106 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:07:02 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 
 
 モナーは、いま刺されたばかりなのかと錯覚しそうなほど
 すさまじい勢いで、腹から血をどくどくと流しだしていた。
 それも、刑事を務めるショボーンでさえめったに見ることのないであろうほどの大量出血である。
 
 モナーに生気は感じられないが、体温はホテル内の暖房の効果もあって、若干ではあるが保たれていた。
 気絶はしているようだが、脈をとったところ、まだ死んだわけではないようだ。
 かろうじて、なんとか生き長らえている――そんなところであろう。
 
 だが、いますぐ病院に運んでも絶命する可能性のほうが高いであろう。
 そう思わずには、いられなかった。
 
 
|゚ノ; ∀ )「え……ッ…あ……、……」
 
(´・ω・`)「見てはいけません」
 
 
 すぐさまモナーに駆け寄って、ショボーンはまず現状把握から務めた。
 知り合いとしてのショボーンではなく、一刑事としてのショボーンがモナーと接した。
 
 傷の原因は、鋭利な刃物。おそらく、近くに転がっているナイフが凶器だろう。
 それも、腹部から刺されたにも関わらず、背骨にまでその傷は達しているようだ。
 傷口の大きさとナイフの大きさを見比べた結果、そうわかった。
 
 言うまでもないが、モナーは気絶していた。
 出血多量による血液不足ではなく、刺されたことによるショックだろう。
 ショックで即死しないだけ、まだ助かったと言えた。
 
 が、応急処置をしない限りにはどうしようもない。
 ショボーンは携帯電話を取り出して、冷静にボタンを押した。
 発信先は、ひとつ下の階にいるワカッテマスである。
 
 
.

107 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:07:47 ID:KcS6WLfk0
 
 
   『はい』
 
(´・ω・`)「……今から言うことを、よく聞け」
 
   『――はい』
 
 
 ワカッテマスは、ショボーンのその声を聞いて、声色を変えた。
 この声は、平生の、飄々としたショボーンではなく、『イツワリ警部』としてのショボーンだったからだ。
 
 
(´・ω・`)「モナーさんが、刺された。おそらく、死ぬ」
 
   『――ッ! なん――』
 
(´・ω・`)「いいから、今から言うことを聞け。
.      まずあんたは、メインホールに僕とレモナさん以外のみんなが
.      いることを確認した上で、招待されたみんなを、ホールから一歩も外に出すな」
 
(´・ω・`)「次。モナーさんは、まだ絶命したわけじゃあない。が、出血がひどい。
.      誰か――プギャーさんか、マリントンさん、ガナーさん。
.      このホテルに詳しい人なら、誰でもいい。応急処置の準備をさせろ。
.      その人にだけ、ホールから出してこっち、バーに向かわせるんだ」
 
(´・ω・`)「そして、すぐにキタコレ県警に通報しろ。もちろん救急車もだ」
 
(´・ω・`)「通報し終えたら、最後に残りのみんなに、事情を説明しろ。
.      警察であることを明かせば、話は通じるだろ」
 
   『警部は――』
 
(´・ω・`)「データが足りない。調べられることは、全部調べるさ。
.      急げ、手遅れだけは許されないぞ」
 
   『はッ』
 
 
.

108 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:08:24 ID:KcS6WLfk0
 
 
 そこで、ショボーンは通話を切る。
 ポケットに入れては、しゃがみこみモナーを介抱しながら、周囲を見渡した。
 
 第一印象は、「暗い」だった。
 電気を消したのは犯人か、それとももとから点いてなかったのか――
 マリントンの話を思い出すと、どうやら後者であると思われる。
 
 そしてまず目に入ったのは、凶器のナイフだ。
 根元にまで、その赤黒い血はびっしりとついている。
 が、着眼点はそこではなかった。
 
 柄に、紐が結び付けられているのだ。
 
 その紐は、バーのドアの取っ手につながっている。
 長さとしては、目測で言えば、ちょうど目の前の席とドアとをつなぐほど。
 あわせると、ドアとナイフとが、一本の紐が伸びきった状態でつながれていたということだ。
 
 
 そうわかれば、今しがた起こった出来事にも説明がいった。
 ナイフとモナーの転がり落ちた音。直後に噴き出してきた、血。そして、二つをつなぐ紐。
 
 刃物を人体に突き立てても、その時には大げさな出血は起こらない。
 刺した刃物自身が、その傷口の蓋となるからだ。
 しかし、それを引き抜けば、途端におぞましい量の血が噴き出されることになる。
 
 おそらく、レモナとショボーンが来るまでは、モナーにこのナイフが突き立てられたままだったのだろう。
 それも椅子に座らされていた状態――いまの体勢から見ると、
 転がり落ちる前は扉のほうに顔を向けていたと思われる――で。
 
 しかし、扉が開かれた瞬間、そのナイフが抜かれ、出血させてしまうことになった。
 すると、あるひとつのことがわかった。
 
 
.

109 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:08:59 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 
(´・ω・`)「(ドアとナイフとを紐でつないで、だ……。
       ドアを開けば、自動的にナイフが抜ける仕組みとなっていたのか)」
 
 
 そうとわかって、ショボーンは深刻な気持ちになった。
 この事実から、あるひとつのことが連鎖的にわかるからだ。
 
 
(´・ω・`)「(つまり……これは、計画殺人……ってことか)」
 
(´・ω・`)「(計画殺人………つまり)」
 
 
 
 ―――モナーは、今日このホテルに招かれている誰かに、計画的に殺された。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

110 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:09:31 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
    イツワリ警部の事件簿
    File.3
 
           (´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
              第三幕 「 招かれざる客 」
 
 
 
 
 
.

111 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:10:27 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 
( <●><●>)「皆さん、聞いてください!」
 
 
 ワカッテマスの声は、彼らが勤めるVIP県警のなかでもずば抜けて大きい。
 そして、大きいだけに、よく通る。
 持ち前の声の大きさを使って、ワカッテマスはホールの最前列から振り返って、言い放った。
 
 直後、その場にいるショボーン、レモナ、そしてモナーを除く皆がワカッテマスに注目する。
 先ほどまでざわめいていたのが嘘のように、静まり返った。
 ワカッテマスの声を聞いて、なにか異常なことが起こったのだ、とわかったのだ。
 
 それは好都合だ。
 ワカッテマスは、矢継ぎ早に続けた。
 
 
( <●><●>)「私は、VIP県警捜査一課、刑事の若手と申します」
 
( <●><●>)「そして皆さんに、11Fに向かったショボーン警部から伝言を預かっております」
 
 
(゚A゚* )「! ジブンら、ケーサツやったんか!?」
 
( ;‘∀‘)「警察って……え、ちょっと――」
 
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ま、待て! ちゅーことは、もしかして――」
 
 
 自分の身分を明かすと、それぞれの理由で知らなかった人たちが騒ぐ。
 なにも、自分に後ろ暗いことがあるから――ではない。
 
 モナーが、まだパーティ会場に来ない。
 突如として警察を名乗った男が、アナウンスをしている。
 この事実から、各々は、不吉なことを予想してしまったのだ。
 
 
.

