- 559 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:35:42 ID:O2WumhgwO
――若菜君。
(‘_L’)『はい』
( ´∀`)『孫とは可愛いものモナね』
十数年前の、夏が近付き始めた頃であったか。
膝に乗せた本を眺めながら呟いた知人の言葉に、フィレンクトは苦笑した。
ふ、と零れた息が、湯飲み茶碗の中身を揺らす。
茶を一口飲み、返事をした。
(‘_L’)『お珍しいことを』
本当に珍しい。
この知人は、可愛いだの何だのといった前向きな褒め言葉を滅多に口にしない。
人嫌いなのだ。
話題になっている孫とさえ、かつては年に一度会うか会わないかといったほど。
今だって、部屋の中にいるフィレンクトに対し、知人は縁側に座っている。
至近距離で向かい合ったことなど、数えるくらいしかない筈だ。
- 561 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:37:47 ID:O2WumhgwO
( ´∀`)『僕も、あんなに可愛いものだとは思ってなかったモナ』
はて、どうしてこんな人と仲良くしているのかとフィレンクトは首を捻る。
たしか、彼がこの家に押しかけてきたのが出会いだった。
若菜家――ここではなく、本家の方――は、大量の文献を保管している。
それを知った彼が、人嫌いなくせに無駄に豊富な人脈を辿って
フィレンクトのもとに来たのだ。
以来、本家とのパイプとしてフィレンクトと交流を持つようになった。らしいのだが。
最近は、わざわざここまで来て雑談だけして帰るぐらいには
「友」として認識しだしてくれたようである。
その変化は、彼が息子2人を亡くし、孫を引き取ってから始まった気がする。
(‘_L’)『それで、可愛い孫がどうしたんです』
( ´∀`)『……愛情の示し方が、よく分からんモナ』
今度は苦笑に留まらず、笑い声が漏れた。
愛情、と来たか。
( ´∀`)『何を笑ってるモナ』
(‘_L’)『いや、お気になさらず』
( ´∀`)『ったく……。
……彼らの幸せのために尽力したいけれど、その限度が分からないんだモナ』
- 562 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:39:16 ID:O2WumhgwO
( ´∀`)『一から十まで僕がお膳立てしてしまっては、孫のためにはならないモナね。
かといって、程々のラインを判断するのも難しいモナ』
(‘_L’)『ろくに構ってこなかったツケですよ』
( ´∀`)『そうモナねえ……』
こくり。
知人が煎茶を飲む音がする。
ことり。
知人が湯飲みを置く音がする。
( ´∀`)『でも、僕の見立てによれば――君も、結構なジジ馬鹿になりそうモナ』
(;‘_L’)『ジジ馬鹿ですか』
( ´∀`)『しかも君の奥さんなんか特に孫への愛情が凄そうモナ。
君も彼女も、暴走しないように注意するモナよ』
どう暴走するというのだろう。
気を付けます、とだけ返してから、茶のおかわりはいらないか訊ねた。
それから数年後、フィレンクトは、知人の忠告を思い知らされることとなる。
- 563 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:40:29 ID:O2WumhgwO
第七話 あな気難しや、ミステリ小説・後編
.
- 564 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:41:19 ID:O2WumhgwO
舌と喉が、ひりつく。
廊下を歩きながらショボンは後ろの荒巻へ呼び掛けた。
(´・ω・`)「荒巻さん」
/;,' 3「はい」
(´・ω・`)「……ちょっと、水を一杯もらえます?」
/;,' 3「水?」
(´・ω・`)「塩辛がなかなか強力でして」
――さあ、探偵様の晴れ舞台だ。
外の吹雪は、弱まり始めている。
*****
- 565 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:42:38 ID:O2WumhgwO
(;><)「あのお兄さん、どうしたんですか?」
ζ(゚、゚;ζ「さあ……」
ビロードの問いに、デレは答えられなかった。
訊かれても困る。ニュッの考えなど、デレに分かる筈がない。
目を逸らし、文机を見下ろした。
ペンや定規が収まっているペン立て。
大学ノート、メモ帳。
そして薬の入ったケース。
川;` ゥ´)
ヒールは睡眠薬が気になっているようだったが、どうしたのだろう。
( <●><●>)「……何を探してるんですか?」
ζ(゚、゚;ζ「え」
ワカッテマスに声をかけられ、ぎくりとした。
「真犯人」。
涼しい顔をして、その手でフサを殺した――かもしれない男。
- 566 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:44:15 ID:O2WumhgwO
( <●><●>)「アルバムを見付けたときの反応からして、本を探してるようですが」
鋭い。
デレが詰まる。
ζ(゚ー゚;ζ「えっと……」
ノパ听)「私も探すの手伝おうか?」
ζ(゚ー゚;ζ「いえっ、大丈夫です大丈夫です!」
( <●><●>)「ヒートはおとなしくしていなさい。
身重の体で無茶しないように」
ノパ听)「無茶って程じゃないだろー」
その内、複数人の足音が近付いてきた。
若菜夫妻の寝室と居間にいる全員が黙り込み、廊下に注目する。
間もなく、ショボンが現れた。
(´・ω・`)「やあ」
ξ゚听)ξ「ショボン」
(‘_L’)「……そろそろ、終わりか」
川;` ゥ´)「え?」
- 567 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:46:43 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「全員!」
人差し指を立て、腕を真上に伸ばす。
その手を振り下ろし、居間の畳へ向けた。
(´・ω・`)「正座!」
静寂。
内藤が白い目でショボンを見た。
( ^ω^)「……いきなり何なんだお、お前は」
(´・ω・`)「名探偵ショボン様の華麗なる推理をお披露目する。
お前らは拝聴する立場なんだから尊敬と感謝の念を込めて正座しろ」
(;><)「何か急にすごく偉そうなんです!?」
(;<●><●>)「またお酒飲んだんですか?」
ξ゚听)ξ「あれで平常通りです」
(´・ω・`)「これから長いこと話すからね。ちょいちょい地が出るけど、お気になさらず」
どうやら猫を被るのをやめたらしい。
後ろに控えていた荒巻達にも正座を強要している。
- 568 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:48:28 ID:O2WumhgwO
(‘_L’)「――全て、分かったのか」
(´・ω・`)「ある程度。まあ、まず最初に確認したいことがありますが。
おら正座だ正座」
(#^ω^)「ぐぬっ……てめっ、ふざけんなお……!」
内藤の顔面に足の裏を押しつけるショボン。
探偵というよりチンピラだ。
ξ゚听)ξ「正座とは言わないけど、みんな座りましょう。
長い話になるようだし」
(´・ω・`)「犯人さん、名乗り出るなら今の内ですよおー。はい挙手ー」
勿論、手を挙げる者はいなかった。
ショボンは全員の顔を見渡し、最後にヒールを睨む。
(´・ω・`)「いいんだな」
川;` ゥ´)「……」
(´・ω・`)「……よし、じゃあ始めようか」
- 569 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:50:44 ID:O2WumhgwO
ワカッテマスやヒート達が腰を下ろしていく。
ヒールと内藤の2人はショボンの指示により、一番前、皆に向かい合う形で座らされた。
ζ(゚、゚;ζ「あ、ニュッさん……本、どうなったんです?」
居間に上がり込むニュッとデミタス。
デレがニュッに問い掛けると、彼は首を小さく振った。
( ^ν^)「……関係なかった」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
( ^ν^)「本、関係なかった」
ニュッがどっかりと座り込んだ。
彼を眺めながら、デレは首を傾げる。
事件に本が関わっていないとなると。
――真犯人が、ワカッテマスではない可能性があるのか。
(;><)「犯人って誰なんでしょうね」
ζ(゚、゚;ζ「……さあ……分かんないや、ほんとに……」
全員が居間に収まることは出来なかった。
仕方なく、デレとツン、ビロードは若菜夫妻の部屋に落ち着いた。
- 570 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:52:14 ID:O2WumhgwO
デレの両隣にそれぞれツンとビロード。
目の前に胡座をかいたニュッ、その隣にデミタスがいる。
ふと横へ目をやると、ビロードが近くにあった文机に寄り掛かっていた。
もう3時を過ぎている。
状況が状況であるし、子供のビロードにかかる負担は計り知れない。
ζ(゚、゚*ζ「ビロードちゃん、大丈夫? 辛いなら横になってもいいよ。
膝枕しようか?」
( ><)「平気なんです……私も、探偵さんの推理が気になりますし」
(´・ω・`)「いい心掛けだ。――ビロードちゃん、君に一つ訊きたいことがある」
( ><)「何です?」
1人だけ立っているショボンが、ビロードのもとへ歩み寄ってきた。
しゃがみ込み、目線を合わせる。
(´・ω・`)「君はどうしてあの現場にいたのかな?」
( ><)「どうして、って?」
(´・ω・`)「ヒールさんの話とブーンの話、どちらにおいても、
君は突然現場にやって来たことになる。
何のためにフサさんの部屋へ行ったんだい?」
- 571 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:53:58 ID:O2WumhgwO
( <●><●>)「……何が言いたいんですか」
(´・ω・`)「おいおい焦るな焦るな。
言ったろ、最初に確認したいことがあるって」
ワカッテマスとショボンが睨み合う。
不穏な空気に怯えたか、ビロードは慌ててショボンの質問に答えた。
(;><)「あの、トイレに行ったんです」
(´・ω・`)「うん」
