- 650 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:34:53 ID:SF4WZnJQO
今日も疲れた。
早く家に帰ろう。
家に帰ったとて、休まるわけでもないけれど。
( "ゞ)
マンションの一室。
リビングに妻がいたので「ただいま」と告げたものの、
(゚、゚トソン
ああ、ほら、妻は何も返してくれない。
テレビの中で芸人が駆け回っている。
妻は冷めた目でそれを眺めている。
( "ゞ)
腹が減ったと伝えてみれば、棚にカップ麺があると言われた。
ここ一年、妻の手料理を食べていない気がする。
いや、数日前に卵焼きを作ってくれたのだったか。
カップ麺を胃の中に収め、風呂に向かう。
おざなりにシャワーを浴びて寝間着を纏い、ベッドの中で眠りに就いた。
*****
- 651 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:36:04 ID:SF4WZnJQO
(;´_ゝ`)「――!」
流石兄者は跳び起きた。
青色の毛布を見つめ、次いで両手を眼前に持ってくる。
その手で、顔を挟み込んだ。
(;´_ゝ`)「はああああ……」
長い長い溜め息。安堵と憂いが混じったものだった。
そこへドアが開く音と、双子の弟、流石弟者の声がした。
(´<_` )「おおい、兄者……ああ起きてたか」
( ´_ゝ`)「おお。おはよう弟者」
(´<_` )「朝飯出来てるぞ。早く下りてこないと母者がキレる」
(;´_ゝ`)「何、それはまずい」
(´<_` )「じゃあさっさとしろ。姉者も腹をすかしているから、
最悪の場合母者と姉者のコンビネーションを味わうことになるぞ」
(;´_ゝ`)「行く! 行きます!」
布団を跳ね退け、兄者はベッド――二段ベッドの下段――から降りた。
以前、大学生にもなって二段ベッドを使うのは嫌だと親に訴えたことがあるが、
黙殺されて終わった。今では兄者も弟者も諦めている。
- 652 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:36:47 ID:SF4WZnJQO
ふと、振り返った。
部屋の隅、ぎっしりと漫画や小説が詰まった本棚が目に入る。
(;´_ゝ`)「……」
兄者は最近、連日見る夢に悩まされていた。
夢の中で彼はサラリーマンになる。
仕事はそれなりに順調だが、疲れるばかりで満足感を抱くこともなく、
また、家庭の方に至ってはまったく上手くいっていない。
ろくな楽しみもない、くたびれた日々。
そんな夢を毎日見る。
目が覚める度、自分が「流石兄者」であるのを確認せずにはいられない。
(´<_` )「兄者ー」
(;´_ゝ`)「お、おう」
――それというのも、一冊の本を拾ってから始まったのだ。
- 653 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:37:12 ID:SF4WZnJQO
第五話 あな息苦しや、家族小説
.
- 654 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:38:42 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚ー゚*ζ(あれ?)
夕刻。
林へとやって来た長岡デレは、フェンスの入口の前で立ち尽くす男を見付けた。
黒いトレンチコートを纏い、右手に鞄を提げた男。
彼は左手に持った携帯電話を耳に当てていたが、やがて嘆息し、その手を下ろした。
ζ(゚ー゚*ζ「あのう」
(´・ω・`)「ん?」
声をかけると、振り返った男は少しの沈黙の後、体ごとデレに向き直った。
眉尻の下がった、気弱そうな顔をしている。
柔らかく微笑む口元から人のよさが窺えた。
30歳になるかならないか。
デレの目的地であるVIP図書館の館長、内藤ホライゾンと同じ年頃に見える。
- 655 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:39:28 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたんですか?」
(´・ω・`)「この先に、知人の家があるのですが……御覧の通りフェンスがあって入れません。
電話をかけても、留守らしくて出てくれないんです」
ζ(゚、゚*ζ「ありゃ、そうなんですか」
デレが図書館にお邪魔したいと内藤にメールを送ったとき、
今日は特に用事がないから大丈夫だと返事が来た筈だったが。
(´・ω・`)「出直せば済む話ですが、何分遠くから来たもので。
それに、急ぎの用ですし」
どうしましょう。男が呟く。
デレは、にこりと笑った。
ζ(゚ー゚*ζ「私、鍵持ってます。一緒に入りましょう」
(;´・ω・`)「ええっ。そんな……いいんですか?
というか、関係者の方だったんですか……」
ζ(゚ー゚*ζ「関係者というほどでもないですけどね。
さあさあ、遠慮せずに」
(´・ω・`)「……では、お言葉に甘えて」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、一名様ご案内ー」
- 656 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:40:26 ID:SF4WZnJQO
フェンスを抜けて一本道を進むと、すぐに図書館に着いた。
来訪する旨を伝えていたから、玄関の鍵は開いているだろう。
デレが扉に手をかけると、男が口を開いた。
(´・ω・`)「本当に助かりました。ありがとうございます、長岡さん」
ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ」
扉を引き――デレは、首を傾げた。
はて、自分は彼に名前を教えただろうか、と。
しかし答えが出るより先に、さらに別の疑問が沸き上がった。
ζ(゚、゚*ζ「……内藤さん?」
(*^ω^)「おっおっ、いらっしゃいお、デレちゃん」
図書館の中、手前のテーブルセットに、内藤が座っていたのだ。
留守だったのではなかったか。
- 657 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:41:37 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*ζ「出掛けてるんじゃ……」
(´・ω・`)「やあ、ブーン!」
ζ(゚、゚;ζ「きゃっ!」
(;^ω^)「……げえっ!?」
瞬間。
問おうとするデレを押しのけ、男がつかつかと内藤に歩み寄った。
内藤は顔を強張らせて立ち上がる。
(;^ω^)「お、お前、何で――」
(´・ω・`)「親切な長岡さんのおかげさ」
( ^ν^)ξ゚听)ξ「……」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、えっ、私、あの、しちゃいけないことしました……?」
内藤と同じテーブルにいた内藤ニュッ、ツンの2人がデレを見る。
彼らの顔は無表情だったが、どこか非難の色が感じられた。
男と内藤が対峙する。
(´・ω・`)「彼女がいなかったらどうなっていたのやら。
……携帯にかけても着信拒否、図書館の電話にかけても無視……」
- 658 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:42:57 ID:SF4WZnJQO
(´-ω-`)「やれやれ、君ってやつは本当に――」
男は一呼吸の間をあけて、鞄を椅子に放ると。
(#´゚ω゚`)「ナァアアアアアアメた真似してくれるよなカスがよぉおおおおおおお!!」
――キレた。
ζ(゚、゚;ζ「えええええええええええええええ!!?」
- 659 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:44:04 ID:SF4WZnJQO
(#´゚ω゚`)「詫びろ! 泣いて詫びろ! 土下座しろ!」
(#^ω^)「……ああああうるせええええええ!!」
それを合図として、同時に飛び掛かる。
男は内藤の胸倉を掴み上げ、内藤は男の耳を抓り上げ。
互いに頭突きを繰り返しながら、口汚く罵り合いを始めた。
(#´゚ω゚`)「俺を誰だと思ってんだ!? お前に俺様を無視する権利なんざねえんだよ!!」
(#゚ω゚)「クズのショボン君ですよねぇええ!? 無視して当然だろうが!
クソが! 心清らかなデレちゃん利用しやがってよお!!」
(#´゚ω゚`)「利用なんかしてませえーん。あの子が勝手に入れてくれたんですうー。
べろべろばあぁあああ!」
(#゚ω゚)「いいや、お前のことだから脅すか何かしたね! 絶対したね!
救いようのない悪人だな!!」
- 660 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:45:33 ID:SF4WZnJQO
(#´゚ω゚`)「あ? 言っちゃうよ? この間俺の秘蔵AV貸してあげたことを
ブーン君の大好きなツンちゃんに言っちゃうよ?」
(;゚ω゚)「言っちゃってる! 今まさに言っちゃってる!! やめて!!」
ξ゚听)ξ
(;゚ω゚)「やだ! 背中に何か圧力! 何か圧力来る! 後ろ見れない!!」
内藤を蹴飛ばし、男は舌打ちをしてテーブルに移動した。
ニュッの隣に腰を下ろす。
(´・ω・`)「ようニュッ君。相変わらず童貞?
そろそろハロー辺りに土下座してやらせてもらったら?」
( ^"ν^)
(´・ω・`)「それともデレちゃんがいい?」
( ^"ν^)「帰って死ね」
- 661 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:46:53 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「おやおや、酷い言い草だなあ……折角『本』の持ち主見付けてきてあげたのに」
ξ゚听)ξ「本?」
ツンは、男の言葉に反応を示した。
視線を内藤の背中から男へと移す。
(;^ω^)(視線だけで死ぬかと思った……)
(´・ω・`)「そう、本。
――いつまで突っ立ってんの、長岡デレさん。座ったら?」
ζ(゚、゚;ζ「ふあ」
すっかり固まっていたデレは、ようやく我に返った。
開けっ放しだった扉を閉めてからダッフルコートを脱ぎ、ショボンの横に座る。
テーブルの上には紅茶とクッキー。
ξ゚听)ξ「今、2人の分も入れるわ」
(;^ω^)「あ、ツンちゃん、あの、僕紅茶のおかわり欲しいなあ……」
ξ゚听)ξ
(;^ω^)「すみません自分でやります」
(´-ω-`)「やだやだ、情けない男」
- 662 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:48:45 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚;ζ「……おふたりは、仲悪いんですか……?」
内藤と男を交互に見遣り、デレはおずおずと訊ねた。
先程の喧嘩からするに、友達同士だとは思えない。
もしかして招いてはいけなかったのだろうか。
デレの心配を他所に、2人は顔を見合わせ、首を横に振った。
(´・ω・`)「仲悪かったら16年も友達やってないよ」
ζ(゚、゚*ζ「16年?」
( ^ω^)「中学からの腐れ縁なんだお」
(´>ω・`)v「遮木ショボン、ぴちぴちの29歳! よろしくね」
ζ(゚、゚;ζ「しゃき、しょぼんさん……」
遮木ショボンと名乗った男は、自己紹介と共にウインクとVサインをしたが、
声にまったく感情が篭っていなかった。
テンションがよく分からない。
- 663 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:51:32 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「で、君は長岡デレさんだろ」
ζ(゚、゚;ζ「はっ、はい――って何で」
(´・ω・`)「ブーンから話は聞いてたんだ。よろしく」
ζ(゚、゚;ζ「あ、はあ、どうも」
ショボンが右手を差し出し、デレも右手で応えた。
握手。
ショボンの顔つきは相変わらず気弱そうに感じられるものだったが、
つい先程怒鳴り散らしていた、あちらの方が本性なのだろう。
(´・ω・`)「この子がいなかったら僕は今頃、寒空の下凍死してたね」
( ^ω^)「よく言うお、刺しても焼いても死ななそうな根性して」
(´・ω・`)「そもそもお前が電話に出ないからだっつうのに」
- 664 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:53:51 ID:SF4WZnJQO
ξ゚听)ξ「どうせ金の無心に来たんだろうから無視しろって、ブーンが」
(´・ω・`)「はああー? 友人に金たかるほど困ってないよ僕」
( ^ω^)「どの口が……。
第一金銭絡みじゃないにしても、お前が来ると疲れるんだお。
あ、駄目だ帰れ。何か腹立ってきた」