112 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:11:00 ID:KcS6WLfk0
 
 
( <●><●>)「落ち着いて、聞いてください」
 
 
 
( <●><●>)「緒前モナーさんが、何者かによって、刺されました」
 
 
 
 
爪;'ー`)「え……」
 
(゚、゚;トソン「っ!?」
 
(∴);◎∀◎∴)「ヲタぁぁ!?」
 
 
 
( <●><●>)「何者か、つまり、このなかにいる誰か、です」
 
 
 
 
( ;^Д^)「なっ――」
 
(-@∀@)「…ッ」
 
(;´W`)「………!」
 
 
 
 
.

113 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:11:39 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 ワカッテマスが事情をそのように説明し終える頃には
 残りの九人の間に、予想していた不吉な戦慄が走っていた。
 
 ここで騒がしくなるか、と思ったが、むしろ先ほど以上に静まり返った。
 いまのうちに、と、ワカッテマスが続ける。
 
 
( <●><●>)「そのため、ここにいる皆さんは、その場を動かないでください。それが、一点」
 
( ;^Д^)「ま、まだあるのか!?」
 
( <●><●>)「笑野さん、ひとついいですか」
 
( ;^Д^)「な…なんだ」
 
 
 すっかり取り乱したプギャーに、ワカッテマスが歩み寄る。
 皆の、鋭い視線が二人に注がれる。
 ワカッテマスの慣れているものだった。
 
 
( <●><●>)「応急処置を施したいのですが、なにか、そういったたぐいのものはありませんか」
 
( ;^Д^)「そういうことか……いや、あるには、ある」
 
( <●><●>)「――というと?」
 
( ;^Д^)「あるのだが――1Fにしかないんだ」
 
( <●><●>)「…ッ。各階に備え付けられていないのですか」
 
( ;^Д^)「そういった細かいところは、後日、スタッフを総動員させてするつもりだったんだ。
.      救急セットを用意するには……10分。探すのも含めて、10分ばかりかかる。問題、ないですか」
 
( <●><●>)「……それでも、用意するに越したことはない。ぜひ、お願いします」
 
( ;^Д^)「わかりました。……でも、単独行動して、いいんでしょうか」
 
 
.

114 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:12:12 ID:KcS6WLfk0
 
 
 ワカッテマスとしては、そんなことはどうでもいいから早く行ってくれ――と思うところだ。
 しかし一方で、プギャーのその懸念も、仕方ないことだった。
 
 モナーが刺され、その犯人がこのなかにいて――
 そのうちの一人に、プギャーも入っているからだ。
 警察である以上、その判断を違えるわけにはいかない。
 
 ――が
 
 
( <●><●>)「あなたが無実なら、なにもおそれる必要はない。
         人命最優先です。至急、お願いします」
 
( ;^Д^)「わッわかりました!」
 
 
 ワカッテマスは、以前、ショボーンにあることを教えられた。
 警察官がなによりも死守しなければならないものは、人命である、と。
 
 そのため、プギャーの持つ懸念ももっともだが、そこは見逃した。
 警察官として、この判断は間違っていないだろう――ワカッテマスはそう割り切った。
 
 
 皆が固まり、痛いほどの静寂が一帯を制するなか
 プギャーが慌てて、転びそうになりつつもエレベーターに向かって走り出した。
 彼を目で追う者はいたが、疑いをかける目ではないだろう。
 
 これで、ワカッテマスは命令を二点まで済ませた。
 次は、通報である。この一瞬一瞬が生死を分けることは知っていたので、
 若干冷静を失いながらも、彼は携帯電話を取り出す。
 
 
 その間、場内に、誰一人として声を発する者はいなかった。
 
 
 
 
 
.

115 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:13:19 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
(´・ω・`)「遅い……ッ」
 
 ショボーンは、ある程度までは一帯のことを調べ終えていた。
 結果、刺されたのはそう前ではないだろう、とわかった。
 控えめに見て、三十分から一時間。それが、モナーの刺された時刻だと思われた。
 
 トレンチコートを脱いで、せめてもの止血に、とそれをモナーの腹部に巻きつけた。
 しかし、それもほんの足掻きに過ぎなかった。
 このコートはそこそこ分厚い生地でできているのだが、それを、あふれ出す血はあっさり貫通してしまったのだ。
 
 生地越しに、血痕が浮かび上がってくる。
 それは徐々に広がっていき、やがて、そこからも血が滴り落ちるようになった。
 
 
 スーツ姿になったショボーンは、5分経っても遣いが来ないことに、半ば苛立ちを覚えていた。
 救急セットくらい、どこにでもあるのではないか――そう思ったのだ。
 が、あくまでもこのホテルは、まだ一般にはオープンされていない。
 そう考えると、ひょっとすると救急セットなど、ないのではないか――そんな嫌な予感が、胸をよぎる。
 
 不吉なことを考えていてはだめだ。
 ショボーンが、顔を横にすばやく数回振るう。
 深呼吸をし、気を落ち着かせたところで、ショボーンは窓を見た。
 
 壁の上半分が窓ガラスで占められており、それにあわせてテーブルが設けられている。
 景色を楽しむための配置、と見ていいだろう。
 その窓ガラスの両端には、大きいカーテンが取り付けられている。
 カーテンを閉めると、椅子も覆い隠すことになるのだが、これで埃や景観を守るつもりなのだろうか。
 
 だが、カーテンは束ねられていた。見ようと思えば、景色を見ることはできた。
 しかし、モナーの座っていたであろう席は、カウンターだ。
 この景色に、背を向けて座っていたことになる。
 せめて、刺される前にこの景色でも見ていたら。
 ショボーンはふと、センチメンタルな気持ちになった。
 
 
.

