249 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:47:04 ID:4y1kKI2.O
 


7章「移りゆく推理」


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250 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:49:36 ID:4y1kKI2.O


私は、その言葉を聞いたときは耳を疑った。
今目の前にある被害者の持ち物から新たな拳銃を発見、それは一発どこかで発砲されていた。
放たれた弾はこれで合計3発も確認された。……否、確認されたのは1発だけだ。
残り2発は未だ所在不明、しかしここで死体が発見されたと報告を受ける。


(; <●><●>)「銃殺です。胸の辺りを……一発。
        即死と思われます」

(;´・ω・`)「銃で命を絶たれた2つの遺体、
      それが別の場所で発見された……か」


残り2発のうち1発、それは別の場所で
発見された遺体、そこに撃ち込まれていた。

問題は発見された場所。
そこは、ワゴンだ。


.

251 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:51:11 ID:4y1kKI2.O


先ほどまで目の前で悠々と駒を転がしていたワゴンに、死体があったという。
そして、皆のこの慌て様。
私は事の重大性をやっとこさ把握し、震駭した。


(´・ω・`)「……あ、でぃさんは?」

( <●><●>)「連れてきたんですが……」


彼の後ろに人影が見えた。
彼がさっと道を譲るも、その人は動かない。
身体を両手でくるみ、異様なまでに震えている。

((# ;д ))「………」ガタガタガタ



( <●><●>)「ご覧の有様です」

(´・ω・`)「詳しく聞こうか」

( <●><●>)「彼女が上の人に承諾を得てワゴンをこちらに持ってこようとしていた時に私と合流、
         彼女が躓いてワゴンが倒れたのですが、その衝撃でワゴンの内部から死体が現れたのです」

(´・ω・`)「つまりは、ワゴンの内部にはなにかを
      隠せる程の空間があったんだな?」


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252 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:52:52 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「ええ。それらを持ってきています」

彼がそう言うと、怯えているでぃさんの後ろからワゴンを引っ張ってきた。
乱れたクロース、随分散乱したお菓子に、胸から血で溢れている遺体。
一目見るだけで、それがただ事ではないことを察するのは容易かった。


(  ∀ )


(´・ω・`)「………ん? おい、これ……」

( <●><●>)「お気づきですか。実はこの遺体……」



警部が異変……というより、なにかに気づく。
待っていたと言わんばかりに、ワカッテマスさんが
補足をいれるべく、遺体であるアンモラル社長に指をさし、言った。


( <●><●>)「この2つの遺体、顔が瓜二つなのです」



(  ∀ )

( ∀  )



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253 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:56:03 ID:4y1kKI2.O


あまりそのワゴンから現れた死体を凝視すると、また気を失いそうになりかねない。
私は目をそらし、ふたりの会話だけに耳を傾け状況把握につとめた。


新たに見つかった死体、その特徴は
ひとつ、胸に銃弾を撃ち込まれていること。
ひとつ、顔がアンモラル社長と似ていること。
ひとつ、服装も(血の量を除き)アンモラル社長と似ていること。
ひとつ、香水の香りがしたこと。


震えに震えるでぃさんをワカッテマスさんが宥める。
少しずつだが、彼女を襲う恐怖は和らいできたそうで、
一号車乗客が状況を把握できそうな頃には、言葉を話せるまでには回復していた。


(#゚;;-゚)「……失礼」

( <●><●>)「落ち着きました?」

(#゚;;-゚)「は、はい……たぶん」


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254 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:57:27 ID:4y1kKI2.O


その言葉を聞き、彼女は腹の前で両手をあわせ深々とお辞儀をした。
少しふたりの間に沈黙が生まれるも、それを破ったのはどちらでもなく、警部だった。
やや怖い顔をしていて、怒りを露わにしているのはすぐにわかった。


(´・ω・`)「……ワゴン、調べさせてもらうよ」

(#゚;;-゚)「………」



(# ;;- )「もう、どうでもいいです」


その言葉を聞き、警部はワゴンの前に座り込んだ。
でぃさんにあっち行けのハンドサインを与え、同時に
アイコンタクトでワカッテマスさんをその場に呼んだ。
彼も同様に警部の隣に座り込む。


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255 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 12:59:13 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「……なるほど、このワゴン、ほかの会社のものとは造りがまるで違う」

(#゚;;-゚)「一応企業秘密ですから。普段はクロースをかけてるのです」

( <●><●>)「企業秘密?」

(#゚;;-゚)「はい。最近、ニュー速鉄道の方が需要が
     伸びつつあるので、こちらは機能性、内面で勝負すべく」

(#゚;;-゚)「だからニュー速鉄道の台頭以降、社内にて
     いろいろと箝口令が敷かれているのです」

( <●><●>)「箝口令……ですか」


箝口令《かんこうれい》、簡単に言えば、特定の情報を外部に漏らされないよう内部の人間に釘を刺すこと。
昔警部に聞いたことがあるのだけど、とにかくこれは情報規制の基本ということらしい。
ワカッテマスさんが復唱し、でぃさんに確認をとっている。


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256 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:01:28 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「つまり、ワゴンを見せられなかったのは?」

(#゚;;-゚)「はい。お察しの通りで」


「ふーん」とすら言わない警部、彼は慎重かつ大胆にワゴンを調べ始めた。
私もなるべく事件の内容を把握したいので、
席から顔だけをワゴンに向け、警部と同じ箇所に視線を遣る。


最初にこれを見たときに思ったのが、ワゴンが他社のそれに比べ一回り大きいことだ。
二段構造になっていて、ボディ下部から10センチ離して
取り付けられた針金部分にお菓子が置ける構造になっている。
針金部分にお菓子を置き、ボディの部分にもたれるようにして
配置することで、多くの商品の陳列を成功したとのこと。
また、ボディの部分にはクロースが敷かれており、お菓子は
クロースの上からボディにもたれかかっていることになる。


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257 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:03:09 ID:4y1kKI2.O


皆がこれをワゴンと呼ぶが、実際のワゴンとは違う形状で、
聞いたところ、オオカミ鉄道が特許の許可を申請しているほどの代物らしい。
ワゴンサービスに力を入れている珍しい列車ゆえ、箝口令が敷かれるのはいわば必然だった。


