- 272 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:10:33
ID:rjvPOAeIO
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第五章
「 浮かばない犯人像 」
−1−
午後四時頃、真山田と伊藤は、すっかり途方に暮れていた。
リコという御前をよく知る人物こそ見つけたものの、そこから別の人のつながりは見いだせなかった。
小学校時代の同級生で、A型で、恐らくだが茶色い長髪の男かセミロングの女、
また一週間という期間になんらかのかたちでアクションがあった人物
こう言えば絞れてきたほうだとは思われるのだが、実際はそうでもなかったのだ。
御前の小学校の同級生だけで百を越しており、髪の長い生徒は四割ほど、うち茶髪は七十パーセントほどだった。
三十人ほどまでには絞るぶんには絞れたのだが、そこから先がどん詰まりだった。
コンタクトをとれる人から電話で片っ端からかけていくも、引っ越し等して
元の住所に居ない人物ばかりで、つながる人にはアリバイが成立している者が多かった。
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- 273 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:14:37
ID:rjvPOAeIO
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( `ー´)「今月の十五日、あなたはどこにいましたか?」
『息子を幼稚園に送り出したあと、家で赤ちゃんの世話をして、昼頃はお隣さんとおしゃべりしていましたわ』
( `ー´)「晩はどうでした?」
『息子を引き取って、あとは家で家事をしていましたわ。
七時過ぎに主人が帰宅しましたし。
主人や息子に証言させましょうか?』
( ;`ー´)「あ、いえ、大丈夫です」
このように、条件に当てはまろうが、事件当時犯行が不可能であるとみていい人ばかりだった。
というのも、この日はウィークデイなのだ。
ほとんどの者が出勤しているためアリバイがあり、既婚の女は育児や家事がある。
子供の居ない女もいたが、宅配便を受け取っていたりと、なんらかの形でアリバイが成立してしまっていた。
伊藤は、若手と一緒に中学時代の友人を洗っていったが、結果は一緒だった。
それに、小中ともに御前と学校を共にした者も多く、真山田が報告すると、伊藤は溜息をついた。
( `ー´)「こっちは、おそらく全員シロだ」
『こっちもよ。残ってるのは小中一緒だった人たちだけだし、洗うだけ無駄ね』
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- 274 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:17:42
ID:rjvPOAeIO
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( `ー´)「ワカッテマスはどうだ?」
『近所の塾やスイミングスクールとかを廻って、モカ君がいたかを検証してるみたい』
( `ー´)「……いたか?」
『まさか』
( `ー´)「そもそも、引っ越ししてない人が誘拐犯の一味である可能性なんて、限りなく低いんじゃねーの?」
『それを言っちゃだめじゃない』
( `ー´)「ホシが同級生なら、電話が通じなかった人に決まってるぜ」
『とは言っても、全部洗うわけにはいかないじゃん。時間も限られてるんだから』
( `ー´)「わかった、わかった」
真山田は、伊藤を宥めて電話をきった。
どうも、焦りを感じてきているな、と自分で思っていた。
それは、伊藤もまったく同じのようだった。
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- 275 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:24:05
ID:rjvPOAeIO
-
伊藤は若手と一緒に行動しているが、その内容は
若手の指示で伊藤も塾などを廻る、というものだ。
しかし、当然ながらそう簡単には見つからなかった。
御前の担任だった教師に聞いてみても、御前がそういう習い事をしてたという情報は得られなかった。
それを知って尚聞き込みを続ける以上、若手は藁をも掴む思いで、とにかく聞き込みを続けていると思えた。
その仕事熱心な態度を、真山田は高く評価した。
しかし一方で、それは無駄な足掻きだ、と鼻で笑ったりもした。
( `ー´)「さて」
コーヒーを呑んで、真山田は立ち上がった。
無人の捜査一課で、軽く身体をほぐした。
電話をし続けていたので、身体が硬くなっていたのだ。
すると、捜査一課に電話がかかってきた。
真山田は驚いて、すぐに受話器をとった。
( `ー´)「はい、捜査一課」
『僕だ』
( `ー´)「警部。どうしましたか」
相手は、上司のショボーンだった。
彼が、真山田の携帯電話ではなく、捜査一課に電話したことが緊急事態の存在を臭わせた。
実際に、ショボーンの声は荒かった。
真山田も自然と緊張感が高まってきた。
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- 276 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:30:08
ID:rjvPOAeIO
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『手が空いてる奴はいるか?』
( `ー´)「ぼくとペニーは空いてますね」
『よし。なら、二人でいますぐオオカミ鉄道に向かって、
今日の「あさやけ4号」に同乗している車掌を全員調べてこい』
( `ー´)「ワカッテマスも連れていきますか?」
『二人で充分だろ。いいから急げ、時間がないぞ』
( ;`ー´)「はッ」
ショボーンの怒声が耳に突き刺さり、真山田は慌てて電話をきった。
その勢いで捜査一課を飛び出し、走りながら伊藤に電話をした。
真山田の落ち着きのない声を聞き、伊藤もすぐに真山田と合流することになった。
程なくして、オオカミ鉄道の前で落ち合った。
すぐに『あさやけ4号』に同乗している車掌のリストをつくってもらった。
オオカミ鉄道の人事部の人に事情を説明するのが、少々手間取ったが。
リストのなかには、関ヶ原デルタの名前も書かれていた。
その下に、近城、井蓋と、他二名の名前も書かれていた。
十一両編成で、特急列車に寝台車両の加わった異色の列車のためか、車掌は複数人いた。
業務を分担するつもりなのだろう。
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- 277 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:34:26
ID:rjvPOAeIO
-
すると、真山田と伊藤の存在に気づき、大神フォックス総裁が二人を呼んだ。
なんだろうと思って、駆け足で総裁の待つ部屋に向かった。
爪'ー`)y‐「きたか」
( `ー´)「VIP県警の真山田と、伊藤です」
伊藤は軽く頭をさげた。
大神は、相変わらずキセルを片手にしている。
落ち着きがなく、うろちょろしていた。
彼が、真山田と伊藤に座るよう促して、本題に入った。
爪'ー`)y‐「ショボーン警部の部下だね?」
( `ー´)「はい」
爪'ー`)y‐「で、例の列車の車掌を調べている、と聞いたのだがね」
( `ー´)「はい」
爪'ー`)y‐「なぜだ? なにか進展があったのかい?」
大神に訊かれて、真山田もはじめて気がついた。
