- 776 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:29:48 ID:1u6yV9wwO
o川;*゚ー゚)o
年が明けて、1月3日。午前11時。
大型公園、「ヴィップ公園」のウォーキングコースの一角、とあるベンチ。
鞄を胸に抱え、深呼吸を繰り返す少女が1人。
素直キュート。
o川;*゚ー゚)o(何でクックルさんに会うだけなのに私が緊張しなきゃいけないの……。
寧ろ、こんな美少女に会えるクックルさんの方が緊張するべきだっつうの。
……まだ来ないのかなあ。そろそろ約束の時間なんだけど)
落ち着かない。
前日に降り積もった雪を踏みつける。
それに飽きると、ベンチ脇にある大きなオブジェを見上げた。
何を表現しているのか、考えるのも億劫になるほど意味が分からない形をしている。
無理矢理例えるなら、ウニのトゲを極端に減らして、紐をぐるぐる巻きつけたような感じ。
大きさの割に支えの部分が妙に細くて、いつか崩れるのではないかと心配してしまう。
- 777 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:34:18 ID:1u6yV9wwO
o川*゚ー゚)o「これ作った人、何考えてたんだろ」
( ゚∋゚)「キュート」
o川;* д )o「うなぁああああああああああ!!!!!」
(;゚∋゚)「!?」
突然かけられた声に、キュートはベンチから転げ落ちた。
通り掛かった人々がぎょっとしてキュート達の方を見る。
声の主、堂々クックルは、挙げた右手を所在無さげに揺らした。
(;゚∋゚)「ど、どうした?」
o川;* д )o ハーッ ハーッ
(;゚∋゚)「具合悪いのか」
o川;*゚ー゚)o「……だいじょうぶ」
真っ赤になって震えている様はどう見ても大丈夫そうではないが、
これでも本人は平静を装っているつもりだ。
立ち上がり、クックルへ振り返る。
o川;*゚ー゚)o「ていうかね、時間ぎりぎりじゃん! もっと早く来るのが礼儀じゃないの?
こんな寒い中で女の子を待たせるなんて男のすることじゃないよ!
あけましておめでとうございます!!!!!」
(;゚∋゚)「あ、ああ、おめでとう。
……寒いなら、待ち合わせ場所、どこかの店の中とかにすれば良かったんじゃ」
o川;*゚ー゚)o「屋内で奇声あげるより、屋外で奇声あげる方がマシでしょ……」
(;゚∋゚)「奇声をあげるの前提なのか……」
- 778 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:35:47 ID:1u6yV9wwO
――キュートは昨日、友人の長岡デレを介して、クックルに約束を取り付けた。
渡したいものがあるから会ってほしい、と。
ζ(゚、゚*ζ『ヴィップ公園で待ち合わせするの? 図書館に行けばいいと思うけど』
o川*゚ー゚)o『察して。デレちゃん。察して』
ζ(゚ー゚*ζ『あ、デートしたいんだ』
o川;*゚ー゚)o『違うし! 2人きりで会いたいだけだし!!』
o川;*゚ー゚)o『……いや2人きりで会いたいって別に深い意味ないけどね!!?』
ζ(゚ー゚;ζ『1人でハッスルしないでキュートちゃん』
こういった感じで。
- 781 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:37:18 ID:1u6yV9wwO
自分から言い出したとはいえ、いざ会ってみると目的を遂行出来るか怪しくなってきた。
目的。少し遅めのクリスマスプレゼント。
とてもじゃないが、おとなしく渡せそうにない。
(;゚∋゚)「本当に大丈夫か、お前」
o川;*゚ー゚)o「だから、だい……」
( ^ν^)
o川*゚ー゚)o
( ^ν^)
o川*゚ー゚)o「ちょっと待て」
クックルの隣に立つ男。
何故、内藤ニュッがここにいる。
o川;゚ー゚)o「えっ、何でニュッ君さんがいるの?」
( ^ν^)「ニュッ君さんって何だ」
( ゚∋゚)「ああ、俺が出掛けるって言ったら、ついてきたんだ」
o川;゚ー゚)o「……そうなんだ、へえ……」
( ^ν^)「心配しなくても今から別行動とるぞ」
o川;*゚ー゚)o「しししし心配って、なななな何が!」
- 782 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:38:57 ID:1u6yV9wwO
( ゚∋゚)「ニュッ君は何か用事あるのか?」
( ^ν^)「別に。適当に飯食って適当にぶらつく」
( ゚∋゚)「なら、折角だし一緒に行くか」
o川;゚ー゚)o「ええっ!?」
( ^ν^)「いや駄目だろ。こいつは2人がいいんじゃねえのか」
o川;*゚ー゚)o「ばっ、馬鹿言わないでいただきたい! 2人だろうと3人だろうと構わないし!
寧ろこんな、む、むっさいのと2人きりなんて恐ろしい!!」
( ゚∋゚)「ほら、キュートもこう言ってるし」
o川*;ー;)o「うわああああああ私の馬鹿ぁああああああああ!!」
(;゚∋゚)「……なあ、やっぱり調子悪いんじゃないのかキュート」
いつも通りである。
- 784 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:40:30 ID:1u6yV9wwO
(;゚∋゚)「これやるから落ち着け」
o川*;ー;)o「へ?」
クックルが何かを差し出した。
掌に乗るくらいの、小さな箱。
o川*;ー;)o「何これ」
( ゚∋゚)「ケーキだ。もっと大きいのにしたかったんだが、
持ち運ぶのを考えて小さめにした」
o川*;ー;)o「あ、ありがとう……」
( ゚∋゚)「俺の手作りなんだが、気に入らないなら返してくれていいぞ」
――手作り。
クックルの。
慎重に受け取り、キュートは箱をゆっくりゆっくり鞄にしまった。
中身が崩れないよう、丁寧に。
(;゚∋゚)「そんな爆弾みたいに扱わなくても……」
o川;゚ー゚)o「話しかけないで。集中が途切れる……!」
一番安全であろう位置に箱を収め、ほっと息をつく。
指先に当たった紙が、かさり、音を立てた。
キュートの肩が揺れる。
紺色の包み紙。
クックルへのプレゼント。
- 785 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:42:35 ID:1u6yV9wwO
o川;゚ー゚)o(ど、どうしよう、今渡すべき?
今なら……今なら『お返し』ってことで渡せるかな……。
それとも雰囲気とか作っ……雰囲気ってどんな雰囲気やねん)
包みへ触れたまま硬直する。
どうしよう、どうしようと考えを巡らせていると――
⌒*リ;´・-・リ「ママ、ママどこお……」
o川*゚ー゚)o「ん?」
⌒*リ;´・-・リ「マ……んぎゃっ」
( ゚∋゚)「うおっ」
o川;゚ー゚)o「あっ」
キュートのすぐ傍を、子供が駆け抜けていった。
直後、雪で滑ったのか勢いよくすっ転ぶ。
よりにもよって顔面から着地した。
運の悪いことに、転んだ先は雪の積もっていない、タイルが剥き出しの場所。硬い。
- 786 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:43:57 ID:1u6yV9wwO
o川;゚ー゚)o「だ、大丈夫!?」
⌒*リ´;-;リ「……いたい……」
( ^ν^)「そりゃあな」
(;゚∋゚)「あー、でこから血が」
クックルが抱え起こす。
少女だ。見たところ、5歳かそこら。
真っ赤なショルダーバッグを肩に引っ掛けている。
擦りむけた額が痛々しい。
(;゚∋゚)「泣くな泣くな」
⌒*リ´ぅ-;リ
o川;゚ー゚)o「ちょっと待って、絆創膏持ってるから」
⌒*リ´ぅ-;リ「しぬ?」
( ^ν^)「死ぬかもしれねえな……」
⌒*リ´;-;リ
(;゚∋゚)「ニュッ君やめろ」
クックルがハンカチで血を拭う。
キュートは、鞄から取り出した無駄にファンシーな絆創膏を貼りつけた。
それから、今度はキュートのハンカチで涙を拭いてやる。
- 787 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:46:09 ID:1u6yV9wwO
⌒*リ´・-・リ「ありがとう」
o川*゚ー゚)o「どういたしまして。
1人? お母さんは?」
⌒*リ´・-・リ「……ママ、迷子なった」
( ^ν^)「迷子なのはお前だろ」
(;゚∋゚)「どこではぐれたんだ?」
⌒*リ´;-;リ「わかんない……」
( ^ν^)「やだクックル君サイテー」
(;゚∋゚)「すっ、すまん――って今のは俺が悪いのか?」
o川*゚ー゚)o「よしよし。どこから来たのかな?」
⌒*リ´;-;リ「ニューソク」
o川;゚ー゚)o「いや、そういうことじゃ……てか結構遠くから来たんだね」
ニューソクは2つ隣の県にある都市だ。
まさか、そこからここまで真っ直ぐ来たわけもあるまい。
時期から考えるに、親の実家がこの街にあるのだろう。
キュートが訊きたかったのは、公園の外と中、どちらから来たのかということなのだが。
- 788 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:48:22 ID:1u6yV9wwO
o川*゚ー゚)o「ううんと、お名前は何ていうの?
あ、私はキュートね。この大きいのがクックルさん、そっちがニュッ君さん」
⌒*リ´;-;リ「……リリ……」
o川*゚ー゚)o「リリちゃん!