( <●><●>)「乗務員室に放置していたと把握しておりますが、
         それほどの機密事項なら放置はまずいのでは?」

(#゚;;-゚)「………あ、厳密に言うとあそこは車販準備室です。
     都合上、乗務員室と兼用ですが。
     あそこが開放空間になっている理由は、明かせません」

( <●><●>)「むぅ」


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258 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:04:57 ID:4y1kKI2.O


(#゚;;-゚)「元々当社はワゴンサービスは行っておらず、ちょっとしたビュッフェを設けておりました。
     しかし当列車は揺れが厳しいという問題があったのでワゴンサービスに変更、
     当時のビュッフェのあったスペースがそのまま車販準備室となったのです」

( <●><●>)「なるほど」

(#゚;;-゚)「ただ……以前からあのスペースはちいさなお子様方にいい遊び場にされてしまっていて、
     近々改装が余儀なくされていました」

(#゚;;-゚)「しかし、ただでさえ予算が危ういため、常に誰か
     乗務員を待機させる事で補っていたのですが……」


(# ;;- )「……今回の事件で、おそらく改装は決定事項になるでしょう」

( <●><●>)「なぜそれが嫌なのですか?」

(#゚;;-゚)「………狭いところが、怖いのです」

( <●><●>)「閉所恐怖症ですか……これは失礼」


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259 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:07:32 ID:4y1kKI2.O


ボディに敷かれているクロースを払いのけると、中には
ガラス一枚を隔ててちょっとした空間が広がっていた。
ボディの中は空洞となっているわけだ。
ぱっと見保温性に優れていて、おそらくは弁当類をここに詰めるのだろう。

販売の時、ワゴンの持ち手の下部に備え付けられた取っ手を
下にスライドさせることでこの空間に繋がり、弁当を取り出せる。
このスライド式の扉はボディ部の一番下までおろすことができ、
目一杯開くと、人を一人押し込めるには充分な幅となる。
しかし今、弁当は詰まっておらず、空間の底には血が垂れていた。

遺体が無理やり詰め込まれたような姿勢で入っている。
そして香水と血の混ざった、嫌な臭いが鼻の奥底を攻撃する。


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260 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:08:43 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「確かに、従来のワゴンとはえらい違う構造だな」

(#゚;;-゚)「ビュッフェの廃止と同時期にこのワゴンが出来上がったのです。
     クロースをかければ見た目は普通のワゴンですから、車内販売はこれでいこう、と決まって」

(゚、゚;トソン「(クロースを敷いても普通じゃないと思うけど……)」



(´・ω・`)「ワカッテマス、遺体を出すぞ」

( <●><●>)「写真は撮ってますのでいつでもどうぞ」

(´・ω・`)「だからケータイの写真は……まあいいよ」


ぶつくさ文句を呟きながら、遺体を中から引っ張り出した。
私は横目で見ているので詳しくはわからないが、遺体から
血が溢れ出ることはなく、今は少々滴る程度にしか流れてない。


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262 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:10:53 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「……妙だな」

( <●><●>)「妙なのは出血の量、でしょうか」

(´・ω・`)「そりゃそうだ。
      胸撃たれてこんなちょっとの……」

( <●><●>)「おかしいのはそれだけではないです。
         よく背中を見てください」


ゆっくり、床に寝かせた遺体を俯せにする。
コートの上から切り傷が少し確認できるが、それくらいしか異変が思いつかない。


(´・ω・`)「切り傷か。あっちの遺体とそっくりだ」

( <●><●>)「まあそれは偶然でしょう。それより……」


しかし、その異変こそが異変であることを、ワカッテマスさんが説明した。

( <●><●>)「弾が、貫通してないのです」

(´・ω・`)「……あ」


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263 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:13:16 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「弾丸を摘出できて、なおかつ型が崩れてなければ線条痕を調べるのですが……」

( <●><●>)「おそらく骨に直撃して型がひしゃげてるでしょう」


線条痕《せんじょうこん》とは。
本来弾丸は銃から放たれる際、銃内部のライフリングという
螺旋状の溝によって、弾丸表面に傷跡がつく。
その跡の事を線条痕というのだが、これを調べれば、
どの銃から撃たれたかをぴたりと特定できるのだ。

これも警部からの入れ知恵ではある。



(´・ω・`)「……火傷の痕は、ないか」

( <●><●>)「硝煙反応を調べないとわかりませんが、
         零距離から撃たれたわけではなさそうですね」

(´・ω・`)「………」


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264 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:14:43 ID:4y1kKI2.O


遺体を仰向けに寝かせ直し、警部がしきりに弾痕部分を嗅いでいる。
少しして、顔を歪めた警部が言った。


(´・ω・`)「くそ……香水の匂いが染み付いていて硝煙を嗅ぎ分けれない」

( <●><●>)「まあ、今重要なのは検死結果ではないはずです」

(´・ω・`)「それもそうだがなぁ」


腑に落ちない、と口には出さずも顔面いっぱい使ってそう表現している警部が重い腰をあげた。
遺体を見下ろし、顎に手をあてて考え込んでいる。



すると、急にワカッテマスさんがとんでもないことを言い出した。




( <●><●>)+「……しかし、これで犯人は特定できたも同然です」




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265 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:16:18 ID:4y1kKI2.O



特徴的な目を一際光輝かせて、そう言い放った。
目に迷いが窺えない以上、この人は本気でそう主張したのだ。



(;`・ω・´)「……なに?」

(;´・_ゝ・`)「だ、誰なんだ!?」

(゚、゚;トソン「ホントですか!?」



( <●><●>)「考えてもみなさい。この、ワゴン内部から
         遺体が発見されたという、極めて異例な事態を……」

(#゚;;-゚)「!」


ワカッテマスさんはでぃさんの方に目を遣った。
何のことかわからない、そう言いたげなでぃさんは
睨まれた瞬間、少し身体をびくつかせた。
目が若干潤んでいる。


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266 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:16:59 ID:4y1kKI2.O


(゚、゚トソン「つまり……でぃさんが、ってことですか?」


私は、誰しもがそう推理するであろう結論を言った筈なんだ。
しかし、彼は首を縦ではなく横に振った。


( <●><●>)「違いますよ」

(#゚;;-゚)「え?」

(゚、゚トソン「は?」



( <●><●>)「まだわからないのですか?」




( <●><●>)「……シャキーン、あなただ」



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267 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:18:17 ID:4y1kKI2.O


