーンは、彼女に歩み寄り、しゃがみ込んで肩をたたいた。
( 、 ;トソン「………」
(´・ω・`)「トソンちゃん?」
荒い息遣いがちいさく聞こえた。
その後に続けて、ひゅー、ひゅーと。
額に手を当てるが、熱はない。
不審に感じたショボーンは、言葉のスピードをはやめた。
.
- 837 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:41:23
ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「トソンちゃん、どうした?」
( 、 ;トソン「………」
( 、 ;トソン「息……苦しい………」
(´・ω・`)「?」
そのときだ。
ショボーンの脳内に散らばっていたロジックの紐が、一本に繋がったのは。
(;´゚ω゚`)「―――ッ!」
(メ._,;)「ショボ!」
(;´・ω・`)「三月殿、至急『彼女』を―――」
(メ._,;)「そんな事はどうだっていい!
奴らが……逃げた!」
(´・ω・`)「……奴ら?」
.
- 838 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:42:06
ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,;)「容疑者の四人が……同時に消えたと言っているんだ!」
.
戻る