206 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:05:10 ID:m4deWffE0
 
 
 
 
 
爪;'ー`)「……ッ!!」
 
(´・ω・`)「……」
 
 
 ショボーンが、黙ってフォックスを見つめる。
 その瞳から察すると、睨んでいる、というほうが語弊は生じないだろう。
 
 二人の間に沈黙が生まれ、それを雪の降る音が埋める。
 また一方で、その音が、フォックスの平常心を削りつつあった
 時間が経つにつれ、だんだんと、落ち着きを失っていくのがわかる。
 
 
 二人の静寂を破ったのは、その二人でもない。
 外部の、ワカッテマスだった。
 
 
( <●><●>)「ちょっと待ってください。その推理は、あまりにもトッピではありませんか」
 
(´・ω・`)「なんで?」
 
 
 ワカッテマスは、ショボーンの推理にわずかでも穴があれば、そこを衝こうとする。
 が、ショボーンの推理がただしかった場合、その反論は、よりショボーンの主張を強めるものとなる。
 そのため、結果的にではあるが、ワカッテマスの反論はショボーンを味方することにつながるのだ。
 
 これも、ショボーンの推理力が優れているからこそ、のたまものであった。
 
 
.

207 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:06:15 ID:m4deWffE0
 
 
( <●><●>)「大神さんは、ほんとうはレストランで景色を見ていなかった。
         ……ただ、それだけだったのではないのでしょうか」
 
(´・ω・`)「?」
 
( <●><●>)「窓の外から聞こえる音は、当然、吹雪を連想させる。
         『雪に慣れている』大神さんだからこそ、考えられることでしょう。
         そして、レストランで何か、人には話せないことをしていた。
         それをごまかそうとしたあまり、『窓を打ち付ける雪』の話をでっち上げてしまった、と」
 
(´・ω・`)「発想はいいけどね、その推理は穴だらけだ」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 否定は、できなかった。
 ショボーンの推理が突飛だったがためだけに、反論に転じたのだ、彼は。
 そのため、今しがたの反論に穴が多く見られたとしても、なにも言い返せなかった。
 
 
(´・ω・`)「まず、逆だ」
 
( <●><●>)「というと」
 
(´・ω・`)「吹雪の音を聞いたらなおさら、『窓を打ち付ける雪』なんて情景は浮かばない。
.      それも、あんたの言うとおり『雪に慣れている』から、だ」
 
( <●><●>)「……」
 
(´・ω・`)「もしフォックスさんの動向が、いまあんたの言ったとおりだったとすると、彼はこう証言するよ」
 
(´・ω・`)「『窓の外を強い吹雪が覆っていた』――そう、シベリアの雪を想像しながらね」
 
( <●><●>)「…。」
 
 
 このときのワカッテマスの沈黙は、首肯を示す。
 ショボーンは少し声を低くしてから、続けた。
 
 
.

208 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:07:25 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「そして、フォックスさんがわざわざ『窓を打ち付ける雪』を証言したのには理由がある」
 
( <●><●>)「なんですか」
 
 
 
(´・ω・`)「印象的だったからだよ」
 
 
 
( <●><●>)「……!」
 
(´・ω・`)「事件現場に遭遇してなかった、事件が発生する前の
.      なにもなかった時間帯にバーでその光景を見た――
.      それでも、構わないんだ。フォックスさんがその光景を一度見ただけで、
.      その光景は、彼の脳裏に深く刻み込まれるんだから」
 
( <●><●>)「! じゃあ――」
 
 
 ワカッテマスは、いまのショボーンの言葉に、反論の余地を見つけた。
 身を乗り出し、その発言に突っ込もうとするが、ショボーンのほうが一枚上手だった。
 
 
(´・ω・`)「だからこそ、『フォックスさんは事件現場に遭遇した』――と、断言できる」
 
(; <●><●>)「ハア!?」
 
爪;'ー`)「な、なぜだ! ……いや、なぜですか!」
 
(´・ω・`)「いいですか? もしほんとうにあなたがなにもないタイミングでバーからの景色を見たなら、
.      最初から『バーにいた』って証言できるはずなんですよ。」
 
爪;'ー`)「……っ!」
 
 
.

209 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:07:58 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「人がなにかを偽るには、必ず理由がある。……そして、今回の場合、ポイントは
.      『どうしてフォックスさんはレストランから景色を見たと言わなければならなかったのか』…だ」
 
(´・ω・`)「フォックスさん、あなたは見てしまったんだ。
.      バーで安置されているモナーさんの……その腹に刺さったナイフを」
 
爪;'ー`)「!!!」
 
(´・ω・`)「そのとき、偶然……か、どうかはわかんないけどさ。
.      あなたは一緒に、バーの窓に目を遣ったときにあるものを見た。
.      そう……『窓を打ち付ける雪』……ですよ。そうでなければ、話が合わないからね」
 
(´・ω・`)「でも、なにか理由があったのか、それともただ疑われたくなかっただけなのか――
.      あなたは、自分がバーにいたことをバラすわけにはいかなかった。
.      だからそこに、《偽り》が生まれたんですよ」

爪;'ー`)「………ッ!」
 
(´・ω・`)「以上、だ」
 
 
 
 そう言って、ショボーンは顔を数度うつむけた。
 今一度、フォックスとワカッテマスに、状況を整理させるための時間を与えたかったからだろう。
 
 しかし、彼がうつむいた理由は、なにもそれだけではなかった。
 これからのこと≠考えると、寒気がしたのだ。
 
 
 
 
.

210 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:08:28 ID:m4deWffE0
 
 
 
爪;'ー`)「……」
 
 
爪'ー`)「………」
 
 
 顔一面に焦燥を浮かべていたフォックスが、徐々に平生を取り戻す。
 深呼吸を数回、挟んだ。
 そして向かいにいるショボーンに、動揺を押し隠した声で、反論――に近い、発言をした。
 
 
 
爪'ー`)「……いやはや、お見事ですね」
 
 そう言って、彼が自分より格下の者に見せる、余裕の含まれた笑みを浮かべた。
 中途半端にあせったため、却って肝が据わったのだろう。
 声を低くさせて、彼は続けた。
 
 
爪'ー`)「おっしゃるとおり。確かにぼくは、見てしまいました。
      モナーさんが、腹にナイフを刺され、うつむいているのを」
 
 
.

