416 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:29:37 ID:VS/dOPGUO

( ^ω^)「……血……」

 自分の手と男を視界に収め、内藤はぼうっとしていた。

 数秒。

 あ、と声を漏らし、目を見開いた。

(;゚ω゚)「あ……うあ、あ……」

 包丁が滑り落ちる。
 内藤がくずおれる。

 気付くと、その場には、ショボンを除く全員が揃っていた。
 血に染まった光景に、フィレンクトが息を呑む。

ノハ;゚听)「ビロード!」

 叫ぶヒートを押し止めて、ワカッテマスが内藤のもとへ走った。
 内藤を取り押さえ、デレとビロードに振り返る。

( <●><●>)「長岡さん、ビロードをここから離れさせてください」

ζ(゚、゚;ζ「は、はい……」

( <●><●>)「……ホライゾンさん? ホライゾンさん、どうしました」

 ワカッテマスは、ぐったりとしたまま動かなくなった内藤の頬を叩いた。
 気絶しているようだ。目を覚まさない。
418 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:30:59 ID:VS/dOPGUO

 困り果てるワカッテマスの傍にツンが駆け寄り、内藤の体を起こした。
 浴衣を捲る。

( <●><●>)「怪我は」

ξ゚听)ξ「……してないわ」

( <●><●>)「なら、やはり」

 ――返り血ですか。

 ワカッテマスの呟きに、ツンは唇を噛み締めた。

 デレ達と入れ代わる形で、フィレンクトが入室する。

(‘_L’)「……フサ」

 フサ。名前だろうか。

( ^ν^)「こいつ、誰だ」

(‘_L’)「本家に頼まれて引き取った男だ。この部屋に住まわせていた」

(´・_ゝ・`)「彼のことは紹介されてなかったな」

ζ(゚、゚;ζ「……わ、私は、会いました。トイレ行ったとき……」

 カーチャンへビロードを預けながら、デレが言う。
 フィレンクトは、フサへと右手を伸ばした。


 と、同時。


     「――触らないでください」


 声が、その手を止めさせた。
420 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:32:30 ID:VS/dOPGUO

(´・ω・`)「動かないように。子供も妊婦も」

 遅れてやって来たショボン。
 ずかずか、部屋に上がり込む。

ξ゚听)ξ「……ブーンだけでもここから移動させてあげて」

(´・ω・`)「あれ、何、ブーンも死んでるの? それ。血まみれじゃん」

ξ゚听)ξ「気絶してるだけよ。……そっちの彼は死んでるようだけれど」

( <●><●>)「恐らく、ホライゾンさんが犯人かと」

(´・ω・`)「その小心者が? ははっ、笑える」

 ツンがワカッテマスを睨む。
 しゃがみ込み、ショボンは死体や包丁を観察した。

 首、手首に指を当てる。
 死んでるな、と一言。

 真剣な表情だ。
 デレは、恐る恐るショボンに声をかけた。

421 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:33:46 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚;ζ「……内藤さん、包丁持ってたんです……」

(´・ω・`)「あっそう。持ってただけでしょ」

 あっさり一蹴された。

 「だけ」ってことはないだろう、「だけ」ってことは。

(´・ω・`)「ふむ――分かった、分かった」

(;<●><●>)「何がです」

(´・ω・`)「犯人は……」



(´・ω・`)「この中にいる」



.

422 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:34:14 ID:VS/dOPGUO



 そんな。



 分かりきっていることを改めて言われても。





.

423 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:34:39 ID:VS/dOPGUO



第七話 あな気難しや、ミステリ小説・中編



.
425 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:36:37 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚;ζ「あれ? ショボンさんまだ酔ってません?
      ちょっと頼もしいかなって思ってたけどすごく不安になりましたよ私」

(´・ω・`)「もう覚めてるし。いいよもうお前が犯人だ」

ζ(;、;*ζ「やってません、私やってませんんん!!」

(;´・_ゝ・`)「理不尽すぎる……」

/;,' 3「――警察……!」

 荒巻が慌てて走り出そうとした。
 何よりも、まずは警察を呼ぶべきなのだ。

(´・ω・`)「まあまあ、お待ちなさい。
      いいですか、今から名探偵ショボン様が華麗なる推理を……」

(;<●><●>)「いやいやいや、この中にいるも何も」

 ショボンの言葉を遮り、ワカッテマスが口を開いた。
 荒巻が足を止める。

(;<●><●>)「彼が……ホライゾンさんが犯人である以外、何だと言うんです」

 皆の視線が、内藤へ向かった。

 返り血。包丁。
 誰が見ても、ワカッテマスと同じことを考えるだろう。

426 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:38:42 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚;ζ「でっ、でも……!」

(´・ω・`)「動機がないでしょうよ動機が」

ζ(゚、゚;ζ「それです!」

 ショボンの言葉に賛同する。
 内藤がフサを殺す理由がない。

(´・ω・`)「寧ろ怪しいのは皆さんの方ですよ。
      フサさんと交流があったのなら、過去……あるいはさっきにでも、
      殺意を抱くような出来事が起きていても不思議じゃない」

J(;'ー`)し「わ、私やヒート達だって、フサ様とは碌に話したこともありません!」

( ^ν^)「……は?」

/;,' 3「彼は、いつも閉じこもっておりましたし――どうやら他人が嫌いらしく、
    ビロードとピャー子にしか心を開いておりませんでした」

J(;'ー`)し「ここへ食事や着替えを運ぶのさえ2人の仕事だったくらいですもの」

ノハ;゚听)「私も、廊下を歩いたり、庭を散歩したりしてるのをたまに見かけるだけだった」

(´・_ゝ・`)「……本当なの?」

(;><)「はい……他人というか、自分より年上な人が苦手だったみたいなんです」

427 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:41:31 ID:VS/dOPGUO

(´・ω・`)「んじゃあ、まずはヒールさんとビロードちゃんから詳しく話を――」

川;` ゥ´)「私」

(´・ω・`)「あ?」

 それまで黙っていたヒールが、ようやく声を発した。
 懐中電灯のスイッチを切る。
 デレは振り返り、ぎょっとした。

 ヒールが身に着けているのは普通のパジャマ。
 その右袖、二の腕の辺りに染みがあった。
 赤黒い。

 袖だけではなく、彼女の両手にも血が付いている。
 ヒールは懐中電灯を廊下に置き、内藤を指差した。

川;` ゥ´)「私……この人が包丁刺すとこに居合わせた……」



*****

428 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:45:05 ID:VS/dOPGUO



 一同は居間へと移動し、ヒールから話を聞くことにした。

 子供には聞かせるべきではないというニュッの判断により、
 ビロードはヒートとカーチャンの2人と共に別室に移動させている。

 内藤が起きてからにしろというフィレンクトの意向により、通報は未だしていない。


川*` ゥ´)「……台所にいたら、内藤さんが来たんだ」

 荒巻に右腕の手当てを施されながら、ヒールはぽつりぽつりと話し始めた。
 傷は浅い。刃物で薄く切られた程度のものが一筋だけ。

 横たわっている内藤を一瞬見遣り、すぐに目を逸らす。

ξ゚听)ξ「どうして台所に?」

川*` ゥ´)「ガスとか、調理器具の確認のために」

ξ゚听)ξ「それで、ブーンが来てから、どうしたの?」

川*` ゥ´)「私、荒巻さんかカーチャンさんだと思って、咄嗟に棚の陰に隠れた」

(´・_ゝ・`)「どうして」

川;` ゥ´)「確認ついでに、明日の朝ご飯に使う食材、あの……ちょっと、つまみ食いしてて」

/ ,' 3「……お前は」

( <●><●>)「この際、つまみ食いの件は置いておきましょう。
       話を続けてください」

429 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:46:24 ID:VS/dOPGUO

川*` ゥ´)「内藤さんだって分かって、声かけようとしたんだけど
       すぐに出ていっちゃったよ」

川*` ゥ´)「何だったんだろうって思いながらまな板見たら、
       そこに置きっぱなしだった包丁がなくなってた」


 そのときは、まさか内藤が持ち出したのだとは考えなかったという。
 床に落としたのかと探してみたが、包丁は見付からなかったそうだ。


川*` ゥ´)「朝にまた探すことにして、寝るために自分の部屋に戻ろうとしたんだ」

 そしたら、と呟き、ヒールは俯いた。
 手当てが終わる。
 ぐるりと巻かれた包帯を押さえる彼女に、フィレンクトが続きを促した。

(‘_L’)「そしたら、何だ」

川*` ゥ´)「……廊下で、内藤さんと鉢合わせた」

430 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:47:35 ID:VS/dOPGUO

 以下は、ヒールの話を簡単にまとめたものである。

 ヒールを見るなり、内藤は包丁を構えて向かってきた。
 驚いたヒールは自室へ逃げ込むが、内藤は室内にまで迫り、
 金目のものを出すよう脅しをかける。

 2人は揉み合いになり、その際、彼女の右腕を包丁が掠めた。
 内藤が力を緩めた隙に、ヒールは部屋を飛び出し、咄嗟に屋敷の奥へ走った。らしい。


(´・_ゝ・`)「咄嗟に?」

川;` ゥ´)「フサは腕っ節が強いから。助けてもらうつもりだった」

( ^ν^)「寝てるとは考えなかったのか」

川;` ゥ´)「寝酒が日課なんだ、フサ。
       あのときは、私がお酒とおつまみ持っていってから大して時間経ってなくてさ、
       まだ飲んでる頃だろうと思ったんだよ」

431 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:49:23 ID:VS/dOPGUO

 フサに助けを求めたヒール。
 予想通り酒を飲んでいる最中だったフサは、彼女を追ってきた内藤に掴みかかる。

 内藤は、包丁を振り上げ――


(´・ω・`)「――ぐさり」

川;` ゥ´)「……うん」

(´・ω・`)「ヒールさんが奥に行かなきゃ、フサさんは死ななかったわけですね」

ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん、言い方……」

 仕切ろうとしたのを邪魔されたのが悔しかったのか、
 友人を犯人だと言われたのが不愉快なのか。
 とにもかくにも、ショボンは少々機嫌が悪かった。

 デレが非難する。

( ^ν^)「……ビロードは? あいつはいつからあの部屋にいたんだ」

川*` ゥ´)「内藤さんがフサを刺して、すぐ……ビロードが来て、
       『どうかしたんですか』って声をかけてきたんだけど。
       どうして奥の部屋に来たのかは知らない」

