451 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:31:00 ID:T3EDqDlwO
 



  第八章
   「 偽りを突き止める 」




        −1−



( <●><●>)「根城……」

 若手は聞き返した。
 いきなり言われたのはいいが、いったい何を突き止めるのか、わからなかった。


(´・ω・`)「いいか、今回の事件を振り返ってみろ」

 ショボーンはソファーの背凭れに体重を預け、腕を組んだ。
 不遜な態度だと思われるかもしれないが、これが楽だった。
 見下ろすように、若手の眼をみて。
 やはり、捕らえるべきものは決して逃がさない、強烈な眼光だった。



.

452 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:35:16 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「まず、一度目の事件だ」



 全ては、ある一本の電話からはじまった。
 漸く事件が片づいて、一息つけるタイミングで、だ。
 あの時のけたたましい着信音は、未だに耳から離れない。

 そしてそこから、幾度に渡る惨劇が、芋づる式に発生していくのだ。


(´・ω・`)「伊達さんに呼ばれ、急遽出動した矢先での事件だ」

 コンビニで、店員が泡を吹いて倒れていた。
 その光景がどれだけ苦痛だったか、語るまでもない。

(´・ω・`)「被害者は?」

( <●><●>)「御前モカ、フリーターです」

( <●><●>)「……そして、誘拐犯グループの一人」

(´・ω・`)「ああ。仲間割れか、程度に思っていたのだがな」


 紅茶を一口啜った。
 しゃべり続けると、喉がひっつく。
 その紅茶は、既に若干冷めていた。

(´・ω・`)「さて、事件現場のコンビニだが、
.      最初そのことを聞いたとき、なにを怪訝に思った?」

( <●><●>)「コンビニには店員がいるのに……です」

(´・ω・`)「わかるか? その店員が仲間だったら――」


( <●><●>)「絶対的に有利な環境となります」


.

453 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:39:22 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「そう、そこなんだよ!」

 背凭れから上体を起こし、膝を乗り出した。
 手を叩き、表情が一変する瞬間だった。
 ショボーンの眼光だけが際だって見えるようになった。


(´・ω・`)「今までの受け渡し場所を思い返せ!」

( <●><●>)「はい、御前モカが店番をしていたコンビニ」

( <●><●>)「……関ヶ原デルタが車掌長を勤めた『あさやけ4号』」

( <●><●>)「そして、受付嬢とボーイが誘拐犯だった、ホテル『ひるがさき』………!!」


(; <●><●>)「あ…あああッ!」

 指折り数えながら言っていくうちに、若手の顔からは焦燥が浮かび上がるようになってきた。
 言い終えてから、言葉にできようのない衝撃が彼を襲った。

 考えもしなかったことだ。
 若手は、まさかそんなはずがない、と思っていた。
 乾坤一擲やハイリスクハイリターンなんてものではないのだ。

 言わば、自分の人生を賭して、今回の事件に臨んだことになる。
 ショボーンに言われたとき、若手は信じられなかった。
 だが、誘拐事件を起こすとなれば、もう家族も地位も平和もなにもかも賭する必要がある。

 ショボーンに気づかされ、少しすると、先程までの考えとは逆に、
 寧ろそうしたほうが合理的で確実性が高い、とすら思えるようになっていた。


.

454 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:41:59 ID:T3EDqDlwO
 



(´・ω・`)「今までの事件は、すべて奴らの根城で行われていたんだ」


 若手は、当時の情景がフラッシュバックしていた。
 手を伸ばせば、死体の御前モカに触れられそうだった。

(´・ω・`)「第一の事件では、コンビニのバックスペースを根城に置いて、身代金を要求した」

 あの時、バックスペースに誘拐犯、もとい御前殺人事件の犯人がいたことは間違いない。
 室内灯のスイッチの指紋の有無、及び御前の死体発見状況から、そう言える。

 メンバーにコンビニでのアルバイターがいたから、コンビニでの受け渡しを想定してみたのだろうか。
 誘拐事件を起こすに際して、メンバーの一人をコンビニに遣わせたのだろうか。
 とにかく、根城に敵を誘い込めるというのは、この上ないメリットとなり得る。
 自然な様子で振る舞え、且つ確実に身代金を奪うことができるのだ。


.

455 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:45:23 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「しかし、考えてみろ」

( <●><●>)「はい?」

(´・ω・`)「たとえトイレに身代金を置いたって、向こうだって見張られていると
.      わかっているに違いない以上、回収は難しいはずなんだよ」

( <●><●>)「ボストンバッグは大きい。
         トイレから持ち出すのはみれば一発で判りますね」

(´・ω・`)「しかし、奪われた」

 瞼を下ろせば、すぐに情景が再現できた。

 急に店内が暗くなったので、ショボーンと若手は慌てて飛び出した。
 そして、店内で横たわる御前を見つけ、殺人事件が発覚した。


( <●><●>)「当然と言えるでしょう、まさか殺人事件が起こるとは」

(´・ω・`)「逆に言えば、一度目の身代金奪取は、
.      殺人事件があってこその成果と言えるんじゃないか?」

( <●><●>)「と、いうと?」

(´・ω・`)「やれやれ、それくらいわかれよ」


 と言って嘲笑してみせた。
 だが、目は決して笑っていない。


(´・ω・`)「もし仲間割れがなければ、いったい向こうはどうやって身代金を奪ったんだと思う?」


.

456 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:49:36 ID:T3EDqDlwO
 


( <●><●>)「それは…………むぅ……」


 この男にしては珍しく、言葉を詰まらせた。
 誘拐犯本人でないのだから、返答に窮するのはおかしくない。

 だが、若手の窮余の理由は、ほかのところにもあった。
 考えたくない仮定だが、一つあり得そうなストーリーが浮かんだ事は浮かんだ。
 しかし、それは残忍すぎるため、想定するべきか躊躇いが生じたのだ。

 いくら誘拐犯といえど、さすがに限度がある冷酷さ。
 クチにするのも躊躇するほど、だ。
 すると、若手が言おうかと躊躇してる間に、ショボーンが先に言った。


(´・ω・`)「答えは、なかったんだ」

('、`*川「無策で挑んできた、ということですか?」

(´・ω・`)「いや、誘拐犯のなかの主犯格は、策をひとつ
.      用意するだけで、確実に身代金を回収することができたんだ」

( <●><●>)「しかし、その策に『仲間割れがなかったら』というイフは当てはまらない、と」

(´・ω・`)「わかってきたようだな」


.

457 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:52:46 ID:T3EDqDlwO
 


 にやりとショボーンは口角を上げた。
 しかしと言わんばかりに、咄嗟に言うことの多い口癖を、久々に若手は言い上げた。

( <●><●>)「ちょっと待ってください」

(´・ω・`)「お?」


( <●><●>)「警部の言わんとする事は、大方予測はつきます」

(; <●><●>)「しかし……人である以上は、その……」


 若手は、生き生きと反論を持ちかけたのはいいものの、言葉を濁した。
 彼はその名の通りまだ若い、というのは言わずとも皆の知るところである。
 ショボーンがあり得ると思う事を、若手はあり得ぬと判断している。
 よって、主犯格の行動から導き出される結論は、ショボーンの意見と一致するだろう。

 一方で、伊藤はまずわかっていないようだったが。


('、`*川「仲間割れを前提に組まれた作戦だった、というわけですか?」

(´・ω・`)「厳密に言えば、違う」

(´・ω・`)「語弊を生じさせないために、丁寧に言うなら、主犯格は仲間割れの気すらなかった」

('、`*川「仲間割れを前提にした作戦だが、根本的に言うと
      仲間割れですらない――意味がわからないです」

(´・ω・`)「端的に言おう」




(´・ω・`)「初めから、主犯格は御前モカを殺すつもりで策を練ったのだ」


.