(;`・ω・´)「なっ!? そこの女じゃないのか!?」

当然ながらも、肯定はしない。
すぐに否定し、私と同じくでぃさんに疑いの眼差しを向けるよう言う。
しかしワカッテマスさんは目を見開いて続けた。



( <●><●>)「状況を考えなさい。
         事件発生は、おそらくあなたが席を離れた十分ほどの間だ」



「私の推理はこうだ」
そう言って、彼はまさしく立て板に水と言えるほど饒舌になって語った。


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268 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:20:32 ID:4y1kKI2.O



 まず、あなたは二十分から三十分までの間にトイレに向かった。
 そこで例のまたんき氏とナイフで交戦、トイレに避難。
 そしてトイレからでて、今度はこの今は亡き人と鉢合わせしたのです。
 理由はいざ知らず、咄嗟に銃で撃ってしまった。

 当然ここで彼は絶命、しかしそのトイレ前は人通りが多い場所、更に車販準備室もあるわけだからいつ誰が来るかわからない。
 そこで思いついたのが、このワゴンだ。
 血を拭き去り、急いでこのワゴンの中に遺体を押し込んだ。
 その時に……都村さん、彼女が訪れたのです。
 シャキーンさん、あなたのような大柄な男性もワゴンの陰に隠れれば姿は見えません。

 では、その陰でなにをしていたのか?

 遺体を押し込み、一時的にだが隠滅を図った。
 そして見つからないうちに撤収しようとすると
 トイレからでた都村さんに遭遇、そのまま席に着いた。



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269 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:23:00 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「どうです? 違いますか?」

(;`・ω・´)「ぐぬぬぬぬぬぬ………」



一通り話し終えると、シャキーンさんは悶えていた。
反論したいが反論ができない、反証に移りたいが証拠がない、そんな様子だった。
確かに、ぱっと聞いた感じでは筋が通っている。
私がトイレに訪れた時彼を見つけられなかったのも、その間の
行動と動機も、きちんと筋が通っているように思えた。
ほかの皆も、この推理は別段おかしくない、そう思っただろう。


ただ一人、警部を除いて。



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270 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:25:20 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「ワカッテマス、お前しばらく見ないうちに推理力が劣ったんじゃないか?」

( <●><●>)「なんですって?」

(´・ω・`)「穴だらけだっつーの!
      べろべろばー!」

( <●><●>)「………警部、今の私の推理におかしい点などあるはずが―――」



(´・ω・`)「交戦のナイフがキーポイントだ」


.

271 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:27:30 ID:4y1kKI2.O


思わぬ人からの助太刀に、シャキーンさんが唖然として警部を見つめる中、
警部はそんな彼には目もくれず、ワカッテマスさんのみを視界に据えていた。
今の推理のどこに穴が? 私の疑問は警部の反論によってすぐに拭われた。


(´・ω・`)「最初から銃を持っていたら、またんき氏と交戦する際に使ってるだろ」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「あ! ほんとだ」


( <●><●>)「ところがそうも行かなかった、なら?」

( <●><●>)「ナイフは、言うまでもないですが短距離戦向け、
         しかもトイレ前のスペースはそれほど広くないため、間合いを縮めるのは容易い。
         銃は自然と封印されていたのです」

(´・ω・`)「追い詰められたからって銃が死んだわけではない。
      詰め寄られようが、一発撃てば……」


.

272 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:28:54 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「ちょっと待ってください」


警部の反証を、ワカッテマスさんが「待ってください」と言って遮った。
待てとは建前、実際は「異議あり」と叫んでるようなものなのだ、彼の場合。


( <●><●>)「服に、目立った火傷の痕なんてないのです。
         少なくとも数十センチは離れたところから撃たれています」

( <●><●>)「一秒で間合いを零距離にできる場にて、
         銃がまたんき氏よりも速かったとでも?」

(´・ω・`)「…そりゃあそうか。すまんすまん」


一瞬警部が口ごもったが、すぐに開き直ったのか、早速自分で言った推理を撤回した。
のだが、逆接を挟んで警部は新たな点をツッコんだ。


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273 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:30:36 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「じゃあ次。なんで機密事項であるワゴンの秘密を
      あろうことかシャキーンさんが知ってる?」

(#゚;;-゚)「! 誰にも機密は漏らしてませんよ!」

( <●><●>)「………」



警部は、
「シャキーンさんがワゴンの中の空洞を
 知っている筈がないから、犯行は不可能」と主張した。
それに間髪入れず、でぃさんが箝口令を守っていることを証言した。
ワカッテマスさんは一旦口を閉ざした。



( <●><●>)「元々、このワゴンは奇抜なカタチをしています。
         乗務員がいないのをいいことに、勝手に調べたという可能性も……」

(´・ω・`)「いつ?」

( <●><●>)「……」

(; <●><●>)「………ム」


.

274 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:32:36 ID:4y1kKI2.O


今度はワカッテマスさんが言いくるめられた。
依然シャキーンさんは黙っているも、彼に証言を求めないまま
ワカッテマスさんは反論すべく、更なる推理を述べた。


( <●><●>)「またんき氏とも会う前、彼は一度トイレを利用しています」

( <●><●>)「そのトイレの前に、ふと目についたワゴンを触ることはできますよね」

( <●><●>)「たまたまワゴンの秘密を知ったわけですが、その
         たまたまのおかげで死体を隠すことに成功した、と」


最初は死体の隠蔽など考えず、興味本位でワゴンを触った。
しかし、そこでワゴンの秘密を知ったおかげで、この
偶然殺してしまった死体を隠すことに成功した、と。
ワカッテマスさんは、あくまで「偶然」と言ってその推理を進めた。


.

