- 2
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:13:28 ID:Xh1v.ZI6O
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2章「二人の刑事」
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- 3
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:15:02 ID:Xh1v.ZI6O
( <●><●>)「静かにしろ! 警察だ!」
(´・ω・`)「あ」
(゚、゚トソン「あ」
皆が静かになり静寂が生まれるなか、
私と警部は同じタイミングで声を漏らした。
まあ、なんとグッドタイミングというか。
警察だと言い放った深緑の男は、
胸に入ってある警察手帳と思わしき物を警部と同じような仕草で見せ、
後ろで怯えているベージュの男を引き連れて
どかどかと一号車に乗り込んできた。
先程まで騒がしかった乗客は静かなのだが、
私と警部だけがその緊張を感じていない。
私のちょうど横くらい、ワゴンの向かいに
立った男が何かを言おうとしたとき、私と警部が声をかけた。
いや、かけたというより、自然と口から出たというべきか。
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- 4
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:17:46 ID:Xh1v.ZI6O
(゚、゚トソン「刑事!」
(´・ω・`)「ワカッテマス!」
( <●><●>)
(<●><●> )
(<●><●> )
(<●><●> ;)「ぬわっ! え、嘘!
警部!?」
今は説明は省くが、彼は私や警部の知り合いで、
刑事(部長刑事だった気がする)をしている若手ワカッテマスさんだ。
彼が私たちの存在を認識し、驚くまでの間およそ1秒。
そして後ろから入ってきたベージュの男は、彼に声をかけた。
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- 5
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:21:59 ID:Xh1v.ZI6O
( ><)「どうしたんですか」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「刑事!」
(´・ω・`)「ワカンナインデス!」
( ><)
(>< )
(><;)「ぎゃあああ! なんであなたが!」
、_
(´・ω・ )
同様に、彼も派出所勤務の巡査……いや、今は刑事の道を歩んでいるのか。
駆け出しの刑事の稚内ワカンナインデスさんであり、
彼も私たちの存在を知るや否や、大声で私たちの存在を否定しようとしてきた。
思わず警部も顔を歪ませる。
.
- 6
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:24:14 ID:Xh1v.ZI6O
しかし、今は一刻を争う事態であるためか、
ワカッテマスさんは一瞬は躊躇ったものの、
警部に話を伺った。
聞くまでもない、今の銃声の件だろう。
乗客の皆が彼らを見つめるなか、
私も黙って彼ら警察の動きを見届ける。
( <●><●>)「……警部、今の音は……」
(´・ω・`)「銃声で間違いない」
( <●><●>)「風船が割れる音や、クラッカー類のものでもなく?」
(´・ω・`)「火薬の臭いがする。こいつは銃で間違いないな」
.
- 7
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:26:32 ID:Xh1v.ZI6O
ありがとうございます、
と小声で謝礼を述べたワカッテマスさんは、
再びあのよく通る大きな声で
一号車の乗客にアナウンスを開始した。
( <●><●>)「只今ここで発砲がなされた。
その場を動かず、我々警察の指示に従ってください」
(´・ω・`)「二号車以降の人は?」
( <●><●>)「いや、まず銃声に気づいてません」
(´・ω・`)「………」
.
- 8
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:28:22 ID:Xh1v.ZI6O
警部は、一瞬ワカッテマスさんを見る目が変わった。
が、特になにも言おうとはしていない。
あれだけ混乱状態にあった乗客が、
嘘のように静まり返っては、立っている者も自分の席に着いた。
静まり返るといっても多少はざわめきが聞こえるものの、
当初の騒ぎ声に比べては充分すぎるほど静かと言える。
皆の沈黙を確認したワカッテマスさんは次に、
ワゴンを持っていて尚且つ制服姿である乗務員を見つけ、ワゴンの横を通り彼女に歩み寄った。
そっと手を差し伸べている。
よく見ると、女性の方は腰が抜けたのか、床にしゃがみ込んでいる。
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- 9
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:29:35 ID:Xh1v.ZI6O
(#゚;;-゚)「……」
( <●><●>)「ご心配なく、警察です。
立てますか?」
(#゚;;-゚)「……」
( <●><●>)「どうしました?」
(#゚;;-゚)「顔怖い人!」
( <●><●>)
(´・ω・`)「ぶっ」
どうやらこの乗務員は、思ったことを
ずばずばと言ってしまうタイプの人間のようだ。
普段は営業スマイルでそれを押し隠しているが、
不意を突かれるとつい素が出てしまう、という感じだろう。
その思わぬ出来事に、不覚か警部はつい吹き出してしまった。
.
