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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:16:04 ID:m80x5cnY0
-
(゚、゚;トソン「ちょ、ちょっと……」
|゚ノ ^∀^)「……お知り合い、ですか?」
二人の異常を察知して、レモナが訊く。
しかし、返事が返ってきたのは、二呼吸挟まれたあとだ。
(´・ω・`)「えっと……知り合い、です」
|゚ノ ^∀^)「――のわりには、すごい驚きようでしたけど……」
(´・ω・`)「いや、彼女となにかあった、ってわけじゃなくて……」
そこで、駆け寄ってきたトソンも合流する。
彼女は、どこかあたふたとしていた。
(´・ω・`)「もう一度お聞きしますが。彼女のおじいさん、このホテルに多額の融資を……?」
|゚ノ ^∀^)「額までは言えませんが、そりゃあもう、多額です」
(´・ω・`)「………」
|゚ノ ^∀^)「な、なにか」
ショボーンははッとした。
一瞬、ぼうっとしてしまったのだ。
慌てて平生を取り繕う。
.
- 49
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:16:38 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「い、いや。ただ、知られざる事実が発覚したものですから――」
(゚、゚;トソン「違います違います! いや、違わなくはないけど、違います!」
(´゚ω゚`)「だァーらっしゃい!!」
(゚、゚;トソン「ひっ」
都村トソンは、このショボーン警部と、ただならぬ関係――いや、因縁があった。
彼女は、その肩書きや背景になにがあろうと、普段はふつうの女子高生である。
警察とはなんのかかわりも持っていない、一般人だ。
一方でショボーン警部は、警部というだけあって、捜査一課の刑事として事件を追うのだが
どういった因果か、その行く先々で、たびたび彼女と出くわすのだ。
追う事件ごとに会うわけではなく、ショボーンのこなす事件数から見たら
その遭遇する確率は低いほうなのだが、何度もめぐり合うという時点で、異常だ。
事件や不幸を呼び寄せる「事件体質」なるものがあるんじゃないか、とトソンが本気で悩むほどである。
そのため、気がつけば、「ただの知り合い」で済ませてはならないような関係――絆が、結ばれていた。
日頃ではショボーンがトソンをからかったりするが、
最近のトソンは彼の扱い方に慣れてきたようで、しばしば反撃をするようになった。
.
- 50
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:17:12 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「まあ。別に彼女が富豪の孫とわかったところで、何かが変わるわけでもないですが」
(´・ω・`)「……あ」
( <●><●>)「なにか」
(´・ω・`)「いやあ。あ、そうか。だから鳳凰学園にいたんだ、ってね」
(゚、゚トソン「………」
(;´・ω・`)「あ……ごめん」
そして、トソンとショボーンが遭遇する事件では、トソンは、なにかと悲惨な目に遭っている。
数週間前、そのVIPのとある私立高校で殺人事件が起こったのだが、そのときも彼女は悲惨な目に遭った。
あの事件で二人の絆はいっそう深まったのだが、ここで詳述はしない。
(゚、゚トソン「い、いいんです。もう、慣れたし」
(´・ω・`)「で、おじいさんの代わりって?」
話を変えようと、それとなくショボーンが訊く。
トソンはよどみのない声で答えた。
.
- 51
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:17:55 ID:m80x5cnY0
-
(゚、゚トソン「おじいちゃんが招待される予定だったんですが、来なくなって、代わりに私がきたんです。
. めったにない機会だから、ってことで……」
(´・ω・`)「ひとりできたの?」
(゚、゚トソン「いや、それなんですが――」
(´・ω・`)「?」
トソンは、語尾を濁した。
そのまま、右後ろに目を遣る。
するとそこから、先ほどいた二人のうちのもう一方が出てきた。
レモナやのーと似たようなスーツを着た、若い女性だった。
( ‘∀‘)「はじめまして、モナーの娘のガナーです」
(゚、゚トソン「この人に、案内してもらったんです」
(´・ω・`)「娘さんでしたか。どうも、VIP県警捜査一――」
(゚、゚トソン「タクシーとか手配してくれて、寒さを味わうことなく来れました!」
(´・ω・`)「!」
(゚、゚トソン「……警部?」
(´・ω・`)
(´・ω・`)
(´゚ω゚`)「くるあぁぁぁぁぁあああああああアアアアアアアッッ!!」
(゚、゚;トソン「ひぇッ!?」
.
- 52
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:18:35 ID:m80x5cnY0
-
(´゚ω゚`)「こ、こっちは、寒い中、バスと徒歩で来たってのに!!」
(゚、゚;トソン「し、知りませんよ! 無計画だった警部が悪いです!」
(´・ω・`)「ぐッ」
(゚、゚トソン「……けいぶ?」
トソンにそう言われて、ショボーンはとたんにしょぼんとした。
もともと垂れがちな眉が、更に垂れている。
( <●><●>)「どうやら、痛いところを衝いたようですね」
(゚、゚トソン「い、痛い…」
( <●><●>)「お久しぶりです、都村さん」
(゚、゚トソン「刑事も。お久しぶりです」
( <●><●>)「できれば会いたくなかったです」
(゚、゚;トソン「ど、どういう意味ですか!」
( <●><●>)「いや……なんか、不吉な気がしてならない、というか……。
あなたがいると、なにか事件が起こりそうで……」
(゚、゚トソン「そんな、アニメみたいな話がありえますか」
( <●><●>)「ありえますからそんな気がするんですよ」
(゚、゚;トソン「も、もう!」
そこで、トソンの隣にいたガナーが笑う。
ショボーンもようやく我に返ったようだ。頬を叩き、気付けなんかしている。
.
- 53
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:19:11 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「それはそうと、レモナさん」
|゚ノ ^∀^)「はい」
(´・ω・`)「いま来てる招待客は、これで全部ですかな」
|゚ノ ^∀^)「いや、このホテルのどこかにあと数人いますよ。
. 先ほど申し上げました、マリントンさんやシラヒーゲさんもですし」
(´・ω・`)「挨拶でもしてまわろうかと思うので、教えてもらってかまいませんか」
|゚ノ ^∀^)「わかりました。まず、招待客ではなくこちらの人間ですが、ホテル副支配人の笑野(しょうの)プギャーさん。
. で、朝曰新聞記者のアサピーさん。宣伝記事を書いてもらうんです。
. あと、とある格闘ゲームの強さが全国一位の……えっと、ナントカさんもいらしてます」
(´・ω・`)「途中で不吉な名前が聞こえたが無視しよう。その、ナントカさんとは?」
当初「ナントカ」という名前なのだろうか、とショボーンは思ったが、
イントネーションやその文脈的に、ただ名前を忘れただけなのか、という結論に至った。
招待客の名前を忘れるとは、と力なく笑うものの、それを顔には出さない。
|゚ノ ^∀^)「当ホテルには3Fにゲームコーナーがあるのですが、そちらには
. アーケードゲーム……つまり、筐体を多数そろえているのですよ」
(´・ω・`)「筐体か……懐かしい」
|゚ノ ^∀^)「で、そのなかに、以前圧倒的人気を博し現在欠番となっている『JKファイター』なる筐体があるのですが
. そのナントカさんはこのゲームの国内王者で、彼に来てもらうことで
. そういった格闘ゲームファンからの集客もねらっている、というわけです」
(´・ω・`)「JKって、なんの略ですか?」
|゚ノ ^∀^)「女子高生」
(´・ω・`)「あ、ああ……」
.