275 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:33:56 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「残念だったね、それはシャキーンさん自身の証言が否定している」

(`・ω・´)

(´・ω・`)「彼は言ったよ、『血のせいでワゴンから香水は香らなかった』と」

(´・ω・`)「そして、でぃさんもこう言った。『ワゴンにパルファンをぶちまけた』と」

(´・ω・`)「ワカッテマスの推理通り話を進めると、彼がワゴンの秘密を知り得たのは
      ぜんぜん血が流れなかった時のことだ」


一旦警部はシャキーンさんの方を向いた。
動ずることなく彼は警部と向き合う。


(´・ω・`)「シャキーンさん、さっきの質問の時、
      血の臭いでいっぱいだったから香水はにおわなかった……そう言ってたね?」

(`・ω・´)「……まあ」


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276 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:34:47 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「つまり、彼がワゴンを触ったとしてもそれは“血が流れた後”の話だ!」

(´・ω・`)「この人を殺害後、ワゴンの秘密を知る?
      そんな都合のいいことが起こるわけがない」


丁寧にワカッテマスさんの推理を打破した警部。
彼はそれらを話し終えたあと、ワカッテマスさんを見下しては、おちょくった。


(´・ω・`)「わかったかい?
      ばーかばーか」

(; <○><○>)「ぐぐぐ……ゥ…」


それが決定打となった。
可哀想に、ワカッテマスさんは悔しくて白目を剥いている。


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277 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:37:35 ID:4y1kKI2.O


(#゚;;-゚)「それより警部さん、私に言いたいことがあるのでは?」

(´・ω・`)「ん? ああ……」

( <●><●>)「……」

警察ふたりの推理合戦に飽きてきたのか、でぃさん自ら
ふたりの言い争いを止めに入った。
警部は苛め足りない(?)のか、少ししょぼんとした。


(´・ω・`)「今の刑事の推理でわかったと思うのだけど、
      この犯行の主がシャキーンさんではあり得ないワケ、わかる?」

(#゚;;-゚)「……ワゴンの、秘密……」

(´・ω・`)「そして、それを唯一にして解決できる存在は?」

(# ;;- )「………わ、たしです」


急に目を細め、彼女は震え始めた。
目はだんだん潤ってきて、そのうち雫が垂れそうな感じだった。
しかし警部は容赦しない。
「おかしい点」を、彼女の反論を許さないまま次々に挙げていく。


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278 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:39:17 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「おかしいと思ってたんだ。
      なんで、あれほどワゴンを調べさせなかったのか……」

(#゚;;-゚)「そ、それは機密事項だから……」

(´・ω・`)「じゃあ、なんでワゴンをあんな人目の
      はばかる場所に放置しておいたの?」

(#゚;;-゚)「……っ!」

(´・ω・`)「しかも車内販売の際、中に入ってた死体の存在を知らないでいた」

(´・ω・`)「ワゴンを押す時の重量ですぐにわかりそうなものを」

(# ;;- )「だ、だって……」


ああ、泣きそうになっちゃってる。
確かに彼女に関する情報は、どれもおかしいといえば、おかしいんだけど、
それ依然に、この事件には、まだまだほかにおかしい点がある筈なのに。
警部は、今はそこを突かないでいた。


.

279 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:40:49 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「―――当然、凶器は拳銃だ」

(#゚;;-゚)「……」


静かに、警部は言った。
なにを当たり前な事を、そしてなにを急にそんな事を。
私がそう思ったことは、おそらくでぃさんと一致しているに違いない。


(´・ω・`)「シャキーンさんの席から見つかった拳銃、二発撃たれているのがわかる」

(´・ω・`)「またんき氏の胸に一発、この死体に一発」

(´-ω-`)「これで事件の八割は解決できた ……筈だったんだ」



(´・ω・`)「……それなのに、新しい証拠がでてきた」

( <●><●>)「またんき氏のカバンから見つかった拳銃ですね」


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280 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:41:33 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「ワカッテマス、お前にはまだ言ってなかったかな?」

( <●><●>)「なにを?」

(´・ω・`)「……これ」


警部がその拳銃を持ち、リボルバーをはずした。
そしてその部分を指をさして強調させ、ワカッテマスさんに見せる。


(´・ω・`)「一発、発砲された形跡があるんだ」

( <●><●>)「…………な」




(; <○><○>)「なんだとォォォオオ!?」


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281 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:42:31 ID:4y1kKI2.O


さすがに衝撃の連続で疲れが見えたのか、
一旦彼は一歩後退りをして、呼吸を整えた。
そして警部に確認をとる。



(; <●><●>)「……念のため聞くと、弾痕は……」

(´・ω・`)「………ああ。見つかっていない」

( <●><●>)「なんてことだ……」

( <  ><  >)「まさか………ぇん…」

(´・ω・`)「ん? 心当たりがあるのか?」



( <●><●>)



( <●><●>)「まさか」



.

282 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:44:18 ID:4y1kKI2.O


警部は少し考える素振りをしてみせた。
それが本当に思考を巡らせているものなのか、ただの建前なのかはわからない。
が、少なくとも無心というわけではないのは確かだろう。


(´・ω・`)「シャキーンさんが犯人、そう仮定すると、ワゴンの方の殺人とまたんき氏の殺人で
      計2発撃たれたんだから、銃の弾数と合う」

(´・ω・`)「しかし、少なくともワゴンの方は彼に犯行は難しい」

(´・ω・`)「トイレに向かった、十分にも満たない時間で交戦からはじまって止血、
      ワゴンの秘密の発見、そして殺人、それの隠蔽……
      さすがに無理があるからなぁ」

( <●><●>)「あの、その件なのですが……」


ワカッテマスさんが、力なくそう呟いた。
あの眼光も弱まっている。


.

283 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:46:08 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「なんだ?」

( <●><●>)「彼と警部が話す前、席を離れていたのであれば、どうでしょう?」

(´・ω・`)

( <●><●>)「その時に殺害、追って隠蔽、一度一号車に戻って警部と会話。
         次にトイレに向かった際またんき氏とナイフを交え、血を隠滅。
         ワゴン内部の死体が気になり確認している間に都村さんが訪れて……」

(´・ω・`)「20分以前に予め殺人していて、
      20分以降にまたんき氏と……ってか」

( <●><●>)「各乗客の、一号車の出入りは見ていました?」

(´・ω・`)「生憎だが全然知らん。
      トソンちゃんは?」


.

284 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:47:22 ID:4y1kKI2.O


(゚、゚トソン「え……さぁ。ワゴンが入ってきた時以外は出入りなんて全然……」

(´・ω・`)「フツー見てないよねぇ?」


なぜか、女子高生特有のきゃぴきゃぴした口調で警部は同意を求めてきた。
ワカッテマスさんに苛々が募ってきているのがわかるから、ここで私はなんて答えればいいのやら。
気に障らないようにしなければならないのか。


(゚、゚;トソン「ええと……さぁ、どうでしょうかねぇ!?」

(´・ω・`)「開き直られても……」


警部が文字通りしょぼーんとした顔をする。
見かねたワカッテマスさんが、ここぞとばかりに推理を並べ始めた。


.

