382 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:31:23 ID:l4xeNaLMO
 



 第七章
  「 霧が晴れる 」



       −1−




(;´・ω・`)「ちくしょう……!」

/;゚、。 /「警部。すぐに応援が駆けつけます」

(´・ω・`)「あ、ああ…。ありがとう」


 ショボーンは、畳を力強く殴った。
 殺人事件が起こってしまったことに苛立っているのではない。
 若手が誘拐犯グループを逃がしたからでもない。

 事件が起こるだろうと予測はできていたのに、
 またしても未然に防ぐことができなかった
 自分の未熟さに対して、いかっているのだ。

 三度にわたり、誘拐犯に逃げられてしまった。
 事件という、非道な置き土産を残して。



.

383 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:33:54 ID:l4xeNaLMO
 

 若手の言うとおり、最初からこの部屋に押し掛ければよかったのではないのか。
 応援を呼んで、ホテルを囲んでおけばよかったのか。
 ホテルに協力を要請し、誘拐犯逮捕に貢献してもらうべきだったのか。

 彼の脳内を、さまざまな後悔が駆けめぐる。
 だが、どれも瞼の内側にだけ映るだけで、目を開くと、命を失った男の躯しか残っていなかった。

 ショボーンは、自分の無力さを痛感した。


(´・ω・`)「ワカッテマスもしくじった、か」


 先程の電話で、若手が口惜しがっていた。
 誘拐犯グループを逃がしてしまった、と。
 戻ってこいとだけ言って、電話をポケットに入れた。

 やはり、誘拐犯はここでこの男を殺して、うまく逃げ出したのだろう。
 この部屋を捜査すれば、一つや二つは犯人の遺留品が
 見つかりそうだったが、とても今はそんな気になれなかった。

 いまは、ぼうっとしていたい気分だったのだ。


.

384 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:36:07 ID:l4xeNaLMO
 

/;゚、。 /「警部……」

 鈴木が、ショボーンを案じた。
 ショボーンがあまりにも取り乱しているので、不安になったのだ。

 鈴木の知っているショボーンとは、普段は飄々とした人柄で、自称女好きの中年だ。
 だが、事件が起こると、恐るべき才能と執念を見せて
 次々と解決していく、ある意味では冷静な男だった。
 そんなショボーンが取り乱しているのが、かなり奇妙に見えたのだ。


(´・ω・`)「ん……」

/;゚、。 /「お疲れのようですね」

(´・ω・`)「まあ……三連戦で、三連敗だからな」

/ ゚、。 /「三……」

(´・ω・`)「まさか、四人で挑んでも勝てないとはなぁ」

/ ゚、。 /「……」


 ショボーンは自嘲気味に笑った。
 かける言葉が浮かばず、鈴木は黙った。


 少しの静寂が生まれた。
 窓から吹いてくる風が、部屋全体を冷やしていた。
 特に死体から熱を奪ってゆくため、既に死体の身体はずいぶんと冷たかった。


.

385 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:41:07 ID:l4xeNaLMO
 


( <●><●>)「戻りました」

(´・ω・`)「報告しろ」

( <●><●>)「はい」


 少しして、若手と東風が戻ってきた。
 若手は落ち着きを取り戻していて、普段通りの沈着な姿になっていた。
 先程電話線を通して聞こえた声の主と同一だとは、思えなかった。

( <●><●>)「三階のとある部屋……
         と言っても、おそらくここからでしょう。誰かが飛び降りたのです」

(;´・ω・`)「と、飛び降りた?」

 ショボーンは声を上擦らせた。
 彼の抱いていた予測よりも、随分と斜め上だったのだ。


( <●><●>)「ええ。私も驚いてあとを追いかけると、白のライトバンの上に乗りました。
         声をかけようとすると、後ろから殴られて――」

( ゚д゚)「ワカッテマスは、そこで意識を失いました」

(´・ω・`)「じゃあ、それが――」

( <●><●>)「誘拐犯です」


 若手は、ずばっと言い切った。
 それ以外には考えられないようだ。

 ショボーンは腕組みをして、しばらくなにかを
 考えていたが、やがてため息を吐き、立ち上がった。


(´・ω・`)「続きは戻ってから、だ」

.

386 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:43:00 ID:l4xeNaLMO
 


 皆が声を揃えて肯いた。

 すると、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 窓の外に顔を出すと、県警のパトカーが数台並んでいた。
 手を振り居場所を示して、彼らの到着を待った。


(‘_L’)「ショボーン警部」

(´・ω・`)「フィレンクト警部、いらしたのですか」

(‘_L’)「そちらの一課長から一報が届きまして」

( ゚д゚)「(ドクオ一課長が…?)」


 VIPの刑事以外に、シベリア県警の人も訪れていた。
 というのも、鈴木の通報を受けた際、ドクオ捜査一課長が
 気を利かせて、シベリア県警に連絡をまわしたそうだ。

 この事件が誘拐犯の犯したものである以上、
 シベリアでの御前モカ殺人事件と関連性があるとみて当然だろう。
 やがては、シベリアの捜査本部で、合同で捜査することになる。
 ここにフィレンクト警部が来るほうが、都合がよかった。

.

387 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:47:24 ID:l4xeNaLMO
 

(‘_L’)「いったい、今度はどうされたんですか」

(´・ω・`)「えっとね、我々が誘拐犯の指令を仰ぎ、
.      次の受け渡し場所に、とここにやってきたのですよ」

(‘_L’)「で、その矢先で死体と出くわした、と」

(´・ω・`)「ええ。犯人は逃げましたが」

(‘_L’)「……そうですか」


 VIPの鑑識が、あれやこれやと証拠を集め始めた。
 検死官も動き始め、簡単な検死結果をショボーンに報告した。

 まず死因だが、背後から、鋭利な刃物で深く刺された事による失血死だ。
 かなり深くにまで入ってきており、刺してから凶器を抜けば
 一瞬にして大量の血を吹き出させることができる。

 死後間もないようで、いまから三十分以内に絶命したものと見ていい。
 致命傷となった背中の傷以外には、特に外傷は認められなかった。

 被害者と同室していた犯人は、背後からいきなり襲って、逃げ出したのだ。
 だが、その脱出ルートをフィレンクトに告げると、彼も眉をひそめた。


(;‘_L’)「窓から飛び降りて逃げたんですか!?」

( <●><●>)「ええ。そこの電灯を踏んで跳躍、
         外に停めてあったライトバンで逃走しました」

(‘_L’)「それを見ていて、なぜあなたは追いかけなかったのですか?」


.

