- 2
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 20:58:06 ID:Zin/TujAO
-
−1−
ショボーン警部は、ひとつの事件を解決して、疲れていた。
とある事件について、VIP県警におかれた捜査本部にて、事件解決のパーティーが、行われていた。
皆が和気藹々と語らうなか、ショボーンだけは、連日走り回った反動に襲われ、うつらうつらとしていた。
十二月十五日の、いよいよ本格的に寒さを伴ってきた日のことだった。
.
- 3
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 20:59:50 ID:Zin/TujAO
-
「お疲れのようですね」
と、ショボーンの後ろから声がかかった。
ショボーンは、はっとして振り向いた。
そこには、緑のコートを羽織った、体のおおきな若手ワカッテマス刑事が立っていた。
ショボーンは「ああ」と応え、椅子を若手に差し出した。
若手は落ち着いた声で「失礼します」と言い、ゆっくり座った。
( <●><●>)「警部も皆さんと一緒に祝われないのですか?」
(´・ω・`)「無茶言うな、どれだけ走り回ったと思ってるんだ」
と聞いて、若手は微笑した。
「そうですね」と言ったものの、彼はほかにかける言葉もなく、
また、ショボーンと感想を語り合うつもりもなかった若手は、早速言葉が詰まった。
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- 4
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:01:40 ID:Zin/TujAO
-
若手は優秀な刑事だ。
某有名大学を出てはすぐに刑事の道を志し、程なくして県警に配属された。
それからの彼の活躍は、実に目覚ましいものだった。
体力は人一倍あり、少年時代に格闘技の経験も持ち併せている。
県警でもその噂は瞬く間に広がり、一躍有名人になった。
というのも、若手が請け負った事件で、彼は次々に犯人を捕まえていくのだ。
一度、ギャングを壊滅させた事もある。
誰もが、彼の将来は、明るいものだと語った。
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- 5
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:06:09 ID:Zin/TujAO
-
彼が優秀であることは、ショボーンも、知っていた。
そして、ショボーンもまた、優秀だったのだ。
刑事となってから、すぐに警部補、警部と昇進した。
優秀だが、どちらかと言うと、クセがある人物として有名だった。
若手も、またショボーンと同じように相手の噂を知っていたし、互いに互いを尊敬し合う関係だった。
気が付くと、二人はコンビとして動くようにもなっていたと聞く。
まだ、年期がそうあるわけではないが、それでも、二人は確実に、今をときめくコンビと言われていた。
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- 6
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:07:34 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「ちょっと外に出るか」
( <●><●>)「煙草でも、買うのですか?」
(´・ω・`)「やめようと、思ってるのだけどねぇ」
捜査本部長に一言断って、二人は席を外した。
沈黙に耐えかねたショボーンの行動だったが、若手もそれに同行した。
その若手も、パーティーの雰囲気は気に喰わず、飽き飽きしていたようだった。
署のすぐ近くに、公園がある。
入り口の隣には、自販機と、公衆電話が並んでいる。
ショボーンは金を入れ、赤箱の煙草を買った。
公園のベンチに座り、一本取り出して、一服する。
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- 7
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:09:05 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「しばらく休みたいよ」
( <●><●>)「私は、働き始めて幾年、まだ休んだ事がないですよ」
(´・ω・`)「若いうちは、バカみたいに走ってりゃいいんだよ」
( <●><●>)「……走るのは、だいすきです」
と、口角を上げて、彼は柔和に笑った。
ショボーンの毒舌に最初は戸惑っていたが、今となれば、彼はまったく気にしないようになっていた。
ショボーンに食いかかっても、どうにもならないのを知っていたのだ。
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- 8
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:12:29 ID:Zin/TujAO
-
長らく煙草を吸っていたショボーンが、自分の肺のなかに溜まっていた煙を全部吐いた。
握っていたダーク(DARK)の箱を上着のポケットに突っ込み、煙草をくわえたまま、ショボーンは言った。
(´・ω・`)「だめだ、やっぱ外国産は不味いや」
( <●><●>)「はぁ」
独り言のようにショボーンは呟いて、吸いかけのそれを排水溝に放り、足で踏み消した。
「警察がポイ捨てはだめですよ」と皮肉を言うも、ショボーンはまったく気にかけなかった。
そのショボーンは、腕をぶんぶん回し、深呼吸して、歩き出した。
若手も彼に続いた。
公園を出る頃、彼らに、冬の冷たい風が吹いた。
顔面に直撃し、それが顔面の熱を奪って、神経が麻痺してくるのがわかった。
外にでたのはいいが、やはり戻ろうと思った。
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- 9
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:15:08 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「寒いな」
間髪入れずに、ショボーンが言った。
若手もそれにあわせる。
首都のアスキーアートや、そこに次ぐ都会のラウンジより、やや田舎っぽく見えるここVIPでさえこの冷え込みなのだから、
さらに田舎のシベリアなんかでは、もっと寒いのだろうなと、若手は思った。
シベリアはVIPのすぐ北に位置する。
さすがに寒さに抗うことは適わないため、二人は戻ろうとした。
ただ、ショボーンは、歩くことでさえ億劫に感じている。
そんなショボーンを襲う疲労が吹き飛んだのは、このあと、彼のもとにかかってきた、一本の電話のせいだった。
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- 10
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:16:43 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンの胸に入ってある携帯電話が、VIPの夜の街に、けたたましい音を鳴らした。
若手がショボーンの顔をのぞき込むと、彼は急いで電話を取り出した。
折りたたみ式ですらない、古い携帯電話だった。
(´・ω・`)「はい、もしもし」
受話音量をおおきくしているのか、通話相手の声は、意識せずとも若手に聞こえた。
相手は、やけに低い、特徴的な声の持ち主だった。
『もしもし、私だが』
(´・ω・`)「伊達さん。どうも、こんばんは」
ショボーンは急に顔色を変えた、声の高さも変わった。
晴れやかとも、暗くとも言えない顔色だが、確実にショボーンは態度が豹変(かわ)った。
若手がショボーンの鄭重な姿を見るのは、久々だった。
