563 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:28:42 ID:G.mUN/LwO
念のため

※最終話未読の人は色々と注意

564 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:29:27 ID:G.mUN/LwO

川 ゚ 々゚)

 暗い部屋の中、ささやかな明かりが一つ。
 その光源、携帯電話を見つめる少女が1人。

 埴谷くるう。
 高校2年生だ。

 少々雑音の混じった音声が響き渡る。
 小さな画面には、彼女と同年代の少女や少年が映されていた。
 何かを探すように、カメラは忙しなくあちこちを映していく。


   o川*゚ー゚)o『ぶいぶい!』


 ひょいと横から現れた少女が、こちらに向かって満面の笑みを浮かべ、ピースサインをした。
 くるうの頬が緩む。

川*゚ 々゚)

 少女はすぐに背を向けた。
 ある人物を見付けるなり、「デレちゃん」と名前を呼んで、その人のもとへ駆ける。
 くるうの眉間に皺が寄った。

565 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:30:33 ID:G.mUN/LwO

   o川*゚ー゚)o『――に、見て……の?
         ……あ、かわい……』

   ζ(゚ー゚*ζ『ねえ、これ、……さんに、……――』

   o川*^ー^)o『……あはは! たしかに! ……ッく……似て……』


 土産屋らしき店の前で、2人が談笑している。
 カメラから遠ざかってしまったため、会話の内容は満足に聞き取れない。
 しかし楽しそうなのは伝わった。

 腹立たしい。


川#゚ 々゚)


 映像が途切れるのと、くるうが携帯電話を閉じたのは同時。
 たしか、あれを撮影したときも同じタイミングで苛立って、カメラ機能をオフにしたのだった。

 唯一の明かりも消えた部屋。
 不意に、くるうの後ろ、部屋の隅から声がした。
567 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:32:44 ID:G.mUN/LwO

【+  】ゞ゚)「あの子を撮れたのか?」

川 ゚ 々゚)「……うん」

 40代半ばほどの中年。
 不気味な男だ。

 「不気味」だという印象を与える要素は、いくつかあった。
 暗闇に溶けそうな真っ黒な服と、対称的に青白い不健康な肌。
 目の縁に出来た隈。

 極めつけは、顔の右半分を覆う、十字の模様が入った仮面である。
 男は音も立てず、くるうの傍へ近付いた。

川 ゚ 々゚)「キューちゃん、あんまり話せなかった。
      折角の修学旅行だったのに」

【+  】ゞ゚)「それは残念だったな」

川 ゚ 々゚)「班も一緒になれなかったし」

【+  】ゞ゚)「ああ、旅行に行く前からも愚痴ってたな」

 くるうは携帯電話を開き、再び動画を見始めた。

 先程と同じ場面で閉じる。
 それからもう一度開く。

568 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:33:35 ID:G.mUN/LwO

 何度繰り返しても、少女はカメラに背を向け、あの人のところへ行ってしまう。

 そっちに行っては駄目だ。
 その人は駄目だ。

川 ゚ 々゚)

 ふと、くるうは動画の途中で一時停止させた。


   [o川*゚ー゚)o]


 少女がピースサインをしたまま、画面が止まる。
 良かった。もう離れていかない。

川*゚ 々゚)

 くるうは、満足げに溜め息をついた。
 そう。それでいい。
570 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:35:27 ID:G.mUN/LwO

【+  】ゞ゚)「くるう」

川*゚ 々゚)「なあに、オサム」

【+  】ゞ゚)「幸せか」

川 ゚ 々゚)「……んんー」

 どうだろう。少しだけ幸せな気持ちにはなった。だが、少しだけだ。
 なかなか答えないくるうに、オサムと呼ばれた男は首を傾げた。

川 ゚ 々゚)「まだ、ちょっと足りない」

【+  】ゞ゚)「足りない?」

川 ゚ 々゚)「うん」

【+  】ゞ゚)「何が足りないんだ? 足りないものなら俺が――」

 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
 「お兄ちゃんだ」。くるうが呟く。

 くるうは携帯電話を閉じて立ち上がると、明かりをつけ、部屋を出た。
 残されたオサムは眩しそうに顔を顰めながら、室内を見渡す。

 彼の横には、花柄の本が落ちていた。


.
572 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:35:58 ID:G.mUN/LwO



番外編 あな狂おしや、児童文学



.

573 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:37:59 ID:G.mUN/LwO

( ФωФ)「ううむ……」

 1人の男が、一枚のコピー用紙を眺め、難しい顔で唸った。
 紙は、とあるホームページを印刷したものだ。

 「VIP図書館」。
 一番上に、そう書かれている。

( ФωФ)「林の中らしいが……どこから入ればいいのだ、これは」

 呟き、目の前の林と、自分が立つ道を区切っているフェンスを見上げた。
 それから左右を確認する。
 その拍子に、右腕に引っ掛けている袋が揺れ、がさりと鳴った。

 フェンスは、ずっと向こうまで続いている。
 これに沿って歩けば、いずれ入り口に着くだろうか。

 男は、左手を己の腰の高さまで下ろした。
 外側へ掌を向ける。

( ФωФ)「ブーム、行くである」

( ФωФ)

( ФωФ)「……ブーム?」

 息子の名前を呼ぶが、返事がない。
 慌てて辺りを見回したが、自分以外には誰もいなかった。



*****

574 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:39:51 ID:G.mUN/LwO


 長岡デレがVIP図書館と関わるようになってから、もう一年が経った。

 小さな事件や大きな事件を繰り返し、危険な目にも遭いつつ、
 騒がしい日々を送っている。


 今日も今日とて図書館にやって来たデレは、
 「開館日」の札が下がった扉を開けた。

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちはー」

(*^ω^)「あ、デレちゃん」

ξ゚听)ξ「こんにちは」

 カウンターの向こうに並んで座っているのは、
 館長である内藤ホライゾンと、その妻ツン。

 館内を見渡してみると、2、3人ほどの利用者がいた。
 日頃、誰も来ないまま数時間が経過するという事態が平気で起こるので、
 これだけでも充分「賑わっている」方だろう。

575 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:41:29 ID:G.mUN/LwO

( ^ω^)「修学旅行はどうだったかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しかったです!」

 内藤の問いに、笑顔一杯で返す。
 修学旅行から昨日帰ってきたばかりだ。
 たしかに楽しかったが、やはり、この図書館でのんびりする方が性に合っている。

ζ(゚ー゚*ζ「今日はお土産渡しに来ました」

ξ゚听)ξ「あら、気を遣わなくていいって言ったのに」

 紙袋をカウンターに乗せる。
 旅行先の名産品がいくつか入っているものだ。

 本当は図書館の住人それぞれに別々の土産を買いたかったが、
 気に入ってもらえるか分からないし、何より金の問題もあるので、
 せめてみんなで食べられそうなものを選んだ。

(*^ω^)「おっおー、ありがとうお」

ξ゚听)ξ「ありがとう、デレ」

( ^ω^)「はいツンちゃん笑顔」

ξ゚−゚)ξ「あいがふぉう」

 内藤がツンの口角を無理矢理上げさせる。
 今のところ、リハビリの効果はあまり見られない。

576 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:42:44 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚ー゚*ζ「どういたしまして。あ、早めに冷蔵庫に入れた方がいいのもあるから……」

ξ゚听)ξ「分かったわ」

 袋を持って、ツンが立ち上がる。
 くるりと振り返って後ろのドアを開け、2階へ上がっていった。

 それを見送る内藤の顔に、デレは苦笑した。

(*^ω^)「あれ、僕の嫁だお。信じられるかおデレちゃん」

ζ(゚ー゚;ζ「はあ」

(*^ω^)「可愛いおね」

ζ(゚ー゚;ζ「そうですね」

(*^ω^)「同じベッドで寝てるんだお。
       起きたときにツンが隣にいる感動ときたら」

ζ(゚ー゚;ζ「聞きました。何回も聞きました」

 もう何度惚気られたやら。
 彼の従兄弟をして「最近兄ちゃんがうざったい」と言わしめるだけのことはある。
 仲睦まじいのは結構だが、こちらにまで絡まないでいただきたい。

577 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:45:55 ID:G.mUN/LwO

 内藤の言葉を聞き流していると、本棚の陰から現れた人物が2人、
 デレに元気よく声をかけた。

o川*゚ー゚)o「やっほ。デレちゃん」

ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、オカエリ!」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、キュートちゃん来てたんだ。
      ただいまハローさん」

 友人の素直キュートと、「作家」ハロー・サン。
 修学旅行直前の時点では、ハローはまだ執筆に勤しんでいた筈。
 この数日の内に書き上げたのだろう。

 土産を渡したかと問うキュートに、デレは頷いた。

( ^ω^)「さっき、キュートちゃんからもお土産もらったお」

ζ(゚ー゚*ζ「そういえばクックルさんのために選んだお土産は渡せた?
      どれにするか、すっごく悩んでたよね」

o川;*゚ー゚)o「なななななななななな何を言うの何を言うのデレちゃん何を言うの!!
       あんなもん即決だから! どうでもいいから全然悩んでないから!!」