なぜ車掌を調べるのか、まだショボーンに聞かされてなかったのを思い出したのだ。
( `ー´)「なんで?」
('、`*川「なんで私に聞くのよ」
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- 278 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:38:24
ID:rjvPOAeIO
-
爪'ー`)y‐「電話でいいから、聞いてくれないか」
( `ー´)「(怒らないかなあ)」
ショボーンは熱り立っている。
いま取り込み中だったなら、間違いなく怒るだろう。
おそるおそる、ショボーンに電話をかけた。
すぐにショボーンは応じた。
『どうした』
( `ー´)「オオカミ鉄道の総裁さんが、どうして車掌を調べるのか、と」
『かわってくれ』
( `ー´)「あ、はい」
真山田は、言われるがまま大神に電話を託した。
電話を受け渡す時にも感じたが、やはり大神はなにかを恐れているようだった。
どこか、会話中の仕草にも挙動不審な姿が見られるのだ。
大神が電話をしている間、彼は肯いたりしていると思いきや、いきなり「えッ」と言った。
そして電話をきり、大神は説明した。
爪'ー`)y‐「消えた身代金の行方が、わかったそうじゃないか」
( `ー´)「そうなんですか。具体的にはどこに……」
爪'ー`)y‐「それは自分で聞きたまえ」
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- 279 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:42:37
ID:rjvPOAeIO
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( `ー´)「……?」
爪'ー`)y‐「まあそういうことだから」
爪'ー`)y‐「急いでいるところ止めてすまなかったね。行っていいよ」
( ;`ー´)「は、はッ! 失礼します」
真山田は、大神の持つ掴みづらい性格が苦手だった。
どう応対すればいいかわからず、戸惑ってしまう。
大神に追いやられるがまま、真山田と伊藤はオオカミ鉄道を出た。
伊藤は渡されたリストをくしゃっと握り、怒りを顕わにしていた。
('、`*川「なにあの人。ムカつくわあ」
( `ー´)「警部と話すときはへこへこしてたのにな」
('、`*川「噂じゃあ、オオカミ鉄道の総裁と言えば、金と権力にめっぽう弱いそうね」
( `ー´)「買収される噂もあるしな」
('、`*川「県警の警部と言えば、やっぱ権力ってあるのかな」
( `ー´)「あの人に限ってそれは」
想像してみて、真山田は苦笑した。
と言う真山田も、いつかは警部となって、部下をあごで使う日を夢見ている。
いや、見ていた。
実際に刑事部に配属され、上司の姿を見ていると、あごで使う様子なんて、見たこともなかったのだ。
寧ろ、我先に、と現場に飛び、誰よりも一番がんばっているように見えている。
ショボーン警部には、権力ではなくて威厳があるのではないか、と思っていた。
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- 280 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:46:40
ID:rjvPOAeIO
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( `ー´)「噂じゃあ、警部って、刑事なりたての頃は相当な泣き虫だったらしいぜ」
('、`*川「まさかぁ。さすがにないわ……」
今度は、伊藤が苦笑した。
ショボーンは、自分の過去を語りたがらない。
いつか、暇な時に彼の過去を聞いてみたいという思いは、
おそらく捜査一課の刑事の皆が抱いているに違いない。
( `ー´)「とにかく、この近城って人から洗っていくか」
('、`*川「家は、シベリアの県庁の近くみたいね」
( `ー´)「電話でいいじゃん」
リストを持って、真山田と伊藤はシベリアの捜査本部に戻ることにした。
家族の人にでも電話で話を聞き、有力な情報を握っていそうなら
その都度実際に会って訊く、この方針で進めることにしたようだ。
捜査本部には、もうショボーンと東風はいなかった。
どこに向かったのか最初はわからなかったが、すぐに『あさやけ4号』だろう、と見当がついた。
消えた、と言われている、身代金のルートがわかったらしいからだ。
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- 281 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:56:19
ID:rjvPOAeIO
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−2−
ショボーンと東風は、カラスコマチ駅に向かっていた。
『あさやけ4号』の次に停まる駅が、一七時五一分に着くカラスコマチ駅だったからだ。
車だと追いつきそうになかったので、一六時四二分発の快速列車『フェンリル』を使うことにした。
レックウ・ザー線をノンストップで走り、一七時三二分にカラスコマチ駅に着く。
先回りする事で『あさやけ4号』に乗り込み、無理やり捜査をするつもりだった。
捜査令状は既にもらっている。
一六時四二分。
アブソルート駅から、快速列車『フェンリル』はゆっくりカラスコマチ駅に向けて走り出した。
空いているという理由で、グリーン車に乗り込んだ。
外の景色を一望できる、おおきな窓がまず目に飛び込んできた。
シベリアの雄大な景色を一望できるのが、この快速列車『フェンリル』が人気である理由と聞く。
そのためか、客足の遠のくウィークデイでも、朝か夕方以降なら四十パーセントほどの乗車率はある。
グリーン車でこの数値なのだから、普通車だと更に高くなることだろう。
ショボーンも東風も、この薄暗くて神秘的なオーラを醸し出す景色を楽しみたいのだが、
二人とも景色に見とれる素振りなど全く見せず、すぐに会議をはじめた。
先程買った茶は、二つとも既に半分も呑まれていた。
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- 282 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:03:02
ID:rjvPOAeIO
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( ゚д゚)「身代金の消えたルートというのは、なんなのですか?」
(´・ω・`)「現場を見ない以上、断言はできないが――」
意気揚々と捜査に向かったものの、ここで言葉を濁した。
この男にしては珍しく、推理にあまり自信がないようだった。
(´・ω・`)「あの列車は十一両編成だが、客車は十号車までなんだ。
. 残りの一両は、荷物とかを積んでる車両なんだよ」
( ゚д゚)「なるほど、わかりましたよ」
ショボーンの言いたい事を汲み取り、東風は得意げに言った。
ショボーンは軽く笑った。
(´・ω・`)「ああ、そうだ。
. 犯人は爆弾騒動を利用し、ボストンバッグを十一号車に運んだんだ。
. あの車両には、一般人が入らないよう錠が掛けられている。
. そこで、鍵を開けて、一旦なかに放り込んだんだ。
. そうすれば、必要な時間は、鍵を開ける僅か数秒だけだからね」
( ゚д゚)「つまり、車掌がその立場を利用して運んだのですね!」
(´・ω・`)「何食わぬ顔して持ち場に戻ったあとは、隙を見るなり乗務と併せて
. 荷物車両の窓からどこかに落とす。外で待機していた仲間が、それを回収した」
(´・ω・`)「これが、身代金の消えたルートだよ」
.
