248 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:06:13 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 
 
 ショボーンは7Fにあがった。
 7Fにいる招待客は一人だけで、その人は7-Aにいる。
 5F、6Fとなんら変わらないフロアを歩くと、すぐにA室についた。
 ショボーンはこのときにして、ようやくフロア内の客室の配置を把握していた。
 
 7-Aの扉をノックして、少し待つ。
 しかし、反応がない。
 少し不審に思い、「ここであってたかな」と不安を募らせつつ、もう一度ノックする。
 
 しかし、それでも反応はない。
 いよいよ不安になって、ショボーンは声をかけながらノックをした。
 このフロアには、ほかに人はいない。
 周囲を気にせず、大きな声を発した。
 
 
(´・ω・`)「刑事のショボーンですが、いらっしゃらないのですかー」
 
 
 そこで、ショボーンはワカッテマスの言葉を思い出した。
 いくら客室を解禁したといっても、皆が皆そこに居座るわけではないのである。
 フォックスが浴場に向かったように、ほかの人も浴場に向かったり、気晴らしに散歩をしたり、というケースがありえる。
 
 事件現場であるバーと、フロアを同じくするレストランに自ら行きたがる人はいないとして、
 それでも2Fの浴場と3Fのゲームコーナーに行きたがる人はいてもおかしくない。
 特に、ヲタの場合がそうだ。
 
 と、そこでショボーンは、この部屋の主がヲタであることを考慮した。
 すると、彼は今頃ゲームコーナーに向かっている可能性が高いため、
 いつまでもここでノックしていては無駄ではないか――と思った。
 
 ――しかし、その予想ははずれた。
 なかにいたのは、ヲタではなかったのだ。
 ショボーンがひたすら声をかけた甲斐あって、それを面倒くさがった中の人が、ようやく反応を見せた。
 
 
.

249 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:06:47 ID:Vh.wwukY0
 
 
 扉が開かれる。
 中にいたのは、アサピーだった。
 
 
(-@∀@)「………ったく、なんなんですかさっきから! 私はレポートを作成してるのですよ!?」
 
(´・ω・`)「ああ、すみません。取り調べがまだなものでして――」
 
 アサピーは、やはりと言うべきか、荒れていた。
 それも、自分の仕事を妨害されたため、である。
 
 アサピーは記者としての義務や使命をまっとうする男である。
 そのためには、警察が相手であろうと全く臆するところを見せない。
 
 
(-@∀@)「緒前モナー殺人事件! 現地にたまたま居合わせた記者が綴る、実録二十四時!
        ……書くことが多すぎて、それどころじゃないんですよ!」
 
(´・ω・`)「……えっと、取り調べ…」
 
(-@∀@)「〜〜〜〜……たく!」
 
 
 ショボーンが眉をより垂らして言うと、アサピーは何かを考えたが、
 やがて、そう言っては扉を開いたまま、部屋の奥へと戻っていった。
 おそらく、ショボーンに入室を許可し、それをうながしているつもりなのだろう。
 ショボーンは「おじゃまします」と言って、おそるおそるなかに入っていった。
 
 アサピーにとって、レポート作成業務はどうやら自分の命よりも大切なのだそうである。
 しかし、そのエゴを貫いていると、なんだかんだと言って肩書きは刑事であるショボーンの手前、
 自分、及びその自分の勤める新聞社になにやらよろしくないことが起こるのではないか――
 
 そう考えたがゆえの判断だったのだろう。
 ショボーンとしては、別に取り調べができればどうでもよかった。
 
 
.

250 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:07:30 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 内装になにやら変わった点は見受けられなかったが、しかし床が散らかっていた。
 取材用の道具なのだろう、なにやら細工が加えられたカメラとマイク、そのレコーダー、
 そして何より、ガラステーブルの上にノートパソコンが置かれていた。
 
 アサピーはソファーに腰を下ろしては、テーブルが低いのもあって
 ずいぶんと前かがみになり、取り憑かれたかのように、タイプをはじめた。
 カタカタ、と、まるで何かが迫ってくるのかと錯覚しそうなほどの音が室内を支配する。
 機械に弱いショボーンは、その音を聞くだけで耳がキンキンと痛く感じられるようになった。
 
 少し狼狽して、ショボーンはアサピーの向かいのソファーに腰を下ろした。
 ノートパソコンから、マウスや電源を補給するアダプタなどのケーブルが伸びていた。
 それが気持ち悪くて目を逸らすと、今度はコンセントから伸びた、無線を飛ばすのであろう機械があった。
 ルーターというより、それはモデムではないかと思われるが、
 ショボーンはそもそも、それが無線を飛ばすものなのかどうかすらわからなかった。
 
 とにかく、アサピーはがんばってるんだなあ、それがショボーンの印象だった。
 タイピングの音が止まったかと思うと、アサピーは傍らに置いていたぼろぼろの手帳を手にとる。
 口ぐせなのか、「くそ」と事ある毎につぶやいており、今もそうつぶやいた。
 
 
 いつ切り出せばいいのだろう、と思うと、意外なことにアサピーのほうから口を切った。
 アサピーとしても、いつまでも目の前に刑事がいたら、迷惑なのだろう。
 先に用件を済ませようと思ったようだ。
 
 
(-@∀@)「―――で!」
 
(´・ω・`)「は、はい?」
 
(-@∀@)「おたく、なにか私に用なのでしょ? さっさと済ませてください!」
 
(´・ω・`)「取り調べをしたいんですが……」
 
 
.

251 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:08:09 ID:Vh.wwukY0
 
 
 ショボーンはそう言っては語尾を濁した。
 目で、アサピーのノートパソコンを見る。
 「作業を止めてもらわないと取り調べができない」と言いたいのだ。
 
 すると、アサピーは、意識といい視線といい手帳とパソコンの画面にしか向いていないはずなのに、
 作業を続けながらショボーンの言いたいことに返答した。
 
 
(-@∀@)「別に答えるのはコレしながらでもかまわないでしょ?
        訊きたいことがあればさっさと訊いてさっさと帰ってくださいよ。
        あなたは記者という善良な市民に世間の大事なニュースを届ける使命を
        持った一人の善良な人間に一方的に迷惑のひとつをかけるおつもりですか?」
 
( ;´・ω・)「(すごい……ぺちゃくちゃしゃべりながら作業できるのか……)」
 
 アサピーは、依然目まぐるしい速さで作業を続けながら、言う。
 その姿にショボーンは圧倒されたが、しかし話ができるなら、言われるとおりさっさと済ませよう、と思い至った。
 ショボーンとしても、この場にはいつまでもいたくなかったのだ。
 
 
(´・ω・`)「……そうですね。16時から18時頃までの、あなたの動向を……」
 
(-@∀@)「17時まではホテル内で記事になりそうなことを!
        17時から18時までは副支配人にお話を!
        それだけです! さ、お引き取りください! さもないと、出るトコに出ますよ!」
 
 アサピーはまくし立てるようにそう言って、脅迫まがいなことまで言った。
 おそらくアサピーとしてはただ報告書をまとめたいだけなのだろうが、
 それでもショボーンに刑事としての誇りを取り戻させるのには、充分な発言だった。
 
 圧倒されていたのも今は復活し、むしろ口角を吊り上げ、彼特有の笑みを浮かべた。
 アサピーはショボーンの顔には目もくれないで、ただひたすらキーボードを叩く。
 
 
.