( ^ω^)「どんぐらい悩んでたんだお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええっと、どれくらいでしょう。
      行く先々で考えてましたし……全部の時間合わせたら、かなりの時間になりますよ。
      内藤さん達にあげる分は、すぐに決めてましたけど」

o川;*゚ー゚)o「喋るな! 喋るな!!」
579 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:47:17 ID:G.mUN/LwO

ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシが代わりに渡すコトになりマシタヨ」

ζ(゚、゚*ζ「何だ、そうなんですか」

o川;*゚ー゚)o「……ちゃんと渡してくださいよ」

ハハ ロ -ロ)ハ「モチロン」

o川;*゚ー゚)o「ハローさんが食べないようにね!」

ハハ ロ -ロ)ハ「分かってマスッテ」

 悩みに悩んだ末、結局、その土地限定のチョコレート菓子にしたのだったか。
 土産屋では、


   ζ(゚、゚*ζ『どうせなら形に残るものがいいんじゃない?』

   o川;* ー )o『いや……私があげた万年筆を使ってるのを見る度にね、
          心臓が飛び散りそうになるの……』


 というようなやり取りもあった。

 学生が手を出すにはなかなか高いものだったと記憶している。
 それに見合った立派な容器だったので、
 もしかしたら容れ物は捨てられずに取っておかれるかもしれない。

 だとしたら、キュートはやはり、心臓が飛び散りそうな思いをする羽目になるのだろう。

580 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:48:42 ID:G.mUN/LwO

 彼女の将来の心配をしながら、デレは柱に掛けられた時計を見上げた。
 午後2時を回ろうとしている。

ζ(゚ー゚*ζ「――じゃあ、そろそろ失礼しますね」

( ^ω^)「もう行くのかお?」

ハハ ロ -ロ)ハ「エー。モット構ってってクダサイ」

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんのところにお土産持っていかなきゃいけないので」

o川*゚ー゚)o「あっ、じゃあ私の分も渡してきてくれない?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいよー」

o川*゚ー゚)o「ありがと! ちょっと待って、持ってくる!」

 キュートが2階へ駆けていく。

 車で送るかと言う内藤に、デレは、勤務中でしょうと返した。

( ^ω^)「とは言っても、今は退屈で仕方ないお」

ζ(゚、゚*ζ「それでもお仕事はお仕事です。
      こうしてお話してるのも、内藤さんの邪魔しちゃってるようなものなんですから」

 そのとき、2階から奇声が聞こえた。
 大方、クックルとでも遭遇したのだろう。

 数分後に下りてきたキュートの顔が真っ赤だったので、間違ってはいないと思う。



*****

581 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:52:45 ID:G.mUN/LwO


 遮木探偵事務所。
 プレートが下がっているドアの前で、デレは耳を欹てた。

 男性の、ぼそぼそと話す低い声以外には何も聞こえない。
 客人はいなさそうだ。

 ノックをして、ドアをそっと開ける。

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは」

(´・ω・`)「いらっしゃ――何だ、デレちゃんか」

( ^ν^)「……よう」

 応接用のソファに座っているのは、この事務所の所長、遮木ショボン。
 デレに気付くと、片手を挙げた。

 後方にある机で、内藤ニュッがパソコンと向かい合っている。
 こちらはデレに短く声をかけただけで、それきり黙ってしまった。

 見たところ、室内には彼らしかいない。
 他の所員は調査に出ているのだろう。

582 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:54:59 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚ー゚*ζ「あのう、今、お邪魔してもよろしいですか?」

(´・ω・`)「もう少しで客が来る予定だから、それまでなら」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です、すぐ済みます!」

(´・ω・`)「そう。で、何の用?」

 事務所に足を踏み入れる。
 ショボンの向かいに腰を下ろし、土産をガラステーブルに乗せた。

ζ(゚ー゚*ζ「修学旅行のお土産を」

(´・ω・`)「ああ、そっか。待ってました待ってました」

ζ(゚ー゚*ζ「えっと、皆さんで食べてくださいね。独り占めしちゃ駄目ですよ。
      こっちはキュートちゃんから」

(´・ω・`)「よしよし、悪くないチョイスだ。ありがとう。
      あのナルシストにもお礼言っといて」

ζ(゚ー゚*ζ「分かりました。あ、これ、ショボンさんに頼まれてたものです。お漬物」

(´・ω・`)「第一希望だった地酒は?」

ζ(゚ー゚;ζ「買えませんし」

583 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 03:57:29 ID:G.mUN/LwO

(´・ω・`)「ちぇっ。
      ……懐かしいなあ、修学旅行。ホテル抜け出して夜の街に繰り出したっけか」

ζ(゚、゚*ζ「先生にバレなかったんですか?」

(´・ω・`)「見付かったけど、一緒にいたブーンや他の友人を囮にして僕だけ助かった」

ζ(゚、゚*ζ「内藤さん達可哀想……」

(´・ω・`)「ブーン達はホテルの廊下に正座させられたよ。
      何度も僕が主犯であることを教師に訴えていたけれど、
      ホテルに先回りしてアリバイ工作をしていた僕はまったく疑われなかった……」

ζ(゚、゚*ζ「本当に可哀想……」

 ショボンの思い出話を聞いても、彼の周囲にいた人間への哀れみしか感じない。
 仕方がない。ショボンと関わったのが運の尽きなのだ。

 さっさと帰ってしまおう。
 渡し忘れたものはないかと鞄の中を漁る。

ζ(゚ー゚*ζ(……ん)

 あった。
 小袋から中身を取り出して、腰を上げる。

584 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:01:18 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんニュッさん」

( ^ν^)「あ?」

ζ(゚ー゚*ζ「どっちがいい?」

 パソコンに黙々と文字を打ち込んでいたニュッのもとへ行き、彼の眼前へ両手を突きつけた。
 紐の先に球体がぶら下がったものが2つ。
 ニュッの目が、デレの顔と手元を交互に見遣った。

( ^ν^)「何」

ζ(゚ー゚*ζ「お土産。ストラップ」

( ^ν^)「……あっそう」

 キーボードを打つ手を止めないままに、どっちでもいい、と答えるニュッ。
 デレからすれば、それではつまらない。
 旅先で「これ」と出会ってからというもの、早くニュッに見せたくて堪らなかったのだ。

 正直、彼が気に入るだろうとは1ミリも思っていない。

ζ(゚ー゚*ζ「まあまあまあ、ちょっと見てくださいよ」

( ^ν^)「俺仕事してるんだが」

ζ(゚ー゚*ζ「見るだけですから。ねっ」

( ^"ν^)

 当てつけがましく溜め息をついて、ニュッは作業を中断した。

 そう来なくては。
 デレは目を輝かせ、さらにニュッへ両手を近付けた。
586 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:02:52 ID:G.mUN/LwO

( ^ν^)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「猫ですよ。可愛いでしょ!」

 球体に、猫らしき耳や顔が描かれたもの。
 可愛いというよりも、何と言えば良いのか――とりあえず、味のある表情をしている。

 後ろから覗き込んできたショボンが、喉の奥で笑った。

(´・ω・`)「いい歳した男にあげるものかな、それ。
      そっちなんか、あからさまに口元の線も歪んでるし」

ζ(゚ー゚*ζ「お店で聞いたところによると、一つ一つ手作りらしいんですよ。
      だから、みんな顔が違うんですけど……見てください、これ。ほら。右の。
      ニュッさんに似てる!」

( ^ν^)「は?」

 一瞬の沈黙。

 ショボンが吹き出し、顔を背けた。
588 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:07:30 ID:G.mUN/LwO

(´・ω・`)「……ああ。うん。うん。似てるね。たしかに。写メ撮っていい?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうぞー」

 左手の猫は割と整っている――それでも若干気の抜けた感じはする――が、
 右の猫はミスでもしたのかと思うほど変わった顔をしている。
 それが、どこかニュッに似ているのだ。

 携帯電話のカメラでストラップを撮影し、ショボンはニュッと画面を見比べた。

(´・ω・`)「うわあ見れば見るほど似てる……」

ζ(゚ー゚*ζ「ですよね。私、見付けた瞬間に『ニュッさんだ』って言っちゃいましたもん。
      ニュッさんが気に入る気に入らないは二の次で、
      とにかく本人に見せなきゃと思って買いました」

( ^ν^)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「この捻くれたような、人を小馬鹿にしたような面構えが本当にそっくりで……」

 デレの説明を聞き、ショボンがさらに笑う。
 そういえば、キュートに見せたときも似たような反応が返ってきたのだった。

 一方のニュッはといえば、しょっぱい顔をしてストラップを睨んでいる。

589 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:09:03 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚ー゚*ζ「で、どっちにします?」

( ^ν^)「……自分に似てるって言われた方を欲しがると思うか」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ普通の方ですね。ぶっちゃけ比較用として買ったものですが。
      ニュッさん似は私がもらいますね!」

