- 333 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 21:57:32 ID:oZsWrUTsO
(;゚∋゚)「……ちょっと待て、何をしている」
o川* ー )o「服脱いでるんだよ。見て分からない?」
(;゚∋゚)「ばっ……や、やめろ!」
o川* ー )o「本気では止めないんだね。ほらほら、触ってみて」
(;゚∋゚)「――……っ!」
o川*^ー^)o「ふふっ、……柔らかいでしょ」
番外編 あないやらしや、官能小説
* うそです +
∧_∧ _∧
+ ζ *゚ー゚)^ν^)
n/ \n \n
(((ヨ ) ノ\E) ノ\E)))
(_⌒ヽ ⌒ヽ
ヽ ヘ } ヘ }
ε≡Ξ ノノ `Jノ `J
第三話後編投下しマウス
- 334 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 21:59:09 ID:oZsWrUTsO
<_プー゚)フ『……おう』
(-_-)『……』
ヒッキーが虐められ始めてから、1ヶ月が経った頃だった。
放課後、教室に忘れ物を取りに行ったエクストは、1人きりで佇むヒッキーに遭遇した。
軽く手を挙げて声をかけたが、ヒッキーは頭を小さく揺らしただけだった。
気まずい。
とっとと帰ろうと、エクストは自分の机から目的の忘れ物を取り出して鞄に突っ込んだ。
<_プー゚)フ『……』
<_プー゚)フ『なあ、ヒッキー』
(-_-)『……何……』
<_プー゚)フ『やっぱ、辛い……よな』
(-_-)『……』
ヒッキーが首を傾げる。
(-_-)『……そりゃあ、辛いさ』
<_プー゚)フ『……うん、だよな、ごめん』
(-_-)『殺してやりたくなるよ。あいつら』
- 335 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:00:06 ID:oZsWrUTsO
予想外に過激な言葉。
エクストは、こんなことも言うのかと絶句する一方で、
それはそうだろうなと納得もしていた。
ヒッキーはぶつぶつと呟き始める。独り言にも近い。
(-_-)『そんな度胸なんかないけど……でも、勇気が出たら殺してやるんだ……』
<_フ;゚ー゚)フ『……あー』
聞いていて気持ちのいいものではない。
だが、自分から話を振った手前、無視するのもどうか。
返事のしようもなくて鞄の中を掻き回していたエクストの指に、小さな箱が当たった。
引っ張り出した、それ。
エクストはヒッキーの隣に移動した。
(-_-)『ナイフで刺したら殺せるかな――』
<_プー゚)フ『ヒッキー』
(-_-)『――ん?』
<_プー゚)フ『やる』
差し出した箱。
今朝コンビニで買ったものの、結局手をつけずにいたチョコレート菓子。
- 336 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:00:31 ID:oZsWrUTsO
(-_-)『……何で』
<_プー゚)フ『鞄に入ってたから』
(-_-)『……』
(-_-)『ありがとう……』
最初にヒッキーと会話を交わしたのが、このとき。
それから度々エクストはヒッキーに声をかけるようになった。
――フォックスに脅されるまでの、たった2ヶ月間だったけれど。
- 337 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:01:19 ID:oZsWrUTsO
第三話 あな危なっかしや、サスペンス小説・後編
.
- 338 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:02:17 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ
自室の床に寝転がりながら、エクストは天井をじっと見つめていた。
電気が眩しい。
――昨夜に殺された生徒。フォックスの仲間の1人。
その事件のおかげで、今日は授業もなく、生徒の殆どは朝礼を終えてすぐに帰された。
だが、フォックスとその仲間、エクストの3人だけは学校に残された。
よく行動を共にしていたのだから、何か知っているだろう。
教師と警察の人間にそう問われたが、誰ひとり、答えられる者はいなかった。
心当たりなど皆無だ。
あっても、言えやしない。
<_フ;゚−゚)フ(……ヒッキー……)
もし、可能性として提示された「私怨」が本当に犯行の理由だったのなら。
真っ先に思い至る犯人は、ヒッキー。
あいつにそんな度胸はないと帰宅する際にフォックスは呟いていたが、
エクストは、それに頷けなかった。
- 339 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:03:10 ID:oZsWrUTsO
去年、エクストは聞いてしまっている。
ヒッキーの、フォックス達へ向ける殺意の言葉を。
――勇気が出たら殺してやるんだ――
勇気。ヒッキーが何かをきっかけに後押しされたのならば。
<_フ;゚−゚)フ
首を振り、エクストは起き上がった。
床に手をつくと、かつり、指先から音がした。
<_フ;゚−゚)フ「あ……」
本。フォックスから渡されたもの。
淡黄色のハードカバー、滲んだインク、猫のシルエット。
以前、ごみ捨て場で見たのと同じ。
今のところ、フォックスのもとに勝手に戻ってはいないようだ。
フォックスの下らない冗談だったのでは、とエクストは疑っている。
彼は、時折無意味にしか思えぬような悪戯をする。
<_プ−゚)フ「……まあ、いいか」
無意味なら無意味で、それはいい。
一応言われた通りにはしておこう。
- 340 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:04:05 ID:oZsWrUTsO
本を持ち上げ、エクストは台所へ向かった。
あまりヒッキーや事件のことを考えたくない。
気を紛らわせるために、何かをしていたい。
ガスコンロの火をつけ、そこに本を翳した。
――それから数分後。
本の残骸を三角コーナーに投げ入れ、コンロに散った灰を拭き取り、
エクストは息をついた。
この1年半も、こんな簡単に消せたらいいのに。
燃やして、灰になって、なかったことに出来たら。
<_フ;゚−゚)フ「……うおっ」
不意に、ポケットから甲高いメロディが流れた。
着信音。
- 341 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:04:49 ID:oZsWrUTsO
携帯電話を取り出し、発信者名を見る。
どくりと、心臓が跳ねた。
フォックス。
<_フ;゚−゚)フ「もしもし」
『――エクスト』
聞こえてきた声に、いつもの軽々しさはない。
違和感がエクストを襲う。
<_プ−゚)フ「どうした?」
『ニュース見た? やっべえかもしんないねー……』
<_プ−゚)フ「……何が――」
『また1人刺されちゃいました、とさ』
*****
- 342 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:05:59 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「ええ、もう、やんなっちゃいますよ……」
『まあまあ、いいじゃないかお。僕が高校生のときの英語の先生なんて、
赤点とった生徒なんか人間扱いしなかったし、補習みたいな温情は与えなかったおー』
同時刻、長岡家。
リビングでプリントに向かい合いながら、デレは内藤と携帯電話で話していた。
テストの結果はどうだったのかと内藤が電話をかけてきたのだ。
改めてプリントを見ると気が滅入ってきて、デレはテレビをつけた。
ローカルニュースが流れている。
表示されるテロップを、ぼんやり目で追った。
『それじゃあ、そろそろ切るお。勉強の邪魔してごめんお』
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、いえ、気にかけていただいて嬉しいです」
『おっおっお。――ん、……あ、はいはい。デレちゃんデレちゃん』
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
『ニュッ君が言いたいことあるって。今、代わるお』
ζ(゚、゚*ζ「にゅ、ニュッさんですか?」
- 343 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:07:26 ID:oZsWrUTsO
思わず姿勢を正すデレ。
電話の向こうで、かたん、物音がした。
『ばーか』
ζ(゚、゚*ζ
ぷつん。
通話が切られた。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚皿゚#ζ「ぐあー!!」
叫び、デレはペンを握りしめた。
プリントにニュッの似顔絵を描き、周りに「ばか」「おに」と書き散らす。
ζ(゚、゚#ζ「何なの、もう! 酷い!」
わざわざ電話を代わってまで馬鹿にするか、普通。
果たしてニュッは自分のことをどう思っているのだろうかと、不安に襲われた。
もしかして嫌われている?