ζ(゚、゚;ζ「……やっぱり仲悪いんじゃ……」
ξ゚听)ξ「いえ。単に、この間喧嘩した――というより、
ブーンにとって納得出来ない取引をして揉めたばかりだからね。
気が立ってるだけよ」
(´・ω・`)「危うく、ブーンという大事なお得意様をなくすところだったね。
……はい、本と持ち主の情報」
そう言って、ショボンはコートのポケットに手を突っ込んだ。
中からくしゃくしゃのメモ用紙を数枚引っ張り出し、内藤に突きつける。
- 665 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:54:57 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*ζ「ショボンさんって、何をしてらっしゃるんですか?」
(´・ω・`)「探偵」
ζ(゚ー゚*ζ「探偵さんなんですか!」
( ^ν^)「殺人事件の推理するようなアレじゃないぞ」
ζ(゚、゚;ζ「わっ……分かりますよそれぐらい!」
ちょっとだけそっちだと思いましたけど、という本音は胸にしまい、
デレは、皺くちゃの紙に眉を顰める内藤を見た。
探偵だというショボン、お得意様のブーン、本の情報。
彼らの「取引」がどういったものなのか、デレにも読めてきた。
本を所持している人間をショボンが探して調べ上げ、
その情報を内藤に売りつける。そんなところか。
- 666 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:57:00 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*ζ(……ってことは)
ならば、以前、ハローの本が関わった事件の際。
ちらりと話に出た知人とやらは、ショボンのことだったらしい。
確認のために訊ねてみると、うん、と声を漏らし、ショボンが頷いた。
内藤の手に力が篭り、メモ用紙がぐしゃりと悲鳴をあげる。
(´・ω・`)「それなら僕だ。知り合いに警察関係の人がいてね、
ちょっと脅h……お願いして、教えてもらったんだよ」
ζ(゚、゚;ζ(『脅迫』って言いかけた今)
( ^ν^)「……その話やめろ」
ζ(゚、゚*ζ「え――」
(#^ω^)「ショボォオオオオオン!!!!!」
ζ(゚д゚;ζ「わきゃああああああ!?」
今度は内藤の方から怒声があがった。
メモをテーブルに叩きつけ、ショボンを睨みつける。
- 667 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:58:05 ID:SF4WZnJQO
(#^ω^)「1時間かからずに寄越してきた情報が30万円なんて
絶対おかしいと思ってたお!! そのこと問い詰めたら、
お前『想像を絶する苦労があったんだよ』とか言ったよな? なあ!」
(´・ω・`)「知り合いに電話をかけるという想像を絶する苦労がだね」
(#゚ω゚)「しかも電話ぁあああああ!? 超ぉおおお簡単なんですけどぉおおお!!」
ξ゚听)ξ「……納得出来なかった取引って、それのことなの」
( ^ν^)「折角収まりかけてたのに掘り返すんじゃねえよ」
ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめんなさい……」
*****
- 669 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:59:41 ID:SF4WZnJQO
ツンとデレが内藤を宥めて、約10分後。
怒りながらも話を聞き終えた内藤は紅茶を一口含み、んむ、と唸った。
( ^ω^)「本を拾ってから、変な夢を見るようになった……かお」
――何でも、ショボンに不倫調査の依頼が舞い込んだのが事の始め。
依頼主の周辺に聞き込みをしている際、ある人物と話したのだという。
その人物は、ある本を道端で拾ってからというもの、
毎晩奇妙な夢を見るようになったそうだ。
まったく見知らぬ人間となり、一日を過ごす夢。
目を覚ませばいつも通りの自分で安心するのだが、
その夢の中の一日のせいで、起きてからしばらくは憂鬱でたまらなくなる。
(´・ω・`)「残念ながら作者の名前は覚えてなかったみたいだけど。
誰だっけか? 夢の中で演じさせたがる性格の本ばっかりなの」
( ^ν^)「……でぃ」
(´・ω・`)「ああ、それ」
ζ(゚、゚*ζ「でぃ?」
ξ゚听)ξ「椎出でぃ。――呼んでくるわ」
- 671 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:02:34 ID:SF4WZnJQO
ツンが2階にいる作家を呼びに行って、3分足らず。
下りてくる足音の後に、階段へ通じるドアが開かれた。
(*゚ー゚)「はあーい、ご用ですって?」
ξ゚听)ξ「抱き着かないで。欝陶しい」
連れてこられたのは、若い女性だった。
何故かツンを抱きしめている。
暖房が利いているとはいえ季節は冬。
にも関わらず、彼女は腕やら胸元やら足やら、やたら肌を露出させていた。
ζ(゚ー゚*ζ「彼女がでぃさんですか?」
( ^ω^)「いや、あれは――」
(*゚ー゚)「ややっ!?」
唐突に。
女性はデレを見て、素っ頓狂な声をあげた。
- 672 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:03:50 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「あや……やややっ!? 君は君はまさかまさか!?」
( ^ν^)「おい、至急ここから離れろ」
(´・ω・`)「まあまあ、スキンシップは大事だよニュッ君」
ζ(゚、゚;ζ「え? え?」
デレに真剣な表情で何か言うニュッ、にやにや笑うショボン。
わけが分からずにデレの視線がニュッと女性を行き来する内、
女性は小走りでデレに近寄ってきた。
(;^ω^)「あっ、こら、しぃ!」
(*゚ー゚)「君はデレちゃんとやらでは!?」
ζ(゚、゚;ζ「え、は、はい、そうで、」
- 673 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:05:56 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「おっぱいゲッツ!!」
デレの胸が。
思いっきり鷲掴みにされた。
ζ(゚、゚;ζ
(*゚ー゚)「うっひょおおおう! やっわらけえええええ!! もみもみ! もみもみ!」
ζ(゚д゚;ζ「ひぎぁああああああああああ!?」
(*゚ー゚)「直に舐めていい!?」
(;^ω^)「いいわけあるか、んなもん僕がやりたいわ!
……じゃなくて、やめなさい!」
内藤が女性を羽交い締めにする。
女性の手は、デレから離れても尚わきわきと動き続けた。
もげるかと思った胸を両手で押さえ、デレはニュッの後ろへ逃げる。
ζ(゚д゚;ζ「何ですか! 何なんですか!?」
( ^ν^)「だからここから離れろっつったろ……」
- 674 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:07:25 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「ナイスおっぱい……。貞子やハローのは揉み飽きてたとこだったのだよ……」
(´・ω・`)「どうだった?」
(*゚ー゚)「布を隔てていても損なわれない柔らかさ。張りもある。
力を込めると指が心地良く沈み込み、力を弱めれば指が優しく持ち上がり……。
服越しでも結構なサイズに見えるけど、脱いだらもっと凄いよ。ずっしりしたもん」
(*^ω^)「……ほうほう……」
ξ゚听)ξ「……ブーン」
(;^ω^)「はっ、いえっ、僕はこれっぽっちも興味など!」
(*゚ー゚)「形もいいね。生で見たい。ねえデレちゃん、ちょっと脱がない?」
ζ(;、;*ζ「セクハラ! ニュッさん助けて私セクハラされてる!!」
( ^ν^)「こいつの胸の感触だとか形だとか、耳障りでしかないから今すぐやめろ」
ζ(;、;*ζ「おおわあああああああ! 別方向から心抉られた! 複雑!」
(*゚ー゚)「元気な子だねー」
- 675 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:08:53 ID:SF4WZnJQO
ニュッが服の袖でデレの涙を雑に拭って、デレが泣き止んで。
落ち着いたデレは、ふと顔を上げ、「もう1人」を見付けた。
ζ(゚、゚*ζ「……あれ?」
(#゚;;-゚)
ツンの隣に立つ、これまた女性。
先程はセクハラ女(デレの脳内での呼称)の後ろに隠れていたせいで見えなかったようだ。
タートルネックにデニムといった服装で、
セクハラ女とは対称に、肌が見えるのは顔と指先ぐらいだ。
その顔には、いくつか小さな傷跡があった。
(*゚ー゚)「あっ、でぃちゃんに用でしたな。でぃちゃん、おいでおいで」
セクハラ女は、彼女を「でぃ」と呼んだ。
ならば何故この人まで来たのかと、デレは不審そうな目つきでセクハラ女を睨む。
- 676 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:10:15 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「おっと、自己紹介しなきゃね。
私は椎出しぃ。で、この人が、」
(#゚;;-゚)
(*゚ー゚)「椎出でぃ! 私の双子の姉だよ。
ぼけーっとした人だから、ちょくちょく転んだり物にぶつかったりしちゃうの。
顔の傷もそうやって出来たものなんで、気にしないであげてね」
椎出しぃの傍までやって来た椎出でぃは、小さく頭を揺らした。
しぃの腕を引く。
(*゚ー゚)「ふむ。『よろしく』だって、デレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「ん……よ、よろしくお願いします。
ご存知のようですが、長岡デレといいます」
(*゚ー゚)「うんうん。よろしくよろしく。
でぃちゃんとっても恥ずかしがり屋さんで、人と話すの苦手だからね。
双子の妹たる私が皆様との橋渡しをいたしますですございます」
ζ(゚、゚*ζ(……なるほど、それでしぃさんも来たのか)
- 677 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:12:21 ID:SF4WZnJQO
( ^ω^)「ほい、デレちゃんと椎出姉妹、着席ー」
既に5人で囲んでいるテーブルに、彼女達が入り込むスペースはない。
仕方なく、2人は隣のテーブルに備えられた椅子に腰掛けた。
デレが椅子ごと後ずさる。
(*゚ー゚)「あ、避けた」
(;^ω^)「避けられて当たり前だお。
ごめんおデレちゃん、こいつ、男女構わずセクハラするような人間なんだお」
(´・ω・`)「僕もいきなり股ぐら揉みしだかれたときはぶち殺してやろうかと思ったね」
ζ(゚、゚;ζ「男女構わずですか……」
ξ゚听)ξ「ここの住人は全員、ほぼ毎日被害に遭ってるわ」
(*゚ー゚)「クックルの入浴シーンなんか何度覗いたか分からんね」
( ^ν^)「その度に怒られてんじゃねえか。いい加減懲りろ」
(*゚ー゚)「あの筋肉や尻は飽きん。ねっ、デレちゃん!」
ζ(゚、゚;ζ(ど、どう返事しろと……)
それは置いといて、と内藤が話をぶった切る。
しぃは話し足りなさそうだったが、ツンが咳ばらいをして場を仕切り直した。
- 678 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:13:25 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「んで、でぃちゃんの本が見付かったって?」
( ^ω^)「確定したわけではないけど、
夢の中で演じさせる本なんて、でぃが書いたものぐらいだお」
(*゚ー゚)「ですな。作者の控えめさに似たかね」
ζ(゚、゚*ζ「……夢でも、演じた内に入るんですか?」
( ^ω^)「なるんじゃないかお? 現に、でぃの本はそれで満足してるみたいだし」
ξ゚听)ξ「現実に表現してもらう、というのとは少し違ってくるけれど、
夢の中なら、姿かたち、舞台、季節、何もかも本の通りに出来るしね」
内藤は、ショボンから貰ったメモ用紙をでぃに手渡した。
ショボンが男から聞き出した、本の特徴やストーリーが書かれている。
でぃはメモに目を通すと、しぃの耳へ口を寄せた。
- 679 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:15:03 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「ふむ。でぃちゃんの本で間違いないようだよ」
(#゚;;-゚)) コクン
ζ(゚、゚*ζ「……でぃさんは、どんな話を書くんですか?」
( ^ν^)「家族ものが多い」
(*゚ー゚)「その通りー。でぃちゃんはね、離婚間際の夫婦とか、家庭崩壊とか、
薄暗ぁあーい問題を抱えた家族の話を書くのが好きだね!