211 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:09:08 ID:m4deWffE0
 
 
( <●><●>)「! どうして言ってくれなかったんですか!」
 
爪;'ー`)「……あのねェ、簡単に言うけどね、疑われるじゃないですか!
.       ただでさえ普段からロクでもない噂たてられてるのに、
.       その上ヒトを刺したなんて言い振り回されちゃ、ウチはおしまいだよ!」
 
( <●><●>)「あなたが無実なら、それはやがて立証されるじゃないですか。
         科学捜査も、進歩している。だから、たとえ自分が疑われると思っても、嘘はつかないでください」
 
爪;'ー`)「このさい、無実だの、犯人だの、関係ないんですよ! ウチは信用商売なんでね!
.       一度疑われたからってだけで掲示板や口コミで叩かれるなんて、ザラだ!
.       まして、最近じゃあの朝曰新聞もそのうちのひとつだ! またゴシップを載せられる!」
 
爪;'ー`)「『オオカミ鉄道? ああ、総裁がヒト刺したんだってね』
.       『やめとこうよ、そんな会社の列車に乗るだなんて』……なんてのが、ほんとうに起こり得るんだよ!」
 
( <●><●>)「そういった層にこびを売るよりも、信じてもらえる層をより丁重に扱うべきでしょう。
         まして、裁判でも似たような証言をしてみなさい、偽証の罪で罰せられますよ」
 
爪;'ー`)「わかってない、わかってないんだきみは!
.       ウチらの業界が生き残るには、そんなこと考えてちゃだめなんだよ!
.       どうでもいいような噂が、社運滅亡の危機につながるんだ! わかるのか!?」
 
( <●><●>)「…っ。確かに、わかりませんが――」
 
 
.

212 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:09:40 ID:m4deWffE0
 
 
爪;'ー`)「ショボーンさんなら、わかっていただけるでしょ! ぼくが嘘をついた、その実のところを!」
 
( <●><●>)「しかし、だからといってそれが正当化されるわけでは――」
 
 
 二人の話がヒートしたところで、二人は仲介を求めようとショボーンのほうに向いた。
 だが、彼の様子を見て、二人とも、途端に勢いを失ってしまった。
 
 ショボーンが、なにやら難しい顔をしていたのだ。
 それも、長くともに捜査をしているワカッテマスでも、まれにしか見ることのできないほど、深刻な顔だ。
 そのため、二人は自然のうちに、ぴたりと声としぐさを止めてしまった。
 
 
( <●><●>)「……警部?」
 
(´・ω・`)「………」
 
( <●><●>)「警部」
 
(´・ω・`)「! な、なんだい」
 
( <●><●>)「どうされました」
 
(´・ω・`)「いや……逆に聞くと、あんたはわからんのか?」
 
( <●><●>)「わからないとは……なにが、ですか」
 
 
 「やれやれ」と呆れ顔をして、一度目を閉じる。
 一呼吸挟んで彼が目を開くと、呆れつつも、やはりどこか真剣味を帯びた顔を浮かべた。
 
 
 
.

213 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:10:18 ID:m4deWffE0
 
 
 
(´・ω・`)「いまの一連の証言に、あっきらかにひとつ、
.      存在してはならない証言≠ェ含まれていたじゃないか」
 
( <●><●>)「……存在してはならない……?」
 
(´・ω・`)「いや……よく考えると、そもそも、ありえない話なんだよ」
 
( <●><●>)「もったいぶらないで、はやく言ってください」
 
(´・ω・`)「簡単に言うと、だな」
 
 
 
 ショボーンは、ちいさな、しかし、ずしりと胸に響くような声を、放った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(´・ω・`)「『ナイフが刺さっているモナー』。
.      犯人以外がこの光景を見ることは、できないんだ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

214 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:11:14 ID:m4deWffE0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
    イツワリ警部の事件簿
    File.3
 
           (´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
               第五幕 「 見てはいけない 」
 
 
 
 
 
.

215 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:11:44 ID:m4deWffE0
 
 
 
 
 
(; <●><●>)「な……なんですって!?」
 
爪;'ー`)「ぼ、ぼくがハンニンだっていうのか!? ジョーダンじゃない!」
 
 
 ショボーンのその言葉に、二人は耳を疑った。
 いや、ここに、実際にその光景を見た人がいるじゃないか――
 
 
 
(´・ω・`)「よし、じゃあ話を振り返るぞ」
 
(´・ω・`)「モナーさんは、ナイフを突き立てられた。
.      そして、そのナイフにはある仕掛けがほどこされていた」
 
(´・ω・`)「その仕掛けは――ドアにも施されていた、って言ったよな」
 
( <●><●>)「ええ。そういや、言って……、……え?」
 
(´・ω・`)「僕が現場に立ち会ったとき、まさか扉をすり抜けてバーに入ったってか?」
 
( <●><●>)「―――あ」
 
 
 
 
(; <●><●>)「……あああああああああああッ!!」
 
 
爪;'ー`)「え、なに、どういう意味なんだ!」
 
(´・ω・`)「そう。モナーさんの、ナイフが刺さった光景を外部の人が
.      見るには、当然、バーの扉を開けなければならない。
.      しかし、そうすると、自然と腹に刺さったナイフが抜けるようになってるんだ。
.      犯人が、そうなるように仕掛けを施したんだからな。至極当然だ」
 
(; <●><●>)「し――しかしッ! ……い、いや、警部!
.         ということは、フォックスさんが、殺――」
 
爪;'ー`)「な、なに!?」
 
 
.