458 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:54:56 ID:T3EDqDlwO
 


('、`;川「っ!」

( <●><●>)「……ッ…!」


 わかっていた。
 予測のできていた事だ。
 だが、まさか、という言葉が必ずどこかについてきていた。
 ショボーンが堂々と言うまでは、疑いたい気持ちでいっぱいだった。

 だが、どうやら若手の予測は合っていたようだ。
 視線を落とし、拳を強く握りしめた。
 あまりにも人道に反した思考だ。
 誘拐犯グループではなく、コマとしてしかみておらず、
 言わば目的のためだけに徒に命を摘み取った。

 その目的というのも、所詮、金だ。


( ゚д゚)「やはり、そうでしたか」

 若手と違い、犯行に直面していなかった東風はそう思っていたようだった。
 両腿に拳を載せて、床と垂直になるよう頭を下げた。


(´・ω・`)「予感はあったみたいだね」

( ゚д゚)「殺害方法が毒針だった、というだけで大凡の見当はついていました」

(´・ω・`)「僕も、その報告を聞いて、確信に至った」

('、`*川「そういえば、毒針でしたね……」


 伊藤は、後日東風とともに現場を訪れている。
 当時の情景を思いだしながら、静かに二度、肯いた。


.

459 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:58:18 ID:T3EDqDlwO
 

( ゚д゚)「ペニーも利口だからわかるだろ。
     小瓶に入った青酸カリとかならまだ何かと説明がつくが、
     毒針となると確たる殺意がなければ用意されるべきものではない」

(´・ω・`)「針でなかったのなら弁当にでも仕込ませる必要があるが、
.      万が一モカが弁当に手をつけなかった場合、殺しようがない。
.      そんな不確定要素に頼るくらいなら、自ら死で出迎えてやるほかないからな」

('、`*川「まあ、そうですが」


 伊藤は腑に落ちない様子だった。
 普段ならわかるまで教えるところなのだが、彼女も実感が
 湧かないだけに過ぎないだろうから、ショボーンは詳述を控えた。
 というのも、いまは一刻を争う局面に差し掛かっているのだ。

(´・ω・`)「まず、電気を消し、モカを殺す。
.      そこへ、僕とワカッテマスが乗り込んだ」

( <●><●>)「辛うじて見えたのが、死体でしたね」

(´・ω・`)「あとは簡単だ。裏口の扉を開くフリをして、
.      刑事のどちらかを現場から遠ざけるんだ」

(´・ω・`)「たまたま僕ら二人とも移動してしまったから、結果易々と逃亡を許したけど」

(´・ω・`)「まあ、そうする事で、ほぼこの作戦は成功するんだ」



.

460 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:00:23 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「刑事が何人いても、ふつうの心理で言うと、
.      一人を残して残りで手分けして犯人を捜すのが道理だ」

(´・ω・`)「そしてモカの側に残ったのが刑事一人となるが、
.      一人だけなら背後を突いて襲うことも容易だ」

(´・ω・`)「刑事としても、すぐそこに犯人がいるものとは思ってないからな」


 御前モカの時と同様に毒針などで刑事を殺す。
 そしてトイレから金を回収して、ほかの刑事が裏口に
 向かっている隙に予め反対側に停めていた車で逃走。

 おそらく、最初からこの策で挑む気でいたのだろう。
 口惜しげに、ショボーンはそう言った。


('、`#川「人の命を囮にするなんて……!」

( ゚д゚)「落ち着け、ペニー。まだ怒る時ではない」


 恐ろしい、というほどではないも剣幕を露わにする伊藤を、東風が宥めた。
 今更いかったところで、何の解決にもならない。


.

461 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:02:34 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「これが、第一の事件の真相だったんだ」

( <●><●>)「ちょっと待ってください」

(´・ω・`)「なんだ」


 若手が、ショボーンの推理に待ったをかけた。

( <●><●>)「過程はいいとして、その前に主犯格は呑気に弁当を食っています。
         そして、実際それによって手がかりも得られたのです。
         頭のキレる主犯格が、そんなへまを残すとは思えません」

(´・ω・`)「そこでミスデダクションだ」

( <●><●>)「ミス……?」


(´・ω・`)「僕らがあそこで最初に抱いた勘違い、それはなんだ?」

( <●><●>)「もったいぶらずに」

(;´・ω・`)「僕もあんたも、最初は弁当が原因で毒殺された、と思っただろ!」

( <●><●>)「………あ……」



.

462 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:04:05 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「一瞬一瞬が勝敗を分ける場面でのミスリードは、時に命取りだ。
.      たまたま自分が食っていた弁当を使って、誤解を誘おうとしたのだろうな」

( <●><●>)「……そうでしたか」


 若手が納得したのを見計らって、ショボーンは紅茶にクチをつけた。
 すっかり冷めてしまっているが、紅茶は冷めても充分呑める。
 それが高級な紅茶なら、尚更ではないのだろうか。
 紅茶をあまり呑まないショボーンにとってはわからない話ではあったが。




.

463 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:06:40 ID:T3EDqDlwO
 



        −2−




(´・ω・`)「そして第二の事件だ」

( <●><●>)「オオカミ鉄道での爆弾騒動ですね」


 オオカミ鉄道の多くの列車は、こうして夜も更けてゆくいまも、レールの上を走っている。
 そして、車庫に収まってゆくなかのひとつが、「あさやけ4号」である。
 この列車での事件が、ショボーンと若手だけでなく、VIP県警や
 シベリア県警、そしてオオカミ鉄道の顔に泥を塗るはめになった。

 あの時のインパクトは、決して薄れやしないだろう。
 関ヶ原が息を弾ませて告げた情報、それは爆弾だった。
 半日も経ってないのに、随分と昔のことであるかのように思い出して、ショボーンは溜息を吐いた。


(´・ω・`)「オオカミ鉄道と協力して、の追い詰めが失敗した理由は、ただ一つだ」

(´・ω・`)「協力してくれる筈のオオカミ鉄道側に、誘拐犯の仲間が潜んでいた」

( <●><●>)「それが関ヶ原デルタ、ですね」

(´・ω・`)「しかし、当初は全く疑ってすらいなかった」


.

464 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:09:54 ID:T3EDqDlwO
 


 ショボーンが車掌に疑惑の眼を向けたのは、実際に受け渡しが終わってからだ。
 それまでは、誰かが身代金に近づくものとして、見張っていた。
 受け渡し場所が寝台列車と、充分あり得そうで不自然のない
 ところだったからこそ、乗客に誘拐犯がいるものだと思っていた。

 実際は、重要なのは寝台車両ということではなくて、
 最後尾に近い列車である、ということだったのだ。
 最後尾でなかったのは、空きベッドがなかったのだろうか。

 出入り口が一つしかないため、そこを塞ぎさえすれば、
 ゆっくり安全に、複数個のボストンバッグを運び込めた。
 その塞ぐのに用いるギミックが、またも過激すぎたのだ。


(´・ω・`)「問題は、関ヶ原デルタに悠々と運ばせる原因を
.      つくったのが、紛れもない僕らである、ということなんだよ」

( <●><●>)「………」


 若手は黙った。
 ショボーンが言い終える前から、既に口を閉ざしていた。


.