388 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:49:23 ID:l4xeNaLMO
 

 フィレンクトは、皮肉る様子もなく、純粋な疑問として訊いた。
 そこまで見ていたのなら、刑事なら追いかけるのが当然だろう。
 だから、みすみす逃した若手の考えがわからなかったのだ。


( <●><●>)「お恥ずかしながら、背後からやつの仲間に襲われ、気絶しまして」

(‘_L’)「仲間?」

( <●><●>)「跫音からして、二人。
         誘拐犯には、あと二人仲間がいたのです」


 あの時、コンクリートを蹴る音から判断するに、二人の人間がいた。
 片方が若手を殴りつけ、地に叩きつけることで気絶させることに成功したのだ。
 誘拐犯と無関係なら、若手を襲う意味合いは薄い。
 後ろから駆けてきた二人は、誘拐犯グループの一味と見ていいだろう。

 フィレンクトはそのことを聞いて、残念そうな顔をした。


(‘_L’)「頭は大丈夫ですか? なんなら治療を」

( <●><●>)「大丈夫です。私の身体は特別頑丈ですので」

(‘_L’)「それなら」


 フィレンクトは微笑した。



.

389 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:51:29 ID:l4xeNaLMO
 

 そして若手は、東風に加わって捜査に荷担しはじめた。

 和室から奥の襖を抜けると、外の景色を一望できるベランダがある。
 ベランダの窓を開いて、犯人は二メートルほどの
 デッキを駆け、柵に乗り、外の電灯に向かって跳躍したのだ。

 東風がベランダを出て、デッキの上を歩き、窓の外に顔を出し、下を覗き込んだ。
 白髪交じりの髪が、風でぐしゃぐしゃに乱される。

 目を細め、地面を見つめた。
 目の前には灯台があり、そこから三メートルほど右に若手が倒れていた場所がある。


( ゚д゚)「(よく、こんなところを跳ぼうとしたな)」

 手をついていた柵を見ると、持ち手の幅は十センチほどで、ここを踏み台に跳ぼうとは到底思えなかった。
 何の気なしに手すりを見ていると、雨によって付着した水垢が、一部だけ擦れ落ちているのを見つけた。


( ゚д゚)「鑑識」

(`・д・)ゞ「はい」

( ゚д゚)「ここも調べておけ」

 そう鑑識に指示して手すりから離れ、和室に戻った。


.

390 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:53:34 ID:l4xeNaLMO
 

 畳のスペースだけで十二畳はある広めな部屋で、
 玄関から和室に入った先に、テーブルが置かれている。
 テーブルのちょうど隣に死体が倒れており、血はテーブルの脚にも付いてしまっていた。
 膳には急須や葉茶が置かれていて、緑茶が注がれていたり使われた形跡のある湯呑みが三つあった。


( ゚д゚)「(誘拐犯グループは三人……数としては合うな)」


 鑑識が指紋を採取しているが、一向に指紋の報告はあがってこない。
 湯呑みにも指紋はなかったので、手袋などをはめて慎重に飲んだものと思われる。
 被害者も手袋をはめているので、当然といえば当然か。


( ゚д゚)「(……ん? 被害者にも手袋?)」

( ゚д゚)「イツワリさ――」



/;゚、。 /「警部、大変です!」

(´・ω・`)「どうした?」


.

391 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:57:22 ID:l4xeNaLMO
 

 東風が、気になった点があったのでショボーンの意見を
 聞こうとすると、先に玄関から鈴木がショボーンを呼んだ。

 彼女が、一階に向かって名簿をもらい、従業員に話を伺おうとした矢先での出来事だった。
 かなり息を弾ませており、焦りが顔面に張り付いた様子であったため、
 ショボーンも思わず不安げな顔つきになった。


/;゚、。 /「あの受付嬢が、いないのです!」

(´・ω・`)「……ほう」


.

392 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:59:46 ID:l4xeNaLMO
 



        −2−



 事の異変にはすぐ気が付いた。
 一階に降り、フロントへ向かったところ、従業員が皆騒いでいたのだ。

 当初は、殺人事件発生のために引き起こったものだと思っていたが、違った。
 いや、それも理由の一つとしては加わるのだろうが、
 彼らが慌てふためく理由は、もう一つあるように思えた。
 そして、事件発生までにはフロントに立っていた受付嬢が
 いないのを見て、鈴木はすぐにそれが何かを理解した。


/ ゚、。 /「(まさか……逃げた?)」


.

393 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:01:40 ID:l4xeNaLMO
 

 突然のスタッフの失踪に、驚きを隠せないでいる人ばかりだった。
 ほかの宿泊客への呼びかけだったり、事を知らないスタッフへの 現状報告だったりと
 ただでさえ忙しいのに、その上スタッフが一人消えたとなると、それはもう大問題だ。

 彼らも薄々気が付いているだろう。
 この状況で姿を消すということは、その人物が犯人である、ということだ。
 従業員が殺人犯となると、もうおしまいだ、と皆が騒いでいるわけである。


( ;`ハ´)「各所でホテルの支配人を勤めて早二十五年、はじめての大事件アルよ!」

/ ゚、。 /「(あの人に聞こう)」

/ ゚、。 /「すみません、警察です。お話を伺ってもよろしいですか?」

( ;`ハ´)「よろしくないアル! 朕の華々しいホテルオーナー生活が崩れたアルよ!?」

/ ゚、。 /「応えないなら署に連行しますが」

( `ハ´)「謹んでお応えします」

.

394 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:06:11 ID:l4xeNaLMO
 

 このホテル「ひるがさき」のオーナーを捕まえ、話を聞いた。
 どうやら、鈴木の読み通り、受付嬢が一人、逃げ出したようだ。
 それは、丁度鈴木とショボーンが三階の誘拐犯の部屋に向かった直後の事だったらしい。

 自分だけでも一階に残っておけばよかったと、鈴木は反省した。
 だが、オーナーの落ち着きがなかったのは、別の事件があったからだ。


( ;`ハ´)「お客様のお荷物を持って行くなんて最低アルよ!
      どうするアルか、損害賠償を請求されたら!」

<;ヽ`∀´>「そうニダ! 損害賠償を請求されるニダ!」

( ;`ハ´)「おお、朕とともにホテル事業を転々としていくなかで
      常に朕を支えてきてくれた副支配人、ニダーでアルか!」

<;ヽ`∀´>「ウリはいつでも補佐するニダ、シナー支配人!」

/ ゚、。 /「(……大して焦ってないみたいだ)」


.

