- 360 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:01:03 ID:Gbvy2FBU0
( ^ω^)「──今しばらく、そちらに『本』を預けておきますお」
昼下がり。図書館の1階。
カウンターに座るツンの背後で、内藤は電話の向こうの人物へそう言った。
返事はない。だが聞いてはいるだろうから、そのまま続ける。
( ^ω^)「ただし、無事に結末まで辿り着いた暁には、
速やかに返却していただきます」
カウンターに置かれた「返却」の札を指でいじっていたら、
ツンの手にやんわりと下ろされた。
( ^ω^)「たとえ金井さんがまだ夢を見続けていたくても、
彼女らが偶然『正解』を引き当て、結末に流れ込んだのなら、
そのときには諦めてほしいですお」
『……分かりました』
ようやく返事。
思いの外、金井マニーの声はしっかりしていた。
- 361 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:01:51 ID:Gbvy2FBU0
『今夜いきなり終わったとしても、ごねたりはしません』
( ^ω^)「それはありがたい。──あと……10日。10日経っても『夢』が終わらなかった場合にも、
問答無用で回収させていただきますお」
『10日』
( ^ω^)「うちの大事な家族と、大切なお友達が心を砕いているので。
あんまり砕きすぎたら無くなっちゃいますお」
『……やはりあの子たちも、私のように、あの夢を見ているのですか』
( ^ω^)「そのようですお。びぃさんも夢の話をしてませんでしたかお?」
『びぃは……』
少し間をおいて、マニーは「分かりました」と先の答えを繰り返した。
- 362 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:02:36 ID:Gbvy2FBU0
『言われた通り、きちんと返します。──あなたの本なのですね』
( ^ω^)「正確には、僕の従兄弟の本ですお。
……ともかく、ご理解いただけて感謝いたしますお」
それでは、と言いかけ、口を止める。
もう一つ付け足しておこう。言わずとも分かっているだろうが、念のため。
( ^ω^)「このことは、他言無用で」
その一言を最後に、内藤は電話を切った。
こちらを見上げるツンと目を合わせ、ぐにゃっと笑う。
(*´ω`)「交渉成立だお〜ツンちゃん褒めて〜」
ξ゚听)ξ「やめて」
後ろから抱きついて頬擦りしたら、冷めきった声で拒絶された。
殴られるより痛い。
- 363 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:03:23 ID:Gbvy2FBU0
番外編 あな美味しや、ゴシック小説・後編
.
- 364 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:04:47 ID:Gbvy2FBU0
¥・∀・¥「面倒をかけてすまないね」
マニーの言葉に、デレとハローは顔を上げた。
4日目。豪奢な食堂。──夢の中。
食事中にマニーの方から話を切り出したのは、これが初めてだ。
ζ(゚、゚*ζ「……どうしました?」
¥・∀・¥「今日、館長さんから電話があったよ。
君達を私のわがままに付き合わせて申し訳ない」
何も言えなくて、デレはハローと顔を見合わせる。
──マニーが諸々を承諾したというのは、夕方に内藤から聞いた。
先にデミタスの本によって演じさせられていた経験が効いたのだろう、
この現象自体への抵抗感は薄いようだった。
寧ろ積極的に受け入れている。
彼に何かしらの目的がある──らしい──のも大きな要因だろうが。
- 365 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:05:33 ID:Gbvy2FBU0
¥・∀・¥「あの本がどういうものなのかはよく分からないが、
ありがたいと思っているんだ。この状況は望ましい」
ハハ ロ -ロ)ハ「……はあ」
¥・∀・¥「だから私のことはあまり心配してくれなくていい……というか、
どうか、気を楽にしてくれないか。
君達が心を痛めることはない」
無茶を言っているだろうけど、と目を伏せたマニーは、
少し口を閉じた後、何か思いついたような顔をした。
¥・∀・¥「そうだ、食事を終えたら君達は食堂を出ていくといい。
せめて私が死ぬところを見ずに済むように」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソレはソレで、チョット」
ζ(゚、゚;ζ「心苦しいですよ」
ハローはマニーの提案をあっさりと拒み、それから、眉尻を下げた。
- 366 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:06:54 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「……ソノ言い方だと、今日も死ぬのは確定なんデスネ?」
ζ(゚、゚;ζ「あ、たしかに」
しまった、という表情を浮かべたマニーが、誤魔化すように苦笑する。
──今日は肉じゃが。
お袋の味の定番といえばこれ、ということで決めたメニューだった。
ζ(゚、゚*ζ「……ごめんなさい……」
¥;・∀・¥「君が謝る必要はない!」
思わずデレが俯くと、マニーが慌ててこちらを向き、いくらか声を張った。
目を合わせれば、彼は、どこかほっとしたような雰囲気を滲ませる。
¥・∀・¥「これは無茶な謎解きみたいなものだ。君には何の責任もない。
──それに、とても美味しいよ。
そういう意味では、毎日満足させてもらっている」
お世辞なのかもしれないが、褒められるのはやはり嬉しい。
援護するように、それまで黙っていたびぃが続いた。
- 367 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:07:50 ID:Gbvy2FBU0
(´-;;゙#)「こんなに美味しそうにご飯を食べるマニー様、久しぶり」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ウチのデレはオ料理が得意デスカラね、当然デス。今日もこんなにオイシイ」
ζ(゚、゚*ζ「ハローさんのお手伝いがあってこそですよ」
デレ君、ハロー君──マニーが2人の名を反復する。
そういえば彼には自己紹介をしていなかった。
¥・∀・¥「君達には、料理と食事を普通に楽しんでいてほしい。お願いだ」
申し訳なさそうに言って、マニーが皿に目を落とす。
これ以上デレ達が気にする素振りを見せれば彼が料理に集中できなくなるだろう。
食事に戻ろうか。デレは自分の正面へ向き直り、箸を握った。
ζ(゚、゚*ζ(……まさかお箸やお茶碗まであるとは思わなかった)
各自の前──今日もびぃの分は除くとして──には、皿と茶碗が置かれている。
皿には肉じゃが、茶碗には白米が盛りつけてあった。
漆塗りの箸もばっちり。
和食でもフォークやスプーンを使うしかないのかと思っていたが、
厨房の棚に箸も碗も一式揃っていたのだ。
古城の雰囲気はどこに。いや、食べやすいからいいけれど。
- 368 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:08:54 ID:Gbvy2FBU0
¥*・∀・¥ モグッ
食事を再開させたマニーが本当に美味しそうに食べているのを確認して、
デレも茶碗を持ち上げた。ちらと対面を盗み見れば、ハローも箸を持ち直している。
とりあえず、ご飯を一口。
ζ(゚、゚*ζ(ご飯おいしい)
今日もご飯は炊きたて。つやつやふっくら。
シャンデリアの明かりを受けて、光り輝いているようにさえ思える。
出せる料理は一品のみということで少々不安だったが、
ご飯は別物、というか肉じゃがとセットだと認識してもらえたらしい。気付けば炊飯器が作動していた。
それならば味噌汁も、と思ったのだけれど、
そちらは冷蔵庫に受け付けてもらえず、材料が出てこなかった。残念。
- 369 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:09:53 ID:Gbvy2FBU0
ζ(´、`*ζ(肉じゃがー)
次に皿の方へ箸をつけた。
肉、じゃがいも、人参、玉ねぎ、白滝、それとデレはうずらの卵も入れる。
最後2つ以外は昨日のカレーとほぼ同じ材料だ。
肉は牛肉にした。豚肉もあっさりしていて好きだが、昨日使ったので。
ζ(´、`*ζ ハムッ
人参と玉ねぎは煮込まれたおかげでとても柔らかい。ストレートに出汁を味わわせてくれる。
他と異なる食感で歯と舌を楽しませてくれる白滝も程よいアクセント。
ζ(´ー`*ζ(お芋ほっくほく)
じゃがいもをぽくっと箸で割ってみれば、中は黄金色だ。
いずれも、噛めば煮汁がたっぷり染み出す。
甘くてしょっぱくて、すぐにご飯が欲しくなってしまう。
特に肉はずるい。
やわらかいながらも噛みごたえがあるから何度も噛めば、
その度に煮汁と牛肉の味が混じって広がり舌を染めていく。
ご飯と合わぬ筈がない。
- 370 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:10:45 ID:Gbvy2FBU0
ハハ*ロ -ロ)ハ「タマゴおいしい」
しみじみとハローが呟いた。
同感だ。
うずらの卵は、何故そこにあるだけで嬉しくなるのだろうか。美味いからだ。
小さい分、旨味が凝縮されている気がする。
まろみのある、こってりとした味わいが一口に収まる快感。
そこに出汁も加わるのだから最高の後味。
ζ(´、`*ζ(一晩置いた方がもっと美味しいけど……)
一度完成させた後に時間を置けば、ただでさえ美味いこの肉じゃがが、
さらにじっくりとコクを増して進化する。
この甘じょっぱさが全体に馴染んで、更に具材を引き立てるのだ。
そんなもの、ご飯のお供にせずにどうする。
- 371 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:11:28 ID:Gbvy2FBU0
¥・∀・¥「……」
ζ(゚、゚*ζ「?」
視線を感じて顔を上げると、マニーがこちらを見ていた。
テーブルに乗せた左手、人差し指につけている指輪を親指で摩っている。
そういえば指輪をいくつかつけているが、薬指には何もつけていない。
独身なのだろうか。夫婦シリーズとかいう小説で人気を博しているというから、
何となく、既婚者であるイメージを持っていたが。
ζ(゚、゚*ζ「何か?」
¥・∀・¥「いいや、なんでも」
首を傾げるデレに、マニーは微笑む。
そのまま黙って肉じゃがをつついている。何なのだろう。
(´-;;゙#)
彼の隣、びぃはマニーとデレを見比べ、物憂げに目を伏せた。
.
- 372 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:12:20 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「ごちそうさまでした」
箸を置き、麦茶で口をさっぱりさせる。
麦茶が欲しい、と冷蔵庫にお願いしたら市販のペットボトル入りの麦茶が出てきたのである。
見ればハローも食べ終えており、マニーはあと二口ほどといったところ。
彼には毎回多めに盛りつけてあるが、今のところ、多すぎるという文句は出ていない。
自分の作った料理をたくさん食べてもらえるのは、とても嬉しい。
¥*・∀・¥「──ごちそうさま。ありがとう、とても美味しかった」
かち、と食器を置く音が響いて、デレの心臓が少し冷える。
彼の言うように、料理そのものは口に合っているのだろう。空腹のせいもあるとしても。
けれど、食事自体を楽しめていても、
¥;・∀・¥「……!」
──こうして最後には無駄になる。
- 373 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:13:09 ID:Gbvy2FBU0
マニーはぱくぱくと口を開閉し、テーブルに左腕をついて前のめりになった。
しかし突っ伏すことはなく、右手で腹の辺りを握り締める体勢で固まる。
──デレ達に気を遣っているのかもしれない。
(´-;;゙#)「マニー様、大丈夫。大丈夫よ、すぐに起きるから……」
慈しむように囁きながら、びぃがマニーを抱き締める。
焦点のずれ始めたマニーの目が、自身のアクセサリーを順に追っていき──
¥;・∀・¥
伸ばした左手の指輪を見て、その先にいるデレを視界に収めた。
そのときたしかに彼の口角が上がり、
反対に瞳は泣きそうに揺れたのを、デレは見た。
.
- 374 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:14:18 ID:Gbvy2FBU0
──視界に広がる天井。
デレが身を起こすと、隣のベッドでハローが身じろぎした。
枕元から拾った眼鏡をかけ、デレを見下ろしてくる。
ζ(゚、゚*ζ「……おはようございます」
ハハ ロ -ロ)ハ「オハヨウ、デレ」
挨拶を交わし、互いに背を向け、のそのそと朝の支度を始めた。
ハローは素肌に被せたシャツのボタンを半ばまで開けた状態で寝るので、
同性といえども目のやり場に困る。
- 375 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:15:36 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「……金井サンの目的ッテ何なんデショウネ?」
ζ(゚、゚*ζ「……さあ……」
「死ぬ」直前にマニーが見せた表情を思い返しても、あれが何を意味するのか分からない。
デレは首を傾げつつ、鞄から歯みがきセットを取り出した。
今日は日曜日。
昼にショボンが来るらしい。
マニーに関する調査報告だ。何か、彼を知る手掛かりがあればいいのだが。
*****
- 376 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:16:30 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「──金井マニーは母子家庭で育った」
昼。食堂。
書類をめくったショボンの一言目がこれだった。
テーブルについてそれを聞いているのはデレとハロー、内藤とツン、でぃ、モララーの6人。
(´・ω・`)「経済的には、まあ標準くらいかな。
特別余裕があるわけでもないけど、食うに困るわけでもないってくらいの」
ζ(゚、゚*ζ「昔からお金持ちだったわけじゃないんですか?」
(´・ω・`)「たしかに今はお屋敷住まいで使用人なんぞ雇って生活してるけど、
これは小説家として大成してからだね」
根っからのお坊っちゃんではないということか。
立派なスーツやアクセサリーをそつなく身につけ、物腰穏やかな様子から、
何となく「そういう」育ちの人かと思っていたのだが。
- 377 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:17:28 ID:Gbvy2FBU0
( ^ω^)「高級食材を使った洒落た料理がお袋の味、って可能性はなくなったおね」
(´・ω・`)「まあ十中八九」
ξ゚听)ξ「お袋の味というか、ふるさとの味みたいなのはないのかしら?」
(´・ω・`)「これといって特産物のない地域のようだし、
親しみのあった食品とかも特定できないな」
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ結局ヒントは無いも同然では」
デレが呟くも、焦りを覚えたのはデレ1人だけだったようだ。
いや、と首を振ったショボンが、テーブルの前をうろつきながら人差し指を立てる。
(´・ω・`)「母子家庭、かつ祖父母は既に亡くなっていて、近所付き合いもやや希薄。
母親は働いていて、金井氏は1人で留守番することが多かったそうだ」
ξ゚听)ξ「……なら、手の込んだ料理は日常的じゃなかった?」
(´・ω・`)「恐らく」
立てた人差し指は、ツンに向けられた。
ショボンには気障ったらしい仕草がよく似合う。
嫌味に感じないから、ではなく、そもそも嫌味たらしいものが似合うのだ。
- 378 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:18:43 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「じゃあ、手軽なものが馴染み深かったってことですか?」
(´・ω・`)「いや、出来合いのもので済ませる人が多いと思うんだ、こういう環境だと。
実際、少年時代の金井氏はよく総菜屋や弁当屋で晩飯を買っていったそうだよ」
そういう証言が得られるくらいには、かつて常連であったということだろう。
なるほど、とデレが噛み砕いて納得すると同時に、ハローが手を挙げる。
ハハ ロ -ロ)ハ「気に入ってるオ総菜トカ、なかったんデスカ?」
(´・ω・`)「そこまでは流石に」
( ・∀・)「じゃあさじゃあさ、特別な日に母親が作る贅沢な料理が一番の思い出──
って可能性高くない? その場合」
(#゚;;-゚)σ ソレダ
(´・ω・`)「鋭いなモララー。馬鹿のくせに」
(;・∀・)「お、俺馬鹿じゃないよ!? 馬鹿じゃないからね!?
デレちゃんと同じカテゴリーに入れないで!」
ζ(゚、゚*ζ「何故この流れで私がディスられるんです……?」
うろうろしていたショボンが足を止める。
書類をクリアファイルに挟み、それを内藤の手元へ滑らせた後、
鞄の中から重たそうな大判の本を取り出した。
- 379 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:20:18 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「はいコレなーんだ?」
( ^ω^)「……卒業アルバム?」
大きめのアルバム。表紙には、どこかの小学校の名前。
訝しげな目をする内藤に、ショボンが爽やかに微笑んだ。
嫌な予感でもしたのか、内藤がアルバムに手を伸ばす。即座にショボンが一歩下がった。
(´・ω・`)「いくら出す?」
( ^ω^)「は?」
(´・ω・`)「このアルバムと、それに付随する情報はそこそこ価値があると思うんだけど。
いくら出す?」
( ^ω^)「殺してでも うばいとる」
真顔で答えて立ち上がる内藤から本気の殺意が窺えたので、
慌ててデレが手を振った。
ζ(゚、゚;ζ「しょ、ショボンさん、今度ショートケーキ作りましょうか」
(´・ω・`)「ショートケーキ出せば僕が動くと思ってんの? なめんなよ。はい注目」
茶番を済ませ、ショボンはアルバムを開いた。
付箋が貼ってあるページを、皆に見えるように掲げる。
- 381 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:21:16 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「運動会?」
左上に運動会と書かれたページ。何枚もの写真が載っている。
徒競走で1位の子供がゴールしている瞬間だったり、応援席で笑っている子供達だったり。
微笑ましい。
アルバムを支え持つショボンの左手、人差し指が、右下の写真をとんとん叩いた。
【 ¥*・∀・¥ 】
マニーだろうか。面影のある少年が、カメラを見上げている。
彼の隣には友達であろう子供もいた。大人の女性の足も見える。母親だろうか。
レジャーシートに座って、弁当を食べているところだった。
(´・ω・`)「このアルバムは小学生時代に金井氏と仲が良かったという人から借りた。
その人が言うには、金井氏は毎年、
運動会のために母親が作ってくれるお弁当をとても楽しみにしていたそうだ」
(´・ω・`)「特に唐揚げを喜んで食べてたらしい」
写真は上から見下ろす形で撮られており、弁当の中身もいくらか見えた。
おにぎり、唐揚げ、玉子焼き、ポテトサラダ、ハンバーグ──他にも何種類かあるようだが、
視認出来る限りで識別できるのはそれくらい。
写真の中でマニーは正に唐揚げを箸で持ち上げているところで、
とても嬉しそうに笑っている。
- 382 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:22:00 ID:Gbvy2FBU0
( ・∀・)「唐揚げだって、デレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ今夜の夢は、唐揚げにしてみます」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワタシも唐揚げ好きヨ」
(*゚;;-゚)ノ
唐揚げ。唐揚げか。
たしかにあれは、多くの人間を魅了する食べ物だ。
閉じたアルバムをテーブルに乗せ、ショボンが手を払う。
(´・ω・`)「と、小学生までの情報はこんなところだ。
──さて。今回のことに関係あるかは分からないが、
金井マニーの人生に大きな影響を与えたであろう事実が発覚したんだけど」
「どうする? 聞く?」。
当たり前のことを訊いたショボンは、やはり当たり前のように、
誰からの返答も得ないまま喋りだした。
- 383 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:22:53 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「金井氏は母子家庭だったわけだが、父親が死んだとか離婚したとかじゃない。
彼は私生児だった」
ζ(゚、゚*ζ「しせーじ」
( ・∀・)「結婚してない男女から生まれた子供ってことだよ、デレちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「へえー」
(´・ω・`)「このことは周りの人も知らなかったそうだ」
──マニーの母親は結婚指輪をしていたし、
父親らしき男が頻繁に訪れていたので、近所からは、
何かしら事情があって別居している家族なのだろうとは思われていたらしい。
(´・ω・`)「けれど15年ほど前──金井氏が中学1年生の冬、やっと事実が周知された。
……不倫だったんだな。簡潔な話」
マニーの母は愛人であった。
指輪は、夫婦の気分を味わいたくてつけていたに過ぎなかったのだ。
- 384 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:24:17 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「本妻が夜中に金井氏の家に殴り込みをかけて、ちょっとした騒ぎになったんだ。
……とはいえ具体的にどういう騒ぎだったのかは誰も知らない。
父親はそこそこ金持ってたみたいでね、どうも内々に済ませたらしい」
(´・ω・`)「けれど、本妻から恨みを買った愛人が灸を据えられたっていう事情は広まった。
やれ妊娠中の腹を刺されただの指を詰められただの寧ろ愛人がやり返しただの、
勝手な噂ばかり肥大して、真相は闇の中だ」
(;^ω^)「ひええ……」
(;・∀・)「昼ドラだあ」
(;゚;;-゚) ドキドキ
ハハ ロ -ロ)ハ「でぃコウイウ話好きですヨネ」
(´・ω・`)「んで、そんな場所に住み続けていられる筈もなく、
金井氏と母親はすぐに引っ越した」
そこまで話して、ショボンは一度口を止めた。
ツンが淹れた紅茶を飲んで一息。
- 385 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:26:58 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「……そっから先は大して情報を得られなかったな。
男とは縁も切れたようだし、そういうことがあった後だからなのか
あまり他所と関わらず、実にひっそりしている」
(´・ω・`)「……んで金井氏は高校卒業時に作家デビューして……
それから5年後に今の屋敷へ移り住むと同時に、
母親とは別居になったみたいだね」
ξ゚听)ξ「お母様はどうしたの?」
(´・ω・`)「金井氏が御立派なマンションの一室を買ってやって、そこに1人で暮らしてるみたいだ。
結構離れた町だよ」
(´・ω・`)「近所からの評判聞いた限り、品のいい女性だとさ。
穏やかで、外に出るときは日傘差したり手袋したり、まあー振る舞いは金持ちマダムだと。
実際は元愛人だけど」
小馬鹿にするような色合いが、声から感じ取れる。
それを目付きで咎めた内藤は、ふと何かが気になったのか口を開いた。
- 386 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:28:26 ID:Gbvy2FBU0
( ^ω^)「……金井さん、独身だおね?」
(´・ω・`)「うん。恋人は今までに何人かいたようだけど、今はいない」
( ^ω^)「どうして母親と別居したのかおー……。
お屋敷住まいなら母親も一緒に住めるだろうに」
ξ゚听)ξ「一緒に住めるだろうけど、わざわざ一緒に住む必要もないでしょ」
( ^ω^)「まあそうだけど」
(´・ω・`)「いや、どうやら母親とは滅多に会わないらしい。
どっちが拒絶してんだか遠慮してんだかは知らないけどね。
──デレちゃん、大丈夫? 追いつけてる?」
デレが長らく黙っているのに気付いたようで、
腰を屈めたショボンが顔を覗き込んできた。
ζ(゚、゚;ζ「は、はい」
(´・ω・`)「どこら辺まで分かってる?」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、えっと、マニーさんは唐揚げが好きで、
マニーさんは不倫で生まれた人で、
マニーさんは今お母さんと離れて暮らしてる……?」
(´・ω・`)「デレちゃんにしては上出来だ」
どう見ても褒めているとは思えぬ表情と声音だったが、
デレは最低限わかっていればいい、というツンの言葉で少し気が楽になった。
- 387 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:29:27 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「さ、こっからは正直何のヒントにもならないと思う。
でも調べた以上は話しておこう」
(´・ω・`)「金井氏は食に対して物凄く消極的なんだそうだ」
(#゚;;-゚) ?