- 344 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:07:56 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「……」
手が止まる。
嫌っている人間をいちいちからかうなんて、普通はしないだろうが――
正直、ニュッは普通ではないし。
本当に嫌われているなら、それは寂しい。
ζ(゚、゚*ζ「……ん」
考え込んでいたデレは、テレビから聞こえてきた声に顔を上げた。
「シベリア男子高校」。例の事件の続報かと思ったが、違った。
新たな事件。
ζ(゚、゚;ζ「あれま……」
シベリア高校の生徒がまた1人、刺し殺されたらしい。
*****
- 345 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:08:57 ID:oZsWrUTsO
翌日の水曜日、シベリア高校は学校閉鎖を言い渡した。
外出を控えるように、との連絡が各生徒に回る。
ヒッキーを虐めていたフォックスの仲間は、エクストを除いて2人。
殺されたのはどちらもその2人だった。
自室に閉じこもりながら、エクストはいつ警察から自分に声がかかるか怯えていた。
まさか無関係だとは思われないだろう。
――そして木曜日の夕方。
エクストの家に、教師と刑事がやって来た。
両親は外出している。
親が居合わせなくて良かったと、エクストは安堵した。
<_プ−゚)フ「……どうぞ」
リビングに教師と刑事を案内する。
茶でも入れようとしたが、結構だと制止された。
早速だけど、とエクストの向かいに腰掛けた刑事が口を開く。
- 346 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:09:56 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「ちょっと一連の事件について話をしに来たよ。
ちなみに、君に容疑がかけられてるわけじゃないから安心して」
<_プ−゚)フ「はあ」
/ ゚、。 /「それで、まず一つ訊きたいんだ。君のお友達……被害者2人が、
とあるクラスメートに度々暴力を振るっていたってのは本当かな。
色んな生徒が言っていたけど」
<_フ;゚−゚)フ「……え、っと」
/ ゚、。 /「あ、君は見てるだけだったっけ? エクスト君」
答えられないでいるエクスト。
刑事は、意外そうな顔でエクストを見た。
君はあまり悪い子じゃないのかな、と囁く。
/ ゚、。 /「ともかく……事実かどうかだけ、教えてくれる?」
<_プ−゚)フ「……」
膝の上で、エクストは拳を握り閉めた。
エクストの態度で、刑事はある程度の察しがついたらしい。
ほんの少し、刑事の目が哀れみに似た色を纏った。
- 347 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:10:46 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「そう。分かった。事実だね。それで、その生徒……ヒッキー君?
ヒッキー君にも話を聞こうと思ってるんだけど」
<_フ;゚−゚)フ「……ヒッキーが疑われてるんですか」
/ `、、 /「疑う……うん、実はね、
ヒッキー君が、つい最近ナイフを購入していたんだよ」
<_プ−゚)フ「――ナイフ」
/ ゚、。 /「被害者はどちらも刃物で殺された。
……事件直前にナイフを買ったヒッキー君。どう思う?」
<_フ;゚−゚)フ「た、たまたま、……偶然……」
/ ゚、。 /「それからね」
刑事が身を乗り出す。
エクストは思わず口を閉じた。
/ ゚、。 /「ヒッキー君は、一昨日から姿を消している」
- 348 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:12:22 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……は……?」
/ ゚、。 /「彼のお母さんが言うには、一昨日の午前中、学校から帰ってきたかと思うと
すぐに着替えて家を出ていったらしい。
そのときの彼の言葉だ。『行ってきます、ごめんなさい』。
……ごめんなさいって、どういうことだろうね?」
<_フ;゚−゚)フ「嘘だ」
/ ゚、。 /「嘘じゃないよ」
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキーがそんなこと、……だってあいつ、気が弱くて――」
/ ゚、。 /「……勿論確定したわけじゃない。
けれど、全く怪しくないこともない。
失踪している以上、それ相応の理由がある」
<_フ; − )フ「……っ」
頭を抱えるエクストの背を教師が軽く叩いたが、
これは、そんなもので宥められるほどの動揺ではない。
フォックス達にろくに抵抗出来ないほど薄弱なヒッキー。
フォックス達を殺してやりたいと言っていたヒッキー。
ナイフを買って、家を出て。――何をした。
- 349 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:14:24 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「もしも、これは『もしも』の話だけど。
もしもヒッキー君が犯人だったなら……君も、危ないかもしれないよ」
自分も危ない。
その意味を、ぼんやり、エクストは考える。
危ない。
そうか。そうだ。
ヒッキーを裏切った。フォックスの仲間になった。きっと恨まれている。
/ ゚、。 /「だからね、用心しておくように。
外出はなるべく控えて。学校も少し休んだ方がいいと思う。
勿論ここ一帯の巡回は強化するよ」
巡回強化。結局その程度だ。
ただの一般人であるエクストに警護などつくわけもない。
/ ゚、。 /「分かった?」
声での返事が出来ない。
喉が詰まったような感覚。苦しい。
がくがく首を振って、頷いた。
- 350 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:18:06 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「何かあったら、すぐに警察に電話してね」
隣で、親御さんの方には学校から伝えておく、と教師が言った。
親に説明したところで、心配なんかされるだろうか。
エクストがフォックスとつるむようになって――不良ぶるようになって――から、
両親はエクストに嫌悪の感情しか向けなくなったように思う。
/ ゚、。 /「それで、もし良かったらさ。
君やお友達が、ヒッキー君にどんなことをしていたか具体的に――」
刑事の言葉は着信音に阻まれた。
君の? と問う刑事に、エクストはまた頷いた。
ポケットから携帯電話を取り出す。
/ ゚、。 /「……誰から?」
<_フ;゚−゚)フ「フォックス」
液晶に流れる名前を読み上げると、刑事は僅かに瞳を鋭くした。
/ ゚、。 /「フォックス……って、君のお友達の1人だね。電話かな? 出ていいよ。
ただし周りにも聞こえるようにね」
言われた通りにして、エクストは電話に出る。
全員、息を殺して耳に神経を集中させた。
- 351 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:19:49 ID:oZsWrUTsO
<_プ−゚)フ「……もしもし……?」
『エク、』
震えたフォックスの声。「エクスト」と名前を呼ぼうとしたのであろうそれは、
すぐに途切れた。
何かが崩れるような音、フォックスのささやかな悲鳴、足音、
携帯電話が硬いものにぶつかる音――
通話が切れたことを示す、電子音。
<_フ;゚−゚)フ「……は……?」
/ ゚、。 /「かけ直して」
<_フ;゚−゚)フ「は、はい」
着信履歴からかけ直す。
だが、虚しくコールが響くだけでフォックスは出てこない。
/ ゚、。 /「……フォックス君の家にも、先生と警察が行ってる筈なんだけどな」
独り言を漏らしながら、刑事は自分の携帯電話を開いた。
ボタンを押し、耳に当てる。
- 352 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:20:53 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「――もしもし、鈴木だけど。
例の生徒さんの家には……うん?」
先程から無表情だった刑事の顔が、歪んだ。
空気が冷たさを孕む。
エクストの頭は、今、まともに働いてはいない。
/ ゚、。;/「まだ着いてない? ……急げ! 早く!!」
怒鳴り、携帯電話を畳む。
刑事はエクストに、もう一度フォックスに電話をかけろと告げた。
/ ゚、。;/「どう?」
<_フ;゚−゚)フ「……出ません」
/ ゚、。;/「くそっ……何で出ない!」
先程聞こえた、電話の向こうの音声。
あれは――とてもじゃないが、穏やかな雰囲気ではなかった。
フォックスに何があった?