395 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:10:23 ID:l4xeNaLMO
 

 頬が痩けた中年が、どこからともなくやってきた。
 ホテルの副支配人のようで、支配人と同じく落ち着きがない。
 身体が大きく、威厳のある支配人とはいいコンビだ、と思った。


/ ゚、。 /「荷物が奪われた、とは?」

( ;`ハ´)「十分ほど前にバッグを預けにきたお客様がいたアルが、
      そのバッグを持って、彼女は逃走したアルよ!」

 鈴木は嫌な予感がした。
 そしてはっとして、先程まで忘れかかっていたことを思い出したのだ。


/;゚、。 /「もしかして……それは、黒っぽい、三つのボストンバッグですか?」


 鈴木は恐る恐る聞いた。
 もしそうだとすると、またまんまと身代金が奪われたことになる。

 それだけは避けたかったし、信じたくなかった。
 なにか、別のバッグであってほしかった。

 しかし、そんな鈴木の望みを、悪意をもって
 壊すかのように、支配人は大きく肯いた。


( ;`ハ´)「そうアル! 大変アルよ!」

/;゚、。 /「………嘘…」


 鈴木は呆然とした。
 自分はこれが一度目の対決だが、ショボーンたちにとっては三度目の対決なのだ。
 誘拐事件については、鈴木もある程度は聞いている。
 一度ならず二度までも出し抜かれて、ショボーンたちは三度目である今回に賭けていた。


 その三度目で負けてしまったのだ。
 今度こそ、と意気込んでいた矢先での敗北だ、
 心理的に負うダメージも、相当大きいに違いない。


.

396 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:14:01 ID:l4xeNaLMO
 

 すぐにショボーンにそのことを報告した。
 ショボーンは、鈴木とは違い別段ショックを見せなかった。


(´・ω・`)「受付嬢はマークしてなかったからな……」

( <●><●>)「自分があの時、背後にも警戒を配っていれば――」

(´・ω・`)「やめろ。そういう後悔は、したって一文の価値にもならん」


 しかし、彼にも苛立ちが募っている事には違いないようだった。
 言葉の一つ一つに、威圧感が感じられる。


( <●><●>)「しかし、そうなるとすると、
         私を襲ったのはあの女性なのですかね」

(´・ω・`)「いや、もう一人いたんだろ。そいつに殴られたに違いない」


 受付嬢の腕は細かったと記憶している。
 いくら不意を突いたからといって、若手ほどの巨漢を気絶させられるとは思えない。
 二人でボストンバッグを分けて持ち、逃げたと考えれば問題はないだろう。


.

397 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:17:43 ID:l4xeNaLMO
 

(´・ω・`)「これで、三億が奪われたわけか」

( <●><●>)「残るチャンスは……」

(´・ω・`)「……考えるな。いまは、捜査を続けろ」

( <●><●>)「はい」


 そう言うと、若手と鈴木も散った。
 なにか手がかりがあればいい、そう思うのだが、どうもそんな気はしなかった。

 悲しきかな、事件を起こすタイミング、逃げ出すタイミングは、全て誘拐犯側に委ねられている。
 当然、万端の準備をし、穴を全て塞いでいるからこそ、決行に挑むのだ。
 逃げられて当然、という考え方の方が自然だ、と思っているのだろう。

 この被害者の殺害、そして逃走。
 ショボーンと鈴木により早期発見はできたものの、やはり結果は変わらなかった。
 とは言え、若手の働きで、誘拐犯グループに少なくとも三人いることはわかった。

 が、逆に言うと、主立った収穫はそれだけなのだ。
 あまりにか細い、頼りない情報だ。
 ショボーンは、上に立つ者として、この心許ない情報だけを
 頼りに次の相手の出方を推理し、先回りしないといけない。


 ショボーンの口癖のひとつに「データが足りない」がある。
 が、今の状況では、この口癖すら呟けないようだった。


.

398 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:19:56 ID:l4xeNaLMO
 

( ゚д゚)「イツワリさん」

(´・ω・`)「さっき呼びかけてたな、悪い。なんだ?」


 相変わらず、焦慮の片鱗が感じ取れる口調だった。
 東風は別段気にしない様子で、言おうとしていたことを言った。

( ゚д゚)「害者ですが、手袋をつけていますね」

(´・ω・`)「ああ。指紋を隠そうとしていたのだろう」


 ショボーンは平然と答えた。
 既に予測はついているのだろう、と東風は思い、続けた。


( ゚д゚)「とすると、この死体も誘拐犯の一人だ、ということになりますね」

(´・ω・`)「ああ」

( ゚д゚)「……このことで、なにかが引っかかるんですよ」


 東風は、被害者がはめている手袋が、どうも気になっていた。
 その正体だが、脳内で実体を形成できず、ただ眼前が霞がかっていて。
 手袋が不思議な気こそするのはわかるのだが、その理由がわからなかった。

.

399 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:23:22 ID:l4xeNaLMO
 

(´・ω・`)「概ね言いたいことはわかる。キーポイントは、人数だ」

( ゚д゚)「……人数?」

(´・ω・`)「ああ。ワカッテマスの証言からすると、
.      誘拐犯は三人、身代金を持って逃げてきたよな?」

( ゚д゚)「はい」


 ショボーンは、視線を卓上に遣った。
 膳の横に、湯呑みが三つ並んでいる。


(´・ω・`)「一方で、この部屋にも、三人いたという形跡が残っている」

( ゚д゚)「湯呑みの数からして、そうかもしれません」

(´・ω・`)「まあ、湯呑みなんぞはいくらでも工作できるとして、だ。
.      仮に三人がここにいたとするなら、矛盾が生じるんだ」

(´・ω・`)「三人いたうちの一人が、死亡。もう一人が、窓から逃走。
.      じゃあ、もう一人はどこに行ったのか? 数が合わないんだ」

( ゚д゚)「しかし、湯呑みが必ずしも犯人の数を指し示すとは限りません」

(´・ω・`)「仮に湯呑みの一つがダミーとして、だ。
.      すると、この部屋には二人しかおらず、うち一人は死亡、もう一人が逃走したこととなる。
.      一階からは受付嬢が逃走したが、若手は二人を認知している」



(´・ω・`)「受付嬢と一緒に走ってきた、というのはいったい誰なんだ?」


.

400 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:27:26 ID:l4xeNaLMO
 

( ゚д゚)「……」

 東風は黙った。
 誘拐犯は、一階に受付嬢が一人、三階に殺人犯と被害者の二人。

 更にもう一人だけ、いたはずなのだ。
 そのもう一人は、いったい何なのか。
 それがわからず、東風の胸中には霧が広がっていたのだろう。


( ゚д゚)「一階のトイレとかにでも、待機していたのでは」

(´・ω・`)「問題は、この死体が誘拐犯の一味であるということだ」

( ゚д゚)「?」

(´・ω・`)「三階にいる二人のうち片方が死んだのがハプニングなら、一階にいる二人には伝わらないだろう?
.      携帯電話を使うにも、受付嬢は勤務中だから携帯電話は無理、
.      一方もう一人の男に連絡をしたところで、結局は受付嬢に直接報告しに向かわなければならない」

(´・ω・`)「しかも、三階で害者死んだ頃には、既に僕らが
.      受付嬢を見張っていた。部外者は絡んでいないと断言できる」

( ゚д゚)「つまり、害者の死は前もって計画されていたものと?」

(´・ω・`)「いや、それも違う」

( ゚д゚)「……?」


.