(´・ω・`)「出されれば何でも食べるが、自分から腹が減ったとかコレが食べたいとかは言わない。
放っておけば、何も食べずに一日終えることもある。
やっと食べたかと思えばほんの少しだけ──って感じ」
ζ(゚、゚;ζ「え? マニーさん、いっぱい食べてくれますけど……」
ξ゚听)ξ「夢の中ではお腹を空かせてるからじゃない?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソレにしたッテ随分な食べっぷりデスヨ?」
(´・ω・`)「まあ待てお前ら、さっきの運動会の写真思い出せ。
昔は普通だったんだ。
件の旧友が言うには、寧ろよく食べる方だったらしいし」
( ・∀・)「じゃあ……」
- 388 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:31:47 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「多分、正妻が乗り込んできた騒ぎか、あるいはそれ以降に
彼の心を変えるような切っ掛けが何かしらあったんじゃないかな。
夢の中ではそれが取っ払われてんだろうね」
どのタイミングで何があったのかは知らないけど、と付け足すショボン。
マニーの屋敷に最近雇われたというお手伝いさんからしか
話を聞けなかった──それより上の者に接触するのは避けたい──ため、
いまいち深いところまで調べられなかったという。
(´・ω・`)「お手伝いさん曰く、金井氏は何でも食べるからメニューは自由に決めていい。
使用人がお伺いを立てて、飯を食うと言われたときだけ作る……って感じなんだとさ。
そんなんだから、あんまり金井氏や他の使用人と関われないんだと」
( ^ω^)「びぃさんってのは屋敷にいたかお?」
(´・ω・`)「訊いたけど、そういう名前の人はいないって。
雇われてる人間なんて10人程度だから、新入りのお手伝いさんでも把握してる。
それでもいないって言うなら、びぃって人は本当にいないんだろう」
いないのか。
びぃは彼のことを「マニー様」と呼ぶ。
だから彼に仕えている者だと思ったのだが。
- 389 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:32:41 ID:Gbvy2FBU0
(´・ω・`)「過去の恋人も洗ってみたけど、びぃなんて女は見付からなかった。
同級生にもいない」
(;・∀・)「一日二日で、よくそこまで調べられるね……」
(´・ω・`)「有名人だから調べやすいんだよ、こういうネタは」
結局びぃに関しては謎ばかり、ということだ。
デレとハローは同時に首を捻った。
(´・ω・`)「──はい、こんな感じ。
あ、この調査結果はニュッ君にも伝えてあるからね」
( ^ω^)「ありがとう、ショボン」
(´・ω・`)「お礼よりお札くれない?」
( ^ω^)「嫌いお前」
内藤が、懐から封筒を取り出した。
それをわざとらしく恭しい態度で受け取り、中身を確認したショボンは
毎度あり、と舌を出しつつ己の懐にしまった。
- 390 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:33:45 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「ありがとうございます、ショボンさん」
ハハ ロ -ロ)ハ「アリガトネー」
(´・ω・`)「まったく、僕がいないと駄目な奴らだなあ」
( ^ω^)「……言っとくけど、こんだけ散々話しといて、
唐揚げくらいしか有力な情報なかったからなお前」
(´>ω・`)「そこ突かれたくなかったトコォ〜☆」
猫撫で声を出したショボンは、ティーカップを持って適当な席に座った。
頬杖をつき不満げに眉を寄せる。
(´・ω・`)「正妻殴り込み事件あたりから、あからさまに情報が減ってんだよね。
その不倫してた男が金ばらまいて何か揉み消してんのかも」
ξ゚听)ξ「……それより金井さんのお母様に話を訊けなかったの?
一番手っ取り早いと思うのだけど」
(´・ω・`)「ガードが堅い。ちゃんとした雑誌の取材すら受けない人なんだ。
若き天才作家の親なら取材依頼もあるだろうに、一度も受けてない。
──まあ過去が過去だから仕方ないのかもしれないけどね」
- 391 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:35:07 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「……何か、他の方向から調べられないでしょうかね……」
何気なくデレが呟くと、それを受けたショボンが、
「そういえば」と何か思い出したように声をあげた。
──のだが、続いた言葉とこれまでの話題に、どんな関連性があるのかデレには分からなかった。
(´・ω・`)「ニュッ君さあ、ちょっとした空き時間とか休憩時間になると
持ち込んだ本を一心不乱にぱらぱら読んでくんだけど、アレやめさせられないの?
デレちゃん達のため(笑)なのは分かるけどさ」
( ^ω^)「空き時間ならいいだろうがお」
(´・ω・`)「声かけても反応しないから退屈」
ξ゚听)ξ「家でも本めくってばっかりよ。
ニュッ君ったら、デレとハローにはとびきり甘いから仕方ないわ」
( ・∀・)「俺もデミタスみたいに手伝うべきなんだろうけど
俺は3作くらいしか読んだことないからなあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ああいう確認作業は、前々カラ読み込んでるニュッ君やデミタスに任せた方がイイんデスヨネ。
なまじ数が多いダケに」
ζ(゚、゚*ζ「?」
何の話かと問おうとしたら、腹を空かしたしぃが食堂に突撃してきて、
話題はそこで切り上げられた。一体何なのだ。
ツンが昼食の準備をするというので手伝いを申し出たが、
毎晩料理をしているのだから休んでおけ、と座らされてしまった。
*****
- 392 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:35:51 ID:Gbvy2FBU0
さて5日目。
¥・∀・¥「唐揚げだ」
皿の上に盛られた唐揚げを前にして、マニーは見たままを口にした。
今日もお供にご飯。飲み物は冷たい烏龍茶。
(´-;;゙#)「からあげ……」
びぃは皿を覗き込み、少しだけ笑みを浮かべてマニーの顔を見た。
──初めて見る反応だ。デレの胸が高鳴る。
やはり、何か特別な意味合いがあるメニューなのだろうか。
- 393 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:37:30 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚ー゚*ζ「びぃさんも食べませんか」
(´-;;゙#)「いい」
ハハ ロ -ロ)ハ「頑なデスネー」
ζ(゚、゚*ζ(私の手料理だから嫌なんだろうか……)
ニュッからは、寝る前、「怪物の恋人」も作中で料理を食べていると聞いたのだが。
もしや嫌われているのか。あるいは潔癖か。はたまたグルメか。
マニーが困ったように笑い、びぃの頭を撫でる。
それからすぐに皿へ向き直った。こうする間にも腹が鳴り続けている。
正直デレも空腹で仕方ない。
デレとハローが椅子に座って、同時に口を開いた。
- 394 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:39:15 ID:Gbvy2FBU0
ハハ*ロ -ロ)ハ「いただきます!」ζ(゚ー゚*ζ
¥*・∀・¥「いただきます」
まずは箸を持ち、皿を見る。
唐揚げの表面で、ぷちぷちと小さく油の跳ねる音がする。揚げたての証拠。
一つ持ち上げ、ふうふう冷ましてかぶりつく。
かりっとした衣に包まれた、ぷりっとした鶏肉。
噛めば、むちむちと歯応えを返しながらほぐれていく。
ζ(´、`*ζ ハグハグ
じゅわり、溢れる肉汁。
下味は時間短縮のため、にんにくや醤油で鶏肉をよく揉み込み、その後20分ほど寝かせただけなのだが、
しっかりと染み込んで肉汁にも風味が溶け出していた。
やはりにんにくの香りは食欲を刺激する。
- 395 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:40:18 ID:Gbvy2FBU0
ζ(´、`*ζ パリッ
ああ、皮。鶏皮が。ぱりぱり。
衣の味を特に強く感じられる場所だけれど、皮自体のまったりさで中和される。
皮を除く人もいるらしいが、デレは鶏皮がなければ物足りない。
この脂がいいのだ。
冷蔵庫からほぼ丸鶏の状態で出てきたときは困ったが、
驚くことにハローがぱぱっと捌いてくれた。
小説の資料として色々学んだため、肉の解体は得意だという。詳しくは聞かないでおく。
結果的に、既に下ろされた肉を使うよりも良かったと思う。
ζ(´ー`*ζ(大きさと脂の残し具合が絶妙だもの……)
ハハ*ロ -ロ)ハ カリカリムチッ
ハローはといえば、これまでで一番の食い付きだ。
とろけそうな顔で頬張っている。
- 396 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:41:44 ID:Gbvy2FBU0
ζ(´ー`*ζ(いくらでも食べられそう)
はふ、と口の中の熱を逃がしたら、肉汁が唇に垂れたので舌先で拭った。
全ての行為が美味いと感じる。
油で濃ゆい口内に白米を迎え入れた。
揚げたての唐揚げに炊きたての米だ。もはや何を説明する必要がある。
しつこく感じてきたら烏龍茶の出番。
さっぱりリセット。茶の独特の渋みが、また唐揚げを恋しく思わせて。
さあ次の一口、と箸を伸ばしかけたデレの手は、マニーの声に動きを止めた。
¥*・∀・¥「……子供の頃にね」
マニーの口角は柔らかく持ち上がり、頬に赤みが差していた。
¥*・∀・¥「運動会のときはいつも、母が作ってくれるお弁当に唐揚げが入っていて……
それがとても嬉しかったんだよ。
他に入っているおかずも全て美味しかったけれど、唐揚げには勝てない」
ふふ、とマニーが笑う。
細められた目がとても優しい。
ζ(゚ー゚*ζ(ショボンさんすごい)
こんなに幸せそうに語るのだ、マニーにとって特別な料理で間違いないのだろう。
- 397 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:42:24 ID:Gbvy2FBU0
(´-;;゙*)「マニー様、おいしい?」
¥*・∀・¥「美味しい」
(´-;;゙*)「うれしい?」
¥*・∀・¥「嬉しいよ」
びぃも喜色を表していて、隣のマニーに顔を寄せると、その肩に頬擦りした。
「怪物の恋人」という役回りらしい仕草である。
けれどショボンの調査では、マニーにびぃという恋人がいた過去はないらしいし。いったい誰なのだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンとびぃサンは、どういうゴ関係デスカ?」
ζ(゚、゚;ζ(わーハローさんまた単刀直入に)
マニーと彼女は互いを見て、ほぼ同時にハローへ顔を向けた。
¥・∀・¥「内緒だ」
からかうように、マニーが言う。
いたずらな子供のように幼い笑顔だった。
ハハ ロ -ロ)ハ「ケチ」
¥・∀・¥「はは、すまない」
唐揚げのおかげだろうか、随分と機嫌が良さそうだ。
これは。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ(『正解』なのかも)
.
- 398 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:43:11 ID:Gbvy2FBU0
──しばらくして、ハロー、デレの順に食べ終えた。
食事の前には空虚感すらあったお腹が、唐揚げとご飯で満たされている。
そしていつものように、少し遅れてマニーが箸を置く。
¥*・∀・¥「ごちそうさま。──良かった。すごく、良かった」
(´-;;゙*)
しみじみ言って、彼はハローとデレを順繰りに見た。
びぃも我がことのように満足げ。
今日は物凄く手応えがある。
期待に胸を弾ませ、何よりですと答えつつデレは彼を凝視した。
さあ、どうだ。
- 399 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:43:55 ID:Gbvy2FBU0
¥*・∀・¥「美味しかったよ」
その視線に応えようとしたのか、マニーはデレと目を会わせてまた笑った。
そのまま見つめられる。何だ。どうした。どういう目だ。
些か戸惑うデレにマニーは笑みを深め、グラスに手を伸ばした。
烏龍茶を飲み込んで、
ζ(゚、゚;ζ「え」
目を見開くなり胸を押さえて俯き、皿の上にグラスを落とした。
- 400 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:45:57 ID:Gbvy2FBU0
¥; ∀ ¥「ぁぐ……っ!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「コレも違うんデスカ!?」
¥; ∀ ¥「っす、すま、ない、」
ハハ;ロ -ロ)ハ「イヤ金井サンが謝るコトじゃありマセンが」
(´-;;゙;)「マニー様、辛かったら喋らないで」
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
デレも何か声をかけたいのに、口から漏れたのは意味のない呻きだけ。
やがてマニーの体はずるずると滑り、びぃの手によって辛うじて椅子に留まったまま、
ぴくりとも動かなくなってしまった。
- 401 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:47:28 ID:Gbvy2FBU0
静寂。
びぃは丁寧な手付きでマニーの体を座り直させると、
真っ白な顔をそっと撫でた。
(´-;;゙#)「……ありがとう……」
ζ(゚、゚;ζ「へ……」
その言葉の意味を一瞬忘れていた。
おおよそ、このタイミングで出てくるものだとは思えなかったからだ。
(´-;;゙#)「マニー様が、お母様のこと、あんなに嬉しそうに話してた」
お母様──先ほど唐揚げを食べながら語っていたことだろうか。
(´-;;゙#)「デレとハローは、あと、どれくらいマニー様の相手をしてくれる?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……『正解』が分からないままナラ、アト9日デス」
ζ(゚、゚;ζ「一応、その予定です」
答えながら、デレは目眩を覚えた。
もう少しで目を覚ます。
- 402 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:48:11 ID:Gbvy2FBU0
(´-;;゙#)「……そう……」
どこか残念そうな声だった。
瞼を下ろし、マニーを優しく抱き締めるびぃ。
動きの一つ一つが、彼への慈愛を湛えているようだ。
──直後、足元がぐんにゃり歪んだ。ような気がした。
.
- 403 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:49:35 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ
瞼を上げる。
ハローの部屋。
デレは枕元を探って、携帯電話を持ち上げた。
6時前。
ハハ ロ -ロ)ハ「……唐揚げも違いマシタネー」
ベッドの方からハローの声がした。
2人とも起き上がらないまま、声を交わす。
ζ(゚、゚*ζ「ですね……正解は一体何なんでしょう。
本人に訊いても、夢の中では答えてもらえないんでしょうけど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「夢の中ジャなく現実で訊いテモ、本が邪魔しそうデスシネ」
びぃも気になる。どういう存在なのだろう。
マニーの屋敷にはいなくて、彼の恋人でもなくて、立場は平等ではなさそうで、
けれどとても親しげで、マニーを深く愛している。
何となく沈黙。
溜め息をつき、ハローがようやく身を起こした。
デレも起き上がる。
- 404 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:50:46 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「マ、収穫はチョットありマシタネ。正解のヒントみたいなの。トテモ間接的に」
ζ(゚、゚*ζ「え、何かありましたっけ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンが言ってマシタ、運動会のオ弁当デハ、唐揚げが一番ダッタと」
¥*・∀・¥『他に入っているおかずも全て美味しかったけれど、唐揚げには勝てない』──
たしかに、そんなことを言っていたか。
ハハ ロ -ロ)ハ「他のメニューは、唐揚げホドのインパクトはナイというコトデス」
ζ(゚ー゚*ζ「そっか、なるほど! えっと、唐揚げ以外にあの写真に写ってたのは……」
ハハ ロ -ロ)ハ「おにぎりと玉子焼きとポテトサラダ、ハンバーグでしたネ。
コレらはヒトマズ外してしまってイイと思いマス」
ζ(゚、゚;ζ「あ、そろそろハンバーグ試そうかと思ってたとこです。危なかったー」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレの作るハンバーグも、食べてみたかったデスケドネ。
唐揚げであんなに喜んで思い出話マデしてましたカラ、
ソノ唐揚げに及ばないのナラ可能性は低いデショウ」
言って、ハローが着替えのために勢いよくシャツを脱いだので
デレは慌てて顔を逸らし、自身もパジャマのボタンを外していった。
今日は月曜日だが、敬老の日。休日である。
別に急ぐ必要はないけれど、泊まらせてもらっている身だ。
朝食前に食堂の掃除くらいはやらねば。
*****
- 406 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:51:56 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「……デレ、大丈夫デスカ?」
昼過ぎ。食堂。
ふと思い立ったように、ハローがそんなことを訊ねてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
携帯ゲーム機(ハローのもの)でモララーと対戦していたデレは、
その問い掛けを咄嗟に飲み込めなかった。
──先程、約2名を除いたほぼ全員で宅配ピザを食べたのだが、
食後は図書館の整理やら買い物やら散歩やら小説執筆やらで皆が散り散りになり、
結果として現在、デレとハロー、モララーの3名のみが広い食堂にぽつんと残っていた。
今回の「本」事件が発生してから、モララーは積極的にデレ達の傍にいてくれる。
ハハ ロ -ロ)ハ「『夢』を見てる間ッテ、寝てるコトには変わりないカラ、体は休めてるケド……
意識とシテは、ずっと起きてるようなモンじゃないデスカ?」
ζ(゚、゚*ζ「あー……」
たしかに、起きっぱなし、という感覚はある。
体が重いとか怠いとかいうことはないけれど、精神的な疲れは残っていた。
- 408 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:52:48 ID:Gbvy2FBU0
( ・∀・)「大丈夫? 昼寝とかする?」
ζ(゚、゚*ζ「昼寝したらまた『夢』に入っちゃいませんかね?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ、この前オ昼寝しましたケド、特に夢は見なかったデスヨ」
やはり演じさせられるのは夜だけなのか。
なんて考えていたら、モララーがデレの手からゲーム機を奪った。
ζ(゚、゚*ζ「あっ」
( ・∀・)「明日から学校だし、放課後は文化祭の準備もあるんでしょ?