- 283 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:08:24
ID:rjvPOAeIO
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推理を展開し、ショボーンはペットボトルに口をつけた。
喉が渇いていたようで、一気に中身が減った。
( ゚д゚)「充分あり得ますね。というより、それ以外には見当すらつきません」
(´・ω・`)「僕は八号車でじっと待っていたが、
. ボストンバッグを持ってない人には特に注意せず、ほとんどスルーしていた。
. 別に、車両から手ぶらの車掌がでてきても、なんとも思わないからね。
. だから、誰がこのトリックで身代金を持ち出したか、そこまでは見てないからわからない」
( ゚д゚)「だから、真山田たちに調べさせるのですね」
(´・ω・`)「もし推理が当たっていれば、三人のうち一人は、モカとつながりがある。
. そいつを捕まえて、尋問してみせるさ。まあ、こいつは一種の賭けだけどね」
ショボーンは、やや自嘲ぎみに笑った。
というのも、ショボーンのこの考えは、現時点では根拠のない推理でしかないのだ。
実際に捜査して、なにか痕跡が浮かんできたらいいものなのだが、
さすがに、誘拐犯もそう簡単に足跡を残してくれるはずもない。
.
- 284 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:13:09
ID:rjvPOAeIO
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所轄に協力を要請しているので、『あさやけ4号』が
カラスコマチ駅に着く頃には、あちらの鑑識も飛んでくるだろう。
とにかく、そこで、十一号車が身代金の通ったルートだった
という、それらしい痕跡を見つけ出せばいいのだ。
犯人の指紋なり、髪の毛なり、札の一枚なりと。
ただ、ショボーンには、ひとつ危惧していることがあった。
(´・ω・`)「問題は、僕もワカッテマスも、十一号車の内部を知らない。
. もしかしたら、ふつうの貨車で、窓なんてないのかもしれないんだ。
. 窓や外へつながるルートがなければ、このトリックは瞬く間に崩れる」
( ゚д゚)「でも、外装はほかの車両と一緒なのでしょう?」
(´・ω・`)「まあね。それに、あの荷物車両は、聞いた話だと
. 劇団や映画撮影で多くの機材やセットが必要な際、それらを格安な値段で運びますよ、
. というオオカミ鉄道の新しいサービスらしいんだ。
. 如何せん、普及したばかりのサービスだから、僕もよく知らない」
( ゚д゚)「ニュー速鉄道との差別化、進んでますね」
と、東風はまるで他人事のように、笑った。
呑気なものだな、とショボーンも微笑した。
(´・ω・`)「指紋が残っていりゃ、最高なんだけど……」
( ゚д゚)「車掌は、手袋があります」
(´・ω・`)「口惜しいな」
.
- 285 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:19:45
ID:rjvPOAeIO
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時刻表どおりの一七時三二分に、快速列車『フェンリル』はカラスコマチ駅についた。
ここから、シベリアよりも更に寒いアルプスのほうへ走ってゆく列車に乗り継ぎができる。
クロコーダイル駅やカラスコマチ駅は、ひとつの区切りなのだ。
カラスコマチ駅にも交通網はびっしり敷かれており、おかげで繁華街もにぎわっているようである。
ショボーンと東風の間には、その着く直前まで、緊張の空気が漂っていた。
充分カラスコマチ駅に間に合うのだが、わかっていてもショボーンはそわそわしていた。
いま、こうして呑気にしている間にも、証拠が隠滅されているかもしれない、
そう思うと、やはりいてもたってもいられなかったのだ。
カラスコマチ駅に着くと、地元の刑事一人や幾人の鑑識と合流した。
刑事は、既に五十ほどは喰っているであろう男だった。
襟が立っていて、容姿的に、彼には刑事の風格が備わっていなかった。
刑事は犬飼(いぬかい)と名乗った。
ほどなくして、問題の『あさやけ4号』が到着した。
搭乗口から乗客が数人降りたのを見計らって、ショボーンたちは列車に乗り込んだ。
当然乗客は戸惑ったが、それ以上に車掌長のデルタが困惑していた。
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- 286 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:25:44
ID:rjvPOAeIO
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( ;゙ゞ)「ちょ、ちょっとショボーンさん!」
(´・ω・`)「令状が出た。調べさせてもらうぞ」
ショボーンが強気に出ると、関ヶ原もムッとした顔つきになった。
出て行くよう促すが、ショボーンはまるで応えず、まっすぐ最後尾のほうへ向かっていった。
( ;゙ゞ)「困りますよ。捜査は運行終了してから、と頼んでたでしょ!」
(´・ω・`)「それじゃあ遅いんだ」
( ゙ゞ)「それに、あなたがたは……」
と、関ヶ原は犬飼と東風のほうを見て言った。
慌てて警察手帳を取り出して、名乗った。
( ゚д゚)「VIP県警の東風です」
フ,,´仝`)「署の犬飼と、こいつらはうちの鑑識です」
( ;゙ゞ)「とにかく、業務妨害で訴えますよ!」
(´・ω・`)「問題ない、うちらが調べるのは十一号車です。
. 運行業務の妨げになるような事はしませんから」
( ゙ゞ)「……え、あそこ?」
予想外の返答に、関ヶ原は声が上擦った。
ショボーンに頼まれ、そそくさと鍵を取りにいき、やがて十一号車へと案内してくれた。
.