- 10
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:30:51 ID:Xh1v.ZI6O
ワカッテマスさんは表情を変えず、
そのまま女性を立たせては本題に入ろうとしている。
しかし、自分でも不意を突かれたのか、若干声がぶれている。
( <●><●>)「あなたはアテンダントですね?」
(#゚;;-゚)「はい……えっと、今のごめんなさい、癖なんです」
( <●><●>)「気にシテナいのでご心配なく」
嘘つけ、思いっきり声が裏返っているぞ。
誰一人そう突っ込むことなく、話は進んだ。
(´・ω・`)「嘘つけ、気にしてるくせに」
( <●><●>)
(#゚;;-゚)
(゚、゚トソン
(´・ω・`)
(´・ω・`)「ごめん続けて」
おいコラ警部。
.
- 11
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:35:16 ID:Xh1v.ZI6O
( <●><●>)「今からあなたは責任者……車掌長というのですかね、その人に発砲の事実を伝え、
車内アナウンスを通し、誰一人一号車に入らないよう告げてください。
また、ジャックではない以上はこの運行に支障を来さないよう伝えるように」
(#゚;;-゚)「は、はい」
( <●><●>)「それと……」
ワカッテマスさんは、この車両に乗っているただ一人の
乗務員である彼女にテキパキと的確な指示を送っている。
それを反論も意見もすることなく彼女は頷いて、
首を事細やかに動かしている。
.
- 12
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:36:55 ID:Xh1v.ZI6O
警部も乗客もそれを見守るなか、私はその後ろで
脳天気な顔をしているワカンナインデスさんに小声で話しかけた。
(゚、゚トソン「ねえ刑事」
( ><)「なんですか?」
中性的といえば聞こえはいいかもしれないが、
どう見ても幼い顔立ちである彼は、
例の高校生男子のような声で応対する。
噂によれば、コンビニでお酒を買う際に年齢認証を求められた
とかいう武勇伝を持っているそうであるが、どうでもいい。
(゚、゚トソン「よく銃声が聞こえましたね」
( ><)「え?」
(゚、゚トソン「ただでさえガタゴト煩い列車の、しかも車両を隔てた状態で聞こえるとは」
(;><)「……」
.
- 13
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:38:49 ID:Xh1v.ZI6O
返答に詰まった、冷や汗を浮かべて彼はおろおろしている。
後ろめたいことでもしているのか、ただの勘かはわからないが、
見た感じ、すんなり答えてくれそうではなかった。
と思ったのだが、存外すんなりと教えてくれた。
( ><)「我々刑事の耳は、銃声を聞き分けるためにあるようなものですから」
彼がこう格好イイ格言じみたことを言うときは、
だいたいが何かを隠している時である。
そもそも、新米刑事のくせに生意気なことを
言っている時点で、それが嘘であるのはわかる。
(゚、゚トソン「本当は?」
( ><)「テンさんの後をつけてきただけです」
(゚、゚トソン「ズコー」
( <●><●>)「9煩いッ!」
(;><)「すみません!」
.
- 14
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:40:52 ID:Xh1v.ZI6O
今し方二人は「テンさん」「9」と呼び合ったが、
これは二人の間で定められた呼び名と聞く。
一刻を争う現場において、いちいちワカッテマスだのワカンナインデスだの
呼びにくい名前だと、いざという時に名前の長さがネックになりかねない。
だから、由来は知らないが、二人の間ではそう呼び合っているのだ。
聞いた話、ワカンナインデスさんの「9」には
バカという意味も込められているらしいが、詳細は知らない。
このふたりのことは、また機会があればその歴史が
語られることになるだろうなので詳述はしない。
(゚、゚トソン「えっと、じゃあワカッテマスさんが何かしらの方法で銃声を聞き分け、
急にこっちに着ちゃうもんだからついてきた、と」
( ><)「そもそも、こちらに就いてみつきで銃声を聞き分けるなんてとてもとても」
(゚、゚トソン「自慢するなよ」
.
- 15
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:42:30 ID:Xh1v.ZI6O
まあ何はともあれ、
この人に事件のことを聞くのは不適だということがわかった。
しかし、発砲されたというだけでこれほど大事になるとは到底思えない。
もともと、よく事件を呼ぶ体質だから、神経が麻痺しているだけなのかもしれないが、
持ち物チェック程度でいいのでは、とすら思えてくるのだ。
(゚、゚トソン「しかし、いやに大袈裟ですね」
( ><)「何を言ってるんですか」
(゚、゚トソン「え?」
私のさりげない一言に、ワカンナインデスさんは食いついてきた。
いつになく真剣な顔つきをしていて、
この時の顔なら彼女がいると聞いても不思議ではない。
いや、彼女はいるらしいのだけど。
.