432 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:51:36 ID:VS/dOPGUO

川*` ゥ´)「ビロード、初めは理解出来なかったみたいで固まってたな。
       フサに近付いて……ようやくビロードが悲鳴をあげたよ。
       何度もフサの名前呼んでた」


 ビロードの声で我に返ったヒールは廊下に飛び出し、誰か来てくれと叫んだ。

 そして、それを聞きつけた荒巻夫妻やデレ達が到着した、と。
 後は誰もが知る通りである。


(‘_L’)「……何てことだ……」

 苦々しく呟き、フィレンクトは長息した。
 まだ起きる気配のない内藤へ目をやる。

 不意に、ずっと内藤の傍で俯いていたツンが顔を上げた。

ξ゚听)ξ「ニュッ君、ブーンの服と香水を持ってきてくれる?」

( ^ν^)「ん」

ξ゚听)ξ「荒巻さん――手が空いてるなら誰でもいいけれど、
      洗面器にぬるま湯と、タオルを……2枚ぐらい。
      念のため、ビニール袋も」

 てきぱきと指示を出すツン。
 早く、と急かされ、ニュッと荒巻は席を外した。

433 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:53:33 ID:VS/dOPGUO

 先に戻ってきたのはニュッだ。
 ツンはスーツと香水を受け取り、隣に置いた。

 続いて荒巻が洗面器とタオル、袋を持ってやって来る。

ξ゚听)ξ「ありがとうございます。……そこのポット、お湯入ってます?」

( <●><●>)「……多少」

ξ゚听)ξ「良かったらお茶碗にお湯入れて、冷ましておいてもらえるかしら」

( <●><●>)「分かりました」

ξ゚听)ξ「……ブーン。手、綺麗にしましょうね」

 洗面器の湯にタオルを一枚浸し、絞る。

 そして、ツンは内藤の手を拭い始めた。
 宝物を扱うように、丁寧に。

 もう一度洗面器にタオルを入れると、湯に赤色が滲んだ。

( <●><●>)「なるべく事件直後の状態を保つべきでは」

ξ゚听)ξ「ブーンは、このままにしてちゃ駄目なんです」

434 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:56:48 ID:VS/dOPGUO

 両手を粗方綺麗にし終えた頃。
 内藤が唸り、瞼をぴくりと動かした。

ξ゚听)ξ「起きた?」

ζ(゚、゚;ζ「内藤さん、大丈夫です……ぎゃんっ!」

 ニュッが、デレをデミタスの後ろに突き飛ばした。
 顔面から倒れ込む。
 鼻を押さえながら起き上がったデレを、デミタスはそのまま自分の背に留めさせた。

 静かに視線を彷徨わせていた内藤は、体を起こしかけ――

(;^ω^)「うあ」

 浴衣の汚れを見て、一気に青ざめた。

 何か言いたいのか、あるいは呻いているだけか。
 あ、あ、と小さな声を零し続ける。

 やがて。
 ぽろり、涙が落ちたのをきっかけに、内藤は畳に伏せて頭を掻きむしり始めた。

( ;ω;)「あっ、あ、あああああ! ああああああ!!」

ξ゚听)ξ「……ブーン、落ち着いて」

 叫ぶ内藤の姿に、デレやワカッテマス達は言葉を失った。
 デレはデミタスの腕を掴んだが、説明はない。

435 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 22:58:55 ID:VS/dOPGUO

 ツンが香水の瓶を取り、中身を自分の掌に吹きかけた。
 その手で内藤の頬を撫でる。

ξ゚听)ξ「大丈夫よ、大丈夫。血の臭いなんかしないでしょう」

( ;ω;)「ひ、ひ、……あう……」

ξ゚听)ξ「ゆっくり息して。ゆっくり。ね」

 ツンの手に鼻先を押しつけて、内藤は深呼吸を繰り返した。
 汗や涙が畳に染みを作っていく。

 少しすると、呼吸の乱れが激しくなり始めた。
 苦しげに咳き込む。
 近くにいた荒巻がビニール袋を広げ、内藤の口元へ差し出した。

( ;ω;)「うえ……っ」

 嘔吐。

 内藤の背を摩りながら、ツンが荒巻に礼を言う。

436 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:00:37 ID:VS/dOPGUO

 ワカッテマスは、恐々ショボンに訊ねた。

(;<●><●>)「……彼は、どうしたんです」

(´・ω・`)「どうしたもこうしたも。
      この通り、血が大の苦手でして」

(‘_L’)「血が」

(´・ω・`)「ええ。――これが人を刺し殺すなんて、とてもとても……。
      逆に、こいつの方が死んでしまいそうじゃありませんか」

川;` ゥ´)「っ……」

(´・ω・`)「ねえ?」

 ショボンがヒールに微笑む。
 目は、笑っていなかった。



*****
439 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:04:50 ID:VS/dOPGUO



(;^ω^)「……お見苦しいものを」

 スーツに着替えてようやく落ち着いた内藤は、フィレンクト達へ頭を下げた。
 表情は依然辛そうである。

 デレは、ニュッが自分をデミタスの後ろにやった理由が何となく理解した。
 ビロードを抱きしめたときに付着したのか、浴衣に血の汚れがあるのだ。
 それを内藤へ見せないようにしたのだろう。

 ヒールも、右腕の袖をワカッテマスに捲り上げられている。
 内藤のように彼女の手も拭われた。

(‘_L’)「大丈夫なのか」

(;^ω^)「正直、大丈夫ではないですお」

 目を伏せ、頬を掻く。
 おっかなびっくりといった様子で、隣のツンに質問した。

(;^ω^)「何があったんだお?」

ξ゚听)ξ「それは私達が訊きたいわね」

 ツンの返事に、ワカッテマスが頷いている。
 きょとんとする内藤。状況を把握していないらしい。

440 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:06:11 ID:VS/dOPGUO

(´・ω・`)「何がどうなったら、血まみれの包丁持って死体と同室することになるんだよ」

( ^ω^)「え」

 皆の顔を見渡す。
 それから――内藤の頬が、引き攣った。

(;^ω^)「そんなまさか……僕が疑われてる、わけじゃ、……ないおね?」

 誰も答えない。
 無言は肯定に等しかった。

 内藤のこめかみを伝ったのは、体調が悪い故の脂汗か、それとも冷や汗か。

(;^ω^)「ちっ、違いますお! 僕、用を足しにトイレに行っただけですお!
       それでトイレから出たら、ヒールさんが声かけてきて!」

/ ,' 3「ピャー子が? 何と?」

(;^ω^)「『ショボンが奥の座敷に向かっていった、
       一緒に捕まえに行ってほしい』って……」

(;^ω^)「ショボンの奴、酔っ払ってたから盗みの一つや二つやりかねないし。
       女性のヒールさん1人じゃ危ないだろうと思って、ついていったんですお」

 デレは、おろおろ、内藤とヒールを交互に見遣った。
 ヒールの話と全然違う。

 ショボンはショボンで「人を泥棒みたいに言うな」と不機嫌そうだ。

441 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:09:07 ID:VS/dOPGUO

(;^ω^)「そしたら――部屋の前に着くや否や、こう、突き飛ばされて。
       生暖かいような感触がしたけど、暗くて何が何だか分かりませんでしたお」

(;^ω^)「たしか、その後に何か握らされて……そうこうしてる内に
       ビロードちゃんが来て、悲鳴あげて……それから、……それから……」

 フサの死体を思い出したのか、口を覆う。
 ツンは白湯の入った湯飲み茶碗を内藤へ渡した。

(‘_L’)「……だいぶ、証言が食い違っているようだが」

川;` ゥ´)「嘘だ、嘘ついてる!」

(;^ω^)「嘘?」

( <●><●>)「ピャー子は、あなたが包丁で彼を刺すところを見たそうです」

 内藤が、口に含んだ白湯を勢いよく噴き出す。
 思わずデレが拍手しかけたくらい見事な噴き出しっぷりだった。

(;゚ω゚)「はああああ!? それこそ嘘だお、僕は無実だお!!」

川;` ゥ´)「そりゃあ、犯人が正直に『僕が殺しました』なんて言わないだろうさ!」

(;゚ω゚)「なっ……! い、一番怪しいのはヒールさんじゃないかお!
      もしかして、僕に罪をなすりつけようってつもり――」

(‘_L’)「ともかく!」

 フィレンクトの怒鳴り声。
 内藤とヒールが口を閉じる。

442 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:11:10 ID:VS/dOPGUO

(‘_L’)「ともかく、どちらかが……あるいは両方が嘘をついている。
      2人共、この部屋を出るな」

川;` ゥ´)「私は何も……!」

(;^ω^)「僕は潔白ですお!」

(‘_L’)「聞かん。
      こうなっては、自首など期待出来んな。荒巻、今すぐ警察を」

/ ,' 3「かしこまりました」

 荒巻が部屋を出ていった。
 障子が閉まる音を最後に、室内を静寂が満たす。

 1分も経たぬ内、少し駆け気味の足音が近付いてきた。
 音の主は、電話をかけに行った筈の荒巻。

/;,' 3「大旦那様!」

(‘_L’)「どうした」

443 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:13:31 ID:VS/dOPGUO

/;,' 3「電話が通じません。電話線が……切れておりまして」

 ショボンとニュッが立ち上がった。
 荒巻から電話の場所を聞き、確認に向かう。

 間もなくして戻ってきた2人は、皆の無言の問い掛けに首を振って答えた。

( ^ν^)「切られてた。刃物で切った感じ」

(´・ω・`)「すっぱりぶっつり。――誰が切ったのかなぁああ?」

 疑問形ではあるが、ショボンはヒールの肩を叩いている。白々しいことこの上ない。
 私じゃない、とヒールが憤慨した。

 再度沈黙。
 ショボンは溜め息を一つ落とし、腕を組んだ。

(´・ω・`)「ここ、携帯の電波は入る?」

(´・_ゝ・`)「寝る前に試したけど、入らなかったよ」

(´・ω・`)「そう。じゃあ電話は無理だね。
      こっちから外に呼びに行かなきゃいけないわけだけれども……」

/;,' 3「この天気では難しゅうございます。
    こうも酷いと、地元の者すら外出は儘なりません」
445 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:15:34 ID:VS/dOPGUO

 吹雪は勢いを増すばかりだ。

 デミタスも、ショボンのように腕を組む。

(´・_ゝ・`)「クローズドサークルだね」

ζ(゚、゚;ζ「くろ……?」

ξ゚听)ξ「ミステリものの小説やドラマなんかで、よく見るでしょう。
      何かしらの理由で電話や外出が許されず、
      館や孤島に閉じ込められたまま物語が進むやつ」