 結局、ニュッは不本意極まりない様子でストラップをポケットにしまった。

 ――丁度そのとき、事務所のドアが叩かれた。
 それから、「すみません」と男の声。

 立ち上がろうとしたニュッを押し止め、ショボンが返事をしてドアに向かう。

ζ(゚、゚*ζ「お客さんでしょうか」

( ^ν^)「だろうな」

 客が来るのだと、先程ショボンが言っていた。
 恐らくそれだろう。

 ショボンの手で、ドアが開けられる。

590 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:13:17 ID:G.mUN/LwO

(´・ω・`)「ようこそ、遮木探偵事務所へ」

(,,゚Д゚)「……っす」

 客人は、1人の男だった。

 ニュッと同じ年の頃であろう、若い男。
 きりっとした顔立ちをしていて、どこか爽やかな感じを受けた。

(´・ω・`)「お電話くださった埴谷さんですね。どうぞ、お掛けになってください」

(,,゚Д゚)「お邪魔します」

 ショボンがソファを手で示し、埴谷と呼ばれた男がそこに腰掛ける。
 男とデレの目が合い、互いに一礼した。

ζ(゚、゚*ζ(はにや……)

 耳に馴染みのある響き。
 クラスメートに同じ苗字の生徒がいる。
 あちらは女子生徒だが。

(´・ω・`)「ニュッ君、コーヒー入れて。僕の分も」

( ^ν^)「ん」

 ショボンに指示され、ニュッが棚の前へ移動した。
 コーヒーカップを2つ並べ、インスタントコーヒーの準備をする。

 デレはソファに置きっぱなしだった鞄を拾い上げた。
 ここにいては、仕事の邪魔になってしまう。

ζ(゚ー゚*ζ「あの、私はこれで失礼します」

(´・ω・`)「うん、またね」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。ニュッさんもさようなら」

( ^ν^)「ん」

591 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:15:39 ID:G.mUN/LwO

 事務所を出て、階段を下りる。
 ビルを後にしたところで、携帯電話が鳴った。

ζ(゚、゚*ζ(キュートちゃん?)

 発信者はキュート。
 電話に出た瞬間、切羽詰まった声が飛んできた。



*****

592 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:17:14 ID:G.mUN/LwO


(´・ω・`)「――妹?」

(,,゚Д゚)「はあ。今、高2で」

(´・ω・`)「高校生で一人暮らし?」

(,,゚Д゚)「っす」

 埴谷ギコの相談は、
 「一人暮らしをしている妹の様子がおかしい」――という内容だった。

 先程事務所を出ていったデレも、たしか両親と離れて暮らしている。

(,,゚Д゚)「実家からあんまり離れてないアパートに住んでるんです。
     特に理由はないんすけど」

(´・ω・`)「……どういうことでしょう?」

(,,゚Д゚)「今年、妹がいきなり『一人暮らしがしたい』って言い出したんすよ。
     両親も妹にゃ甘いもんだから、ほいほい金出しやがって」

(´・ω・`)「なるほど。
      ……それで、妹さんの様子がおかしくなったのは
      一人暮らしを始めてからなんですね」

 ギコが頷いた。
 猫舌なのか、コーヒーカップを顔の前に掲げ、ふうふうと何度も息を吹き掛けている。

 まだ大学生らしいが、実家は裕福な方なのだという。
 大事な大事なお客様だ。

593 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:18:38 ID:G.mUN/LwO

(,,゚Д゚)「初めの2ヶ月くらいは普通だったんすけど、
     ある日から、部屋に入れてくれなくなって。
     俺だろうと両親だろうと、玄関でちょっと話すぐらいしか出来ないんです」

(´・ω・`)「失礼ですが、家族仲が悪いということは――」

(,,゚Д゚)「悪いってことはないと思います。喧嘩もないし」

(´・ω・`)「ふむ」

 かたかた、ニュッがキーボードを打つ音が響く。
 ショボンはソファの背もたれに寄り掛かった。

 彼は仲が悪くないと思っていても、実際は妹に嫌われている――という可能性もある。
 それなら簡単でいいのだが。

(,,゚Д゚)「……そんで、他にも気になることがあって」

(´・ω・`)「他にも?」

(,,゚Д゚)「――誰かが、妹の部屋にいるみたいなんです」



*****

594 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:20:07 ID:G.mUN/LwO


ζ(゚、゚*ζ

 内藤が大変なことになっている、早く図書館に戻ってきてほしい――

 焦りに焦ったキュートからの電話に、泡を食って図書館へと走ったデレ。

 辿り着いた先に待ち構えていた光景は、何とも――意味が分からないものだった。


ξ゚ -゚)ξ

(;^ω^)「僕は知らないお! 無実だお!」

ハハ ロ -ロ)ハ「館長……」

 じっと内藤を睨むツンとハロー、ぶんぶんと首を振る内藤。
 彼の傍らには、

|  ^o^ |

 少年がいた。
 小学低学年ほどであろうか。

 内藤のスーツの裾を握っている。
596 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:22:00 ID:G.mUN/LwO

o川;゚ー゚)o「お騒がせしてすみません、どうぞお気になさらず!
      ……あ、デレちゃん来た!」

 利用者へ頭を下げていたキュートが、デレに気付いて駆け寄ってきた。
 一体全体、何事だ。

ζ(゚、゚;ζ「どうしたの?」

o川;゚ー゚)o「な、何と言っていいか……」

ハハ ロ -ロ)ハ「ンー。浮気?」

ζ(゚、゚;ζ「うわき!?」

(;^ω^)「ちっ、違う、誤解だお! 分かってくれるおね、ツン!」

ξ゚ -゚)ξ

(;^ω^)「お願い何か言ってぇえっ!!」

 一向に伝わってこない。

 そうこうしていると、件の少年が、握り締めていた裾を引っ張った。
 内藤の顔を真っ直ぐに見つめる。

 そして一言。

597 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:23:25 ID:G.mUN/LwO

|  ^o^ |「お父さん」

ζ(゚、゚;ζ

 おとうさん。
 お父さん。

 内藤に向かって。「お父さん」と来た。

ξ゚ -゚)ξ

 目の前の嫁は、内藤の青ざめた顔から、一瞬たりとも視線を外さなかった。

(;^ω^)「だ、だから、違う……違うってば……」

|  ^o^ |「お父さん」

(;゚ω゚)「ええい、お前にお父さんと呼ばれる筋合いはない!!」

 内藤が手を振りほどいても逃げても、少年はついていってしまう。

 衝撃に頭を抱えながら、デレは呻いた。

598 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:24:50 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚、゚;ζ「……お父さんってどういうこと……」

o川;゚ー゚)o「あの子、いきなり図書館に駆け込んできたかと思うと、
      内藤さんを見るなり『お父さん』って」

ζ(゚、゚;ζ「人違いじゃないの?」

ハハ ロ -ロ)ハ「デモ、顔をよく見てクダサイ。特に目元」

ζ(゚、゚;ζ「顔?」


(;^ω^)「僕は父親になった覚えはないお……」

|  ^o^ |「お父さん は お父さん です」


ζ(゚、゚;ζ「……う、ううんと……」

 似ているような気もする。
 言われてみれば、といった程度だが。

o川;゚ー゚)o「名前訊いたんだけどね、ブーム君っていうらしいの」

ζ(゚、゚;ζ「ぶーむ」

 内藤のあだ名は『ブーン』だ。
 ブーン。ブーム。
 まあ。似ている。かも。

 だが彼の実名はホライゾンであって、ブーンではない。
 仮に父親からとった名前をつけるにしても、あだ名の方に倣うものなのだろうか。

599 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:26:52 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚、゚;ζ「……で、でも、ほら、目元が似てるって言うなら、ニュッさんにも多少……」

(;^ω^)「そうだお! ツン一筋の僕よりニュッ君を疑えお!」

ハハ ロ -ロ)ハ「アッ! あんなトコロに絶世の美少女が!」

(*^ω^)「えっ、どこ、どこだお」

o川*゚ー゚)o「『一筋』、ね……」

ハハ ロ -ロ)ハ「信憑性の欠片もありマセンネ」

ξ゚ -゚)ξ

ζ(゚、゚;ζ(ひええ、ツンちゃんがカウンターの端をもぎ取る勢いで握っている……)