あとはたまにホラーやピカレスクを書くよ。ね」
(#゚;;-゚)) コクン
ζ(゚、゚;ζ(なんて重い……)
(*゚ー゚)「ちなみに私はSFとかサスペンスが好きかな。
ああ、官能小説もたまに……。ほんと、たまーに」
- 680 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:15:44 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*;ζ「え……ニュッさん、か、官能小説、とかも読むんですか」
(*゚ー゚)「初めてニュッちゃんに官能小説を差し上げたのは、
彼が18歳の誕生日を迎えたときでございました」
ξ゚听)ξ「ああ、あの日」
(´・ω・`)「本を贈るだけじゃ飽きたらず、大声で朗読してやったんだって?」
( ^ω^)「ニュッ君の部屋からしぃの喘ぎ声が聞こえてきたときは
『ついにニュッ君が喰われた』と思ったお……」
(*゚ー゚)「途中で、真っ赤になったニュッちゃんに追い出されたけどね!」
ζ(゚、゚*ζ「……へえ、真っ赤に? ニュッさんが?」
(*゚ー゚)「ニュッちゃんだって赤くならあ。人間だもの」
( ^"ν^)
(*#゚;;-゚) ポッ
- 681 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:16:29 ID:SF4WZnJQO
( ^ω^)「はい閑話休題。
でぃ、この話は演じ終わるのに大体どれくらい時間がかかるんだお?」
(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「3ヶ月くらいだって」
( ^ω^)「3ヶ月……。結構長いおね。
何なら夢なんてまどろっこしいのは置いといて、
主人公に選ばれた人と僕らで演じて、さっさと終わらせちゃうかお」
(´・ω・`)「いいや、その心配には及ばない」
( ^ω^)「おん?」
- 682 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:17:02 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「僕がメモの男と会ったの、まさに3ヶ月前だから」
( ^ω^)
( ^ω^)「お前……お前さあ……何で3ヶ月間黙ってんの……」
(´・ω・`)「黙ってたんじゃなくて忘れてただけだ。
今朝、色々な資料の整理してたらそのメモが出てきてさ。
ああそういやこんな話があったなあ、って」
( ^ω^)「とっくに演じ終わってて、
本が新しい主人公見付けてたらどうしてくれんだおこの野郎」
(´-ω-`)「それもまた人生」
( ^ω^)「ポットのお湯ぶっかけてやろうか」
(´-ω・`)「あ、情報料ちょうだいね」
( ^ω^)「結局金取りに来たのかおカス」
- 683 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:18:13 ID:SF4WZnJQO
それから、物語の詳細をニュッとでぃに説明してもらい――
一段落ついた頃に時計を見たデレは、慌てて腰を上げた。
ζ(゚、゚*ζ「そろそろ帰らなきゃ」
( ^ω^)「おー、もうそんな時間かお。送ってくお」
ζ(゚ー゚*ζ「今日は途中で買い物していく予定なので、歩いて帰ります」
ξ゚听)ξ「別に、お店に寄るぐらいは構わないわ」
ζ(゚、゚*ζ「……んー……」
( ^ν^)「乗ってけよ」
(*゚ー゚)「そうだよ、1人で夜道を歩いて、暴漢に襲われでもしたらどうするの?
服を破かれ、体をまさぐられ……悔しいっでも感じちゃう!
そして暴漢の手はついに――」
(*#゚;;-゚) ドキドキ
ζ(゚、゚;ζ「や、やめろ!!」
- 684 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:19:30 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「ブーン、僕も乗せてってくれるよね?」
(;^ω^)「はあ? お前、車で来なかったのかお」
(´・ω・`)「ちょいと聞いてくれよ。ある良家の娘さんが婚約したんだけど、
そのお嬢様のご両親が、相手の素性を調べてほしいと僕に依頼してきたのさ。
いざ調べてみると、まあ出てくる出てくる不祥事前科」
(´・ω・`)「結果は当然婚約破棄。
で、何故か僕がそいつに逆恨みされて、車ぼっこぼこにされたんだよね。
そいつのことは正当防衛を装った上で仕返しして警察に突き出したけど」
(;^ω^)「……調査対象に逆恨みされたの、それで何回目だお」
(´・ω・`)「何回目だろうなあ。数え切れないわ」
と、いうことで。
運転席に内藤、助手席にツン、後部座席にデレとショボンが座り、
内藤の車は走り始めた。
- 685 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:21:16 ID:SF4WZnJQO
林を出て、まずはデレが行きたいというスーパーへ。
数分かかって到着したスーパー、その駐車場に車を停める。
一旦降りたデレは、運転席側の窓の前で、指を上下に振った。
内藤が窓を開ける。
ζ(゚ー゚*ζ「私があんまり遅かったら、先に帰ってくださっても構いませんからね」
( ^ω^)「いやいや、いくらでも待つからゆっくり買い物していいおー。
ああ、僕も一緒に行こうかお?」
(´・ω・`)「僕が彼女についていこう。荷物持ちぐらいならやるよ」
(;^ω^)「え?」
ξ゚听)ξ「あら珍しい」
後部座席のドアを開けたショボンに、内藤は、ぎょっとした様子で振り向いた。
信じられない、とでも言いたげな顔だ。
- 686 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:22:18 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「何その顔」
(;^ω^)「お前が……人に優しくするなんて……」
(´・ω・`)「失礼な奴だよ本当に」
少々乱暴にドアを閉める。
遠慮するデレに、ショボンは「いいから」と笑顔を返し、
さっさとスーパーへ歩いていった。
デレが慌てて追いかける。
2人が店内へ入るのを見届けた内藤は、窓を閉め、溜め息をついた。
(;^ω^)「何を考えてんだお、あいつ」
ξ゚听)ξ「ショボンも買いたいものがあったんじゃないかしら」
(;^ω^)「それだけならいいけど……」
内藤が言葉を切る。
何とは無しに横を見ると、ツンと目が合った。
暗がりに、店から漏れる明かりが差し込んでいる。
その光に照らされたツンの瞳と金髪が、きらきら輝いているように思えた。
- 687 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:23:25 ID:SF4WZnJQO
ξ゚听)ξ「……なあに? じっと見て」
( ^ω^)「ツンが見てるから」
ξ゚听)ξ「見てない」
ツンが顔を背ける。
綺麗だと内藤が呟くと、そっぽを向いたままツンが内藤を殴った。
いつもより力が入っていない。
(*^ω^)「ああんもう可愛いったらないお」
ξ゚听)ξ イラッ
ツンが拳を握り直しているのに気付き、内藤は慌てて視線を逸らした。
にやつく口元を左手で隠す。
沈黙。手持ち無沙汰。
ショボンから渡された例のメモ用紙をスーツのポケットから出した。
本や、本を拾った男に関する情報を流し読みしながら、
記されている名前を口にする。
( ^ω^)「……流石兄者さん、ねえ」
*****
- 688 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:25:09 ID:SF4WZnJQO
店の中には軽快な音楽が流れていた。
客や店員の声があちこちから聞こえる。
この明るさ――照明に限った話ではなく――が、デレは何だか好きだった。
(´・ω・`)「買うものは?」
ζ(゚ー゚*ζ「お魚とかお野菜とか、色々」
まずは野菜売場へ寄った。
人参とじゃがいもを手に取り、ショボンが持つ籠に入れる。
ζ(゚ー゚*ζ「ついてきてくれて、ありがとうございます」
次に鮮魚売場を目指しながらデレがそう言うと、
ショボンは一瞬の間をおいて、「親切心じゃないよ」と答えた。
(´・ω・`)「君と話したかっただけだ」
ζ(゚ー゚*ζ「? 何を?」
- 689 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:26:31 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「変な子だよなあ、と思って。気になってた」
ζ(゚、゚;ζ「へっ……へん?」
(´・ω・`)「僕が今まで見てきた人間の中でも、特に変だよ。君は」
あの連中と関わり始めてから自分はまともだと自負するようになったデレにとって、
ショボンの発言は大変ショッキングなものであった。
漫画なら彼女の後ろに「がーん」といった文字が浮かびでもするところだ。
ζ(゚、゚;ζ「そんな馬鹿な……!」
(´・ω・`)「本当だよ。いっそ薄気味悪いとすら感じるね」
ζ(;、゚*ζ「や、やめてください!
年頃の娘に向かって『薄気味悪い』はやめてください泣きますよ!」
(´・ω・`)「じゃあ、気持ち悪い」
ζ(;、;*ζ「それはそれで!」
(´・ω・`)「おい、公衆の面前で泣くんじゃないよ。僕が白い目で見られるだろ。
……何つうかなあ、君の考えてることが理解出来ないんだよ」
ζ(ぅ、;*ζ「じ、自分で言うのもアレですが、単純な人間ですよう……」
(´・ω・`)「そうかな? 君は、彼らを恐がらないじゃないか」
ζ(゚、∩*ζ「『彼ら』って――内藤さん達ですか?」
- 690 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:28:06 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「冷静に考えてみろよ。
林の中、人知れず暮らしてる他人の集まり。
命を宿し、自分の欲求のために人を巻き込む『本』」
(´・ω・`)「……普通、近寄りたくないだろう」
デレの足が止まった。
一歩先を行き、ショボンも立ち止まる。
(´・ω・`)「あいつらは、あの図書館は、一般人からすれば全てが異常なんだよ。
それを分かっていて尚も足しげく通う君が、僕には理解出来ない」
ζ(゚、゚*ζ「だって」
(´・ω・`)「だって?」
ζ(゚、゚*ζ「だって……皆さん、いい人ばっかりで……楽しい、から」
(´・ω・`)「そうだな、お人よしの山だ。
でも本は? あれと意思の疎通は図れないよね。
加えて、君は貞子の本のせいで死にかけただろ」
それとも、自分を命の危機に晒した本まで「いい人」だと言うつもり?
僅かな嫌味が込められた問いに、デレは首を横に振った。
いいとは思わないが、悪いとも思わない、と。
ショボンが眉間に皺を寄せる。
- 691 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:30:51 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「つい先日起きた、ハローの本に関する事件はどうだ?