216 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:12:17 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「最後まで聞け。だとするとまた一方で、おかしな矛盾が生まれる。
.      フォックスさんがバーから夜景を見た、というのは、ほんとうなんだ。
.      そして、その夜景を見たというタイミングが事件発生後……というのにも、偽りは、ない」
 
(´・ω・`)「それに、もしほんとうにフォックスさんが犯人だったら、今度は証言がおかしくなる。
.      そもそも、アリバイもないのに『レストランにいた』なんて証言をするはずがないんだ」
 
(; <●><●>)「ちょっと待ってください!
.         ……ちょっと待ってください」
 
(´・ω・`)「せめて、反論材料をそろえてからにしてくれ……」
 
 
 しかし、ワカッテマスが動揺するのも、無理はなかった。
 あきらかに、これは矛盾しているのだから。
 
 モナーは、確かにナイフで刺された。
 腹から血を流す光景は、ショボーンも見ている。
 
 しかし、『モナーの腹にナイフが刺さっている』という光景を見ることができたのは、犯人だけだ。
 犯人が、自分の次に誰かがバーを訪れた時にモナーの腹に刺さったナイフが抜けるような仕掛けを施したためである。
 そのため、いまの話を統合させると、犯人はフォックス――という結論に至る。
 
 だが一方で、また別の問題があった。
 事件発生『後』にフォックスがバーを訪れ、夜景を見た、というのは先ほどショボーンが証明したばかりである。
 また、仮に彼が犯人だとしたら、そもそも『レストランにいた』などという証言をするだろうか。
 それが、ショボーンがこの段階でひとまず行き着いた疑問である。
 
 
 
( <●><●>)「……! ちょっと待ってください!」
 
(´・ω・`)「!」
 
 
 ――そこで、ショボーンは目を少し大きく開いた。
 長い間、この男の、このセリフを聞かされてきたため
 その声色と表情から、それから彼のする反論がどれほどのものなのか、がわかるようになったのだ。
 
 そしていま、彼はようやく、反論材料を用意したようである。
 
 
.

217 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:13:02 ID:m4deWffE0
 
 
( <●><●>)「確かに、ここがふつうの建物だったら、
         『レストランにいた』という証言はしないで、
         もっと別の、疑われないような証言をするでしょう」
 
( <●><●>)「しかし、彼は、『レストランにいた』と証言するしか、なかったんですよ」
 
 
爪'ー`)「いや、ぼくはほんとうに……」
 
( <●><●>)「黙っててください」
 
爪'ー`)「はい」
 
(´・ω・`)「(……この時点で、この推理が違うことがわかるんだけど……まあ、いいか)」
 
 
 
( <●><●>)「なぜなら、ここはホテル。フロアを上り下りするには、階段かエレベーターが必要。
         また一方で、当時は17時半以降。10Fのホールに、着々と人が集いだす時間だ」
 
( <●><●>)「もし、大神さんが、たとえば『その時間は2Fにいた』なんて証言するつもりだったとして、だ。
         11Fから下りてくる様子を誰かに見つかってしまえば、その時点で真っ先に疑われるわけですよ」
 
( <●><●>)「だからこそ、そんなリスクを踏むよりも、大神さんはあえて
         『レストランにいた』という証言をすることに決めていた――そうは、考えられないでしょうか」
 
( <●><●>)「その証拠に、『冷蔵庫の中身は空だった』と、
         レストランにいたことを示す証言を用意しています」
 
( <●><●>)「まあ、それはいつの時刻でも知り得ますし、
         そう証言するから容疑の目から免れる、なんてことはありませんが……
         少なくとも、ほかのフロアにいた、なんて証言をするよりはよっぽどリスクが低いと言えるでしょう」
 
(´・ω・`)「つまり、フォックスさんが犯人だ、と」
 
( <●><●>)「それ以外では、この現状につじつまを合わせることができません」
 
 
 
.

218 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:13:34 ID:m4deWffE0
 
 
 
爪'ー`)「だから、ぼくは――」
 
( <●><●>)「黙っててください」
 
爪'ー`)「はい」
 
(´・ω・`)「……」
 
 
 ショボーンは、ごほんと咳払いをした。
 いまのフォックスの反応が、既にその推理を打ち崩しているのだが――
 
 ワカッテマスの言い分からすると、彼は、フォックスを犯人として仕立て上げるつもりのようだ。
 ――いや、彼の場合、「それ以外に現状を説明できないから」という理由で、
 フォックスの犯人説を打ち立てているつもりなのだろうが。
 
 そのため、彼が「ほんとうにレストランにいた」と証言をしても、それを嘘、とみなしてかかっている。
 そうすると、現状もあいまって、ワカッテマスの推理が一番合理的なもののように思えるだろう。
 
 
 ――だから、ショボーンは、話の根本を打ち崩しにかかった。
 
 
 
.

219 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:14:16 ID:m4deWffE0
 
 
 
(´・ω・`)「いい推理だ。だからこそ、肝心なとこを衝かせてもらうよ」
 
( <●><●>)「どうぞ」
 
(´・ω・`)「あの犯行現場を再現するには、最低ひとつのものをあらかじめ用意する必要がある」
 
( <●><●>)「あらかじめ?」
 
(´・ω・`)「なーに寝言いってんだよ。……『紐』が必要じゃないか」
 
( <●><●>)「……?」
 
 
(; <●><●>)「あっ……」
 
 
 ワカッテマスはそれを思い出して、動揺した。
 
 そう、根本的に、この犯行は「計画的」なものなのだ――
 
 
 
(´・ω・`)「紐を用意して、それで部屋からの脱出法――こっちはわかってないけど、それも用意して。
.      ここまで計画的な犯行を練っているのに、どうして肝心なアリバイづくりを用意してないというんだ。
.      まさか『そこは犯人の思慮不足だった』とか言うわけじゃあるまい?」
 
(; <●><●>)「ひ、『紐』は、バーにあらかじめ備品としてあったとか――」
 
(´・ω・`)「いつかはそう言われると思ってバーカウンターの裏も見てみたけど、ほんとうに何もない。
.      電球の紐すらない現場の、どこから『紐』を調達したっていうんだ。
.      これは、『計画的な犯行』なんだよ」
 
(; <●><●>)「………ぐッ」
 
 
 ワカッテマスが怯む。
 根本的な見落としをしてしまった自分を恥じたところもあるが、
 それ以前に、「だとすると現状にどう説明をつけるのだ」という謎に対する、畏怖を感じたのだ。
 
 しかし、ショボーンの反撃はまだ止まらない。
 彼は更に、『計画的な犯行』よりも更に根本に眠る問題を衝いた。
 
 
.