大丈夫大丈夫、お姉さん達がお母さん見付けてあげるから泣かないの」
( ^ν^)「俺パス」
o川;゚ー゚)o「うわっ、人非人」
ニュッが踵を返す。
泣いている子供を前にして、よくもまあ、そのような酷いことを。
o川*゚−゚)o「人で無しー。鬼ー。悪魔ー」
( ^ν^)「……」
背中へ文句をぶつけてやると、ニュッは足を止めた。
舌打ちが聞こえる。
( ^ν^)「……うるせえブス」
o川*゚−゚)o
o川*゚−゚)o ブチンッ
それは禁句だ。
- 789 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:52:05 ID:1u6yV9wwO
o川#゚д゚)o「誰がブスじゃああああああああああああああああい!!!!!
よく見ろ! なあ!! こんな美少女が他にいるかよボケェエエエエエ!!」
⌒*リ´ぅ-;リ「!?」
( ^ν^)「俺、ツンが基準だから……」
o川;゚д゚)o「ああああっ、あれと比べないでよ!!
……いやでも、私とツンちゃんなんて紙一重の差だし!」
( ^ν^)「ボール紙か?」
(;゚∋゚)「……3ヶ月かけてようやくキュートに慣れてきた奴が、何言ってんだ」
⌒*リ;´・-・リ , , ,
リリがキュートから離れる。
その後ろで、クックルが溜め息をついた。
( ゚∋゚)「ほら、リリが恐がってるから静かにしろ」
o川#゚ー゚)o「私悪くないもん。ニュッ君さんが悪いもん」
( ゚∋゚)「そうだな、ニュッ君が悪いな。キュートはブスじゃないぞ。可愛い可愛い」
o川;*///)o「ぽぎゃああああああ黙れやぁあああああああああああああ!!!!!」
(;゚∋゚)「えー褒めても駄目なのか」
- 792 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:54:48 ID:1u6yV9wwO
( ^ν^)「じゃあな」
(;゚∋゚)「こら、ニュッ君もさりげなく逃げるな。
……良かったら一緒に来てくれないか。人手が多くて困ることはないだろ」
( ^ν^)「……」
心底面倒臭そうに、ニュッは明後日の方を向きながら舌を出した。
逃げ出さないところを見ると、一応承知はしたようだ。
デレからは「いい人」とよく聞かされているものの、
キュートには、とてもじゃないがそうは思えない。
o川*゚ー゚)o(いい人っていうのは、クックルさんみたいな人を言うんじゃないの)
そんなことを考えていると。
――ぎしり、と、何かの軋む音がした。
音の方、リリへ顔を向ける。
- 793 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:55:26 ID:1u6yV9wwO
o川*゚ー゚)o「え」
あの、不可思議なオブジェが――リリ目掛けて、落ちていった。
.
- 794 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:56:36 ID:1u6yV9wwO
第八話 あな馬鹿らしや、鍵小説
.
- 796 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 22:59:24 ID:1u6yV9wwO
(*´・_ゝ・`)「うちじゃ、大掃除は毎年12月29日って決まってたんだけどね。
今年は、ほら、例の事件で館長がお疲れだったからさ」
モシャモシャ
ζ(゚、゚*ζ「あれは、たしかに疲れたでしょうねえ……」
VIP図書館。2階、食堂。
長岡デレは、向かいの席で美味そうにドーナツを貪る盛岡デミタスを眺めていた。
(*´・_ゝ・`)「……はあ。ありがとうデレさん、こんな美味しいドーナツを」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、お近づきのしるしにってことで。
あんまり食べ過ぎちゃ駄目ですよ、お昼ご飯食べれなくなっちゃいますから」
デミタスに微笑みかけて、デレはコーヒーカップを持ち上げた。
砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーを口に含む。
食堂には2人だけ。
デミタス――と外出中のニュッとクックル――を除き、
図書館の住人達は、今更ながら大掃除に励んでいる。
ζ(゚ー゚*ζ「デミタスさんはお掃除しないんですか?」
(´・_ゝ・`)「僕の部屋は、ついこの間クックルが片付けてくれたばかりなんだ。
だから軽く整理するだけで終わったよ」
今は各自の部屋を掃除しているところだ。
それが済み次第、手分けをして屋敷全体の掃除へ移るらしい。
デレも手伝うつもりである。
- 798 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:00:49 ID:1u6yV9wwO
(*´・_ゝ・`)「いやあ、しかし本当に美味しいな、このドーナツ。どこのお店?」
ζ(゚ー゚*ζ「ヴィプデパートの地下にですね――」
それにしても。
盛岡デミタス。普通だ。あまりにも普通だ。
普通すぎて、この図書館内では逆に浮いていそうなくらい普通だ。
ζ(゚、゚*ζ(この人が本当に『鍵』なのかなあ……)
首を捻る。
遮木ショボンの言葉通りならば。
デミタスが、図書館の秘密に関わる重要な人物――「鍵」の筈、なのだが。
彼を観察していても、何も分からない。
ζ(゚、゚*ζ「んんん……」
(´・_ゝ・`)「何かあった?」
ζ(゚、゚;ζ「ん……いえ、別に」
それからしばらく、雑談で時間を潰した。
内容は取るに足らぬ世間話。
学校のことやら、図書館のことやら。
- 800 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:02:53 ID:1u6yV9wwO
ζ(゚、゚*ζ「そういえばニュッさん、どこに出掛けたんですか?」
(´・_ゝ・`)「ああ、特に用事とかないんじゃないかな。
掃除するのが面倒だからクックルについてっただけなんだと思う」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんらしい……」
クックルはキュートに会いに行った筈。
ニュッには是非とも空気を読んでいただき、キュート達を2人きりにさせてもらいたい。
ζ(゚、゚*ζ(……ううん……)
クックル。キュート。
彼らのことも気になる。
上手くいってほしいのだが、そう簡単に片付けられる問題ではなさそうだし。
デミタスとの会話が途切れる。
コーヒーカップに目を落として考え込んでいると、食堂の扉が開かれた。
( ^ω^)「さあーて、こっからが本番だお」
館長、内藤ホライゾン。
いつものスーツではなく、動きやすそうな私服を身に着けている。
彼の後からツンや山村貞子、ハロー・サンといった作家達が入室し、
息をつきながら椅子に腰掛けた。
デミタスが席を立ち、厨房へ引っ込む。
- 801 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:04:54 ID:1u6yV9wwO
(*゚ー゚)「めんどいよー」
(メ#゚;;-゚)) コクコク
椎出しぃと椎出でぃの双子が、ぐったりとテーブルに突っ伏した。
もうここから動かない、と、しぃが首を振る。
労いの言葉をかけようとしたデレは、でぃを見るなり失語した。
でぃの顔やら手やらに真新しい傷が出来ているのだ。
ζ(゚、゚;ζ「大丈夫ですか、いつも以上にぼろぼろですが」
(メ#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「掃除中、あっちこっちにぶつかるわ転ぶわで。毎度のことだけどさ」
ζ(゚、゚;ζ「……でぃさん、おとなしくしてた方がいいのでは」
(メ#゚;;-゚)=3
ハハ ロ -ロ)ハ「ヤル気ダケは一人前デス」
( ・∀・)「はーあ……」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、お疲れ様です」
( ・∀・)「ほーんと、疲れちゃった」
茂等モララーが、肩を叩きながら首を左右に傾けた。
ツンがモララーをじろりと睨む。
ξ゚听)ξ「普段から片付けておかないからよ。
……どうして私がモララーの手伝いをさせられなきゃいけないのかしら」
(;・∀・)「う……ご、ごめんなさい」
川д川「あんたもよお、ハロー……」
ハハ ロ -ロ)ハ「反省してマース」
- 802 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:08:16 ID:1u6yV9wwO
(´・_ゝ・`)「よいしょ、っと。水飲む人ー」
デミタスが紙コップと水差しを抱えて戻ってきた。
デレ以外の全員が手を挙げる。
(´・_ゝ・`)「コーヒーもあるけど」
( ^ω^)「あ、じゃあ僕コーヒー」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシもー。お砂糖とミルクいっぱーい」
(メ#゚;;-゚)ノ
(*゚ー゚)「でぃちゃんもコーヒーだって。私は水で」
(´・_ゝ・`)「はいはい」
何だかデミタスがみんなの父親みたいで、デレは小さく吹き出した。
作家達は皆、ニュッと近い年頃に見える――実際の歳は知らない――のだが、
デミタスだけは結構離れているように思う。
この年齢の辺りを掘り下げれば、彼が「鍵」たる所以が分かるのだろうか。
- 803 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:11:14 ID:1u6yV9wwO
( ^ω^)「……デレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、はいっ、何でしょう」
( ^ω^)「本当に手伝ってくれるのかお? 大掃除」
ζ(゚ー゚*ζ「勿論です」
(*^ω^)「おお……ありがたいお。デレちゃんマジ天使。
で、今からする作業は、みんなで取り掛からなければならないお」
ξ゚听)ξ「みんなでって……1階?」
(´・_ゝ・`)「1階の掃除は最初にやったじゃないか」
( ^ω^)「掃除ではなく――整理、と言うのが正しいかもしれんおね」
内藤の神妙な顔つきに、皆は真剣な表情を浮かべる。
何やら、ただ事ではなさそうだ。
(;・∀・)「……整理?」
( ^ω^)「ニュッ君やお前達の部屋にある本を、1階に移動させるんだお」
重々しく告げた内藤。
きょとんとするデレを置いて、作家達は一様に沈みきった様子で溜め息を吐き出した。
- 804 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:12:00 ID:1u6yV9wwO
川д川「……ついに……」
(*゚ー゚)「やるのか……」
(メ;゚;;-゚)「……」
ζ(゚、゚;ζ「あのう、本を動かすだけでは……」
ξ゚听)ξ「何冊あると思ってるのよ」
ζ(゚、゚;ζ「いや、し、知らないけど」
(;´・_ゝ・`)「何だってまあ、クックルがいないときに……」
( ・∀・)「クックルがいなくても、ツンがいるよ」
ξ゚听)ξ「どういう意味?」
- 805 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:13:21 ID:1u6yV9wwO
( ^ω^)「あれ、そういやクックルが見当たらないお。ニュッ君も」
(*゚ー゚)「クックルならキュートちゃんとデート行ったよ。ニュッちゃんは逃げた」
( ^ω^)
( ^ω^)「デー……ト……?」
川д川「……館長、聞いてなかったのお……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「デートかは知らないケド、キュートと会うって言ってマシタヨ」
( ^ω^)「聞いてないお。え? デート? キュートちゃんと?