3人が死んだ。1人が殺人犯になった。
計4人の人生がめちゃくちゃになったんだぞ。本のせいでね」
物騒な言葉に、すれ違った客がぎょっとして振り返った。
が、ショボンに睨みつけられ、そそくさと離れていく。
(´・ω・`)「……そうそう、君の足の傷も、元を正せば本のせい。
例の事件がなかったら、君はあの道を通らなかった。
あの道を通らなければ怪我することもなかった。違う?」
すっかり治っている――跡は残ったが――デレの足が、一瞬ひりついた。
実際に痛んだのか、記憶の中の痛みが蘇っただけなのかの判断は出来ない。
ζ(゚、゚;ζ「そこまで知ってるんですか」
(´・ω・`)「君の足云々はブーンから聞いただけだ。
で、ここまで聞いても、まだ本が恐くない?」
ζ(゚、゚*ζ「……」
答えあぐねるデレに、ショボンは溜め息をついた。
呆れ返りながら、新たに話を始める。
- 692 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:31:38 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「ブーンが本の回収を始めたばかりの頃なんだけど、
ハローの本に演じさせられて、殺人を犯してしまった少年がいた」
(´・ω・`)「少年が本の主人公にさせられていたことを知ったブーンは、そいつの家に行った。
本の回収と……その子の家族へ、謝罪するために」
同行したショボンが「本を取り戻すだけにしておけ」と忠告したにも関わらず、
内藤は少年の家族に全て説明し、頭を下げたという。
(´・ω・`)「あいつ馬鹿だよなあ。
主人公にさせられた本人ならまだ信じてくれたかもしれないけど、
何も知らない家族がそんなファンタジーな話を信じるわけないよね」
少年の家族からすれば、質の悪いイタズラにしか思えなかった。
突然やって来た男に本が生きているだの何だの説明されたところで、誰が信じよう。
腹を立てた父親に、内藤とショボンは追い出されてしまった。
- 693 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:32:34 ID:SF4WZnJQO
だが。
(´・ω・`)「けれど、1人、ブーンのことを信じてあげる人がいた。
少年の兄さ。彼はわざわざ僕らを追ってきて、言ったよ。
『弟が人を殺そうとする筈がない、本の仕業なら納得出来る』ってね」
ζ(゚、゚*ζ「……それで、どうなったんですか?」
(´・ω・`)「せめてもの詫びとしてお金を出そうとしたブーンを、彼は力一杯殴った」
(´-ω-`)「――『金なんかいらない。
そんなものを出すより、弟を救ってほしい。
人殺しになってしまった弟を救ってほしい』……」
「あんたらのせいで弟は」。
「小説なんて書かなければ」。
「絶対に許すもんか」――。
泣きながら殴り続ける彼に、内藤は、否定も抵抗も出来なかった。
ζ(゚、゚;ζ「なっ……そ、そんなこと内藤さんに言ったって……!」
(´・ω・`)「僕は当たり前の反応だと思ったよ。
本さえなければ、少年は事件を起こさず、平穏に暮らしていけた。
少年に殺された被害者もね」
- 694 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:38:38 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「……だっつうのに、君ときたら……。
何もかも受け入れて、まったく拒絶しない。
それどころか自分から首を突っ込んでくる始末」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさんだって、恐がらずに内藤さん達と関わってるじゃないですか」
(´・ω・`)「お金になるからね」
ζ(゚、゚;ζ(うわあ生々しい答えをあっさりと)
(´・ω・`)「――分かんないなあ、君は」
ζ(゚、゚;ζ「あうっ」
ぐしゃぐしゃ、頭を撫でられた。
存外優しい手つきで心地いい。
しばらくすると満足したのか、ショボンが改めて歩き出し、
デレも髪を手櫛で直しながら後に続いた。
- 695 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:40:13 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「魚だっけ」
ζ(゚、゚*ζ「……はい。あ、こっちです」
鮮魚売場。
魚を選ぶふりをして、デレは考え込む。
恐怖、は、まったく感じないわけでもない。
ただ、それを上回る何かがあるだけ。
「何か」の正体はすぐに判明する。
デレは、隣にいるショボンの顔を見上げた。
(´・ω・`)「うん?」
ζ(゚、゚*ζ「……好奇心とか、興味が、あって」
「何か」の正体なんて、そんなもの。
不可思議な現象や内藤達への興味。
恐怖に勝る好奇心。
前置きも説明もなしに、デレは答えのみを口にする。
それでもショボンはしっかりと理解したようだった。
- 696 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:42:12 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「ふうん、そう。好奇心。殺される猫タイプだね」
ζ(゚、゚;ζ「うっ……」
度が過ぎた好奇心は厄介でしかない。
興味の赴くままに出した手が、思いがけず深い事情に触れかける。
そうして、より一層興味が膨れ上がっていく。
たとえば、以前訊ねたツンの苗字のことだとか。
自分なんかが踏み込んでいい問題ではないと分かっていても、気になるものは気になる。
かといって、いざ真実を暴いてしまったら、
どこかに何かしらの不利益が生まれるかもしれない。
ζ(-、-;ζ(でも、好奇心抑えるのも難しい……)
――デレの葛藤が顔にも表れていたのだろうか。
ショボンは苦笑いしながら、言った。
(´・ω・`)「……知りたいものは、調べればいいよ」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
(´・ω・`)「あいつらのことだ、『知ろうとするな』『調べるな』とは言ってないんだろ。
実際、知られること自体には、さしたる抵抗感を持ってないみたいだし」
- 697 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:45:21 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「絶対に知られたくないなら、君に事実を匂わせるような発言をする筈がない。
そもそも本や作家のことを正直に話すわけがない。そうだろ?」
ζ(゚、゚;ζ「……でも……」
(´・ω・`)「知られても構わない、でも自ら積極的に話すつもりもない。
そういうスタンスなんだよ、あいつらは。
だから、知りたきゃ調べなさい。調べ方は自分で考えてね」
さらりと言い放ち、ショボンは魚へ目を落とした。
値段を指でなぞりながら、ああ、と呟く。
(´・ω・`)「ただし、全てを知っても――否定はするなよ」
ζ(゚、゚*ζ「……?」
- 698 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:48:20 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「拒絶はいい。けれど、彼らの生き方を否定するのだけは、僕が許さない」
ショボンがデレを見る。
彼の瞳に、デレは、言いようのない冷たさを感じた。
しかしそれも一瞬のこと。
ショボンは笑うように息を吐き出した。
(´・ω・`)「あと、誰彼構わず言い触らすのも駄目だ。
ブーンだって、本や図書館について説明する相手はちゃんと選んでるらしいから」
ζ(゚、゚*ζ「……私は選んでもらえたんですね」
(´・ω・`)「そうだね。馬鹿っぽくて何でも信じそうだったからじゃないかな」
ζ(゚、゚;ζ「そんな理由!?」
(´・ω・`)「信じそうにない人に説明したって意味ないでしょ。
ああ、事情を知った上で強請ってきそうな輩とかにも話さないようにしてたかな」
ζ(゚、゚;ζ「ゆすり……むむむ、そんな人もいるのか……」
(´・ω・`)(そんな輩の栄えある1人目が僕なわけだが)
- 699 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:52:54 ID:SF4WZnJQO
世の中には悪い人もいたもんだと心中で呟いたデレ。
はたと思い至り、口元を緩ませた。
(´・ω・`)「……何」
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん、本当は内藤さん達が心配だったから
私にあんな話をしたんでしょう」
(´・ω・`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫ですよ。私、内藤さん達に悪さなんかしませんし、
嫌いになんかなりませんからね」
(´-ω-`)「――言ってなさい」
ぷいとショボンが顔を逸らす。
どうやら図星だったらしい。
デレは、くすくす、声を抑えて笑った。
*****
- 700 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:55:01 ID:SF4WZnJQO
夜。流石家、リビング。
時計の針は9時半を示そうとしている。
l从-∀-ノ!リ人「ふわあ……」
(´<_` )「妹者、ソファじゃなくてちゃんと2階で寝ろよ」
l从-∀・ノ!リ人「はあい……おやすみなさいなのじゃー」
( ´_ゝ`)「おやすみー」
(´<_` )「おやすみ」
寛いでいる兄者と弟者に挨拶をして、
小学生の妹――流石妹者は寝室のある2階へ上がっていった。
妹者は両親と共に寝るのが常だ。
それから30分程が過ぎ、風呂から上がった姉がリビングに入ってきた。
シャンプーの香りが漂う。
姉、流石姉者は冷蔵庫から取り出した紙パックの牛乳に直接口をつけた。
- 701 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:55:34 ID:SF4WZnJQO
∬´_ゝ`)「あんたら、まだ起きてたの」
( ´_ゝ`)「まだ10時だぞ姉者。大学生が寝るには早い」
(´<_` )「俺はもう眠くなってきたんだが……」
(;´_ゝ`)「そう言わずに! 一緒に夜更かししようぜフッフゥー!!」
∬´_ゝ`)「無駄にテンション高いわねえ。あんたも眠いんでしょ」
(;´_ゝ`)「そそそそんなわけないだろう小学生じゃないんだから」
(´<_` )「嘘つくの下手すぎるぞ」
厳しい母親の躾により、流石家の子供達には
規則正しい生活習慣が染みついているのである。
いつもならば今は寝るための準備を始めている時間だ。
だが、寝たくない。
夢を見たくない。
(´<_` )「ああもう、俺は寝る」
(;´_ゝ`)「まあまあ待て待て。そうだゲームをしよう。夜更かしは楽しい――」
そのとき。
凄まじい殺気が、兄者の背中を這った。
- 702 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:56:06 ID:SF4WZnJQO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「……夜更かし?」
(;´_ゝ`)「ぎゃぴぃいいいいい!!」
母親だ。
一介の主婦とは思えぬ、逞しい体躯を誇る流石母者。
ごきり、彼女の拳が鳴った。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「もうガキじゃないからね。何時に寝ようと構いやしないが……。
あんたは、夜更かしした分だけ寝坊するじゃないか」
(;´_ゝ`)「はい分かってますごめんなさい母者ごめんなさい」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「明日も大学があるだろ」
(;´_ゝ`)「あります1限目から講義入ってますごめんなさい」
- 703 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:56:50 ID:SF4WZnJQO
@@@
@#_、_@
( ノ`)
(;´_ゝ`)
@@@
@#_、_@
( ノ`)「――とっとと寝な」
(;´_ゝ`)「はい寝ます、すぐ寝ます!」
立ち上がる兄者。
弟者と姉者が、呆れたような顔を向けた。
∬´_ゝ`)「まったく。夢が恐いから寝たくないなんて、子供じゃないんだから」
(;´_ゝ`)「むぐ」
2人には、既に夢について話している。
あまり真剣に取り合ってはくれなかったが。
- 704 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:58:31 ID:SF4WZnJQO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「夢?」
(´<_` )「毎日変な夢を見るんだと。自分じゃない人間になる夢。
別に化け物だとかが出るでもないのに怯えてるんだ」
(;´_ゝ`)「お前ら、他人事だから馬鹿に出来るんだ。
あんな暗い夢を毎日見るのは辛いぞ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ふうん」
馬鹿にされるかと思ったが、意外にも母者は心配してくれたらしかった。
兄者の頭を乱暴に撫でる。脳まで揺れるんじゃないかという勢いで。
- 705 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:59:36 ID:SF4WZnJQO
(;´_ゝ`)「あぶあぶあばば、目眩すりゅっ!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「睡眠で疲れるとは厄介だね」
∬´_ゝ`)「お酒飲んでから寝てみたら?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「馬鹿、まだ未成年だよ」
(´<_` )「酒は来年までお預けだな」
兄者から手を離し、母者が踵を返す。
おやすみ、と告げて、リビングを出た。
∬´_ゝ`)「……今日だけは夜更かし見逃してくれるみたいね」
(´<_` )「どうする兄者、俺は寝るが」
( ´_ゝ`)「……ううむ」
- 706 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:00:00 ID:l4uuBHBIO
先程まで母者に撫でられていた頭に自分で触れる。
撫でられるなど何年ぶりだろう。
あの母者の手なら、悪夢ぐらい握り潰してくれそうだなと、兄者は笑った。
( ´_ゝ`)「そうだな、俺も寝るとする」
*****
- 707 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:01:23 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)
――関ヶ原デルタ。
兄者が夢の中でなりきる男の名前。
歳は31。サラリーマン。
あまり交流を好む方ではない。
会社に行き、ただひたすら仕事をこなして、業務が終われば家に帰り、寝る。
それだけの日常。
今日も上司に叱られた以外には、ろくに他人と会話も交わさずに一日を過ごした。
さて、家に帰らなければ。
( "ゞ)
電車に揺られる。
隣の酔っ払いから酒の臭いがした。
- 708 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:02:31 ID:l4uuBHBIO
(゚、゚#トソン
――帰宅すると、憤慨している妻に開口一番愚痴られた。
近所の主婦と喧嘩をしたとのことだった。
恋人だった頃は、物静かで、冷静な人だったのだが。
3年前に結婚してから、感情の起伏が激しくなった気がする。
昔は猫を被っていたのだろうか。
適当に宥めすかし、空腹を訴えてみた。
冷凍食品があるから温めろ、とぞんざいな返事。
デルタが抱いた不満を感じ取ったようで、
こっちだって疲れているのだと怒鳴られた。
言い返す勇気も気力もない。
曖昧に頷いて、デルタは冷蔵庫を開けた。
食事を済ませたら入浴。
寝間着を着て、ベッドに潜る。
いつ限界が来るのだろうと、ぼんやり思う。
妻との間に、愛情はとっくに消え失せている。
*****
- 709 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:04:19 ID:l4uuBHBIO
跳び起きた。
手を見て、頬に触れる。
ああ。良かった、自分は流石兄者だ。
(;´_ゝ`)「あー……」
またあの夢を見てしまった。
いい加減にしてほしい。
絞り出すような声で呻くと、頭上から、ぎしりとベッドが軋む音がした。
(´<_` )「ん、おはよう兄者」
(;´_ゝ`)「おはよう……」
二段ベッドの上段から弟者が下りてくる。
兄者の顔色が悪いのに気付き、弟者は眉根を寄せた。
(´<_` )「またか?」
(;´_ゝ`)「まただ……」
(´<_` )「ふむ。何が原因なんだろうな」
- 710 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:05:24 ID:l4uuBHBIO
顎に手をやり、弟者が「ううん」と唸る。
兄者には原因の見当がついている。
だが、正直に話すのは躊躇われた。
弟者も姉者も、非現実的な話を好まない。
本を拾ったせい、と言ったところで、鼻で笑われるのがオチだ。
適当に誤魔化すとする。
( ´_ゝ`)「原因が分かったら苦労はしないっつの」
(´<_` )「まあ、たしかにそうか」
弟者がカーテンを開く。
差し込む明るさに、兄者の胸が少し晴れた気がした。
- 711 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:06:15 ID:l4uuBHBIO
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ふうむ、夢かあ……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「また見たのかい」
リビング。家族6人で食卓を囲む。
姉者が話題に出したのをきっかけに、結局、夢の内容は皆の知るところとなった。
焼き鮭をほぐしながら、父親である流石父者が問いかける。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「夢を見始めてからどれぐらい経つ?」
( ´_ゝ`)「3ヶ月くらいだと思うが」
l从・∀・ノ!リ人「3ヶ月間、毎日なのじゃ?」
( ´_ゝ`)「見始めた頃は特に意識してなかったから、あまりはっきりしないが……
多分毎日だな」
(´<_`;)「そんなに長かったのか? 聞いてないぞ」
∬´_ゝ`)「そりゃあ嫌にもなるわねえ」
- 712 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:07:31 ID:l4uuBHBIO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「何かストレスが原因かね」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者がストレスなんて感じる筈ないのじゃ」
(;´_ゝ`)「え? 妹者それどういう意味?」
(´<_` )「そのまんまの意味だろ」
∬´_ゝ`)「そういえば……夢の中じゃ、くたびれきったサラリーマンなんでしょ?