252 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:08:51 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「アサピーさぁん、一応こちらもケーサツなんですよ。
.      いい加減なことを言うようでしたら、後日重要参考人としてコッチにきてもらいますよ」
 
(-@∀@)「ケーサツともあろうお方がキョーハクですか! 明日の一面、楽しみにして――」
 
(´・ω・`)「その前に、偽証をしたってことでこっちは連行もできるんだ」
 
(-@∀@)「……!」
 
 アサピーが一瞬、手を止める。
 しかし、それもコンマ数秒のことであった。
 ふん、と鼻を鳴らしては、すぐさま作業に戻る。
 
(-@∀@)「――おっと。あやうく、あなたの罠にひっかかるところでしたよ。
        最近の警察は、どうも善良な市民をだまして捜査を適当に進めることが多い」
 
(´・ω・`)「なに……?」
 
(-@∀@)「いいでしょう。なら、その証拠を聞かせてください」
 
(´・ω・`)「…?」
 
(-@∀@)「私が適当なことを言ってる――
        そうおっしゃりたいのであれば、それが嘘であることを証明してくださいよ」
 
 
 一応、アサピーもショボーンとは面識があるが、しかし友好的な感情は一切ない。
 ただ、スクープという名の飯とそれに喰らいつくハイエナ、という関係でしかなかった。
 
 そのため、アサピーもショボーンも、相手を思いやる――なんてことは、ほとんどないと言っていいだろう。
 平生ならばあるかもしれないが、このように互いに自分の仕事をまっとうするときなんかは、そうだ。
 
 
 そして、一度は記者のアサピーが押したが、今度は刑事のショボーンが押した。
 声色で脅しでもかけるかのように、力強くショボーンは言った。
 
 
 
(´・ω・`)「いいでしょう」
 
 
(-@∀@)「―――なんですって?」
 
 
 
.

253 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:09:42 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 思わず、アサピーは手を止める。
 今度は、一秒ほどは動かなかった。
 
 
(´・ω・`)「あなた、17時以降はずっとプギャーさんに取材していた、とおっしゃいましたね?」
 
(´・ω・`)「だが残念だ、その証言は真っ赤な嘘なんですよ」
 
(-@∀@)「……ッ」
 
 ショボーンは事件発生後、医療セットを持ってやってきたプギャーに話を聞いていた。
 そこで、プギャーは言った。
 
 
   (´・ω・`)『アサピーさんはどうやってあしらったのですか』
 
   ( ^Д^)『走って撒いたに決まってるじゃないですか。
         これでも俺、足には自信がありますから』
 
   (´・ω・`)『(あ、あの人から走って逃げられたのか……)』
 
 
 
(´・ω・`)「プギャーさんは、あなたを『撒いた』とおっしゃった。それも、17時以降の話です」
 
(-@∀@)「……きっと、私から取材されたのを隠しておきたかったのでしょう。
        あの人は、私の嗅ぎつけた『真実』を話すのを頑なに拒んでいらっしゃった。
        それは、ショボーン警部もご存じでしょう?」
 
(´・ω・`)「いや、それは通らない」
 
(-@∀@)「なんですって?」
 
 
.

254 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:10:19 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「17時以降、というのは、当然犯行時刻も含まれている。
.      もしほんとうにあなたからの取材を受けていたなら、
.      たとえ芳しくないことがあったとしても、確かなアリバイが成立する以上
.      素直に証言するはずなんですよ、『アサピーさんから取材を受けていた』と」
 
(´・ω・`)「しかし、いわば、そのアリバイを放棄してまでプギャーさんは『撒いた』と言った。
.      つまり、いま言った理由から、この証言も確かなものと断定できます。
.      よって、プギャーさんを取材していた、という今の証言は、真っ赤な嘘――偽り、だ」
 
(-@∀@)「……!」
 
 
 ショボーンの刑事としての実力が、発揮されるときだった。
 
 
(´・ω・`)「さあ、これであなたが適当な証言をした、と証明できた。
.      穏便に事を済ませたいなら、ちゃんと証言してもらいましょうか。
.      ……それも、あなたが日頃執着している『真実』で、ね」
 
 
(-@∀@)「………」
 
 そこで、アサピーは、黙った。
 完全に手が止まり、視線はショボーンのうつむき気味な顔に向けられている。
 
 そして
 
 
 
(-@∀@)「……………グッ」
 
(´・ω・`)「(……すかっとした)」
 
 
.

255 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:10:49 ID:Vh.wwukY0
 
 
 アサピーは、負けを認めた。
 再び手を動かし始めるが、その速度は、先ほどよりもだいぶ落ち着いている。
 少なくとも、ショボーンが逃げ出したくなるほどの音ではなくなった。
 
 
(-@∀@)「……さすがは、ショボーン警部だ。
        『真実』を追い求めるその力は、私でもなかなか及びませんね」
 
(´・ω・`)「違いますよ。『真実』……か、どうかは置いといて……
.      僕は、情報を求めるのがうまいわけじゃない」
 
 
 
 
 
(´・ω・`)「ただ、《偽り》を見抜く力があるだけです」
 
 
(-@∀@)「……そう、ですか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

256 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:11:19 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
    イツワリ警部の事件簿
    File.3
 
           (´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
               第六幕 「 おぞましい真実 」
 
 
 
 
 
.

257 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:12:01 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 
 
 アサピーは、偽りを見抜かれたことで、昂揚していた気分が冷やされたのだろう。
 すっかり、記者としてショボーンに食って掛かることはなくなった。
 
 
(-@∀@)「無礼を、お詫び申し上げます。
        レポートを優先したかった、その気持ちだけでも汲み取ってほしいところです」
 
(´・ω・`)「わかってますよ。では、本題に入らせてもらっていいですか」
 
(-@∀@)「わかりました。今日一日の行動、ですね?」
 
(´・ω・`)「関係のなさそうなことでも、事細かにお願いします」
 
 アサピーは、うなずいた。
 が、この落ち着きようから、先ほどのような適当な証言はないだろう、とこそ思うものの、
 それでも、ショボーンは不安だった。
 
 
 
.

258 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:12:39 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「私は一日中、取材続きでしたね」
 
(-@∀@)「ここにきたのは、朝9時過ぎ。朝一の、キタコレ行きの列車に乗りました」
 
( ;´・ω・)「あ、朝9時! すごい意気込みですね……」
 
(-@∀@)「? トーゼンでしょう。むしろ、交通網の都合で
        そんな時間からでないと取材をはじめられなかったのが残念です」
 
(´・ω・`)「キタコレに前日から泊まっておけば……」
 
(-@∀@)「これでも、私は忙しいのです。昨日は夜の3時まで仕事をしてましたね
        睡眠時間は二時間にも達していないと思います」
 
( ;´・ω・)「よ……3時! …二時間!!」
 
(-@∀@)「つまり、ワレワレ記者にとって時間とは大切、どころのものではないのですよ。
        今もそうだ。続きを言ってもいいですか」
 
( ;´・ω・)「あ、ハイ……」
 
 ごほん、と咳払いをして、アサピーは続けた。
 それも、作業を続けながらである。
 人間性はどうであれ、その仕事に費やす情熱はすばらしいものだ、とショボーンは感心した。
 
 
(-@∀@)「朝からはずっと、ホテル内をひたすら歩き回って、記事になりそうなものをメモ。
        そうですね、厳密に言えば、9時半すぎに――」
 
(´・ω・`)「すみません、16時くらいからの動向をお願いします」
 
(-@∀@)「そちらのほうが助かります」
 
 
 
.