ふざけてるの? うわあ。やってらんねえお。もう掃除とかどうでもいい」
ζ(゚ー゚;ζ「内藤さんしっかり!」
ξ゚听)ξ「……こうやって拗ねるからブーンには言わなかったんだと思うわ」
*****
- 807 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:15:06 ID:1u6yV9wwO
一方、ヴィップ公園。
雪の上に、オブジェやタイルの破片が散らばっている。
(;゚∋゚)「……」
⌒*リ;´・-・リ
――その横で、リリを抱え込んだクックルが呆然としていた。
彼の反応があと少し遅れていたら、リリはオブジェの下敷きになっていただろう。
我に返ったキュートが、急いで駆け寄る。
o川;゚ー゚)o「けっ、怪我は!?」
(;゚∋゚)「俺は平気だ。リリ、痛いとこないか?」
⌒*リ;´・-・リ「んーん……」
( ^ν^)「……いつか倒れると思ってたんだよな」
ニュッはクックル達の心配をするでもなしに、
さっきまでオブジェが乗っていた台座を眺めていた。
支えの部分がぽっきり折れている。
- 808 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:19:19 ID:1u6yV9wwO
( ^ν^)「管理者とかに説明すんの面倒だな……誰か来る前に行くぞ」
o川;゚ー゚)o「そんなのよりクックルさん達の心配ぐらいしなよ!」
( ^ν^)「見た限りじゃ無事じゃねえか」
つくづく、デレが理解出来ない。
何故にニュッを善人だと言うのだろう。もしかして騙されていやしないか。
( ゚∋゚)「あー……母親探さないといけないんだったな。どうしたもんか」
o川*゚ー゚)o「公園一周してみる?」
( ^ν^)「こんな広い場所回るより、管理事務所に預けりゃいいだろ」
o川*゚ー゚)o「あ、それがいいか。放送かけてもらえるし」
ここから管理事務所までは、一本道だ。
3分とかからず到着する筈。
( ゚∋゚)「じゃあ行くか、リリ」
⌒*リ;´・-・リ「わ」
クックルが、リリを肩車した。
予想外の高さに驚いたか、リリはクックルの頭に目一杯しがみつく。
- 809 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:20:30 ID:1u6yV9wwO
(; ∋ )「リリ、前が見えん」
⌒*リ;´・-・リ「こ、こわい……」
(; ∋ )「恐くないから、目を隠さないでくれ」
( ^ν^)「下ろしてやれよ」
(; ∋ )「いや……こうしてれば目立つし、
途中で親に見付けてもらえるかもしれないだろ」
o川*゚ー゚)o「おお、クックルさん、さすが」
o川;*゚ー゚)o「……まあ私も思いついてたけどね! ていうか猿でも考えつくレベルだよね!!
その無駄にでかい図体も役立つことがあるんだなあ!!」
( ^ν^)「こいつ面倒くせえ」
*****
- 810 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:21:11 ID:1u6yV9wwO
――気味が悪い。
来た道を振り返り、キュートは眉根を寄せた。
o川;゚ー゚)o「……ねえ、何なの、これ」
(;゚∋゚)「さあ……」
o川;゚ー゚)o「つい数分前も通ったよね?」
( ^ν^)「いつから迷路になったんだ、ここ」
o川;゚ー゚)o「迷路にすらなってないよ。さっきから真っ直ぐ歩いてるだけじゃん」
(;゚∋゚)「……くそっ、またオブジェだ」
管理事務所を目指して歩き始め、かれこれ20分。
ずっと同じ道をぐるぐる回っている。
もう何度目になるか、崩れたオブジェの前に辿り着いた。
- 811 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:22:44 ID:1u6yV9wwO
o川;゚ー゚)o「私達しかいないしさあ……」
⌒*リ;´・-・リ「?」
しかも人がいないのだ。
遠くから笑い声などは聞こえてくるので、
どうやら、この周辺だけが無人になっているらしい。
キュートは左右を見た。
右側にはオブジェとベンチ、柵、木々。
左側にはクックルより高い垣根。
o川;゚ー゚)o「……この垣根の向こうに行ったら、どうなるかな」
( ゚∋゚)「試すか? ちょっと難しそうだが」
( ^ν^)「いや、それより――」
クックルが垣根に手を伸ばすと同時、ニュッが踵を返した。
人差し指をくいくいと曲げ、「来い」と合図する。
- 812 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:24:37 ID:1u6yV9wwO
( ^ν^)「こっち行ってみたらどうだ」
o川*゚ー゚)o「戻るってこと? どうせ、またここに来ちゃうんじゃないの?」
本来ならば、そちらに進めば公園を出ることになる。
だが、現状からして――理由は分からないが――この道は輪を描く形になっているようだし、
今までと同じ結果になりそうなものだ。
( ^ν^)「いいから」
o川;゚ー゚)o「……もー」
キュートは逡巡したが、クックルがニュッの後へ続いたので、仕方なく彼らを追った。
.
- 813 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:26:09 ID:1u6yV9wwO
――そして僅か1分後。
o川;゚ー゚)o「うっそ」
4人は、無事に公園から脱出した。
さっきのは何だったのだろう。
頭から足元まで染み込んでいく恐怖に、キュートは身震いした。
( ^ν^)「……公園にいたら話が進まなかったのか、
それともリリが管理事務所に預けられちまうのが厄介だったのか……」
o川;゚ー゚)o「へ?」
ニュッが妙なことを呟いている。
何の話かと訊いてみたが、無視されてしまった。
- 814 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:27:04 ID:1u6yV9wwO
( ^ν^)「リリ」
⌒*リ´・-・リ「?」
( ^ν^)「本持ってねえか」
唐突な問いに、クックルの肩の上にいるリリは首を傾げた。
ニュッの視線の先は、リリというより、彼女のショルダーバッグ。
⌒*リ´・-・リ「ほん?」
( ^ν^)「……鞄見せろ」
⌒*リ;´・-・リ「! やだ!」
(;゚∋゚)「ちょ、リリ! 暴れるな!」
ニュッの手が鞄へ伸びると、突然リリが激しい抵抗を見せた。
無理に後ろへと体を反らせ、足をばたつかせる。
肩車の状態でそんな風に暴れれば、まあ、当然ながら。
⌒*リ;´・-・リ「ひゃっ!」
ずるりと、リリが真っ逆さまに滑り落ちた。
- 815 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:29:01 ID:1u6yV9wwO
o川;゚ー゚)o「リリちゃん!」
――このままでは、コンクリートに頭を打ちつけてしまう。
下手をすれば首が折れる。
キュートは咄嗟に目を覆った。
数秒。
何の物音もしない。
恐々、手を下ろす。
o川;゚ー゚)o「……おうふ」
(;゚∋゚)「……危なかったな」
⌒*リ;´・-・リ
クックルがリリの両足を握っていた。
リリは真っ青な顔をして、ぶらぶら揺れている。
( ^ν^)「ナイスキャッチ」
o川;゚ー゚)o「……そもそもニュッ君さんが鞄のこと言わなきゃ落ちなかったんだけどね?」
*****
- 817 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:32:15 ID:1u6yV9wwO
ζ(゚、゚;ζ「ほわあ……」
デミタスの部屋の隣。
ニュッの部屋。
デレは、吐息混じりに感嘆の声を漏らした。
人の部屋というより――まるで、本の部屋だ。
壁に寄り添う形でずらりと並んだ本棚。
床から天井まで届く高さのそれらには、ぎっしりと本が詰まっている。
踏み台が一つ。上の方にある本を取るのに使うのだろう。
床も凄い。足の踏み場もないとは、正にこのこと。
雑に積み上げられた大量の本は、何冊あるか数えるのも億劫なほどだ。
人の落ち着けるスペースといったら、椅子とベッドだけ。
( ^ω^)「案の定溜め込んでやがったお」
鍵の束を指先で振り回しながら、内藤が呆れ返ったように言った。
各自の部屋の鍵らしい。先程、その内の一つでここのドアを開けていた。
- 818 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:35:33 ID:1u6yV9wwO
(*゚ー゚)「この量は、もう私達の部屋で引き取れる量じゃないねえ」
( ^ω^)「だから1階に移すんだお。これじゃあ、いつ床が抜けてもおかしくないお」
ζ(゚、゚;ζ「移すって、あの、やっぱり……」
( ^ω^)「地道に運ぶしかないおー」
デレの体から力が抜けかけた。
想像しただけで疲れる。
( ^ω^)「本棚に収まってる分はいいとして……床に積まれてるのを運ぶかお」
内藤は手近なところにあった本を20冊ほど抱え上げ、しぃに渡した。
しぃが、わざとらしくよろけてみせる。
( ^ω^)「とりあえず1階の……テーブルとか床にでも置いといてくれお。
整理するのは、全部移動させてから」
