- 3
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:01:50 ID:mEU.RSwwO
( ^ω^)『……』
ξ゚听)ξ『……何よ?』
( ^ω^)『……ツンって、すごく綺麗だおね』
ξ;*゚听)ξ『――なっ……! はあ!? ばっ、なっ、き、急に、な、何、』
( ^ω^)『おー。まっかっか』
ξ;*゚ -゚)ξ『……っ! ……っ! か、からかうなっ!!』
( ^ω^)『からかってるわけじゃないお。本当に綺麗だと思うお』
ξ;*゚听)ξ『嘘つき!』
( ^ω^)『……褒めてるのに、何で怒るんだお』
ξ;*゚听)ξ『お! ……怒ってるわけじゃ、ないけど……』
( ^ω^)『褒められたら、お礼言うんだお』
ξ;*゚听)ξ『あ、あう』
( ^ω^)『笑って「ありがとう」って言ってみるお?』
ξ;*゚听)ξ
- 4
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:03:18 ID:mEU.RSwwO
ξ;*゚听)ξ『あ』
_, 、_
ξ;*゚ー゚)ξ『……あ、りがと、う』
( ^ω^)『いや何か顔が必死すぎるお』
ξ;*゚听)ξ『ううううるっさいなぁあああ! もう――』
ξ;*><)ξ『――私よりガキのくせに!!』
*****
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:05:22 ID:mEU.RSwwO
ξ#゚听)ξ
(;^ω^)『お、怒らないでおー、ツン』
ξ#゚听)ξ『怒ってないもん』
(;^ω^)『怒ってるお。……何で怒るんだお?』
( ^ν^)『兄ちゃんとハローがキスしたから』
ξ#゚听)ξ『ニュッ君!』
(;^ω^)『ハローとキスしたら何でツンの機嫌が……。
そ、そもそもあれはハローがアドリブかましてきたからだし、
口はぎりぎり当たらなかったお!』
ξ#゚听)ξ『べっつに、どうでもいいわ。ていうかどうしてブーンが主役だったの?
モララーかクックルで良かったじゃない!』
(;^ω^)『モララーは脇役の中学生にぴったりだったし、
クックルはそのお兄さん役に嵌まってたお』
ξ#゚ -゚)ξ『む』
( ^ν^)『だから意地張らないで、おとなしくヒロイン役やれって言ったのに』
ξ#゚ー゚)ξ『……ニュッ君ー? そろそろその口閉じなさいよー。
お姉さん怒るわよ』
*****
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:06:09 ID:mEU.RSwwO
ξ--)ξ
ξ゚听)ξ
目を覚ます。
ベッドの中で上半身を起こし、ツンは、つい先程の夢を思い返した。
夢というよりは記憶の反芻に近かったが、第三者の視点で自分を眺めるような――
ビデオカメラの記録を見るような、そんな映像だった。
ξ゚听)ξ「……」
溜め息。
膝を抱える。
笑ってみようと頬に力を入れたが、変に強張るだけで、望む結果は得られなかった。
以前は口だけが素直じゃなかったのに。
今は顔までもが素直になってくれない。
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:06:52 ID:mEU.RSwwO
脳裏を過ぎる少女。
デレ。
ζ(゚ー゚*ζ
表情がころころ変わる、愛嬌のある人だと思う。
デレを見ているときの内藤はとても楽しそうだ。
ξ゚听)ξ「……ブーン」
――昨日。
内藤が好きかというツンの問いに、デレは、恋愛は抜きにして好きだと言った。
ξ゚听)ξ「ブーン、ブーン」
だが、もし。もしもだ。
あのとき、彼女が、内藤に恋をしていると答えていたなら。
ツンは、どうにかなっていたかもしれない。
ξ )ξ「ブーン……」
立てた膝に顔を伏せる。
デレは好きだ。
けれども、時折、それを上回る感情が胸を支配する。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:08:16 ID:mEU.RSwwO
ξ )ξ(……ブーンは、どうして私に優しいふりをするの)
決して内藤に愛される筈がない自分には、デレが羨ましくて羨ましくて。
妬ましい。
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:08:51 ID:mEU.RSwwO
第六話 あな優しや、SF小説・中編
.
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:10:12 ID:mEU.RSwwO
言ってしまえば、間が悪かった。
o川*゚ー゚)o「おはよー」
从 ゚∀从「おーう。お姉さんから返事来てた?」
o川*゚ー゚)o「ううん、全然。メール気付いてないのかなあ。
電話かけても繋がらないんだよね……」
从 ゚∀从「電源切ったまま忘れてんじゃねえの?
――さあて、今日は何すっかなあ」
o川*゚ー゚)o「どこ行こっか」
彼女が、友人の家に泊まっていなければ。
昨夜、クールが帰宅しなかったことに気付けていただろう。
もっと早く、異変に気付けていただろう――
*****
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:10:51 ID:mEU.RSwwO
やらかした。
寝てしまった。
これ以上隙を与えないように徹夜して見張るつもりだったが、
思っていたより心身共に疲弊していたらしく、気付けば眠りに落ちていた。
で。
目を覚ましたら、これだ。
( ∵)「あの」
川 ゚ -゚)「はい」
( ∵)「何かパワーアップしてるんですけど」
川 ゚ -゚)「眠っている間に着けさせていただきました。
あれだけでは少々心許なかったので」
しっかり布団の中で寝かせられたビコーズの枕元。
正座しているクールが、かくり、首を傾けた。
昨晩ベルトで縛られただけだった両足は、ベルトはそのままに、
臑から膝辺りまでガムテープでぐるぐる巻きに。
両手首はネクタイから革のベルトへ装備を変え、
さらに左右の親指を紐か何かで纏められていた。
- 13
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:11:57 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「SFだけじゃなくSMにも興味あるんですか、お嬢さん。
他所でやってくれませんかね」
川 ゚ -゚)「鬱血など起こさない程度のきつさにはしておりますが、
何か異常がありましたらすぐにお教えください」
( ∵)「異常ですかー。ありますよー。あなたにいっぱいありますよー」
川 ゚ -゚)「クールは一昨日メンテナンスをしたばかりです」
( ∵)「頭のメンテナンスはしましたか?」
川 ゚ -゚)「ちゃんとしましたよ。
――御主人様、未だ記憶は戻りませんか?」
( ∵)「その設定もういいですって」
川 ゚ -゚)「……まだ駄目なようですね」
( ∵)「駄目ですね、主にあなたが。
ところで、もしや昨夜からずーっとそこにいたんですか」
川 ゚ -゚)「勿論です。御主人様に何かあってはいけませんから」
昨夜、ビコーズを布団に横たわらせたクールは
枕元に座り込んで、ただひたすらビコーズを見下ろしていた。
まさか自分が寝た後も、そのままの姿勢で起き続けていたのだろうか。
もう何度目になるかも分からない悪寒がビコーズの背に走った。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:13:08 ID:mEU.RSwwO
クールから視線を逸らし、目覚まし時計へ顔を向ける。
午前10時。
( ∵)「……やばっ……」
川 ゚ -゚)「どうしました」
( ∵)「仕事が……うわあ遅刻です。うっわ」
川 ゚ -゚)「御主人様の仕事はクールが代わりに行います」
( ∵)「ロボットごっこの次は教師ごっこがしたいんですか」
川 ゚ -゚)「教師? 御主人様の仕事は画家でございましょう」
( ∵)「わー。すごーい。はいはい」
これでは学校に行くのは難しそうだ。
とにかく、何とか拘束を解いてもらわないことには始まらない。
憎々しげにクールを見上げる。
( ∵)「これ取ってくれません?
