- 359 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:02:02
ID:w86D6G/w0
-
※第八幕以降を読むにさいして
演出として、作者はYouTube利用によるBGMの採用を推奨しています。
しかし、小説としての雰囲気を大切にしたいとお思いの場合は無視してください。
.
- 360 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:03:05
ID:w86D6G/w0
-
鼓膜が破れるのが必至となるほどの、文字通り、爆音。
肌を焼かんとする熱をもってやってくる、爆風。
目をくらますのかと思うほどの、まぶしい光。
五秒前ではまったく予想だにしなかった光景が、いま、目の前に広がった。
(;´・ω・`)「ッッ!」
( 、 ;トソン「――っ」
ショボーンは、あの「カウントダウン」を見た直後、本能的に、部屋を飛び出した。
同時に、制御室の扉に背を向け、トソンの耳を塞いで。
自分も、首を傾げることで右肩に右耳を押し付けて、なんとか片方の耳だけでも、と動いた。
その直後に背後で起こった爆発は、いくら刑事歴の長いショボーンでも、味わったことのないものだった。
こんな至近距離で爆発をその身に浴びるなど、この国では考えることすらできない事態だ。
しかし、その「考えることすらできない事態」が、たったいま、目の前で起こったのだ。
静寂を打ち壊した轟音は、徐々にキタコレの猛吹雪に掻き消されてきた。
ぱらぱら、と、瓦礫の落ちる音が聞こえる。
が、ショボーンの場合、その音を認識することはなかった。
左耳の鼓膜が破け、血が流れてきたのだ。
突如として起こった爆発、続いて目の前の知人が血を流すという事実。
それを見て、トソンは、軽いパニック症状に陥った。
.
- 361 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:04:21
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「……なんだ、これは……」
(゚、゚;トソン「警部! み、耳…っ!」
(´・ω・`)「………」
左耳に手を当ててはじめて、その事実にショボーン自身も気づくことができた。
寒さが充満しつつある今、その生暖かさだけは、独立していた。
そのぬくもりに触れることで、ショボーンは、冷静に現状把握に努めることができた。
――制御室の機材には、時限爆弾、それも大きさと形状から考えて、ダイナマイト。
それが爆発することで、どうやら、このホテルの動力源がみごとに壊されてしまったようだ。
先ほどまで廊下を照らしていた煌びやかな照明は、ぱたり、と消えてしまったのがいい証拠である。
動力源がやられたか――
ショボーンがそうわかった次の瞬間、再び、先ほどよりは規模のちいさな爆発がもう一度起こった。
制御室内のなにかが、いまの爆発に触発されて、異常をきたしているようなのだ。
それであらためて、ショボーンは現状を把握した。
――このままでは、危ない、と。
(;´・ω・`)「逃げるぞ!」
(゚、゚;トソン「警部、そっちにエレベーターは――」
ショボーンはトソンの手をひいて、ホテル、西側に向かって走り出した。
時限爆弾を見た直後、とっさに制御室を出たのだが、そのとき制御室より西側に出ていたのだ。
制御室からは煙と炎があがっている。
それを見せられて、本能的に、より西側に逃げるのは何らおかしいことではないのだが――
ショボーンはトソンの言葉を聞いて、ショボーンはあることを思い出した。
エレベーターは東側に備え付けられており、また、地上に向かう階段も東側にある、ということを。
つまり、いま自分が向かう西側には、地上に降りる術がない。
.
- 362 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:05:10
ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚;トソン「警部、こっち――」
(;´・ω・`)「危ない!」
( 、 ;トソン「――ッ!!」
トソンはそのことを覚えていたようで、ショボーンに引き返すよううながす。
しかし次の瞬間、再び、制御室のあたりから爆発が起こった。
次々と、黒い煙が天井を這うようにしてこちらのほうに迫ってくる。
ショボーンはつないだ手を、思いっきり引っ張った。
(;´・ω・`)「無茶だ、戻れない!」
(゚、゚;トソン「で、でも…でも――っ!!」
(;´・ω・`)「いまは避難が優先だ!」
(゚、゚;トソン「―――ッ」
ショボーンはトソンをつれて、上のフロアへと向かった。
5Fの西側にあるのは、上のフロアへと向かう階段のみである。
彼らが逃げるとすれば、自然と、そのルートを使うしかなかった。
――また、制御室の、それも動力源を爆破されたため、おそらくエレベーターを使うことはできない。
6Fの東側に向かってエレベーターに乗り込もうにも、それは叶わないだろう。
そのため、彼らは、地上に降りる術を失ったことになった。
.
- 363 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:05:40
ID:w86D6G/w0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
. 第八幕 「
二つの矛盾 」
.
- 364 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:06:15
ID:w86D6G/w0
-
制御室の爆発は、その真下、プギャーの事件現場にいる皆にも伝わった。
轟音がしたかと思えば、頭上から瓦礫のようなものが降り注いでくる。
爆発を聞きつけ、そちらを見上げたワカッテマスは、すぐにその脅威に気がついた。
(; <●><●>)「皆さん、下がって!!」
すぐに自分も屋内に向かう。
突進して、屋外に足を踏み出していたマリントンとアサピーを屋内に突き飛ばした。
が、それについて咎められることはなかった。
一瞬後に、そこに、一メートルを超える瓦礫の数々が降り注がれたのである。
工事現場から発せられる、硬いものと硬いものとがかち合ったような音が連続して鳴り響いた。
制御室の壁と見受けられるもので、もしこれの下敷きになれば、骨折どころでは済まないだろう。
その轟音が吹雪に掻き消されたところで、その場にいる皆に、ようやく現実味を帯びた緊張が走った。
フォックスなんか、悲鳴をあげては耳を塞ぎ、物陰に避難したほどだ。
遅れて、ワカッテマスがおそるおそる、その瓦礫に目を遣る。
普段冷静なこの男でさえ、このときばかりは、まともな思考ができなかった。
(; <●><●>)「が……れき…?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「この断熱材……間違いない。制御室に使ったもんですわ」
( <●><●>)「制御室!?」
その言葉を聞いて、ワカッテマスの焦燥が一気に掻き消された。
制御室に向かったショボーンの顔が、脳裏に浮かんだ。
.
- 365 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:07:33
ID:w86D6G/w0
-
(-@∀@)「今度は……なにが起こったというんですか!」
(;´W`)「……また、事件ですか……?」
( <●><●>)「ここは危険です! 皆さん、2Fの広間にまで避難してください!」
爪;'д`)「死ぬううううあああああああああああああああああ!!」
( <●><●>)「わかってるなら、あなたもはやくッ」
ワカッテマスはフォックスの手を強引に引っ張り、
その場にいた男性五人とともに、その場から逃げた。
直後、再び轟音。
爆発は一度では済まなかったようだ。
ますますワカッテマスはショボーンのことが心配になった。
フォックスを抱え、自分も2Fの、売店などが立ち並ぶエリアに向かっているとき。
ワカッテマスは走りながら、未だに降りかかってくる瓦礫のほうに目を遣った。
プギャーの死体が、瓦礫の、下敷きに――
.