いま休んどかないと、しばらくは昼寝するような時間ないよ」
正論だ。
常にこの調子で冷静にしていれば、本当に、ただの二枚目なのに。
( ・∀・)「ハローも。前よりはマシだけど、まだ顔色良くない」
ハハ ロ -ロ)ハ「モララーがイケメンぶっててキモチワルイ……」
( ;∀;)「ぶってるって何だよ! 普通に心配してるだけじゃん! ハローの馬鹿!」
喋ればやはり、残念な二枚目半。
- 409 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:53:30 ID:Gbvy2FBU0
デレがモララーを宥めていると、食堂の扉が開いた。
内藤やクックル辺りかと思いきや、
(´・_ゝ・`)「ああ、良かった。ハローとデレさん一緒にいるね」
( ^ν^) チッ
デミタスとニュッ。
昼飯のときに席を外していた2人だ。
( ;∀;)「なっ、何で俺を見て舌打ちしたのニュッ君!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イツモのことデショウ」
ζ(゚、゚*ζ「デミタスさん、その本何ですか?」
デミタスが5冊ほど本を抱えているのを見て、デレはストレートに訊ねた。
しかしハローとモララーは、その姿で何か察したらしい。
ハハ ロ -ロ)ハ「終わりマシタ?」
( ^ν^)「持ってる分は」
( ぅ∀;)「何十冊もあったでしょ……お疲れ」
ζ(゚、゚;ζ「?」
近付いてくるニュッに、モララーがデレの隣の席を譲った。
デミタスはニュッの前に本を置いてから対面に移動する。
- 410 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:55:27 ID:Gbvy2FBU0
( ^ν^)「コロッケ」
ζ(゚、゚*ζ「へ?」
本を睨む彼の口から落ちたのは、単語だけ。
コロッケ。食べたいのか。2人は昼食を抜いているし。はて材料はあるだろうか。
デレがのほほんと思考を展開している横で、彼は本を指先で叩いた。
( ^ν^)「金井の本に、よくコロッケが出てくる」
金井。
デレはようやく、一番上の本に「金井マニー」という名が書かれているのを見付け──
そして鈍い彼女にしては珍しく、その意味を正しく理解した。
遮木探偵事務所は祝日も営業しているが、
ニュッには今朝、休暇が言い渡されたらしい。
それを受けるなりニュッは自室に篭って何やら作業をしていた。何をしているのかと思っていたが。
ζ(゚、゚*ζ「マニーさんの本、全部確認してくれたんですか?」
実際に口にしてみれば、色々なことが腑に落ちた。
昨日の昼にショボン達が話していたニュッの様子も、
今朝、突然ニュッに休暇が与えられたのも、
彼らが昼飯もとらず作業に没頭していた理由も。
マニーの小説を読み返して、頻出する──思い入れがありそうな──食べ物を調べてくれていた、
ということで諸々納得できる。
マニーの本を好んで読んでいるらしいニュッとデミタスならば、
めぼしいシーンも探しやすいだろうし。
- 411 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:56:48 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとうございます、ニュッさん、デミタスさん」
(´・_ゝ・`)「確実性の薄い調べ方で申し訳ないけどね」
デミタスが苦笑した。
ニュッは何も答えなかったが、目の下に隈が出来ているのを見て、
デレの笑顔がへなへな緩んでいく。
ζ(´ー`*ζ「ニュッさんのそういうとこ好き」
ハハ;ロ -ロ)ハ(;´・_ゝ・`)「!?」
( ^ν^)
( ・∀・)「こんなんだけど根はそこそこ優しいからねー」
ぎょっとしたハローとデミタスがすぐさまニュッの顔を窺って、
本を持ち上げようとしていたニュッが硬直し、
あれこれを一切把握していないモララーが普通に頷く。
当のデレは、ニュッの手元を覗き込みながら「それで、」と話を続けた。
- 412 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:57:42 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「コロッケでいいんですか?」
( ^ν^)「……登場回数で言えばコロッケが飛び抜けてる。
唐揚げもそれなりだが、そっちは昨日作ったろ。
それ以外の料理は大して差がない」
ζ(゚、゚;ζ「ぎええええ何で爪先を踏みつけながら話すんですか徐々に力入れないでくださいやだニュッさん嫌い」
ハハ ロ -ロ)ハ(デレとの会話がジェットコースターすぎてニュッ君の心臓イツカ止まりソウ……)
ニュッが本を広げた状態で手渡してくる。
マニーの代表作である「夫婦シリーズ」とやらの一作らしい。
読んでみると、話の前後は分からないが、主人公らしき中年男性が
妻子の作ったコロッケに舌鼓をうつシーンが2ページほどにわたって記されている。
ζ(゚、゚;ζ ゴクリ
その描写は精緻で、先ほど食事をとったばかりのデレすら食欲が刺激された。
なるほど、こんなにも描写に熱を入れるのなら、たしかに思い入れも深そうだ。
- 414 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 21:59:18 ID:Gbvy2FBU0
( ^ν^)「これなんかは、コロッケが題材になった短編すらあった。
少なくとも、気に入ってる料理であることは間違いないと思う」
短編集らしい文庫本を持ち上げてニュッが言う。
そちらも見せてもらうと、これまた詳細にコロッケの良さが表現されていた。
この場には、特に描写に力を入れていそうな5冊を持ってきただけであって、
コロッケを食べるシーン自体は他にも何作かあるという。
(´・_ゝ・`)「作品数が多いと、その作者が拘るものや拗らせているものの傾向が分かりやすくなる。
金井先生の場合、食べ物ならコロッケ、
題材なら夫婦というものが顕著だね。あと母親との関係」
ハハ ロ -ロ)ハ「夫婦や母親に関しテハ、タシカニ、何かしら拗らせててもオカシクないデショウネ」
( ・∀・)「そうだねー……」
ショボンからの報告を思い出しているのか、ハローとモララーがしみじみ頷く。
既婚者の愛人であった母親。
その母と現在は距離を置いているらしいマニー。
そりゃあ、抱えるものも当然あるだろう。
( ・∀・)「あれっ?」
勝手に同情しているのか涙ぐんでいたモララーが、頓狂な声をあげた。
ニュッの背後から本を眺め、怪訝そうに首を傾げている。
- 415 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:00:45 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「どうしました?」
( ・∀・)「これ、作者違うじゃん」
言ってモララーが指差した文庫本には、マニーの名前が書かれていなかった。
聞いたことのない名だ。
間違えたんですか、とデレが問えば、ニュッに鼻をつままれ引っ張られた。
ζ(゚、゚;ζ「ふがが」
( ^ν^)「これも金井の本だ」
ζ(゚、゚*ζ「え? でも名前……」
ハハ ロ -ロ)ハ「アア、別の名義デスカ?」
ζ(゚、゚*ζ「あ」
ぽんと手を叩いて頷いたハロー。
彼女の言葉にデレも合点がいった。
そういえば、別の名前で小説を書く作家もいると、先日彼女が言ったのだ。
- 416 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:01:31 ID:Gbvy2FBU0
( ^ν^)「金井マニーの別名義だと公言されてはいないが、
文章や展開の癖が所々似通ってる。
ついでに言うと、金井作品のコアなファンにだけ通じるようなネタがたまにあるんだ」
(´・_ゝ・`)「だからファンの間では、十中八九同一人物だろうと認識されてるんだよ」
ζ(゚、゚*ζ「なるほどー……」
( ^ν^)「こっちの名義は実験的な作品が多い。
──その分、金井の本音っつうか、心理みたいなのが若干あからさまだ。
何かしら問題のある母子関係の話が多いな」
デミタス達のものにしろ、市販のものにしろ、
小説の話をするときのニュッは生き生きしている、とデレは思う。
少なくとも普段より饒舌だ。
- 417 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:02:55 ID:Gbvy2FBU0
( ・∀・)「母親のこと嫌ってるのかな?」
ハハ ロ -ロ)ハ「嫌いなヒトをわざわざ自分のオ金で高級マンションに住まわせるデショウカ」
( ^ν^)「まあ金出してやるから干渉してくんなって意思表示の場合もあるだろうが、
小説読んだ感じ、嫌ってはいないと思う」
(´・_ゝ・`)「心優しい母親が苦労させられるけど最後は報われるって展開が多いからね。
……これが理想の母親像だっていう可能性もあるけど」
( ・∀・)「あ、この書き方いいなあ。たしかに嫌悪感はなさそうだね」
ζ(゚、゚;ζ(心なしかデミタスさん達も生き生きしている)
この様は、あれだ。筆者の気持ちを答えなさい、のやつだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「テイウカ、金井サンの母子関係は正直ドウデモイイんデスガ……」
真っ先に飽きたのか、いきなりハローがぶった切った。
たしかに、こちらが把握するべきなのはマニーの求める料理だ。
お袋の味、ということなのでもちろん母親とのあれこれは関係あるだろうけれど、
マニーと母親の関係性のみを考えたところで正解の料理に辿り着けるわけではない。
本を読んだだけで母親と料理を絡めて推理することが出来るなら、
ニュッとデミタスがとっくに答えを出しているだろうし。
- 418 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:04:01 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンが何か抱えていても、デレの料理と母性で丸く収めればイイんデス」
ζ(゚ー゚;ζ「母性って……」
( ・∀・)「そうだね。ニュッ君のお母さんになるとか言えるくらいだし、母性あるよ」
(;´・_ゝ・`)「え、何それ?」
( ^ν^)「がんばってねオカーサン」
ζ(゚ー゚;ζ「わー思いの外ニュッさんにそう呼ばれるの気色悪い」
( ^ν^)「ざけんな」
ニュッが文庫本の背表紙でデレの頭を叩く。と同時に、彼の腹が鳴った。
冷凍食品あったっけ、と厨房へ向かうニュッ。
その背を眺めていたハローは、ふとテーブルへ目を戻すと、
座りが悪そうに眉を顰めて首を傾げた。
ζ(゚、゚*ζ「何かありました?」
ハハ ロ -ロ)ハ「コノ名前、最近ドコかで見た気がするんデスヨネー」
ううん、と唸りながら、ハローがマニーの別名義を指で擦る。
- 419 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:05:48 ID:Gbvy2FBU0
(´・_ゝ・`)「その名義での作品数は多くないから、そこにある短編集2冊で全部だよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ンー。本屋サンで見たのカモ」
( ^ν^)「お前ら鯛焼き食うか」
ハハ*ロ -ロ)ハ(*・∀・)「食べる!」
(*・∀・)「俺あんこね!」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワタシはクリームのがイイデス」
(*・∀・)「レンジで温めた後にトースターにもかけてね! かりかりになるから!」
(´・_ゝ・`)「ニュッくん僕にも何かご飯ちょうだい」
厨房から顔を覗かせたニュッが、自分で食べるのであろうお好み焼きの袋とは別に
鯛焼きのパッケージを掲げてみせれば、
あっという間にハローの頭から直前の話が吹っ飛んでしまったようだった。
お前は、と訊いてきたニュッにデレもクリーム鯛焼きをお願いする。
──そういえば昼寝するのを忘れていたな、と気が付いたのは、
ぼちぼち食堂に人が集まり、夕飯の準備が始まった頃だった。
*****
- 420 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:09:54 ID:Gbvy2FBU0
¥*・∀・¥「コロッケ」
6日目。
皿の上でほかほか湯気を立てるコロッケと茶碗に盛られた白米に、マニーの顔が緩んだ。
(´-;;゙*)「ころっけ」
びぃは皿ではなくマニーを見て口元を綻ばす。
食べる前から反応がいい。
腰を下ろしたデレとハローが手を合わせれば、マニーもそれに倣った。
ζ(゚ー゚*ζ「それでは、いただきます!」
いただきます、ハローとマニーの声が重なる。
今日も手に握るのは箸だ。
ソースを入れた小皿も付けているが、3人共、まずはそのままコロッケに箸を伸ばした。
箸で一口大に切り分ける──という食べ方よりも、
コロッケは、そのまま持ち上げて齧りつきたいところ。
- 421 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:11:23 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ シャクッ
しゃくしゃくと小気味良く砕ける、軽い衣。この音がいい。
噛むごとにパン粉の香ばしさが増す気がする。
中身は潰したじゃがいもと合挽き肉、玉ねぎ、人参。実にシンプル。
じゃがいもは、ごろごろした食感が少し残る程度の潰し具合。
さらりとした滑らかさとほくほく感が入り交じる、いい塩梅だ。
ζ(´、`*ζ シャクシャク モフモフ
濃い目の下味のおかげで、そのままでも充分美味い。
美味いが、そこにもうひと味加わるのもコロッケの醍醐味だろう。
というわけで、半分ほどまで食べた頃合いに、
小皿を持ち上げてソースを垂らしてみる。
とろり、絡みつく褐色。中濃ソースだ。
- 422 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:13:02 ID:Gbvy2FBU0
ζ(´ー`*ζ(ピリ辛とろ甘ー)シャグッ
ひやりとしたソースが口の中でコロッケの熱と混ざり、互いの風味を引き立て合うのが堪らない。
しかもソースのおかげでご飯とますます合ってしまうのだ。なんて卑怯。
くどく感じてきたら、付け合わせの千切りキャベツで仕切り直し。
すると今度はあっさりしすぎた口内が、またコロッケを欲して。
ζ(´ー`*ζ ホフホフ
止まらない。
¥*・∀・¥「──すごく美味しい」
一つ食べ終えた辺りで、マニーが吐息混じりに呟いた。
やわらかい笑顔。こんな表情で食べてもらえると、デレも嬉しい。
- 423 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:14:17 ID:Gbvy2FBU0
¥*・∀・¥「何だか、懐かしい味だ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「金井サンの本を参考にシテ、金井サンが好きそうなコロッケをデレが作ったんデスヨ」
¥*・∀・¥「やあ、はは。そうか、そういう分析の仕方があったか。
うん、おかげで実に私好みだ」
(´-;;゙*)「マニー様、そんなに美味しいの……」
¥*・∀・¥「ああ。こんなに夢中になれたのは久しぶりだよ。思い出の味だね」
本当に懐かしい──
感じ入ったようなマニーの声に、デレの心臓が大きく跳ねる。
これは。今日こそ。今度こそ。
デレが見つめていると、目を合わせたマニーが照れ臭そうに笑った。
2つ目をかじって、うん、と頷き、
¥*・∀・¥「昔、よく行っていたお弁当屋さんのコロッケが大好きだったんだ」
爽やかに、そう言い放った。
*****
- 424 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:15:39 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ「そっちかあ……!」
目を覚ましたデレは、開口一番叫んだ。
同時に隣のベッドから枕を叩くような音がする。
──もはや言うまでもないだろうが、食後、マニーはまた餓死した。
たまご形の育成ゲームだってまだ死ににくい方だろう。
ハハ;ロ -ロ)ハ「母親じゃなくてオ弁当屋サンの思い出だったんデスネ……」
ζ(゚、゚;ζ「お弁当屋さんの常連だったんですもんね、そりゃ有り得るか……ああ何か悔しい!」
ニュッとデミタスが頑張ってくれたのに。
そう思うと、余計に無念だ。
デレはうつ伏せになって枕を抱え、ベッドを横目に見上げた。
身を乗り出しているハローと視線がかち合う。
ハハ ロ -ロ)ハ「……どうしマス? 多分、新しいヒントはなさそうデスヨ」
ζ(゚、゚*ζ「……勘でやるしかないですかね。残り8日しかないけど……」
同時に溜め息。
不貞腐れたように枕に顔を埋め、デレは唸った。
*****
- 425 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:18:31 ID:Gbvy2FBU0
──7日目は鯖の味噌煮にした。
そういえば魚料理を出していなかったなと。
箸を入れれば抵抗なくほぐれる程やわらかな身。
甘めの味噌が絡んだそれを口へ運べば、ふんわり広がる優しい香りと味。
生姜のおかげで、全体の風味がきゅっと締まる。生姜の効果は臭み消しだけではないと実感する。
今までで一番と言えるほどマニーが夢中で白米を掻き込んでいたが、結果は駄目だった。
8日目は餃子。
せっかくなので、焼き餃子と水餃子と揚げ餃子の3種類。
時間が掛かっても待てるとマニーが言うので。
焼き餃子は程よく焦げ目のついたぱりぱりの皮と、肉汁溢れる具の組み合わせが基本の美味しさ。
酢醤油で食べるのがいい。
水餃子は皮のもちもち感が口に優しい。心なしか、具もふんわりしている。
これはポン酢でさっぱりと。
揚げ餃子はタレを付けずにそのままで。
ざっくり砕ける皮とジューシーな具、これだけで充分に完結しているのだ。
揚げ餃子は初めてなんだ、とマニーは楽しそうに食べていたが、やはり、これも違った。
- 426 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:19:40 ID:Gbvy2FBU0
9日目はご飯路線から外れて、ケーキを作った。
特別な日に母親が作る料理が印象深かった筈──というモララーの推理に改めて注目し、
では特別な日というと例えばどんな日だ、と皆で話し合い、
子供にとって一番の楽しみはクリスマスや誕生日に食べるケーキなのでは、と結論が出たのだ。
とりあえず普通の、苺のショートケーキにした。
恐らく最も一般的であろうという理由で。
ショボンも好きだし。
ふわふわのスポンジを甘さ控えめのホイップクリームで包み、真っ白なそれに真っ赤な苺を乗せる。
苺の酸味のおかげで甘くなりすぎずにまとまっていて、
飲み込んだ後に無糖の紅茶を口に含めば、全てがそこに収束し、ふわりと優しい後味を残した。
期待通りにマニーは誕生日やクリスマスの思い出を語ってくれたが、
大抵は母親の手作りでなく既製品だった、と申し訳なさそうに言った辺りでデレとハローは脱力した。
もちろん不正解。
そして10日目、11日目、12日目──
*****
- 427 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:21:50 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ「今回も駄目でした」
マニー達とオムライスを食べる夢から目覚めた朝。
食堂にいた内藤とニュッに、デレは力なく報告した。
13日目も不正解に終わったのだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンは喜んでましたケドねー……」
デレはチキンライスにオムレツを乗せて割ったタイプのオムライスよりも、
薄く焼いた玉子でチキンライスを包む派だ。
どちらも好きだけれど、やはり包んだ方が、整ったものを崩しつつ食べ進める楽しみがある。
ついでにスライスチーズを一緒に包んでおいたところ、
スプーンで割ったオムライスから溶けたチーズがとろとろ溢れるのを見て、マニーが破顔していた。
トマトの風味とチーズの組み合わせはまず外れない。
まあメニューとしては外れたのだが。
- 429 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:23:19 ID:Gbvy2FBU0
( ^ν^)「オムライス……デレのチキンライス」
まだ若干寝ぼけている様子のニュッが、トーストにバターを塗りながら
ぼんやりした声で呟く。
今日は苺ジャムも塗るらしい。バター多め、ジャムは少なめ。
ζ(゚、゚*ζ「今度作りましょうか?」
( ^ν^)「うん……」
ζ(゚、゚;ζ「ひえっ。ニュッさんが素直だ。こわっ」
( ^ω^)「それはともかく」
ぱん。内藤が手を叩く。肩を跳ねさせ、デレはそちらに顔を向けた。
- 430 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:24:04 ID:Gbvy2FBU0
( ^ω^)「今日が『期限』だお。デレちゃん、ハロー」
ζ(゚、゚*ζ「……ですよね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハア……」
──内藤がマニーに提示した期限は、今日である。
泣いても笑っても、今夜が最後のチャンス。
今夜の内に正解を引き当てなければ、明日、内藤が強制的にマニーから「本」を回収し
朗読して物語を終わらせる。
そうすれば、マニーやデレ達は解放される。
──マニーの求めるものを差し出せないまま、終わる。
それでは何だか収まりが悪い。
理由は分からないまでも、あの夢の中でデレとハローが作った料理を食すことは、
マニーとびぃにとって大きな意味があるのだろう。
彼らの納得いく結末を迎えないまま終わらせるのは、デレもハローも望まない。
けれど。何を作ればいいのかがさっぱり分からないのだ。
ζ(゚、゚*ζ(どうしよう……)
*****
- 431 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:24:53 ID:Gbvy2FBU0
結局、答えを出せないまま「夢」を迎えた。
14日目。演じさせられ始めてから、ちょうど2週間。
¥・∀・¥「お味噌汁だね」
ぽんと置かれたお碗を見て、マニーが言う。
ζ(゚、゚*ζ「これも定番かなと思いまして」
ハハ ロ -ロ)ハ「日本の食卓には付き物デスシ」
(´-;;゙#)「おみそしる……」
──びぃがぴんと来ていないのを見て、間違えたか、と思ってしまった。
未だに彼女とマニーの関係は分からないが、マニーの好みをある程度は理解しているようなので、
彼女の反応も判断基準にはなっていた。
ζ(゚、゚;ζ(いや、食べるまでは分からない!)
頭を振って席に着く。
「いただきます」、ハローの言葉に続いて、箸と碗を持ち上げた。
- 434 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:26:29 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ(……とりあえず具もド定番で)
豆腐とわかめ、ねぎ。
それらの具を順番に口へ運ぶ。
ほろりと崩れる豆腐。独特の歯応えのわかめ
絡んだ味噌汁が、それらを噛む度に口に広がる。
斜め切りにしたねぎはくったりとやわらかくなり、ほのかに甘い。
ζ(´、`*ζ チュルッ
汁を啜る。味噌の香りが鼻に抜け、こくり、飲み込めば、
喉と腹がじんわり暖まった。
ほっとする。
¥*‐∀‐¥
マニーからも、ほうっと息をつくのが聞こえた。
落ち着く、という一言も。
- 435 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:28:08 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「……今日で、最後なんですけど……」
恐る恐るデレが言うと、マニーは碗を下ろした。
どこか物寂しそうな顔をしている。
¥・∀・¥「うん。ありがとう。付き合わせて、すまなかったね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシはただ美味しいゴ飯食べてたダケなので、割と楽しかったデスケド」
¥・∀・¥「ふふ、……うん、毎日とても美味しかったし、楽しかったよ。
それだけでも充分に価値のある時間だった。
これ以上を望むのは厚かましいというものだ」
──ああ、やはり、味噌汁も不正解か。
申し訳ないなと思った。
けれどもマニー本人が「充分だ」と言ってくれるから、それに甘えてしまう。
マニーは指輪を摩りつつ、隣のびぃにも笑みを向けた。
- 437 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:30:23 ID:Gbvy2FBU0
¥・∀・¥「びぃも、ありがとう。思えば、君とこんな風に会えたのが一番の驚きだった」
(´-;;゙#)「……」
¥・∀・¥「……びぃ?」
いつもマニーの一挙一動に一生懸命だったびぃは、このときだけ、
何かしらの思考に気を取られていたのか黙っていた。
訝ったマニーが顔を覗き込み、ようやくびぃの瞳が彼を捉える。
(´-;;゙#)「……マニー様は、もう少しわがままになっていいと思う……」
¥・∀・¥「君は昔から私に甘いなあ」
笑顔を苦笑いに変えて、マニーがびぃの頭を撫でる。
──「昔から」。
付き合いの長い仲なのは予想がついているが、結局、彼女の正体は分からないまま。
マニーとデレが再び碗を持ち上げる。
びぃは、じっと彼の横顔を見つめていた。
.
- 438 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:31:19 ID:Gbvy2FBU0
¥・∀・¥「──ごちそうさま」
次にマニーが声を発したのは、味噌汁を食べ終え、碗と箸を置いたときだった。
デレとハローもほぼ同時に終えていた。
マニーが面々を順繰りに見る。それから、深く頭を下げて。
¥・∀・¥「改めてお礼を言いたい。ありがとう、いい2週間だった」
ζ(゚、゚*ζ「いえ、……ごめんなさい、ご期待にそえなくて」
あまりに丁寧な対応にますます申し訳なさがつのって思わず謝罪すると、彼は、ぱっと勢いよく顔を上げた。
──眉根を寄せた表情に、違和感。
デレが声をかけようとした瞬間、マニーは腹を押さえてまた頭を下げた──というか俯いた。
だから先ほど眉を顰めたのか、とデレは納得する。
¥;・∀・¥「、本当に、……ありがとう……」
最後にまた礼を言い、マニーが目を閉じた。
びぃは何も言わず、彼の肩口に頭を預けた。
*****
- 439 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:32:56 ID:Gbvy2FBU0
( ^ω^)「駄目だったかおー……」
食堂。
頬杖をつき、内藤は、先ほど登校のため出ていったデレの姿を思い返した。
全くすっきりしていなさそうな顔だった。そりゃあそうか。
ξ゚听)ξ「延長する?」
紅茶を淹れながらツンが問う。
朝っぱらから美貌を振り撒く彼女を眺め、内藤は首を振った。
( ^ω^)「……いや、しない。夢が始まってから2週間だお、2週間。
デレちゃんもハローも明らかに疲れてるし、
いい加減、デレちゃんは学校、ハローは執筆に専念しなきゃいけないお」
ξ゚听)ξ「そうよね」
こちらの回答などとうに予測できていたのか、
ツンは至って普通に頷いている。
図書館に入り浸っているとはいえ、高校生であるデレの本分は学業にある。
文化祭も中間テストも近いらしいから、そちらに集中させてやらねばなるまい。
今日で彼女が自宅に戻ってしまうのは少し寂しいが。
それにハローも、新作を書き始めた頃に巻き込まれたので、執筆が止まっている。
これ以上マニーに付き合って小説の完成が遅れれば、ニュッが不満を溜め込むだろう。
- 440 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:33:41 ID:Gbvy2FBU0
ξ゚听)ξ「それじゃあ予定通り、3時頃に金井さんのお宅へ?」
( ^ω^)「そうするおー」
マニーとは、昨日の内に電話で予定を取りつけておいた。
15時に内藤とツンがマニーの屋敷へ行き、「本」を出してもらって
マニーに主な台詞などを朗読してもらいつつ、内藤とツンが脇役の台詞を読み上げる──
といった形で終わらせるつもりだ。
ξ゚听)ξ「でぃの本なら、これで終わらせてくれるわよね」
( ^ω^)「まあ、行ってみないと分かんないけどもね」
──別に、予感があったわけでもなく。
普通に、一歩引いた意見として口にしただけだった。
本当にそれだけ。
だから、
- 441 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:34:24 ID:Gbvy2FBU0
( ^ω^)「──は?」
15時過ぎ。
金井邸の客間でふかふかの椅子に座らされた内藤には、
向かいで気まずそうにするマニーの言葉を
すぐに飲み込めるような下地が整ってなかった。
¥;・∀・¥「私も、必死に探したんですけれども」
思わず困惑を込めて漏らしてしまった内藤の声を、
責めているものだと勘違いしたのか、マニーが顔を青くさせて舌を動かす。
- 442 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:35:06 ID:Gbvy2FBU0
¥;・∀・¥「今朝はたしかに、サイドテーブルに乗っているのを見たんです。
けれど打ち合わせのために出版社に赴いて、
昼頃に帰ってきたら、……その……」
ようやく把握し始めた内藤は、横目にツンを見た。
ツンはいつも通り、静かな目付きでマニーを見据えながら
ティーカップを口元で傾けている。
彼女の横顔によって心を落ち着かせ、内藤は改めてマニーと向かい合った。
反対にマニーは戸惑いを顕にし、足元を見下ろしながら、先の言葉を繰り返す。
¥;・∀・¥「『本』が、なくなっていたんです」
*****
- 443 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:35:55 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ「勝手に移動したってことですか?」
夜、に近い夕方。ハローの部屋。
制服のまま椅子に腰掛けたデレは、ベッドに座るハローとでぃ、
携帯電話を握って床に座るしぃを順に見て、そう訊ねた。
──どうもマニーのもとから「本」が消えたらしいのだ。
(*゚ー゚)「演じ終わらせないために、金井センセーが嘘ついてる可能性もあるけどー……」
携帯電話の画面を見ながら、しぃが答える。
マニーの屋敷にいる内藤から、メールで状況の説明が送られてくるのだそうだ。
彼女の言葉にデレは口を開きかけた。が、それより早くハローが反応する。
- 444 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:37:07 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンはそういう、せこいマネはしないと思いマス」
ζ(゚、゚*ζ「私もそう思います」
(*゚ー゚)「いや、図書館来た日に、でぃちゃんの本のこと隠したんでしょ?
