329 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:32:08 ID:T4/ka7pMO
 


8章「入れ替わったもの」


.
332 名前:>>331訂正 ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:39:39 ID:T4/ka7pMO
 

ワカッテマスさんが、思わず声を張り上げる。
車輪がレールを蹴る音をもかき消す、いつにもまして大きな声が響き渡った。
しかし、ワカッテマスさんの声を聞いた上でも
警部から、彼が「シャキーンは嘗て他人が座っていた場所に居た可能性がある」と言う推理を曲げる様子は窺えない。


(´・ω・`)「消去法さ」

(´・ω・`)「言った通り、5列目以降は不可能だから除外。脅しを前提とするわけだから、1列目から3列目も除外」

(´・ω・`)「残ったのはA−4とB−4、5」

(´・ω・`)「B−4はくるうちゃんがいるからね、除外」

川 ゜々゚)「……」

警部が横目でくるうさんを見た、その時くるうさんは
先程までの言動とは打って変わって、静かになっている。



(´・ω・`)「さて、B−5だが……見ての通り、この通路は、広い。横幅2メートル弱はある」

(゚、゚;トソン「でも……」

( <●><●>)「……そこは空席ではないです」

(´・ω・`)「面倒だし名前決めとくか。仮名モラルね」



(# ;;- ) そ「!?」

(;` ω ´) そ「!?」



(;´・ω・`)「な、なに? なに? まさか実名?」


.

333 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:43:23 ID:T4/ka7pMO
 

(#゚;;-゚)「………いえ……しかし、なぜ、モラルに?」

(;´・ω・`)「アンモラル社長に似てるから、アン取ってモラルに……」

(#゚;;-゚)「………割り込み失礼、続きどうぞ」

(;´・ω・`)「やりにくいなぁ……」



警部が、ワカッテマスさんの反論を読み、その際、依然名前のわからないままだと面倒だからといって仮名をつけた。
すると、でぃさんとシャキーンさんの顔が、一瞬だけ強張った。
予想だにしない反応だったため、警部も思わずたじろいだ。


警部は一旦咳払いをする。
そして、説明に入った。


(´・ω・`)「モラル氏の死体が、ワゴンから発見されたのは知ってるね?」

(´・ω・`)「乃ち、ずっと席にいたわけではない」

( <●><●>)「ちょっと、それを言っちゃ、いろんな推理ができますよ。
         『事件当時、モラル氏が席をはずしていた』証拠を提示していただきたい」

(´・ω・`)「いいや違う、シャキーンさんがいたと思われる席がここしか考えられないんだから、
      したがってモラル氏も席をはずしていたと考えるしかないんだ」

( <●><●>)「……」


.
335 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:45:55 ID:T4/ka7pMO
 

(´・ω・`)「シャキーンさんがワラワラ草を見ていた件に話を戻すよ」

(´・ω・`)「眼球が痛んだということは、左列について長らくの間、窓の外を眺めていたことに繋がる」

(´・ω・`)「あとは『シャキーン氏が左列にいた』という証拠があれば……」

(`・ω・´)「………ワラワラ草は、私の、勘違いだ」




(゚、゚トソン「………」

(´・ω・`)「……トソンちゃん、なにか心当たりある?」

(゚、゚トソン「え?」


警部の言っている事は、こうだ。
シャキーンさんがまたんき氏を殺害できる可能性は、あった。
モラル氏が席をはずしている隙にA−4に居座り、銃を突きつけてまたんき氏を脅す。
しかし、あの揺れのせいで暴発、殺してしまった、と。
状況的に可能、だからあとは、実際にシャキーンさんが席をはずし
左列に向かったという証拠があれば、逮捕に決行できる、と。


.