259 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:13:17 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「16時頃から……ある場所で、あることを、ゴクヒで取材していましたね」
 
( ;´・ω・)「ちょ、ちょーっと待った!」
 
(-@∀@)「? なんですか」
 
(´・ω・`)「ちゃんと、言ってくれないと、困りますよ!
.      事件とは関係のない時間帯でも、ここらのことは把握しておきたいんです」
 
(-@∀@)「黙秘します」
 
(´・ω・`)「そう――え?」
 
 
 ショボーンは、どきっとした。
 取り調べ中にもっとも聞きたくない言葉を言われた気がしたからだ。
 
 
(-@∀@)「この取材は、ある意味、モナー殺人事件よりも興味深い、いわばトクダネです。
        いくらあなたからの取り調べだとしても、こちらとしてもそうやすやすと言うわけにはいきません。
        それに、事件とはまったく関連性がない、と思いますしね」
 
(´・ω・`)「(モナーさんはまだ死んでないんだけど……)
.      関係ないかどうかを決めるのは、僕です」
 
(-@∀@)「なにがどうであれ、黙秘することに何ら問題が?」
 
(´・ω・`)「………ぐ」
 
 
.

260 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:17:11 ID:Vh.wwukY0
 
 
 先ほどは鮮やかにショボーンが勝ったのだが、今度はアサピーが優勢だった。
 黙秘権は、当然、こういった取り調べでも適用されるのだ。
 
 そして、ショボーンの経験則でいうなら、黙秘されるトピックほど、
 事件に深く関わってくることのほうが多い。
 黙秘の理由の大半が、事件と自分が何らかの形で関わっており、
 言うと、なにか己にまずいことが起こるからだ。
 
 アサピーの場合、その理由から外れるようだが、
 しかし「トクダネ」と言われては、事件に関係ない、と言い切るほうが難しい。
 ひょっとすると、なにか、決定的な瞬間を見てしまったのかもしれないのだ。
 
 
 相手が言わないつもりなら、ショボーンのとることは、諦めだろうか。
 ――まったくの逆だ。
 ショボーンの場合、その内容を予測し、黙秘されるその内容を言い当てていくのだ。
 
 今回の場合、ヒントはある。
 まず先ほど、アサピーは言った。
 17時からは、プギャーに接触した、と。
 
 取材したことは嘘だったが、接触したことそのものはほんとうなのだ。
 それはプギャーの証言からして正しいし、ショボーン自身がその現場に遭遇している。
 
 ――そうだ、あのとき。
 そこまで記憶を辿らせると、ショボーンはあることに気づいた。
 
 
(´・ω・`)「(……そういえば、あのとき、アサピーさんはプギャーさんと一緒に……)」
 
(´・ω・`)「(階段を使って3Fにまでやってきていた=j」
 
 
 つまり、プギャーのときとまったく同じ推理をすればいいのだ。
 階段を使った、つまり、それまでは4Fにいた、ということ。
 5Fから、という可能性も否めないが、5Fは客室の集うフロアだ。考えにくいだろう。
 
 17時まで、喫茶店にいた。
 そして、プギャーを追いかけて、取材をしようとした――
 
 
(´・ω・`)「!」
 
 
 ―――ショボーンの脳内に散らばっていたロジックが、一本につながった。
 
 
.

261 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:24:45 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(´・ω・`)「わかりましたよ、『トクダネ』がなにか」
 
(-@∀@)「な……なに?」
 
 アサピーが動揺する。
 さすがに、そこまではわからないだろうと思っていたからだ。
 一方で、知られたら困る、という気持ちもあった。
 
 ショボーンは大きく息を吸う。
 キーボードを叩く音が響き渡るなか、その音だけは二人の耳に届いた。
 
 
 
 
(´・ω・`)「あなたは、シラヒーゲさんとプギャーさんとの会話を、盗み聞きしていましたね?」
 
 
 
(-@∀@)「……ッ!! どうして、それを……、……あっ」
 
(´・ω・`)「いまのがいい証拠です」
 
(-@∀@)「……当てずっぽうは、いけませんよ。
        ロンキョを示してください、確かなロンキョを」
 
(´・ω・`)「あなたは、プギャーさんに取材を試みながら、4Fに降りてきた。
.      つまり、降りる前、4Fにいたときからそうしていたと思われる」
 
(´・ω・`)「そして、問題は『どうして取材をしていたか』、だ。
.      少なくとも、ただホテルの話を聞きたかっただけではないことは確かだ」
 
(-@∀@)「なぜ」
 
(´・ω・`)「あの時の、ご自身の聞きっぷりを思い出してください」
 
 
 
   (-@∀@)『――とか言いながら、実は裏取引とか、そのたぐいでしょ?』
 
   ( ;^Д^)『ちょ、人いますから! やめてくださいって!』
 
   (-@∀@)『またまた、そうやって真実を隠――んん?』
 
   (´・ω・`)『げ』
 
 
.

262 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:25:43 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「―――ッ」
 
(´・ω・`)「これは、プギャーさんのとった何かの行動に対する、いわば追究です。
.      追究、つまり、アサピーさんはプギャーさんがなにかしたのを見て、こんな質問をしていた」
 
(´・ω・`)「そしてプギャーさんは、4Fをあとにする直前までは、喫茶店で
.      アスキーミュージアム館長のシラヒーゲさんと、話をしていました」
 
(´・ω・`)「あなたがこの件以外に追究できるトピックは、ない」
 
(-@∀@)「……、……」
 
 
 アサピーは反論しない。
 図星なのだろう、と考え、ショボーンは続けた。
 
 
(´・ω・`)「だとすると、説明が行くワードがあるんですよ」
 
(´・ω・`)「『裏取引』……最初はなんの話かと思ったが、この二人の話を盗み聞きしていたなら、合点がいく」
 
(´・ω・`)「美術品の提供。シラヒーゲさんがやや否定気味だったのを踏まえると、
.      プギャーさんはなにやら強引な手を使って話――いや、もう商談だ。商談を進めたんじゃないんでしょうか」
 
(´・ω・`)「そこから察するに、その商談を進めるさい、プギャーさんはなにか、
.      あなたの鼻を引くつかせるような、芳しくないことを言った」
 
(´・ω・`)「17時、商談が終わって帰ろうとするプギャーさんに、ここぞとばかりに食いついたのでしょう。
.      そうすると、全ての疑問に合点がいく」
 
(´・ω・`)「一方で、こんな証言もあります」
 
 
 
 
.

263 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:26:16 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 
   |;;;;| ,'っノVi ,ココつ『ワタシがこの喫茶店に入るときにね、陰に人のケハイっちゅーの、感じたんですわ』
 
   ( <●><●>)『はあ』
 
   |;;;;| ,'っノVi ,ココつ『で、この人も、ワタシが来る少し前まではプギャーさんと話しとったんですが、
               どーやら人のケハイを感じてたみたいなんですよ』
 
   |;;;;| ,'っノVi ,ココつ『なるほど、あの記者が隠れておったか。そりゃー感じるわ、ケハイ』
 
 
 
 
 
(´・ω・`)「『ケハイ』と一言に言いますが、二人が同じ証言をしている以上、
.      おそらく呼吸音や布擦れの音が聞こえていた、と考えるほうが自然でしょう」
 
(-@∀@)「………」
 
(´・ω・`)「さあ、以上が根拠です。わかっていただけましたか?」
 
(-@∀@)「…………」
 
 
 
 
.

264 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:26:48 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「……そこまで、わかっておられるのですか。
        しかし、私としたことが、ケハイを察知されるとは」
 
(´・ω・`)「観念していただけましたか?」
 
 
 ショボーンが、勝った、と思って、得意げに聞く。
 
 しかし、それは見当違いだった。
 
 
(-@∀@)「別に、それはいいんですよ」
 
(´・ω・`)「…え?」
 
(-@∀@)「ほんとうは、この二人の密談そのものを知られたくなかったのですが……
        別に知られても、そこまでこのスクープに支障はきたされない。
        問題は、その内容、ですからね。
        ……そういえば、モナー支配人の話も、密談にあがっていたような気がしますが……」
 
(´・ω・`)「…!」
 
 その言葉に反応し、ショボーンが身を乗り出す。
 それを読んでいたようで、アサピーは淡々とした様子で釘を刺した。
 
 
(-@∀@)「しかし、それでも教えません」
 
(´・ω・`)「なぜ!」
 
(-@∀@)「モナー支配人の話も挙がっていましたが、
        それと犯行とが結びつくとは、思えなかった。
        証言するに、何ら値しませんね」
 
(´・ω・`)「それを判断するのは――」
 
(-@∀@)「それは結果論の話だ」
 
(´・ω・`)「ッ」
 
(-@∀@)「結果論的それが値するだの、しないだの、もはや関係ないのですよ。
        私は、このスクープに価値が失われるのだけは、阻止しなければならない。
        そのため、私は黙秘権を行使します」
 
(´・ω・`)「……くそっ」
 
 
.