 デレは、眉を顰めた。

 小説。物語。
 何かが気にかかる。

 一方で、ツンの答えを聞いたフィレンクトも何事か考え込んでいた。
 物語、と呟き、表情を険しくさせる。

446 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:20:53 ID:VS/dOPGUO

 直後、ワカッテマスが両手を打ち合わせた。

( <●><●>)「天気が落ち着くまで2人を見張っていましょう。
       いずれ、警察が来れば真実も分かります――」

(´・ω・`)「それには及ばない!」

( <●><●>)「は?」

 ショボンが畳を叩いた。
 怪訝な顔をする面々。
 頼むから大人しくしていてくれと内藤が祈るようなポーズをとる。

(´・ω・`)「この探偵、遮木ショボン。事件を解決して御覧に入れましょう」

( <●><●>)「……何を言ってるんですか、あなたは」

(´・ω・`)「犯人が確定出来ないまま過ごすなんて、居心地が悪い。
      まあ……最悪、解決は出来なくとも、
      内藤ホライゾンが濡れ衣を着せられてることだけでも立証してみせますよ」

( ^ω^)「――ショボン」

(´-ω・`)「勿論手伝ってくれるよねえ、助手達よ」

 ウインク。
 デレはデミタスの陰から握りこぶしを突き出し、こくこくと首を縦に振った。

447 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:23:20 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚;ζ「は、はい!
      不肖、長岡デレ、内藤さんの無実を晴らし、疑いを証明してみせます!」

( ^ω^)「出来れば疑いを晴らして無実を証明してほしいな、デレちゃん」

(´・ω・`)「よし、決まり。
      あ、ご安心を。物には必要最低限しか触れませんし、部屋を荒らしもしません」

( <●><●>)「ですが……!」

(‘_L’)「構わん」

( <●><●>)「……父さん」

 ワカッテマスが、フィレンクトを睨む。
 ショボンは礼を述べると、荒巻へ話しかけた。

(´・ω・`)「一度、屋敷の中を回らせていただきたい。
      良ければ同行してもらえますか」

(‘_L’)「荒巻。案内してやれ」

/ ,' 3「……はい」

(´・ω・`)「どうも。
      助手達、部屋に戻って着替えとけよ」

448 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:24:32 ID:VS/dOPGUO

( ^ω^)「……ショボン、ありがとうお」

 部屋を去ろうとするショボンの背中へ、内藤が声をかける。
 彼は振り返らぬまま、手を振った。

(´・ω・`)「なあに。金づr――」





(´・ω・`)「――親友が困ってるんだ、助けるのは当然だろ」

( ^ω^)「お前今『金づる』って言いかけたろ」



*****

449 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:27:01 ID:VS/dOPGUO


ζ(゚、゚;ζ

 部屋に入るなり、デレは腰を抜かした。
 ツンが膝をついてデレの顔を覗き込む。

ξ゚听)ξ「デレ?」

ζ(;、;*ζ「つ、つんちゃ」

 縋りつく。
 ツンは肩を跳ねさせたが、拒みはしなかった。
 頭を撫でられる。

ξ゚听)ξ「今更恐くなったの? 鈍いのね」

ζ(;、;*ζ「だ、だって、だって……」

 ――あんな、本物の死体など、初めて見たのだ。

 どこか遠くにあった現実感が、ようやく戻ってきた。

ξ゚听)ξ「ほら、離れて。くっついてちゃ着替えられないわよ」

ζ(;、;*ζ「うー」

ξ゚听)ξ「手伝えばいいの? 何歳よ」

ζ(;、;*ζ「自分で着替えますう……」

450 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:28:30 ID:VS/dOPGUO

 ツンから離れ、腰紐を解く。
 枕元の服を取り、のろのろと着替えを始めた。

ζ(ぅ、;*ζ「――……ん?」

 髪を整えたとほぼ同時に襖が叩かれた。
 続いて、ビロードの声。

     「いいですか?」

ξ゚听)ξ「どうぞ」

 襖が開く。
 着替えたのだろう、私服姿のビロードが視界に入った。
 後ろにヒートとカーチャンもいる。

(;><)「……内藤さん、本当に犯人だったんですか?」

ξ゚听)ξ「そんなわけないじゃない」

ノパ听)「えっ。違うのか?」

J(;'ー`)し「じゃあ誰が……」

ξ゚听)ξ「分からないわ」

 即答するツン。
 血の気を失ったカーチャンの肩を、ヒートが支えた。

451 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:30:10 ID:VS/dOPGUO

J(;'ー`)し「警察へは連絡しました?」

ζ(゚、゚;ζ「いえ。電話が使えなくなってた上に、
      この吹雪じゃ、外に出られないだろうって」

ノパ听)「電話、壊れちゃったのか?」

ξ゚听)ξ「電話線が切られてたの」

ζ(゚、゚;ζ「今、この部屋に来る前に見てきましたけど……真ん中からぷっつり」

J(;'ー`)し「まあ」

 頬に手を当て、カーチャンは板の間の方を見た。
 誰が切ったの、と問う彼女の顔色は真っ青だ。

 殺人鬼。切られた電話線、外出は不可能。
 怯えないわけがない。

452 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:32:29 ID:VS/dOPGUO

ξ゚听)ξ「それらを今から調べるの。
      ……私は、ヒールさんが怪しいと思うけれど」

ノハ;゚听)「ヒール!?」

(;><)「どっ、どうしてヒールさんなんです!? 悪い人じゃありませんよ!」

ξ゚听)ξ「彼女、明らかに嘘をついているもの。
      犯人はあの人じゃないかしら」

ζ(゚、゚;ζ「ちょ……ツンちゃん!」

 ヒートとヒールは姉妹だ。
 妹を犯人扱いされたヒートが、どんな気持ちになるか。

 デレは、一旦はツンを咎めたものの、すぐに口を噤んでしまった。
 常に無表情なツンだが、放っている雰囲気などで感情を推し量ることはそれなりに出来る。

 ――怒っている。かなり。

ノハ;゚听)「何でヒールを疑うんだ! ……あの子は、そんなことしない……!」

ξ゚听)ξ「ブーンだって、あんなことしないわ」

ノハ;゚听)「ヒールは――」

J(;'ー`)し「ヒート、興奮しないの」

453 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:35:40 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚;ζ「ま、まだ決まってませんし……ほら、もしかしたら別の誰かかもしれ……」

 言葉を引っ込める。

 「別の誰か」。
 そんなの、余計に恐ろしいではないか。

 ビロード達からしてみれば――こうして目の前にいるデレやツンが、
 犯人の可能性だってあるのだから。

J(;'ー`)し「……」

 カーチャンがヒートを抱き寄せる。
 何か言いあぐねているようだった。

ζ(゚、゚;ζ「あっ、いや、私とツンちゃんは何もしてません!」

ξ゚听)ξ「……言うだけ無駄だわ。実際、この人達が犯人の可能性だってあるんだから」

ζ(゚、゚;ζ「そんな……」

 ツンは、ビロード、ヒート、カーチャンの順に視線を送った。
 居間の方向を指差す。
455 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:37:16 ID:VS/dOPGUO

ξ゚听)ξ「あなた達、居間か、その隣の部屋にでも行ったら?
      その方が安心出来るでしょ」

J(;'ー`)し「……2人共、行こうか。
      ヒート、あまり気に病んではいけないよ。お腹の子に障るから」

ノハ;゚听)「は、はい……」

( ><)「……お母さん、大丈夫ですか?」

ノハ;゚听)「うん、大丈夫……ビロードこそ平気か? あんなの見ちゃって」

( ><)「平気です。
      実は、びっくりしすぎて……あんまり覚えてないんです、さっきの」

 3人が立ち上がったのを合図に、
 私達も行きましょう、とツンがデレの手を引っ張る。

 デレは、違和感を覚えた。

 胸に沸き立つ異物の正体を探るが、明確な形にはなってくれない。
 考え込んでいると、ツンが、そっと耳打ちしてきた。

456 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:38:19 ID:VS/dOPGUO

ξ゚听)ξ「……誰も、被害者が死んだことは悲しくないのかしらね」

 ――それだ。

 フサ、と呼ばれていた男。
 彼の死を悲しむ者がいないのである。

ζ(゚、゚;ζ「……」

 荒巻は「ビロードとヒールにしか心を開かなかった」と話していたが、
 フサとヒールはひどく仲が悪そうだった。

 ビロードには、何か並々ならぬ感情を抱いているようだったけれども、
 ビロード自身からは拒絶の意思が覗いていた。

 お世辞にもフサが「いい人」だとは言えない。と、思う。

 厄介者だったのだろうか。

 いや、そもそも、だ。
 何故、彼はこの家に預けられたのだろう?

 どうして、この家は、彼を預かったのだろう。



*****
458 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:41:07 ID:VS/dOPGUO



(´・ω・`)「怪しいんだよなあ」

 ニュッ達が眠っていた部屋。
 家の中を回り終えたショボンは、布団の上に胡座をかき、そう漏らした。
 デレとツン、ニュッ、デミタスもいる。

 居間から一つ部屋を挟んだ隣にある場所だ。
 襖は全て開け放たれており、居間にいるワカッテマスがこちらを監視している。

 事件について探偵組のみで話し合いたい、若菜家の面々には聞かれたくない、
 というショボンの主張。

 最も疑いの強い内藤の仲間達だ、何をするか分かったものではない、
 というワカッテマスの主張。

 それらの折衷案が、現状である。
 居間まで声は届かないが、動きは見える。

459 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:42:54 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚*ζ「怪しいって、何がですか?」

(´・ω・`)「あの女だよ。ヒール。臭うね」

( ^ν^)「臭うのはお前だ。体からアルコールが滲み出てんじゃねえのか」

(´・ω・`)「あ? てめえがガキの頃の恥ずかしい話とか色々デレちゃんにバラすぞ」

( ^"ν^)「死ね」

 ニュッとデミタスも、浴衣から元の服へと着替えている。
 ショボンだけは風呂に入らないまま眠っていたので、スーツが皺くちゃだ。
 しかも酒臭い。

(´・_ゝ・`)「僕も妙だと思ったよ、彼女の発言は。ね、ニュッ君」

( ^ν^)「……ああ」

ξ゚听)ξ「まあ、不自然な点はいくつかあったわね」

(´・ω・`)「もろに、ね」

ζ(゚、゚;ζ「?」

 まったくぴんときていないデレを無視して、4人は何か話し始めた。
 慌ててデレが挙手をする。居間のワカッテマスが、一瞬身構えた。

460 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:45:28 ID:VS/dOPGUO

ζ(゚、゚;ζ「私にも分かるように説明お願いします!」

(´・ω・`)「……」

( ^ν^)「……」

ζ(゚、゚;ζ「そこ2人、それが人間に向ける目ですか? 私は畜生じゃないですよ?」

(´・ω・`)「どうせ、分かってないだろうとは思ったけどさ……。
      何でこんな奴と仲良くしてやってるんだろう、僕」

( ^ν^)「もう寝てろよお前」

ζ(;、;*ζ「頑張りますからあ! 頑張りますから置いてかないでえ!」

ξ゚听)ξ「よしよし、泣かないの」

(´・ω・`)「非常に面倒だが、哀れなデレちゃんのために説明してあげよう。
      ――まずは、これを見てほしい。
      荒巻さんと一緒に屋敷を回って描いた間取り図だ」