もしかして父者を毎日見てるせいじゃないかしら」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ええっ!?」
(;´_ゝ`)「父親と長男の扱い悪いよこの家!!」
騒がしくなる食卓。笑いが起こる。
家族との触れ合いが兄者をほっとさせてくれた。
夢の中の食事は、あまりにも寂しかったから。
- 713 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:09:20 ID:l4uuBHBIO
( ´_ゝ`)「行ってきます」(´<_` )
@@@
@#_、_@
( ノ`)「はい、行ってらっしゃい」
登校のため、兄者と弟者は家を後にする。
並んでのんびり歩いていると、通りすがりのご近所さん達が声をかけてくれた。
その都度挨拶を返しながら大学へ向かう。
この、明るくて爽やかな時間が好きだ。
( ´_ゝ`)「寒いな、弟者」
(´<_` )「もう12月だしな」
関ヶ原デルタは重い足を機械的に動かして出勤する。
気になるものがあったら速度を緩めたり、
何の気無しに足を速めたりする兄者とは、まったく違う。
- 714 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:10:07 ID:l4uuBHBIO
( ´_ゝ`)(けど、俺も社会人になったら、あんな風に変わっちまうのかな)
――姉者は、夢の原因は父者ではないかと言った。
勿論冗談のつもりだっただろう。
だが、兄者は心の隅で納得していた。
自由や余裕のある、ゆったりした今を失うのは嫌だ。
それへの恐れが夢に現れていると思えば、いかにも「それっぽい」。
本など関係なかったのかもしれない。
考えている内に大学に着き、友人達と合流する。
あまり友人は多くないが、誰も彼も気のいい者ばかりだ。
くだらないふざけ合いが楽しい。
*****
- 715 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:11:48 ID:l4uuBHBIO
――退屈な講義をやり過ごし、昼食をとり、午後の講義も適当に流して。
夕方。
流石兄弟は大学を出て、暗くなった空を見上げた。
( ´_ゝ`)「冬ともなると、日が落ちるのが早いな」
(´<_` )「だなあ」
( ´_ゝ`)「……ううう、寒い。とっとと帰るぞ弟者」
早足になりながら、帰路につく。
大学と我が家はあまり遠くない。
――しばらく歩き、家の近く、ごみ捨て場の前に差し掛かったとき。
街灯に照らされたごみ捨て場を見た兄者は、足を止めた。
しゃがみ込み、そこに転がる目覚まし時計を拾い上げる。
またか、という顔をして、弟者が溜め息をついた。
- 716 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:12:37 ID:l4uuBHBIO
(*´_ゝ`)「おお……! 弟者、これまだ使えるぞ。動いてる動いてる」
(´<_` )「だからって拾うなよ。うちには充分な数の時計があるぞ」
(*´_ゝ`)「だが、こいつだってまだまだ働けるのに
こんなところで人生……時計生? を終えたくなかろうて」
(´<_` )「また無駄なもの拾って帰って、母者に怒られたいか?」
(;´_ゝ`)「あ、それは嫌です……」
(´<_` )「じゃあ時計置きなさい」
(;´_ゝ`)「はい……ああ勿体ない……」
兄者には、妙な癖があった。
道端に捨てられている――あるいは落ちている――物を拾う癖。
インクが残っているボールペンや壊れていない玩具などはともかく、
用途も使い方も不明なガラクタまで拾うものだから始末に負えない。
拾うだけ拾って、押し入れに放置された品々が大量にある。
- 717 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:15:00 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「ったく……」
(´<_` )「……。……ん、兄者」
( ´_ゝ`)「え、何? やっぱり拾っていい?」
(´<_` )「駄目だ。――オカルトじみた話で少々恥ずかしいんだが、聞いてくれ」
(;´_ゝ`)「やめろよ……暗いときに怖い話やめろよ……」
(´<_` )「例の夢を見始めた日の前後に、何か拾わなかったか?」
ぎくり。兄者の肩が小さく跳ねる。
弟者の言いたいことは、すぐに理解出来た。
何かいわくつきの物を拾ったのではないか、と。
( ´_ゝ`)「……本」
(´<_` )「本?」
( ´_ゝ`)「ある本を拾ったんだが……、その頃から、夢を見るようになった……筈」
(´<_` )「何と。もしかして原因はそれじゃないか?」
- 718 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:16:10 ID:l4uuBHBIO
拍子抜けした気分だ。
信じてもらえないだろうと黙っていたことを、弟者があっさり口にしたのだから。
(´<_` )「まあ、本が原因じゃない恐れもあるが……。
可能性があるなら、たしかめてみるのもいいだろう」
(*´_ゝ`)「ああ、たしかめよう!」
(´<_`;)「うおっ」
弟者の手を引き、兄者は走り出した。
すぐそこに見えていた我が家に飛び込み、階段を駆け上る。
廊下で妹者とすれ違った。
l从・∀・ノ!リ人「おかえりなさいなのじゃー」
(*´_ゝ`)「ただいま!」
(´<_`;)「お、おう、ただいま」
自室に入り、本棚の前にしゃがみ込む。
漫画に小説――何冊かは道端で拾ったもの――を、ひたすら引っ張り出した。
- 719 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:18:12 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「で、どれだ?」
(*´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
すべての本を出し終えた兄者は、その手を止めた。
兄者の顔を弟者が覗き込む。
(´<_` )「兄者?」
( ´_ゝ`)「……どれが、いつ拾ったやつなのか区別がつかない……」
(´<_` )
( ´_ゝ`)「それどころか、拾った本と買った本の区別もつかん……」
(´<_` )「心の底からがっかりしたわ」
弟者の冷ややかな声は、案外心にきた。
- 720 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:23:27 ID:l4uuBHBIO
――全員が帰宅して、夕飯の時間を迎える。
今日はおでんだ。
分からないものは仕方がない、と、兄者は本に関して考えるのは諦めた。
皆に相談しても、物を拾う癖を叱られるだけだろうし。
何より、姉者の言う「父者原因説」が一番正解に近いのではないかと
先程、兄者と弟者の意見が一致した。
ともかく今は、目の前の鍋しか眼中にない。
(*´_ゝ`)「寒い日には温かい鍋だよな!」
l从・∀・*ノ!リ人「玉子食べたいのじゃ、玉子ー」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「はいはい、火傷するんじゃないよ」
(´<_`*)「あったまる……」
∬´_ゝ`)「昆布はこんなに黒々してるのに……」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あ、頭見ながら言わないでよ!!」
- 721 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:25:30 ID:l4uuBHBIO
食事を済ませた後は、皆でテレビを観たり取り留めのない会話を交わして過ごした。
それから風呂に入り、歯を磨き、自室へ行き。
弟者と2人で明日の講義の確認をし終えると、
彼らは電気を消し、それぞれのベッドへと潜った。
(´<_` )「今日は普通の夢だといいな」
( ´_ゝ`)「だなあ。なるべく父者を視界に入れないようにしたし」
(´<_` )「その発言だけ聞くと父者可哀相で仕方ないな」
( ´_ゝ`)「んじゃ、おやすみ」
(´<_` )「ああ、おやすみ」
*****
- 722 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:26:10 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)
――何だ。また夢だ。
また、関ヶ原デルタだ。
出勤。
仕事。
残業。
帰宅。
食事。
入浴。
同じ。毎日毎日。同じ。
退屈、憂鬱、慢性化した絶望。
( "ゞ)
……早く寝てしまいたい。
*****
- 723 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:27:54 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「兄者」
( ∩_ゝ`)「うあ」
目を覚ます。右目に違和感。
――違和感の正体は、自分の右手だった。
何故だか目を覆っている。
指を動かすと、水に触れた。
水。涙。
袖で目元を擦り、身を起こす。
ベッドの脇で弟者が屈んでいた。
(´<_` )「うなされてたぞ」
( ´_ゝ`)「……」
手を見る。顔に触る。
流石兄者だ。だけれど。
「関ヶ原デルタ」の名残が、全身を包んでいる。
起床してから1分。未だ取り戻せない、自分。
焦燥と疑問が襲い来る。
- 724 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:28:53 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「兄者ー、寝ぼけてんのかー」
( ´_ゝ`)「弟者」
(´<_` )「何だ?」
( ´_ゝ`)「……俺、本当に流石兄者なのか?」
(´<_`;)「は?」
――あんな絶望感が、ただの夢?
あんな沈みゆく気持ちが、夢だというのか。
ひどくリアルな感覚なのだ。
どこかふわふわして、けれども体と頭はずしりと重い。
(;´_ゝ`)「違うのか? 兄者だよな? なあ!?」
弟者はぽかんとしていたが、問いかける兄者の声と表情があまりにも必死で。
言葉で返すより先に、頷いた。
- 725 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:30:37 ID:l4uuBHBIO
(;´_ゝ`)「……そうだよな……」
(´<_` )「あんたは、流石兄者だよ。
流石家の長男で、大学生で、俺の兄だ」
弟者の言葉を聞きながら、息を吐き出す。
胸中で渦巻いていた不安が、ゆっくりと抜けていった。
- 726 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:30:55 ID:l4uuBHBIO
l从・∀・ノ!リ人「行ってきまーす、なのじゃ!」
朝食を食べ終え、父者と姉者が出勤する。
続いてランドセルを背負った妹者が兄者達に手を振った。
兄者と弟者は、今日は午後からの講義しか入っていない。
( ´_ゝ`)「おう、行ってらっしゃい」
(´<_` )「行ってらっしゃい妹者」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「気を付けるんだよ」
l从・∀・ノ!リ人「はーい!」
*****
- 727 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:31:50 ID:l4uuBHBIO
――VIP図書館。
内藤は食堂で1人、腕を組んで俯いていた。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ブーン」
( ^ω^)「ああ、ツン」
そこへ、食堂の扉を開けてツンが現れた。
内藤を探していたのか、見付けた、と呟く。
ξ゚听)ξ「何か飲む?」
( ^ω^)「今は遠慮しとくお」
ξ゚听)ξ「そう。……何か考え事?」
( ^ω^)「明日、例の『主人公』のところに行こうかなと」
ξ゚听)ξ「でぃの本の」
( ^ω^)「だお。ただ、どうやって話しかけたもんかお……」
- 728 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:32:28 ID:l4uuBHBIO
ξ゚听)ξ「そもそも、その人の顔とか分かってるのかしら」
( ^ω^)「ああ、それはショボンが描いた似顔絵があったから平気」
ξ゚听)ξ「ショボンの。じゃあ大丈夫ね」
内藤がメモ用紙の一枚をツンに渡した。
写真のように――は言い過ぎとしても、
やたら写実的な似顔絵が用紙の中央に描かれている。
( ^ω^)「んんん。いきなり『変な夢見てませんか』と訊くのは駄目だおね。
怪しまれて逃げられるかも……」
ξ゚听)ξ「……」
ξ゚听)ξ「じゃあ、こんなのはどう?」
*****
- 729 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:33:46 ID:l4uuBHBIO
翌日。昼。高校の図書室。
デレは、弁当の包みを開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「いただきまーす」
彼女の他には誰もいない。
司書のアサピーは、奥の司書室で仕事をしている。
まずは玉子焼きに狙いを定めた――と、同時。
o川*゚ー゚)o「ここにいた!」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、キュートちゃん」
素直キュートが、図書室の入口から飛び込んできた。
弁当箱とペットボトルを手にして、デレのもとに駆け寄る。
向かいに座っていいかと訊かれたので、頷いて返した。
- 730 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:36:06 ID:l4uuBHBIO
o川*゚ー゚)o「一緒に食べていい?」
ζ(゚ー゚*ζ「勿論」
わざわざ図書室に来てまでデレと昼食を共にするとは珍しい。
キュートなら一緒に過ごす友人がいくらでもいるだろうに。
いただきます、と呟くキュートを前に、デレは首を傾げた。
ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたの?」
o川*゚ー゚)o「ん?」
ζ(゚ー゚*ζ「いや、何か私に話があるのかなって」
o川*゚ー゚)o「……」
フォークを持つキュートの手が、止まった。
- 731 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:36:45 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚ー゚*ζ「?」
o川*゚−゚)o「……ねえ」
ζ(゚ー゚*ζ「なあに?」
o川*゚−゚)o「あの……図書館にさ、住んでるんでしょ?