265 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:27:22 ID:Vh.wwukY0
 
 
 ショボーンは、勝った、と思っていた。
 しかし、結果的に言えば、最初から勝っていなかったのだ。
 アサピーに黙秘権を行使させる以上、その話を聞きだすことはできない。
 
 最初は、それでも、アサピーの動きさえわかればいい、と思っていた。
 しかし、「トクダネ」にモナーが関わるのであれば、聞き逃すわけにはいかない。
 ショボーンはどうしたものか、と思った。
 
 
 アサピーは平静を取り戻したようで、再び作業の速度をはやめた。
 もう一度、室内にショボーンの嫌いな音が鳴り響く。
 それが、ショボーンに冷静な判断を下させるのを妨害した。
 
 そこでショボーンは、ため息をついた。
 投げやりになって、アサピーに、世間話でもするかのように話しかけた。
 
 
(´・ω・`)「そうですか……それではしかたがありません」
 
(-@∀@)「わかっていただけましたか。
        いやはや、おかげで助かりましたよ。
        この事件が終わって無事帰れたら、すぐに記事を書かないといけないので――」
 
(´・ω・`)「一応、あなたも容疑者の一人なんですけどね……」
 
(-@∀@)「      」
 
(´・ω・`)「……? アサピーさん?」
 
 
 ――すると、急に、アサピーが固まった。
 手も、視線も、その気味の悪い笑みも、全てがぴたり、と止まった。
 かすかに、呼吸する音だけは聞こえる。
 
 ただでさえ気味が悪かったのが、よけいに気持ち悪く思えたため、ショボーンは声をかけた。
 
 
.

266 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:28:10 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「ど、どうし――」
 
(-@∀@)「は、ハハ――しょ、ショボ…ン警部も、なかなか……ごジョーダンがお上手で」
 
(´・ω・`)「は? いや、冗談なんて、ぜんぜん……」
 
 
             カ ワ
 すると、アサピーは豹変った。
 
 
 
(;-@∀@)「よ、ヨーギシャ!? この、私が!?」
 
(;-@∀@)「ちッ違う!! 私は、なにもしてない! ただ、取材をしていただけなんだ!」
 
(;-@∀@)「確かにアリバイはないが――で、でもですね!」
 
(;-@∀@)「殺人事件を取材することはあれど、殺人事件を引き起こすことなんて、ゼッタイ!」
 
(;-@∀@)「ゼッタイに、ありえません!! この、私が!」
 
 
(´・ω・`)「……あ、アサピーさん?」
 
(;-@∀@)「もしかして、犯人が捕まらなかったら、明日もあさっても、
       ケーサツの皆さんが私のもとに――ひいては、本社のほうにまでやってきたりするのですか!?」
 
(´・ω・`)「え、ええと……まあ、そーなるでしょうね」
 
 
 直後、作業することを完全にやめて、ショボーンの足元に飛びついた。
 懇願でもするかのように、アサピーはショボーンにすがりつく。
 
 
.

267 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:28:52 ID:Vh.wwukY0
 
 
(;-@∀@)「わッ私はなにもしてないぞ! ほんとうだ、記者生命に誓って!!」
 
(´・ω・`)「そー言われましても……」
 
(;-@∀@)「わるいジョーダンだ! 私がいない朝曰新聞社に、未来はないんですよ!」
 
(´・ω・`)「はあ」
 
(;-@∀@)「はやく――そ、そうだ、明日には帰るつもりなんだ。
       今日中に、事件を解決してくださいよ! ショボーン警部っ!!」
 
 
(´・ω・`)「でしたら、スクープのことを僕に話してください」
 
(;-@∀@)「え……?」
 
 
 
(´・ω・`)「一刻でもはやく、犯人逮捕を願うのであれば」
 
(´・ω・`)「我々警察を信用して、ご協力ください」
 
(´・ω・`)「……それが、善良な市民の、ギムです」
 
 
 
.

268 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:29:26 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(-@∀@)「……!」
 
 
 「義務」と聞いて、アサピーの顔は、またも豹変った。
 しかしそれは、より険悪なものになったわけではなく、その逆である。
 
 アサピーはぽかんとした顔をして、数秒後、ばつの悪い顔をした。
 たとえそうだとしても、アサピーとて、簡単にはスクープを渡すわけにはいかない。
 一方で、犯人逮捕に貢献しなければ、記者としての活動に大きな支障が生まれる。
 
 だから、その葛藤に悩まされたのだ。
 
 
 
(´・ω・`)「おわかり、いただけましたか?」
 
(-@∀@)「………」
 
(´・ω・`)「……」
 
 
 
(-@∀@)「わかりました。お話し、しましょう」
 
(´・ω・`)「!」
 
(-@∀@)「しかし、ゼッタイに、口外無用です」
 
(-@∀@)「犯人確保のさいに、どーしても、どぉぉーしても言わなければならないとき以外。
        そのとき以外では、ゼッタイにこのことを言っちゃあだめです」
 
(-@∀@)「いまから話すのは、ショボーン警部を信用しての、証言です」
 
(´・ω・`)「……感謝します」
 
(-@∀@)「では、一度しか言わないので、聞いてください」
 
(´・ω・`)「はい」
 
 
 
 ショボーンがうなずくと、アサピーは元いた場所に戻った。
 深刻な顔のまま、ぽつり、ぽつりと取材内容を漏らしていった。
 
 
 
.

269 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:30:02 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「まず最初に……ショボーン警部」
 
(´・ω・`)「はい」
 
(-@∀@)「今回の事件ですが――プギャー副支配人が、アヤシイですよ」
 
(´・ω・`)「…! なぜ――」
  
(-@∀@)「私は、おっしゃるとおり、喫茶店にて、
        プギャー副支配人とシラヒーゲ館長の密談を聞いておりました」
 
(-@∀@)「内容によれば、どうやら、シラヒーゲ館長が美術品を提供するかどうかで
        両者の要求が、みごとに食い違っていたようです」
 
(´・ω・`)「っ!
.      (シラヒーゲさんの言い分と違うぞ……)」
 
(-@∀@)「一応、その場に居合わせたわけではないので、
        小声で話されたことは聞き取りにくかったのですが――」
 
(-@∀@)「なにやら、奇妙なことを話されてましたね」
 
(´・ω・`)「奇妙、と」
 
(-@∀@)「ええ。WKTKホテルとアスキーミュージアムとの取引のはずなのに、
        どうしてか、関係ないはずの存在の名があげられたのですよ」
 
(´・ω・`)「……! それって、もしかして…」
 
(-@∀@)「その予想とあってるかはわかりませんが……」
 
 
 一呼吸置いて、アサピーは言った。
 結果的に、そのショボーンの予想はみごとにあっていた。
 
 
 
(-@∀@)「アンモラルグループですよ」
 
(´・ω・`)「(やっぱり……か)」
 
 ショボーンの胸に、なにか熱いものが宿る。
 それに気づかず、アサピーは重苦しい様子で続けた。
 
 
.