着替えたいしお風呂に入りたいしトイレにも行きたいんですが」
川 ゚ -゚)「ああ。たしかにそのままでは、いずれも出来ませんね」
( ∵)「そうなんですそうなんです、特にトイレが困るんです本当に。
というか限界が近いです」
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:14:09 ID:mEU.RSwwO
川 ゚ -゚)「生理現象は抑えようがありませんからね……」
納得した様子のクールに、ビコーズは心底ほっとした。
「そのまま漏らせ」などと言われていれば、舌を噛み千切っていたところだ。
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「御主人様」
( ∵)「はい」
川 ゚ -゚)「その格好でも、太腿まで下着を下ろすことは出来ましょう。
今クールが桶か何かを持ってきますので、そk」
( ∵)「ざけんな糞電波」
川 ゚ -゚)「御主人様、たまにお口が悪い」
( ∵)「このベルトとガムテープ取りなさい」
川 ゚ -゚)「……ではクールが御主人様をトイレまでお運びして、排泄のお手伝いを」
( ∵)「幼児じゃないんですよ、こちとら」
川 ゚ -゚)「……仕方ありませんね」
(;∵)「は? 何……うわっ!?」
- 16
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:15:26 ID:mEU.RSwwO
クールは立ち上がり、一旦ドアを開けると、仰向けに転がるビコーズのもとへ戻った。
膝の裏と背中に、クールの腕が滑り込む。
途端、浮遊感がビコーズを襲った。
横抱き。
理解した瞬間、物凄く居堪れない気分になった。
(;∵)(……女の子にお姫様抱っこされました)
ガタイがいいとは言えないが、それでも平均体重ぐらいはある。
なのに、こんな細身の異性に抱えられるとは。
よく分からないショックで脳内が満たされる。
呆然とするビコーズを尻目に歩き出したクールは、真っ直ぐトイレへと向かった。
ドアの前で下ろされる。立ちづらい。
クールが背後に回り、腕に巻いたベルト、親指の紐を外していった。
( ∵)「え?」
川 ゚ -゚)「今だけですよ」
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:16:14 ID:mEU.RSwwO
数時間ぶりに自由になった両腕。
好きに動かせる素晴らしさを実感しながら、
ビコーズは足を固定するガムテープに手を伸ばした、が。
(;∵)「ぁああ゙あ゙いだだだだだだ!!」
川 ゚ -゚)「腕だけです」
すぐさま右腕を捻り上げられた。
肩と手首に激痛が走る。
もげるもげると喚くと、あっさり放された。
トイレのドアを開けたクールが、ビコーズの脇に手を差し込み、持ち上げる。
便器の前に置かれた。歩けない彼への気遣いなのだろうが、
こんな面倒なことをするぐらいなら足も解放してほしい。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:17:15 ID:mEU.RSwwO
川 ゚ -゚)「さあ、存分にどうぞ」
( ∵)「はい、存分にします。
存分にしますのでちょっと時間かかると思いますが気にしないでくださいね」
――まあ、いい。
トイレの鍵を閉めたら、ガムテープもベルトも自分で外してやろう。
それから隙を見て逃げ出せば、
( ∵)
川 ゚ -゚)
逃げ出せば解決、なのだが。
( ∵)「どいてくれませんか」
川 ゚ -゚)「立ちづらいでしょうから、我慢してくださいませ」
何故この女はビコーズを支えた状態で固まっているのだ。
- 19
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:19:14 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「分かります? 先生今からですね、」
川 ゚ -゚)「ええ。どうぞクールにお構いなく」
( ∵)「構うわ。足縛られてても立つことぐらいは出来ますので、
お願いだから1人にしてください」
クールの腕を掴み、引き剥がそうと試みたがびくともしない。
しかもさらに力を入れられた。
川 ゚ -゚)「クールが目を離している隙に足の拘束を解いてしまわれるかもしれません」
( ∵)「ぎっくぅうー。ははは、そんな馬鹿な」
川 ゚ -゚)
( ∵)
川 ゚ -゚)「ちゃんと前を向いてしないと汚れますよ」
( ∵)「……はい」
ままよ、と、ビコーズはスラックスのチャックに手をかけた。
情けない。やる瀬ない。
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:20:31 ID:mEU.RSwwO
たとえばトイレから出る際にタックルでもかませばどうなるだろう。
上手くいけば御の字だが――失敗すれば、
最悪の場合、こんな風に便器を使うことすら許されなくなるかもしれない。
それこそ先程言われたように桶でも宛てがわれようものなら、
多分、年甲斐もなく号泣してしまう。
川 ゚ -゚)「不審な動きをしたら用を足している最中だろうと取り押さえます」
( ∵)「はい、もう……もう好きにしたらいいじゃないですか……」
大の方じゃなくて良かった。
今は、まだマシな部類なのだ。少しくらいは我慢しなければ。
――何とか自分を励ましてみたが、これっぽっちも慰められなかった。
*****
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:22:11 ID:mEU.RSwwO
ζ(゚、゚*ζ「アサピー先生。ビコーズ先生、どうしてお休みなんですか?」
(-@∀@)「さあ……連絡は来てないらしいけど。
珍しいなあ。あの人、遅刻すらしたことないのに」
高校。図書室。
デレは、司書教諭のアサピーと話していた。
午前11時。本来なら2時間も前に補習が始まっている時間だが、
肝心のビコーズが不在のために、生徒達の独断で中止となった。
(-@∀@)「ところで長岡さんは帰らないのかい?」
ζ(゚、゚*ζ「んー、後でまた職員室に行ってみようかと思ってます。
何か理由があって遅れてるだけかもしれませんし」
(-@∀@)「そう。熱心だね」
ζ(゚、゚;ζ「熱心っていうか……勝手に帰って、
ビコーズ先生の怒りを買うようなことがあったらと思うと」
(;-@∀@)「ああ……それは恐い」
ζ(゚ー゚;ζ「恐いですよねー……」
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:22:41 ID:mEU.RSwwO
(;-@∀@)「僕、あの人ちょっと苦手だな」
ζ(゚ー゚;ζ「あれが得意な人なんていないんじゃないでしょうか」
(;-@∀@)「嫌いじゃないけどさ、何か……話すとライフを削られるよね」
ζ(゚ー゚;ζ「分かります、分かります。
ビコーズ先生に泣かされた人って何人いるんですかね、この学校」
(;-@∀@)「半分以上はいるだろうなあ」
一度、会話が途切れた。
同時に溜め息。
ζ(゚ー゚;ζ「……泣かされた人はたくさんいますけど……。
ビコーズ先生を泣かす人なんて、存在するんでしょうか」
(;-@∀@)「いるとしたら、人間じゃないよ、その人」
*****
- 23
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:23:58 ID:mEU.RSwwO
( ∵)(すっげえ泣きてえ)
床の上で目を覚ましたビコーズは絶望した。
服が変わっている。
シャンプーの匂いがする。
手足が、元のように縛られている。
――あの後、クールはビコーズを風呂場へと運んだ。
いきなり服をひん剥いてこようとしたものだから、ビコーズは当然抵抗した。
したのだが、首に腕を回され、数秒後に意識が飛んだ。
そこからの記憶はない。ついさっき気が付いたところだ。
考えるに、多分「落とされた」のだろう。
そして、ビコーズが失神しておとなしくなったのをいいことに
風呂や着替えを――いや、深く考えるのはやめよう。
屈辱のあまりに死にたくなってくる。
しかし、どう落とせば風呂に入れられても目覚めないほど深く気絶するのか。
もしかしたら失神した直後、眠っていたのかもしれない。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:25:24 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「スリーパーホールドってね、あなた。随分な扱いじゃありませんか? ええ?」
嫌味を言いながらビコーズは寝返りを打つ。
てっきりクールがいるものだと思っていたが――
( ∵)「あれ?」
果たして、そこには誰もいなかった。
( ∵)「……おーい。クールさーん。クーちゃーん?」
静寂。
キッチンからも物音は聞こえてこない。
( ∵)「放置プレイですか? まさか帰ったわけないですよね。……ないですよね?」
この状態で1人きりというのも、困る。
溜め息をついて部屋を見回したビコーズの頭に、こつんと何かがぶつかった。
俯せになる。
( ∵)「……書き置き」
開かれたノートと一本のボールペンがあった。
ノートにはたった一文。
「食べ物を買ってきます」、とのこと。
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:26:29 ID:mEU.RSwwO
( ∵)(自分だけ呑気に外出しやがってあのガキ)
時計の短針は12時を指している。
学校に連絡を入れていない。
生徒達はどうしているだろうか。
補習を強制された者は今頃喜んでいるとは思うが、
自ら願い出た生徒の方はどうだろう。申し訳ない気分が募る。
ああ、しかも午後からは3年生――の一部への補習もあるのだ。
受験が近い。追い込みをかける時期真っ最中だというのに。
( ∵)(あー、くっそ)
考えれば考えるほどに焦れていく。
じっとしていられなくて、ごろごろ転がった。
壁にぶつかる。
しばし、額を壁にくっつけたまま停止して。
( ∵)(あれ)
向こう側から音がするのに気付いた。
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:27:43 ID:mEU.RSwwO
かたかた、キーボードを打ち込むような。
一旦止んだかと思うと、また始まる。
( ∵)
ビコーズは両足で壁を蹴りつけた。
あまり勢いは出なかったが、それなりの衝撃を与えるには充分だった。
かたん、と一際大きい音を最後に、向こうは沈黙する。
続けて何度か蹴り続けると、「うるさい!」という怒鳴り声と共に壁を殴り返された。
隣人、渡辺。
どうやら在宅らしい。
( ∵)「今ほど壁が薄いボロアパートに住んでるのを感謝したことはありません」
『はあ?』