(*゚ー゚)「はいはーい」
( ^ω^)「ほい、でぃ」
(メ#゚;;-゚)) コクン
でぃ、ハロー、モララー、デミタス、ツン、貞子。
次から次へと本が手渡されていく。
- 819 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:38:44 ID:1u6yV9wwO
( ^ω^)「デレちゃんもよろしく」
ζ(゚、゚;ζ「は、はい」
全て市販の本だ。
もしやと思って確認してみると、やはり、本棚にしまわれているのは
ここに住む「作家」の本のみ。
ニュッの中での優先順位が容易に把握出来た。
( ^ω^)「どっこいせ……。デレちゃん、行くおー」
ζ(゚ー゚*ζ「はあい」
*****
- 821 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:39:58 ID:1u6yV9wwO
( ゚∋゚)「リリ。ほっぺにカレーが付いてるぞ」
o川*゚ー゚)o「こっち向いてリリちゃん、拭いてあげる」
⌒*リ´・-・リ「んむ」
ファミリーレストラン。
並んで座るキュートとリリ、その隣にニュッとクックル。
ニュッは腕を組み、溜め息を漏らした。
( ^ν^)(……飯なんか食ってねえで、さっさと本を回収したいんだが)
あの後、リリが空腹を訴えてきたため、近くにあったファミリーレストランにやって来たのだ。
それよりも交番に連れていく方がいいのではないかとキュートが提案したが
(そしてニュッも賛成したかったのだが)、
思わぬ事情により、そうもいかなくなってしまった。
恐らく、リリはVIP図書館の「本」を持っている。
主人公として演じさせられている可能性が高い。
- 822 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:42:49 ID:1u6yV9wwO
( ゚∋゚)「……ニュッ君」
( ^ν^)「あ?」
クックルが耳打ちしてくる。
まだ彼には自分の考えを話していないが、きっとクックルも勘づいているだろう。
先程、公園内で同じ道ばかり歩かされたのも本の仕業の筈。
演じさせるためとはいえ空間を捩曲げるとは、随分と欲求不満だったらしい。
( ゚∋゚)「誰の本か、見当はついてるのか?」
( ^ν^)「……モララーの本だと思う」
小声の問いに、同じく小声で返す。
時代小説か、と訊ねるクックルへ、首を横に振って答えた。
――ニュッは、これまでのリリの状況に既視感を覚えていた。
たしか、9年前にモララーが書いた本。
5度ほど読み返した記憶がある。
- 824 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:44:26 ID:1u6yV9wwO
( ^ν^)「コメディ小説。やたらと不運なガキの話だ」
( ゚∋゚)「不運?」
( ^ν^)「歩けば転ぶ、像の前にいれば像が倒れる、高いところにいりゃ落ちる――」
o川*゚ー゚)o「2人で何話してるの?」
紙ナプキンを折り畳みながら、キュートが怪訝そうな目を向けてきた。
別に、と誤魔化しておく。
从´ヮ`从ト 〜♪
リリの横を、スープバーのカップを持った女性が通った。
湯気を立てるスープに、ふうふうと息を吹き掛けている。
从´ヮ`;从ト「わっ!」
すると、女性が躓いた。
その拍子にカップが宙を舞う。
見るからに熱そうなコーンポタージュが、リリの真上にぶちまけられた――
.
- 825 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:46:21 ID:1u6yV9wwO
――が。
果たして、リリ自身に降りかかることはなかった。
( ^ν^)「……飲食店にいれば、熱々のスープを被るとか」
o川;゚ー゚)o「うひいい……」
キュートが、膝に乗せていたコートを広げて防いだからだ。
ぽたぽたと、コートが吸い込みきれなかったスープが床に滴る。
彼女の素早い反応に、ニュッは呑気にも感心していた。
それと同時に確信する。
――やはり、リリは「主人公」だ。
*****
- 826 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:47:50 ID:1u6yV9wwO
1階。
デレは抱えていた本を床に下ろすと、それに凭れかかる形でへたり込んだ。
ζ(-、-;ζ「ううう……足が……」
(;-;; -)ノシ
(;*゚ー゚)「ああっ、デレちゃんとでぃちゃんが私の目の前でぐったりしてる!
これチャンスじゃないかな!? 色々とチャンスじゃないかな!?」
(;´・_ゝ・`)「何のだよ」
見れば、デレ以外の面々も同じように座り込んでいた。
本を持って階段を何往復もしたのだ、疲れもしよう。
何度1階と2階を行き来しただろうか。
数えたくもない。
ζ(゚、゚;ζ「ふう……」
振り返る。
山だ。本の山。
この量、ちょっとした書店に収まっている分よりも多いだろう。
全て、ニュッと作家達の部屋にあった市販の本である。
今まで床が抜けなかったのが不思議だ。
- 827 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:49:18 ID:1u6yV9wwO
(;^ω^)「おー、おおお……」
ξ゚听)ξ「お疲れ様、ブーン」
(;^ω^)「これで最後だお」
2階から下りてきた内藤が、カウンターに本を置いた。
テーブルや床に積み上げられた本を眺め、壮観だお、と呟く。
(;・∀・)「全部本棚にしまわなきゃいけないの?」
(;^ω^)「そりゃあ、このままにもしておけんだろうし」
ハハ;ロ -ロ)ハ「ヤダー! モウ動きたくナーイ!」
(;゚;;-゚)) コクコク
川д川「お腹すいたしい……」
ζ(゚、゚;ζ「そういえば、もうお昼回ってますね」
時間を確認した途端、ぐう、とデレの腹が鳴った。
かなりの音量だ。
デレは頬を染めたが、直後、モララーやハローの胃袋も主張し始めた。
- 828 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:51:19 ID:1u6yV9wwO
(;^ω^)「あれまあ、腹の虫の大合唱……。……休憩も兼ねて、ご飯とするかお」
(*゚ー゚)「やっほう、飯だ飯!」
(#゚;;-゚) グー
(;´・_ゝ・`)「誰が当番だっけ?」
ξ゚听)ξ「今日は――クックルね」
川д川「いないわよお……」
(;・∀・)「えー。じゃあ誰が作んの? 俺やだよ、疲れた」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシもパス。コレ以上体力使いたくアリマセン」
(;^ω^)「お前ら……」
ζ(゚、゚;ζ「私、何か作りましょうか?」
(;^ω^)「それは魅力的な話だけど、遠慮しとくお。デレちゃんも疲れてるおね?
……えっと、ツンちゃーん」
内藤が両手を合わせ、顔を傾けた。
疲労困憊といった面々に対し、ツンだけは平然としている。
一番よく働いていた筈なのだが。
- 829 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:53:20 ID:1u6yV9wwO
ξ゚听)ξ「……手の込んだものは面倒だわ。
おにぎりとサンドイッチ、どっちがいい? 多数決」
( ・∀・)「おにぎりー」
川д川「おにぎり……」
ハハ ロ -ロ)ハ「サンドイッチ!」
(*゚ー゚)「サンドイッチで」
(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「むむっ、でぃちゃんはおにぎりか」
(´・_ゝ・`)「サンドイッチがいいなあ。コーヒーと一緒に」
( ^ω^)「おー、3対3かお。僕はツンたんが作ってくれるなら何でも嬉しいお」
ξ゚听)ξ「……デレは?」
ζ(゚ー゚*ζ「私も、どっちでも」
ξ゚听)ξ「じゃあサンドイッチね」
(;・∀・)「結局ツンの判断じゃんか」
- 831 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/14(日) 23:56:05 ID:1u6yV9wwO
ハハ*ロ -ロ)ハ「ホットサンドがイイ、ホットにシテ、ツン。チーズいっぱい」
川д川「玉子……」
(*゚ー゚)「甘いの食べたいなあ。りんごと蜂蜜とシナモンとかさあ」
ξ゚听)ξ「要望は上で聞くわ」
2階へ行くため、皆が腰を上げる。
デレの隣で、でぃが立ち上がろうとして――よろけたのか、本に向かって倒れ込んだ。
ζ(゚、゚;ζ「でぃさん!」
(;゚;;-゚) イタイ
(*゚ー゚)「さすがでぃちゃん、何もないとこで躓いたね」
ζ(゚、゚;ζ「大丈夫ですか?」
でぃの手を引き、起き上がらせる。
細い指だ。簡単に折れてしまいそうな程。
怪我はありませんかと訊ねながら、デレはでぃの手を見た。
- 832 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:00:28 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「?」
傷はない。
喜ばしいことなのだが、腑に落ちない。
ζ(゚、゚*ζ(んんー?)