まさか、まさか。
- 353 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:21:49 ID:oZsWrUTsO
数分後、刑事の携帯電話が鳴った。
/ ゚、。;/「……着いたか?」
沈黙。
それから、「後は任せた」と呟き、刑事は通話を切った。
<_フ;゚−゚)フ「フォックスは?」
/ `、、;/「……」
/ ゚、。;/「フォックス君が、自宅で……血まみれで倒れていたそうだ」
*****
- 354 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:24:03 ID:oZsWrUTsO
『――お前、こんなことして、ただで済むと……!』
『思ってないよ。既に2人やっちゃったし。
当然、警察からは逃げられないだろうね。
僕の両親も人殺しの親ってことになる。どんな目で見られるかな。申し訳ないや』
『……うあ、あああっ、い、っつ――』
『でも、まあ、そんなことどうでもいい』
『本当、どうでもよくなったんだ』
(-_-)『ばいばい、フォックス』
*****
- 355 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:26:43 ID:oZsWrUTsO
金曜日、放課後。職員室。
( ∵)「火曜日に渡した課題で気になってたんですが、何です。これ」
ζ(゚、゚;ζ「……ちょっと、色々ありまして」
気まずそうな表情のデレに、ビコーズは、ある1枚のプリントをひらひら翳した。
――隅に落書き。ニュッの似顔絵、罵倒の言葉。
先日、怒りをプリントにぶちまけたとき、うっかりボールペンを使ってしまった。
消しゴムでは消せない。修正テープを使ったところでビコーズの追及は免れないだろう。
そう判断し、デレは潔くそのまま提出したのであった。
( ∵)「彼氏と喧嘩でもしました? 別にそんなのは好きにすればいいと思いますが、
先生が丹精込めて作ったプリントに当たるのやめて下さいね。
あまりにもショックすぎて、先生思わずコピーして注釈つけてばらまいちゃいそうです」
ζ(゚、゚;ζ「彼氏じゃないです! コピーもやめて下さい!!」
( ∵)「長岡さんは面白いので先生大好きですよ。――はい、これ、今日と土日の分」
ζ(゚、゚;ζ「うう……また多い……」
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:28:42 ID:oZsWrUTsO
クリップでまとめられたプリントの束が手渡される。
新たな課題だ。
( ∵)「頑張って下さい、応援してます」
ζ(-、-;ζ「はい……」
( ∵)「じゃあ、早くお帰りください。人通りの多い道を歩きなさいよ」
ζ(゚、゚;ζ「さようならー」
「男子高校生連続殺人事件」。
シベリア高校の生徒が3人も殺された事件は、そう名付けられた。そのままだ。
いよいよもって近隣住民や他校生にも警戒を促されるようになり、
部活や居残りは全面禁止となった。
勿論補習もだ。
かといって、こうもたんまり課題が出されては嬉しくも何ともない。
ζ(-、-;ζ「はあ……」
憂鬱だ。
学校を出て、デレは溜め息をついた。
- 357 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:29:58 ID:oZsWrUTsO
ビコーズに言われた通り、人気の多い道を行く。
まさか自分が襲われるとは思っていないが、用心するに越したことはない。
遠回りになるのが少々不服だが。
住宅街に差し掛かった。
小学生が複数人、教師だろうか、大人に引率されて下校している。
血生臭い事件など気にもせず、賑やかにふざけ合いながら歩く少年達を見ている内、
デレの顔に笑みが浮かんできた。
「――エクスト君、何か変わったこととかあった?」
ζ(゚、゚*ζ「?」
ある家の前を通った瞬間、声が聞こえた。
ちらりと横目で声の主に視線を送る。
デレの足が、止まった。
玄関先で会話している2人の男。
1人はデレに背を向けているが、もう片方、相対している男の顔は確認出来た。
<_フ;゚−゚)フ
「不良少年」だ。
虚脱しきった表情で、ぼそぼそ呟いている。
- 358 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:32:33 ID:oZsWrUTsO
いくらか話すと、背を向けていた男が踵を返した。
服装から察するに警官。
門の前に立ち尽くすデレを見て男は一瞬訝しげな目をしたが、
軽く会釈し、その場を後にした。
デレは、男から「不良少年」へ視線を移す。
<_プ−゚)フ「あ」
ζ(゚、゚*ζ「……どうも」
エクスト、と呼ばれていた。
彼の名前だろうとデレは推測する。
エクストは小声で「おう」と言って、家の中に引っ込んだ。
ζ(゚、゚*ζ(ここに住んでるんだ)
意外と近所なんだなと、ぼんやり思う。
そういえば、以前、ここを出る辺りの道で会ったんだった。
だから何だというわけでもないが――
ζ(゚、゚*ζ「ん?」
(-_-)
ふと前方に向き直ると、同年代くらいの少年と目が合った。
黒いパーカー、紺色のジーンズ。
ジーンズの裾に、小さな染みがある。
- 359 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:33:27 ID:oZsWrUTsO
少年はしばらくデレを眺めた後、目を逸らして歩き出した。
ζ(゚、゚*ζ「……」
何故だか無性に気になったが、わざわざ声をかけるつもりにはならない。
首を傾げ、デレも足を動かした。
*****
- 361 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:34:44 ID:oZsWrUTsO
巡回のついでに訪ねてきた警察官の言うことには。
昨日――フォックスが殺される直前、
彼の住むアパートを訪ねる少年を見た者がいたらしい。
その目撃者が語る特徴は、ヒッキーに酷似していた。
疑いはどんどん強まっていく。
エクストの不安も。
<_フ;゚−゚)フ「……」
――本当にヒッキーがやった?
フォックス達をヒッキーが殺した?
どうして。
虐められたからだ。
辛かったから、苦しかったから、フォックス達が憎かった。
自分は?
エクストは直接手を出すことはしなかった。
だが、積極的に止めようともしなかった。
なるべく見ないように、聞かないように、逃げていた。
それはヒッキーの目にどう映るか。
- 362 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:36:02 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「わ、」
着信音。
音量は最小に設定していたが、妙にやかましく感じられた。
発信者、「公衆電話」。
誰だろう。
<_プ−゚)フ「……もしもし」
『あ、エクスト君』
――ヒッキーにエクストはどう見えただろう。
<_フ;゚−゚)フ「……は……え、え……?」
『エクスト君の家の近くにさ、公衆電話あるでしょ』
<_フ;゚−゚)フ「お前……え……」
『ちょっと、窓からでいいからさ、電話ボックス見てみてよ』
窓に駆け寄る。
ガラス越しに、斜め前、曲がり角に設置されている電話ボックスを凝視した。
- 363 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:37:31 ID:oZsWrUTsO
――気遣うように話しかけておきながら、ヒッキーを裏切ったエクスト。
<_フ;゚−゚)フ
(-_-)
(-_-)『……エクスト君、何て顔してるのさ』
――ヒッキーが、憎く思わない筈がない。
<_フ;゚−゚)フ「ヒッ、キ……な、何で、何でここに!」
(-_-)『「何で」? 分からないの? エクスト君が僕にしてきたこと思い出してよ。
それでも分からない?』
電話ボックスの中から、一軒家の2階にいるエクストを見上げるヒッキー。
唇の両端を吊り上げる。
- 364 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:38:18 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……フォックス達をやったのって」
(-_-)『あ、それ僕。
今度はさ、エクスト君に用があって』
用。
復讐?
(-_-)『……とりあえずエクスト君の家も確認出来たし、今日はこの辺で。
案外警察に見付からないもんだね。じゃあ、またね』
ヒッキーが受話器をフックに引っ掛け、電話ボックスを出る。
遠ざかる背中をじっと見つめていたエクストは
ヒッキーが角を曲がるや否や、へたり込んだ。
足が震える。
体が冷える。
家を確認出来たと言った。
エクストの居場所を知られた。
- 365 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:40:43 ID:oZsWrUTsO
<_フ; − )フ
<_フ; − )フ「警察」
そうだ。
警察に連絡、を。
<_フ; − )フ「……」
――指が動かない。
ヒッキーは捕まるべきなのだろうか。
悪いのはフォックス達とエクストだ。ヒッキーは被害者。
相手を殺そうと考えるほど、ヒッキーは追い詰められていた。
エクストの現状は自業自得。
だけど。
エクストだって、死ぬのは嫌だ。
手から携帯電話が滑り落ちる。
どうしたらいい。
呵責と恐怖がぐるぐる回る。
<_フ; − )フ「あ、う……う……」
目眩がする。
気持ちが悪い。
- 366 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:43:31 ID:oZsWrUTsO
数分が過ぎた頃、玄関のチャイムが鳴った。
階下で母がドアを開ける音。
しばし話し込んでいたかと思うと、母がエクストを呼びつけた。
ふらふらしながら部屋を出たエクストは、ゆっくり階段を下りていった。
( ^ω^)「どうも、こんにちは」
ξ゚听)ξ「エクストさんですね」
ハハ ロ -ロ)ハ「急にゴメンナサイ」
<_フ;゚−゚)フ「はあ……」
――訪問者は、男女の3人組だった。
にこにこ笑うスーツ姿の男に、はっとするほど美しい少女、眼鏡をかけた高身長の女。
男は名刺を差し出す。名刺に書かれた名前、内藤ホライゾン。
少女はツン、眼鏡の女はハローと名乗った。
<_フ;゚−゚)フ「……上がっていきます?」
( ^ω^)「あ、いやいや、結構。お気遣いなく。すぐ済む話なんで、このまま玄関で」
気遣いなどではなく、今のエクストには立ったまま話すのが辛いから提案したのだが。
こうもあっさり答えられれば、そうですかと引き下がるしかない。
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:45:15 ID:oZsWrUTsO
( ^ω^)「僕は名刺の通り、図書館の館長やってるんだお。
それで、ちょっとね、ある本を探してるんだけど」
<_プ−゚)フ「本?」
( ^ω^)「……君さ、シベリア高のあの事件――被害者、ええと、フォックス君だっけ?