- 54
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:19:46 ID:m80x5cnY0
-
|゚ノ ^∀^)「――と、招待客は以上ですね。
. 社長の個人的な事情で開かれるパーティなので、その他スタッフはいません」
(´・ω・`)「業者などは」
|゚ノ ^∀^)「今日一日だけ、席を外していただいております。
. 今朝は料理などを搬送してもらったりしましたが、今はいません。
. 社長、人でごみごみしてるのを好みませんので」
(´・ω・`)「(エゴイズムなのは昔からか)
. わかりました。じゃあ、時間もあまってますし、挨拶まわりでもしてきますね」
|゚ノ ^∀^)「案内は――」
(´・ω・`)「いや、大丈夫。代わりに、地図かパンフレットかをいただけませんか」
( ‘∀‘)「パンフレットならありますよ。はい、こちらを」
(´・ω・`)「いいんですか」
( ‘∀‘)「まだ大量にあるので」
(´・ω・`)「それもそうか。ありがとうございます
私物として持っていたパンフレットを、ガナーは躊躇いなく差し出してくれた。
パンフレット、というだけあって、各フロアの地図だけでなく、そのそれぞれにフロアの説明がびっしりと書かれてある。
これだけ書いてあれば、迷うことはないだろうな、とショボーンは笑った。
時計を見ると、いまのでもう十分も話していたことに気がついた。
ずいぶんと話させてしまったなあ、と軽い罪悪感に見舞われながら、ショボーンは一礼して、出口に向かった。
レモナやガナーが同じく一礼するなかで、ワカッテマスとトソンがショボーンのあとを追いかけた。
ホールの真ん中あたりで、ショボーンは振り返る。
.
- 55
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:20:17 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「あんたはどうすんの」
( <●><●>)「個人行動してもしかたないでしょ。私は警部についていきます」
(´・ω・`)「で……トソンちゃんは?」
見るとトソンは、先ほどまでの様子とは違い、どこか嬉しそうな顔をしていた。
――が、それも当然のことだった。
このような最果ての地で、知り合いは誰一人としていない。
そんななか、偶然知り合い、それも仲のいい人が現れたのだから。
その安心感を全面に押し出すかのように、彼女が答える。
(゚、゚トソン「えっと、警部とお話したいなあ、って……。事件の、とか」
(´・ω・`)「そんなに人が死ぬ話が大好きか」
(゚、゚;トソン「いやいや、人聞きの悪い! ……退屈なんですよ」
(´・ω・`)「あれだ、あと一時間ちょっとしたらパーティがはじまるだろ。
. そのときに、このショボンヌ様がたっぷりと語ってあげましょう」
(゚、゚トソン「まだそのニックネーム使ってたんですか。似合わないのでやめたほうがいいですよ」
(´・ω・`)「ぐッ」
(゚、゚;トソン「け、警部?」
( <●><●>)「また痛いところを衝いたようですね」
(゚、゚;トソン「…? ……?」
「なんでもないよ」とちいさな苦笑を浮かべて、ショボーンが言う。
そのまま手をぷらぷらと振り、しょぼんとしたままショボーンが歩いていく。
トソンは、いまここで退屈しのぎとしてショボーンの話――事件の話を聞きたいと思ったが
確かに、パーティのなか、おいしいものでも食べながらするほうがいいなと納得したようで
ショボーンが自分から離れていくのを、トソンが追うことはなかった。
.
- 56
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:20:56 ID:m80x5cnY0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
. 第二幕 「
WKTKホテル 」
.
- 57
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:21:31 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「さて、どこにいく」
( <●><●>)「挨拶しに回るんじゃなかったんですか」
(´・ω・`)「バーカ、遊べるときに遊びたいだろ。道中でグーゼン会ったら挨拶すりゃあいいのさ」
( <●><●>)「我ながら最低な上司ですね」
(´・ω・`)「やかましい。……そうだなあ」
ホールを出てエレベーター前で、ショボーンがパンフレットを広げる。
まずどこから回ろうか、と思ったのだ。
ワカッテマスも横からそれを覗き込む。
簡略化された地図が、一面に描かれていた。
.
- 58
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:22:05 ID:m80x5cnY0
-
5F-9Fは客室で、5Fに制御室、9Fにスタッフルームがあること以外はどのフロアも目立った違いはない。
1Fは受付とギフトショップを兼ねており、宿泊客は当然ここでチェックインとアウトをするのだが
この階層に限り、宿泊予定のない一般人も出入り可能だとある。
コラムによると、日帰りや、別の旅館をとっている人にもおみやげを買ってもらえるようにと考えられた設計らしい。
そのおみやげの種類が確かに豊富で、このギフトショップだけでキタコレのおみやげは制覇できそうなものだった。
2Fは大浴場だった。おそらく、キタコレの旅で冷えた身体を真っ先に温めてもらうつもりなのだろう。
また、北方には屋外に続く扉があり、そこから露天風呂に入れるとのことだ。
露天風呂にたどり着くまでの冷えも考慮したのか、扉を抜けて一歩踏み出せばそこは露天風呂の湯気で溢れかえっている。
これも紙面上の情報なので、実際に入らないとその湯気を味わえないが、ショボーンは想像しただけで身体が温かくなった。
3Fには先ほどレモナから紹介してもらったゲームコーナー、
4Fにはカフェや軽食、また美術品の展示スペースもフロア半分ほどを使って設けられている。
美術コーナーのほうは、まだ誘致が決まっていないためか、詳細は書かれていなかった。
「不定期で展覧会を行う予定」とだけ書かれている。いまのショボーンには関係のない話だった。
10Fはメインホールで、ほかには「搬送用エレベーター」たるものが北西にあった。
メインホールでなにかを催す際、このエレベーターで必要なものを一気に運び入れるらしい。
通常のエレベーターよりも三倍以上大きく、非常時にはこちらも稼動するようだ。
しかし、もともと搬送用のエレベーターというだけあって、1Fと3Fと10Fにしか止まらない、とある。
「確かに、こんなでかいのが各階にあったらめざわりだ」とショボーンは笑った。
.
- 59
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:22:42 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「搬送用なんだから、でかくて当然でしょ。非常時にも動くんだから、大きいほうが有利だ」
(´・ω・`)「非常時には、ねえ……」
(´・ω・`)「…? 1Fと10Fをつなぐのはわかるんだけど、なんで3Fにもとまるんだ?」
( <●><●>)「……あ、コラムに載ってますよ」
ワカッテマスが指をさしたところを見ると、それらしきことについて言及されていた。
最初はなんと親切な、と思ったが、読むとその理由がわかった。
(´・ω・`)「………」
( <●><●>)「どうやら、時々10Fで格闘ゲームの大会を開くときに
これを使って、ここにある筐体を次々に運び入れる考えのようですね」
( <●><●>)「で、これをアピールすることで、レモナさんの言ってた
そういった層の集客も狙っている……んだと、思います」
(´・ω・`)「……なんか、考えることがいちいちやらしいな、モナーさんは」
( <●><●>)「私に言われましても」
.