(´・ω・`)「部屋の配置だけを記したものだから、かなり大雑把だけどね。悪しからず」

 ショボンがメモ用紙を差し出した。
 まずニュッ、デミタス、ツンの3人がメモを回していき、最後にデレの手に渡る。


http://imepic.jp/20110717/801180

461 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:47:20 ID:VS/dOPGUO

(´・ω・`)「『大旦那』がフィレンクト、『若菜夫妻』がワカッテマスとヒートの部屋だ。
      フィレンクトと荒巻夫妻の間の部屋は仏壇が置かれてるだけで、
      寝室としては使われていない」

ζ(゚、゚;ζ「……『アホ』って私ですか?」

(´・_ゝ・`)「堂々と『俺』とだけ書かれてるのがこの部屋だね。僕らの存在は無視か」

(´・ω・`)「それはどうでもよろしい。
      ――フサの部屋近辺にあるトイレや浴室はフサ専用だったらしい」

ζ(゚、゚*ζ「ふむふむ」

(´・ω・`)「さあ、本題だ。隣接している和室同士は基本的に襖で仕切られている。
      縁側や廊下に面した出入口は障子とか引き戸だね。防音性ってのは期待出来ない」

462 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:48:45 ID:VS/dOPGUO

(´・ω・`)「台所、ヒールの部屋、荒巻夫妻の部屋。これらは近いところにあるよね」

ζ(゚、゚*ζ「はい」

(´・ω・`)「何か気付かない?」

ζ(゚、゚;ζ「えっと……」

(´-ω-`)「……デミタス」

(´・_ゝ・`)「はいはい。――廊下での襲撃、彼女の部屋での揉み合い……。
        結構ばたばたしたと思うんだけど、荒巻さん達はまったく気付かなかった。
        ビロードちゃん、あるいはヒールさんの悲鳴でようやく起きたんだ」

ζ(゚、゚*ζ「……眠りが深かった、とか」

(´・ω・`)「仮にそうだとしよう。すっかり寝入っていて誰も物音に気付かなかった。
      うん。まあ、有り得なくはないね。納得いかないけど。
      でも、もっとおかしな点があるだろう?」

ζ(゚、゚;ζ「?」

ξ゚听)ξ「どうして自分の部屋に行ったか、よ」

ζ(゚、゚;ζ「……あ」

( ^ν^)「人のいる場所に逃げ込むんじゃねえか、普通」

463 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:51:18 ID:VS/dOPGUO

ξ゚听)ξ「二度目のチャンスにおいても、彼女は少し距離のある奥の座敷へ逃げているし」

 台所を出てすぐ目の前に荒巻夫妻がいるにも関わらず、
 ヒールはわざわざ無人の自室へ逃げた。

 腕を切られた後も同様に、向かいの荒巻達には助けを求めていない。
 フサは腕っ節が強いから、とヒールは言っていた。
 しかし、まずは一番近い者を頼るのが普通だろう。

 ――ここについては、デレにも疑問に思う点がある。
 デレにも、というか、この場にいる人間ではデレしか気付けなかった点。

ζ(゚、゚;ζ「あのう」

(´・_ゝ・`)「ん?」

ζ(゚、゚;ζ「……フサさんとヒールさん、お互い嫌い合ってたみたいなんですよ。
      喧嘩してるの見ました。
      フサさん、ヒールさんのこと叩いたり蹴ったりして、怒鳴ってたし……」

(´・ω・`)「ふうん? 仲が悪かったのか。そうなんだ。
      なら、フサのところに行くのはますます妙だな」

 顎を摩りつつ、ショボンが何度も頷く。
 ようやく有意義な発言を出来て、デレはほっと息をついた。

464 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:55:02 ID:VS/dOPGUO

(´・ω・`)「……ああ、それからね、ブーンの行動もおかしい。
      デレちゃん、ブーンはヒールに何と言って脅したんだったかな?」

ζ(゚、゚;ζ「んっと……金目のものを出せ?」

(´^ω^`)「あっはっはっはっは!!」

 出し抜けに、ショボンは大口を開けて笑い始めた。
 その声の大きさたるや、居間にまで響き渡るほど。

 デレが思わずツンの後ろに逃げる。

(´^ω^`)「笑えない冗談だよねえ。笑っちゃったけど」

(´・ω・`)「なあにが金目のものだよ。あいつの唯一の取り柄だぜ、金は。
      第一、吹雪で逃げ場はないし相手に素姓は知られてるし……。
      こんなところで危険を冒してまで強盗やる意味も必要も、まったくない」

ζ(゚、゚;ζ「……たしかに」

(´・ω・`)「どうにも、ヒールの話には穴が多いね。
      少し調べりゃあ簡単に解決出来そうだ」

465 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:56:56 ID:VS/dOPGUO

( ^ν^)「……ショボン」

(´・ω・`)「はい何ですかあ」

( ^ν^)「さっき、デミタスと話したことがあって。
       ……楽しそうに推理してるとこに、これ言っていいか分からないんだが」

(´・ω・`)「何、ニュッ君がそんな風に言い淀むなんて珍しい」

( ^ν^)「デミタスの本が」

(´・ω・`)「本」

( ^ν^)「……演じさせてるのかもしれない」

 沈黙。
 徐々にショボンの眉間に皺が寄り、口がひん曲がっていった。

(´・ω・`)「本のこと忘れてた」

ζ(゚、゚;ζ(私も)

 そうだ、そうだった。
 そもそも、デミタスの本を探しに来たのだった。
 先程クローズドなんちゃらの話をしたときに引っ掛かったのは、これか。

466 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/17(日) 23:59:57 ID:VS/dOPGUO

ξ゚听)ξ「……本……」

( ^ν^)「兄ちゃんが、寝る前に若旦那から本の話を聞き出してた。
       本は行方不明な上にタイトルもあらすじも分からなかったんだが」

(´・ω・`)「この状況に思い当たる話があるんだね?」

( ^ν^)「ある。人数も、舞台も、時期も……一致してる。奇跡的に」

(´・_ゝ・`)「被害者を含め、登場人物は14人。小さな村の中、ぽつんと建つ屋敷。
        冬。吹雪。――偶然にも、全ての要素が揃ったからね。
        物語が始まってしまったんだろう」

 デレは2人の言葉を反芻し、瞠目した。
 メモ用紙を握りしめてしまう。

ζ(゚、゚;ζ「内藤さんは演じさせられて――フサさんを殺したんですか?」

(´・ω・`)「まあ、そういうことになるね。
      ……いや。ちょっと待て。なら、やっぱりブーンは犯人じゃないだろ。
      往々にして一番怪しい奴ほど無実だったりするんだ、フィクションの中じゃ」

( ^ν^)「たしかに、真っ先に疑われて濡れ衣を着せられる登場人物がいる。
       兄ちゃんがその役なんだと思う」

467 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:01:23 ID:AM0GaDYIO

ξ゚听)ξ「真犯人は? ヒール?」

( ^ν^)「演じさせられてるなら、ヒールは犯人にならない……筈」

(´・_ゝ・`)「うん。本の中じゃ、犯人は男なんだよ」

(´・ω・`)「性別ぐらいどうだっていいだろ」

(´・_ゝ・`)「良くない」

( ^ν^)「デミタスの本は、頑固っつうか何つうか……気難しいんだ」


 登場人物の数や性別、舞台に季節――それらの条件が物語通りに、
 かつ、小細工なしに自然な形で揃わない限り、
 デミタスの本自ら「演じさせる」ことは滅多にない。らしい。

 受動的だが頑固者。
 非常に面倒臭い性格だ。

 スランプに陥れば、じっと黙って、納得のいくようなアイディアが降りてくるのを待つ。
 降りてこない限りは部屋から出ない。動かない。
 そんなデミタスに似たのだろう。
469 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:03:46 ID:AM0GaDYIO

(´・_ゝ・`)「僕の本は、基本的な設定や大事な展開は譲らないけど、
        それ以外――所々の場面は役者達のアドリブに任せたがる」

( ^ν^)「変なところで細かくて、変なところでルーズ」

(´・_ゝ・`)「うん、そんな感じ。
        ……だからって……ヒールさんもなかなか大胆なことを仕出かしてくれたな。
        よく本が許したもんだ」

ζ(゚、゚;ζ「……はっきり分かりやすく言ってください」

 頭を押さえるデレ。

 デミタスの言わんとすることを、ツンが代わりに口にした。

ξ゚听)ξ「ヒールは真犯人を庇ってるってことかしら。
      デミタスの話しぶりからして、本来それは存在しない展開……アドリブなわけね」

(´・ω・`)「……ふむ」

 内藤でもなくヒールでもない、フサを殺した「真犯人」の男。
 ヒールは内藤に疑いをかけることで、そいつから目を逸らさせようとしている。

470 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:05:25 ID:AM0GaDYIO

 ショボンがニュッを睨む。
 真犯人とやらは誰なのだと問うと、ニュッは、居間の方へと振り返った。

 小声で、ぽつり、答える。

( ^ν^)「年齢や立場からして、多分――」


 ――若菜ワカッテマス。


ζ(゚、゚;ζ「ワカッテマスさん?」

ξ゚听)ξ「……そうか。
      お世話をしてる主人だし、義理の兄だし……。
      ヒールがワカッテマスを庇う理由はあるわ」

471 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:06:28 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「ワカッテマスがフサを殺す動機は?」

(´・_ゝ・`)「フサさんが演じる『被害者』は、色狂いの男って設定でね。
        男が妻と娘に手を出そうとしているのに気付き、犯人は彼を殺してしまう」

 被害者。フサ。
 フサが、妻と娘に。手を。

ζ(゚、゚;ζ「……」

 デレの脳裏に、生きていたときのフサの姿が蘇る。

 ビロードに向けた表情、声。
 ひどく嫌らしい笑み。

 不快感が胸に広がった。
 デレでさえこれなら、実の父親が殺意を覚えても仕方ない。かも、しれない。

 しかし、ならば、フサのあの振る舞いは本によるものだったのだろうか。
 それにしては、ヒールやビロードとの溝は深いようだったが。

472 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:08:43 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「……ふうむ」

