- 156 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:12:03 ID:kr1tN4ckO
ツン。本によって生み出された少女。
彼女の体は成長しない。
彼女の体は病気にかからない。
彼女の体に付けられた傷はすぐに完治する。
彼女が死ぬときは――
#####
- 157 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:14:10 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「……うん。大丈夫だお。すっかり慣れたし。……ちゃんと食べてるお。
お? ――悩み、は、……別に、ないお。
ありがとうお。うん、……うん。それじゃあ、また」
受話器を置き、内藤は溜め息をついた。
電話の相手は母方の祖母。
金銭的な問題を理由に内藤の引き取りを拒否したが、時折こうして電話をくれる。
冷たいとか、悪い人だとかは思わない。
彼女の夫――内藤にとって母方の祖父――は数年前に入院したきり、
ずっと病院の世話になっている。
義務教育中の孫を引き取ったところで、内藤のためにも祖父母のためにもならないのだ。
それに、たまにでも連絡してくれるだけ有り難いというものである。
ニュッの母親は所謂天涯孤独の身で、ニュッには「母方の親戚」がいない。
彼のことを考えると、内藤は恵まれている方だ。
ξ゚听)ξ「終わった?」
――右手の指が小さく揺れた。
振り返り、ツンに微笑みかける。
- 158 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:15:46 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「……終わったお」
ξ゚听)ξ「そう。
ごめんね、ご飯、先に食べてたわ。ニュッ君がお腹すかせてたから」
( ^ω^)「僕こそ、電話長引いちゃってごめんお」
ξ゚ー゚)ξ「あ、ううん。いいのよ、好きなだけ話して。
お祖母さんだって、心配してるに決まってるんだから」
( ^ω^)「……お」
食堂に向かうため、内藤は踵を返した。
ツンの横を過ぎる。
ξ゚听)ξ「……ブーン」
( ^ω^)「何だお」
返事はしたが、立ち止まりはしない。
ツンはもう一度だけ内藤を呼び、それ以上何かを話すことはなかった。
――モナーにツンの正体を教えられてから、一週間。
内藤は、ツンと、まともに会話出来ずにいた。
あからさまな避け方をして、申し訳ないとは思っている。
だが、何食わぬ顔で普段通りに接せられるほど、自分の中での整理がついていない。
一年間共同生活を送ってきた相手が――本に作り出された存在だと知って、
平然としていられる人間がどこにいる。
- 159 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:18:04 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)(……まあ、ニュッ君は普通に受け入れてたみたいだけど)
ニュッは、まだ分別がつくような歳ではないからともかく。
そんなことは気にしないと言い切るのは、内藤には難しかった。
――ツンに嫌悪感を抱いたわけではない。
以前のように下らない話で笑い合いたいし、気軽にスキンシップをとりたいと考えている。
けれど。
自分でもよく分からない、裏切られたような――妙な苦しさと寂しさが、
内藤を彼女から遠ざけさせていた。
(;^ω^)「……」
モナーの話を反芻した瞬間、例の臭いが漂った。
いつもより強い。
胃袋を握られるような感覚がして、内藤は壁に凭れかかった。
少し離れて歩いていたツンが、名前を呼びながら駆け寄ってくる。
ξ;゚听)ξ「ブーン、どうしたの? 大丈夫?」
(;^ω^)「……大丈夫」
- 160 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:20:06 ID:kr1tN4ckO
別に、ツンもモナーも、内藤を裏切るようなことはしていない。
それでも。
( ´∀`)『ああ、一番話したいことは、これからだモナ。
最後のページを見てほしいモナ。……それ。そこ。
そう遠い未来の話でもないだろうから、覚悟をしておいてほしいんだけど――』
――ツンが死ぬ(消える)のは、本が燃えたときか、内藤モナーが死んだとき。――
あの文章を思い出すと、様々な感情がどろどろと縺れ合い、胸の底に溜まっていくのである。
- 161 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:20:39 ID:kr1tN4ckO
第九話 あな悲しや、私小説・後編
.
- 162 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:21:21 ID:kr1tN4ckO
( ´∀`)「空気が重い」
昼飯時。
モナーは唐突に箸を置き、ぼそりと呟いた。
ξ;゚听)ξ「えっ」
( ´∀`)「お前らだモナお前ら。ホライゾンとツン。
ここ最近、目も合わさなければ最低限の会話しかしない」
( ´∀`)「互いを避けようが避けまいがどうだっていいモナが、
こっちまで巻き込むのは勘弁してほしいモナ」
(;^ω^)(このジジイ……)
お前のせいだ、という文句は素麺と共に飲み込む。
ニュッが、困ったような表情を浮かべて皆の顔を窺った。
モナーの言葉は聞こえなかったふりをして、内藤は素麺に箸を伸ばす。
ξ゚听)ξ「私は避けてるつもりないんだけどね」
(;^ω^)
掬い上げた麺が、滑り落ちた。
ツンの声が刺々しい。
- 163 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:22:22 ID:kr1tN4ckO
(;^ν^)「あ、あう」
( ´∀`)「構うんじゃないモナ、ニュッ。ろくなことにならんモナよ」
ξ゚听)ξ「2人共、モナーさんから聞いたんですって? 私のこと」
(;^ω^)「……はい」
ξ゚ -゚)ξ「それで避けてるの?」
(;^ω^)「……」
黙秘。
そっぽを向き、薬味を汁に投入していく。
しばらくツンの視線を感じていたが、やがて彼女も食事の方に意識を移した。
#####
- 164 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:25:18 ID:kr1tN4ckO
(´・ω・`)「ああ、ツンさんが馬鹿力なのって、そういう『設定』だったからなんだね。
謎が解けた」
ξ゚听)ξ「モナーさんは御老体だから、力持ちの方が何かと便利なの」
(´・ω・`)「それにしても……すごいなあモナーさん。
普通、思いつきはしても、実行なんてしないだろうに」
ξ゚听)ξ「奥さんが亡くなった後、すぐに私を作ったらしいわ。
1人で生活するのが大変だから、って。
失敗したらお手伝いさんを雇うつもりだったみたい」
(´・ω・`)「で、無事に成功したわけだ。なるほど」
(;^ω^)(……こいつ、本当に自分さえ安全ならどうでもいいのかお……)
夏休みも終わる頃。
1階、リビング。
内藤は、ショボンとツンの会話を聞いて唖然としていた。
2人の会話に、ではなく、あっさり受け入れて感心すらしているショボンに。
ストレスの少なそうな生き方で羨ましい限りである。
- 165 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:27:04 ID:kr1tN4ckO
ξ゚听)ξ「……あ、ごめんなさいね、長話しちゃって。ごゆっくり」
ふと壁の時計を見たツンは、慌てて腰を上げた。
茶菓子を運ぶのに使った盆を抱える。
(´・ω・`)「いいじゃない、ここにいたら。クーラーあるし」
ξ゚ー゚)ξ「……遠慮しとくわ」
ショボンの提案を、ツンは寂しげな笑顔で断った。
内藤が俯く。
大体察したようで、ショボンが「ああ、そう」と声を落とした。
リビングのドアが閉まる音。
ツンは出ていったらしい。
顔を上げた内藤の額に、ショボンの人差し指がぶつかった。
(;^ω^)「痛っ」
(´・ω・`)「酷い奴だね」
(;^ω^)「酷いって――」
(´・ω・`)「『君が何者だろうと構わない』って言ってやるのが、いい男の基本なのに」
(;^ω^)「……生憎、そんな余裕ないお」
- 166 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:27:44 ID:kr1tN4ckO
(´・ω・`)「別にさあ、何か問題あるわけじゃないじゃん。
常に美人。性格悪くない。世話してくれる。
……君に危害を加えるでもなしに」
――害があるとかないとか。
そういう問題ではないのだ。
口を噤む内藤に、ショボンは溜め息をついて首を振った。
(´・ω・`)「――どうせ、じいさんが死ぬまでの何年か程度の付き合いでしょ。
我慢したら?」
( ^ω^)「……下衆っていうかクズっていうか」
(´・ω・`)「そんなに褒めるな」
デリカシーが致命的なレベルで欠落している。
「こういう奴だから」と内藤は諦めているが、
普通なら殴り合いの喧嘩になっていてもおかしくない発言だ。
とりあえず、グラスから取り出した氷をショボンのシャツの中に突っ込んだ。
#####
- 167 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:28:51 ID:kr1tN4ckO
ξ゚听)ξ「ブーン」
(;^ω^)「お」
数日後。
モナーから本を借りようと廊下を歩いていた内藤は、ツンに腕を掴まれた。
睨むような目付きで見つめられる。
最近、内藤の身長が伸びてきたためか、視線の高さが近い。
間もなくツンを超えるだろう。
ξ゚听)ξ「お夕飯作るの手伝って」
内藤は口を開き、無言のまま閉じた。
浅く頷く。
ツンの瞳の鋭さが、少しだけ和らいだ。
.