116 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:14:01 ID:KcS6WLfk0
 
 
(´・ω・`)「……いや」
 
 そこで、自分の考えを否定する。
 いざ見てみると、窓ガラスからは、決して景色を見ることができなかったからだ。
 
 窓ガラスを破るかの勢いで、雪が降り注がれている。
 そのようなコーティングにしたのだろうか、その雪が窓に積もることはないが、
 だからこそ、その豪雪の規模を目で知ることができた。
 
 最初にここを訪れたときよりも、数倍、激しくなっている。
 ここまでくれば豪雪、ではない。「吹雪」だ。
 外に出れば、目を開くことすらできないであろう。
 そう思うと、彼は寒気を感じた。コートを脱いだから、だろうか。
 
 ――否。ショボーンは、もっと別のところで、それもかなり不吉なケースを想定してしまったのだ。
 以前、シベリアの豪雪に見舞われたから、そしてその豪雪よりも
 はるかに凄まじい豪雪をいま目の当たりにしているからこそ、言える推理である。
 
 
 
(´・ω・`)「おい……冗談じゃないぞ」
 
(´・ω・`)「ひょっとすると……」
 
 
 そこで、握っていた携帯電話が、音を鳴らした。
 別段動じず、落ち着いた様子で応対する。
 すると、ワカッテマスの、平生では絶対に聞くことのできない、焦燥に満ち溢れた声が飛んできた。
 
 
.

117 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:14:37 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
   『警部、大変です!』
 
(´・ω・`)「手当ての用意はまだか」
 
   『そろそろ着くはずですが――それどころじゃありません!』
 
(´・ω・`)「……言ってみろ」
 
 
 今抱いたばかりの不吉な予想が、現実味を増す。
 少し、心臓の鼓動が速くなったような気さえ、した。
 
 
   『キタコレ県警に通報したところ――』
 
 
 
   『雪があまりにもひどすぎて、とても出動できるものじゃあない、ということです!』
 
 
(;´・ω・`)「―――くッ!」
 
 
 
 ――ショボーンの不吉な予想。
 「吹雪」の影響で、出動ができない。
 
 それが、見事に的中してしまった。
 
 
 
 
.

118 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:15:19 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
(;´・ω・`)「なにか、向こうは対策をしてなかったのか!」
 
 ほぼ八つ当たりに近いことを言う。
 相対的に、ワカッテマスは落ち着いた様子で答えた。
 
 
   『この規模の豪雪は、現地の人に言わせても稀にしか見られないもののようです。
.    また、対策をしていたとしても、この規模だと物理的に出動は不可能でしょう。
.    まして、ここは山の上で、近辺の列車も機能していないですから』
 
(;´・ω・`)「……わ、わかった」
 
   『私はどうしましょう』
 
(´・ω・`)「取り調べをしてくれ。犯人が僕たちのなかにいることには、違いないんだから」
 
   『わかりました。…では』
 
 
 そこで、断続的に電子音が聞こえる。
 それを聞き届けて、ショボーンは携帯電話をズボンのポケットに仕舞った。
 
 まだ、応急処置の用意は持ってこられない。
 せいても仕方のないことだが、逸る気持ちを抑えることもできない。
 気がつけば、出入り口のところに足を進めていた。
 
 出入り口――というより、レモナのもとに、である。
 
 
.

119 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:15:51 ID:KcS6WLfk0
 
 
(´・ω・`)「……レモナさん」
 
|゚ノ; ∀ )「………」
 
(´・ω・`)「………?」
 
 
 ショボーンはベテランの刑事だ。
 血まみれの死体にも、その人にのこされていく遺族にも、数え切れないほど出会ってきた。
 そして、心理学に精通するわけではないが、それでもだいたいの人の様態は熟知するようになった。
 
 しかし、レモナを見ると、どこか不思議な気持ちになった。
 確かに、殺されたことでショックを受けたり、大量の出血を見て嘔吐する人もざらにいる。
 だが、レモナの様態は、そういったそれとはどこか違って見えた。
 
 目を見開き、服の胸の辺りを鷲づかみにして、咳や嗚咽に近い呼吸をしている。
 ショックも当然感じられるのだが、彼女の様子から、ショック以上に、狂気すら感じられたのだ。
 彼女は、ショックを受けただけじゃあない。別の何かも負ってしまったのではないか。
 ショボーンはふと、そう思った。
 
 元気付ける意味も含めて、ショボーンはレモナの隣にしゃがみこんだ。
 肩に手を当て、宥めるようにぽんぽんと叩く。
 精神的に不安定な人には、人のぬくもりというものを与えれば、幾分か落ち着く。
 そんなケースが、多かったからだ。
 
 
.

120 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:16:31 ID:KcS6WLfk0
 
 
(´・ω・`)「レモナさん」
 
|゚ノ; ∀ )「……っ」
 
|゚ノ;^∀^)「は…はい」
 
(´・ω・`)「大丈夫ですか?」
 
|゚ノ;^∀^)「……な、なんとか」
 
 大丈夫そうでないことは、様子を見ればショボーンでもわかる。
 しかし、彼に心配をかけまいと、レモナは強がるように振る舞う。
 その様子がどこか健気で、ショボーンの同情の気持ちはいっそう深まった。
 
 
 ――彼女が、モナーを刺したかもしれないのだが。
 このときは、なるべくそれについては考えないでおこう、とショボーンは思っていた。
 
 
(´・ω・`)「いきなりで酷ですが……お話をうかがってもよろしいですか」
 
|゚ノ ^∀^)「私の……ですか?」
 
(´・ω・`)「はい。今は……18時半過ぎ、か。ここに来るまでの、あなたの動きを、です」
 
|゚ノ ^∀^)「アハハ……なんだか、ミステリードラマのワンシーンみたいです」
 
(´・ω・`)「実際に、そうですからね」
 
 笑わないで、ショボーンは強く言った。
 確かに、一般人のレモナにとっては半ば信じられない光景だろう、事実だろう。
 しかし、これはまぎれもない現実で、それを甘受しなければならないのだ。
 そうさせるのが刑事のつらいところではあるが、ショボーンはそれでも認識させる。
 
 これが、現実なのであるということを。
 
 
.