あの子の友達だおね?」
<_フ;゚−゚)フ「何で知って……」
( ^ω^)「知り合いに調べてもらったお。
――んで、フォックス君について訊きたいんだけど、
本のこととか何か言ってなかったかお?」
<_プ−゚)フ「本」
( ^ω^)「本。変な本」
変な本。
フォックスがエクストに託した黄色い本。
<_プ−゚)フ「……捨てても、勝手に戻ってくる不気味な本?」
内藤の笑みが深くなる。
ビンゴ、と囁いた。
- 368 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:48:47 ID:oZsWrUTsO
( ^ω^)「それそれ。本のタイトルや見た目とか分かるかお?」
<_プ−゚)フ「タイトルは消えてたから分からないけど……。
薄い黄色で、……猫? のマークがついてた」
ハハ ロ -ロ)ハ「オオ、間違いなくワタシのデス」
( ^ω^)「上々だお。エクスト君、その本、預かってないかお?
警察に頼んでフォックス君の部屋を探してもらったんだけど、
本が見付からなかったんだお」
<_プ−゚)フ「……預かった、けど」
ハハ ロ -ロ)ハ「ケド?」
<_プ−゚)フ「フォックスに頼まれて――燃やした」
( ^ω^)
( ^ω^)「あらまあ」
額を片手で叩き、内藤は深く溜め息をついた。
マジか、あーあ、などとぶつぶつ呟いている。
<_フ;゚−゚)フ「な、何? 何だよ?」
ξ゚听)ξ「……気にしないで。燃やしてしまったなら、もういいの」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシとしては腹立ちますケド」
- 369 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:51:07 ID:oZsWrUTsO
( ^ω^)「あー、分かったお。ありがとう。じゃあ、僕らはこれで」
<_フ;゚−゚)フ「……あの、俺、悪いこと……」
( ^ω^)「いや、大丈夫。……まあ、あの本に関しては、下手に出回るより
燃えて無くなってしまった方が良かったのかもしれないし。
それじゃ、さようなら。いきなりすまなかったお」
<_プ−゚)フ「はあ……」
内藤達は、ドアを開け――振り返った。
( ^ω^)「一つ、いいかお」
<_プ−゚)フ「はい?」
( ^ω^)「本を燃やしたのは、フォックス君が刺された後かお? それとも……」
<_プ−゚)フ「……前。フォックスが刺されたのが昨日で……燃やしたのは、3日前」
内藤は、細い目を僅かに見開いた。
そうかお、と返事。
( ^ω^)「……もう、終わってたのかお」
*****
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:52:31 ID:oZsWrUTsO
――既視感。
今朝、ニュースを見ていたニュッとハローが覚えたのは、それ。
ハハ ロ -ロ)ハ『男子校、3人の生徒、刺殺……』
( ^ν^)『……』
ハハ ロ -ロ)ハ『館長ー』
( ^ω^)『何だお?』
ハハ ロ -ロ)ハ『タダの偶然ならいいんですケド。
この事件、昔ワタシが書いたおハナシと似てマス』
( ^ω^)『……本当に?』
ハハ ロ -ロ)ハ『エエ――』
内藤は「知人」に連絡をとった。
事件の概要、未だ公表されていない容疑者についての情報を求める。
しばし待てと知人が言い、一旦電話を切った。
- 371 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:56:13 ID:oZsWrUTsO
――1時間後、知人からメールが届く。
被害者は3人共素行が悪かった。
3人目、フォックスという生徒はリーダーのような存在。
彼らはクラスメートの1人を虐めていた。
そのクラスメート、ヒッキーが現在行方不明だという。
( ^ω^)『……どう?』
ハハ ロ -ロ)ハ『イッショ。まったくイッショ』
( ^ν^)『「主人公」は、このフォックスって奴だった筈だ。
いじめられっ子に次々と仲間を殺されて追い込まれていく役』
ハハ ロ -ロ)ハ『殺されてしまったカラ、もう終わってマスね、キット』
( ^ω^)『……』
内藤はハローを見る。
何か言いたげに口を開け、――すぐに閉じた。
ハローが小首を傾げる。
ハハ ロ -ロ)ハ『……「お前があんな話を書かなければ」?』
( ^ω^)『……そんなこと、思ってないお』
ハハ ロ -ロ)ハ『どうダカ』
*****
- 372 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:58:42 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「本が燃えるとどうなるんですか?」
( ^ω^)「デレちゃんは火をつけられて燃え尽きても、生きていられるかお」
ζ(゚、゚;ζ「無理です」
( ^ω^)「本も一緒。死んじゃうお」
翌日。土曜日。
学校も休みということで、デレは久しぶりにVIP図書館を訪れた。
デレに内藤、ツン、ニュッとハローも加わり、
ツンが入れた紅茶とクッキーを飲み食いしながら雑談している。
話題は、自然と今回の事件へ流れていった。
ξ゚听)ξ「だから、強制的に演じさせられたときの対処としては、
本を燃やすのが一番手っ取り早いんだけれど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「自分が一生懸命書いた本を燃やされるのって、トッテモ悲しいデスヨ。
何ヨリ『殺す』のと同じダシ」
淡黄色のノートにペンを走らせながら、ハローは言う。
デレの事件の際、燃やすという内藤の発言に貞子は本気で怒っていた。
きっと、そういうものなのだろう。
- 373 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:00:50 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「……でも、燃やしちゃったってことは、
この事件、これで終わりなんですよね」
ξ゚听)ξ「『本』によって引き起こされたのなら、ね。
まあ、フォックスって人が本を持ってたらしいし、確定でしょうけど」
紅茶を一口。
デレは犯人のことを考え、少し、胸が痛んだ。
ζ(゚、゚*ζ「だったら」
( ^ω^)「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「もっと早く燃やしてれば……
彼らを殺すことも、殺されることもなかったんですよね」
命を落としたフォックス達も、
命を奪った――かもしれない――ヒッキーという少年も、
全員被害者にしか思えない。
そう漏らしたデレの耳を、横から伸びた手が引っ張った。
- 374 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:02:06 ID:oZsWrUTsO
ζ(+、゚;ζ「ひゃひっ、痛っ、いたた、ニュッさん、いたいっ」
( ^ν^)「黙ってろ」
ζ(+、゚;ζ「へ……」
視界にハローが入った。
ペンを持つ手が止まっている。
ζ(゚、゚;ζ(――あ)
そこで、デレはひどい自己嫌悪に陥った。
後悔ばかりが沸き上がる。
本のせい。
それが正しいなら、その本を書いたハローはどんなに心苦しいか。
ζ(゚、゚;ζ「は、ハローさん、違うんです、私、あの、別に」
ハハ ロ -ロ)ハ「いいデスヨ」
ハローがノートを閉じた。
口元だけが、緩やかに笑っている。
- 375 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:05:04 ID:oZsWrUTsO
ハハ ロ -ロ)ハ「前も……ワタシの本のせいで亡くなった方がいまシタ。その前ニモ。何度モ」
ζ(゚、゚;ζ「……」
( ^ν^)「少なくとも」
自責の念を滲ませるハローの言葉を、ニュッが遮った。
それから、溜め息。
( ^ν^)「主人公……フォックス? っつったっけか。
あれは本とは無関係だ」
ζ(゚、゚;ζ「え? でも主人公――」
( ^ν^)「兄ちゃんが言うには、フォックスが殺される前に本は燃やされていた」
( ^ω^)「だお。その時点で彼らは解放されてたんだお。
にも関わらず、犯人役はフォックス君を殺しに行った。
解放されても、犯人から殺意は離れなかったんだお」
( ^ν^)「犯人役にされた奴は、よっぽどいじめっ子を恨んでたんだろう」
ζ(゚、゚;ζ「……最後は、100パーセント犯人の意思による犯行だったんですね」
( ^ν^)「ああ」
- 376 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:08:02 ID:oZsWrUTsO
――ニュッは、今回の3つの殺人事件において
「本」に大した非はないのでは、と考えている。
内藤の知人からの情報によれば、虐められていた少年は
去年から既に被害を受けていた。
たとえばキュートのように、本に巻き込まれてから虐められ始めたわけではない。
偶然だ。
全ては偶然。
本を手にしたフォックスは、「偶然」、男子校に通っていて。
「偶然」、不良で。
「偶然」、クラスメートを虐めていて。
「偶然」、いじめっ子グループのリーダーだった。
当然フォックスはヒッキーから恨まれていただろう。
本は、間接的にヒッキーの背中を押しただけ。
必要な条件や設定は最初から揃っていた。
だから――何もかも本のせい、とは、思えないのだ。
もっと言ってしまえば、本がなくても、いずれ同じことが起きていた恐れもあった。
- 377 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:10:33 ID:oZsWrUTsO
( ^ν^)「とにかく、これから犯人がどうなるかは、そいつ次第だ。
やけになって無差別に人を傷付けるか、自首するか、
逃げるか、自殺するか――何にせよ、もう俺らには関係ない」
言外に、ハローには責任などないのだといった意味を匂わせている。
それに気付いたハローは嬉しそうにニュッに抱き着き、突き飛ばされた。
( ^ω^)「ん、まあー、無関係だおね。エクスト君が狙われようと」
ξ゚听)ξ「ハローの書いた本には、エクスト君に該当する登場人物はいないんですっけ」
ハハ ロ -ロ)ハ「イタタ、ニュッ君たら照れ屋サン……ン?