- 168 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:29:53 ID:kr1tN4ckO
――厨房。
とん、と、包丁がまな板を叩いた。
ξ゚听)ξ「皮剥いたら、そこ入れといて」
( ^ω^)「分かったお」
ツンが、水を張ったボウルを包丁の先で指した。
内藤はじゃがいもの皮をピーラーで剥きながら、何とはなしにツンの手元を見る。
輪切りにされていく茄子。
厚みは案外ばらばらだ。
人間臭い。
寸分の狂いもなく等間隔に切り分けられていれば。
一挙手一投足に、人間離れした、無機的な正確さがあれば。
彼女の真実に対して、抵抗を抱くことはなかったかもしれない。
ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン」
( ^ω^)「何だお?」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
とんとん、しゅるしゅる。
包丁がまな板を打つ音と、ピーラーが皮を剥いていく音が、厨房の中に響く。
- 169 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:30:52 ID:kr1tN4ckO
ξ゚听)ξ「私のこと嫌い?」
(;^ω^)「はあ?」
内藤の手が止まった。
じゃがいもの皮が、中途半端な位置で垂れ下がる。
ξ゚听)ξ「人間じゃないから、恐くなった?」
(;^ω^)「……どうしてそんなこと言うんだお、ツン」
ξ゚ -゚)ξ「だって、ブーン、私のこと避けるじゃない」
(;^ω^)「……えっと……。あの。何か」
ξ゚ -゚)ξ「『なんか』、何よ」
(;^ω^)「信じられないっていうか……」
ツンの、形のいい眉が歪んだ。
咳払いをして、内藤は作業を再開させる。
頭の中では、ツンにかけるべき言葉がぐるぐる回っている。
嫌いじゃない。恐くない。
そう言ってやらねばならないのに、手が動くばかりで、口は閉ざされたままだ。
変に力をこめてしまったのか、ピーラーの刃がじゃがいもに食い込んだ。
恐々、横目にツンを見る。
我ながら分かりやすいくらいに動揺している。
- 170 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:33:19 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「――え」
ぽたり、シンクに雫が落ちた。
赤い。
ξ゚听)ξ「……」
――ツンの親指に、切り傷が出来ていた。
そこに宛がわれている、包丁。
(;^ω^)「……! 何してるんだおツン!!」
ξ゚听)ξ「……見て」
(;^ω^)「は――」
ツンが、傷口を内藤へ向ける。
赤い筋は、ゆっくりと消えていった。
表面に付着した血液を軽く拭えば、そこには、もう何も残っていない。
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「信じてくれる?」
――びっくりさせてごめんね。
囁き、ツンは手を下ろした。
蛇口を捻る。
ざあざあと流れる水に、包丁を触れさせた。
- 171 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:35:27 ID:kr1tN4ckO
ξ゚ -゚)ξ
(;^ω^)
水を止め、まな板に包丁を置く。
一呼吸の間をあけてから、ツンは内藤に視線を送った。
ξ゚ -゚)ξ「……しょうがないじゃない」
(;^ω^)「え?」
ξ゚ -゚)ξ「こういう風に作られたんだから、しょうがないじゃない」
ξ; -゚)ξ「ブーンが嫌でも恐くても、私、こんな体なんだもの」
ぽたり。雫。
今度は、透明な。
ξ; -;)ξ「か、変えようがないのよ。
……そりゃあ、私だっ、て、ブーンに……恐がられる、ぐらいなら、
普通に歳をとって、……病気になったり、髪を伸ばしたり、し、したいわよ」
ξ;;)ξ「……でも、出来ないの! モナーさん、私をそういう設定にしてくれなかったもん!」
(;^ω^)「……ツン……」
ξ;;)ξ「せっ、性格とか、態度とか、そういうのが嫌だって言うなら、私、頑張って直すけど。
存在そのものを否定されたって、……、ど、どうしようもないの……」
- 172 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:39:27 ID:kr1tN4ckO
ツンは、子供のように泣いた。
ひくひくと喉や肩を震わせる。
内藤はピーラーが引っかかったままのじゃがいもをボウルに突っ込み、
濡れた掌をズボンに擦りつけた。
そして、ツンの手を掴む。
(;^ω^)「ツン、ごめんなさいお。
嫌いじゃないから、泣かないでほしいお……」
ξ;;)ξ「……ほ、……ほんと?」
笑った顔も怒った顔も、どんな表情も綺麗だというのに。
泣いた顔ときたら、ぐしゃぐしゃだ。
鼻水まで出ている。
内藤は吹き出して、食器棚の引き手にかかっていたタオルでツンの鼻を拭った。
ξ;;)ξ「な、なに笑って……んぶぶ」
( ^ω^)「……おっおっおー」
どうせなら、何もかも完璧であってほしかった。
何もかも綺麗であってほしかった。
そしたら、こんなに、ツンに好意を抱くこともなかったのに。
- 173 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:41:35 ID:kr1tN4ckO
ξ゚ -゚)ξ「……」
涙も鼻水も拭き取ってやると、ツンは顔を逸らした。
眉間に寄せられっぱなしの皺。真っ赤になった鼻。
じっと見つめていると、「何よ」とツンが呟いた。
どう返事をしたものか迷いながら、とりあえず、一言だけ口にする。
( ^ω^)「……ツンって、すごく綺麗だおね」
綺麗だ。
顔も仕草も。
すごく綺麗なのに、たまに、崩れる。
さっきの泣き顔みたいに。
それが堪らなく愛しい。
ツンはぽかんと放心して――急に、頬を真っ赤に染めた。
ξ;*゚听)ξ「――なっ……! はあ!? ばっ、なっ、き、急に、な、何、」
今はそんなことを言う場面じゃないでしょう、と喚くツン。
目を見開き、口元をひくつかせている。
また、「綺麗じゃない」顔だ。
可愛いなと、思った。
- 174 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:42:57 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「おー。まっかっか」
ξ;*゚ -゚)ξ「……っ! ……っ! か、からかうなっ!!」
( ^ω^)「からかってるわけじゃないお。本当に綺麗だと思うお」
ξ;*゚听)ξ「嘘つき!」
( ^ω^)「……褒めてるのに、何で怒るんだお」
ξ;*゚听)ξ「お! ……怒ってるわけじゃ、ないけど……」
どんどん赤くなる。
怒ったような、困ったような、照れたような。
複雑な表情を浮かべ、ツンはあちこちに視線をやった。
先程は「からかっていない」と答えたが、正直楽しい。
ここ最近はツンの寂しそうな顔ばかり見ていたし。まあ自分のせいなのだが。
そういえば、最後に彼女の笑顔が自分に向けられたのは、いつだっただろうか。
内藤は、ツンの頬を軽く抓った。
( ^ω^)「褒められたら、お礼言うんだお」
ξ;*゚听)ξ「あ、あう」
( ^ω^)「笑って『ありがとう』って言ってみるお?」
ξ;*゚听)ξ
ξ;*゚听)ξ「あ」
- 175 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:44:08 ID:kr1tN4ckO
_,、_
ξ;*゚ー゚)ξ「……あ、りがと、う」
( ^ω^)「いや何か顔が必死すぎるお」
ξ;*゚听)ξ「ううううるっさいなぁあああ! もう――」
ξ;*><)ξ「――私よりガキのくせに!!」
ばん、とツンがまな板を叩く。
茄子が転がり、床に落ちた。
ξ;*><)ξ「出てけー! この女ったらし! スケベ! マセガキ!」
(;^ω^)「ちょ、ま、まだじゃがいも全部剥いてな……」
ξ;*><)ξ「知るか馬鹿!」
ぐいぐい、厨房の外に押しやられる。
ツンの怪力に敵うわけもなく、躓きそうになりながら食堂に出た。
勢いよく閉められたドアを眺め、内藤は頭を掻く。
調子に乗りすぎた。
- 177 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:47:39 ID:kr1tN4ckO
謝っておくべきだろうかと思案していると、ドアがゆっくり開いた。
僅かな隙間からツンが覗き込んでくる。
ξ;*゚听)ξ「……け、結局、私のこと嫌いなの……?」
( ^ω^)「だから、嫌いじゃないってば。
……ごめんお。いきなりすぎて、どう接していいか分からなかったんだお」
ツンの眉間の皺が消える。
ドアが、今度はゆっくりと閉まった。
その向こうから、か細い声。
「……今まで通りでお願いします……」
( ^ω^)「今までって」
「あっ、い、今までって言っても、最近みたいな冷たい感じじゃなくてっ。
前みたいな、ふ、普通に。普通に……気軽に」
( ^ω^)「……分かったお」
すうっと、胸の内の何かが溶けた。
自分が否定しようと、事実が変わるわけでもない。
沸き上がる不安をツン丸ごと拒んだって仕様がないし、
ツンがあんなにも傷付いてしまうのは嫌だ。
- 179 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:49:21 ID:kr1tN4ckO
(´・ω・`)『――どうせ、じいさんが死ぬまでの何年か程度の付き合いでしょ』
「何年か程度」。
「何年か程度」が過ぎたら。
そのときは、そのときだ。
ドア越しにもう一度謝って、内藤は椅子に腰掛けた。
#####
- 181 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:51:36 ID:kr1tN4ckO
それからは、取り立てて言うほどの大きな事件もなく。
内藤家は平穏に日々を過ごしていった。
時を、4年後、1999年の3月へと移そう。
( ^ν^)「何か物足りない」
廊下。モナーの部屋の前。
モナーに本を返しながら、ニュッはそう言った。
( ´∀`)「モナ? 最近発売された中でも、僕の一番のお気に入りだったモナが……」
( ^ω^)「おー、目が肥えてきたかお、ニュッく……」
たまたま居合わせた内藤が頭を撫でてやると、ニュッは無言のまま手を振り払った。本で。
可愛くない。非常に可愛くない。
( ;ω;)
( ´∀`)「んんー、ニュッの好みだと思ったのに」
( ^ν^)「面白かったけど、何か、足りない」
( ´∀`)「ふうむ」
顎を摩り、モナーは首を傾げる。
ニュッから受け取った本を、ぱらぱらめくった。
- 182 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:53:14 ID:kr1tN4ckO
( ´∀`)「じゃあ……最近読んだもので、何が一番面白かったモナ?
参考にするモナ」
ニュッは間を置かずに本のタイトルを告げた。
聞き覚えがある。
たしか、モナーがニュッのために書いた話だった筈。
つい先日、内藤も読んだ。
まあ面白いことは面白かったが、飛び抜けて出来がいいかと問われれば難しい。
あれよりは、モナーが作家時代に書いたという話の方が内藤は好きである。
( ´∀`)「それモナか? 最近で一番?」
( ^ν^)「ん」
( ´∀`)「3ヶ月も前に書いた本モナよ。
自分で言うのも癪モナが、然程面白くもないし」
( ^ν^)「でも、あれが一番好き」
モナーは襟首を掻き、「そうモナか」と呟いた。
照れているのか、居心地が悪そうな顔をしている。
内藤は笑い出しそうになるのを堪えた。
少し待て、と、モナーが部屋に引っ込む。
- 183 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:54:50 ID:kr1tN4ckO
数十秒後。
モナーは、新しく持ってきた本をニュッに手渡した。
( ´∀`)「内容的には、あれと同系統の本モナ。
ニュッのお気に入りの作家だし、きっと楽しめるモナ」
小声でありがとうと言い、ニュッが自室に戻る。
ドアが閉まると、モナーは肩を竦めた。
( ´∀`)「ニュッの好みから言ったら、僕が書いたのよりも
さっきの方を面白く感じる筈なのに……。変モナね」
( ^ω^)「祖父ちゃんがニュッ君のために書いてくれた、ってのが大きいんじゃないかおー。
身内贔屓、身内贔屓」
あまり考えずに発した内藤の答え。
当たらずとも遠からず。
あながち間違っているとは言えない意見だったのだが、
このときの彼らが知る由もない。
.
- 184 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 20:58:55 ID:kr1tN4ckO
――翌朝。
( ^ν^)「やっぱり、足りない」
内藤が食堂に行くと、ニュッがモナーに本の感想を話しているところだった。
昨日の本もお気に召さなかったらしい。
モナーが唸りながら腕を組む。
( ´∀`)「面白いとかつまらないとかじゃなく、『足りない』モナか……」
ξ゚听)ξ「何が足りないの? ストーリーの長さとか?
あ、ブーン、おはよう」
( ^ω^)「おはようおー」
皿を並べていくツンの隣に立ち、メニューを確認する。
クロワッサンとスクランブルエッグ、付け合わせのサラダ。
そして、かぼちゃのポタージュ。
( ^ω^)「おーん。米が食べたいおー。がっつり食べたいおー」
ξ゚听)ξ「だってニュッ君、朝ご飯が和食だとあんまり食べられないんだもの」
( ^ω^)「僕は食べ盛りなんだおー。ツンー。ツンちゃーん」
ξ;゚听)ξ「ああもう邪魔くさい」
ツンの肩を揉みながら抗議すると、盆で鼻っ面を叩かれた。
内藤の背丈や年齢がツンを越した頃から、扱いがぞんざいになってきた気がする。
- 185 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:00:07 ID:kr1tN4ckO
ξ゚听)ξ「後でおにぎり作ってあげるから、まず、こっち食べちゃってよ」
(*^ω^)「ツン大好き!」
ξ;*゚听)ξ「ぎゃあ!」
抱きしめる。
変態、と騒ぎ、ツンが内藤の頭をぶった。
彼女の腕力なら、内藤を引き剥がすことぐらい訳無いだろうに。
(*^ω^)「可愛いおーツン可愛いおー」
ξ;*゚听)ξ「こ、こらっ!」
( ^ν^)「早くご飯食ったら?」
( ´∀`)「うわあ、ニュッがすごく冷めた目をしている。小3の目じゃないモナ」
(*^ω^)「ツン好きだおー」
ξ;*゚听)ξ「なっ……すっ、好きって」
( ^ν^)「学校でも女子生徒に同じこと言ってるくせに」
クロワッサンを齧り、ニュッが一言。
ツンの表情が消える。
- 186 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:02:01 ID:kr1tN4ckO
ξ゚听)ξ「は?」
(;^ω^)「え、やだニュッ君、急に何……」
( ^ν^)「クラスとか学年とか関係なく口説き回ってるって、ショボンから聞いた」
ξ゚听)ξ
(;^ω^)
( ´∀`)「引くわあ」
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「何でこんな風に育っちゃったのかしら……」
( ^ω^)「ツンさん、そういう言い方やめて。心に刺さる」
ξ゚听)ξ「昔は私より小さくて純粋で可愛かったのに……。
今じゃ、『可愛い』だの『好き』だの軽々しく口にして……」
(;^ω^)「元はといえばツンのせいだお!?」
ξ#゚听)ξ「なっ、何で私のせいなのよ!?」
- 187 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:03:59 ID:kr1tN4ckO
実際のところ、内藤が女好きになった原因の一端はツンにある。
あの「仲直り」の日、照れたツンの様子に内藤は味を占めた。
それからちょくちょく、ツンを褒めちぎっては恥ずかしがる彼女の可愛らしさを堪能し。
いつしか対象はツンのみに限らなくなり――今に至る。
これで内藤が男前であれば、さぞやモテていただろう。
しかし良く言えば温容、悪く言えば締まりのない間抜け面である内藤がどんなに口説こうと、
まともに相手をする者はいなかった。
ξ#゚听)ξ「まったく……。こんな軟派な子に食べさせるご飯はありません!