270 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:30:32 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「しかも、そのアンモラルの名は、プギャー副支配人のほうから放たれていた」
 
(-@∀@)「どうやら、アンモラルを笠に、取引を有利に進めようとしていたみたいです。
        ワレワレの背後にはアンモラルグループがついている、みたいな感じでした」
 
(´・ω・`)「しかし、アスキーミュージアムはあくまで国営だ。
.      その名を出したところで、シラヒーゲさんには――」
 
(-@∀@)「私もそう睨みましたが、ですね。
        ここでシラヒーゲ館長は反論しました。
        すると、プギャー副支配人は、もっと奇妙なことを口走ったのですよ」
 
 
 
(-@∀@)「『アンモラルグループに逆らうと、どうなるかわかっているのか』」
 
 
 
(´・ω・`)「……なに?」
 
 ショボーンがけわしい顔をした。
 訝しげに思う気持ちは、アサピーも一緒のようだ。
 
 
(-@∀@)「おかしい。確かに、このホテルにアンモラルグループは企業を誘致したりしていますが……
        ホテルとアンモラルグループとは、直接的な関係にはありません」
 
(-@∀@)「そこで私は私なりにスイリしてみたのですよ。
        プギャー副支配人は、アンモラルグループになにか手をまわされたのではないか、と」
 
(´・ω・`)「! じゃ、じゃああの『裏取引』っていうのは……」
 
(-@∀@)「そうです」
 
 
 
(-@∀@)「アスキーミュージアムとWKTKホテル間……ではなく、
        WKTKホテルとアンモラルグループ間で、裏取引があったのではないか――
        そういう、意味です」
 
 
.

271 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:31:03 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(´・ω・`)「(どういうことだ……?)」
 
(-@∀@)「確かに、このホテルに人気のある美術品を提供させることができれば、より集客が望める。
        4Fのフードエリアといい、ギフトショップや自販機で取り揃えられている商品といい、
        このホテルのいたるところにアンモラルグループの手が回されているわけなのだから、
        より大きな集客を成功させれば、その分アンモラルグループの宣伝効果も増すわけです」
 
(-@∀@)「もしこれが真実だとするならば、これほど大きなスクープはない。
        期待の大型ホテル、WKTKホテル。国際的に名を馳せている、アンモラルグループ。
        その両者に、後ろ暗いところがあった、ということなのですから」
 
(´・ω・`)「……ほう」
 
 ショボーンはそこで、いったん状況を整理した。
 今しがた話された「真実」を、自分なりに解釈する。
 アンモラルグループ――それが、いったいどのようにこのホテルと関係しているのか、を。
 
 そして、その「裏取引」に対応したのはプギャーだが、あくまで支配人はモナーだ。
 ひょっとすると、そのこととなにか関係があるのではないか――
 
 そこで、ショボーンはあることに気づいた。
 アサピーの話を聞いていても、どこにもモナーの名が出てこないからだ。
 それを訊くと、アサピーは少しうつむき、めがねを中指で支えた。
 
 
(-@∀@)「それですがね……また、小声の会話がはじまって、私は聞き取りづらかったのですが……
        シラヒーゲ館長が、言ったんですよ。
        『最終的な判断は、モナー支配人とじきじきに交わしたい』と」
 
(-@∀@)「するとプギャー副支配人は、だ」
 
 
 
(-@∀@)「『俺は、副支配人だ。支配人がいないときは、俺が全権を握るんだからな』……そう言ったんです」
 
 
 
.

272 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:31:40 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「…ッ」
 
(-@∀@)「当時は、ただプギャー副支配人の裏の顔が見えただけ……
        そう思っていたのですが、モナー支配人の殺されたいま、
        このセリフの意味が変わってくるように思えるのですよ」
 
(´・ω・`)「モナーさんが刺される前までは、この言葉は『俺を嘗めるな』程度にしか聞こえないのが……
.      モナーさんが刺された今となっては、そんな意味じゃ、捉えにくい」
 
(-@∀@)「ええ。むしろ、こう聞こえるわけです」
 
 
 
(-@∀@)「 『支配人は、そのうち、俺がなるのだ』 ……と」
 
 
(´・ω・`)「………ッ!!」
 
 
 
 
 ――ショボーンの肌を、稲妻のようなものが走った。
 これではまるで、犯行動機を自ら語っているようなものではないか、と。
 
 むろん、これが犯行を証明するわけではない。
 むしろ、いまの話のどこにも、プギャーが犯人だ、という証拠などない。
 
 だが、捜査を進める上で、これはこの上ない証言となった。
 少々遠回りをしたが、これは大きな収穫だ――と、ショボーンは思った。
 
 
.

273 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:32:15 ID:Vh.wwukY0
 
 
(-@∀@)「まあ、あくまで記者としての予想ですが、ね」
 
(´・ω・`)「……」
 
(-@∀@)「どうされましたか」
 
 
 胸に熱いものを感じつつ、ショボーンは答える。
 
 
(´・ω・`)「貴重なお話、ありがとうございます。捜査の役にたちそうです」
 
(-@∀@)「当然。私の独占スクープ、なんですからね」
 
(´・ω・`)「それはそうと……アサピーさん」
 
(-@∀@)「まだなにか」
 
 アサピーが、半ば面倒くさそうに言う。
 だが、ショボーンは一つ、どうしても気になっていたことがあったのだ。
 ショボーンの声は、徐々に、重苦しくゆっくりなものとなった。
 
 
.

274 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:34:50 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(´・ω・`)「あなたにとって……『真実』とは、なんですか?」
 
(-@∀@)「……なぜ、それを」
 
(´・ω・`)「実を言うと、僕は、そちらさんの出す記事を好ましく思っていない。
.      ゴシップ同然の、一方的な憶測と批判しか書かれてないではないか、と」
 
(-@∀@)「………」
 
(´・ω・`)「これは、詩的に言うなら、『真実』への冒涜だ」
 
(´・ω・`)「しかし、あなたの仕事にかける熱意を見ても、今の話を聞いても、だ。
.      ……まったく、そんな様子がうかがえないのです」
 
(´・ω・`)「『真実』を追い求め、それを市民に届ける働きは、それこそが『真実』なのだから」
 
(-@∀@)「…………」
 
 
(´・ω・`)「だから、捜査とは関係ないですが……教えてくれませんか」
 
(´・ω・`)「あなたにとっての、公表することに使命と義務を覚える『真実』とはなにか、を」
 
 
 
.

275 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:35:23 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(-@∀@)
 
(-@∀@)「……記者としていろんな質問をすることはありますが……」
 
(-@∀@)「そのような質問を、しかも私のほうがされたというのは、未曾有のことですね」
 
(´・ω・`)「……」
 
 
(-@∀@)「『真実』、ですか」
 
(-@∀@)「私が本社の代表となって言ってよろしいのなら、こう言いますね」
 
 
 
(-@∀@)「真実とは、イビツな紙粘土だ」
 
 
 
(´・ω・`)「……かみ、ねんど………」
 
 
.

276 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:38:11 ID:Vh.wwukY0
 
 
 ショボーンが、息を呑む。
 アサピーの、「アサピー」に見られなかった一面が見られたからだ。
 
 
(-@∀@)「私たち記者は、真実を公開するのが仕事ですが……」
 
(-@∀@)「その、公開されるべき真実は、そのままではひどく醜い」
 
(-@∀@)「政治家の汚職事件、教育現場における体罰、産地偽装のされた肉……
        とても、そのままだと公表すらできない、おぞましいものだ」
 
(-@∀@)「紙粘土は、それをこねて、美術品のように形を整わせて遊びますよね?
        私たちがやっていることは、それとなんら変わりません」
 
(-@∀@)「真実という、醜い紙粘土をこねて、形を整え、きれいにする。
        そうしてできたものを、公表するのですから」
 
(´・ω・`)「……」
 
(-@∀@)「しかし、あなたがおっしゃるようにそれを好く思わないのは、
        こねてできあがったソレが、ただお気に召さないだけか――」
 
 
 
(-@∀@)「……形にこだわりすぎて、紙粘土としての本質を失ってしまったのか。
        その、どちらか、でしょう」
 
(´・ω・`)「!」
 
 
 
 それを聞いて、ショボーンは、二つのことに驚いた。
 ひとつは、その表現を聞いたため。
 
 もうひとつは、アサピーの声が、明らかに日頃と比べ、低くなっていたため、だ。
 平生のアサピーは、鼻にかかったような、やけに高い声をしている。
 
 
.