 腕を組み、ショボンが唸った。
 首を捻る。

ξ゚听)ξ「ショボン、どうしたの?」

(´・ω・`)「うん? ……いや、まあ……うん。ちょっとね」

 曖昧な返事をして、溜め息。
 それから、ゆっくりと立ち上がった。

(´・ω・`)「さて、と。何時だ? ……2時半か。
      夜が明ける前にヒールの嘘をぶち壊してしまおう。本も見付けないとな」

ξ゚听)ξ「そうね。演じ終わる前に見付け出さなきゃ」

ζ(゚、゚*ζ「どうして?」

( ^ν^)「……展開を書き加える」

ζ(゚、゚;ζ「あ」

 フサを、生き返らせるためか。

( ^ν^)「『演劇』が終わってから書き加えたところで、何の意味もない。
       演じてる最中にやらねえと」

ξ゚听)ξ「一か八かなんだけれどね。デレのときとは色々と状況が違うし、
      正直こういうパターンは初めてだから、上手くいくか分からないわ。
      でも、やらないよりはマシでしょう」

 次々と皆が腰を上げていく。
 ツン、ニュッ、デミタス。

 デレも続き、ぐっと右手を振り上げた。

473 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:10:20 ID:AM0GaDYIO

ζ(゚、゚;ζ「が、頑張りましょう!」

(´・ω・`)「おうおう、一番の無能が張り切っていらっしゃる」

ζ(゚、゚;ζ「無能!?」

(´・ω・`)「さあ、今後の方針だ。
      僕とデミタスで、ヒールの嘘を崩すための証拠を集める」

(´・ω・`)「ニュッ君とツン、デレちゃんは本を探せ。
      この家にあるのは確かなんだ、死ぬ気で見付けろ」

(´・ω・`)「ってことで――あのさあニュッ君」

( ^ν^)「何だよ」

(´・ω・`)「犯人役はワカッテマス、被害者はフサ。
      で、肝心の『主人公』は誰なわけ?」

 訊ねながらも、既に見当はついているのだろう。
 にやついている。

474 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:11:31 ID:AM0GaDYIO

( ^ν^)「……まあ」

(´・_ゝ・`)「探偵、だよね」

 デミタスの人差し指が、ショボンを示した。

 昔から――本が散り散りになる前から――内藤達と親しかったショボンだ。
 過去、図書館で本に触れていた可能性は充分にある。

 ショボンは舌を出し、物凄く下衆っぽい笑みを浮かべた。

(´^ω^`)「おい脇役共。せいぜい、主人公様の手足になれや……」

ξ゚听)ξ「……自分が活躍出来るからってテンション上がってるわね」

 うひひ、と薄気味悪く笑うショボン。
 彼はデミタスと共に若菜夫妻の部屋を通り、居間へと向かっていった。
476 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:13:28 ID:AM0GaDYIO

 ニュッがデレを一瞥する。

( ^ν^)「探すぞ無能」

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさんまで!」

 ――主人公はショボン。
 ならば。

ξ゚听)ξ「……まずは、あれかしら」

 壁に掛けられたトレンチコート。
 その下に転がっているショボンの鞄を開いた。

 直後、居間からワカッテマスの怒鳴り声が響き渡る。
 驚いたデレがニュッにしがみつき、ビンタされた。
 往復で。

 一度ツンの手が止まったが、ショボンへの抗議であるのを聞き取るや、作業に戻った。

 中身を丁寧に取り出し、畳に置いていく。
 封筒やらファイルやらボイスレコーダーやらと、関係のないものばかり。
 本の姿はない。

477 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:16:11 ID:AM0GaDYIO

ξ゚听)ξ「そう簡単には出てきてくれないようね」

ζ(;、;*ζ「ニュッさん酷い……ビンタって……ビンタって……」

( ^ν^)「……」

ξ゚听)ξ「あ、こら」

 大判の封筒を開き、中を覗き込んでいるニュッの頭をツンは小突いた。
 それに構わず、ニュッが封筒から書類を引っ張り出す。
 ワカッテマスの怒声はいつの間にか止んでいた。

ξ゚听)ξ「ショボンのお仕事のやつでしょう、それ。
      勝手に見たのバレたら、後が恐いわよ」

( ^ν^)「……若菜フサの身辺調査」

ζ(;、;*ζ「え?」

 呟かれた名前に興味を引かれたか、ツンとデレはニュッに身を寄せ、書類を見た。
 たしかに、若菜フサ、という名前がある。
479 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:20:17 ID:AM0GaDYIO

 ――今年五月二十九日、……県……町の若菜家より若菜フサを預けられる――

 ――若菜フサ 三十一歳 男――

 ――依頼者:若菜フィレンクト
   依頼内容:若菜フサが、若菜フィレンクトのもとへ渡された経緯の調査――


( ^ν^)「預けられた理由、知らされてなかったのか」

ξ゚听)ξ「預けられたというより、押しつけられた、って感じかしら」


 ――調査方法:……県……町での聞き込みが主。許可を得て録音済み。
   計六人に聞き込みをしたが、答えてくれたのは二人のみ――

 ニュッが、ボイスレコーダーを手に取った。
 音量を絞り、再生。

 女性の声が聞こえてきた。
 躊躇いがちに、言葉を選びながら話している。
 時折入る相槌は、ショボンへ報告を任せた探偵のものだろうか。

ζ(゚、゚;ζ「……う……」

ξ゚听)ξ「……そういうこと」

 話の内容。書類に記された要約。

 デレの胸に、もやもや、どろどろとしたものが溜まっていった。



*****

480 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:21:29 ID:AM0GaDYIO


 誰も口を開かない。
 静かだ。

 ヒールは、恐々、隣にいるワカッテマスの顔を見上げた。
 目が合う。

 慌てて視線を外し、俯いた。

( <●><●>)「……」

川*` ゥ´)(……私が守る……)


 彼のことは、自分が守らなくてはならない。
 彼の罪は、自分が被らなくてはならない――


 そのとき、2つ先の部屋にいた探偵達が動いた。
 2人の男が、ワカッテマスとヒートの部屋を通って居間へやって来る。

(´・ω・`)「話し合いは終わりました。今から本格的に調査を始めます」

(‘_L’)「うむ……」

(*><)「ドラマの探偵さんみたいなんです」

 ビロードが場違いにはしゃいだが、すぐに「ごめんなさい」と口を閉じた。
 内藤が、気にするなと言って微笑んだ――つもりなのか、唇の端を持ち上げる。
 顔色が非常に悪い。寧ろ、そっちの方を気にしてしまいそうだ。

481 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:23:06 ID:AM0GaDYIO

( <●><●>)「ですから、それは警察の仕事ですよ」

(´・ω・`)「ええ、勿論、最終的には全て警察へ任せることになります。
      ですが、ほら……」

(´・ω・`)「……ここは『若菜家』ですから。
      真実を隠そうと思えば、出来ないこともないでしょう?」

川;` ゥ´)「……?」

 いやに意味深な発言だ。
 どういうことだろう。

( <●><●>)「――我々が、事実を隠蔽するつもりだと仰られるのですか」

(´・ω・`)「ええ、まあ」

(;´・_ゝ・`)「ちょっ、ショボン君、その言い方は……」

(#<●><●>)「いい加減にしてください!」

(;´・_ゝ・`)「ああもう、ほら怒られた!」

482 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:26:12 ID:AM0GaDYIO

(#<●><●>)「うろちょろするに留まらず、人を馬鹿にして……っ!」

/;,' 3「若旦那様……」

(;><)「お父さん、どうどうなんです」

(#<●><●>)「こんな無礼者に家の中を荒らされて堪るものですか!
       もういい、私が警察を呼んできます!」

ノハ;゚听)「この吹雪じゃ無理だよ、ワカ」

J(;'ー`)し「そうです、落ち着いてくださいませ」

(#<●><●>)「っああ、もう!」

 ちゃぶ台に拳を叩きつけたワカッテマス。
 はらはらしながら見つめているヒール達を他所に、
 ショボンは薄く笑う。

(;^ω^)「ショボン、笑ってないで謝れお!」

(´・ω・`)「――前科がありますから」

(#<●><●>)「……は……?」

(´・ω・`)「若菜家――こちらではなく、本家の方ですがね。
      あっちの若菜家には前科があります」

(#<●><●>)「前科って……」

(´・ω・`)「……隠匿の」

483 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:27:15 ID:AM0GaDYIO

(;´・_ゝ・`)「えっ?」

(´・ω・`)「もしかしたら、こちらでも同じことが行われるかもしれませんから……。
      素人の私が手を出せる内に、事件の解決を試みたい」

 ワカッテマスの口が、ぽかんと開いたまま固まった。
 ゆっくり、フィレンクトへ振り返る。

( <●><●>)「……どういうことですか」

(‘_L’)「……」

(´・ω・`)「まあまあ。とにかく調べさせてもらいますよ。
      で、若菜さん。よそ者だけをうろつかせるのは不安でしょう。
      ついでに、私も逐一質問出来る相手が欲しい」

(´・ω・`)「そこで、誰かお供していただけませんかね」

(‘_L’)「――荒巻、行け」

(;<●><●>)「父さん!」

/;,' 3「私でございますか」

(‘_L’)「それと、お前も。2人なら大抵のことは答えられるだろう」

J(;'ー`)し「……かしこまりました」

/;,' 3「大旦那様の御命令とあらば」

484 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:29:18 ID:AM0GaDYIO

(;<●><●>)「……どうして……こ、こんな、人達に」

(´・ω・`)「ありがとうございます。改めて言っておきますが、
      部屋や物には必要最低限にしか触れませんのでご安心を」

 どこから出したのか、白い手袋を嵌めながらショボンが言う。
 何でそんなものを持っているのだと、内藤が胡散臭そうな顔をした。

(´・ω・`)「なるべく指紋をつけないようにね。ある種のマナーさ」

( ^ω^)「僕が訊きたいのは、そういうことではなくてね」

(´・ω・`)「うるせえなあ、行くぞ」

川;` ゥ´)「あ……」

 荒巻夫妻を連れ、ショボンとデミタスが居間を出る。

 ワカッテマスは、握った拳を微かに震わせた。

(;<●><●>)「……おかしいですよ、父さん……」

(‘_L’)「……何がだ」

(;<●><●>)「何故彼らに好き勝手させるんですか!
       犯人はここにいるし、警察さえ来れば全て明らかになります。
       わざわざ部外者の素人が調べ直すのに、何の意味がある!?」