401 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:31:29 ID:l4xeNaLMO
 

(´・ω・`)「仮に殺すタイミングを定め、その時間に一階の二人が逃げ出すとして、だ。
.      害者は、背後から不意を突かれ、一撃で殺されている。
.      害者が背を向けない限りは殺せない現状で、
.      決められた時間に殺すというのは不安定な要素なんだ。
.      誘拐犯としては、計画しての仲間割れも決行しないだろうよ」

( ゚д゚)「では、どういう事ですか?」

(´・ω・`)「まあ最後まで聞け。
.      今の僕の話は、『湯呑みの一つがダミーなら』と仮定した上での話だ」

(´・ω・`)「湯呑みが本物だったら、一階にいた男も
.      ここにいたことになる。殺すタイミングもわかる」

( ゚д゚)「解せません。
     それでは『窓から一人逃げ、一階から二人逃げた』という逃走状況と矛盾します」

(´・ω・`)「それが、あんたの胸中に広がっていた霧の正体だ」

( ゚д゚)「……!」


 東風は薄めていた眼を開いた。
 なるほど、そういうことか、と。

 ショボーンに言われて、はじめて原因に気が付いたのだ。
 霧が晴れて、誘拐犯を捕らえられない事によって
 積もっていった鬱憤までをも、ある程度は払えた。

 つくづくこの男はすごいな、と感服もした。


.

402 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:35:05 ID:l4xeNaLMO
 

(´・ω・`)「だけど、これは矛盾でもなんでもないんだ」

( ゚д゚)「え?」


 思わず、予測していなかった声をあげた。
 この入り組んだ矛盾が、矛盾でないとはどういうことなのか。

 東風が説明を促すと、ショボーンは笑った。

(´・ω・`)「結論から言おう。誘拐犯グループは、この男を
.      殺害してすぐに逃走を図ったわけじゃないんだよ」

( ゚д゚)「……ッ」


 それは、単純なことだった。
 東風が、どころか、この現状を知る者は、皆が皆同じ推理をするだろう。
 「犯人が殺害後、すぐに彼らは逃走を図ったのだろう」と。

 その推理自体が、間違いだった。
 犯人は、殺害後すぐに逃げだそうとはしなかったのだ。


(´・ω・`)「順を追って説明しよう。まず、ここに
.      犯人と一階から逃げた男と害者が三人でいた」

(´・ω・`)「そして、どういうことか、犯人は害者を殺した。
.      男は驚いただろう、なぜ殺したのか、と」

(´・ω・`)「まあ、動機はどうでもいいんだ。
.      身代金の分け前を増やすためか、ただ邪魔だったからか」

(´・ω・`)「そして、男はすぐに一階にいる受付嬢に事情を説明しにきた」

(´・ω・`)「そこで僕と壁が突入、三階に向かっている間に受付嬢と男が逃走する、と」


.

403 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:37:24 ID:l4xeNaLMO
 

( ゚д゚)「では、その間に誘拐犯がなにかしようとしていたのですね?」

(´・ω・`)「まあ、僕がすぐに突入してきたせいで、
.      なにもせず結局逃げ出したのだろうけど」

( ゚д゚)「じゃあ、部屋を隈無く探せば、どこかに、誘拐犯にとって致命的な証拠が――」


 東風が、若干興奮して言った。
 今の流れで言うと、誘拐犯が、捕まるリスクを抱いてまで
 部屋に固執した理由が、まだ残っているということになるからだ。

 しかし、ショボーンのほうはというと、そうでもなかった。


(´・ω・`)「まず、主犯格がそんな致命的な足跡をつけるわけがない。
.      おおかた、害者から手袋をとろうとでもしたのだろうな」

( ゚д゚)「なぜです?」

(´・ω・`)「だってさ、部屋に指紋がない以上、手袋がなかったら
.      通りすがりの哀れな被害者――と考えられるかもしれないじゃん。
.      足掻き程度に過ぎないけど、捜査の錯乱ができるんだよ」

( ゚д゚)「まあ、そうですが――」


.

404 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:38:11 ID:l4xeNaLMO
 

 腑に落ちない様子ながらも、東風は納得した。
 若手と鈴木が捜査するなかで、未だにそのような
 報告がない以上、ショボーンの見解で正しいのだろう。

 東風にとっては、あまりおもしろくなかった。


(´・ω・`)「それよりも」

(´・ω・`)「これで、もう一人の誘拐犯の正体がわかったな」



.
406 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:58:58 ID:l4xeNaLMO
 



        −3−



( ゚д゚)「わかったのですか」

 東風が感心したように言った。
 まだ、自分はわかってないのにそれを突き止めるとは、さすがだ、そう思った。
 するとショボーンは、不遜な態度をとるでもなく言った。


(´・ω・`)「違うよ。あんたは知らないだろうけど、
.      僕はみたんだ、誘拐犯の最後の一人を」

( ゚д゚)「自分が見ていない、ということは」

(´・ω・`)「さて、ここで語弊を解くとするならば、僕は、
.      殺人事件発生後、受付嬢に部外者は近づかなかった、と言った。
.      それはほんとうだ。だが、一人だけ、近づいた者がいた」

( ゚д゚)「その人は?」

(´・ω・`)「部外者ではない、ボーイだ」


.

407 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:01:45 ID:l4xeNaLMO
 

( ゚д゚)「ボーイ、ですか」


 東風は、ショボーンと合流してすぐに裏口の見張りに就いた。
 ボーイの存在はおろか、受付嬢すら知らないでいるのだ。
 東風が、ボーイという誘拐犯の存在に気づかないのは、当然と言える。

(´・ω・`)「ボーイは、慌てた様子で受付嬢と話をしていた。
.      それを見て、僕と壁は突入したんだ」

( ゚д゚)「そりゃあ、ボーイは怪しいですね」

(´・ω・`)「いま思うと、犯人が害者を殺してしまったから、
.      それを報告し、逃げる準備をするよう促していたのかもしれんな」

( ゚д゚)「まあ、誘拐犯のうち二人がここの従業員なら、身元を割るのも容易ですね」

(´・ω・`)「いくか」


 一階まで降り、受付嬢とボーイについて調べることになった。
 正式に雇用されている以上は、身元の特定はできたも当然だろう。
 問題は、今更身元を割っても、何らメリットは見られないことだ。

 家宅捜査をすれば、なにか手がかりは出てくるかもしれないが、御前モカの時と同様に、何も出ないだろう。
 あの時は髪の毛を見つけられたが、そう何度も幸運は続かないものだ。

 一階に着くと、支配人と副支配人が未だにあたふたしていた。
 急遽チェックアウトを要求する宿泊客でもちきりだったのだ。
 当然、宿泊客全員に事情聴取を行わなければならないため、
 今晩は否応なくこのホテルに彼らを拘束するはめになる。

 支配人は、それを恐れているようだった。


.