――食堂で見かけた傷すら、なくなっている。
この短時間で完治したと言うのだろうか。
有り得ない。
顔には傷跡があるし、まさか手のみに異常な回復力を備えているわけもなかろう。
ζ(゚、゚;ζ(……んんんー?)
いや、待て。
顔の傷も減っている。ような。
(;゚;;-゚)「っ!」
ζ(゚、゚;ζ「あ、ごめんなさ……――でぃさーん?」
(*゚ー゚)「おう、どうしたでぃちゃん」
デレの目顔に何かを感じたらしく、でぃが手を振り払った。
ばたばた、鈍臭い足付きで階段へと駆けていく。
- 833 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:03:37 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚;ζ(じろじろ見ちゃったの失礼だったかな)
でぃの後に続いてカウンターの奥に消えていく皆を眺めながら、デレは首を傾げた。
傷のことは自分の記憶違いだったのだと結論づける。
その頃には、デレと内藤だけが、本と共に1階に残されていた。
ζ(゚、゚*ζ「内藤さん行かないんですか?」
( ^ω^)「僕は、ちょっと」
内藤が、ポケットからボールペンとメモ帳を取り出した。
ボールペンの先で、空の本棚を指す。
( ^ω^)「どの本棚にどの本をしまうか考えてから行くお」
ζ(゚、゚;ζ「きっちり分類するんですか」
( ^ω^)「折角だし。――ああ、これは僕1人で充分だから、
先に食堂に行っててくれお」
ζ(゚、゚*ζ「……何かお手伝いくらい出来ませんかね」
( ^ω^)「寧ろここまで手伝ってくれてありがたいぐらいだお。
……そうだおねえ、何かしたいってんなら、ツンの手伝いしてくれるかお」
ζ(゚ー゚*ζ「分かりました!」
サンドイッチとはいえ、9人分ともなれば手間取るだろう。
デレは内藤の後ろを通り、階段を上っていった。
.
- 834 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:05:37 ID:IaMypzNAO
靴を脱いでスリッパに履き替える。
足元に向けていた顔を上げ――どきりとした。
無人の廊下。
前と同じだ。
デレの傍には誰もいない。
自由に動ける。
ζ(゚、゚;ζ(寧ろ前より状況は良い……?)
前回はデミタスの登場によって邪魔されてしまったが、
今、彼らは食堂に集まっている。
内藤も、ちょっとした作業をやっているし。
ニュッの部屋の鍵は、開いている筈だ。
中に入って、「手掛かり」を探すことは出来る。見付けられるかは別として。
だが。
ζ(゚、゚;ζ(い、いいのかな……)
いざ実行可能となると気が引ける。
こそこそ嗅ぎ回る後ろめたさ、勝手に部屋の中を漁る心苦しさ。
開き直るには重すぎる。
しかし、この機会を逃すのは惜しい。
好奇心と焦燥。
- 835 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:07:23 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚;ζ(……ええい、行ったれい!)
悩む時間も勿体ない。
デレは、小走りで廊下を進んだ。
5分。5分経ったら食堂へ行こう。
ζ(゚、゚;ζ(お邪魔します!)
廊下を挟んだ右側、奥から2番目。
ニュッの部屋の前で一礼し、ドアノブに手を伸ばした。
ノブを捻る。抵抗なく開いた。
ζ(゚、゚*ζ「……あれ」
前進しかけて、ふと、デレは後ろへ振り返った。
ドアに掛かるプレートからするに、向かいは内藤の部屋。
その隣がツン。
- 837 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:09:06 ID:IaMypzNAO
では。
ζ(゚、゚*ζ(こっち、誰の部屋かな)
ニュッの隣。ツンの向かい。
誰の名前も記されていない部屋は、何のための部屋なのだろう。
本を運ぶ際、この部屋は無視されていた。
物置とか。あるいは、単に余って使われていないだけなのかもしれない。
――ああ、いや、とにかく、今はニュッの部屋に集中しよう。
ごくりと喉を鳴らし、デレは足を踏み入れた。
- 838 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:10:51 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚*ζ「……どこ探せばいいんだろう」
床にあった本がなくなってしまえば、何とも殺風景な部屋だ。
本棚、机、ベッド、クローゼットに用箪笥。
それなりに広い室内なのに、置かれているものといえばそれだけ。
娯楽らしい娯楽は、本と、机の上にあるノートパソコンぐらいか。
これは少々手をつけづらい。
机や用箪笥を漁るなど、まるで空き巣狙いだ。
ζ(゚、゚;ζ「ううーん……」
唸りながら、とりあえず歩いてみる。
視界に入る範囲には目を引くものはない。
気になるものといったら、
ζ(゚、゚*ζ「……ここかなあ」
本棚。
貞子やクックルなど、作家ごとに並べられた本。
汚れや傷の激しいものが混じっている。外から回収してきた本だろう。
どれが生きていて、どれが生きていないのか、デレには分からない。
不用意に触れないようにしながら棚の前を進む。
- 839 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:12:48 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚*ζ「――ん」
ある場所でデレは立ち止まった。
窓から一番遠く、日の当たらない場所に置かれた本棚。
その最上段にだけ、ガラス製の戸が設けられていた。
中には8冊の本。
赤、黒、藤色、桜色、花柄、淡黄色に柳色、そして白。
スペースが随分余っている。
ζ(゚、゚*ζ(何で、あれだけ別なんだろ)
踏み台を引き寄せた。
上に乗っかり、ガラスの向こうを凝視する。
背表紙には何も書かれていない。
失礼しますと囁いて、戸を開けた。
おっかなびっくり、黒い本を取る。
貞子の本と同じ外装だ。
表紙にはラベルが2つ。
- 840 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:14:32 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚*ζ「?」
上のラベル――タイトルが記される場所のそこには、「山村貞子」。
そして下には。
ζ(゚、゚*ζ「内藤、モナー……?」
*****
- 841 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:16:05 ID:IaMypzNAO
o川*;−;)o「お気に入りだったのに……」
レストランを出てからすぐ。
キュートはコーンポタージュまみれのコートを眼前に掲げ、瞳を潤ませた。
( ^ν^)「さっきの客に弁償させりゃあいいじゃねえか」
o川*;−;)o「けちけちしてクレームつける女の子なんてね、可愛くないの。
にっこり笑顔で『気にしてませんよ』って言えるのが可愛い女の子なの」
( ^ν^)「ははっ。それはそれは。ご立派なことで」
ニュッが、嘲るような笑い声を零す。
キュートに睨まれた。
( ゚∋゚)「寒いだろ、キュート。俺の貸すか?」
o川;*゚д゚)o「いいいいいいいいいいらんわ!! そんな大きいの着てられっか!!」
- 842 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:19:23 ID:IaMypzNAO
⌒*リ;´・-・リ
( ^ν^)「なあ、リリ」
⌒*リ;´・-・リ「!」
キュートの情緒不安定ぶりに困惑しているリリの前でしゃがみ込む。
警戒されているらしく、リリはショルダーバッグを抱きしめた。
ニュッは、彼女の不安を和らげるため、優しく語りかける。
( ^ν^)「お前が食ったお子様ランチ代、俺が払ってやったんだ。
ギブアンドテイクって知ってるか? 俺の言うこと聞けよ」
優しいのは声色だけだ。
o川;゚ー゚)o「ひええ、何かあの人すごく嫌だ……!!」
(;゚∋゚)「ニュッ君、相手は子供だぞー」
( ^ν^)「知るか。おら、鞄寄越せ」
⌒*リ;´・-・リ「だめ!」
- 843 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:22:19 ID:IaMypzNAO
( ^ν^)「何でだよ」
⌒*リ;´・-・リ「リリの宝物だもん――」
首を振るリリ。
彼女の鼻先を、鋭い氷柱が落ちていった。
⌒*リ;´・-・リ
o川;゚ー゚)o
(;゚∋゚)
( ^ν^)
完全に不意打ちだった。
リリ、キュート、クックルの3人が顔を引き攣らせている。
ニュッは地面で砕けた氷を眺めた後、上を見た。
店の軒に垂れ下がる数本の氷柱。
もし頭の真上に落ちてきていたら、ただでは済まなかっただろう。
- 845 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:25:59 ID:IaMypzNAO
(;゚∋゚)「……今のは、びっくりした」
o川;゚ー゚)o「店員さんが処理しておくもんじゃないの、普通!」
店員が落とし忘れたのか、はたまた、「本」が作り出したのか。
何にせよ。
( ^ν^)(……放っといても平気そうだな。
かなりハイペースで話が進んでるし)
先の氷柱で分かったが、本は、実際にリリを傷付けるつもりはない。
オブジェのときもスープのときも、クックルやキュートが助けずとも
リリは無傷で済んでいたと思われる。
それに、ちゃっちゃと見所だけを演じさせたがるモララーの本のこと。
この調子だと、今日中に終わらせられるだろう。
リリに害はない。展開も早い。
あと少しの間だけ付き合ってやれば、直に解放される。
( ^ν^)(とはいえ、だ)
しかし、出来るならば今すぐにでも終わらせてしまいたい。
絶対に危なくないとは言い切れないし、何より七面倒臭い。
幸い、主人公以外の脇役には台詞が与えられていない作品である。
リリに主人公の台詞だけを朗読させれば本は満足する。その方が楽だし安全だ。