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- 11
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:17:59 ID:Zin/TujAO
-
『いきなりで申し訳ないが、今すぐ、私のところへ来てほしい』
(´・ω・`)「え、今ですか」
『すまないが、一大事なのだ』
(´・ω・`)「しかし……」
若手は、伊達と呼ばれる男との通話を聞いていたのだが、
どこか、伊達の声が落ち着きのないもののように感じ取れた。
声が乱れており、ショボーンの発言に、間髪入れずに返している。
ショボーンは、まだ、残務処理が残っている。
待ってもらおうとしたのだが、伊達の一言を聞いて、ショボーンは固まった。
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- 12
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:19:08 ID:Zin/TujAO
-
『孫が、誘拐された』
(´・ω・`)「!」
( <●><●>)「!」
ショボーンはすぐに電話を切って一旦本部戻り、そしてすぐに出てきた。
冷や汗を垂らして、ショボーンは若手を連れ、覆面パトカーに乗り込んだ。
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- 13
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:21:36 ID:Zin/TujAO
-
−2−
(; <●><●>)「なにがあったのですか!」
突然の出来事に、覆面パトカーに乗り込んで、すぐに出した。
そして一つ目の信号に引っかかった頃合いを見て、若手は聞いた。
ショボーンは、落ち着いており、ここに、キャリア――この場合は、実地の経験を指す――の違いが見られた。
(´・ω・`)「営利誘拐≠セ」
若手とは対照的に、平静を保って、ショボーンはゆっくり言った。
しかし、若手は、事態を呑み込めないでいた。
( <●><●>)「営利誘拐……ですか」
(´・ω・`)「詳しくは、向こうで話してやる」
若手は、顔を歪めた。
いきなり連れて来させられたというのに、扱いが雑だったのが、気に喰わなかったのだ。
若手が身体を座席に預け、前を見ると、信号は青になった。
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- 14
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:24:04 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「向こう、とは、具体的にはどこですか?」
(´・ω・`)「伊達クール、という、宝石商を営む富豪の自宅だ」
( <●><●>)「電話で話しておられた?」
(´・ω・`)「ああ。丁度、シベリアとVIPの境だ」
( <●><●>)「なるほど、シベリア……」
寒くなるだろうなと、若手は身構えた。
暖房がようやく効いてきた車内で、若手はハンドルを握りしめ、前を見据えていた。
それからショボーンの道案内を頼りに、若手は覆面パトカーを運転した。
彼はシベリアへは何度か行った事があるので、特に迷いもせず、伊達邸に着いた。
なるほど、富豪というのが、見て、よく判るほどの豪華なものだった。
玄関の隣の車庫には、外車が並んで二台、見えるが
裏の駐車場には、さらに高級車が並んでいそうだった。
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- 15
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:25:48 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが呼び鈴を鳴らすと、存外早く、伊達は玄関から顔を出した。
背が低くこじんまりとしているが、頭がおおきい。
若手は彼を不思議な人だな、と思って見ていた。
その顔からは、焦燥が窺え、ショボーンに手招きをしている。
若手を呼び、二人は伊達邸のなかに、伊達に招かれるがまま入っていった。
|(●), 、(●)、|「助かった。約束通り、早く来てくれたのだね」
(´・ω・`)「他ならぬ、あなたの頼みですから」
|(●), 、(●)、|「そちらは部下かな?」
伊達の、眼力の強いまなこが、若手をとらえた。
一瞬、若手はぎょっとして、言葉に詰まった。
すかさず、ショボーンは「そうです」と答えた。
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- 16
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:28:15 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「VIP県警の若手ワカッテマスです。以後お見知りおきを」
|(●), 、(●)、|「ああ。私は伊達クールと言う者だ、よろしく」
にっと、伊達は歯を見せて笑った。
いやに不気味な笑顔が、若手の緊張を確たるものにさせた。
伊達は先々歩き、来客室に、彼ら二人を招き入れた。
そこには、格調の高い金と黒の電話が、寂しく置かれていた。
そのテーブルを挟んで、伊達と、ショボーンと若手が向かい合い、ソファーに腰を下ろした。
あらかじめ用意していたのか、伊達は、紅茶を彼らに差し出した。
ショボーンは礼を言って、朱い紅茶を、すすった。
ショボーンと若手が落ち着いている間に、伊達は、ポケットから、一枚のちいさなカードを取り出した。
カードをテーブルの上に置いて、伊達はショボーンを見た。
|(●), 、(●)、|「今日、帰ってきたら、これがあったのだよ」
(´・ω・`)「どれどれ……」
出されたカードを、ショボーンは、若手に聞かせるために、声を出して読んだ。
.
- 17
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:31:32 ID:Zin/TujAO
-
――― 孫が惜しければ、四億円、用意しろ。受け渡し方法は電話で指示する。わかっているとは思うが、警察には知らせるな。
ショボーンの声が、静まり返った伊達邸に、響き渡った。
若手は、ちいさく「信じられない」と、言った。
そして伊達が、ショボーンの顔を見て言った。
|(●), 、(●)、|「警察に内通者がいるかもしれない、そう考えると、どうしても連絡できなかったのだ。
だから、ショボーン君に、個人的に連絡したのだよ」
(´・ω・`)「事情は、概ねわかりました」
パソコンで作成されたであろう、その文章が書かれたカードをテーブルの上に置いた。
若手がつられてカードを見たのだが、身代金の桁のおおきさに、一瞬たじろいだ。
(; <●><●>)「四億……!」
|(●), 、(●)、|「払えない額では、ない」
伊達が、きっぱり言った。
若手が額に汗を浮かべたまま、伊達の顔を見る。
.
- 19
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:33:04 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「だからこそ、請求したのが四億と、高額なのだろう」
(´・ω・`)「人質を『孫』と知っているのも、その所為でしょう」
|(●), 、(●)、|「ショボーン君。私の孫を取り戻し、誘拐犯を捕まえるには、どうすればいいのかね?」
伊達は、言葉のひとつひとつを丁寧に言って、訊いた。
そう簡単に、この誘拐事件が、納まるわけがないと、わかっているのだろう。
(´・ω・`)「まずは、書かれている『指示』が来るのを待ちましょう。それからです」
と、ショボーンは、慎重に答えた。
.