- 366 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:08:20
ID:w86D6G/w0
-
しかし、いま、そのことについて考えることはできない。
ワカッテマスは彼のことを見捨てることに罪悪感を覚えつつ、やがて、そのエリアにまで避難した。
ヲタのように走り慣れていない人からアサピーのように体力に自信のある人まで、
体力の差に関係なく、避難してきた人は皆、荒く大げさな呼吸をしていた。
いきなり走ったから呼吸を乱しているわけではない。
呼吸を荒げる理由は、いちいち聞くまでもなかった。
ついに誰もが、この事件の残虐性に戦慄を覚えたのだ。
フォックスをおろして、ワカッテマスはすぐさま、携帯電話を取り出した。
慣れた手つきで電話をかけたその相手は、つい先ほど制御室に向かった、ショボーンである。
彼の安否を、確認しないではいられなかったのだ。
不吉なことを考え、ぞっとする。
が、幸い、その危惧を吹き飛ばすように、ショボーンはわりとすぐに電話に応じた。
怒鳴りかけるように、ワカッテマスが呼びかける。
ショボーンはそれとは相対的に、落ち着いていた。
(; <●><●>)「警部、大丈夫なのですか!!」
.
- 367 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:09:00
ID:w86D6G/w0
-
◆
(´・ω・`)「ああ……服が焼けて左鼓膜がもっていかれたけど、一応大丈夫だ」
(゚、゚;トソン「刑事…?」
ショボーンは階段の手すりを頼りに、一歩ずつ、上へ、上へと向かっていた。
スーツの端がじゃっかん黒く滲み、顔の左側面には血の垂れた跡が目立つ。
そんな様態を見て、トソンが彼を心配しないはずがなかった。
が、その心配を押し切るかのように、ショボーンは右耳で電話に応じていた。
心配なのは電話先のワカッテマスも同じようで、いつになく慌てた様子で彼は続けた。
『いったい、何があったのですか!』
(´・ω・`)「痛てて…。制御室に、バクダンが仕掛けられてたんだ」
『爆…弾……』
左耳の鼓膜が破れた状態で、右耳だけ機能させるのはなかなか厳しかったようで
ワカッテマスの、鼓膜を裂かん勢いで放たれる言葉を聞くたびにショボーンは顔をしかめた。
.
- 368 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:09:34
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「で、僕とトソンちゃんはいま、6Fから7Fに向かってるところ」
『都村さ――! ちょっと待ってください、まさか上にあがってるのですか!?』
( ;´-ω・)「ちょ、もっとちいさくしゃべってくれ。左耳が痛いんだ」
『しかし――なぜ、上に向かうのですか』
火事が起こったさい、ヘリポートに向かうとかでない限り、より上へと向かうのは自殺行為とされる。
一酸化炭素など有害な物質を含んだ煙も、上へ上へと向かうからだ。
しかし、ショボーンはそれを知っていてなお、上へと向かっていた。
5Fより上の階に、ヘリポートはおろか外へ出ることのできる手段などない。
つまり、自ら早死にを選んでいるようなものなのだ。
ワカッテマスが、トソンの安否以上にそちらに気をとられるのも、当然のことだった。
(´・ω・`)「西側に残された、動力源も断たれた――つまり、もとより地上に向かう手段がなくなったってことなのさ」
『…………ッ!』
(´・ω・`)「ひょっとしたら、エレベーターには非常電源とかが入ってるかもしんないけど……
. そのまえに、僕は行かなくちゃだめなところがある」
『ばかな。都村さんがいるなら、なおのこと。いますぐ、エレベーターが動いてるか――』
(´・ω・`)「トソンちゃん以外のみんなとは、まだ合流してないんだ」
『―――!』
.
- 369 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:10:12
ID:w86D6G/w0
-
そこで、ワカッテマスは現状を把握した。
5Fから地上に向かう階段とエレベーターは、東側にある。
一方の西側には上へと向かう階段しかないのだが、ショボーンは、その西側に残されている。
また、いったん6Fにあがったところでエレベーターを使おうにも、
非常の動力源が確保されているかなど、わからない。
そのロスタイムのうちに、更に爆発をするか、制御室の真上に位置する場所が陥没するか――
とにかく、危険であることには違いなかった。
ここまでなら、ワカッテマスは、その危険を冒してでもエレベーターに向かえ、と言ったところだっただろう。
しかし、彼はひとつ、見落としをしていた。
これは、トソンと合流することができた、ということではない。
トソン以外の三人とはまだ合流できていない、ということなのだ。
『しッしかし、その三人がどこにいるのか、など――』
しかしそれでも、ワカッテマスは慎重な行動を優先させる男だ。
その三人を救おうとして、ショボーンとトソンもろともが危害をこうむれば、本末転倒である。
だからといって見殺しにするわけにもいかないのだが――そこは、苦渋の決断、といったところだったようだ。
そしてショボーンは、その考えには賛同できなかった。
.
- 370 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:10:42
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「見当なんてとっくについてる」
『…ッ。どこ――』
(´・ω・`)「バーだ」
『!』
そこでワカッテマスは、バーの鍵が閉められていた、という謎を思い出した。
確かに、そこに女性三人のうち、誰か一人くらいはいそうだが――
『……救援隊を、要請しますから。
. 警部も、一被害者にかわりはありません。どうか、安全な行動をとるよう、努めてください』
(´・ω・`)「煙はそうすぐにはのぼってこないだろうし、
. 空気が乾いてるわけでもないから、まあなんとかなるさ」
『で、ですが――』
ワカッテマスが言い返そうとするのを、ショボーンは強引に遮った。
(´・ω・`)「……悪い。耳が痛くなってきたから、いったん切るぞ」
『―――ッ』
そう言い残して、ショボーンは無理やり電話を切った。
なにもなかったかのように胸ポケットに入れて、歩を進める。
いまの電話のうちに、二人はもうもう7Fから8Fへの階段も上り終えていた。
電話をしまったのを見計らって、トソンが心配そうな声をだす。
.
- 371 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:11:12
ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚トソン「……警部」
(´・ω・`)「ん?」
(゚、゚トソン「その、まだ合流していない人を助けたところで……
. どうやって、脱出する、というのですか?」
(´・ω・`)「……」
(゚、゚トソン「警部!」
トソンの高い声が、耳にきんきん響いてくる。
それをつらく思ったが、トソンの手前、それを顔にだすことはなかった。
むしろ、それを打ち消すくらいの柔和な――否、不敵な笑みを浮かべた。
(´・ω・`)「助手のトソンくんに、イイことを教えてあげよう」
(゚、゚トソン「…?」
(´・ω・`)「刑事は、拳銃よりも好んで使う鉄砲がある」
(゚、゚トソン「……はい?」
浮かべる不敵な笑みとは対照的に、
発せられる次の声のトーンは、ひどく落ち着いていた。
(´・ω・`)「無鉄砲さ」
.