しかも館長が最初に電話したときも、知らないって嘘ついたんでしょ?」
ζ(゚、゚*ζ「それはそうなんですけど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「今日返すッテ館長と約束していたナラ、チャント約束を守る筈デス。
ソウイウ人だと思いマスカラ」
(*゚ー゚)「……絆されてんなあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「それにホラ、でぃの本デスシ。
コレまでの流れカラして、自分で隠れた可能性が高いカナと」
(#゚;;-゚)) コクン
──「本」は時おり、身を隠したり、新たな主人公のもとへ勝手に移動したりする。
あんな終わり方で演劇が終了するとは思えないから、
今回は、本が自らどこかに隠れているパターンだろう。
理由は──内藤達に持ち帰らせないため、といったところか。
どうやら本は、意地でもマニーやデレ達に最後まで演じさせたいらしい。
- 445 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:38:34 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「多分、本が金井サンに肩入れしてるんデショウ」
でぃの「本」に関して言えば、
自分の欲のためだけにここまで食い下がることは少ない。らしい。
演じ終わる前に内藤達が迎えに来るとしても、少なくとも隠れはしない。
しかし今回こうして姿が見えなくなったとなると、
自分のためではなく、誰かのために行動しているパターンが考えられる。
そしてその「誰か」は恐らくマニー。
この場合が厄介なのだ。
でぃの本は情け深い。そしてちょっと不器用。
マニーが夢の続行を望む限りは、出てこないだろう。
ζ(゚、゚*ζ「内藤さんから続報ありました?」
(*゚ー゚)「んー。使用人さんたち総出で屋敷のなか探しても見付かんなかったから、
今日は諦めて帰ってくるってよ。
デレちゃんのお泊まり続行決定の瞬間です」
┐(#´;;-`)┌ ヤレヤレ
- 446 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:40:00 ID:Gbvy2FBU0
(*゚ー゚)「……ねえねえ、そのさ、びぃって人が隠した可能性はないの?
金井センセーに甘いんでしょ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ナイと思いマス。金井サンは昨日、びぃサンに
『こんな風に会えたのが驚き』、トカ何とか言ってマシタ。
その口振りだと、ドウモ、普段はびぃサンと顔を合わせていないヨウナ……」
ζ(゚、゚*ζ「あ、ですね。たしかにそんな感じはあります……」
しぃが唸り、足を開いて床に上体を倒した。体前屈。やわらかい体だ。
そのまま、うんうん呻いている。
ハハ ロ -ロ)ハ「ドウシマシタ、しぃ」
(*゚ぺ)「だってデレちゃん達まで巻き込んでるからさあー……。
でぃちゃんの『本』の中じゃ、特に大胆で変わり者の部類なのかなと思ってさ……。
それなら、金井センセーのために姿隠すこともしないんじゃないかとも思ってるわけよ。私はね」
まあ推測でしかないけど、としぃが拗ねたように付け足す。
- 447 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:41:28 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「でぃさんより、しぃさんの方が詳しそうですね。でぃさんの本に」
(*゚ー゚)「双子の姉妹だもの。私の本については、でぃちゃんが一番詳しいかもね」
(*´;;-`)ゞ テレテレ
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ達の本に一番詳しいのはニュッ君デショウ」
(*゚ー゚)「それもそうだわ! あ〜ニュッちゃんに何もかも知られてる感覚たまんねえ」
(*゚;;-゚) ポッ
(*゚ー゚)「ああそうだ、ニュッちゃん帰ってきたらデレちゃん達から説明しときなね……。
心労やら何やらでニュッちゃんぶちギレるかもだけど、
デレちゃんとハローがへらへらしとけば毒気抜かれるだろうからね……」
ζ(゚、゚;ζ「ぶちギレられますかねえ……」
ちょくちょく鼻フックをされたり頬を抓られたりするが、
デレがニュッに本気で怒られたことなど数えるほどしかない。
記憶にある限り、ニュッに怒鳴られたのは、ある事件でデレが軽率な行動をとったときだけだ。
要は、すこぶる心配させられればニュッは怒る。
それ以外で彼が激怒するのは本が関わったとき。
主に、VIP図書館の作家が書いた本に対する独占欲が刺激された場合である。
- 448 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:42:57 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ(……あれ、結構やばいなこれは)
ニュッを怒らせる要因トップ2が揃っているではないか。
別にデレ達が悪いわけではないが、怒りのやり場がない分、危険だ。
今日こそデレの鼻穴と頬が伸びきるかもしれない。
無意識に鼻を押さえるデレを一瞥し、しぃが唇を尖らせる。
(*゚3゚)「さっさと円満解決しないと、ハローとデレちゃんに気兼ねなくセクハラできないからつまらん」
ζ(゚、゚*ζ「……それなら演じ終わらなくていいかもしれませんね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ネ」
(*;ー;)「やだやだ無防備なメロンとスイカを揉みくちゃにしたいよー」
(#゚;;-゚) セクハラ シトルガナ
しぃの集中力が切れたらしく、またピンク色の発言しかしなくなったので聞き流す。
それから、まだ真面目であった先程までの会話を反芻した。
(*゚ぺ)『でぃちゃんの「本」の中じゃ、特に大胆で変わり者の部類なのかなと思ってさ』
何故だか、その言葉が強く印象に残ったのだ。
*****
- 449 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:43:50 ID:Gbvy2FBU0
¥;・∀・¥「申し訳ない」
目を開けるなり、ぐうぐうきゅるきゅると腹の中から大合唱を響かせつつ
マニーが土下座していたので、デレはぎょっとして立ち上がった。
ζ(゚、゚;ζ「ちょっ、ちょっとマニーさんやめてください! 顔上げて!」
大きなテーブルも、シャンデリアも、並ぶ食器も、
昨日までと何ら変わりない。
至って普通に、夢の続きが開幕した。
¥;・∀・¥「こんなことになるとは思っていなくて……」
ハハ ロ -ロ)ハ「仕方ナイことデス、気にしナイで」
いつの間にやらハローも近付いてきており、膝をついてマニーの顔を上げさせた。
デレもしゃがみ込む。
- 450 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:44:57 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「金井サンが隠したワケじゃないんデショウ?」
¥;・∀・¥「勿論!」
ζ(゚、゚*ζ「これは本の意思ですから。
本が、何が何でも続行するぞっていうなら、私達にはどうしようもないんです」
¥;・∀・¥「……もう、私の口から正解を言うべきかな……。
夢の中ではヒントも言えないようだけれど、現実でなら伝えられるだろうか」
ハハ ロ -ロ)ハ「可能かは怪しいデスガ、試してもらえると助かりマス」
マニーは眉を顰め、すまないと再び呟いた。
彼に落ち度はない。──あるとしたら、初日に、さっさと内藤へ本を渡さなかったことだろうけど。
今さら言っても仕方ない。
もしくはデレがメイド服など着なければ。
(´-;;゙#)「……マニー様、今日からもずっとご飯食べられる?」
──マニーの斜め後ろに立っていたびぃが、ぽつりと言った。
ハローに支えられて立ち上がったマニーが、彼女へ振り返る。
- 451 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:46:06 ID:Gbvy2FBU0
¥;・∀・¥「そうだけど……彼女達には迷惑だろう。
びぃだってこんなことに付き合って、」
(´-;;゙#)「私は幸せ。マニー様が美味しくご飯を食べられるなら」
びぃが目を伏せた。
──その様子から、マニーの顔に疑念が滲んだ。
¥;・∀・¥「……びぃ、何かしたのかい?」
(´-;;゙#)「……私に出来ると、マニー様は思う?」
問い掛けに逆に問い返されて、マニーは黙った。
その顔からはもう、疑いが消えている。
──何だ。何なのだその意味深なやり取りは。
デレはパンクしそうな思考を一旦閉じた。
現実での本の行方は内藤達に任せて、こちらは料理に集中しよう。
マニーが椅子に座るのと同時にデレは腰を上げた。
びぃが、じっとこちらを見つめてくる。
- 452 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:46:46 ID:Gbvy2FBU0
(´-;;゙#)「……よろしくね、デレ、ハロー」
¥;・∀・¥「また、世話をかけるね」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です、こっちは問題ありません」
夕食後にN.Nさん(仮名)に鼻を思い切り引っ張られたのだが、
まあ問題ないということにしておこう。
寧ろ、少しほっとしているのだ。
昨日のあれで終わり、では消化不良だったから。
勿論みんなに心配をかけているのは分かっているので、今日終わらせるのが一番いいのだが。
ハローの手を取って厨房へ向かう。
この厨房に立つのも15回目。不安げなハローの顔を見上げ、デレは小首を傾げた。
ζ(゚ー゚*ζ「さ、何を作りましょうか?」
*****
- 453 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:47:48 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「……デレ、恐くないんデスカネー……」
昼。図書館の食堂。
テーブルに額をくっつけ、ハローは呟いた。
その場にいたモララー、クックル、貞子が顔を見合わせる。
ハハ ロ -ロ)ハ「昨日もにこにこシテ炊き込みゴ飯つくったんデスヨ。
お出汁と醤油と具材の香りや味がよく染み込んでて美味しかったデス。
鶏肉がふわふわシテ、キノコとタケノコがこりこりシテ……」
( ・∀・)「貞子、おれ今日炊き込みご飯食べたい」
川д川「今日わたし洗濯当番だからあ……でぃかしぃに言ってちょうだい……」
(;゚∋゚)「飯の話がしたいんじゃないだろ、ハロー」
ううん、と唸りながら頭の向きを変えて、隣のクックルを見る。
無骨な見た目にそぐわず、繊細で器用ゆえに凝った料理が得意な彼を眺め、
ハローは溜め息をついた。
それから今度は斜交いに座る貞子。この図書館で一番料理が上手いのは彼女であろう。
その隣のモララーは、まあ、ハローとあまり変わらないか。
- 454 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:48:38 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「……ワタシがやるのは軽いオ手伝いダケで、
オ料理のほとんどはデレがやってくれてマス。
だからデレが一番疲れてる筈なんデス」
川д川「まあ、あんたは料理っていったら肉料理かホットケーキしか作らないものねえ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ウン……。……延長するコトになって、しかもイツ終わるのか本格的に分からなくなって、
余計に疲れた筈で、なのにデレはにこにこシテ、
食材の下拵えも丁寧にやってご飯つくって……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……せめて貞子やクックルが『執事』だったナラ、
デレ、もっと楽だったデショウに……」
そうしてハローはまたテーブルに顔を伏せた。
こんなことなら、普段からもっと色んな料理に挑戦しておけば良かった。
昨日ハローが役立ったことといえば、唐揚げのとき同様、鶏肉を捌いたくらいで。
出汁と醤油の必要な分量すら教わらないと分からない。
( ;∀;)「そっ、そん゙なッ、そんな゙こどな゙いッ! ハローだっでェッ、ちゃ、ちゃん゙どォ!」
(;゚∋゚)「何でお前が泣く」
- 455 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:49:37 ID:Gbvy2FBU0
川д川「……モララーがうるさいから、深く考えないの、ハロー……。
私は、あんたが執事役になって良かったと思うわよお……」
溜め息混じりの貞子の言葉に、ハローは再び視線を上げた。
貞子が卓上の菓子入れから小さな包みを一つ持ち上げる。
彼女の好きな米菓専門店のおかきだ。
ハローの方へ包みを滑らせ、頬を掻く。
川д川「あんたは美味しいもの食べて笑っときなさい……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ワタシが執事で良かったデスカ? 何で?」
川д川「……やあよ、そんなの説明するの。恥ずかしいわあ……」
それから貞子はもう一つ包みを取って、おかきをぽりぽり食べ始めた。
ハローがクックルを見上げても、彼もよく分からないのか肩を竦めるだけだった。
とりあえず貞子の中では、ハローが不要なわけではないらしい。
ありがとうと礼を言い、あとでデレと一緒に食べよう、と包みをシャツのポケットにしまった。
( ;∀;)「お゙、俺の方がよっぽど、2人の役に゙立でな゙い゙しィッ」
ハハ ロ -ロ)ハ「モララーうるさい」
( ;∀;)「酷くない!?」
.
- 456 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:50:35 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚ー゚*ζ「──今日は炒飯つくりましょう」
夜。
歯磨きを済ませてハローの部屋に戻る途中、デレがそう言った。
昼過ぎにマニーから内藤へ電話があったようだが、
相変わらず本は見付からないし、マニーに正解の料理を教えてもらおうとしたら
いきなり電波状況が悪くなって結局聞けなかった──明らかに本の仕業──らしいので、
やはり、自力で正解を探るしかないようだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「炒飯デスカ」
ζ(゚ー゚*ζ「もうローラー作戦しかないかなあって。ちなみに炒飯はしぃさんの案です」
ハハ ロ -ロ)ハ「デスヨネー……みんなも色々考えてくれてるケド、なかなかネー……」
川д川「あ、ちょっとハロー……」
呼ばれて振り返ると貞子が立っていた。
叱るときの声色だったので、何かやらかしてしまったらしい。
ぱたぱたスリッパを鳴らしながら近付いてきた貞子が、ハローの右手に何か握らせた。
小さく平たい包み──昼に貞子からもらった、おかきだった。
- 457 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:51:20 ID:Gbvy2FBU0
川д川「さっき洗濯しようとしたら、あんたの服からこれ出てきたんだけど……。
洗濯出す前にポケット調べなさいっていつも言ってるでしょお……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ア、ゴメンナサイ」
ζ(゚ー゚*ζ「何です?」
ハハ ロ -ロ)ハ「おかき……歯磨いちゃったカラ、明日食べマスネ」
とりあえず寝間着のポケットに突っ込む。
また忘れないでよ、と小言を漏らし、貞子が踵を返した。
──と、そのとき。
ぐっと瞼が重くなった。
- 458 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:52:07 ID:Gbvy2FBU0
ハハ;ロ -ロ)ハ「ン」
ζ(-、゚;ζ「あ……」
どうやらデレも同じなようで、ほぼ同時に目を擦った。
眠い。
ハハ;ロ -ロ)ハ「チョットゆっくりしすぎマシタカ。
──ワタシ達が布団にいなくテモ、関係ナイのネ」
ζ(-、゚;ζ「みたいですね……あ、だめ、眠……」
自室のドアを開けた。いやに重く感じる。
そうして2人は部屋の灯りも消さぬまま、
それぞれのベッドと敷き布団に、なだれ込む勢いで潜った。
*****
- 459 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:53:21 ID:Gbvy2FBU0
¥*・∀・¥「──今日も美味しかった」
空の皿を前に、マニーが微笑む。
そこには先程まで山盛りの炒飯があったのだが、米一粒も残さず綺麗に完食してくれた。
ζ(゚、゚*ζ(……今日も違うか……)
対するデレは少し残念に思っていた。
ぺろりと平らげ、美味いと言ってもらえるのは嬉しいけれど、
この夢の中に限ってはそれだけでは足りないのだ。
何か思い出を語るでもなく黙々と食べていたので、これも違うのだろう。
(´-;;゙#)
びぃの反応も芳しくない。
きょとんと炒飯を眺めていた。
──ああ、ほら、そうこうしている内に。
マニーが空咳をして俯く。
- 460 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:54:59 ID:Gbvy2FBU0
¥; ∀ ¥「……すまない、本当に、ご飯は美味しいのだけど……っ」
ハハ ロ -ロ)ハ「大丈夫、分かってマスヨ」
ζ(゚、゚;ζ「そうですよ。マニーさんは気にしないでください」
傍に立ち、背を撫でる。
意味があるかは分からないが、何もしないのも心苦しい。
(´-;;゙#)「……ありがとうね、デレ」
ζ(゚、゚;ζ「いえ」
¥; ∀ ¥「──さむい……」
小声でマニーが訴える。ほぼ無意識の声に思えた。
今までも、そう感じていたのかもしれない。いつも死の間際にはがたがた震えていたから。
ハハ ロ -ロ)ハ「寒いデスカ?」
ハローが上着を脱ぐ。
この場で、そういうことが可能な服装をしているのは彼女だけだった。
マニーにかけるため、真っ黒な上着をひらりと広げ──
- 461 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:56:01 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「……ンッ?」
くしゃり、という音。
それを聞き、ハローとデレ、びぃは上着に目をやった。
マニーに上着を被せてから、ハローがポケットに手を突っ込む。
何か見付けたようで、すぐに引き抜き顔の前に持ち上げた。
ζ(゚、゚;ζ「それは?」
握り込めるくらいに小さな、薄い袋。
見覚えがある。
たしか眠る直前に見たのだ。
何だったか。
──目眩がする。
マニーの震えは止まっていた。
ハローの手にある袋は。ええと。目がちかちかして頭が回らない。
あれは。たしか。
そうだ。
お菓子の、
*****
- 462 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:56:47 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ「ハローさんっ!」
目覚めた瞬間、デレは跳ね起きた。
ベッドの上でもハローが同じように飛び起きていて、
何か言うよりも先に、パジャマのポケットから包みを取り出していた。
顔を突き合わせ、それを確認する。
ハハ;ロ -ロ)ハ「……コレでしたヨネ」
ζ(゚、゚;ζ「これでした」
おかきの入った包み。
平べったいからタキシードに入っていたのに気付かなかった、とハローが呟く。
念のため開けてみたが、中身は勿論おかきである。
- 463 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:57:51 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ「食べ物は夢に持ち込めない筈じゃ……?」
以前、メモ用紙は持っていけた。
べっこう飴は駄目だった。
あの夢は、マニーのために料理をする、というのが前提にある。
だから食べ物はあくまで夢の中の冷蔵庫から出さねばならないし、
既に出来上がっているものを持っていくなど以ての外──なのだろうと納得していたのだが。
違うのだろうか。
ζ(゚、゚;ζ(おかきだけ持ち込めた……?)
いや。やはり「料理を作る」ことが前提としてある夢なのだ。
そこが重要な筈。そこを中心として考えれば、何かが浮かび上がってきそうになる。
おかきが特別だったのではなくて。
寧ろ特別ではなかったからこそ、そのまま持ち込めたのかもしれなくて──
だとしたら。もしかしたら──
ハハ ロ -ロ)ハ「……べっこう飴は、『作らなきゃいけないモノ』だったのカモしれマセン」
──デレのまとまらぬ思考は、ハローの一言で収束した。
*****
- 464 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 22:59:08 ID:Gbvy2FBU0
──17日目。
夢の中。お城の厨房。
並んで立ったデレとハローは互いを見交わし、頷いた。
ζ(゚、゚*ζ「必要なのは、お砂糖と……」
ハハ ロ -ロ)ハ「それと水だけデスネ」
この日は初めて冷蔵庫を使わなかった。
調味料は元から置かれているし、水も、蛇口からいくらでも出てくる。
- 465 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:00:03 ID:Gbvy2FBU0
( ^ν^)『べっこう飴?』
朝、食堂にいたニュッへ一番に報告したところ、
彼は首を傾げてしばらく沈黙した。
( ^ν^)『……金井の本では見たことないな』
ζ(゚、゚;ζ『でも、これって何か重要な筈です!』
ハハ ロ -ロ)ハ『何にせよ、べっこう飴かおかき、ドッチかに何かがあるんダト思うノ』
ニュッは眉間に皺を寄せ、顎を摩り、「じゃあ」と口を開いた。
( ^ν^)『今日は、飴と米菓以外の菓子持って寝ろ。
それも夢に持ち込めたら、べっこう飴つくれ』
指示に従い、今日はチョコレート菓子を持ったまま眠りについた。
溶けるとまずいので、個包装の上から更にラップで包んだ状態で。
──結果として、現在、チョコレートはデレのメイド服とハローのタキシードに入っている。
やはりべっこう飴が特別なのだ。
- 466 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:01:00 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん、まな板にクッキングシート広げておいてください」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハーイ」
砂糖を大さじ4、水を大さじ1。
それだけを片手鍋に入れて火にかける。
箸などで掻き混ぜるのではなく、鍋をぐるりと回すようにして溶かしていく。
ぶくぶくと泡が立ち、黄色がかってきたところで火を止めた。
色が濃くなるほど苦みが出てしまうので、火から離すタイミングが大事。
再び鍋を回して、蜂蜜のような色合いになったら
広げておいたクッキングシートに適量ずつ垂らしていく。
とろとろ、輝く金色。
一口大の円形がいくつか出来た。
固まるまで置いておく。
- 467 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:01:52 ID:Gbvy2FBU0
ハハ ロ -ロ)ハ「盛りつけはドウシマショウ」
ζ(゚、゚*ζ「お皿に乗せるだけでいいかと……というか、どれくらい食べますかね、マニーさん」
ハハ ロ -ロ)ハ「何個も食べるヨウなモノじゃありマセンしネ……。
金井サンには一応2個くらい出しときマスカ。
物足りなそうナラ、厨房カラ補充する感じデ?」
ζ(゚、゚*ζ「そうしましょうか」
固まったべっこう飴をクッキングシートから剥がして、
マニーの皿に2つ、デレとハローの皿に1つずつ乗せた。
余った分は寄せておく。
今日もデレ達まで空腹を覚えていて、今すぐお腹いっぱい食べたい気分なのに、
皿にぽつんと置かれた琥珀色の小さな円が
何よりのご馳走に見えた。
- 468 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:03:23 ID:Gbvy2FBU0
¥・∀・¥「……べっこう飴……」
──マニーの瞳は、幼く輝いていた。
デレが彼の前に皿を置いてからというもの、ずっと飴だけを凝視している。
(´-;;゙*)「べっこー」
びぃもまた、輝かんばかりの笑顔。
彼女は胸の前で両手をつかね、デレとハローを交互に見た。
(´-;;゙*)「デレ、ハロー、すごい。……すごい」
その瞳は潤んでいて。
想像以上の反応に、デレとハローは思わず肩を竦めた。
- 469 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:04:31 ID:Gbvy2FBU0
ζ(゚、゚;ζ(食い付きがすごい)
ハハ;ロ -ロ)ハ(コレで不正解トカないデスヨネ?)