277 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:38:42 ID:Vh.wwukY0
 
 
 それを自覚していたのか、アサピーは再び、手を動かし始めた。
 手帳に目を遣ったりもしている以上、再び報告書をまとめはじめたのだろう。
 
 まだだんまりとしているショボーンを物音のしない現状から判断して、
 アサピーは邪魔者でも扱うかのように、不機嫌な声を発した。
 
 
(-@∀@)「……お話しできることは、以上です」
 
(´・ω・`)「そう、ですか」
 
(-@∀@)「私は、やっていない。17時からは、いま話した『トクダネ』を文字におこしていました。
        プギャー副支配人に逃げられたので、ゲームセンターの傍らにコレを広げて」
 
 そう言って、ノートパソコンを顎で指す。
 ショボーンは「そんなもの持ち歩いていたのか」と思ったが、この男ならやりかねない。
 
 
(-@∀@)「誰とも会わなかった――というより、ずっとコチラに集中していたので、
        あの人と会った、とか、そういうことはまったくわかりません」
 
(´・ω・`)「ゲームコーナーのなかを覗いたりは」
 
(-@∀@)「さっぱり」
 
(´・ω・`)「でも、あそこ、うるさいでしょ。レポート、書けたんですか?」
 
 すると、アサピーは自慢げに言った。
 
 
(-@∀@)「キーボードを叩き始めて一分もすれば、まわりの音なんて聞こえなくなりますよ」
 
 
 
 
 
.

278 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:41:30 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 アサピーの取り調べは、結局、そこで終わった。
 7-Aを出て、8Fにエレベーターで向かいながら、ショボーンは思索にふける。
 
 アサピーのアリバイは、ない。
 ゲームコーナーの休憩スペースにいたと言っているため、
 もしかするとほかの誰かがその様子を目撃しているかもしれない。
 もしそうとわかれば、確証はないが、おそらくアサピーも犯人ではないだろう。
 ショボーンはそう考えたところで、次のステップへと思考を進めた。
 
 では、誰であれば彼を見ている可能性があるか。
 その答えは、まっさきに出た。
 格闘ゲーマーの、ヲタだ。
 
 彼は、ゲームコーナーにずっといる、と言っていた。
 そのさい、ジュースなんかを買ったりすることもあるだろう。
 そのときに、ひょっとするとアサピーを見ていたかもしれない。
 
 一方で、ヲタに対する取り調べは、進んでいない。
 ワカッテマスは、ガナーの証言からすると、
 一度ホールで集まったさい、マリントンとともに倉庫に足を運んでいた。
 そのため、取り調べに関しては期待できなかった。
 
 
 次のターゲットが決まった、と思い至ったところで
 ちょうど、8-Iの部屋にたどり着いていた。
 残るは、ヲタとシラヒーゲとのーである。
 後者二人の取り調べはショボーン自ら行っているため、実質的に、あと一人だった。
 
 
.

279 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:43:32 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「すみませんが、お話を――」
 
 
 ノックしながら訪ねると、思いのほか、すぐに反応がきた。
 扉の鍵を開ける音が聞こえたのだ。
 まるで、ショボーンの来訪をあらかじめわかっていたかのように。
 
 なかから顔を出したのは、脂ぎった、量の多い髪が中分けされている男性だった。
 顔に浮かべる脂汗といい、にきびといい、めがねといい、唇の太さといい、身体の大きさといい、
 ショボーンが求めていたヲタ、その人だった。
 
 
(∴)◎∀◎∴)「……?」
 
(´・ω・`)「ど、どーも。ショボーンですが」
 
(∴)◎∀◎∴)「……」
 
 
(∴)◎д◎∴)「………!」
 
(´・ω・`)「?」
 
 
 だが、ヲタは、どこか挙動が変だった。
 来訪者がショボーンとわかった途端、その力の籠もった笑みは、とたんに消えてしまった。
 なにがあったのかわからず、ショボーンは首を傾げる。
 
 
(∴)◎д◎∴)「……では」
 
(´・ω・`)「はい―――え」
 
 
 
( ;´・ω・)「―――ちょーっと待った!!」
 
(∴)◎д◎∴)「小生は貴殿が嫌いヲタ」
 
( ;´・ω・)「それはどーも……って、だから閉めるな!」
 
 
.

280 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:44:27 ID:Vh.wwukY0
 
 
 ヲタは、ショボーンの話に応じようとせず、扉を閉めにかかった。
 すぐさまショボーンの半身がそれを防ぐ。
 苦笑いと汗を浮かべながら、ショボーンはそれを制止した。
 ヲタは、どこか迷惑そうな顔をする。
 
(∴)◎д◎∴)「きッ貴殿じゃないヲタ! 帰ってほしいヲタ!」
 
(´・ω・`)「……? 誰か、待ち人が?」
 
(∴)◎д◎∴)「…! ちちち違うヲタ! だから帰るヲタ!」
 
(´・ω・`)「(誰か待ってたんだな。どーでもいいけど)」
 
 
(∴)◎д◎∴)「困るヲタ、帰るヲタ!」
 
(´・ω・`)「取り調べを拒むなら、後日、署にきてもらいますが」
 
(∴)◎д◎∴)「! それも困るヲタ!」
 
(´・ω・`)「では、僕をなかに入れて、取り調べをさせてください。実は、けっこう痛いんです」
 
(∴)◎∀◎∴)「………わ、かった……ヲタ。どうぞ」
 
(´・ω・`)「失礼」
 
 
 ショボーンは、胸の骨のあたりを撫でながら、中に入った。
 
 
 
 
 
.

281 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:45:03 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 もう、内装を見るまでもない。
 ショボーンはうながされる前に、自ら進んでソファーに座った。
 ヲタが虚を衝かれたような顔をするが、ショボーンは気にしないで、背もたれに体重をかけては腕を組んだ。
 
 その不遜すぎる態度を見て、ヲタはいっそうショボーンのことを悪く思うようになったが、
 一方でショボーンも、今の扉の件でヲタに対する心証が悪くなったところであった。
 
 落ち着きのない様子で、ヲタも向かいのソファーに座る。
 ガラステーブルの上にはなにもない。
 そのことに妙な違和感を覚えたが、気に留めなかった。
 
 
(∴)◎∀◎∴)「用は……何ヲタか」
 
(´・ω・`)「モナーさんが刺されたことは、ご存じですよね」
 
(∴)◎∀◎∴)「小生を疑ってるヲタか?」
 
(´・ω・`)「無実と証明できるわけではないですが、疑っているわけでもない」
 
(´・ω・`)「そのどちらに傾くかを知るために、お話ししていただきたいのです」
 
 ショボーンがやんわりと言う。
 だが、それのどこにトゲを見つけたのか、ヲタは逆上した。
 
 
(∴)◎д◎∴)「え、小生は、ずっと、JKFをしてたヲタよ! 貴殿も見たでござろう!」
 
(´・ω・`)「JK…F?」
 
(∴)◎д◎∴)「『JKファイター』の略だヲタ」
 
(´・ω・`)「(うすうす感づいてたけど……キタコレ、略語多いな)」
 
 
 
.