- 16
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:44:08 ID:Xh1v.ZI6O
( ><)「銃刀法でこの国は拳銃の使用が禁じられて、
更にそれが長距離走行の列車内で発砲されるような事件があれば
それはもう一大事ですよ」
(゚、゚トソン「なんで長距離だったらなおだめなんですか?」
( ><)「はぁ……」
ヤレヤレ、と言うような仕草を見せ、
一度ため息をついてから私に説明をしてくれた。
しかし、この人に限ってそれをされると、非常に、うざい。
( ><)「考えてもみてください、
長距離走行タイプの列車といえば、
長い間同じ乗客が乗っているわけです」
(゚、゚トソン「うん」
( ><)「そこで発砲し得る状況が生まれる……」
( ><)「そう、そこはまさに特定の人物間でのトラブル、
若しくは殺し屋の仕事が行いやすい条件ではないですか」
.
- 17
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:45:51 ID:Xh1v.ZI6O
(゚、゚;トソン「ころ……ッ」
それは意外な結論だった。
言われてみれば、各駅ごとに乗客が入れ替わる
普通列車なら、特定の人物の殺害には向かない。
ところが、このオオカミ鉄道でのラウンジ-VIP間においては、
列車が着く2時間の間、常に乗客は固定されているため、
如何なるタイミングでも見られさえしなければ安全に殺しを実行できる。
殺し屋も二時間の間列車に閉じこめられているわけだが、
今回のケースとは違い普通は警察の人間、
まして刑事という現場慣れしている人物が三人もいるなんていることは珍しい。
到着後にその列車は缶詰めのごとく封鎖され、一人一人取り調べを受けるわけだが、
事前にその対策をとれば問題はないだろうし。
.
- 18
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:47:26 ID:Xh1v.ZI6O
(゚、゚トソン「じゃ、じゃあ今回の発砲は殺し屋が……?」
(;><)「いや、あくまで譬えですよ!」
(゚、゚トソン「え? どっちなんですか」
( ><)「殺し屋が、いくら揺れる列車内だからって、殺し損ねると思います?」
(゚、゚トソン「あ、ああ……そうか」
怪我人は、いない。
これは如何なる仮定を組み立てるにしても
直面しなければならない前提だ。
そう考えると、やはり殺し屋である可能性は低いか。
( ><)「しかし……」
( ><)「今の発砲で、誰かが狙われましたなんて叫んでない以上、ひょっとすると……」
(゚、゚トソン「は?」
.
- 19
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:49:06 ID:Xh1v.ZI6O
ワカンナインデスさんは再び、
自分で発案し否定した殺し屋である可能性を、
なぜか引っ張り出した。
結局、話はどちらに向かうのかだけでも前置きしてもらいたい。
( ><)「いや、個人間のトラブルなら、
当然殺人未遂の被害者は撃たれそうになった、
と自覚してるわけでしょ?」
( ><)「自覚しているのに名乗り出ないとなると、
それは個人間のトラブルじゃないかもしれないですからね」
(゚、゚トソン「結局どっちなんですか」
( ><)「……今の段階では、どちらかわかんないんです。不安をさせちゃいますが」
(゚、゚トソン「まったく……」
ワカンナインデスさんは、恐縮し、
縮こまりながらも、一通りの考えられることを挙げてくれた。
しかし、どこか頼りない。
.
- 20
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:52:05 ID:Xh1v.ZI6O
(>< )「……」チラ
(゚、゚トソン「ん」
私と話を終えたワカンナインデスさんが、
一段落終えたであろうワカッテマスさんとアテンダントの方を向いた。
私もつられてそちらを見るときには、アテンダントは運転室へ駆けていた。
それを見送ったワカッテマスさん、彼に声をかけたのは警部だった。
いつになく真剣な表情で――でもあれが事件を扱う時の
彼の風格で――そんな警部が、警部として動こうとしている。
(´・ω・`)「とりあえずここはVIP県警が仕切るんだな?」
( <●><●>)「はい。そういうわけですので警部は……」
(´・ω・`)「じゃあ僕もだな」
( <●><●>)
(; <●><●>)「……仰る意味がわかりません。
あなた、確かラウンジの方に
異動なされていたのでは?」
(´・ω・`)「いや、だから」
(´・ω・`)「帰ってきたんだよ、今日」
( <○><○>)
.