声には出さなかったが、互いの言いたいことは目線で伝わった。
さすがに、こんな反応をしておいて、不正解な筈は。ないだろう。いくら何でも。
¥・∀・¥「……早く、食べたいな」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、はい、ごめんなさい」
デレとハローは慌てて着席した。
全員がテーブルにつかねばマニーは食べようとしないのだ。
ζ(゚、゚*ζ「えっと、それじゃあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「イタダキマス」
¥・∀・¥「いただきます」
そう言ってからも、マニーはすぐには手を出さなかった。
ぼうっとしたような目でしばらく飴を見つめ、ようやく左手を伸ばす。
- 470 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:05:49 ID:cufKjHeI0
薄く、平べったい、小さな黄金色。
もう一度じっくり眺めてから、一つ、口に含んだ。
もごもご動く唇。じわじわ持ち上がる口角。
¥*・∀・¥
愛おしむような瞳。
あまりに美味しそうに食べるから、つられてデレとハローも自分の皿にある飴を口に運んだ。
ζ(´、`*ζ(……あま……)
砂糖と水だけで出来ているから複雑な味はない。
ひたすらに甘い。
その素朴な味が優しくて、何だか無性に泣きたくなった。
薄っぺらい飴たった一つ。
なのに舌を包む甘味が、少しずつ少しずつ喉に流れていくにつれ、
激しかった空腹感が収まっていく。
(´-;;゙*)
まるでそれが伝わっているかのように、びぃの顔がますます甘ったるくとろけていった。
視線はやはり、マニーにのみ注がれている。
- 471 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:07:33 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「……昔。母がよく作ってくれたんだよ」
デレが口の中で飴を溶かし終えた頃。
同じく一つ目を食べ終えたのか、もう一枚持ち上げながらマニーが口を開いた。
シャンデリアの光にべっこう飴を透かして、
じわりと優しい声を出して。
¥・∀・¥「とてもシンプルな食べ物だけどね。
すごく、好きだった。
きらきらして、つやつやして。母の指輪についている石に似ていたのも理由かもしれない」
ぱくり。口に放り込んで笑みを深めると、
彼は自身の左手につけている指輪を撫でた。その指輪には、石は付いていなかったけれど。
¥・∀・¥「私にとって、母との一番の思い出といえば……
この小さな琥珀色なんだ」
(´-;;゙*)「うん……マニー様、よく食べてた……」
びぃが、マニーの左手を握る。
それを握り返してマニーは目を閉じた。
穏やかに笑ったまま、べっこう飴の甘さに浸っている。
ハハ*ロ -ロ)ハb
dζ(゚ー゚*ζ
向かいを見ればハローが親指を立てていたので、デレも同じように応えた。
今までにないほど静かで、優しい時間だった。
.
- 472 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:08:22 ID:cufKjHeI0
──2つ目を食べ終えるのに、大した時間はかからない。
マニーが満足げに息をつく。
ずっと繋ぎっぱなしだったびぃの手を彼の右手が撫でれば、
びぃは擽ったそうに目を細めて手を離した。
¥・∀・¥「ありがとう……正直、これに辿り着くとは思ってなかった」
ハハ ロ -ロ)ハ「物凄い偶然で分かったヨウなモノなんデスけどネ」
ζ(´ー`*ζ「あはは、そうですねー」
たしかに偶然だった。
あの日べっこう飴が手元になければ、ずっと分からないままだったろう。
──考え、はて、とデレは首を傾げた。
何故あのとき、べっこう飴を持っていたのだっけ?
クックルにもらったからだ。
あれ、クックルは何故べっこう飴を買ったのだったか。理由を言っていた気がするが──
デレの思考は、がしゃん、と響いた音で断ち切られた。
- 473 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:09:04 ID:cufKjHeI0
¥; ∀ ¥「──!!」
ζ(゚、゚;ζ「──え」
マニーが左手で腹を押さえ、右手でテーブルクロスを握り締めていた。
それにより、皿が床に落ちたのだろう。
音の正体は分かった、けれど、マニーのこの状態は。
¥; ∀ ¥「……そんな──そん、な、うそだ、うそだろう、うそだ……」
マニーが囁くごとに、右手に力が篭る。
デレは、それを呆然と眺めるしかなかった。
- 474 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:10:22 ID:cufKjHeI0
ハハ;ロ -ロ)ハ「金井サン!?」
(´-;;゙;)「マニー様! なんで、あんなにべっこーあめ喜んでたのにっ」
¥; ∀ ¥「ああ、いやだ、いやだ……! うそだ……!」
マニーが叫ぶ──いや、碌に声を出せないのか、絞り出すようなか細さではあったが。
これほど苦痛を顕にするのは初めてだった。
苦痛──苦悩?
その様に、足が竦む。
しかしハローがマニーに駆け寄るのを見て、デレもようやく動いた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「アレでも、駄目ナノ」
椅子から落ち掛けたマニーを支えながら、ハローが唖然としつつも何とか声を出した。
その間にもマニーは嫌だ嫌だと何かを拒絶していて、
ハローの反対側からはびぃが縋りついている。
- 475 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:12:30 ID:cufKjHeI0
¥; ∀ ¥「や、やめて……やめてくれ、なんでちがうの、どうして、ぼくは……やっぱり……」
ζ(゚、゚;ζ「ま、マニーさん、だ、大丈夫ですか……」
大丈夫なわけがないだろうに。
思うことがありすぎて──でも目の前のマニーが恐くて、頭が回らない。
デレは無意識に、びぃの後ろから手を伸ばした。
声が届いたのだろうか。マニーは口を止め、虚ろな目をこちらに向けた。
ぶれる目線が、ぴたりとデレに定まる。
瞬間、ぞくりと寒気がした。
彼の震える手がデレの手を掴んだ。痛いほどに握り締められて、
¥; ∀ ¥「……やっと出た答えが、これなのか……」
──絶望にまみれた声を零し、彼は沈黙した。
力の抜けた手が落ちる。首が、がくりと後ろに反る。
びぃが、はらはらと涙を流して彼を抱き締めた。
- 476 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:13:12 ID:cufKjHeI0
(´-;;゙。;)「……ごめんなさい、ごめんなさいマニー様、
私が、私が……」
さめざめと泣きながら、びぃは何かを懺悔している。
足に力が入らなくて、デレはへたり込んだ。
ハローを見上げる。顔色が悪い。きっとデレも。
静寂を湛えた食堂にびぃの泣き声が響くのを聞いている内、目眩がし始めた。
*****
- 478 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:14:25 ID:cufKjHeI0
──言葉が頭に入らなかったので、聞き返した。
ζ(゚、゚*ζ「え?」
(;^ω^)「だから、今日、文化祭だおね? 大丈夫かお?」
聞き取りやすいようにゆっくり区切りながら、内藤が繰り返す。
ああ、とデレは声を落とし、目の前の扉に目をやった。
この扉を開ければ、図書館から外に出る。
ζ(゚、゚*ζ「はい、大丈夫です」
先程──朝食をとる際に同席していた内藤とツン、ニュッとモララーに夢の内容を報告してからずっと、
内藤はデレ達を気遣う素振りを見せていた。
こうして玄関まで見送りに来てくれている。
顔色が最悪で見ていられないとは、ツンの談。
- 479 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:15:51 ID:cufKjHeI0
ζ(゚、゚*ζ「ちょっと、まだびっくりしちゃってるだけで」
数日前に自宅から持ってきておいた、衣裳の入った袋を抱え直す。
今日は土曜日。文化祭1日目。
土曜日は校内公開──学校関係者のみが対象だ。
一般公開は明日。なので、明日よりは、今日の方が客も少ないだろう。
だからたぶん大丈夫。だと思う。
内藤は胸元で両手の指を擦り合わせ、目を泳がせてから、デレの腕を掴んだ。
(;^ω^)「車で送ってくお。何かデレちゃん、ふらふらどっか行っちゃいそう」
ζ(゚、゚*ζ「ハローさんについててあげてください、だいぶ参ってるみたいだったし」
(;^ω^)「あっちにはニュッ君とモララーがついてるお。
こんなデレちゃん放っといたら、僕がニュッ君とツンに殺される」
.
- 480 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:18:06 ID:cufKjHeI0
──学校はカラフルな装飾と浮かれきった空気に満ちていて、
己との乖離があまりに激しく、「夢」よりも現実感が薄く思えた。
o川;゚ー゚)o「ちょっとデレちゃん大丈夫?」
ζ(゚、゚*ζ「へ」
o川;゚ー゚)o「顔まっしろ」
喫茶店を開く多目的ホールに入って早々、キュートにまで心配されてしまったし。
ζ(゚、゚*ζ「んー……こわい夢見ただけ」
嘘ではない、というか真実だ。
マニーでさえ「正解」をべっこう飴と思い込んでいるようだった。
なのにそれが違ったとなると、もはやヒントなどどこにも無いだろう。
絶望的としか言えない。
そして何より、嫌だ嫌だと喚きながら徐々に命が失われていく彼の姿。
それが単純に恐ろしかった。
今までは静かに息を引き取っていたため、
彼の死というものにいくらか慣れて麻痺していたのだろう。そのぶん反動が大きい。
だがデレは深く考えないようぼんやりしているからまだマシだ。
ハローなどは唸ったり床を転がったりを繰り返していた。
- 481 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:19:43 ID:cufKjHeI0
o川;゚ー゚)o「夢って」
ζ(゚、゚*ζ「……あ、そういえばクックルさんがね、雑誌に短編載ったんだって」
o川*゚ー゚)o「は? くわしく」
キュートの気を逸らせないものかと頭を回し、クックルに関する話題を探して、
以前聞いた話を振ってみたところ上手いこと釣れた。
そのままクックルの話をしながら着替えや準備を済ませ、
文化祭の開始を迎える。
ここ半月以上、毎晩メイド服で動き回っていたので
羞恥心も戸惑いもほとんど感じず、スムーズに対応できた。
そのおかげか、クラスメートや教師に褒められたのが嬉しい。
.
- 482 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:22:10 ID:cufKjHeI0
o川*゚ー゚)o「で、何。どの雑誌。どれ」
ζ(゚、゚;ζ「後でクックルさんに訊いたらメール送るから……」
o川*゚ー゚)o「よろしくね。別にどうでもいいんだけどね、まあ読んでやりますわ」
あっという間に1日目が終わった。
朝からずっとクックルの話題を引きずっていたキュートを宥め、校門で別れる。
帰りは迎えに行くから連絡して、と内藤から言われていたが、
接客などで気が紛れたおかげでデレもだいぶ落ち着いていたので、
ゆっくり歩いて図書館に戻った。
モララー達に慰めてもらったか、同様に落ち着いたらしいハローと今晩の相談をする。
あの様子ではマニーも戸惑っているだろうから、
何か、ほっとするような料理にしよう──という方向で固まった。
具体的なメニューは実際にマニーの顔色を窺ってから決めることにして、
あとは普通に過ごし、夜を待つ。
クックルから雑誌のタイトルを訊いてキュートに報告して、風呂に入り、夕飯を食べ、
内藤と改めて夢やマニーの話──内藤が電話を掛けても出なかったという──をして。
眠気を覚え始めた頃にハローと共に彼女の部屋へ入り、それぞれ布団に潜って、
- 483 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:22:51 ID:cufKjHeI0
この日は夢を見なかった。
*****
- 484 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:23:38 ID:cufKjHeI0
ζ(゚、゚*ζ「一体どうしたんでしょう……」
朝7時。VIP図書館の食堂。
ツンの握ったおにぎりを食べながら、デレは呟いた。
具は焼き鮭。焼いて間もないのか、ふっくらやわらかい。
塩気が強くてご飯との相性が最高だ。
考えてみれば、久しぶりにちゃんと朝食をとったような。
ハハ ロ -ロ)ハ「拍子抜けトイウカ、肩透かしトイウカ……」
昨晩から意気込んでいたハローは、
複雑な表情でスライスチーズがとろけたトーストを齧っている。
- 485 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:25:08 ID:cufKjHeI0
( ^ν^)「まだ結末に行ってない筈だが」
( ・∀・)「『本』が諦めたのかも?」
(#゚;;-゚) ?
(*゚ー゚)「なーんか変だよなあ。何なんだろ」
ニュッとモララー、椎出姉妹にも、何が何やらさっぱり分からないらしい。
彼らに分からないならばデレに分かろう筈もない。
既に食事を終えた内藤が、ネクタイを締めながら頭を振った。
彼の前にツンが紅茶を差し出す。
( ^ω^)「僕は昼にでも金井さんのところに行ってみるお。
もし終わってるのなら、本も大人しく出てくる筈だし」
ξ゚听)ξ「そうね。逆に、出てこなければまだ夢が続くかも」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも一緒に行く」
( ^ω^)「ハローは休むように。ゆっくりしとけお。
金井さんに挨拶がしたいなら後日にしなさいね」
ハローは不服そうに頬を膨らませた。
見た目は充分に大人なのだが、こういう仕草が似合う不思議な人である。
おにぎりを食べ終えたデレが立ち上がると、ツンが皿を回収して厨房へ入っていった。
それを見届けてから内藤がこちらに声をかけてくる。
- 486 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:25:49 ID:cufKjHeI0
( ^ω^)「今日も送るおー」
ζ(゚、゚*ζ「平気ですよ、もう」
( ^ω^)「文化祭に行けないのなら、せめて校門の前で女の子を眺めたい……」
ζ(゚、゚*ζ「お、おう」
引き気味に内藤の申し出を受けることにした。
日曜日、文化祭2日目。
昨日より忙しくなるだろうし、行き帰りくらいは甘えよう。
──久しぶりにゆっくり眠った心持ちだった。
なのに、不可解な事態のせいで、すっきりしない。
*****
- 487 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:27:12 ID:cufKjHeI0
o川*゚ー゚)o「今日は昨日より顔色いいね」
ζ(゚ー゚*ζ「そう?」
学校。
更衣室で着替えていたら、既に浴衣を着終えたキュートが隣に立ち、
つんつんと頬をつついてきた。
へらり、笑ってみせればキュートも安心したように笑う。
o川*゚ー゚)o「さあて、今日は一般公開日だ。他所にも美少女の噂を轟かしちゃうぞー」
小さな声で明るく言って、拳を握るキュート。随分と機嫌が良さそう。
彼女の足元の鞄から文芸雑誌が覗いているのを見付け、
これに触れてしまえばまたしばらく美少女が美少女でなくなりそうだな、とデレは口を噤んだ。
.
- 488 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:27:53 ID:cufKjHeI0
──今日も滞りなく進んでいった。
いや、デレに関して言えば滞りはあったのだが、
幸い接客にまで影響するほどではなかったのだ。
昼を回り交替が言い渡される。
制服を抱えたキュートが、更衣室に行こう、と誘いをかけてくれた。
o川*゚ー゚)o「2時間空いたし、一緒に回ろ」
一拍遅れて彼女の言葉を理解する。
欠伸を堪え、目元を擦りながらキュートに振り返った。
ζ(ぅ、゚*ζ「ん……ごめん、キュートちゃん……」
──少し前から、眠気を覚えていた。
足が重い。瞼が重い。
夜に充分寝た筈なのに。
疲れが溜まっていたのだろうか。
ふらふら、出入口へ進む。
- 489 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:28:36 ID:cufKjHeI0
o川*゚ー゚)o「? デレちゃん?」
ζ(゚、-*ζ「私ちょっと、保健室で……休……」
──言葉は最後まで続かなかった。
デレの両目が勝手に閉じ、がくんと膝が落ちたからだ。
キュートに名前を呼ばれた気がしたが、答えようとして開いた口からは声が出てこなかった。
*****
- 490 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:30:03 ID:cufKjHeI0
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「え?」
目を開けたら違う場所にいた。
デジャヴ。
ζ(゚、゚*ζ「え? ん?」
広い部屋。
所々剥がれた壁紙、薄汚れた縦長の窓。
崩れかけの調度品、座面のクッションが破けた椅子。
──どう見ても学校ではないし、何なら、夢に出てくる城の一室にしか感じられなかった。
灯りは壁に付いたランプ一つしかないのにやけに明るくて、部屋全体を見通せた。
端の扉が開いていて、そこから暗い廊下が見える。
- 491 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:30:46 ID:cufKjHeI0
ζ(゚、゚;ζ「んー……?」
こめかみを指で押しつつ記憶を手繰る。
文化祭の最中だった。
眠くなった。
キュートと話していたら意識が薄れた。
明らかに、完全に、寝たのだ。
それで気が付けばこんな場所にいる──
明らかに、完全に、例の夢だ。
ζ(゚、゚;ζ(え? お昼だよね? 何で今?)
眠ったときは間違いなく昼だったが、窓の外は暗い。
現実の時間とリンクしているわけではないのか。
もしかしたら「本」は関係ない、ただの夢かもしれない──
そう考えてから、ぺたりと座り込んでいる床の感触や、埃っぽい空気の生々しさに、
やはり例の夢だと思い直した。
ひとまず立ち上がる。メイド服。
ぱたぱたとエプロンを払い、顔を上げる。
- 492 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:32:23 ID:cufKjHeI0
ζ(゚、゚*ζ「……女の人……?」
──壁に、たくさんの額縁が飾られていた。
一際大きな額には、女性を描いた絵画が嵌め込まれている。
すっきりとした美人。
服装はドレスなどではなく、至って普通のブラウスとエプロン。
現実世界では普通の格好だが、この空間においては浮いているように思えた。
お腹の辺りで手を組んでおり、左手の薬指に指輪がある。
ζ(゚、゚*ζ(誰だろ……)
一頻りその絵を眺めてから、周りに飾られている他の絵にも目を向ける。
──直後、ぞくりと背筋が震えた。
ζ(゚、゚;ζ(……手?)
絵の数は10枚以上ある。
なのに、一番大きな中央の絵──先程の人物画──以外は、
全て、様々な角度から描かれた手しかなかった。
それも左手ばかり。
- 493 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:33:20 ID:cufKjHeI0
爪の形や全体の丸み、何より薬指に嵌められた指輪が同じなので、
同一人物の左手のみを抜き取った絵であるのが分かる。
改めて人物画を見ると、指輪に付いた琥珀色の石が共通しており、
この女性の手なのだと思い至った。
──琥珀色の石。指輪。
そういえば一昨日、あの人がそんなことを──
¥・∀・¥「……驚いたな……」
ζ(゚、゚;ζ「わあっ!!」
今まさに考えていた人物の声がして、デレは飛び上がった。
振り返る。開けられた扉の傍に立つ、1人の男。高そうなスーツとアクセサリー。
2日ぶりに見たマニーの顔は記憶通りの筈なのに、別人に思えた。
- 494 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:34:09 ID:cufKjHeI0
ぐるぐると彼の腹から音がする。
絵に夢中で、彼が近付いているのに気付かなかったようだ。
呆然と絵画を見つめていたマニーはふらふらと部屋に入ってきて、
今更デレに気付いたのか、顔を顰めた。
¥・∀・¥「……寝ないように、していたのにな……。
すまない、眠気に負けてしまったようだ」
寝ないように──
もしかして、昨夜はマニーが眠らなかったから夢を見なかったのだろうか。
「主人公」はマニーだ。たしかに彼がいなければ始まらない。
それで、いま眠ってしまったからデレも引きずられた。ということか。
なるほど、納得。したところでどうというわけでもないが。
¥・∀・¥「君のためだったのだけど」
マニーのその一言はあまりに小さすぎて、
ハローもどこかの部屋にいるだろうかと思案していたデレの耳に入らなかった。
デレの隣に立ち、マニーは再び絵画を見上げた。
そうして、唇を薄く開く。
¥・∀・¥「……これはね、私の母だ」
*****
- 495 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:36:11 ID:cufKjHeI0
「デレちゃん!?」
──焦ったような声が聞こえて、足を速めた。
人込みを掻き分け、デレのクラスの出し物であるのを看板で確認し、飛び込む。
目的の人物は入口の近くにいた。
気を失っているらしいそいつを、キュートが抱えている。
舌打ち。不安げに声をかける生徒や客が慌てて一歩引いた。
( ^ν^)「おい」
o川;゚ー゚)o「あ……ニュッ君さん!」
ζ(-、-*ζ
デレの体はぐったりと力を抜いており、下ろされた瞼は開く気配もない。
ニュッは彼女らの傍にしゃがみ込むと、デレが深い寝息を立てているのを確かめた。
そんなニュッの後ろからひょっこり覗き込んできた男が、呑気な声を出す。
- 496 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:36:55 ID:cufKjHeI0
(´・ω・`)「あららー。ビンゴだニュッ君」
o川;゚ー゚)o「うわっ、遮木さんも」
(´・ω・`)「うわって何」
o川;゚ー゚)o「いえ。……え、2人とも仕事中? スーツ着てる」
(´・ω・`)「まあね」
数十分前、勤務中にショボンと話していたニュッは、ある可能性に気付いた。
それにより嫌な予感が湧き、こうしてデレの様子を見に来たわけだ。
ニュッが気付いた「可能性」は、2つある。
その内ひとつが早速当たってしまったかもしれない。
o川;゚ー゚)o「そうだ、デレちゃんが急に倒れたの! ……あっ、救急車呼ばないと!」
( ^ν^)「いい。寝てるだけだ」
o川;゚ー゚)o「は? え? 寝てるだけ?」
- 497 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:37:53 ID:cufKjHeI0
(´・ω・`)「はいはい、メイドさん1人お持ち帰りしますよー」
o川;゚ー゚)o「その言い方やめてよ、いかがわしいお店みたいじゃん」
ショボンがデレを米俵のように担ぎ上げる。
せめてお姫様抱っこにしてあげてとキュートが言うが無視されていた。
( ^ν^)「連れていくぞ、いいな?」
o川;゚ー゚)o「今はデレちゃん休憩時間だから大丈夫……え、どこに連れてくの?」
(´・ω・`)「図書館連れてくか。早退になるけど仕方ないよね」
図書館。
その言葉だけで大体察したらしいキュートが、きゅっと表情を引き締めた。
話が早くて助かる。
o川*゚−゚)o「……先生やクラスメートには、私が言っときます」
(´・ω・`)「ありがとうね」
おざなりに礼を言って出ていこうとしたショボン──だったが、
キュートに袖を掴まれ、足を止めた。
彼に続こうとしていたニュッが、担がれているデレにぶつかる。
ζ(-、-*ζ ムグゥ
o川*゚ー゚)o「ちょっと待ってて、私も行く」
( ^ν^)「は?」
- 498 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:38:59 ID:cufKjHeI0
o川*゚ー゚)o「絶対ろくな状況じゃないじゃん。
このままサヨナラしたら、気になって文化祭どころじゃないですからね、私」
むすっとしたような声は、ニュッ達にしか聞こえない声量。
やや遠巻きに様子を窺っているクラスメートに気付いたキュートが
何でもないよ、とにっこり微笑むと、彼らはあっさり誤魔化された。
それを半眼で見やったショボンが呆れたように言う。
(´・ω・`)「看板娘がいなくなったらみんな悲しみますよ〜」
o川*゚ー゚)o「売上が8割ぐらい減るだろうけど致し方ない」
( ^ν^)「言いすぎだろ」
o川*゚ー゚)o「いやマジなんすよ」
売上8割美少女様が、しょんぼり儚い笑顔を作って
クラスメートに事情(といっても具合が悪いから早退する、程度の内容だろうが)を説明しに行く。
ええっ、と上がる声を聞き流しつつ、ニュッはショボンが担いでいるデレの寝顔を睨んで、
やわらかい頬を抓った。
.