220 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:14:56 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「そして、だ。ここでフォックスさんを犯人扱いするなら、
.      ナイフの仕掛けをつくってからの犯人の脱出経路も同時に立証しなくちゃならない。
.      フォックスさん、そのモナーさんと雪の光景は、扉から入ってみましたよね?」
 
爪;'ー`)「そ、そりゃあ……」
 
(´・ω・`)「換気扇や通気口から顔を覗かせた――とかではなくて」
 
爪;'ー`)「そんなこと、二流の推理小説ですら見かけないですよ。
.       ぼくはちゃんと、扉から入ってその現場を見てしまったんだ」
 
( <●><●>)「裏口なんかがあるんじゃないんですか」
 
(´・ω・`)「バーカ。僕が捜査に向かったとき、店内を見たけど。
.      ぱっと見で言えば、そんなのはなかったよ」
 
(; <●><●>)「な、ならば、おかしいことになりますよ!」
 
(´・ω・`)「……ほら」
 
(; <●><●>)「な、なにが『ほら』なんですか」
 
(´・ω・`)「これでひとつ、立証――とまではいかないけど、可能性の高いことがわかったじゃないか」
 
(; <●><●>)「…?」
 
 
 
 
(´・ω・`)「『ナイフの仕掛けのなかった時間帯が存在していたのかもしれない』……
.      突き詰めて言うと、『僕たちはまだ事件の本質に気づけていない』ということだ」
 
( <●><●>)「…!」
 
 
 
.

221 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:15:37 ID:m4deWffE0
 
 
 
(´・ω・`)「だから、現状で判断するのは不可能。
.      いまから現場に赴いてもいいんだけど……取り調べが優先だ」
 
 
 そう言って、ショボーンは元の、飄々とした「ショボーン」の顔つきに戻った。
 元に戻った彼から漂うオーラが、フォックスの緊張をほぐす。
 ――もともと、彼はいまの二人の話に
 まったくついていけていなかったが――なにはともあれ、助かったとわかったようだ。
 
 
爪'ー`)「ええと……つまり、どういうことですか」
 
(´・ω・`)「ひとまずは保留ってことです。
.      それより、念のため、現状をもう一度だけ細かく話してもらっていいですか」
 
爪'ー`)「いいですよ。そうだなあ……物音がしたから、ぼくはバーに……」
 
 
( <○><○>)「ッ!!」
 
( ;´・ω・)「なにッ!?」
 
爪;'ー`)「なな、なんですか」
 
( ;´・ω・)「物音…? 具体的には、どんな」
 
爪'ー`)「覚えてたら、そう証言しますよ。
      それか、ただなんとなくでバーに向かっただけなのかもしれないし」
 
 
 あっけらかんとした様子で、フォックスが言う。
 ショボーンは、その物音が、犯人が逃げるさいに残した音ではないのか――
 と推理したのだが、当のフォックスにそう言われては、それ以上の推理はできない。
 
 
.

222 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:16:25 ID:m4deWffE0
 
 
(;´・ω・`)「……つ、続けてください」
 
爪;'ー`)「はあ。それでバーの中を覗いてみたんですが……第一印象は、『暗い』でしたね。
.       あなたも、現場に行ったんでしたらわかるでしょ」
 
(´・ω・`)「暗くて、窓の外のほうが明るかった気さえします」
 
爪'ー`)「まったく一緒だ。だから最初に、窓に目がいったんですよ。そのときに『窓を打ち付ける雪』を見た」
 
(´・ω・`)「モナーさんを見たのはその次、だったんですか?」
 
爪'ー`)「情けないことに、そこに人がいるなんて――って気持ちがいっぱいだったね。
      ふと、暗い室内に、人影が見えた。一瞬、金縛りにあったみたいになって……」
 
(´・ω・`)「それはなぜ?」
 
爪;'ー`)「だ――だって、暗い部屋の中で、人が座ってるんですよ!? どー考えたって怖いじゃないですか!
.       一瞬腰が引けて、怖くなったけど、向こうはぼくに気づいてなかったから、どうしたんだろうと思って、凝視したんです」
 
(´・ω・`)「(扉を抜けたら、モナーさんがこっち見てるんだぞ……)
.      はあ。続けてください」
 
爪'ー`)「すると、目が慣れてきたのか、腹になにかあることがわかった。……ナイフだ」
 
爪'ー`)「もうなにも考えられなくなって、そのまま逃げた……ってわけです」
 
爪'ー`)「そのときの印象が強すぎて、てっきり、レストランの話をするときに
      『窓を打ち付ける雪』のことを思い出しちゃったんですよ。すまないね」
 
(´・ω・`)「心中お察しします。
.      (どうやらいつもの調子に戻ったようだ)」
 
 
 フォックスは話し終えて、その重圧と恐怖から解放されたためか、急にだらしない姿勢になった。
 身体中の筋肉を強張らせていたのが、すべて一気にゆるんだかのような動作だった。
 
 それを見て、やはり強がっている内心では怖かったのだろう、とショボーンは思った。
 刑事として、そういった人間は過去に何人と出会ってきた。
 
 
.
223 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:16:59 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「……だいぶ話しこんじゃいましたね」
 
 そう言って時計を見ると、もう19時40分を超えていた。
 フォックスも自分の腕時計を見ては、「みたいだね」と余裕そうに言う。
 
 フォックスのほうは気が楽になったのかもしれないが、刑事二人は違う。
 犯人に逃げられないうちに、はやく取り調べと現場検証を済ませて、最低限目星だけでもつけておきたいのだ。
 そのため、ショボーンはフォックスとは対照的に、声のスピードをあげた。
 
 
(´・ω・`)「いったん僕たちは次に行きますね」
 
爪'ー`)「犯人の目星は……ついたのですか?」
 
(´・ω・`)「現状で一番怪しいのはあなたですが」
 
爪;'ー`)「そう――ええええええええええええッッ!?」
 
(´・ω・`)「はは、ジョーダンですよ。
.      (八割ホンキだけど……)」
 
爪;'ー`)「お、おどかさないでください」
 
(´・ω・`)「それはそうと、フォックスさんはこれからどうするのです」
 
爪'ー`)「ぼくはね、落ち着いたら、露天風呂にいこうかと思ってたんですよ。
      2Fの。パンフレットにもあったでしょ」
 
(´・ω・`)「ああ……。動いてるのですか?」
 
爪'ー`)「あくまでモナーさんは、ワレワレには一日泊まってもらうことを
      考えてたみたいで、そこらにぬかりはないみたいです」
 
(´・ω・`)「(だったらせめて4Fに人員を割いてくれよ……)」
 
 おなかの空いたショボーンは、そう思った。
 だが、仕方のないことだ。
 傷害――もう、手遅れだろう――事件が起こって、呑気に食事をとれるはずもなかった。
 それが刑事となれば、なおさらである。
 
 
.