( ><)「そしたら、トイレの前に血が落ちてるのに気付いて……。
フサさんの部屋の方に続いてたから、
てっきりフサさんが怪我したのかと思って、様子を見に」
(´・ω・`)「それで?」
( ><)「ヒールさんが廊下にいて――あとは、ごめんなさい、あんまり覚えてないんです」
(´・ω・`)「まあ、思い出したいような光景じゃないしね。ありがとう。
トイレは? ちゃんと済ませた?」
(;><)「あ、そういえば……。すっかり尿意が失せちゃったんです……」
(´・ω・`)「そう。行きたくなったら言ってね」
- 572 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:55:28 ID:O2WumhgwO
ショボンは立ち上がり、内藤の隣へ移動する。
腕を組み、目を閉じ、深呼吸を一つ。
瞼を持ち上げた。
(´・ω・`)「まずはヒールさんの証言を崩そう」
ヒールが身を竦める。
ショボンは、彼女の後ろに立った。
(´・ω・`)「この人の話は、どうにもおかしい。
ブーンとの攻防に荒巻さん達が全然気付かなかったり、
近場にいる人間ではなく、わざわざ遠くにいるフサさんに助けを求めたり、ね」
(´・ω・`)「しかも――うちの優秀な目撃者によれば、
ヒールさんとフサさんは喧嘩をするくらい仲が悪かったそうじゃないですか」
川;` ゥ´)「……う……」
(´・ω・`)「さあ、ヒールさん、何か言いたいことは?」
川;` ゥ´)「……」
ノハ;゚听)「ヒール?」
妹の名を呼ぶヒートの声は、震えていた。
――どうして反論しないの。
ぽつりと落ちた問いに、ヒールは答えない。
- 573 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 18:58:12 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「ところで、ヒールさんとフサさんの不仲について皆さんご存知でした?」
/;,' 3「は……たまに、言い争う声がしましたが……。
ピャー子が『何でもない』と申しますもので、大事には考えておりませんでした」
J(;'ー`)し「それに、フサ様が身の回りの世話をピャー子に頼んでおりましたもの。
ピャー子のことを気に入っていたのだと、てっきり」
ζ(゚、゚;ζ(……そんなわけない)
デレは、心中でカーチャンの言葉を否定した。
フサがヒールに好意を持っていた筈がない。
ミ#,゚Д゚彡『いつもいつも……てめえなんか呼んでねえんだよ!!』
でなければ、あんなことを言うだろうか。
(´・ω・`)「それはフサさんから直接聞きました?」
J(;'ー`)し「いえ……ピャー子から」
(´・ω・`)「へえ」
ノハ;゚听)「――ま、……待って、ヒール、嘘つくような奴じゃないんだ……」
川;` ゥ´)「……姉さん」
- 574 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:00:16 ID:O2WumhgwO
ノハ;゚听)「ヒール、フサさんと仲良かったんだよな? なあ……」
( <●><●>)「……落ち着きなさい、ヒート」
(´・ω・`)「どうなんです、ヒールさん」
川;` ゥ´)「……あ、」
(´・ω・`)「フサさんとの仲」
川;` ゥ´)「――」
川;` ゥ´)「……良く、なかった……」
ひゅう、と、ヒートが息を吸い込む音が鳴った。
ヒールは俯く。
(´・ω・`)「と、いうわけで。
彼女がフサさんの部屋に逃げたってのは少し納得いきませんね」
( <●><●>)「しかし、だからって証言を嘘だと決めつけることは出来ません」
(´・ω・`)「ええ、そうです。もう少し話をしましょう。
――ヒールさん」
川;` ゥ´)「……何だよ」
(´・ω・`)「ブーンが、凶器の包丁を取るために台所に来たんでしたっけ?」
(;^ω^)「なっ……だ、台所なんざ入ってないお!」
川;` ゥ´)「う、うん……来た」
- 575 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:01:22 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「どうしてブーンだと分かったんです?」
川;` ゥ´)「……は?」
(´・ω・`)「台所の電気はつかなかった。真っ暗でしたね」
川;` ゥ´)「懐中電灯――」
(´・ω・`)「荒巻さんかカーチャンさんだと思って隠れたと言ったでしょう。
懐中電灯の明かりは消した筈だ。でなきゃ隠れた意味がないんだから。
ねえヒールさん、何でブーンが入ってきたと思ったんですか?」
(´・_ゝ・`)「……楽しそうだなあ」
ζ(゚、゚;ζ(うん)
デレの斜め前でデミタスが囁く。
詰問するショボンは、実に楽しそうだった。
- 576 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:03:33 ID:O2WumhgwO
川;` ゥ´)「――匂い!」
(´・ω・`)「あ?」
川;` ゥ´)「香水……内藤さんの香水の匂いがしたから!」
内藤が青ざめる。
たしかにあんな甘い香りを放っていれば、すぐに内藤だと分かるだろう。
しかしショボンは動じるでもなく、寧ろ――尻尾を掴んだと言いたげに。
口の端を吊り上げた。
(´・ω・`)「あんた、嘘ばっかりだ」
川;` ゥ´)「……は……?」
(´・ω・`)「香水の匂いがした。ふうん。香水ねえ。……よく匂いに気付けたな」
(´・ω・`)「あんな、醤油くっせえ部屋の中で」
川;` ゥ´)「……!」
- 578 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:08:15 ID:O2WumhgwO
( <●><●>)「醤油?」
(´・ω・`)「ヒールさんは、台所の床に誤って醤油をぶちまけていた。
おかげで台所には醤油の臭いが充満してたんだ。
だよねえ、デミタス」
唐突に話を振られ、デミタスは一瞬ぽかんとしていた。
それから慌てて咳払いをし、こくり、頷く。
(´・_ゝ・`)「うん。鼻が曲がりそうだった」
(´・ω・`)「あの中で、ブーンの香水の匂いを嗅ぎ取れたって?
どんな鼻してんだ?」
川;` ゥ´)「――あう……っ」
ノハ;゚听)「……」
/;,' 3「……嘘だったのか? お前の話、全部……」
(´・ω・`)「嘘でしょうよ、勿論。
ブーンにしたって、あの暗闇の中で包丁を探そうとなんてするわけがない」
- 580 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:10:16 ID:O2WumhgwO
うなだれるヒール。
ショボンが口を閉じ、しばし沈黙が流れた。
話を再開する。
(´・ω・`)「勝手に喋りますよ。
ワカッテマスさん。たしか、あなたが持っていた睡眠薬が減っていたとか」
( <●><●>)「分かりませんよ。記憶違いかもしれません」
(´・ω・`)「あなた自身は『減っている』と思ったんでしょう」
( <●><●>)「……ええ」
(´・ω・`)「きっと、ヒールさんが持ち出したんです」
J(;'ー`)し「睡眠薬を? 何のために……」
(´・ω・`)「フサさんに飲ませるために」
相手は大の男だ。抵抗されちゃあ敵わない。
フサさんの動きを封じた方が楽に決まってる」
- 582 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:13:37 ID:O2WumhgwO
ξ゚听)ξ「どうやって飲ませるのよ」
(´・ω・`)「寝酒だよ。酒に混ぜた。
ワカッテマスさん、酒と睡眠薬を合わせたときの危険性は知ってますね」
(;<●><●>)「……睡眠薬とお酒を同時に摂取すると、薬の効果が強まります」
(´・ω・`)「うん、それを狙ったんだろう。
ついでに、つまみの塩辛にも細工がしてあったね」
(;><)「細工って、おつまみにですか?」
(´・ω・`)「大量の調味料を加えて、とんでもない味に仕上げてあった。
――推測出来る理由は二つだ」
ショボンが、右手の人差し指を立てた。
(´・ω・`)「まず一つ。味を誤魔化すため。
薬を混ぜたことで酒の味に変化が生じた場合、
フサさんにバレてしまう恐れがあった」
(;^ω^)「……だから、フサさんの舌が馬鹿になるようにした、ってことかお」
内藤が続きを口にする。
頷いて返し、2本目、中指が天を差した。
(´・ω・`)「二つ。飲酒のペースを速めるため。
あの塩辛を食ったとなると、さぞ酒を飲みまくったことだろう。
僕だって、まだ水が欲しくて堪らないくらいだ。一口食べただけなのに」
言って、舌先を噛んでみせた。
よほど酷い味だったらしい。
デレは、その塩辛とやらをちょっと食べてみたくなった。
- 583 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:14:41 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「何にせよ、フサさんは睡眠薬を飲み、眠りに落ちる。
後は包丁で刺してしまえば殺害完了だ」
(´・ω・`)「どうです、ヒールさん」
ヒールの肩が跳ねる。
全員の視線が彼女に集中した。
静まり返った部屋。
やがて、ヒールが口を開く。
川;` ゥ´)「……フサが、嫌いだったんだ」
独り言のような。
それは、ショボンの推理を肯定したのと同じであった。
ヒートが隣のワカッテマスに凭れかかる。
デレにはヒートの表情は見えなかったが、その背が震えていることだけは確認出来た。
- 584 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:17:26 ID:O2WumhgwO
J(;'ー`)し「……ピャー子、どうして……」
川;` ゥ´)「あいつ! 私に酷いことばっかり言うんだ!
それだけならまだしも、殴ったり蹴ったり……
――ずっと、ずっと殺してやりたかった……」
/;,' 3「何故わしらに言ってくれなかったんだ」
川;` ゥ´)「言ったってどうにもならないじゃないか。
本家様からの客人なんだから追い出せないし、
誰が叱ったってあいつは聞きゃあしない」
(;<●><●>)「しかし、それなら――彼のところへなど、行かなければ」
川;` ゥ´)「そしたらビロードだけがフサのところに行くことになる!