336 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:47:27 ID:T4/ka7pMO
 

(´・ω・`)「ワラワラ草の矛盾に気が付いたトソンちゃんならわかるでしょ〜」

(゚、゚トソン「だって、警部がお茶かけた時しか見てないものでして……」

(´・ω・`)

(゚、゚トソン






(゚ー゚;トソン「あ!」

(;´・ω・`)「その手があったか!!」





( <●><●>)「なんですか急に……」

(;´・ω・`)「おい、至急シャキーンの“服”を確認しろ!」




――― シャキーンのとった、“左列への移動”のからくりがわかった!


.

337 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:52:00 ID:T4/ka7pMO
 

ずっと、彼ら警察の捜査がはじまってからも、私の脳内で渦を巻いて、気になって仕方ない事があった。

この列車がおおきく旋回し、遠心力で私たちが振り回されていた時、警部がペットボトルのお茶を取り出した。
キャップを捻ったと同時に、列車旋回を終えて直線に入り、思いきり私から見て右側――つまり通路側――に警部が揺れた。
中身のお茶にもその力が及んで、警部と一緒に飛び、B−7に座っていた“誰か”にお茶がかかったのだ。
その“誰か”はシャキーンさんだと聞かされたのだが、正直納得いかなかった。


がたいの良さがまるで違うし、その“誰か”の声は中途に高かったと記憶している。
そして、私がふと漏らした言葉に、私と警部は本能的に察知した。



「もし、あれがシャキーンではなくて、違う人と入れ替わっていたら?」


.

338 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:56:06 ID:T4/ka7pMO
 

(;`・ω・´)「ちょ、やめろ!」

( <●><●>)「……」


すぐに、ワカッテマスさんは警部に「服が濡れているか調べろ」と指示された。
意味がわからぬまま渋々調べたが、全体を調べ終えた後も、その顔は明るくならない。
警部が、はずれか、そう思った次の瞬間、ワカッテマスさんは半ば悔しさを垣間見せて言った。


( <●><●>)「……残念ですが、どこも濡れてなんかいません」

(´・ω・`)「…………」

( <●><●>)「いったい、どんな推理をし……」



「どんな推理をしたんですか」 そう言い切る前に、彼は口を止めた。
警部の顔から窺える「もしかしたら」が、顔を見ずとも判るほどに、強く感じられたからだ。


.

339 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 20:58:04 ID:T4/ka7pMO
 

ワカッテマスさんの問い掛けにやっと反応でき、
警部が口を開いたが、声のトーンは明らかに高くなっている。


(;´・ω・`)「………またんき氏の服も調べろ」

( <●><●>)「はい?」

(;´・ω・`)「ここからじゃ見えない、窓と面している部分…… 左半身だ」


そう言われ、再び彼は動いた。
またんき氏の席に足を踏み入れ、ゆっくり身体をずらして、指示されたまたんき氏の左半身を見た。
刹那、声にもならないような、疑問を乗せた声がでた。


( <●><●>)「……ん?」


.

340 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:01:24 ID:T4/ka7pMO
 

( <●><●>)「……なんでしょう、襟や左肩の部分が、少し濡れてます」

(;´゚ω゚`)「―――――ッッ!」

(; <●><●>)「な、なんですか?」

(;´・ω・`)「………なんてこった……」

(゚、゚;トソン「…やっぱり」

( <●><●>)「ヤッパリ?」





(;´・ω・`)「事件は……180度、ひっくり返った!」


(`-ω-´)「……」


.

341 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:03:58 ID:T4/ka7pMO
 

濡れているはずのシャキーンさんの服が濡れていなくて、
濡れているわけがないまたんき氏の服が濡れている、この事実。

これが意味するところの――私はなぜこうなるのかがわからないのだが――結論は、でた。



(´・ω・`)「……シャキーンさんのいた席がわかった。A−4ではない」

( <●><●>)「観念しましたか。ところで、あなたはさっきからなにを……」

(´・ω・`)「A−5。シャキーンさんは、そこに座っていた」

( <●><●>)「はぁ。だから、あなたはいったい……」





(; <●><●>)「……今、一番あり得ない席を提示された、そんな気がしたのですが」

(´・ω・`)「A−5、そこが、シャキーンさんの席だ。間違いない」

(; <●><●>)「なんですって!?」


.