ああ、ハイ、本では不良グループは3人ダケでしたカラ」
ζ(゚、゚*ζ(――エクストさん……)
エクスト。
内藤達が本の所在を訊ねたという相手。
デレが下校中に見かけた「不良少年」もエクストと呼ばれていた。
ζ(゚、゚*ζ「……」
多分内藤の言うエクストとデレが見たエクストは同一人物。
デレは目を伏せる。
エクストもヒッキーを虐めていたのだろうか。
そういった陰湿さは、彼からは感じられなかったが。
- 378 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:12:14 ID:oZsWrUTsO
ξ゚听)ξ「……そうだ、ハロー、ホットケーキ食べる?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイノ?」
ξ゚听)ξ「いいわよ。ああ、メープルシロップは買い忘れたけど……。デレは?」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、いただきます」
( ^ω^)「僕はクッキーだけでいい……あ、手伝うおー」
( ^ν^)「俺もいらない」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ホットケーキーホットケーキー」
ハローは子供のようにはしゃぎ、ホットケーキを心待ちにしている。
待っててね、とツンが腰を上げた。
手伝いを申し出た内藤も席を立ち、2人は2階に向かう。
それから間もなく、今度はニュッが立ち上がった。
ζ(゚、゚*ζ「どうしました?」
( ^ν^)「便所」
ハハ ロ -ロ)ハ「イッテラッシャーイ」
ニュッは2階へ上っていった。
この図書館の奥にもトイレはあるのだが、殆ど利用されていないらしい。
そもそも図書館への来客自体が皆無に等しいのだから当たり前か。
- 379 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:14:15 ID:oZsWrUTsO
デレとハローの2人きり。
黙々と小説を書いているハローに、デレは恐る恐る声をかけた。
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ?」
ζ(゚、゚*ζ「前から気になってたんですが……ハローさんって、
ニュッさんのこと、えー……す、好きなんですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ン? ニュッ君? 大好きデスヨ」
ζ(゚、゚*ζ「恋愛的な……あの、そういった、あれですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイエ。館長やツン、みんなに向ける愛情と同じデスガ」
ζ(゚、゚*ζ「だって、ハローさん、ニュッさんと……け、結婚、しても構わないんでしょう?」
ハハ ロ -ロ)ハ「エエ。ワタシの全てはニュッ君のタメ――」
ζ(゚、゚;ζ「それ! それです。『全て』なんて言っちゃうぐらい好きなら、」
ハハ ロ -ロ)ハ「……コレは、好きダカラ全て捧げてもイイ、という意味ではありまセンヨ?」
ζ(゚、゚;ζ「……はい?」
- 380 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:16:07 ID:oZsWrUTsO
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシの『全て』はニュッ君のタメにあるからデス。
クックルも、貞子も、デレがマダ会っていない他の作家達モ。
みんなみーんな、ニュッ君タダ1人のタメの存在ナノ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ダカラ、ニュッ君がワタシと付き合いたいトカ結婚したいッテ言うナラ、
ソレに従いマスヨ」
引っ掛かる。
本だけではなく、作家自身さえニュッのもの――所有物であるような、そんな言い方。
家族という和やかな繋がりよりも、寧ろ主従にも似た、何か。
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさんのお祖父ちゃんが、ニュッさんのために連れてきたから?
だから、そんなに……」
眼鏡の奥、ハローの目が細められた。
数秒間見つめ合う。
デレが視線を逸らしたのとハローが口を開いたのは同時。
ハハ ロ -ロ)ハ「コレ以上は、ナイショ」
話を変えましょう、と言って、ハローは再び本を閉じた。
- 381 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:17:35 ID:oZsWrUTsO
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、課題出されたんデスッテ?」
ζ(゚、゚*ζ「……はい。今も一応持ってきてます」
鞄から英語の課題を出すと、ハローが「ワオ」と大袈裟な反応をした。
興味深そうにプリントを見つめる。
ハハ ロ -ロ)ハ「スゴイ量」
ζ(゚、゚*ζ「……『土日を挟むから3日分です』って……」
ハハ ロ -ロ)ハ「夏休みトカに出されるのヨリ多いんじゃないデスカ、コレ」
ζ(-、-;ζ「夏休みは夏休みで、もっと酷かったです。英語は」
ハハ ロ -ロ)ハ「ウワア……今の内に少しデモやっといた方がいいんじゃアリマセン……?」
ζ(;、;*ζ「ええ、やりますとも」
ハハ ロ -ロ)ハ「何秒で寝るかタイム計ってあげまショウ」
ζ(;ー;*ζ「お優しい言葉ありがとうございます畜生」
*****
- 382 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:19:48 ID:oZsWrUTsO
それからそれから。
ξ゚听)ξ「――デレ、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
ζ("ー"*ζ「え? まだ夕方になったばっかだよー」
ξ゚听)ξ「『もう』夕方。あの犯人も捕まってないんだし、暗くなったら危ないわよ」
ζ("ー"*ζ「だいじょ、大丈夫、ぶひぃ」
( ^ν^)「どう見ても限界だろ」
ハハ ロ -ロ)ハ「睡魔と拮抗状態にありマスネ」
今回のデレは無事、寝ずに済んだ。
だいぶぎりぎりだが。
頭がかっくんかっくん揺れている。
呆れ顔で、ツンはデレの肩を叩いた。
- 383 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:21:28 ID:oZsWrUTsO
ξ゚听)ξ「歩いてれば目も覚めるでしょ」
ζ("ー"*ζ「うひひー。あーるーこー。あーるーこー」
(;^ω^)「……車で送るお?」
ζ("ー"*ζ「平気でござる。平気でござる」
テーブルに散乱している課題を雑に鞄へ放り込み、デレは帰宅することにした。
心配する内藤達に手を振って図書館を出る。
――林の中を歩いている内、ツンの言う通り目が冴えてきた。
帰ってからも課題をやらなければならない。
面倒だ。
*****
- 384 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:22:23 ID:oZsWrUTsO
日が暮れ始めた頃。
携帯電話が鳴った。
<_プ−゚)フ
発信者、「公衆電話」。
エクストの手が震える。
<_プ−゚)フ「……もしもし……」
窓から通りを見下ろす。
道は無人。電話ボックスには――いた。
(-_-)『やあ』
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー……」
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:23:45 ID:oZsWrUTsO
(-_-)『もうちょっとじわじわいきたかったけど……。
ゆっくりやりすぎて、目的達成しないまま捕まるのも嫌だしね。
今日で決着つけよう』
<_フ;゚−゚)フ「決着?」
(-_-)『うん――あ、人来た』
不意に、電話ボックスの脇を少女が通った。
ヒッキーへの恐怖で痺れたエクストの頭。
最近あいつをよく見るな、なんて、どうでもいいことを考える。
ζ(゚、゚*ζ
携帯電話で何か話している。
とぼとぼ、ゆっくり歩く足取り。
突然、石に躓いたのか、エクストの家の真ん前で勢いよく転んだ。
ヒッキーの笑う声がする。
(-_-)『はは……転んでら。
……早くどこか行ってくんないかな、邪魔だな……』
起き上がったものの、足が痛むらしくなかなか立とうとしない。
段々、ヒッキーから苛々した気配がし始めた。
- 386 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:25:08 ID:oZsWrUTsO
(-_-)『こっちはゆっくりしてらんないんだけどなあ。
……いいや、やっちゃおうか?』
<_フ;゚−゚)フ「は?」
電話が切れる。
ヒッキーは、ボックスを出た。
<_フ;゚−゚)フ「……!」
携帯電話を放り投げ、エクストは部屋を飛び出した。
階段を一段飛ばしで下り、玄関で靴を突っかける。
<_フ;゚−゚)フ「おい!」
ζ(゚、゚;ζ「へっ?」
ドアを開けて、叫んだ。
少女の数メートル後ろにひらひら右手を振るヒッキーがいる。
エクストは少女に駆け寄り、手を引き立ち上がらせた。
- 387 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:26:23 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ「な、何――」
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー、こいつは関係ねえだろ!」
ζ(゚、゚;ζ「ひっき……?」
(-_-)「昨日も見たけど、知り合いっぽいよね。無関係でもないでしょ」
<_フ;゚−゚)フ「――!」
ヒッキーの左手。
折り畳み式のナイフが開かれる。
ζ(゚、゚;ζ「ナイフ? え? え?」
エクストは、
<_フ;゚−゚)フ「走れ!」
掴んだままの手を引っ張り、駆け出した。
*****
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:28:09 ID:oZsWrUTsO
わけが分からないまま走らされ、デレは困惑しきっていた。
怪我をした両足が痛む。
ζ(゚、゚;ζ(この人、エクストさん……で、あの人が)
振り返る。
黒いパーカー、紺色のジーンズ。昨日見かけた少年だ。