485 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:30:19 ID:AM0GaDYIO

(‘_L’)「――少々」

(;<●><●>)「は……?」

 左腕。
 二の腕から先がないそこを着物の上から撫で、
 フィレンクトは、畳を睨んだ。

(‘_L’)「思うところが、あった」



*****

486 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:34:07 ID:AM0GaDYIO


(´・ω・`)「さっさと証拠を集めようか。このままじゃ物語が進まない」

/;,' 3「物語?」

(´・ω・`)「あ、いえいえ。独り言です」

(;´・_ゝ・`)「うわっ、何この臭い」

J( 'ー`)し「ヒールがお醤油の瓶を落としてしまって、中身を丸ごと床に」

(;´・_ゝ・`)「……ああ、そういや本人が言ってたかな。初めて会ったとき……」

 ショボンとデミタス、荒巻夫妻の4人は、居間の向かいにある台所の中に入った。

 醤油臭い。暗い。
 ショボンは荒巻に電気をつけるよう言ったが、出来ない、と返された。

/ ,' 3「丁度、遮木様を迎えに行く直前でしたか、電球が切れてしまいました。
    替えの電球もないし店は閉まっていましたから、
    未だ明かりをつけられない状態でして」

J( 'ー`)し「ピャー子もそのせいで手元が見えなくて、瓶を落としてしまったのだとか」

 ショボンが現場に駆けつけた――だらだら歩いて到着した――とき、
 ヒールの手には懐中電灯があった。

 なるほど、「台所の確認」とやらを本当に行ったのなら、
 あれを明かりとして使っていたのだろう。

487 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:35:58 ID:AM0GaDYIO

 ショボンはスーツの胸ポケットからペンライトを引き抜き、スイッチを入れた。
 室内を一通り照らす。

(´・_ゝ・`)「結構広いね」

(´・ω・`)「ああ」

 出入口は3つ。すべて木製の引き戸。
 廊下に向かって一つ、土間に向かって一つ。
 そして、外に通じる勝手口。

 まずは土間方面に着目する。

(´・ω・`)「……ヒールさんは、ブーンが来た際、ここに隠れたんだよね」

 土間の引き戸近くに、食器棚がある。なかなか大きい棚だ。
 女性1人ぐらいなら、陰に隠れれば簡単には見付からないだろう。
 この暗さだから、尚更。

(´・ω・`)「ブーンが去った後、まな板を確認……」

 ショボンは流し台の前に立った。
 置かれっぱなしのまな板を指差す。

488 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:38:22 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「この上にあった筈の包丁がなくなっていた、と。
      ――下、開けますよ。いいですか」

/ ,' 3「どうぞ」

 続いて、シンクの下、収納スペースの扉を開いた。
 鍋やフライパンなどの調理器具がしまわれている。

 扉の内側に、固定されている包丁が数本。
 一本分の空きがある。

(´・ω・`)「普段は、ここに収まってたわけですね。凶器の包丁は」

/ ,' 3「はい、その筈です」

 扉を閉じ、次に勝手口へ移動。

 引き戸を半分ほど開ける。全開にしたかったが、雪のせいで途中で止まってしまった。
 聞いているだけで凍えそうな、鋭い風の音が響く。

 身を乗り出させ、ペンライトを持ち直す。

 視界が雪で埋め尽くされた。
 これでは、足跡などがあったとしてもすぐに消えてしまう。
 観察するだけ無駄か。

489 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:41:38 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「んー……――ん?」

 違和感。目を凝らす。
 勝手口の近く、雪に覆われた地面の一部が妙に盛り上がっているのに気付いた。

(´・ω・`)「荒巻さん。そこ、何か埋めてます?」

/ ,' 3「はい? ……ああ、あれは」

J( 'ー`)し「猫です」

(´・_ゝ・`)「猫? お墓ですか」

J( 'ー`)し「ええ。野良猫がね、よく、うちに遊びに来てたんですよ。
      ピャー子が甘やかして餌くれるからでしょうね」

(´・_ゝ・`)「可愛がってたのはヒールさんだけ?」

J( 'ー`)し「ヒートやビロードも、ちょくちょく遊んでやってました。
      『ちんぽっぽ』って名前付けて」

(´・_ゝ・`)「……それはまた、随分と思い切ったネーミングで」

J( 'ー`)し「思い切りすぎて、結局みんな『ぽぽちゃん』って呼んでましたけどね」

490 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:44:13 ID:AM0GaDYIO

 猫が埋まっている土饅頭。
 ということは、当然。

(´・ω・`)「死んだんですね? 猫」

J( 'ー`)し「そうらしいです」

(´・ω・`)「『らしい』?」

/ ,' 3「私共は見ておりません。
    9月頃、ヒートの妊娠を報告するため本家へ行ったときがありました。
    その日はピャー子とビロードが留守番をしていまして――」

 夕方、荒巻達が帰宅した頃には、既に猫は埋められていたという。
 墓を作ったのはピャー子。
 ビロードはしばらく塞ぎ込んでいたそうだ。

 死因は知らされていない。

(´・ω・`)「猫、ね」

 ショボンがデミタスに振り返る。
 デミタスは首を振った。

 ――「本」には、猫など出ていないらしい。

 事件には無関係だろう。
 だが、一応記憶には留めておく。

 敷居に積もる雪を足で払い、勝手口を閉めた。
492 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:49:36 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「出ますか」

 鼻が麻痺してきた、と呟き、ショボンはいち早く台所から脱出する。

 廊下に照明はない。
 ペンライトを床に向けながら歩く。

(´・ω・`)「台所を出て、自室へ……」

 ヒールの部屋。
 入口前の廊下に血痕らしき染みがある。

 開けっ放しの障子。電気は消えている。
 中には入らずに、ライトの明かりだけで畳や壁を観察した。

 微量の血が手前の畳に散っている。

(´・_ゝ・`)「この辺で腕を切られたわけか」

(´・ω・`)「話通りなら」

 部屋を離れた。ここは、もういい。

 廊下を照らし、光に浮かぶ血痕を辿りながら進む。

(´・ω・`)「逃げたヒールさんをブーンが追った。
      ……ビロードちゃんは、トイレに来たのかな?
      この血痕に気付き、奥の座敷へ向かった――ってとこか」

 呟き、ショボンは「ん?」と声を零した。

493 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:51:45 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「いや、……ううん……。後で本人に訊くか」

/ ,' 3「?」

 突き当たり。
 右に曲がれば、真正面にトイレ。右手側に洗面所、左手側にフサの部屋。

(´・ω・`)「……ヒールさんの部屋からここに来るまでで、段々血の量が増えてるな」

(´・_ゝ・`)「そうだね」

(´・ω・`)「そんなに大きな傷じゃなかった筈だけど」

 座敷に上がる。
 電気はつけられたままだ。

 ペンライトをしまい、今度はボールペンを出す。

(´・ω・`)「ちょいと失礼」

 部屋の中央で死体を覆うシーツ――フィレンクトが荒巻にかけさせたもの――をめくり、
 ショボンはフサをまじまじと見つめた。

 寝間着は胸元から腹までが血に染まっている。
 最も汚れの酷い箇所を、ボールペンの先で軽く触れた。

494 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:53:38 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「胸をぐさり、だね」

(´・_ゝ・`)「他に傷は?」

(´・ω・`)「なさそうだ」

 シーツをかけ直し、腰を上げる。
 人体に、ましてや死体に造詣が深い者などこの場にはいない。
 胸を刺されて死んだ。ショボンに分かるのは、これぐらいだ。

J(;'ー`)し「本当に……。……ああ……」

 突然、カーチャンが消え入りそうな声をあげた。
 畳の上にへたり込む。

(´・_ゝ・`)「どうしました」

J(;'ー`)し「だ、大事な、本家からの預かり人なのに……。
      それに、私達の息子が本家に雇われているんですよ……どうしましょう……」

/ ,' 3「うむ……」

 ショボンは彼らに背を向けて、嘲りに似た笑みを浮かべた。

 ――心配なのは、本家から自分達に下される処分だけか。

 フサが可哀相などとは、誰も思っていないらしい。

495 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:54:36 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「大丈夫ですよ、多分」

J(;'ー`)し「……大丈夫って……?」

(´・ω・`)「あなた達へのお咎めは、ないと思います」


 きっと。
 フサの実家である「本家」も、彼の死に心を痛めはしないだろう。


(´・ω・`)(哀れな奴だな、あんた。……若菜フサ)


 ――どうせ、フサの自業自得だ。



*****

496 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 00:57:38 ID:AM0GaDYIO





『若菜さんのところのね、三男なんですよ。
 いい歳して働きもしないで、家に閉じこもってて。外出するのは散歩ぐらい――え?
 ああ、はいはい、本題ね……』

『……私が話した、って誰にも言わないでくださいよ?
 うん。……絶対ですよ』

『――女の子にね、あのう……いたずらしたんですって』

『誰って。だから……フサさんが』

『女の子っていっても、二十歳とかそこらじゃありませんよ。
 本当に子供。小学生』

『しかも、過去のも合わせると1人2人じゃないらしいんです。
 ほら、あの家、大きいでしょう? 使用人もいっぱいいるし、
 お手伝いさん達が家族揃って住み込みで働いてるんですよ』

『……うん、そう。昔からね、使用人の娘さん達、何人も被害に遭ってたそうです。
 子供ばっかり。小学生とか中学生とか。
 まあ、それでも内部だけでの問題だったから、隠してきてたみたいなんですけど』

『ついに、今年の……春でしたかね。
 使用人とかじゃなくって、外の、一般の女の子に手を出しちゃいまして。
 ええ。酷い話です。何考えてるんでしょう。年端もいかない子に――』
498 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:00:40 ID:AM0GaDYIO

『――続き? あ、ごめんなさい。
 それで若菜さんね、……ほら、そんな人が身内から出たなんて、公にしたくないでしょう。
 お金やコネをいっぱい使って、揉み消したらしいです』

『揉み消しても、私みたいな近所の人間は知っちゃいましたけどね。
 口止めはされてますよ。だから、私がバラしたってのは黙っててくださいね、本当に』

『で、肝心のフサさん。
 さすがにこのまま置いておくわけにはいかないってんで、親戚の家に預けたとか』

『……ほとぼりが冷めるまで、なんてフサさんには言って聞かせたらしいですけど。
 多分ね、帰ってこないと思いますよ。
 厄介払い出来たんだから――』


.