465 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:13:08 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「あのとき、ワカッテマスがつい爆弾の話を漏らしてしまった」

( ゚д゚)「ほう」

(´・ω・`)「問題はそこじゃない」

( <●><●>)「え?」


 若手は、責められるものだと思い覚悟をしていたが、
 ショボーンは若手の予想とは全く別のことを言っていた。

(´・ω・`)「たまたまワカッテマスがとちったから運べたものの、
.      もしワカッテマスがとちってなかったら、どうするつもりだったと思う?」

( <●><●>)「どういうことですか」

(´・ω・`)「向こうは、ワカッテマスがミスするものと仮定して作戦を練る筈はない。
.      偶然そうなっただけで、ほんとうはワカッテマスのミスは
.      想定されてないんだ。すると、他に運ぶ方法を用意していたに違いない」

(´・ω・`)「運ぶ方法というより、人を惹き付ける方法だな」

( <●><●>)「そうですね……」


 あの時は時間がなく、大して車内の捜査はできなかった。
 切り上げざるを得なかったのだ。
 ベル刑事部長に迅速な帰還を要求され、それどころではなかった。

 若手の現在の心境にも、自責の念に駆られるところはある。
 だが、ショボーンたちがそれを追及することはなかった。


.

466 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:15:46 ID:T3EDqDlwO
 

( ゚д゚)「あの後列車内を捜査したが、怪しいものはなかったぞ」

( <●><●>)「そうなのですか」


 東風が憮然として言った。
 それが、あたかも自分を責めているかのように聞こえて、若手は息苦しかった。
 同時に、なにもなかったという報告を聞いて、怪訝に思いもした。

 ショボーンの言うとおり、誘拐犯サイドとしては、乗客や警察を
 例の車両から引き離すなにかを用意していたに違いないのだ。

 だが、それの実体が掴めず、思わず静かに唸ってしまった。
 見かねたショボーンが、言った。


(´・ω・`)「答えだが、ワカッテマスの過失と一緒なんだよ」

( <●><●>)「は、私の?」

(´・ω・`)「推理がこの結論に至ったときから、僕は苛立ちが抑えきれなくなったんだ」


 ショボーンは、事件を追うにつれて、苛立ちの頭角を徐々にに見せていった。
 畏怖を感じさせさえする気迫に、若手は萎縮してばかりだった。
 その原因のひとつが、オオカミ鉄道での一件にあるという。


.

467 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:17:01 ID:T3EDqDlwO
 

( <●><●>)「私の過失といえば、デルタ氏から
         爆弾の情報を聞いて、声を発してしまって――」


 そこまで言って、若手ははっとした。
 冗談じゃない。さすがにあり得ない。

 はっとした直後に生まれた心境は、その二点だった。


(´-ω-`)「そうだ」






(#´・ω・`)「………あいつらは、列車を爆破するつもりでいたんだよ!!」




.

468 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:19:31 ID:T3EDqDlwO
 


('、`;川「ばッ……!?」

(; <●><●>)「さ、さすがに冗談でしょ!」


 咄嗟にショボーンは、若手の浮かんだ結論と同じ推理を言った。
 この男には珍しく、かなり冷静さを欠いて怒鳴った。
 怒りの矛先を向けられたわけではないのに、若手も伊藤もこの上ない恐怖を覚えた。
 それは、ショボーンの怒りの度量にくわえ、誘拐犯のその計画の恐ろしさに対しての恐怖だ。

 当然だが、ショボーンの推理には確証があるわけでなく、独り善がりな推測に過ぎない。
 だが、他には考えられなかった。

 実際、爆弾は本物であり、列車が上を通過すれば爆破するようになっていたそうなのだ。
 通報自体は狂言だろうと思った刑事二人だが、それが本物と聞き、誘拐犯の仕業と睨んだ。
 若手の過失により、爆弾の存在意義は有耶無耶のままで終わったが、
 改めて考察し直すと、ショボーンの推理にしかたどり着かないのだ。


.

469 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:21:50 ID:T3EDqDlwO
 


 ショボーンも馬鹿な男ではない。
 他のありとあらゆるケースを想定し、それを当てはめていったのだが、
 どのピースもはまらなかったから、この推理に至ったのだ。

 彼が胸中で耐えていた怒りが、ついに放出された。
 それが示すところ、この度の事件がどれだけ大変なものかを表していた。


( ゚д゚)「やはり……」

 慌てる若手、伊藤とは違い、東風だけは冷静を保っていた。
 そしてこの言いぐさから、寧ろ想定の範疇にあったと言えるのだろう。
 腕を組んで、視線を宙に泳がせていた。
 そこになにかが映っているかのように、東風は形のないそれを見ていた。


(´・ω・`)「仮にワカッテマスがなにもしなかったとすると、だ。
.      遠隔操作なりして爆弾を爆破させ、前方の車両を乗客ごと吹き飛ばす。
.      当然、皆はパニックに陥るし、僕らも人命の救出に向かわないといけない。
.      その隙に身代金を運ぶ予定だったのだろう」

(; <●><●>)「―――ッ」


.

470 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:24:52 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「だが、運良くあんたがミスをしでかしてくれた。
.      お陰で、爆弾を使うまでもなくパニック状態を作り出すことができた。
.      それを利用して、デルタはバッグを持って荷物車両に向かったんだよ」

(´・ω・`)「当然だが、爆弾はなるべく使わないほうがいい。
.      回収役のデルタにまで火の粉が降りかかれば大変だからな。
.      だから、使う予定だった爆弾は、使わず仕舞だった」


 信じられなかった。
 自分が犯した過失が、逆に最善だったのかと思うと、恐ろしくて身震いした。

 逆説を弄するわけではないが、他に方法がなかったのだろうか。
 過失などなくても、他に解決策があったのではないのだろうか。
 考えてみたが、自分がミスをしていなければ、間違いなく
 列車は爆破され、目も当てられない惨状となっていた。

 何気ない捜査で、知らぬ間に死と隣接していたと思うと、今更になって畏れるのだ。
 警察とはそういうものだ。殉職する刑事など、数え切れないほどいる。

 だが、若手はそれがわからなかった。
 天才の彼に、今まではそんな危険は及ばなかったのだ。
 ショボーンが、自分を相棒に事件に臨んだ理由がわかった気がした。


.

471 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:26:18 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「ぎょろ目はわかってたのか」

( ゚д゚)「なんとなくは。爆弾を設置せずとも、狂言だけで
     パニック状態など容易く引き起こせますしね」

 さすがに東風は落ち着き払っていた。
 冷静に物事を分析し、事件のその先を見定めようとしている。

 若手は苦悩する傍らで、さすがは東風刑事だと思っていた。
 才能と経験では、圧倒的に経験のほうが勝るのだと、その時初めてわかった。



(´・ω・`)「以上が、『あさやけ4号』における事件の真相だ」
( <●><●>)「……」

(´・ω・`)「爆弾の入手経路を調べれば、ある程度は誘拐犯に
.      ついて特定できそうだが、どうせ主犯格の手駒だ」

( ゚д゚)「そうでしょうね」

(´・ω・`)「あんたはどう思う?」

( ゚д゚)「爆弾の入手経路なんかで割れるようなら、モカの段階でもう掴めてますよ」


.