121 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:17:03 ID:KcS6WLfk0
 
 
|゚ノ ^∀^)「私は……ずっと、メインホールにいました」
 
(´・ω・`)「僕たちがホールに着いた頃から?」
 
|゚ノ ^∀^)「はい。18時のパーティに向け、ガナーさんと一緒に料理を並べていってました。
.      ガナーさんに聞けば、証明されると思います。
.      というより……私が、社長を、殺……すハズがありません」
 
(´・ω・`)「僕もそう信じたいんですがね、そういう私情を呑むわけにいはいかないんですよ。
.      ……まあ、ずっとホールにいた、っていうのは本当そうですが」
 
|゚ノ ^∀^)「あと、トソンちゃんもずっといたような気がします。
.      かまってあげることができず、ずっと見ていたわけでも
.      ないので、途中で抜け出していたかもしれませんが……」
 
(´・ω・`)「ということは、ガナーさんとあなたは、一度もホールから出てない、と」
 
|゚ノ ^∀^)「今朝倉庫に置いておいた料理をとったりはしましたが、10F以外には行ってません」
 
(´・ω・`)「ガナーさんとぴったり一緒になって倉庫などを出入りしていた……んですか?」
 
 調子を取り戻してきたレモナだったが、その時、言葉を少し詰まらせた。
 ちょっと強く訊きすぎたかな、と言ってからショボーンは後悔する。
 
 
|゚ノ ^∀^)「……いや。さすがにそのときは互いに目を離していたと思います」
 
(´・ω・`)「はあ」
 
|゚ノ ^∀^)「まあ、それも毎回一分に満たない時間ですから、問題ないと思いますけど……」
 
(´・ω・`)「それもそうですね」
 
 レモナの精神を気遣って、ショボーンはそれ以上詮索するのをやめた。
 あとでガナーに聞けばいい話でもあるし、
 「自分は10Fを離れていない」という証言は本当のように聞こえたからだ。
 
 ワカッテマスには再三「捜査に私情を挟むな」と教えてあるが、
 主観にしたがって行動しなければならないことは、数え切れないほどある。
 いまのも、言わばそれの一環だった。
 
 
.

122 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:17:45 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
   「お、お待たせしました」
 
 
 ショボーンは後ろから、声をかけられた。
 足音が聞こえていたので、別段驚くべきことでもなかったようだ。
 
 レモナとともに、そちらに目を遣る。
 プギャーが、頼まれていた医療セットをようやく持ってきてくれたのだ。
 不満を垂れることはなく、ショボーンは迎え入れた。
 
 
( ^Д^)「遅れてすいません」
 
(´・ω・`)「いえ。きっと、まだちゃんとしたものを置いてなかったんだろうなって思ってました」
 
( ^Д^)「よくわかりましたね。まだ準備期間だからと、ワンセットしかなかったんです」
 
(´・ω・`)「とにかく、早く応急処置をしましょう」
 
( ^Д^)「はい。あ、自分に任せてください。多少の心得はあります」
 
(´・ω・`)「はあ。こちらです」
 
 プギャーは、レモナと比べれば、多少は落ち着いているように思えた。
 しかし、言葉の欠片が、ところどころで上ずっていた。
 やはり彼も、少なからず動揺しているようだ。
 
 
 白い箱から、大きな包帯のようなものとマットを取り出す。
 ショボーンも、その職業柄、司法医学にはある程度精通している。
 筋肉の硬直やらから死亡推定時刻を特定したりする程度には、知識に覚えがあった。
 
 そんなショボーンだが、プギャーに処置を任せる。
 先ほど何度も呼びかけたが、モナーに応答はなかった。
 ――いや、まだ命を取り留めているとはいえ、意識を呼び起こしてはだめだろう。
 そう考え、ショボーンは、プギャーの応急処置を、ただわきから見届けるだけにした。
 
 
( ^Д^)「……こ、これでいいのか…な」
 
(´・ω・`)
 
 
.

123 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:18:16 ID:KcS6WLfk0
 
 
 少しして、それは終わった。
 だが、法医学に通ずる者の見解としては、プギャーの応急処置はとても褒められたものではなかった。
 患部にマットを当てて、むやみに包帯で巻いただけである。
 その程度で、よく心得があると言えるものだ――ショボーンは呆れた。
 
 が、それを責めることはできないように思えた。
 プギャーの応急処置を終えた手が、震えていたのである。
 
 
 そこで、プギャーが振り返る。
 レモナもショックを振り払えたようで、立ち上がることができていた。
 ショボーンはここで、刑事として、彼らに次にとるべき行動を指示する義務があるのだ。
 次はプギャーに話を聞くか、とショボーンは決めた。
 
 
( ^Д^)「刑事さん」
 
(´・ω・`)「ん、はい」
 
 が、その前にプギャーに先手をとられた。
 
 
( ^Д^)「警察は……ここまでこれる、んでしょうか」
 
(´・ω・`)「というと」
 
( ^Д^)「俺、これでもこのホテルをもつことになって、数ヶ月間キタコレに住んでるんですが
      それについて言えば、ここまでひどい雪、見たことないですから」
 
 自嘲するように言いながら、プギャーは窓のほうを見た。
 依然変わらぬ――どころか、先ほどにも増して強くなった雪が、窓を叩きつける。
 ありえないことだが、窓が割られそうな気がしてならなかった。
 
 
.

124 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:19:18 ID:KcS6WLfk0
 
 
( ^Д^)「あちこちの電車は止められるだろうし、道路もきっとスリップが原因で事故が多発するだろうし。
      ……ひょっとすると、パトカーもおんなじ目に遭ってる気がしたんですよ」
 
(´・ω・`)「その予感は、当たってますね」
 
( ^Д^)「……やっぱり?」
 
(´・ω・`)「パトカーも、救急車も、アウトです」
 
 ショボーンも、同じように自嘲するように吐き捨てた。
 視線を窓から、プギャーに戻す。
 
 
(´・ω・`)「でも、その間にでも僕たちにできることはある。
.      いまにおけるそれは、僕があなたからお話をうかがうことです」
 
( ^Д^)「取り調べ……ってやつですか。なんでも聞いてください」
 
(´・ω・`)「事件が発覚するまでの、あなたの動きです」
 
 訊くと、プギャーは少し難しい顔をした。
 話す順序を考えているか、何をしていたかを思い出そうとしているようだ。
 
 
( ^Д^)「難しいですね。逐一覚えていることでもないので」」
 
(´・ω・`)「あいまいでもいいので」
 
( ^Д^)「今朝ははやくからここに来て、運び込まれる料理を、10Fの倉庫に――」
 
(´・ω・`)「あ、そこらへんはかまいません。もうちょっと先のことを」
 
( ^Д^)「えー、じゃあ……そうだな」
 
(´・ω・`)「それじゃあ、16時くらい――二時間半ほど前あたりからでお願いします」
 
( ^Д^)「それでも結構遡りますね。社長が存命でいらっしゃるじゃないですか」
 
(´・ω・`)「まあ、この取り調べはなにもアリバイ確認のためだけじゃないですから」
 
 
.