- 287 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:30:17
ID:rjvPOAeIO
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(´・ω・`)「広いな」
( ゙ゞ)「ここは、『列車業界初のサービス』として売り出しはじめた、
団体客の荷物運搬を手伝う車両なんですよ。
修学旅行シーズンなんかは、重宝されましたね」
全面コンクリートで覆われた寒い空間に、ぽつぽつとシートをかぶされた大きな何かが点在していた。
とある劇団のセットのひとつのようだが、シートの上からではそれがなにか把握できない。
シートの上から、その劇団の名前を書いた紙が貼られており、
よその荷物と間違えないよう配慮する姿勢がうかがえた。
だが、さほど荷物は置かれてなかったので、ショボーンの
言うように、ここはがらんとして、通常より広く見えた。
説明の途中で、関ヶ原は肩を落とした。
( ゙ゞ)「乗客が減ってきてるから、別方面で稼いでいこうとしたいんですがね」
(´・ω・`)「今はジャンボジェットを使う時代ですからね」
( ゙ゞ)「ええ」
二人が話していると、犬飼がのそっと顔を出した。
渋い声で、ショボーンに話しかけた。
フ,,´仝`)「ショボーンさん、荷物付近も調べさせますかな」
(´・ω・`)「ああ、頼みます」
.
- 288 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:32:58
ID:rjvPOAeIO
-
ショボーンが肯くと、鑑識があちらこちらに散らばっていった。
ここは業者の人間や車掌がうろつく場所のため、彼らの痕跡が残っていても、問題はない。
一方で、ショボーンの推理では、車掌のひとりが誘拐犯のひとりと考えている。
だから、なにが出ようが、ここから犯人の痕跡は追えないが、
もし誘拐犯の仲間がここに潜んでいたら、その痕跡は残っているかもしれない。
ショボーンは、そう、考えていた。
(´・ω・`)「お?」
( ゙ゞ)「どうしました」
ショボーンが車内を隅々まで観察していると、電話があることに気がついた。
近くにホワイトボードがあって、顧客の連絡先と名前を控えていた。
(´・ω・`)「あの電話、外部にはつながるのですね?」
( ゙ゞ)「ええ。そのための電話ですから」
(´・ω・`)「指紋を検出でき次第、借りていいですかな?」
( ゙ゞ)「いいですよ。十円くださいね」
(;´・ω・`)「あ、はい」
.
- 289 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:37:06
ID:rjvPOAeIO
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しかし、業者も顧客も車掌も、皆軍手や手袋をはめていると思われる。
指紋が出てくることはないだろう、とショボーンは楽観視していた。
ところが、鑑識のひとりが、すました顔でショボーンに結果を報告した。
指紋が検出された、ということだった。
この知らせに、ショボーンは「おや?」と思った。
鑑識は、かまわず報告を続ける。
(`・д・)ゞ「この指紋ですが――」
すると、鑑識が言い掛けたのを、後ろから関ヶ原が止めた。
顔をひょっこりと出して、ショボーンに歩み寄った。
あっけらかんとした顔で、詰め寄る。
( ゙ゞ)「すみません、指紋ですが、おそらく僕です」
(´・ω・`)「え?」
ふぬけた表情をしてしまった。
なぜ関ヶ原の指紋なのか、というのと同時に、
関ヶ原が如何にも堂々としており、妙に感じたからだ。
(`・д・)ゞ「――のようです」
( ゙ゞ)「荷物を運び終えて、暑かったから手袋をとったんです。
少しして、電話の用を思い出したので、そのままで電話に触れて。
捜査を錯乱させたようで、申し訳ない」
(´・ω・`)「はぁ」
.
- 290 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:40:45
ID:rjvPOAeIO
-
ショボーンはがっかりした。
一瞬、犯人の残した足跡だと期待したのだ。
ところが、ついていた指紋の主が関ヶ原であるのなら、別段咎めることもない。
部外者のものなら、と一瞬した臨みが、儚くも手前で崩れ去る。
捜査とはそういうものだ、とショボーンは言う。
指紋の照合を委せ、電話を調べ終えたのを見計らって、本部に電話をかけた。
事務的な内容を一方的に報告するもので、ショボーンの口調もえらく淡泊だった。
(´・ω・`)「では」
一方的に話し続けて疲れたのか、ショボーンは電話を切ってからため息をついた。
どうも、事務仕事のようなかたい仕事は向いていない。
根っからの刑事肌で、捜査が一番だいすきなのだ、と自分でもよくわかっている。
犬飼の鑑識も徐々に捜査を切り上げ、ショボーンの指示待ちとなる者が増えてきた。
ショボーンが、自分が電話している間の捜査の進展を東風に聞くと、残念なものだった。
( ゚д゚)「口惜しいですが、なにも残ってません」
(´・ω・`)「くそ」
短く、ぽつんと放たれた言葉だった。
だがそれだけで、ショボーンに積もっている苛立ちの一角は見ることができた気がした。
.
- 291 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:45:01
ID:rjvPOAeIO
-
なんとしても、次の指示までに誘拐犯を押さえて置かなければならない。
わかっていても、手がかりがなさすぎる。
御前の知り合いのルートは部下に委せており、特に若手が
参加してくれているから、ショボーンは少しは期待していた。
だが、聞き込みとは何日と繰り返して、はじめて
成果が芽生えるものだ、ということも同時にわかっている。
半日にも満たない時間で、そうそう手がかりなど手に入るものか。
ショボーンの苛立ちはとどまることを知らなかった。
.