来月から受験生でしょ、真面目に勉強しなさい!」
(;^ω^)「ちょっちょっちょっ、僕の分の食器下げないでえ!!」
#####
- 188 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:06:03 ID:kr1tN4ckO
(*^ν^)「これ好き」
4月1日。
内藤が高校3年生、ニュッは小学4年生になった日、食堂でのこと。
本――分厚いノート――を抱えて、ニュッは、よく見なければ分からない程度に笑った。
クッキーと紅茶を出し、ツンがニュッの頭を撫でる。
ξ゚ー゚)ξ「あら、やっと気に入るのがあった? 何の本?」
( ´∀`)「……先日、僕が書いた話モナ。
敢えて前回のものとは趣向を変えてみたモナが」
( ^ω^)「何だお。やっぱり祖父ちゃんの本だから良かったんじゃないかお」
ニュッがアーモンドクッキーを口に運ぶ。
しばらく考え込む素振りを見せると、不意に、本をテーブルへ置いた。
( ^ν^)「……」
( ^ω^)「お? どうしたお、ニュッ君」
( ^ν^)「……俺だけの本が欲しい」
本人も自分の心情を把握しきれていないのだろう。
首を傾げ、手探りしているかのように、ぽつりと呟いた。
- 190 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:07:35 ID:kr1tN4ckO
モナーとツンが顔を見合わせる。
( ´∀`)「どういうことモナ」
ξ゚听)ξ「モナーさんの本を借りるんじゃなくて、自分で本を買いたいってことかしら」
( ^ν^)「そうじゃなくて、……そうじゃなくて……」
言い淀む。
内藤達が疑問符を飛ばしていると、ニュッはテーブルに突っ伏した。
ううん、と唸り、沈黙。
それから待ちくたびれたモナーが紅茶が啜ると同時に、
ニュッは、がばりと飛び起きた。
( ^ν^)「俺のために書かれた本がいい」
(;^ω^)「……ニュッ君のため?」
( ^ν^)「うん」
言われてみれば、たしかに、ニュッが気に入ったという本は
どちらもモナーが彼のために書いたものだ。
モナーはティーカップを置き、息を吐き出した。
( ´∀`)「他の人間じゃなく、自分1人だけのための本モナね」
こくり。ニュッが頷く。
――つまり、ある種の独占欲のような。
そんな感情。
まるで、異性に向けるそれだ。
目眩がした。
- 192 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:10:19 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「ああ……祖父ちゃんのせいでニュッ君の性癖が歪んだ……本フェチって……」
( ^ν^)「フェチって言うな」
( ´∀`)「変態度合いで言ったらホライゾンの方が重症な気もするモナが」
(;^ω^)「僕は女の子好きなだけ!!」
(;^ω^)「……大体、僕は昔から心配してたんだお?
保育園や幼稚園に入れもせず、ニュッ君に与えるものといったら本本本!
人との交流ってもんが少なすぎたんだお! そりゃあ、こうもなるわ!」
( ^ν^)「今更そんなん言われても」
(;^ω^)「君の話だお!? 何でそこまで冷めてるの!?」
ξ;゚听)ξ「まあ、たしかに普通の環境ではなかったわね」
( ´∀`)「本好きに育つことの何が悪いモナ?」
(;^ω^)「本好きってレベルじゃなくなるのが恐いんだお!
ニュッ君、今まで女の子に恋したことはあるかお?」
( ^ν^)
( ^ν^)「そういえば、ない気がする」
(;^ω^)「ほらぁああ!
人は好きになれないけど本は大好きなんて、まんま祖父ちゃんだお!
これじゃあ、ろくな大人にならないお!?」
( ´∀`)「おい」
- 193 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:13:20 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「それというのも、祖父ちゃんがニュッ君を甘やかして洗脳するから……!
……そうだお、昔っからニュッ君ばっかり可愛がって僕には何も――」
( ´∀`)「えー。ホライゾンも可愛がってたつもりなんだけども」
( ^ω^)「車道に突き飛ばすのが可愛がってる内に入るとでも?」
( ´∀`)「こいつ、しつけえ……」
ξ゚听)ξ「話が逸れてるわよ」
( ´∀`)「ああ。まあ、大丈夫モナ。
僕だって、いっぱしに恋ぐらいは出来たし。相手は1人だけだったけど」
内藤が生まれるより前に亡くなったという祖母のことか。
今になって考えてみると、このモナーを惚れさせるなんて、
随分と凄い女性だったのではなかろうか。
( ´∀`)「何にせよ、ニュッが楽しければいいじゃないかモナ」
それを言われると。
口を閉じる内藤。
その肩を、モナーがぽんぽんと叩いた。
( ´∀`)「だから、ホライゾン」
(;^ω^)「?」
( ´∀`)「ニュッのために小説、書いてくれるモナね?」
(;^ω^)
(;^ω^)「え?」
#####
- 195 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:16:01 ID:kr1tN4ckO
「だって僕1人じゃあ色々とキツいし」。
モナーの言により、内藤まで作家の真似事をさせられることになった。
何とか一夜で作り上げた小説は、素人丸出しの出来。
それでも、ニュッは喜んでくれた。
( ^ν^)「普通に書けてるし面白いと思うけど」
(*∩ω∩)「やだもうお世辞とか! もう! もっと言って! もう!」
( ´∀`)「あくまで素人の範囲で、モナね」
( ^ω^)「ジジイてめえ」
ニュッの部屋。
内藤は室内を見渡し、こっそり溜め息をついた。
モナーから譲り受けたのか自分で買ったのか、大量の本が机や床に置かれている。
後で、本棚を買うようモナーに頼んでおこう。
- 196 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:18:06 ID:kr1tN4ckO
( ´∀`)「とりあえず、ひとまずは満足出来たモナ?」
( ^ν^)「……んー」
モナーは、彼が書いた小説をニュッに手渡しながら訊ねた。
肯定も否定もしないニュッ。
満足はしていないだろう。
内藤が何時間も費やして書き上げた小説を、ニュッは20分とかからずに読みきった。
短い話だったせいもあるだろうが、元々彼は読むのが早い。
それに、モナーが言うように、大した出来ではない。
「自分のために小説を書いてもらう」という欲は満たされても、
物語そのものは、ろくに楽しめなかった筈である。
( ^ω^)(ううむ……)
何か、いい解決策はないものだろうか。
#####
- 197 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:19:32 ID:kr1tN4ckO
春休みが終わると、ますますニュッの要望に応えるのが難しく思えてきた。
今はともかく、数ヶ月もすれば受験だ何だと忙しくなるのだ。
ニュッのために割く時間など限られてくる。
そのことをモナーに伝えると、モナーも同意見だったらしく、
「そうモナねえ」と声を漏らし、考え始めた。
( ´∀`)「雇うモナか」
(;^ω^)「……そこまでするかお?」
冗談なのか本気なのか。
どうせ前者だろうと内藤は取り合わなかった。
まさか本気だとは思いもしなかったのだ。
.
- 198 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:21:43 ID:kr1tN4ckO
――そうして。
4月10日、夕方。
( ^ω^)「ただいまおー」
ショボンの家から帰宅した内藤は、食堂に向かった。
特に理由はない。ただ単にツンに会いたかっただけである。
だが。
(´・_ゝ・`)「――あ。おかえり」
川д川「おかえりなさい……」
( ^ω^)
食堂には、見知らぬ男女がいた。
男の方は30代、女の方は中学生から高校生くらいに見える。
どちらも、テーブルの上に広げた分厚いノートに何か書き込んでいた。
( ^ω^)「えー……っと。……こんにちは……?」
ドアノブを掴んだまま、中には入らずに挨拶する。
モナーの客だろうか。
今までにも訪ねてくる者は時折いたが、大抵は1階の客間で用事を済ませていた筈。
何故ここにいるのだろう。親戚ではない。と、思う。
- 199 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:25:34 ID:kr1tN4ckO
ξ;゚听)ξ「……あ!」
厨房のドアが開き、ツンが現れる。
ツンは内藤を見るなり、ティーカップと皿をテーブルに置いて
内藤の方へ駆け寄ってきた。
( ^ω^)「お客さんかお?」
ξ;゚听)ξ「違うの! モナーさんが! モナーさんが!」
(;^ω^)「ちょっ……落ち着くお、ツン」
男女を指差し、唾を飛ばさん勢いで喚くツン。
ただ事ではなさそうだ。
内藤が宥めていると、後ろから声がした。
( ´∀`)「おや、ホライゾン、帰ってたモナ?」
( ^ν^)「おかえり」
( ^ω^)「あ、祖父ちゃん……とニュッ君。ただいま」
丁度いい、と言って、モナーは内藤を食堂に押し込んだ。
2冊の本を脇に抱えている。
( ´∀`)「紹介するモナ。
こっちが盛岡デミタス、こっちは山村貞子モナ」
(´・_ゝ・`)「デミタスです。よろしく」
川д川「……貞子ですう……」
- 200 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:27:05 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「はあ、盛岡さんと山村さん、よろしくですお。僕は内藤――」
(´・_ゝ・`)「内藤ホライゾン君でしょ。何で呼んだらいいかな?