ζ(゚、゚;ζ(ヒッキー、さん)
聞き覚えがある。
たしか――内藤が知人に調べさせたという情報にあった、虐められていた少年の名前。
容疑者の、名前。
ヒッキーはナイフを畳んだり開いたりしながらデレ達を追いかけている。
追いかけると言っても、走るデレとエクストに対し、ヒッキーは悠然と歩いているだけ。
どんどん遠ざかっているのだが――
ζ(゚、゚;ζ「ま、待って、エクストさん、待って」
<_フ;゚−゚)フ「あ? 何で俺の名前……」
何故自分の名前を知っているんだと問おうとしたエクストは、
デレの辛そうな顔を見て口を噤んだ。
- 389 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:31:37 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ「い、痛いです、足……」
<_フ;゚−゚)フ「うわ」
スカートから伸びる両足。その膝から臑にかけて、
だらだらと凄まじい量の血が溢れている。
先程転んだ際、結構派手にやってしまったらしい。
デレが足を動かす度、膝から下に刺すような痛みが広がる。
あまり長く走ってもいられない。
おぶってやろうかとエクストは考えたが、人1人背負って走れるほど筋力があるかと問われれば
首を横に振って答える程度には非力だ。
選択肢はいくらでもある。
エクストが囮になってデレを逃がす。
デレの手を放し、置いていく。
近所の家に逃げ込む。
ヒッキーに立ち向かう。
どこかに隠れ、やり過ごす。
- 390 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:32:57 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……もうちょっとだけ頑張れ!」
ζ(゚、゚;ζ「はいっ」
エクストは、5つ目を選んだ。
デレを見捨てたり、ヒッキーを説得したりなんて出来はしない。
エクストが囮になっても、この怪我では、デレが1人で走って逃げられるかどうか。
かといって、どこかに逃げて――通報されるのも、嫌だ。
非常に馬鹿らしい話だが、エクストは、ヒッキーに捕まってほしくなどなかった。
虐められて、殺すほど人を憎む羽目になって、逮捕されて。
それでは哀れだと、エクストは本気で思っている。
<_フ;゚−゚)フ(……くっそ)
――自分で何がしたいか分からない。
こうして逃げているのは、殺されたくないから。
だが、胸に潜む罪悪感は「自分も罰を受けるべきだ」と唱える。
逃げたい。逃げる自分が許せない。
分からない。
- 391 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:34:54 ID:oZsWrUTsO
ヒッキーとだいぶ距離があいた。
角を曲がり、公園に入る。
ζ(゚、゚;ζ「公園?」
<_フ;゚−゚)フ「走れないなら、隠れるしかねえだろ!」
誰もいない。
元々利用者が減っていたのに加えて、今回の連続殺人事件の影響で
夕方以降の外出を禁止された子供が多いからだろう。
公衆トイレに飛び込む。
ζ(゚、゚;ζ「だっ、男子トイレですかっ!?」
<_フ;゚−゚)フ「今はそんなこと気にしてる場合か!?」
言い合いながら一番奥の個室に入り、鍵を閉めた。
2人同時に溜め息をつく。
ζ(゚、゚;ζ「……見付かりませんかね……」
<_フ;゚−゚)フ「分かんねえ」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、い、今の内に警察――」
両手をわきわきと動かしたデレは、ぽかんと口を開けて固まった後
「あ」と声を漏らした。
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:38:18 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ「……さっきの」
――携帯電話で話している最中に転んだ。
鞄も携帯電話も、そのときに落としてしまった。
ζ(゚、゚;ζ「……あの、携帯、持ってません?」
<_フ;゚−゚)フ「ねえよ」
ζ(゚、゚;ζ「うう……」
<_フ;゚−゚)フ「……とりあえず、静かにしてろ」
黙り込む。
デレは、膝の痛みや、エクストのことや、先の電話の内容をぼうっと鈍る頭で考えた。
一方のエクストは耳を澄まし、ずっと頭の中を占めているものを掘り下げていく。
自分は恨まれて当然のことをした。
こうして隠れるより、今すぐヒッキーの前に現れて、おとなしく刺された方が
ヒッキーと自分の胸をすっきりさせられるのではないか。
けれども、やはり恐い。
臆病なエクストには、自ら痛い思いをしに行く勇気などない。
それが腹立たしい。
自分はこんなにもうじうじした人間だっただろうか。
- 393 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:40:14 ID:oZsWrUTsO
死んでしまえと思う。
死にたくないとも思う。
<_フ;゚−゚)フ「……」
自分では何も出来ない。
だから、今――ヒッキーに見付かったら、抵抗は絶対にしないことにしよう。
見付からなかったら。
見付からなかったら、どうする?
またヒッキーが追いかけてきてくれるのを待つ?
<_フ; − )フ(……なっさけねえ……)
――数分。
実際に流れた時間はそれぐらい。
しかし、デレとエクストには何十分にも感じられた。
ふと視線を下げたエクストは、ぎょっとした。
汚れた床に、血らしきものが少量散っている。
その原因にはすぐに思い当たった。
- 394 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:41:32 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ
<_フ;゚−゚)フ「……おい」
ζ(゚、゚;ζ「はい……?」
<_フ;゚−゚)フ「これ、お前のか」
デレの膝。
そこから流れている血が、動いたときに飛び散ったのだろう。
ζ(゚、゚;ζ「……!」
しばらく床を眺めていたデレは、突如、目を見開いてエクストを見た。
泣きそうな顔だ。
<_フ;゚−゚)フ「……多分」
デレの言いたいことはエクストにも分かった。
こくり、頷く。
――走っている間に、地面にも付着したかもしれない。
もしヒッキーがそれに気付けば、確実に血痕を辿る。
目を凝らさねば分からぬ程度のものではあろうが、だからといって安心は出来ない。
- 395 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:43:19 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……」
エクストは、慎重に鍵を開けた。
血がどれほど散っているのか確かめたい。
きい、とドアが小さく鳴いた。
瞬間。
<_フ;゚−゚)フ「!!」
ドアが向こう側から押された。
エクストは咄嗟に奥に下がり、デレを背に隠す。
開け放たれたそこに。
(-_-)「やあ」
ヒッキーが立っていた。
- 396 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:46:12 ID:oZsWrUTsO
かちり。
ナイフが開かれる。
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー」
(-_-)「うん。ヒッキーだよ」
<_フ;゚−゚)フ「……こいつは、逃がしてやってくんねえかな……」
こいつ、と、エクストは後ろにいるデレを指差した。
ヒッキーは首を傾げる。
(-_-)「普通、口止めってするもんじゃない?」
ζ(゚、゚;ζ「ひっ……」
<_フ;゚−゚)フ「たまたま居合わせただけだ」
(-_-)「たまたま居合わせたからでしょ」
器用にも左手の指先でナイフを回し、
右手をパーカーのポケットに突っ込んでいるヒッキーからは余裕しか感じられない。
以前のヒッキーと、雰囲気が違う。
(-_-)「もう3人やっちゃったしさ、今更躊躇なんかしないよ。
1人増えようが2人増えようが……」
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:48:15 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「こいつは、お前に何もしてない」
回転していたナイフが、止まった。
しっかりと柄を握り直す。
(-_-)「その子『は』、ね。うん。……エクスト君は僕に何をしたの?」
<_フ;゚−゚)フ「っ……」
<_フ; − )フ「――裏切った」
(-_-)「裏切り。そうだね。ショックだった。悲しかった」
<_フ; − )フ「俺が、一番酷いことした」
(-_-)「……一番?」
<_フ; − )フ「ヒッキーの味方でいようと思ってたんだ。
……友達になろうって思ってたんだ」
- 398 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:50:26 ID:oZsWrUTsO
<_フ; − )フ「ヒッキーにも味方はいるって分かってほしかった」
ヒッキーには、白々しく見えるだろうか。
みっともない命乞いだと思われただろうか。
それでもエクストの本心だ。
信じてもらえなくてもいい。
ただ、知ってほしかった。
<_フ; − )フ「だけど、俺、フォックスの方についた。
ヒッキーの敵になった……」
(-_-)「……」
<_フ; − )フ「俺、」
(-_-)「もういいよ」
もう喋らなくていい。
そう言って、ヒッキーは個室に足を踏み入れた。
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:51:50 ID:oZsWrUTsO
エクストとデレは、これ以上後ろに下がれない。
エクストが小声でデレに告げた。
<_フ;゚−゚)フ「……俺が刺されたら、すぐ逃げろ」
ζ(゚、゚;ζ「だ、駄目です、そんなの――」
(-_-)「無駄なこと言ってるね」
手を伸ばせば触れる距離。
ヒッキーは無表情のままエクストと対峙する。
(-_-)「これでおしまい」
左手、ナイフを振りかぶる。
<_フ; − )フ「……っ」
エクストは防御もせず、目を閉じ、衝撃を待った。
- 400 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:53:19 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「じゃあね」
.