224 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:17:30 ID:m4deWffE0
 
 
爪'ー`)「……そ、そこで、お願いがあるんですけど」
 
(´・ω・`)「…へ?」
 
 逆恨みに近い感情を、誰にでもなくぶつけようかと思っていると、フォックスがちいさく言った。
 調子が戻ったかと思えば、また臆病な一面を見せ付けている。
 なにがしたいのだ、とショボーンが思うと
 
 
爪;'ー`)「ひ、一人になるのが、怖いんですよ」
 
( <●><●>)「ぶっ」
 
(´・ω・`)「は、はあ」
 
 頬をぽりぽりと掻きながら、フォックスは続ける。
 
爪'ー`)「そこで、ちょっとそこまででいいのでついてきてくれないかなあ、と……」
 
(´・ω・`)「そういうことならコイツがお供しますよ」
 
( <●><●>)「はあ」
 
( <●><●>)
 
( <●><●>)「え?」
 
 
.

225 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:18:06 ID:m4deWffE0
 
 
 ショボーンは、フォックスの頼みにワカッテマスを指さしながら答えた。
 途端に満面の笑みを浮かべるフォックスとは対照的に、ワカッテマスはわけのわからなさそうな顔をした。
 それこそ「あっけにとられた」ような顔をしている、と言ってもいいだろう。
 
 ワカッテマスがショボーンの真意を汲み取りきれないうちに、フォックスが廊下に出た。
 刑事二人も外に出る。
 
 
爪'ー`)「ついでだし、きみも一緒に入るかい?」
 
(´・ω・`)「そういやあんた、風呂に入りたがってたな。
.      どうだ、上司公認で休憩時間をやるぞ。……ぶひゃひゃひゃ!」
 
( <●><●>)
 
( <●><●>)「理不尽な」
 
 ショボーンはワカッテマスをここぞとばかりにからかったが、
 その嫌な笑みも、ものの数秒で消えた。
 いまは、笑っていられる事態ではないのだ。
 
 
.

226 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:18:56 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「……まあ、市民を守るって意味じゃあ、あながちおかしくはないことだ」
 
( <●><●>)「わかってますよ。……とりあえず、私は
         露天風呂の手前で待機しておけばいいんでしょ」
 
爪'ー`)「話がわかって助かるよ。大丈夫、ぼくはこう見えてカラスの行水だから」
 
(´・ω・`)「(なにをアピールしてるんだか……)
.      じゃあワカッテマス、フォックスさんのお供を任せたぞ」
 
( <●><●>)「過去最高のしょぼい任務ですよ。
         それはそうと、警部はこれからどうなさるのですか」
 
(´・ω・`)「僕? やだなあ、僕は刑事だぞ。取り調べを続行する以外ないじゃん」
 
( <●><●>)「ああ、そーでしたね」
 
(´・ω・`)「投げやりな言い方するなよ……ただのジョークじゃないか……」
 
 ショボーンがしょぼんとする。
 が、この和やかに見える雑談も、ここまでだ。
 
 ワカッテマスは任務が任務だからいいとして、彼が捜査から抜ける分、
 いっそうショボーンにかかる責任は重くなったのだから。
 ショボーンは、ワカッテマスのいない分もまとめて、取り調べに徹底しなければならない。
 
 ワカッテマスは、ああ言いながらも彼は自分に休憩を与えてくれたつもりなのだ、と解釈した。
 
 
(´・ω・`)「それに、男の風呂になんて同伴したくないからね」
 
( <●><●>)「……どうして、そこまで同性が嫌いなんですか」
 
(´・ω・`)「誰かさんのせいで、僕にホモ疑惑がだな……」
 
爪;'ー`)「き、気持ちの悪いことは言わないでくれ!」
 
(´・ω・`)「とりあえず、時間もある。僕は先に失礼しますね」
 
( <●><●>)「あとでそちらに電話をいれて、合流するようにします」
 
(´・ω・`)「わかった。じゃーね」
 
 
 
 
 
.

227 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:19:40 ID:m4deWffE0
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 ワカッテマス、フォックスと別れ、ショボーンは6FのB室に向かおうとした。
 しかしそこで、ぴたりと足を止める。
 フロアの地図が描かれているプレートを見て、あることを思い出したのだ。
 
 
 
   |;;;;| ,'っノVi ,ココつ『5F、制御室の鍵が、どーも見当たらんのですわ』
 
   ( <●><●>)『制御室?』
 
   |;;;;| ,'っノVi ,ココつ『このホテルの電力を制御する部屋、ってところでしょーな。ワタシにはようわからん。
               その部屋の鍵がなくなってしもーて……なくしたのがバレたら、モナーさんに怒られますわ』
 
 
 
(´・ω・`)「(そういえば、制御室もこのフロアだったな……)」
 
 
 マリントンの「人」がどうであれ、制御室の鍵がなくなった、というのは事実のようだ。
 そして、ショボーンはその一報を聞いて、どこかしら不吉な予感を抱いている。
 
 ――もし、モナーの事件と鍵紛失の事件の犯人が同一の人だったら?
 
 現在、このWKTKホテルはひとつの大きな。
 その現状に便乗して、もし、壮大な殺人事件の計画を練られていたとしたら。
 
 ――と、そこまで考えて、ショボーンは自嘲する。
 このホテルを密室に仕立て上げているのは、雪だ。
 そんな、悪天候を前提に据えた「計画的な連続殺人」なんて、考えにくいだろう。
 
 どうやら、フォックスの臆病が自分にも移ったようだ。
 そう結論づけるが、それとこれとがつながるわけではないので、一応制御室に向かう。
 
 
 
.