 どうしようもない。内藤はどうしようもない。

 ツンが掴んでいるカウンターから、みしみしと不吉な音がし始めた頃。
 ばん、と扉が激しく開いた。

(;ФωФ)「ブーム、いるであるか!?」

ζ(゚、゚;ζ「ほわあっ!」

(;^ω^)「おっ!?」

 30代と思しき男が、少年の名前を叫ぶ。
 ブームは彼を見ると、内藤の後ろに隠れた。

 しかし、男がブームを見付ける方が早かった。
 右手に提げた袋を揺らしながら、こちらに駆け寄ってくる。

600 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:30:09 ID:G.mUN/LwO

(;ФωФ)「勝手に我輩から離れるなと言っただろう!」

 男はブームの前にしゃがみ込み、怒鳴るように言った。
 ブームはといえば、顔を逸らし、内藤のスーツを一層強い力で握り締めている。

|  ^o^ |「あなたなんか 知りません」

(;ФωФ)「ブーム!」

|  ^o^ |「僕は この人の 子です」

(;^ω^)「だから違うっつってるだろうがお!」

 ぱきん。
 ツンの手元から、何かが砕ける小さな音がした。
 まずい。そろそろカウンターが壊れる。

 内藤とカウンターのどっちを心配すればいいのかデレが決めかねていると、
 男は呆れたような――あるいは疲れたような――表情で、溜め息をついた。

(;ФωФ)「……お前の父親は我輩だろうが」

(;^ω^)「――え」

ξ゚ -゚)ξ

601 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:33:03 ID:G.mUN/LwO

(;ФωФ)「あ……――ああっ、すまないのである。
       こいつ、見知らぬ大人を『お父さん』と呼ぶのが癖で」

 ようやく内藤にまで意識を巡らせた男は、立ち上がると、ぺこぺこと頭を下げ始めた。
 その合間に、ブームの頭をこつんと叩く。

 対する内藤は、心の底からほっとした表情を浮かべてツンに振り返った。

(;^ω^)「ほら!」

ξ゚听)ξ「……ごめんなさい」

ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシはアナタを信じてマシタ」

( ^ω^)「浮気だの僕に似てるだのと真っ先に騒いだ奴が何言ってんだお」

(;ФωФ)「ブーム、謝りなさい」

|  ^o^ |「……」

 男によって内藤から引き剥がされたブームだったが、
 依然、父親へ顔を向けようとはしない。
 ぶすっとしながら明後日の方向を見つめている。

602 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:36:07 ID:G.mUN/LwO

o川*゚ー゚)o「……わけあり?」

ζ(゚、゚*ζ「どうだろ……」

(;ФωФ)「こら、ブーム!」

(;^ω^)「ああ、いいですお。ブーム君も悪気があったわけじゃないし……多分」

 もう一度頭を下げてから、男は館内に目を遣った。
 ポケットから、折り畳まれた紙を引っ張り出す。

( ФωФ)「……ここがVIP図書館であるな」

ξ゚听)ξ「ええ」

ハハ ロ -ロ)ハ「ナニか御用デモ?」

( ФωФ)「うむ。――本に関する相談を受け付けているらしいが、本当であるか」

 男は、その紙を広げて内藤に手渡した。
 デレとキュートが横から覗き込む。

 VIP図書館のホームページ。
 パソコンの操作に長けているという椎出しぃが、
 ショボンのアドバイスを受けて作ったものだ。

 余談ではあるが、当初、ページ内を反転させると
 卑猥な文章が現れるという不要この上ない細工を施していたらしい。
 それに気付いた双子の姉、椎出でぃにこってり絞られたとか何とか。

603 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:39:35 ID:G.mUN/LwO

( ^ω^)「……はいお。僕達が応えられるものなら、何でも」

 内藤の周囲の空気が僅かに引き締まる。

 「本の相談受け付けます」。
 この謳い文句に釣られて来た人間を、デレも、これまでに何度か見たことがある。

 そのどれもが、ショボンの宣伝を聞いた者ばかりだった。
 こうしてホームページを頼りにやって来たのは、彼が初めてだ。

 こちらの望む「本」の話ならばいいのだが、
 大抵の相談事は、こことは無関係なものばかりである。

( ФωФ)「では、少し、相談したいことがある」

 男は右手の袋から本を一冊取り出した。
 それを見た内藤とハローが、「あ」と声を漏らす。

( ФωФ)「妻が知人からもらったものなのであるが……」

 男が気味悪そうに見下ろした本。
 淡黄色のハードカバーに、銀色の猫のシールが貼られている。

 ――ハロー・サン、と、著者名が記されていた。



*****

604 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:41:29 ID:G.mUN/LwO


|  ^o^ |「おじさん なんです」

 図書館の雑誌コーナー。その近くに備えられたソファ。
 そこに座って雑誌を開いていたブームは、
 子供らしからぬ淡々とした、そして間延びした声でそう言った。

ζ(゚、゚*ζ「おじさん?」

 内藤と男――杉浦ロマネスクというらしい――が話をする間、
 ブームの子守りをするように頼まれたデレ。

 適当に本でも読ませながら雑談をしていたのだが、
 何とはなしに父親の話題を出してみたところ、ブームは突然前述のように発言した。

 視線は、手元の雑誌の、奇怪な生物のイラストに向けられている。
 たしか山村貞子が資料として使っていたオカルト雑誌だったか。

 文章自体は大して理解していないようだが、
 それにしたって子供に見せるような本ではなかったかもしれない。

605 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:44:09 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚、゚*ζ「『おじさん』って、親戚ってこと?」

 伯父か叔父か。
 何にせよ、実の父ではないということだ。

 デレの問いに、ブームは首を振る。

|  ^o^ |「お父さんじゃない から」

 だから、おじさん。

ζ(゚、゚*ζ「……」

 その言葉を、どう受け止めればいいのか。
 図りかね、デレは押し黙る。

 血が繋がっていない、と言いたいのならば、
 他人に向ける呼称という意味での「おじさん」なのだろうか。

|  ^o^ |「だって 僕 生まれるわけないって 聞きました」

ζ(゚、゚*ζ「……ん?」

|  ^o^ |「よく わからないけど。
       あの人 子供 できない って。 作れない って。
       近所の おばさん 言いました」

|  ^o^ |「だから 僕の『お父さん』 他にいる らしいです」

606 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:46:24 ID:G.mUN/LwO

 そこまで話すと、ブームは首を傾げた。
 隣に座っているデレの顔を見上げる。

|  ^o^ |「子供って 作るものなんですか」

ζ(゚、゚;ζ「……さあ」

 その質問は、困る。
 デレが答えあぐねていると、興味をなくしたか、ブームは雑誌に集中した。
 ぱらぱらとページをめくり、イラストや写真の多い箇所で手を止め、それらを眺める。

 デレはブームから目を逸らした。
 彼の話について深く考えるのが何だか失礼な気がして、別のことに意識を向ける。

ζ(゚、゚*ζ(あ)

 ある本棚の前へ、キュートが誰かを案内していた。
 デレも知っている人物だ。

川*゚ 々゚)

 埴谷くるう。
 今年のクラス替えで、同じクラスになった女子生徒。

 デレとキュートが図書館に出入りしているのを秋口に知ってからというもの、
 時折訪ねてくるようになった。

 1人でいることが多いのだが、キュートには懐いているようだった。

607 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:48:40 ID:G.mUN/LwO

o川*゚ー゚)o「じゃ、ごゆっくり」

川*゚ 々゚)「う、うん」

 笑顔で言って、キュートがくるうの傍を離れる。

 ふと、キュートがデレに小さく手を振った。
 彼女の視線を追って、くるうがこちらを見遣る。
 デレは微笑んで、2人に軽く会釈した。

|  ^o^ |「お姉さん これ 何て読むんですか」

ζ(゚ー゚*ζ「ん? どれどれ?」

 ブームに呼ばれ、デレがくるうから視線を外す。

 故に。

川 ゚ 々゚)

 表情を消したくるうが、じとりと睨みつけてきたことに、
 デレは少しも気付けなかった。



*****

608 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:51:49 ID:G.mUN/LwO


 ちっとも読書に集中出来なくて、くるうは10分も経たぬ内に図書館を飛び出した。

 折角キュートがいたのに、あいつのせいで台無しだ。

川#゚ 々゚)「今日はいないと思ったのに! いないと思ったのに!」

 コートの襟を掻き合わせ、ぶつぶつと呟きながら林の中を早足で進む。

 寒い。
 キュートを眺めているときは暖かかったのに、あの女を見た途端、
 一気に心も体も冷えてしまった。

【+  】ゞ゚)「どうしたんだ、くるう」

 どこからか現れたオサムが、くるうの後ろに寄り添うようにして歩いている。
 耳元で囁かれる声に、乱暴に返した。

川#゚ 々゚)「私はキューちゃんを見に来たの! キューちゃんだけいれば良かったの!」

【+  】ゞ゚)「あの女の子もいたのか」

川#゚ 々゚)「どうしていつもキューちゃんの傍にいるの!?
      どうしていつもキューちゃんの邪魔するの!!」

609 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:54:55 ID:G.mUN/LwO

【+  】ゞ゚)「……くるう、幸せか?」

川#゚ 々゚)「全然幸せじゃない!」

 オサムがくるうの肩を抱く。
 抱く、というより、優しく触れる程度の力だ。

【+  】ゞ゚)「何が足りないんだ?
        どうしてほしい? どうしたらいい?」

川 ゚ 々゚)「……」

 足を止める。
 くるうは沈黙した。

【+  】ゞ゚)「くるう?」

川 ゚ 々゚)「どうしよっか」

 オサムが顔を近付ける。
 くるうはオサムの仮面をぼうっと眺め、思案を巡らせた。

 少しばかり時間が経過した頃、くるうは再び足を動かした。

川 ゚ 々゚)「もうちょっと、考える」

【+  】ゞ゚)「……そうか」

 オサムの声に、残念そうな響きが滲む。

 「願い事」を言えば、きっと彼は叶えてくれる。
 そうすれば――彼の望みも叶うのだ。

川 ゚ 々゚)「ごめんね、オサム。もう少し、時間ちょうだい」

【+  】ゞ゚)「いいさ。……いくらでも待つよ」



*****

610 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:56:37 ID:G.mUN/LwO



( ^ω^)「――大したことじゃなかったお」

 夜。VIP図書館2階、食堂。
 カレーライスが盛られた皿を前に、内藤はあっさり言い捨てた。

 話題は杉浦ロマネスクが持ってきた、ハローの本について。

ハハ ロ -ロ)ハ「モウ演じ終わってたみたいダシ、
      大きな事件も起こらナイ話デシタから、コレといってフォローするコトもなく。
      アッ、ツン、ワタシのカレーにはチーズ入れてクダサイ」