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:53:58 ID:oZsWrUTsO
からん、と。
金属音が、足元で響いた。
<_フ; − )フ
<_フ;゚−゚)フ「……?」
恐々、エクストが目を開く。
――眼前に突き出されたそれが何なのか、すぐには理解出来なかった。
- 402 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:55:34 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「はい」
<_フ;゚−゚)フ「……何だよ……これ……」
(-_-)「お菓子」
突き出されているのは、さっきまでポケットに入っていたヒッキーの右手。
差し出されているのは、チョコレート菓子の箱。
――去年。
彼らが初めて会話を交わした日。
エクストがヒッキーにあげたものと、同じ。
- 403 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:57:40 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「いつも僕がもらう側だったし、お返ししなきゃなって。
……でもエクスト君に何あげれば喜んでくれるか分かんなかったから、
とりあえずこれにしといた。結構高いんだね」
<_フ;゚−゚)フ「……俺のこと、殺すんじゃ」
(-_-)「殺すわけないじゃん」
<_フ;゚−゚)フ「だって……だって、さっき」
(-_-)「うん。まあ、誤解するように……っていうか、
わざと恐がらせるようにはしたかな。ごめんね」
- 404 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:58:43 ID:oZsWrUTsO
でもさ、と。
ぎこちなく。
ヒッキーは、微笑んだ。
(-_-)「あれぐらいの仕返しはしてもいいでしょ」
胸元に箱を押しつけられる。
震える手で、受け取った。
(-_-)「じゃあね。ばいばい」
ヒッキーは踵を返し、去っていく。
エクストは黙りこくっていたが、箱を見下ろすや否やヒッキーの後を追った。
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー!」
公衆トイレを出た辺りでヒッキーが振り返る。
その前に立ち、エクストは口をぱくぱく動かした。
- 405 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:59:55 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「ん?」
<_フ;゚−゚)フ「あ……う」
ヒッキーの顔。手元の菓子。
交互に見遣り――
<_フ; − )フ「……ご、めん」
エクストは、くずおれた。
地面に両手を突いて項垂れる。
目から落ちた涙が、土に染みを作った。
<_フ;−;)フ「俺……こ、恐かった、フォックスが――標的になるのが……恐くて、
ヒッキーより、自分を選んだ……ヒッキーが傷付くの分かってたのに……」
結局、エクストは逃げ続けただけだった。
フォックス達に狙われないために仲間になって、
ヒッキーが殴られるときにはその場から離れて。
何もせず、ひたすら逃げ回っただけの臆病者。
我ながら、ほとほと愛想が尽きた。
- 406 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:01:24 ID:yFJMBw.EO
<_フ;−;)フ「……ごめん……ひ、ヒッキー、……ごめんなさい、俺、俺のこと殴ってくれよ、
殴って、蹴ってくれよ……、ヒッキーがやられた分、俺に――」
(-_-)「しないよ」
<_フ;−;)フ「フォックス達にしたみたいに、な、ナイフで、刺して、……頼むから……」
(-_-)「しないってば」
<_フ;−;)フ「何で! 何で俺だけ……、……ヒッキー、人、殺したんだぞ。
お、お前、人生とか、将来とか、俺が壊したみたいなもんで、」
(-_-)「どうしてそうなるかな……。あいつら殺そうと思ったのも実行したのも僕だよ」
<_フ;−;)フ「そこまで追い詰めたのは俺だ!」
(-_-)「いやいや。踏ん切りがついた直接の理由はフォックスだからね。
『こいつ殺しても誰も困らないからいいだろ』って言ったんだよ、あいつ。
本気かどうかは知らないけど、やりかねないじゃん。フォックスなら」
だからやられる前にやろうと思っただけだよ。
事もなげに言い放つヒッキー。
エクストは呆気にとられ、ヒッキーを見上げた。
(-_-)「……死にたくないもん。僕だって」
<_フ;−;)フ「……」
- 407 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:02:26 ID:yFJMBw.EO
(-_-)「そういうわけだからさ、エクスト君は難しいこと考えなくていいんだよ」
<_フ;−;)フ「良くない……」
(-_-)「いいよ。今も、これだけで充分。
……フォックス達なんか謝りすらしなかった。
ああ1人は謝ったよ。ただの建前だったけど。君とは全然違う」
<_フ;−;)フ「い、今謝ったって、……だって遅いだろ!?
これまで俺は何もしなかった! フォックス達と変わんないだろ!!」
(-_-)「……エクスト君しっつこいなあ。気付いてなかったんだ。
僕、今までもずーっとエクスト君に救われてたんだけど」
<_フ;−;)フ「救われる筈ない! 俺は……」
(-_-)「だってエクスト君さ」
(-_-)「僕がフォックスに絡まれてるとき、自分のことみたいに辛そうな顔してたよ」
- 408 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:05:11 ID:yFJMBw.EO
<_フ;−;)フ「……――」
(-_-)「何か理由があってフォックスの仲間になってるだけなのかなって、
……僕の辛さを分かってくれてるんだなって、嬉しかったよ」
(-_-)「あと、顔まで馬鹿正直なんだなーと思うとちょっとおかしかった」
<_フ;−;)フ「……うるせえ……」
(-_-)「はは。――じゃあね」
<_フ;−;)フ「どこ、行くんだよ」
(-_-)「警察。僕がやりましたーって」
すっきりしたような声で、ばいばい、とヒッキーは言う。
<_フ;−;)フ「……また、な」
(-_-)「……うん。ありがとう、エクスト君」
そのとき。
ヒッキーの後ろから、足音が聞こえてきた。
*****
- 409 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:06:51 ID:yFJMBw.EO
エクストがトイレを離れた後。
呆然としたまま、デレは、個室から出た。
エクストを追おうとしたが、個室の前で座り込んでしまう。
汚いとは思うものの足に力が入らない。
痛みと恐怖がデレの下半身を支配する。
ζ(゚、゚;ζ
ちらり、出たばかりの個室を横目で見た。
転がるナイフ。
結局エクストもデレも傷付けないまま床に落ちたそれは、
照明の光をぎらぎらと凶悪に反射させている。
深呼吸。
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
何度目かに息を吐き出したと同時、
涙が零れた。
ζ(;、;*ζ「……うー」
何故泣いているのか、自分でも分からない。
恐かったし、足はひどく痛むし、ほっとしたし。
多分、全てがぐちゃぐちゃになって、上へ上へと押し出され、
涙になって溢れたに違いない。
- 410 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:08:16 ID:yFJMBw.EO
ζ(;、;*ζ「うー、うう、うー……」
――長いこと泣いていた。
不思議と止まる気配がない。
誰か止めてくれとデレが願った、瞬間。
ばたばた、足音が迫ってきた。
エクストが戻ってきたのだろうか――
( ^ν^)「……おい」
ζ(;、;*ζ「あれ……?」
予想に反し、現れたのは思いもよらぬ人物だった。
息を弾ませながらずかずかと近付いてくるニュッ。
デレの前にしゃがみ込み、ニュッはデレ――の膝――に目をやって、固まった。
緊張した面持ちは、一気に呆れたものに変わる。
( ^ν^)「……それかよ」
と、ニュッは溜め息混じりに呟いた。
- 411 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:09:19 ID:yFJMBw.EO
ζ(;、;*ζ「はひ?」
( ^ν^)「お前の、携帯、と、鞄が落ちてた場所から、
……血痕が続いてたから――刺されでも、したかと」
息遣いを整えながら、切れ切れに言葉を紡ぐ。
要するに、デレが大怪我したのではないか、心配になったらしい。
――何故ニュッがここにいるのか、少し時間を戻して説明しよう。
デレがエクストの家の近くを通ったとき、彼女の携帯電話が着信を知らせた。
内藤からだ。
ζ(゚、゚*ζ『はい』
『もしもし、デレちゃん。ハローの本、間違って持って行ってないかお?』
そう言われて鞄を探ってみると、たしかに入っていた。