- 848 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:28:22 ID:IaMypzNAO
( ^ν^)「……リリ」
⌒*リ;´・-・リ「やあだ!」
ニュッが改めて要求する前に、リリはクックルのもとへ逃げてしまった。
舌打ちしそうになるのを何とか堪え、ニュッは立ち上がる。
o川*゚ー゚)o「どうしてそんなに鞄見たがるの?」
( ^ν^)「うるせえ」
o川;゚ー゚)o「純粋に質問しただけなのに酷くない!?」
事情を知らぬキュートがいる手前、本のことをべらべら喋るわけにもいかないし、
後は自分に任せておけと言っても、どうせキュートは信用してくれない。
どうやって本を手に入れるべきか。
いやはや。
( ^ν^)(困った)
*****
- 850 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:29:59 ID:IaMypzNAO
――意味が、分からなかった。
文字は日本語だし、難しい言葉も大して使われていない。
けれども、デレは、その本の内容を理解出来なかった。
ζ(゚、゚;ζ「……何これ……」
黒い本。
中には、みっしりと字が詰まっていた。
――山村貞子。女。一九八四年五月二六日生まれ。一九九九年四月十日現在、十四歳。――
そんな文章から始まり、当時の身長や体重、肌の色、顔の作りなどが事細かに記されている。
それだけなら、まだ、貞子個人に関するメモと思えなくもなかったのだが。
- 851 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:33:10 ID:IaMypzNAO
――身長、体重の増加・減少は普通の人間と同じように、
年齢、生活習慣等によって変動する。――
これは、どういうことだ。
ζ(゚、゚;ζ(『普通の人間と同じように』って……)
さらに気になるのは、彼女の人格について述べた部分。
性格や、根底にある思考パターンにまで言及しているのだ。
だが、最終的には、
「この先の経験から価値観やものの考え方は変化し得るし、
また、一貫した信念を持つこともあろう。
こればかりは彼女の自主性に任せる」
といった文で締められている。
ζ(゚、゚;ζ(……)
――そんなの、当たり前ではないか。
人間ならば、内外からの刺激に、その時々の感情や思考を左右されるのが常である。
わざわざ書くことではない。というか、書く必要がない。
そもそも何なのだ、この――「彼女の自主性に任せる」という書き方は。
ページをめくっていくと、嗜好や趣味などの項目で、度々似たような記述が見られた。
- 852 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:36:25 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚;ζ(……まさか)
デレの中で、ある推測が組み立てられていく。
あまりにも非現実的で、馬鹿らしい。
けれど一蹴することが出来ない。
ショボンの話が思い起こされる。
――『常識なんざ糞喰らえって世界だし』
『根本的なところに問題があるんだよ』
『まず間違いなく、誰もが逃げ出したくなるような事実だ』――
最後のページを開く。
そこにあった文面に、デレは、全身が一気に冷え渡るような心持ちになった。
.
- 853 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:38:16 ID:IaMypzNAO
――山村貞子が死ぬ(消える)のは、
この本が燃え尽きる・内藤ニュッにとって山村貞子が不要な存在になる・内藤ニュッが死ぬ。
これらの内、いずれか一つの条件を満たしたときだけである。――
ζ(゚、゚;ζ
ショボンの言う「根本的なところ」。
作家達の、存在そのもの。
.
- 857 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:41:17 ID:IaMypzNAO
混乱しきっていた思考は、意外にも、ここで冷静さを取り戻した。
黒い本を棚に収め、花柄の本を引っ張り出す。
紺色のタイトルと著者名。「堂々クックル」、「内藤モナー」。
中身は、先程の本と大差ない。
最後の一文もだ。
次に赤色の本。盛岡デミタス。
始めと終わりのページだけを確認してみるが、やはり、ほとんど同じ。
藤色の本はでぃ、桜色はしぃ、淡黄色はハロー、柳色はモララー。
ζ(゚、゚;ζ(全部、一緒だ……)
残る一冊、白い本を取る。
デレは瞠目した。
- 859 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:43:36 ID:IaMypzNAO
真っ白な表紙。金色の曲線で模様が描かれている。
他のものと比べてみて、古めかしい印象を受けた。
タイトルは「ツン」。作者は、やはり「内藤モナー」。
デレが驚いたのは、所々にある汚れに対してだ。
黒っぽい、大小の染み。
血痕に似ている。
裏返す。
そろそろと裏表紙を引いた、瞬間。
ζ(゚、゚;ζ「ひ」
喉の奥で、上擦った声が響いた。
文字を塗り潰すように、ページ全体に汚れが広がっている。
インクなのか、それとも――
.
- 862 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:45:20 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「ツンの手伝いはどうしたんだお?」
ζ(゚д゚;ζ「もわああああっ!?」
肩を叩かれた。
びくりと跳ね上がり、足を踏み外す。
( ^ω^)「おっとっと」
ζ(゚д゚;ζ「……なっ、内藤さん……」
抱き留めてくれた内藤の名を呼ぶデレの声は、僅かに震えていた。
内藤の口元に浮かぶ笑みが、いつもよりも深い。
( ^ω^)「ここの本の中には生きてる奴も混じってるんだから、無闇に触っちゃ駄目だお」
デレの手から本を抜き取って、元の位置に戻した。
戸が閉められる。
彼が本を視界に入れないようにしていたので、やはり、あれは血の跡なのかもしれない。
- 864 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:48:11 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「……まあニュッ君がキツく言い聞かせてあるし、
演じさせられることはない筈だけど」
ζ(゚、゚;ζ「言い聞かせる?」
( ^ω^)「折角連れ戻したのに、また外に行って
赤の他人を巻き込むようなことがあっちゃ堪ったもんじゃないお。
だから『勝手な真似したら燃やす』って――言い聞かせるっつうか脅しだおね」
至近距離で見つめ合う。
瞳で咎められている気がして、デレは目を逸らした。
( ^ω^)「……ショボンの入れ知恵かお」
ζ(゚、゚;ζ「っ!」
( ^ω^)「デレちゃん分かりやすうい」
内藤が離れる。
てっきり叱られるなり何なりされるかと思ったのだが、
彼は、そのままドアへと歩いていった。
ζ(゚、゚;ζ「……内藤さん?」
( ^ω^)「デレちゃん」
立ち止まる。
内藤は、ドアの向こう――自室を指差し、デレに振り向いた。
- 867 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:53:07 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「ショボンの奴、僕の部屋にも入れって言わなかったかお?」
ζ(゚、゚;ζ「え」
たしかに、内藤の部屋のことも話には上がっていた。
だが、ここで頷いたら、内藤がショボンに対して怒りを覚えてしまうのでは。
肯定も否定も出来ずにいるデレに焦れたのか、彼は予想外な提案をしてきた。
( ^ω^)「来るかお。部屋」
*****
- 869 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:55:01 ID:IaMypzNAO
⌒*リ´・-・リ
( ^ν^)
ヴィプデパート、地下。フードコート。
ニュッとリリが隣り合って着席している。
ニュッは、洋菓子店の前でアイスやケーキを選んでいるキュートとクックルを眺めていたが、
ふとリリの方へ顔を向けた。
ファミリーレストランからここへ来るまでにも、「不幸」はリリを襲い続けた。
お蔭様で、残す山場はあと一つ。
( ^ν^)「……リリさーん」
⌒*リ´・-・リ「?」
( ^ν^)「鞄なんだけど」
⌒*リ´・-・リ「やだ」
( ^ν^)「……何で」
⌒*リ´・-・リ「おばあちゃんがくれた宝物だもん」
( ^ν^)「取らねえよ。……触りもしないから、中身だけ見せてみてくれねえか」
- 870 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 00:58:28 ID:IaMypzNAO
⌒*リ´・-・リ「……」
疑いの眼差し。
そんなに信用がないか。
( ^ν^)「ちょっとだけ」
⌒*リ´・-・リ「……んー」
リリは少し躊躇った後、ショルダーバッグをニュッへと寄せた。
「本当に取らない?」という質問に頷く。
⌒*リ´・-・リ「……じゃあ、はい」
渋々、という雰囲気を隠しもせず、留具を外して鞄を開く。
中には玩具と人形がいくつか。
それに混じって、
( ^ν^)(やっぱり持ってたか)
柳色の、モララーの本。
タイトルも記憶と一致した。
ニュッは本を指差し、問い掛ける。
- 871 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:00:29 ID:IaMypzNAO
( ^ν^)「この本、お前のか?」
⌒*リ´・-・リ「え?」
鞄の中を覗き込んで、リリは首を傾げた。
あれ、と不思議そうな声をあげる。
⌒*リ´・-・リ「おじいちゃんの」
( ^ν^)「祖父さんの?」
⌒*リ´・-・リ「うん」
本をテーブルの上に乗せ、リリは鞄を閉じた。
辿々しい手つきでページをめくっていく。
どうやら彼女の祖父が所有していたらしい。
リリは何かの折に触れてしまったのだろう。
⌒*リ´・-・リ「おじいちゃんに返さなきゃ……」
返されては困る。
というより、こちらに返してほしい。
焦ったニュッは、リリの肩に手を乗せた。