- 372 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:12:10
ID:w86D6G/w0
-
◆
8Fから9Fへの階段を上り終える頃には、爆発を喰らったことによる負担はほぼ回復していた。
いや、ダメージは残っているし、疲労感に近い負荷を背負っていることには違いないのだが
ショボーンが刑事として動くことができる程度には、体力は回復していた。
トソンの発見で、制御室内で爆発を喰らわずに済んだのが大きかったようだ。
もし、あのときトソンが爆弾を発見していなければ――
いやそもそも、もしトソンを連れてきていなければ。
それを一瞬考えたことを、ショボーンは後悔した。
この前の事件といい、今回といい。
トソンは、爆弾にまつわるエピソードが豊富だな、と笑うことでショボーンは気を紛らわせた。
そこで、ショボーンは以降呑気なことを考えるのをやめようと、頬を叩いて気付けをした。
楽観を体内から追い出し、かわりに能動的に緊張を押し込める。
そして、「うし」と、気合いを籠めるための声を発した。
(´・ω・`)「トソンちゃん、走るぞ」
(゚、゚トソン「警部……大丈夫なんですか」
(´・ω・`)「僕を誰だと思ってるんだ。この程度でくたばってちゃ、ケーサツなんて務まんないよ」
(゚、゚トソン「………ですよ、ね」
トソンがなんとか、自分を納得させる。
心配がる様子を見せていると、ショボーンのせっかくの志気を削ぐことになるし
なにより、そう不安に思う自身の元気が失せてくることになる。
ショボーンは、自分の中では信頼に足る人物だ。
彼に、無理を言って同行を頼んだ以上、トソンはショボーンに全てを任せることにした。
.
- 373 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:12:47
ID:w86D6G/w0
-
そして、二人が暗黙のうちにうなずきあったかと思うと、階段を数段飛ばしで走りはじめた。
間近で爆発を喰らった者とは思えぬ動きで、先ほどまでの三倍以上の速度を見せた。
9Fについたばかりだったのが、もう10Fだ。
少し前までは、皆がにぎやかにしていたメインホールを横目で見る。
数時間前には戻れないのだな――トソンの胸を、むなしいものが掠める。
が、それも一秒足らずのこと。
ショボーンに急かされて、トソンは疲れを感じつつも、再び走り出した。
階段を一気にのぼると、その分想像以上の疲労に襲われる。
それは18時すぎ、ショボーンとワカッテマスが急いでメインホールに向かったときと似ていた。
それが数時間前の話であるということが、彼には信じられなかった。
と、そこで、トソンを急き立てておきながら、自分も人のことを言えないな、とショボーンは自嘲した。
邪念を捨てて足を進めること数秒、二人は目的地、11Fについた。
ショボーンがここに来るのは、事件が発覚したとき以来、数時間ぶりである。
あのときのルートを思い出して、ショボーンはトソンを先導しつつ、まっすぐバーへと向かった。
嘗てフォックスがいた――と主張されている――レストランへとは、まったく方角が違う。
バーの、いたって一般的な、木製の扉を前にする。
しかし中を覗くことはできず、また、そこでなにが起こっているのか、判断ができない。
かといってそこでとどまるわけにもいかないので、ショボーンは扉に飛びついては、扉のレバーを握った。
開いていてくれ――そう願ったが、やはり、そう都合のいいことは起こらなかった。
扉が開かれるのを、鍵が拒む。それにさいして、がた、と音が鳴った。
バーの鍵は、モナーが持っていた。
そしてショボーンは、それを持ち帰ってはいない。
扉を開けたまま、ショボーンはレモナとプギャーを残してバーを去ったのだから。
考えられることは二つ。
一つは、犯人がモナーの服から鍵を見つけては盗み、施錠してどこかに逃げた。
もう一つは、いま、この扉を挟んだ向こうに犯人がいて、扉を閉めている。
.
- 374 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:13:27
ID:w86D6G/w0
-
――ショボーンは、後者だと確信した。
扉ががた、と音を鳴らした直後、なかから破裂音、そして悲鳴が聞こえたのだ。
(;´・ω・`)「ッ!! もしもし、誰かいるのですか!」
(゚、゚;トソン「……っ」
呼びかける。
トソンは、その事態を前にして、足腰に力が入らなくなった。
ショボーンにしがみついて、なんとか腰を下ろさないようにしよう、と務めた。
悲鳴の主はわからない。
しかし、いまこの瞬間、この扉の向こうで人が二人いることがわかった。
破裂音――銃声、悲鳴。そしてその次に、人が倒れる音がしたのだ。
ただ悲鳴をあげただけなら、嘗てのフォックスと一緒で、誰かがきたことそのものに驚いた可能性も否めない。
しかし、その直前に銃声がした、そして人が倒れたとまでなれば、その悲鳴は別の意味を担ってくる。
――ショボーンの到着を知って、誰かが誰かを撃ち、その人が悲鳴をあげた。
.
- 375 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:14:15
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「―――クソ!!」
(゚、゚;トソン「け…警部……」
この扉の向こうに犯人がいると見て、ほぼ間違いない。
とすると、この扉が開かれることはないだろう。
そうわかって、ショボーンは扉を力いっぱい殴った。
その焦燥に満ちた様子が、トソンが知っているショボーンとはまるで違うように見えて、彼女は動揺した。
(;´・ω・`)「おい、開けろ! 聞いてるのか!」
『…………』
なかから、人の気配はする。
息を殺しているような、そんな気配が。
その間も、銃で撃たれた人がいるのだ、と思うと、ショボーンは冷静を保つことができなくなった。
なんとか、不恰好ながらも説得をはじめる。
声が聞こえていれば、逮捕は不可能でも説得はできるのだ。
.
- 376 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:14:48
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「いいか、よく聞け! 先ほど、5Fの制御室で、爆発が起こった! 人為的なものだ!」
中の人は応じない。
しかし、ショボーンは続ける。
(;´・ω・`)「いまはまだ大丈夫だけど、いつまでもここにいると、そのうちここら一帯は煙で満たされる!
そうなったら、ここにいるみんなに、命の保証はなくなる!
だから、はやくそこから出てこい! 出てくるんだ! ……出てきてくれ!!」
ショボーンも日頃見せることのない、必死な態度。
扉を殴りながらの説得であるため、その説得力は言葉だけ、よりも強いもののように思えたが
なかから、やはり反応はなかった。
(;´・ω・`)「し、死ぬ気なのか! おい!」
ショボーンの毛穴がもう一度、開かれる。
すると、ショボーンの懇願が通じたのか、なかから声が返ってきた。
――しかしそれは、事態が予想以上にひどいものであることを知らせるだけのものであった。
『入ったらあかん! 撃たれ――』
直後、銃声。
.