( ・∀・)「へえー」

 カレーに温泉卵を乗せ、茂等モララーが気の抜けた声を出す。
 いかにも興味なさげな返事だ。

(*゚ー゚)「こっちにはエビフライちょうだい!」

(#゚;;-゚) トンカツ

ξ゚听)ξ「はいはい。揚げたてだから気を付けてね」

 椎出しぃと椎出でぃに至っては、話を聞いてすらいない。
 皿を運んでくるツンに、トッピングの要求をしている。

611 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 04:59:47 ID:G.mUN/LwO

(´・_ゝ・`)「まあ、何事もなく回収出来て良かったね。
        ……あれ、福神漬けは?」

川д川「毎回そんな感じだといいんだけどねえ……。
    はい、福神漬け……。……あ、ニュッ君、らっきょう取って……」

( ^ν^)「ん」

 盛岡デミタス、山村貞子も、本よりカレーが気になっている様子。
 どうやら各自、食い気の方を優先させているようだ。

 準備を済ませてツンも席に着き、いただきます、と皆が手を合わせる。

ハハ ロ -ロ)ハ「クックル、キュートからお土産預かってマス」

( ゚∋゚)「ん? 俺にか?」

 付け合わせのサラダを口に運んでいた堂々クックルは、
 隣席のハローの言葉に、一旦手を止めた。

ハハ*ロ -ロ)ハ「ハイ。クックルに『ダケ』、『特別』に。
      チョコのお菓子らしいデスヨ。クックルの好きそうな」

 にやにや笑いながら、ハローは肘でクックルをつついた。
 クックルは怪訝そうな顔をして、首を傾げる。

612 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:02:25 ID:G.mUN/LwO

( ・∀・)「えー。何でクックルだけ?」

川д川「あんたまで分かってないの……?」

(;・∀・)「えっ、どういうこと!?」

(#゚;;-゚) ウルサイ

(*゚ー゚)「デミタス見て見て、今からエビフライをいやらしく食べるよ!」

(;´・_ゝ・`)「やめなさい!」

( ^ω^)「今後エビフライが食べづらくなるようなことをするなお」

ξ゚听)ξ「食べ物で遊ばないの」

 あちこちから、しぃにブーイングが飛ぶ。
 しぃは「冗談なのに」と肩を竦めた。
 冗談だから許されるわけでもない。

(´・_ゝ・`)「――そういえば」

( ゚∋゚)「どうした?」

(´・_ゝ・`)「ニュッ君には、デレさんから何かお土産あった?」

( ^ν^)「……」

 デミタスの質問に、ニュッはスプーンをくわえたまま顔を上げた。

 自室のクローゼットにしまってきたスーツを思い出す。
 ポケットにストラップを入れっぱなしだった。

613 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:05:38 ID:G.mUN/LwO

( ^ν^)「ストラップ」

ξ゚听)ξ「ストラップ?」

(*^ω^)「まあ! 僕達にはまとめて名産品くれただけだったのに!
       ニュッ君にはストラップですって! 贔屓よ贔屓!」

( ^ν^)「ふうん」

( ^ω^)「反応うっすいわあ……もっと、何かさ、照れるとか嬉しがるとかあるじゃん……」

(*゚ー゚)「期待するだけ無駄無駄」

( ^ν^)「ストラップごときに照れる要素も喜ぶ要素もねえし」

川д川「ニュッ君つまんなあい……。
    ……だからってキュートちゃんレベルにまでなれとは言わないけどお……」

ハハ ロ -ロ)ハ「キュートといえば、あの子、マタ来てマシタネ」

 チーズが程よく溶ける頃合いを見計らっていたハローが、
 スプーンをくるりと回した。
 隣のモララーの鼻に、スプーンの先が勢いよくぶつかる。

614 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:10:42 ID:G.mUN/LwO

( ゚∋゚)「あの子って」

ハハ ロ -ロ)ハ「くるうチャン」

 ニュッの手が止まる。
 くるう。
 聞いた名前だ。どこで聞いたのだったか。

川д川「あの子、キュートちゃんがいない日はすぐに帰るわよねえ……」

( ;∀;)「そうだっけ?
      ……ていうか、ごつって……スプーンが鼻にごつって……
      お、折れてない? 鼻折れてない?」

(*゚ー゚)「折れてもすぐ治んだろうが無限イケメン。
     あの子は何ていうか、あれだよね。キュートちゃんに会いに来てる感じ」

(#゚;;-゚)) コクコク

ξ゚听)ξ「でも今日は早めに帰ってたわ」

( ゚∋゚)「誰だ? キュートの友達か?」

( ^ω^)「デレちゃん達のクラスメートだお」

(´・_ゝ・`)「へえ」

615 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:13:03 ID:G.mUN/LwO

 ニュッは、眉根を寄せた。
 クックルとデミタス以外は、皆、くるうを知っているらしい。

 そしてようやく思い出す。

( ^ν^)(埴谷くるう……)

 ――依頼者のギコが言っていた「妹」の名だ。

 高校2年生だったような。
 そういえばデレと同じ歳ではないか。

ξ゚听)ξ「ニュッ君、どうしたの? 美味しくなかった?」

( ^ν^)「……いや。違う。考えごと」

 ショボンに伝えるべきか。
 しかしあのショボンなら、こちらから言うまでもなさそうだなと思い直し、
 ニュッは食事を再開させた。



*****

616 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:14:11 ID:G.mUN/LwO



 一番奥、左手の部屋。
 元はツンの自室だったそこは、今では夫婦の寝室となっている。

 明かりを消して、内藤はベッドの中に潜り込んだ。

( ^ω^)「おやすみお」

ξ゚听)ξ「おやすみなさい」

 ツンに声をかけ、頭を撫でる。
 何も文句を言われないので、思いきって抱き締めてみた。
 初めの1ヶ月は、少し触れるだけで叩かれていたものだ。

 いい夢が見れそうだと内藤が笑う。
 ツンは寝返りをうって、背を向けてしまった。

( ^ω^)「照れ屋さん」

ξ゚听)ξ「言ってなさい」

 手の甲を抓られる。
 無意味なじゃれ合いがとても楽しい。
 また笑って、内藤は目を閉じた。

 静かに時間が過ぎていく。

617 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:19:49 ID:G.mUN/LwO

( ‐ω‐)

ξ゚听)ξ「……ブーン」

( ‐ω^)「……何だお?」

 ツンに呼ばれ、落ちかけていた意識は掬い上げられた。
 内藤の手に彼女の手が重ねられている。

ξ゚听)ξ「あのね」

( ^ω^)「うん?」

ξ゚听)ξ「ブーンは、……」

 言い淀む。
 内藤は、黙って言葉の続きを待った。

ξ゚听)ξ「……子供欲しくないの?」

 そう言うと共に、指先に力が込められた。
 上下の手を入れ替え、彼女の手を握る。

( ^ω^)「子供?」

 ツンは子供を生めない。
 内藤の祖父により、そういう「設定」にされているからだ。

 そのことについて、ツンは以前から引け目を感じているらしかった。
 夫婦になって、子供を生んで、家族が増える。
 そんな一般的な、多くイメージされる家庭という光景を築くことが、自分には不可能なのだと。

618 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:21:24 ID:G.mUN/LwO

( ^ω^)「ツンがいてくれればいいって、言ったじゃないかお」

ξ゚听)ξ「……うん」

( ^ω^)「子供がいなくても幸せな夫婦なんて、たくさんいるお」

ξ゚听)ξ「そうだけど」

( ^ω^)「僕は、今のままで充分だお」

 嘘など欠片もない。
 それが原因でツンから離れるなど以ての外だ。
 ただ、ツン本人はどうなのだろう。

 内藤は、昼のことを思い出していた。



*****

619 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:22:12 ID:G.mUN/LwO


 本の中の出来事が、現実にも起こってしまう。

 ロマネスクが相談した内容は、内藤の想像通りのものだった。
 しかし、彼の話と物語を照らし合わせてみるに、どうやら既に結末を迎えたらしい。

( ^ω^)『――それなら、もう大丈夫ですお』

(;ФωФ)『そ、そうであるか?』

ハハ ロ -ロ)ハ『間違いありマセン』

(;ФωФ)『……むう』

( ^ω^)『ちょっとオイタしちゃっただけですお。
       なので、もう御安心を』

 館内、一番奥のテーブル。
 淡黄色の本をこつこつと小突き、内藤は首を振った。

( ^ω^)『この本は、こちらで引き取らせていただきますお』

(;ФωФ)『まあ……そうしてくれると、ありがたいが』

 良かった。この男、深入りはしないたちのようだ。
 内藤とハローが、テーブルの下で互いにガッツポーズをする。

 いつもこんな風に簡単に済ませられたらいいのだが。

620 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:24:08 ID:G.mUN/LwO

( ^ω^)『もし、また似たようなことがありましたら』

( ФωФ)『うむ……』

 言葉と共に名刺を差し出す。
 ロマネスクはそれを財布にしまうと、ほっと息をついた。

( ФωФ)『……こういう、手書きの本というものは、よくあるものなのであるか?』

ハハ ロ -ロ)ハ『エ?』

( ФωФ)『他にも3冊ほど押しつけられたのである』

( ^ω^)