( ∵)「渡辺さん。あなたに頼るのは癪で癪でたまりませんが、助けてくれませんか」
彼女に聞こえるよう、なるべく大きな声で話しかけた。
壁越しに、昨日の昼からの出来事を説明する。
渡辺は時折相槌を打ち、真剣に聞いてくれているようだった。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:29:03 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「……ってわけでして」
『道理で昨日ばたばた騒がしかったわけね〜。
女の子の声もするからてっきり痴話喧嘩かと思ってたんだけど、それは大変ね〜……』
( ∵)「本当に大変です。
で。ちょっと警察でも呼んでくれませんか。こっち、電話壊れちゃって」
『……』
( ∵)「……渡辺さーん?」
『だ』
『だぁあああああれが呼ぶかよバァアアアアアアアアカ!!』
( ∵)
- 28
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:30:17 ID:mEU.RSwwO
『あっははははは! 女の子に監禁されるって! なっさけな! あはははは!!』
( ∵)「楽しそうですね」
『うん、楽しい。面白い。
ざwwまwwwwあwwwww』
『日頃の行いって大事よね〜。
あー、生で見たいなあ! 縛られてる奈良場さん見たい! 踏んづけたいわあ。
でも縛るなら裸にして縛ればいいのにねえ。服着せてあげるなんて生温い子〜』
( ∵)「……その様子だと、助けてくれる気はないみたいですが」
『助けませんよ〜。私、今お仕事中で忙しいの〜。
いいじゃないですかあ、かなり愛されてるみたいだし、大事にしてくれそうだし。
そのままにして問題ないと思います〜』
( ∵)「……」
『……』
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:31:17 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「あなたがお隣りさんで、本っっっ当に幸せ者ですよ先生は」
『でしょう〜? こんなに隣人の幸せを願ってあげる天使、私ぐらいなもんですよ〜。
アガペーアガペー』
( ∵)「ははは」
『うふふ』
( ∵)「ははははは」
『うふふふふ〜』
( ∵)「くたばれクソババア」
『一生飼われてろオッサン』
ビコーズが壁を蹴る。渡辺が壁を殴る。
交渉決裂。
どころか、いらぬ娯楽を与えてしまった。
壁から離れ、ビコーズはノートの近くへ戻った。
( ∵)(あれは駄目ですね)
隣が駄目なら上、と天井を見遣る。
しかし、上の住人は先日引っ越したばかりだ。
空き部屋の筈。間が悪い。間が。
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:33:48 ID:mEU.RSwwO
さて、いよいよもって自力で逃げる方法を見付けなければいけない。
どうしたものか――。
ちらり、何かが視界に入った。
桜色。四角い。
( ∵)(……本)
例の本。
クールのコートの脇に、鞄と一緒に鎮座している。
そういえば昨晩、クールに押し倒されたときに鞄ごと吹っ飛んでいたんだったか。
片付けた覚えはないから彼女が寄せたのだろう。
( ∵)「……」
クールにばかり気を取られていたが、思えばこいつも奇妙なブツだった。
何故自分の車にあったのか、さっぱり分からない。
ビコーズはボールペンをくわえ、本へ這い寄った。
まるで芋虫。
ペンの先を使って本を開く。
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:35:12 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「……『御主人様』」
物語は、主人公の男が女性に話し掛けられるところから始まっていた。
ページをめくっていく内に、主人公は人間、女性はアンドロイドであることが読み取れた。
――舞台は未来。
ロボットが当たり前のように存在し、量産され、生身の人間が減った世界。
『 一昔前のロボットは感情を持つこと等許されていなかった。
無論技術的な理由が大半を占めているとされていたが、
その実、裏側に潜んでいたのは単純で臆病な、人間の都合である。 』
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:36:08 ID:mEU.RSwwO
『 様々な意味での「力」において、ロボットは人間より遥かに勝る。
そんな彼等が更に感情まで備えて、もしも人間に不満を抱こうものならどうなるか。
――それを思うと、今一つ踏み出せなかった。 』
読み進める。
科学の進歩が何たらかんたら。
それなりの感情を持たせつつ絶対に人間には逆らえぬような回路が何たらかんたら。
しかしたまに不具合を生ずる固体が何たらかんたら。
( ∵)(口が怠いです)
ペンを駆使し続けたせいで、顎が疲れてくる。
だが、次に飛び込んできた文に、そんな疲労はどこかへ消えた。
- 34
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:37:12 ID:mEU.RSwwO
『「乱暴なロボットがおりますから、一人で外に出てはいけませんよ。御主人様」
SO−C001の言葉が耳に痛い。以前も彼女に黙って外出した際、
見知らぬアンドロイドに身ぐるみを剥がされかけたことがあった。 』
( ∵)「……SO−C001……」
聞き覚えのある単語。思わず、ビコーズは呟いた。
実際はペンのせいで「えしゅおーひーぜろえろいひ」と間抜けな響きになってしまったが。
川 ゚ -゚)『SO−C001です。まさかお忘れになってしまわれたわけではありませんよね』
御主人様。ロボット。未来。外。SO−C001。
すべてがクールの譫言と一致した。
目眩がする。
ラーメン屋にて、クールはこの本を頻りに気にしていた。
だが、ビコーズが見ていた限り、彼女は中身にまでは目を通していなかった筈。
以前から内容を知っていた?
読んだことがあったのか。
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:38:17 ID:mEU.RSwwO
( ∵)(彼女が作者本人ってことも有り得ますかね? ……それはないか)
ノートの書き置きと比べてみると、筆跡はまったく似ていない。
敢えて筆跡を変えた可能性もないではないが、
そんな面倒なことをする必要がどこにあるのだろう。
本の状態も――何と言うか、古臭い。
クールの年齢を考えると、どうにも彼女が作者だとは思えなかった。
やはり、どこかで読んだというのが妥当なところだ。
ページをめくる。
作中のロボットは、型番の字面から「クール」と名付けられた。
クール。名前。
( ∵)「……むう」
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:41:06 ID:mEU.RSwwO
クールは恐らく、この本を読んだことがあった。
たまたま彼女と同じ名前を付けられたロボットに自己を重ね、同一視して。
昨日、ラーメン屋で再び本を見たことで妄想が加速し、
そこに居合わせたビコーズを標的にした。
これで大体合っている、とは思うのだが。
不可解な点はまだある。
何故クールがビコーズの家を知っていたか、
何故ビコーズの車に本が乗せられていたか、の二つ。
前者は「元々ストーカーの類だった」で納得出来なくもないが、
後者に関してはさっぱりだ。
クールは本を持ち去っていなかった。
車は、窓もドアの鍵も閉まっていた。
( ∵)「……」
( ∵)「本が自ら先生についてきた、とか」
言って、あまりの馬鹿らしさに自嘲した。
SFに加えてオカルトか。
結論としては一番手っ取り早くはあるが、除外する。
クールの奇行だけで腹一杯なのに、わざわざややこしい要素を増やしたくはない。
*****
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:41:54 ID:mEU.RSwwO
川 ゚ -゚)「……」
その頃。
クールは、首を捻りながら歩いていた。
両手に買い物袋を提げている。
川 ゚ -゚)(何なんだ、これは。まるで大昔のようじゃないか)
昨日から不思議だった。
彼女がいる――と思い込んでいる――「時代」とは、
町並みも売買の形態も異なるのだ。
貨幣といい道を行く車や自転車のフォルムといい、何もかもが違う。
川 ゚ -゚)(タイムマシンを完成させた企業は未だ存在しない筈。
どうしたと言うんだ)
困惑しっぱなしだ。
道すがら、周囲を観察する。
――と、そのとき。
- 38
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:43:08 ID:mEU.RSwwO
「お姉ちゃん!」
川 ゚ -゚)「?」
声がした。
立ち止まり、振り返る。
o川*゚ー゚)o「あ、やっぱりお姉ちゃんだ! メール見てくれてた?」
川 ゚ -゚)
o川*゚ー゚)o「ごめんね、ハインの家行って遊んでたらいつの間にか夜になってたから、
ついつい流れで泊まっちゃって」
从 ゚∀从「どうも久しぶりです。キュートの面倒はちゃんと責任もって見ました」
2人の少女がいた。
その内の1人がクールに駆け寄ってきて、手を掴んだ。
――随分馴れ馴れしいなと、クールは眉を寄せる。
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:44:10 ID:mEU.RSwwO
o川*゚ー゚)o「今日は夕方ぐらいに帰る――」
川 ゚ -゚)「誰だ、お前は」
o川;゚ー゚)o「……え」
川 ゚ -゚)「私はお前なんか知らないぞ。
放してくれ、早く帰りたい。御主人様が腹をすかせている」
華奢な手を振り払った。
後退り、距離をとる。
o川;゚ー゚)o「な、何言ってんの、お姉ちゃん」
从;゚∀从「ごしゅじんさま?」
川 ゚ -゚)「『お姉ちゃん』とはどういうことだ。私に妹なんてものはいない」
o川;゚ー゚)o「ちょっと――どうしたの? も、もしかして怒ってる?」
川 ゚ -゚)「近寄るな」
o川;゚ー゚)o「っ!」
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:50:04 ID:mEU.RSwwO
川 ゚ -゚)「――気持ちが悪い奴だな」
o川;゚−゚)o
少女が目を見開いた。
いかにも傷付いたというような表情。
その顔を見た瞬間、足元に、ぐらりと揺れる感覚が広がった。
何かが胸の内を過ぎる。
前にも。
こんなことが。
川 ゚ -゚)『……何だ?』
o川*;□;)o『お、お姉ちゃ、どうしよ、顔、顔が、』
川 ゚ -゚)『顔がどうしたって言うんだ。……おいおい、触るなよ気持ち悪い――』
.