228 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:20:18 ID:m4deWffE0
 
 
 
 制御室は、フロアの北に位置するのだが、ここにきて、
 東西を行き来する通路はこの北部にしか通ってないことがわかった。
 それだけならなにも思わなかったところだが、5Fに限り、そこは異彩を放っていた。
 
 5Fの下りの階段は北東にあり、上りは北西にあるため、階段で5Fを経由しようものなら
 その道中、北側にその制御室の扉が見受けられる。
 この制御室がなかなかに異彩を放っていたのだ。
 
 それは壁の色に同化した色の扉で、「関係者以外立入禁止」の文字が掲げられている。
 「いかにも、な部屋だな」とショボーンは思った。
 
 歩み寄って、まず、耳を当てる。
 が、防音加工でもしているのか、それとも誰もなかにいないのか、音は聞こえてこなかった。
 聞こえてきたらそれはそれで大変なのだが、そうではないとわかってひとまずは胸を撫で下ろす。
 
 次に、ノブを握り、力を籠める。
 これが平生ならば、勝手に入れば怒られるだろうが、いまは事件の捜査の真っ最中だ。
 まして、いまここでショボーンが勝手に部屋に入って、怒る人もそういるまい。
 
 
(´・ω・`)「…………」
 
 
 扉を、開こうとした。
 
 
 
 
.

229 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:20:52 ID:m4deWffE0
 
 
 
 
 そのとき、左手、すなわち西のほうからショボーンは呼び止められた。
 誰かが、駆け寄りながら「なにをしてるんですか」と大声で言われる。
 ショボーンは一瞬どきっとして、後ろ暗いことがばれたかのように動揺した。
 
 ノブから手を離し、慌てて振り返る。
 キャリアウーマンのようなスーツ、黒いショートヘアーのガナーが、ショボーンめがけて走ってきていた。
 
 
( ;‘∀‘)「刑事さん……でしたか」
 
(´・ω・`)「これはこれは……えっと、ガナーさん」
 
 ガナーがショボーンのもとにつくと、膝に手を当て、呼吸を整えだした。
 女性らしく、体力がないのだろう。
 似たような境遇の刑事がいるので、それを見てもなんとも思わなかった。
 
 呼吸が整うまで、ショボーンは黙る。
 ガナーは十秒もすると、回復したようで、元の体勢に戻った。
 
 
( ‘∀‘)「どうしました、こんなところで」
 
(´・ω・`)「それは僕のセリフ……でもありますよ」
 
 自分のしていた行為を思い出して、言葉を訂正する。
 それを見て、ガナーは笑った。
 
( ‘∀‘)「刑事さんがここに向かってるのを見かけたもので……制御室になにか?」
 
(´・ω・`)「はは、一応捜査の一環です」
 
( ‘∀‘)「おかしいな……立ち入り禁止の看板、置いてなかったかなぁ」
 
(´・ω・`)「見ての通り、ないですよ。まあ、あっても勝手に入ってましたが」
 
( ;‘∀‘)「だ、だめですよ! なんのための『立ち入り禁止』なんですか」
 
( ;´・ω・)「じょ、ジョークですよ!
.      (怖いな……)」
 
 ショボーンが慌てると、ガナーはそれを見て再び微笑をこぼした。
 それを見て、ショボーンは「おや」と思った。
 
 
.

230 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:21:29 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「こう言ってはなんですが……お気の毒、でしたね」
 
( ‘∀‘)「いえ……ありがとうございます」
 
(´・ω・`)「事件が起こってすぐに訊くのもアレなんですが、
.      一応お話をうかがってもよろしいですかね」
 
( ‘∀‘)「ここではなんですから、私の部屋にきてください。
      ここから一個上のフロアのB室なんです」
 
(´・ω・`)「あ、6-Bはガナーさんだったんですか。いやはや、今から話を聞こうって思ってたんですよ」
 
 
 そう言って、ショボーンは刑事としてたまにこぼす微笑をこぼした。
 しかし、どうもうわべだけの会話は苦手だ。
 ショボーンはそう思って、頭を掻いた。
 トソンやフォックスといった、少しでも面識のある人のほうが取り調べはしやすいのだ。
 
 ガナーに先導され、左手にある階段を上って6-Bに向かった。
 何事もなかったかのように、二人は制御室を去る。
 
 その制御室だが、ショボーンは、ガナーに呼び止められて振り返った直後、
 ばれないようにノブを回して、鍵がかかっているかどうかを確認していた。
 結果、鍵はかかっていた。
 
 物音がせず、施錠されていたのをふまえると、まだ鍵を盗んだ犯人がなかに入ったわけではなさそうだった。
 そもそも「盗まれた」と決まったわけではないのだが、それでもショボーンは、少し安心することができた。
 「第二の事件」の計画があったとして、それはまだ実行に移されていないというわけだからだ。
 
 
 ――フォックスの話が思いのほか重要なものであったため、彼ひとりに随分と時間を費やしてしまった。
 それで失った時間を取り戻すように、これからの取り調べはてきぱきとこなさなければならない。
 だが一方で、取り調べに費やす時間を節約すると、いつそのしっぺ返しが来るかがわからない。
 詰まるところ、時間がかかるのは仕方がないといえた。
 
 
.

231 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:22:06 ID:m4deWffE0
 
 
 ガナーのとった部屋、6-Bに入ったが、内装はトソンやフォックスの部屋と似ていた。
 部屋の位置が違うため、そういった点における内装は変わっていたものの、
 壁紙だの、絨毯だの、インテリアだの、基本的な内装は統一されているようだった。
 
 ガナーに促されて、ショボーンはソファーに腰をおろした。
 いつもは立ったまま話を聞くのだが、どうも、このソファーの柔らかさが気に入ったようだ。
 
 
( ‘∀‘)「……えっと」
 
(´・ω・`)「?」
 
( ‘∀‘)「す、すみません……取り調べ、なんて、されたことないので……なにをしたらいいのか」
 
(´・ω・`)「僕の質問に答えてくれるだけでいいんです」
 
( ‘∀‘)「へぇ……そうなんです、か」
 
 ガナーに気を遣わせてしまったかな、と思い、ショボーンはさっそく口を切った。
 
 
(´・ω・`)「だいぶ、落ち着いていらっしゃるようですね」
 
( ‘∀‘)「父のこと、ですか?」
 
(´・ω・`)「疑うとかそういうわけじゃないんですが……」
 
( ‘∀‘)「父のことだから、気がつけば『あー痛かったモナ』とか言って
      ひょいと顔をだしそうだな……とか考えてたら、気が晴れたんです」
 
(´・ω・`)「(ありえそうだから却って笑えない)」
 
( ‘∀‘)「でも……ドラマで見るように泣き崩れたりとかは、してない……です」
 
(´・ω・`)「そうですか。じゃあさっそくおうかがいしますね」
 
( ;‘∀‘)「お手柔らかに……」
 
( ;´・ω・)「(取り調べをなんだと思ってるんだ……)」
.      は、はい。では」
 
 
.