472 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:27:35 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「つまり、この推理を弄しても意味はない、と」

( ゚д゚)「……いや、意味はありましたよ」

(´・ω・`)「え?」


 東風が身を乗り出して、伊藤や若手に聞かれないように耳打ちをした。


( ゚д゚)「刑事のなんたるかを教えるのに、いい刺激だったでしょうからね」

(´・ω・`)「……そうか?」

( ゚д゚)「ワカッテマスなんか、才能こそあれど、右も左も知らない新米にすぎません」

(´・ω・`)「本物の誘拐事件で新人教育か。やってらんないな」

 ショボーンは柔らかく笑んだ。
 東風もあわせて肯いた。
 この時だけは、事件に対する焦燥を忘れられた。




.

473 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:29:41 ID:T3EDqDlwO
 



        −3−



(´・ω・`)「ところが、だ」

( <●><●>)「はい」

 若手も元のポーカーフェイスに戻っていた。
 いや、どこかに執念を感じさせられた。


(´・ω・`)「当の関ヶ原デルタは、殺されてしまった」

( <●><●>)「ホテル『ひるがさき』でですね」

(´・ω・`)「えらい衝撃を受けたもんだったなあ……。なんで彼がここに、って」

( <●><●>)「同じく」


 ホテル「ひるがさき」では、今もフィレンクト警部やVIP県警の精鋭たちが捜査を続けてくれている。
 今のところ、唯一証拠の眠っている可能性が残っている現場だ。

 被害者は、関ヶ原デルタだった。


(´・ω・`)「また、殺されたんだよ」

( <●><●>)「モカも殺されたのをみると――」

(´・ω・`)「結論はひとつ、だな」


 御前モカの殺害について思考を巡らせていた時は、まさかな、程度にしか思っていなかった。
 ただの仲間割れか、御前に良心が芽生えてしまい、自首するとでも言い出したか。
 だが、続けて二人目も殺されるとなると、以前抱いたまさかが、確信へと変わった。



(´・ω・`)「身代金の独り占めだ」


.

474 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:31:43 ID:T3EDqDlwO
 


( ゚д゚)「……!」

(´・ω・`)「予言してやる。次の受け渡しの時、受付嬢とボーイは殺される」

(; <●><●>)「……ッ。どうにかならないのですか!」

(#´・ω・`)「そのための会議だろうが!」



 一瞬、ショボーンが声を荒げた。
 直後に室内に静寂が生まれ、時計が針を刻む音しか耳に入らなかった。

 はっとして、ショボーンは頭を下げた。


(´・ω・`)「……悪い」

( <●><●>)「いえ、私も迂闊でした」

(´・ω・`)「とにかく、今のうちになんとかして根城を突き止めないと、
.      犠牲は更に増え、主犯格には堂々と逃げられるんだよ」

( <●><●>)「主犯格だけが、未だになにも掴めていないのが痛いですね」

(´・ω・`)「ああ。相当うまく立ち回られているぞ」


 今までに、微少ながらも情報は集まってきた。
 関ヶ原を殺した茶髪の女、御前を殺したA型の人間、ボーイと受付嬢に、几帳面な人間。
 これらの情報のうちどれかは同一人物のものである可能性もあるが、
 依然として、相手の総人数と、その頭だけはわからないのだ。


.

475 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:33:44 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「この際、主犯格にかかった霧を払わないままで挑まないとだめだな」


 ショボーンは、半ば妥協を悔やまないかのように静かに言った。
 先程までの怒声からの静まり様が、不気味さを醸し出した。

( ゚д゚)「向こうとしても、一番ばれちゃだめなのが主犯格の実態です」

(´・ω・`)「今までのケースから言って、主犯格もどこかに根城を持っていて、
.      そこが誘拐犯グループのアジトなのかもしれない。
.      その線から推理したほうが早いかもな」

( ゚д゚)「しかし、最後の受け渡しで相手が主犯格の根城を舞台にするとは思えません」

(´・ω・`)「そこなんだよ」

( ゚д゚)「と言いますと」

(´・ω・`)「今まで三度に渡って受け渡しが行われた理由、わかってるか?」


 この問いかけには、東風も首を傾げた。
 それぞれの受け渡し場所が誘拐犯グループのメンバーの根城だった、とはわかっている。
 だが、その真意となれば、一つしか浮かばなかった。
 若手も言ったように、「圧倒的に有利だから」だ。

 しかし、それを踏まえた上での問いかけなのだから、他にも真意が隠されているのだろう。
 何より、ショボーンの眼は、東風の視線の先より更に向こうの景色を見据えていたのだ。


.

476 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:37:38 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「足跡を残さないためだよ」

( ゚д゚)「足跡……?」

(´・ω・`)「この根城を用いた身代金奪取は、言わば使い捨てだ。
.      一方で、遂行には多人数が必要となる」

( ゚д゚)「ほう」

(´・ω・`)「一度きりの受け渡しとなると、奪取後に面倒な事が起こる。
.      主犯格の他に、大勢のメンバーが残っているんだ」
(´・ω・`)「主犯格は身代金独り占めを目論んでいるだろうから、一度きりの受け渡しだと、あとあと困る。
.      そんな状況下じゃあ、どうしても独り占めなんてできやしないからな」

(´・ω・`)「そこで、回数分けだ」

( ゚д゚)「あ!」


 そこで、漸く東風も反応した。
 ショボーンの言わんとする事を掴めたのだ。


(´・ω・`)「一回毎に、舞台に選んだ根城の主を殺す。
.      それを繰り返せば、自然と最後に残るのは主犯格だけなんだ」

( ゚д゚)「な、るほど……。敵ながら、巧く考え込まれた作戦ですな」


 言葉を詰まらせながら、東風が感服した。
 この中で一番刑事の年期が長い東風だが、そんな彼でさえ感心したのだ。
 それがどれほどの事なのか、容易に予想がつく。


.

477 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:40:15 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「そこで、だ」

(´・ω・`)「最後の根城は、果たして手駒の根城か、主犯格の根城か」


 ここで、意見が二つに分かれた。
 珍しく意見を主張した伊藤と、静かだった若手で、だ。


('、`*川「どうせ手駒でしょ。そういう卑怯な奴は、決まって自分の手を汚しません」

( <●><●>)「それはどうでしょう。
         既に二人殺されていて、ホテルの二人も殺されると思われるのです。
         そこで、最後の手駒が平静を保っていられるでしょうか」


 伊藤の考えは、主犯格の性分を考慮したものだった。
 決まって、ボスというものは自らの手を汚したくないものだ。
 また、それがきっかけで計画の失敗、自身の逮捕へと繋がるかもしれない。
 それが、四度続いて行われるハイリスクな誘拐事件となると、だ。

 一方で、若手は、主犯格が手駒の思考を読んでいるかと考慮した上での意見だ。
 幾度となく警察の捜査の手を振りきり、今の所全勝の主犯格なのだ。
 最後の最後で手駒が逃げ出す事など、想定していないと思う方が難しい。


.