ホライゾン君とか、ホライゾンとか、あだ名のブーンとか」
川д川「私はブーンって呼ぶわあ……私のことは好きに呼んで……」
(;^ω^)「え?」
どうしてあだ名まで。
というか、何だ、この人達は。
困惑した内藤がモナーを見遣った。
モナーは何も言わずに、抱えていた本を内藤に差し出す。
赤と黒の2色ずつ。
赤い本に貼られたラベルには、「盛岡デミタス」と「内藤モナー」。
黒い本に貼られたラベルには、「山村貞子」と、やはり「内藤モナー」
内藤の背に、冷たいものが走る。
嫌な予感。
(;^ω^)「……まさか」
( ´∀`)「モナモナ」
( ´∀`)「――ニュッのために、書き手、作ってみたモナ」
#####
- 201 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:29:25 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「……マジかお……」
黒い本を閉じ、内藤は頭を抱えた。
生年月日、現在の身長体重、血液型から何から、びっしりと綴られている。
ツンとは違う点がいくつか見られた。
大きなところを挙げるならば、時間の経過と共に成長することと、
それと――彼らの「死」のタイミングは、モナーではなくニュッ主体に考えられていること。
モナーは内藤から赤と黒の本を受け取ると、ニュッへと持たせた。
( ´∀`)「ニュッのものだから、大切に持ってるモナ」
( ^ν^)「ん」
(;^ω^)(……ニュッ君の『もの』かお)
(´・_ゝ・`)「主にミステリ書くよ。ドーナツとコーヒーが好き」
川д川「主にホラー書きまあす……。お煎餅と焙じ茶が好き……」
(;^ω^)「ああ……そう……」
( ´∀`)「ニュッが、とりあえずミステリとホラーを読みたいって言うから」
頭が痛い。
隣では、私の誕生日なんか決めてくれなかったくせに、とツンが頬を膨らませていた。
そんなことは大した問題ではないと思うのだが。
- 202 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:33:33 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「何で、ツンと違って……あの、成長するようになってるんだお」
( ´∀`)「あいつらとニュッは長い付き合いになるモナ。
それなら第三者との関わりも多くなる筈。
見た目がまったく変化しないなんて、面倒なことになりかねんモナ」
( ´∀`)「とは言っても――あんまり年をとりすぎるのも厄介そうだから、
40歳を超えたら成長のスピードを著しく遅らせるようにはしたモナけど」
ずきずき、頭だけでなく胸まで痛み出した。
デミタスや貞子とは、「長い付き合いになる」。
ツンは――
一度、深呼吸をする。
本をモナーに返し、内藤はニュッの肩を引っ掴んだ。
(;^ω^)「ニュッ君は、これでいいのかお?」
( ^ν^)「……俺は、別に」
(;^ω^)「……」
ちらとデミタス達を見る。
――ツンと同じだ。
仕草や表情に、何の不自然さもない。
たった数百ページの紙の束から生まれたのに、
普通の人間との違いが見当たらないのだ。
- 203 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:36:03 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「……どこに住まわせるんだお。空いてる部屋あったかお?」
( ´∀`)「ああ、それなら大丈夫。
デミタスは……ほら、ミステリ小説をしまってる部屋があるモナ?」
( ^ω^)「ニュッ君の隣の」
( ´∀`)「明日にでも、あそこの本を1階に移して、ベッドやら何やら用意するモナ。
貞子はホラー小説の部屋で。
まあ今夜だけ、デミタスはニュッ君と、貞子はツンと一緒に寝てほしいモナ」
ξ;゚听)ξ「……はあ」
ツンが溜め息をつく。
呆れた、とモナーには聞こえない大きさで零した。
( ´∀`)「同居人が増えるだけモナ。何か問題あるモナ?」
(;^ω^)「問題しかないお!」
内藤が反論すると、モナーはきょとんとした顔で首を傾げた。
心の底から不思議そうだ。
( ´∀`)「どこに?」
(;^ω^)「は?」
( ´∀`)「どこに問題があるモナ」
(;^ω^)「そりゃ、……」
- 204 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:37:08 ID:kr1tN4ckO
答えられなかった。
生活費や諸々にかかる金なんて、モナーからすれば痛くも痒くもない。
デミタスや貞子とは意思の疎通が可能だし、多分、無害である。
人見知りのニュッも、彼らのことは既に受け入れている。
あまりにも酷い考え方ではあるが、「何か」が起きても、
彼らの命そのものである本を燃やしてしまえば簡単に処理出来る。
唯一の問題は、内藤の胸中に溜まる、もやもやとした引っ掛かりだけだ。
(;^ω^)「……」
( ´∀`)「大丈夫モナよ、ホライゾン」
モナーが内藤の背を叩く。
何が大丈夫だというのだ。
問い掛けられず、内藤は口を結んだ。
#####
- 205 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:38:53 ID:kr1tN4ckO
( ゚∋゚)
( ^ω^)
増えた。
デミタス達が来てから一週間が経った日。
作家が増えた。
( ゚∋゚)「堂々クックルだ。よろしく頼む」
(;^ω^)「あ……うん、よろしく……」
( ゚∋゚)「ブーンでいいか?」
(;^ω^)「どうぞ、好きなように……ていうか、大きいね……」
堂々クックルという少年――顔を見るに、内藤より年下だと思われる――が右手を差し出した。
少し迷って、内藤が握り返す。
大きい手だ。指も太い。その気になれば、内藤の手を潰せそうである。
- 206 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:40:32 ID:kr1tN4ckO
( ´∀`)「現時点で14歳の設定だから、これから先、もっと大きくなると思うモナ」
(;´・_ゝ・`)「14歳の体つきじゃないでしょ、これ……」
川д川「わあ……腕とか硬い……」
ξ゚听)ξ「で、クックルはどんなの書くの?」
( ^ν^)「恋愛小説だって」
(;^ω^)ξ;゚听)ξ「このナリで!?」
( ´∀`)「ちなみにチョコレートとミルクティーが好きモナ」
(;^ω^)ξ;゚听)ξ「このナリで!!?」
#####
- 207 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:42:47 ID:kr1tN4ckO
(´・ω・`)「――賑やかでいいじゃない」
(;^ω^)「たしかに、みんな悪くない……つうか寧ろいい人達ばかりだし……。
ニュッ君も満足してるみたいだけど」
5月になった。
夕方、内藤とショボンは、内藤家へ向かう林の中を歩いていた。
作家達のことを聞いたショボンが、会いたいと言い出したのだ。
(;^ω^)「でも! いきなり3人は増えすぎじゃないかお!?
料理の量が変わってツンは困るしお風呂のタイミングも掴みづらいし!」
(´・ω・`)「嫌なことしかないわけ?」
(;^ω^)「……話し相手増えたし、みんなでゲームとかすると楽しいお。
あと……みんなの書く小説、ニュッ君から貸してもらうけど、結構面白いお」
(´・ω・`)「じゃあ、いいじゃん」
(;^ω^)「けど、何か、何か……納得いかないお……」
- 208 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:46:07 ID:kr1tN4ckO
玄関の扉を開ける。
ショボンに向けていた顔を前方に正し――
(*゚ー゚)「おかえり!」
(#゚;;-゚)ノ
( ^ω^)
――扉を閉めた。
何だか、少女が2人いた気がする。
(´・ω・`)「誰? どっちが貞子さん?」
(;^ω^)「知らないお……どっちも知らないお……!」
『何で閉めるのさ! 開けろー!』
(´・ω・`)「開けろって言ってるけど」
(;^ω^)「あああああっ、あのジジイイイイイイ!!」
怒鳴り、把手を勢いよく引く。
目の錯覚を期待したが、やはり、先程の少女達は消えることなくそこにいた。
- 209 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:48:03 ID:kr1tN4ckO
どちらも高校生くらい。
片方は妙に露出が激しく、もう片方は逆に丈の長い服をしっかり着込んでいる。
(*゚ー゚)「待ってたよブーン!」
ヽ(#゚;;-゚)ノ
(;^ω^)「……君達も『作家』かお……」
(*゚ー゚)「おうともさ。私は椎出しぃ、こっちは椎出でぃ!
双子だよー。でぃちゃんの方が姉ね」
椎出しぃに、椎出でぃ。
内藤は、でぃから視線を外した。
顔に、いくつも傷跡がある。
作家は怪我をしてもすぐ治る筈だし、痕があまり新しくないので、
そういう設定なのだろう。
(*゚ー゚)「SF書くのが好き! ゼリーと100%のりんごジュースが好き!
でぃちゃんは家族もの書くのが好きで、マシュマロとココアが好きだ!」
(;^ω^)(うるさい子だお……)
やたら元気いっぱいだ。
今までの作家は、みんな、どちらかといえば物静かな方だったのに。
- 210 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:50:30 ID:kr1tN4ckO
(#゚;;-゚)σ
(*゚ー゚)「お。『そっちの人は誰?』ってさ」
無言でショボンを指差すでぃ。
その動作の意味をしぃが解説した。
でぃはでぃで、静かすぎる。
(´・ω・`)「遮木ショボンです。よろしく」
(*゚ー゚)「おう、よろしくよろしく」
しぃが、にこにこしながら歩み寄ってきた。
その後をでぃがついてくる。
( ^ω^)「しぃちゃん――」
(*゚ー゚)「呼び捨てでいいよ。今日から家族だし、遠慮しないでね!」
( ^ω^)
(´・ω・`)
――とても気さくに、股間を掴まれた。
掴まれるに留まらず、揉みしだかれた。
.
- 213 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:52:04 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「こいつ何なんだおぉおおおおおお!!?」
2階、食堂。
内藤は、モナーの前にしぃを突き出した。
デミタスとクックルが、何か察したような顔で苦笑している。
( ´∀`)「何を怒ってるモナ」
(*゚ー゚)「挨拶代わりにセクハラしただけなのに……」
(;^ω^)「こいつのキャラづけ、どうなってんだお!?」
( ´∀`)「……ああ。ホライゾン、喜ぶかと思って」
(;^ω^)「どこに気遣ってんの!?
そりゃあ、色っぽい感じだったら僕だって大歓迎だけど!
こんなん、中身おっさんじゃねえかお!!」
川д川「……色っぽければ大歓迎ですって……」
ξ゚听)ξ「最低」
(;^ω^)「いや、ちょっ……」
(´・ω・`)「しぃの本燃やしちゃえば?」
(;゚;;-゚)そ
(*゚ー゚)「やだショボン残虐」
- 215 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:54:39 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「……そ、それに、ニュッ君の教育に悪いお!!」
(*゚ー゚)「大丈夫、ニュッちゃんが思春期を迎えて頭の中がエロいことだらけになるまで
セクハラは我慢するから!」
(;^ω^)「思春期になっても駄目!!」
川д川「……ニュッ君に思春期来ると思う……?」
(´・_ゝ・`)「ううーん、既に小学生とは思えない落ち着きっぷりだしなあ……」
(;゚∋゚)「そこは真剣に議論するところか?」
(;^ω^)(まともなのはクックルだけ……)
( ´∀`)「まあまあ、こんな奴がいた方が、面白いとは思わないモナ?」
(;^ω^)「……面白いって」
脱力した。
ニュッが帰ってきたら、しぃにはなるべく近付かないように言っておかなければ。
#####
- 216 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:57:13 ID:kr1tN4ckO
5月下旬。
(メ#)ν^)
(;゚ω゚)
ξ;゚听)ξ
(´・ω・`)「わお」
この日の夕方、ニュッの通う小学校からモナーに呼び出しがかかった。
一体何事かと内藤がはらはらしながら待つこと小一時間。
遊びに来ていたショボンに「落ち着け」とぶん殴られたのとほぼ同時に
モナーとニュッは帰宅した。
ニュッの顔を見て、内藤とツンは愕然とする。
頬が腫れ、痣が出来ていたのだ。
- 217 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 21:58:19 ID:kr1tN4ckO
(;゚ω゚)「ニュッくぅうううん!?」
ξ;゚听)ξ「なっ、何があったの!?」
( ´∀`)「クラスメートと喧嘩したらしいモナ」
(*゚ー゚)「ニュッちゃーん、新作が出来……ほぎゃあああああああ!!」
タイミング良く、あるいはタイミング悪く現れたしぃが、ニュッを見るなり絶叫する。
その声に駆けつけたデミタスはぎょっとして、
急いで近くの棚から救急箱を引っ張り出した。
ツンがデミタスから救急箱を受け取り、ニュッの手当てを始める。
ξ;゚听)ξ「喧嘩って、何で?」
(メ#)ν^)「……」
(;´・_ゝ・`)「ニュッ君」
(*゚ー゚)「乳派か尻派で揉めたの? どっちも揉むの楽しいけど」
(´・ω・`)「お前は黙れ」
(*゚ー゚)「ショボンどっち派?」
(´・ω・`)「尻」
- 218 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:00:51 ID:kr1tN4ckO
何も答えないニュッ。
モナーがニュッからランドセルを奪い、その中から2冊の本を取り出した。
( ´∀`)「これが原因らしいモナ」
( ^ω^)「お……」
赤色と藤色。
デミタスとでぃの新作だ。
2冊共、泥で汚れている。
( ´∀`)「クラスメートに本を捨てられそうになって、
取り返すために喧嘩になった……ってところモナね」
(;^ω^)「相手は何人だったんだお?」
ニュッは俯き、右手の指を立てた。
3本。
(*゚ー゚)「ニュッちゃん、その3人の名前教えてごらん。
大丈夫、ちょっと貞子に怖い話書いてもらって、そいつらに演じさせるだけだから」
(;´・_ゝ・`)「こらこら」
(*゚ー゚)「3人がかりでニュッちゃんに怪我させて、でぃちゃんの本汚したんだぜ。
やるしかなかろう」
- 219 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:05:02 ID:kr1tN4ckO
ξ;゚听)ξ「……何で、ニュッ君、そんなことされたの?」
ツンが恐々問い掛ける。
ニュッは、やはり答えない。
内藤の中で嫌な想像が膨らんだ。
(´・ω・`)「ニュッ君いじめられてんの?」
(;^ω^)「オブラート! ショボン君オブラート!!」
こいつ、どうしようもない。
とはいえショボンの言葉は内藤の予想と同じである。
ニュッから学校の友達に関する話題が出たことはない。
もしかして――いじめにでも遭っているのではないか。
しかしニュッは、それを否定した。
(メ#)ν^)「……初めは、からかわれただけだった」
――いじめというほどではないものの、
度々、両親がいないことをクラスメートの一部から冷やかされていたそうだ。
相手をするべきではないとニュッは無視していたのだが、
どうやら向こうは、つまらなくて仕方なかったらしい。
- 220 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:09:04 ID:kr1tN4ckO
(´・ω・`)「それで本を取った、ってわけか。
あのねニュッ君、無反応を貫くのはいいことだけど、
相手によっては、ますます調子に乗らせるだけの場合もあるんだよ」
(メ#)ν^)「……じゃあ、どうすりゃいいの」
(´・ω・`)「お兄さんが魔法の呪文を教えてあげよう。
ニュッ君お得意の見下しきった目で、『死ね』って言えばいいんだよ。
リピートアフターミー、『死ね』」
(;メ#)ν^)「し、しね?」
(´・ω・`)「そうそう。何を言われても何をされても『死ね』って一言だけ返し続けてごらん。
気味悪がって近付いてこなくなる。かも」
(;メ#)ν^)「しね……」
( ^ω^)「うちの子に変な入れ知恵しないでくださる?」
( ´∀`)「――まあ、放っといても、もう意地悪されなくなるんじゃないモナ?」
ξ;゚听)ξ「何で言い切れるのよ」
( ´∀`)「ニュッの奴、執拗に人体の急所を狙って攻撃したらしいから。
ぶっちゃけ、あっちの方が被害は上」
(*゚ー゚)「うわあ陰湿」
(;´・_ゝ・`)「転んでもただでは起きないね、ニュッ君……」
- 221 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:10:39 ID:kr1tN4ckO
それだけじゃ足りないけどね、と憤るしぃをデミタスが宥める。
2人を眺めた後、内藤は目を伏せた。
ニュッが喧嘩をするなど、初めてだ。
――それほど、大事なのだろう。「作家」達の本が。
彼らがいなくてはならないのだ。
( ^ω^)(……)
羨ましい。
ニュッが望む限り、デミタスやしぃ達は彼の傍にいる。
けれど――内藤がどんなに望んだって。
ツンは、モナーと共に、いなくなる。
.