 がたり。内藤が身動ぎし、椅子が声をあげる。
 危うく、漫画のようにずっこけるところだった。

(;^ω^)『えっ……こ、これと同じものですかお?』

( ФωФ)『いいや。
       内2冊は薄紫っぽい色の……何といったか、椎出……でぃ? という作家だった。
       もう一冊は、黒色の、』

ハハ ロ -ロ)ハ『山村貞子』

( ФωФ)『そうそう、それである』

 内藤とハローが顔を見合わせる。
 それからロマネスクから教わったタイトルをメモし、携帯電話でニュッの番号にかけた。

 ニュッに訊ねてみると、3冊共、生きている本ではないとの答えが返ってきた。
 礼を言い、電話を切る。

 演じさせられる心配はないが、ニュッのために、そちらも回収した方がいいだろう。

621 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:28:40 ID:G.mUN/LwO

(;^ω^)『……杉浦さん。その本達も引き取りたいんですが』

( ФωФ)『我輩は構わんのである』

(;^ω^)『すみません、ありがとうございますお』

 本を宅配便で送らせることで話は落ち着いた。
 念のため、ロマネスクの連絡先を聞いておく。

( ^ω^)『その、本を譲ってくださった方はどんな人なんですかお?』

( ФωФ)『さあ……。我輩の妻が少し前から入院しているのであるが、
       同じ病室にいた患者と仲良くなったそうでな。
       その人が退院する際に、仲良くしてくれたお礼に、と妻に』

( ^ω^)『奥様、入院なさってるんですかお』

( ФωФ)『大した病気ではない。来月には退院出来るのである』

ハハ ロ -ロ)ハ『ジャア今はブーム君と2人で生活を?』

( ФωФ)『ああ。料理とはなかなか大変であるな』

ハハ ロ -ロ)ハ『奥サンの偉大さが身にしみるデショウ』

 朗笑し、ハローが伸びをする。
 デレ達がいるであろう方向を見て、小首を傾げた。

622 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:30:32 ID:G.mUN/LwO

ハハ ロ -ロ)ハ『ブーム君のアレって、反抗期みたいなモノなんデスカネ』

( ФωФ)『7歳児にも反抗期はあるものなのであろうか』

( ^ω^)『……どうでしょうかお』

 父親だというロマネスクに対し、それを否定するような発言をしていた。
 想像力が刺激されるが、他人が首を突っ込む問題でもないだろう。
 内藤は、こっそりハローの足を軽く蹴った。すぐさま蹴り返される。

 ロマネスクは宙へ視線をやっていたかと思うと、
 内藤に顔を向けて、口を開いた。

( ФωФ)『――我輩は子供を作れないらしい』

 唐突な告白に、内藤もハローもしばらくぽかんとしていた。
 ゆっくりと理解していったが、そうなったらそうなったで、
 何を言えばいいか分からなくなるだけだった。

(;^ω^)『……そ、そうなんですかお……』

( ФωФ)『結婚してから3年経っても子供が出来ないので検査をしてみたらば、
       まあ――それが発覚した』

( ФωФ)『手術をするという手もあったが、必ず成功するわけではないと言われた。
       時間もかかる。仕事が忙しい時期だったのもあって、
       手術に関しては見合わせていたのである』

623 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:32:11 ID:G.mUN/LwO

 妻の方も、「しばらくは夫婦2人でゆっくりしようか」と受け入れてくれたそうだ。
 だが――


( ФωФ)『それから間もなく、妻は妊娠した』

(;^ω^)『……それは、あの、』

( ФωФ)『言いたいことは分かる。
       我輩の母親も、真っ先に妻に怒鳴ったのである。
       「浮気してるんだろう」とか何とか』

 内藤は、いつぞやにテレビで見たドラマを思い返していた。
 同じような状況に陥った夫婦が主人公の、非常にどろどろしたストーリーのものだ。
 あのドラマでは、妻が浮気を認めていたが。

ハハ ロ -ロ)ハ『奥サンは?』

( ФωФ)『否定していたよ。
       逆に、堂々とした態度で我輩の子だと宣言したくらいである』

( ФωФ)『世の中、何が起こるか分からん。
       絶対に有り得ないとも言い切れぬだろうと、我輩は妻を信じることにした』

(;^ω^)『……はあ』

 それは、まあ、何とも。
 返事のしようもなくて、内藤は小さく頷く。

 ロマネスクは、困ったように微笑んだ。

624 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:35:18 ID:G.mUN/LwO

( ФωФ)『そしてブームが生まれたのである。
       7年、実の子として育ててきたが――』


 妻の懐妊を知った際にロマネスクの母が騒ぎ立てたことで、
 近所の間でもブームに対する「疑惑」は噂になっていたらしい。

 小学生になったブームに、知り合いが余計なことを吹き込んだのだという。

 お前の父親はロマネスクではないだの何だの。


( ФωФ)『母までもが、それに便乗した。……あの人は孫が可愛くないのであろうか』

( ФωФ)『以来、ブームは我輩のことを「おじさん」と呼ぶようになった。
       挙げ句には見知らぬ大人をお父さんと呼ぶ始末。
       ……まあ、それだけの話である』

(;^ω^)『た、……大変でしたおね』

 重い。
 重すぎる。

 今日会ったばかりの自分に、そんな話をするなと言いたい。
 正しいリアクションが分からない。本気で困る。
 本の相談なら聞くといったが、人生相談など受け付けていない。

( ФωФ)『すまないのである。
       ちょっと聞いてほしかっただけだ』

ハハ ロ -ロ)ハ『構いマセンヨ。下手に近しい人に話すヨリ、気が楽デショウ』

( ФωФ)『……ありがとう』

 沈黙。

 やがて、ロマネスクが腰を上げた。

( ФωФ)『それでは、失礼する――』



*****
626 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:41:20 ID:G.mUN/LwO



 翌日。VIP図書館。

 現時点で、本日の利用者は2人。
 その2人というのも、

ζ(゚、゚;ζ「んー。んー」

o川*゚ー゚)o「怠ーい」

 テーブルで書き物をしているデレとキュートである。

 彼女らは、修学旅行に関するレポートを書いていた。
 明日提出しなければならないものだ。

 キュートは旅行中の空いた時間に書き進めていたので、後はまとめるだけ。
 一方のデレは今朝になるまでレポートの存在を忘れていたという体たらくであった。

ζ(゚、゚;ζ「一枚目はこんな感じでどうでしょうか!」

(´・_ゝ・`)「同じ誤字が頻発してるね。これとか」

( ・∀・)「それも」

ζ(゚、゚;ζ「あう……」

(´・_ゝ・`)「あと慣用句の間違いも目につくよ」

( ・∀・)「うん。ちゃんと辞書引こうね」

ζ(゚、゚;ζ「ひぎい……」

(´・_ゝ・`)「こことそこ、あとあっちとこっちとそっちと、ああ、それも直そう」

( ・∀・)「ここの順番入れ換えたら? このままじゃ分かりづらいよ。
      そっちのも逆にした方がいいかな」

ζ(゚、゚;ζ「ほ、ほぼ書き直しじゃないですか!?」

 退屈していたデミタスとモララーが校正役を申し出てくれたのは、まあ、いいのだが。
 文章を書くのが生き甲斐な――存在意義でもある――彼らの目は、
 とても、とてもとても厳しかった。

627 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:42:44 ID:G.mUN/LwO

(´・_ゝ・`)「言い回しも、ちょっと工夫してみたらどうだろう」

( ・∀・)「だねえ。面白味が足りないかも」

o川*゚ー゚)o「あのう、別に、何かのコンクールとかに出すわけではないですし」

(´・_ゝ・`)「でも、どうせならさ……」

( ・∀・)「いい出来のものにした方が評価上がるんじゃない?」

o川*゚ー゚)o「デレちゃんがいきなりプロレベルの文章書いてきたら代筆疑われますよ」

(´・_ゝ・`)

( ・∀・)