あんな奴と頻繁に関わるなんて、
ビロードにとって良くないことに決まってるだろ!」
(;><)「……」
- 585 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:18:20 ID:O2WumhgwO
川;` ゥ´)「……だから。こ、殺した……」
ヒールが右腕を押さえる。
腕に巻かれている包帯に触れた。
それを見たヒートはワカッテマスから離れ、身を乗り出させた。
ノハ;゚听)「――け、怪我……」
(´・ω・`)「うん?」
ノハ;゚听)「ヒールは腕に怪我してる!」
(´・ω・`)「ああ、ブーンに切られた……ことになってる傷ね」
ノハ;゚听)「なら、やっぱり犯人はヒールじゃないだろ? その傷を付けた奴が、」
(´・ω・`)「そうやって疑いを逸らすために自らを傷付ける犯人ってのはね、いますよ」
川;` ゥ´)「……そうだよ、自分でやった……」
ノハ;゚听)「……!」
また、沈黙が下りる。
デレはビロードの様子を窺った。
顔色は悪いが、しっかりとヒールを見つめている。
どうにも、ヒートとビロードが気にかかって仕方がない。
特にヒートの動揺が酷い。席を外させた方がいいのではないか。
- 586 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:19:20 ID:O2WumhgwO
(´・_ゝ・`)「廊下の血痕は何のために?」
川;` ゥ´)「内藤さん……いや、内藤さんじゃなくても良かった。
誰かに疑いをかけるために、自分で腕を切って、血を垂らしておいたんだ。
……あくまで、私は巻き込まれた側なんだって演じるために」
川;` ゥ´)「まあ、度胸がなくて深くまで腕を切れなかったから、
結局フサの血を使ったんだけど」
(´・ω・`)「で、丁度ブーンがトイレに来たから利用したんですね」
川;` ゥ´)「あそこに内藤さんが来てなかったら、
……大旦那様を犯人に仕立て上げてたよ。
大旦那様は1人で寝てるから声をかけやすかったし」
- 587 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:20:47 ID:O2WumhgwO
ノハ;;)「う――嘘だ」
(;<●><●>)「ヒート」
ノハ;;)「何かの間違いだ!」
叫ぶ。
嘘だ嘘だと繰り返すヒート。
ワカッテマスとカーチャンが宥めるが、聞く耳を持たない。
悲痛な声が部屋を満たす。
ノハ;;)「嘘だぁああ……」
そのとき。
ショボンが、溜め息をついた。
(´・ω・`)「――ええ、嘘ですよ」
ぽんと放り投げられた言葉。
デレは唖然とした。恐らく、ヒート達も。
一体、何を言い出しているのだ。
- 588 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:23:09 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん? とち狂ったんですか?」
(´・ω・`)「私語禁止」
ζ(゚、゚;ζ「いっだあっ! 何で私だけ!?」
投擲されたペンライトが、額にクリティカルヒットした。
さながらチョークを投げる教師のような。
ツンが額を撫でてくれる。ひやりとした掌が気持ちいい。
(;><)「大丈夫ですか?」
ζ(;、;*ζ「うん……」
(;^ω^)「ショボン、嘘ってどういうことだお」
(´・ω・`)「そのまんまの意味さ。
残念でしたねヒールさん、ここまでシナリオ通りだったのに」
川;` ゥ´)「――……何、が」
- 590 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:25:43 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「ちょっと気になってたんだ。
あなた、手だけが真っ赤だった」
川;` ゥ´)「真っ赤って……血?
なら、さっき言った通りフサの血を廊下に垂らしたときの……」
(´・ω・`)「掌だけが汚れるのは妙だろう。
あれだけ血まみれだったからね、死体。
包丁を抜いたときに、かなりの出血があった筈だ」
(´・ω・`)「と、なると……返り血くらいは浴びててもおかしくない。
なのにヒールさんは両手と右腕以外は綺麗なもんだ」
川;` ゥ´)「――シーツ……」
(´・ω・`)「ん?」
川;` ゥ´)「シーツ被せて、血が飛ばないように……」
目が泳いでいる。
そんな風に言われて信じる者がどこにいよう。
(´・ω・`)「持ってきてくださいよ、そのシーツ」
川;` ゥ´)「……ぐ」
もう諦めましょうよ、と。
ショボンが笑う。
- 591 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:27:35 ID:O2WumhgwO
/;,' 3「遮木様、しかしピャー子は実際に返り血など――」
(´・ω・`)「ヒールさんは、ね」
ノハ;;)「……何なんだよ、何言ってるんだ」
(´・ω・`)「いたじゃありませんか、血まみれだった人。ヒールさん以外に」
血まみれ。
あのとき、部屋の中にいた人物で血に汚れていたのは。
ζ(゚、゚;ζ(……内藤さん?)
川;` ゥ´)「……うるさい……」
(´・ω・`)「皆さん思い出してみてください」
川#` ゥ´)「うるさい! もう――喋るな!!」
(´・ω・`)「いましたよね、手も服も汚れてた人が」
川#` ゥ´)「喋るなって言ってんだろ!!」
ヒールがショボンに掴み掛かった。
対するショボンは涼しい顔で、ヒールをあっさり引きはがす。
そして、内藤の方へ突き飛ばした。
突き飛ばしたというより、蹴り飛ばした、の方が正しい。
女性相手ということは度外視しているらしい。
- 593 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:28:54 ID:O2WumhgwO
(;^ω^)「おっ」
(´・ω・`)「押さえてろ」
内藤は咄嗟にヒールを羽交い締めにする。
それでもヒールの興奮は収まらない。荒巻が内藤に加勢した。
川#` ゥ´)「私が殺したんだ! 私がフサを!!」
(;<●><●>)「……」
(´・ω・`)「おや、ワカッテマスさん、気付きましたね」
(;<●><●>)「あなたは――正気で言っているんですか」
(´-ω-`)「僕は常に正気ですよ」
デレの前、ニュッが、ゆっくり振り返る。
目が合ったかと思うと、ニュッは顔を僅かに横へ傾けた。
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん?」
彼の視線の先は。
- 594 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:30:32 ID:O2WumhgwO
(´-ω・`)「君は、大胆な方法で返り血を誤魔化したね」
(´・ω・`)「ビロードちゃん」
( ><)「……」
――ビロード。
ζ(゚、゚;ζ「……え……」
気付けば、全員の目がビロードに向いていた。
返り血。
ああ、そういえば。
フサの傍に座り込んでいたビロードには、たくさんの血が――
.
- 597 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:31:50 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「デレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「はっ、はいっ?」
(´・ω・`)「君が犯人の立場だと考えて。
寝ている男に包丁を刺し……そして引き抜く。
吹き出した血が君にかかるね。さあ、その血をどうする?」
ζ(゚、゚;ζ「どうって……あ、洗う?」
(´・ω・`)「手や顔なら水で落とせるだろうけど、服に付いた分は?
処分するにも少々手間だ。途中で見付かるリスクだってある」
ζ(゚、゚;ζ「えっと……んん……」
(´・ω・`)「――下手に洗ったり捨てたりするよりかは、
『血が付いていて当然』な状況を作り出す方がいいよね」
ξ゚听)ξ「……死体に、縋りつくとか?」
(´・ω・`)「そう」
あれだけ暴れていたヒールが静かになっていた。
内藤と荒巻が解放しても、動こうとしない。
泣きそうな顔でビロードを見つめている。
- 600 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:34:02 ID:O2WumhgwO
(;><)「ど……どうしてそうなるんですか!? 私は何もしてません!」
(;<●><●>)「遮木さん――」
ワカッテマスの口が緩く開き、そして閉じられた。
宙を彷徨った手が、ヒートの肩を抱き寄せる。
何か言いたいのに言葉が出てこない、といったような。
そんな印象を受けた。
(´・ω・`)「ブーン。君の話のおさらいをしよう」
(;^ω^)「このタイミングで僕かお」
(´・ω・`)「トイレから出た君に、ヒールさんが声をかけてきた。
どうしてヒールさんだって分かったんだい?」
( ^ω^)「そりゃ、声とか……目の前、本当にすぐ目の前にいたから、
顔ぐらいならぼんやりと見えたし」
これぐらい、と、内藤は自分の顔の30センチほど前で手を振った。
いくら暗くても、その距離ならば見えなくもないだろう。
(´・ω・`)「じゃあ、ヒールさんはライトの類を持ってなかったんだね?」
( ^ω^)「多分そうだお。ずっと暗かったから」
(´・ω・`)「なるほど。……で、ヒールさんと共に座敷に行って、
部屋の中――フサさんの死体に向かって突き飛ばされ、
浴衣や手に血を付けさせられた。まるで返り血みたいに」
- 601 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:36:08 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「その後ヒールさんはブーンに包丁を握らせると……部屋を出たのかな?
そこへビロードちゃんがやって来る。
ブーン、もう一つ質問だ」
( ^ω^)「何だお」
(´・ω・`)「ビロードちゃんがどこから来たのかは見た?」
( ^ω^)「……見てないお。ビロードちゃんの声がして、それで……。
急に、ええと、多分懐中電灯だと思うけど、明かりがついたんだお」
そこで内藤は目を伏せた。
眉を顰める。
(;^ω^)「そしたら死体が目に入って――頭が真っ白になって、
……その後のことはあんまり」
(´・ω・`)「充分だ。
きっとビロードちゃんは、近くのトイレか脱衣所に隠れていたんだろうね」
(;><)「だから私は血の跡を追って……!」
(´・ω・`)「どうして血痕に気付けたんだい」
(;><)「え……」
(´・ω・`)「廊下に明かりはない。
まあ、しゃがみ込んで目を凝らせば、染みが見えなくもないだろうけど」
(´・ω・`)「だとしても、どうしてそれが『血』だと分かった?