- 20
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:35:00 ID:Zin/TujAO
-
−3−
ショボーンがそう言ったきり、しばらく、沈黙が続いた。
電話がなかなか来ないのだ。
時計を見ると、もう日付が変わろうとしていることに、気がついた。
ショボーンは顎に手を当て、伊達は歳に似合わずそわそわしている。
一方で若手は、思考に耽っていた。
( <●><●>)「(私が刑事になってどれくらいか経つが、誘拐事件を扱うのははじめてだな)」
今まで、幾つもの死体、凶器、現場、そして犯人を見てきた若手だが、
逆に言えば、それ以外については、無知そのものなのだ。
そう考えると、急に、武者震いが彼を襲った。
落ち着こうと、伊達からいただいた紅茶を、口に運んだ。
カップを持ち、上目遣いで若手も柱時計を見ると、丁度〇時になる時だった。
.
- 21
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:36:53 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、;|「うわあ!」
(´・ω・`)「……!」
日付が十六日になったと同時に、電話が鳴った。
伊達はそれに驚き、腰を抜かした。
ショボーンは落ち着いて、伊達のもとに歩み寄り、耳打ちした。
というのも、ショボーンは、レコーダーを持ってきていなかったのだ。
(´・ω・`)「伊達さん、ここで僕が電話に出るとまずい。
. 伊達さんが出て、用件を訊いてください」
|(●), 、(●)、;|「あ、ああ」
まるで、電話の相手が誘拐犯である、と決めつけたような言いぐさだった。
しかし、若手もショボーンも、この電話は誘拐犯からの『指令』に違いない、と確信している。
伊達は、促されるがままゆっくり受話器に手を伸ばして、電話に出た。
.
- 22
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:39:29 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「も、もしもし、こちら、伊達です」
相手は、思ったよりも早く、応えた。
『金の用意はできましたか?』
|(●), 、(●)、;|「っ!」
(´・ω・`)「……」
受話器からは、ボイスチェンジャーを通したであろう機械音が聞こえた。
明らかに、誘拐犯その人のものだ。
伊達が狼狽するも、ショボーンは口に人差し指をあて、落ち着くよう促した。
|(●), 、(●)、;|「孫は、無事なんだろうな?」
『それは、あなたの出方次第ですよ、伊達さん。
それよりも、約束通り、警察には知らせてないでしょうね?』
伊達は、指示を仰ぐためにショボーンを見た。
どう答えればいいのか、迷いが生じたのだ。
ショボーンは即座に首を振った。
.
- 23
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:42:46 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、;|「もちろんだ、それよりも、孫の声を聞かせてくれ」
『それは、無理ですね。彼女は、抵抗が激しかったので、今は、眠らせてあります』
ショボーンは、相手の態度が偉く丁寧だな、と思った。
だが、やはり誘拐犯は、誘拐犯だった。
|(●), 、(●)、;|「……要求は、なんだ」
『今日、十六日の午前二時きっかりに、シベリア第三地区の三丁目に在るコンビニに来なさい』
|(●), 、(●)、|「第三地区といえば、ホウエンだな。その三丁目のコンビニだと?」
シベリアは、この国で一番広大な面積を持つ。
だから、一番都会である地区から順に第一地区、第二地区、そして第三地区と、分けられている。
それぞれに「カントー」「ジョウト」「ホウエン」と地名がつけられている。
身代金の受け渡し場所に、コンビニという意外な場所を選んできたため、伊達も思わず聞き返した。
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- 24
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:46:02 ID:Zin/TujAO
-
『具体的な、受け渡し方法を、今からお教えします。一度しか言いませんので、よく聞くこと』
|(●), 、(●)、;|「……」
はじめから、伊達に拒否権はなかった。
それをあらためて自覚させられ、伊達は、いよいよ緊張してきた。
そして、犯人は、具体的な受け渡し方法を言ってきた。
それを、ショボーンは、しっかり聴いた。
まず、渡すのは四億円ではなく、一億円だった事が、ショボーンの鼻をひくつかせた。
一億円を二千万円ずつ、五つのボストンバッグに詰める。
それを、伊達が独りで指定されたコンビニに向かい、トイレの個室に置く。
あとはすぐに去り、自宅で次の指令を待つこと、と。
すべてを話し終えると、相手は、伊達の言葉を聞く事もなく、すぐに電話を切った。
受話器をかけ、ようやく、伊達と若手とショボーンの三人は、安堵の籠もったため息をついた。
どっと疲れたようである。伊達は、ソファに深く身体を預けた。
電話が切れたのを確認し、ショボーンは、手帳にその受け渡しの手順をメモした。
そして、苦い顔をした。
.
- 25
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:50:22 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「妙だ」
( <●><●>)「まず、場所がコンビニなのが解せないです」
若手は、ショボーンの手帳を見て、真っ先にその点が腑に落ちなかった。
深夜だからといって、客が来ないわけではない。
しかも、店員が見ているはずである。
(´・ω・`)「それだけでない。四億という身代金を一度にして回収せず、
. 四回に分けて回収しようとしているのも、妙といえば妙だ。
. 回数が増える分、捕まってしまうリスクも高まるのに、な」
( <●><●>)「同感です。どうして、犯人は、分けるのでしょうか」
(´・ω・`)「二つの可能性が考えられる」
( <●><●>)「というと?」
若手が、興味深そうに訊いた。
ショボーンは肯いて続けた。
(´・ω・`)「一つは、四億という大金を、一度に運ぶとなると、骨が折れるからだ。
. 重いし、検問を張られては、車での逃走も危うい」
( <●><●>)「そうですね」
(´・ω・`)「もう一つは、向こうは、一人か二人の少数であるのか。
. 独りで運ぶには、一度に四億は多すぎる。
. 一億を機会別に運んだ方が、人数が少ない分リスクは減るしな」
( <●><●>)「少人数ならば、早速向こうで犯人を押さえれば、いいのでは? 応援を呼んで」
.