- 295 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:40:20
ID:rjvPOAeIO
-
−3−
受話器を置いた真山田は、うん、と背伸びをした。
伊藤も疲れが見え始めたようで、普段のけだるそうな顔が、更にけだるそうに見えた。
すっかり時間を喰ってしまったようだ。
そろそろ、ショボーンや東風も、捜査を引き上げているだろう。
コーヒーを呷って、真山田が言った。
( `ー´)「まるで接点がねーな」
('、`*川「でも、警部はこの車掌らのうち、誰かが誘拐犯の一人だ、と睨んでるのでしょ?」
( `ー´)「でもな、こう関わりがないとすると、やはりはずれなんだよ」
近城、井蓋、そして関ヶ原と、三人の経歴をざっと調べ上げた。
年齢で言うと、皆三十を超えている。
二十後半の御前とは、とてもプライベートで知り合ったとは思えない。
学校か、若しくはオオカミ鉄道に勤めるより以前勤めていた職場でか。
とにかく、会うことが必然となる場所で出会い、偶然手を組んで誘拐に臨んだ、ということだ。
.
- 296 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:44:13
ID:rjvPOAeIO
-
井蓋は野球をしていたようだが、御前にはそのような動向は見られてない。
近城は、二十五まではフリーターだったようで、その点では
御前と一致しているが、それだけでは巡り会える事もない。
関ヶ原は五年近くはオオカミ鉄道に勤めており、その前は宝石商だったらしい。
「モカも宝石商だっけ」と、真山田は笑っていた。
年齢差からして、とても手を組めるような環境にいるわけではないだろう、と。
そして、誘拐犯のメンバー間に接点がなければ、とても誘拐は不可能だ。
かなり細密に練り込まれた誘拐の作戦を用意しているし、
二度もショボーン警部から身代金を回収することができた有能さ。
とても、会って二日、三日で練れるような案ではないはずだ。
だったら、どこかに接点はあるはずなのだ。
車掌長を勤めた関ヶ原が怪しいと真山田は睨んだが、歳が違いすぎる。
まず、オオカミの大神総裁が直々に任命していると
関ヶ原が言っていた以上、大神からの信頼も厚いことだろう。
('、`*川「じっくりと訊いてないからそうなるだけで、
詳しく訊けば、きっと新しい情報も入るんじゃないの」
( `ー´)「とは言ってもなあ――」
.
- 297 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:47:29
ID:rjvPOAeIO
-
真山田が背もたれに乗りかかると、捜査本部にどかどかと誰かが入ってきた。
はっとして振り向くと、それは少しばかり剣幕が見られるショボーン警部と
普段通り無表情の東風ミルナ刑事だった。
すぐに真山田が近寄った。
(´・ω・`)「はずれだ」
( `ー´)「そうです、か……」
(´・ω・`)「お前らはどうだったんだ」
やはり、機嫌が悪いようだ。
若干、語尾が荒れている。
平静を装い、真山田が言った。
( `ー´)「三人とも、害者との接点はなさそうです」
(´・ω・`)「ほんとうに、か?」
('、`*川「まだちょちょっとしか訊いてないのですが、さすがに
年齢差もあり、厳しいのではないかと」
(´・ω・`)「絶対、車掌のだれかが誘拐犯なんだ……」
ショボーンはため息を吐いた。
彼は、そこにベッドがあれば、飛び込みたい気分だった。
なにもかも投げ出して、ゆっくりしたいと思っていた。
.
- 298 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:50:40
ID:rjvPOAeIO
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ショボーンの機嫌を損ねぬようにと、東風が話題をかえた。
本質は変わってないが、気を紛らわせることはできそうだ。
( ゚д゚)「イツワリさんは、車掌のうち誰が怪しいと思われますか?」
(´・ω・`)「うーん……」
ショボーンも、これといった目星がついているわけではなさそうだった。
視線をしばらく泳がせたが、「わからない」と言った。
(´・ω・`)「データが足りないな」
( `ー´)「なら、今から各車掌の家に向かって、徹底的に調べますか?