- 21
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:54:07 ID:Xh1v.ZI6O
警部の復帰を聞くと、ワカッテマスさんは、急に顔色を悪くした。
理由はなんとなくでわかる。
実は、ワカッテマスさんとワカンナインデスさんのふたりは、警部のことがニガテなのだ。
警察の上司としては尊敬しているだろうが、人としては関わりたくないらしく、
ワカッテマスさんなんか、事件で警部の組み立てる推理から
必ずと言っていいほど粗を見つけだして反論してくる。
まあ、結果として、それは全部プラスに傾いてしまうのだが、
それでも彼らは警部に反抗するのだ。
ちなみに、ワカッテマスさんはひどくショックを受けるとしょっちゅう白目をむく。
(; <●><●>)「………あなたには、常に驚かされます」
(´・ω・`)「上の人が決めたんだから。抗えないしぃ」
.
- 22
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:55:35 ID:Xh1v.ZI6O
( <●><●>)「……ええと、それでなんでしたっけ」
(´・ω・`)「ああ、VIP県警が仕切るって話」
( <●><●>)「……しますか?
捜査」
(´・ω・`)「当然」
そう言った警部は、どっこいしょと言ってその重い腰をあげ、
肩を回して本格的に行動する準備運動をしている。
肩を回し、手首を捻り、首を右に左に倒して回転し、
最後に深呼吸して「よし」と呟いた。
(´・ω・`)「おいバカ」
(;><)「はい!」
(´・ω・`)「邪魔にならんよう隅っこで座っとけ」
( ><)
(;><)「捜査に付き合わせてくださいよ!」
(゚、゚トソン「(もっともだ)」
.
- 23
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 20:58:11 ID:Xh1v.ZI6O
ワカンナインデスさんが警部にツッコむと、
警部は嫌そうな顔をしつつもワカンナインデスさんを手招きした。
余談だが、警部はワカンナインデスさんのことを「バカ」と呼ぶ。
深い理由があるのかと思い、
一度なぜそう呼ぶのか聞いたら「ただ無能だから」とだけ言った。
なるほど納得、するわけにはいかないぞオイ。
(´・ω・`)「じゃあ、お前に特別捜査を課する」
(*><)「なんですか?」
(´・ω・`)っ「耳貸せ」
(;><)「痛い痛い! 貸しますから引っ張らないで!」
半ば強引にワカンナインデスさんに耳打ちし、
彼だけの「特別捜査」を指示する。
しかし、この手口は、決まって警部が
彼をつまみ出したい時に使うものであって、
指示というより単純にワカンナインデスさんのことを面倒くさく思っただけだろう。
.
- 24
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:01:57 ID:Xh1v.ZI6O
(´・ω・`)「……………の血液反応、あと硝煙反応とかも調べとけ」
( ><)「はい! 行ってき……」
指示され、嬉しそうな笑みを浮かべる
ワカンナインデスさんは急いでその場所へと向かおうとするが、
思いとどまってその足を止め、警部に素朴な質問を投げかけた。
( ><)「……あの、試薬とか持ってないんですけど」
(´・ω・`)「親からもらった鼻があるだろ!
それで嗅げ! 嗅いで探せ!」
(;><)「!?」
(゚、゚;トソン「(なんという外道!)」
その捜査に臨むべく、泣き顔ながらも
早速扉を開いて駆け出そうとしていた。
本当に鼻で捜査するのかよ、と思うと、
今度はワカッテマスさんが彼を呼び止めた。
( <●><●>)「9、私のアタッシュケースに試薬があるから持って行け」
(´・ω・`)「ほう、常に持ち歩いているのか。鑑識課じゃあるまいし」
( <●><●>)+「これでも部長してますから」
.
- 25
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:03:41 ID:Xh1v.ZI6O
( <●><●>)「……あと、指紋検出の道具も一式あるから、ケースごと持って行くといいぞ」
( ><)「はい、わかりました! 行ってきます!」
そう言い残して、彼は笑顔のまま走っていった。
しかし警部も人が悪い、特別捜査と言っていい具合に追い出すなんて。
まあ、彼はよくトンチンカンな推理を
展開したりするので、わからなくもない。
それよりも、元巡査であるのを活かした
落とし物捜索の方が得意らしいから、
そちらをさせた方がいいと警部の言葉だ。
……ほんとうだろうか。
.