な、内藤さん……とか」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
o川*゚−゚)o「……あの人達って、何なの?」
ζ(゚、゚;ζ「何なの、と言われても……あまりにも漠然とされると、どうにも」
o川;゚−゚)o「あ、ええと、んっと……」
o川;゚−゚)o「な、何でもない……」
何でもないことはないだろう。
別の話題を探し始めたキュートに、今度はデレの方から訊ねてみた。
明朗なキュートがこんな風に口ごもる理由など、「あれ」ぐらいしか思いつかない。
- 732 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:38:02 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「クックルさんと何かあった?」
o川;*゚д゚)o「うえっ!?」
キュートのフォークが勢いよくトマトに突き刺さった。
貫通するほどの力だったようで、かつん、と音が鳴る。
o川;*゚ー゚)o「え? な、何? 何で? 何でそこでその人が出てくるわけ?
や、そりゃ……関係ないわけでもないけど……ないけど……」
o川;*゚ー゚)o「ないけども!
だからって私があの人のこと気にしてるみたいに思わないでよ!?」
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃんトマト! トマトグロい!!」
必死に言い訳しながら、照れ隠しなのか何なのか、
キュートは何度もフォークを上下に振った。
めった刺しにされたトマトはもはや原型を留めていない。地獄絵図だ。
- 733 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:39:48 ID:l4uuBHBIO
o川;*゚ー゚)o「ただ、た、たとえ両想いだとしても私が泣くだけだ、って
あの髪の長い……貞子さんだっけ、あの人が言うから、
どういう意味なのかなって……」
ζ(゚、゚;ζ「――え?」
o川;*゚ー゚)o「ていうか両想いとか! 何言ってんだろうね!
私がクックルさんを好きになる筈……な、ないしね……? 本当に……。
あの人だって私なんかに興味ないっぽいしさ……うん……」
ようやくキュートの手と口が止まる。
何故かキュートが涙目になっているのは無視しておくとして、
デレは弁当に視線を落とし、先程の発言を反芻した。
キュートとクックルが両想いだとしても、キュートが泣くだけ。
何故、泣く羽目になるのか。
- 734 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:40:55 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「……」
恋愛禁止だとは聞いていない。そんなものを設ける意味もない。
いや、もしかしたらデレには分からぬような理由があるのかもしれないが、
だとするならば事前に釘を刺されそうなものだ。
――考えるための材料が足りない。
今の段階でどれだけ思案しても、「これだ」という答えは出ないだろう。
調べなければ。
ショボンの言うように。
と、いっても。
ζ(゚、゚;ζ(……どうしたらいいんだろう)
根本的なところから解決しないことには始まらない。
デレは、深々と溜め息をついた。
*****
- 736 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:42:31 ID:l4uuBHBIO
昼休みになった。
食堂に行こうかと思ったが、ここの食堂で出される料理はあまり美味くない。
駅前の定食屋に決めた。
雑踏の中を進む。
目的の店が見えてきた。
財布の確認をする――
「――流石兄者さん?」
呼び止める声が耳に入り、立ち止まった。
何だ。
所詮、夢は夢か。
こういうところで詰めが甘い。
- 737 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:43:39 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)「……はい?」
まったく、今は「関ヶ原デルタ」だというのに。
目の前に、スーツ姿の男と綺麗な少女がいた。
微かに、バニラに似た匂いがする。
スーツの男が満足そうな笑みを浮かべた。
( ^ω^)「ちょっとお話が」
*****
- 738 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:45:44 ID:l4uuBHBIO
――3ヶ月前。
調査対象の近所へと聞き込みに来たショボンは、
道を歩くサラリーマンらしき男に声をかけた。
平日の真昼である。
セールスか何かのために来たのかと思ったが、この辺りに住んでいるのだと言う。
体調が悪く、会社を早引けしたそうだ。
(´・ω・`)『はあ、それはそれは』
( "ゞ)『最近、寝ても疲れがとれなくて』
(´・ω・`)『あまり眠れない?』
( "ゞ)『いえ……毎日毎日、妙な夢を見るんです。
流石兄者、という人間になって、いたって普通の生活を送る夢なんですが』
- 739 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:46:50 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)『とても感覚がリアルで……しかも楽しい夢なもんですから、
目が覚める度、こっちの現実が嫌になって仕方ありません』
(´・ω・`)『さすがあにじゃ。ふむ。原因に心当たりは?』
( "ゞ)『……信じてもらえないと思います。あまりに馬鹿馬鹿しくて』
(´・ω・`)『信じますよ。友人のせいで、非現実的なことには慣れた身です』
サラリーマンは渋ったが、ショボンが「気になるんです」とせがむと、
恐々といった様子で話し始めた。
( "ゞ)『本を、拾ったんです。道端で。綺麗な表紙だったから気になって。
で、その本……手書きの小説だったんですが、主人公の名前が、その、』
(´・ω・`)『さすがあにじゃ?』
( "ゞ)『……はい。
しかも僕が見る夢の所々で、その本と同じ展開になるんです。
夢自体は明るいものですが、もう気味が悪くて悪くて……』
その上、本を捨てても、気が付けば手元に戻ってきているのだから堪らない。
日を追って、夢の感覚は現実に近付いてくる。
また、「流石兄者」の生活の方が充実しているためか、今の現実が希薄に思えてしまう。
いつか夢と現実が逆転するのではないかと不安だ、と。
そこまで語ったサラリーマンは、はっとして首を振った。
- 740 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:47:43 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)『あ、あの、すみません、こんな話……。
誰も信じないだろうと、ずっと黙ってたものですから――』
(´・ω・`)『……その本について、詳しく教えてくれませんか?』
(;"ゞ)『え?』
(´・ω・`)『作者やタイトル、あらすじなんかも、よろしければ。
出来ればあなたの名前も』
(;"ゞ)『……どうして』
(´・ω・`)『――友人の、探し物に似ているんです』
*****
- 741 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:49:21 ID:l4uuBHBIO
関ヶ原デルタ――と、ショボン――以外に知る筈のない「流石兄者」の名前を出せば、
向こうも関心を持って話を聞いてくれるのではないか。
昨夜ツンが提案したのは、そんな方法だった。
その通りに声をかけてみると、作戦は見事成功を収める。
とりあえず名刺を渡して自己紹介をし、
近くにあったファミリーレストランで話をすることにした。
( ^ω^)「どうぞ、お好きなものを頼んでくださいお。
支払いはこちらで負担しますから」
( "ゞ)「……はあ」
デルタはカレーライスを注文した。
内藤はハンバーグ、ツンは海老ピラフ。
料理が運ばれてきてからしばらくは、本のことは話さず、
世間話などをして食事を進めた。
デルタの緊張や警戒を解くためである。
頃合いを見計らい、内藤はハンバーグを切りながら本題へと移った。
- 742 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:51:56 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「ええと、流石兄者さん、もとい関ヶ原デルタさん」
( "ゞ)「はい」
( ^ω^)「僕は名刺に書かれた通りの人間ですお」
( "ゞ)「館長さん、ね」
内藤とツンは、互いに目配せした。
「何故名前を知っているのか」「図書館の館長が何の用で来たのか」。
通常なら、こういった疑問をぶつけられて然るべきところだ。
しかしデルタからは、それが一向にない。
理由は大体想像がつく。
今まで出会ってきた、でぃの本に引っ掛かった「主人公」達に度々見られた反応。
――現実の方を、夢だと錯覚しているのだ。
長期間にわたって夢と現実を行き来する内、
古い記憶が混ざり合い、どちらが夢か、どちらが現実かの区別が曖昧になる。
そうして、いつの間にやら認識が逆転する。
故に、納得出来ないことや変なことが起きても「夢だから」で済ませてしまう。
今のデルタもきっとそうなのだろう。
あるいは単に、内藤達へ強い関心を抱いていないだけ。
出来れば後者なら面倒が少なくていいのだが。
- 743 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:53:37 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「率直に訊きますお。
――この世界は、現実ですかお? それとも夢?」
( "ゞ)「夢だろ」
即答。
厄介な方だった。ツンが溜め息をつく。
内藤は「あーあ」という顔をして、水を一口飲んだ。
もう一つ質問をしなければいけない。
とっくに解放されているのに未だ夢だと錯覚しているのか、まだ演じさせられているのか、
もしもそうならばあとどれくらいで終わるのか。
これらを判断するための質問。
( ^ω^)「じゃあ、関ヶ原さん……兄者さん」
( "ゞ)「ん」
( ^ω^)「『流石兄者のとき』に、おでんは食べましたかお?」
( "ゞ)「おでん?」
( ^ω^)「おでん」
( "ゞ)「食べたけど」
- 744 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:55:31 ID:l4uuBHBIO
ξ゚听)ξ「……いつ食べました?」
( "ゞ)「んー、昨日かな」
ξ゚听)ξ「『関ヶ原デルタ』で過ごした一日もカウントして」
( "ゞ)「へ?」
( ^ω^)「正確に知りたいので、夢と現実、それぞれを一日として数えてくださいお。
つまり昨日のあなたは流石兄者、
一昨日のあなたは関ヶ原デルタ……となるように」
( "ゞ)「面倒だな……じゃあ3日前ってことになるか」
( ^ω^)「ほう、3日前」
ならば、おでんを食べた夢は、一昨日の夜に見たわけだ。
でぃとニュッから聞いた物語の詳細を思い返し、内藤はガッツポーズをとった。
――何と運がいい。
- 746 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:57:11 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「関ヶ原さん!」
(;"ゞ)「うわっ」
突然大声を出した内藤に、デルタは思わずのけ反った。
ツンは一瞬だけ眉を寄せ、内藤の足を軽く踏む。
( ^ω^)「今から僕が言うことを、『夢だから』って聞き流さないでくださいお。
信じる信じないは自由だけど、覚悟だけはしてほしいんですお」
(;"ゞ)「は、はあ……?」
物語は、おでんを食べた日から2日後を記して終わった。
――つまり今夜。
流石兄者の夢は、終わる。
*****
- 747 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:58:31 ID:l4uuBHBIO
そんな筈がない。
そんな筈がない。
嫌な――夢だ。
- 748 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:00:11 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)「た、ただいま」
妻へ帰宅の挨拶をする。
(゚、゚トソン
彼女はテレビを眺めるばかり。
食欲が沸かない。
昼に食べたカレーライスが、そのまま残り続けているようにさえ思える。
体のあちこちが重い。
部屋から着替えとタオルを引っ張り出し、風呂場へ。
服を脱ぎ捨てて浴室に入る。
シャワーのコックを捻ると、高温のお湯が降り注いだ。
(;"ゞ)(……熱い)
体に当たった瞬間、ぴりりと痛みが走る。
痛い。熱い。
何て生々しい感覚。
(;"ゞ)「……っ」
- 749 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:01:31 ID:l4uuBHBIO
――関ヶ原さん。
――まず、一番大事なことから話しますお。
内藤の言葉。
昼から今に至るまで、ずっと脳内を駆け巡っている。
――流石兄者の世界は夢なんですお。こっちの世界こそが現実――
(;"ゞ)(……はは、何言ってんだか。これは夢だ。夢。夢)
頭を洗っても、体を洗っても、気が紛れない。
冴えきっていく思考。
気持ちが悪い。
風呂を出て、まともに体を拭かないまま服を着た。
リビングの妻に「おやすみ」と告げ、寝室へ駆け込む。
- 750 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:02:33 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)(本……)
内藤は、本がどうのこうのと言っていた、ような。
寝室の奥、本棚の前にしゃがみ込み、何冊かの本を取り出した。
(;"ゞ)(本を拾ったのは流石兄者。関ヶ原デルタは物を拾う癖なんてない。
だから本なんてあるわけ――)
こつん。
ハードカバーに爪が当たる。
- 751 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:03:42 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)
藤色の表紙。
小さな字で書かれたタイトル。
著者名、椎出でぃ。
震える指で、ページをめくる。
手書きの小説。
主人公の名前。
流石兄者。
(;"ゞ)「――夢だ!!」
叫び、本を壁に叩きつけた。
ベッドに潜る。
毛布を頭まで引っ被る。
本を拾ったのは流石兄者。
これは夢。
ここに本があるわけがない。
これは夢。
けれど、もしも内藤の言葉が真実なら?