125 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:19:51 ID:KcS6WLfk0
 
 
 「ふーん」と興味のなさそうな返事に続けて、プギャーはゆっくり、言葉を選びながら答えた。
 
( ^Д^)「あ、そうだ。刑事さんは、WKTKホテルに誘致される予定の美術品の話、知ってますか」
 
(´・ω・`)「クロヒーゲさんが館長を務める美術館の、でしたっけ」
 
( ^Д^)「シラヒーゲです。わざと間違えてませんか」
 
 「あれっ」と、ショボーンは照れ隠しに笑った。
 どうやら、素で間違えたようだ。
 
 
(´・ω・`)「はは、内緒でお願いします。
.      ……アスキーミュージアムから美術品を寄贈するかどうか、で悩んでいた、とか」
 
( ^Д^)「寄贈――というよりも、レンタルですね。所有権が移るわけでもないので」
 
(´・ω・`)「一定期間ごとに展示物が変わる、ということですか」
 
( ^Д^)「はい。で、今日のパーティにシラヒーゲさんを呼んだんですがね、
      実は、その話に決着をつけるために呼んだんですよ」
 
(´・ω・`)「決着……」
 
( ^Д^)「彼は、美術品をこのホテルに展示されるのを、どこか嫌がっていましてね。
      でも、社長としても、どうしてもホテルに華を持たせるために、その話に躍起になっていますし。
      それを、俺が社長の代わりに説得することになってたんです」
 
(´・ω・`)「だから、4Fの喫茶店で話し合っておられたんですな」
 
 
 ショボーンは、何気ない様子で言った。
 だが瞬間、プギャーはどこか、動揺したように見えた。
 
 「あれ」と思って、ショボーンが目を少し大きく開く。
 が、プギャーが何か大きな反応を見せることはなかった。
 気のせいか――ショボーンは、彼が続ける言葉に耳を傾ける。
 
 
.

126 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:20:35 ID:KcS6WLfk0
 
 
( ^Д^)「ご存じでしたか。ほら、オープン一週間前でしょ?
      どの美術品を譲っていただけるかで、宣伝記事にも影響がでてくる。
      だから、せめてパーティが始まる前に、話をつけておきたかったんですよ」
 
(´・ω・`)「一応聞くと、それでどうなりました」
 
( ^Д^)「もう、譲ってもらえると思います」
 
(´・ω・`)「…? そうですか」
 
 今の言葉に、どこか釈然としないものを感じつつも、ショボーンは相槌を打った。
 続けてそのときの時間を訊いたが、さすがにそこまでは覚えていなかったようだ。
 が、ショボーンとマリントンの話から、17時くらいだろうと考えた。
 
 モナーは、16時半辺りから消息を絶っている。
 ショボーンと話した後に彼はホールを出て行ったし、
 18時すぎのレモナの様子から、以降誰もモナーの姿を見ていないとわかる以上、これは確かなことだ。
 
 モナーの、16時半以降の消息を知る者は、犯人のみ。
 そう考えると、長らくの間、犯人はモナーと一緒にいたと見るのが自然だろう。
 もっとも、バーにいたことを考えると、犯人がモナーをそこに残して席を外した――
 ということも考えられるので、一言にそう断定することはできないが。
 
 たとえば、プギャーの場合、モナーとバーを訪れてから
 いったん席を外してシラヒーゲと寄贈の話をした、とも考えられるのだ。
 証拠も根拠もない、ただの憶測に過ぎないが、可能性はあった、というように。
 
 
.

127 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:21:30 ID:KcS6WLfk0
 
 
(´・ω・`)「そういえば、僕とすれ違ったとき、あなたは3Fに向かいましたよね」
 
( ^Д^)「……」
 
(´・ω・`)「どうしました?」
 
( ^Д^)「…」
 
 
( ;^Д^)「え? いや……うろちょろしてたもんで」
 
(´・ω・`)「はあ。具体的には」
 
( ^Д^)「ゲームコーナーをぐるっと回った後、2Fをうろちょろしたり」
 
( ^Д^)「暇だったし、自分もなかなか内装を見て回る機会がなかったもんですから」
 
(´・ω・`)「アサピーさんはどうやってあしらったのですか」
 
 「ああ……」と、面倒くさそうな顔をする。
 それはショボーンに向けられたのかアサピーに向けられたのか、判断できない。
 
 
( ^Д^)「走って撒いたに決まってるじゃないですか。
      これでも俺、足には自信がありますから」
 
(´・ω・`)「(あ、あの人から走って逃げられたのか……)
.      でも、18時になってあなたはパーティに出席してましたよね」
 
( ^Д^)「それがなにか。これでも副支配人ですよ」
 
(´・ω・`)「いやあ。あのアサピーさんなら、
.      そこで邂逅してまた捕まえるんじゃないかな、って思ったんで」
 
 
.

128 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:22:27 ID:KcS6WLfk0
 
 
( ^Д^)「だろうと思ったから、パーティには少し遅れて向かったんです」
 
(´・ω・`)「遅れて?」
 
( ^Д^)「18時ちょっと過ぎに。でも社長はこないからパーティがはじまらないでしょ。
      これはまずい、と思ったけど、あの記者には捕まらなかったですよ」
 
(´・ω・`)「あの人はなにかしていたのですか」
 
( ^Д^)「アンモラルからの遣いの人、いたでしょ」
 
(´・ω・`)「のーさん、でしたっけ」
 
( ^Д^)「あの人に絡んで、ネチネチなにか訊いてたような気がする」
 
(;´・ω・`)「は、はあ。そうですか」
 
(´・ω・`)「……オホン。話は戻しますが、あなたがゲームコーナーを
.      うろついていたとき、誰とも会わなかったですか?」
 
( ^Д^)「?」
 
(´・ω・`)「ほら、僕とすれ違ったあと、3Fをうろついたんでしょ。
.      そのとき、僕の推理がただしければ、ある人と会ったはずなんですが」
 
( ^Д^)「あ、ああ。もちろん会った――いや、見かけましたよ」
 
(´・ω・`)「どなたを?」
 
 少し含み笑いを浮かべて、訊く。
 こういったところから、ショボーンは《偽り》を見抜いては、事件の真相に一歩ずつ近づくのだ。
 
 プギャーがなんともないような顔をして、口を開く。
 ショボーンは息を呑んだ。
 
 
 
( ^Д^)「あの、格闘ゲーマーでしょ」
 
 
 ――が、一瞬抱いた望みはあっという間に消えてしまった。
 まあ、そんな簡単に「偽り」を見抜けるはずもないか、と割り切る。
 
 
.