- 223 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:13:18 ID:kr1tN4ckO
日曜日、昼。
昼食の時間だというツンの号令に、住人達が続々と部屋を出たときのこと。
( ´∀`)「ニュッ」
( ^ν^)「?」
ニュッを呼び止めたモナー。
彼の後ろから、少年がこっそりと顔を覗かせた。
(*・∀・)
モナーに背を叩かれ、おずおずもじもじしながらニュッの前に出る。
ニュッと同じ年頃。
幼く、可愛らしい顔立ちをしている。憎らしいほど将来有望だ。
着物姿なのが気になるが。
( ´∀`)「茂等モララー。新しい作家モナ」
(;^ω^)「さっ……」
ξ;゚听)ξ「作家!? 子供じゃない!」
( ´∀`)「能力はデミタス達と変わらないモナよ」
- 225 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:17:27 ID:kr1tN4ckO
(;゚∋゚)「……見た目だけとはいえ、子供と同レベルなのか、俺達」
川д川「何か複雑ねえ……」
(*゚ー゚)「私やでぃちゃんからすりゃ、クックルだって子供だし」
(#゚;;-゚)) コクコク
(´・_ゝ・`)「僕に比べればみんな子供だよ」
(*・∀・)「にゅ、ニュッ君、よろしくね」
(;^ν^)「ん……」
ニュッも、新顔の幼さに動揺しているようである。
茂等モララーはニュッの手を握り、ぶんぶん上下に振った。
並んで立つと、モララーの方が少しばかり背が高い。
(*・∀・)「あのね、あのね、俺ね、大福とお茶とね、時代小説が好きだよ!
ニュッ君は何が好き?」
(;^ν^)
(*・∀・)「ねえねえニュッ君、どんな話が好きなの? 俺頑張って書くよ!
面白いの書けるように頑張る!
もし面白くなくても、はっきり言わないでね! 泣くから!」
ああ、駄目だ。
ニュッが絡みづらいタイプの人種だ。
- 229 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:21:38 ID:kr1tN4ckO
(*・∀・)「俺ね、暗い話より明るい話の方がいいなあ。
でもたまには暗いのも書くかも。どっちも読んでよね!
あ、時代小説は、ちゃんばらと日常、どっちがいい? ねえねえ――」
(;^ν^)「えっと」
「おじいちゃん! モウ出てもいいデスか、ワタシもニュッ君会いたいデス!」
(;^ω^)「ん?」
また聞き慣れぬ声がした――かと思うと。
ハハ*ロ -ロ)ハ「ニュッくーん!」
(;^ν^)「んぎゃっ!」
モナーの部屋から飛び出してきた少女が、ニュッにタックルをかました。
倒れそうになったニュッをクックルが支える。
硬直するニュッに、少女はぎゅうぎゅうしがみついた。
- 230 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:24:36 ID:kr1tN4ckO
ハハ*ロ -ロ)ハ「ハロー・サンっていいマス! サスペンス書きマスヨ! ヨロシクー!」
ξ*゚听)ξ「あらまあ」
(;*^ν^)「ちょ、ちょっと……!」
ニュッの頬に何度も唇を押しつけている。
彼女もまたニュッと同年代のようなので、端から見る分には子供同士のじゃれ合いだ。
可愛いね、とデミタスが呟く。
ハロー・サンと名乗った少女は、ニュッを支えているクックルの鼻先にもキスをした。
(*・∀・) ドキドキ
ハハ ロ -ロ)ハ「イヤ、モララーにはしませんヨ」
( ;∀;)「酷い!!」
( ´∀`)「モララーもハローも、ニュッと同い年にしたモナ。
遊び相手になれればいいかと思って」
(;^ω^)「……そうかお」
廊下を見渡す。
空いている部屋は2つのみ。
それも、モララーとハローで埋まる。
4人だった住人が、11人にまで増えてしまった。
内藤は、後で写真でも撮るかと提案しているモナーの声を聞きながら
痛む頭を押さえ、溜め息を飲み込んだ。
#####
- 232 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:27:06 ID:kr1tN4ckO
人間、時間が経てば何事にも慣れるもので。
ご多分に漏れず、内藤も、作家達との生活に順応してきた。
( ^ω^)「お前らー、団子食うかお団子ー」
(*・∀・)「食べる!」
( ^ω^)「みたらしと、あんこと、ええと……ゴマがあるお」
(;・∀・)「やった、あんこ……あっ、ちょっニュッ君タンマタンマ!
待ってってば――あーっ! 俺のキャラやられた!」
川д川「他所見するからよ……ブーン、熱い焙じ茶もちょうだい……」
( ^ω^)「冷たい麦茶で我慢してくれおー」
ハハ*ロ -ロ)ハ「おダンゴー」
暑さも収まり始めた9月。
リビングでテレビゲームをしていたニュッとモララー、ハロー、貞子の4人に
おやつを差し入れ、ついでに自分も混ざろうと内藤はニュッの隣に座った。
- 234 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:29:06 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「みたらし4、あんこ3、ゴマ3で10本あるから、1人2本までだお」
( ・∀・)「えー。みたらしもあんこもゴマも食べたいよ」
川д川「私の分いる……? 私は一本だけでいいわあ……」
(*・∀・)「ほんと!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「それならワタシだって3つ食べたい!」
( ・∀・)「むっ。じゃあゲームで勝負だハロー!」
ハハ ロ -ロ)ハ「望むところデス」
( ^ω^)「おっおっお、なら僕も争奪戦に加わらせてもらおうか」
(;・∀・)「やだよ、ブーン容赦しないじゃん」
ハハ ロ -ロ)ハ「大人げナーイ」
( ^ν^)「兄ちゃん、勉強しなくていいの?」
( ^ω^)「12月から本気出す」
ハハ ロ -ロ)ハ「遅ッ」
川д川「絶対泣きを見るわね……」
空いているコントローラーを手に取り、身を乗り出させる。
――ふと、視線を感じた。
振り返る。
ドア|*゚听)ξ
( ^ω^)「……お?」
ツンがドアの陰からこちらを覗いていた。
顔だけが出たり入ったりを繰り返している。
- 236 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:34:25 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「ツン?」
ドア|*゚听)ξ「にゅ、ニュッ君……あの、あのう……わ、私が書いたやつ、あの……」
もごもご、何か言っている。
ニュッは「ああ」と頷いて、近くにあった椅子の上へ手を伸ばした。
そこには、本が一冊。
白地のハードカバーに施された、金色の装飾。
一瞬、ぎくりとした。
ツンを生み出したものと同じ外装のノートだったからだ。
モナーが管理している筈の本が何故ここに、と動揺した内藤だったが、
表紙を見て、肩透かしを喰らったような気分になった。
幻想的なタイトルに、下にはツンの名前。
どうやら、ツンもニュッのために小説を書いたらしい。
ξ;*゚听)ξ「よっ、読んだ!? どうだった!?」
顔を真っ赤にさせて、つかつか、ツンが歩み寄る。
ニュッの傍まで来ると、その場に正座した。
- 237 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:36:37 ID:kr1tN4ckO
( ^ν^)「……」
ξ;*゚听)ξ「……しょ、正直に言って……」
( ^ν^)「……」
( ^ν^)「あんまり」
ξ;* )ξそ ガーンッ
( ^ν^)「いや、内容じゃなくて……文章が、あんまり」
ξ;* )ξそ ガガーンッ
(;^ω^)「ニュッ君……」
俯き、ぷるぷると震えるツン。
可哀想になってきて、内藤はツンの肩に触れようとした。
直後。
( ^ν^)「……ていうか、ツン、結構――思考が乙女だよな」
ξ;* )ξ
ξ;* Д )ξ「もぎゃばぁあああああああああああ!!?」
謎の奇声を発し、ツンはニュッから本を奪い取った。
わけの分からない叫びを一頻りあげて、リビングを飛び出していく。
- 238 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:39:22 ID:kr1tN4ckO
残された面々は唖然とし、互いを見合った。
( ^ν^)「……でも話は面白いって言おうと思ってたんだけど」
川д川「……あの恥ずかしがり屋に、『乙女』は駄目よニュッ君……」
( ;∀;)
ハハ ロ -ロ)ハ「ビックリしたダケで泣かないでクダサイ、モララー」
(;^ω^)「……ちょっと、行ってくるお」
内藤が我に返る。
フォローした方がいいだろう。
彼は、ツンの取り乱しっぷりの余韻が未だ残っているリビングから出た。
.