日記とかから、なんらかの交友関係が見つかるかも」
(´・ω・`)「いや、いい。三人のうち二人は無実なんだ。
. 彼らにしてみれば、迷惑きわまりないだろう。
. それに、僕らには時間がないんだ」
まだ、第三の指示が来ているわけではない。
が、次の指示が今日中に来るだろうというのは、掴めていた。
別に根拠があるわけではない。
ただ、指示が一日とぶ、というのは考えにくかった。
真山田が口惜しそうに顔をゆがめた。
口惜しいと思う気持ちは、この場にいる皆が一緒に違いない。
(´・ω・`)「ワカッテマスはどうなんだ」
( `ー´)「単身で聞き込みに回っています」
(´・ω・`)「報告を聞こう」
電話で、すぐに若手に報告を求めた。
一回のコールですぐに応じたことから、今は取り込み中ではないようだ。
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- 299 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:53:39
ID:rjvPOAeIO
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まずショボーンが現状を告げた。
身代金の消えたルートを突き止め、よって
車掌が誘拐犯である可能性が高いこと、だが接点はなかなか見つからないこと。
身代金の持ち去りに使われたであろう車両を調べたが、なにもでなかったこと。
賢い若手は、早口だったのを一度聞いただけで、全て理解したようだった。
ショボーンが先に報告を終えて、若手は「そうですか」と応えた。
ショボーンたちの捜査にも真山田たちの捜査にも加入していない若手が
捜査の空回りを聞いたところで、どうすることもできないのだ。
その分、ショボーンは若手に期待をしている。
なにか、手土産をもって捜査本部に帰還してほしかった。
『害者は無趣味人間だったようですね』
(´・ω・`)「なぜだ?」
『友人の線からは伊藤さんたちに委せ、私は学習塾やスイミングスクールといった
いわゆる稽古事などを中心に当たってみましたが、全てがはずれていたので』
(´・ω・`)「最近の子だと、だいたいの子はどこかに通ってるぞ」
『だから、害者の家が裕福でなかったのか、若しくは害者は好奇心のない少年だったのか』
(´・ω・`)「難しいところだな。成果はないんだろ?」
『口惜しい限りです』
(´・ω・`)「とりあえず、お前も戻れ。ひとまず会議だ」
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- 300 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:56:17
ID:rjvPOAeIO
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若手が了解し、そこで電話がきられた。
ふと時刻を確認すると、もう一九時になろうとしていた。
よけいな雑務に、時間を喰われてしまったようだ。
とにかく、伊達のもとに向かい、誘拐犯の指示を仰がないことには、はじまらない。
それまでに、方針だけは定めておきたかった。
誘拐犯を特定する方針ではらちが明かないので、当然と言えば当然の判断だ。
三度目の指示でも、今までと同様に一億を要求してきたら
少なからず、あと二回は立ち会う機会ができる。
それを迎えるまでに、確実に誘拐犯を捕らえる必要性が浮かんできた。
(´・ω・`)「総力戦だ。あと少し刑事がほしいところだが」
( ゚д゚)「そんなに集めても、足手まといでしょう」
(´・ω・`)「僕とワカッテマス、必要ならぎょろ目も受け渡しに連れていくとして、
. 残ったメンバーでなんとしても誘拐犯を特定してほしいんだ」
( `ー´)「二人だけじゃ足りない、ということですね」
(´・ω・`)「失礼だとは承知だが、その通りだ。時間がなさすぎる」
( ゚д゚)「しかし、警察内で明かされているとはいえ、
あくまで極秘裏で進めている捜査です。ほかに誰を」
(´・ω・`)「………くそ」
またも、ショボーンがちいさく吠えた。
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- 301 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:01:44
ID:rjvPOAeIO
-
やはり、少数で挑まなければならない。
幸い、集っているのはどれも精鋭ばかりだ。
ベテランの東風刑事には安心して別行動を委せられるし、
垢抜けた才能をもつ若手刑事はショボーンも認めた腕だ。
伊藤は、誘拐犯と対決する際の切り札として温存してある。
主犯格が男である可能性もあるため、もしそうなら対決の時は伊藤に一任するつもりだ。
真山田刑事は―――
と、ここへきてショボーンの思考が止まった。
真山田について、特筆すべき才能が浮かんでこなかったのだ。
(´・ω・`)「お前、特徴ないな」
( ;`ー´)「えっ? ひどい!」
(´・ω・`)「はは、冗談だ」
ほかのショボーンに仕える刑事は、皆別の事件を当たっている。
最近、いやに大掛かりな事件が多いのだ。
所轄と協力しあって、事件に臨んでいる。
(´・ω・`)「読み合いになるだろうから、壁あたりがほしいが……」
('、`*川「その徒名で呼び続けてると、そのうちまた泣きますよ彼女」
( ゚д゚)「あと一年もしたら慣れるだろうよ」
('、`*川「ミルナさんは、何年ぎょろ目って言われてるんですか?」
( ゚д゚)「片手じゃ足りん」
('、`;川「そ、そうですか……」
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- 302 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:06:31
ID:rjvPOAeIO
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十九時十分をまわって、若手が帰還した。
いつも通り平静を装っており、汗ひとつかいていない。
最初に戻ってきて、ショボーンに一度頭をさげた。
( <●><●>)「私としたことが、無駄に時間を浪費しました」
(´・ω・`)「無駄じゃないよ。害者がお稽古事をしていない、という事実がわかったんだから」
ショボーンは若手を宥めた。
実際、意外性を突き、習い事に着眼した若手の案はすばらしいものだった。
誘拐犯も、習い事にまでは目をつける筈もなかろう、と。
友人の線から辿れなさそうな今、有効だった案と言える。
ただ、運が悪かっただけだ。
ショボーンは、御前モカの写真の貼られた黒板の前に立った。
チョークをもって、箇条書きで書き出された犯人像を、ひとつずつ追って説明していった。
(´・ω・`)「害者の自宅からは、長い茶髪が一本発見されたんだ。
. 御前モカが天涯孤独、交友関係もそうなかった以上、この髪の持ち主が犯人で間違いない」
( ゚д゚)「また、コンビニ弁当の箸に付着しただ液からも
犯人がA型である、と特定されましたね」
(´・ω・`)「そうだ。フィレンクトさんから、この髪もA型のものだ、と報告がきた。
. だから、おそらくこれらは同一人物のものだと見ていい」
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- 303 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:10:38
ID:rjvPOAeIO
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(´・ω・`)「一方で、二度目の受け渡しの際、犯人は荷物車両を使って