408 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:03:40 ID:l4xeNaLMO
 

 無実の身で拘束を受けるというのは、実に耐え難いことだ。
 しかし、警察を恨むわけにいかないので、
 彼らは自然とホテルに逆恨みをするようになる。
 そして、評判が下がり始めるというわけだ。

 事件速報により注目を集めることもあるだろうが、
 マイナス効果のほうが大きいのは言うまでもない。

 ホテルにとっては迷惑な話である。
 ホテルにはなんの非もないわけであるからだ。
 支配人が受ける精神ダメージも、さぞ大きいだろう。


( ;`ハ´)「こうなったら年末ジャンボをするアルよ!」

<;ヽ`∀´>「ニダ! 三億円当ててチョーセン国に帰るニダ!」

( `ハ´)「あ?」

<ヽ`∀´>「ニダ?」

( `ハ´)「当然、チューゴク国のほうがいいアル」

<ヽ`∀´>「なにを言うニダ、チョーセン国ニダ」

( `ハ´)「チューゴク国」

<ヽ`∀´>

( `ハ´)

<ヽ`∀´>「どうやら……決戦はすぐのようニダ……」

( `ハ´)「カカカ……チョーセンに挑戦するアル……」

(´・ω・`)「(……割とノーダメージのようだ)」


.

409 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:05:40 ID:l4xeNaLMO
 

 独特な雰囲気を醸し出している二人に、ショボーンが
 近寄っても気づかなかったほどに、二人は白熱していた。
 捕らぬ狸の皮算用、という言葉を教えてやりたかった。

 二人が話し終えるのをのんびり待てるほど時間はないため、あえて二人の間に割り込んで話を止めた。
 少し申し訳ない気もしたが、事件のためだ、と割り切った。
 二人は少し戸惑ったが、警察手帳を鼻先に突きつけると、おとなしくなった。


( ;`ハ´)「こ、今度はなにアルか!」

(´・ω・`)「逃走したのって、例の受付嬢だけではないですよね?」

( `ハ´)「え?」


 ショボーンがやや脅し気味に訊くと、支配人はまの抜けた顔になった。
 繰り返し訊くと、支配人は副支配人に話を振った。
 が、副支配人もわからなかったようで、首を傾げた。

( `ハ´)「実を言うと、さっきまで裏で将棋をしていたアル。見てないアルよ」

<ヽ`∀´>「ウリの勝ちニダよ」

( `ハ´)「まだ終わってないアル」


.

410 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:06:51 ID:l4xeNaLMO
 

(´・ω・`)「では、どなたか首尾を見ていた人に確認をとってください」

( `ハ´)「わかったアル」


 支配人が話を聞きに行って、すぐに戻ってきた。
 顔に焦燥が浮かんでいる。


( ;`ハ´)「仰った通りアル!」

(´・ω・`)「というと?」

( ;`ハ´)「むねおが……ボーイが、逃げ出していたアル!」

<;ヽ`∀´>「むねおもニカ!?」

( ;`ハ´)「そうアル!」

<;ヽ`∀´>「むねおって誰ニダ! スパイニダ!?」

( `ハ´)


(´・ω・`)「(やはり、あのボーイか)」


.

411 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:09:40 ID:l4xeNaLMO
 

 バッグを預けに向かった際、受付嬢の隣にボーイもいた。
 少ししてボーイがどこかに行ってしまい、受付嬢が一人になったところ。
 鈴木ダイオードが、焦って駆けてくるボーイを発見した。

 ボーイが受付嬢と話し、受付嬢も顔を蒼くさせていたのを覚えている。
 あれは、ボーイが三階にいる犯人のもとに
 身代金が届いたという報告をしに行っていたのだろう。
 そして、犯人は被害者となった男を殺した。

 焦ったボーイは、犯人の指示かはわからないが、
 すぐに受付嬢のもとにそのことを知らせに行った。
 そこに鈴木とショボーンが突入し、殺人事件で彼らを
 引きつけている間に、ボーイと受付嬢がバッグを持って逃走した、と。


( ゚д゚)「イツワリさんの推理は合ってましたね」

(´・ω・`)「合ったところで、どうしようもないんだけど」

(‘_L’)「やはり……」

(;´・ω・`)「のわッ! ……フィレンクト警部!」


 ショボーンの背後に接するように、シベリア県警のフィレンクト警部が立っていた。
 息を殺し、気配を感じ取らせないようにいたため、ショボーンは思わず驚いた。

 フィレンクトは笑いながら詫び、そしてすぐに真面目な顔つきに戻った。


.

412 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:12:50 ID:l4xeNaLMO
 

(‘_L’)「シベリアでの殺人事件と、今回の殺人事件。
     同一の者による犯行とみて、大丈夫ですよね」

(´・ω・`)「そうなるでしょう。VIPで起こった事件ですが、
.      シベリアの捜査本部で一緒に扱うことになりますね」

(‘_L’)「仕事が増えて嬉しい悲鳴がでます」

(´・ω・`)「ご迷惑をかけ、申し訳ない。
.      ほんとうは、僕らが今回で止めるべきだったのですが――」


 ショボーンは心の底から申し訳なく思い、頭を下げた。
 それを見て、フィレンクトは手をぶるんぶるんと大袈裟に横に振った。


(‘_L’)「そんな。誘拐犯グループのうち二人が判明しただけで、充分な収穫ですよ」


 フィレンクトは、柄にもなく朗らかに言った。
 普段の彼からは予想もできなさそうなほどのリアクションだ。
 ショボーンはこの真意に気づかなかったようだが、隣で東風は笑っていた。

 ショボーンの持つ苛立ちをなんとかカバーしよう、軽減させてみよう。
 そう思っているのだろうな、と東風がわかるのに、そう時間はかからなかった。

 会って数日しか経ってないショボーンにここまで接する
 フィレンクトは、やはりショボーンを案じているようだ。
 ショボーンが密かに隠し持つカリスマ性に、自然と惹かれているように見えた。


.

413 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:14:58 ID:l4xeNaLMO
 

(;´・ω・`)「そう言ってもらえると、助かりますが……」

(‘_L’)「こちらで出た情報や手がかりは、全部そちらに
     電送しますから、気兼ねなく犯人逮捕に精をだしてください」

(´・ω・`)「……はい」


 ショボーンとフィレンクト。
 という括りでは語弊が生じる。

 VIPとシベリア。
 この共同戦線で捕らえるべき相手は、ただ一人だ。

 伊達つーを誘拐し、御前モカを殺し、
 ラルトロス大橋に爆弾を取り付け、
 またしてもこのホテルで殺人を犯した、一連の事件の主犯格だ。

 誰に言わせても、目にはその人物しか映ってないようなものだった。
 士気が高まり、刑事も皆、それだけを目標に動いてくれている。
 そして、ここに来て警部二人が意気投合し、事件も大詰めを迎えている。
 今からが本番だ、と自分に言い聞かせ、ショボーンはその場を去った。


.