- 26
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:54:34 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンは、この案に首を振った。
話には続きがあったようだ。
(´・ω・`)「もしかしたら、誘拐犯グループの五、六人のなかから、一人、二人だけを遣いに出しているだけなのかも知れないぞ。
. 残ったメンバーは、保険として、な」
( <●><●>)「……警察が見えたら、アジトに残っているメンバーで人質を殺す、などしそうですね」
それを聞いて、若手は肩をすくめた。
確かに、単独犯なら、これほど簡単な事件はないだろう。
しかし複数人いて、手下を回収に遣わせたとなれば、そうもいかない。
回数を重ねる、という前提のもと行われる回収作業だ、
そのリスクを負ってでも、別の利益を得ようとしているのだろうか。
しかし、そうだとすると、それによって得られるメリットはいったい。
若手は気がつくと、ひとりでに推理していた。
|(●), 、(●)、|「私はどうすればいいかね、ショボーン君?」
(´・ω・`)「素直に相手の要求を呑んで下さい。
. お孫さんの無事が確認できない以上、迂闊に出てはいけません」
伊達は肯いた。
ショボーンの言い分は、もっともだったからだ。
しかし、素直に相手の言われるがままになるのは、若手に言わせてみても、癪だった。
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- 27
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:57:40 ID:Zin/TujAO
-
そして、ショボーンは、誰かに電話をかけた。
しばらくコールすると、相手が出た。
割とコールがかかったので、相手は席をはずしていたと思われる。
誰にかけたのか、若手に見当はつかなかった。
(´・ω・`)「ああ、もしもし。僕だよ」
『どうしたんですか、こんな時間に。しかも、急に本部を飛び出すし』
(´・ω・`)「ははは、ベルさん怒ってた?」
『かんかんでした』
電話先の男は、微笑した。
低い、渋い声で、相手はショボーンに敬意を払っているのが、聞いてわかった。
(´・ω・`)「それはそうと、今、お前とあいつは手が空いてるか?」
『自分は今も本部にいますが、あの子はどうでしょうね』
それを聞いて、ショボーンはにやっと笑った。
(´・ω・`)「じゃあ、ミルナ。ペニサスを連れて、今から言う場所に来てくれないか。内密で、だ」
( <●><●>)「ミルナ……刑事?」
.
- 28
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:59:52 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが陽気な声で言うと、相手は少し驚いていたが、渋々了承した。
あとでかけ直すと言い、ショボーンは電話を切った。
若手には、ミルナとペニサス、この人名に、心当たりがあった。
というより、知っていて当然の名だ。
双方とも、ショボーンの部下で、刑事だ。
伊達が、会社の部下にボストンバッグを五つ用意するよう、電話で怒鳴っていた。
そして、いそいそと金の用意をするなか、ショボーンの電話が鳴った。
相手はそのミルナで、ショボーンに道案内を頼んだようだった。
ショボーンの指示が数分続くと、ショボーンは電話を切った。
(´・ω・`)「外で、待ってようか」
( <●><●>)「はい」
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- 29
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:01:28 ID:Zin/TujAO
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伊達に一言言って、二人は外に出た。
この土地は、シベリアがすぐそこである分、VIPの警察本部よりも、いささか寒かった。
ショボーンが身体を覆い、小刻みに、そしてオーバーにふるえてみせる。
若手も、リアクションこそ見せないものの、やはり、寒いと思っていた。
この男は、簡単には心境を顔にださない。
( <●><●>)「ミルナ刑事を呼んだのですか?」
(´・ω・`)「受け渡し場所には、同行させないけどね」
( <●><●>)「では、なぜ?」
若手が訊くと、ショボーンは、笑って答えた。
(´・ω・`)「護衛、そして警備のためだよ」
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- 31
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:04:11 ID:Zin/TujAO
-
三十七分に、タクシーに乗った二人の人物が、伊達邸に到着した。
運転手に礼を言って、白髪まじりの刑事は、タクシーから降りた。
同乗していた女刑事も、彼に続いてタクシーから降りた。
年かさの方の刑事は、ショボーンを見て、皮肉混じりの挨拶をした。
女の方も、それにあわせる。
( ゚д゚)「まさか、叩き起こされるとは、思いもしませんでしたよ」
(´・ω・`)「悪い、悪い。頼れるのは、あんたらしか居なかったんだ」
('、`*川「ミルナさんだけでいいんじゃない」
(´・ω・`)「いいや、二人居てくれないと、だめだ、ペニサス」
東風(ひがしかぜ)ミルナと伊藤ペニサスを見、若手は挨拶を交わした。
ベテラン刑事の東風は、若手とって、ショボーンよりも先輩である。
一方伊藤は、若手と同期の白衣の女刑事として、また視線を集めている。
しかし、彼女の功績は、若手ほど、輝いてはいなかった。
服装ととある才能以外は、至って普通だったのだ。
.
- 32
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:07:10 ID:Zin/TujAO
-
( ゚д゚)「しかし、誘拐事件とは、また厄介ですな」
(´・ω・`)「四億だからね」
( ゚д゚)「何度か一緒に解決したこともありましたよね、イツワリさん」
(´・ω・`)「……ああ、そうだな」
ショボーンには、肩書きがあった。
それは、VIP県警だけでなく、所轄署でさえ知らない人はいない、と言えるほどに、有名だった。
( <●><●>)「『偽りを見抜く敏腕刑事』……ですね、その肩書きは」
(´・ω・`)「まあ、ね」
ノンキャリアのショボーンが、上司からの絶対的な信頼を受けたり、
あっさりと警部に昇進できたのも、数え切れない功績があったからだった。
現場に隠された、いくつもの偽り≠見抜く。
ここで特筆するまでもなく、それの偉大さは、雄弁に物語られている。
(´・ω・`)「もっとも、今回の事件で見抜く必要なんてないんだけどね」
と、ショボーンが言っては、東風は、軽く笑った。
.
- 33
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:08:22 ID:Zin/TujAO
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イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第一章
「 誘拐事件 」
.