- 239 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:41:25 ID:kr1tN4ckO
2階に行くと、廊下の隅っこにツンが蹲っていた。
そっと近付き、肩を叩く。
ξ;*゚听)ξ「ぎゃっ!」
(;^ω^)「ツン、話は面白かったって言ってたお、ニュッ君」
ξ;*゚听)ξ「……うっ、嘘よ。こ、こっ、こんな、……お、乙女な話……」
(;^ω^)「乙女なのは悪いことじゃないお」
ξ;*゚ -゚)ξ「……ううう……」
ツンが顔を伏せる。
その隙に、内藤はツンの手から本を抜き取った。
ξ;*゚听)ξ「あっ――こら! み、見ないでよ!」
( ^ω^)「僕もツンが書いた話読みたいお」
ξ;*゚听)ξ「駄目! ブーンだけは駄目ぇええええ!!」
(;^ω^)「何で僕だけ……? いいじゃないかお、ちょっとぐらい」
ξ;*゚听)ξ「やだやだやだ、駄目、返せ!!」
(*^ω^)「おっおっお、ツン可愛いお。
そういう反応されてもからかいたくなるだけだお」
ξ;*゚听)ξ「この馬鹿ぁあああっ!!」
- 240 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:42:45 ID:kr1tN4ckO
ツンから逃げ回りながら本を開く。
なるほど、ニュッの言うように、文章は然程上手くない。
作家達と違って、ツンには小説を書くというスキルは与えられていないのだ。
慣れていなくても仕方あるまい。
しかし読めないほどでもないし、ストーリー自体は面白い。
( ^ω^)「おー。ファンタジーかお。絵本みたいな世界だおね」
ξ;*゚听)ξ「お願いだからストーリーを深く考えないで!
何も考えずに流し読みして!!」
(;゚∋゚)「……何してんだ、お前ら」
(*゚ー゚)「2人共いちゃいちゃしてんじゃねえぞ、こちとら執筆中じゃい!」
(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「ほら、でぃちゃんもお怒りだ!」
(;´・_ゝ・`)「どうし――うわっ!」
(;゚ω゚)「エラリーッ!!」
騒がしさに耐えかねてか、作家達が次から次へと部屋から出てきた。
丁度デミタスが開けたドアに、内藤が顔面から激突する。
- 241 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:44:34 ID:kr1tN4ckO
倒れ込んだ内藤。本が宙を舞い、廊下に落ちる。
それを拾い上げる者がいた。
( ´∀`)「何モナ、これは」
ξ;*゚听)ξ「あ……」
モナーが、まじまじと表紙を眺める。
続いて中身に軽く目を通し、ふむ、と唸った。
( ´∀`)「……日記を書くからノートください、って言ったくせに、
書いたのは小説だったモナ?」
ξ;*゚听)ξ「う。……だっ、だって、小説書くって言ったら、モナーさん冷やかすでしょ」
(*゚ー゚)「おう、ツンも小説書いたん? 見せて見せて」
ξ;*゚听)ξ「絶対嫌! ――モナーさん、返……」
( ´∀`)「折角モナ、暇潰しに読ませてもらうモナよ」
ξ;*゚Д゚)ξ「なっ……! か、返してってば!! ねえ!」
ツンの叫びも虚しく、モナーはドアを閉めた。
か細い呻き声が廊下に落ちる。
そして、これ以上はないほど顔を真っ赤にさせたツンが、震えながら内藤に振り返った。
半泣きだ。
- 242 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:45:31 ID:kr1tN4ckO
ξ;*///)ξ「……っ、……っ!!」
(;^ω^)「……僕は悪くないお……」
(´・_ゝ・`)「ブーンが悪いと思うなあ……ていうか鼻大丈夫? 思いっきりぶつけてたけど」
( ゚∋゚)「まあ事情はさっぱり分からないが、ブーンが悪いな」
(*゚ー゚)「ブーンが悪い」
(#゚;;-゚)) コクン
(;^ω^)「薄情者ぉおおおお!!」
――その日、ツンの凄まじい怒鳴り声が屋敷中に轟いたという。
#####
- 244 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:47:18 ID:kr1tN4ckO
それから翌年の春、内藤は大学へ進む。
ショボンはある探偵会社の調査員として就職した。
適当に探偵業を学んだら独立するつもりらしい。
「作家」達の個性――執筆ペースや作風――にも顕著に差が現れ、
ますます人間らしくなっていき。
彼らの日常は賑やかさを増していく。
――そして時は過ぎ行き、2002年。6月。
内藤の母方の祖父母が亡くなった。
祖父が病院で息を引き取ってから間もなく、
後を追うように、祖母も心筋梗塞で眠りについたとのことだった。
.
- 245 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:50:50 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「――何してるんだお?」
内藤とモナーが葬式から帰った翌日。
家の裏手で、モナーは数十冊もの本をまとめて燃やしていた。
( ´∀`)「本を、殺してるんだモナ」
物騒な言い様に、内藤は顔を顰めた。
命を与えられた本は、燃え尽きない限り死なないのだという。
ならば、たしかにこの状況は本を「殺している」と言っても差し支えないだろうが、
それにしたって――乱暴に過ぎる。
( ´∀`)「ああ、これは全部市販の本モナ。
『あいつら』が書いた本の内で生きてるものは、
いつか殺すべきだと思ったときに殺しておいてほしいモナ」
( ^ω^)「……分かったお」
モナーは、デミタスら「作家」の作品においても、
気に入ったものがあれば命を与えていた。
何のために本に命をやるのだろう。
生活に役立てたり、ツン達のような家族を増やしたりするためならまだしも、
普通の本を生かす意味が分からない。
定期的に演じてやらねばならないし、面倒なだけではないか。
- 247 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:54:36 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「……、……」
問い掛けようとして、あることに気付いた。
作家達に対して、初めの頃に抱いていた抵抗感。
てっきり、本から生まれた彼らを恐れているのだと思っていた。
だが、違う。
その存在の――「軽さ」に、何とも言えぬ不愉快さを感じていたのだ。
( ^ω^)「……祖父ちゃん」
( ´∀`)「何モナ」
モナーは、昇っていく煙をじっと見つめている。
あの火の中に、たった一冊、ノートを投げ込めば。
作家は死ぬ。
逆に、紙の束にインクを乗せて、モナーが手を触れさせれば、新たに誰かが誕生する。
ひどく単純で、手軽な命。
- 248 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:56:38 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「何で、本を生き物にしたがるんだお」
真昼の空に、煙が溶けていく。
本も熱がるのだろうか。
彼らの声は聞こえない。
( ´∀`)「……そうモナねえ」
モナーが額に浮かぶ汗を拭い、少し、火の傍を離れた。
( ´∀`)「寂しかったモナ」
( ^ω^)「……寂しい?」
( ´∀`)「僕は人が嫌いだったけれど、そのくせ、寂しがり屋だったモナ」
ぱちぱち。
爆ぜるような音が響く。
もしかしたら、これが本の悲鳴なのかもしれない。
( ´∀`)「気を紛らわすのに、うってつけだったモナ。
喋らないけれど、意思はある。僕の傍にいてくれる」
( ´∀`)「たまに演じてやるのも、
大好きな本の我が儘を聞いていると考えれば苦じゃなかったモナ」
( ^ω^)「そういうもんかお」
( ´∀`)「そういうもんモナ」
- 249 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:57:49 ID:kr1tN4ckO
炎の勢いが徐々に弱まり出した。
あと何分かで、本は完全に死ぬ。
( ´∀`)「……ちょくちょく用済みになったノートを燃やすことはあったモナが、
こうやってたくさんの本をまとめて殺すのは、これで二度目モナ」
( ^ω^)「一度目は?」
( ´∀`)「妻と、結婚したときモナ」
何十年も前、孤独から解放されたモナーは
もう本に慰められることもないのだと、「彼ら」を殺した。
けれど。
( ´∀`)「けど、あいつ、随分早く死にやがったモナ」
また、独りになって。
寂しくて、再び本に命を与えるようになったという。
( ^ω^)「ツンを作るだけじゃ足りなかったのかお」
( ´∀`)「足りなかったモナ」
自嘲の色を滲ませて笑い、モナーは視線を落とした。
煙を吸い込んだのか、何度も咳をする。
大丈夫かと内藤が声をかけようとした瞬間に顔を上げた。
- 250 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 22:59:38 ID:kr1tN4ckO
( ´∀`)「先に死ぬ方は、いいモナね」
( ^ω^)「お?」
( ´∀`)「残される立場に比べたら、ずっとずっと楽モナ」
頭上で、クックルの声がした。
2階の窓からクックルとニュッがこちらを見下ろしている。
余分な本を燃やしているのだとモナーが返すと、2人は納得したように頷いた。
興味がそそられたのだろう、そのまま、火が揺らめく様を目で追っている。
( ´∀`)「大事な人に先立たれるくらいなら、一緒に死んでしまった方がマシだモナ。
――ホライゾンも、そうは思わなかったモナか」
( ^ω^)「……まあ。初めは」
( ´∀`)「そうモナ。どうせ死ぬなら同時がいい。それが一番楽で寂しくないモナ」
( ´∀`)「けど、なかなか上手くはいかないモナね。
妻は僕なんか置いてさっさと死ぬし、
僕は自殺する勇気もなくて、こうしてのうのうと生き長らえてるモナ」
( ´∀`)「だから――せめて、本とだけは、一緒に死にたかったモナ。
妻が僕を道連れにしてくれなかった腹いせに、僕は本を道連れにするんだモナ」
内藤は、こっそりとクックル達を見上げた。
彼らには聞こえていないようだ。
- 251 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:01:23 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「それで、ツンは祖父ちゃんと一緒に死ぬことになってるのかお」
( ´∀`)「そういうことモナ」
( ^ω^)「……でも、今燃やしてる本達は何なんだお。先に殺してるけど」
( ´∀`)「本当は、僕が死んだら火葬するときに一緒に燃やさせるつもりだったモナ」
( ´∀`)「でも、よくよく考えてみると、結構高価な本も混じってるんだモナ。
下手すりゃ、馬鹿娘と馬鹿息子が僕の言いつけを守らずに
勝手に本を売り飛ばしてしまいそうな気がして」
( ^ω^)「……ああ。なるほど」
たしかに、あの伯父と伯母なら有り得る。
しかし、どうして今、このタイミングで燃やす必要があるのか。
気にはなったが、結局、内藤は訊けなかった。
答えを聞くのが恐かったのだ。
自分の死期を察していたのであろうモナーの答えが。
( ^ω^)「――デミタス達がニュッ君と同時に死ぬっていうのも、やっぱり」
( ´∀`)「ニュッが死んで、あいつらだけ残るってのも、可哀想モナ。
逆も然り」
今更分かったが、モナーは、物凄く甘い。
自分にも他人にも甘すぎる。
それほど、孤独に対する恐怖が強いのだろう。
- 252 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:03:34 ID:kr1tN4ckO
( ´∀`)「ああ、そうそう」
( ^ω^)「?」
( ´∀`)「あいつら、ツン以外は、みんな子供作れる体だから。
もし、貞子かハローか、しぃ、でぃの誰かとニュッ君が恋に落ちても問題なし。
オールオッケー」
( ^ω^)
( ^ω^)「え、何言ってんの?」
どこがオールオッケーだ。
( ´∀`)「戸籍やら何やらは後からどうとでもなるし。
あいつらが結婚したいとか言い出したら、ホライゾン、サポート頼むモナ」
(;^ω^)「いやいやいやいやいや……ええー? ていうか本当に子供出来んの?」
( ´∀`)「多分」
(;^ω^)「多分かあ……」
火は、初めの勢いを失っていた。
本の命のように。
少しずつ、消えていく。
内藤とモナーが2人きりでこんなに話したのは、初めてだった。
初めてで――最後でもあった。
*****
- 257 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:17:40 ID:kr1tN4ckO
ζ(゚、゚*ζ
( ^ω^)
静寂。
デレも、内藤も、感情の窺えぬ瞳で互いを見つめた。
先に口を開いたのは内藤。
( ^ω^)「恐いかお」
――いいえ、と答えるデレの声は、掠れていた。
デレは咳をして、紅茶を一口飲む。
( ^ω^)「気を遣わなくていいお」
ζ(゚、゚*ζ「恐くないです。本当に……」
( ^ω^)「……だって、普通じゃないんだお」
ζ(゚、゚*ζ「今更ですし――
なら、当時の内藤さんは、逃げ出したいくらい恐かったんですか?」
( ^ω^)「――……」
- 258 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:19:33 ID:kr1tN4ckO
本当に、恐くなどないのだ。
内藤がツンを嫌いになれなかったように、デレも、彼らを嫌いになれなかった。
驚きはしたが、覚悟は出来ていたし、予想もついていた。
――寧ろ。
どうして、話し出す前の内藤があんなに怯えていたのかが、不可解で仕方なかった。
.