285 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:48:49 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「いつかはわかりませんが、彼は20分より以前にトイレ前に足を運んでいたのです」

( <●><●>)「そこでこの人を殺害、偶然見つけたワゴンの弁当収納スペースにそれを突っ込んだ」

( <●><●>)「香水の香りがわからなかったのは、銃殺の際に嫌になるほど血が臭ったから」

( <●><●>)「この時間帯でしたらゆっくり死体を隠す場所を探すことも可能です」

(`・ω・´)「………」


シャキーンさんは疑われる事に免疫がついてきたのか、取り乱したりしないようになってきた。
最初、銃が発見されただけであれほど動揺していたのが嘘みたいだ。


あれ? そういえば……



.

286 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:50:53 ID:4y1kKI2.O


(゚、゚トソン「刑事、彼が銃を見つけられた時、かなり動揺してましたよね」

( <●><●>)「え? それがなにか」

(゚、゚トソン「いやぁ……」




(´・ω・`)「『隠していたのになんで見つかったんだ!』……とか?」


(;`・ω・´)「!」


シャキーンさんが、ここにきて久々に動揺を見せた。



.

287 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:51:59 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「あ、図星?」


嘲るように警部が訊く。
額に手を当て、シャキーンさんは静かに言った。

(`ノω-´)「………」

(`ノω-´)「驚いた、に関しては、そりゃあそうだとしか言い様がない」

(`・ω・´)「私の銃ではないのだからな」


真偽の如何はともかくとして、警部は驚くどころか呆れてフンと鼻で笑った。
警部は蔑んだ目で彼をじっと見ている。

(´・ω・`)「なにを血迷ったか。ここがあんたの席である以上、あんたのもの――」



(´・ω・`)「………待てよ?」


.

288 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:53:16 ID:4y1kKI2.O


勢いよく攻め立てる筈だったのを掌一枚で返し、急に黙りこくった。
否定されると読んでいたシャキーンさんは、警部の視線を辿る。
警部は、またんき氏の席とシャキーンさんの席を見比べていた。


(´・ω・`)「……ワカッテマス」

( <●><●>)「はい」


警部が、えらくまじめな表情で尋ねた。
思わずワカッテマスさんも身構える。

(´・ω・`)「仮に、またんき氏の殺人もシャキーンさんの仕業だとするにして、だ」

(´・ω・`)「この席から彼の胸を、真正面から撃てるか?」

( <●><●>)「……」


少し静かになった一号車、
同じく静かになってきつつあるワカッテマスさんは自分の考えを述べた。

( <●><●>)「元々、彼の席から銃殺は不可能と見てました」


.

289 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:54:56 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「しかし拳銃の弾数が、彼がまたんき氏の殺人に
      関与している可能性を示している」

( <●><●>)「…………」

( <●><●>)「その件に関しては、こちらのワゴンの件が解決してから
         当たろうと思っていたので、なにも推理できてないです」


「そうか……」と警部は呟いた。
そして少しの間、左列の窓から見える、右から左へ高速に流れていく景色を見つめていた。

彼が口を開いたのはその数秒後だ。


(´・ω・`)「よく考えるんだ。仮に、シャキーンさんの犯行だとすると、
      当然ながらお互い着席状態だと不可能なんだ」

( <●><●>)「待ってください、だとするとまたんき氏が動かない限り彼に殺人は……」

(; <●><●>)「………あ!」


思い出したかのように、彼の発言を途中で彼自身の閃きが遮った。
そうだ、このふたりは決して無関係という訳ではないことを、ここにいる皆が知っているのだ。


.

290 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:56:47 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「トイレ前でのナイフの交戦……あのときに一度だけ、彼らは接触している」

(; <●><●>)「ですが、その時銃で撃つと、どうやって自分の席に戻ってきたというのですか!」

(´・ω・`)「それはまた後から追究すればいい」

(´・ω・`)「問題なのは、ふたりが接触したという事実!」


――以前、事の信憑性や起こり得なさそうという客観的意見を
完全に無視して、事実関係のみを追究する「検察官」がいた。
その人と同じようないいぐさをしたため、ワカッテマスさんは一瞬口ごもった。
温和しくなった彼を見て、警部は言った。


.

291 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 13:58:40 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「そもそも、ワゴンの件で一度トイレ前に向かい、間を挟んで
      再びトイレ前に向かって交戦があったとしてだな、不自然なんだよ。
      ただでさえ現場に戻るのはハイリスクなのに、そのリスクを冒してでもトイレ前に向かった理由が」

(`・ω・´)「しかしそれは全て仮定の上で成り立つ話だろう?」

(´・ω・`)「確かに、これは全部仮定の上で成り立つ話だ、しかし
      今はこの線が一番濃厚である事を念頭に置いて、訊くぞ」

(´・ω・`)「二度、トイレに向かった理由は、なんだ?」




(`・ω・´)「……排泄以外になにか?」

やれやれ、と首を左右に曲げ、警部は彼から視線をはずした。
その視線は、ワカッテマスさんと私が一望できるものとなっている。


.

292 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:00:02 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「ワカッテマスはどう考える? 排泄以外でだ」

( <●><●>)「……気晴らしですかね。
         彼の持ち物に娯楽用品はないですし」

(´・ω・`)「なるほど。じゃあトソンちゃんは?」

(゚、゚トソン「お、同じく……」

(゚ー゚トソン「私も、授業中暇になったらよくトイレに行ってますし。意味もなく」

( <●><●>)「私のこんな身近なところで非行に走ろうとしている高校生がいるとは……
         今度補導に向かいます」

(゚、゚;トソン「ちょ、嘘です! 来んな!」

(´・ω・`)「漫才はいらん」


.

293 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:01:41 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「……まあ、排泄以外でトイレに行く目的なんてこんなもんだ」

(`・ω・´)「だから排泄目的だと言っているに……」


呆れた声で警部にそう言っている。
聞く耳を持たないとはこのことか、その件には触れず
「気晴らし」に重点を置いて警部は話した。


(´・ω・`)「排泄しにいくのにナイフはいらん」

(´・ω・`)「ナイフは護身用とか言ってたっけ?
      ははっ、トイレに行くだけでVIP気取りかい?」

(`・ω・´)「………」

(´・ω・`)「……だんまりか」



(`・ω・´)「………そう」

(´・ω・`)「え?」


警部が望み薄と見て肩を竦めた時、シャキーンさんがちいさく何かを呟いた。
聞き取れなかったが、「そう」というのは肯定の意で放たれた言葉でない
というのは、私にも警部にも想像がついた。
そのため、彼は聞き直す。


(´・ω・`)「なんて?」

(`・ω・´)「ワラワラ草。そう言ったんだ」


.