129 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:23:16 ID:KcS6WLfk0
 
 
(´・ω・`)「…」
 
( ^Д^)「え、あれ、違った?」
 
(´・ω・`)「い、いや。合ってますよ。なんでもないです」
 
( ;^Д^)「……よかった。ほかに誰かいたのか、って一瞬思ったよ」
 
(´・ω・`)「ということは、ほかには誰も」
 
( ^Д^)「そんときはいなかったですね」
 
(´・ω・`)「そうですか」
 
 ショボーンがプギャーとすれ違ったのは、17時頃である。
 どうやら、この時間、3Fではおかしなことはなかったようだ。
 
 そうとわかれば、とショボーンはその話を切る。
 いつまでものんびりと、ここで話しているわけにはいかないのだ。
 
 ショボーンは立ち上がる。
 レモナとプギャーが、彼を見上げた。
 
 
|゚ノ ^∀^)「どうしましたか」
 
(´・ω・`)「僕も一応警察なんでね。10Fに戻って、やるべきことをしないと」
 
( ^Д^)「社長は……どうしましょう」
 
(´・ω・`)「僕らの目の届くところに安置しておきたいんですが……
.      その傷じゃあ、動かすだけで悪化するでしょ。
.      二人で、モナーさんを見てもらってよろしいですか」
 
|゚ノ ^∀^)「ここで……二人きりで?」
 
( ;^Д^)「な、なんだよその言い方! 俺が犯人だってか!?」
 
(´・ω・`)「いやいや、彼女の心理はもっともですよ。
.      まあ……ちょくちょく様子を見にきますから。
.      なにか、様態に変化があれば僕に知らせてください。
.      意識が戻ったら、何度も呼びかけて、なんとか意識を保たせるように」
 
 
.

130 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:24:03 ID:KcS6WLfk0
 
 
|゚ノ ^∀^)「………」
 
( ^Д^)「わかりました」
 
(´・ω・`)「レモナさんは……」
 
|゚ノ ^∀^)「…………。」
 
 プギャーはこの場にもう馴染んだようだったが、レモナはそうではなかったようだ。
 モナーが殺され、そしてその犯人がこのホテル内にいるということで、
 半ば疑心暗鬼になっているように見受けられる。
 
 
 そして、十秒ほど長考を挟んだあと、レモナはようやく
 
 
|゚ノ ^∀^)「……わかりました」
 
(´・ω・`)「では、これで――」
 
|゚ノ ^∀^)「ショボーンさん!」
 
(;´・ω・`)「は、はい!」
 
 
.

131 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:24:38 ID:KcS6WLfk0
 
 
 ショボーンが去ろうとすると、ひときわ大きな声を以てレモナに呼び止められた。
 反射するように、ショボーンが振り返る。
 
 
|゚ノ ^∀^)「トレンチコート、ここに置いておいても、よろしいのですか」
 
(´・ω・`)「え? ああ……」
 
 
 ショボーンのコートは、応急処置をするさい、傍らの椅子にかけておいた。
 バーに入ってすぐ右手にある、端っこの席だ。
 
 コートは背中のあたりが血でまみれており、クリーニングに出してもその染みが落ちることはないだろう。
 そう思い、ショボーンは少し残念そうな顔をした。
 
(´・ω・`)「どうせもう着ませんし、いま持っててもかさばるだけだし。
.      帰るときに、持っていきます」
 
|゚ノ ^∀^)「わかりました」
 
(´・ω・`)「では」
 
 
 ショボーンは今度こそ、と思いつつ、敬礼しながらバーを去った。
 残されたレモナとプギャーを、途端に痛いほどの沈黙が包む。
 が、ショボーンはそれにばかり気をつかっていることもできなかった。
 
 彼には彼で、やるべきことがあるのだ。
 
 
 
 
.

132 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:25:15 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 

 
 
 
 
 メインホールに戻ると、ワカッテマスはうまく立ち回ったようで、
 どうにか混乱だけは防ぐことができていたようだった。
 
 ショボーンはまずそれを知って安堵する。
 が、ワカッテマスには必要最低限のことしか指示していない。
 ここからが大変だ――ショボーンは気付けした。
 
 
( <●><●>)「警部っ」
 
(´・ω・`)「お」
 
 
 ショボーンと落ち合うように、ワカッテマスもホール前方から駆けてきた。
 ホール中央辺りで落ち合い、ワカッテマスが先に口を切った。
 
 
( <●><●>)「一応、指示されたことは一通り済ませておきました」
 
(´・ω・`)「応援は」
 
( <●><●>)「……」
 
 ワカッテマスが苦い顔をする。
 やはり、それだけはどうにもならなかったようだ。
 
 突如として降り出した、吹雪。
 運が悪い、で済ませていいのか、策略を感じ取るべきなのか。
 キタコレの人間でないショボーンにその判断はできなかったが、だからこそするべきことがあった。
 
 
 脱出不可となっている今のうちに、犯人を突き止めるのだ。
 
 
.

133 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:26:02 ID:KcS6WLfk0
 
 
 ショボーンの登場で、先ほどまで沈黙が痛かった空気から一転、ざわめきが生まれた。
 いよいよ彼らも、リアリティーを感じだしたのだろう。
 なんといっても、ショボーンは刺されたモナーをもっとも近くで見ていた人物なのだから。
 
 ワカッテマスは声が大きいが、自分はそうでもない。
 それを自覚しているも、ショボーンは久しぶりに、腹の底から声を出すことにした。
 マイクがあればなあ――と思うが、それを用意する手間すら惜しく感じられる。
 
 
(´・ω・`)「皆さん、聞いてください」
 
 
 その一声が、ホール全体に響き渡ることはなかった。
 が、一応皆に聞こえたようだ。
 周囲の反応からそう実感し、ショボーンは続ける。
 
 
(´・ω・`)「こいつに聞いてると思いますが、モナーさんが刺されました。
.      現在生死の境目――救急車の早期到着が望まれない以上、危険です」
 
 救急車が来れない、ということを知って、悲しみに暮れる声が聞こえた。
 救急車が来れないということは、パトカーも来れない。
 
 能動的に考えても、自分たちがこのホテルから出ることすらままならない、ということなのだ。
 つまり、それまでの間、自分は犯人と一緒の空間にいる――
 
(´・ω・`)「そこで、いまから簡単な取り調べを行いますから
.      18時、ここに集合するまでにとっていた行動とその時間帯を、なるべく明瞭に思い出しといてください。
.      ……特に、犯行が起こったと思われる、17時半からのことを」
 
 
 
(´・ω・`)「……ワカッテマス。そっちは任せたぞ」
 
( <●><●>)「はい」
 
 走り出しながら言ったので、その声はぶれた。
 だが、ワカッテマスはおそらく、このときのショボーンの声が
 聞こえていなかったとしても、黙って取り調べに移っていただろう。
 
 ワカテで天才の彼は経験以外なら揃っており、
 またこういった場面での経験なら、もう積んでいるのだ。
 
 
 
.