499 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:03:00 ID:AM0GaDYIO

 ニュッはボイスレコーダーの停止ボタンを押した。
 もう一回聴くか、とツンにレコーダーを差し出したが、丁重に断られる。

( ^ν^)「……これじゃあ『本』とか関係なく……」

ξ゚听)ξ「ビロードはフサに狙われてたかもしれないわね」

ζ(゚、゚;ζ「うん……」

 人差し指でこめかみを掻き、ニュッは書類に目を落とした。

 妙だ。
 どうにも、腑に落ちぬ点がある。

( ^ν^)「……」

( <●><●>)「――で、あなた方は何をしているんですか」

ζ(゚、゚;ζ「ほぎゃっ!」

 デレが肩を跳ねさせる。
 ワカッテマスが近寄っていたことに気付かなかった。

 隣室、若菜夫妻の部屋から、ワカッテマスが訝しむようにニュッ達を見つめている。

 怯えきっているデレの頭を叩いた。
 ワカッテマスを疑っていることを、本人に悟られてはいけない。

500 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:06:00 ID:AM0GaDYIO

( <●><●>)「遮木さんのお手伝いをしなくていいんですか?」

ξ゚听)ξ「一応、立派な仕事中です」

 書類とレコーダーを鞄に戻す。
 ニュッが探し物をしているのだと返すと、ワカッテマスは瞳をぎょろりと動かした。

( <●><●>)「探し物?」

( ^ν^)「……丁度いい。あんたの部屋も探させてもらう」

ζ(゚、゚;ζ「あ、ニュッさん」

 返事を待たず、ニュッはワカッテマスのもとへ近付いていく。
 遠慮も何もない。
 デレは小走りに、ツンはゆったりとついてくる。

(;^ω^)「ニュッ君、あんまり変なことするんじゃないおー?」

 居間から内藤が釘を刺してきた。

 夫婦の寝室である。
 たしかに赤の他人が物色するのは、いかがなものか。

 後ろでデレが同じことを指摘してきた。
 内藤やツンはともかく、デレに注意されるのは癪に障る。

501 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:08:57 ID:AM0GaDYIO

(;<●><●>)「こら!」

ノハ;゚听)「ワカ、あんまり怒るなって」

(;<●><●>)「はあ? ……ヒート、あなたの部屋でもあるんですよ?」

ノハ;゚听)「事件の解決に役立つなら、私達の部屋ぐらい好きにされてもいいだろ」

(;<●><●>)「解決が目的だって言うなら尚更ですよ!
       何の関係もないのに漁られるなんて……」

(‘_L’)「ワカッテマス」

(;<●><●>)「……っ」

( ^ν^)(……本棚)

 まずは本棚を探る。

 文庫本、辞書、詩集や画集。
 現在では絶版となり、手に入れにくい本まであった。
 少しばかり読んでみたくなったが、我慢して棚に戻す。

 デミタスの本は見付からない。

502 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:10:22 ID:AM0GaDYIO

( ^ν^)「……箪笥」

 次に箪笥の中を探そうかと考えたものの、女性の衣類が入っているとなると、
 いくらニュッでも怯む。
 顎をしゃくり、ツンに指図した。

ξ゚听)ξ「開けていいですか?」

(;<●><●>)「――散らかさないでくださいよ」

 諦めた様子でワカッテマスが頷く。
 ごめんなさい、と内藤が代わりに謝った。

ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさんったら強引……」

( ^ν^)「黙れ」

 ツンが箪笥の引き出しを開ける。
 しまわれている衣服を両手で押し、本のような硬い感触がないか確かめた。

 続いて下の段へ手をかける。

503 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:15:04 ID:AM0GaDYIO

 その間に、ニュッは文机へ目をつけた。

( ^ν^)「あっちのも開けていいか」

(;<●><●>)「好きになさい」

(;^ω^)「本っ当にごめんなさいお! ニュッ君せめて敬語つかって!!」

(;><)「いっそ尊敬するほどの傍若無人ぶりなんです……」

 一段目の取っ手を掴み――ふと、ニュッは机上へ意識を向けた。
 気になるものがあったのだ。

 透明なプラスチックのケース。
 錠剤や吸入薬など、数種類の薬が入っている。

( ^ν^)「……誰の薬だ?」

( <●><●>)「私のものです。喘息の薬と、あと……こっちのは睡眠薬」

ζ(゚、゚*ζ「睡眠薬ですか」

( <●><●>)「一時期、精神的な疲れなどで眠りづらいときがありまして。
       今は使ってませんよ」

504 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:17:10 ID:AM0GaDYIO

 睡眠薬。
 物語の中にも、それは登場している。

 ――真犯人が被害者を殺す際に使用するのだ。

 「これです」と言いながら、ワカッテマスは、錠剤が入ったパッケージを拾い上げた。

( <●><●>)「あまり強いものではありませんが――」

 口が止まる。

 じっと睡眠薬を眺め、ワカッテマスは居間に振り返った。

( <●><●>)「ヒート、飲みました?」

ノパ听)「え? それ? 飲んでないぞ」

( <●><●>)「……勘違いですかね」

川;` ゥ´)「……」

 ニュッは、ヒールがそわそわしているのに気付いた。
 ワカッテマスの手元と自分の膝を交互に見遣っている。

 彼女の様子がおかしいのをデレとビロードも感じ取ったようだった。

505 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:19:50 ID:AM0GaDYIO

ζ(゚、゚*ζ「……ヒールさん、何かありました?」

川;` ゥ´)「えっ」

( ><)「お薬、気にしてるみたいなんです」

川;` ゥ´)「いや、別に。何も……」

 怪しい。
 とてつもなく怪しい。

 ワカッテマスの口ぶりからして、減っているのだろう。睡眠薬が。
 誰かに使われたというわけだ。

( ^ν^)(……けど)

 だが、どうして、わざわざそれを臭わせるような発言をするのか。
 彼が犯人だというなら、隠すのが普通だと思うのだが。
 実際、本の中で、真犯人は睡眠薬の存在を隠すために色々と工作していたし。

506 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:21:31 ID:AM0GaDYIO

 嫌な予感がする。

 まさか。
 とんでもない、勘違いを。

( ^ν^)「おい」

( <●><●>)「何です」

( ^ν^)「他のは全部、喘息の薬なんだな」

( <●><●>)「そうですよ」

 ニュッの中で、考えが根底から覆されそうになっている。
 しかし覆してしまったら、一から推理をし直さなくてはならない。
 最悪の場合、自分達が首を突っ込む理由がなくなってしまう。

 彼は焦り始めていた。
 何でもいいから、手掛かりが欲しい。

( ^ν^)「喘息って、あんたの症状は軽いのか?」

( <●><●>)「まあ、私の場合は大したものでは――」

(‘_L’)「ワカッテマスは11歳のときに酷い風邪を引いた」

 唐突に、フィレンクトの声が飛んできた。
 ニュッへの返事なのだろうが、視線はヒールに向けられている。

507 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:25:56 ID:AM0GaDYIO

(‘_L’)「そのせいで喘息を発症したんだ。
      ――かなり重くてな、度々発作を起こしては病院へ連れていった。
      そうだろう、ワカッテマス」

( <●><●>)「……はあ。そうです」

( <●><●>)「ただ、大人になってからは、だいぶ軽くなりましたよ。
       ……ニュッさん、それが何か?」

( ^ν^)「……」

 引っ掛かる。
 ワカッテマスの話が、ではない。

 ――何故、いきなりフィレンクトが会話に割り込んできたのか。

 単に、喘息持ちだから薬をもらっている、と言えばいいだけの話だ。
 恐らくフィレンクトが黙っていたら、
 ワカッテマスもわざわざ風邪だの何だのといった説明はしなかったであろう。

(‘_L’)「……荒巻から」

( ^ν^)「あ?」

(‘_L’)「荒巻から、私の腕のことを聞いたそうだな」

( ^ν^)「……」

 聞いた。
 たしかに聞いたが。

 何が言いたいのだ、この老人は。

508 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:29:01 ID:AM0GaDYIO

ξ゚听)ξ「あら」

( ^ν^)「……どうした」

ξ゚听)ξ「本が……あ、何だ、アルバムだわ」

ノハ*゚听)「うおっ、懐かしい」

 一番下の段から引っ張り出したものを見て、ツンは肩を竦めた。
 てっきり本だと思ったが、単なるアルバムだった。

 ヒートが居間から寝室へと移動し、見せて、とツンに手を伸ばす。

ノハ*゚听)「ビロードが赤ちゃんの頃の写真が入ってるんだ」

ζ(゚、゚*ζ「えっ、見たいです」

ノハ*゚听)「ほらほら」

 アルバムを開くヒートにデレが歩み寄った。
 可愛い、と2人できゃあきゃあ黄色い声をあげている。

509 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:30:38 ID:AM0GaDYIO

(;<●><●>)「あのねヒート、今はそういうことしてる場合じゃないんですよ?」

ノハ*゚听)「これが生まれてから2週間ぐらいのときで……」

ζ(゚ー゚*ζ「ビロードちゃん可愛いねえ」

(*><)「そうですか?」

(;<●><●>)「さっきから気になってたんですが私の方がおかしいんですか?
       殺人事件があったっていうのに、みんな思い思いの行動とりすぎじゃ……」

( ^ω^)「ワカッテマスさん、なかなか苦労していらっしゃるようで」

(;<●><●>)「言っときますが、君も心労の一因ですからね。
       ……あれ? というか、君が一番のんびりしてちゃいけないんじゃないですか。
       君への疑いが一番濃厚なんですよ? 分かってます?」

( ^ω^)「その辺に関してはあんまり心配してませんお。
       あのしょぼくれ下衆探偵、腕は確かなので」

 ツンが息をついた。
 内藤がいつもの調子に戻ってきたので、安心したのだろう。

510 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:33:52 ID:AM0GaDYIO

ノハ*゚听)「これ、お宮参り行く前に撮った写真でさあ」

ζ(゚ー゚*ζ「ぷにぷにしてますね! いいなあ、触りたい」

( ^ν^)「てめえもぷにぷにしてんだろうが」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ!? し、してなっ……いや……まあ……。
      たしかに最近図書館でお菓子たくさん食べてるからちょっと……」

 冗談のつもりだったが本気にとられてしまった。
 まあ、どうでもいい。

 ニュッはデレの傍へ行き、写真を覗き込んだ。
 布団に横たわる赤ん坊の横に山吹色の産着が広げられている。
 何とも立派で豪奢な柄だ。胸の部分には家紋。さぞ金をかけたのだろう。