- 377 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:15:27
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「ッ!! お、おい!」
( 、 ;トソン「………、……」
声の主――のーだ。
のーが声を発したかと思うと、銃声が響いた。
直後、苦痛をかみ殺したような声がかすかに聞こえた。
それを聞いて、ショボーンは、扉の向こうの状況を理解することができた。
(;´・ω・`)「(女性三人が……ここにいる……のか?)」
まず、バーの鍵を閉め、銃を握っていると思われる、犯人。
次に、ショボーンが来たと同時に撃たれた、女性。
三人目が、今しがた声を発した上で撃たれた、のー。
声の高さから、最初に悲鳴をあげた女性とのーとが一緒でないことはわかった。
そのため、この向こうに、探していた三人がいるであろうことは確信した。
しかし、問題があった。
のーが口を開いた直後、撃たれたのだ。
とすると、ある情景が目に浮かんだ。
扉に一番近いのが、犯人。
その犯人は、銃を握って、バーの奥側にいるのーにそれを突きつけている。
のーが妙な動きをしないように、銃でけん制している――そう見るのが、妥当だった。
そして、傍らで、今しがた撃たれた女性――ガナーか、レモナ――が倒れている。
とすると、犯人はショボーンが来るより前、その二人に銃を突きつけていた、ということだ。
つまり、犯人は、その女性二人に、明確な殺意を持っている―――
.
- 378 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:16:00
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「くそ……クソッ!」
ショボーンは、どうやってこの状況を打破しようか、考えはじめた。
扉を蹴破ることは、まず不可能と思われる。
まず、負傷しているため、全力を出し切れない。
また、この扉は新品で、蹴破るには相当な力が要求されると思われるのだ。
そして何より、もし蹴破ろうとすれば、女性二人は――殺される。
そのため、蹴破るという選択肢は、一番のタブーだった。
(;´・ω・`)「考えろ……考えろ……」
今日一日経験してきたことを、思い出す。
浮かんでくる記憶の一つひとつのなかに、現状をうまく打破するヒントが隠されてないかを探る。
しかし、緊張と焦燥がそれを邪魔するのか、うまく思考が働かなかった。
(;´-ω-`)「扉を破る以外での……バーに入る、その方法……っ」
バーには一度、足を踏み入れている。
モナーが刺されたときに、現場を捜査する名目で、室内を見渡した。
その情景を、必死に思い出す。
その記憶のなかに、必ず、ヒントは隠されているはずなのだ。
そう言えるのは、なにも、刑事としてのカンだけではなかった。
「バーの出入り口」については、以前より問題にあがっていたではないか、と。
網膜には、ワカッテマスとの、メインホールでの会話が再現されていた。
このときも、今と同じようなことで、頭を悩ませていたのだ。
.
- 379 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:16:40
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)『しかし――というより、大前提として、窓の外は大雪が降ってるよな』
( <●><●>)『そりゃ』
(´・ω・`)『つまり、窓からの逃亡は不可能だ』
( <●><●>)『? 逃亡?』
(´・ω・`)『考えてみろよ。その仕掛け――紐をつないだのは、扉だ。
. 「誰かがきたら失血死」のからくりをつくるのに一番適した場所は、
. というか唯一条件を満たすのは、扉なんだから』
(´・ω・`)『そして仕掛けを組み終えるとき、犯人はまだ室内にいる』
( <●><●>)『?』
(; <●><●>)『―――ッ!! ちょっと待ってください!』
(´・ω・`)『どうだ。「ありえない犯行」だろ?』
犯人は、モナーに、紐を使った仕掛けを施していた。
誰かが入れば、大量出血。そんな、からくりを。
しかし、そのためには、ある大前提が必要となる。
通常の出入り口とは別の、犯人自身の脱出口の存在だ。
だが、ショボーンが室内を見渡しても、それらしき出入り口は見当たらなかった。
.
- 380 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:17:22
ID:w86D6G/w0
-
そこで、ショボーンの網膜に映ったのは、メインホールとはまた別の景色だ。
豪華な、しかしシンプルな内装の施された、客室。
大神フォックスの、取り調べである。
(´・ω・`)『フォックスさん、そのモナーさんと雪の光景は、扉から入ってみましたよね?』
爪;'ー`)『そ、そりゃあ……』
(´・ω・`)『換気扇や通気口から顔を覗かせた――とかではなくて』
爪;'ー`)『そんなこと、二流の推理小説ですら見かけないですよ。
. ぼくはちゃんと、扉から入ってその現場を見てしまったんだ』
このときのフォックスの証言には、大きな矛盾が潜んでいた。
ナイフの刺さったモナーを目撃した、ということだ。
これは、現状では決してありえないことなのだ。
しかし、フォックスは見た、と言った。
かといって、その目撃が嘘だ、とも考えられなかった。
ショボーンもワカッテマスも、モナーがどのような状態だったのか、は言ってないのである。
それを言い当てた以上、彼の目撃証言はほんとうだ。
ショボーンは、そのときは「検証不足」ということで推理を放棄したが――
いまが、その推理を再開させるときだ。
ショボーンは今一度、彼の証言を検証しはじめた。
.
- 381 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:18:22
ID:w86D6G/w0
-
(´-ω-`)「(フォックスさんは、『扉から入ってその光景を見た』と言ってる)」
(´・ω・`)「(一方で、『扉から入ってその光景を見るのは不可能』なんだ)」
(´・ω・`)「……トソンちゃん」
(゚、゚トソン「な、なんですか」
(´・ω・`)「イイことを、教えてあげるよ」
(゚、゚トソン「…?」
ショボーンは、熱くなった脳を冷ますかのように、トソンに小声で話しかけた。
が、それは厳密に言えば、彼女に話しかけたわけではない。
彼女ではなく、自分にあることを言い聞かせるために口を開いたのだ。
(´・ω・`)「難解な事件や犯人のアリバイには、必ずなんらかの《偽り》がひそんでいる」
(゚、゚トソン「は、はあ」
(´・ω・`)「しかし、だ。偽りと矛盾は、一緒のようで、実は違うんだよ」
(゚、゚トソン「…?」
(´・ω・`)「わからないかい」
トソンは、軽く首を傾げた。
ショボーンの心情と、一緒だった。
(´・ω・`)「矛盾ではあるが偽りでない点。それが、事件を解く鍵となる」
.
- 382 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:19:13
ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚トソン「……!」
トソンに自分を投影して、ショボーンは、そう「自分」に言い聞かせた。
するとどこか、嘗ての冷静さを取り戻せたような気がした。
再び、ショボーンは口を閉じて、少しうつむいた。
(´・ω・`)「(……そうだ。『この二つの、どちらかが間違っている』わけじゃない)」
(´・ω・`)「(見ることができないはずの、モナーさんの姿。実際に見てしまったと言う、フォックスさん。
. 『この二つの、どちらもが現実に起こりえた』んだ)」
(´・ω・`)「(一見ムジュンしているこの光景だが、どちらも偽りでないというのなら――)」
もう一度、ショボーンの網膜を、嘗ての光景が埋める。
「バーの出入り口」について、重要なのはやはり、フォックスとのやり取りだ。
あのなかに、全てを解決するヒントが――
偽りが、ある。
.
- 383 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:20:20
ID:w86D6G/w0
-
( <●><●>)『裏口なんかがあるんじゃないんですか』
(´・ω・`)『バーカ。僕が捜査に向かったとき、店内を見たけど。
. ぱっと見で言えば、そんなのはなかったよ』
ポイントは、「例の扉以外に出入り口はなかった」こと。
そして、『もうひとつ』。
ショボーンの脳に、ずっと引っかかっていたことが、このときになって浮かんできた。
(´・ω・`)「…………?」
.