- 259 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:22:47 ID:kr1tN4ckO
ζ(゚、゚*ζ「……内藤さん」
( ^ω^)「……どうしたお」
ζ(゚、゚*ζ「もっと何か、別の話があるんじゃないですか」
ノートを閉じる。
物語は、ノートの途中、祖父が亡くなるところで終わった。
ζ(゚、゚*ζ「内藤さんが話したくないことって、別のことじゃないんですか?」
内藤の口元が、一瞬だけ引き攣った。
彼の細い目が僅かに見開かれる。
( ^ω^)「……やだデレちゃんったら。頭良くないくせに変なとこ鋭いんだから」
ζ(゚、゚;ζ「む」
嫌味ったらしい。
図星のようだ。
話してくれませんかとデレが言うと、内藤は唸り、顎に手をやった。
- 260 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:25:06 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「……そこまで言うんなら、最後の最後まで聞いてくれるのかお」
ζ(゚、゚*ζ「聞きますってば。しつこいですね、内藤さん」
( ^ω^)「……」
(;^ω^)「――、う、っ……」
出し抜けに内藤は口元を押さえ、ベッドから下りた。
部屋の隅へと這いずり、そこにあったごみ箱に顔を向ける。
ぐう、と彼の喉から音がしたかと思うと、大きく開いた口から物が溢れ出た。
(; ω )「おえっ……」
ζ(゚、゚;ζ「なっ、内藤さん!?」
デレは慌てて椅子から立ち上がり、内藤に駆け寄った。
小刻みに震える背中を撫でる。
先程食べたばかりのサンドイッチの具材が、原型を留めたままごみ箱へと落ちていく。
- 261 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:28:03 ID:kr1tN4ckO
ζ(゚、゚;ζ「大丈夫ですか!? ……つ、ツンちゃん呼んできます!」
(; ω )「デレちゃん!」
ζ(゚、゚;ζ「っ」
(; ω )「……待ってくれお……」
内藤の手がデレの腕を掴んだ。
痛むほどに、力が込められる。
(; ω )「大丈夫だから……。……すぐ、終わる話だお……。
真実とか、関係なく――ただの、僕の懺悔みたいなもんだお……」
ζ(゚、゚;ζ「……内藤さん……」
デレはその場に座り込んで、ポケットから出したハンカチで内藤の脂汗を拭った。
内藤が小声で礼をし、ベッドに転がした紅茶を取るようデレに頼む。
デレからペットボトルを受け取って、内藤は中身を一気に飲み干した。
( ω )「――僕は、最低だお」
ζ(゚、゚;ζ「……どうして?」
( ω )「……。ここからは君も知ってる話だおね。
本が勿体ないから図書館を開こうって僕が提案して、準備も進んで、
――祖父が、急死したお」
*****
- 262 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:30:22 ID:kr1tN4ckO
内藤とモナーが死にゆく本を前に会話を交わした日から、一年後。
2003年、6月。
よりによって、その日、その時間、モナーとツン以外の人間は外出していた。
.
- 263 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:32:51 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「――……え」
(;゚∋゚)「……モナーさん!?」
道中で合流したクックルと共に帰宅した内藤は、目の前の光景に、思考を止めた。
廊下の真ん中。
倒れるモナーと、その傍で膝をついているニュッ。
モナーの顔の辺りには、赤黒い汚れ。
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
食堂の方からツンが駆けてくる。
顔が真っ青だ。
( ^ω^)「……何だお、これ」
ξ;゚听)ξ「モナーさんが急に血を吐いて――今、救急車呼んだわ!
私、救急車待たなきゃ……」
(;゚∋゚)「俺が行く」
ξ;゚听)ξ「あ……お、お願い。すぐ来るから」
(;゚∋゚)「ああ」
クックルが、上がったばかりの階段を駆け下りる。
ツンは慌ててモナーとニュッのもとに向かった。
ゆっくりと、内藤も彼らに近付いていく。
- 264 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:34:38 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「祖父ちゃん」
( ∀ )
声は、返ってこなかった。
目を凝らしてみたが、モナーの体は、どこも微動だにしない。
( ^ν^)「……もう」
ξ;゚听)ξ「だ、……大丈夫に決まってるでしょ!?
だって――私、まだ生きてるもの……」
ニュッも、何が起きているのかよく分かっていないらしかった。
どこか、ぼうっとした顔で、モナーを見下ろしている。
モナーの顔や絨毯を染めている血。
ツンが言ったことが真実なら、彼が吐いたもの。
( ^ω^)「……?」
――モナーの顔の傍に、本が落ちている。
そして右手にはペン。
何だろうと手を伸ばしかけたが、むせ返るような血の臭いに、内藤は顔を逸らした。
これは、現実の臭いだろうか。
それとも、錯覚の。
次第に強くなる臭いに涙さえ浮かび始めた頃、遠くで、救急車のサイレンが聞こえた。
#####
- 265 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:36:52 ID:kr1tN4ckO
――結局、病院まで運ばれたものの、モナーの心臓は既に動きを止めていた。
後から分かることだが、彼は何年も前から肺を患っていたのだそうだ。
だというのに、ろくに病院に通わずにいたせいで、今回のような事態に至ったらしい。
( ^ω^)「……」
(*;−;)
(;゚;;-゚)
(´‐_ゝ‐`)
――内藤家、兼、図書館。
1階。
椅子の背もたれにぐったりと身を預け、内藤は本棚を見つめていた。
2階では、伯母達が慌ただしく葬儀などの手配をしている。
作家のことは居候だと説明しておいた。
- 266 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:40:04 ID:kr1tN4ckO
( ;∀;)「う、うあ……」
ハハ。ロ -ロ)ハ「……おじいちゃん」
川д川「……お茶、入れてきたわ……」
( ゚∋゚)「ああ、ありがとう、貞子」
カウンターの奥のドアを開け、貞子がやって来る。
皆に湯飲み茶碗を渡し、椅子に腰を下ろした。
しぃやモララー、ハローの泣く声が響く。
内藤は、奥のテーブルへ目をやった。
ξ゚听)ξ
( ^ν^)
ツンとニュッが向かい合って座り、テーブルの上に広げた本を凝視している。
モナーの傍に落ちていた本。
――ツンを作り出した本。
内藤は湯飲みをテーブルに置くと、ツン達のもとへ行った。
- 267 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:42:05 ID:kr1tN4ckO
( ^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「あ……」
( ^ω^)「何か分かったかお?」
ξ;゚听)ξ「ううん……染みが酷くて、何も」
モナーが死亡したにも関わらず、生き続けているツン。
その理由を探ろうにも、
ツンの死について記されている最後のページには、汚れ――血痕が広がっている。
( ^ω^)「ニュッ君は、何か知らないかお?」
( ^ν^)「……知らない」
( ^ω^)「?」
ニュッの目が、僅かに揺らいだ。
どうしたのかと問おうとしたが、思い直す。
内藤は本を手元に引き寄せ、恐々、裏表紙側から開いた。
ぷんと鼻をつく臭い。
何秒と持たず、すぐに本を閉じた。
- 268 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:43:55 ID:kr1tN4ckO
ふと。
疑問が沸き上がる。
( ^ω^)「……ニュッ君は、祖父ちゃんが倒れるところ見たのかお」
( ^ν^)「――いや。
俺が帰ってきたときには、あそこに倒れてた。
……そのときはまだ意識があったけど」
( ^ω^)「じゃあ、初めに気付いたのはツンだったのかお?」
ξ;゚听)ξ「……」
ツンから、息を呑む気配がした。
不審に思った内藤が、体ごとツンの方を向く。
( ^ω^)「どうしたお」
ξ;゚听)ξ「わ、私、……見たの。モナーさんが倒れるとこ……」
( ^ω^)「すぐに救急車を呼んだんだおね?」
ξ;゚听)ξ「……ニュッ君が、来て……救急車を呼ぶように言われたから、私……」
( ^ω^)「……ニュッ君が」
- 269 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:45:07 ID:kr1tN4ckO
ニュッが来てから呼んだ?
( ^ω^)「ツン」
ξ;゚听)ξ
ツンの肩が跳ねる。
どうして――怯えているのだ。
何か。
後ろめたいことでも、あるのか。
( ^ω^)「祖父ちゃんが倒れてからニュッ君が来るまで、
どれくらいの時間かかったんだお」
ξ;゚听)ξ
ξ;゚听)ξ「……じゅ、」
――10分、くらい。
(;^ω^)
内藤の頭が、真っ白になった。
- 270 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:47:01 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「……じゅっぷん……」
人が倒れるのを見ておいて、10分もの間、黙っていたのか。
ニュッに言われるまで、何もしなかったのか。
首筋から頭の天辺に、熱が回る。
把握しきれない激情が、胸を突き破りそうだった。
悲しみや、怒りや、困惑や――様々な感情が混ざり合い、体中を巡り、
内藤の口を開かせた。
頬に生暖かい感触。
それが涙だと、そのときには気付けなかった。
- 271 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:51:48 ID:kr1tN4ckO
( ;ω;)「それじゃあ――」
何を言われるか察したのだろう。
ツンは顔色をなくし、立ち上がった。
ξ;゚听)ξ「違うの! ブーン――」
( ;ω;)「お前が!」
――「お前がすぐに救急車を呼んでいれば、死なずに済んだんじゃないのか」。
ξ;゚听)ξ
( ;ω;)
内藤の叫び声が、響き渡った。
.
- 272 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:54:49 ID:kr1tN4ckO
直後、衝撃が襲いかかる。
内藤は床に倒れ込んだ。
(;゚∋゚)「ニュッ君! やめろ!」
クックルが駆けつけ、ニュッを押さえる。
ニュッに殴られたのだと理解した途端、頬がじんじんと痛み始めた。
( ;ω;)「……あ……」
(#^ν^)「……っ」
ニュッは内藤を睨みつけ――しかし何も言わず、クックルの手を振り払った。
呆然としている貞子達のもとへ歩いていく。
頭に上っていた血と、目尻を濡らす涙がじわじわと引いていった。
自分の発言を思い返し、青ざめる。
- 273 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:55:49 ID:kr1tN4ckO
(;^ω^)「――ツン」
ξ゚听)ξ
(;^ω^)「ごめんお、僕――かっとなって……」
ツンからは、表情が消えていた。
瞳は内藤に向いているのに、内藤を見ていない。
ξ゚听)ξ「……私が悪いの」
(;^ω^)「そんなことないお! さっきのは、」
ξ゚听)ξ「ううん。私が悪いわ。……私が」
ξ゚听)ξ「私が、モナーさんを死なせたようなものだわ」
*****
- 274 名前:名も無きAAのようです:2011/09/10(土) 23:57:31 ID:kr1tN4ckO
( ;ω;)「ツンが何もしなかったわけないんだお!