- 43
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:51:19 ID:mEU.RSwwO
川; - )「――っつ、……うう……!」
頭に激痛が走った。
思考が中断される。
痛い、痛い、痛い。
頭が。――胸の奥が、ひどく痛む。
少女に何か言ってやらなければ。
だが何を言えばいい?
o川;゚−゚)o「……あ……!」
从;゚∀从「ちょっ、お姉さん!?」
川; - )(……痛みは危険信号。この少女との接近は危険――)
踵を返し、逃げ出した。
後ろから聞こえる声も無視して、ひたすら。
川; - )(あれは誰だ。私は知らない。知らない……)
*****
- 44
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:52:55 ID:mEU.RSwwO
ビコーズが本の半分まで目を通した頃、玄関のドアが開く音がした。
さて文句を言ってやろうと本を閉じる。
くわえていたペンを床に転がすと同時、クールが部屋に飛び込んできた。
川;゚ -゚)「御主人様!!」
( ∵)「おかえりなさい、早速ですがそこに正座しなさい」
川;゚ -゚)「御主人様、どうしましょう……クールが、クールがおかしいのです」
( ∵)「えっ今更……?」
買い物袋を置いた彼女は、言われた通りに正座した。
何やら焦っている様子だったが、それよりも、
ふと沸き上がった疑問の方がビコーズは気になった。
川;゚ -゚)「クールはどうなってしまったのか……」
( ∵)「……あの、あれ、待ってください。それは誰のお金で買ったんですか」
川;゚ -゚)「御主人様のです。
買い物のときには御主人様のお財布を持っていけと言っておられたでしょう」
( ∵)「言ってねえよ。……いや、本の中じゃ言ってたんですかね。畜生」
川;゚ -゚)「……ああ……財布……お金……何なのでしょう、
クールの回路が狂ったとしか……」
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:54:41 ID:mEU.RSwwO
頭を抱え、ぶつぶつと呟き始めたクール。
何やらひどく混乱しているようだ。
有無を言わさず自分のペースに持ち込もうと意気込んでいたビコーズだったが、
あっさり失敗に終わった。
どうしたんですか、と声をかける。
川;゚ -゚)「……外が、クールの知る世界と違ったのです……」
( ∵)「違う?」
川;゚ -゚)「お金の形も、店の形も……道や車、何もかも。
まるで……ひゃ、100年も昔みたいで」
( ∵)「……はあ」
( ∵)(今まで、妄想に取り憑かれた生徒は大勢相手にしてきましたが……。
これほどのレベルの子は初めてですね)
演技ではなさそうだ。
信じ込んでいるから、外の様子に怯えているのだろう。
昨日ラーメン屋で見たときは普通だった。
となると、あの直後からここまで壊れてしまったことになる。
自分が考えていたよりも重い「病気」なのかもしれない。
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:56:03 ID:mEU.RSwwO
( ∵)(やべえな、これどうするべきでしょう)
参った。
ただの演技なら、説教するなり脅しをかけるなり、何とか出来そうなものだったが。
病気の類は、扱いに困る。
素人が手を出していい領域から外れている。
川;゚ -゚)「ご、御主人様、今は……いつなんですか……」
( ∵)「……西暦2010年の12月22日ですけど」
川;゚ -゚)「う――嘘を。嘘をつきなさる」
( ∵)「本当ですよ。そこのカレンダー見なさい」
川;゚ -゚)「その時代には、だって、く、クールみたいなロボットは
完成されていない筈でしょう。
それならどうしてクールがここにいると言うのですか?」
( ∵)(ああ、動揺してる動揺してる。
このまま崩しちゃっていいんでしょうか。ちょっと恐いんですが)
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:57:05 ID:mEU.RSwwO
川;゚ -゚)「御主人様……答えてください……」
( ∵)「……」
深呼吸。
一か八か、ビコーズは口を開いた。
( ∵)「先生は嘘なんか言ってないし、そもそもあなたはロボットじゃありませんよ」
川;゚ -゚)「……何を」
( ∵)「そういえば、あなた、ご飯も食べなきゃトイレにも行ってませんね。
先生の知らない内に済ませてたんですか」
川;゚ -゚)「クールはロボットです、そんなの――」
( ∵)「じゃあ、お腹すきませんか? 催しませんか?」
川;゚ -゚)「……」
川;゚ -゚)「……催す、という感覚は、よく分かりませんが……」
( ∵)「はい」
川; - )「先程から、か、下腹部が少し……軋むというか……痛む感じは……」
(;∵)「トイレ行けぇええ!! 下手すりゃ漏らしますって! 勘弁してください!!」
川;゚ -゚)「ですからクールは!!」
(;∵)「いいから行けやぁああああああああ!!」
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:57:56 ID:mEU.RSwwO
数分経って。
川; - )「……」
( ∵)「出ました? ちゃんと手洗いました?」
川; - )「出ました……洗いました……」
トイレから戻ってきたクールは、血の気をなくしていた。
キッチンと部屋の境に立ち、ドアに寄り掛かる。
( ∵)「ほら。人間なんですって」
川; - )「馬鹿な……」
( ∵)「そんなところにいないで、こっち来なさい。
あなたコート着ないで出掛けたでしょう。体冷えてるんじゃないですか」
川; - )「ロボットですから……風邪は引きません……」
まだ信じないのかとビコーズは嘆息する。
面倒臭い。
- 49
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/05(日) 23:59:14 ID:mEU.RSwwO
( ∵)「だから、人間だって――」
川;゚ -゚)「――ロボットです!」
突然、クールが叫んだ。
踵を返し、台所、まな板の上にあった包丁を掴む。
(;∵)「ちょ」
川;゚ -゚)「さ、刺せば。刺せば分かります。
人間じゃないから血など出ませんし。死にません」
(;∵)「何でそうなる!?」
包丁を持ったクールがビコーズに近寄った。
彼の腹に跨がり、刃先を己が胸に向ける。
川;゚ -゚)「御主人様。見て。クール、ほら、クールは、ロボット、ですもの。
こうすれば分かってくれるでしょう。御主人様……」
(;∵)「ばっ……」
ビコーズが、さっと青ざめた。
脂汗が滲む。
クールの手に、力が込められた。
- 50
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:00:36 ID:1vBgP5vQO
(;∵)「だ、駄目ですよ! それ置きなさい!」
川;゚ -゚)「ふ、ふふふ、心配なさっているのですね。お優しい」
(;∵)「優しいっつうか……ちょっと、あの、先生スプラッタとかマジで苦手ですから!
あなたの心配じゃなくて自分の心配してんですよ!」
川;゚ -゚)「安心してください、クールは死にません」
(;∵)「話聞け!」
川;゚ -゚)「いきますよ、御主人様」
(;∵)「や、」
(;∵)「やめなさい――クール!!」
川;゚ -゚)「っ」
怒鳴る。
クールが一瞬動きを止め、それから、ゆっくりと手を下ろした。
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:01:42 ID:1vBgP5vQO
川;゚ -゚)「だって、じゃあ、どうやって証明すればいいんですか……」
(;∵)「……いいです、証明しないで……。
ロボットってことで、結構です」
ビコーズが、初めてクールの言葉を肯定した。
そもそも否定すべきではなかったのだ。
彼女の主張を全て突っぱねれば、こんな風にとんでもない行動に出られてしまう。
クールが自分で気付かなければならない。
川;゚ -゚)「……」
包丁を床に落とし、クールは、そのままビコーズの胸へ上体を倒した。
川;゚ -゚)「もう……外に、出たくありません……」
( ∵)「さいですか」
川;゚ -゚)「御主人様、お願いです、ずっと……クールと一緒にいてください」
( ∵)
( ∵)(あれ、悪化した?)