282 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:45:55 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(∴)◎д◎∴)「ささッ、刺されたのは、バーなのでござろう!?
           小生には犯行は不可能だヲタ!」
 
(´・ω・`)「ええ、犯行現場は11Fのバーです。
.      しかし、どの階にいようと、3分もあれば刺すだけならできるのですよ」
 
(∴)◎д◎∴)「ヲタァァ!?」
 
 それが意外だったのだろう、ヲタは露骨に驚いた。
 ひょっとして、自分の容疑を否定するがあまり、ほかのことはなにも考えていないのではなかろうか。
 ショボーンは、ふとそう思い、哀れんだ目をした。
 
(´・ω・`)「エレベーターがあるじゃないですか」
 
(∴)◎∀◎∴)「…!」
 
(´・ω・`)「11Fにあるエレベーターを1Fに呼び寄せてから11Fにいく――
.      そんな無駄な時間がかかることを踏まえても、5分だ。5分あれば、刺すだけならできる」
 
 
 そしていよいよ、ショボーンの姿勢が前かがみになる。
 そのときの眼は、一度相手を捕らえると逃がさない、鷲のそれに似ていた。
 
 
.

283 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:46:35 ID:Vh.wwukY0
 
 
(∴)◎д◎∴)「だッだがしかしィ、小生はずっと、JKFをしていたのであってェ!」
 
(∴)◎д◎∴)「小生はァ…王者であるぞッ! そしてJKFは、ファンの間でずっと復活を望まれた、名作!」
 
(∴)◎д◎∴)「小生がJKFをし続けていた、と、信頼に足る証言ではなかろうか?!」
 
(´・ω・`)「……ちなみに、僕たちとあの筐体の前で会ってから18時まで、一度も、その場を動いてないですか?」
 
(∴)◎д◎∴)「…………当然ッッ! 至極、当然ッ! 自然の摂理である!!」
 
 
(´・ω・`)「(興奮して、性格……いや、『キャラ』が変わったか)」
 
(´・ω・`)「(まあ、いい。この証言……明らかな偽りがあるから、そこを衝くとしよう)」
 
 興奮して、いまにも掴みかかりそうな勢いでまくし立ててくるヲタを前に、
 ショボーンはただ冷静に、いまの証言を分析していた。
 まあ、今回の場合、分析するまでもなかったが――
 
 
(´・ω・`)「ヲタさん、あなた、疑われたくないのですよね?」
 
(∴)◎д◎∴)「当然ッッ! 至極、当ぜ」
 
(´・ω・`)「なら、偽りの証言をされちゃあ困るわけですよ」
 
(∴);◎д◎∴)「………ヲタ?」
 
 
 ヲタが一瞬、興奮を忘れて素に戻る。
 ショボーンは、それを好機と見た。
 
 
.

284 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:47:05 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「僕たち、あそこで何回会いましたっけ」
 
(∴)◎д◎∴)「……一度きり、じゃ……」
 
(´・ω・`)「うん、そう。合ってるよ」
 
(∴)◎д◎∴)「じゃあ、何が問題なんでござろう?!」
 
(´・ω・`)「問題は、だね」
 
 
 
(´・ω・`)「僕たちは、あのあと、もう一度ゲームコーナーに行ったってことだよ」
 
 
 
(∴)◎д◎∴)「………」
 
(∴);◎д◎∴)「ヲタァァアアアアアア!?」
 
 
(´・ω・`)「時刻は、確か17時20分頃」
 
(´・ω・`)「例の筐体のほうを見たんですが……あれ、おっかしいなあ」
 
(´・ω・`)「いなかったんですよ、『ずっとゲームをしてた』と言ってる人が」
 
(∴);◎д◎∴)「…! ……ッ!!」
 
 
.

285 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:48:04 ID:Vh.wwukY0
 
 
 ヲタが、動揺する。
 なにか、あるな――自然のうちに、ショボーンはそう推理した。
 
 フォックスといい、アサピーといい
 隠そうとするトピックにはだいたい、事件と密接に関わる証言が隠されている。
 ショボーンとしては、なんとしてでも、「ヲタが筐体から席を外した理由」を掴んでおきたかった。
 
 
(∴)◎д◎∴)「それと犯行と、なんの関係もないのではなかろうか!」
 
(´・ω・`)「わからないの? 17時20分だよ?」
 
(∴)◎д◎∴)「………」
 
(∴);◎д◎∴)「………あっ!!」
 
 
(´・ω・`)「そう。犯行時刻は多めに見積もって17時半から18時までの間……」
 
(´・ω・`)「あなたがいなかった時間と犯行時刻とが、みごとにかぶるのですよ!」
 
(∴)◎д◎∴)「異議ありッ!!」
 
(´・ω・`)「へ」
 
 
 ヲタはいきなり、ガラステーブルを手のひらで叩いて、左の人差し指でショボーンを突きつけてきた。
 唐突にしてあまりの奇行を見せ付けられ、ショボーンは一瞬、勢いを忘れ、きょとんとしてしまった。
 
 
(∴)◎д◎∴)「犯行時刻は、30分から。小生が席をはずしていたのは、20分前後。
           そして、どこの階にいても、せいぜい5分あれば犯行が可能……
           しかし貴殿は、『みごとにかぶる』と言った!」
 
(∴)◎д◎∴)「これは、明らかにムジュンしています!」
 
(∴)◎д◎∴)
 
(∴)◎∀◎∴)
 
 
.

286 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:48:34 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「(勢いのいいわりには、しょぼい反論だな……)」
 
(´・ω・`)「えー…オホン。さっきの話、聞いてました?」
 
(∴)◎д◎∴)「……え?」
 
(´・ω・`)「5分もあればどの階にいても〜ってのは、ただ『刺すだけの犯行』だったら、の話だ」
 
(´・ω・`)「あなたは、バーに向かってモナーさんと会ったと同時に刺す、とでも?」
 
(∴)◎д◎∴)「しょッしょしょ、ショーセイは、刺してないヲタ!
           そもそも、刺す理由がないヲタ!」
 
(´・ω・`)「そう、問題は動機ですよ」
 
(∴)◎д◎∴)「!」
 
 
(´・ω・`)「その『刺す』という行為にいたるまでの、なにかのキッカケを生むか、もしくは話をする…その、時間。
.      それを考えると……あなたの先ほどの反論は、むしろ逆になるわけですよ」
 
(´・ω・`)「『犯行時刻は、30分から。小生が席をはずしていたのは、20分前後。
.      そして、どこの階にいても、せいぜい5分あれば犯行が可能……』
.      ――だからこそ、ぴったり時間と合うのだ、と!」
 
(∴);◎д◎∴)「ヲタアアアアアアアアアアアッッ!!」
 
(´・ω・`)「(……さわがしいな)」
 
 
 おほん、とショボーンは咳払いをした。
 どうも、ヲタのような、どこかがズレている人に取り調べをするのは苦手のようだ。
 先ほどのアサピーの時点で、それは痛感させられていたのだが、ヲタは更にその上を行っていた。
 
 
.