(´・_ゝ・`)「ごめんデレさん。好きに書いていいよ」

( ・∀・)「余計な口出ししてごめんね。
      デレちゃんらしさを残しつつ訂正するのは、俺達には無理だ」

ζ(゚、゚*ζ「何ですかそれ。何ですかそれは」

ξ゚听)ξ「いいから、書くだけ書いちゃいなさい。後でまとめて直せばいいでしょ」

ζ(゚、゚;ζ「げ、現国の成績はそれほど悪くないのにぃい……。
      他に比べればですけど……」

 カウンターにいるツンに言われ、デレは用紙に向き直った。
 それと同時に、キュートが「出来た!」と声をあげる。

628 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:44:40 ID:G.mUN/LwO

o川*゚ー゚)o「かんせーい」

ζ(゚、゚*ζ「いいなあ……」

o川*゚ー゚)o「ふふふ、羨ましかろう。盛岡さん、チェックしてください!」

 デミタスがキュートのレポートを受け取り、ざっと目を通す。
 いくつか訂正箇所の指摘があったが、二つ三つ程度。

 片やデレは。

( ・∀・)「あ、デレちゃんまた間違ってる」

ζ(゚、゚;ζ「モララーさんに言われると何か悔しい……」

(;・∀・)「何で!?」

 こんな調子だ。
 仕方がない。出来が違うのだから。

o川*゚ー゚)o「……よし、っと。これでいいですか?」

(´・_ゝ・`)「うん、オッケー」

o川*゚ー゚)o「やった!」

 完成したレポートをファイルに挟み、キュートは席を立った。
 デレが顔を上げる。

629 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:46:39 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚、゚*ζ「もう帰っちゃうの?」

o川*゚ー゚)o「お姉ちゃんが午後から空いてるから、一緒に出掛けるの」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか。じゃあ、またね」

(´・_ゝ・`)「気を付けて」

( ・∀・)「ばいばーい」

ξ゚听)ξ「さようなら」

o川*゚ー゚)o「また今度ー」

 鞄を肩に引っ掛け、扉へと歩く。
 キュートは一旦足を止め、デレ達に手を振った。

 ――同時に、向こう側から扉が開けられる。

川 ゚ 々゚)「……あ」

o川*゚ー゚)o「ん? あ、くるうちゃんだ」

 扉を開けたのは、くるう。

 キュートを凝視し、わあ、と驚いたような声を漏らして後ずさった。
 見る見る内に頬が赤くなっていく。

630 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:47:52 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚ー゚*ζ「埴谷さん、こんにちは」

o川*゚ー゚)o「こんにちは! 本読みに来たの?」

川*゚ 々゚)「ん、ん。うん」

 こくこく、何度も首を縦に振るくるう。
 キュートはくすくす笑って、図書館を出た。
 くるうの横を過ぎる。

川 ゚ 々゚)「……キュ、素直さん、帰るの?」

o川*゚ー゚)o「帰るよー」

川 ゚ 々゚)「ふうん……」

 どことなく不満げだ。
 数秒ほど俯き、それから、踵を返した。

o川*゚ー゚)o「くるうちゃん?」

川 ゚ 々゚)「用事思い出したから、帰る」

o川*゚ー゚)o「そう? じゃあ、途中まで一緒に行こ」

川*゚ 々゚)「! うん!」

 キュートの提案に、ぱっと表情を明るくさせる。
 残念そうにしたり喜んだり、忙しい人だ。

631 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:50:34 ID:G.mUN/LwO

 扉が閉まる。
 デレ達は、顔を見交わした。

(´・_ゝ・`)「……あの子がくるうちゃん?」

( ・∀・)「そうそう」

ζ(゚、゚*ζ「デミタスさんは会ったことなかったんですっけ」

(´・_ゝ・`)「うん……。分かりやすいようで、よく分かんない子だね、あれは」

ξ゚听)ξ「完全にキュート目当てで来てるわね」

ζ(゚ー゚*ζ「キュートちゃん人気者だから」

 キュートがここの常連だと知れば、きっと他の生徒も顔を見に来るだろう。
 へらりと笑って、デレはペンを持ち直した。



*****

632 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:51:56 ID:G.mUN/LwO


 会えた。
 キュートに会えた。

o川*゚ー゚)o「くるうちゃん、レポート終わった?」

川*゚ 々゚)「うん」

 2人きりで歩いている。
 何て勿体ない。でも嬉しい。

 近くで見ると、本当に綺麗な顔をしている。
 目が大きくて、肌が白くて、口が小さくて。

 きっと本人は自覚していない。絶対にそうだ。嫌みなところが全然ないのだ。

川*゚ 々゚)(素敵)

 くるうは、ぽうっとキュートに見とれた。

 林の中、訪れる者の少ない図書館。どこか風変わりな司書達。
 そんな「特別」な空間に出入りする美少女。
 まるで映画か何かのようで、キュートに似つかわしい。

633 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:53:29 ID:G.mUN/LwO

 館内にいた、和服姿のモララーという男。
 あれとキュートが並んだときなど、もう最高だ。
 美男美女。あの男ならキュートの相手も務まるだろう。

 ツンといったか、いつもカウンターにいる少女も、キュートの友達としては悪くない。
 あちらはあちらで綺麗すぎる感もあるが、物静かだからキュートの邪魔にはならないし。

o川*゚ー゚)o「じゃあね!」

川*゚ 々゚)「あ」

 我に返ると、既に林を離れた場所にいた。
 キュートが手を振っている。

 しまった、キュートの話をあまり聞けなかった。
 話しかけられても無視していたかもしれない。
 嫌われていないか。どうしよう。

川 ゚ 々゚)「……ば、ばいばい」

o川*゚ー゚)o「また明日ねー」

川 ゚ 々゚)

 ぱたぱた、キュートが駆けていく。
 くるうは、しばらくその場に留まっていた。

川 ゚ 々゚)(……『また明日』……)

川 ゚ 々゚)

川*゚ 々゚)「うふう」

634 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:54:23 ID:G.mUN/LwO

【+  】ゞ゚)「――くるう」

川*゚ 々゚)「うふ。ふふふ。ふ、うふふ」

【+  】ゞ゚)「くるう。楽しそうだな」

川*゚ 々゚)「オサムう。オサム。んんふ」

 気付くと、オサムが後ろに立っていた。
 背中に体温を感じるほど近い。
 オサムに寄り掛かる。

【+  】ゞ゚)「幸せか?」

川*^ 々^)「うん。うん。ふふ」

【+  】ゞ゚)「足りないものはないか?」

川*^ 々^)「ないよ。なあい。幸せ」

【+  】ゞ゚)「……そうか」

 オサムがくるうの頬を撫でる。
 帰ろう、と囁いた。



*****

635 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:56:06 ID:G.mUN/LwO



|  ^o^ |「……お母さん」

lw´‐ _‐ノv「ん?」

 病院、6人部屋。
 窓際のベッドに、ブームの母が座っている。

|  ^o^ |「僕の お父さん どこですか」

lw´‐ _‐ノv「んー、今は会社行ってるね。夜になりゃ家に帰ってくるさ」

|  ^o^ |「……そうじゃなくて」

lw´‐ _‐ノv「あのねえ、あの人以外にブームの父親はいないんだよ」

|  ^o^ |「どうして」

lw´‐ _‐ノv「どうしてって言われても」

|  ^o^ |「だって 父親になれないって」

lw´‐ _‐ノv「うーん……」

|  ^o^ |「……」

 ブームの頭を、母が優しく撫でた。
 そんなことをされたって、質問の答えにはなっていない。
 俯き、ブームはぽつりと声を落とした。

|  ^o^ |「……僕のお父さん だれですか……」



.

636 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:56:45 ID:G.mUN/LwO



 ――特に、何事もなく日々は過ぎる。

 何事も、とはいっても、少しずつ物事は積み重なり、
 後の「事件」へと歩みを進めていた。



.

637 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:57:47 ID:G.mUN/LwO



(,,゚Д゚)「くるう」

 ある日の夜。
 ギコは、妹のもとを訪れた。

 いつものように、くるうは玄関で応対するだけ。

川 ゚ 々゚)「お兄ちゃん、どうしたの?」

(,,゚Д゚)「昨日、母さん来ただろ? また部屋に入れてやらなかったらしいな」

川 ゚ 々゚)「……」

(,,゚Д゚)「……上がっていいか?」

川 ゚ 々゚)「……だめ」

(,,゚Д゚)「何でだよ」

川 ゚ 々゚)「散らかってるから」

 その言い訳も聞き飽きた。
 また来るから片付けておけと言っても、何の意味もない。

638 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:58:46 ID:G.mUN/LwO

(,,゚Д゚)「いいよ。俺の部屋も散らかってるし、気になんねえ」

川 ゚ 々゚)「……」

(,,゚Д゚)「……。俺や母さんが部屋に入ったら、何か困んのか?」

川 ゚ 々゚)「違う……」

 苛々が募る。
 家族を入れたがらない理由など、見当はついていた。

 ――誰かいる。
 奥の部屋に、家族に知られたくないような誰かが隠れているのだ。

 今は探偵に任せているから自制出来ているが、そうでなかったら怒鳴っていただろう。
 父も母も甘いからって、親の金で一人暮らしをしてまで、何をしているのだと。

(,,゚Д゚)「……また来るよ。おやすみ」

川 ゚ 々゚)「うん、おやすみなさい」

 アパートを出て、溜め息をつく。
 転がっていた小石を蹴り飛ばし、ギコは振り返った。
 妹の部屋のドアは、既に閉まっていた。



.