134 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:26:37 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 そして、ある程度のことは把握することができた。
 レモナ曰く、トソン、ガナー、レモナはずっとこのホールにいた。
 それは17時半からにでも言えることであり、
 またその時点で既にホールに来ていた人もいるので、彼女たちにはアリバイがある。
 
 また一方で、17時半頃にホールに来たのは、マリントンだ。
 モナーを刺した犯人は、その部屋――バーに、大掛かりなしかけを施している。
 それに費やす時間も考えると、彼にもこの犯行は難しいだろうと思われた。
 
 
 が、残りの皆は、ばらつきこそあれど、五十分前後にここに来たと言った。
 そのため、重要なのはその間、どこで何をしていたか、である。
 
 
(´・ω・`)「のーさんは、いったい」
 
(゚A゚* )「ウチなー、風呂はいろーかな、思うてましてん」
 
(´・ω・`)「ほう、2Fですな」
 
(゚A゚* )「でも、ほら、時間が押してたから」
 
(´・ω・`)「というと、何時ごろですか」
 
(゚A゚* )「どーやろ……。もう集合三十分前やった気がする」
 
(´・ω・`)「三十分……風呂に入るにはビミョーな時間ですな」
 
(゚A゚* )「やろ? やから、もうせっかくやし早いうちにホールに行こう思いましてやなあ。
     エレベーターに乗って10Fに直行しようか思うたんですよ」
 
(´・ω・`)「思った、ということは、やめた?」
 
(゚A゚* )「いや、乗ったっちゃ乗ったけど、9Fで降りて。スタッフルームに用があったんですよ」
 
(´・ω・`)「スタッフルーム……?」
 
 「そういえばパンフレットにも載っていたな」とショボーンは思い出す。
 スタッフルームはスタッフルームなので、なかに何があるか、などはわからなかったが。
 
 のーは、直接的な関係者ではないが、アンモラルグループの代表としてこのホテルに深く噛んでいる。
 スタッフルームと彼女をつなぐものがあったとしても、なんらおかしくはない。
 
 のーが、水色のチョーカーをいじりながら答える。
 
 
.

135 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:27:43 ID:KcS6WLfk0
 
 
(゚A゚* )「ちょいとしんどくてなァ……。風邪薬かなんか置いてへんの、って思うて。
     スタッフルームっちゅーねんから、なんかありそーでしょ?」
 
(´・ω・`)「まあ、実際は1Fにしかなかったわけですが。それも、内服薬はないみたいです」
 
(゚A゚* )「ホンマなー、そーゆーところがあの人のビジネスあかんところや思いますねん」
 
(´・ω・`)「あの人、とは」
 
(゚A゚* )「モナーさんやん、モナーさん!
     なよなよしてて、せっかくウチらがアドバイスしても、まるで聞きよれへん!
     ウチら、あのアンモラルやで? 言うこと聞いてたら、セイコウ間違いなしやのになァ。
     そーですやろ!? 刑事さん」
 
(;´・ω・`)「すみませんが、僕、そのナントカって企業、存じてないので」
 
(゚A゚* )
 
 
 ショボーンが申し訳なさそうに言うと、のーは絶句した。
 侮辱された――というよりも、信じられない――と言いたげな絶句だった。
 
 
(゚A゚*;)「……う、嘘でしょー。シャレになりませんよソレ」
 
(´・ω・`)「は、はあ」
 
(゚A゚* )「ま、ウチらは商業関係者と若い人らに知られてるから。
     リーマンさんや公務員さんが知らんのもしゃーないこっちゃって!」
 
(´・ω・`)「そうですか」
 
(゚A゚* )「で、ほかに聞きたいことはありますの?」
 
(´・ω・`)「一応、あなたの当時の行動を証明してくれる人がいたら教えてください」
 
(゚A゚* )「うーん……あ」
 
(´・ω・`)「いますか?」
 
(゚A゚* )「17時50分くらいかな。ウチがホールに向かうとき」
 
 
 「そんときに、シラヒーゲさん見ましたよ」。
 のーに対する取り調べは、その言葉で締めくくられた。
 
 
.

136 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:28:48 ID:KcS6WLfk0
 
 
 そう簡単にアリバイが成立するはずがない。
 それはわかっていたのだが、やはり「パーティがはじまるまで自由行動」というのがなかなかに厳しかった。
 
 ショボーンは続いて、話に挙がったシラヒーゲを対象に取り調べた。
 が、彼は喫茶店にずっといた、としか言えなかったようだ。
 美術品提供のことで、ショボーンの想像できないほどに頭を悩ましていたらしく
 「気がつけば時間になっていたから、エレベーターに乗って10Fに向かった」とのことだ。
 
 
(´・ω・`)「喫茶店にいたことは、17時少し前から証明されているんでしたっけ」
 
( ´W`)「そうですね…。あなたと、マリントンさんに……」
 
(´・ω・`)「あれ、そういやプギャーさんと何か話しておられたようですが」
 
( ´W`)「おっと、忘れておりました」
 
(´・ω・`)「彼とは、具体的には何時から……?」
 
( ´W`)「すみませんが……断言できることではありません」
 
(´・ω・`)「あいまいに、でもいいんです。なんなら、腹時計から推察しても」
 
 「なんですかそれ」と力なく笑うシラヒーゲ。
 やはりどこか、元気がないようだ。
 提供が決まったからだろうか。
 本人はその件で悩んでいると思われるので、今はそこを突かないようにするが。
 
 
.

137 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:30:19 ID:KcS6WLfk0
 
 
( ´W`)「ここにきてわりとすぐに彼と話をはじめたので……そうですね。
.      16時頃には既に、喫茶店で話をしていたような。
.      マリントンさんと話すときに座っていたテーブル席ではなくて、当時はカウンターでしたが」
 
(´・ω・`)「ということは、一時間近くも話していたのですか。
.      あそこ、コーヒーとか出せないんでしょ」
 
( ´W`)「いえ、飲み物は頂戴しました」
 
(´・ω・`)「へ?」
 
( ´W`)「3Fに、ゲームコーナーがあるでしょ。その傍らの自販機から。
.     それを話す前に、つまり16時ちょっと過ぎでしょうか。そのときに彼が買いにいってくださったのです」
 
(´・ω・`)「ほう」
 
 プギャーは、見た目と粗雑な言葉遣いから、若干気が荒い人ではないのか、とショボーンは思っていた。
 だが、まじめな話をするときは、やはりまじめな対応をとることができる男のようだ。
 確かにそれほどの人材でないと、このホテルの副支配人を務められるはずもなかろう。
 