342 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:06:18 ID:T4/ka7pMO
 

(#゚;;-゚)「しかし、そこはまたんきさんが……血を流して倒れています!」

(´・ω・`)「付け加えるとするなら、『元々』シャキーンさんの席だった、というべきか」

(#゚;;-゚)「………え?」


でぃさんも、随分腑抜けな声が出たものだ。
しかし、それも仕方がない。


というのも、だ。
あの時、警部はお茶をこぼした、それは間違いない。
それで“誰か”が濡れた、というのも事実。
問題は“誰か”なわけで、これがシャキーンさんなら問題ない。


.

343 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:08:59 ID:T4/ka7pMO
 

ここで、以下のふたつの事実が発覚する。
・シャキーンさんは濡れていない。
・またんきさんが濡れている。
以上の条件から導き出されるひとつの真実、それは、こうだ。



(´・ω・`)「シャキーンとまたんき、ふたりは席を入れ替わっていた!」

(; <●><●>)「いやいやいや……おかしいでしょ!
        いつ、入れ替わったのか。なぜ、入れ替わる必要があったのか。
        そしてどうして、それをお互い了承したのか。
        ……様々な問題が浮かびます」

(´・ω・`)「おまえ、何年刑事してるんだ」

(; <●><●>)「……?」

(´・ω・`)「事実を繋げた上で生まれる不可解は、ひとつの真実への鍵なんだ。
      たとえ不可解だろうが、それらには必ず理由がある。それを考えろ」

( <●><●>)「………」


( <●><●>)「センパイ、ふたりが入れ替わっていた事実、どう見ますか?」

(´・ω・`)「……ふむ」


.

344 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:11:54 ID:T4/ka7pMO
 



(`-ω-´)「…………」

(´・ω・`)「おい、シャキーンさんよ」

(`-ω-´)「………なんだ」

(´・ω・`)「認めるのか? この不可解を」

(`-ω-´)「……」


目をつむり、さながら瞑想でもしているかのようにして呼吸を整え、静かにしている。
揺れに身を任せ、身体を揺らしている。
警部の問いに、やっとこさ目を開き、言い切った。


(`・ω・´)「認める……しかないのだろう?」

(´・ω・`)「諦めがいい子は、嫌いじゃないぜ」

(; <●><●>)「し、しかし……なぜ!」

(`・ω・´)「おい若造、センパイの教えを早速踏みにじるのか。自分で考えろ」

( <●><●>)「………」


すぐにワカッテマスさんは目をつむり、顎に手を当てて考える仕草を見せる。
その隙に警部がシャキーンさんに詰め寄った。
互いに目つきが怖い。


.

345 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:16:18 ID:T4/ka7pMO
 

(´・ω・`)「銃が見つかった時のあの驚き……このせいか」

(`・ω・´)「なぜそう思う」

(´・ω・`)「ちったァ、僕の脳内に浮かんだからね、不可解を打破する情景が」

(`・ω・´)「………」

(´・ω・`)「……シャキーン」

(`・ω・´)「無駄話はそこまでだ。若造を見ろ」


ワカッテマスさんは、顎にあてていた手をおろし、
いつにもまして真顔で、仁王立ちしていた。



( <●><●>)



(´・ω・`)「ワカッテマス、どうした」

( <●><●>)「私の推理は固まりました」

(´・ω・`)「そうかい。で、犯人は――」




( <●><●>)「シャキーン、あなただ」




(´・ω・`)「!」

(`・ω・´)「!」


ワカッテマスさんの瞳が、今日一番の煌めきを見せた。
警部もシャキーンさんも、僅かながらではあるが、驚愕を露わにしている。


.