478 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:42:17 ID:T3EDqDlwO
 

 自身が対決に望むか使い捨ての手駒を使うか、リスクの重さで天秤にかければ、後者が沈むのは必至だ。
 手駒あってこその受け渡しで手駒を失えば、主犯格は敢え無く逮捕される。
 ショボーンとしては、どちらの意見にも賛同し、どちらの意見にも反対せざるを得なかった。

 全く以て判断が難しいところなのだ。
 どちらの意見も理に適っており、どちらもあり得る。
 

(´・ω・`)「手駒の根城なら、手駒が亡命するなり自首が考えられる」

( ゚д゚)「しかし、主犯格の根城だと今まで以上に厳しい戦いになりそうですぞ。
     なんせ、時間があった。幾らでも罠を張れたのですからな」

(´・ω・`)「だから、難しいんだ」


 東風は腕を組み、唸った。
 相手にもう駒がないなら、次の根城で周りを囲めばチェックメイトだ。

 だが、駒が残っている場合はこの判断は危ない。
 二人いれば、片方を受け渡しに遣え、片方を人質の生殺与奪を握れる。
 そして、駒を残しているかどうかについては、ご覧の通りだ。
 駒の有無がわからないため、最後の受け渡しの際に周囲を包囲するかの判断も渋らざるを得ない。


.

479 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:43:26 ID:T3EDqDlwO
 

( <●><●>)「どちらでしょう」

(´・ω・`)「…………」


 ショボーンは、すっかり長考に耽る事に徹していた。
 彼の刑事生活で、犯人の動向を読む事は何度もあった。
 そのたびに的中し、犯人逮捕に貢献もした。

 だが、それは順序を踏んだ推理があってこそなのだ。
 今回は、完全に五分五分である。
 論理的推理ではなく、あくまで心理戦なのだから。

 論理や理屈の通用しない、主観的で独り善がりな心理が大いに関わってくる。
 だから、論理的思考を一切排除し、相手の気になって考えないとだめなのだ。


 ショボーンは、誘拐犯の気になんかなれなかった。


.
481 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:44:56 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「……だめだ。考えれば考えるほど推理が纏まらん」

( ゚д゚)「こんな事態、はじめてですからね」

(´・ω・`)「主導権を握られているから、振り回されるんだ」


 あくまで可能性が高いのを考えれば、主犯格の単独で臨んでくるだろう。
 だが、一概にはそう言えないのが、判断を下せない原因だった。
 駒に説得を施したり、また仲間割れの真相を知らなかったりしているのかもしれない。

 一手先、一手先を読むときりがなかった。


( ゚д゚)「まるで将棋ですね」

(´・ω・`)「将棋と言えば、壁だっけ」

( ゚д゚)「彼女は読みがうまいですから」

(´・ω・`)「捜査させずに連れてくればよかったかな」


( <●><●>)「しかし、警部でも判断が下せないのですね」

(´・ω・`)「馬鹿言え、主犯格の気になって考えてみろ」

( <●><●>)「私が主犯格なら、ですか」


.

482 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:46:32 ID:T3EDqDlwO
 

 若手は困った顔をした。
 いきなり言われても、どうしろと言うのだ、と。


(´・ω・`)「あくまで、合理的な判断だ」

( <●><●>)「………ふむ」

(´・ω・`)「僕らの追跡を完全に振り切れる作戦を、
.      最初から用意していたことには違いない」

(´・ω・`)「それが、手駒の有無に大きく関わるのだが―――」


( <●><●>)「そうですね、私が主犯格なら……」

(´・ω・`)「……どうだ?」




.

483 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:47:13 ID:T3EDqDlwO
 







( <●><●>)「私が主犯格なら、海外に飛びますね」







.

484 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:48:37 ID:T3EDqDlwO
 



        −4−



(´・ω・`)


( ゚д゚)


('、`*川


( <●><●>)




( <●><●>)「………」

( <●><●>)「ど、どうされました? 何か変なことでも言った―――」



.

485 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:50:12 ID:T3EDqDlwO
 


 若手が、自分の考えを述べた時。
 室内が、完全に凍り付いた。
 若手以外が固まり、呼吸すらしてないようだった。



(´・ω・`)「……………あ」


(;´゚ω゚`)「ああああああああああああああああああッ!!
.      し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッぁあ!!」

(; <●><●>)「な、なんですか?」

(;゚д゚)「そ、その手があったか!」

(; <●><●>)「ミルナさんまで、どうしたと言うのです!」


 そこでは、先程まで落ち着いていたショボーンだけでなく、
 普段冷静で取り乱す事の少ない東風までもが、狼狽していた。
 伊藤は、ぽかんと口を開き、唖然としている。

 ただ、若手だけが事態を呑み込めないでいた。


.

486 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:51:39 ID:T3EDqDlwO
 


(;´・ω・`)「おい、今で身代金はいくら向こうの手に渡っている!?」

( <●><●>)「……三億ですが、それがなにか」

(;´・ω・`)「ばか、気づけ!」

(;゚д゚)「特に四億に固執してない限り、充分すぎる程の金なんだぞ!」

( <●><●>)

( <●><●>)「………」

(; <○><○>)「……あッ!! あぁぁぁぁぁッ!」


 ここにきて、漸く若手も意味を理解した。
 そして、同じく周章した。
 自分で言い出した事なのに、自分で愕いている。


 そして、そこから時計の針が進むのは速くなっていた。


.

487 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:52:57 ID:T3EDqDlwO
 

(;゚д゚)「ここから近い飛行場だけで、VIPに一つとシベリアに二つありますよ!」

('、`;川「シベリアなら船も多くあります!」

(;´・ω・`)「そんな一遍にマークできるか!」


 四人の考えは、やがて若手の何気ない一言により、一つに纏まった。
 それは、手駒を使うでも、逆に単独で挑むでもない。


 主犯格の、海外への高飛びだ。


 三億という大金があれば、容易く高飛びなどでき、隠居も可能となる。
 近年の円高により、海外で通貨に換金すれば更に所持金は増えるだろう。
 つまり、高飛びに何ら懸念事項は発生しない。
 それを、今の今まで考慮していなかったのだ。


.

488 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:55:42 ID:T3EDqDlwO
 


(;´・ω・`)「やられた……。
.      四回に分けた理由、四億という額を要求した
.      理由が、全てここに集約していたとは、な……」

( ゚д゚)「四回に分けた本当の理由は――」

(´・ω・`)「……最後の一回は、フェイクだ」

(; <●><●>)「―――ッ!」


 元々、四回に分けた受け渡しを、ショボーンは不審に感じていた。
 一度で受け渡しを行えばいいものを、と。

 そのたび、金が足手纏いになる、人数の節約と理由を考えてきたが、どれもぴんとこなかった。
 先程になって、誘拐犯メンバーの、殺害による人数調整のために四回に
 分けたと推理したばかりだったが、真実はその更に上を上回っていたと思われる。

 四度と言うだけで、道中の三度目までは警察側もまだチャンスはあると油断する。
 実際、彼らにもその節が時々垣間見られていた。
 そして、主犯格に言わせてみれば、警察側は四度目に
 全てを賭して挑んでくるだろうと予測もつくだろう。
 そこを突いた、まさに計算尽くされた作戦だったと言える。


.