- 26
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:05:25 ID:Xh1v.ZI6O
(´・ω・`)「……40分、か」
(´・ω・`)「事件発生から10分弱掛かったが、捜査を開始する」
腕時計を見て、彼は誰に言うでもなくそう呟いた。
そういえば、迅速にワカッテマスさんたちがここに来たのはいいものの、
現状把握と指示だけで結構時間が経ったような気がする。
私はワカンナインデスさんと話していたから時間はそう長く体感しなかったが、
静かに進行を見守る乗客にとっては
非常に長く、不安な時間だっただろう。
.
- 27
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:12:33 ID:Xh1v.ZI6O
しかし、今から捜査がはじまる。
しかも担当するのが敏腕警部と抜け目のない刑事だ、
更にふたりとも護身術をマスターしているので
いざ犯人が暴れても取り押さえてみせるだろう。
私のなかの不安は、拭いきれた。
ただ、何も把握できてない乗客にとっては、
発砲の犯人が見つかるまで不安は拭いきれないだろう。
一刻も早い解決を望んでいるはず。
(゚、゚トソン「(警部なら、きっと……)」
ワカンナインデスさんの言ってた、殺し屋の存在も考えると、
逃走されないように列車がVIPに到着するまでの間一時間で解決をしてほしい。
それはいたって容易いことのはずだ。
そう、それは容易いことのはずだったのだ。
.
- 28
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:13:54 ID:Xh1v.ZI6O
(´・ω・`)「ワカッテマス」
( <●><●>)「はい」
警部は、手始めにとワカッテマスさんを呼んだ。
呼んだと言ってもすぐ隣に立っているので、
単純に話をするぞ、と呼びかけただけだろう。
(´・ω・`)「鑑識は……いないだろうけど、お前、できるか?」
( <●><●>)「道具は全部9に渡したので、
今の私にできるといえば聞き込みくらいです」
(´・ω・`)「ふーむ……」
警部は考え込み、その数秒後、
自信なさげな声ながらワカッテマスさんに質問をした。
しかし、その答えは警部の予想できたものだったわけだ。
(´・ω・`)「このワゴン、調べられるか?
指紋やらなにやら」
( <●><●>)「あー…… 無理です。
しかし、なぜワゴンを?」
(´・ω・`)「ちょいと気にかかってね。
じゃあバカが戻ってきたら調べさせるか」
そう言って警部は視線をワゴンからはずす。
.
- 29
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:21:51 ID:Xh1v.ZI6O
ワゴンの事なら、調べるよりかは
あのアテンダントに訊けばいいのに。
そう思ってはみるものの、なぜか言い出せない。
( <●><●>)「なら、先に位置取りをメモしておきますよ」
(´・ω・`)「ん?」
( <●><●>)「この列車は、二列編成で一列につき八つの席があります。
各席の情報でもあれば、聞き込みがラクになりますし」
(´・ω・`)「はーん。
ついでに、乗客のデータも調べといてくれよな」
( <●><●>)「はい。まあ、寝てる人もちらほらいるようですから、
そちらは後回しにしますけど」
(´・ω・`)「起こせよ!」
警部は、半ば笑いながらワカッテマスさんの肩を叩き、言った。
顔色は変わらず、淡々とワカッテマスさんは答える。
( <●><●>)「パニックになり、無駄に騒がれて捜査の妨害をされるよりかは
先に全体図を頭に叩き込んでおきたいのです」
( <●><●>)「まあ、あのアテンダント、椎名さんに訊けば早いですが」
(´・ω・`)「ばかだなー。それじゃあだめなんだよ」
( <●><●>)「?」
.
- 30
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:24:36 ID:Xh1v.ZI6O
ワカッテマスさんが事件発生直後、
あの時乗務員に指示をいろいろしたが、
その際名前とちょっとしたデータも聞き込んでいる。
そのさりげなさはなかなかで、詰まることなく淡々と進んだ。
名前は椎名でぃで、銃声をすぐ近くで聞いた、と証言している。
警部が、そのでぃさんが戻ってくるのを半ば懼れている。
しかし、ワカッテマスさんはあまりそこには突っ込まず、先に行動にでた。
( <●><●>)「まあ……とりあえず先に位置取り確認しておいた方がよさそうですね。
少々お時間をいただきます」
(´・ω・`)「あいよー」
(´・ω・`)「……よし」
(゚、゚トソン「警部、警部」
(´・ω・`)「あ、なんだいたの?」
(゚、゚;トソン「いましたよ!」
.