232 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:22:38 ID:m4deWffE0
 
 
 ガナーはモナーの娘だが、それにしては若そうな印象を受けた。
 見て呉れで言えば、二十代前半ではないのか、と思わせられる。
 もともと肌がきれいなのか、薄化粧のわりには顔が映えて見えるのだ。
 加えて瞳も大きいので、ショボーンも歳が歳なら見惚れてしまうようなものだった。
 
 そんなガナーが、緊張しているのか、じゃっかん顔の筋肉が強張っている。
 これは刑事としてより、一人の紳士としてエスコートしなければならないな、などとショボーンは考えていた。
 
 
(´・ω・`)「じゃあ……あ、そうだ。あの眼のでっかい、深緑のヤツに取り調べはされました?」
 
( ‘∀‘)「いや……。マリントンさんと話されたかと思うと、倉庫のほうに行って……」
 
(´・ω・`)「(イチから訊かないとだめなわけだな)
.      そうですね。じゃあ16時くらいから事件発覚までのあなたの行動を……」
 
( ‘∀‘)「16時半くらいからホールで料理を出してましたね」
 
 訊いてから、ショボーンは「あ、そうだった」と思い出した。
 てきぱきと、効率よく取り調べをしなければならないのに、と自分を責めた。
 
 
.

233 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:23:08 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「それまではなにを?」
 
( ‘∀‘)「ホールでトソンちゃんとおしゃべりしてました。
      あの子、ほかに誰も知り合いがいなかったみたいだったから、寂しいんだな、って思って……」
 
(´・ω・`)「珍しいな、あの子が人になつくだなんて」
 
( ‘∀‘)「! 刑事さん、あの子のお知り合いなんですか?」
 
(´・ω・`)「因縁みたいなもんですよ……」
 
 ショボーンが、残念そうな声色で言うと、ガナーは対照的にほがらかな様子になった。
 どうやら、トソンのことを案じていたようだ。
 
( ‘∀‘)「トソンちゃん、しっかりしてるように見えるけど、
      やっぱり女子高生らしいなってところがいっぱいあって」
 
(´・ω・`)「ほうほう?」
 
 「面白い話が聞けそうだ」と思って、捜査そっちのけでショボーンは耳を傾けた。
 ショボーンは、トソンをからかうのが好きなのだ。
 
( ‘∀‘)「これ、言ってもいいのかな……」
 
(´・ω・`)「?」
 
( ‘∀‘)「……あ、トソンちゃんにはナイショですよ?」
 
(´・ω・`)「僕は刑事ですぞ! その点はごアンシンを!」
 
( ;‘∀‘)「そ…そうですか? じゃあ……」
 
(´・ω・`)「(あとでからかいぬいてやる)」
 
 
.

234 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:24:05 ID:m4deWffE0
 
 
( ‘∀‘)「私とレモナさんが料理を並べ始めてから少しして、
      トソンちゃんは手持ち無沙汰だったのかな、私たちの手伝いを申し出てくれたんですよ」
 
(´・ω・`)
 
( ‘∀‘)「で、倉庫から出された、お皿の積み上げられたワゴンを運ぼうとしてくれたまではよかったんですが……」
 
(´・ω・`)
 
( ‘∀‘)「運ぼうとワゴンを押した瞬間、ワゴンが横転したんですよ」
 
(´・ω・`)
 
( ‘∀‘)「力の入れ方を間違えたのか、張り切ってたせいか……
      それでお皿が一気に割れちゃって、トソンちゃんが泣きながら――」
 
 
 
( ‘∀‘)「……あ、あれ。どうしましたか」
 
(´・ω・`)
 
( ;´・ω・)「へ? …あ、そーだったんですか! 確かにあの子らしい」
 
( ;‘∀‘)「……? と、とりあえず、トソンちゃんにはナイショで……」
 
( ;´・ω・)「わかりました」
 
 
 
(´・ω・`)「(言えない……『もう知ってる』だなんて、言えない……っ)」
 
 
 
 
 
.

235 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:24:35 ID:m4deWffE0
 
 
 
 

 
 
 
 
 「話が逸れてしまったな」と反省して、ショボーンはようやく、本題に入った。
 この調子だと、取り調べを終える頃に応援が到着するんじゃないか、と思った。
 それはそれでいいのだが、そうだとすると自分の無能ぶりを見せ付けられたような気になってしまう。
 半ば不純な動機を抱きつつも、じゃっかん早口になって、ショボーンは取り調べを進めた。
 
 いや、進めようと、した。
 
 
(´・ω・`)「(思えば、彼女のアリバイも事件前の動きも、もう特定できてるんだよな……)」
 
 
 レモナとトソンの証言により、またマリントンの存在もあって、彼女の動きはもう特定できている。
 加え、トソンの、ずっと一緒にいたという証言は確かなものと言えるので、追究する必要もない。
 
 なにか、訊かなければならないトピックはあっただろうか――と想像をめぐらせたところで、
 「無理して話を引き伸ばすよりも、さっさと話を切り上げろ」という答えが真っ先に返ってきた。
 そのため、ショボーンは「さて」と言いつつおもむろに立ち上がる。
 ガナーは顔に疑問符を浮かべた。
 
( ‘∀‘)「どうされました?」
 
(´・ω・`)「だいたいの話は聞けたので、いったん切り上げようかな、と」
 
( ;‘∀‘)「お皿の話しかしてないような……」
 
( ;´・ω・)「あ、その……きっと、いまの話は事件解決の役にたちます!」
 
( ;‘∀‘)「は、はあ……そうですか」
 
 ガナーに露骨に呆れられる。
 ひょっとすると、自分はガナーとおしゃべりをしたかっただけじゃあないのか、という答えが生まれた。
 確かに、あのモナーの娘にしては、美人だ、とこそ思うが――
 
 
.