- 752 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:04:07 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)(『流石兄者』の方が、夢だったのなら……)
ああ。
体中が重い。
胸が潰れる。
息苦しい。
ぎゅっと瞼を閉じた。
布団の中、自分の呼吸の音だけが満ちていく。
*****
- 754 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:05:19 ID:l4uuBHBIO
――明るい。
見馴れた木目。二段ベッド、下段の天井。
(;´_ゝ`)「……」
横たわったまま、顔に触れる。
流石兄者だ。
何だか無性に怠い。
頭がぼうっとする。
部屋のドアが開いた。
(´<_` )「兄者起きろー……って起きてたか」
(;´_ゝ`)「お、弟者」
(´<_` )「朝飯だぞ、早く来い」
弟者に引っ張られ、ベッドから転げ落ちた。
毛布がクッションになり痛みは感じなかったが、
どうしてか動く気になれなくて、身を起こすことが出来なかった。
- 755 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:09:38 ID:l4uuBHBIO
喉が痛む。
風邪?
(´<_` )「……兄者?」
(;´_ゝ`)「朝飯、いらないから……みんなで食べててくれ……」
弟者が訝しげな顔をする。
屈み込み、兄者の額に掌を当てた。
少し熱いな、と呟く。
(´<_` )「大丈夫か?」
(;´_ゝ`)「……多分、大丈夫……」
階下から2人を呼ぶ姉者の声が響いた。
逡巡する弟者に兄者が「早く行け」と手を振ると、
弟者は頷き、部屋を出ていった。
- 756 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:10:10 ID:l4uuBHBIO
ドアが閉まると同時に、兄者は四つん這いになって本棚まで移動した。
体は辛いが、たしかめずにはいられない。
手当たり次第に本を手に取り、凝視する。
(;´_ゝ`)「……ない……」
やはり、例の、藤色の本は見付からない。
(;´_ゝ`)「何でだよ……何でないんだよ!」
すべて確認してみたが、結局、あの本は出てこなかった。
頭を抱え、蹲る。
- 757 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:11:35 ID:l4uuBHBIO
3ヶ月前に本を拾った筈なのだ。
拾って、読んで、本棚にしまった。
読んだ。そう、読んだ。
じゃあ、中身はどうだった?
(; _ゝ )(……あらすじが、思い出せない……)
あらすじ。あらすじ。
――作者やタイトル、あらすじなんかも、よろしければ――
.
- 758 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:12:55 ID:l4uuBHBIO
(; _ゝ )
脳裏に過ぎった声。
ああ。3ヶ月前に会った男の声だ。
八の字眉の、人のよさそうな男。
家の近くで、たまたま会った。
平日の昼。
あのとき、体調が優れなくて、早退――
(; _ゝ )(あ)
――早退?
(;´_ゝ`)(あ、あ……)
兄者は早退なんてしていない。
そもそも、しようがない。
3ヶ月前。9月の頭。
まだ、大学は夏休みの最中だった。
- 759 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:13:53 ID:l4uuBHBIO
早退したのは関ヶ原デルタ。
八の字眉の男と話したのも関ヶ原デルタ。
話の内容は、ああ。
( "ゞ)『最近、寝ても疲れがとれなくて』
(´・ω・`)『あまり眠れない?』
( "ゞ)『いえ……』
毎日毎日、妙な夢を見るんです――
.
- 760 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:14:24 ID:l4uuBHBIO
(;´_ゝ`)「ここ、は……」
この世界は。
夢だ。
.
- 761 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:16:04 ID:l4uuBHBIO
――しばらく経って。
姉者と妹者が、玉子粥を持ってやって来た。
∬´_ゝ`)「具合悪いんですって? そんなとこ座ってないで、ベッドで寝なさいよ」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、おかゆ食べるのじゃー」
姉者は本棚の前で呆然としていた兄者を振り向かせ、毛布を被せた。
妹者と並んで座り、粥を差し出す。
( ´_ゝ`)「……」
手をつけない兄者に焦れたか、妹者はレンゲで粥を掬うと、兄者の口元へ運んだ。
l从・∀・ノ!リ人「はい!」
∬´_ゝ`)「妹者、冷まさなきゃ熱いわよ」
l从・∀・ノ!リ人「のじゃっ。ふー、ふー……おっきい兄者、あーん!」
( ´_ゝ`)「……あーん」
l从・∀・*ノ!リ人「美味しいのじゃ? 母者、急いで作ったのじゃ」
( ´_ゝ`)「うん。……美味いよ」
- 762 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:17:16 ID:l4uuBHBIO
玉子粥を最後に食べたのは、半年前に風邪を引いたときだった。
――半年前。
本を拾ったのは3ヶ月前。
なら、半年前に粥を食べた記憶は、用意された「設定」でしかないのだろう。
∬´_ゝ`)「……本当に元気ないわね」
l从・∀・ノ!リ人「おかゆ食べて、ゆっくり寝るといいのじゃー」
姉者が兄者の頭を撫で、妹者が粥を食べさせる。
粥を飲み込んだところでノックの音がした。
ドアは返事を待たずにゆっくりと開く。
不安そうな表情を浮かべた父者が目に入った。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「兄者、どう?」
l从・∀・ノ!リ人「おかゆは食べてるのじゃ!」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「そっか。辛かったら、早く病院で診てもらいなさい。
仕事行ってくるけど、何かあったら電話して」
∬´_ゝ`)「あら、私も行かなきゃ。兄者、無理したら駄目よ」
再び頭を撫でて、姉者は立ち上がった。
行ってきますという言葉を残し、退室する。
- 763 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:19:03 ID:l4uuBHBIO
兄者と妹者の2人きり。
妹者が粥を掬い、兄者が食べる。
それを何度か繰り返し、粥がすっかり無くなった辺りで、
今度は弟者が部屋に入ってきた。
(´<_` )「妹者ー」
l从・∀・ノ!リ人「何じゃ?」
(´<_` )「遅刻するぞ」
l从・∀・;ノ!リ人「ぬわっ、時間なのじゃ!
ちっちゃい兄者、後はよろしくなのじゃ」
空になった器を抱え、妹者は飛び出した。
かと思えば、ひょいと顔を覗かせる。
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、早く良くなってほしいのじゃ」
( ´_ゝ`)「……うん。すぐ治るさ」
l从・∀・ノ!リ人「うむうむ。
では、行ってくるのじゃ!」
( ´_ゝ`)「行ってらっしゃい」
(´<_` )「気を付けろよー」
- 764 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:20:36 ID:l4uuBHBIO
ドアが閉まる。
弟者は、座り込んでいる兄者を睨み、左手でベッドを指差した。
「さっさと寝ろ」という意味だろう。
浅く頷き、兄者はベッドに横たわる。
( ´_ゝ`)「……弟者、大学は?」
(´<_` )「2限からだから、まだ時間はある」
( ´_ゝ`)「ああ、そうだったな……」
ベッドの隣で胡座をかいた弟者は、散乱する本の数々に顔を顰めた。
散らかすな、と小声で叱る。
( ´_ゝ`)「すまん」
(´<_` )「拾ったとかいう本でも探したか?」
( ´_ゝ`)「……元から、なかったんだけどな」
(´<_` )「?」
首を傾げる弟者に、気にするなと言い捨てる。
寝返りをうち、じっと壁を見つめた。
- 765 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:21:41 ID:l4uuBHBIO
すっかり取り戻した「本」に関する記憶。
物語は、風邪を引いた流石兄者が
家族の優しさや愛情に感謝したところで終わっていた。
最初から最後まで、明るくて暖かい、幸せな家族の話。
関ヶ原デルタは、それが羨ましかった。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「兄者、病院行くか?」
( ´_ゝ`)「……行くほどじゃあない」
(´<_` )「んー……様子見て、きつくなるようなら病院だな」
( ´_ゝ`)「ああ」
- 766 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:23:11 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「そうそう、母者が心配してたぞ。多分、今来ると……」
とん、とん。
ノックの音と「入るよ」という声がして、ドアが開いた。
(´<_` )「ああ、来た来た」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「大丈夫かい、兄者。熱測りな」
( ´_ゝ`)「ん」
薬箱を持った母者が弟者の隣に座る。
手渡された体温計を脇に挟み、兄者は仰向けになった。
腹の上で両手を組む。
数分後、甲高く鳴り響く体温計を抜き取った。
37.3度。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「微熱だね」
(´<_` )「風邪か?」
多分風邪だ、と、母者は薬箱から風邪薬を取り出した。
そのとき、水を忘れていたことに気付く。
- 767 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:25:12 ID:l4uuBHBIO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「水持ってくるよ。――弟者、その散らかってる本、片付けな」
(´<_`;)「俺が? やったのは兄者だぞ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)
(´<_`;)「あ、ごめんなさいやります、はい……睨まないで……」
母者が階下のキッチンへ向かい、弟者が本の片付けを始めた。
本棚に漫画を押し込む弟者に、「悪い」と呟く。
兄者に背中を向けたまま、弟者は首を横に振った。
(´<_` )「後でアイス奢れよ」
( ´_ゝ`)「この寒いのにか」
(´<_` )「寒いからこそ美味いんじゃないか」
( ´_ゝ`)「……まあ同感だ」
弟者が、作者や出版社ごとに本を整頓している。
几帳面だなと、思わず微笑んだ。
- 769 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:26:40 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「……しっかし、まあ……本当に元気ないな兄者」
( ´_ゝ`)「姉者にも言われた」
(´<_` )「いつもなら、この流れになったら
どこそこのアイスが美味いだの何だのと騒ぎ出すだろう。
それが出来ないほど具合が悪いのか?」
( ´_ゝ`)「ああ……うん」
(´<_` )「辛いなら、ちゃんと言ってくれよ」
母者が階段を上がってくる足音が聞こえる。
枕元に置かれた風邪薬のパッケージを、何気なく持ち上げた。
- 770 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:27:37 ID:l4uuBHBIO
( ´_ゝ`)「辛くはないぞ」
ちくり、と。
鼻の奥が、目元が、痛んだ。
( ´_ゝ`)「幸せだ」
目尻からこめかみへ、雫が流れる。
関ヶ原デルタが体調を崩したとき、妻は何をしてくれたっけ。
体も心も苦しかった記憶しかない。
なのに今は。
体は苦しくても、心は満たされている。
どうしてこんなに幸せな世界が、夢なのだろう。
- 771 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:28:21 ID:l4uuBHBIO
――母者が持ってきてくれた水で薬を飲むと、急に眠気が襲ってきた。
抗う間もなく瞼を閉じる。
母者の冷たい手が額に当たる感触を最後に、兄者の意識は沈んでいった。
*****
- 772 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:29:06 ID:l4uuBHBIO
「――あなた。起きてください」
妻の声。
デルタは、目を開いた。
(゚、゚トソン「遅刻しますよ」