- 34
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:13:49 ID:Zin/TujAO
-
−4−
ショボーンらはタクシーを帰し、伊達邸に入った。
伊達に伊藤と東風を紹介し、ソファに座らせた。
忙しなく動いていた伊達は、もう、顔面汗だらけである。
彼は、ソファに腰掛け、額の脂汗を拭った。
(´・ω・`)「どんな感じですか」
|(●), 、(●)、|「金は用意してあるし、バッグもそろそろここに着く。あとは、二時になるのを、待つだけだよ」
「そうですか」と言い、ショボーンは、思い出したかのように伊達に問いかけた。
(´・ω・`)「そうだ伊達さん。お孫さんの写真かなにか、持ってませんか?」
|(●), 、(●)、|「写真? ああ、そういえばまだ見せてなかったね」
そう言って伊達は、自室である書斎に向かった。
数十分経ち、一時になる頃に、彼は一枚の写真を持って戻ってきた。
それが遅いのか速いのかは、人によりけりだ。
若手はとても遅く感じた。
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- 35
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:16:18 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「お恥ずかしい、一枚しかなかったよ」
(´・ω・`)「お孫さんは写真が嫌いなんですね、きっと」
|(●), 、(●)、|「非行に走る寸前の、やんちゃ盛りだからね」
申し訳なさそうに言っては、写真をショボーンたちに見えるよう、テーブルの上に置いた。
数年前の写真だと聞くが、顔がその数年で変わるはずもないので、問題はなかった。
茶髪で、耳から大きなピアスをさげ、無愛想で不機嫌そうな態度が、写真越しに嫌でも伝わった。
口を尖らせて、眼も細め、こちらを睨んでいる。
背丈は一五〇もないだろう、今時の非行少女と言った印象を、彼らに持たせた。
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- 36
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:18:57 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「名は、伊達つー。幼い頃に両親を失い、私が引き取って、我が子のように育ててきた。
ただ、そんな環境が、彼女をあんな風に育ててしまったのだろう」
( <●><●>)「さぞ、小遣いの要求もされるのでしょう」
|(●), 、(●)、|「わかるかい」
情けなく思い、伊達は頭を掻いた。
しかし、親を早くに亡くし、まして、引き取ったのが富豪となれば、致し方のないことだろう。
物心がついた頃には生みの親はいない、このことがどれだけ辛いことか、ショボーンは理解している。
「悔やんでも仕方ないですよ」と、慰めた。
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- 37
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:21:25 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「さて、伊達さんに、幾つか質問があります」
|(●), 、(●)、|「なんでも聞いてよ」
(´・ω・`)「まず最初に、最後につーちゃんと会ったのはいつですか?」
|(●), 、(●)、|「ううん、いつだったかねえ」
伊達は、少し考える素振りを見せてから、自信なさげに、言った。
よほど会ってないように見受ける。
だが、彼女の容姿をみたあとで言えば、むしろそれが予想の範疇に属されているように思える。
|(●), 、(●)、|「一週間くらい前、だね」
(´・ω・`)「それは、普段からですか?」
|(●), 、(●)、|「ああ。よく、友人の家に泊まってたし、おかしい事じゃない。
ただ、あのカードを、見てしまった時に……」
(´・ω・`)「そのカードは、どこに?」
|(●), 、(●)、|「帰宅した時に、うちの執事が入ってたって」
(´・ω・`)「入ってた、と言いますと?」
ショボーンは、続けざまに質問した。
日頃から聞き込みをしているので、こういった質問は得意だった。
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- 38
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:24:48 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「郵便受けに入ってたそうなんだがね、おかしな話だ」
ショボーンは「ふむ」と、言ってから、また別の質問を投げかけた。
(´・ω・`)「執事やメイドはどちらに?」
|(●), 、(●)、|「ああ、帰したよ。もしかしたら、誰かが内通者かもしれない。そう思うと怖くてね」
ショボーンは、頭がいいな、と、感心した。
伊達は、何かにつけて、内通者の存在におびえている。
つまり、言い換えると、執事も警察も信頼していないのだ。
いわゆる少数精鋭だ。そのおかげで、ショボーンたちは捜査がしやすいだろう。
だがショボーンは、伊達に限らず、いままでの誘拐事件の被害者には
なるべくそういうことはすぐに通報するよう、言ってきている。
(´・ω・`)「しかし、警備は、おつけなさい。刑事を二人、ね」
|(●), 、(●)、|「そこの、かね」
東風と伊藤を、伊達は舐め回すように見つめた。
ショボーンは、力強く、肯いた。
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- 39
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:27:19 ID:Zin/TujAO
-
|
(●), 、(●)、|「なんのために、かね?」
(´・ω・`)「相手は、おそらくはあなたについて詳しい。
. 留守を狙ったり、あなたを襲ったりするかもしれないですよ」
|(●), 、(●)、|「なぜ、詳しいと言えるのかね?」
(´・ω・`)「誘拐犯が人質を誘拐する際、人質の彼女がこの家の孫娘であることを、あらかじめ知っていました。
. おそらくは、長い間ここを監視していたのではないか、と思われるのです」
|(●), 、(●)、|「そうか」
伊達も納得したところで、ショボーンは、次の質問を、した。
(´・ω・`)「最近、誰かにつけられている、または、誰かに見られている、そんな気はしませんでした?」
|(●), 、(●)、|「ないね」
伊達は、きっぱりと、言い切った。
|(●), 、(●)、|「昔から、割と危険な目に遭ってきたから、そういうのには敏感なんだよ私は。
そういうのを、感じていたら、そう言うよ」
(´・ω・`)「つーちゃんに、不審な動きは、見られました?」
すると、伊達は、顔を赤くした。
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- 40
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:30:26 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「孫の動きが、どう関係すると言うのだね! あの子は、被害者だ!」
(´・ω・`)「もしかしたら、何かに関係するのかもしれないのです。
. 我々は、いつもそうやって、何気ない証言から真実を見つけもしました」
ショボーンの力強い説得に、伊達は、しばらく黙っていた。
伊達の心境はわかるが、ショボーンの言うことももっともだ。
それを理解し、伊達は怒りを鎮め、ぽつぽつと話し出した。
|(●), 、(●)、|「………変わった様子は、なかったよ。いつも通りだった」
(´・ω・`)「いつも通り?」
伊達は、ムッとした顔になりつつも、答えた。
|(●), 、(●)、|「私がなにを言っても無視で、金の話の時だけ反応する」
(´・ω・`)「つーちゃんが家に居るとき、彼女の食事は、どうされていたのですか?」
|(●), 、(●)、|「孫が自分で言って専属のコックにつくらせていたねえ。口だけは立派だから。
でも、そんな憎たらしい孫でも、大切な、孫なのだよ」
.