- 60
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:23:20 ID:m80x5cnY0
-
二人はそこで、会話をいったん切る。
そしてなんてことはない様子で、再び、パンフレットに目を遣った。
建物全体としては東西にやや長い長方形で、エレベーターは東につけられている。
階段も当然あるのだが、客室フロアの5Fまでが東側に階段があり、以降は西側、といった構造になっていた。
それも、どうやらメインホールで催し物をした際、階段をエレベーターと同じ東側につけた場合
混雑が予想されるから、という配慮のもとなされた設計のようだ。
「へえ」と、ショボーンは素直に感嘆の声をあげた。
パンフレット、つまり宿泊客に配るものであるだけあって、わかりやすい地図だった。
コラムというかたちで、それぞれのフロアの解説が書かれているのが、ショボーンにとってはありがたかった。
一通りの地形を把握したところで、「よし」と声を出す。
(´・ω・`)「ゲームコーナーに行こう」
( <●><●>)「動いてるんですかね」
(´・ω・`)「わかってないな、『稼動してないゲームセンター』の魅力」
エレベーターに乗って3Fに向かいながら、二人は続ける。
.
- 61
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:24:15 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「警部はゲームセンターがお好きで?」
(´・ω・`)「前に一度、クレーンゲームとやらをやってみた」
( <●><●>)「どうでした」
(´・ω・`)「それだけど、あれ、『手』の力が弱すぎなんじゃないの!?
. 千円つぎ込んでもまったく取れなかったんだよ。ぼったくられた」
( <●><●>)「まあ、そういうゲームですから。
あと、あれは『アーム』です。『手』なんて言ってたら、恥かきますよ」
(´・ω・`)「……いま、かいた」
若い者にはついていけない――ショボーンは、そう実感すると、しょぼんとした。
だが、それでも、ゲームセンターの雰囲気は華々しい感じがして、ショボーンは好きだった。
少し静寂が生まれて、その間、エレベーターの無機質な音が断続的に聞こえる。
エレベーターの両側の壁には、気が早いのか、もうなんらかの広告が貼られてあった。
もともと広いエレベーターだから、中央に立っていたらあまり気にならないのだが。
ふわっとした感じがすると、電子音が鳴って、扉が開いた。
アナウンスまでしてくれる。ここはデパートか何かではないのか、とショボーンは思った。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:24:46 ID:m80x5cnY0
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通路を抜けると、確かに目の前にはゲームコーナーが広がっていた。
傍らに休憩スペースなのか、簡単なテーブルと自動販売機が置かれてある。
自動販売機には、ジュースやコーヒーはもちろん、サンドイッチやフライドチキンが陳列されている。
ホテルに備えるゲームセンターとしては、やはり大規模だ。それがショボーンの第一印象だった。
――いや、第一印象はそれではない。
むしろ、彼らの第一印象はもっと根本的なところにあった。
( <●><●>)「動いてますね、ゲーム」
(´・ω・`)「ひぇー。これで遊んでくれってか」
オープンしていないのだから稼動しているはずもない。
そう思われていたゲームコーナーが、平常運転のように稼動されていたのだ。
黒い壁に、カラフルな電球。
それぞれの機械から発されるのであろう、さまざまな音が交じり合った不協和音。
近くにあったゲーム筐体を見ても、プレイデモムービーが流れていたりしている。
一瞬不審に思いこそしたが、ショボーンはそのままフロアのなかに足を踏み入れた。
そして、胸に昂揚感が生まれるのを実感した。
ワカッテマスも遅れないように着いていく。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:25:18 ID:m80x5cnY0
-
(*´・ω・`)「動いてる、動いてるぞ!」
( <●><●>)「年甲斐もなく……いや、元からないか」
(´・ω・`)「え、なんて?」
( <●><●>)「なんでもないです」
そのまま、ショボーンとワカッテマスは、フロアのなかをしばらく歩くことにした。
筐体やマシーンの間を、縫うようにして進んでいく。
直径一メートル強のドーム状のものや、大きな椅子とハンドルを備えたゲーム機。
電子ドラムやおもちゃのギターなんかも見えた。やはりどれも、カラフルで実に華々しかった。
ワカッテマスが哀れむような目でショボーンの背中を見るなか、
当の本人はどれで遊ぼうかなあ、と、少年のような無邪気な様子であちらこちらに目を遣っていた。
これをトソンに見せたら、今後しばらくの間はからかってくれるのだろうと思うが、ワカッテマスはそこまではしない。
.
- 64
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:26:18 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「おお、格闘ゲーム。懐かしいな、高校の頃に遊んだ記憶がある」
( <●><●>)「コマンド入力したり必殺技を使ったりするんですよね」
(´・ω・`)「急に画面が暗くなったりするからな。と思ったらなんか必殺技喰らってたり」
( <●><●>)「それは暗転といって――」
(´・ω・`)「はんぺん?」
( <●><●>)「……なんでもないです」
ワカッテマスは「やっぱりいい」と言いたげな顔をして、そう言った。
しかし、ショボーンが聞き違えるのも無理はなかった。
パチンコ店ほどではないにしても、やはりなかなかうるさいのだ。
二人の声も、自然のうちに大きくなっていた。
ショボーンはワカッテマスは気にせず、近くにあったひときわ目立つ筐体に駆け足で向かった。
「面白そうだな」といいながらその画面を見た直後、ショボーンはぴたりと止まった。
( <●><●>)「? どうしました」
(´・ω・`)
( <●><●>)「…?」
あるものを見て固まったため、ワカッテマスもそちらに向かう。
すると、嫌でも、ショボーンと同じものに目がいった。
可愛らしい少女たちが、可愛らしい声をあげながら戦っている画面だった。
巻き髪だったり、長い黒髪だったり、犬を連れていたり。
そして、その筐体の上部、名前の部分に目を遣る。
そこには「JKファイター」という文字が派手に描かれていた。
.
- 65
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:26:53 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「こ、これか。そのナントカさんを釣る餌」
( <●><●>)「確か、一時期社会現象すら巻き起こしていた気がしますが」
(´・ω・`)「これじゃあ、一部の層しか釣れないだろ、常識的に考えて」
( <●><●>)「まあ、でも実際に大人気でしたから――ん?」
(´・ω・`)「どうした」
ワカッテマスが話していると、なにかを見つけたようで、「あっ」と言っては話を切った。
向かい合わせになっている台に人がいるのを、見つけたのだ。
ショボーンよりも背が高いので、背伸びをせずともその人の頭が見えた。
このホテルには、関係者三人と招待客が十人弱しかいない。
すると、その人もおそらくは招待された人。
ワカッテマスがショボーンに「挨拶しないんですか」と耳打ちをした。
だが、ショボーンは少々躊躇した。
それよりも早く遊びたい気持ちでいっぱいなのだ。
しかし、それはそれでまた面倒なことになりそうだったので、ショボーンが渋々出向く。
筐体の列を迂回して、向かい。
そこには円く厚いめがねをかけた、オーバーオールで躯の大きな男性が座っていた。
必死にレバーを握りボタンを押しては、画面を凝視している。
.
- 66
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:27:26 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「あの、すみません」
(∴)◎∀◎∴)「……」
(´・ω・`)「えっと、もしもし」
(∴)◎∀◎∴)「……」
(´・ω・`)「あのー」
直後。画面に映っていた少女が、不恰好な動きをした。
なんだ、と思った直後、ついにその青年がショボーンのほうに顔を向けた。
しかし、険しい表情である。
ショボーンは嫌な予感がした。
.
- 67
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:27:56 ID:m80x5cnY0
-
(∴)◎∀◎∴)「うるさいヲタ!! さっきから、いったい何ヲタか!!」
(´・ω・`)「え、あ、すみませ……」
(∴)◎∀◎∴)「せっかく目押しを繋いでたのに、貴殿のせいで失敗してしまったヲタよ!!