ヒールさんの部屋にも続いていたのに、
どうして『フサさんが怪我した』と思ったのかな?」
(;><)「……あの、……」
(´・ω・`)「所詮子供だね。浅知恵だ」
ショボンが両手を広げた。
いかにも芝居染みた仕草だ。
- 603 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:38:32 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「改めて説明しますよ。
ヒールさんが睡眠薬入りの酒でフサさんを眠らせる。
そして、まずは自分の腕を切りつけた」
(´・ω・`)「次にビロードちゃんがフサさんを殺害。
包丁を抜いて血を溢れさせる」
(´・ω・`)「その血をヒールさんが掬い取り、廊下に垂らしていく。
『ビロードちゃんがフサさんの部屋へ行く理由』を作るためにね」
ショボンは、皆の間を歩いていった。
デレの脇を過ぎる際にペンライトを拾い上げる。
結構高かったんだよね、と一言。なら投げるな。
(´・ω・`)「んで、運とタイミングの悪い男、ブーンがトイレにやって来る。
そのとき、ヒールさんはトイレの近く……多分自室かな。
そこに血を散らしているところだったんだろう」
(´・ω・`)「勿論このチャンスを逃す手はない。
トイレから出たブーンに声をかけ、現場に連れていく。
後はさっき言った通りさ」
- 605 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:40:02 ID:O2WumhgwO
/;,' 3「……ビロードに関しては、わざわざ血痕なんて工作をしなくとも、
騒音がしたからフサ様の部屋に行った、といった理由で良かったのでは?
どうせ内藤様に罪を着せるつもりだったなら――」
(´・ω・`)「そこだ!」
/;,' 3「はっ!?」
いきなり指を差され、荒巻は目を丸くした。
そこってどこだ。
(´・ω・`)「ヒールさんの目的はブーンを犯人にすることじゃない。
最終的に、自分が真犯人なんだとみんなに思わせること」
(´・ω・`)「そのためには、騒音がしていたことには出来ない。
あくまで、眠らされたフサさんが殺された、というのが『真実』なんだからね」
川; ゥ )「違う……わ、私、本気で……内藤さんを、犯人に……」
(´・ω・`)「それなら、あんな穴だらけの証言をする筈がない。
まして――ブーンが強盗紛いのことをしたなんて、
あからさまな嘘をつく馬鹿がいるもんか」
屈み、ショボンはヒールの顎を持ち上げた。
目を見なさい、と、声だけは優しく囁きかける。
- 606 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:46:03 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「あなた、知ってたんでしょう? 内藤モナーが資産家だって。
彼の遺産分配について、お姉さんと話したこともあるそうじゃないですか」
(´・ω・`)「それでいながら敢えて金銭目的の設定にしたってことは、ねえ。
疑われるのを前提にしてたんだ」
川;` ゥ´)「……っ」
(´・ω・`)「電話線を切ったのは、時間稼ぎをするため。
警察の介入を遅らせ、現場や関係者の状態を乱して。
ついでに、あわよくば誰かに自分を疑ってもらうため」
(;<●><●>)「自分が犯人だと最初から名乗り出ればいいじゃありませんか!」
(´・ω・`)「まさか二重に嘘をついているなんて思わないでしょう、誰も。
少しでも自分を怪しく見せたかったんですよ」
(´・ω・`)「まあ――詰めが甘かったですけどね」
- 607 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:48:42 ID:O2WumhgwO
ヒールから手を離し、ショボンはビロードを見た。
ビロードの表情が歪む。
目の端から、涙が一粒落ちた。
( 。><)「……私、殺してないです……」
ζ(゚、゚;ζ「ビロードちゃん……」
デレの胸が、ずきりと痛んだ。
これではあんまりだ。
死体を目の当たりにして、こんな話に付き合わされて。
本当に犯人でないのなら、ビロードが可哀相ではないか。
ビロードに限った話ではない。
両親であるワカッテマスとヒートだって、ひどく傷付いている筈だ。
抗議しようとデレが口を開き――すぐに、閉じた。
ショボンがとんでもなく意地の悪い笑みを浮かべていたから。
(´・ω・`)「おーおー、役者だねえ、ビロードちゃん。
……ああ、違うか」
- 608 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:49:44 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「ビロード君、って呼んだ方がいいのかな? ……女の子のふりが上手上手」
( ><)
ビロードの顔から表情が消える。
それから、3秒。
( ><)「……なあんだ……」
――ビロードは、笑った。
.
- 609 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:51:30 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚;ζ(……女の子の)
ふり、と、ショボンは言った。
女の子のふり?
どうして笑っているのだ。
今し方、泣いていたばかりなのに。
まるで、演技だったみたいに。どうして。
分からない。何が起きている。
ショボンの発言の意図は。
ビロードの表情の意味は。
ξ゚听)ξ「――あなた」
ツンの声。
デレが我に返る。
ξ゚听)ξ「男の子なの?」
( ><)「……」
返事はない。
けれど、ビロードは、口元の笑みを深くさせる。
一瞬だけ、寂しそうな笑顔に見えた。
- 610 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:53:42 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚;ζ「おとこのこ……?」
(;^ω^)「はあ?」
(‘_L’)「……ビロードは、男だ」
ずっと黙っていたフィレンクトが、頷きなのか、首を小さく揺らす。
デレは呆気にとられ、ビロードとショボンを何度も交互に見遣った。
デミタスがこれといった反応をしていないので、
どうやら分かっていないのは、デレとツン、内藤の3人だけのようだ。
(´・ω・`)「これはニュッ君の手柄だよ。
ニュッ君、デレちゃん達のために説明よろしく」
( ^ν^)「ん」
ニュッが、面倒臭そうに頭を掻いた。
10秒ほど思考し、話し始める。
- 611 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:55:13 ID:O2WumhgwO
( ^ν^)「初めにおかしいと思ったのは、若菜フサの前科を知ったときだ」
J(;'ー`)し「ぜ、前科……?」
( ^ν^)「女児に対する暴行。被害者は何人もいた」
(;<●><●>)「ぼっ……」
ワカッテマス達が絶句した。
やはりフサの過去を知らなかったのだ。
フィレンクトとビロードは、無表情のまま聞いている。
( ^ν^)「事件は揉み消したが、近所には知られてる。
フサを置いとくわけにもいかなくなって、
本家は、この家にフサを押しつけた」
( ^ν^)「だが――事件が事件だ。
幼い娘がいる家に預けたら、また同じことが起きる可能性があるじゃねえか」
(´・ω・`)「そこは僕も引っ掛かったよ。
親戚なんていくらでもいるだろうに、
どうしてこんな格好の餌食がいるような家に預けたのかって」
(‘_L’)「……本家に出向くときだけは、男の格好をさせていた」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、本家は、ビロードちゃん……ビロード君が女装させられてるのを
知らなかったんだね」
難しい顔をするデミタス。
眉間に指を押し当て、そこに寄る皺を伸ばした。
- 614 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:57:07 ID:O2WumhgwO
( ^ν^)「決定的だったのはアルバム。
お宮参りの写真に、産着が写ってるやつがあった」
ζ(゚、゚;ζ「産着がどうかしたんですか?」
( ^ν^)「家紋が付いてたんだ。
基本的に、女用の産着には家紋を入れない。
入れるとしても一つ紋、背中に一個だけってのが普通だ」
( ^ν^)「なのにビロードの産着には、両胸の部分に家紋が入ってた。
ってことは三つ紋か五つ紋……どっちにしろ、男用に仕上げてあった」
ノパ听)「……五つ紋だ。すごく似合ってた」
ヒートの瞳から、力がなくなっていた。
ぼんやりとビロードを眺め、手だけは力強くワカッテマスの腕を掴んでいる。
見ていられなくて、デレは目を逸らした。
(;^ω^)「何で女の子の格好なんかさせられてるんだお?
それとも――ええと、個人の趣味かお」
( ><)「……冗談言わないでください」
ビロードが文机を一度叩いた。
その手を広げ、机上を引っ掻く。
ぎしり。机か、あるいはビロードの爪が軋む音。
- 615 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 19:59:57 ID:O2WumhgwO
( ^ν^)「多分、まじないみたいなもんだと思う。
男児に女の格好をさせる風習は昔からある。日本に限らず、世界的に。
今も続けてるところがあるのかは知らないが」
(;^ω^)「おまじない? どんな意味があるんだお」
( ^ν^)「魔除けとか、健康を願って、とか。
幼児の場合、男より女の方が丈夫ってのはよく聞く話だし、
それもあるかもしんねえ」
昔読んだ本で得た知識だけど、と付け加え、ニュッは一旦黙った。
疲れたらしい。
(;´・_ゝ・`)「あと少しでしょ。もうちょっと頑張ろうよ」
( ^ν^)「あー……。
……だが、就学前には男の格好に戻させるもんだ。一般的に」
ξ゚听)ξ「就学前って、でもビロードは小学5年生よ。もう11歳じゃない」
( ^ν^)「『もう11歳』じゃなくて、『まだ11歳』って認識なんだろ、この家じゃ」
(;<●><●>)「……」
ζ(゚、゚;ζ「?」
ニュッがワカッテマスを一瞥する。
ワカッテマスは、首を縦に振った。
- 617 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:02:26 ID:O2WumhgwO
( ^ν^)「まず、若菜フィレンクトが12歳のとき。
傷口から入った細菌のせいで、腕を切り落とす事態になった」
( ^ν^)「次に若菜ワカッテマスが11歳のとき。
重度の風邪を引いて、喘息を発症した」
ξ゚听)ξ「……あ」
(;^ω^)「2代揃って、今のビロード君くらいの年頃に
大きな怪我や病気をしてるお」
( ^ν^)「5、6歳までじゃ、まじないの期間が足りない。
せめて12歳まで――そういう考えになったんじゃねえの」
(‘_L’)「私の」
フィレンクトが口を挟む。
彼は、身じろぎ一つしていない。表情もまったく変わらない。
なのに雰囲気だけが重苦しい。
(‘_L’)「妻が言い出したんだ。
小学校を卒業するまでは、女の格好をさせろと。
せめてビロードだけでも、健康に育ってほしいと」
- 618 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:04:36 ID:O2WumhgwO
(‘_L’)「馬鹿げているとは思ったが、本当にそれで、無病息災で暮らしてくれるのなら。
……やってみる価値があるのではないかと、私も賛同した」
( ><)「私、……。……僕が、それで、どんな思いをしてきたか分かってますか」
/;,' 3「――ビロード。大旦那様は悪くない。
止めなかったのはわしだ」
J(;'ー`)し「そうだわ、それなら私も――」
( ><)「どうでもいいです」
/;,' 3「……、」
あまりにも。
冷ややかな、声だった。
( ><)「荒巻さんが悪いとか、カーチャンさんが悪いとか。
別に、誰に責任があるかなんて、そんなのどうだっていいんです」
( ><)「男の子の格好がしたいって言えば、
お祖母ちゃんの遺言だの僕のためだのと窘められたけど。
……それも、どうだっていいんです」
( ><)「ただ」
ただ。
( ><)「他の子と違う育て方をすることが――どう影響するかくらい、
考えてほしかったんです」
*****
- 619 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:06:16 ID:O2WumhgwO
ミ,,゚Д゚彡『お前、ビロードっていうんだな』
フサが越して来てから、たしか2日目。
ビロードはカーチャンに頼まれ、フサのもとへ食事を運んだ。
( ><)『はい、よろしくなんです!