- 384 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:21:08
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「………あ、あ……あああああああああああああッ!!」
(゚、゚;トソン「警部? どうし――」
――わかった!!
それまで、扉の向こうの犯人に触発しないように
小声で話してきたのを忘れて、ショボーンはひときわ大きな声を発した。
その言葉に、トソンはもちろん、ショボーン自身が驚いていた。
しかし、いちいち悩む時間などない。
ショボーンはトソンを引っ張って、走り出した。
走りながら、いま浮かんだ「それ」を咀嚼する。
(;´・ω・`)「(僕とフォックスさんの間にあった唯一の食い違い。それは、やっぱり『ナイフの有無』だ。
僕も、フォックスさんも、『扉から見た』ことは共通しているのに、そのことで食い違っていた)」
(;´・ω・`)「(でも、考えたら、もうひとつ、『あきらかに食い違っていたこと』があったじゃないか!!)」
(´・ω・`)「(それは――――)」
爪;'ー`)『だ――だって、暗い部屋の中で、人が座ってるんですよ!? どー考えたって怖いじゃないですか!』
(´・ω・`)『(扉を抜けたら、モナーさんがこっち見てるんだぞ……)』
.
- 385 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:23:27
ID:w86D6G/w0
(´・ω・`)「―――『方角』ッ!!」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
.
- 386 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:24:22
ID:w86D6G/w0
-
ショボーンは、曲がり角を抜けてもなお、速度を緩めない。
そして、エレベーターの前を通り抜けていった。
それを見て、トソンは不思議に思った。
(゚、゚;トソン「警部、どこに向かうんですかっ!」
(´・ω・`)「バーだ」
(゚、゚;トソン「ハァ!? しかし、方角は、真逆ですよ! この先はレストランです!」
(´・ω・`)「いや、僕の推理がただしければ――」
(´・ω・`)「『レストランからバーへの、隠された道がある』!」
(゚、゚;トソン「…ッ!?」
.
- 387 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:25:14
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(……そう。フォックスさんの証言をまとめると、こうなんだ)」
爪'ー`)『だから、どの席からの夜景が一番きれいかな、と思って、ぐるっと一周してましたね』
爪;'ー`)『ど、どうりでコックもいないし、冷蔵庫のなかも空っぽだなあ、と思ったよ』
爪'ー`)『いいですよ。そうだなあ……物音がしたから、ぼくはバーに……』
(´-ω-`)「(――バーとレストラン、正反対の方角に位置する両者。
フォックスさんは、はたして、ほんとうはどちらに向かったのか?)」
(´・ω・`)「(正解は、決まりきっている。 ……『両方』だ)」
(´・ω・`)「(のーさんを接待しようと思っていたのは、事実だ。
. むしろ、レストランに向かわないとは、考えられない)」
(´・ω・`)「(その証拠に、彼は呑気にも、冷蔵庫の中身まで確認している。
. 『フォックスはレストランにいた』という、何よりの証拠だ)」
.
- 388 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:26:09
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(だがあのあと、妙なことを言っていた。
. 正反対に位置するはずのバーからの物音を、聞きつけたっていうんだ)」
(´・ω・`)「(物音を聞きつけたからといって、わざわざ、今みたいに
. エレベーターの前を通過して、ぐるっとバーのほうまで行くとは考えにくい)」
(´・ω・`)「(……そして、この――)」
爪;'ー`)『ぼくはちゃんと、扉から入ってその現場を見てしまったんだ』
(´・ω・`)「(あたかも事件を錯綜させるかのような証言……
. これは一見、『開けることができないはずの扉を開けた』という証言のように見えるが……
. 『レストランからバーに向かった』というのをふまえると、これの持つ意味はがらっと変わってくるんだ!)」
爪;'ー`)『だ――だって、暗い部屋の中で、人が座ってるんですよ!? どー考えたって怖いじゃないですか!』
(´・ω・`)「(『レストランからバーに向かった』、『こちらに向いているモナーに気づかなかった』。
. この二つが紡ぎだす真実は、ひとつしかない)」
.
- 389 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:26:40
ID:w86D6G/w0
-
ショボーンは、誰に言うでもなく、自然のうちに声を発した。
(´・ω・`)「フォックスさんは、『別の扉から』、『本来とは違う方角で』モナーさんの姿を目撃したんだ!」
(´・ω・`)「そして、フォックスさんの言った『扉』とは―――」
やがて、レストランに着く。
ショボーンは、レストラン内部における西、つまりバーへの方角に向かって走った。
そこで、ショボーンはあるものを見つけた。
(´・ω・`)「ここだ!!」
――横幅が、三メートル以上もある大きな観音開きの扉。
それめがけて、ショボーンの駆け足はより力強いものになった。
.
- 390 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:27:15
ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚トソン「……なんですか、この倉庫みたいな、門みたいな……」
(´・ω・`)「トソンちゃん、考えてみな。バーには、ステージがある」
(゚、゚トソン「ステージ……あ、ああ。パンフレットにありましたね、ジャズバンドとかが来るって」
(´・ω・`)「でも、あんな狭いバーの扉を、ドラムとかが通り抜けられると思うかい?」
(゚、゚トソン「……確かに」
(´・ω・`)「そう考えたら、この扉の意味がわかる」
(゚、゚トソン「……あ!」
(゚、゚トソン「レストラン経由で、楽器類を運び入れる――というわけですね!」
(´・ω・`)「そう。そして、これだと二つの疑問も一気に解消できる」
(゚、゚トソン「?」
(´・ω・`)「フォックスさんが、これを『扉』だと勘違いした理由」
(´・ω・`)「僕が、バー店内を見回しても『扉』に気づかなかった理由」
(´・ω・`)「それは―――」
ショボーンは、その観音開きの扉を、ゆっくり押し開けた。
すると。
その扉の向こうには、ひな壇のステージが続いていた=B
.
- 391 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:27:49
ID:w86D6G/w0
-
――まさか、初見で、ステージの背景が門になっているとは気づけまい。
一方で、フォックスさんはそこがステージであることを知らず、レストランの例の扉から足を踏み入れた。
また、ステージの上には楽器もなにもないので、それがステージだと知らされなければ、
ただ入り口だから一段高くあげているだけ、と思ってもしかたのないことだろう。
すると、そのひな壇のステージは、ステージとしてではなく、「客人を豪華に出迎えるための入り口」と捉えてしまう。
そう捉えてしまえば、この不自然に大きな扉のほうも「客人を豪華に出迎えるための大きな扉」と捉えてしまうんだ。
フォックスさんは、この扉の近くにまで来ていたときに、たまたま、物音を聞いた。
この扉をバーの正式な扉だと勘違いしたフォックスさんは、これをゆっくり押し開く。
モナーさんは、正式なほうの扉に躯を向けられていたから、この扉から彼を見てしまうと
そこから見えるモナーさんは、『こちらには向いていない』。
バー店内は暗く、外の景色のほうが明るいため、フォックスさんは最初にそちらに目が行った。
しかし、ここから物音が聞こえた、ということを思い出して、店内をきょろきょろ見やる。
そのときに彼が見たのは『暗い部屋の中で、人が座ってる』という光景だったのだ――
ショボーンはその推理にたどり着くと――すべての《偽り》をつなぐと、すべてに納得が行った。
『扉ははじめから二つあった』のだ。
BGMここまで
.