謝罪と損害を請求するヲタ!!」
(;´・ω・`)「あ、あの」
(∴)◎∀◎∴)「なんだヲタ!!」
(;´・ω・`)「怒るのはいいんですが、その間にガンガンやられてますよ」
(∴)◎∀◎∴)「え――」
はッとして、青年が画面を見やる。
すると、青年のプレイキャラクターであろう少女が、次々に襲われている様子が映し出されていた。
(∴)◎д◎∴)「ヲタァァァァァァァァッァア!! し、しぃちゅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
(´・ω・`)「……」
( <●><●>)「……」
.
- 68
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:28:35 ID:m80x5cnY0
-
◆
(´・ω・`)「――では、あなたが」
(∴)◎∀◎∴)「小生の名は『ヲタ』でいいヲタ」
青年、ヲタが落ち着いたところで、ショボーンは本題に入っていた。
軽い挨拶を済ませ、ヲタという人物をさぐる。
しかしその前に、彼の語尾のほうが気になった。
(´・ω・`)「ところで、そのヲタという語尾は、いったい」
(∴)◎∀◎∴)「あ、ああ……ネットでキャラ付けのつもりで言ってたのが、つい癖になっちゃったでヲタwwww
でも、ほかにもござる口調やナリ口調もできるでござるwwww」
(´・ω・`)「は、はあ。キャラ付けってなんだ」
( <●><●>)「『私はこういう人なんですよ』というのをアピールする行為です」
(´・ω・`)「そ、そうなんだ」
.
- 69
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:29:21 ID:m80x5cnY0
-
(∴)◎∀◎∴)「『JKファイター』王者の名は伊達じゃないヲタよwww」
(´・ω・`)「じゃあ、今回のWKTKホテルに招待されたのは」
(∴)◎∀◎∴)「コポォwwwww小生としては嬉しい限りヲタwww
立派なホテルには呼ばれるし、そこでまさかもう一度コレができるとはwww
人生、捨てたモンじゃないヲタねwwww」
(´・ω・`)「そういえば、一度欠番になったようですね、コレ」
目の前の「JKファイター」の筐体を指しながら、言う。
ヲタは二度、大げさに首肯した。
やけに気持ち悪い笑みを浮かべているなあ、とショボーンは思う。
(∴)◎∀◎∴)「『DSファイター』が出てから少ししたら、こっちのアーケード版は全部撤廃ヲタとかwwwありえないwwww」
(´・ω・`)「…い、いまのも、キャラ付けで?」
(∴)◎∀◎∴)「おっと失礼wwwwまさかロジカるとはwwwwヲタヲタwww」
(´・ω・`)「(帰りたい)」
ショボーンが嫌な顔をする。
それを見て、ワカッテマスが助け舟を出した。
.
- 70
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:30:04 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「なにやら宣伝をする、と聞きましたが」
(∴)◎∀◎∴)「一応小生も有名人ヲタから、SNSとかで拡散するヲタ」
( <●><●>)「拡散……?」
(∴)◎∀◎∴)「『我らの魂、JKファイターが復活した。同志たちよ、いますぐWKTKホテルに来るんだ!』……と」
(´・ω・`)「(ふつうに話せるなら、そうしてほしいよ……)」
( <●><●>)「なるほど」
ヲタの説明を聞いて、ワカッテマスが納得した。
ただ、このゲームが強いから、という理由だけで招待されるとは思わなかったのだ。
続けてヲタが、たまにメインホールで大規模なゲーム大会が開かれると聞いた、とも言った。
それを踏まえて、ヲタが招待されたことに納得がいった。
それはショボーンも一緒だったようだ。
.
- 71
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:30:46 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「ヲタさんは、いつまでこちらに」
(∴)◎∀◎∴)「確か、18時にパーティヲタね?」
(´・ω・`)「はい」
(∴)◎∀◎∴)「だったら、そのときまでずっとここでコレしてるヲタ。
というか、そのためにこんな寒いところにきたヲタよww」
(;´・ω・`)「そ、そうですか。遅れないよう気をつけてくださいね」
(∴)◎∀◎∴)「コポォwwwwそちらも気をつけるでござるwwwいけない、また口調がかわ」
(´・ω・`)「よし、行くぞ」
( <●><●>)「は、はあ」
ショボーンは、そのまま延々と笑い続けるヲタをあとにして、フロアの奥のほうに向かった。
なるべくヲタに関わらないような場所で、なにかゲームをしようと思ったのだ。
先ほどの筐体から少しのところに、クレーンゲームが密集しているゾーンがある。
そこに、ショボーンは吸い込まれるかのように向かっていった。
どうやら、これをするつもりのようだ。
百円を入れて、意気揚々と声をあげる。
(´・ω・`)「見てろよワカッテマス、あの大きなぬいぐるみをとってやる」
( <●><●>)「あれ、って」
ショボーンが指をさしたのは、このケースのなかでも一番大きなぬいぐるみだ。
そしてその宣言を聞いて、ショボーンがゲーム下手な理由が、なんとなくわかったような気がした。
.
- 72
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:31:33 ID:m80x5cnY0
-
◆
結局、ショボーンは千と二百円をどぶに投げただけで終わった。
ぶすっとした顔をして、逃げるように早足でその場を去る。
ワカッテマスは、どう慰めればいいのか、わからなかった。
一帯を抜けて、3Fの通路に出る。
そして、ショボーンは時計を見た。
(´・ω・`)「もう17時だ」
( <●><●>)「結構熱中してましたもんね」
(´・ω・`)「くそ、ゲームセンターなんて大嫌いだ。金と時間を一方的に奪ってくる」
( <●><●>)「警部、それを世間では逆ギレと言うようです」
(´・ω・`)「う、うるさい。はやく次の場所に行こう」
( <●><●>)「といっても、次はどちらに?」
(´・ω・`)「そうだなあ……」
ショボーンはパンフレットを広げる。
適当にページを繰りながら、「うーん」と唸る。
.
- 73
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:32:10 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「4Fにいきますか」
(´・ω・`)「なんで」
( <●><●>)「美術品が展示されるのは4Fでしょ。すると、館長さんがいらっしゃるかもしれない」
(´・ω・`)「まじめちゃんだなー。ま、することもないし、そうしよう。
. 喫茶店もあるみたいだし」
( <●><●>)「招待客がいないということは、店員もいないってことですよ」
(´・ω・`)「……あ」
( <●><●>)「まあ、座れるだけでありがた――」
(´・ω・`)「違う。前、前」
( <●><●>)「?」
ショボーンが前に顎で注目を促した。
なんだと思うと、階段から二人の足音が聞こえた。
一緒に、どこか、騒がしい話し声が聞こえる。
いや、話し声というより、一方的に話しかけてくるような感じだ。
気がつくと、刑事二人はそちらのほうに足を進めていた。
そして、その姿が露わになった。
ヲタのそれに似ためがねをした男性と、聡明で精悍な顔立ちをしている若い男性だ。
その二人のうち、若い方はショボーンたちの存在に気づいたようだ。
.
- 74
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:33:15 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「あ、どうも。ショボーンと申し――」
(-@∀@)「――とか言いながら、実は裏取引とか、そのたぐいでしょ?」
( ;^Д^)「ちょ、人いますから! やめてくださいって!」
(-@∀@)「またまた、そうやって真実を隠――んん?」
(´・ω・`)「げ」
(-@∀@)「これはこれは。私、朝曰新聞社のアサピーと申します。以後お見知りおきを」
(´・ω・`)「え、あ……これはどうも。僕は、」
(-@∀@)「いえいえ、おっしゃらなくとも、存じておりますよ。ショボーン警部」
(;´・ω・`)「ですよねー……。は、ハハ」
(-@∀@)「……ですからね、プギャー副支配人。私としては――」
( ;^Д^)「ど、どーも! このホテルの副支配人を務めさせていただきます、笑野プギャーです!」
(´・ω・`)「こちらこ」
(-@∀@)「なにをいまさら自己紹介を。そうか、これが嘘をついているという証拠にちが」
( ;^Д^)「いや、あなたに言ってないから! こちらの人に捕まって、ずっとここで――」
(-@∀@)「なるほど、WKTKホテル副支配人は卑怯な男、という認識でよろしい、と」
.