ご飯どうぞ』
ミ,,゚Д゚彡『おう、ありがとう』
(*><)『どういたしましてなんです』
ミ,,^Д^彡『はは……いい子だな、お前』
てっきり、ビロードの女装については祖父か誰かが説明しているものだと思っていた。
頭を撫でられる。
気のいい人だと感じた。そのときは。
間違いを知るのは、後になってから。
*****
- 621 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:07:45 ID:O2WumhgwO
( ><)「片鱗が見えたのは、2週間くらい経った頃です」
*****
ミ,,゚Д゚彡『学校どうだ? 楽しいか?』
( ><)『学校ですか?』
食事を運ぶのはビロードの仕事になりつつあった。
ビロードが家にいない平日の昼食分に限り、ヒールが引き受けている。
フサは、食事の間にビロードと会話するのを好んだ。
( ><)『学校……あんまり、楽しくないんです』
ミ,,゚Д゚彡『何で』
( ><)『みんなに避けられてて。
――あ、これ、お母さん達には内緒にしててくださいね』
フサは箸を持つ手を止め、不思議そうな顔をしていた。
どうして避けられるんだ、と。
- 622 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:09:09 ID:O2WumhgwO
( ><)『どうしてって、……だって、ほら、気持ち悪いでしょう?』
この村に、女装している男と進んで仲良くなろうとする子供はいなかった。
辛うじて虐めの領域にまで達していないのは、若菜という名前のおかげだ。
ミ,,゚Д゚彡『何がだ?』
フサが首を傾げる。
そこで、ビロードは彼が何も知らないことに気付いた。
彼からすれば、ビロードは普通の少女なのである。
話すべきか。
――いや、知らないなら知らないままでいい。
彼を不快な気持ちにさせてしまうのは申し訳ない。
( ><)『……何でもないんです。お気になさらず、ご飯食べてください』
視線を外す。
畳に詰まれた雑誌を何とは無しに開いていると、後ろでフサの動く気配がした。
( ><)『フサさ、』
温かさに包まれる。
同時に、ぞくりと寒気立った。
――抱きしめられている。
- 623 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:10:41 ID:O2WumhgwO
ミ,,゚Д゚彡『可哀相に、ビロード。気持ち悪くなんかないのに』
(;><)『ふっ、フサさん? ちょっと……離れてください!!』
身をよじって逃げ出し、後ずさる。
フサへ振り向いて、再び体が冷えるような心持ちになった。
目付きが、突き刺さるように鋭い。
怒りが見て取れた。
ミ,,゚Д゚彡『何で逃げるんだよ』
(;><)『な、何でって……――!』
フサの手が、茶碗や皿を薙ぎ払う。
ぶつかった食器同士が激しい音を立て、ビロードは縮み上がった。
ミ#,゚Д゚彡『人が優しくしてやってんのに、何で逃げんだよ! ああ!?』
(;><)『ひっ……!』
竦む足を無理矢理動かして部屋を飛び出した。
廊下を走り、台所へ駆け込む。
(;><)『ヒールさん!』
川*` ゥ´)『おわっ、どうしたビロード』
- 624 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:11:52 ID:O2WumhgwO
(;><)『フサさんのこと、怒らせちゃって……どっ、どうしましょう、僕……』
川;` ゥ´)『あー、何、あいつまた怒ってんの? 面倒な奴……』
(;><)『……また?』
川*` ゥ´)『怒りん坊じゃん』
(;><)『僕、初めて怒ってるとこ見ました』
川*` ゥ´)『そうなの? 何だよ、単に私のこと嫌いなだけかよ……。
まあ、後は私がやっとくから。
ビロードは自分の部屋戻りな』
(;><)『……はい』
フサに、「恐い」という感情を覚えたのは、これがきっかけ。
*****
- 625 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:13:10 ID:O2WumhgwO
( ><)「それからはね、気持ち悪かったですよ。毎日毎日。
べたべたしてきて――本当に気持ち悪い……」
(´・ω・`)「誰にも言わなかったの?」
( ><)「荒巻さんもカーチャンさんも、どうせ本家が恐くて何もしてくれません。
お母さんやお父さんには、あんなこと話したくなかったですし。
お祖父ちゃんとは元々会話が多い方じゃなくて、相談するのを躊躇ってました」
( ><)「ヒールさんには、『フサさんが恐い』とだけ話しましたよ。
そしたら、フサの相手は私がやるから、って言ってくれましたけど」
川;` ゥ´)「……何日もビロードが行かない日が続くと、私に暴力振るうんだ」
( ><)「容赦ないんですよね、あの馬鹿。
このままじゃヒールさん死んじゃうなって思って、
3日に一回くらいの割合で僕がフサさんのところに行くことになりました」
文机に肘をつき、ビロードが淡々と話す。
その姿とこれまでのイメージが不気味に食い違っていて、
デレは、ビロードに怯えたような顔を向けた。
今までの、素直で可愛らしい振る舞いは演技だったのか。
- 626 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:14:56 ID:O2WumhgwO
(;<●><●>)「自分は男だって、説明しなかったんですか」
( ><)「しましたよ勿論。けど、『じゃあ服を脱いでみろ』とか言われて。
脱がされそうになって――当然拒みますよね。手を振り払いましたよ。
……そしたら」
( ><)「『ほら、やっぱり嘘だ』って笑うんです。
僕、そんなに女の子ですか?」
喉の奥で笑う。
自嘲の響きがあった。
( ><)「そのときに、言葉だけじゃ絶対に信じてくれないって悟りました。
かといって、あいつの前で裸になるのも嫌でしたから、
もう何も言わないことにしたんです」
肘をついていない方の手で、机を叩いた。
こつり。机が鳴る。
( ><)「――お母さんの妊娠が発覚してから、ますます相談しにくくなりましたね。
みんな……特にお父さんがお母さんに付きっきりで。
僕なんかが割り込んじゃいけないように感じられて仕方なかったです」
ノパ听)「……そんなことないのに……」
( ><)「まあ、気持ち悪いけど、べたべたしてくるだけだったし……。
少しの時間我慢してりゃいいかって諦めてたんです」
- 627 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:16:01 ID:O2WumhgwO
( ><)「けどね、駄目でした。
9月。ついに、あいつ――やらかしました」
*****
(*‘ω‘ *) ポッポ
(*><)『あ、ぽぽちゃん』
ビロードとヒールが留守番をした日の、真昼。
縁側に座って漫画を読んでいたビロードは、聞き慣れた鳴き声に顔を上げた。
野良猫である。
口の中で、ぽっ、と空気を鳴らす癖を持つ猫。
ビロードは、その癖を気に入っていた。愛嬌がある。
(*‘ω‘ *) ニャア
(*><)『ご飯もらいに来たんですか? おいでおいで』
(*‘ω‘ *) ポッ
猫が縁側に飛び乗る。
ビロードが歩き出すと、その後ろをおとなしくついてきた。
- 628 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:17:34 ID:O2WumhgwO
台所。
昼飯の準備をしていたヒールは、猫を見るなり顔を綻ばせた。
エプロンで手の水気を拭う。
川*` ゥ´)『ぽぽちゃーん』
(*‘ω‘ *) ニャンポッポ
( ><)『ご飯あげたいんです』
川*` ゥ´)『おう、猫缶買ってきてあるんだ。そこの棚にあるよ』
( ><)『これですか?』
川*` ゥ´)『それそれ』
ビロードは戸棚から缶詰を引っ張り出し、中身を皿に盛りつけた。
猫の前に置いてやる。猫は匂いを嗅いでから、勢いよく食べ始めた。
川*´ ゥ`)『可愛いなあ』
(*‘ω‘ *) ポポッ
(*><)『よしよし』
- 630 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:18:48 ID:O2WumhgwO
自分も食事を終えたら、猫と庭で遊ぼう。
何をしようか計画を立てながら、ビロードは目の前の小さな背を撫でた。
同年代の子供達から避けられているビロードにとって、
「友達」などというのは、この猫ぐらいなものだ。
(*‘ω‘ *) ケフッ
川*` ゥ´)『美味しかった?』
(*><)『おそまつさまなんです』
川*` ゥ´)『……あ、ビロード』
( ><)『はい?』
川*` ゥ´)『あのー……フサんとこにさ、ご飯』
( ><)『あ……そうですね、行ってくるんです』
ヒールから盆を受け取る。
今日はビロードが運ぶ日だ。
川*` ゥ´)『渡したらさっさと戻っておいで。引き止められそうになったら、
自分も今からご飯だから、って断りな』
( ><)『分かりました』
どうせ、食器の回収に行ったときにでも捕まるのだが。
- 632 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:19:51 ID:O2WumhgwO
台所を出ると、足に擦り寄る感触があった。
猫だ。
(*‘ω‘ *) ニァン
( ><)『ぽぽちゃん、ヒールさんと一緒に待っててほしいんです』