- 392 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:29:01
ID:w86D6G/w0
-
◆
「ッ!?」
(゚A゚*;)「あ、え!?」
(´・ω・`)「……動くな。警察だ」
ショボーンは、ステージの上で、その立っている二人に制止を呼びかけた。
二人とも、ショボーンやトソンと同じく、まさかステージの背景が扉になっているとは気づかなかったようで
突如として、それも意外なところから現れた彼に、驚きを隠せなかった。
ショボーンもワカッテマスも非番であるため、拳銃は持っていない。
しかし、彼女たちにとっては、そこに警察が現れたというだけで、一種のけん制効果をもたらされていただろう。
実際に、拳銃を握っている彼女も、ショボーンの顔を見て、目をまるくしていた。
その女性に、ショボーンは、柔らかくも重みのある声をかけた。
(´・ω・`)「……なにがあったのかは、聞きません。その代わり、黙ってその拳銃を床に置きなさい」
「………」
(´・ω・`)「僕は、警察だ。それはモナーさんからも聞いてるだろ」
(´・ω・`)「へたに抵抗をしたら……君は、これ以上罪を重ねることになる」
(´・ω・`)「だから……お願いだ。拳銃を置いて、まずは落ち着いてほしい」
.
- 393 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:29:33
ID:w86D6G/w0
-
そして、ショボーンは目を閉じて、浅い呼吸を数回重ねたかと思えば、
その一度閉じた口を、ゆっくりと開いた。
(´-ω-`)「………もう、プギャーさん以外の犠牲を、出さないでくれ」
(´・ω・`)「…………レモナ………さん」
|゚ノ ∀ )
レモナの、ショボーンに向けた拳銃を握る手は、震えていた
.
- 394 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:30:20
ID:w86D6G/w0
-
◆
バーには、予想どおり、横たわるモナーに加え、三人の女性がいた。
のー、ガナー、そして――レモナ。
ガナーは右手を左手で握りつつ、その場に倒れている。
その手を見てみると、血が流れてきているのがわかった。
それを見て、右手を撃たれてそのまま気絶したんだな、とわかった。
のーも同様に、左の二の腕のあたりを右手で押さえていた。
やはり、そこからは血が流れてきている。
先ほど、声を発したさいに、撃たれたのだろう。
そして、二人にその銃創を負わせたのは、レモナだ。
ためらいもなく二人を撃ったのを見ると、少しでも選ぶ言葉を間違えれば、すぐに発砲されかねない。
まして、銃を握っているレモナ自身が
|゚ノ ;∀;)「…………………」
こうも泣きはらし、精神状態が不安定となっていたとなれば、なおさらだ。
.
- 395 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:31:10
ID:w86D6G/w0
-
ショボーンは、そっとトソンをレストランのほうに返した。
レモナはショボーンしか目に映ってないようで、
トソンがレストランのほうに避難するのには気づかなかった。
そして、ショボーンとレモナは対峙する。
窓を打ち付ける雪の勢いは、以前と比べてだいぶ落ち着いているようだ。
(´・ω・`)「……レモナさん」
|゚ノ ;∀;)「ッ」
ショボーンが呼びかけると、レモナは反射的に身体をびくつかせた。
これは、相当メンタルに多大な負担がかかっているな、とショボーンは思った。
まさに、一触即発。
まして、女性の場合だとなにを言っても無駄、というケースが多いので、
ショボーンはどうやってこの苦境をくぐり抜けようか、と頭を回転させはじめた。
(´・ω・`)「………」
しかし、自分は拳銃を持ってない上に、レモナにこう先手を譲ってしまっているため
ショボーンはいわば、金縛りに遭ったかのように、動くことができなくなっていた。
手元が震えているため、なんらかのショックを与えれば
狙いの定まっていない発砲を誘発させ、その隙に取り押さえることができるかもしれないが。
それは、成功率という面でもレモナのメンタル面においても、リスクが高すぎる気がした。
レモナは興奮し混乱もしているため、説得も功を成さない。
せめて、一瞬でもレモナの気を逸らすことができたら―――
.
- 396 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:31:50
ID:w86D6G/w0
-
(゚A゚*;)「あんたァ!!」
|゚ノ ;∀;)「!?」
(´・ω・`)「!」
――と思った直後、のーが、声を張り上げた。
レモナはびっくりして、倒れこむかのように体勢を崩しながらのーのほうを向く。
その隙を、ショボーンが狙わないはずがなかった。
この一瞬でレモナに飛び掛るのは不可能と判断したため、
レモナよりも近い位置にあったカウンター席に移動した=B
|゚ノ ;∀;)「―――ッ?!!」
ショボーンが動いたのを知ったレモナは、半狂乱になりながら
もう一度ショボーンのほうに向き、銃を彼に向けて、引き金を引いた。
だが、ただでさえ照準が定まっていないのに、動いているもの、
それも場数を踏んでいる刑事にその弾丸が命中するはずもなかった。
静寂を切り裂いた銃声の反響音が消える前に、ショボーンは「それ」――
かつてモナーの止血に使った、自分のトレンチコートを握った。
それで何をするのだ――とのーは思ったが、それを口にする前に、レモナがまたも銃口をショボーンに向けた。
これで、レモナとの距離は、先ほどの半分ほどになった。
あとはもう一度、レモナの気を散らせば、彼女を取り押さえることができる。
のーがもう一度叫んだところで、レモナは今度は動じないで引き金を引くだろう。
そうなると、今度は、ショボーンに命中してしまう可能性が高い。
それを察したのかはわからないが、のーが次に声を発することはなかった。
.
- 397 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:32:25
ID:w86D6G/w0
-
しかし。
ショボーンは先ほど、今日一日の記憶をめぐらせたさいに
副産物的に、あるものの存在も一緒に思い出していたのだ。
レモナに察知されないように、コート内部に手を突っ込む。
コートに滲んでいたモナーの血は、すっかり固くなっていた。
やがて、ポケットのなかから、その「あるものの存在」を掴み取る。
レモナのメンタルは、震え具合からみて、もう限界だろう。
この一瞬に賭けるしかない――そう腹をくくって、ショボーンはがばっと体躯を低くさせた。
突如として音と動作を見せることで、相手を動揺させるのだ。
|゚ノ ;∀;)「ッッ!」
レモナは、それにまんまと食いついた。
すぐさま、銃口は重心を低くさせたショボーンに向けられる。
――だが、その一瞬前に、ショボーンは、ポケットから抜き出した「それ」を、前に放り投げていた。
.