414 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:16:56 ID:l4xeNaLMO
 

 フィレンクトの捜査を軽視しているわけではないが、やはり捜査を一任するのは不安があった。
 己の眼で現場を見、己の掌に手がかりを収めないと、どこか落ち着けないのだ。

 一度目のコンビニでの事件の時と同じように、
 自分たちはすぐに伊達邸に戻って作戦を練り直したいところではあったが、
 そういった不安は拭いきれないため、刑事を残すことにした。

 ショボーン、若手、東風、鈴木、伊達邸にはあと真山田と伊藤が残っている。
 二人。残す人数としては、それがちょうどいいだろう。
 だが、誰を誘拐犯逮捕から抜けさせるかが、決まらなかった。
 決まらなかったというより、迷いが生じたと言っていい。



(´・ω・`)「……鈴木ダイオード、真山田ネーノだな」

( ゚д゚)「はい?」


(´・ω・`)「二人をここに残して、僕らは最終決戦に臨むぞ」




.

415 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:19:36 ID:l4xeNaLMO
 



        −4−



 呼ばれたのは急だった。
 いつまでも続く伊達の話を聞かされ、うんざりしていた時だ。

 最初は、ただの昔話だった。
 孫の生い立ちや、息子夫婦のエピソード。

 息子に嫁いでくる女が美しく、なぜか
 伊達のほうから断ろうとした、という話だけは少し笑えたが。


.

416 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:22:00 ID:l4xeNaLMO
 

 伊達の息子は、あまり誠実な息子ではなかったらしい。
 やはり伊達が富豪なのと、伊達が仕事でよく自宅を空けていたのが問題だったようだ。

 伊達の家内は息子を産んで早々に亡くなり、男手ひとつで育て上げた
 と本人は言うが、メイドなど世話係をつけた程度に過ぎないのだろう。
 もし真っ向から向き合い、つねに全力で子育てに
 励んでいれば、息子がやんちゃな人間になることはないはずだ。

 真山田はそう思っているが、まだ独身である自分がそう言い切れないのは口惜しい。
 とは言っても、自分はまだ二十台だ、まだまだこれからだろう。
 そう信じて、今はただ駆け出し刑事として毎日を過ごしている。

 不思議な話だが、あの捜査一課には、自分、若手、鈴木、伊藤と、同年代が頗る多い。
 いや、同年代ではなく同年齢であることが最近判明した。
 皆が独身であるのも奇妙な一致で、動機は不純だが、
 親睦を深め、チームプレイをよりこなせるようになった。

 既婚者も、年輩で上司のショボーンと東風だけで、
 独身ばかりだから、家庭を顧みる必要もなく凶悪犯にも挑めた。
 その凶悪犯という括りに、今回における誘拐犯も加えられるのは言わずもがなだ。

.

417 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:23:20 ID:l4xeNaLMO
 


( `ー´)「(あれ、警部って独身じゃなかった?)」

( `ー´)「(まあ、いいか)」


 そんな凶悪犯に、対決を挑む。
 ショボーンからの電話で、そう告げられた。

 今回も敗北に終わった戦いだが、警察にとっても誘拐犯にとっても、次の接触が最後だ。
 だからこそ、今から策を講じ、万全の体勢で挑むという。
 その万全には、捜査面での万全も入ってくる訳なので、その捜査に自分が選ばれた。

 ただ、それだけだ。
 ただ、伊達から逃げる口実ができたのが、救いだったのだ。

 当初の、孫に関するエピソードはまだよかった。
 事件につながってくるかもしれないのだから。
 しかし、気がつけば愛犬の話や天気予報の話になっていたという。
 真山田がいやになる理由も、肯けたものだった。


.

418 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:26:28 ID:l4xeNaLMO
 

 伊藤を残し、タクシーを拾った。
 あの時の伊藤の顔を思い出すだけで、申し訳なく
 思う反面、つい噴き出してしまいそうだった。

 タクシーでホテル「ひるがさき」の場所を告げ、走らせてもらった。
 別に走ってもすぐに着けないわけではないが、一刻を争う
 事態だからこそ、迅速さを優先しなければならなかった。



( `ー´)「……雪?」


 乗り始めて気づいたのは、さんさんと雪が降り始めていたことだ。
 牡丹雪がゆっくり落ちてきては、道路の上に乗っかって、溶けてゆく。

 寂しくなった街路樹の枝の上に乗っかった雪は溶けずに、
 更に続けてやってくる同志たちを、迎え入れていた。
 街灯に照らされ、光が各所に散らばってゆく。
 万華鏡でも見ているかのような美しさを、信号待ちの間に見て楽しんでいた。

 シベリアは全面的に寒く、VIPの北部はその弊害に悩まされることが多い。
 シベリアに雪が降る時は、決まってVIPにも降雪が襲いかかるのだ。
 今のような優しい雪なら構わないが、酷い時はとことん過酷な思いを強いられる。

 もとより雪の経験が浅い真山田は、既に雪化粧をはじめている歩道を見て、ぞっと寒気を感じた。
 この寒気が、事件によって起こる悪寒に変わらぬことを祈り、そっと目を瞑った。
 考え事をするのではない。眠いのだ。


.

419 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:28:16 ID:l4xeNaLMO
 




(´゚ω゚`)『寝るなぁぁぁぁぁぁぁっ!!
.      死ぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉッぉお!!』




( ;`ー´)「っ!!」

[ Д`]「どうしたんだいあんちゃん」


 瞼を下ろし、俯いた。
 そして、意識が遙か彼方に飛んでゆく瞬間だった。

 耳のそばで、ショボーンに怒鳴られる夢をみたのだ。
 かなり現実味を帯びていて、ほんとうに怒鳴られたようだった。

 がばっと起き、しばらく無心で居たあと、自分の脈を確かめた。
 運転手も驚いたようで、真山田の様子を気にした。


.

420 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:29:46 ID:l4xeNaLMO
 

( ;`ー´)「なんでもないっす」

[ Д`]「寝るのもいんけどな、あんさの目的地、もう着くぜ」

( ;`ー´)「どもっす」


 訛りの強い運転手が言うので、前方をみると大きなホテルが見えた。
 近いとは言っていたが、ほんとうにすぐだったとは。
 渋滞気味だったが、十分弱で到着していた。

 しかし、嫌な夢を見た。
 ショボーンはあらゆる意味においてコワいのだ。
 真山田にとって、プライベートでは一番会いたくない人物である。

 また、一瞬しか寝てないはずなのに、全身が汗塗れである。
 いま外にでると、間違いなく風邪をひきそうだった。

 信号を抜けて、ホテルの前で下ろしてもらった。
 足を地につけた途端、自分を寒さが襲いかかった。
 ハンカチでなるべく汗を拭ったが、それでも寒かった。

 数段ある階段を上り玄関に向かうと、コートを羽織った三人が立っていた。
 遠目でもわかる。ショボーン、若手、東風だ。


.