294 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:03:22 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「……? ああ、なんか珍しいアレね」

(゚、゚トソン「?」


私には、なぜこのタイミングで、希少な存在の植物、
ワラワラ草が挙がったのかがわからなかった。
シャキーンさんは話を続けた。


(`・ω・´)「ワラワラ草を見てみたくなって、じっと線路を見てたら、
      無茶な角度で見てたから気分が悪くなったんだ。
      だから外の空気……とまでは言わずとも、せめて歩こうと思ってな」

(´・ω・`)「無茶な角度?」

(`・ω・´)「こんな感じで……」



そう言って、乗車当初私がしてみせたような姿勢で
彼は窓に顔をつけて線路をみた。
少しして窓から顔を離し、再び警部と見つめ合う。

(`・ω・´)「結構眼球が痛むんだ」

(´・ω・`)「ほう。それで?」


.

295 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:05:16 ID:4y1kKI2.O


(`・ω・´)「歩き出すと催してきた尿意。
      都合がいいからそのままトイレに向かったんだ」

(´・ω・`)「はぁ……それはいつのことで?」


シャキーンが時計を見る。
この揺れのなか、針を見るのは難しそうと思ったのか
車体前方の壁にかかってあるデジタルの時計に目を向けた。

(`・ω・´)「………いつだっけな。覚えてない」

(´・ω・`)「そこが大事なのにー」

(`・ω・´)「だが、これで充分だろ?
      トイレへの動機を訊いて、なにがしたいんだ?」

(´・ω・`)「………仕方ない。ワカッテマス、今から――」





  「ま、待ってください!」



(´・ω・`)「ハ?」

(`・ω・´)「……誰だ」

( <●><●>)「どうしたんですか?
         ………都村さん」



(゚、゚;トソン「シャキーンさん!」


自然と、腹の奥から飛び出した声、
なぜだか私は、叫ばずにいられなかった。


.

296 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:07:02 ID:4y1kKI2.O


なんだろう、
どうしてこんな疑問が現れるのかわからないし、その疑問には意味がないのかもしれない。
起こりえる筈のない矛盾だろうから、きっと私の勘違いなのだろうけど、
私はそれでも叫んだ。

でもきっと警部なら、このちょっとした疑問から、反論の糸口を見出してくれるかもしれない、
そう思うと、発言をためらう理由がわからなかったのだ。


(`・ω・´)「なんだ娘」

(゚、゚;トソン「あ、あのー」

(-、-トソン「……こほん!」



(゚、゚;トソン「う、右列からだとワラワラ草は見えないんですよ!?
      なぜ見ようと思ったのですか?」

(`・ω・´)「は?」

(`・ω・´)「……」





(;`゚ω゚´)「……―――――ッ!!」



.

297 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:08:48 ID:4y1kKI2.O


彼の顔が、激変した。
銃が見つかり、想定外と言わんばかりのあの時の驚き様とそっくりだった。
声こそでなかったものの、顔だけで驚愕に伴う叫び声が
聞こえてきそうなほど、滑稽なまでに、顔が変貌した。


(;`・ω・´)「み、見えないなんて知らなかったんだ!」

(゚、゚;トソン「嘘だ! ワラワラ草を知ってて、そしてそれを見ようと思うなら知ってる筈なんですよ!」




(゚ー゚;トソン「『ワラワラ草は海側でしか見られない』って!」

(;`゚ω゚´) !!


.
299 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:10:00 ID:4y1kKI2.O



(;;`・ω・´)「知人からワラワラ草の情報を聞いた際、
        右と左を聞き間違えたんだ!」

( <●><●>)「ちょっと待ってください。……なぜヒートしてるのかはさて置き……
         左が海で右が山、というのはこの列車に限った話です。聞き違えるなどないと思いますが」

(゚ー゚;トソン「そーだそーだ!」

(;` ω ´)「ぐ……ぬぬ……」


シャキーンさんはわなわなと身体を震わせながら、俯いてしまった。
それを見、ワカッテマスさんがここぞとばかりに当然の質問をしてきた。


(; <●><●>)「しかし………そのワラワラ草とやらと
         右列左列の関係が、なにが問題でも?」

(゚、゚トソン「ワラワラ草ってのは……」


.

300 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:11:52 ID:4y1kKI2.O


私は、以下の2点を説明した。
ひとつ、それを乗車中に見る場合、海側の列に乗った場合のみ見ることができる。
ひとつ、シャキーンさんは山側の席だから、ワラワラ草はどう足掻いても見ることができない。
言い終えても、ワカッテマスさんはうんうん唸っていた。


立ち直ったシャキーンさんがおっかない形相で
私を睨んだ時、警部が動いた。


(´・ω・`)「……詳しく訊こうか」

(;;`・ω・´)「俺は、ずっと、右列に座っていた!
        それはあんた、警部とこン娘が証明している!」

(´・ω・`)「なるほど、左列に座ってたんだね?」

(;;` ω・´)「違う! ワラワラ草の件は、ただの勘違いだ!」


.

301 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:14:17 ID:4y1kKI2.O


ここにきて二度目の、シャキーンさんの暴走。
興奮状態から醒めず、警部の問いかけも無視して、無実を主張している。
戸惑う乗客、そしてワカッテマスさん。
警部は、私とシャキーンさんとの騒ぎの示す真意を
ワカッテマスさんよりも早く知り、追い詰めに入っている。
のだが、シャキーンさんも底意地を張って、抵抗を続ける。


(; <●><●>)「警部、左列にいたかもしれない、というのは
         わかったのですが、それのどこに問題が?」

(;;`・ω・´)「だから、おれ……いや、私は、左列には」

(´・ω・`)「いいだろう、バカで無能で役立たずの向こう見ず、
      無鉄砲で怖いもの知らずな君に、説明してあげよう」

( <●><●>)「………どうぞ」


.