した。
*****
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:02:39 ID:1vBgP5vQO
かちり。かちり。
時計の針が進む。
o川;゚−゚)o
日付はとっくに変わっている。
リビングのソファに1人腰掛け、キュートは姉の帰りを待っていた。
かちり。かちり。
時計の音が響く。
ドアが開く音も、ただいまという声も、何も聞こえない。
かちり。かちり。
*****
- 53
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:04:15 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚*ζ(昨日も今日もお休み……)
23日。
またしてもビコーズは学校に来なかった。
アサピーが言うことには、電話も通じないらしい。
無断欠勤――それも連日――するような人間ではない。
何かあったのではないかと、職員室ではちょっとした騒ぎになっているそうだ。
そんな話を聞いては、デレも不安になる。
無事だといいですねとアサピーと話していると、
デレの携帯電話がメールの受信を知らせた。
内藤からだ。
――内容は、デートの待ち合わせに関するものだった。
25日の15時に、駅の西口に飾ってあるクリスマスツリーの前。
ζ(゚、゚;ζ(ああ、そういえばデート)
すっかり忘れていた。
デート。何故自分なのだろう。
ツンでなくていいのだろうか。
ζ(゚、゚*ζ「うむむ……」
唸りながら、携帯電話で時間を確認した。
昼になる。
今日は午後から予定があるのだ。そろそろ出よう。
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:05:26 ID:1vBgP5vQO
学校を後にしたデレは、適当にファストフード店で昼食を済ませて、
ケーキ屋に寄って行った。
その後、ある場所へ向かう。
――ショボンの事務所である。
昨日、電話帳で調べた事務所の番号へ連絡を入れておいた。
相談がある旨を伝え、約束を取り付けている。
というわけで午後2時。
教えてもらった道筋を辿り、無事に到着した。
4階建てのビル。
階段を上り、3階へ。
小洒落たステンドグラスが嵌め込まれた木製のドア。
「遮木探偵事務所」と書かれたプレートが下がっている。
ノックをし、デレはドアを開いた。
- 55
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:07:21 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚ー゚*ζ「お邪魔しま、」
す、までは声にならなかった。
目の前に、透明な液体で満たされたグラスが突き出されたのだ。
ζ(゚ー゚;ζ
(´・ω・`)「やあ。ようこそ」
グラスを持っているのは、八の字眉の探偵、遮木ショボン。
優しく微笑みかけられる。
(´・ω・`)「このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いてほしい」
ζ(゚ー゚;ζ「……いや、あのう」
(´・ω・`)
ζ(゚ー゚;ζ
(´・ω・`)
ζ(゚ー゚;ζ「……ごめんなさい未成年なので……」
(´・ω・`)「ノリ悪っ。つまんない奴だな」
ζ(゚ー゚;ζ(ええええええええ)
理不尽ここに極まれり。
- 56
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:08:41 ID:1vBgP5vQO
当て付けがましく溜め息をついたショボンは、一歩引いた。
室内がデレの視界に入る。
中は普通の造りになっていた。
真ん中にガラステーブル、それを挟む形で置かれたソファが2つ。
奥には3人分の机と、ファイルの詰まった本棚や段ボール箱がある。
ショボンのことだから、妙な遊び心で妙な飾りつけでもしていそうなものだと思ったが。
(´・ω・`)「そう遠慮せずに」
ζ(゚、゚;ζ「わ」
腕を引っ張られた。
ショボンが足でドアを閉め、デレを壁に追い詰める。
(´・ω・`)「ほらほら。景気づけ景気づけ」
ζ(゚、゚;ζ「いっ、いらないですいらないです! 私まだ16歳だし!」
(´・ω・`)「ぐぐいっと。ね。ちょびっとだよ、ちょびっと」
ζ(゚、゚;ζ「駄目駄目駄目っ、テキーラってアルコール度数高いんですよね!?
小っちゃい頃に今みたいな感じで親戚に絡まれてビール飲まされて、
思いっきり酔った挙句に倒れたんです私! た、多分お酒弱い……!」
(´^ω^`)「まあまあまあまあ」
ζ(゚、゚;ζ「むがっ!? ん、んぐぐぐ!!」
- 57
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:09:37 ID:1vBgP5vQO
左手で頭を鷲掴みにし、グラスの中身を口に注ぎ込まれた。
物凄い笑顔。
毎回毎回、会う度にわけの分からぬ嫌がらせをされてばかりだ。
ようやく解放されたのは、全て飲み干した後。
涙目のデレに対し、ショボンは楽しそうな表情を浮かべている。
ζ(>、<;ζ「ショボンさんの意地悪……ううっ、くらくらする……」
(´・ω・`)「……ただの水だぜ、おい」
ζ(>、<;ζ
ζ(゚、゚*ζ コホン
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ショボンさん、お土産を買ってきてましてね、ケーキなんですけど――」
(´・ω・`)「くらくらする(笑)」
ζ(;、;*ζ「やめてー! 恥ずかしい!! 何が『くらくらする』だよ! 水なのに!」
(´・ω・`)「前から馬鹿だ馬鹿だとは聞いてたけど、本物を前にすると想像以上すぎて驚くよ」
ζ(;、;*ζ「だ、誰から聞いてたんですか! 内藤さんですか!」
(´・ω・`)「ニュッ君」
ζ(;、;*ζ「あんにゃろう!!」
- 58
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:11:54 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「それはさておき、そこのソファ座って。
何か飲む? あるのは……紅茶とコーヒーと、えー……オレンジジュース。
水。あと酒ならいっぱい」
ζ(ぅ、;*ζ「さておかれた……。オレンジジュースでお願いします……。
それとお酒はせめて成人に勧めてください」
(´・ω・`)「ほんっとに、つまんない奴」
つまんなくて結構ですと反論し、デレはソファに腰を下ろした。
コートを脱ぎ、膝の上に丸める。
(´・ω・`)「学校帰りなんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
(´・ω・`)「休みじゃないの?」
ζ(゚ー゚;ζ「……部活」
(´・ω・`)「入ってないよね」
ζ(゚、゚;ζ「……ほ、補習」
(´・ω・`)「そんなとこだろうと思った」
ζ(゚、゚;ζ「ちっ、違いますよ! 赤点とったんじゃないですよ!
自分からお願いしたんですよ!!」
(´・ω・`)「へえ、偉い偉い。ちゃんとお勉強した?」
- 59
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:12:41 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚;ζ「……いえ。ビコーズ先生――あ、私の学校の先生なんですけど。
先生が学校に来なくて、補習開かれなかったんです」
(´・ω・`)「良かったじゃん」
ζ(゚、゚*ζ「でも、昨日今日と続けて無断欠勤してるらしいんですよ。
そんなことする人じゃないのに」
(´・ω・`)「ふうん。それはそれは。
――ビコーズって、英語の先生?」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
ぎょっとする。
ビコーズを知っているとは思わなかった。
ζ(゚、゚;ζ「どうして」
(´・ω・`)「ラーメン屋やってるクソ親父から聞いたことがあっただけだよ。
僕に似てる常連がいるって」
ζ(゚、゚;ζ(似てる……かなあ)
言われてみれば、外見はまったくの別物だが、
性格の悪さやら何やら、内面的に似ているところがいくつかある。
納得した。
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:14:10 ID:1vBgP5vQO
オレンジジュースの入ったグラスがテーブルに乗せられた。
ショボンが自分のグラスを口元で傾けながら、デレの向かいに座る。
(´・ω・`)「ちょうだい、それ」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、どうぞ」
ケーキ屋の箱を手渡した。
ショートケーキ、モンブラン、シュークリーム、アップルパイが一つずつ。
ショボンの他に3人ほど所員がいると聞いたので、彼らの分も買っておいた。
ショボンが中を覗き、デレに「どれ食べるの」と問いかけた。
ショートケーキに熱い視線を送っている。
ζ(゚ー゚*ζ「私はいいです。皆さんで召し上がってください」
(´・ω・`)「ああ、何、うちの奴らの分? ありがとう」
ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ。どういったのが好きか分からなかったので適当に選びましたけど、
良かったですか?」
(´・ω・`)「うん」
ショボンはショートケーキを持ち上げ、直接噛りついた。
付属のフォークは完全に無視。
男らしいというか、行儀が悪いというか。
- 61
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:15:11 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「んで、何の話をしに来たの? さっきの先生の話?」
ζ(゚ー゚*ζ「……図書館の、こと」
ショボンの口が止まる。
ソファの背もたれに寄り掛かり、足を組んだ。
(´・ω・`)「もっと、すっぱりはっきり言って」
ζ(゚、゚*ζ「ショボンさんは、『知りたければ調べろ』って言いましたけど……。
どう調べればいいか分かんなくて」
(´・ω・`)「調べ方は自分で考えろ、とも言わなかったかな、僕は」
ζ(゚、゚;ζ「うっ……だってだって」
(´・ω・`)「正直、あんまり僕を頼ってほしくないな。
何かあったときに僕の責任にされたら嫌だし」
ζ(゚、゚*ζ「この間は色々喋ってたくせに」
(´・ω・`)「あのときはカマかけただけだよ。
あれでビビるようだったら二度と図書館に近付けさせないつもりだった」
ζ(゚、゚*ζ「……そんなに、恐いことなんですか?