- 499 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:39:42 ID:cufKjHeI0
──ショボンの運転する車内で、キュートには事情を粗方説明した。
頭がいいので、最低限の話でも一度で理解してくれるからありがたい。
o川*゚−゚)o「どこが『何でもない』なの」
隣で眠り続けているデレを睨み、後部座席のキュートが呟く。
そのとき、ニュッの携帯電話が鳴った。
ちょうど掛けようと思っていた相手からだった。
( ^ν^)「兄ちゃん」
通話ボタンを押して相手を呼べば、内藤も「ニュッ君」とこちらを呼んだ。
- 500 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:41:15 ID:cufKjHeI0
『デレちゃんに連絡とれるかお?』
( ^ν^)「……色々あって、いま図書館に連れてってる。
いきなり寝始めたらしくて全然起きねえ」
デレの鞄から勝手に携帯電話を引っ張り出してみる。
内藤からの着信が数件。
『さっき金井さんのところに着いたんだけど、
昼寝してるみたいだって使用人さんに言われたんだお。
──昨夜は一睡もしてなかったようだから、とも』
( ^ν^)「……やっぱりか」
再度言うが、ニュッは事務所でショボンと話した結果、
2つの「可能性」に気付いた。
その内の一つが、これだ。
昨夜はマニーが眠らなかったからデレとハローも夢を見なかったのでは、という可能性。
どうやら当たったらしい。
が、こちらは大したことではない。
夢の有無はマニーが握っていると判明しただけである。
重要であり、かつ予想が外れてほしいのは、もう一つの可能性の方なのだ。
*****
- 501 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:42:31 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「──母はね、私の父が既婚者であることを知らなかったんだ。
言いくるめられて、別居を受け入れていた」
空腹で辛いだろうに、マニーは淡々と語り始めた。
空気を読むように腹の音が収まっていたのが、少し可笑しい。
¥・∀・¥「然るべき時が来たら結婚しようと父は言って、
母にあの指輪を贈った。──妙な話だが、
父は本気だったんだよ。本当に母を愛していた。だから母も信じていた。
仕事と家の都合で、今は結婚できないだけなのだと」
¥・∀・¥「なまじ、父は裕福な人間だったからね。
親戚まわりが納得してくれなければ婚姻を結べない、という嘘も
信じやすかったんだろう」
ζ(゚、゚*ζ「……はあ」
- 502 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:43:24 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「けれども父は意気地無しでもあったから、
正妻に別れを切り出すこともできなかった。
正妻は、とうに事実を全て知っていたのにね」
¥・∀・¥「この場合、誰が一番苦しむかといったら正妻だ。
当然だね、彼女はただただ被害者でしかない。
……私の母だって、何も知らなかったから被害者ではあるけれど……」
マニーが一歩出て、左手のみが描かれた絵画を優しく撫でた。
薬指、指輪の上で手を止める。
¥・∀・¥「──ある日の夜中、正妻が我が家にやって来た。
そのとき私は眠っていたが、騒がしさで目が覚めてね。居間を見に行った」
¥・∀・¥「彼女が母に掴み掛かっているところだった。
ひどく錯乱しているようだったよ。きっと、ずっと我慢し続けて、限界が来てしまったのだろう」
ひくり。
マニーの喉が震えて、声が途切れた。
ζ(゚、゚*ζ「……マニーさん?」
呼び掛ける。
彼は唾を飲み込み、話を再開させた。
- 503 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:44:06 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「彼女は包丁を握り締めていた。
ぎらぎら光る刃物と彼女の剣幕に、私は動けなかった」
¥・∀・¥「そして彼女は、母の左手を掴んで、」
*****
- 504 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:45:23 ID:cufKjHeI0
べっこう飴、とニュッの話を反芻していたキュートが、
突然ぱっと顔を上げた。
助手席に座るニュッはミラー越しにその動きを見ていた。
内藤との通話は繋がったままだが、向こうに進展がないので黙っている。
o川*゚ー゚)o「ねえ、金井さんの他のペンネームって何て名前なの?」
( ^ν^)「あ?」
o川*゚ー゚)o「考えすぎかもしれないんだけど……」
キュートは自身の鞄から一冊の雑誌を引っ張り出した。
月刊文芸。先日クックルの短編が載ったとハローが言っていた雑誌だ。
爪まで丁寧に磨かれた手がぱらぱらとページをめくり、ある箇所で止まる。
o川*゚ー゚)o「クックルさんがね、この前べっこう飴くれたの。
そのときに言ってた。『本を読んでたらべっこう飴が食べたくなった』って」
( ^ν^)「……」
- 505 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:47:14 ID:cufKjHeI0
o川*゚ー゚)o「これ、クックルさんの短編が載ってる雑誌。
この中にべっこう飴が出てくる話があってさ。
何か、すっごくきらきらしてて美味しそうなの」
o川*゚ー゚)o「それに、母親がどうこうって話だった」
差し出された雑誌を受け取り、そのページに目を通す。
タイトルの横に書かれた著者名に、心臓が跳ねた。
( ^ν^)「……金井の小説だ。別名義のやつ」
(´・ω・`)「何だよニュッくんは読んでなかったの? クックルが書いた話が載ってんのに」
( ^ν^)「どっかの誰かさんが人使い荒いせいで、買ったもん溜め込んでんだよ。
それに俺のために書いた話じゃないなら、優先して読もうとは思わないし」
(´・ω・`)「うーわ」
重症だ、とショボンが嘯く。知っている。
ひとまず、文面を追うのに集中した。
- 506 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:48:33 ID:cufKjHeI0
──やけにふわふわした話だった。
大人になると体のどこかに宝石が現れるという世界観。
語り口は子供の一人称視点で、幼い言い回しと複雑な比喩表現が多用されており、
じっくり読まねば全貌を把握できないような構成をしている。
だが、主人公の母親に関しては直接的で細かい描写がなされていた。
特に宝石。
『 そして左手に、ぴかぴか、こがね色の石が光っているのでした。
だれの手にある宝石よりも、ぼくは、おかあさんの持つ石が一番きれいに見えました。
つやつやしていて、べっこうアメみたいに、とても甘そうに思えたのです。』
そこから、主人公の好物だというべっこう飴の描写に移る。
その筆致はたしかに細かく幻想的で、有らん限りのボキャブラリーで
砂糖の固まりである以上の価値を描き出していた。
この一編だけで、彼がどれだけべっこう飴に特別な思いを持っているかが分かる。
とんだ無駄骨だったなとニュッは数日前の己を笑った。
頻出する料理を探すより、これたった一つ読んでいれば、マニーの好物などすぐ分かったのだ。
- 507 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:49:18 ID:cufKjHeI0
(´・ω・`)「それもしかして金井本人の話?」
要所要所を朗読するニュッの声を聞き、ショボンが前を向いたまま問うてくる。
( ^ν^)「多分」
o川*゚ー゚)o「その、大人になると体に現れる石って
結婚指輪の暗喩だよね?」
( ^ν^)「ああ、だろうな」
(´・ω・`)「キュートちゃんはほんと話が分かる子でいいわあ。
デレちゃんと話してると自分の知能まで下がる気がして恐ろしいからさあ」
ζ(-、-*ζ ム゙ーン
後部座席から身を乗り出したキュートが雑誌を覗き込む。顔が近い。
ページをめくりながら、中ほどの展開を要約してくれた。
- 508 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:50:20 ID:cufKjHeI0
o川*゚ー゚)o「何かね、ある日、急にお母さんの手から『石』が落ちちゃうの。
そしたら主人公がうっかり、それ食べちゃうんだよ」
o川*゚ー゚)o「泣きじゃくるお母さんに主人公が色んな石あげるんだけど、
お母さんは全然受け取ってくれなくて……」
『「あの石じゃなきゃだめなの?」
悲しくって、ぽろぽろ泣きながらたずねると、おかあさんは首をふって、ちがうのと答えました。
「ぼくがあげる石じゃだめなの」
それにもちがうのと言うおかあさんがわからなくて、ぼくはもっと泣いてしまいそう。
でもおかあさんはやさしく頭をなでて、さみしそうに笑うのです。
「なくなったのは、石じゃないのよ」
どういうことだろう? あのきれいな石は、まだあるの? ぼくが食べたのは?
おかあさんの左手を見ようとして、でも見られなかったので、
ああ、そっかと、ぼくは空っぽの胸に汚い石ばかりを詰めこまれたような気分になったのでした。』
──それで話は終わりだ。
ニュッは深々と溜め息をつき、額に手を当てた。
- 509 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:51:26 ID:cufKjHeI0
『……ニュッくーん、それ結局、どういうこと?』
スピーカー設定にした携帯電話から、内藤の声。
何も喋らないので聞いていないかもと思ったが、しっかり耳を澄ませてくれていたらしい。
(´・ω・`)「……僕ね。あれからも、たまに金井マニーの母親を観察してたんだけどさ」
ニュッではなくショボンが話し出したためか、
電話の向こうで内藤が「は?」と些か棘のある声を漏らした。
──再三言おう。ニュッが高校に顔を出したのは、
ショボンと話していて、嫌な可能性に2つ思い至ったからだ。
ひとつは前述の通り、マニーが昼寝でもしてしまえば
デレやハローも引きずり込まれるのではないかという可能性。
それは当たっていた。そして然ほど重要なことでもない。
問題は、もうひとつの「可能性」。
こちらは絶対に当たってほしくない──当たってはいけないことだった。
なのに、どうやら、その予想も正しかったらしい。
最悪だ。
- 510 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:52:10 ID:cufKjHeI0
(´・ω・`)「どうもねー……」
『さっさと言えお、ショボン』
(´・ω・`)「……左手の薬指、時々なくなってるみたいなんだよね」
キュートも内藤も黙った。
内藤がこの場にいたら、とびきり怪訝な顔をしていただろう。
(´・ω・`)「彼女、ずっと手袋してるって言ったろ? だから、しっかり確認は出来てないけどさ。
左手の薬指の部分、普通に動いてる日もあれば
何もないみたいにぺらぺら揺れてる日もあるんだよ」
o川;゚ー゚)o「……それって」
(´・ω・`)「うん。──義指を外してるか外してないかの違いだと思うな」
キュートの顔が、じわじわ青くなっていく。
きっと電話の向こうの内藤も。
ツンは顔色を変えないだろうが、眉根を寄せる程度の変化はあるだろう。
キュートはもはや血の気の失せきった顔を、目覚めぬデレに向けた。
空気の冷えきった車内に、運転手が相変わらず呑気な声を落とす。
- 511 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:52:53 ID:cufKjHeI0
(´・ω・`)「『お袋の味』ってか。はは、悪趣味だ」
*****
- 512 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:54:24 ID:cufKjHeI0
ζ(゚、゚;ζ「……」
デレは口を押さえた。
──半ば狂ってしまった正妻が、マニーの母親を散々痛めつけ、
ついには母親の左手薬指を切り取ってしまった、なんて。
想像するだけでも凄惨な光景だ。
けれども話はまだ終わらないらしく、マニーは口を動かし続けている。
- 513 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:55:26 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「指輪をしていたのが気に入らなかったんだろう。
そりゃあそうだ。たかだか愛人がまるで妻を気取って
薬指に指輪なんかしていたら、腹立たしくもなる」
ζ(゚、゚;ζ「そ、そうかもしれませんけど……でも切るなんて……」
¥・∀・¥「彼女はそれほど傷付いていたんだ。
……それだけ父を愛していたんだろう。浮気者であっても」
マニーが目を細める。デレは彼の視線を追った。
数々の絵画。金色の石が煌めく薬指。
この指が──切り落とされたのか。
¥・∀・¥「そして彼女は私も憎んでいた。
──私が生まれなければ、父も、私の母にそこまで入れ込みはしなかっただろうからね」
横目にマニーを見る。
彼も何かされてしまったのか。
母のように、どこかを傷付けられたのか
そう思い胸を痛めたデレだったが、
事実は、もっと恐ろしいものだった。
- 514 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:56:06 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「気絶した母を転がして、彼女は私の口に母の薬指を押し込んだ。
お前が噛めと、──お前が始末をつけろと」
私は、恐くて抵抗できなかったんだ。
マニーは泣きそうな目をして、苦笑した。
ζ(゚、゚;ζ「……え」
口に?
指を?
デレの目は、自然、休みなく動くマニーの唇に留まった。
- 515 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:57:19 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「彼女にとっては、あれで最大の譲歩だったんだと思う。
あのとき母の薬指が彼女の視界にあり続ければ、
きっと彼女は我慢できずに母を殺していた筈だ」
¥・∀・¥「だから私は、それを口に含むしかなかった」
乾いた唇を舐める舌。
その赤さに、目が眩む。
¥・∀・¥「噛めと彼女は言う。私は泣きながら、嘔吐きながら顎を──」
マニーはそのときの状況を克明に語っていった。
けれどもデレの頭はそれを遮断する。
聞いてはいけない気がした。理解してはいけない気がした。
彼の母の、匂いなど。味など。デレが知ってはいけない気がした。
¥・∀・¥「──少しして、たくさんの大人がやって来た。
父と、あとは……警察か救急隊か、正直それどころではなかったから正確には分からないが」
ようやく思考と聴覚を繋ぎ直す。
ただ話を聞いているだけなのに、その場に他者が介入したことにデレはとてつもない安堵を覚えた。
- 516 :名も無きAAのようです:2016/01/10(日) 23:58:26 ID:cufKjHeI0
¥・∀・¥「彼女が取り押さえられると、母は気絶から目を覚ました。
──そのとき丁度、私は、男の人から口の中のものを出してもらっていたんだ」
¥・∀・¥「崩れたそれを見て、母は……」
忙しなかったマニーの口が止まる。
震えている。
次に発した声は一段と低く、冷たい。
¥・∀・¥「ひどく怯えた目を私に向けた」
ようやくデレの視線が上がった。マニーの唇から、瞳へ。
そうしてぞっとする。
──なんて暗い目なのだろう。
- 517 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:00:03 ID:1BvXn.Sw0
¥・∀・¥「あれ以来、何となく互いに避けている。
むりやり食わされたということは母も理解している筈だけれど、
それでも私に怯えている節があるんだ」
¥・∀・¥「まあ仕方ない。息子の口から自分の噛み潰された指が出てくる瞬間なんて、
とんでもない衝撃だったろうから」
マニーから目を逸らす。
──愛した人と繋がっていた唯一の部位を、
愛した人と繋がっていた唯一の子供が食んで、壊した。
それはどんなに恐ろしくて悲しいことなのか。
¥・∀・¥「母はね、私と話すとき、いつも謝るんだ。ごめんなさいって。
まるで人食いに命乞いをするみたいじゃないか。
そんな相手と話していられないだろう。だからつい、すぐに話を切り上げてしまう」
ζ(゚、゚;ζ「っ」
左手に絡みつく感触があり、デレは肩を竦めた。
正面から隣へ意識を滑らせる。
マニーがデレの左手を握り、持ち上げていた。
- 518 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:01:13 ID:1BvXn.Sw0
¥・∀・¥「母にとって、私はもう息子ではないのだろう。
……あの人に謝られる度にね、私は、こう思ってしまう」
ζ(゚、゚;ζ「マニーさ、」
¥・∀・¥「『そうか、僕は』──」
ζ(゚、゚;ζ「!」
足を払うと同時に、突き飛ばされる。
硬い床に背中から倒れ込み、頭を打って、意識が一瞬明滅した。
混乱しながらも何とか起き上がろうとしたが、覆い被さってきたマニーに動きを封じられた。
ランプの火が揺らめき、明るさが薄らぐ。
こちらを見下ろすマニーの顔には影が落ちて、表情が見えない。
¥ ∀ ¥「『怪物なのか』」
.
- 519 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:02:07 ID:1BvXn.Sw0
また、火が揺れる。
すると先のような明るさが戻り、マニーの顔も照らされた。
ζ(゚、゚;ζ「、」
──彼が子供のように顔を歪めて涙を流していたから。
デレは、開いた口を閉じた。
¥;∀;¥「……私は許してほしいだけなのに……」
ぽたぽた、落ちた雫がデレのエプロンに染み込む。
ぐっと彼が顔を覗き込むと、それはデレの頬にまで垂れた。
¥;∀;¥「ねえ、ねえ君、お願いだ……私を、ぼ、僕を許してくれ、僕は、僕を、……」
ζ(゚、゚;ζ「っい、ッ……」
再び左手を掴まれた。
強い力で握り締められた上、強引に持ち上げられて、指先から肩まで痛みが走る。
泣きながら、息を荒らげながら、薬指の付け根に口を寄せられて、デレの肌が粟立った。
- 520 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:03:19 ID:1BvXn.Sw0
¥;∀;¥「許してくれ。許しておくれよ、
母と同じその目で僕を見て、許すと言ってくれ……」
真っ赤な舌が指を這う。かと思えば、薬指のみを立たせ、軽くくわえた。
彼の歯が肌に触れる。それだけなのに、その先を予測した脳が、勝手に痛みを感じさせた。
ぼろっと、デレの目からも涙が落ちる。
ζ(;、;*ζ「ひ、や、やめて、マニーさん、やめて……」
¥;∀;¥「違う!! どうして君もそんな目をするんだ!」
怒鳴られ、びくりと身を竦ませる。
こわい。
かたかた、体の震えを止められない。
喉をひくつかせながら、デレは懇願するようにマニーを見た。
- 521 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:04:01 ID:1BvXn.Sw0
ζ(;、;*ζ「ごめ、ごめん、なさい、ごめんなさい……」
¥;∀;¥「君までそんなことを言うのか!
……そんなに僕が恐ろしいのか!?」
指から口を離して、けれども手は離さぬままに、
マニーが顔を近付ける。
ひたすら悲しい彼の瞳が、怯えるデレの目と向かい合う。
¥;∀;¥「恐くないのだと言ってくれ! 痛くないから平気だと!
……大丈夫だと言って、撫でておくれよ……お願いだ、お願い……」
──そう囁いて、あまりにも寂しそうに泣くから。
拒めば、砕け散ってしまいそうに脆く見えたから。
- 522 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:04:42 ID:1BvXn.Sw0
¥;∀;¥「……母さん……」
応えてやらねばいけないだろうかと、麻痺した思考が頭の隅に転がった。
*****
- 523 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:05:56 ID:1BvXn.Sw0
ζ(-、-;ζ「んう、ん……」
o川;゚ー゚)o「ちょっと、デレちゃん魘されてるんだけど!」
──図書館。ハローの部屋。
ベッドに横たえられたデレを、7人もの男女が囲んでいる。
( ^ν^)「……」
ニュッはデレに伸ばしかけた手を下ろした。
つねろうが叩こうが、起きないだろう。
(´・ω・`)「やばい状況なのかなー、夢の中」
(;・∀・)「なっ、何でショボンはそんなに落ち着いてんだよ!」
ヾ(;゚;;-゚)ノシ「……っ」
ニュッとキュートの間でショボンが呟けば、
モララーとでぃが大層慌てて無意味に手を振った。
- 524 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:07:06 ID:1BvXn.Sw0
(;゚∋゚)「今、夢の中で金井マニーとデレが2人きりかもしれないのか?」
( ^ν^)「多分……」
ショボンほど落ち着いてはいないがモララー達ほど慌ててもいない様子で、クックルが問う。
ニュッが頷くと、彼を含めた6人の目が、デレの一番近くに寄り添う女に向けられた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「……デレ……」
──ニュッはてっきりハローも眠っているだろうと思っていたし、
彼女が付いているなら、デレもある程度は安全だろうと油断していた。
だから、図書館に着いたニュッ達をハローが出迎えたとき、心臓が止まるかと思ったのだ。
(;・∀・)「何でハローは起きてるの?」
(;゚;;-゚) ???
( ^ν^)「……金井とデレさえいれば進行できると判断したのかもしれない」
ζ(-、-;ζ「んぐ」
びくりとデレの体が跳ねる。真っ青な顔には汗が滲んでいた。
先程から、彼女の寝言と寝相ひとつで皆の肝は冷えっぱなしだ。
1人を除いて。
- 525 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:08:20 ID:1BvXn.Sw0
(´・ω・`)「所詮は夢でしょ? 食われても実際に怪我するわけじゃなし。
食われて夢が終わるなら、それを待つのも手じゃない?」
本気で言っているのだ、この男は。
たしかに、それもまた一つの方法ではある。
けれどもその提案にハローが声を張り上げた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「駄目デス!!」
デレより青い顔をした彼女の剣幕に、ショボンが片眉を上げる。
ハハ;ロ -ロ)ハ「夢の中デモ、痛みは現実と同じヨウに感じマス!
痛みとか恐怖とか、ソウイウのがそのまま記憶に残るんデスヨ!」
それはとても切実な叫びで。
その声にますます緊迫感を煽られた面々が改めて慌て出した。
慌てるだけで、解決策など出てこないけれど。
o川;゚−゚)o「……ど、どうするの、これ……」
浴衣姿のままのキュートが、隣のクックルの腕を掴む。
普段の彼女であれば即座に絶叫して飛び跳ねるところだろうが、それどころではないらしい。
自分大好きなキュートだけれど、友人への愛情だってちゃんとある。
ショボンが頬を掻き、枕元に置かれたニュッの携帯電話を持ち上げた。
内藤とは未だに繋がっている。
- 526 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:09:25 ID:1BvXn.Sw0
(´・ω・`)「ブーン、まだ屋敷の近くにいる?」
『かーなーり無茶言って、客間で待機させてもらってるお』
(´・ω・`)「なら待機じゃなくてさ、金井氏を叩き起こせよ」
(;・∀・)「それより『本』だよ! 本の方どうにかしないと!」
(;゚∋゚)「そうだな。仮に起こせたところで、本が諦めてないならまた眠らされるだけだ」
『つったって、どこにあるんだか……。
……そもそも見付けられたとして、どうすりゃいいんだお。
せめて「主人公」の金井さんを起こさないと、朗読もさせられないし』
(;゚;;-゚)「……」
途端、でぃがぱたぱた両手を振りながら辺りを見渡した。
しかし、いつも彼女の代弁をしてくれる妹は出掛けてしまっている。
少し離れた机上のペンに目を留めたようだが、結局そちらに手を出さず、
ショボンの腕に縋りついて電話に口を寄せた。
- 527 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:10:24 ID:1BvXn.Sw0
(;゚;;-゚)「も、燃やしても、いい……!」
『え、誰……あ、でぃ!? 久しぶりに声聞い……え?』
(;゚;;-゚)「燃やせば終わる!」
『……お前の書いた、大事な本だお、でぃ。本を殺すことになるお』
(;゚;;-゚)「私の本なら、か、覚悟も、してる筈……」
『……ニュッ君はいいのかお?』
いきなり振られて、ニュッはすぐに答えられなかった。
デレを見る。掠れた呻き声。苦しげな顔。
( ^ν^)「……いい」
『……分かった、こっちで改めて探してみるお。
見付かるかは怪しいけど』
(´・ω・`)「おう頑張れ」
一旦切る、という内藤の声を最後に、携帯電話は沈黙した。
強制的に終わらせるとしたら、頼りは内藤とツンだ。
にわかに室内が静まり返った。
- 528 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:11:45 ID:1BvXn.Sw0
──が。
ζ(-、-;ζ「……!」
デレが息を詰めて喉を反らせたことで、また空気が慌ただしくなった。
o川;゚ー゚)o「待って待って、内藤さんが本を見付ける前に行き着くとこまで行っちゃったら意味ないよ!?」
(;゚∋゚)「しかし俺達にはどうしようも……」
(;・∀・)「てか下手したらもう……」
(´・ω・`)「あ、水に沈めてみたら起きるかもよ?