489 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:59:18 ID:T3EDqDlwO
 

(;゚д゚)「時間がありません! イツワリさん、検問を!」

(;´・ω・`)「待て、それはだめだ!」

(;゚д゚)「どうしてですか!」


 東風がショボーンの了解を得ず電話をかけようとした時だ。
 狼狽したショボーンが更に狼狽して、東風を止めた。
 今にも発信したそうに指をむずむずさせている。

(;´・ω・`)「あくまで、高飛びは推理に過ぎない。
.      本当に四度目の受け渡しが起こるかもしれないんだ。
.      そうだとすると、警察の動きがばれて忽ち人質は殺される」

(;゚д゚)「しかし……」

(´・ω・`)「ああ……現段階で高飛びを決行する確率は、極めて高い。僕だってそう思う。
.      でも、だからといって人質の命が危ぶまれるような捜査方針はたてられないんだ」

('、`;川「そんな……」


 ショボーンも大変口惜しがっていた。
 彼も、検問を張るなりして、何としてでも高飛びを防ぎたいのだ。
 もう主犯格を乗せた飛行機が出たとするなら、きっと
 各国に国際指名手配として協力を要請する事も惜しまないだろう。

 だが、警察という立場上、それはできなかった。

 確率は極めて高い、他に可能性は考えられない。
 なのに、確たる証拠がなければ、人質を無視した捜査方針には切り替えられないのだ。
 歯痒い思いが募って、ショボーンは二の腕を膨らませていた。


.

490 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:01:50 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「まだ、ホテルでの受け渡しが終わって
.      少ししか経ってない。きっと高飛びはまだだろう」

(;゚д゚)「しかし、こうして喋っている間に逃げられますよ!」

(´・ω・`)「検問はだめだ。僕たちだけで乗り込む」

(; <●><●>)「見当はついてるのですか!?」

(´・ω・`)「あったら真っ先に飛び出してるさ!」

(; <●><●>)「それでは――」


 若手は言葉を発せなくなった。
 一刻を争う事態で、それこそ一秒でも早く誘拐犯に追いつかなければならない。
 しかし、ここから近い飛行場だけで三つ、船も含めると二桁を優に超すのだ。
 一度それらのうち一つ向かってみて、外れだった場合は引き返すしかない。
 その引き返すうちに、誘拐犯は間違いなく逃げるのだ。


 つまり、チャンスは一度きり。
 なんの手掛かりも無い。
 なんの見当もついてない。
 判断を誤れば、誘拐犯を逮捕する機会は永久に失われる。


 考えられない事態だ。

 たとえ、ショボーンがあのイツワリ刑事と呼ばれるお方であっても、
 さすがにこの状況下で誘拐犯が使う逃走ルートを当てられる筈もない、と。


.

491 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:05:46 ID:T3EDqDlwO
 

 それなのにショボーンはその挑戦に挑んでいる。
 無茶だ、明らかに奇跡に頼るしかない勝負なのだ。
 若手は、ただそれだけを思い、不安に感じていた。


(´・ω・`)「一発で、当ててみせるさ。誘拐犯の逃走ルートを、な」

(; <●><●>)「無茶です! 当てられっこありません!」

(´・ω・`)「できるかどうかが、問題じゃない」

(; <●><●>)「あなたは、奇跡を起こそうっていうのですか!」

(´・ω・`)「起こしてやろうじゃないの」

(; <●><●>)「―――ッ」


(´・ω・`)「幸い、外は見ての通り豪雪だ」

( <●><●>)「……雪?」


 言われて初めて、外の環境の変化に気がついた。
 窓を打ち付ける程の凄まじい風に混じって、大量の雪が降っていた。

 先程までとは比べものにもならない大雪だ。
 もう何十センチも積もっている。

(´・ω・`)「シベリアやVIPの北部、キタコレと言った我が国の北部は、
.      基本的に大雪の警報が入れば船は出せないんだ」

(; <●><●>)「それはそうですが……でも、飛行場が三つ残ってます!」

(´・ω・`)「その三つから、僕が刑事人生の全てを賭けて、突き止めてみせる」

(; <●><●>)「………!!」


.

492 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:08:35 ID:T3EDqDlwO
 

 またも若手は言葉を失った。
 彼の心境を表すなら、無茶だ、無謀すぎる、だ。

 飛行場の三つとは、あくまでこの近辺に限った話だ。
 VIP、シベリアに限らず近辺の地区全域を考えれば、やはり十は超える。
 地下鉄でどこか遠くに行ってから、別の飛行場を使うかもしれない。
 それなのに、ショボーンはやる気でいたのだ。

 若手は更に食ってかかろうとした。
 だが、それを止めたのは東風だった。


( ゚д゚)「……ワカッテマス」

(; <●><●>)「ミルナさんからも言ってくださいよ!
        強情張って検問を捨てないよう――」

( ゚д゚)「イツワリさんは、こういう人なんだ」

( <●><●>)「……?」

( ゚д゚)「偽りを見抜くだけが、イツワリ警部――ショボーンの仕事ではない」




( ゚д゚)「時には、偽りを突き止めるんだ」


.

493 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:10:45 ID:T3EDqDlwO
 


( <●><●>)「突き、止め――」

( ゚д゚)「偽りの根城を駆使して我々を翻弄してきた
     という偽りを持つ主犯格を、突き止める」

( ゚д゚)「イツワリさんは、偽りを見抜く事ができるから、
     見抜けば、自ずと突き止めたも同然だろ?」

( <●><●>)「……」

( ゚д゚)「あくまで俺らはイツワリさんの部下だ。
     上司である彼の指示に従う、それが警察なのだぞ」

( <●><●>)「………」


 若手は、自分で自分を叱責した。

 ショボーンを信じず、それどころか刃向かいもした。
 警察である以上、検問を張ったが故に人質を殺されてはならない。
 一方で、警察である以上、上司であるショボーンの指示は絶対だ。
 組織で動くが故の、絶対的な規則なのである。

 その警察としての本質の両方を、破っていた。
 これこそが、考えられないことだ。

 知らずのうちに、若手は黙ってショボーンをみていた。
 その眼の色は、尊敬の一色で染まっていた。




.

494 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:12:44 ID:T3EDqDlwO
 



        −5−



(´・ω・`)「(思い出せ……今回の事件の全てを……)」

(´・ω・`)「(主犯格は、身代金の独り占めを目的に、仲間を次々殺していった)」

(´・ω・`)「(それは、モカとデルタをみれば明らかな事だ)」

(´・ω・`)「(しかし)」

(´・ω・`)「(一方で、四回と指示した受け渡しで三回しか
.       応じない理由は、不意を突いて逃げるためだろう)」

(´・ω・`)「(すると、もう仲間はいないのか?)」

(´・ω・`)「(逃げる以上、仲間はいないと思われるが……
.       他にもう一つ、何か根拠が欲しい)」


.

495 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:13:59 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)「……ワカッテマス」

( <●><●>)「はい」

(´・ω・`)「今回で、誘拐犯グループはもう主犯格の一人だけだと思う?」


 眼を細め、静かに訊いた。
 豪雪が窓を打ち付ける音が煩く、ほとんどがかき消されて聞こえなかった。
 だが、それでも若手は応えた。

( <●><●>)「そりゃそうでしょう」

(´・ω・`)「なぜだ?」

( <●><●>)「仲間が残っている場合、逃げそのものに危険が生じます」

(´・ω・`)「他には?」

( <●><●>)「……む」


 ショボーンが真っ先にたてた仮説と、同じ見解を若手が述べた。
 ショボーンの欲しかった答えではないので、更に聞き出した。
 当然若手も戸惑い、一瞬言葉が詰まった。

( <●><●>)「………私にはなんとも」

(´・ω・`)「そうか」


 いきなり訊いて、そうポンと出てくるものではない。
 ショボーンは、半ばこれを予想していたかのほうに、肩を竦めた。
 腕を組み、絨毯をじっと睨んで思考を巡らせた。

 すると、伊藤が横から口を切った。


.