 その下に、老婦が赤ん坊を抱いている写真があった。
 宮参りの様子らしい。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ニュッさんも見ます? 赤ちゃんって可愛へぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

 へらへら笑うデレ。
 とりあえず、耳たぶを思いきり捩上げた。

ζ(;、;*ζ「急!!」

ξ゚听)ξ「いつも急でしょう、ニュッ君の暴力は」

511 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:35:36 ID:AM0GaDYIO

( ^ν^)「……この写真の婆さんは?」

(‘_L’)「私の妻だ」

( ><)「お祖母ちゃん、写真でしか知らないんです」

( <●><●>)「ビロードが2歳の頃に死んでしまいましたからね」

ノパ听)「ビロードのこと、すっごく可愛がってたんだぞ。
     あの産着もお義母様が用意してくれてな……」

 ニュッは、ヒートの言葉に顔を上げた。

( ^ν^)「こっち――旦那側の実家が用意したのか」

 必ずそうでなければならない、というわけではないが、
 嫁の実家が準備をするのが一般的ではなかろうか。

 少なくとも、こういった家柄ではその辺りにこだわりそうなものだが。

512 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:37:42 ID:AM0GaDYIO

 ニュッの問いに答えたのは、またもやフィレンクト。

(‘_L’)「ヒートとピャー子には、両親がいない」

川;` ゥ´)「……」

ζ(゚、゚*ζ「いない?」

ノパ听)「私が高校……2年で、ヒールが小学1年生ぐらいだったかな。
     両親が死んじゃったんだ」

( ^ω^)「……へえ」

 一緒だな、と、ヒートが内藤とニュッへ微笑を向ける
 何だか居た堪れなくて、ニュッは俯いた。

 ヒートは内藤達の祖父を知っている。
 彼らにも親がいないことを、過去に聞いていたのだろう。

ξ゚听)ξ「ご両親が亡くなった後、どうしたんですか」

ノパ听)「うん。で、引き取り手もいなくてさ。
     まあ私はもう高校生だったし、1人でも暮らしてはいけたんだけど。
     ……ヒールがまだ小さかったからな。どうしていいか、分かんなかった」

 ヒートの話を聞きながら、ヒールが膝の上に乗せた手を握り込んだ。

 先程から挙動不審ぶりが目立つ。
 彼女の中に閉じ込められているものは、果たして何なのか。

513 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:40:07 ID:AM0GaDYIO

ノパ听)「そしたら、ここに声をかけられたんだ。
     旦那様――お義父様の父上が、私達を住み込みで働かせてくれた」

ζ(゚、゚*ζ「ヒートさん、元々お手伝いさんだったんですね」

ノパ听)「ああ」

 ヒールが小間使いとして働いているのは昔の名残か。
 カーチャンが、「奥様」であるヒートを呼び捨てにしていたのも同じ理由だろう。

( <●><●>)「まだ幼かったピャー子はともかく、ヒートときたら……。
       17にもなって落ち着きはないし不器用だし頭は悪いし、がさつ者で。
       見兼ねて、私が直々に教育したんですよ」

ノパ听)「お昼は役場で働いて、夜には私の先生やって。
     あの頃のワカ、無茶してたなあ」

 それが夫婦の馴れ初め。

 デレと内藤なんかは興味深そうに聞いているが、
 ニュッは、ヒールの方へと注意を向けていた。

 若菜家において、ヒールの立場は一番下だ。
 地位だけの話ではない。
 行き場をなくした幼子の時分に、姉と共に拾ってもらえたという恩義がある。

 ニュッはデレの横から手を伸ばし、アルバムのページをめくった。
 あの老婦――ビロードにとっての祖母――が、ドレス姿のビロードを抱えている。
515 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:45:13 ID:AM0GaDYIO

ζ(゚、゚*ζ「……ニュッさん?」

( ><)「どうしたんです? 難しい顔して」

( ^ν^)「……うるせえ」

ζ(゚、゚;ζ「ほぎゃんっ!」

(;><)「あのお兄さんはお姉さんが嫌いなんですか……?
      それとも喧嘩中なんですか」

( ^ω^)「通常運転だお」

 デレの額に、でこぴんをかます。
 痛いと喚くデレを睨みつけてやれば、すっかり黙り込んだ。

 集中。思考に専念する。

516 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:46:40 ID:AM0GaDYIO

 そういえば。
 おかしなところがあったように思う。

 妙に気になるところが。



( ^ν^)「――……」



 とっ散らかっていた要素が、繋がった。



ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん!?」

(;^ω^)「どうしたんだお!」

 ニュッは居間を抜け、廊下に出た。

 早く、ショボンとデミタスに話さなければならない。



*****

517 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:48:05 ID:AM0GaDYIO


(´・ω・`)「これか、酒が入ってたの」

 ショボンは、布団の脇にある盆を見下ろした。
 徳利と猪口、小皿が乗っている。
 フサの日課、寝酒のセット。

 徳利を持ち上げ、軽く振ってみる。空だ。

(´・ω・`)「んで、こっちが……つまみ?」

(´・_ゝ・`)「だね。塩辛か」

 小皿に盛られているのはイカの塩辛。
 ほとんど手をつけられていないようである。

(´・ω・`)「フサさんって塩辛は嫌いでした?」

J( 'ー`)し「いいえ……好んで食べてたみたいですよ。
      塩辛を切らしてしまったとき、フサ様に怒られたとピャー子が愚痴っていましたし」

(´・ω・`)「なら、何故こんなに残したんでしょうね」

 呟きを漏らし、ショボンは――

518 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:50:50 ID:AM0GaDYIO

 ――塩辛を一抓み、口に運んだ。


J(;'ー`)し「なっ」

(;´・_ゝ・`)「おおおい!? それは駄目だろショボン君!!」

 明らかに「必要最低限」の域を越えた行動に、デミタス達が慌てふためく。
 ショボン本人はというと、数秒も経たぬ内に顔を歪め、ぶんぶん頭を振り始めた。

 無理矢理塩辛を飲み込み、咳をする。

(;´・_ゝ・`)「ショボン君、大丈夫か?」

J(;'ー`)し「ま、まさか毒とか……!」

(;´・ω・`)「くっっっそ不味い!!」

(;´・_ゝ・`)「……へ?」

(;´・ω・`)「何だ、何だこれ……ふざけんな……おい、ちょっと――これって手作りか?
      ……失礼。手作りですか?」

J(;'ー`)し「いいえ、市販のものですよ。……ですよね、あなた」

/;,' 3「あ、ああ。そんなに酷いのですか?」

519 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:53:42 ID:AM0GaDYIO

(;´・ω・`)「……塩と……唐辛子か? 馬鹿みたいに調味料がぶち込まれてやがる」

 舌がひりつく。
 喉を撫でながら、ショボンは立ち上がった。

 この塩辛は、事件の中でどんな役割を果たしたというのだろう。
 重要そうではあるが、あまり考えたくない。味を思い出したくない。
 腹立たしいほど不味かった。

 冷や汗を拭い、視線を移す。
 気になったことがもう一つある。先にそちらを済ませてしまおう。

(´・ω・`)「ああー……っと。そこの畳、他のより新しくありません?」

/;,' 3「は……」

 部屋の右側、手前の畳。

 他の畳に比べて、ほんの少し――ごくごく僅かに――青みが強い。

 目敏いというか、細かすぎる。
 荒巻とデミタスが、呆れ果てた表情を浮かべた。

/;,' 3「ええ……以前、一畳だけ取り替えましたが」

(´・ω・`)「一畳だけ? そりゃあまた、どうして」

/ ,' 3「さあて。私共も知りません。
    理由を知っているのは、ピャー子と業者、フサ様のみでございます」

520 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:56:56 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「ふうん……『以前』って、具体的には?」

/ ,' 3「はて……」

J( 'ー`)し「ほら、あれですよ。ぽぽちゃんが死んじゃったのと同じ日」

/ ,' 3「ああ、そうだったか」

J( 'ー`)し「その日に、畳を取り替えたいってピャー子が……」

(´・ω・`)「ほうほう」

 カーチャンの答えに、ショボンは浅く頷いた。

 猫が死んだ日に畳を替えたがったのか。
 その2つの事実同士は、無関係ではなかろう。

( ^ν^)「――ショボン!」

(´・ω・`)「あれ、ニュッ君」

 突如、ニュッが駆け込んできた。
 彼が急ぐなど珍しい。

521 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 01:59:50 ID:AM0GaDYIO

(´・_ゝ・`)「どうした?」

( ^ν^)「これ――本じゃねえ。誰も、演じさせられてなんかないんだ」

/;,' 3「……本?」

 きょとんとする荒巻夫妻を置いて、ニュッが、彼の考えを話し始めた。

 本の仕業ではないという根拠。
 本と現実の相違点。

 それを聞き、ショボンは口元だけに笑みを浮かべる。

( ^ν^)「――ってことだと思う」

(´・ω・`)「はあ……なるほどね。
      荒巻さん。今のニュッ君の話、間違ってます?」

 隣で立ち尽くしていた荒巻は、ゆるゆる、首を横に振った。
 正しいです、と、カーチャンが小声で答える。

523 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 02:04:41 ID:AM0GaDYIO

(´・ω・`)「ははっ。ニュッ君、でかした。
      他に何か気になったことある?」

 ニュッは数秒考えてから、睡眠薬や、ヒートとヒールの過去などについて説明した。

 新たに得た情報と、これまで自分で調べた情報を脳内で掛け合わせていく。
 段々と浮かび上がってくる「真実」に、ショボンは顔を顰めた。

(´・_ゝ・`)「と、なると――真犯人は、ワカッテマスさんじゃないのかな?」

/;,' 3「わ、若旦那様が何か?」

(;´・_ゝ・`)「いや、何でもないです」

( ^ν^)「……誰が犯人かは、まだ分かんねえ」

(´・ω・`)「いや」

( ^ν^)「?」

(´・ω・`)「分かったかもしれない」

 ボールペンを、くるり、指先で回す。
 そして胸ポケットへしまうと、ショボンは廊下に出た。

524 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/07/18(月) 02:06:49 ID:AM0GaDYIO


(´・ω・`)「居間に行こうか。解決編は、全員揃ってこそだ」


 さて。
 これが終わったら、内藤にいくら請求してやろうか。

 そんなことを考えながら、意気揚々と足を進めた。





第七話 続く

戻る

inserted by FC2 system