- 75
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:34:03 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「……行くか」
( <●><●>)「ですね」
( ;^Д^)「違いま――あ、助けて! 見捨てないでええええええ!!」
(-@∀@)「逃がしませんよ、真実を話していただきます」
( ;^Д^)「待ってえええええッ!!」
――朝曰新聞は、書くことこそ面白いのだが、その大半が誇張された話ということで有名だ。
本社は「真実しか載せていない」と頑なに主張しているが、しかし内容はどれもゴシップ記事と同等のものばかりである。
それは警察に対しても変わらず、何度か朝曰新聞社に、あることないことをでっち上げられた記憶が、刑事二人にはあった。
ショボーンはそういった、取材と称した誤認の押し付けを何度か経験してきた。
そのため彼は、特にアサピー記者に対して、好い印象を持っていなかった。
かわいそうだと同情こそしたが、見ず知らずのプギャー副支配人を助けようとは思えなかったようで
ショボーンとワカッテマスは、そのまま何も見なかったかのように、エレベーターのほうに向かった。
――が、点灯するランプを見て、二人はきびすを返し、プギャーの声を無視しながら階段をのぼっていった。
二人が階段を使った理由は、誰かがエレベーターを使っていたからだ。
9Fから10F、とランプの点灯が移動されていたので、おそらくは10Fに向かっているのだろう。
エレベーターを待つよりも、階段をのぼるほうがはやい。二人とも、無言のうちにそう同意しあった。
(´・ω・`)「ツイてないや」
( <●><●>)「誰かがホールに向かったのですね」
(´・ω・`)「それにしても、あの人も懲りないね」
( <●><●>)「もしかして、あの人が、このホテルの宣伝記事を書く、と……?」
階段を一つひとつ踏みしめながら、心配そうな声で、ワカッテマスが言ってみた。
それに対し、ショボーンは彼を弁護するようなことを言えなかった。
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- 76
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:34:34 ID:m80x5cnY0
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(´・ω・`)「ま、まあ……モナーさんのことだから、なんとかやるだろ」
( <●><●>)「ヲタさんといいあの記者といい、変わった人ばかりが呼ばれてますね」
(´・ω・`)「そりゃーどういう意味だ」
( <●><●>)「まあ、建築デザイナーの榊原さんと美術館館長の黒井さんは大丈夫でしょう。行きますか」
(;´・ω・`)「お、おい! そりゃーどういう意味だっての!」
ワカッテマスがふんと鼻を鳴らす。
ショボーンをほうって、ずいずいと階段を上り始めた。
今度はショボーンが彼の後を追う番だった。
4Fでは軽食が楽しめるほか、美術品が展示されるとは先ほどの通りだ。
エレベーターや階段を出てすぐのところに、その展示スペースが並ぶ。
本来なら、なにもない壁には美しい絵画がいくつも飾られているのだろう、
しかし当然ながら、なにも寄贈されていない今日は、とくになにも飾られていなかった。
絵画、ガラスケースらを照らす予定のライトが、淡くさみしくそれらを目立たせる。
その展示ゾーンを抜けると、フードエリアだ。
夜のみレストランが開かれるのだが、こちらでは朝の6時から22時まで開かれている。
アンモラルグループの傘下にある全国チェーンのファストフード店から
キタコレでのみチェーン展開されているうどん屋まで。ホテルが運営するカフェ以外にも、多数の店があった。
が、こちらも当然ながら、どこも営業されていない。どころか、スタッフすらいない。
さみしいものだな、と思いながら、ショボーンとワカッテマスが歩く。
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- 77
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:35:12 ID:m80x5cnY0
-
やがて、WKTKホテルが運営している喫茶店に入った。
この4Fのなかでも展示ゾーンの次に大きなスペースを持っているためか、ゆったりとした空間でくつろぐことができる。
ワカッテマスも、その雰囲気は気に入ったようだ。
(´・ω・`)「カフェ、にしちゃあなかなかの規模だな」
( <●><●>)「まあ、ワンフロアまるまるを他の企業から誘致するのも問題があるでしょ」
(´・ω・`)「だな」
( <●><●>)「しかし、いませんね。黒井館長」
(´・ω・`)「まあ、関係者とはいえ常に4Fにいるわけじゃあるまい――」
他愛もない話をしながら、とりあえず座ろうとショボーンが思うと、それを見つけた。
入店してからまっすぐ歩き、振り返ったときだ。
入り口のわき、死角となるところの席に、人が二人いたのだ。
ワカッテマスもそちらに目を遣る。
五十台前後であろう男性が二人、テーブルを挟んで席に就いている。
そして、入店してきたショボーンとワカッテマスを見つめていた。
ショボーンが「あ」と言ったところで、互いに会釈を交わした。
そして、ショボーンはそのテーブル席に向かう。
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- 78
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:35:47 ID:m80x5cnY0
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(´・ω・`)「どうも、お話中を失礼。ショボーンと申すものです」
こんなとき、名刺があればなあ――
ショボーンは毎回、そのようなことを考える。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「こりゃどうも。このたび、このホテルの設計を任された、榊原っちゅーもんですわ」
( ´W`)「アスキーミュージアムの館長、黒井…です」
(´・ω・`)「お二人も、モナーさんに招待されたんですよね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ま、このホテル建てたん、言ったらワタシなわけですから。トーゼンでしょーな」
(´・ω・`)「(面倒なジジィだな)
. では、シロイさんも?」
( ´W`)「クロイです。シラヒーゲなんて名前ですが、実はクロイです」
( <●><●>)「(白いけど実は黒いのか)」
(´・ω・`)「あ、失礼――」
( ´W`)「構わないんですがね……ハァ」
すると、黒井は露骨にため息を吐いた。
どうやら、彼はなにかを悩んでいるような様子だった。
ほかに話すこともないショボーンは、そこをうかがうことにした。
ただの、時間をつぶすための世間話である。
.
- 79
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:36:22 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「なにかお悩みのようで」
( ´W`)「いや……ね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「美術品を誘致するかどうかで、悩んどるみたいなんですわ」
(´・ω・`)「ああ。しかし、一応は国営でしょう。どうしてあなた個人が悩むのですか」
( ´W`)「国からは、今回の件に関しては細かい条件を出されただけで、その条件の範疇のものなら
. なにを寄贈するにしても、全部ぼくの判断で決まるんですよ。
. 面倒な仕事を押し付けられたものだ」
(´・ω・`)「はあ」
( ´W`)「はい」
(´・ω・`)「……」
( ´W`)「……」
もとより、互いに話がうまいわけではない。
時間をつぶそうにも、その前に、さっそく話が切れてしまった。
.