421 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:31:08 ID:l4xeNaLMO
 

( `ー´)「お疲れ様です」


 開口一番にそう言うと、ショボーンも返してくれた。
 顔を見た瞬間、夢が脳内で復元され、顔がひきつった。
 ショボーンはそれを見逃さなかったようだ。


(´・ω・`)「失礼なやつだな、人の顔をみて」

( ;`ー´)「いや、いざ現場を前にすると緊張して」

(´・ω・`)「ふーん」


 「それならいいんだけど」とだけ言い、早速用件を述べ始めた。
 事件の概要とフィレンクト警部がいることだけ、簡潔に伝えた。

 真山田たちには、事情聴取、聞き込み、目撃証人の捜索と、残務は山ほど残っている。
 全部をシベリアに委せるのも悪く思ったのだ。
 なにより、シベリアからはフィレンクトともう一人の刑事しか来ていない。


( `ー´)「ダイオード、ですか」

(´・ω・`)「ん? 嫌か?」


 ショボーンは、意地悪ではなく純粋に訊いた。
 慌てて真山田は首を振った。

( `ー´)「ミルナさんじゃないんだなって」

( ゚д゚)「?」


.

422 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:33:30 ID:l4xeNaLMO
 

 捜査と言えば、東風の十八番である。
 嫌煙者の家のトイレから煙草の吸い殻を見つけるし、
 こたつの脚の下からシールを見つけたりもする。
 誰もが目をつけないようなところに率先して出向き、成果を挙げるのがこの男なのだ。

 千里眼の異名は伊達じゃあない。
 それなのに東風ではなく自分を指名したのか、わからなかったのだ。


(´・ω・`)「なに、参謀だ。それに、あんたは物を探すのが苦手じゃないか」


 核心を突かれた。
 反論のしようがない事実を言われては、どうしようもないと思った。


( `ー´)「まあ、微力を尽くします」

(´・ω・`)「頼んだぞ」


 ショボーンは手をぶらぶら振りながら、ホテルの敷地からでた。
 覆面パトカーに乗って出て行ったのを見送り、真山田はホテルに入っていった。
 どうやら、受付嬢がボーイと一緒に逃げ出したのだという。

 すると、いまフロントには誰がいるのか、気になった。
 可愛い娘だったらいいのに、と胸を膨らませて。


 受付は――


<;ヽ`∀´>「アイゴー、申し訳ないニダ! まだ帰れないニダよ!」

( `ー´)「なんだあのムサいの」



 嬢ですらなかった。



.

423 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:35:49 ID:l4xeNaLMO
 



        −5−



 雪が積もってきたようだ。
 穏やかな牡丹雪だったのが一転、風音が混じって勢いも増してきた。
 そして、雪煙が見えてきていた。
 音だけでなく、実際に風が強く吹き始めたのだ。

 吹いたのが車に乗り込んでからでよかった。
 とは言っても、十分弱しかこの暖房にはあたれないが。
 事件の解決次第、温かいものを頬張りたいが、なにを食そう。

 呑気にも、若手はそんな風に思考を巡らせていた。
 しかし、それも仕方がなかった。
 多忙に多忙を重ねる責務を背負っている以上、心安らぐ時間は僅かしかないのだ。
 こうした、移動の時間の間だけでもリラックスしないと、過労で倒れては元も子もない。


( <●><●>)「(結局は事件のことを考えてしまうわけですが)」


.

424 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:38:44 ID:l4xeNaLMO
 

 いつかは自然と事件のことを考えるでだろう事は、予測ができていた。
 そもそも、刑事になってから、無駄に一度も休んでいない。
 有給休暇が溜まりに溜まっていると聞いたが、使う予定もない。
 気がつけば、起きているうちは常に仕事のことしか考えないようになっていたのだ。


( <●><●>)「(あのときのしなやかな動き……)」

 思考は、三十分ほど前。
 あの、若手が気を失う直前まで遡っていた。

 ホテル前の電灯に照らされ、影だけが若手の網膜に映し出されていた。
 逆光だったため、姿や顔までは視認できなかった。
 しかし、動きや身体の形状を見るだけで、充分だ。

 細い脚が伸びていた。
 ただ、これだけのことが判れば、そいつが
 いったい誰なのか、大凡の見当はついた。


.

425 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:41:04 ID:l4xeNaLMO
 

( <●><●>)「(誘拐犯は、少なくとも四人。
          うち一人が車掌で、残りが今し方ホテルを出た者たちか)」


 その三人のうち、二人の情報は掴めている。
 一人は受付嬢で、住所から名前から戸籍から全てを調べ上げた。

 もう一人のボーイも、同様である。
 ここから洗えないこともないが、御前モカの前例を
 踏まえると、洗ってもなにもでない気がした。


 そして、三人の最後の一人。
 ショボーンたちはまだ掴めてないだろう。
 しかし、若手だけは薄ら人格が見えてきていた。

 というのも、その最後の一人は殺人犯だ。
 その殺人犯を、自分は一瞬だが見た。
 それで、わかったことがある。



( <●><●>)「茶髪の女性……ですね」


.

426 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:43:20 ID:l4xeNaLMO
 

 すっかり静かだった車内で、若手は言った。
 普段は、推理を繰り広げたり犯人の動向を
 予測したりするのだが、いまはそうではなかった。
 疲れが、今頃になって襲いかかってきたのかもしれない。

 やはり、というわけではないが、聞き逃したのか、
 将又言葉の真意を汲み取れなかったのか、助手席にいたショボーンは聞き返した。


(´・ω・`)「なにがだ?」

( <●><●>)「いまになって漸く思い出しましたが」

( <●><●>)「例の殺人犯です」

(´・ω・`)「例の、というとホテルの」

( <●><●>)「ええ」



 若手は、目を輝かせた。
 普段、彼が自信に満ちている時は、決まって目を見れば判る。
 目は口ほどに物を言うというが、若手の場合は、目は口以上によくしゃべる、と言ったところだった。

 平静を保てない時に驚愕すれば、たちまち白眼を剥く。
 逆に、犯人を追い詰める時なんかは、目の奥底の輝きが違う。
 黒い水晶が一際輝くので、ショボーンは期待した。


.