236 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:25:09 ID:m4deWffE0
 
 
(´・ω・`)「あ、そうだ」
 
( ‘∀‘)「?」
 
(´・ω・`)「あなたにとって、モナーさんとはどういう人ですか?」
 
( ‘∀‘)「……? あ、ああ…」
 
 少し溜めて、ガナーは答えた。
 
 
( ‘∀‘)「……多くの会社をもって、尊敬できる父です」
 
(´・ω・`)「あなたは、モナーさんが好きですか?」
 
( ‘∀‘)「………え……?」
 
 
 その突然の言葉に、ガナーは少し狼狽する。
 どうして、そんなことを――
 と考えているうちに、ショボーンが続ける。
 
 
(´・ω・`)「こんなことを言っちゃあだめだと思うんですが……」
 
(´・ω・`)「どうも、あなた、モナーさんを好いているように思えないんですよ」
 
( ‘∀‘)「…………っ」
 
(´・ω・`)「なにか……あったのですか?」
 
 
.

237 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:25:58 ID:m4deWffE0
 
 
 ショボーンの引っかかった点は、そこだった。
 ガナーは、もう成人しているだろう。
 物腰の柔らかく、淑やかな女性だ。しっかりしている、のイメージにふさわしく。
 
 だが、そうだとしても、どこかモナーに対する態度がぎこちないように思えたのだ。
 いままで多くの遺族や被害者家族と接してきただけあって、そういった点にはショボーンは敏感だった。
 実の父親が襲われた、わりには、どこか落ち着きすぎではないのか――
 それが、ショボーンの疑問だった。
 
 図星だったのだろうか、ガナーはそう言われて、顔を少し歪めた。
 どこか困っているような素振りを見せる。
 
 
( ‘∀‘)「……こんなこと、人さまに話してもどうかと思うんですが……」
 
(´・ω・`)「はい、なんですか」
 
 
 ためらいを見せながら、ガナーは言った。
 
 
 
( ‘∀‘)「私……父のことは、好きじゃないのです」
 
(´・ω・`)「………」
 
 
 
.

238 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:26:38 ID:m4deWffE0
 
 
( ‘∀‘)「ドラマとかで『仕事優先で、家族に愛を与えない』なんて話がありますが、
      それに近い境遇で育てられたものですから……」
 
(´・ω・`)「……モナーさんは、あれでも、やり手の人だ。
.      仕方ない――で片付けるのもアレですが、やっぱり仕方なかったのでは……」
 
( ‘∀‘)「違うんです。確かに日頃から仕事仕事、とうるさい人ですが……」
 
 
( ‘∀‘)「昔から……父には、キツくあたられてきて……それが、怖かったんです……」
 
 
(´・ω・`)「……!」
 
 泣きそうな声を、ぽつりぽつりと、つむぐ。
 そのことを聞いて、ショボーンは「まさか」と思った。
 
 あの、温厚なモナーである。
 とても、家庭内で暴力をふるうような人には思えないのだが――と。
 
 
( ‘∀‘)「当時はすごく忙しかったようで、お酒もギャンブルも女性問題もなかったんですが、
      仕事のストレスを、私にあたることで発散させているような……」
 
( ‘∀‘)「ドラマみたいに『愛を与えない』だけなら、まだよかったかもしれないですが……
      とても……この歳になっても、やはり、その畏怖…?は拭えない、って言うのか……」
 
(   ∀ )「ほかの人には温厚に接してる父なのに……
      どうして……私には、優しく接してくれなかったのか……」
 
(´・ω・`)「………」
 
 
 涙がこみあがってきたのだろうか、ガナーは顔をうつむけ、目を裾でごしごしと擦った。
 それを隠すかのように勢いよく立ち上がって、ぎこちない笑顔を浮かべる。
 ほんとうはつらいのに、それを他人には見せまいと、必死に強がっているのだろう――
 ショボーンは、ふと、そう感じた。
 
 
( ‘∀‘)「ハハ……いまの話、ナイショですよ」
 
(´・ω・`)「……わかりました」
 
 そこで、深刻な空気は取り払われた。
 苦笑を浮かべ、クセなのだろうか、ガナーは後ろ髪を指で巻く。
 
 
.

239 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:27:32 ID:m4deWffE0
 
 
( ‘∀‘)「なんか、刑事さん相手だと、いろんなことをぺらぺらしゃべっちゃいます」
 
(´・ω・`)「よく言われますよ。なんでだろ、これでもケーサツなんだけどな……」
 
( ‘∀‘)「失礼かもですが、まったくそんな感じはしませんね…」
 
( ;´・ω・)「………ほ、ほんとうですか?」
 
( ‘∀‘)「アハハ…っ。でも、いいと思いますよ、そっちのほうが」
 
(´・ω・`)「そ、うですか……」
 
 
 ガナーは、モナーの話をしていたときこそ別の意味で落ち込んでいたが、それも回復したようだ。
 そうわかると、ショボーンは安心した。
 
 
( ‘∀‘)「つまんない話をしちゃって、ごめんなさいね」
 
(´・ω・`)「いえ、貴重なお話をありがとうございます」
 
( ‘∀‘)「これから刑事さんはどうなさるのですか」
 
(´・ω・`)「引き続き、ここにいる皆さんからお話をうかがいますよ」
 
( ‘∀‘)「そうなんですか! じゃあ、引き止めるのも悪いですね」
 
(´・ω・`)「また時間があれば、こちらに寄りますよ。安否の確認も兼ねて、ね」
 
( ‘∀‘)「……そのときは、よろしくお願いします」
 
(´・ω・`)「…? あ、は、はい」
 
 
.

240 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:28:22 ID:m4deWffE0
 
 
 
 ショボーンはいまの言葉に、なにか形状の保たれていないものを感じた。
 が、それを咀嚼することもなく、ショボーンは頭を下げては、部屋を出て行った。
 扉まで見送りにきてくれたのには好感を持てたが、胸の霞は払われない。
 
 さっきから、不吉なことを考えてばかりだな――
 そう思いつつ、ショボーンは6Fをあとにした。
 
 まだまだ、取り調べをしなければならない人物は大勢いる。
 先にそちらを済ませないと、そもそも話にすらならない。
 ショボーンは刑事としてのショボーンに戻り、次の場所、7Fへと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     イツワリ警部の事件簿
     File.3
 
         (´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
 
 
      第五幕
        「 見てはいけない 」
 
 
                 おしまい
 
 
 
 
 
 
.

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