287 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:49:16 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「……さて。ほんとうのことを話してもらいましょう」
 
(´・ω・`)「ずっとゲームをすると言っていたのに、どうして17時20分頃、あなたはいなかったのか……?」
 
 
 神妙な口ぶりで、訊く。
 ヲタは、この刑事にこれ以上「ずっとゲームをしていた」で押し通すのは難しいだろう、と判断した。
 そうすると、逮捕されそうな――そんな気がしたのである。
 
 そのため、存外早く、観念したのか、口を開いた。
 
(∴)◎д◎∴)「……う…え」
 
(´・ω・`)「?」
 
 
(∴)◎∀◎∴)「両替機……が、壊れていたヲタよ」
 
(´・ω・`)「(『キャラ』は戻った、か)
.      ほう、両替機が」
 
(∴)◎∀◎∴)「やっとブランクを埋められた、って矢先でこれだヲタ。
           だから、店員を見つけて、クレームついでに
           両替機を直してもらうか両替してもらおうと思ったんだヲタ」
 
(∴)◎∀◎∴)「そのとき、たまたま貴殿がきただけであるからに……」
 
(∴)◎∀◎∴)「………でも、店員はいなかった……し、
           パーティのこともあったから、小生はそのままパーティ会場に向かった……」
 
 
(∴)◎д◎∴)「…………それだけ、ヲタ」
 
(´・ω・`)「………」
 
 
.

288 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:49:52 ID:Vh.wwukY0
 
 
 ショボーンが、少し黙る。
 いまの話は、一見、もっともらしく聞こえた。
 
 ヲタの、ゲームにかける思いは強い。
 長らくアーケード版がなかったため、それに慣れようとゲームをし続けるのにもうなずける。
 そして、だからこそ両替をするのも、おかしい話ではない。
 両替機を直してもらおうと店員を探すことなど、至極当然の話だろう。
 加え、このホテルに店員なんて存在しない。
 
 
 ――しかし、ショボーンは。
 この話を聞いて、まったく「もっともらしい」とは思わなかった。
 
 
(´・ω・`)「ヲタさん、これが最後の忠告だ。
.      嘘をついたら、署にきてもらいますよ」
 
(∴)◎∀◎∴)「嘘じゃないヲタ。みな、まことヲタ」
 
(´・ω・`)「おかしいなー。じゃあ、どうしてだろう」
 
(∴)◎∀◎∴)「なにがヲタ?」
 
 
 
(´・ω・`)「あのとき、僕の千円を両替してくれたのは、なんの機械だったのかなぁ」
 
 
 
(∴)◎∀◎∴)
 
(∴)◎∀◎∴)
 
(∴)◎д◎∴)
 
 
 
.

289 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:50:25 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
(∴);◎д◎∴)「ヲッタアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
 
 
(´・ω・`)「(……ほんとうにさわがしい)」
 
 
 ショボーンが言うと、ヲタは、叫んだ。
 それも、ゲームコーナーが成す轟音の渦と同じくらい、うるさく聞こえた。
 ショボーンは顔をしかめるが、ヲタにその意思は伝わらない。
 
 
(∴);◎д◎∴)「う、嘘はやめていただきたい所存でござる!!」
 
(´・ω・`)「嘘じゃないよ。ほら」
 
 言われると思って、ショボーンはあらかじめ、ポケットを取り出しておいた。
 それの小銭入れから、じゃらじゃら、と小銭を七枚だした。
 そのどれもが、銀色に輝く、百円玉だった。
 
 
(∴);◎д◎∴)
 
(´・ω・`)「まず、千円を両替して、百円玉十枚に。
.      で、それらが尽きたから、もう一度両替して。
.      余った百円玉が、これですよ」
 
(∴);◎д◎∴)「嘘ヲタ! 嘘ヲタっ!!」
 
(´・ω・`)「嘘だと思うなら、賭けませんか?
.      のちに警察がきますが、そのときに」
 
(∴);◎∀◎∴)「な、何の……」
 
 
(´・ω・`)「両替機のなかにある千円札のうち二枚に、僕の指紋があるかどうか、ですよ」
 
 
.

290 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:50:55 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「両替機のなかにある千円札のうち二枚に、僕の指紋があるかどうか、ですよ」
 
 
(∴);◎∀◎∴)「…」
 
(∴);◎∀◎∴)「……」
 
(∴);◎∀◎∴)「………」
 
 
 
 
 
        彡  ◎⌒◎
         彡
(∴) 3Д 3∴)「をたあああああああああああああああああああああああああああ
           ああああおおおおおおををををアアアアアアアアアアアアアアアア
           アアアアアイヤアアアアアアアアアアアああああああああああああ
           ああああしぃちゅわああああああああああああん!!にぎゃああ
           あああひぎィィィィトソンちゅわあああああああん!!!いやああ
           あああおおおおおおおヲヲヲヲヲッヲオオオオおおおッッ!!!」
 
 
 
 
 
 
.

291 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:51:27 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
( ;´・ω・)
 
(∴) 3Д 3∴)
 
 
 
(´・ω・`)「……」
 
(∴)ぅДて∴)「……」
 
 
 
(∴)◎∀◎∴)「………」
 
 
 
 
 ――ひとしきり叫んだかと思うと、ヲタはやがて、落ち着いた。
 吹き飛んだめがねをかけては、ふう、とため息をつく。
 ため息をつきたいのは、ショボーンのほうだった。
 
 ヲタの抵抗が完全に消えた、いまこそが好機だ。
 そう感じたショボーンが、ゆっくり、立ち上がりながら話し出した。
 
 この手の人には、やんわりと脅しを叩きつけると、証言をしてくれるケースが多いのだ。
 少しためらわれる手ではあるが、脅しといっても事実を述べるだけなので、
 ショボーンは心を鬼にする。
 
 
.

292 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:52:05 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「……そうです、か。残念です」
 
(∴);◎∀◎∴)「を、ヲタ!?」
 
(´・ω・`)「今度こそ、ほんとうに話してくれる……そう、信じてたのですが――」
 
(∴);◎∀◎∴)「ま、待ってほしいヲタ!」
 
(´・ω・`)「はい? まだ、なにか?」
 
 
 ヲタは、ソファーから身を乗り出して左手をテーブルにつき、右手をショボーンに伸ばした。
 まるで、ショボーンを掴もうとするような動きである。
 それを見て、そう冷静に返す反面、内心では「うまくひっかかった」とほくそ笑んでいた。
 
 
(∴);◎∀◎∴)「は、話すヲタ! そのとき、ヲタが何をしてたのか、を!」
 
(´・ω・`)「……今度こそ、ほんとうにまことでただしい確かな証言、ですね?」
 
(∴);◎∀◎∴)「ほんとうにまことでただしい確かな証言ヲタ!」
 
(´・ω・`)「………」
 
(∴);◎∀◎∴)「頼むヲタ!! もう、嘘はつかない!」
 
 ショボーンはわざと、もったいぶる様子を見せた。
 それにヲタが、声を更に上ずらせる。
 
 この調子で、さすがにもう嘘はつかないだろう。
 そう確認したショボーンは、もう一度ソファーに腰を下ろした。
 
 
.

293 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:52:38 ID:Vh.wwukY0
 
 
(´・ω・`)「……わかり、ました。で、あなたはなにをしていたのですか?」
 
(∴);◎∀◎∴)「信じて、くれるヲタ?」
 
(´・ω・`)「あなたが『真実』を話してくれたら」
 
(∴);◎∀◎∴)「じゃ、じゃあ………」
 
 
 
 
 ヲタが、荒れていた呼吸を、整える。
 落ち着いてきた頃に、ヲタは、いままでになかった真剣な表情をして、ショボーンと視線を交わした。
 
 
 
 
 
 そして、ショボーンは痛感することになる。
 
 
 『真実』とは、そのままでは、ひどく醜く、そしておぞましいものである、ということを――
 
 
 
 
 
 
 
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294 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:53:23 ID:Vh.wwukY0
 
 
 
 
(∴)◎∀◎∴)「モナー氏が……」
 
(´・ω・`)「!」
 
 
 
 
 
(∴)◎∀◎∴)「モナー氏が、誰かと一緒にいたんだヲタ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     イツワリ警部の事件簿
     File.3
 
         (´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
 
 
      第六幕
        「 おぞましい真実 」
 
 
                 おしまい
 
 
 
 
 
 
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