- 42
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土)
22:36:11 ID:Zin/TujAO
-
最後の言葉を聞いて、ショボーンは礼を言った。
振り向いて、若手に声をかけ、立ち上がった。
|(●), 、(●)、|「どうしたのだね?」
(´・ω・`)「我々は、今から先回りして見張っておきますから
. あなたは、指示通り、二時きっかりに身代金を持って来て下さい。独りで」
|(●), 、(●)、|「で、どうすればいいのかね?」
(´・ω・`)「言われた通り、置いて下さい。襲われそうな時はすぐに駆けつけます」
|(●), 、(●)、|「トイレに置いて、すぐに去って、帰宅すればいいのだね」
(´・ω・`)「はい。あとは、僕と相手との我慢比べです」
ショボーンは、彼独特の嫌な笑みを浮かべた。
彼が発奮する時に、自然と浮かぶ笑みだ。
ある種の恐ろしさも感じ取れる。
笑みを消さないまま、若手とともに伊達邸を出た。
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- 43
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:39:00 ID:Zin/TujAO
-
若手が覆面パトカーを走らせている。
指定されたコンビニに向かい、静けさ漂う町並みを、若手は見ていた。
シベリアは、その寒さと広大な土地が有名である。
広い割に、いや、むしろ広いからこそ、あまり経済発展しておらず、人口密度も低かった。
代わりに自然に溢れ、特に鉱山資源が豊富とされており、鉱山物の輸出量も、国内トップである。
また、土地はあまり肥えてないが、なにぶん広いので、放牧に最適で、牧場がよく見られる。
なにより、山が連なり、それを利用したハイキングコースの幾つかは世界的に有名で、若手も何度かそこに訪れた事があった。
そのときは夏で涼しく、地元の人も優しいので、シベリアという町に、好印象を持っていた。
そんなシベリアで、営利誘拐という卑劣な行為が行われると考えると、若手は、我慢ならなかった。
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- 44
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:41:43 ID:Zin/TujAO
-
一時三九分。
覆面パトカーは、コンビニの近くの、針葉樹が多く生えている公園の陰に止められた。
ここからならトイレが見えて、向こうからはこちらは見つかりにくいだろうから、見張りには最適なのだろう。
それを確認する時、ショボーンの息遣いが変わり始めたことに若手は気が付いた。
( <●><●>)「どうしました?」
(´・ω・`)「ワカッテマスは、確か、誘拐事件を扱うのははじめてだな?」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「誘拐事件は、我慢との勝負だ。相手には、人質がいることを、決して忘れるな。
. いくら金を搾り取られても、卑怯な手を使われても、ただひたすら、我慢だ。
. 最後に勝つのは、僕らだからな」
( <●><●>)「わかりました。絶対に、犯人を捕まえましょう」
若手の揺るがぬ決意に、ショボーンが「よし」と言うと、早速見張りにかかった。
いつでも飛び出せる準備をしているし、拳銃も用意している。
二人は、何が何でも誘拐犯を捕まえる気でいた。
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- 45
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:44:02 ID:Zin/TujAO
-
−5−
問題の、二時が近づいてきた。
それまでは店には誰も入ってないし、誰も出ていない。
一度、仕入れを担当する業者であろう人が訪れたが、五分としないうちに
出て行ったし、誘拐犯の仲間でないことは、まず間違いなかろう。
そう考えると、ショボーンの来る前に既に犯人は中に入っているか、若しくは別の場所で待機しているに違いない。
トイレにも、店員以外は、近づいていないのだ。
(´・ω・`)「(どうやら、二時以降に訪れて、金を回収するつもりらしいな)」
おそらく、ショボーンの推理は、正しかった。
もし、先に潜伏し、伊達を襲うつもりなら、店員が店内にいるその誘拐犯を不審に思う。
ならば、誘拐犯は二時以降に来るとみて、まず間違いなかった。
( <●><●>)「あ、きましたよ」
(´・ω・`)「お?」
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- 46
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:47:01 ID:Zin/TujAO
-
指定された時間より二分早く、伊達の乗る黒い外車が着いた。
お抱え運転手はいない。伊達が、自分で運転したと見ていいだろう。
彼は、二個のボストンバッグをそれぞれ両脇で挟み、残り三つは重ねて持って店内に入った。
問題は、店員が間違えて持って行ったりしないか、だ。
しかし、コンビニを指定したのは相手だ、何らかの対策はあらかじめ講じてるだろう。
伊達は、急ぎ足で店から出て、大慌てで車に乗り込み、ショボーンの指示した通り、すぐに帰路に着いた。
ここからが正念場だ、と自分に言い聞かせるようにつぶやき、若手も肯いた。
見張り始めて、凡そ十分が過ぎた頃だ。
ショボーンは、店員用のバックスペースに通じる扉が、少し揺れたのを視認した。
不審に思い、ドアに手をかけると、同時に、彼らに緊張が走った。
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- 47
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:48:56 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「っ!」
コンビニの明かりが消え、店内の様子が、闇に溶けてみえなくなってしまったのだ。
不安が的中したショボーンは、すぐにドアを開け、コンビニまで一直線で駆けた。
若手も、彼に続いて全力で走った。
十秒もしないうちに店先に着き、自動ドアをこじ開けて、二人が入った。
すると、異様な光景を、彼らは目撃した。
(; <●><●>)「警部! 店員が、倒れています!」
(´・ω・`)「……誘拐犯だ、誘拐犯を探せ!」
店員が、もがいていた。
それも、泡をふいて、いかにも、苦しそうに。
.
- 48
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:52:16 ID:Zin/TujAO
-
( ;TдT)「くッ……ごえっ!」
( <●><●>)「大丈夫ですか!」
若手が、バックスペースに入る扉の手前で倒れている店員のもとに近づき、意識があるのかを、確認した。
まだ死んでいないのだが、もう手遅れだ、若手はそう察した。
もしかしたら彼は、犯人についてなにか知っているかもしれない。
だが、その証言を得られそうになかったのが、若手にとって口惜しかった。
店内に、この店員以外に人の気配がしなかったので、バックスペースに誘拐犯が
隠れているのではないか、そう思って、ショボーンが駆けだしたときだ。
そのバックスペースから、重い、金属製の扉が閉まるような音が、確かに聞こえた。
それが、バックスペースから店内に繋がる扉でない事は、すぐにわかった。
同時に、それが、店外に繋がる扉であるだろう、という予想も、おそらく当たっていた。
.