私が知りたがってる――その、事実とかって」
(´・ω・`)「恐い、かもね。常識なんざ糞喰らえって世界だし」
- 62
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:16:52 ID:1vBgP5vQO
非常識な出来事など、散々目の当たりにしてきている。
命を宿した本。それに選ばれた主人公達。
デレ本人だって、ホラー小説に巻き込まれた主人公だ。
ζ(゚、゚*ζ「……慣れましたよ、不思議なことは」
(´・ω・`)「君が慣れたのは『本』が引き起こす事件だろ。
もっと、……何て言うかな。根本的なところに問題があるんだよ」
ショボンが、ケーキのてっぺんにあった苺を咀嚼する。
酸っぱいなと眉根を寄せた。
ζ(゚、゚*ζ「根本的?」
(´・ω・`)「うん……ああ面倒臭い。
そもそも、何を知りたいの。何が気になってるの。
まず、そこから教えてくれないか」
ζ(゚、゚*ζ「……ええと」
思考を巡らす。
指を折り、一つ一つ確認する。
- 63
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:17:50 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚*ζ「本が、どうしてあんな力を持つようになったか、が一番で」
(´・ω・`)「ふむ」
ζ(゚、゚*ζ「あと……私の友達がクックルさんを好きになったんですけど、
貞子さんに、諦めろって言われたみたいなんです」
ζ(゚、゚*ζ「でも、私とニュッさんが結婚するのは――勿論、もしもの話ですよ。
私とニュッさんに関しては、貞子さん、祝福するって言ってました。
どうしてクックルさんと私の友達は駄目なんでしょう」
(´・ω・`)「……気になるのはそれだけ?」
ζ(゚、゚*ζ「……まだあります。
一昨日、内藤さんが、ショボンさんのお父様のところに行ったんです」
(´・ω・`)「親父? 何で」
ζ(゚、゚*ζ「本が見付かったとかで。
それでツンちゃんがついていこうとしたんですけどね、
混乱させちゃいけないから、って、ツンちゃんお留守番させられてました」
(´・ω・`)「混乱。うん。……うん、そうだね。もしかしたら――可能性はあった、かな」
いつの間にか、ショボンはケーキを食べ終えていた。
指に付着したクリームをティッシュペーパーで拭いながら、ぶつぶつ呟いている。
- 65
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:18:34 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚*ζ「……最後の一つ。
ハローさんの言葉が、ずっと引っ掛かってます」
(´・ω・`)「どんな?」
ζ(゚、゚*ζ「図書館に住む『作家』の全ては、ニュッさんのためにある、って」
(´・ω・`)「……」
ζ(゚、゚*ζ「内藤さんからは、作家の皆さんは
ニュッさんのお祖父ちゃんに拾われたんだって聞いてます」
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん達からすれば、たしかに感謝して当然なのかもしれませんが、
だからって――そんなに、……何ていうか……」
(´・ω・`)「ニュッ君に尽くそうとするのは変だ、と」
ζ(゚、゚*ζ「はい。……気になってるのは大体これぐらいです。
細かい疑問なら、他にもいくつかありますけど」
(´・ω・`)「んー、そうか。ふん。んん」
(´・ω・`)「はっきり言っちゃう。それらを解明するとなると、
結果的に――『全部』暴くことになるよ」
ζ(゚、゚;ζ「全部」
(´・ω・`)「そう。さっき僕が言った、根本的な問題。
まず間違いなく、誰もが逃げ出したくなるような事実だ」
- 66
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:19:48 ID:1vBgP5vQO
オレンジジュースで喉を潤し、ショボンはデレを指差した。
眉間の皺が深くなる。
(´・ω・`)「君は、あいつらのことを嫌いにはならないんだろ。
そう言ったよね、前に」
ζ(゚、゚*ζ「……はい」
(´・ω・`)「約束してくれる?」
ζ(゚、゚*ζ「約束?」
(´・ω・`)「絶対に、嫌わないでやって。何を知っても」
真剣な瞳。声。
懇願するような。
怯みもせず、デレは頷いた。
ζ(゚、゚*ζ「――勿論です」
(´・ω・`)「いい子だ」
箱に手を突っ込み、ショボンがシュークリームを取り出す。
それをデレへ放り投げた。
ζ(゚、゚;ζ「ちょぉおおっ!!」
(´・ω・`)「おうナイスキャッチ。食べちゃって」
- 67
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:20:33 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚;ζ「で、でも、これ……」
(´・ω・`)「いいよ、甘いの好きじゃない奴がいるから」
ζ(゚、゚;ζ「あう。そうなんですか、すみませんでした……。
じゃあいただきます」
何を買えばいいか訊けば良かったなと後悔しつつ、シュークリームを口に運ぶ。
さくり、ふわり、とろり。
軽い生地と甘いカスタードが、歯と舌に心地いい。
ζ(´ー`*ζ「おいひい」
(´・ω・`)「顔が緩みきってますよお嬢さん。
さて、何の話だったか……ええと、調べ方だっけ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
(´・ω・`)「そうだなあ……まず、作家やブーンに直接訊いても無駄だよ。
前も言った通り、自分達から話すつもりはないからね」
(´・ω・`)「だから調べなきゃいけないわけだけど。んん……ねえ、デレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
- 68
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:25:05 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「君が会っていない、『図書館の人間』がいるだろう?
そいつが一番の鍵」
ζ(゚、゚;ζ「鍵」
(´・ω・`)「それともう一個。
……誰にも気付かれずにニュッ君かブーンの部屋に侵入出来る?」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そんなスパイめいたことはちょっと……」
(´・ω・`)「だよなあ」
ζ(゚ー゚;ζ「お二人の部屋に入れば、何か分かるんですか?」
(´・ω・`)「どっちか……あるいは両方の部屋にある、と思う。
僕も話で聞いた程度でしか知らないから、詳細は分からないんだけど――」
(´・ω・`)「――『それ』を見れば、すぐ分かる筈だよ。全部。何もかも」
「それ」って何ですか、と問いかけても、ゆるゆると首を振られるだけで、
明確な答えは返ってこなかった。
これ以上は言えない――言わない、らしい。
(´・ω・`)「僕が出せる、精一杯のヒントだよ。これでも」
ζ(゚ー゚;ζ「えー」
- 69
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:26:15 ID:1vBgP5vQO
内藤かニュッの部屋に入らなければならないのは分かったが、
だからといって、了解しましたと簡単に実行出来る話ではない。
どうやって部屋に入れてもらえと言うのだ。
内藤なら頼めば招いてくれそうなのだけれど、そうなったらそうなったで、
今度はショボンの言う「それ」を探し出すミッションが待っている。
難しい難しくない以前に、人として、やってはいけない気がするのだが。
ζ(-、-;ζ「うーん……」
(´・ω・`)「まあ、いつか機会は巡ってくる」
ζ(-、゚;ζ「『いつか』、なんですか……」
(´・ω・`)「急いては事を仕損じる、ってさ、ほら、言うじゃない」
立ち上がり、ショボンはデレのいるソファへ移動した。
隣に座り、肩を引き寄せる。
(´・ω・`)「僕だって依頼をすぐに解決出来るわけじゃない。
特に浮気調査なんかはね、証拠が出てくるのを待たなきゃいけないし」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はあ……」
- 70
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:27:15 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「じっと待つのも大事なのさ。
それに案外、向こうの方からデレちゃんのもとに転がってきてくれるかもよ。
分かった?」
ζ(゚ー゚;ζ「わかりました、わかりましたけど、何かショボンさん近い……」
(´・ω・`)「ってなわけで――」
(´・ω・`)「お・か・ね」
ζ(゚ー゚;ζ「え?」
- 71
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:28:14 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「『え?』じゃないよ。
このショボン様が君なんかのためにわざわざ時間作ってお話ししてあげたんだ。
金でも貰わなきゃやってらんねえって」
ζ(゚ー゚;ζ「お、お金、取るんですか……」
(´・ω・`)「遮木探偵事務所ではお悩み相談も受け付けております。
つまり、これも立派な仕事の内でして」
ζ(゚ー゚;ζ「聞いてない!」
(´・ω・`)「おっと、君の方から押しかけてきといて踏み倒すつもり?」
ζ(゚ー゚;ζ「う」
(´・ω・`)「デレちゃんはそういう子だったのかな?
そんなに悪い子だったのかな? お兄さん悲しいよ、裏切られた気分だ」
ζ(゚ー゚;ζ「うう……」
恨みがましい目と言葉。
観念したデレが、おいくらですかと問う。
ショボンはケーキの入った箱を見ると、右手を広げた。
- 72
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:29:46 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「500円」
ζ(゚ー゚;ζ「うわあ意外と良心的だ!」
(´・ω・`)「我ながら有意義な答えをあげられなかったのは自覚してるし、
ショートケーキ貰ったしね。あれがなかったら数倍の値段だったよ。
それとも何、もっと高い方がいいの」
ζ(゚ー゚;ζ「そうじゃないですけど……内藤さんには高額吹っ掛けてるから」
(´・ω・`)「金持ちってのはね、僕に搾取されるために金を持ってるのさ」
ζ(゚ー゚;ζ(いみがわからない)
鞄から財布を引っ張り出す。
手持ちの小銭では500円支払うのに不十分であった。
千円札を取り、ショボンへ。
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい、細かいお金なくて」
(´・ω・`)「お札様大歓迎。毎度ありー」
ζ(゚ー゚*ζ「お釣りは結構ですので」
(´・ω・`)「ひゅう、あざっす」
ひらひらと紙幣を振り、ショボンは元の位置へ戻った。
ソファの上で横になる。
- 73
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:31:36 ID:1vBgP5vQO
(´・ω・`)「さて、そろそろ無能な手下共が戻ってくる時間だ」
ζ(゚、゚*ζ「あ、それじゃあ……私、失礼します。
お話聞いてくれてありがとうございました、ジュースご馳走様です」
(´・ω・`)「ああ、こっちこそご馳走様」
コートを羽織るデレに、ショボンが横たわったまま手を振った。
鞄を抱えたデレが事務所を出ていく。
ショボンは彼女の飲みかけのオレンジジュースを一気に呷ると、
千円札を顔の上に翳した。
(´・ω・`)(……)
回りくどい、と思う。
本当は、図書館に関する全てを、自分がデレに話してやりたい。
けれど、そのせいでデレが怯えてしまったら。
内藤達が悲しむ結果になったら。
きっと、ショボンは自分を責める。
デレは絶対に内藤達を嫌わないと言ったが、結局あんなのは口約束でしかない。
実際にどうなるかは分からないのだ。
(´-ω-`)
出来るならば。
誰も傷付かないでほしい。
.