( "ゞ)「……あ……」
デルタが起きたのを確認すると、妻は立ち上がり、寝室のドアに手をかけた。
一度、後ろを向く。
(゚、゚トソン「玄関で待ってる方がいらっしゃいますから、早くお行きなさいね」
- 773 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:30:17 ID:l4uuBHBIO
顔を洗い、歯を磨く。
スーツに着替えたデルタが鞄を抱えて玄関へ行くと、
内藤とツンが立っていた。
( ^ω^)「おはようございますお」
ξ゚听)ξ「おはようございます。朝からごめんなさい」
(;"ゞ)「……何で、うちを知ってるんだ」
( ^ω^)「ちょっとばかし、知り合いに調べてもらったんですお。
――ところで少し伺いたいことがあるんですが、いいですかお?」
*****
- 774 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:31:20 ID:l4uuBHBIO
3人でマンションを出る。
入口の近くに車が停めてあった。
内藤が助手席のドアを開ける。
( ^ω^)「会社までお送りしますお。話は車内で」
今や、内藤を疑う気にはなれなかった。
促されるまま、警戒心も抱かず、おとなしく車に乗り込む。
後部座席に女性がいた。
紙パックに入ったココアを飲んでいる。
( ^ω^)「この人が椎出でぃ。あの本の作者ですお」
(#゚;;-゚)) ペコリ
会釈されたので同じように返しておいた。
彼女の隣にツン、運転席に内藤が腰を下ろす。
- 775 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:33:03 ID:l4uuBHBIO
エンジンをかける前に、内藤は藤色の本をでぃに手渡した。
(;"ゞ)「――いつの間に」
( ^ω^)「奥様に持ってきてもらったんですお」
車が動き出す。
程なくして、「風邪は引きましたかお」と内藤が訊ねた。
言葉は足りなかったが、デルタが質問の意味を理解するには充分だった。
彼が知りたいのは、夢の中で風邪を引いたかどうか。
――物語は終わったかどうか。
( "ゞ)「……引いた」
( ^ω^)「薬は?」
( "ゞ)「飲んだ。飲んで、寝た……」
( ^ω^)「で、さっき起きたと。じゃあ終わりましたおね」
- 776 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:34:34 ID:l4uuBHBIO
デルタが頷く。
内藤は、おや、と呟いた。
( ^ω^)「僕らの話、信じていただけたようで」
( "ゞ)「信じたくはなかったよ」
( ^ω^)「……その反応ですと、夢の方が良かったんですかお」
( "ゞ)「……こっちの世界は、嫌いだ」
物語は終わった。
本は今、椎出でぃの手にある。
きっと、デルタが流石兄者になることは二度とない。
( "ゞ)
絶望に身を委ねながら、ずっと、この現実で過ごしていかなければならないのだ。
- 777 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:35:36 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「まあまあ、そう言わず。
関ヶ原さんにはあんなに綺麗な奥様がいるじゃないですかお」
( "ゞ)「……」
( ^ω^)「作り物の家族より、本物の家族を大切にしてあげてくださいお」
本物?
あの、冷淡で、つまらない妻が?
嫌だ。
嫌だ嫌だ。
- 778 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:38:25 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)「……返してください」
( ^ω^)「お?」
( "ゞ)「本――返してください」
ξ゚听)ξ「そういうわけには、」
(#"ゞ)「返せ!!」
(;゚;;-゚)「!」
ツンが言い終えるより先にデルタは体ごと振り返り、でぃへ手を伸ばした。
驚いたでぃが、狭い車中で精一杯距離をとる。
彼女の足元に空の紙パックが落ちた。
デルタの腕を、ツンが両手で掴む。
ξ゚听)ξ「この本はあなたのものではありませんよ」
(;"ゞ)「俺の本だ!!」
(;゚;;-゚)「……」
(;"ゞ)「流石兄者なんだよ、俺は、だ、だって弟者が言った、俺は流石兄者だって――」
- 779 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:41:10 ID:l4uuBHBIO
ξ゚听)ξ「あなたは関ヶ原デルタでしょう?」
(;"ゞ)「違う、流石兄者、だから、……弟者や妹者達がいなきゃ……」
路肩に停車し、内藤は運転席を降りた。
助手席側へ回ってドアを開け、デルタを引きずり下ろす。
尻餅をつく形で倒れた彼は、痛みに顔を歪めた。
(;"ゞ)「っつ……!」
( ^ω^)「話は、もう終わりましたお」
(;"ゞ)「なあ、本、本、返してくれよ……!」
( ^ω^)「関ヶ原さん。どんなに辛くても、夢に縋らず、現実に生きてくださいお。
僕はその方が正しいと思うんですお」
(;"ゞ)「返せ! 俺の……俺の家族を返せよ!!」
もはや、諌める言葉は耳に入らなかった。
ただひたすらに返せ返せと喚き散らす。
通りすがる人々の目を気にしてなどいられない。
- 781 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:42:37 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「……さようなら、関ヶ原さん」
投げるようにデルタへ鞄を渡して、内藤は運転席に戻った。
すぐさま車が走り出す。
遠ざかる。
離れていく。
本が――流石家が。家族が。幸せが。
いなくなる。
(;"ゞ)「……返せよ……返して……」
車が見えなくなっても。
デルタは座り込んだまま、ぶつぶつと呟き続けていた。
*****
- 783 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:43:57 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「――だいぶ依存してたみたいだお。あの人」
ξ゚听)ξ「でぃが書いたにしては、珍しく明るい話だったからね。
夢の中の方が幸せだったのかも」
( ^ω^)「やる瀬ないというか何というか……。……はい、ただいまっと」
図書館の前で車を停める。
ツンは、寝息を立てているでぃの肩を揺らした。
でぃときたら、車に乗れば必ずと言っていいほど居眠りしてしまうのだ。
ξ゚听)ξ「でぃ」
( ^ω^)「でぃー」
(#ぅ;;-゚)「……」
5、6回揺らしたところでようやく目を覚ます。
目元を擦り――でぃは、首を傾げて固まった。
たっぷり10秒後、ぱたぱた、辺りを手で叩き始める。
- 784 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:45:11 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「どうしたお?」
(#゚;;-゚)ノシ
ξ゚听)ξ「?」
ヾ(#゚;;-゚)ノシ
(;^ω^)「……しぃ連れてくるかお」
内藤は早々に諦めた。肩を竦め、図書館を見上げる。
ツンにもでぃの主張したいことは読み取れなかったのだが、
でぃを眺めている内、ある疑問が生まれた。
ξ゚听)ξ「でぃ、本は?」
(#゚;;-゚)σ
「それそれ」とでも言いたげに、でぃはツンを指差し頷いた。
ついでに先程の内藤を真似て、肩を竦めてみせる。
ξ゚听)ξ「……ないの?」
( ^ω^)「え?」
(#゚;;-゚)) コクン
- 785 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:45:49 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「ちょっと……ツン、でぃ、降りてくれお」
内藤がシートの下を覗き込んだり手を突っ込んだりしてみるも、
見付けられたのは、でぃが落とした紙パックだけ。
本は跡形もなく消えていた。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ない?」
( ^ω^)「……ないお」
*****
- 787 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:47:44 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「どういうことなんですか?」
( ^ω^)「勝手に移動したんだお、本が」
夕方。
内藤は、デレに事の顛末を説明していた。
デレと内藤、ツンに加え、しぃとでぃの椎出姉妹もテーブルを囲んでいる。
ニュッは1時間ほど前、アルバイトのために出掛けていった。
彼の不在を知った際にデレが残念そうにしていたが、
彼女自身はそれに気付いていただろうか。
微笑ましいと思う反面、内藤には焦れったくて堪らない。
ζ(゚、゚*ζ「まだ演じ終わってなかったんですかね?」
(*゚ー゚)「そりゃあないね! 主人公は薬飲んで寝たんでしょ?
ニュッちゃんとでぃちゃんが言ってた結末と一致してるもん」
ξ゚听)ξ「2人が話を覚え間違う筈もないしね」
(#゚;;-゚)) コクン
- 788 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:49:08 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「んー……? じゃあ、誰か、過去に本を触った人のところに行ったんでしょうか。
新しい主人公に演じてもらうために」
( ^ω^)「その可能性がないわけでもないけど……。演じてもらって満足した本は、
短くても1ヶ月程度はおとなしくしていてくれる筈なんだお」
内藤はマグカップを持ち上げた。
カップの中でココアが揺れる。
( ^ω^)「だから、多分――関ヶ原さんのところに戻ったんじゃないかお」
ζ(゚、゚*ζ「……もう、終わったんじゃ」
ξ゚听)ξ「終わったけれど、ね」
ツンが、皿に山盛りになっているマシュマロへ手を伸ばした。
苦味の強いココアと甘ったるいマシュマロ。
でぃの好物である。
- 789 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:50:20 ID:l4uuBHBIO
(#゚;;-゚)「……」
( ^ω^)「デレちゃん、あの本達は生きているんだお。最初に話したおね」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
( ^ω^)「生きているから、欲求を覚える。
生きているから――」
内藤はカップを置いて、マシュマロを一つ手に取った。
しばらく、指先で感触を楽しむ。
( ^ω^)「――同情だってするし、誰かを愛することだって、あるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「愛する……?」
( ^ω^)「余程現実が嫌だったのか、夢が幸せだったのか、あるいは両方か……
何にせよ、関ヶ原さんは本の世界を望んでいた」
( ^ω^)「あの本が関ヶ原さんに同情なり愛情なりを抱いていたのなら、
彼の望むままにしてやりたくなるのも、当然だと思うお」
(*゚ー゚)「似たようなのは何度かあったよね。クックルの恋愛小説とか特に」
(#゚;;-゚)) コクン
- 790 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:52:21 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「じゃあ、関ヶ原さんは、また夢を見続けるようになる……のかな」
ξ゚听)ξ「ええ、恐らく。――また同じ3ヶ月間を繰り返させるのか、
彼のために新たな展開を作り続けるのかは、分からないけれど」
ζ(゚、゚*ζ「本の方から関ヶ原さんを見捨てない限り、終わらないんだ……」
(*゚ー゚)「だね。やれやれ。
果たして、その日は来るのかねえ」
しぃの言葉に、内藤は目を伏せた。
きっと、本はデルタの傍を離れないだろう。
( ^ω^)(……僕達のいる『家』に帰るよりも、
関ヶ原さんのもとにいる方を選んだぐらいだから)
あの本にとっての家族は、内藤やでぃではなく。
関ヶ原デルタなのだ。
.
- 791 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:54:15 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「――ハッピーエンドって言えば、ハッピーエンドかもしれないおね」
マシュマロを口に放り、噛み潰す。
ココアの苦味に慣れた舌には、あまりにも甘すぎた。
第五話 終わり
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