496 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:15:25 ID:T3EDqDlwO
 


('、`*川「あの……警部」

(´・ω・`)「なんだ」

('、`*川「気になってる事があるんですけど……」

(´・ω・`)「言ってみろ」

('、`*川「でも、本当にどうでもいいことなんです」

(´・ω・`)「構わないさ。なんだい?」

 ショボーンは、なるべく明るく振る舞った。
 伊藤は滅多に自分の意見を口にしないのだ。
 そんな彼女が推理を並べようとしているのに、拒む筈はない。
 多少、ショボーンはオーバーに彼女の話を受け入れた。




('、`*川「ボストンバッグが、誘拐犯の数と合致しているんじゃないかなーって……毎度毎度……」


.

497 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:17:11 ID:T3EDqDlwO
 


(´・ω・`)


 言われて、ショボーンは一瞬黙った。
 いや、言葉を失ったと言ったほうがいい。

 伊藤は、それがショボーンの導火線に火を点けてしまったのか
 と思い、なにも言われてないのにも関わらず、萎縮した。
 一方のショボーンは、伊藤の言っている言葉の意味をひとつひとつ理解していった。


(´・ω・`)「………」

(´・ω・`)「……ばかな」


 長考の末、漸く絞り出せた言葉がそれだった。
 怒りもなく呆れもせず、無意識的に漏れてきたものだった。
 周章を隠せない捜査陣のなかで、ショボーンは逆に落ち着きを取り戻しさえもしつつあった。
 それほどまでに、伊藤の考えが奇抜で、また合理的にも思えたものだったのだ。



(´・ω・`)「……待て、ボストンバッグの数は――」


.
499 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:19:53 ID:T3EDqDlwO
 


 身代金を詰める物にボストンバッグを選んだのは、当然の思考だ。
 形が一定で保たれている硬いトランクケースよりかは、幾分か扱いやすい。

 当初問題にしたのは、分け方だった。
 なぜかボストンバッグを五つに分け、なぜか御前と主犯格のいるコンビニに置くことになった。
 場所がコンビニである謎は解けたのだが、思い返せば個数については論議は交わしてななかった。

 大人数で運ぶのに適しているからではないか?という意見も当然でた。
 だが、あの時コンビニには御前含め二名しかいなかったのだ。
 五、という数字の謎は未だ明かされないままだった。

 次のオオカミ鉄道にて、四つと指令が下った。
 ベッドの上に五つを載せると、一つが通路に落ちるものだと
 わかったため、四つにした意味を押さえる事ができた。

 と、思っていた。
 考え直すと、その思考が既におかしいのだ。
 限界まで詰めている訳でもないボストンバッグを不用意に
 複数個に分けただけでは、かさばるため逃走にも不向きな筈なのだ。

 だが、「五つでは難しい」という事実があっただけで、
 いつの間にか四つである事に違和感を示さなくなっていた。
 気がつくと、複数個のボストンバッグが当たり前のものだと思っていたが、
 伊藤に言われて、はじめてその事に思考が、そして推理が行き渡った。


(;´・ω・`)「まさか、まさか……まさか!」



.

500 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:22:12 ID:T3EDqDlwO
 

 ショボーンは徐々に顔色を悪くしていった。
 顔が蒼白くなったが、室内を照らす小型のシャンデリアで
 元々肌が白く見えるので、焦燥は色を見ては窺えなかった。

 だが、滲み出る脂汗、強く握られた拳、食い込む爪を見る限り、
 決して平常心でいられてないのはわかった。


|(●),  、(●)、|「作戦会議中すまない、客人のようだ」

 先程まで席を外し、私事に時間を費やしていた伊達が急に室内にやってきた。
 ソファーから腰をあげた東風が出迎えると、それよりも早く伊達が口を切った。


|(●),  、(●)、|「ショボーン君の部下という刑事が二人、やってきたよ」

( ゚д゚)「是非ここに来るように、と――」

/ ゚、。 /「いますけどね」

( `ー´)「いるけどな」

(;゚д゚)「いたのかよ!」


.

501 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:24:28 ID:T3EDqDlwO
 

 伊達の後ろから、鈴木ダイオード刑事と真山田ネーノ刑事がやってきた。
 伊達の事は教えており、自宅も教えていたため、自主的に帰ってきたのだろう。
 ショボーンも東風も、帰還の要請はだしていない。
 唐突に現れ啖呵を切ったので、東風は若干たじろいだ。


( ゚д゚)「捜査はどうしたんだ」

( `ー´)「その事ですが」

 東風が訊こうとする事を先取りし、その答えを早速持ち出してきた。
 どうやら、手ぶらで帰ってきた訳ではなかったようだ。
 なにか目的があっての、自主帰還ととることができる。


( `ー´)「あの支配人コンビに話を聞くと、面白い事がわかったのでお知らせに」

( ゚д゚)「電話で言えばいいだろう」

/ ゚、。 /「これ以上なにもでない、とシベリアの
      フィレンクト警部が仰っており、帰還を推奨されたのです」

( ゚д゚)「……まあいい。報告を聞こう」


.

502 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:26:57 ID:T3EDqDlwO
 

 先程のショボーンの推理により焦燥していた東風とは
 対照的に、この若い二人は落ち着き払っていた。
 まだこの事を伝えていないから、当然といえば当然だろう。
 報告を聞いてから、半ば脅しつけるかのように伝えるつもりだった。

 報告をする時になって、真山田は僅かだが狼狽をみせた。


( `ー´)「一週間」

( ゚д゚)「は?」


 真山田が、意味深な一言を呟いた。
 聞き取れず、東風がすかさず聞き返した。

( `ー´)「誘拐犯の受付嬢とボーイがホテル働き始めたのが、なんと一週間前なんですよ」

( ゚д゚)「一週間?」


 一週間という言葉に、過敏に反応した。
 どこかで聞き覚えがあったのだ。
 東風の表情に気を取られず、真山田は続けた。

( `ー´)「第一の被害者である御前モカが、例のコンビニで
      働き始めたのも一週間前でしたよね?」

( ゚д゚)「あッ―――」


.

503 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:28:52 ID:T3EDqDlwO
 

 思い出した、あのコンビニオーナーの八東ススムが言っていたのだった。
 胸中でそう叫び、八東の気の抜けた声が再現されていた。
 実にあやふやで、日数を数えるだけで戸惑っていたのが思い出される。

 これは中々な手掛かりだ。
 だが、受付嬢もボーイもメンバーと判明している今、その情報はあまり必要ではなかった。
 真山田も、それを理解しているようだった。


( `ー´)「それで、もう一つ」

( ゚д゚)「なんだ」

/ ゚、。 /「こっちを知らせたくて、駆けつけたようなものだそうですが」


 補足説明してお膳立てでもするかのように、鈴木は控えめに言った。
 真山田をみると、彼はそわそわしている。
 余程の収穫があると見て、問題ないだろう。

( ゚д゚)「聞こう」

( `ー´)「受付嬢もボーイもなんですが、この二人は御前モカと共通点があるんですよ」

( ゚д゚)「共通……」

( `ー´)「随分昔に失業を喰らった、とか」

( ゚д゚)「! モカの時と一緒じゃないか」

( `ー´)「そうなんです」


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504 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:31:44 ID:T3EDqDlwO
 