- 874 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:04:24 ID:IaMypzNAO
( ^ν^)「リリ。これ、ええと――俺のなんだ」
⌒*リ´・-・リ
何言ってんだこいつ、というような目を向けられた。
いくらなんでも唐突すぎたか。
( ^ν^)「いきなり何だよっつう話だろうが。
……あれだ。あー……とりあえず、俺が持ってたやつなんだよ。絶対に」
⌒*リ´・-・リ「……」
( ^ν^)「返してくんねえかな」
どう考えても言葉のチョイスとタイミングを間違えた。
たとえばショボンならば上手いこと言いくるめることも出来るのだろうが、
自分にはそういうスキルがない。
頬を掻き、新たな言葉を探す。
( ^ν^)「……んんと」
o川*゚ー゚)o「ただいまー」
――がしゃりと、テーブルに目の痛くなるような配色のトレイが乗せられた。
リリが本を鞄に戻してしまう。
空気読め。
- 875 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:06:30 ID:IaMypzNAO
o川*゚ー゚)o「はい、リリちゃん、シフォンケーキ。……あ、お話の邪魔しちゃった?」
( ^ν^)「……何も」
バニラアイスが添えられたシフォンケーキをリリに差し出すキュート。
その後ろから、もう一つのトレイを持ったクックルがやって来る。
彼はニュッにコーヒーを渡しながら、声を潜めた。
( ゚∋゚)「どうだった」
( ^ν^)「本は確認出来た」
( ゚∋゚)「そうか。……あと少しで終わるんだよな?」
( ^ν^)「ん」
o川*゚ー゚)o「よいしょっと。いただきまーす」
席に着き、キュートが手を合わせる。
彼女の前には小振りの器に盛られた2種類のアイス。
色からして、チョコレートとストロベリーか。
キュートといいリリといい、こんな季節にアイスクリームを食べて寒くないのだろうか。
- 877 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:09:13 ID:IaMypzNAO
⌒*リ*´・-・リ「おいしい」
o川*゚ー゚)o「そう? 良かった。
――これ食べたら、今度こそリリちゃんを交番なり警察なりに預けなきゃね。
正直、今の状況、結構危険だと思うし」
( ゚∋゚)「危険って何が?」
o川*゚ー゚)o「迷子連れ回してさ……下手すりゃ誘拐と判断されかねないよ、このご時世。
何でデパートに寄る必要があるかなあ」
キュートの視線がニュッに突き刺さる。
気付いていないふりをして、コーヒーカップを口元に運んだ。
o川;゚ー゚)o「……しっかしまあ、リリちゃん、随分ツイてないよね。
植木鉢が降ってきたり石が飛んできたり階段から落ちかけたり……。
どこかの組織にでも狙われてんの?」
( ゚∋゚)「全部ぎりぎりで躱せてるし、ある意味ツイてるんじゃないか」
クックルには、リリが怪我をする恐れはないということを既に伝えておいた。
しかしキュートはそれを知らない。
今や、リリ以上にびくびくしている。
不運さで言えば、折角のデートなのにこんな羽目になっているキュートも
なかなかのものだと思うが。
( ^ν^)(そういや、こいつら本来なら仲良くきゃっきゃきゃっきゃデートしてたんだよな)
( ^ν^)
( ^ν^)(メシウマ)
*****
- 880 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:11:53 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「僕もね、恐いんだお」
内藤の部屋。
椅子に腰掛けたデレ、向かいのベッドに座る内藤。
デレの手には一冊の大学ノート。
部屋に入るなり、内藤に手渡されたものだ。
ζ(゚、゚*ζ「恐いって……」
( ^ω^)「初めは――こんな言い方じゃあ気分が悪いかもしれないけど、
本探しに役立ってくれればそれでいいと考えてたんだお。
……君のことだお、デレちゃん」
( ^ω^)「素直だし、僕らの話を信じてくれるし、ショボンみたいに金を要求しないし。
頭も良くない。こんな人材、なかなかいないお。
会えてラッキー、程度の認識で……」
( ^ω^)「いずれ君が離れていくまでの間だけ、利用しようと思っていたお」
ζ(゚、゚;ζ「……離れてなんかいきません」
( ^ω^)「うん。離れるどころか、君と僕達の関係はどんどん深くなっていったお。
どんな事件に巻き込まれても逃げなかった。嬉しかったお」
( ^ω^)「だからこそ、恐くて仕方なくなっていったんだお」
内藤の気持ちは、デレにも分かった。
ショボンがしていた心配と同じこと。
デレが真実を知ったときに、怯えて離れていってしまうのではないか。
そんな不安。
- 884 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:14:52 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「デレちゃんといるのは楽しいお。
出来れば、何の疑問も持たずに、ずっと僕達と仲良くしてほしかった」
( ^ω^)「――けど、そんなの、当然不可能だおね。
僕だっていつまでも隠し通せるとは思ってなかったし」
( ^ω^)「なら、いっそのこと、さっさと説明してしまおうかとも思ったけど。
やっぱり、一歩踏み出す勇気がなかなか出なかったお」
だから、と。
内藤は言葉を繋ぐ。
( ^ω^)「デレちゃん。テストをしてみるお」
ζ(゚、゚*ζ「テスト?」
( ^ω^)「君に、僕らを受け入れられるだけの器があるか。
それとも、ただ単に阿呆すぎて、事を深刻に考えていないのか。
確かめるんだお」
さりげなく馬鹿にされた気がしたが、余計な口を挟む空気ではなかったので
はあ、と生返事で答えておいた。
内藤が、デレの持つノートを手で示す。
色褪せた表紙には何も書かれていない。
- 885 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:15:34 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「僕が書いた小説だお。
流し読みでいいから、軽く目を通してみてほしいお」
しばらく内藤と見つめ合い、小さく頷いた。
ノートを開く。
横書きの文章。
静かに、デレは文字を追っていった。
*****
- 887 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:18:13 ID:IaMypzNAO
⌒*リ´・-・リ「いいよ」
ニュッは、思わずリリを二度見した。
彼女の答えを反芻し、その意味を理解して。
あまりの呆気なさに、二の句を継げずにいた。
――現在、4人は、交番へと向かっている。
前を歩くクックルとキュートの後ろを、少し離れてニュッとリリが追うような並びだ。
道すがら、ニュッはリリに、件の本を譲ってもらえないか交渉した。
それに対する返事が、先程のリリの台詞である。
どうやら決め手となったのは、
( ^ν^)『俺の宝物なんだよ』
ニュッの、この一言らしい。
リリがショルダーバッグを宝物だと称していたのに乗っかった発言だったが、
ニュッ本人は、言った直後に「自分のキャラじゃない」と内心身悶えしていた。
そこへ「いいよ」などと返されたものだから、様々な感情が押し寄せて
妙な間が生まれてしまった。
- 889 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:22:41 ID:IaMypzNAO
⌒*リ´・-・リ「宝物なんでしょ。
リリも、鞄、他の人に取られたら嫌だもん」
⌒*リ´・-・リ「おじいちゃんに、人のもの取ったら駄目だよって言っておくね」
( ^ν^)「……それは、やめてやれ」
孫から謂れないお叱りを受けるのは少々可哀相だ。
どうせ叱るなら、こちらの親戚を叱ってほしい。
リリは鞄を開け、ニュッに本を突きつけた。
受け取ったニュッが前方を見遣る。クックルと目が合った。
クックルが声を出さずに口を動かす。
何を言ったかは分からないが、恐らく「成功したか」とか、そんなところ。
顔の横に本を掲げてみせると、彼は親指を立てた。
横断歩道に差し掛かる。
歩行者用の信号は赤色。4人は足を止めた。
( ゚∋゚)「キュート」
o川*゚ー゚)o「ん? 何?」
( ゚∋゚)「ちょっとだけ時間をくれ」
o川;゚ー゚)o「えー。今度は何さ」
- 890 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:25:46 ID:IaMypzNAO
ニュッは、屈みながらリリの肩を叩いた。
残る「不幸」は一つだけだが、内容が内容だ。
下手をすれば、今すぐにでも起こりかねない。
朗読で終わらせておいて損はないだろう。
( ^ν^)「リリ、ちょっと、俺が言うことを繰り返してくれるか」
⌒*リ´・-・リ「? うん」
( ^ν^)「それじゃあ……」
「――リリ!」
不意に、聞き慣れぬ声が飛んできた。
横断歩道の向こう。
女性が、ニュッ達を――リリを、見つめている。
- 891 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:27:35 ID:IaMypzNAO
リハ;゚ー゚リ「リリ! どこ行ってたの!」
⌒*リ´・-・リ「……ママだ」
o川*゚ー゚)o「え、ママ?」
リリの頬に、朱が差した。
瞳が潤む。
これは――まずい、かもしれない。
( ^ν^)「リ……」
⌒*リ*´・-・リ「ママ!!」
制止しようとしたニュッの手を避けて。
リリは、道路に飛び出した。
.
- 892 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:29:45 ID:IaMypzNAO
リハ;゚ー゚リ「……リリ!」
⌒*リ*´・-・リ「ママ、ママぁ!」
リハ;゚ー゚リ「駄目! 戻って、リリ――」
⌒*リ*´・-・リ「――え?」
横断歩道の中程に到達したリリ。
その真横から、車が。
.
- 894 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:31:29 ID:IaMypzNAO
.