346 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:20:04 ID:T4/ka7pMO
 

ワカッテマスさんは、腕組みをし、そのまま右手で深緑のコートを握りしめている。
顰めっ面のまま、目を細め、シャキーンさんに一瞥を与える。
そして、淡々と、ワカッテマスさんの推理ショーがはじまったのだ。


 まず、あなたはA−5に、またんき氏はB−7に座っていた。
 が、今は逆となっている。入れ替わった事実、ここまではいい。

 では、問題は、いつ入れ替わったか。
 言うまでもない、トイレ前での交戦時。
 ナイフを交えたのち、先にまたんき氏が帰り、あなたは傷を癒してから一号車に戻った。
 そのとき、あなたは目を疑ったはずだ。
 自分の席に、あろうことかまたんき氏が座っているのだから。

 今のまたんき氏の席の鞄に銃がある、言い換えれば、元のあなたの所持品に、銃があるわけだ。
 それを見られてはまずいのだが、見られてしまった。
 その時シャキーン、あなたは咄嗟に銃を取り返し、胸にあてた。
 そのまま口止めを要求するも、同時に起こった揺れ。
 誤って射殺したあなたは、見つかってはまずいと思い、コートを弾痕の上から隠すようにして服装をただして、銃を置いていった。


( <●><●>)「違いますか?」

(`・ω・´)「どうしても、私を犯人に仕立て上げたいようだな」


.

347 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/08(土) 21:21:22 ID:T4/ka7pMO
 

(´・ω・`)「………おいワカッテマス」

( <●><●>)「はい」


長いワカッテマスさんの推理を、一字一句聞き逃さず警部は頭に叩き込み、一旦間を挟んだ。
ぼやくシャキーンさんをよそに、警部は面と向かってワカッテマスさんと対峙した。


(´・ω・`)「その推理以外に、シャキーンさんが殺人を犯せる状況は存在しないのか?」

( <●><●>)「おそらくは。今の推理以外、殺すタイミングが存在しない」

(´・ω・`)「なら………」




「シャキーンさんは犯人ではない」


警部がそう言って、再び車体が揺れた。
揺れたのは列車だけではなく、ワカッテマスさんのメンタルもだった。
彼のメンタルが、揺れ動き始めていた。
考えてみれば、それは当然だったのだ。


.
349 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:25:47 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「当然、殺したのは2度起こった揺れのうちのどちらかとなる」

( <●><●>)「そして、1度目以降というのは警部と都村さんが証明しています」

(´・ω・`)「その時はまだ席が替わってなかったからねぇ」

(´・ω・`)「……そして、2度目の揺れの時、そう言ったな?」

( <●><●>)「なにか問題が?」

(´・ω・`)「問題もなにもさぁ……その時の状況を思い出してみろ」



(#゚;;-゚)「あ」

(´・_ゝ・`)「確かその時はアレですね、警部さん」



( <●><●>)「?」


ワカッテマスさん以外、皆が頷いていた。
少しして、まだわからないか、と警部が言った。


.

350 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:27:35 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「その時は、おまえ含めて皆で捜査に明け暮れていたんだぞ」

( <●><●>)「…………」



(; <●><●>)「………! あああッ!」


2度目の揺れ、それは確か、40分をまわっていた。
ワカッテマスさんとワカンナインデスさんが乗り込んできて、皆を落ち着かせて、捜査。
ワゴンの件で、警部がでぃさんと言い争っていた時のような気がする。
それをふまえてワカッテマスさんの推理を見直すと、とんでもない欠陥が生じる。


(´・ω・`)「あの場面で殺すってか? バカも休み休み言え、その時はもう入れ替わった後だ!
      そしてその時には既にまたんき氏も息を引き取っていた!」

(; < ><●>)「ぐッ……しかし、シャキーンが犯人でないなら……」


.
352 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:29:50 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「1度目の揺れでもない、2度目の揺れでもない。しかし、あと一度、チャンスがあったはずだ」

(; <  ><●>)「しかし、揺れは2度までしか……」

(´・ω・`)「なにも、人を銃で殺すのに轟音が響く必要はない」



(;´・_ゝ・`)「わかりましたよ警部さん、あの銃声ですね!」

( <●><●>)「………!」



(´・ω・`)「銃声が鳴ったのは事実。消去法で考えるなら、あの時しかない」

(´・ω・`)「犯人は、銃声が鳴って刑事たちが乗り込むまでの間に、犯行を済ませたのだろう」

( <●><●>)「……」


.