課題を詰め込む際、まとめてハローの本も手にしてしまったようだ。
- 412 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:10:40 ID:yFJMBw.EO
ζ(゚、゚*ζ『ああ、ありました。ごめんなさい……』
『ハローが早く続き書きたいらしいから、今から取りに行ってもいいかお』
ζ(゚、゚*ζ『はい、構いません』
『今どこだお? 車で向かうお』
ζ(゚、゚*ζ『今……あの、エクストさんの家の辺りです。
もう少し行ったら帰れますし、来るなら直接私の家に――きゃあっ!!』
ここでデレは石に躓き、転んだ。
携帯電話は吹っ飛び、地面の上を跳ねる。
ζ(゚、゚;ζ『うう……っ、痛っ!』
慌てて立ち上がろうとしたが、膝に激痛が走り、動けなくなったデレ。
そこへエクストがやって来て、叫ぶ。
<_フ;゚−゚)フ『ヒッキー、こいつは関係ねえだろ!』
その間も電話は繋がっている。
呼びかけても答えないデレ、「ヒッキー」と叫ぶエクストの声。
最悪な光景が内藤の脳裏を駆け巡る。
- 413 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:12:32 ID:yFJMBw.EO
内藤はすぐさまニュッ達に事情を告げ、車に飛び乗った。
ニュッとツン、ハローも乗り込み、デレの言う「エクストの家の前」へ向かう。
――辿り着いたそこにあったのは、デレの携帯電話と鞄。
微量の血痕。
真っ先に動いたのはニュッだった。
目を凝らして血を探し、公園に走る。
ヒッキーとエクストを見付けたニュッは、
彼らには構わず、道標となった血の示す先、トイレへ入った。
そうして今に至る。
( ^ν^)「……」
ζ(;、;*ζ「……いらない心配かけてすみません……ご、ごめんなさい、……」
( ^ν^)「怪我は」
ζ(;、;*ζ「膝以外、ないです……ひぐ、ううー……」
( ^ν^)「何で泣いてんだよ」
ζ(;、;*ζ「わ、わか、分かんない、です」
- 414 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:14:04 ID:yFJMBw.EO
拭っても拭っても、次々涙が零れていく。
恥ずかしくなってきて、デレは俯いてしまった。
トイレの外で、ハローがエクスト達に話しかける声がする。
( ^ν^)「……」
ζ(;、;*ζ
しゃくり上げて泣き続けるデレの頭に、突然何かが触れた。
驚いたデレが、びくりと顔を上げる。
( ^ν^)
ζ(;、;*ζ「……あ」
目が合う。ニュッが、右手を下ろした。
――頭を撫でようとしたのかもしれない。
- 415 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:14:52 ID:yFJMBw.EO
ζ(;、;*ζ
デレは、ニュッの右腕の袖を掴んだ。
持ち上げて、自分の頭に乗せる。
ζ(;、;*ζ「……撫でて……」
ぽつり。
小声で訴えると、ニュッは浅く頷き、頭を撫で始めた。
少々乱暴な手つきに髪が乱れていく。
たどたどしい動きだったが、どうしてか、デレの涙は途切れていった。
*****
- 416 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:16:00 ID:yFJMBw.EO
(; ω )「はっ、……は、あっ、ぐ、っ……」
ξ゚听)ξ「ブーン。大丈夫?」
(; ω )「……は……」
――デレの荷物が散らばっている道。
車の前で、内藤は蹲っていた。
ツンが内藤の背中を撫でる。
喉が引き攣る。
気を抜けば、嘔吐してしまいそうだ。
家屋から出てきた住人が「どうした」と問いかけてくる。
何でもないと答えようとした内藤の視界に、デレの鞄が入り込んだ。
クリーム色の鞄に広がっている、赤黒い汚れ。
この鞄がなければ、コンクリートにも点々と描かれている染みの正体は
分からなかっただろう。
- 417 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:16:47 ID:yFJMBw.EO
だが、鞄のおかげで分かってしまった。気付いてしまった。
血。
血の跡。
(; ω )「――う、えっ……」
ξ゚听)ξ「……車に戻りましょう。ブーン。
デレのことはニュッ君とハローに任せて」
(; ω )「お……」
ふらつきながら何とか立ち上がった内藤が、車に寄り掛かる。
彼を見つめるツンの瞳は、彼女にしては珍しく不安に揺れていた。
*****
- 418 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:18:16 ID:yFJMBw.EO
月曜日。放課後。
職員室の前。
デレは、携帯電話でハローと話していた。
発信者の番号はVIP図書館のもので、ツンかニュッ辺りだと思っていたため
ハローの声がしたときは少し驚いてしまった。
『ワタシのせいで、結局デレも巻き込まれるカタチになって……ゴメンナサイ』
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさんのせいじゃありませんってば。
この間、ニュッさんも言ってましたよね」
――連続殺人事件は、ヒッキーが自首する形で幕を閉じた。
ニュース番組やワイドショーでは、いじめ問題がどうのこうのと頻りに騒がれている。
『エエ、……でも、ニュッ君は優しいカラ。
ワタシもソレに甘えてしまいますケド、やっぱり何と言われヨウト悪いのはワタシで……』
ζ(゚、゚*ζ「……ハローさん、意外と思い詰めるタイプなんですね」
『意外って何デスカ、もう』
- 419 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:19:48 ID:yFJMBw.EO
ζ(゚、゚*ζ「――今更書いたことを悔やんでも仕方ないじゃないですか」
『それもそうデスガ……』
ζ(゚、゚*ζ「第一、ハローさんは人を傷付けるために書いたんじゃなくて、
ニュッさんを喜ばせるために書いたんでしょう?
それはすごくいいことですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だから、ね。後悔しないで。
犠牲者が増える前に、散らばってる本、早く全部集めましょう。
私も手伝いますから」
『……』
ζ(゚ー゚*ζ「ね?」
『デレの、言う通りデス』
ζ(^ー^*ζ「うん。そう思ってくれるなら嬉しいです」
『アリガトウね、デレ』
そのとき、職員室から生徒が出てきた。
ビコーズに課題を提出しに行っていた、補習仲間だ。
- 420 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:21:50 ID:yFJMBw.EO
ζ(゚ー゚*ζ「いえ――あ、ちょっと用があるので、切ります。
今、用事済ませたら図書館に遊びに行きますね」
携帯電話を畳む。
鞄から課題の束を引っ張り出したデレは、職員室の中、ビコーズの机に向かった。
すれ違いざま、補習仲間が絶望したような表情になっていたのが気にかかる。
ζ(゚ー゚*ζ「どうも、ビコーズ先生」
( ∵)「はい、いらっしゃい。……どうしました、膝。包帯なんか巻いて」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと転んじゃって……皮膚どころか肉まで切れちゃってたんですよ。
お医者様が言うには細かい石がめり込んで引き裂いたって。こう、ぎゃりっと。
道理で血がいっぱい出たもんだと」
( ∵)「先生そういう痛い話駄目なのでやめて下さい。
課題は?」
ζ(゚ー゚*ζ「課題、ちゃんとやりましたよ! 今回は落書きもしてません!」
( ∵)「当たり前のことなのに誇らしげですねー。
あ、これ、前回提出していただいた課題です」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
- 421 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:23:22 ID:yFJMBw.EO
( ∵)「物凄い誤答率。長岡さんに限った話ではありませんが。
やっぱり先生が直接教えないと、みんな理解出来ないみたいですね。
ほんっと可愛いなお前ら」
ζ(゚ー゚;ζ「……え」
( ∵)「可愛すぎるので、お望み通り直接教え込んであげましょう。
あの事件も犯人自首して解決したらしいですし、もう居残り解禁です。
あとは分かりますね?」
ζ(゚ー゚;ζ「まさか……」
( ∵)「――今日から早速、補習再開です」
ζ(゚ー゚;ζ
( ∵)「先生はちょっと準備してから行きますので、先にいつもの教室に入っといて下さい」
ζ(゚ー゚;ζ
( ∵)「お返事は」
ζ(゚ー゚;ζ「……はい……」
- 422 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:23:54 ID:yFJMBw.EO
――か細い声で答えたデレは、先程の補習仲間と同じ顔をしていたとか、何とか。
第三話 終わり
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