- 398 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:33:43
ID:w86D6G/w0
-
|゚ノ ;∀;)「!?」
(゚A゚*;)「ナ――ッ!」
レモナに向かって投げられたものは、この暗い室内に、点々とした明かりをもたらした。
レモナものーも、その光景を見て、仰天した。
―― 十枚前後の、メダル。
それが、レモナめがけて飛び掛っていた。
あまりに突然のそれを喰らい、レモナは動転した。
思わず照準をそのメダルに向ける。
そしてすかさず、引き金を引いた。
しかし、その隙に、レモナはショボーンの接近を許した。
|゚ノ ;∀;)「――!」
(´・ω・`)「形勢逆転……だ」
ショボーンはレモナの手を捻り、彼女の手から銃を奪い取った。
ショボーンは、その柔和な顔つきと飄々とした性格ゆえ刑事とは思いにくいが、
それでも県警の警部をつとめる、ベテランの刑事だ。
細腕の女性から銃を奪うことくらい、造作もないことだった。
メダルが床や窓ガラスに当たり、転がる。
その全てが転がるのをやめる頃には、先ほどまで銃を握っていたはずのレモナに、その銃が向けられていた。
ショボーンがレモナの動きを止めるべく、銃を突きつけたのだ。
そして、レモナはそのときになって、今投げられたのはメダルで、それが陽動に過ぎなかったことを理解した。
.
- 399 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:34:27
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「レモナさん」
|゚ノ ;∀;)「あ……あ……っ」
ぼろぼろと大粒の涙を流し、オーバーに震える。
先ほどにもまして、精神面が不安定になったのだろう。
ショボーンの持つ銃口からのがれようと、しりもちをつき、後ずさりする。
(´・ω・`)「妙な動きを見せたら、いくらあなたでも……撃つ」
|゚ノ ;∀;)「………、……ッ」
ショボーンの目は、本気だった。
三度も四度も、ためらいなく発砲した彼女を相手取る以上、それほどの覚悟を
担っていないと、レモナを落ち着かせるのは不可能だと思ったのだ。
しかし。
このまま話をうかがおうか悩んでいると、その前に
|゚ノ ;∀;)「―――」
|゚ノ ∀ )「――――」
.
- 400 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:34:57
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「……ッ…」
レモナは、気絶した。
どうやら、もともと精神が崩壊していたのが、加えて唯一の護身となる銃を奪われ、
ましてそれを突きつけられたため、もう精神が耐え切れなくなったのだろう。
それは、ショボーンにとっては好都合だった。
へたに抵抗されて発砲を余儀なくされるよりも、手間と保護の二点において、こちらのほうがよかった。
数秒間、彼女の様子を見てから
ショボーンは彼女に向けていた銃口を下ろし、銃をポケットにしまった。
そしてゆっくりと、ショボーンは右手に向きを変える。
苦い顔を浮かべていたショボーンは、彼女、のーと向かい合った。
左腕からは、少量の血が滴り落ちている。
(´・ω・`)「腕……」
(゚A゚*;)「……大丈夫。動かしたらズキズキするだけや」
(´・ω・`)「………そうですか」
.
- 401 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:35:33
ID:w86D6G/w0
-
少し、静寂が生まれる。
だが、レモナと対面したときのように緊張で張り詰められたものではなく、
どちらかというと気まずさに支配されたような、そんな静寂だった。
その静寂を破ったのは、ショボーンだ。
ここにいると実感はわいてこないが、危機が迫りつつあることには変わりないのだ。
制御室にある動力装置を爆破された結果、連鎖的に爆発と火災が発生し、煙がどんどん蔓延している。
早急にショボーンは、決着をつけなければならないと思った。
騒ぎがおさまったことを察したのか、扉の陰からトソンがやってくる。
ショボーンの後ろに隠れるようにして、彼女もバーに入った。
(´・ω・`)「……のーさん」
(゚A゚*;)「なに?」
(´・ω・`)「聞かせてくれませんか。……19時以降、いったい、なにがあったのか」
(゚A゚* )「……」
(゚A゚*;)「………あかん」
(´・ω・`)「なんですって?」
その返答に、ショボーンは虚を衝かれた。
思わず、顔をしかめる。
そのしかめっ面に、動揺が少し、混ざっていた。
.
- 402 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:36:19
ID:w86D6G/w0
-
(゚A゚*;)「う、ウチな。怖ぁて、ようクチ利けん。また今度にしてーな」
(´・ω・`)「……だめです。これは、取り調べの一環です」
(゚A゚*;)「別にケーサツショに連れてかれてもええから、今はカンニンして……。な?」
(´・ω・`)「なぜ、拒むんですか」
(゚A゚*;)「やから、ほら。ウチも、いまはこーして虚勢張ってるけど。
. 内心、めっさヤバいねん。ソッコーで泣きそうや、気ィ抜いたら」
(´・ω・`)「……」
ショボーンは、のーのその態度が、嘘であることを見抜いた。
論理的な理由はない。
自分のカンと経験が、彼女のその言い分を、嘘だと決めてかかっている。
そしてショボーンは、それに賛同していた。
彼女の言葉にどこか、ぎこちないものを感じたのだ。
そうなると、問題は、『どうしてのーが話したがらないのか』だ。
メンタルが不安定だから――も、当然あるだろうとは思う。
しかしそれ以上に、ショボーンは別の理由を想定していた。
『話すと、なにか自分に不利益が生じる』。
たとえば――事件。
.
- 403 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:36:58
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「……?」
「事件」。事件? いったい、どの事件を指しているというのだ。
プギャーの殺害? いや、それはレモナだ、と確信している。
制御室の爆破? ガナーへの発砲? ――それも、レモナだろう。
だとすると――いや、待て。
しかし、コレは――
(´・ω・`)「―――ッ!」
――そこまで来て、ショボーンの思考は、再び活発に働きだした。
「バーの出入り口」の推理に関して、フォックスとのやり取りが脳に浮かんだように。
今度は、また別の場面が、網膜に再現された。
今回の事件の、全てのおおもと。
緒前モナー ――「殺人」事件。
.
- 404 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:37:47
ID:w86D6G/w0
-
――レモナは、ここにきて、謎の犯行を重ねてきた。
なら、モナーの殺害も、彼女がしたというのか?
……いや、違う。
(゚、゚トソン『17時』
(´・ω・`)『17時?』
(゚、゚トソン『そのときまでは、レモナさんは倉庫から料理やテーブルなどを出して、
. ガナーさんはそれを並べて……って、忙しかったんです。
. ひと段落あって、落ち着いたあたりからは、レモナさんも一緒だった、って断言できます』
――レモナさんには、決定的なアリバイがある。
一方のモナーさんも、一時間以上もナイフを突き立てられたままだった、とは考えられない。
つまり、『犯人は別にいた』ということになるんだ。
――そうなると、問題となるのは『モナーの動き』だ。
彼は、17時半以降にバーで刺されるにいたるまで、何をしていたというのだ。
――いや。それについては考えるまでもない。
一人だけ、『事件前のモナー』を目撃した人がいたじゃないか。
.