- 49
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:54:48 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「外だ」
自動ドアをこじ開けて、直ぐ様、外に躍り出た。
ショボーンは、コンビニについて詳しくないため、
バックスペースから店外に繋がる扉がどこにあるのかが、わからなかった。
しかし、音の出所からして、ゴミ捨て場のほうではないか、とショボーンは思った。
若手も、彼に続いて、外に出た。
ショボーンに続いて、ゴミ捨て場に向かうためである。
(´・ω・`)「い、いない……?」
( <●><●>)「この金網を、乗り越えたのでは?」
ゴミ捨て場の隣には、ショボーンの予想通り、バックスペースに通じるであろう扉があった。
関係者以外立ち入り禁止であるためか、通路として
一メートルの幅を確保するように、周囲には白い金網が張ってある。
この金網はブロック塀の上にあり、ブロック塀含め、これらの高さは
目測二メートル弱で、若手の言うとおり、乗り越えるには難しくない高さだ。
ショボーンは、金網に掴まり、そこから先の景色を、凝視して、舌打ちした。
.
- 50
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:56:53 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「まさか。ここから向こうに走ると、そこは住宅地だ。
. もし僕が誘拐犯なら、間違えても人家には向かわない……」
(;´・ω・`)「あっ!」
それを言ってから、ショボーンは顔を蒼くして、すぐにそこの扉を開いた。
やはり、重い金属製の扉だ。先程の音の出所は、おそらくここからだろう。
バックスペースに入ると、店長と思わしき人物は、いなかった。
こういった、コンビニでの夜勤の場合は、店員が一人でいることも多い。
ショボーンも、それについては知っていたのか、無人のバックスペースについては、なにも疑問を持たなかった。
彼は、すかさず、監視カメラのモニターを見た。
犯人が映っているかもしれないと思ったからだ。
しかし、すぐに驚愕した。
(;´・ω・`)「真っ黒だ! 電源がついていない!」
.
- 51
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:58:50 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「警部、外です!」
モニターは電源が消されており、店内の様子を見ることができなくされていた。
それを不審に思う間もなく、ショボーンは、若手と一緒に店内に飛び出した。
(´・ω・`)「おい、トイレを見ろ!」
( <●><●>)「はっ」
店員を踏まないように気をつけ、若手は、まっすぐトイレに向かって走った。
扉は、開いていた。
このことが、ショボーンにとっての不安を、的中させたものとなっていた。
(; <●><●>)「やられました! からです!」
と、若手は、トイレから顔を出して、大声で言った。
(;´・ω・`)「くそ!」
.
- 52
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:02:00 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンは舌打ちをした。
が、止まっている場合でもないため、ショボーンは出口に駆けた。
若手にも同行させる。
店外に再び飛び出して、ショボーンは辺りを見渡した。
(´・ω・`)「ワカッテマス、検問を張らせろ。警察と救急車も呼べ」
( <●><●>)「はい」
若手は、公園の傍(わき)に停めてある覆面パトカーに向かった。
その間、ショボーンは道路へ出た。
このコンビニは、一本の長い道路の傍にできた店で、駐車場を兼ねたおおきなコンビニであるほか、
コンビニの近くには、覆面パトカーの停めてある公園、歯科医、コインランドリーなどが見える。
深夜だから当たり前だろうが、どこも明かりがなく、閉まっている。
目撃証言には期待できなかったが、一つ、わかった事があった。
公園からコンビニを挟んで反対側に、車が停まってあったという痕跡を見つけたのだ。
長らく停車させてあったのか、排気ガスの臭いが、ショボーンの鼻をくすぐった。
また、真新しい、タイヤのこすれた跡もそこに見えた。
.
- 53
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:08:08 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンは、今回、誘拐犯を追うのを止めた。
なにぶん、こちらはシベリアの土地にさほど詳しくない。
無理に追ってコンビニを空け、更なる被害を呼ぶよりかは、
コンビニと死体について捜査するほうが、よほどよかった。
ショボーンは店内に入り、雑誌コーナーで、シベリアのホウエン地区、
特に、ここルグロラージ区近辺の地図をとって、代金をレジに置いて、覆面覆面パトカーのもとへ持って行った。
店員はもう助からない、ショボーンはそう思って、可哀想に思った。
誘拐犯によってとばっちりに近い被害を受けたのだ、浮かばれないに違いない。
と、そこへワカッテマスが駆け寄ってきた。
先程まで見られた焦燥は、すっかり取り払われていた。
( <●><●>)「シベリア県警に通報し、また、検問、救急車も頼みました」
(´・ω・`)「どうだった?」
( <●><●>)「パトカーと救急車はすぐに着きそうですが、検問には期待できないです」
と、ワカッテマスは、口惜しそうな顔をしみせた。
ショボーンは「まあ、待ってみなさい」とワカッテマスを宥め、
地図を一旦覆面パトカーに置いて、コンビニに戻った。
.