(*‘ω‘ *) ポッ
(*><)『もー』
ついてくる。
飯の匂いに釣られているのか、あるいはビロードに懐いてくれているのか。
後者なら嬉しいなと、ビロードはくすくす笑った。
( ><)『ここにいてくださいね。中に入ってきちゃ駄目なんです』
フサの部屋の手前。
ビロードは小声で猫に言い聞かせた。
果たして理解したのか、猫は廊下にごろりと寝転がる。
その動作にまた笑いを零し、ビロードは障子の前でフサを呼んだ。
( ><)『フサさん、ご飯持ってきました』
んん、と、返事だか唸りだか分からぬような声がする。
盆を左手に持ち替え、右手で障子を開けた。
- 633 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:21:16 ID:O2WumhgwO
ミ,,゚Д゚彡『……あんがとさん』
フサは壁を眺めていた。
時折、こんな風にぼうっとしているのを見かける。
何を考えているのだろう。
( ><)『いえ。……じゃあ、僕、これで』
去ろうとしたビロード。
腕を、フサに掴まれた。
(;><)『な、』
ミ,,゚Д゚彡『ゆっくりしてけよ』
(;><)『あの――僕も、今からご飯でして』
ミ,,゚Д゚彡『俺のこと嫌いか?』
そりゃあ。
嫌い、というか。
恐い。
(;><)『べ、別に、嫌いではないですけど』
フサの口角が持ち上がった。
ざわざわ、肌が粟立つ。
- 634 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:23:25 ID:O2WumhgwO
ミ,,゚Д゚彡『俺な、多分、実家にゃ帰れねえと思うんだ』
(;><)『……何ですか、急に』
ミ,,゚Д゚彡『酷い奴らだよなあ……実の息子にさあ……』
(;><)『フサさん、放して――』
ミ,,゚Д゚彡『お前だけだよ、俺に優しいのは』
引き倒された。
畳に頭を打ちつけたせいか、目眩がする。
(;><)『ひ……っ』
服に、フサの手が触れた。
何を。
する気だ。
血の気が失せる。
体が冷える。
至る所が引き攣った。
- 635 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:24:12 ID:O2WumhgwO
(;><)『なに、ふ、フサさ……っ!?』
ミ,,゚Д゚彡『今日さあ』
ミ,,゚Д゚彡『お前と、あのブス以外、みんな出掛けてんだよな』
(;><)『――!』
寒い。
まだ暑い時期なのに。
ひどく寒い。
このまま服を脱がされたとして。
男であるのを知られたら。
フサは、自分から興味を失ってくれるだろうか。
それとも。
- 636 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:24:50 ID:O2WumhgwO
(#‘ω‘ *) ポッ!!
――影が、フサとビロードの間に割り込んだ。
影。猫。
ミ;,゚Д゚彡『うおっ……!?』
(#‘ω‘ *) ニァア!!
ミ;,゚Д゚彡『つっ――』
猫がフサの手に噛みつく。
フサは慌てて猫を振り払った。
畳に叩きつけられる、鈍い音。
- 638 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:26:19 ID:O2WumhgwO
ミ#,゚Д゚彡『いってえな……何だこいつ……!!』
(;><)『ぽぽちゃん!』
舌打ちをして、フサが立ち上がる。
身を起こそうとした猫を思い切り踏みつけた。
(;‘ω‘ *) ニ゙ァッ…!!
ミ#,゚Д゚彡『この糞猫! 糞が! 死ねっ、死ね!!』
(;><)『やっ……やめてください! フサさん!』
ミ#,゚Д゚彡『うるせえ、邪魔すんじゃねえよ!!』
(;><)『うあっ!』
止めるビロードを突き飛ばし、フサは足を動かし続ける。
踏んで、蹴って、踏んで――
- 639 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:27:38 ID:O2WumhgwO
(* ω *) …ポ…
(;><)『ぽ、ぽぽちゃ……』
嫌な音がする。
砕けるような。
潰れるような。
死んでしまう。
死んでしまう。
(;。><)『……あ……ああああっ……!』
頬を伝う涙の感触で、我に返った。
叫び、台所へ駆け出す。
――助けて。
- 640 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:29:37 ID:O2WumhgwO
(;。><)『ひ、ヒールさん、ヒールさん!』
川;` ゥ´)『わっ、何?』
(;。><)『ぽぽちゃんが、ぽぽちゃんが、フサさん、……し、死んじゃう……!!』
単語ばかりが先に出て、文章にはならなかった。
ビロードの様子に異常を察したらしい。
ヒールが顔を強張らせ、座敷へ向かう。
ビロードはというと、すっかり足から力が抜けて床に座り込んでいた。
(;。><)『……』
遠くから聞こえる怒鳴り声。
耳を塞ぐ。
- 641 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:31:25 ID:O2WumhgwO
そのまま数分。
ぎゅうぎゅうと押さえつけられた耳が痺れてきた頃、ようやくヒールが戻ってきた。
川*` ゥ´)『……』
(;。><)『ヒールさん……ぽ、ぽぽちゃんは……?』
ヒールは、何かを抱えていた。
エプロンで包まれた何か。
(;。><)『ぽぽちゃんですか? ぽぽちゃん、無事なんですか?』
川;` ゥ´)『見るな!』
エプロンに手を伸ばすと、ヒールが声を張り上げた。
ビロードの手が、びくりと震える。
勝手口へ急ぐヒールを押し止め、ビロードは、無理矢理エプロンを開いた。
川;` ゥ´)『ビロード……!』
- 642 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:32:38 ID:O2WumhgwO
――これは。
(;;"ω;゚,,)
これは、何だ。
( 。><)
( 。><)『……ぽぽちゃん』
*****
- 643 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:35:32 ID:O2WumhgwO
( ><)「殺されたんですよ、ぽぽちゃん。あいつに」
ζ(゚、゚;ζ「……っ」
デレは、口元を覆った。
――酷い話だ。
(´・ω・`)「その日にフサさんの部屋の畳を取り替えたのは……」
川*` ゥ´)「ぽぽちゃんの血が染み込んでたから」
( ><)「もう……フサの奴、憎くて憎くて」
ξ゚听)ξ「それが、フサを殺した理由なの」
ビロードがツンを横目で見た。
一瞬のことで、すぐに視線を外す。
( ><)「理由は他にもありました。殺そうって決めたのは、つい一週間前です」
――その返事は。
暗に、自分が殺したと認めたのと同じこと。
ヒートが呻いた。
言葉にすらならぬ呻き。
ワカッテマスの手が、ヒートの肩から滑り落ちた。
*****
- 644 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:36:26 ID:O2WumhgwO
――フサが、あの日のような凶行に出ることはなくなった。
以前同様、馴れ馴れしく接してくるだけである。
それでも、ビロードの中のフサに対する憎悪は日に日に増していくばかり。
憎悪につれて、性格までもが捻じくれていく。
時折、残忍な方法でフサを殺してやる妄想をする。
その度、自分はこんなに酷い人間だったかと驚いてしまうのだ。
- 645 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:37:56 ID:O2WumhgwO
ノハ*゚听)『ただいまー!』
( <●><●>)『雪が降る前に帰ってこれましたね』
川*` ゥ´)『おかえりー。どうだった?』
( <●><●>)『母子共に健康。順調だそうです』
( ><)『おかえりなさい』
ノハ*゚听)『おっ、ビロード。ただいまー』
父に付き添われて定期検診へ行っていた母が、帰ってきた。
やけに嬉しそうだ。
出迎えたビロードを抱きしめる。
ノハ*゚听)『ビロード、お前に妹が出来るぞ!』
( ><)『妹?』
川*` ゥ´)『何だ、もう性別調べてもらったの?』
ノハ*゚听)『絶対とは言い切れないけど、女の子だろうって』
( ><)『……女の子ですか』
- 646 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:38:59 ID:O2WumhgwO
祖父に報告するのだろう、廊下を歩いていく両親の背を見送り、
ビロードは、母の腹の中にいる妹について考えた。
男でなくて良かった。
自分のように、女装をして育てさせられたらどうしようかと不安だったから。
女の子ならば安心――
(;><)『……』
川*` ゥ´)『ビロード、どうした?』
(;><)『……いえ……何でもないんです』
駄目だ。
妹なんて。
- 647 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:40:20 ID:O2WumhgwO
(;><)(……もし、フサさんが、ずっと居候を続けたら……)
自分は、どうせ中学生になれば普通の男として暮らしていける。
あと1年やり過ごせばいい。
けれど妹はどうなる?