- 895 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:32:50 ID:IaMypzNAO
o川*゚−゚)o
悲鳴と、複数のブレーキ音が場を支配している。
立ち尽くすキュートの横を、ニュッが駆け抜けていった。
( ∋ )
⌒*リ;´・-・リ「……くっくる……?」
道路の真ん中。
リリを抱え、頭から血を流して倒れている大男。
おかしなことに、キュートはしばらく、彼がクックルであるのを認識出来なかった。
飛び出す瞬間を見ていたにも関わらず、だ。
- 896 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:36:15 ID:IaMypzNAO
( ^ν^)「クックル」
( ∋ )「……ああ……」
ニュッがクックルの腕を引く。
クックルは頭を押さえ、息も絶え絶えといった様子で身を起こした。
居合わせた通行人の1人が、おとなしくさせておけと叫ぶ。
その声で我に返ったキュートは、ニュッ達のもとへ近寄って携帯電話を取り出した。
o川;゚−゚)o「きゅ、救急車!」
( ^ν^)「いらねえ」
o川;゚−゚)o「はあ!? ――あ、ちょっと!!」
ニュッの手が携帯電話を叩き落とす。
彼の横で、クックルはよろよろと立ち上がった。
(; ∋ )「……リリ、母さんのところに行け。見付かって良かったな」
⌒*リ;´・-・リ「え……」
リハ;゚ー゚リ「リリ……!」
クックルを撥ねた車の運転手に、ニュッが何か渡している。
現金に見えたが――何故、そんなものを。
リリの母親が娘を抱きしめた。
彼女もニュッやクックルの行動を不可解に感じているのか、
口をぱくぱくと開閉させるだけで、何も言えずにいる。
- 898 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:40:21 ID:IaMypzNAO
クックルが歩き出す。
先程まで呼吸するのも辛そうだったのに、足取りは存外普通だ。
野次馬達は呆気にとられた様子で道をあける。
o川;゚−゚)o「どこ行くの!?」
キュートは慌ててクックルに手を伸ばしたが、後ろからニュッに肩を掴まれた。
それから、突き飛ばすような勢いで押し退けられる。
( ^ν^)「来るな」
o川;゚−゚)o「……!」
立ち竦む。
ニュッの声や目が、ひどく、冷たい。
( ^ν^)「……悪いなリリ。クックルなら大丈夫だから」
一方で、リリに対しては気遣うような素振りを見せた後、
彼はクックルの後を追っていった。
- 899 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:42:36 ID:IaMypzNAO
数分前までの喧騒はどこへやら、現場に残された人々はぽかんとしたまま硬直して。
⌒*リ;´・-・リ「……クックル……」
そこに、リリの呟きだけが、零れ落ちた。
.
- 900 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:44:45 ID:IaMypzNAO
人気のない路地裏。
ニュッは携帯電話を閉じた。
( ^ν^)「ショボンに電話した」
(;゚∋゚)「ああ、ショボンか……」
( ^ν^)「今から来るそうだ」
(;゚∋゚)「すまん、ニュッ君」
( ^ν^)「……わざわざ助けなくても、リリは轢かれなかった」
(;゚∋゚)「そうは言っても、いざ目の前であんな状況になられるとな。
……あの運転手にも悪いことしたな」
( ^ν^)「口止めはしといた。意味があるかは知らねえが」
クックルが顔の血を乱暴に拭った。
血は、とっくに止まっている。
( ^ν^)「怪我の具合は?」
(;゚∋゚)「ああ――」
(;゚∋゚)「もう、消えたと思う」
*****
- 901 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:45:45 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚*ζ
デレはノートを閉じた。
小説は、ジャンルで言うならばファンタジーに近いものだった。
幼い姉妹が、魔法を使える祖父と共に生活するという話。
可愛らしい動物なども多く登場していた。
( ^ω^)「みんなに比べたら文章も酷いもんで、お恥ずかしい代物だけど」
ζ(゚、゚*ζ「そんなこと……」
( ^ω^)「で。何か、感想はあるかお」
ζ(゚、゚*ζ「感想ですか?」
感想。
と言われても、内藤の指示通りに斜め読みしただけだから、
内容についてのコメントを求められても困る。
黙り込むデレ。
内藤は優しく微笑んだまま、足を組み、じっと答えを待っている。
- 902 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:47:46 ID:IaMypzNAO
ζ(゚、゚;ζ(んー)
これはテストだという。
ならば当然、図書館に関係ある話の筈。
改めて最初のページを開いた。
主な登場人物は姉妹と祖父。
祖父?
ζ(゚、゚*ζ「……おじいさん」
( ^ω^)
内藤が、足を組み替える。
- 903 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:49:48 ID:IaMypzNAO
祖父。
子供達。
魔法。
不思議な祖父。
不思議な力。
不思議な――話。
.
- 905 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:50:46 ID:IaMypzNAO
かちりと、鍵を回す音が響いたような気がした。
.
- 906 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:51:52 ID:IaMypzNAO
――ショボンめ。
意地の悪い言い方をしてくれたものだ。
ショボンに相談した時点で、デレが対面したことのない図書館の住人は2人いた。
「鍵」はデミタスではない。
もう1人の方。
デレと会ったことがなく、これから先も会うことは叶わない人物。
ζ(゚、゚*ζ「これに出てくるお爺さんのモデルって、もしかして――」
内藤モナー、その人。
.
- 908 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:53:46 ID:IaMypzNAO
( ^ω^)「……これで気付かないくらい頭が悪かったら、どうしようかと思ってたお」
良かったと、内藤が笑う。
いつもの笑顔なのに。
どこか、怯えの色が浮かんでいた。
( ^ω^)「鍵小説、ってのに近いかもしれないお。
厳密に言えば違うだろうけど」
ζ(゚、゚*ζ「……何です、それ」
( ^ω^)「実際にあった出来事を、人物の名前を変えたり年代をずらして描写することで
フィクションに見せかけた話のこと……だったかお。たしか」
ζ(゚、゚*ζ「――実際にあった出来事……」
なら、この姉妹は内藤とニュッのことで。
動物は、作家達。
内藤は棚の上から写真立てを取ると、中から写真を引き抜いてデレに渡した。
( ^ω^)「少し、話が長くなると思うから。
ツン達に、先にご飯を食べとくよう言ってくるお」
- 909 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 01:55:30 ID:IaMypzNAO
内藤が部屋を出ていく。
ドアが閉まると同時に、デレは写真を見下ろした。
前列に座る5人と、後列に立つ6人の計11人の男女。
後ろの6人は、左からクックル、貞子、でぃ、しぃ、ハロー、モララー。だと思う。
10代半ばから後半、ハローとモララーに至っては小学生ほどに見えるが、
今の面影もちゃんとある。
前の5人は左からデミタス、ツン、ニュッ、内藤、老人。老人は恐らく祖父だろう。
ニュッはハロー達同様に小学生くらい。
内藤は高校生かそれより少し上といったところ。
ツン、は。
ζ(゚、゚*ζ「……」
デレは何度も瞬きをした。
ぎゅっと閉じた瞼に力を込め、ゆるゆると開く。
それをいくら繰り返そうと、写真の中のツンは変わらない。
- 910 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 02:00:47 ID:IaMypzNAO
ξ゚ー゚)ξ
今とまったく同じ、16歳の姿のままだ。
ただ一つ違うとすれば、デレが見たこともないような、
柔らかな笑みを浮かべているという点だけ。
多分、写真を撮ったのは大体10年くらい前。
当時のツンは5、6歳程度の筈である。
デレは、動じない自分に驚いていた。
動じないというよりは、思考がぼんやりとしている、の方が正しい。
核心めいた部分に勘づいてはいるのに、それをはっきりと認めることを躊躇ってしまう。
単に焦りを感じていないだけで、一応混乱はしているのかもしれない。
- 911 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 02:02:23 ID:IaMypzNAO
数分間、デレは写真に目を落としていた。
凍りついていた思考は、ドアが開く音で動き出す。
( ^ω^)「……あいつら、既に食事始めてやがったお……」
愚痴りながらドアを閉める内藤。
右手に、サンドイッチと2本のペットボトルが乗った盆を持っている。
( ^ω^)「お腹すいてるだろうし、食べながら聞いてくれお」
デレの傍らにある机に盆を置き、内藤はペットボトルを一本差し出した。
小さめのもの。
パッケージからするに、ストレートティーらしい。
( ^ω^)「ちゃんと茶葉から入れる方がいいかお?」
ζ(゚、゚*ζ「これでも構いません。……ありがとうございます」
( ^ω^)「うん。じゃあ――話を始めるかお」
サンドイッチを一つ咥え、デレの手から写真を取り上げて
内藤は先のようにベッドに腰を下ろした。
- 913 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 02:05:14 ID:IaMypzNAO
デレは、膝に乗せていた開きっぱなしのノートを持ち上げる。
鍵小説。
人物の名前や性別などを変えているが、物語は事実に即したもの。
これは、ある種の私小説だ。
( ^ω^)「途中で聞くのが嫌になったら、言ってくれお」
ζ(゚、゚*ζ「……最後まで、聞きます」
内藤が頷き、サンドイッチを咀嚼していく。
きっと、それを食べ終えたときに、話は始められるだろう。
覚悟を決めるため。
ノートの最初の一文を、再度頭の中で読み上げた。
- 914 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/15(月) 02:07:50 ID:IaMypzNAO
『 私の祖父は、まるで神様のようだった。 』
第八話 終わり
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