353 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:32:39 ID:Qfzfk0O.O
 

(゚、゚;トソン「でも、あの時はシャキーンさんはじっとしてました!」
(
;´・_ゝ・`)「僕はのほほんとしてました!」

(゚、゚;トソン「知るか!」




(´・ω・`)「唯一殺人が行えた場面にてじっとしていた以上、シャキーンさんに犯行は不可能だ」

(´-ω-`)「………またんき氏に関しては」

(`・ω・´)



(;`・ω・´)「……ハ?」


当然の疑問符だった。
先程から、警部はただでさえ論点があやふやで、推理の対象が定まっていない。
その上、いきなりもうひとつの事件の存在を提示されると、当然シャキーンさんも動揺する。


.

354 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:34:15 ID:Qfzfk0O.O
 

もうひとつの事件、それは、モラルと仮名を付けられた、名もなき死体の殺人事件だ。
一度、ワカッテマスさんが推理したものの、それは論破された。
警部の手によって。
しかし、それが、その警部によって再び重要視される事になる。


(´・ω・`)「入れ替わった事実、それは覆せない」

(´・ω・`)「じゃあ、なぜ入れ替わったのか……まだ訊いてない」

(´・ω・`)「それを考えると、どうも、モラル氏の事件が気に掛かる」

(`・ω・´)「………」


.

355 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:36:17 ID:Qfzfk0O.O
 



(´・ω・`)「………もっとも」

警部が腕を組んだ。
しきりに首をたてに揺らして、如何にも探偵のように振る舞っている。


(´・ω・`)「考えてみれば、入れ替わった事実を、彼は隠していたかった。
      それは数多くの証拠が物語っている」

( <●><●>)「して、その証拠とは」

(´・ω・`)「まずは持ち物検査だよ。ふつう、鞄に銃が入っていれば、捜査は拒むはずだ」

(´・ω・`)「しかし、すんなりと認めてくれた。……そして、銃は見つかった」

(´・ω・`)「あの驚き様、ちょっと、おかしいと思ってたんだ。明らかに、動揺し過ぎている」

(´・ω・`)「もしここで『二人は入れ替わっていた』という前提を加えると、それも解決するんだ」



(´・ω・`)「『まさか、またんきが銃を持っているはずがなかろう。見せてもさして問題はない』……ってね」

( <●><●>)「!」


.

356 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:37:39 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「しかし、それにはシャキーンさん側にも、ある前提が必要となる」

(´・ω・`)「『俺の鞄には銃が入っているが、またんきの鞄を俺のものとしてしまえば、銃刀法から逃れられる』と」


またんき氏とシャキーンさんは、入れ替わっていた。
しかし、鞄は入れ替わっていなかった。
それを利用した、彼なりな作戦だった、という。
しかし、まだ、本題には入っていないためか、休まず警部は続けた。

.

357 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:39:16 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「シャキーンさんが拳銃を持っていた、と、こんな前提が加わるわけだが……」

(´・ω・`)「ワカッテマス、ここにふたつの拳銃がある」

( <●><●>)「……はい」


A−5から見つかった、1発撃たれた拳銃。
B−7から見つかった、2発撃たれた拳銃。
ふたつを警部が持ち、掲げた。


( <●><●>)「………その前に、鞄が入れ替わってない、どこを見てそう判断できるのですか?
         A−5の鞄が、またんき氏のである可能性がある」

(´・ω・`)「いま言ったじゃん。シャキーンさんの異様な驚き様から……」


.