5年後。10年後。
そのときになっても、ここにフサが居着いていたら。
あまりにも危険だ。
あの男の性的嗜好など、想像はついている。
( ><)
自分や猫だけでなく、妹まで犠牲になるぐらいなら。
フサ。
あんな奴、死んでしまえばいい。
*****
- 649 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:42:50 ID:O2WumhgwO
( ><)「それから数日後……昨日です。ヒールさんに相談しました」
*****
( ><)『僕ね、フサさんのこと殺そうかと思うんです』
ビロードの部屋。
冬休みの宿題をしていた彼は、菓子を持ってきてくれたヒールに突然告げた。
川*` ゥ´)『は?』
( ><)『ヒールさんにだけ話しておきますね』
川;` ゥ´)『ちょっと……待て、待て。何言ってんだよビロード』
( ><)『もう限界なんです』
川;` ゥ´)『……冗談だよね?』
( ><)『本気ですよ』
- 650 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:44:27 ID:O2WumhgwO
いかにフサが憎いか。
いかにフサが危険か。
ビロードがこれまでの経験と感情を全て話し終えると、
ヒールは悲しそうな顔をして唇を噛み締めた。
( ><)『……ヒールさん。嫌なら嫌って言ってくださいね?
フサさんのお酒に、お父さんの睡眠薬を入れてほしいんです。
……それだけでいいんです。お願い出来ませんか?』
川;` ゥ´)『……フサを、何とかして追い出すだけじゃ駄目なのか……?』
( ><)『フサさんは本家の人間です。追い出すのは難しいんじゃないでしょうか』
本当は。
祖父に全て訴えれば、フサを別の親戚のもとへ回すくらいは出来るだろうと踏んでいる。
だが、一度「殺してやる」と思った途端、それ以外の答えを選べなくなってしまった。
殺すことこそが最上の選択であると、胸の内の何者かが囁くのだ。
( ><)『それに……ぽぽちゃんの仇をとりたいんです』
川;` ゥ´)『……』
黙り込む。
ヒールは目をきょろきょろさせ――何か覚悟したように頷くと、ビロードの手を握った。
- 651 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:45:32 ID:O2WumhgwO
川;` ゥ´)『ビロード。私がやるから。私が、フサを殺すから……』
( ><)『……僕が……』
川;` ゥ´)『駄目だよ、ビロードが人を殺すなんて駄目だ。
姉さんや義兄さんだって、きっと悲しむし』
( ><)『でも、自分の手でやりたいんです。どうしても』
川;` ゥ´)『……じゃあ。せめて』
「私を犯人ってことにして」。
ヒールの提案を聞き、ビロードは、彼女の手を握り返した。
( ><)『……いいんですか……?』
川*` ゥ´)『いいよ。……平気』
( ><)『ヒールさん……』
- 652 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:46:14 ID:O2WumhgwO
――そう言ってくれるだろうと思った。
*****
- 656 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:51:26 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「君も僕に負けず劣らず、なかなかの下衆じゃないか。
ヒールさんの優しさを利用したんだね」
川;` ゥ´)「……ビロード」
(´・ω・`)「騙されたようなもんですよヒールさん。可哀相に」
(;^ω^)「ショボン、そんなのわざわざ言うんじゃないお」
ヒールの瞳が潤む。何に対しての涙なのか、デレには判断がつかない。
しかし、ヒールは目元に力を込め、泣くのを堪えた。
ショボンを睨みつける。
( ><)「それからヒールさんと2人で計画を立てました。
内容は、探偵さんの推理通りなんです」
( ><)「でも……さすがに皆さんが泊まってくのは予想外でした。
しかも勝手に推理までされるし。これだから客って嫌いなんです。
お客さん来ると一人称『私』に変えなきゃいけないし、面倒この上ありません」
(´・ω・`)「日を改めてれば上手くいってたかもね」
( ><)「ですね。でも、次に吹雪が来るのがいつなのか分かりませんでしたから」
(´・_ゝ・`)「吹雪でなきゃ、みんなを足止め出来ないもんな」
( ><)「ええ」
- 658 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:52:59 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚;ζ(……どうして)
どうして、こうも平然としていられるのだ。
フサよりも、ニュッよりも、ショボンよりも、
デレはビロードが恐ろしくて仕方がない。
( ^ν^)「全部、お前が一から考えた計画だったのか?」
( ><)「いいえ。……参考にした本はあります」
*****
- 659 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:55:40 ID:O2WumhgwO
夏。8月まで遡る。
( <●><●>)『読書感想文?』
( ><)『はい。夏休みの宿題でして……。
お父さんの持ってる本、どれか貸してほしいんです』
( <●><●>)『構いませんよ。小説なら、この段です』
父の本棚を物色し、ビロードは、ある本を手に取った。
はっとするような赤色。
何故だか妙に惹かれた。
( ><)『盛岡デミタス……。お父さん、これがいいんです』
( <●><●>)『え? ああ――どうなんでしょう、それ。手書きなんですよね。
市販のものじゃないかもしれません』
(;><)『う。それじゃあ感想文に使えないんです……』
( <●><●>)『……今から隣町の図書館に行くんですが、一緒に来ます?
盛岡デミタスという作家がいるか、調べてみたらどうでしょう』
(*><)『行きます!』
父の車に乗り、隣町へ。
こうして父と出掛けるのは久しぶりだ。
- 660 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 20:58:13 ID:O2WumhgwO
しばらくして、目的地に到着する。
あまり大きくはない図書館。
父は調べ物があるというので、一旦別れた。
( ><)『この……盛岡デミタスって人の本、ありませんか?』
カウンターにいた司書に本を見せ、訊ねてみる。
司書はパソコンを操作した後、見付からないと首を振った。
礼を言ってカウンターを離れる。
次に、ビロードはパソコンが並んでいるコーナーへ向かった。
インターネットで調べよう。
家にはパソコンがない。
不慣れな手つきで「盛岡デミタス」と入力し、検索にかける。
一応引っ掛かりはしたのだが、作家の素姓などはどこにも書かれていなかった。
諦めて席を立ち、父を探す。
- 661 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:00:49 ID:O2WumhgwO
( <●><●>)『ビロード。帰りますよ』
( ><)『あ、はい! お父さん、調べ物終わったんですか?』
( <●><●>)『ええ。もう充分です』
父が後ろから声をかけてきた。
駆け寄ると、はしたない、と注意される。
少しむっとしたものの、とりあえず謝っておいた。
( <●><●>)『さあ、行きますか』
( ><)『はい。――お父さん、何を調べてたんですか?』
( <●><●>)『いえ……ちょっとね』
父は誤魔化したが、おおよその見当はついている。
母のため、妊娠や妊婦に関する本を漁っていたに違いない。
図書館で目ぼしい本を探し出し、後で書店で購入する。
そういう人だ。
ビロードを妊娠したときにも同じことをしたらしいが、
11年前の本より最新の本の方が当てになるとでも考えているのだろう。
ふうん、と生返事をして、ビロードは図書館を出た。
読書感想文は、別の本で書くことになりそうだ。
*****
- 663 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:04:57 ID:O2WumhgwO
( ><)「お父さんに本を返すタイミングを逃してそのままにしてたんですが。
……まさか、実際に役立つことになるなんてね」
ねえ、と。
ビロードはデミタスに微笑みかけた。
(´・_ゝ・`)「――僕が作者だって気付いてたのかい」
( ><)「盛岡って苗字だったし。あと、このお姉さんが」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
( ><)「いきなり『盛岡デミタスって作家知ってる?』とか言い出すもんですから。
作者本人があの小説を探しに来たんだなって、ぴんときました」
(´・ω・`)「お前そんな糞みたいな探し方したのか」
ζ(゚、゚;ζ「だ、だって、どう探せばいいか分かんなかったし……。
――ていうか、ビロード……君、『知らない』って答えたのに!」
( ><)「これから実行する殺人の参考にした本を、正直に見せると思いますか」
ζ(゚、゚;ζ「うぐぐ……」
- 665 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:08:42 ID:O2WumhgwO
( ><)「まあ、参考っていっても、ほんの一部だけですけどね。
睡眠薬とお酒の効果だとか、包丁の刺し方だとか」
ビロードは頭を掻きながら、あーあ、と呟いた。
溜め息。
( ><)「結局、全部バレちゃいましたね、ヒールさん。残念でした」
川;` ゥ´)「……」
( ><)「それにしても探偵さん、よく僕を犯人だと決めつけられましたね」
(´・ω・`)「ん? ああ、そうだな。
君が真犯人だって確信したのは――ニュッ君から話を聞いたときかな」
(´・ω・`)「フィレンクトさん。ニュッ君にわざとらしくヒントを出したそうですね。
ビロード君が女装させられてる理由を示すようなヒントを」
(‘_L’)「……うむ」
(´・ω・`)「あなた、僕より先に勘づいてたんだ。ビロード君が犯人だって。
だからニュッ君の注意がビロード君に向かうような話をした。
だいぶ遠回しでしたけど」
(‘_L’)「あの内藤さんの孫なら、気付いてくれるかもしれないと考えた」
- 666 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:13:42 ID:O2WumhgwO
J(;'ー`)し「大旦那様――分かっていらしたんですか」
(;^ω^)「どうして分かったんですかお?