 
( ´W`)「で、マリントンさんは早めに行くとおっしゃっておりまして、20分頃には喫茶店で別れました。
.      だから、17時20分以降のアリバイはありません。が、その後もぼくはずっと喫茶店にいましたね」
 
(´・ω・`)「のーさんから、ホールに着いたときにあなたと出くわしたとおうかがいしましたが」
 
( ´W`)「ああ。50分過ぎにエレベーターに乗ったんですが、降りて少し歩いたら、
.      階段のほうからやってくる彼女を見かけましたね、そういえば」
 
(´・ω・`)「階段……」
 
 のーは、10Fに向かおうと思ったところで、スタッフルームに寄ろうと9Fで降りたと言う。
 そしてようやくホールに向かおうとしたとすると、エレベーターは当時、シラヒーゲが乗っていたことになる。
 だから、のーは階段を使って10Fに向かったのだろう。そう考えると、きれいにつじつまがあった。
 また、一階分程度なら、階段のほうがはやいケースもある。
 
 集合時刻とその移動方法については、これで証明されたな、とショボーンは脳に刻んだ。
 
 
.

138 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:31:09 ID:KcS6WLfk0
 
 
( ´W`)「……ほかには」
 
(´・ω・`)「そうですね――」
 
(-@∀@)「ショボーン警部!」
 
(´・ω・`)「は、はい」
 
 
 ショボーンが続けて取り調べをしようとすると、右前方からアサピーに威勢のいい声で呼ばれた。
 苦手な声であり、またそれがひときわ大きかったので、ショボーンの鼓膜はいつも以上に震えた。
 
 不吉な予感をいだきながら、応対する。
 
 
(-@∀@)「あくまで、殺人犯はこのなかにいるんですよね?」
 
(´・ω・`)「え? あ、たぶん…」
 
(-@∀@)「でも、残りのみなさんは無実なわけですよ」
 
(-@∀@)「善良な市民を凶悪な犯罪者と同じ空間にいつまでいさせるおつもりですか!」
 
(;´・ω・`)「え、ええ…?」
 
 アサピーが矢継ぎ早にそう言ってくる。
 もともと記者ゆえに早口には慣れているし、加えてショボーンの苦手な人であるため、
 その並べられた文句のひとつにも、ショボーンは反論することができなかった。
 
 
.

139 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:31:49 ID:KcS6WLfk0
 
 
(-@∀@)「私はね、いますぐにでもレポートをまとめて、本社に電送したいんですよ。
        そのまえに殺されちゃあ、たまったもんじゃない!」
 
(´・ω・`)「(あ、あくまでレポート優先か……)」
 
 ――無実の自分が、取り調べに時間を割かれる。
 それにいかる人は、いままでにもいた。それも、多くだ。
 そのため、アサピーの今の主張は、半ば仕方ないもののように思えた。
 彼の場合、動機はいささか不純でこそあるが――
 
 しかし、アサピーのよくあるクレームとして、そこでとどめておけばよかった。
 問題は、そのアサピーの主張がきっかけで、導火線に火が点いてしまったということだ。
 
 
 
(゚A゚*;)「そ、そーやん! 思うたら、こンなかに犯人がいてるんかもしらんねんやろ!?
.     はよ返してェや! いやや、ウチ怖いわ!」
 
爪;'ー`)「そ――そうだ! 早くワレワレを解放してくれ! いや、してください!」
 
(-@∀@)「あなたは、善良な市民の恐怖を煽り立ててまでこの場で取り調べをなさるおつもりですか?」
 
 
(;´・ω・`)「くッ……(なんでここまで言われなくちゃだめなんだ!)」
 
 ――が、主張はもっともだ。
 ショボーンとワカッテマスは殺人に慣れているからそこまで動揺してはいないが、
 その他大勢の皆は、殺人なんてめったなことがない限りでは遭遇すらしないのだ。
 まして、その犯人と隣り合わせになっているのかもしれない――となれば、その恐怖心は倍増されることだろう。
 
 どうしたものか――と、ショボーンが思ったとき。
 事態を聞きつけたワカッテマス、と彼が今しがた話していたのであろうマリントンが、駆けつけてきた。
 
 
.

140 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:32:36 ID:KcS6WLfk0
 
 
( <●><●>)「警部」
 
(´・ω・`)「あ、ああ……あんたからも言ってくれよ。こっちだって好きでしてるんじゃないって、さ」
 
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「まー、不可抗力ってやつでしょ」
 
(´・ω・`)「………で、あなたはいったい、なにか」
 
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ああ、そのことですがねェ」
 
( <●><●>)「閉鎖された空間ということもあって、皆さんの恐怖心は増しています。
         だから、一人きりになれる空間を用意して、まずは安堵させるのが先決ではないのか、とこの人が」
 
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほれ、テキトーに客室の鍵を用意してやった。これを皆さんに配ってあげなさい」
 
(´・ω・`)「…!」
 
 ショボーンが見ると、マリントンのしわくちゃな両手の上には、人数分の鍵が載せられていた。
 数字――階数と、アルファベット――同フロア内でのナンバーが書かれたプレートがついてある。
 5-Cや6-Aなど、隣り合わせになるような組み合わせのものは一切なかった。
 
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「一応、離れ離れになるよう鍵を選んだつもりですぞ。
            誰かと一緒にいたい、とおっしゃる人にゃー好きにさせたらいい。
            とにかく、今はこっちの騒ぎをなんとかしてくれませんか」
 
(´・ω・`)「い、いいのですか」
 
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「鍵の管理はモナーさんに任されておる。好きになさい」
 
(´・ω・`)「わかりました」
 
 そこで、ワカッテマスがタイミングを見計らい、大きな声でアナウンスをした。
 「個室の鍵を配りますので、必要な方はとりにきてください」、と。
 
 すると、のーやフォックス以外にも、団体でいると落ち着かない人がほとんどだったようで
 ぞろぞろと、マリントンのもとに集まっては、無造作に鍵を受け取っていった。
 
 
( <●><●>)「では、また後ほどお部屋に向かいますので、そのときに改めて取り調べをさせていただきます」
 
 
 
.

141 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:33:08 ID:KcS6WLfk0
 
 
 
 そう言うと、フォックスとアサピーは走って、残りの皆はそれぞれの速さで
 10F、メインホールを後にした。
 
 
(´・ω・`)「………」
 
 
 ショボーンは、そのそれぞれの背中を、見送るだけだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     イツワリ警部の事件簿
     File.3
 
         (´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
 
 
      第三幕
        「 招かれざる客 」
 
 
                 おしまい
 
 
 
 
 
 
.

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