358 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:41:15 ID:Qfzfk0O.O
 

( <●><●>)「………A−5の鞄は、あなたのですか?」

(`・ω・´)「………」


警部からの質問を一旦よそに、ワカッテマスさんはシャキーンさんに、そう訊いた。
訊いたのはいいが、いっこうに答える気配がしない。
少しして、諦め、本題に戻った。


( <●><●>)「……そりゃあ、A−5でしょう。もともとここがシャキーンさんの席であるならば」

(´・ω・`)「こっちは、1発だけが撃たれている。
      当然、またんき氏とモラル氏の両者の銃殺は不可能だ」

(´・ω・`)「そして、またんき氏の殺害は難しい、そう考えると、自ずと答えは見えてくる」

(`・ω・´)


.

359 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:44:10 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「死体はワゴンの中に隠されていた、そして、彼は現場に訪れている」

(´・ω・`)「動機が謎な、座席の入れ替わりも、トイレ前から戻った時だ」

(´・ω・`)「なんの因果かねぇ……トイレ前での行動がわかれば、全てがわかるんだ」



(´・ω・`)「……今度こそ、嘘偽りなく話してもらうぞ」

(`-ω-´)「…………」


目を瞑った彼は、舌打ちを一度して、かっと警部を睨んだ。
今日で何度目になるだろうか、再びふたりは険悪なムードになる。
しかし、警部曰く、推理は佳境に入った、と言う。
そろそろ、事件をひっくり返す何かが、顔を出すのかもしれない、私はそう思った。


(`・ω・´)「言うがな、私はさっきの証言が、すべて真実である以上、更に語ることはない」

(´・ω・`)「さっきのって、トイレ前でまたんき氏とナイフで……の下りか」

(`・ω・´)「あの数十分……いや、もっと短かったかな? その時間内にて
      交戦から血痕の隠滅、傷の応急処置に加えて殺人・隠蔽するのまでは無理だ、
      とあんたが言ったろう。これ以上なにを言う必要がある」


.

360 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:46:26 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「それは、あんたの席がB−7だと思ってたからだ」

(´・ω・`)「B−7ではなかった、そうなると、条件が違ってくるんだよ」

(`・ω・´)「条件?」

(´・ω・`)「そもそも、トイレに向かった時間を特定できた根拠は、なんだ?」

警部は少し大きな声でそう問いかけた。
私に振られているのかと思い、咄嗟に手を挙げる。


(゚、゚トソン「あ。お茶、お茶です」

(´・ω・`)「そう。お茶をこぼした時の時間より後、というのがわかっていたから、20分以降というのがわかったんだ」

(´・ω・`)「しかし、お茶の被害者はシャキーンさんではない、またんき氏だ」

(´・ω・`)「つまり『シャキーンは20分以降にトイレに向かった』というアリバイが、崩れたんだ!」



(`・ω・´)




(`・ω・´)




(;`゚ω゚´)「…………あ」


.

361 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:48:23 ID:Qfzfk0O.O
 

(´・ω・`)「白状しろ!
      ほんとうは、何分にトイレに向かった!」

(;`゚ω゚´) そ「…! ……ッ!」



(;`・ω・´)「20分以降だ!」

(´・ω・`)「証拠がないよねぇ!?」

(;`・ω・´)「都合よく証拠なんてあるわけねーだろ!」

(#´・ω・`)「ほぉら、証明できない! 証言してもらうぜ!」



こうして、ふたりは尚もヒートしっぱなしなのだが、どうも周りは、それについていこうとしていない。
かく言う私も同じで、ただ不安に駆られ、呆然としているだけだった。
ワカッテマスさんもそれに嫌気を感じたのか、止めに入った。


( <●><●>)「警部、すみませんが状況を整理したいので、なにがわかったのか、お願いします」

(#´゚ω゚`)「あぁん!?」

(´・ω・`)「………」

(´・ω・`)「あ、三行で言ってほしい?」

( <●><●>)「過不足なくお願いします」


.