302 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:15:55 ID:4y1kKI2.O


シャキーンさんを宥める仕草をして、そのままワカッテマスさんと向き合った。
しかし、依然シャキーンさんは興奮状態のままである。


(´・ω・`)「……まずまたんき氏殺害について、彼が犯人だとすると、なにが問題か?」

( <●><●>)「言うまでもない、殺害のタイミングです。
         同時に、弾痕の上からコートを着せる必要もあります」

(´・ω・`)「もし、左列のどこか……まあ、自然と場所は限られるが……
      またんき氏より前方に座っていれば、両方の問題が解決する」

(;;`・ω・´)「……………」

( <●><●>)「はあ」


適当に相槌を打つ彼は、その警部の言う、シャキーンさんが
左列にいた場合に、起こり得た状況を脳内にたたき込んでいる。
少しして、整理できたのか若干顔が強張った。


.

303 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:18:16 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「そこで銃殺の問題が解決だ、また移動できた事実が
      出来上がる以上は、服の問題も解決できる」

(´・ω・`)「――依然状況証拠だけだが、逮捕の根拠としては充分だ」

( <●><●>)「ちょっと待ってください、それだとふたつの問題が浮かび上がります」

(´・ω・`)「………ふたつ?」


ワカッテマスさんが、何故かはわからないも、警部の説明に異議を唱えた。
それを、予測していなかったのか、警部は聞く。


.

304 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:19:25 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「まずひとつ、銃声です」

(´・ω・`)「聞こえたね、“1度“」

( <●><●>)「しかしそのタイミングで、私と9がすぐに
         捜査に介入しました、そのときは既に彼は着席していた……」

( <●><●>)「銃殺と移動はできようが、上から丁寧にコートを着せるのは、まあ難しいかと」

(´・ω・`)「というと?」

( <●><●>)「もし警部の推理がただしければ―――」




( <●><●>)「少なくとも、この場には“2度”の銃殺が鳴らないとだめなのです」



.

305 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:20:50 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)

(;`・ω・´)


硬直した警部とシャキーンさん、
それは、はたして推理が破られたからなのか、それとも
反論に至るまでの心当たりがあるからなのか。

一度車輪と線路が車体を揺らし、おおきな音が響いてから、ワカッテマスさんは続けた。


( <●><●>)「それに」

( <●><●>)「座席ですが、またんき氏は警部からひとつ席を挟んだ前です」

( <●><●>)「無論殺すなら、彼より前方に座る必要がある。
         空席で考えると、まあ盛岡さんの後ろです」

(´・_ゝ・`)「……」


.

306 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:22:12 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「問題は………」

( <●><●>)「そこから撃つ場合、懸念事項が生まれるのです」


彼は、強く言い切った。
盛岡さんからの視線も浴びつつ、更に強く、彼は言う。






( <●><●>)「――この、A−4に座る、名もなき死体……
         彼が、見ているはずなのです」

(  ∀ )




(´・ω・`)「………ぐ」


.

307 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:23:06 ID:4y1kKI2.O


一瞬、警部は口ごもった。
いつかは解決せねばならない問題、それが早くも彼の目の前に立ちはだかったからだ。
先程までの、余裕のある表情は打って変わって、苦汁を呑まされたような顔となっていた。
ワカッテマスさんが腕組みをして、勝ち誇った――と同時に、若干怪訝な――顔をしていた。


( <●><●>)「同時進行で解決すべきと思いますがねぇ」

( <●><●>)「詰まるところ、またんき氏殺害には、その前の乗客の存在が――」



(´・ω・`)「――なぁーんちゃって」



( <●><●>)「!」

(`・ω・´)「!」



.

308 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:24:59 ID:4y1kKI2.O


今日何度目になるのだろうか、
警部が、余裕を感じさせる、あの嫌な嗤いを見せた。
かかか、と高く笑い、一度呼吸をした。


(´・ω・`)「今の問題点、両方とも解決できる」

( <●><●>)「なかなか言いますね」

(´・ω・`)「まずひとつ、銃声だが……」


さっと、ワカッテマスさんから視線を逸らす。
小雨が降っているかの確認をとる際にするポーズをして見せて、視線は泳がせた。
同時に静まる一号車、するとよく聞こえる、この激しい、列車の揺れ。
よくよく考えると、こんなに煩い空間で張り合っていたのか、あのふたり。


(´・ω・`)「……うるさいね」

( <●><●>)「はい」

(´・ω・`)「銃声も、これに呑まれたんだ」


.

309 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:26:06 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「ちょっと待ってください。
         ……言うのもばかばかしいですが、その推理は通りませんよ、残念ながら」

(´・ω・`)「“煩くとも銃声は聞こえるんだ、証拠に私たちが乗り込んだ”、なら聞かないよ」

(; <○><○>) そ「なァ!?」

(´・ω・`)「今程度の揺れじゃ、当然、聞こえる。
      しかし、銃声が聞こえなくなるほどの揺れを“2度”、僕は確認している」

( <●><●>)「銃声は破裂音だ、そんな多少の轟音など………」




(; <●><●>)「………あ!」

(´・ω・`)「思い出したかい?
      地震をも彷彿とさせる、それはとんでもない揺れが、轟音とともに訪れたんだ、この列車に」

(; <●><●>)「しかしあれは事故、予測して発砲するなんて……」


.

310 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:27:06 ID:4y1kKI2.O


2度の揺れ、私の記憶がただしければ、サービスワゴンが訪れる前、
そして銃声が聞こえた後の、2度に渡って列車を襲ったもののはずだ。
並の揺れではない、しかも鼓膜を破りそうなほどの轟音も聞き取れた。
咄嗟にジャックかなにかと勘違いしたほどだから、銃声のひとつやふたつは聞き損ねるかもしれない。


(´・ω・`)「でぃさん、あの揺れですが、あれは今回に限った、事故ですか?」

(#゚;;-゚)「…………」


ふと、警部の視線はでぃさんに向けられた。
しかし、予測できていたのか、動じず、すぐに答えを返した。

(#゚;;-゚)「いいえ。少し前から、ああなんです」

(´・ω・`)「それを前もって知っていれば……」

(#゚;;-゚)「あわよくば、可能でしょう。
     銃声程度の音を隠すなら」


.