- 54
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:11:03 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「シベリアの土地が広大なのと、時間帯が時間帯のため
まして、この時間帯のホウエン地区には、渋滞するところなんてないのが、致命的でした。
その気になれば、森にでも逃げれますからね、ここからだと」
(´・ω・`)「それで、検問には期待できないのか」
ショボーンも、口惜しそうな顔をする。
二人は、コンビニに入り、被害者のもとへ駆けた。
しかし、泡をはいて、もうぐったりしている。
仕方ないとは言え、早速犠牲者を出したことに、ショボーンは、自分自身に、腹がたっていた。
(´・ω・`)「毒殺だな」
( <●><●>)「毒殺と言えば、裏に、食べかけの弁当がありましたね」
(´・ω・`)「調べるか」
ショボーンは、重い腰をあげ、店員に合掌し、バックスペースに入った。
先程はとにかく急いでいたため、あまりなかの様子は見ていなかった。
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- 55
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:13:17 ID:Zin/TujAO
-
パソコンや多くの書類が並べられているデスクの上に、弁当が広げられてあった。
店の弁当であるのは、容器を見るまでもなくわかる。
至極当然なのだが、逆にそれが、ショボーンにとって不思議だった。
(´・ω・`)「おかしいな。あらかじめ毒殺を図っていたわけじゃあないのか?」
店員が殺されたのは、間違いなく、二時以降だ。
それまで彼が生きていたのは、ショボーンたちが確かに目撃している。
だから、外部犯である可能性は、限りなく低いと言っていい。
しかし、弁当に毒を仕込むのには、バックスペースに入らないとできない。
他殺はまず間違いないので、店員以外の人間がこの弁当に毒を仕込まないと、だめなのだ。
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- 56
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:16:34 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「わかりましたよ、あの業者が犯人です」
若手は、あの、お弁当類を運んできた業者を疑った。
しかし、それはありえなかった。
業者は、店内に入りこそすれど、バックスペースには入っていないからだ。
しかし、あの業者に話を訊かなければならない、と言うのにはかわりなかった。
(´・ω・`)「毒は、おそらく即効性だ。彼が死ぬまでは、彼はよく動いていた。
. ……そう考えると、余計に不思議なんだよな」
ショボーンは、再び食べかけの弁当を見た。
米が半分ほど。梅干しもタネだけであり、惣菜の半分近くは既に食べられていた。
鳥の唐揚げと鮭が残っている。
その鮭は、半分ほど食べられていた。
(´・ω・`)「箸や弁当のふたにでも毒が仕込まれていたら、こんなに箸が進んでいるはずがないんだ。
. 一口目で死ぬんだからな。というのに、この害者は、半分近くは食べ終えているじゃないか」
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- 57
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:19:20 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「なにかの惣菜に限定して、毒を仕込んだのでは?」
(´・ω・`)「その場合、害者がその惣菜を残すと作戦が失敗するのだぞ。なにに仕込んだというんだ」
若手は少し考えた。
( <●><●>)「鮭が食べかけですから、これに仕込んでいたのではないのでしょうか。
鮭と言えば定番の惣菜ですから、仕込む惣菜としては、最適です」
(´・ω・`)「……調べるぞ」
ショボーンは踵を返し、再び、店員のもとへ歩み寄った。
口臭を嗅いでいる。
(´・ω・`)「アーモンド臭はしないが、こりゃだめだな」
( <●><●>)「きっと害者は、鮭を食べて、用を足すかなにかの目的で、トイレに向かおうとしたのでしょう。
しかし、バックスペースから出る前に毒がまわり、苦しくなった。
壁に凭れかかろうとして、手を掛けた先が、照明のスイッチだった。
こう考えれば、筋が通りますよ」
.
- 58
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:22:09 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「照明、か」
照明のスイッチは、バックスペースの扉のすぐ隣で、
冷暖房を管理するコントローラーの下に取り付けられてある。
手を掛ける位置としては、別段不思議ではなかった。
が、どこか、ショボーンは腑に落ちなかった。
すると、店の外に、何台かのパトカーと、救急車が同時に見えた。
なかから一人の若い刑事と、紺色の制服を着た鑑識が、ぶわあっと出てきた。
ショボーンは、刑事に挨拶に向かった。
相手も、すぐに気づいた。
(´・ω・`)「どうも、こんばんは。VIP県警の、ショボーンです」
( <●><●>)「若手ワカッテマスと申します」
(‘_L’)「手前、シベリア県警で警部を勤めているフィレンクトと申します。こんばんは」
やけに若い警部だった。
スーツの上に薄いベージュの服を着ており、背丈は一七五くらいか。
三十五、六歳のそのフィレンク警部トは、てきぱきと指示を下し、鑑識たちを動かした。
.
- 59
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:24:00 ID:Zin/TujAO
-
(‘_L’)「第一発見者はあなたたちですかね?」
(´・ω・`)「そうです」
(‘_L’)「いったい、なにがあったのでしょうか」
(´・ω・`)「僕たちは、とある事件の捜査でここに来ていたですが」
その語り出しで、ショボーンは、今までの経過について詳しく話した。
しかし、誘拐については話さなかった。
フィレンクトはふむふむと肯いて、手帳に、なにやら書き込んでいった。
(‘_L’)「では、害者が毒を盛られたのは、二時きっかりから五分までの間、とみてよろしいのでしょうか」
(´・ω・`)「おそらくは。ああ、それと、調べてほしいところがあります」
(‘_L’)「と、いうと?」
(´・ω・`)「照明のスイッチに付いてある指紋。
. それと、害者が食べていたであろう弁当の毒物反応です」
(‘_L’)「鑑識!」
.
- 60
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:24:45 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが言うと、フィレンクトは鑑識を二人、そっちに寄越した。
指紋のほうは存外早く、結果が出た。
しかしそれは、たいへん不可思議なものだった。
焦り顔の鑑識が、結果をフィレンクトに報告した。
すると、フィレンクトの顔が歪んだ。
(;‘_L’)「指紋が、拭き取られている?」
(´・ω・`)「なんだって?」
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- 61
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:27:31 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが、聞き返した。
しかし、指紋は、確かに拭き取られていたという。
ショボーンは、もしかしたら、誘拐犯が触っているのではないか
と思っていたのだが、それどころか、店員の指紋すらなかったというのだ。
これはおかしいのである。
ふつうは、店員の指紋くらいは、付いていないといけないのだ。
(‘_L’)「確か、ショボーンさんの話だと、一度、照明は消されたのですよね?」
(´・ω・`)「はい。間違いありません」
(‘_L’)「しかし、害者は手袋をつけてないし、近くに拭き取ったと思われるハンカチ類もない」
(´・ω・`)「……妙だ」
ショボーンが考え込み、しばらく、三人の間には沈黙が続いた。
フィレンクトは、ショボーンを疑っているつもりは、毛頭ない。
しかし、おかしいと言えばおかしかった。
.
- 62
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:32:30 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「犯人が、タオルで指紋を拭き取ると同時に、消したのかもしれませんよ」
(´・ω・`)「店員は、照明の消えた直後に、この扉の前で倒れていた。
. つまり、店員と犯人は、照明の消える直前に顔を会わせていたことになる」
( <●><●>)「毒で苦しんだ店員が、そこで、犯人と会ったのでしょうか?」
(´・ω・`)「……なんとも言えないね」
(‘_L’)「とにかく、この事件は、シベリア県警が捜査を担当するようですが」
(´・ω・`)「その事なんですけどね」
ショボーンは、にやっと笑んだ。
(´・ω・`)「どうやらこの事件、VIPとシベリアでの
. 合同捜査の必要性が出てくるかもしれないですよ」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第一章
「 誘拐事件 」
おしまい
.
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