362 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:50:03 ID:Qfzfk0O.O
 

警部の言った事を要約すると、だ。
まず前提として、ふたりが入れ替わったという事実を心の隅に置く。

話は大分戻るが、シャキーンさんにモラル氏の殺害が不可能だと思われた理由、それはただひとつだ。
「用を足して、またんき氏と交戦、飛び散った血を拭いて、傷にアーボンオレンジを塗った」までは十分前後で行えても、
「ワゴンの秘密を知り、モラル氏を殺して、なかに詰め込む」までするとなると、到底十分では収まりきらない。
それは逆に考えると、時間があれば、彼にも殺害のチャンスはあったという事だ。


.

363 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:52:14 ID:Qfzfk0O.O
 

そして、どうしてシャキーンさんに時間に関するアリバイがあるのか、と言うと、
警部のミスでお茶が飛び散ったが、その時にはB−7には人がいて、
そのB−7はシャキーンさんの席だ、
お茶のこぼした時間、その時にB−7に人がいたと証明できたから、彼がトイレ前に向かった時間が特定できた。


その条件が、崩れた。
お茶のこぼした時にB−7に座っていたのは、斉藤またんき。
シャキーンさんが、その時に一号車にいた、というアリバイは、なくなったのだ。
お茶の一件より以前にトイレ前にいたなら、モラル氏の殺害も可能だったはずだ、という。


( <●><●>)「………」

(´・ω・`)「ワカッテマスは、どう思う」

( <●><●>)「……警部、ひとつ疑問があります」

(´・ω・`)「いいよ、言っちゃってー」


.

364 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:54:56 ID:Qfzfk0O.O
 

シャキーンさんに勝ったつもりなのか、警部は、すっかり上機嫌になっていた。
今思えば、ワカッテマスさんの怪訝な顔を見ても尚、警部は安堵で満ちあふれていたのが、失敗だったんだ。


( <●><●>)「すなわち、仮にモラル氏を殺害した、そのまままたんき氏と交戦して一号車に戻ってきたなら……」

( <●><●>)「銃は、どうなるんです?」

(´・ω・`)「……………え?」

警部の顔から、余裕の色が消えた。


( <●><●>)「いやだから、モラル氏殺害後一度も自席に着席せず、
         そのままB−7に戻ったなら、彼の銃はB−7にあるはずです」

( <●><●>)「A−5から見つかった銃がシャキーンさんのものだ、と仮定している以上、これは決定的な矛盾です」

( <●><●>)「推理がこじれちゃってますよ」



(´・ω・`)「……」




(´・ω・`)「…………」


.

365 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:56:30 ID:Qfzfk0O.O
 

(;`・ω・´)「ほ、ほれ見ろ!」

(´・ω・`)「………」



ワカッテマスさんが、徐々に体勢を変える。
姿勢よく直立していた状態から、座席頭部に腕をかけ、体の向きを変えている。


( <●><●>)「シャキーンさんに焦点を合わせるから、推理がぐちゃぐちゃになるんです」

( <●><●>)「……もうひとり、容疑者がいるでしょう」


.

366 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/10/09(日) 15:59:31 ID:Qfzfk0O.O
 

そう言って、今の今まで静かにして、話にあまり加わらなかったでぃさんを見たワカッテマスさん。
ゆっくりと彼女の方に体を向け、腕を組んで、じっと彼女を睨んだ。
でぃさんは実に落ち着いていて、先程まで顔から窺えたはずの怯えは、いつの間にか取り払われていた。


(#゚;;-゚)




( <●><●>)「椎名でぃ、あなただ」

(#゚;;-゚)






 イツワリ警部の事件簿
 File.1

 (´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです

 8章
  「入れ替わったもの」

    おしまい



.

戻る

inserted by FC2 system