風呂に水溜めてくるわ」
(;´;;-`)ノ
正直ショボンの過激な提案が有効である可能性も否定できないので、
彼が上着を脱いで腕捲りをしながら退室するのを誰も止めなかった。
水が溜まるまでの数十分の間に事態が動かなければ、デレがますます可哀想なことになるだろう。
- 529 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:13:03 ID:1BvXn.Sw0
ハハ;ロ -ロ)ハ「ど、ドウシヨウ、ドウシヨウ! ワタシも夢に行かなきゃ、デレ助けなきゃ!」
( ^ν^)「……落ち着け、ハロー」
ハハ;ロ -ロ)ハ「落ち着けナイ!」
ハローはもはや錯乱状態だ。
彼女の書いた「本」が関わる事件で、デレは怪我を負ったことがある。未だに痕が残っているほどの。
それに対しハローは責任を感じている。
もしかしたら、そのことを思い出して余計に焦っているのかもしれない。
宥めるため、ニュッはハローに手を伸ばそうとした。
が。
ハハ;ロ -ロ)ハ「モララー……!」
ニュッよりも近くにいたからか──いや、今回の件において、
ずっと気遣って彼女の傍についていたからだろう、
ハローはモララーに縋りついた。
モララーが目を丸くする。
彼の胸元を握り締めたハローの瞳から、ついに涙が溢れた。
- 530 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:14:19 ID:1BvXn.Sw0
(;・∀・)「は、ハロー、」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「モララー、ドウシヨウ、眠れナイ、
寝なきゃいけないノニ眠れナイの、ドウシヨウ……!」
泣き虫のモララーは普段から頼りなくて、
そのため、何か困り事があってもハローは大抵ニュッに相談する。
けれど本気で悩んだときには、ニュッとモララー、どちらにも頼るのだ。
根っこの部分で、ハローはニュッもモララーも同等に見ている。
(;・∀・)「っ……」
泣きじゃくるハローの肩を抱き、モララーは宙を見つめ硬直していた。
思考が止まっているわけではない筈だ。モララーだって「作家」の1人。
異常事態における状況整理、その解決策の羅列作業は普段から机の上で散々やっている。
──そして数秒後。
結論が出たのか、彼もまた涙を流し、ハローの体をぐるりと反転させて。
- 531 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:15:01 ID:1BvXn.Sw0
( ;∀;)「……ああああっ! ごめん、ハロー、ごめん!!」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「エッ」
後ろから腕を回すと、左手でハローの頭を固定しながら右腕で彼女の首を締めつけた。
o川;゚ー゚)o「はっ!?」
(;゚∋゚)「おい何してんだ馬鹿!!」
(;゚;;-゚) !?
(´・ω・`)「えっ何これ」
一旦風呂場から戻ってきたらしいショボンがドン引きした声をあげる。
クックルがモララーを止めようとしたので、ニュッは慌ててその服を引っ張った。
- 532 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:16:21 ID:1BvXn.Sw0
( ;∀;)「ごめんねハロー許して! 後で俺のこと殴っていいから! ごめんね!!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「……ッ、……ッ!」
( ^ν^)(わー……)
泣いて謝りながら首を絞める姿は正直かなり恐ろしかったが、
今すぐ彼女を「眠らせる」には、たしかにこの方法が手っ取り早い。
ハローが必死に床を叩くがもちろん離されることはなく、
いつの間にやら涙も引っ込んでいき、
そうして──
ハハ; - )ハ ガクッ
ハローの首が下がった。
オチた。
*****
- 533 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:17:28 ID:1BvXn.Sw0
(;^ω^)「あいつらも無茶言う……」
金井邸の客間にて。
携帯電話をポケットにしまった内藤は、隣に座るツンに苦笑を向けた。
( ^ω^)「はてさて、探すとは言ったものの、どうしたものか」
ξ゚听)ξ「普通に探しても出てこないわよね、──『本』が自分から隠れてるのなら」
冷静な声で言い、ツンが唇に指を当てる。
──そう、出てくるわけがない。
「本が自らの意思で隠れているのであれば」。
つまり、
( ^ω^)「僕らは、『誰かが本を隠した』可能性に賭けるしかないわけだおね」
ξ゚听)ξ「そうね」
不確定な前提条件に頼らねばなるまい。
内藤はポケットから香水を出して、手首に吹き掛けた。
甘い匂いを嗅いで思考を深める。
- 534 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:18:41 ID:1BvXn.Sw0
( ^ω^)「一番疑わしいのは、金井さんと……」
ξ゚听)ξ「びぃって人」
マニーが隠したとして、彼は眠ってしまっているので聞き出せない。
いくら声をかけてもデレが起きないのなら、マニーも起こせないだろう。
まず彼の部屋に入れてもらえる筈がない。
それに彼の部屋や屋敷の中は、先日、使用人達が隈なく探してくれたのだ。
けれど見付からなかった。
なのでひとまずマニーは疑いから外そう。
こういう消極的な推理しかできないのが歯痒い。
さて残るは、びぃとかいう女である。
( ^ω^)「……まず、彼女がどういう立場の人なのか分からん……」
ξ゚听)ξ「この屋敷にはいないのよね、ショボンの調査によれば」
( ^ω^)「らしいお」
ショボンの調査は正確だ。
彼が調べた結果、屋敷に「びぃ」がいないというのなら、本当にいないのだろう。
- 535 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:19:26 ID:1BvXn.Sw0
( ^ω^)「──ん?」
いや。
いない──と言っただろうか?
ショボンは、新入りの使用人に訊いたのだ。
その人が、びぃという名前の者は知らないと答えただけ。
待て。待てよ。マニーの言葉を思い出せ。
彼との会話。いた筈だ。
ショボンが見落とした、「びぃ」に繋がりそうな存在が──
(;^ω^)「え、嘘でしょ」
ξ゚听)ξ「……」
ツンも同じ結論に至ったか、冷めた目でティーカップを見下ろした。
嘘でしょ。内藤はもう一度繰り返す。
- 536 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:20:38 ID:1BvXn.Sw0
(;^ω^)「……えっと、どうやってたしかめよう、ツンちゃん」
ξ゚听)ξ「……普通に訊けばいいんじゃないかしら?」
当たり前に言って、ツンが立ち上がる。
その「普通」がいまいち思いつかないのだ。
困惑しつつ、ドアへ歩いていく彼女に内藤も続く。
ξ゚听)ξ「すみません」
ドアを開け、ツンが廊下に向けて少し声を張った。
少しの間をおいて、30代ほどの女性──使用人が現れる。
<(' _'<人ノ「申し訳ありません、マニー様はまだ……」
ξ゚听)ξ「あ、そうではなくて」
一体どうするのかと、はらはらしながらツンを見守る内藤。
使用人はツンの顔に見惚れている。
何度見ても惚れ惚れしてしまう美顔だよねと内藤は頭の片隅で頷いた。
ξ゚听)ξ「『びぃちゃん』、お加減いかがですか?」
表情に反してやわらかい声での問い掛け。
使用人が、ぱちくりと瞬き。
- 537 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:22:42 ID:1BvXn.Sw0
<(' _'<人ノ「びぃをご存知なんですか?」
ξ゚听)ξ「ええ、金井さんからお話を聞いていて。気になっていたんです。
……顔を見せていただくことは出来ませんか?」
<(' _'<人ノ「びぃも、今は眠っていて……」
ξ゚听)ξ「一目見るだけでいいんです。触れたりはしません」
ツンの顔は、こういう交渉──要するに「ちょっとしたお願い」──に大層有利である。
物静かな態度も相俟って、無茶を言っているように思わせないのだ。
案の定、使用人も少し迷ってから、頷いた。
<(' _'<人ノ「そっとしていただけるなら」
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
(*^ω^)「ありがとうございますお」
さすがツン。惚れ直した。最高だ。
心の中で賛辞を送りながら、内藤は、踵を返した使用人についていくツンの背を追った。
──目的の部屋まで大した距離はない。
静かにしていてくださいね、と念をおした使用人が、
そのドアをゆっくり開く。
そこには、内藤達が思った通りの姿の、「びぃ」がいた。
- 538 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:23:24 ID:1BvXn.Sw0
▼-ェ-▼
──篭の中に敷かれた毛布の上で、小さな体を丸めて眠る犬。
老犬だと話していたマニーの言葉通り、体は痩せ細り、四肢も頼りなかった。
- 539 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:25:01 ID:1BvXn.Sw0
<(' _'*<人ノ「ビーグルだから『びぃ』って、安直な名前なんですけどね」
使用人がころころ笑う。
内藤も笑みを返して、改めて「びぃ」を見た。
──夢の中で、びぃだけが原作に忠実な姿にさせられていたのは、
この姿では登場させられなかったからだろう。
デレの料理を頑なに食べなかったのは、人間の食べ物だからだ。
随分と行儀のいい犬である。
▼-ェ-▼
ξ゚听)ξ「あの子、何歳なんです?」
<(' _'<人ノ「ええと、話によれば15歳とか16歳とか……長生きな子でしてね。
マニー様が子供の頃から飼ってたらしくて、とても可愛がってらっしゃるんですよ」
それほどの年齢ならば──過去にマニーと母親の間に起きたことも知っているかもしれない。
マニーが抱えているものを知っていて、
癒やしてやりたいと、思うかもしれない。
- 540 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:27:14 ID:1BvXn.Sw0
( ^ω^)「以前、びぃちゃんが物を隠したことがあったでしょう」
<(' _'<人ノ「え? ええ……いつもは歩くのも大変そうなのに、あのときだけは……」
( ^ω^)「『大変そう』ということは、決して歩けないわけではないんですおね?
かなり無理をすれば、それなりに動けるんじゃありませんかお」
使用人はきょとんとしていたが、その話と、
内藤が先日も探し物の件で訪れていたことを上手く関連づけてくれたらしい。
戸惑い、苦笑する。
<(' _';<人ノ「──びぃが、その、内藤様の本を隠したと?」
ξ゚听)ξ「可能性はありますよね?」
<(' _';<人ノ「……」
▼-ェ-▼
使用人はびぃを見つめ、ううんと唸り、一歩引いた。
- 541 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:28:43 ID:1BvXn.Sw0
<(' _'<人ノ「……前に、びぃが物を埋めた場所を見てみましょうか」
( ^ω^)「お庭ですかお?」
<(' _'<人ノ「はい。まさか本を庭に埋めるなんて思わないですから、
誰も庭までは探していない筈です」
内藤のゆるい顔が、更に緩む。
そっとドアを閉じて、踵を返す使用人の後を追った。
──歩きながら、そういえば、とびぃの部屋へ振り返る。
( ^ω^)(『びぃ』も眠ってるなら、夢の中にいるんじゃ?)
*****
- 543 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:30:13 ID:1BvXn.Sw0
ζ(;、;*ζ「まにーさん」
名前を呼び、デレはマニーを見上げた。
涙は止まったが、手を押さえられているので拭えなくて、目は潤んだままだ。
¥;∀;¥「あなたを騙していた父より、僕の方が怪物だというの……
あなたを傷付けた女よりも、僕が……」
マニーはデレを見ているようで、見ていなかった。
許してとか、ごめんなさいとか、この場にはいない母への言葉を繰り返している。
──デレは、握られたままの左手を見た。
何度もマニーの口元に引っ張られては、やわく歯を立てられてから下ろされている。
躊躇しているのではない。その度にデレが悲鳴を零して縮こまるからだ。
彼を恐がってはいけないのだろう。
怯えずにマニーを許さねばならないのだから。
- 544 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:32:34 ID:1BvXn.Sw0
¥;∀;¥「……ふ」
吐息のような声で、我に返った。
──先程までさめざめと泣いていたマニーが、口元を歪めていた。
自嘲。
¥;∀;¥「……やっぱり僕は怪物なのだね……恐ろしい怪物なんだ。
べっこう飴よりも母の肉を求める怪物だ」
震える声は、一昨日、彼が死にゆくときのものとそっくりだった。
¥;∀;¥「だから君も、そんなに怯えているんだろう」
ζ(;、;*ζ「……っ」
その笑みは、あまりに悲しすぎた。
首を振る。
その拍子に余計な水分がぱらぱら散って、視界が幾分かクリアになった。
- 545 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:33:33 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚*ζ「……だ、大丈夫、です」
¥;∀;¥「……?」
ζ(゚、゚*ζ「私、」
恐怖で喉が震える。
いいや、これでは駄目だ。
己を奮い立たせ、むりやりに正した声を出す。
ζ(゚、゚*ζ「食べ、ても。大丈夫です……」
何とか言い切る。
もっと付け足さねばならぬだろうと思うのに、これ以上は無理だった。
口を開けば、やっぱりやめてほしい、なんて言ってしまいそうで。
抑えるために唇を噛み締める。そうして目を閉じた。
目を開けていても、やっぱりやめてほしい、と視線で伝えてしまいそうだったので。
- 546 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:34:36 ID:1BvXn.Sw0
ぽたり。頬に雫が落ちる。マニーの涙だろう。
震える手がデレの左手を持ち上げる。
生暖かい吐息が指先を湿らせた。
ζ(-、-;ζ(せめて一思いに)
これくらいは伝えた方がいいだろうか。
デレがうっすらと口を開けた、
ら。
ハハ;ロ -ロ)ハ「ッッッ馬鹿──!!」
馴染みのある声が馴染みのない叫びを轟かせ、
同時に、物凄く重たい打撃音と呻き声が響いた。
- 549 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:36:18 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚;ζ「うぇっ!?」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「ワタシ、デレのコト大好きデスケド!!
物凄く頭が悪いトコロはタマにキライ!!」
両手の圧迫感が薄れたので反射的に身を起こす。
と、タキシード姿で息を切らし、ぼろぼろ泣いているハローに怒鳴られた。
ハローは何故か持っていた椅子を床に放り投げ、デレの前にしゃがんで抱き着いてきた。
そのまま、馬鹿だ何だと罵られる。
ζ(゚、゚;ζ「は、ハローさん?」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「何でこんなに自分のコト大事に出来ナイの!
頭突き喰らわして股グラ蹴りあげるクライの抵抗が何で出来ナイの!」
ζ(゚、゚;ζ「い、いや、」
一応、デレなりに考えた結果なのだけれど。
だってデレがここでマニーに指を齧られたとて、命をとられるわけでなし。
逆にマニーを拒めば、きっと、彼の心が死んでしまう。
デレの指の怪我は夢から覚めれば消えるけれど、
マニーの心の傷は永遠に残るのだ。
そんなの、デレだって後味が悪い。ならば一丁、覚悟を決めるしかあるめえという具合。
マニーのためであり、デレのためでもあった。
- 550 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:37:15 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚;ζ(あれ、マニーさんは)
ハローの肩越しに前方を確認したデレは、
マニーが後頭部を押さえて転がっているのを発見し、椅子の用途を察した。
いや、まずいだろう、それは。餓死より先に別の死因を迎えそうだ。
ハハ;。ロ -ロ)ハ「……テイウカ! アナタも、何で止めナイんデスカ!」
デレから身を離し、ハローが開きっぱなしのドアに向かって怒鳴った。
何かと思えば、
(´-;;゙;)「……だって、マニー様は、デレにお母様を重ねてるみたいだったから……」
びぃが、おずおずと現れた。
え、いたの。
未だ追いつかぬデレの思考が、そんな瑣末な囁きを零す。
- 551 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:38:40 ID:1BvXn.Sw0
ハハ;。ロ -ロ)ハ「ダカラ、デレを食わせてやろうッテ? 酷い、酷すぎマス!」
(´-;;゙;)「いやっ、そうじゃない……。
デレ、抵抗すると思ってたの。……デレが嫌がれば、
マニー様も本気で食べようとしないだろうから放っといた……
それでマニー様がデレを諦めるの待ってただけで……」
(´-;;゙;)「……まさか受け入れるなんて思わなかったの……」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「コノ子はネ、スゴい馬鹿なんデスヨ!!
他人の気持ちには聡いノニ自分のコトは深く考えられないタイプの馬鹿なんデスヨ!!
脳みそ使う配分が下手ナノ!!」
(´-;;゙;)「ごめん……知らなかった……」
ζ(゚、゚*ζ(胸が痛い)
¥; ∀ ¥「……う……」
ハハ;。ロ -ロ)ハ「!」
マニーが唸り、がくがく腕を揺らしながら半身を起こす。
ハローは慌ててデレを抱き締め直して後ろに下がった。
反対に、びぃが彼の傍に膝をつく。
- 552 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:40:29 ID:1BvXn.Sw0
(´-;;゙;)「マニー様、大丈夫?」
¥;・∀・¥「し……死ぬかと思った……」
びぃがマニーを抱き締め、頭を撫でる。
ハローとデレ、びぃとマニーで鏡合わせになっているような体勢だった。
ぼんやりとデレを見つめるマニーの頬に手を添えたびぃが、その顔を自分に向けさせる。
(´-;;゙#)「……マニー様、デレのことは、諦めて」
¥;・∀・¥「……びぃ」
(´-;;゙#)「マニー様もお母様も、悪くないのよ……
ごめんね……びぃは牙も爪もあるのに、2人を守れなかった……」
そりゃあ爪はあるだろうが、牙とは何だ。
デレとハローはクエスチョンマークを浮かべつつ彼らを眺めた。
訊けるような雰囲気ではない。
- 555 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:42:38 ID:1BvXn.Sw0
¥;・∀・¥「びぃは小さかったから仕方ない。……踏みつけられて、痛かったろう」
(´-;;゙#)「マニー様とお母様が泣いている方が、辛かった」
びぃの左手がマニーの頭を滑り、頬を撫でた。
細い指が唇を這う。
(´-;;゙#)「ごめんね、マニー様。びぃは昔も、今も、マニー様を守れなかったね……。
……私が本を隠したの。きっと、マニー様が好きだった料理が『正解』なんだと思って。
デレとハローの美味しいご飯食べて、笑っててほしかったの……」
(´-;;゙#)「こんなことになるの分かってたら、本、隠さなかった……」
ζ(゚、゚;ζ「……びぃさん……?」
指先でマニーの口を何度もなぞる。
くすぐったそうにマニーが唇をひくつかせた拍子に、彼女は指を口内へ潜り込ませた。
- 556 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:44:18 ID:1BvXn.Sw0
マニーが、いや、彼だけでなくデレとハローも、瞠目してびぃの顔を見た。
そうして、
(´-;;゙#)「こんな夢、早く終わらせて、忘れちゃおうね……」
慈母のごとき彼女の言葉に、頭の奥を殴られる。
(´-;;゙#)「……びぃの指を食べて。大丈夫、びぃはマニー様のこと、こわくないから」
──そんな。
そんなの、おかしくないか。
- 557 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:45:45 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚;ζ「びぃさん!?」
ハハ;ロ -ロ)ハ「何言ってるんデスカ!」
デレはハローのおかげで助かった。
だが、その代わりに別の人間が痛い思いをするのを黙って見ていろというのは。
納得できない。
瞳を揺らしたマニーが、誘惑されるがままに、その指を受け入れる。
¥;・∀・¥「……」
ζ(゚、゚;ζ「ま、マニーさん待って! まだ噛まないで!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「駄目デスヨ、駄目!」
(´-;;゙#)「食べなきゃ、終わらないよ」
ζ(゚、゚;ζ「……そんなことない!!」
──違う気がするのだ。
食べて、おしまい──というのは、違う。
違うのだ。理由なんて、分からないけれど。
第一、もしも彼が彼女のそれを食らって、満足して演劇が終了すれば──
それこそマニーは、己を怪物と認めてしまうのではないか。
「それ」を求めて腹を空かしていたのだと認めたら、そのときこそ彼は絶望するのでは。
とはいっても実際、求めていたものを食することが、この物語の結末なわけで。
それ以外のオチはない──
- 558 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:46:55 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚;ζ(──本当にない?)
ぞわり。背筋を何かが走る。悪寒ではない。寒気でもない。
何かを掴みかけた感触。
ζ(゚、゚;ζ(この、本は)
ぐるぐる、色んな声が頭を回る。
──この本は誰の本だ?
でぃの本。
主人公に選ばれた人間の、夢の中だけで演じさせて完結する。
だから本来ならば、デレやハローのように他者が介入することはない。
更に言えば、登場人物の姿形、名前すらも本の通りに再現させるのが常なのだ。
なのに皆──びぃは分からないが──そのまま起用されている。
- 559 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:49:22 ID:1BvXn.Sw0
この本は。
( ^ν^)『なら「本」は、物語通りの展開を強制するつもりはないわけだ。
お前らの意思を優先させてる』
(*゚ぺ)『でぃちゃんの「本」の中じゃ、特に大胆で変わり者の部類なのかなと思ってさ……』
変わり者なのだ。
ζ(゚、゚;ζ「──マニーさん」
演者のアドリブを許容し、話の筋が変わっても咎めない。
こちらの意思を優先する。
それなら、きっと──
- 560 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:50:06 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚;ζ「……私達には、マニーさんが望むもの、絶対にあげられないと思います」
結末だって、本の通りでなくてもいいのではないか。
.
- 561 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:51:03 ID:1BvXn.Sw0
ハハ;ロ -ロ)ハ「……ハイ?」
(´-;;゙#)「……何を言ってるの、デレ……」
ζ(゚、゚;ζ「だって。だってマニーさん、
『それ』が食べたいわけじゃないでしょう?」
¥;・∀・¥「……は、」
ζ(゚、゚;ζ「マニーさんにとっては、『それ』を食べた後に許してもらうってのが重要なんでしょう?
マニーさんが欲しいのは『それ』じゃなくて、その後の方……」
ζ(゚、゚;ζ「──お母さんに、許してもらいたかったんでしょう?」
マニーが息を呑む。
口の中から、びぃの指が抜けた。
- 562 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:55:03 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚;ζ「私達じゃ駄目なんです。
私達から許されたって、マニーさん、きっと満足できない」
¥;・∀・¥「そんな、」
ζ(゚、゚;ζ「だって! ……今日は、食堂で目覚めなかった!