あの子は優しいし賢いから……理由もなく祖父ちゃんを放っておく筈ないお。
ニュッ君が来るまでの間、きっと祖父ちゃんとツンに何かあったんだお!」
( ;ω;)「なのに僕は、――ツンに八つ当たりしたんだお。
色々なことで頭がぐちゃぐちゃで、わけが分からなくなって、
全部、全部ツンにぶつけたんだお……」
内藤が両手を床につき、指先に力を込めた。
爪と床が擦れ合い、ぎしりと悲鳴をあげる。
ζ(゚、゚;ζ「……」
( ;ω;)「……あの10分間に何があったのか訊いても、
ツンは謝るばかりで答えてくれなかったお」
泣きじゃくりながら、内藤が切れ切れに話を続ける。
デレは、聞き漏らすまいと必死に耳を傾けた。
- 276 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:02:26 ID:nvvGx6z6O
――葬儀が終わった後、遺品整理の名目で彼らは家を追い出される。
家にいても気が滅入るだけだったため、誰も拒まなかった。
数日分の着替え、それと各作家とツンについて書かれた本だけを持ち、
内藤やニュッなどの男達はショボンが当時住んでいたアパートへ、
ツンや貞子達はショボンの実家にそれぞれ泊まり込んだ。
何日か別々に暮らしたことで、内藤とツンは仲直りするタイミングを完全に失ってしまう。
その後、本の回収やら何やらでゆっくり話し合うことも出来ないまま、
時間ばかりが過ぎていった。
( ;ω;)「せめて――以前のように接していれば、
ツンも前みたいに戻ってくれるかと思ったのに……」
( ;ω;)「……ツンは笑わなくなった! 怒らなくなったし、泣かなくなったお!
僕があんなことを言ったから!
ツンの話を聞かずに、あんな、……っ……!」
ζ(゚、゚;ζ「内藤さん……」
これ以上見ていられなくて、内藤を抱きしめた。
内藤が、恐る恐るデレの背中に腕を回す。
デレの肩に顔を押しつけ、彼は声を絞り出した。
- 277 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:07:18 ID:nvvGx6z6O
( ;ω;)「……そ、それから、僕、血が駄目になったお……。
ほんのちょっとでも目にしたら、祖父ちゃんと両親の死体や、
自分の言葉を思い出して、血の臭いがして、気持ち悪くなって……」
言葉の端々で、しゃくり上げる。
まるで子供のようで――可哀想で、悲しくて、
デレは何度も頷きながら内藤の背を撫でた。
( ;ω;)「……気持ちを整理したくて過去を小説にして書いてみたけれど、
どうしても気分が悪くなって、あの続きを書くことが出来ないんだお……」
ツンや作家達の正体よりも、
自分の仕出かしたことを振り返り、それをデレに知られる方が何倍も恐かったのだと。
内藤は、くぐもった声で囁いた。
- 278 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:09:17 ID:nvvGx6z6O
( ;ω;)「……ツンは、僕をどう思ってるのかお……。
嫌ってるかお。恨んでるかお」
ζ(゚、゚;ζ「ツンちゃんが内藤さんを嫌ってるとは思いません」
( ;ω;)「……僕、じ、自分が嫌になって……。
みんなと家族でいるのが申し訳なくて、『館長』って呼ぶように頼んだお」
( ;ω;)「なのに、ツンだけは、ずっと『ブーン』って呼ぶんだお。
その度に苦しくて――もしかしたらツンは僕のことが嫌いで、
わざとブーンって呼んでるんじゃないかって思えてくるんだお……」
ζ(゚、゚;ζ「そんなことありませんよ。ツンちゃんは――」
- 280 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:10:44 ID:nvvGx6z6O
――ノックの音がした。
デレが顔を上げる。
『入っていい?』
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
返事をする前に、ドアが開く。
声の主とデレの目が合った。
ξ゚听)ξ
ζ(゚、゚;ζ「……ツンちゃん」
内藤が、びくりと震える。
振り返りかけたが、泣き顔を見せるわけにはいかないと思ったのか、
顔を伏せたまま腕だけを下ろした。
- 281 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:11:58 ID:nvvGx6z6O
ξ゚听)ξ「……ごめんなさい。あんまりにも時間かかってるから、どうかしたのかと思って」
ζ(゚、゚;ζ「あの……内藤さん、具合悪くなったみたいで」
ξ゚听)ξ「そう。大丈夫?」
ζ(゚、゚;ζ「平気。……ちょっと、戻してたけど」
ξ゚听)ξ「……本当に大丈夫なの?」
( ω )「大丈夫だお」
ξ゚听)ξ「ならいいけれど。
――ついさっき、ニュッ君とクックルが帰ってきたわ。ショボンが連れてきたの。
何かあったみたい」
( ω )「……今行くから、ちょっと待っててくれお」
ξ゚听)ξ「……ええ」
ツンがドアを閉める。
デレは、心臓がどくどくと激しく跳ねているのに気付いた。
話題になっていた人物が突然現れたことに驚いたのか、
内藤と抱き合っているところを見られたことに肝を冷やしたのか、自分でも分からない。
内藤は鼻を啜ると、デレから離れた。
- 282 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:18:16 ID:nvvGx6z6O
( ^ω^)「デレちゃん、いい匂いがするお」
ζ(゚、゚;ζ「……もう!」
( ^ω^)「おっおっお。どの女の子も可愛いけど、やっぱり、ツンが一番だお」
さっきまでの涙はどこに行ったのか。
赤くなった目元と鼻を擦り、内藤は腰を上げた。
( ^ω^)「……すごいおねえ、デレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「なっ、何がですか」
( ^ω^)「今までにも、君みたいに好奇心で近付いてきたのは何人かいたけど、
みんな、すぐに怯えて離れていったお。
なのにデレちゃんったら」
声と口調が軽い。
戸惑うデレに、内藤が手を伸ばす。
立てという意味だろうかとデレは首を傾げた。
( ^ω^)「もし、嫌になったなら、フェンスの鍵を返してほしいお」
ζ(゚、゚*ζ「……しつこいですね。嫌になんかなってませんってば。
鍵も返しません!」
べえ、と舌を出してみせる。
彼がいつもの調子に戻るのなら、自分も合わせてやるべきだろうと思った。
内藤は数秒ほど沈黙し、照れくさそうに笑った。
( ^ω^)「……ありがとうお、本当に」
.
- 283 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:19:47 ID:nvvGx6z6O
ひとまず今日はもう帰っていいという内藤の言葉に甘え、
デレは、住人達に軽く挨拶だけをして図書館を後にした。
*****
夜。
長岡家。
夕食をとりながら、内藤の話を頭の中で繰り返す。
すっきり半分、もやもや半分。
皆の出自などが分かったのは良かった。
ショボンの言葉や、ハローの「作家の全てはニュッのためにある」という発言、
貞子がキュートにした忠告の意味が理解出来たし。
だが――内藤とツンの関係や、モナーの死後も生きているツンなど、
引っ掛かる部分はある。
ζ(゚、゚*ζ(内藤さんとツンちゃん、どうしたら和解出来るのかな)
- 284 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:23:51 ID:nvvGx6z6O
考える。
ツンが素直に自分の考えを話してくれれば――
――素直に。
素直。
ζ(゚、゚;ζ「……あ、あれっ?」
友人、素直キュートの姿が頭を過ぎった。
そういえば、クックルとキュートはどうした。
ツンは、ニュッとクックルが帰宅した旨を伝えていた。
ニュッとクックルが一緒なのはともかく、何故ショボンが連れてきたのか。
「何かあったみたい」とのことだが、一体何があったのか。
ζ(゚、゚;ζ(ええー! キュートちゃんどうしたのさ!!)
気になる。
気になるが、今の自分がキュートと連絡をとって、
クックルの正体を話さずにいられるだろうか。
携帯電話に伸びそうになる手を、無理矢理抑えた――瞬間。
ζ(゚、゚;ζ「ぴっ!!」
着信音が盛大に鳴り響いた。
発信者は、見覚えのない番号だ。
- 285 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:24:45 ID:nvvGx6z6O
ζ(゚、゚;ζ「……もしもし」
『……デレ』
ζ(゚、゚*ζ「あ。ニュッさん。どうしました?」
相手はニュッ。
そういえば彼と何度か電話で話したことはあったが、
いずれも図書館か内藤の電話でのことだった。
なら、この番号はニュッの携帯電話だろう。
『……』
ζ(゚、゚*ζ「?」
『……』
ぷつん。
通話が切れた。
というか切られた。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「む、無言電話……!?」
何事だ。
こちらから掛け直すと、2コールの内にニュッが出た。
- 287 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:27:05 ID:nvvGx6z6O
ζ(゚、゚;ζ「どうしたんですかニュッさん、ストーカーは駄目ですよ」
『誰がストーカーだ死ね』
ζ(゚、゚;ζ「……何か用があったんじゃないんですか?」
『……』
ζ(゚、゚;ζ「……」
『……』
ζ(゚、゚;ζ「……今度は切らないでくださいよ」
『――兄ちゃんが』
ζ(゚、゚;ζ「内藤さんが?」
『全部、話したっつってた』
全部というと、まあ、状況から考えて「あれ」以外にはない。
聞きましたよ、と返す。
『……』
ζ(゚、゚*ζ「……」
『……明日も来んのか』
ζ(゚、゚*ζ
吹き出しそうになって、デレは口を押さえた。
しかし、堪えきれずに息が漏れる。
ニュッにも聞こえたかもしれない。
- 293 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:30:31 ID:nvvGx6z6O
『お前笑ったか今』
ζ(゚ー゚*ζ「いや……内藤さんもショボンさんもニュッさんも、みんな心配性だなあと」
『は?』
ζ(゚ー゚*ζ「行きますよ、勿論。皆さんと遊びたいです」
『……別に来なくていいけど。
モララーがさっきから「絶対嫌われた」って泣いてんだよ。
これ鬱陶しいから何とかしろ』
ζ(゚ー゚*ζ「はいはい。明日、お昼過ぎに行きますね。必ず行きます。
幼少時にはまだ可愛げがあったニュッさんをからかわなきゃいけませんから」
『二度と来んな死ね』
ζ(゚、゚*ζ「……あ、切れた」
番号をアドレス帳に登録し、デレは携帯電話を閉じた。
また、笑みが零れる。
内藤とツン、クックルとキュート。
まだまだ問題はあるが、みんなでゆっくり、解決するための道を探そう。
焦ることなど、何もない。
誰も彼も、いい人なのだ。
きっと、いつかは上手くいく。
*****
- 294 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:33:45 ID:nvvGx6z6O
深夜。
日付が変わった頃。
ツンは、自室の隅、机の前に膝をついていた。
ξ゚听)ξ
夕方の光景が脳裏に蘇る。
内藤とデレが、抱き合っていた。
ツンは、拳を握りしめる。
――晩飯の最中、内藤は、デレに全てを話したと皆に告げた。
デレは受け入れてくれたらしい。
ハローなどはあからさまに安堵してみせたが、ツンには大体の予想は出来ていた。
デレなら、それのどこが問題なのかと平気な顔で言ってのけるに違いないのだ。
そうして、これから先も図書館にやって来て。
みんなと――内藤と親しくなって。
- 295 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:36:39 ID:nvvGx6z6O
ξ゚听)ξ「……」
机に触れた。
引き出し、一番下の段を開ける。
一冊の本が入っていた。
白地に、金色の模様。
優しく拾い上げ――ツンは、そっと本を抱きしめた。
.
- 296 名前:名も無きAAのようです:2011/09/11(日) 00:37:40 ID:nvvGx6z6O
ξ゚听)ξ「……あなたも、そろそろ、演じてもらいたいんじゃないかしら」
一瞬。
空気が震えた、気がした。
第九話 終わり
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