639 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 05:59:40 ID:G.mUN/LwO



 ――それぞれがそれぞれの日常を送り、
 徐々に、徐々に、展開していく。



.

640 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:01:22 ID:G.mUN/LwO



(´・ω・`)「……あんまり外出しないんだよなあ……」

(゚A゚* )「例の女子高生?」

(´・ω・`)「うん」

 遮木探偵事務所。
 ギコから頼まれた調査により得た情報をまとめながら、ショボンは頭を掻いた。
 ソファに寝転がる。

<ヽ`∀´>「親の監視がないのをいいことに羽目を外すような奴よりはマシじゃないニカ?」

(´・ω・`)「それはお前だろ」

(゚A゚* )「他人の出入りは確認出来たん?」

(´・ω・`)「ああ。だが、ちょっと妙――」

( ^ν^)「ショボン」

(´・ω・`)「ん?」

 そこへ、至極真面目な表情を浮かべたニュッがやって来た。
 どうしたのだろう。

641 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:05:10 ID:G.mUN/LwO

 上半身を起こしたショボンの前に立ち、ニュッは、ある男を指差した。
 その先にいるのは、阿部という所員だ。
 それだけで事情が大体読めてしまった。

( ^ν^)「こいつクビにしろ」

N| "゚'` {"゚`lリ「何だ、いきなり酷いな」

(´・ω・`)「おっさん何かした?」

N| "゚'` {"゚`lリ「ちょっと尻を触っただけだ」

(´・ω・`)「お前まじでクビにすんぞ」

 まともな所員がいないなんて、何と嘆かわしい。

 ――と、憂いに浸るショボンが一番まともではないことは、もはや周知の事実である。



*****

642 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:06:16 ID:G.mUN/LwO



 そうして、デレが修学旅行から帰ってきて、一週間ほど経った頃。
 ついに、それが起きてしまった。



.

643 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:08:34 ID:G.mUN/LwO

ζ(゚、゚;ζ「うう……」

 放課後。高校の廊下。
 プリントの束を抱え、デレはとぼとぼと教室に向かっていた。

 修学旅行前に行われた中間テストの結果が例によって残念なものだったため、
 数学の課題が出てしまったのだ。
 英語はぎりぎりで平均点に滑り込めたので、あの鬼教師に狙われずに済んだことが唯一の救いか。

ζ(゚、゚;ζ(数学は何とかなるだろうと油断して英語ばっかり勉強した報い……)

( ∵)「長岡さんはお勉強大好きですねえ」

ζ( д ;ζ「あばばばばばばば英語赤点とってません平均点いきました大丈夫です!!」

 言ってるそばから、「鬼教師」こと奈良場ビコーズがデレの肩を叩いた。
 思わず絶叫しながらビコーズから逃げる。

 分かってますよ、と、ビコーズはいつもの無表情で答えた。

644 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:12:53 ID:G.mUN/LwO

( ∵)「今から教室行くところですか?」

ζ(゚、゚;ζ「は、はい、そうですけど……何ですか……?」

( ∵)「そこまで警戒されると先生興奮しちゃいますね。
    ――教室に埴谷さんがいたら、先生のところに来るよう言っておいてくれませんかね」

ζ(゚、゚;ζ「埴谷さんですか?」

( ∵)「ええ。補習のお話です」

 補習か。
 少し、親近感を覚えた。

 最近長岡さん頑張ってるから先生寂しいです、と言うビコーズに、
 デレは精一杯の愛想笑いを返す。

( ∵)「……それにしても、あの人があの成績をとるとは思えないんですけどねえ……」

ζ(゚、゚*ζ「?」

( ∵)「ところで長岡さんもいかがです?」

ζ(゚ー゚;ζ「結構です!!」

 絶対に嫌だ。
 全力でお断りして、逃げ出した。

645 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:15:12 ID:G.mUN/LwO

 角を曲がり、教室に入る。
 クラスメートが何人か残っていた。

 その内の1人が、デレに気付いて手を挙げる。
 キュートだ。

o川*゚ー゚)o「デレちゃんおかえりー」

ζ(゚、゚;ζ「ただいま」

o川*゚ー゚)o「それ全部課題?」

ζ(-、-;ζ「課題です……」

 どんまい、とキュートがデレに笑いかける。
 見ると、キュートの向かいにくるうが座っていた。
 デレを待つ間、くるうと話していたのだろう。

ζ(゚、゚*ζ「埴谷さん、ビコーズ先生が呼んでたよ」

川 ゚ 々゚)「……ん、分かった」

o川;゚ー゚)o「うわあ、ビコーズ先生か……。頑張ってね、くるうちゃん」

 ビコーズの名を聞いたクラスメート数人が、気の毒そうな目を向けてくる。
 デレも何度か受けたことのある視線。
 その哀れみが、ますます惨めな思いにさせてくれるのだ。

646 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:16:54 ID:G.mUN/LwO

o川*゚ー゚)o「さて、行こっか」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。ばいばい埴谷さん」

川 ゚ 々゚)「ばいばい」

o川*゚ー゚)o「じゃあね! ありがと、お話に付き合ってくれて」

 ぴょんと跳ねるように立ち上がり、キュートはくるうに礼を言った。
 くるうはぎこちなく口角を上げ、胸の前で手を振る。

川 ゚ 々゚)「待ってる人って、長岡さんだったんだ」

o川*゚ー゚)o「うん。ちょっと、2人で行かなきゃいけないところがあるの」

川 ゚ 々゚)「そう……」

 もう一度、じゃあね、と別れの言葉を口にして、デレとキュートは共に教室を後にした。

 別に、デレもキュートも、悪いことはしていない。
 誰かを傷付けるつもりなど勿論なかった。

 ただ、こんな何気ないやり取りが、決定的な「きっかけ」になってしまっただけのこと。



*****

647 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:18:04 ID:G.mUN/LwO



 キュートから話し掛けてくれた。
 人を待っているのだと。

 自分で時間を潰せるのなら、と喜んで話し相手になってやった。

 キュートと話すのは、とても楽しい。
 話さなくたって、見るだけでも。
 楽しくて楽しくて、幸せだった。

 だって、1年生の頃から気になっていたのだ。
 同じクラスになって彼女の性格を知ってからは、ますます夢中になった。
 近くにいてくれるだけで、近くで眺めさせてくれるだけで嬉しくなるのも当然だろう。

 なのに、またあいつが邪魔をする。


.

648 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:19:41 ID:G.mUN/LwO

【+  】ゞ゚)「おかえり、くるう」

川#; 々;)「オサム! オサム、オサムう!」

 家に帰るなり、くるうはオサムに縋りついた。
 涙がオサムの黒い服に染み込む。

【+  】ゞ゚)「どうしたんだ」

川#; 々;)「キューちゃんが可哀想!
      何であの子がキューちゃんと一緒にいなきゃいけないの!?
      あの子と一緒じゃキューちゃん勿体ないの! 駄目なの!!」

 オサムに頭や背中を撫でられる。
 くるうはしばらく何かを喚いていたが、嗚咽が激しくなるにつれ、
 言葉は意味を為さなくなっていった。

川#; 々;)「うう、あうっ、ううう!」

【+  】ゞ゚)「……よしよし」


 ――あれでは駄目だ。

 キュートが「真ん中」でなければ駄目だ。

 あんなに綺麗で、あんなに優しくて、あんなに明るいのだから。
 彼女が全ての中心でなければ駄目だ。

649 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:21:08 ID:G.mUN/LwO

 クラスだけでなく校内の人気者。
 そんなキュートが、くるうは大好きだった。
 物語の中のヒロインみたいで。

 それを長岡デレが邪魔している。

 VIP図書館。最高の「舞台」だ。いかにもミステリアスな場所。
 あそこでキュートが中心になれれば、これ以上はないほど素晴らしい空間になる筈。

 なのに、長岡デレがいると、どうしてかキュートが真ん中から外れてしまう。

 あの図書館の人達と仲がいいのは、キュートだけでいい。
 長岡デレはいらない。いらない。いらないのだ。

.

650 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:27:36 ID:G.mUN/LwO

【+  】ゞ゚)「……なあ、くるう」

 オサムの声が耳元に落ちてくる。

【+  】ゞ゚)「幸せか?」

川 ; 々;)「……」

 そんなわけないだろう。
 首を横に振る。

 くるうを抱くオサムの腕の力が、強くなった。

【+  】ゞ゚)「何が足りない? どうしたら、くるうは幸せになる?」

川 ; 々;)

 不気味で、不思議な男だ。
 突然自分の前に現れて、願いを叶えてくれると言った。
 くるうの願いを叶えれば、彼の望みも叶うらしい。

 だから、彼はくるうの願いを叶えてくれる。



.

651 名前:名も無きAAのようです:2011/12/05(月) 06:29:34 ID:G.mUN/LwO


川 ; 々;)「……あの子が、いなくなれば幸せ……」


 オサムが薄く笑う。


 部屋の隅、花柄の本だけが、2人の会話を聞いていた。



*****

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