 御前モカは、失業したとみて間違いはなさそうだった。
 年齢的に大学の浪人生でも留年生でもなく、アルバイトするには不釣り合いな歳だったからだ。
 就職難と呼ばれる時代でも、フリーターで何年も食べていく者は思いの外少ない。
 八東は言葉を濁していたが、御前はおそらく不況の煽りを受けた失業者の一人だ。


( ゚д゚)「じゃあ主犯格も――」

( `ー´)「報告はこっからが凄いんですよ」

( ゚д゚)「――?」


 真山田は息を荒くした。
 三段階に分けて報告するものだから、東風もテンポを合わせるのはできていなかった。





( `ー´)「受付嬢もボーイも、昔はとある宝石商の社員だったみたいなんですよ」



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505 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:33:14 ID:T3EDqDlwO
 

( ゚д゚)「宝せ――」

(´・ω・`)「――なんだって?」


 東風が聞き返そうとすると、より早くショボーンが聞き返した。
 考えに耽っていたショボーンが急に立ち上がったので、東風は自然と押し黙っていた。

 眉間に皺を寄せ、眼を見開いている。
 真山田は、なぜショボーンが食いつくのかわからなかった。


( `ー´)「詳しくは知らないんですが、あの二人は元宝宝石商のようなんです」

(´・ω・`)

( `ー´)「で、凄いってのが、あの御前モカも元宝石商らしいんですよ」

(´・ω・`)

( `ー´)「車掌長のデルタ氏も、昔は宝石商って――」

(´・ω・`)「おい」


 真山田の言う凄い報告を淡々と続けると、ショボーンが随分低い声で言い放った。
 表情を見ると非常に厳つくなっており、拳をわなわなと震わせていた。
 とてつもない畏怖を感じ取り、真山田は動揺していた。
 なぜショボーンからこのようなオーラを感じるのか、わからなかったのだ。

 ショボーンが口を切ろうとすると、先に若手や伊藤が飛び出してきた。


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506 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:35:10 ID:T3EDqDlwO
 


(; <●><●>)「今の話、ほんとうなのか!?」

('、`;川「ホテルの二人も宝石商ですって!?」

( ;`ー´)「え? そ、そうだけど……たぶんな」

 伊藤はともかく、あの若手ですら狼狽えていたので、真山田は更に動揺した。
 すると、後ろからショボーンがのしのしと歩み寄って、ついに怒りを爆発させた。


(´-ω-`)「………どうして」

(;`ー´)「は……はい?」



(#´・ω・`)「どうして、もっと早くに言わなかったんだと言ってるんだ!! 答えろ!!」


(;゚д゚)「落ち着いてください!」

( ;`ー´)「え……え?」


 制止すべく、東風は歩み寄ったショボーンと真山田の間に無理やり割り込んだ。
 退室しようとした伊達が、魔物を見るような眼でショボーンを見つめていた。
 長年コンビを組んできた東風でさえ、ショボーンがこれほど激怒したのは見たことがなかった。
 それほどまでに、ショボーンは怒っていたのだ。

 髪が逆立ち天を突きそうな勢いで、引き続き怒声を浴びせていた。
 真山田は、なぜ叱責を浴びるのかわからなかった。


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507 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:36:35 ID:T3EDqDlwO
 

(´・ω・`)「知らないなら教えてやろう」

(´・ω・`)「伊達さん、ご職業をお教え願えますか?」

 なんとか声を落ち着かせ、逆立つ髪を押さえた。
 そして、なんだと思い近寄ってきた伊達に話を振った。

 伊達はよくわからないと言いたげな顔をして

|(●),  、(●)、|「……? 宝石商を営んでいるが」


( ;`ー´)「なッ!? ……なんですって!?」
 
 真山田が、すぐに狼狽した。
 真山田は、ただの偶然程度にしか思ってなかったのだ。
 共通点と言えるほどの物ではないと判断し、笑い話にしていた。

 といっても、この元宝石商という下りにおいて、四人のうち二人は先程知ったばかりである。
 関ヶ原と御前の失職前の職業が一緒というだけでは、不審には思わなかったのだろう。


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508 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:39:14 ID:T3EDqDlwO
 

 真山田に言わせても、まさか、被害者の保護者の職業と
 誘拐犯メンバーの元職業が一致するとは、夢にも思ってなかったのだ。
 心臓の高鳴りが、今までに味わった事のない程に連打されて聞こえてきた。

 真山田が焦燥を抑えきれないうちに、ショボーンは伊達を見て口を開いた。
 先程まで怒っていたかと思うと、今度はまた焦燥を露わにしていた。


(´・ω・`)「伊達さん、ここ十年ほどで、ご自身の手で馘首に処した社員は何名ですか?」

|(●),  、(●)、|「急に聞かれてもなあ……」

|(●),  、(●)、|「まず、私は滅多な事じゃ解雇しないのだよ。
            不況になった時に数人は解雇したが……」


 「少し待ちたまえ」と言って、伊達は書斎に向かった。
 少しと言っても、一分もせず戻ってきてくれた。
 手にはファイルが持たれており、仕事関連の物だ、と瞬時に把握できた。
 それを開きながら、伊達は説明した。

|(●),  、(●)、|「解雇者のリストだよ」


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509 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:40:58 ID:T3EDqDlwO
 

 リストには、着服などの不祥事で逮捕された人物が多くを占めるなか、
 ただの経営不振で馘首された社員が数名、載っていた。
 リストの下段のほうに、経営不振と説明書きが添えられ、名前が書かれてあった。
 経営不振による馘首された人数は、四人だった。


(;´・ω・`)「………」

 それをみた瞬間、ショボーンの顔が真っ青になった。
 他の刑事も群がるが、反応は一緒だった。


|(●),  、(●)、|「関ヶ原君といい、若い御前君といい、皆本当にいい人ばかりだった。
            解雇などしたくなかったのだが……あの頃は経営が本当に苦しくてねえ……」


 伊達が昔を思い返しながら感傷に浸り、ただ詫びの気持ちを述べていた。
 だが、ショボーンはそんな事はどうでもよかったのだ。
 リストに載っていた名前を見て、絶句するほかなかったのだから。



  関ヶ原デルタ
  御前モカ
  鈴木すず
  鈴木むねお



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510 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:42:01 ID:T3EDqDlwO
 


(;´・ω・`)「………ッ」

|(●),  、(●)、|「……どうしたのだね、ショボーン君?」


 伊達が心配そうに見つめた。
 見つめたのは、ショボーンだけではない。
 刑事が、皆狼狽えているのだ。
 なにが起こっているのか理解できず、自分だけが浮いていた。

(;´・ω・`)「ま、まさか……とは思っていたが……今ので、確信した」

( ゚д゚)「なにをですか?」

(´・ω・`)「この事件の奥底に眠る本当の偽り≠フ存在だよ」

( <●><●>)「偽り……」

('、`;川「本当のって……まだあったのですか!?」

(´・ω・`)「ああ。教えてやろう」





(´・ω・`)「この事件の本当の偽り≠ヘ―――」





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511 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:44:21 ID:T3EDqDlwO
 







(´・ω・`)「この、誘拐事件だったんだ」










  イツワリ警部の事件簿
  File.2

 (´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです


  第八章
   「 偽りを突き止める 」

      おしまい




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