- 80
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:36:56 ID:m80x5cnY0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そちらさんは、なにをしにいらしたんですかな」
それを察したのか、なんてことはない様子でマリントンが訊く。
(´・ω・`)「いや、どこか落ち着ける場所はないかなあ、と」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ワタシも同じこと考えてここにきたんだがな、なーんもありゃせん。
きてみたら、この人しかいなかった。メシは、18時までお預けのようですわ。ほっほっほっ」
(´・ω・`)「そうなんですか……わかりました」
4Fにきた、しかし食べられるものはない、とわかった。
これを口実に、せっかくだし切り上げよう。ショボーンはそう思った。
いくら暇だとは言え、気まずい空間のなかをただ呆然と立ち尽くすのは嫌だったのだ。
しかし。
ショボーンが折り合いをつけて帰ろうとするのを、ワカッテマスが制した。
( <●><●>)「ちょっと待ってください」
――そして、この言葉が、いわば若手ワカッテマスという男の代名詞でもあった。
捜査中から、犯人を突き止めるときから。
なにかにつけて、彼はこの言葉で相手の話を止め、反論を開始するのだ。
.
- 81
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:37:43 ID:m80x5cnY0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「どうしたんですかいな」
( <●><●>)「ちょっとお聞きしたいのですが、
本当にここに来たとき、黒井さんしかいらっしゃらなかったのですか?」
(´・ω・`)「? なんでそれを」
( <●><●>)「考えても見てください。ここに来る前、男性が二人、いらっしゃったじゃないですか」
(´・ω・`)「プギャーさんとアサピーさんだな。階段ですれ違った」
(´・ω・`)「……!」
( <●><●>)「おわかりいただけましたか」
( <●><●>)「階段で降りた――ということは、特別な理由がない限り、4Fから降りたってことになります。
とすると、先ほどまで、あの二人はここにいた、ということになるのです」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほう! よくわかりましたな」
( <●><●>)「というと」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「おっしゃるとおり、ワタシがここに来たとき、階段でプギャー副支配人とすれ違うたんですよ」
( <●><●>)「やはり――笑野副支配人、だけ?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「へ? そーですが」
マリントンが、虚を衝かれたような顔をする。
なぜ、そんなことを訊くのだ、と。
答えるように、ワカッテマスが返す。
.
- 82
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:38:18 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「朝曰新聞社のアサピー記者、も一緒じゃありませんでした?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「? おっしゃる意味がようわかりませんな」
( <●><●>)「私たちがここに来るとき、笑野さんとアサピー記者の二人とすれ違ったのですよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「………?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……! あ、そーゆーことでしたか!」
( <●><●>)「どうしたのですか」
マリントンが急に声色をかえる。
釈然としていなかったものが明瞭になった――そんな感じだった。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ワタシがここに入るときにね、陰に人のケハイっちゅーの、感じたんですわ」
( <●><●>)「はあ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「で、この人も、ワタシが来る少し前まではプギャーさんと話しとったんですが、
どーやら人のケハイを感じてたみたいなんですよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なるほど、あの記者が隠れておったか。そりゃー感じるわ、ケハイ」
――アサピーはやっている行動はどうであれ、一度見つけたネタはどこまでも追いかける記者だ。
マリントンも、一応は世に名を馳せる建築デザイナーなので、彼のことはよく知っているのだろう。
その、彼の持つ、強迫観念か執念に近い探究心を。
そしてプギャーに執拗に迫っていたのを見ると
物陰に隠れてプギャーとシラヒーゲの対話を盗み聞きし、
後ろからやってくるマリントンを隠れてやり過ごしてから
喫茶店から出てきたプギャーを追いかけ、
そしてショボーンたちが見たような光景に持ち込んでいた、そうなるのだろう。
ワカッテマスが、自然のうちにそう推理していた。
当初思っていたほど、あまり面白い話ではなかった。
.
- 83
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:38:52 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「わかりました。失礼しました」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「いやいや、あの記者のことを言ってくれたんは助かりましたわ。ワタシも気をつけんとなァ……」
(´・ω・`)「ではこれで。また18時にお会いしましょう」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そーですな。では」
( ´W`)「………」
そこで、刑事二人は、職業病のようなものだろう、敬礼をしてその場を去った。
マリントンとシラヒーゲも、軽く会釈して二人を送り出す。
ショボーンは、喫茶店をあとにしたとき、なぜか胸に妙なものを感じた。
しかし、その心情も捨てる。
これで、全ての招待客と顔をあわせた。
そうなると懸念材料はない――つまり、あとは遊びたいように遊べるのだ。
そう思うと、余計なことを考えず、とにかく今のうちに遊ぼう、と思った。
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- 84
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:39:25 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「まだ45分もあるなあ」
( <●><●>)「そうですね」
(´・ω・`)「よし、じゃあゲームコーナーに行くぞ」
( <●><●>)「さっき懲りたんじゃないんですか。温泉にいきましょう」
(´・ω・`)「バーカ、風呂はパーティ終わりって決めてるんだ。いきたいなら、あんた一人で行け」
( <●><●>)「はあ。では、そうさせて―――」
そこで、ワカッテマスは口を開いたまま、一瞬黙った。
彼の、咄嗟にわいてきた思考が言葉を遮った、と言ってもいい。
「ショボーンを一人でゲームコーナーに向かわせて、大丈夫なのだろうか」と思ったのだ。
もう人生の折り返し地点を越えているショボーンだ、そんな彼が
この手のゲームに熱中してしまうと、何が起こるかがわからない。
お節介焼きに近いものを感じながら、ワカッテマスは「いや、私も行きます」と言った。
ショボーンは怪訝な顔をしつつも、うなずいて、階段を下りて3Fに向かった。
今度は誰ともすれ違わなかった。
.
- 85
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:40:15 ID:m80x5cnY0
-
◆
(´・ω・`)「今度はなにしようかなー」
( <●><●>)「クレーンゲームみたいな『成功するか否か』のゲームはお勧めできませんよ」
(´・ω・`)「だよな」
( <●><●>)「メダルゲームなら、楽しめると思います」
(´・ω・`)「メダル……ねえ」
ワカッテマスの助言も参考に、ショボーンは両替機のほうに歩きながらそう声を漏らした。
メダルゲームとは、現金をメダルに換えてそのメダルを増やしたりする遊びを指す。
コストがなかなかかからず、そのわりにボリュームを味わえるゲームが多いので、ワカッテマスはそれを推した。
千円札をメダルに換えることもできるが、さすがにショボーンもそこまで遊ぶつもりはなかった。
百円玉十枚にして、そのうちの一枚をつまむ。
(´・ω・`)「競馬だったり、コイン落としだったり、スロットだったり。ここらは昔からあまり変わりないみたいだね」
( <●><●>)「ホテルゆえにストックはできないので、換えるのは最低限必要な分だけでいいでしょうね」
(´・ω・`)「ストック?」
( <●><●>)「……百円分だけでいいと、私は思いますよ」
(´・ω・`)「言われなくても」
ちいさなメダルケースに、出てきた十一枚のメダルを入れて、ショボーンはメダルゲームのコーナーに向かった。
じゃらじゃら、とメダル同士がかち合う音を聞くと、どこかリッチな心地になれた。
なるほど、メダルゲームを愛好する人の気持ちもわかる、と彼は思った。
ものは試しに、と近場にあったスロットの台に就く。
ワカッテマスがそれを傍らから見守るかたちだ。
スロットは、やはり若者の人気を惹くのが狙いだろう、アニメキャラクターが題材となった台だった。
.