- 31
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:26:18 ID:Xh1v.ZI6O
ワカンナインデスさんにはどこかで特別捜査を指示し、
ワカッテマスさんは位置取りの確認に動いた。
彼らのそのすばやさはすごいが、
いまいち彼らの言動には腑に落ちない点がいくつかある。
しかしそれを言う前に、警部が先に口を開いた。
(´・ω・`)「ねえ、カメラ持ってる?」
(゚、゚トソン「か……ケータイのでよければ」
彼は思考と同時に「あー……」とえらく長い間声を漏らすも、
それが止まると同時に否定された。
(´・ω・`)「ケータイじゃなくて、普通のがいい。ケータイでも構わないけど……」
(゚、゚トソン「うう……ワカッテマスさんは持ってないの?」
( <●><●>)「え?」
.
- 32
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:30:55 ID:Xh1v.ZI6O
いきなり話を振ると、えらく拍子抜けな声を発し彼はこちらに向いた。
指紋検出セット、ルミノール試薬、
そんな捜査グッズを持ち歩いている彼ならカメラくらい……
そう思っていたが、違った。
( <●><●>)「……カメラはないですね。
ケータイのでしたらありますけど」
(´・ω・`)「だぁからそれじゃだめなんだってバーカ」
( <●><●>)「……失礼。では作業に戻ります」
警部、よく平然と毒を吐けるな。
ワカッテマスさんは警部よりも背が高く、
がたいもよくて顔も厳ついのに。
それに食いつくこともなく、ワカッテマスさんは
再び手帳に図やらを書き込み始めた。
.
- 33
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:32:48 ID:Xh1v.ZI6O
(゚、゚トソン「なぜケータイのカメラだとだめなんですか?」
(´・ω・`)「ん? 画素数にもよるけど、細かいところまで撮影しきれないからね」
(゚、゚トソン「画素数?」
(´・ω・`)「情報の授業で習わなかった?」
情報と言えば、常にキーボードを叩いては
演算の練習をしたりHTMLで文章を作成したりはしたけど。
返事を言う前に彼は先に言った。
(´・ω・`)「簡単に言えば、ケータイでイラスト見るときあるじゃん?
そのイラストを構成するひとつの粒みたいな感じ。ドット?」
(゚、゚トソン「あー」
(´・ω・`)「ちなみにトソンちゃんのそれ、画質いい?」
(゚、゚トソン「結構ぼやけますね」
(´・ω・`)「じゃあだめだ」
つまり、より高画質で鮮明な写真でないとだめだから、ということらしい。
しかし、今この現場にて写真を撮るべき場所など、
はたしてあるのか、それは私にはわからない。
細部まで見えないとだめという点では、
細々としたものを撮るつもりなのだろう。
.
- 34
名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:34:26 ID:Xh1v.ZI6O
そして警部が腕組みをし、
ワゴンを調べようとしてしゃがみ込んだ時。
(´・ω・`)「むっ」
(゚、゚トソン「どうしました?」
(´・ω・`)「パルファンの匂い……ここからだったか」
警部が、手袋をしてワゴンを物色しようとした矢先、そう言った。
パルファンといえば、でぃさんから香ったと言うあの香水のことか。
しかし、なぜワゴンから?
(゚、゚トソン「うーん……確かに。
でぃさんのより強烈です」
(´・ω・`)「………」
警部がワゴンの中に手を伸ばそうとした時、
一号車の前方、運転室へと続く部屋が
大きな音をあげて、一気に開いた。
乗客もワカッテマスさんも私たちも、皆そちらを向いた。
(#゚;;-゚)「刑事さん、全ての報告を終え、こちらから伝言があります」
( <●><●>)「はい。なんですか」
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名前: ◆wPvTfIHSQ6:2011/08/30(火) 21:37:19 ID:Xh1v.ZI6O
ふたりのやりとりを気にせず
警部がワゴンを漁ろうとするとき、
でぃさんから大声が発せられた。
それに動揺して警部もぴたりと手を止める。
(#゚;;-゚)「警部さん!」
(´・ω・`)「ム」ピタ
(#゚;;-゚)「……ええと、言いにくいのですが」
でぃさんから放たれた言葉は、
あまりにも意外だった。
(#゚;;-゚)「車掌長命令により、
令状がない限り無駄な捜査は省かせていただきます」
イツワリ警部の事件簿
File.1
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです
2章
「二人の刑事」
おしまい
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