. 運び出しに成功した。これができるのは車掌だけだが――」
( `ー´)「三人とも、茶髪ではないです」
(´・ω・`)「ここで、現段階で最低でも二人、誘拐犯は残っていることがわかるな」
( <●><●>)「しかし、そもそも『あさやけ4号』から
身代金を奪い出すのに、仲間が地上で控えていたはず」
(´・ω・`)「そうだ。そこで、回収に出向いたのがこの茶髪の女ではないのか、という点だ」
爆弾騒動があり、列車が停止したのは、ラルトロス大橋という鉄橋の手前だ。
あそこは河原となっており、長い川を横切るように列車が走るために、ラルトロス大橋が掛けられている。
停車の隙に河原にボストンバッグを投げ落とし、それを回収するのは楽だ。
だが、ラルトロス大橋で回収せずに、ほとぼりが醒めてから回収を試みたかもしれない。
それを踏まえてこの会議をするのは、その点を考慮している暇がなかったからだ。
(´・ω・`)「目撃証言がでて、その内容が茶髪でないとするなら、誘拐犯は三人はいることになる」
( <●><●>)「人数はこの際どうでもいいはずです。
実際に我々が対面するのは、誘拐犯グループの下っ端ですから」
(´・ω・`)「捕まえる際、人数を把握するのは大事なことだぞ」
若手がショボーンに意見をするのは、よくある光景だった。
頑なに自分の意見を押し通そうとする時さえある。
決して博打を挑まない、慎重派な若手は、よくショボーンと捜査方針で対立することがある。
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- 304 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:15:23
ID:rjvPOAeIO
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( ゚д゚)「そうだ。それに、もし逮捕時に我々のほうが
人数が不足していたら、全員逮捕は難しいしな」
( <●><●>)「そうですか」
(´・ω・`)「河原での目撃証言は」
真山田を見て訊いた。
すると真山田は首をかしげた。
( `ー´)「我々は未だに『あさやけ4号』での一件すら把握しきれてないので」
(´・ω・`)「聞き込みもしてないってことか」
東風なら、自主的に聞き込みに回っていただろう。
やはり、真山田に自主行動を委せるのは不適かもしれない。
だが、刑事にとって自主行動とは、基本であり重要な事である。
緊急事態になれば、自分で決断して捜査方針を立てなければならなくなる。
なんとか、早いうちにそういった判断力を身につけてほしかった。
真山田の足を使った捜査には一目置いているところだが、ほかの面で少々頼りないのだ。
だが、ショボーンは決して真山田を凡人とは思っていない。
(´・ω・`)「一人が車掌。一人がA型で茶髪の女。
. そして、誰かはわからないが几帳面な奴がいる。
. 今のところ、まだこれだけしか情報がないんだ」
( <●><●>)「やはり、受け渡しの時に捕らえるのが」
(´・ω・`)「二度機会があったのに、両方ともみすみす逃がしたのは誰だ?
. 紛れもない、僕たち自身だろ」
( <●><●>)「………………ええ」
若手はわかりづらく肩をすくめた。
言われてみれば、チャンスは何度かあったのだ。
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- 305 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:17:49
ID:rjvPOAeIO
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−4−
捜査本部は、静かになった。
ここまで誘拐犯に翻弄されるとは、思ってもみなかったのだ。
だいたいの誘拐犯なら、受け渡しの際に逮捕できることが多い。
だが、精鋭の二人が二度も挑んで、両方完敗している。
巧みに誘拐犯に騙されたのだ。
ショボーンにも責任がある。
一度目の受け渡しの際、二手に分かれ、若手に身代金の保護、ショボーンが犯人の追跡。
こうすれば、犯人の捕獲は別にして、身代金だけでも死守できたのだ。
これをすぐに指示できなかったのが、敗因となった。
(´・ω・`)「交友関係から洗えず、目撃証言も期待できず、
. 犯人が残した手がかりが髪の毛一本………。
. とてもじゃないが、さすがに厳しいぞ」
( <●><●>)「次こそは捕らえてみせます」
( ゚д゚)「イツワリさん、次は自分も同行します。
三人いれば、捕らえるのは楽でしょう」
(´・ω・`)「次の受け渡し場所次第、だな」
ショボーンは笑った。
どいつもこいつも、根性だけは無駄にある。
士気をあげるまでもなく、常に熱意だけは人一倍だな、と。
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- 306 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:20:19
ID:rjvPOAeIO
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('、`*川「私たちは、明日も引き続き交友関係を洗うべきですかね」
(´・ω・`)「いや、いつなにが起こるかわからないから、
. いつでも出動できるように待機してほしい」
それだけ言って、ショボーンは黙った。
そろそろ、時計の長針が真南をさそうとしていた。
それを見て、五人は伊達邸へ向かうことにした。
伊達に電話で尋ねると、まだ指示はきていないそうだ。
それを聞いて安心したが、それ以上に電話をかけただけで
伊達の息遣いが尋常でなかったのが、おもしろかった。
いまから向かう旨のみを告げ、電話をきった。
若手の運転する覆面パトカーにゆられ、ショボーンはうつらうつらとしていた。
一日中動き回り精神を働かせすぎたのと、睡眠不足がダイレクトに響いてきた。
上司である自分がこんなのでどうする、と思って頬を二、三回たたいた。
横を見ると、若手はしっかりと運転していた。
まだ疲労は溜まっていないようで、安心した。
すぐに疲労が積もり、睡眠不足が敵となるのは歳のせいか、と自嘲した。
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- 307 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:21:46
ID:rjvPOAeIO
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|(●), 、(●)、|「そろそろ来そうで、おろおろしているのだ」
(´・ω・`)「それはしかたがありません」
来るというのは、言うまでもなく誘拐犯からの指示のことだろう。
身代金はまんまと奪われたが、昼間はなにもなかったため、来るとするなら今晩か翌朝だ。
伊達の神経が過敏になるのも、いわば必然だった。
必死に脳内でイメージを練る。
どんな質問が来るかを予想し、適切な答えを瞬時に返せるよう。
メモとペンも用意して、指示にはすぐ対応できるようしてあった。
持ってきたレコーダーを繋いで、記録の準備もできた。
昨晩、今朝と立て続けに慌ただしかったため、用意できなかった物だ。
ひょっとすると、相手の口調やちいさな物音を分析すれば、なにかが掴めるかもしれない。
極端にいえば、猫の鳴き声が微かに聞こえるだけでかなり有益な情報となりうるのだ。
二〇時になるまで、十分はあった。
今までの指示の時刻からすると、次もおそらく〇分きっかりにかかってくる。