こう言っちゃ何ですが、フィレンクトさんは
ずっと居間に座ってただけじゃないですかお」
(‘_L’)「きっかけは、盛岡殿の本だった」
(´・_ゝ・`)「僕の?」
(‘_L’)「あの本は私も読んだことがある。
状況がほとんど一致しているのに気付いたとき、
初めはワカッテマスが犯人なのかと思った。……本になぞらえたのかと」
(‘_L’)「だが、ワカッテマスは私が本を読んだのを知っている。
私に悟られる恐れがあるのに、そんなことをするのかと疑問に感じた」
(´・ω・`)「その次の容疑者がビロード君?」
(‘_L’)「以前、ビロードが縁側で本を読んでいるのを見かけたからな。
……一度ビロードに着目してみると、先程遮木殿が言っていたような
返り血などの点が気になって仕方なくなったんだ」
- 667 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:16:13 ID:O2WumhgwO
(;<●><●>)「……父さん、気付いてたなら、どうして言わなかったんです」
(‘_L’)「……」
(‘_L’)「孫が。可愛かった」
/;,' 3「か、可愛かった?」
(‘_L’)「真実を明かすのが道理だ。それは分かっている。
だが、……」
(´・ω・`)「孫を殺人犯だと糾弾するのが、嫌だった」
(‘_L’)「……そうだ。
それに――責任は私にもあると思った。
私が妻の言うことを聞かなければ、ビロードは普通に生きていけた」
(‘_L’)「私がビロードを非難出来る筈がないだろう」
( ><)「……今更何言ってるんですか、お祖父ちゃん」
(‘_L’)「――すまない……」
( ><)「……」
- 668 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:19:39 ID:O2WumhgwO
暗く沈む空気。
ショボンが掌を打ち鳴らす。
(´・ω・`)「で、『結末』は僕達に託した。
ヒールさんとビロード君のどちらが真犯人となって終わるか、ね。
結果はこの通りです。どうですか、フィレンクトさん」
(‘_L’)「……ありがとう。
これで、――良かったんだ」
ノハ;;)「……」
また、ヒートが泣き始めた。
無表情のまま。
静かに、涙だけが流れ落ちていく。
ぽたり。
雫が畳に落ちると同時、ビロードは机に突っ伏した。
- 669 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:21:46 ID:O2WumhgwO
(´・ω・`)「……ヒールさん。最後に一個だけね、気になることがある」
川*` ゥ´)「何さ」
(´・ω・`)「ビロード君の罪を自分が被ることに、何の抵抗もなかったんですか?」
ヒールはショボンを見上げ、二度三度瞬きをした。
瞳が下を向く。
川*` ゥ´)「……なかった。
ビロードと違って、私は、姉さん以外に家族はいない。
私がいなくなったって、姉さんには義兄さんやビロードがいる」
- 670 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:26:02 ID:O2WumhgwO
川*` ゥ´)「ヒールは……悪者は、私だけで良かったんだ」
――吹雪は、いつの間にやら止んでいた。
探偵様の晴れ舞台。
これにて、閉幕。
*****
- 671 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:28:02 ID:O2WumhgwO
/ ,' 3「私は、これから駐在所に向かいます」
(´・ω・`)「はい。ええと、頑張ってください」
村の入口付近。
雪が積もりきった荒巻の車の前。
荒巻は、ミニバンの運転席に座るショボンへ一礼した。
空は未だ暗い。
/ ,' 3「しかし、本当に帰ってしまわれるのですか」
(´・ω・`)「ええ。ちょっとね、こういう形で警察と関わると、色々と面倒が。
もし何か訊かれても、僕らの存在はなかったことにしてくださいね。死ぬ気で」
/;,' 3「はあ……それでは、お気を付けて」
(´・ω・`)「そちらも」
走り出す。
バックミラーに映る荒巻は、ショボンの車が村を出るまで、頭を下げ続けていた。
- 672 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:30:31 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚;ζ「……はあ……」
デレは、大きく息を吐き出した。
全て終わった。
解決した。
なのに、気分はまったく晴れない。
若菜家の今後を思うと、呼吸をするごとに胸が重たくなっていくような心持ちだ。
背もたれに身を預け、瞼を下ろす。
後部座席のニュッがデレの名前を呼んだ。
( ^ν^)「デレ」
ζ(-、-*ζ「はい……?」
( ^ν^)「平気か」
ζ(-、-*ζ「何がですか?」
( ^ν^)「……色々あったから」
ζ(-、-*ζ「んん……疲れちゃいました」
心なしか。
ニュッの声が優しい。
- 673 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:32:34 ID:O2WumhgwO
( ^ν^)「休んどけ」
ζ(-、-*ζ「はあい……」
一度、頭を撫でられた。
我ながら驚くほど安心出来て、眠気が落ちてくる。
――沈みかけた意識は、ショボンが吹き出す音で浮上した。
(´;ω;`)「やべえwww無理限界wwwww『平気か』ですってwwwwwwww
ブーンさん聞きました?wwwwwwwwww」
( ^ω^)「聞きましたwwwww聞きましたwwwwwww
しかも今バックミラーに映ってたんですけどwwwwwwwwww
頭撫でてましたwwwwwwwwwwww」
(´;ω;`)「きめえwwwwwニュッ君きめえwwwwwwww
ここぞとばかりに株上げようとしてんじゃねえよwwwwwwwwww」
( ^ν^)「頼むから2人仲良く死んでくれ」
ζ(-、-;ζ(うるさい……)
( ^"ν^)「お前もおとなしく撫でられてんじゃねえよ死ね」
ζ(゚、゚;ζ「そのりくつはおかしいいいだだだだだ! 耳取れる取れる!!」
(´・_ゝ・`)「……ああ……」
ξ゚听)ξ「見ての通りよ」
(´・_ゝ・`)「なるほど」
*****
- 674 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:33:51 ID:O2WumhgwO
――すっかり明るくなって。
午前10時。
車は、フェンスの前に停まった。
(´・ω・`)「到着ー」
( ^ω^)「ありがとうお、ショボン」
(´・ω・`)「請求書は後日ね」
(;^ω^)「ぐっ……」
(´・ω・`)「若菜フィレンクトからもらい損ねた報酬分も」
(;^ω^)「はああああ!? それは僕と無関係だろうがお!!」
(´・ω・`)「騒がない騒がない。デレちゃん起きるよ」
(;^ω^)「……くっそう……」
ショボンとデレを除いた4人が降車した。
ニュッとデミタスは、若菜家から回収した本を抱えている。
デミタスの本もビロードの部屋から無事発見された。
- 676 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:36:28 ID:O2WumhgwO
( ^ν^)「眠い……腹減った……」
ξ゚听)ξ「ブーンが、ご飯用意するようにって貞子に電話してたみたいよ」
(´・_ゝ・`)「おお、貞子か。貞子の作るご飯が一番美味しいよね」
ξ゚听)ξ「悪かったわね」
(;´・_ゝ・`)「ああっ、いや、別にツンが下手なわけじゃなくて」
内藤がフェンスの鍵を開けるのを見届けて、ショボンはアクセルを踏んだ。
遮木探偵事務所は年中無休である。
さっさと事務所に向かいたいが、後ろで眠る阿呆を家に送り届けなければならない。
いっそこのまま事務所へ行ってやろうか。
- 677 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:37:29 ID:O2WumhgwO
ζ(-、゚*ζ「……んん」
(´・ω・`)「うわ。起きた?」
ζ(゚、゚;ζ「うわって何ですか」
ハンドルを握り直す。
半ば本気で事務所へ行くつもりだったが、起きているなら仕方ない。
おとなしく長岡家へ行ってやろう。
(´・ω・`)「これから君を家に送るよ」
ζ(゚、゚;ζ「……いくらですか?」
(´・ω・`)「僕に順応してきたね。
500円か――あるいはショートケーキで手を打とう」
ζ(゚、゚;ζ「了解です……」
信号に引っ掛かる。
じっと前を見つめていたショボンは、ふと、デレへ顔を向けた。
(´・ω・`)「デレちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「はい?」
(´・ω・`)「どうだった?」
- 679 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:39:20 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚;ζ「ど、どうって、何が」
(´・ω・`)「今回の事件。
一介の女子高生が経験するには、だいぶハードだったんじゃないの」
ζ(゚、゚*ζ「……そうですねえ……まだ、ちょっと頭が麻痺してる感じです」
(´・ω・`)「――恐くなった?」
視線を交わす。
デレは、きょとんとした様子で首を傾げた。
ζ(゚、゚*ζ「何が?」
(´・ω・`)「これから先、あいつらと関わっていけば……。
今日みたいなことが、また起きるかもしれない」
ζ(゚、゚*ζ「……今回のは、本が演じさせてたわけじゃないでしょう?」
(´・ω・`)「でも関係ないとは言い切れないよ」
ζ(゚、゚*ζ「……ううんと……あ、信号変わりましたよ」
(´・ω・`)「ああ」
- 680 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:40:46 ID:O2WumhgwO
車を走らせる。
ううん、ううん、と後ろで唸り続けるデレ。
正直、うるさい。
(´・ω・`)「うんこでも出るのかい」
ζ(゚、゚;ζ「違いますよ!! 言葉探してんですよ言葉!
……えっと、恐いっちゃ恐かったですけど……。
本とかじゃなくて、単純に殺人事件が恐かったわけでして」
ζ(゚、゚*ζ「――皆さんとの付き合いをやめようとは、思いませんでした」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「そう」
心底安堵している自分に気付き。
ショボンは、苦笑した。
*****
- 681 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:42:08 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚*ζ「そろそろ着きますね」
我が家が近付いてくる。
帰ったら何をしよう。
まだ眠い。ベッドに直行するか。
(´・ω・`)「で、現金とケーキ、どっちで払ってくれるの」
ζ(゚、゚*ζ「ケーキ……私が作るのじゃ駄目ですか?」
(´・ω・`)「美味しく作ってくれるなら、それでいいよ」
ζ(゚、゚;ζ「味の保証は出来ませんけど」
ケーキの材料を思い浮かべる。
甘い苺が手に入るといいのだが。
- 682 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/23(土) 21:43:45 ID:O2WumhgwO
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「ケーキ」
ζ(゚、゚;ζ「ケーキ!!」
(´・ω・`)「何だようるさいな」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん、図書館に戻ってください!
図書館! 早く!!」
(´・ω・`)「は?」
ζ(゚、゚;ζ「クックルさんのケーキ! 絶品の!
早くぅううう!!」
(´・ω・`)「騒ぐなぶち殺すぞ」
――ショボンにUターンを懇願するデレ。
ケーキは既にハローの胃袋の中だと知らされたときの彼女の反応は、
まあ、言わずもがなというやつだ。
第七話 終わり
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