- 74
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:32:39 ID:1vBgP5vQO
――デレが事務所を出てから、しばらく経った頃。
携帯電話が鳴り響いた。
発信者、VIP図書館。
内藤なら彼の携帯電話からかけてくる。作家の誰かだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
『あと30分以内に来なかったら捻り潰す』
ζ(゚、゚;ζ「……はあっ!? あ、そ、その声ニュッさんだ!
どうしたんですか急に――って電話切れた! ひ、捻り潰すって何を……!」
通話時間、ものの5秒。
携帯電話を閉じたデレは、慌てて図書館の方向を確認した。
*****
- 75
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:33:46 ID:1vBgP5vQO
ニュッがデレに電話をかける、数分前。
彼はバイトに行くべく、林の中、フェンスに続く道を歩いていた。
内藤に「本離れする時間を作れ」と言われて始めたバイトだが、
肝心の仕事場は小さな本屋だ。
本離れ出来ているかは甚だ疑問である。
が、大量の本に囲まれながらも、勤務中に読書をするわけにはいかない。
毎度毎度、「待て」と言われてお預けを喰らう犬のような気分になる。
( ^ν^)(さみい)
吐き出す息が白く濁る。
暑さ寒さには大変弱い。特に今日なんかはいつにも増して冷え込んでいるので、
内藤に車で送ってもらいたいと考えていたのだが。
その内藤は、昼前にツンと共に「本」探しのために出掛けてしまった。
踵を返して図書館に帰ってしまいたい。
暖房の利いた部屋で、温かい飲み物でも飲みながら本を読んでいたい。
( ^ν^)
フェンスの前に差し掛かった。
ニュッの足が止まる。
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:34:27 ID:1vBgP5vQO
o川*゚−゚)o
( ^ν^)
鍵のかかったフェンス。
向こう側に、デレの友人、素直キュートが立ち尽くしていた。
潤んだ目で、縋るようにニュッを見つめる。
( ^ν^)
o川*゚−゚)o
( ^ν^)
o川*゚−゚)o
( ^ν^)
o川*゚−゚)o
( ^ν^)(何でここにいるんだ、こいつ)
o川*゚−゚)o(何で固まってるんだろう、この人)
*****
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:35:57 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚;ζ「お邪魔します!!」
図書館に駆け込んだデレ。
手前のテーブルを囲む3人の男女を見付けた。
( ゚∋゚)「来たか」
o川*;−;)o「……デレちゃん……」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ!」
友人のキュートに、作家の堂々クックルとハロー・サン。
ハローはデレに歩み寄ると、左手を伸ばした。
ハハ*ロ -ロ)ハつ「イラッシャイ、デレ!」
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちはハローさん、クックルさん。そういえば久しぶりに会いま……」
ζ(゚д゚;ζ「――ひでででででで!!」
ハハ ロ -ロ)ハつ<;д;*ζ
イタイイタイイタイイタイ
いつも通りに過剰なスキンシップとして抱きしめられるものかと思いきや、
何の脈絡もなく頬を抓られた。
加減なしに捩られた。
- 78
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:38:02 ID:1vBgP5vQO
必死で抵抗し、手を引っぺがす。
じんじん痛む頬を押さえ、デレはハローから離れた。
ζ(;д;*ζ「何すんですかぁあ!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ニュッ君に、『デレが来たら捻り潰しとけ』って言われたカラ……。
ドコをドウすればイイか分かんなかったノデ、とりあえずホッペ抓りマシタ」
ζ(ぅд;#ζ「さっ、30分以内に来たのに!
あの野郎どっちにしろ捻り潰すつもりだったのか畜生!!
ニュッさんどこですか!!」
( ゚∋゚)「俺らにキュートを預けて、デレに電話してからすぐバイトに行ったぞ」
ζ(゚皿゚#ζ「むがー! 絶対に後でやり返す!」
両頬抓ってやると地団駄を踏んで一頻り喚いたデレは、
クックルの隣でキュートが涙を零しているのに気付き、はっとした。
慌ててキュートの傍に行く。
- 79
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:39:51 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚;ζ「どうしたのキュートちゃん」
o川*;−;)o「……」
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「まさか……しぃさんが……? どうします、そろそろ警察突き出します?」
( ゚∋゚)「お前の中でのしぃの扱いがよく分かった」
ハハ ロ -ロ)ハ「別に間違った認識デモないデスケドね」
真剣な目をするデレに、違う違うとクックルとハローが手を振った。
キュートはミルクティーを飲みながら首を傾げる。
しぃって誰だろうといった顔。
ζ(゚、゚;ζ「いや、でもキュートちゃんを図書館に置いとくのは危なくないですか?
ほら……しぃさんとか、あと……しぃさんとか……それとしぃさんとか……」
( ゚∋゚)「しぃなら執筆のために部屋に篭ってるぞ」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、そうですか。良かっ……」
(*゚ー゚)「飽きたー!! クックル構ってー!」バターン
ζ(゚ー゚;ζ(来ちゃった―――――!!)
噂をすれば影。
美少女に近付けてはいけない女が、大変元気よく現れた。
- 80
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:40:48 ID:1vBgP5vQO
ハハ ロ -ロ)ハ「飽きたッテ、マダ1時間も経ってマセンヨ」
(*゚ー゚)「もう無理! 飽きた! 始めっから話練り直す!」
( ゚∋゚)「その飽き性どうにかならないのか」
(*゚ー゚)「だあって、思ったように進められないんだもん。
だからクックル、気晴らしに遊ん――」
o川*;−;)o
(*゚ー゚)「でっ……」
o川*;−;)o「……は、はじめまして……」
(*゚ー゚)
- 81
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:42:27 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚ー゚;ζ「しぃさん、落ち着いてくださいね。どうどう、どうどう」
(*゚ー゚)「どう……どっ」
(;*゚ー゚)=3「――どどどどっ、どうしたのかな、そこな美しいお嬢さん!!
泣いていては折角の綺麗な顔が勿体ないよ! お姉さんが慰めたげる!