311 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:28:40 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「シャキーンさんの拳銃の中身とも合致する。
      銃声を隠したものと考えれば、またんき氏の……」

( <●><●>)「ちょっと待ってください。
         そもそも、事故ではないものだとして、それを予測できるはずがない」

(´・ω・`)「かァー、そんなのはどうにでもなるんだ」

( <●><●>)「……というと?」

(´・ω・`)「少し前に、ここの列車に乗って、定期的に揺れる時間帯があることを知れば、犯行は可能だ」

( <●><●>)「それもおかしい。定期的に揺れることを知るためには、最低でも2回は乗る必要がある。
         加えて、時間まで知るためには3回」

( <●><●>)「……とてもじゃないですが、無理です」


言いくるめられた、私は警部の心情をそう察した。
しかし、そう思ったのは私だけで、実際はそうでもなかった。
見苦しい反論ではある、しかし否定できない、そんな推理を言い出した。


.

312 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:30:04 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「“暴発した”――
      そうは考えられないか?」

(; <●><●>)「ぼ、
        ……“暴発”ぅ?」

(´・ω・`)「ほんとうは撃つつもりはなかったが、拳銃をまたんき氏に突きつけていた」

(´・ω・`)「そして、あの大きな揺れの時に驚いて、誤って発砲」

(´・ω・`)「已むなしに、急いで服装をただして、席に戻った……」

( <●><●>)「………」


一見筋が通っている推理、それは、こういう推理合戦の時には幾度となく顔を出す。
しかし、私は知っている。それらは全て虚像であることを。
実像を見るためには、ピントを然るべきポイントまでずらさないとだめなのだ。
警部の今の推理だと、ワカッテマスさんはきっと、視点をずらし新たな可能性を持ち出す。


( <●><●>)「……警部、その推理だと、まずいです。
         容疑者が一気に増えます」

(´・ω・`)「あ」

(; <●><●>)「『あ』じゃないでしょ!」



.

313 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:31:24 ID:4y1kKI2.O


(゚、゚トソン「容疑者が増えるって?」

( <●><●>)「よくぞ聞いてくれた」

( <●><●>)「今の推理だと、殺人するために必要な条件は
         『またんき氏のそば』にて『銃を握り交渉する』2点です」

(゚、゚トソン「シャキーンさん以外にどなたか?」

( <●><●>)「………お忘れですか?」



( <●><●>)「またんき氏も、銃を持ってたのです」



斉藤またんき、大会社アンモラルの社長である彼は、社長にあるまじきブツを所有していた。
輪胴式の拳銃、そして弾倉から確認するに、1発、撃たれている。
当初は単なる不思議とでしか見られなかったが、はじめてそれが話に加わった。


.

314 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:33:02 ID:4y1kKI2.O


( <●><●>)「またんき氏から拳銃を奪い、こめかみに突きつけるのも、不自由しないでしょう」

( <●><●>)「銃声が鳴らなかった理由を、事故と轟音の所為だと
         言うのなら、寝ていた橘ルカさん以外には……可能です」




(;´・_ゝ・`)「まま、待ってよ!」

\(;^o^)/「なんで俺が容疑者になんだよ、あァん!?」


ワカッテマスさんの言いたいことが皆に伝わったのか、すぐに自身の潔白を主張する声で、場が煩くなった。
そりゃ当然だ、犯人はほかにいる!って言われたようなものなのだから。
まあ、それは警部の推理があってこその仮定なため、ワカッテマスさんはさほど気にしていない。


( <●><●>)「そして、やはりまたんき氏の前にこの人がいるわけ
         なのだから、どのみち今の警部の推理は……」

(´・ω・`)「………」


.

315 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:34:18 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「……トソンちゃん」

(゚、゚;トソン そ「!! わ、私じゃないです! 殺してなんか」

(´・ω・`)「ちげーよ。ちょっくらここでクイズでも」

(゚、゚トソン「は?」

( <●><●>)「警部、ふざけるのも……」



(´・ω・`)「またんき氏が、もしこの一号車の中で撃たれたものとするなら、
      当然“犯人の立ち位置”が重要となってくる」


ワカッテマスさんの制止も振り切り、私にえらく真剣な表情をして、今の状況を話している。
というか、この人、ほんとうにクイズを出すつもりなのか……


.

316 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:37:34 ID:4y1kKI2.O


(´・ω・`)「当然ながら後ろからじゃ撃てない。
      自然と、前から5つ目までの席から、となる」


言われてみて、振り返ってみると、
A−1、左列の先頭は橘ルカ、ずっと睡眠をとり、今は気絶、という彼女。
その後ろには盛岡デミタス、乗車の目的はオフ会への参加。
インターネット通信をして、オフ会先の友人と、対戦をしていたと言う。
ひとつ空席を挟んで、その次に、今ワゴンの横で倒れている、またんき氏そっくりの死体。
その次が、問題の、斉藤またんきだ。


一方、右列は、見える景色の関係もあって、人数は少ない。
B−2に人生オワタ、文字通り確かに終わっとるかわいそうな人と記憶している。
今回の事件に関して、持ち込みの凶器は、いっさいない。
B−4には、素直くるうさんだっけか、精神障害を患っていると聞いた。
彼女の前後の席は空いている。
ふたつ挟んでのB−7……そこが、今まさに問題となっている、シャキーンさんの席であるわけで。
しかしここからだと、A−5に座っているまたんき氏の銃殺は不可能。


なら、どこから撃つのが、シャキーンさんにとって都合がよく、
尚且つ合理的で筋が通るか、それを聞かれているのだ。


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317 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:39:18 ID:4y1kKI2.O


まず、A−3は、先程から言われているように、除外。
交渉していた、という仮条件をふまえると、B−1と3は考えにくい。
B−5、くるうさんのひとつ後ろなら向かい合う形となるし、
シャキーンさんも席をふたつ前に進めるだけで、銃殺のチャンスが生まれる。



(゚、゚トソン「またんきさんの右隣、B−5だと思」

(´・ω・`)「はいブー」
  、_
(゚ー゚トソン


.

318 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/09/23(金) 14:42:53 ID:4y1kKI2.O


今の今までの私の推理はなんだったのか、私がBと言った
辺りから、警部の顔的に正解ムードではなかった。
なら、どこに……?





(´・ω・`)「答えは、A−4だ」




( <○><○>) そ「!?」

(゚、゚;トソン そ「はァ!?」



いきなり、とんでもないことを、この人は言ってのけた。
いやいや、だって、そこは……



(; <●><●>)「警部、そこは!」

(  ∀ )

(; <●><●>)「彼の座席でしょう!」




 イツワリ警部の事件簿
 File.1

 (´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです

 7章
  「移りゆく推理」

    おしまい


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