それが二〇時なのか、それ以降なのかはわからないが。
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- 308 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:24:37
ID:rjvPOAeIO
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|(●), 、(●)、|「言われた通り、金をバッグに詰めておいたよ」
(´・ω・`)「お疲れ様です」
念のため、予め金はバッグに詰めておいた。
ボストンバッグは四つにしたが、五つになるかもしれないし、
逆に三つを指定するかもしれないので、チャックを開き、すぐに移し替えができるようにした。
ショボーンの指示だ。
次に、一度に二億を運ぶかもしれないと思い、その分の金も用意してもらっている。
迅速な行動のためには、緻密な準備が必要となるものだ。
電話を待つべく静かにし、焦っている自分を落ち着かせようと瞑想をしていた。
集中力が高まるとは思えないが、少しでも落ち着きを取り戻せればよかった。
そんなショボーンの横から、東風が何か閃いたような顔をした。
( ゚д゚)「イツワリさん、ひとつ奇策が」
(´・ω・`)「なんだ」
( ゚д゚)「大きなボストンバッグを用意し、それらのうち
一つに自分が潜るという、古典的な罠です。
しかし、確実に仕留めることができます」
(´・ω・`)「さすがにわかるんじゃないか? バッグの膨らみ様で」
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- 309 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:28:00
ID:rjvPOAeIO
-
( ゚д゚)「しかし、そうでもしなければ相手の裏はかけないでしょう」
( <●><●>)「バッグに潜んでどうするのですか?」
( ゚д゚)「すぐに銃で牽制をな。怯んだところをすぐに捕らえて、手錠をかける」
(´・ω・`)「成功しないと思うが――」
ショボーンは、まず成功しないな、と思った。
だが、東風の心境を考えると、奇策をだしたくなる気持ちにも肯けた。
ショボーンと若手が挑んで、二度も逃した相手なのだ、
今までと同様に一筋縄ではいかない、とわかるだろう。
更に、誘拐犯は東風を知らない。
そこを突けばどうにかなりそうだが、
さすがにバッグに身をひそめるのは相当な博打だ、と思った。
第一、大きいバッグでも、東風が自然に入れるかはわからないのだ。
( ゚д゚)「ならば、発信機を付けるとか」
(´・ω・`)「それもだめだ。向こうもそれくらいの対策は用意しているはずだ」
この男にしては珍しい、とショボーンは思った。
警部になり、長らく東風と捜査を共にしてきたが、
東風は用心にも用心を重ねるタイプの刑事なのだ。
石橋を叩いたあとも、渡ることがないのがしばしばである。
そんな東風が、どう考えても成功率の低そうな案を出している。
.
- 310 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:30:16
ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「誘拐犯は、二度の勝利で多少ながらも油断しているに違いない。
. 寧ろ、そこを突いて、正面から堂々と向かいたいものだ」
( <●><●>)「もう逃がす事はないですよ」
(´・ω・`)「ああ、当然だ」
ショボーンは笑った。
伊達からいただいた紅茶を啜り、天井を見上げてみた。
壁紙も天井も、格調高い模様が美しかった。
吊されたちいさなシャンデリアは、雪のように白く美しい。
少し、心が安らいだ気がした。
( ゚д゚)「犯人像ですが」
東風に声をかけられ、はっとして視線をおろした。
( ゚д゚)「茶髪の女ですが、御前モカの交友関係からは掴めなかったんですよね」
(´・ω・`)「ああ」
と言って、真山田と伊藤のほうをみた。
しっかりとした顔で肯いた。
( ゚д゚)「一方で、誘拐犯のひとりは車掌だと睨んでいる」
(´・ω・`)「そうだ」
( ゚д゚)「すると、どうも誘拐犯グループの共通点が掴めないですよ」
(´・ω・`)「………ああ」
.
- 311 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:32:51
ID:rjvPOAeIO
-
それはショボーンも薄々感づいていたことだ。
誘拐犯グループを結成する以上、なんらかの共通点を持っているはずなのだ。
共通の目的のため集まったのか、偶然集ったメンバーかはわからないが、共通点がないことはおかしい。
更に、関わりの薄い者同士だと、なんらかのかたちで裏切りが起こる。
周りも肯けるような、よほどの共通点を持つ必要があった。
( ゚д゚)「三十に満たないフリーターの御前モカ、三十を超えている車掌、
そして茶髪の女。とても、共通点があるとは思えません」
(´・ω・`)「まず、モカ以外の誘拐犯が不鮮明だ。
. あと一人、誘拐犯が割れればいいのだがな」
すると、若手が横から口を挟んだ。
( <●><●>)「しかし、考えてもみてください」
(´・ω・`)「ん?」
( <●><●>)「確かに、誘拐犯は共通点があります。
しかし、そんななか、裏切りが発生したではありませんか」
(´・ω・`)「モカ殺しだな?」
( <●><●>)「ええ。 裏切り、仲間割れは、もっとも危険な行為なのに」
(´・ω・`)「それで、なにが言いたい」
( <●><●>)「誘拐犯グループの共通点は、あっさり裏切りが起こるほどの
薄っぺらいものなんですよ。ふつうの共通点ではないでしょう」
.
- 312 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:38:59
ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「つまり、普通に捜査していては、その共通点も
. 見つからないだろう、と言いたいんだな?」
( <●><●>)「はい。もっとも手っ取り早いのが、
誘拐犯の一人を捕まえることです」
(´・ω・`)「じゃあ、捜査方針を切り替えるか」
ショボーンは、自分が誘拐犯を追うなか、真山田や伊藤に
御前から誘拐犯のしっぽを捕らえようとさせていた。
御前が誘拐犯グループである以上、必ずなにか不審な動きが見られてきたであろうからだ。
しかし、若手はその捜査を無駄だと感じていた。
そう簡単に見つかるものでないのだから、
誘拐犯の直接逮捕に臨むほかないだろう、と。
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- 314 名前:
◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:39:52
ID:rjvPOAeIO
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(´・ω・`)「だが、誘拐犯グループの車掌と茶髪。
. この二人にかかった霧を払う必要はあるぞ」
( <●><●>)「承知しております」
(´・ω・`)「だといいんだがな」
ショボーンは不機嫌な声で言った。
二口目に啜った紅茶は、早速冷めかかっていた。
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第五章
「 浮かばない犯人像 」
おしまい
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