427 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:45:49 ID:l4xeNaLMO
 

 ショボーンだけでなく、ほかの誰もが知り得ない情報を若手が掴んでいる。
 若手だけが、犯人を見ることのできた人物なのだ。


( <●><●>)「部屋から飛び出したのが殺人犯で間違いない
         なら、という仮定の上で成り立つのですが」

( ゚д゚)「間違いない。そいつが犯人だ」


 と、後部座席にいる東風が言った。
 犯人をみることは叶わなかったのにそう言い切れるのは、
 自分があの部屋を捜査したことによって、その確証を得ているからだ。

 確かに、手すりにはなにやら擦れた後が残っていた。


( <●><●>)「でしたら、茶髪の女性が殺人犯です」

(´・ω・`)「根拠は」

( <●><●>)「自信で言えば五分五分なのですが、脚が女性らしく
         細かったのです。スリムだったと記憶しております」

(´・ω・`)「まあ、それだけじゃあ根拠としては弱いけど……」

( ゚д゚)「現状で、その条件に当てはまるのは、茶髪の女しかいないですね」


 絶対的自信があるわけではない、と言ったが、実際はそうは思っていなかった。
 論理的思考を排除し、直感だけで物を言うなら、女性で間違いないと言えたのだ。
 だが、そんな当てずっぽうがショボーンに通じるはずはない。
 だから、若手はあえて自信はないと言ったのだ。


.

428 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:47:46 ID:l4xeNaLMO
 

( <●><●>)「これで、誘拐犯は四人ですね。
         車掌、茶髪の女性、受付嬢にボーイ」

( ゚д゚)「……?」


 東風は疑問符を浮かべた。
 若手の発言を変に思ったのだ。

 すかさずショボーンは言及した。


(´・ω・`)「ワカッテマス、お前わからないのか?」

( <●><●>)「大丈夫です。警部の仰りたいことはわかってます」




( <●><●>)「車掌は、あの時殺されていた被害者だ……そうでしょ?」

( ゚д゚)「ッ!」


 東風は、すぐに身を乗り出した。
 ショボーンの顔色を窺うも、否定するような様子ではなかった。
 とすると、今の言葉は真実なのか。
 唖然とする東風とは対照的に、ショボーンは口角をつり上げた。


(´・ω・`)「やはり、気づいていたか」

( <●><●>)「当然です。服装には多少惑わされましたが……」


 被害者の服装は、どう見ても車掌の制服ではなかった。
 普通のスーツだったため、最初はぱっとしなかったのだ。
 しかし、顔を見ると、若手は驚いたことだろう。

 まさか、ここで対面するとは。
 そして、

(´・ω・`)「まさか、車掌長が誘拐犯の一人だったとはな……」



.

429 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:50:11 ID:l4xeNaLMO
 

 ショボーンも多少は疑っていた。
 関ヶ原デルタが、誘拐グループの一人ではないか、と。
 だが、爆弾の存在を知らせたのも彼で、荷物車両を直接案内してくれたのも彼だ。
 そして、大神フォックス総裁の言動からすると、彼が関ヶ原を任命したと思われる。

 疑わないほうがいいだろう、と油断していた。
 若手がそのことに言及しようとしたが、丁度その時に伊達邸についた。

 車を停め、伊達邸に入った。
 やはり、外はとんでもなく寒くなっていた。
 石畳には早速雪が積もっていて、足を滑らせそうだった。

 伊藤が出迎え、首尾を伝えた。
 ショボーンがふと気にかかったのが、伊藤がぐったりしていたのだ。
 どうしたのかと聞くと、伊達の長話に付き合わされたと言っていた。
 お気の毒に、とショボーンは胸中で呟いた。


|(●),  、(●)、|「どうだったかね」

 伊達は、当初と比べ、ずいぶんと平静を保っていた。
 事件当初は焦りに焦っていたのだが、成長したようだ。
 慣れた、と言っては失礼な気もするが、実際そうなのだろう。


.

430 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:52:51 ID:l4xeNaLMO
 

|(●),  、(●)、|「しかし、その顔を見ればだいたいは察しがつくよ」

(´・ω・`)「チカラが及びませんでした」


 ショボーンは深く頭を下げた。
 首尾の報告に近い遁辞を弄しようとしたが、すぐに口を噤んだ。
 今更なにを言っても、死んだ者は蘇らないし、奪われた金は返ってこない。
 唯一返ってくる虚勢のためだけに、徒に自尊心を傷つけたくなかったのだ。


|(●),  、(●)、|「まあ、あと一回チャンスはあるのだろう? 私はなにも口出しできない。
            後方支援は私に委せて、思う存分誘拐犯を追ってくれ」

(´・ω・`)「………はい」


 ショボーンの言霊に覇気がみられなかったのは、決して三連敗を喫したからではない。
 伊達の言葉で、思い出した事があったのだ。

 まだ、機会がある、ということだ。
 至極当然のことを、忘れていた。


.

431 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:54:50 ID:l4xeNaLMO
 

 四つに分けられた身代金、その三つは既に奪われた。
 どれも別個の手段で、しかも何らかの事件を盾に。
 四度目の駆け引きで、更なる犠牲が生まれるのが、
 想像するだけで、もう耐えられなかったのだ。

 今度は、部隊を三つに分けて挑むよりほかに仕方がない。
 一部隊を監視に、一部隊をカムフラージュになる事件の処理に、
 そして、最後の一部隊で、誘拐犯と対決。

 どうしてこの策が最後まで浮かばなかったのか、自分で自分を責めたかった。
 夜が明けた頃に帰還するであろう鈴木と真山田をくわえると、丁度六人となる。
 三部隊で挑むのが確実で、最善だった。

 やはり格調高い電話がぽつんと置かれているテーブルに、伊達が紅茶を用意した。
 だが、ショボーンだけは呑む気にはなれなかった。


( <●><●>)「次で最後、ですか」

 カップのなかに映る自分の顔を乱して、若手が呟いた。
 思えば、三連敗しているなかで、最後の一戦だけ
 勝たなければならない事態へと発展しているのだった。


.

432 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:58:09 ID:l4xeNaLMO
 

 策は、前述した通りあった。
 だが、誘拐犯は特例なく、決まってこちらの思考を
 遙かに超越するような奇策で挑んでくるのだ。

 正攻法で攻めて、勝ち目などはたしてあるのか。
 それは、考えたくなかった。
 考えるよりも、信じるべきだ。
 最後に勝つのは、必ず自分たちである、と。

 最初に若手に言った言葉を、気がつけば自分が噛みしめていた。



(´・ω・`)「ワカッテマス、さっきの続きだけど」

( <●><●>)「はい」


 カップをテーブルの上に置いて、向き合った。
 緊張と不安が身体を形成しているショボーンと、
 顔に余裕の色が微かにだが見られる若手とで、随分と空気が違っていた。

 二つのオーラの混じった中間色が広がっていくも、
 ショボーンのオーラが若手を侵蝕していき、
 ショボーンの色に染まりきったところで、彼は口を開いた。



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433 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:59:47 ID:l4xeNaLMO
 





(´・ω・`)「根城を、突き止める必要がある」










  イツワリ警部の事件簿
  File.2

 (´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです


  第七章
   「 霧が晴れる 」

     おしまい



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