泣くより鳴く方がいいよ! 絶対いいよ! イイよ!」
o川*;−;)o「!?」
(;*゚ー゚)「ねえ知ってる!? 私と気持ちいいことすると将来幸せになれるんだよ!!」
ζ(゚ー゚;ζ「す、すごい勢いで嘘ついた!!」
息を荒げて走り出すしぃ。
キュートに触れかけた手は、クックルによって叩き落とされた。
(;*゚ー゚)「いってえ!」
( ゚∋゚)「ただでさえ泣いてるのに、トラウマ植えつけるようなことするな」
o川*;−;)o「と、トラウマって何が……?」
(;*゚ー゚)「くそっ、それ言われると反論出来ない……人道的に……」
ハハ ロ -ロ)ハ「しぃの行動は全てにおいて人道カラ外れてマスヨ」
(*;ー;)「わーん、人格を否定されたよデレちゃーん!」
ζ(゚ー゚;ζ「ちょっ……寄るな!!」
- 83
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:44:57 ID:1vBgP5vQO
少し、場が落ち着く頃まで時間を進めて。
新たに加わったしぃを含めた4人は、キュートから図書館に来た事情を聞いた。
昨日の昼、外で姉を見付けたこと。
姉の様子がおかしかったこと。
昨夜、姉が帰ってこなかったこと。
o川*゚−゚)o「……お姉ちゃんだって、大学生だし……。
外泊するぐらい全然構わないんだけど」
涙を拭ったキュートが、ぽつぽつ、呟くように話す。
ゆっくりゆっくり、言葉を選びながら。
o川*゚−゚)o「でも、無断でどこかに泊まるような人じゃないの。
特に今は――お母さんがお父さんのところに行ってるから、
何も言わずに私を1人にする筈ないんだよ……」
o川*゚−;)o「……なのに、でっ、電話通じないし、メールも返ってこないし。
それに、昨日……」
また、涙が滲み出た。
うん、とデレが相槌を打つ。
隙あらばセクハラを試みようと目を光らせていたしぃも空気を読み、黙って頷いた。
- 84
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:46:03 ID:1vBgP5vQO
ハハ ロ -ロ)ハ「……昨日、ナニ?」
o川*;−;)o「わ、私のこと、知らないって言って、それで、
――気持ち悪いって言った……」
テーブルの上に、涙が落ちた。
隣にいたクックルが頭を撫でる。
キュートは顔を真っ赤にさせたが、珍しく、おとなしいままだった。
o川*;−;)o「前……私の顔がおかしくなったときも、
お姉ちゃん、私に、気持ち悪いって、近寄るなって言ったの。
でもデレちゃん達が治してくれた後は、いつもの優しいお姉ちゃんに戻ったんだよ」
ζ(゚、゚*ζ「キュートちゃんがクックルさんの本を持ってたときだね」
o川*;−;)o「……うん。
だから、今のお姉ちゃん、また……あのときみたいになったのかなって。
ここに来たら、何か分かるかと思って」
彼女は「本」のことを、ろくに知らない。
自身が主人公になった事件のことも、クックルや内藤に有耶無耶にされた。
――上手く誤魔化されたというよりは、
自分が踏み込んではいけないのだと察したところが大きい。
教えてもらえないならば、それでも構わない。そういう性格である。
- 85
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:49:13 ID:1vBgP5vQO
o川*;−;)o「でも。……さっき、考えたんだけど……。
もしかしたら、元々お姉ちゃんは私が嫌いだったのかな。
私と2人きりになるのが嫌で帰ってこなかったのかな……」
そこまで話して、キュートは口を噤んだ。
しゃくり上げる。
( ゚∋゚)「……」
クックルが、もう一度頭を撫でた。
向かいで、しぃが腕を組み、ふむ、と唸る。
(*゚ー゚)「つい最近、お姉さんは本を拾ったり買ったりしたかな?」
o川*;−;)o「本……ごめんなさい、分かんないです……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ンー……。キュートのコト、まったく知らない様子デシタカ?」
o川*;−;)o「……あれが演技じゃないなら。
本当に私を知らないみたいに振る舞ってました。
妹なんかいないって……」
- 86
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:51:07 ID:1vBgP5vQO
キュートが袖で顔を拭う。
――あ、と声を漏らした。
ζ(゚、゚*ζ「どうしたの?」
o川*゚−゚)o「ごしゅじんさま……とか、何か、言ってた気がする」
ζ(゚、゚;ζ「ご、御主人様?」
(*゚ー゚)「ほう! そういうプレイでmんがっ」
いらぬ方向へ話を持っていこうとしたしぃの口を、デレとハローが押さえつけた。
クックルが睨みつける。
自重という言葉を彼女は知らないのだろうか。
o川*゚−゚)o「御主人様がお腹すかせてるから早く帰りたい……みたいなこと。
うちに帰りたいってのじゃなくて、
その『御主人様』の家に帰りたいって口振りだった」
- 87
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:52:42 ID:1vBgP5vQO
( ゚∋゚)「……お前の姉さんは、その……」
o川*゚−゚)o「?」
( ゚∋゚)「恋人を『御主人様』と呼ぶような、何か……そういう、あれじゃないんだよな」
o川;゚−゚)o「よ、呼ばないよ! 至ってノーマルな筈だよ!! ……多分……」
ζ(゚、゚*ζ「きりっとしてて、真面目な人だったと思いますよ。
数えるくらいしか会ったことないですけど」
(*゚ー゚)「きりっとした真面目な人を支配して恥辱に染めるのが最高なnむぐっ」
ハハ ロ -ロ)ハ「しぃは一回ぐらい、キリッと真面目になった方がいいデスヨ」
(*゚ー゚)+ 「乳房揉みたい」 キリッ
ζ(゚、゚;ζ「おっぱいを心なしか真面目な響きの乳房に言い換えただけじゃないですか!」
o川;゚−゚)o「……私どうしたらいい?」
( ゚∋゚)「とりあえず、あれは無視していい」
(*゚ー゚)「無視せんといて! 無視せんといて!」
こいつうるせえなあ。
全員が全員、そんな感じの表情をしぃに向けた。
- 88
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:54:01 ID:1vBgP5vQO
(*゚ー゚)「お前ら何だその目」
ζ(゚、゚*ζ「部屋に帰ってくれないかなあって……」
(*゚ー゚)「あれ、デレちゃんが随分辛辣になってる。
この図書館内での私の扱いを着々と心得てきてる予感」
( ゚∋゚)「いいから黙っとけ」
(*゚ー゚)「酷いや! まあまあ待ちんしゃい。キュートちゃんだっけ?
キュートちゃんのお姉さんは、たしかに『御主人様』と言ったんだね?」
o川;゚−゚)o「は、はあ」
(*゚ー゚)「ふむふむ。うんうん。御主人様、ね。
妹の存在すら忘れるほど役になりきってるとなると、
よっぽど我慢しすぎて鬱憤溜まった本か、あるいは……名前、かなあ」
ζ(゚、゚*ζ「しぃさん、心当たりあるんですか?」
(*゚ー゚)「ちょいとね。
……キュートちゃん、お姉さんについて色々教えてくれる?」
o川*゚−゚)o「色々?」
- 89
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:56:56 ID:1vBgP5vQO
ζ(゚、゚;ζ「まっ、まさかキュートちゃんのお姉さんに手を出すつもりじゃ!」
(*゚ー゚)「違うわい。さあキュートちゃん。カモン!」
o川;゚−゚)o「何を言ったらいいんですか?」
(*゚ー゚)「名前とか歳とか」
o川*゚−゚)o「はあ……名前は素直クール、で、今19歳です。大学生で――」
素直クール。
その名を聞いた瞬間、しぃは立ち上がった。
(*゚ー゚)「クール!」
o川;゚−゚)o「へっ」
(*゚ー゚)「髪は? 長い? 黒い?」
o川;゚−゚)o「黒いです。長い……うん、長い方だと思います」
(*゚ー゚)「よっしゃあ、見えてきたよ見えてきたよ!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワッ」
衝動のままにハローを抱きしめ、しぃが親指を立てる。
その指を、自分へ向けた。
- 90
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 00:59:21 ID:1vBgP5vQO
(*゚ー゚)「私の本だ!」
ζ(゚、゚;ζ「えっ……しぃさんの?」
( ゚∋゚)「どうして分かったんだ」
(*゚ー゚)「『御主人様』ってところで怪しいと思ったよ。
私の書いたSF……特にロボットものはね、召使ロボットが頻繁に出てくるの。
単純に私の好みなんだけどさ」
ζ(゚、゚;ζ「召使ロボットとな」
(*゚ー゚)「そんでもって持ち主を『御主人様』って呼ぶ奴が多いのさ!
これも私の趣味ね」
o川;゚−゚)o「? 何の話……」
(*゚ー゚)「……っとと。キュートちゃんは知らんのか、『本』のこと」
どうしよう、と、しぃが頭を掻く。
事情を知らない人間にべらべら話すのも良くない。
少し考え、もう一度親指を立てた。
(*゚ー゚)「キュートちゃん、とにかく手掛かりは掴めたよ。後は私達に任せなさい」
*****
- 91
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 01:00:41 ID:1vBgP5vQO
――偶然、ではあるが。
キュートの姉ことクールは、本の登場人物と同じ名前、
かつイメージに近い容姿をしていた。
おかげで「役」そのものにどっぷり浸かってしまった――のであろうと、しぃは推理する。
( ^ω^)「……まず間違いないと思うお」
夜。
デレ、キュートと入れ違いになる形で帰宅した内藤とツンに、
しぃは事のあらましと憶測を話した。
内藤はうんうんと何度も頷く。
ショボンの父から聞いた「店内で本に触れた人間」の中には、
クーちゃんと呼ばれる女子大生がいたそうだ。特徴も一致する。
そのクーちゃんとやらがクールなのだろう。
- 92
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 01:03:10 ID:1vBgP5vQO
(*゚ー゚)「いやはや、何て奇跡。私の本も大喜びだったろうね」
と。
そこで、しぃは首を傾げた。
(*゚ー゚)「でも主人公は『クール』じゃないんだよなあ」
ξ゚听)ξ「そうなの?」
(*゚ー゚)「うん……主人公はロボットの持ち主だよ。
多分、本は最初にキュートちゃんのお姉さんに目をつけて、
それから適当に主人公を選んだんじゃないかな」
( ^ω^)「じゃあ、そのとき『クーちゃん』の近くにいた人が――」
(*゚ー゚)「主人公、かも」
内藤が携帯電話を取り出す。
シャキンに確認をとるのだろう。
ξ゚听)ξ「その話、危険な展開とかはあるの?」
(*゚ー゚)「ないない。ロボットと人間の交流、って話だから。ほのぼのしてるよ」
- 93
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/06(月) 01:04:48 ID:1vBgP5vQO
――そう。
「クール」と「御主人様」の日常を描いた、平和な話なのだ。
(*゚ー゚)「平気だよ。よっぽど酷い拗れ方さえしなきゃあさ」
第六話 続く
戻る