今日は、マニーさんが何かを食べなきゃいけない日じゃないんですよ、きっと」
今日は、多分──
絵画を見上げ、デレは確信する。
──マニーが、己の中の母と向き合う日。
この本は変わり者だが、それでもやはり、でぃの本。
マニーの背負うものを下ろしてやるために、この半月以上、ゆっくりと話を進めていたのではないか。
この結末に至るために。彼を救ってやりたいという優しさで。
- 564 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:56:45 ID:1BvXn.Sw0
ハローの手の力が弱まる。
デレは彼女の腕から抜け出して、マニーへにじり寄った。
ζ(゚、゚*ζ「……起きましょう、マニーさん。
起きて、……頑張ってお母さんと話し合ってみませんか」
¥;・∀・¥「話す、って、でも……
母さんは、……」
ζ(゚、゚*ζ「難しいのは、分かるんですけど。
でも、話すのを拒んでたのは、マニーさんの方なんでしょう?
お母さんが謝ってくるなら、向こうが疲れるくらい謝らせて、それから本音を聞きましょうよ」
マニーの手を握る。
彼の顔には、血の気が戻り始めていた。
──生気が戻り始めていた。
- 566 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 00:59:07 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚*ζ「話し合いって、すごく大事なんですよ。
話し合わなかったせいでとんでもないすれ違いしてた人たち、私知ってます」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも知ってマス」
ζ(゚、゚*ζ「マニーさんのお母さんじゃなきゃ、
こんなに拗らせたマニーさんのこと、どうしようも出来ませんよ」
¥;・∀・¥「でも! ……そ、それで、拒絶されたら。僕はどうしたらいいんだ……」
ζ(゚、゚*ζ「……そしたらね、」
そしたら、どうしようか。
母親にとって、本当にマニーが「怪物」でしかなかったら。
マニーが言うように、もはや彼を息子として見れなくなっていたら。
そしたら──マニーには、「母親」がいなくなってしまうのだろうか。
ζ(゚、゚*ζ「……あ、じゃあ」
それなら、そのときは。
- 567 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:01:11 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚ー゚*ζ「私が、マニーさんのお母さんになりますね」
冗談めかして言うと、マニーも、びぃもハローも、ぽかんとデレを見つめた。
沈黙。5秒。10秒。
¥・∀・¥「──は」
マニーの口から吐息が漏れて──
大きな笑い声が響き渡り、沈黙は破られた。
うむ。この言葉、どうやら暗い空気を打ち壊すのには最適らしい。
デレの粗末な頭がいらない学習をした。
- 569 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:02:07 ID:1BvXn.Sw0
(´-;;゙#)「……本当に、お馬鹿なのね……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソウなんデスヨ」
¥;* ∀ ¥「はっ、ははっ、待ってくれ、ふっ、何、っははは! ──苦しい!」
マニーが腹を抱えて蹲る。
この体勢をとる彼の姿は散々見てきたが、今日だけは、腹を押さえる意味合いが違った。
これなら、何度だって見ていられる。
- 574 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:03:44 ID:1BvXn.Sw0
¥;*・∀・¥「ふっ! ……ああもう、予想外だ……っくく……
くそっ、僕があれだけ真面目に……!」
びぃに抱え起こされたマニーは、涙が滲むほど笑っていた。
しばらく笑いが収まらなかったが、びぃに背を撫でられる内、だんだん落ち着いてくる。
最後に長く息をついて、彼はデレと正面から向かい合った。
¥・∀・¥「……うん、君を母にするのは遠慮しておくけど……」
ζ(゚、゚*ζ(マニーさんにも断られてしまった……)
¥・∀・¥「もしも、駄目だったら」
笑いすぎて滲んだ涙を拭うマニー。
──それから彼が、
¥・∀・¥「何か、美味しいものを作ってほしいな」
そう言って、優しく、穏やかに、それでも不安げに笑うので。
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシも、出来る限り頑張りマス」
安心させたくて、デレとハローも笑顔で答えた。
- 577 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:07:53 ID:1BvXn.Sw0
どうなるかなど分からない。
無責任に背中を押しただけかもしれない。
マニーは笑ってくれたけれど、本心は、恐くて仕方ないだろう。
それでも彼らが向き合わねばならないことには変わりない。
¥; ∀ ¥「……っあ……!」
ζ(゚、゚;ζ「あっ」
直後、マニーがいつものように苦しげに倒れた。
いつもの、夢の終わりのように。
デレは一瞬だけ焦り、それはすぐに安堵へ変わった。
¥; ∀ ¥「は……はは……何も食べてないのに、死ぬんだな……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……マア普通は、何も食べてないカラ死ぬわけデスヨ」
──やはり今日は、何も食べなくていい日なのだ。
マニーが「それ」を食べる必要などない日だったのだ。
- 578 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:09:00 ID:1BvXn.Sw0
¥; ∀ ¥「……それじゃあ、起きようか。びぃ」
(´-;;゙#)「……はい、マニー様」
マニーとびぃが手を繋ぐ。
何となく、デレとハローも手を重ねた。
目眩がする。
そろそろ、夢が終わる。
- 579 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:11:24 ID:1BvXn.Sw0
「ごめんね。ありがとう」
2人の声が重なった直後、マニーは動かなくなった。
きっと、明日の夜になっても生き返らない。
- 580 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:12:09 ID:1BvXn.Sw0
「怪物」は、今日限りで死んだのだ。
*****
- 581 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:13:35 ID:1BvXn.Sw0
( ^ω^)「えーと」
一週間後の日曜日。昼。
VIP図書館の2階、廊下。
深刻な顔をして廊下に座り込む貞子、デミタス、椎出姉妹の前に、
何やら箱を抱えた内藤とツンが立っている。
食い入るようにこちらを見つめてくる彼らを順繰りに眺め、
内藤は咳払いの後、重い口を開いた。
- 582 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:14:44 ID:1BvXn.Sw0
( ^ω^)「──金井さんから、めっっっちゃ高そうな牛肉が届きました」
(;*゚ー゚)「ィイヤッホォオ─────イ!!!!!」
(*゚;;-゚)人 パチパチ
(;´・_ゝ・`)「戦争が起きる……」
川д川「多分ねえ……」
内藤の手から箱を取り上げ、ツンがゆるゆると首を振った。
ξ゚听)ξ「普通の一家族で食べるなら2食か3食いける量だけど、
うちで食べるとなると、一食であっという間になくなるわ」
( ^ω^)「まさか金井さんも10人住んでるとは思わなかったろうしね……
──というわけで、この牛肉の使い道を決めたいと思います」
- 583 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:16:45 ID:1BvXn.Sw0
(;*゚ー゚)「ステーキしかねえだろ!? わさび醤油でさあ!」
(*^ω^)「ふむ、ステーキ。肉汁じゅわっじゅわの肉をもぎゅもぎゅいきたいおね」
(*´・_ゝ・`)「しゃぶしゃぶがいいなあ……ポン酢とかゴマだれで……」
(*^ω^)「あーっしゃぶしゃぶ! 火を通しすぎずに絶妙なやわらかさを保った肉をポン酢で爽やかに!」
川д川「焼肉食べたい……ステーキみたいに厚いのじゃなくて……」
(*^ω^)「タレをつけた薄い肉でご飯巻くのはステーキには出来ない食べ方だおね!」
ξ゚听)ξ「金井さんが色々解消できたのは、でぃの本があってこそだと思うの。
でぃが食べたいものを優先させたら?」
(*´;;-`) スキヤキ
(*^ω^)「ああっすき焼き好き! くつくつ音を立てる鍋の賑やかさ!
肉だけでなく野菜やお豆腐までも主役になり得る宝石箱!」
(´・ω・`)「みんなの大好きなショボン君が美味しいお肉を独り占めしてご満悦な様子を楽しく鑑賞するコース」
( ^ω^)「帰って」
間。
内藤は隣に立つショボンを4度見して、「あ、ショボンがいる」と認識した瞬間、
その顔面に拳を叩き込もうとした。
ショボンが物凄い背筋力を見せたので空振りに終わったが。
- 585 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:18:13 ID:1BvXn.Sw0
(´・ω・`)「何いきなり酷いなあ」
( ^ω^)「貴様が我が家の風呂回りを水浸しにした恨みは忘れていない」
一週間前、金井邸から帰還した内藤とツンを出迎えたのは、
風呂場から脱衣所、洗面所とその前の廊下に至るまで広がる巨大な水溜まりであった。
精神的疲労が溜まりに溜まったところへのあの衝撃は、下手をすれば人を殺せるかもしれない。
- 587 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:19:26 ID:1BvXn.Sw0
(´・ω・`)「いや、ぼく悪くなくない? モララーが泣きながらハロー締め上げるっていう
面白スキンシップしてたせいで、風呂に水溜めてんの忘れちゃったんだもん。
しばらくしたらハローとデレちゃんが起き上がってさ、みんな大喜びしてて僕も思わず感動ですよ。
そんなハッピー空間にいたら、水止めてないの思い出してもなかなか言い出せませんて」
( ^ω^)「お前しか悪くないんですけど」
ξ゚听)ξ「言い出せなくても水は止めておきなさいよ」
(*゚ー゚)「帰ってきてびっくりしたわ私。片付けさせられたのにもびっくりだわ」
(´・_ゝ・`)「同じく帰ってきて早々、関係ない僕が掃除手伝わされたの解せないんだけど……」
川д川「ショボンしばらく立入禁止にしたらあ……?」
(#゚;;-゚) サンセイ
(´・ω・`)「やッだ〜集中砲火。
いいじゃん、デレちゃんハローも無事に演劇終了、金井氏トラウマ克服、
『本』の無傷回収でニュッ君とでぃもにこにこ、全方位ハッピールンルン円満解決。
お茶目なショボン君の可愛いミスくらい見逃してよ」
( ^ω^)「はーい僕いまからコイツ窓から吊るしまーす」
(#´゚ω゚`)「やれるもんならやってみろコルァアアア!!
ねちねちうるせえええなあああテメエはよおおお!!」
(#゚ω゚)「いきなり逆ギレすんのやめろお前!!」
- 591 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:20:53 ID:1BvXn.Sw0
ξ゚听)ξ「……まあ、ショボンが電話をかけてくれなかったら
私達が『本』を燃やしてしまっていたでしょうし、そこは差し引きしてあげましょう」
可愛いツンにそう言われては、内藤も引っ込まざるを得ない。
──あの日、内藤とツンが金井邸の庭から「本」を掘り起こして。
火をつけようとした瞬間に、ショボンが電話でデレとハローの無事を報告してきたのだ。
ぎりぎりだった。もし燃やしていれば、でぃが許可したとはいえ、彼女もニュッも無念だったろうから。
ちなみにショボン以外の者は、起き上がったデレとハローの対応でいっぱいいっぱいだったらしい。
あの本の虫さえ。
(´・ω・`)「ていうか何で廊下で牛肉の相談してんの」
川д川「食堂は今ニュッ君達にのんびり使わせてるからあ……」
(´・ω・`)「あーそう」
(*゚3゚)「私も混ざりたいわ。あーあ、デレちゃんまた泊まっていかねえかなあ。
風呂覗けてないし歯ブラシの匂いも嗅いでねえ」
(#゚;;-゚) ヤメテ
- 592 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:22:10 ID:1BvXn.Sw0
(´・_ゝ・`)「ところで牛肉の使い道どうするの?」
ξ゚听)ξ「でぃの希望通り、すき焼きにする?」
(´・ω・`)「牛丼食べたい」
(;^ω^)「うわあ〜ここに来て高価な和牛を贅沢にも超庶民的料理に使っちゃう誘惑〜」
*****
- 593 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:23:47 ID:1BvXn.Sw0
──1階。図書館。
テーブルセットの一つに、クックルとキュートが座っている。
クックルは愛用するノート──分厚いハードカバー、外装は花柄──に書き付けた小説の確認をし、
キュートは適当な本を読むふりをしてクックルをちらちら眺めていた。
( ゚∋゚)「上に行かなくていいのか」
o川;*゚ー゚)o「え!? 何!? 本読んでたから聞いてなかったわー!」
(;゚∋゚)「す、すまん。……ここにいても暇じゃないか?」
o川;*゚ー゚)o「や、まあ、あれですよ。たまには静かなのもいいかなと」
そうか、と納得した様子で、クックルが自分の小説に目を戻す。
話が終わってしまったかと少し残念に思ったキュートが必死で話題を探していると、
顔を上げないまま、彼が再び口を開いた。
( ゚∋゚)「そういえば、結局文化祭を見に行けなかったな。
昼過ぎにちょっと行ってみようかと思ってたんだが」
o川;*゚ー゚)o(来なくて良かった……!!)
不意討ちで会っていたら、死んでいたかもしれない。
校内でのキュートのイメージ的な意味で。
- 594 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:24:59 ID:1BvXn.Sw0
( ゚∋゚)「自分からデレに付き添ってきたんだってな、キュート。
途中で抜けて良かったのか? 文化祭」
o川*゚ー゚)o「……ニュッ君さん達にも言ったけどさ、あの状況で置いてかれたところで、
文化祭に集中できるわけないし」
文化祭は来年もある。
今年の一日分がふいになっても大したことではない。
それに、いきなり倒れたデレを見知らぬ男2人が連れ去るなど、ちょっと絵的にまずい。
下手をしたら変な噂を流されかねないくらいである。
しかし純真無垢な絶世の美少女キュートが笑顔でついていくことで、ニュッ達の信用性は多少なりとも上がるのだ。
( ゚∋゚)「いい奴だな」
o川*゚ー゚)o「美少女だからね」
澄ました顔で答えておいたが、内心は暴風雨。
いきなり褒めてくるから油断ならない。
- 595 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:26:47 ID:1BvXn.Sw0
( ゚∋゚)「それと、キュートがたまたまあの雑誌を持ってたおかげで
ニュッ君が緊急性に気付けたようなもんだしな。お前がいて良かった。
恥ずかしながら俺はあれが金井マニーだと知らなくてな」
o川*゚−゚)o
とりあえず無の世界に没した。
でなければテーブルに額を打ちつけたのち奇声を漏らしながら前転を繰り返していた筈だ。
いったい今日はどうした堂々クックル。
本を閉じたクックルは、表紙を撫でて、思い出したようにこちらを見る。
( ゚∋゚)「たしかキュートが着てた浴衣って、自前のなんだっけか」
o川*゚ー゚)o「え? ああ。そう、今年の夏祭りで着るために買ったやつ。それが何?」
( ゚∋゚)「いやな、」
今度は何だ。浴衣姿を褒める気か。
いいだろう、既にデレから聞いているから少しくらいは耐性が出来ている。
絶対に動揺などしてやらない。さあ来い。
クックルは花柄の表紙を、とん、と大きな指先で叩いて、
彼にしては珍しく声を漏らして笑った。
( ゚∋゚)「俺の本と、柄が似てたなあ」
- 596 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:27:34 ID:1BvXn.Sw0
死んだ。
*****
- 599 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:28:40 ID:1BvXn.Sw0
ハハ*ロ -ロ)ハ「おいしー」(・∀・*)
ζ(´ー`*ζ「美味しいですねえ」
( ^ν^) ムシャモグ
食堂。
テーブルの左端にハローとモララー、その向かいにデレとニュッが座って、
昼ご飯の真っ最中。
各自の前には広めのランチプレートが置かれており、
デレが作ったオムライスと海老フライとプリン、
ハローが作ったおにぎりと唐揚げとだし巻き卵、それとサラダが盛りつけられている。
どう見ても、
( ^ν^)「何なんだこのお子様ランチ」
ζ(゚ー゚*ζ「気のせいじゃないですか?」
( ^ν^)「爪楊枝で作った旗まで刺しといて何をとぼけてんだ」
ニュッに頬を抓られたデレは、あははと朗らかに笑った。
オムライスとおにぎりはいくらか小振りに作ってあるので、
食べきれないということはない。
- 600 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:30:12 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚ー゚*ζ「お子様ランチ食べるニュッさん面白い」
( ^"ν^)
( ・∀・)「最近のデレちゃんは母性が爆発してるね」
ハハ ロ -ロ)ハ「『面白い』は母性とは違うのデハ」
別に、初めから計画していたわけではなく。
ニュッとモララーにご飯を作ってあげよう、とハローと相談し、
メニュー案を出し合ったらまるでお子様ランチのようだったので、ノリで盛りつけにこだわっただけなのだ。
ζ(´ー`*ζ「だし巻き美味しい」ジワーッ
(*・∀・)「美味しいよね! ハロー、肉料理以外も出来るんだ」
ハローが焼いただし巻き卵は綺麗な山吹色で、見た目からして美味しそう。
口に入れればふわふわしていて、噛むと甘い出汁がじゅわじゅわ溢れる。
きっと冷めても美味しい。
- 601 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:32:10 ID:1BvXn.Sw0
ハハ ロ -ロ)ハ「練習したノ」
ζ(´ー`*ζ「そうなんですか! 大成功ですよハローさん」
褒めたにもかかわらず、
常ならば子供のようにはしゃぐであろうハローが、この日はしゅんと縮こまるので。
デレは思わず食事の手を止めた。
ζ(゚、゚*ζ「?」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ごめんネ」
ζ(゚、゚*ζ「はい?」
しかも急に謝る始末。
ハローはもじもじしながら、ぽつり、続けた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ、全然デレのオ手伝い出来なかった」
ζ(゚、゚*ζ「お手伝いも何も、今日はお互い自分が作るものだけ担当してましたし……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソウじゃなくて」
少し考え、一週間前までの「夢」の件だと理解する。
- 602 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:33:27 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん、椅子持って助けてくれたじゃないですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「ソレでもなくて、あの、オ料理……。
ワタシ、貞子達みたいにオ料理得意でもナイし詳しくナイし」
ζ(゚、゚*ζ「鶏肉捌いてくれたの助かりましたよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ツンやクックルの方がもっと上手く出来マスシ」
そうなのか。
ハローもかなりの手際だったが、あれ以上とは。ちょっと見てみたい。
──まあ。
料理の腕、といえば、たしかに貞子達には劣るのかもしれないが。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさんは明るいけど落ち着きもある人だから、
ああいうとき一緒にいると、すっごく安心するんですよ」
だからハローさんが一緒で良かった。
最後にそう付け足せば、ハローは口に運ぼうとしていた唐揚げを落として、
更にぶるぶる震え、ついには隣のモララーにしがみついた。
何故だか泣いている。
- 603 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:35:19 ID:1BvXn.Sw0
ハハ。ロ -ロ)ハ「モ゙ラ゙ラ゙〜」
( ;∀;)「良かったねハロォオオ!」
ζ(゚ー゚;ζ(何事)
与り知らぬところで何やら色々あったらしい。
とりあえず食事に戻る。海老フライをフォークで刺すと、ざくざくぱりぱりの感触が伝わってきた。
感触と音だけでもう美味い。
それに酔っていたら、ニュッに足を踏まれた。
( ^ν^)「……ハローから聞いたぞ。
ビビってたくせに、金井に向かって、どうぞ食べてくださいっつったらしいな。
お前ますます馬鹿になってねえか」
ζ(゚、゚*ζ「モララーさんから聞きましたよ。
ニュッさん、私の手握っててくれたんですよね」
( ^"ν^)「死ね」
( ;∀;)「あだっ!」
ニュッが投げた胡椒の瓶が、モララーの額にクリーンヒットした。
話を聞いていなかったらしいモララーは
わけも分からずしばかれた痛みと驚きで、一層激しく泣いた。
- 604 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:37:22 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚ー゚*ζ「私が学校で寝ちゃったときも、ニュッさんが来てくれたんですって?
ありがとうございます」
( ^ν^)「たまたまだ」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなこと言って」
デレは知っている。
何だかんだ、そういうとき、彼はデレのもとに来てくれる人だ。
唐揚げを一口。デレが作るものよりスパイシーで、
それをおかずにおにぎりを頬張ると、たまらなく幸せ。
ζ(´ー`*ζ「もしもまた私がピンチになるようなことがあったら、
ニュッさんは真っ先に駆けつけてくれるでしょ」
( ^"ν^)「まずピンチになるなっつう話だ馬鹿」
あはは、とデレはまた笑う。
この図書館に関わり続ける限り、完全に安全、ということはないのかもしれない。
けれど彼らがいてくれるなら、完全に安全と言えるのかもしれない、とも思う。
彼らは優しくて、頼りになるから。
オムライスを咀嚼し飲み込んだニュッが、じろりとデレを一瞥して、またオムライスをスプーンで崩した。
- 605 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:38:38 ID:1BvXn.Sw0
( ^ν^)「それにしたって、よくもまあ毎晩毎晩、
碌に知らねえ奴のために一生懸命メシ作り続けたもんだな」
( ・∀・)「あ、それ俺も思った。デレちゃんえらいなあって。
その気になれば手抜きでやり過ごすことも出来たでしょ」
えらい、だろうか。
もしかしたら──相手がマニーでなければ、
たしかに手を抜く日もあったかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ「……だってマニーさん、すごく美味しそうに食べてくれるんですよ。
美味しいって言ってくれるんですよ。
嬉しくて、もっと美味しいもの食べてほしいって、思っちゃいますよ。」
( ^ν^)「……ふうん」
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんも将来お嫁さん出来たら、ご飯美味しいよって言ってあげなきゃ駄目ですよー。
そしたらもっと美味しいご飯つくってもらえますからね」
へらへらしながらニュッをつつく。
彼は面倒臭そうな顔をして、何も言わずに食事に戻った。
( ・∀・)「ニュッ君にお嫁さん来るかな……」
ハハ ロ -ロ)ハ「モウ、ワタシ、敢えて何も言いマセン」
そこから少し、沈黙が続いた。
決して気まずくはない。静かに賞味する、穏やかな時間。
- 606 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:39:23 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚*ζ(マニーさんも、こうやってご飯食べてるかな)
夢の中と同じように、食事を楽しんでいるだろうか。
正体が飼い犬だったというびぃは、マニーが美味しそうにご飯を食べる姿を喜んで見ているだろうか。
それは分からないけれど。
何か作ってほしい、とマニーから連絡が来ないということは、
少なくとも、傷付いてはいないのだろう。
ζ(´ー`*ζ
こんな風に、楽しく食事が出来ていればいい。
次はサラダをいこうかと考えていると、視線を感じた。
横に目をやればニュッと視線が絡む。
彼のプレートからは、すっかりオムライスがなくなっていた。
一番に食べきってくれたのなら、それなりに気に入ってくれたのかもしれない。
- 607 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:42:19 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚、゚*ζ「何です? おかわりですか?」
( ^ν^)「いや、……あー、っと」
ζ(゚、゚*ζ「何なんですか」
ああ、うう、ニュッが唸る。
デレがじっと待っていると、観念したらしい彼が、ようやく呟いた。
( ^ν^)「……美味かったよ」
ζ(゚、゚*ζ
目を逸らしながらでは、あったけど。
- 608 :名も無きAAのようです:2016/01/11(月) 01:44:04 ID:1BvXn.Sw0
ζ(゚ー゚*ζ「……はいっ!」
──だから、また今度、何か作ろうと思った。
正直言うと、いつも美味しいものを食べていてほしいと
デレが一番願っている相手は、ニュッなのだ。
これはやっぱり、母性ってやつなのだろうか。
番外編 終わり
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