- 86
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:40:54 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「スクォーク? とりあえずやってみるか」
( <●><●>)「はあ」
ショボーンがメダルを投入すると、豪華な音が鳴った。
ここからは、ほうっておいても勝手に遊ぶだろう。
そのため、ワカッテマスは手持ち無沙汰を感じ、周囲を見渡すことにした。
派手な内装に、派手な音楽に、派手な照明。
やはり、自分には合いそうにもない空間だ。
すると、目に「JKファイター」の文字が留まる。
そういえば、先ほどまで、ヲタとやらが熱心にプレイしていたな――
( <●><●>)「あれ」
(;´・ω・`)「なんだこいつ! 僕そっくり! うわ、マッチョ!」
( <●><●>)「ちょっと、警部」
(´・ω・`)「え、なに?」
ショボーンの意識を、ゲームの世界から呼び起こす。
そして注意を、ワカッテマスの視線の先、「JKファイター」が並ぶエリアに向けさせた。
ショボーンが「なんだよ」と言うも、少しすると、「あ」と声を漏らしては反応を見せた。
急にまじめな顔になる。それを見て、ワカッテマスが言った。
( <●><●>)「ヲタさん、でしたっけ。あの人、ずっとあの台にいる、っておっしゃってましたよね」
(´・ω・`)「……」
( <●><●>)「……なにか、あったんでしょうか」
(´・ω・`)「………」
ショボーンは、神妙な顔つきになる。
ヲタが座っていた台の画面がコイン未投入のデモムービーを流していたので、
トイレや飲み物を買いに行った――とも、考えにくかった。
.
- 87
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:41:47 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「気になりま」
(;´・ω・`)「あ、くそ! ずれた!」
( <●><●>)
――しかし、ショボーンはすぐに気を取り直して、リールをまわした。
下段に7、7、と続いたが、三つ目のリールの下段にはチェリーがきた。
それを見てショボーンが嘆く。
ワカッテマスは、一瞬妙なものを感じたのだが、すぐにどうでもよくなった。
また、しょっぱなから目押しはできないのですよと言いたくなったのを、我慢した。
むしろ、もっとはずしてしまえ、と思うことにした時だった。
おもむろに時計に目を遣る。17時20分。
( <●><●>)「まだ時間があるとは言え、遅れないように気をつけてくださいね」
(´・ω・`)「わかってるって」
◆
(´・ω・`)「遅れてしまった」
( <●><●>)「どうせこうなることはわかってました」
.
- 88
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:42:19 ID:m80x5cnY0
-
◆
走りながら時計を見ると、もう18時を過ぎていた。
それに気づいたのが18時05分で、メダルの処理などをしてフロアを飛び出すと、もう18時10分だった。
問題は、ワカッテマスの推理ミスだった。
メダルゲームなら、クレーンゲームと違ってひとつのものに固執することもなく
コスト的にもゲーム内容的にも問題はないだろう、と読んだのだが
ショボーンは、メダルを増やす楽しさを知ってしまった。
メダルがじゃらじゃらと出てきて、それをケースにいれて、という楽しさを。
ショボーンは年齢もあり、ゲームが苦手である。
メダルが増えることよりも減ることのほうがしょっちゅうだったので、
その分メダルの両替機との往復にも時間がかかる。
加え、スロットとはフラグを立て、リーチ目を見てから当たりを狙う――と
メダルゲームのなかでも、プレイ時間が長引き、また所要時間が不安定なものである。
時間をぎりぎりまでつぶすゲームとしては、スロットは問題外のチョイスだったのだ。
中途半端に余ったメダル、しめて十数枚をポケットに突っ込んで、ショボーンも10Fのメインホールに向かう。
ワカッテマスの、呆れに呆れきった表情を見ないようにして、エレベーターに足を進める。。
誰かが乗っていたら大きなタイムラグにつながるところだったが、もう18時を超えているのだ、エレベーターに乗る人は――
.
- 89
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:43:44 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「……あ」
(;´・ω・`)「くそ! 使用中か!」
――エレベーターの、現在とまっている階数を表示するランプが8Fから9Fへと移っていた。
つまり、それは誰かが乗っている、ということだ。
その分、エレベーターを使いたければ、待たなければならない。
そして待つということは、今以上に大幅な遅刻をかますことになる。
軽く呼吸を乱しながら、ショボーンはエレベーター横の壁を力なく殴った。
若く、またふだんから走り慣れているワカッテマスとは違い、ショボーンは体力に衰えが見え始めている。
喫煙こそやめるようになったものの、それでも咄嗟のダッシュには身体が耐えなくなっていた。
( <●><●>)「自業自得です。甘受するしかありませんね、遅刻を」
(´・ω・`)「まあ……これが、小規模なパーティで助かったよ」
( <●><●>)「アサピー記者になにか言われそうですけどね」
(´・ω・`)
( <●><●>)
( <●><●>)「……警部?」
アサピーの名を出すと、ショボーンは固まった。
続けて「あ」と発してから
(;´・ω・`)「走るぞ! 少しでも上の階からエレベーターに乗る!」
( <●><●>)「え、どうして」
(;´・ω・`)「あの人になんか書かれたら、怒られるんだよ、僕が!」
( <●><●>)
――冗談で言っただけなのに。
その一言はショボーンの耳に届かなかったようだ。
しかし、確かに一つでも上の階からエレベーターに乗ったほうが、気持ち時間は短縮できる。
遅刻する者の、せめてもの罪滅ぼし――というわけなのだろう。ワカッテマスはその話にのった。
.
- 90
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:44:28 ID:m80x5cnY0
-
◆
ショボーンはメインホールの扉を抜けて、よたよたになりながら人の集う場所へと向かった。
ワカッテマスの顔はもはや虚無そのものとなっている。
ポーカーフェイスの、更にもう一段階上を行ったような顔だ。
ホール前方に見えるのは、並べられた、白いクロースのかけられた長テーブル。
上には人数相応よりやや多めと思える料理の数々で、
それぞれのテーブルの中央にある花瓶にはきれいな花が生けられていた。
その料理の数々から、食欲をそそる香りが漂う。
しかしショボーンにとって、そんなことはどうでもよかった。
ひとつ。階段を駆け上がるだけで一気に襲われた、疲労感。
もうひとつ――
(;´・ω・`)「ぜェ……、……」
(´・ω・`)「………? なんか、様子が変だぞ」
( <●><●>)「わかってます」
.
- 91
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:45:01 ID:m80x5cnY0
-
時刻は、もう18時16分だ。
とっくに、パーティが始められてもいい頃合である。
しかし、パーティとは言っても、所詮小規模なものだ。
自分たち二人を待とうと、パーティの開始時刻を遅らせたのだろうか。
――いつもならそう推理するのだろうが、このときに限っては、刑事二人ともそんな推理はできなかった。
文字通り「様子が変」だったからだ。
招待客は皆、揃っている。
が、様子は限りなく変だった。
どこか、落ち着きがないのだ。
きょろきょろしていると、近くにいたトソンと目があった。
彼女もどうやら、ずっとショボーンたちのことを待っていたようだ。
刑事二人を見つけた途端、すぐに駆け寄ってきた。
(゚ー゚トソン「警部、遅刻ですよ」
(;´・ω・`)「はいはい、どぉーもスイマセンねぇ!」
(゚、゚トソン「――それはそうと」
(´・ω・`)「?」
ショボーンをからかったかと思えば、トソンはすぐ、まじめな顔をした。
.