- 405 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:38:21
ID:w86D6G/w0
-
(∴)◎∀◎∴)『モナー氏の後ろ姿と……黒髪の女性が、見えたんだヲタ』
(∴)*◎∀◎∴)『セップンを……交わしてたヲタ!!』
――事件、直前。ヲタさんは、そんな不自然なシーンを目撃していた。
その内容はどうであれ、ポイントは『事件直前は3Fにいた』ということ。
これが事件直前である以上、犯人は、このあとですぐにバーにモナーさんを連れて行ったことになる。
でも……
(; <●><●>)『ひ、「紐」は、バーにあらかじめ備品としてあったとか――』
(´・ω・`)『いつかはそう言われると思ってバーカウンターの裏も見てみたけど、ほんとうに何もない。
. 電球の紐すらない現場の、どこから「紐」を調達したっていうんだ。
. これは、「計画的な犯行」なんだよ』
(; <●><●>)『………ぐッ』
.
- 406 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:38:58
ID:w86D6G/w0
-
――そう。元はと言えば、これは「計画的な犯行」なのだ。
ということは、ナイフと紐をあらかじめ用意していたということになる。
じゃあ、どうして、犯人はゲームコーナーにいったんモナーを連れてきてたんだ?
――呑気なことに、そこでヲタさんに、モナーさんと一緒にいた姿を目撃されている。
『計画的な犯行』である以上、これは実に考えにくい。ゲームコーナーに来る理由など、ないではないか。
――違う。本件を『計画的な犯行』と考えるから、辻褄が合わないままでいるんだ。
行き詰まった場合は、視点を変えなければ、『真実』は見えてこない。
(´・ω・`)「……真…実…?」
.
- 407 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:39:31
ID:w86D6G/w0
-
(-@∀@)『私たち記者は、真実を公開するのが仕事ですが……』
(-@∀@)『その、公開されるべき真実は、そのままではひどく醜い』
(-@∀@)『政治家の汚職事件、教育現場における体罰、産地偽装のされた肉……
とても、そのままだと公表すらできない、おぞましいものだ』
――ひょっとすると、僕はこの「本件は計画的な犯行だ」というのを『真実』だと思い込んでたけど、
実はその固定観念こそが、間違いだったのかもしれない。
――『本件が計画的な犯行だ』という視点で見るのではなく、
『本件は実は突発的な犯行だった』という視点でとらえれば、それは見えるかもしれないんだ。
それこそ、それによって見えるものが、おぞましい姿をしていたとしても――
――だとすると、問題となるのは、『どうして犯人はナイフと紐を持ち歩いていたのか』だ。
たとえ事実としては突発的な犯行だったとしても、前提として、犯人はナイフと紐を持ち歩いていたのだ。
そうでなければ、あのナイフと扉をつないだからくりを用意することは、できない。
――あらかじめ殺傷力を持つ凶器を携帯していた、ということは
とある人に、とてつもない恨みや、そういった負の感情を日頃から持っていたか、もしくは――
.
- 408 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:40:09
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(……もしくは……)」
(´・ω・`)「(ある計画のもと、最初からその人を殺そうと思っていた……?)」
そのとき、ショボーンの脳裏を、あの光景が掠めた。
アサピーから『真実』を聞いていたときのことだ。
(-@∀@)『それですがね……また、小声の会話がはじまって、私は聞き取りづらかったのですが……
シラヒーゲ館長が、言ったんですよ。
「最終的な判断は、モナー支配人とじきじきに交わしたい」と』
(-@∀@)『するとプギャー副支配人は、だ』
(-@∀@)『「俺は、副支配人だ。支配人がいないときは、俺が全権を握るんだからな」……そう言ったんです』
(´・ω・`)『…ッ』
(-@∀@)『当時は、ただプギャー副支配人の裏の顔が見えただけ……
そう思っていたのですが、モナー支配人の殺されたいま、
このセリフの意味が変わってくるように思えるのですよ』
(´・ω・`)『モナーさんが刺される前までは、この言葉は「俺を嘗めるな」程度にしか聞こえないのが……
. モナーさんが刺された今となっては、そんな意味じゃ、捉えにくい』
(-@∀@)『ええ。むしろ、こう聞こえるわけです』
(-@∀@)『 「支配人は、そのうち、俺がなるのだ」
……と』
(´・ω・`)『………ッ!!』
.
- 409 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:40:46
ID:w86D6G/w0
-
すると、ショボーンのなかに、新たな推理が顔を出した。
そうだ。ここに、このときからすでに因縁はあった≠フだ、と。
――犯人は、モナーさんを殺すことを前提にして、別の目的を果たそうとしてたんじゃないか?
プギャーさんだけでなく、これは美術品を守るという名目で、シラヒーゲさんにも言えることだ。
そして………
(´・ω・`)「(それは、モナーさん自身にも……言える……?)」
(´・ω・`)「……」
(;´・ω・`)「………ッ!!」
.
- 410 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:41:38
ID:w86D6G/w0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『陰でうわさされとるレベルなんですがねぇ……
モナーさん、例のグループにええように使われとるっちゅー話ですわ』
(´・ω・`)『例のって……』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『アンモラルグループ、ですよ』
(-@∀@)『おかしい。確かに、このホテルにアンモラルグループは企業を誘致したりしていますが……
ホテルとアンモラルグループとは、直接的な関係にはありません』
(-@∀@)『そこで私は私なりにスイリしてみたのですよ。
プギャー副支配人は、アンモラルグループになにか手をまわされたのではないか、と』
(´・ω・`)『! じゃ、じゃああの「裏取引」っていうのは……』
(-@∀@)『そうです』
(-@∀@)『アスキーミュージアムとWKTKホテル間……ではなく、
WKTKホテルとアンモラルグループ間で、裏取引があったのではないか――
そういう、意味です』
.
- 411 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:42:09
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(言えるとしたら……、…………あ)」
急にショボーンが黙ったかと思えば、急に態度が変わった。
先ほどまで、落ち着いていて、のーと対峙していたのが、だ。
突如として、その落ち着きが欠如されたように見えた。
(゚A゚* )「な…、どうしたん……?」
のーが、その様子を見かねて、声をかけたとき。
返事でも、応対でもなく、誰に言うでもない言葉を、ショボーンは発した。
.
- 412 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:42:49
ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「―――つ、つながった!! この事件の……《偽り》が…!!」
(゚、゚トソン「!」
(゚A゚*;)「な、なに? やからどーしたんって!」
道具を取り揃えた上で行われた、計画的な犯行。
犯行直前までゲームコーナーにいた、二人。
ヲタの見た、ゲームコーナーでの奇妙な光景。
そして――ヲタの感じた、違和感。
その、さまざまなロジックの一端が、ひとつにつながった。
そしてショボーンは、のーを視界の中央に据えて、ひときわ大きな声を放った。
(´・ω・`)「あなたが、いまここで取り調べを断る理由、わかりましたよ」
(゚A゚*;)「や、から、……ウチはいま、しんどいっちゅーか……」
(´-ω-`)「ああ。確かに、心が苦しいでしょう」
(´・ω・`)「刑事の前に、いると=v
(゚A゚*;)「ッ!!」
.
- 413 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:43:21
ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「下呂、のー」
(´・ω・`)「あんたを、緒前モナー殺人事件の犯人として、逮捕する」
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第八幕
「 二つの矛盾 」
おしまい
.
戻る