- 92
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:45:33 ID:m80x5cnY0
-
(゚、゚トソン「警部、あの人を見ませんでした?」
(´・ω・`)「あの人?」
(゚、゚トソン「モナーさんですけど」
(´・ω・`)「?」
( <●><●>)「……もしかして、パーティが遅延されているのは」
わかった気がしたワカッテマスが、訊いた。
トソンは依然、自分の胸の前に右の拳を当てながら大きくうなずいた。
(゚、゚トソン「肝心の主催者がまだいらっしゃらないので、どうしようもないんですよ」
(´・ω・`)「はーん。じゃあ、わざわざ走る必要もなかったじゃん」
( <●><●>)「言ってる場合ですか」
(゚、゚トソン「だから、レモナさんが慌てて――」
トソンが言おうとすると、彼女の更に向こうのほうから騒がしい声が聞こえた。
女性のものだ。
駆け寄ってくる音と同時に放たれたので、ショボーンはそちらを見やる。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:46:08 ID:m80x5cnY0
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|゚ノ;^∀^)「ショボーンさん!」
(´・ω・`)「は、はい。なんですか」
慌しい様子で、レモナが言う。
|゚ノ;^∀^)「社長がまだお見えにならないんですよ。どこかで見かけませんでした?」
(´・ω・`)「いや、ここで別れたきり見てないですけど」
|゚ノ;^∀^)「そ、そうですか……」
そう聞いて、彼女は露骨に肩を落とした――いや、手を膝につけた。
ずいぶんと走り回ったのだろう。華奢な女性なのだから、疲れるのは当然だ。
しかし、レモナの慌てぶりを見て、ようやく現状の重大さを把握した。
確かに、招待客を待たせてパーティを遅らせるとは、なにかあったのかもしれない。
モナーの場合、どうせ寝ているか泥酔しているだけだが――
(´・ω・`)「あ」
|゚ノ;^∀^)「心当たりが?」
(´・ω・`)「いや、酒」
|゚ノ ^∀^)「ハ?」
(´・ω・`)「モナーさん、お酒が大好きらしいんだ。で――」
ショボーンがパンフレットを広げ、11Fに指をさす。
レストランと、バー。二つのうちの後者に、指を突きつけた。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:46:44 ID:m80x5cnY0
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(´・ω・`)「バーにはうかがいました?」
|゚ノ ^∀^)「私も思いましたけど、まだお酒は入ってないんですよ。各国から取り寄せている最中なので」
(´・ω・`)「そうか……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ちょいと、いいですかな」
(´・ω・`)「? あ、はい」
ショボーンとレモナ、傍らにトソンとワカッテマス。
その後ろから、マリントンが声をかけた。
どうしたのだ、とショボーンが振り返ると
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほら、ワタシゃ建築担当でしょう。
で、今日閉めるエリアの鍵を持たされてるんですが。
あ、閉めるエリアってのは、客室の5Fから9F全域と11Fなんですがねェ」
(´・ω・`)「はあ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「今の話を聞いてねェ、昼間、モナーさんに
バーの鍵を貸してくれ、と言われたのを思い出したんですわ」
(´・ω・`)「へえ」
(´・ω・`)
(´・ω・`)「!」
|゚ノ;^∀^)「ほ、ほんとうですか!?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「いやあ、うっかりしとった。
あそこは景色がええからの、ひょっとしたら寝とるかもしれませんぞ」
マリントンはおっとりとした、クセのある声で言った。
それを聞いて、レモナが取り乱す。
秘書として、そこら辺りの責任感と罪悪感を感じているのだろう。
さっそく、レモナは行こうとした。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:47:16 ID:m80x5cnY0
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|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あ、行くんならワタシも行ってええですかな。
忘れんうちに鍵も預かっておきたい」
|゚ノ;^∀^)「すみませんが、急ぐので……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そ、そーですか……わかりました」
(´・ω・`)「じゃあ、僕がついていってもいいですか。走るのは得意ですよ」
( <●><●>)「よく言いますよ……」
ショボーンは気になったので、レモナについていこうと思った。
レモナは一瞬悩んだが、彼女はショボーンが現役の刑事であることを知っている。
刑事ドラマの影響で、刑事といえば走る――そんな印象があったため、彼の同伴には別段文句はなかった。
つまり、ご老体のマリントンにはついてこられると足手まといになる、ということである。
|゚ノ ^∀^)「そう……ですね。じゃあほかの皆さんは待つようお願いします」
( <●><●>)「わかりました」
(´・ω・`)「いきますか。寝てたら、僕が起こしますよ」
|゚ノ ^∀^)「助かります」
そして、二人は駆け出した。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:47:59 ID:m80x5cnY0
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◆
11Fは、フロアの四分の三以上がレストランであり、残りがバーである。
レストランは非常に大規模なものであり、厨房だけでそこそこの広さがある。
両方ともに、規模こそ違うがステージが設けられており、レストランなら歌姫やパフォーマニスト、
バーならジャズバンドを招きいれ、簡単な演奏なんかを楽しむこともできる。
が、なによりも特徴的なのは、バーもレストランも、
東西に面した大きな一面のガラスを隔てて、そのキタコレの絶景を楽しむことができるということだ。
平生では雪が降っていることのほうが多いシベリアだから、雪のない景色を楽しむことは難しい。
そのため、降雪がない夜はチャージ代を二千円払わないと、入店することすらできない。
ここから眺められる夜景は、それほどの絶景なのである。
その窓ガラスだが、バーのそれは西に、レストランのそれは東に面している。
そのため、バーかレストランかによって、見える景色が異なってくる。
一度の宿泊で、その両方の、それも降雪のない夜景を見納めるのは、ほぼ不可能だろう。
レモナとショボーンは、エレベーターを降りて、バーに向かって駆け出す。
昼間や、もしくは今日のように使わない日は、鍵を閉めている。
しかし、現在行方不明であるモナーが鍵を持っているとなれば、バーにいる可能性が高い。
いや、むしろバーにいなければどこにいるのだ――そんな心積もりで、二人はバーの前に立った。
レモナの、乱れた呼吸が聞こえる。
ショボーンも息を急き切りたかったが、刑事としてのプライドがそれを抑える。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:48:41 ID:m80x5cnY0
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|゚ノ;^∀^)「はァ……ふぅ」
(´・ω・`)「勝手に開けても、よろしいんですかね」
|゚ノ ^∀^)「時間を守らない社長が悪いんです。……では」
呼吸を無理やり整えてから、レモナはバーのドアに手をかけた。
そのまま、前に押し開く。
―――なにかが、引っかかったような手ごたえ。
続けて、かたいものが床に落ちたような、音。
最後に、ドサッと、大きなものが床に転がり落ちたような音。
後押しでもしてくるかのように漂ってくる、レモナの嗅ぎ慣れず、ショボーンの嗅ぎ慣れた臭い――
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:49:24 ID:m80x5cnY0
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|゚ノ ^∀^)「?」
|゚ノ;^∀^)「 ――――ッッ!!?」
(´・ω・`)「どうしまし――」
不審に思ってバーに一歩足を踏み入れた、レモナ。
入って右にカウンター席があり、左にちいさなステージがある。
捜しているのはモナーなので、当然右に目を向ける。
直後、レモナは絶句して、そのまま突き飛ばされたかのように後方にしりもちをついた。
目は見開かれ、顔からは血の気がどんどんと引いてきて、腕や顎は小刻みに震えだす。
さすがに不審がったショボーンが、しゃがみこんだレモナの躯を乗り越えて、店内に入った。
ショボーンも、絶句した。
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:50:21 ID:m80x5cnY0
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( ;: ∀`;)
(;´・ω・`)「―――ッ!! モナーさん!!」
――モナーは、腹部から大量の血を流しては、カウンター席の近くで倒れこんでいた。
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第二幕
「 WKTKホテル 」
おしまい
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